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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】吊り具
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/28 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
B66C1/28 F
B66C1/28 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018212477
(22)【出願日】2018-11-12
(65)【公開番号】P2020079132
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000178011
【氏名又は名称】山九株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】赤松 昌寛
(72)【発明者】
【氏名】井上 智文
(72)【発明者】
【氏名】中山 春海
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-173680(JP,U)
【文献】特開平07-125969(JP,A)
【文献】特開平08-143269(JP,A)
【文献】特開2016-124678(JP,A)
【文献】国際公開第2010/149847(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに吊下げられる柱状部材に支持させて柱軸に対称に互いに相反方向に移動可能に垂下して設けられた一対の吊アームと、前記一対の吊アームの下端部に互いに対向させて前記吊アームの移動方向に直交する水平軸周りに回動自由に設けられた一対のフックと、前記フックを前記一対の吊アームに設定された収納位置と前記一対の吊アームの対向間に水平に突出させた引掛け位置との範囲で正逆回転させるフック回動機構と、前記フックの回動範囲を少なくとも前記引掛け位置で規制するストッパとを備えて形成された吊り具において、
前記フック回動機構は、前記フックの回動が前記積荷に妨げられない自由状態で、前記フックの正回転又は逆回転に対応させて定めた設定正転駆動力又は設定逆転駆動力を発生可能に形成され、
前記フック回動機構は空圧回路で駆動されるエアアクチュエータを動力源とし、
前記空圧回路は、前記フックを引掛け位置に回転する前記エアアクチュエータの正転空気供給口と、前記フックを収納位置に回転する前記エアアクチュエータの逆転空気供給口とに切替えて空気を供給するとともに、それぞれの空気供給口に供給される空気圧はそれぞれ一定の設定圧に制御され、少なくとも前記正転空気供給口の空気圧が前記設定圧以上のときに当該正転空気供給口に供給される空気を排気するリリーフ弁を備えて構成されてなることを特徴とする吊り具。
【請求項2】
請求項に記載の吊り具において、
前記リリーフ弁の設定圧は、前記エアアクチュエータの前記正転空気供給口に供給される空気圧が、前記吊りアームに組み付けられた自由状態における前記フックが、正回転可能な空気圧よりも一定圧高く設定されることを特徴とする吊り具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の吊り具において、
前記エアアクチュエータは、ロータリエアアクチュエータであり、
前記フック回転機構は、前記ロータリエアアクチュエータの回転を前記フックの回動に伝達する回転伝達機構を備えてなることを特徴とする吊り具。
【請求項4】
請求項又はに記載の吊り具において、
前記エアアクチュエータは、往復動ピストン式エアシリンダであり、
前記フック回転機構は、前記往復動ピストン式エアシリンダのピストンの直動を前記フックの回に変換して伝達する運動変換機構を備えてなることを特徴とする吊り具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り具に係り、荷役対象の積荷に一対のフックを引っ掛けてクレーンなどの昇降移動装置で吊り上げ、所望の場所に移動して荷卸しするのに好適な吊り具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一般の荷役作業において、長尺の鋼材、鋼板あるいは金属薄板のコイル等の重量物の積荷をクレーンなどで吊り上げて、所望の場所に移動して荷卸しすることが行われている。例えば、鋼矢板などの長尺鋼材は、複数の長尺鋼材を積み重ねた積荷に引っ掛ける一対のフックを備えた吊り具を用い、積荷の長手方向の複数箇所を複数の吊り具で引っ掛けてクレーンなどで吊り上げ、指定される場所に移動して吊り具を吊り下ろし、一対のフックの引っ掛けを解いて荷卸しする。
【0003】
特許文献1、2には、金属薄板を巻き取ったコイルの空芯部分に、一対の吊アームの先端に対向させて設けた一対のフックを挿入してコイルを引っ掛けて吊り上げる吊り具が提案されている。このような吊り具はコイルリフターとも呼ばれ、クレーン等に吊り下げられる柱状部材に、一対の吊アームを水平移動可能に垂下させて構成される。例えば、クレーン等に吊り下げ可能な柱状部材に支持させて、左右対称に一対の周知の平行四辺形リンク機構を設け、そのリンク機構の可動端から一対の吊アームを垂下して構成される。一対の吊アームの下端部には、積荷に引掛ける一対のフックが互いに対向させて突出して設けられている。一対の吊アームの対向間隔は、一対の平行四辺形リンク機構を互いに相反方向に伸縮して調節できようになっている。
