(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】点火プラグ用の絶縁体、点火プラグ、絶縁体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20230327BHJP
H01B 17/26 20060101ALI20230327BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20230327BHJP
H01T 13/38 20060101ALI20230327BHJP
H01T 21/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/20 E
H01B17/26 Z
H01B17/56 J
H01T13/38
H01T21/02
(21)【出願番号】P 2018147147
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2020-09-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】鳳国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 信良
(72)【発明者】
【氏名】井笹 純平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治樹
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】平田 信勝
【審判官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-12489(JP,A)
【文献】特開2002-15833(JP,A)
【文献】特開2009-252441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/00-19/04
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端側から先端側に向かって延びる貫通孔を有する点火プラグ用の筒状の絶縁体であって、
釉薬を含まない外周面を備え、
前記絶縁体は、最も外径が大きい部分である大径部と、前記大径部よりも後端側に設けられ前記大径部の外径よりも小さい外径を有する後端側胴部と、を備え、
前記外周面のうち前記後端側胴部によって形成される部分の表面粗度が、0.04μm以上、0.17μm以下である、
絶縁体。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁体であって、
前記外周面上に塗料で形成された塗料マークであって、第1塗料で形成された第1塗料マークを備え、
前記第1塗料は、ポリエステル系塗料とアクリル系塗料との少なくとも一方を含む、
絶縁体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁体であって、
前記外周面上に塗料で形成された塗料マークであって、第2塗料で形成された第2塗料マークを備え、
前記第2塗料の着色剤は、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物を10wt%以上含む、
絶縁体。
【請求項4】
請求項2または3に記載の絶縁体であって、
前記外周面上において内周側に凹んだ凹部を備えるとともに、当該凹部に前記塗料マークが配置される、
絶縁体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の絶縁体であって、
前記外周面上にレーザマーキングで形成されたマークを備える、
絶縁体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の絶縁体と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記絶縁体の前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入される中心電極と、
を備える点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料を燃焼させる装置(例えば、内燃機関)における点火に、点火プラグが用いられている。点火プラグとしては、軸線の方向に延びる貫通孔を有する筒状の絶縁体と、絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入される中心電極と、を備える点火プラグが、利用されている。絶縁体としては、表面がガラス質の釉薬層によって覆われたものが、利用されている。釉薬層は、絶縁体に装着されるプラグキャップとの密着性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、絶縁体に関連して不具合が生じる場合があった。例えば、絶縁体の表面上で釉薬層にムラ(例えば、釉薬層の不均一な厚さ)が生じ得る。このように釉薬層にムラが生じると、絶縁体に装着されたプラグキャップと絶縁体との密着性が低下し得る。この結果、絶縁体の表面とプラグキャップとの間を通る放電(フラッシュオーバとも呼ばれる)が、生じる場合があった。
【0005】
本明細書は、絶縁体に関連する不具合を抑制できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示された技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
後端側から先端側に向かって延びる貫通孔を有する点火プラグ用の筒状の絶縁体であって、
釉薬を含まない外周面を備え、
前記外周面の表面粗度が、0.04μm以上、0.17μm以下である、
絶縁体。
【0008】
この構成によれば、外周面の表面粗度が0.04μm以上、0.17μm以下であるので、釉薬を含まない外周面とプラグキャップとの良好な密着性を実現できる。この結果、フラッシュオーバを抑制できる。また、釉薬層の形成を省略できるので、絶縁体の製造にかかるコストを軽減できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の絶縁体であって、
前記外周面上に塗料で形成された塗料マークであって、第1塗料で形成された第1塗料マークを備え、
前記第1塗料は、ポリエステル系塗料とアクリル系塗料との少なくとも一方を含む、
絶縁体。
【0010】
この構成によれば、第1塗料マークの剥離を抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または2に記載の絶縁体であって、
前記外周面上に塗料で形成された塗料マークであって、第2塗料で形成された第2塗料マークを備え、
前記第2塗料の着色剤は、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物を10wt%以上含む、
絶縁体。
【0012】
この構成によれば、第2塗料マークの剥離を抑制でき、かつ、発色性の良いマークの形成を実現できる。
【0013】
[適用例4]
適用例2または3に記載の絶縁体であって、
前記外周面上において内周側に凹んだ凹部を備えるとともに、当該凹部に前記塗料マークが配置される、
絶縁体。
【0014】
この構成によれば、塗料マークの剥離をより抑制できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1から4のいずれかに記載の絶縁体であって、
前記外周面上にレーザマーキングで形成されたマークを備える、
絶縁体。
【0016】
この構成によれば、マークの消失を抑制できる。
【0017】
[適用例6]
適用例1から5のいずれかに記載の絶縁体と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記絶縁体の前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入される中心電極と、
を備える点火プラグ。
【0018】
この構成によれば、点火プラグの絶縁体の釉薬を含まない外周面とプラグキャップとの良好な密着性を実現できる。この結果、フラッシュオーバを抑制できる。また、釉薬層の形成を省略できるので、絶縁体の製造、ひいては、点火プラグの製造にかかるコストを軽減できる。
【0019】
[適用例7]
後端側から先端側に向かって延びる貫通孔を有する点火プラグ用の筒状の絶縁体の製造方法であって、
前記絶縁体の外周面の少なくとも一部の外形に対応する形状の内面を有する成形型を準備する準備工程と、
前記成形型の前記内面を用いて形成される空間内に材料を射出することによって、絶縁体の少なくとも一部を成形する射出成形工程と、
を備え、
前記成形型の前記内面の表面粗度は、0.05μm以下である、
製造方法。
【0020】
この構成によれば、釉薬を含まない外周面を備え、外周面の表面粗度が、0.04μm以上、0.17μm以下である絶縁体を、容易に製造できる。
【0021】
なお、本明細書に開示の技術は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグ用の絶縁体、その絶縁体の製造方法、その絶縁体を備える点火プラグ、その点火プラグの製造方法、その点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関、その点火プラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態としての点火プラグ100の断面図である。
【
図3】点火プラグ100の製造方法の例を示すフローチャートである。
【
図4】(A)は、成形型の例を示す断面図である。(B)は、成形型600とノズル500との断面図である。
【
図5】サンプルの構成と試験結果との対応関係を示す表TAである。
【
図6】(A)は、サンプルの構成と塗料の種別と試験結果との対応関係を示す表TBである。(B)アクリル系のバインダの例を示す構造式である。(C)と(D)は、ポリエステル系のバインダの例を示す構造式である。(E)は、着色剤の組成を示す表TCである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.実施形態:
A1.点火プラグの構成:
図1は、一実施形態としての点火プラグ100の断面図である。図中には、点火プラグ100の中心軸CL(「軸線CL」とも呼ぶ)と、点火プラグ100の中心軸CLを含む平らな断面と、が示されている。以下、中心軸CLに平行な方向を「軸線CLの方向」、または、単に「軸線方向」とも呼ぶ。軸線CLを中心とする円の径方向を「径方向」とも呼ぶ。径方向は、軸線CLに垂直な方向である。軸線CLを中心とする円の円周方向を、「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLに平行な方向のうち、
図1における下方向を先端方向Df、または、前方向Dfと呼び、上方向を後端方向Dfr、または、後方向Dfrとも呼ぶ。先端方向Dfは、後述する端子金具40から中心電極20に向かう方向である。また、
図1における先端方向Df側を点火プラグ100の先端側と呼び、
図1における後端方向Dfr側を点火プラグ100の後端側と呼ぶ。
【0024】
点火プラグ100は、後方向Dfr側から前方向Df側に向かって延びる貫通孔12(軸孔12とも呼ぶ)を有する筒状の絶縁体10と、貫通孔12の先端側で保持される中心電極20と、貫通孔12の後端側で保持される端子金具40と、貫通孔12内で中心電極20と端子金具40との間に配置された抵抗体73と、中心電極20と抵抗体73とに接触してこれらの部材20、73を電気的に接続する導電性の第1シール部72と、抵抗体73と端子金具40とに接触してこれらの部材73、40電気的に接続する導電性の第2シール部74と、絶縁体10の外周側に固定された筒状の主体金具50と、一端が主体金具50の環状の先端面55に接合されるとともに他端が中心電極20と放電ギャップgを介して対向するように配置された接地電極30と、を有している。
【0025】
絶縁体10は、軸線CLに沿って延びる筒状の部材である。絶縁体10の中央部分には、最も外径が大きい部分である大径部14が形成されている。大径部14の後方向Dfr側には、大径部14の外径よりも小さい外径を有する後端側胴部13が接続されている。大径部14と後端側胴部13との接続部分18では、外径が、後方向Dfrに向かって、徐々に小さくなっている(接続部分18を、縮外径部18とも呼ぶ)。
【0026】
大径部14の前方向Df側には、大径部14の外径よりも小さい外径を有する先端側胴部15が接続されている。先端側胴部15の前方向Df側には、先端側胴部15の外径よりも小さい外径を有する脚部19が接続されている。脚部19は、絶縁体10の先端を含む部分である。先端側胴部15と脚部19との接続部分16では、外径は、前方向Dfに向かって、徐々に小さくなっている(接続部分16を、縮外径部16、または、段部16とも呼ぶ)。また、先端側胴部15には、縮内径部11が設けられている。縮内径部11の内径は、前方向Dfに向かって、徐々に小さくなっている。
【0027】
絶縁体10は、機械的強度と、熱的強度と、電気的強度とを考慮して形成されることが好ましい。絶縁体10は、例えば、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。