【0004】
このように構成されるコイルリフターをクレーンで昇降しながら移動して、一対の吊アームの先端のフックをコイルの空芯位置に位置合わせし、一対の平行四辺形リンク機構を調節して一対のフック間隔を閉じて一対のフックをコイルの空芯部に挿入し、クレーンを上昇させて一対のフックをコイルに引っ掛けてコイルを吊り上げて移動する。一方、一対のフック間隔を開くと、コイルの空芯部分から一対のフックが外れるので、吊り上げたコイルを所望の場所に移動して荷卸しした後、一対のフック間隔を開いて、吊アームを持ち上げることにより積荷から吊り具を取り外すことができる。
【0005】
特に、特許文献1では、吊アームの先端部に対向させて設けたフックは、フック回動機構によってフックの向きを各吊アームに直角に突出させた引掛け位置(略水平位置)と、各吊アームに平行な収納位置(略垂直位置)との間で回動可能に設けられている。引掛け位置におけるフックは積荷の荷重を受けるので、十分な強度を確保するために、引掛け位置を越えて下向きに傾斜するのを規制するストッパが各吊アームに設けられている。
【0006】
ところで、特許文献1のコイルリフターは、フックを吊アーム内の収納位置に退避させるので、一対の吊アームの対向間隔はコイルの軸長あるいは積層した鋼矢板の横幅など、積荷の大きさに合わせて最小間隔に調節できる。そのため、船舶の積荷エリアや搬送車両の荷台及び荷役ヤードに多数のコイルを並べて載置する場合、各コイルの軸長方向の積荷隙間を吊アームが挿入できる程度の寸法に抑えることができる。その結果、船舶や車両等の荷台あるいは荷役ヤードの積荷スペースのスペース効率を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭59-173680号公報
【文献】特許第5130569号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のコイルリフターなどの吊り具は、積荷の荷役作業の高速化や作業時間の短縮化などを改善して、荷役作業を高効率化する余地がある。
【0009】
例えば、コイルに一対の吊アームのフックを引っ掛けて吊り上げる作業は、フックをコイルの空芯位置に降下してから、フックを収納位置から引掛け位置に回動しなければならない。そのためには、コイルの空芯位置でフックを回動させる空間を確保できる位置に降下する必要がある。しかし、フックの高さ位置の調整は、吊り具から離れた位置のオペレータが目視又は位置センサの信号で確認しなければならないので、安全作業等を考慮すると、確認時間が長くなって荷役作業の短縮化の妨げになる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、積荷スペースを狭くでき、かつ積荷の吊り上げ及び荷卸し作業を高速化して荷役時間を短縮化できる吊り具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する本発明は、クレーンに吊下げられる柱状部材に支持させて柱軸に対称に互いに相反方向に移動可能に垂下して設けられた一対の吊アームと、前記一対の吊アームの下端部に互いに対向させて前記吊アームの移動方向に直交する水平軸周りに回動自由に設けられた一対のフックと、前記フックを前記一対の吊アームに設定された収納位置と前記一対の吊アームの対向間に水平に突出させた引掛け位置との範囲で正逆回転させるフック回動機構と、前記フックの回動範囲を少なくとも前記引掛け位置で規制するストッパとを備えて形成された吊り具において、前記フック回動機構は、前記フックの回動が前記積荷に妨げられない自由状態で、前記フックの正回転又は逆回転に対応させて定めた設定正転駆動力又は設定逆転駆動力を発生可能に形成されていることを特徴とする。
【0012】
このように構成される本発明の吊り具を用いて、船舶や車両などにより搬送される積荷を吊り上げて荷役ヤードに荷卸しする作業を想定し、さらに説明を分かり易くするために、複数の鋼矢板などの長尺鋼材を積み重ねた積荷を吊り上げ、荷卸しする荷役作業を例に説明する。しかし、積荷は、鋼矢板に限られるものではなく、各種の長尺形鋼、その他の長尺鋼材、あるいは金属薄板のコイルなどに適用できる。なお、長尺鋼材等の積荷は、長手方向の少なくとも2点に本発明の吊り具を引っ掛けて吊り上げるのが望ましいが、ここでは、説明の煩雑さを避けるために、一方の吊り具の動作について説明し、他方の吊り具の動作は同様であるので省略する。
【0013】
まず、積荷の吊り上げ作業について説明する。昇降移動装置であるクレーンに吊り下げられた吊り具を操作して、垂下された一対の吊アームを吊り上げ対象の積荷の上方に移動する。この過程で、フック回動機構を設定正転駆動力で、一対の吊アームの下端部の一対のフックを引掛け位置に突出させておくことが好ましい。次いで、一対の吊アームを柱軸に対称に互いに相反方向に移動させて、一対の吊アームの対向間隔を吊り上げ対象の積荷の横幅よりも少し広めに開いて吊り具を下降させる。
【0014】