【0028】
中心電極20は、軸線CLに沿って延びる棒状の金属製の部材である。中心電極20は、絶縁体10の貫通孔12内の前方向Df側の端部に配置されている。中心電極20は、棒部28と、棒部28の先端に接合(例えば、レーザ溶接)された第1チップ29と、を有している。棒部28は、後方向Dfr側の部分である頭部24と、頭部24の前方向Df側に接続された軸部27と、を有している。軸部27の形状は、前方向Df側に向かって延びる略円柱状である。頭部24のうちの前方向Df側の部分は、軸部27の外径よりも大きな外径を有する鍔部23を形成している。鍔部23の前方向Df側の面は、絶縁体10の縮内径部11によって、支持されている。軸部27は、鍔部23の前方向Df側に接続されている。第1チップ29は、軸部27の前方向Df側の端に接合されている。
【0029】
棒部28は、外層21と、外層21の内周側に配置された芯部22と、を有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルを主成分として含む合金)で形成されている。ここで、主成分は、含有率(質量パーセント(wt%))が最も高い成分を意味している。芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅を主成分として含む合金、等)で形成されている。第1チップ29は、棒部28の外層21に接合されている。棒部28(本実施形態では、外層21)は、第1チップ29が接合される母材の例である。第1チップ29は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属)を用いて形成されている。中心電極20のうち第1チップ29を含む前方向Df側の一部分は、絶縁体10の軸孔12から前方向Df側に露出している。中心電極20のうち後方向Dfr側の一部分は、軸孔12内に配置されている。このように、中心電極20の一部は、貫通孔12内に挿入されている。なお、第1チップ29は、省略されてよい。また、芯部22は、省略されてもよい。
【0030】
端子金具40は、軸線CLに沿って延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性材料を用いて形成されている(例えば、鉄を主成分として含む金属)。端子金具40のうちの前方向Df側の棒状の部分41は、絶縁体10の軸孔12の後方向Dfr側の部分に挿入されている。
【0031】
絶縁体10の貫通孔12内の抵抗体73は、電気的なノイズを抑制するための部材である。抵抗体73は、例えば、ガラスと導電性材料(例えば、炭素粒子)とセラミック粒子との混合物を用いて形成されている。シール部72、74は、導電性材料(例えば、銅や鉄などの金属粒子)とガラスとの混合物を用いて形成されている。中心電極20は、第1シール部72、抵抗体73、第2シール部74によって、端子金具40に電気的に接続されている。
【0032】
主体金具50は、軸線CLに沿って延びる貫通孔59を有する筒状の部材である。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入され、主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50は、導電材料(例えば、主成分である鉄を含む炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。絶縁体10の前方向Df側の一部は、貫通孔59の外に露出している。また、絶縁体10の後方向Dfr側の一部は、貫通孔59の外に露出している。
【0033】
主体金具50は、工具係合部51と、中胴部54と、先端側胴部52と、を有している。工具係合部51は、点火プラグ用のレンチ(図示せず)が嵌合する部分である。中胴部54は、工具係合部51よりも前方向Df側に配置され、径方向外側に張り出したフランジ状の部分である。中胴部54の前方向Df側の面54fは、座面であり、内燃機関のうちの取付孔を形成する部分である取り付け部(例えば、エンジンヘッド)とのシールを形成する。先端側胴部52は、中胴部54の前方向Df側に接続された部分であり、主体金具50の先端面55を含む部分である。先端側胴部52の外周面には、図示しない内燃機関の取付孔に螺合するための雄ねじが形成された部分であるネジ部57が設けられている。
【0034】
主体金具50の先端側胴部52には、径方向の内側に向かって張り出した支持部56が形成されている。支持部56の後方向Dfr側の面56r(後面56rとも呼ぶ)では、内径が、前方向Dfに向かって、徐々に小さくなる。支持部56の後面56rと、絶縁体10の縮外径部16と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。支持部56は、パッキン8を介して間接的に、絶縁体10の段部16を支持している。
【0035】
主体金具50の工具係合部51より後端側には、主体金具50の後端を形成するとともに工具係合部51と比べて薄肉の部分である後端部53が形成されている。また、中胴部54と工具係合部51との間には、中胴部54と工具係合部51とを接続する接続部58が形成されている。接続部58の肉厚は、中胴部54と工具係合部51とのそれぞれの肉厚と比べて、薄い。主体金具50の工具係合部51から後端部53にかけての内周面と、絶縁体10の縮外径部18の後方向Dfr側の部分の外周面との間には、円環状のリング部材61、62が挿入されている。さらに、これらのリング部材61、62の間には、タルク70の粉末が充填されている。点火プラグ100の製造工程において、後端部53が内側に折り曲げられて加締められると、接続部58が変形し、この結果、主体金具50と絶縁体10とが固定される。タルク70は、この加締め工程の際に圧縮され、主体金具50と絶縁体10との間の気密性が高められる。また、パッキン8は、絶縁体10の縮外径部16と主体金具50の支持部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。
【0036】
接地電極30は、金属製の部材であり、棒状の本体部37を有している。本体部37の端部33(基端部33とも呼ぶ)は、主体金具50の先端面55に接合されている(例えば、抵抗溶接)。本体部37は、主体金具50に接合された基端部33から先端方向Dfに向かって延び、中心軸CLに向かって曲がり、軸線CLに交差する方向に延びて、先端部34に至る。先端部34の後方向Dfr側の面には、第2チップ39が接合されている(例えば、抵抗溶接)。接地電極30の第2チップ39と、中心電極20の第1チップ29とは、放電ギャップgを形成している。接地電極30の第2チップ39は、中心電極20の第1チップ29の前方向Df側に配置されており、第1チップ29とギャップgを介して対向している。
【0037】
本体部37は、外層31と、外層31の内周側に配置された内層32と、を有している。外層31は、内層32よりも耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルを主成分として含む合金)で形成されている。内層32は、外層31よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅を主成分として含む合金、等)で形成されている。第2チップ39は、本体部37の外層31に接合されている。本体部37(本実施形態では、外層31)は、第2チップ39が接合される母材の例である。なお、第2チップ39は、省略されてよい。また、内層32は、省略されてもよい。
【0038】
図示しない内燃機関に点火プラグ100が装着された場合、点火プラグ100の後方向Dfr側には、プラグキャップ400が装着される。プラグキャップ400は、例えば、凹部412を有する樹脂製のキャップ本体410と、凹部412内に固定された金属製の端子接続部材420と、凹部412を囲むようにキャップ本体410に固定されたリング状のゴム製のカバー430と、を有している。端子接続部材420には、図示しないプラグコードが接続されている。端子接続部材420は、端子金具40に接触することによって、プラグコードと端子金具40とを電気的に接続する。カバー430は、絶縁体10(特に後端側胴部13)の外周面10oと密着する。これにより、プラグキャップ400が点火プラグ100から外れることが抑制される。また、外部から凹部412内への水の浸入が抑制される。
【0039】
点火プラグ100の端子金具40と主体金具50とには、放電用の高電圧が印加される。ここで、金具40から、プラグキャップ400と絶縁体10の外周面10oとの間の隙間を通って、主体金具50へ至る経路を通る放電(フラッシュオーバとも呼ばれる)が、生じ得る。本実施形態では、絶縁体10の外周面10o上には、釉薬はかけられていない。すなわち、絶縁体10は、釉薬を含まない外周面10oを備えている。点火プラグ100が、このような絶縁体10を備える場合、絶縁体10の外周面10oの表面粗度が、フラッシュオーバの可能性に影響を与える。後述する評価試験では、絶縁体10の外周面10oの表面粗度とフラッシュオーバとの関係が、評価された。
【0040】
図2は、絶縁体10の正面図である。図中には、絶縁体10の外観が示されている。絶縁体10の外周面10oのうち後端側胴部13によって形成される部分である対象部分13o上には、第1塗料マーク910と、第2塗料マーク920と、内周側に凹んだ凹部932と、凹部932内に配置された第3塗料マーク930と、レーザマーキングで形成されたマークであるレーザマーク940と、が設けられている。本実施形態では、絶縁体10の外周面10oの対象部分13oの形状は、略円筒状である。このような外周面10oの対象部分13o上に、マーク910~940が形成されている。マーク910~940は、例えば、点火プラグ100のメーカ名、点火プラグ100の型番、周方向の位置を示す目印などの種々の情報を示すために、利用される。
【0041】
塗料マーク910、920、930は、他の部材(例えば、プラグキャップや工具など)との接触により、絶縁体10から剥離し得る。従って、塗料マーク910、920、930の形成に用いられる塗料は、剥離に対する良好な耐久性を有することが好ましい。このような塗料の詳細については、後述する。
【0042】
なお、第3塗料マーク930は、凹部932内に配置されている。従って、第3塗料マーク930と工具などの他の部材との接触は、抑制される。この結果、第3塗料マーク930の剥離を抑制できる。
【0043】
レーザマーク940は、塗料マークとは異なり、絶縁体10の外周面10o上に直接的に形成される。従って、レーザマーク940の消失を抑制できる。
【0044】
B.製造方法:
図3は、点火プラグ100の製造方法の例を示すフローチャートである。S100では、絶縁体10が製造される。図中の右部には、S100(すなわち、絶縁体10の製造方法)の例を示すフローチャートが、示されている。S102では、成形型が準備される。
【0045】
図4(A)は、絶縁体10(
図1)の製造に利用される成形型の例を示す断面図である。本実施形態では、成形型600を用いて、絶縁体10の未焼成の材料(例えば、アルミナと焼結助剤とを含む材料)が、絶縁体10の形状と同様の形状に、成形される。以下、成形済かつ未焼成の絶縁体を「成形体」とも呼ぶ。図中には、中心軸CLと方向Df、Dfrとが示されている。成形型600に対する中心軸CLと方向Df、Dfrとの配置は、完成した絶縁体10に対する中心軸CLと方向Df、Dfrとの配置を、成形型600の中の成形体に適用して得られる配置と、同じである。図示された断面図は、中心軸CLを含む平面による断面を示している。
【0046】
本実施形態では、成形型600は、外型200と、後端型290と、棒部300と、を含んでいる。外型200は、成形体の外周面を成形する成形型である。外型200は、前部成形型210と、前部成形型210の後方向Dfr側に配置される後部成形型220と、を有している。以下、前部成形型210を「前型部210」とも呼び、後部成形型220を「後型部220」とも呼ぶ。図示するように、これらの型部210、220は、いずれも、軸線CLの周りを1周する内周面210i、220i(内面210i、220iとも呼ぶ)を形成する。内面210i、220iは、成形体の外周面を成形する成形面である(成形面210i、220iとも呼ぶ)。前型部210の成形面210iの形状は、絶縁体10の大径部14の途中から前方向Df側の部分の外周面の形状と、おおよそ同じである。後型部220の成形面220iの形状は、絶縁体10の大径部14の途中から後方向Dfr側の部分の外周面の形状と、おおよそ同じである。
【0047】
棒部300は、成形体の内周面を成形する成形型である。棒部300は、外型200の成形面210i、220iによって囲まれる空間内に、配置される。棒部300の外面300oは、成形体の貫通孔(絶縁体10の貫通孔12に対応する)の内周面を成形する成形面である(成形面300oとも呼ぶ)。成形面300oの形状は、絶縁体10の軸孔12の内周面の形状と、おおよそ同じである。
【0048】
外型200と棒部300とは、外型200の内面210i、220iと棒部300の外面300oとによって挟まれる空間Sxと、空間Sxに連通し先端方向Df側に位置するリング状の第1開口OPfと、空間Sxに連通し後端方向Dfr側に位置するリング状の第2開口OPrと、を形成する。後端型290は、円盤状の成形型であり、後型部220の後方向Dfr側に配置されている。後端型290は、第2開口OPrを閉じる成形型である。
【0049】
なお、前型部210、後型部220、後端型290、棒部300は、それぞれ、金属を用いて形成されている(他の材料も採用可能である)。
【0050】
S103(
図3)では、第1開口OPfに射出装置のノズルが接続される。
図4(B)は、成形型600とノズル500との断面図である。図中には、
図4(A)と同じ成形型600の断面と、成形型600に接続されたノズル500の断面とが、示されている。ノズル500は、第1開口OPfを通じて、材料を空間Sx内に射出する。このように、第1開口OPfは、ゲートとして用いられる。また、この射出によって、未焼成の絶縁体10zが成形される(以下、成形された未焼成の絶縁体10zを、成形体10zとも呼ぶ)。成形体10zの成形の後、ノズル500は、成形型600から取り外される。そして、成形型210、220、290、300は、成形体10zから取り外される。例えば、後端型290は、成形体10zに対して後方向Dfrに移動されて、取り外される。棒部300は、成形体10zに対して後方向Dfrに移動されて、取り外される。後型部220は、成形体10zに対して後方向Dfrに移動されて、取り外される。前型部210は、成形体10zに対して前方向Dfに移動されて、取り外される。
【0051】
S104(
図3)では、成形体10zの外周面に塗料を塗布することによって、焼成前の第2塗料マーク920(
図2)が形成される。本実施形態では、第2塗料マーク920のための塗料として、無機インクが用いられる。無機インクとしては、例えば、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物を10wt%以上含む塗料が、用いられる。
【0052】
S105では、成形体10zが、焼成される。この焼成により、第2塗料マーク920も焼成される。これにより、絶縁体10の外周面10o上に、強固な第2塗料マーク920が、形成され得る。なお、焼成前に、成形体10zの形状が、加工されてよい。例えば、成形体10zの端部が、研磨されてよい。また、焼成後の絶縁体10が、加工されてよい。例えば、絶縁体10の端部が、研磨されてよい。
【0053】
S106では、絶縁体10(
図2)の外周面に塗料を塗布することによって、塗料マーク910、930が形成される。凹部932は、第3塗料マーク930の形成に先立って、形成される。例えば、絶縁体10の切削によって、凹部932が形成される。本実施形態では、塗料マーク910、930のための塗料としては、有機バインダを含む塗料が用いられる。有機バインダを含む塗料としては、例えば、ポリエステル系塗料(ポリエステル樹脂塗料とも呼ばれる)とアクリル系塗料(アクリル樹脂塗料とも呼ばれる)との少なくとも一方を含む塗料が、用いられる。
【0054】
S107では、レーザマーキングによって、レーザマーク940が形成される。レーザ光が絶縁体10の外周面10o上に照射されることによって、レーザマーク940が形成される。
【0055】
以上により、S100(絶縁体10の製造)が完了する。
【0056】
S110では、点火プラグ100の他の部材が準備される。具体的には、中心電極20と、端子金具40と、主体金具50と、棒状の接地電極30とが、公知の方法で製造される。また、シール部72、74のそれぞれの材料粉末と、抵抗体73の材料粉末とが、準備される。なお、ステップS100、S110による複数の部材の準備は、各部材毎に独立に行われる。
【0057】
ステップS120では、絶縁体10と中心電極20と第1シール部72と抵抗体73と第2シール部74と端子金具40とを有する組立体が、公知の方法で作成される。例えば、中心電極20、第1シール部72の材料、抵抗体73の材料、第2シール部74の材料を、絶縁体10の貫通孔12に、後方向Dfr側の開口から、この順番に挿入する。そして、絶縁体10を加熱した状態で、端子金具40を貫通孔12の後方向Dfr側から挿入することによって、組立体が製造される。
【0058】
S130では、主体金具50に棒状の接地電極30が接合される(例えば、抵抗溶接)。そして、S140では、主体金具50に組立体が固定される。具体的には、主体金具50の貫通孔59内に、先端側パッキン8と、S120の組立体と、リング部材62と、タルク70と、リング部材61とが配置される。絶縁体10の段部16と主体金具50の支持部56との間には、先端側パッキン8が挟まれる。主体金具50の後端部53を内周側に折り曲げるように加締めることによって、主体金具50と絶縁体10とが組み付けられる。
【0059】
S150では、棒状の接地電極30が曲げられて、放電ギャップgが形成される。ここで、放電ギャップgの距離が所定の距離になるように、接地電極30が曲げられる。以上により、点火プラグ100が完成する。
【0060】
C.評価試験:
C1.第1評価試験:
図5は、点火プラグ100のサンプルの構成と試験結果との対応関係を示す表TAである。この表TAは、サンプルの絶縁体10の外周面10oの表面粗度R(単位は、μm)と、スクラッチ試験の臨界荷重値L(単位は、N)と、フラッシュオーバ電圧V(単位は、kV)と、の対応関係を示している。この評価試験では、表面粗度Rが互いに異なる13種類のサンプルが、評価された。
【0061】
絶縁体10の外周面10oの表面粗度Rは、JIS B 0601(1994年)に準拠して測定される算術平均粗さRaである。本評価試験では、算術平均粗さRaは、非接触式の形状測定器を用いて得られる画像を解析することによって、測定された。非接触式の形状測定器としては、形状測定レーザマイクロスコープVK-X110/X100(キーエンス社製)が用いられた。そして、形状測定器によって得られる画像は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて解析された。なお、表面粗度Rは、絶縁体10(
図1)の外周面10oのうちプラグキャップ400に接触し得る部分(ここでは、後端側胴部13の外周面13o)を用いて、測定された。試験されたサンプルの表面粗度Rは、0.01、0.02、0.04、0.07、0.08、0.10、0.12、0.13、0.14、0.17、0.20、0.21、0.34(μm)であった。なお、形状測定器としては、他の種々の顕微鏡(例えば、SEMなど)を、採用可能である。
【0062】
絶縁体10の外周面10oの表面粗度Rは、成形体10z(
図4(B))の成形に用いられる材料の粒子(ここでは、アルミナの粒子)の粒径を調整することによって、調整された。粒径が大きい場合には、表面粗度が大きくなり、粒径が小さい場合には、表面粗度が小さくなる。
【0063】
また、絶縁体10の外周面10oの表面粗度Rは、外型200(
図4(A))の内面210i、220iから、影響を受ける。
図3に示すS102では、外型200(
図4(A)、
図4(B))が準備される。外型200は、絶縁体10(
図2)の外周面10oの外形に対応する形状の内面210i、220iを有する成形型である前型部210と後型部220とを含んでいる。S103では、型部210、220の内面210i、220iを用いて形成される空間Sx内に材料を射出することによって、成形体10zが成形される。ここで、内面210i、220iの表面粗度が大きい場合には、小さい粒径の材料を用いる場合であっても、成形体10zの外周面の表面粗度(ひいては、絶縁体10の外周面10oの表面粗度R)は、内面210i、220iの表面粗度と同程度まで大きくなり得る。従って、型部210、220の内面210i、220iの表面粗度が小さいことが好ましい。実際には、絶縁体10の材料は、内面210i、220iの微細な凹部分に完全に入り込むことは困難である。また、内面210i、220iの微細な凹部分に入り込んだ材料は、成形型210、220を成形体10zから取り外す場合に、成形体10zから剥がれ得る。また、絶縁体10zが焼成されることによって、焼成済の絶縁体10の外周面10oは、焼成前の成形体10zの外周面よりも、滑らかになる。以上により、絶縁体10の外周面10oの表面粗度は、内面210i、220iの表面粗度よりも、若干、小さくなる。従って、内面210i、220iの表面粗度は、絶縁体10の外周面10oの表面粗度の目標値よりも若干大きくてよい。なお、内面210i、220iの表面粗度は、目標値以下であることが、好ましい。
【0064】
スクラッチ試験は、ISO20502に準拠した方法で、行われた。具体的には、絶縁体10の外周面10o上の第2塗料マーク920に圧子を押し付け、印加する荷重を徐々に大きくしながら引っ掻いた。そして、第2塗料マーク920が剥離した時の荷重である臨界荷重値Lが、測定された。この臨界荷重値Lが大きいほど、第2塗料マーク920の密着性は良好である。なお、サンプルの第2塗料マーク920は、Crの酸化物を10wt%以上含む無機インク(後述する1番のインク)を用いて、形成された。そして、第2塗料マーク920の形状は、1辺の長さが1mmである正方形であった。
【0065】
フラッシュオーバ試験は、以下のように行われた。点火プラグ100のサンプルが、試験台の取付孔に取り付けられた。試験台は、点火プラグ100のサンプルの放電ギャップgを形成する部分(すなわち、中心電極20の先端部と接地電極30とを含む部分)を収容するチャンバーを有している。そして、放電ギャップgでの放電を防止するために、チャンバー内の空気が加圧された。この状態で、点火プラグ100の後方向Dfr側にプラグキャップが取り付けられ、そして、端子金具40と主体金具50とに電圧が印加された。電圧は、徐々に、高められた。電圧が低い場合、放電は生じない。電圧を高くすると、端子金具40からプラグキャップと絶縁体10の外周面10oとの間の隙間を通って主体金具50の後端部53へ至る経路を通る放電(すなわち、フラッシュオーバ)が生じる。フラッシュオーバ電圧Vは、このようなフラッシュオーバが生じる最低電圧を示している。なお、表TA中の「50kV以上」は、50kVの電圧が印加された場合であっても、フラッシュオーバが生じなかったことを、示している。
【0066】
表TAに示すように、臨界荷重値Lは、表面粗度Rが大きいほど、大きかった。この理由は、表面粗度Rが大きい場合には、第2塗料マーク920のインクが絶縁体10の外周面10oの微細な凹部分に入り込むことによって、第2塗料マーク920が剥がれにくくなるからである。
【0067】
一方、フラッシュオーバ電圧Vは、表面粗度Rが小さいほど、大きかった。この理由は、表面粗度Rが小さい場合には、プラグキャップと絶縁体10の外周面10oとの密着性が向上するからである。
【0068】
100(N)以上の良好な臨界荷重値Lと、50以上の良好なフラッシュオーバ電圧Vと、を実現した表面粗度Rは、0.04、0.07、0.08、0.10、0.12、0.13、0.14、0.17(μm)であった。表面粗度Rの好ましい範囲を、上記の8個の値を用いて定めてもよい。具体的には、8個の値のうちの任意の値を、表面粗度Rの好ましい範囲の下限として採用してよい。例えば、表面粗度Rは、0.04(μm)以上であってよい。また、これらの値のうち下限以上の任意の値を、表面粗度Rの上限として採用してもよい。例えば、表面粗度Rは、0.17(μm)以下であってよい。表面粗度Rが好ましい範囲内である場合、釉薬を含まない外周面10oとプラグキャップ400との良好な密着性を実現できる。この結果、フラッシュオーバを抑制できる。また、釉薬層の形成を省略できるので、絶縁体10の製造にかかるコストを軽減できる。また、塗料マークの剥離を抑制できる。
【0069】
なお、塗料マークの剥離に対する耐久性は、塗料の種類の拘わらずに、表面粗度Rが大きいほど良好であると推定される。従って、上記の下限(例えば、0.04μm)以上の表面粗度Rは、下限未満の表面粗度Rと比べて、塗料マークの塗料の種類に拘わらずに、塗料マークの剥離に対する耐久性を向上できると推定される。
【0070】
なお、上述したように、絶縁体10の表面粗度Rは、外型200の内面210i、220iの表面粗度よりも、若干小さくなる。従って、外型200の内面210i、220iの表面粗度は、絶縁体10の外周面10oの表面粗度の目標値よりも若干大きい、または、目標値以下であることが、好ましい。0.04μm以上の表面粗度Rを有する絶縁体10を製造する場合、0.05μm以下の表面粗度を有する内面210i、220iを有する外型200を用いることによって、容易に、目標の表面粗度Rを実現できる。
【0071】
C2.第2評価試験:
図6(A)は、点火プラグ100のサンプルの構成と、スクラッチ試験の臨界荷重値L(単位は、N)との対応関係を示す表TBである。サンプルの構成としては、サンプルの絶縁体10の外周面10oの表面粗度R(単位は、μm)と、インク種別と、が示されている。全てのサンプルの表面粗度Rは、同じ0.1μmであった。この評価試験では、インクの種別と臨界荷重値Lとの関係が、評価された。なお、表面粗度Rと臨界荷重値Lとの測定方法は、第1評価試験で説明した表面粗度Rと臨界荷重値Lとの測定方法と、それぞれ同じである。
【0072】
本評価試験では、有機バインダを含むインクで形成された塗料マークを有する7種類のサンプルと、無機インクで形成された塗料マークを有する9種類のサンプルとが、評価された。16種類のサンプルの間では、塗料マークの外観形状は、同じ1辺の長さが1mmである正方形である。
【0073】
有機バインダとしては、アクリル、ポリエステル、酢酸ビニル、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のいずれかが、用いられた。
図6(B)は、アクリル系のバインダの例を示す構造式である。
図6(C)と
図6(D)とは、ポリエステル系のバインダの例を示す構造式である。ポリエステル系バインダのサンプルとしては、
図6(C)のポリエステルが用いられた。
図6(B)~
図6(D)において、R1、R2、R3、R4のそれぞれの構造は、C、H、O、N、Naの少なくとも1つを用いて構成される任意の構造であってよい。なお、有機バインダの構造式は、
図6(B)~
図6(D)の構造式に代えて、他の種々の構造式であってよい。また、表TB(
図6(A))の有機バインダの7つの行のうちの最下行のサンプルでは、第3塗料マーク930(
図2)のように、絶縁体10の外周面10o上において内周側に向かって凹んだ凹部内にアクリル塗料のマークが形成されている。他の6つのサンプルでは、第1塗料マーク910(
図2)のように、絶縁体10の外周面10oの凹みの無い部分上に、塗料マークが形成されている。
【0074】
無機インクとしては、1番から9番の9種類のインクが、用いられた。
図6(E)は、9種類のインクのそれぞれの着色剤の成分を示す表TCである。この表TCは、インク種別と、着色剤における成分の含有率(単位は、重量パーセント)と、の関係を示している。例えば、1番のインクの着色剤は、95wt%のCr
2O
3と、2wt%のSiO
2と、3wt%のAl
2O
3と、で構成されている。なお、無機インクは、着色剤に加えて、溶剤などの他の成分を含んでいる。
【0075】
図6(A)の表TBに示すように、有機バインダを含むインクが用いられる場合、臨界荷重値Lは、インク種別に応じて異なっていた。具体的には、ポリエステル系バインダを含むインクとアクリル系バインダを含むインクとのそれぞれの臨界荷重値Lは、50Nであり、他の種別のバインダを含むインクのそれぞれの臨界荷重値Lは、25N以下であった。このように、塗料マークの形成に有機バインダを含む塗料が用いられる場合には、塗料は、ポリエステル系塗料とアクリル系塗料との少なくとも一方を含むことが好ましい。これにより、塗料マークの剥離を抑制できる。なお、点火プラグ100は、塗料マークの高い耐久性を必要としない環境下で、利用され得る。この場合、ポリエステルとアクリルとのいずれとも異なる有機バインダを含む塗料を用いて、塗料マークが形成されてよい。
【0076】
また、凹部内にアクリル塗料のマークが形成される場合、臨界荷重値Lは、100Nであった。凹部内に塗料マークが配置される場合に臨界荷重値Lが大きい理由は、以下のように推定される。サンプルの凹部の形状は、マークの形状とおおよそ同じであり、マークの縁は、凹部の側面に接していた。凹部の側面は、凹部の底面の縁から外周側に向かって延びる面である。スクラッチ試験では、マークは、圧子から、凹部の底面におおよそ平行な方向の力を受ける。凹部の側面は、マークからこのような方向の力を受けることによって、マークの位置ずれ(すなわち、マークの剥離)を抑制する、と推定される。なお、なお、点火プラグ100は、塗料マークの高い耐久性を必要としない環境下で、利用され得る。この場合、
図6の塗料マーク910、920のように、絶縁体10の外周面10oの凹みの無い部分に、塗料マークが形成されてよい。
【0077】
図6(A)の表TBに示すように、無機インクが用いられる場合、5番と6番のインクのそれぞれの臨界荷重値Lは、100N以下であった。1番から4番と、7番から9番のインクのそれぞれの臨界荷重値Lは、115N以上であった。
図6(E)に示すように、良好な臨界荷重値Lを実現した1番から4番と、7番から9番のインクの着色剤は、いずれも、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物を10wt%以上含んでいる。5番と6番のインクの着色剤は、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物を、含んでいない。以上により、塗料マークの形成に、塗料として無機インクが用いられる場合には、塗料の着色剤は、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物を10wt%以上含むことが好ましい。これにより、塗料マークの剥離を抑制できる。また、このような無機インクは、発色性の良いマークの形成を実現できる。
【0078】
また、
図6(E)の表TCに示すように、1番から4番と、7番から9番のインクの着色剤は、Cr、Mn、Feのいずれかの酸化物に加えて、Si、Al、Ca、Na、Ni、Co、Znのいずれかの酸化物を、含んでいる。着色剤がこのような元素を含むことによって、発色性を向上できる。発色性を向上させるためには、着色剤は、これらの元素に限らず、Cr、Mn、Fe、Si、Al、Ti、Ni、Zn、Co、Ca、Cu、Mg、Mo、Zrのいずれかの元素を、含んでよい。ここで、発色剤は、いずれかの元素の酸化物を含んでよい。酸化物の含有率は、5wt%以上であることが、好ましい。
【0079】
なお、点火プラグ100は、塗料マークの高い耐久性を必要としない環境下で、利用され得る。この場合、Cr、Mn、Feのうちの任意の酸化物の含有率が10wt%未満(例えば、ゼロ)である無機インクを用いて、塗料マークが形成されてよい。
【0080】
D.変形例:
(1)絶縁体の外周面上に設けられるマークの構成は、上記の構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、絶縁体10の外周面10o上に設けられた凹部に配置される塗料マーク(例えば、
図2の凹部932に配置された第3塗料マーク930)は、無機インクを用いて形成された塗料マークであってよい。また、レーザマーキングによって、凹部にマークが形成されてもよい。また、絶縁体10の外周面10o上には、任意の種類のマークが設けられてよい。例えば、有機バインダを含む塗料で形成される塗料マークと、無機インクで形成される塗料マークと、凹部に配置されたマークと、レーザマーキングで形成されたマークと、のうちの1種以上の任意の種類のマークが、設けられてよい。また、絶縁体10の外周面10oからマークが省略されてよい。
【0081】
(2)絶縁体の構成は、上記の構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、絶縁体が釉薬を含まない外周面(例えば、焼成済のセラミックが露出する外周面)を備え、そして、絶縁体の外周面の表面粗度Rは上記の好ましい範囲(例えば、0.04μm以上、0.17μm以下の範囲)内であることが好ましい。さらに、絶縁体は、外周面上に設けられたマークを備えることが好ましい。ここで、絶縁体の外周面のうち表面粗度Rが上記の好ましい範囲内である部分は、外周面のうちの一部分であってよい。この場合、外周面のうち、プラグキャップに接触し得る部分の表面粗度Rが、上記の好ましい範囲内であることが好ましい。
図2の実施形態のように、絶縁体10は、最も外径が大きい部分である大径部14と、大径部14よりも後方向Dfr側に設けられ大径部14の外径よりも小さい外径を有する後端側胴部13と、後方向Dfr側から前方向Df側に向かって延びる貫通孔12と、を有してよい。この場合、外周面10oのうち後端側胴部13によって形成される部分13oに、プラグキャップ400は接触し得る。従って、外周面10oのうちのこの部分13oの表面粗度Rが上記の好ましい範囲内であることが、好ましい。外周面10oのうち大径部14よりも前方向Df側の部分の表面粗度Rは、好ましい範囲外であってよい。また、マークは、外周面10oのうちの表面粗度Rが好ましい範囲内である部分に設けられていることが、好ましい。これに代えて、マークは、外周面10oのうちの表面粗度Rが好ましい範囲外である部分に設けられてよい。
【0082】
(3)点火プラグの構成は、上記の構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、先端側パッキン8(
図1)は、省略されてよい。すなわち、主体金具50の支持部56は、絶縁体10の段部16に接触することによって、直接的に、段部16を支持してよい。また、絶縁体10の軸孔12内の端子金具40と中心電極20との間に、磁性体が配置されてよい。また、中心電極の先端面(例えば、
図1の第1チップ29の前方向Df側の面)に代えて、中心電極の側面(軸線CLに垂直な方向側の面)と、接地電極とが、放電用のギャップを形成してもよい。放電用のギャップの総数が2以上であってもよい。また、中心電極の全体が、絶縁体の貫通孔内に配置されてもよい。また、絶縁体の軸孔は、軸線CLに対して斜めに傾斜していてもよい。一般的には、絶縁体は、後方向Dfr側から前方向Df側に向かって延びる軸孔を有してよい。また、接地電極30が省略されてもよい。この場合、点火プラグの中心電極と、燃焼室内の他の部材と、の間で、放電が生じてよい。
【0083】
また、点火プラグの構成は、後端側から先端側に向かって延びる貫通孔を有する絶縁体と、絶縁体の貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入される中心電極と、絶縁体の外周に配置される主体金具と、を備える種々の構成であってよい。ここで、絶縁体は、釉薬を含まない外周面を形成してよい。ここで、絶縁体の外周面のうち少なくともプラグキャップに接触し得る部分の表面粗度Rは上記の好ましい範囲内であることが、好ましい。この構成によれば、点火プラグの絶縁体の釉薬を含まない外周面とプラグキャップとの良好な密着性を実現できる。この結果、フラッシュオーバを抑制できる。また、釉薬層の形成を省略できるので、絶縁体の製造、ひいては、点火プラグの製造にかかるコストを軽減できる。ここで、点火プラグは、さらに、別の部材(例えば、絶縁体の貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入される端子金具)を備えてよい。
【0084】
(4)絶縁体の製造方法は、
図3等で説明した方法に代えて、種々の方法であってよい。例えば、絶縁体10の外周面10oの表面粗度Rは、未焼成の絶縁体10z(
図4(B))の外周面を研磨することによって、調整されてよい。また、絶縁体10の外周面10oの表面粗度Rは、焼成済の絶縁体10の外周面10oを研磨することによって、調整されてよい。ここで、成形型の内面のうち絶縁体10の外周面10oを成形する内面の表面粗度は、絶縁体10の外周面10oの表面粗度Rの目標値とは独立に決定されてよい。また、絶縁体の外周面上の凹部(例えば、
図2の凹部932)は、成形型によって形成されてよい。また、レーザ加工によって、凹部932が形成されてもよい。また、未焼成の絶縁体10zの成形は、一部分ずつ行われてもよい。例えば、
図4(B)の前型部210を用いることによって絶縁体10zのうちの前方向Df側の一部分が射出成形され、その後に、後型部220を用いることによって絶縁体10zのうちの残りの部分が射出成形されてよい。
【0085】
また、絶縁体の製造方法は、絶縁体の外周面の少なくとも一部の外形に対応する形状の内面を有する成形型を準備する準備工程と、成形型の内面を用いて形成される空間内に材料を射出することによって、絶縁体の少なくとも一部を成形する射出成形工程と、を備えてよい。ここで、成形型の内面(特に、少なくとも絶縁体の外周面のうちプラグキャップに接触し得る部分を成形する部分)の表面粗度は、0.05μm以下であることが好ましい。この方法によれば、釉薬を含まない外周面を備え、外周面の表面粗度が、0.04μm以上、0.17μm以下である絶縁体を、容易に製造できる。
【0086】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0087】
8…先端側パッキン、10…絶縁体、10o…外周面、10z…成形体(絶縁体)、11…縮内径部、12…貫通孔(軸孔)、13…後端側胴部、13o…対象部分、14…大径部、15…先端側胴部、16…接続部分(縮外径部、段部)、18…接続部分(縮外径部)、19…脚部、20…中心電極、21…外層、22…芯部、23…鍔部、24…頭部、27…軸部、28…棒部、29…第1チップ、30…接地電極、31…外層、32…内層、33…基端部、34…先端部、37…本体部、39…第2チップ、40…端子金具、41…部分、50…主体金具、51…工具係合部、52…先端側胴部、53…後端部、54…中胴部、54f…面、55…先端面、56…支持部、56r…後面、57…ネジ部、58…接続部、59…貫通孔、61、62…リング部材、70…タルク、72…第1シール部、73…抵抗体、74…第2シール部、100…点火プラグ、200…外型、210…前部成形型(前型部)、210i…内周面(内面、成形面)、220…後部成形型(後型部)、220i…内周面(内面、成形面)、290…後端型、300…棒部、300o…外面(成形面)、400…プラグキャップ、410…キャップ本体、412…凹部、420…端子接続部材、430…カバー、500…ノズル、600…成形型、910…第1塗料マーク、920…第2塗料マーク、930…第3塗料マーク、932…凹部、940…レーザマーク、g…放電ギャップ、CL…中心軸(軸線)、Df…先端方向(前方向)、Dfr…後端方向(後方向)、Sx…空間、OPf…第1開口、OPr…第2開口