一対の吊アームの間隔を開いて積荷の側面を挟み込む位置に吊り具を下降させると、一対のフックの下面(裏面)が積荷の上面に当接する。さらに、吊り具を下降させると吊り具の荷重の反力がフックの裏面に作用し、一対のフックは吊り具の下降に応じて積荷から収納位置の方向に逆回転させる反力を受ける。このときフックの裏面が受ける反力は、少なくともフックの自由状態で設定されるフック回動機構の設定正転駆動力よりも大きい。そのため、引掛け位置に突出されているフックは、裏面に作用する吊り具の荷重の反力によって収納位置の方向に逆回転される。その結果、吊アームのフックは引掛け位置から収納位置側に自然と退避され、積層された積荷の側面を滑って下降される。
【0015】
さらに、一対の吊アームを下降させると、一対のフックが積荷の側面の引っ掛け部分の下端(コイルの場合は空芯部の上端)よりも下降する。これにより、一対のフックの先端は、積荷の側面の引っ掛け部分から外れ、一対のフックは積荷に妨げられない自由状態になる。その結果、フック回動機構の設定正転駆動力によりフックが再び突出方向に正回転され、フックは積荷の下面よりも下方の空間(コイルの場合は空芯部の空間)に突出され、ストッパに当接して引掛け位置(水平位置)に保持される。この状態で、クレーンを介して吊り具を吊り上げると、一対の吊アームのフックの上面に積荷が引掛けられるので、積荷を安定して把持することができ、クレーンにより吊り具を介して積荷を吊り上げて所望の場所へ移動することができる。
【0016】
次に、積荷を吊り上げて移動して、所望の場所へ積荷を荷卸しする動作について説明する。なお、荷卸し動作の準備として、積荷を吊り上げてから荷卸し場所に移動するまでの任意の過程で、フック回動機構を設定逆転駆動力で駆動し、一対のフックを収納位置方向に付勢しておくことが好ましい。すなわち、積荷の吊り上げ移動過程では、一対のフックに積荷の荷重が作用しているので、フックを収納位置に向けて逆回転方向に付勢しても、設定逆転駆動力のフック回動機構では積荷の荷重に打ち勝ってフックを逆回転させることはできない。したがって、積荷の吊り上げ移動中にフック回動機構により一対のフックを設定逆転駆動力で収納位置に付勢しておいても、一対のフックは安定して積荷を把持することができる。
【0017】
このように、フックを収納位置の方向に付勢した状態で、クレーンを操作して吊り具を移動して所望の荷卸し場所に移動する。荷卸し場所には、通常、床面に例えばリン木(敷リンともいう。)が設置されており、そのリン木の上に荷卸しする。積荷をリン木に載置すると、積荷の荷重は一対のフックからリン木に移るので、フック回動機構により付勢されている一対のフックは収納位置に向けて逆回転を始める。逆回転するフックの先端が積荷の引掛け位置から外れる位置まで吊り具が下降すると、積荷に引掛けられた一対のフックが積荷の引掛け位置から自動的に外れて収納位置に回動される。これにより、荷卸しが完了するので、クレーン操作により吊り具を上昇させて次の作業に移行することができる。なお、フックが積荷に対して十分に下降できるように、リン木の高さを、積荷の荷姿、吊アームの形状、及びフックを引っ掛ける位置等に応じて適宜選択することは言うまでもない。
【0018】
以上説明したように、本発明のフック回動機構によれば、積荷の吊り上げ時のフック引掛け動作が、クレーンによる吊アームの下降過程で積荷とフックの協働により自動的に行われる。また、荷卸し時のフック引き外し動作が、クレーンによる吊アームの下降過程で積荷とフックの協働により自動的に行われる。その結果、積荷の吊り上げ及び荷卸し作業におけるフックの引っ掛け及び引き外しに必要な時間(フック回動操作及び確認などの時間)を無くして、荷役作業時間を高速化することができる。
【0019】
また、本発明の吊り具によれば、吊り具の昇降時にフックが積荷と干渉する場合は、一対のフックを引掛け位置から収納位置に自動的に収納して、積荷との干渉を回避するようにしているから、船舶の積荷エリアや搬送車両の荷台及び荷役ヤードに多数のコイルを並べて載置する場合、各コイルの軸長方向の積荷隙間を吊アームが挿入できる寸法に押えることができる。その結果、特許文献1と同様に、船舶や車両等の荷台あるいは荷役ヤードの積荷スペースのスペース効率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、積荷スペースを狭くでき、かつ積荷の吊り上げ及び荷卸し作業を高速化して荷役時間を短縮化できる吊り具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の吊り具の一実施形態の一対の吊アームの対向間隔を開いた状態における正面図である。
図2】実施形態1の一対の吊アームの対向間隔を閉じた状態における正面図である。
図3】実施形態1の柱状部材に支持させて設けられた一対の可動部材と、その一対の可動部材を移動させる駆動機構の部分拡大図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図4】実施形態1の吊アームの詳細図であり、(A)は側面図、(B)は正面図である。
図5】実施形態1のフック回動機構を適用してなるフック周りの拡大図であり、(A)はフックの引掛け位置における図であり、(B)はフックの収納位置における図である。
図6】実施形態1のフック回動機構の空圧回路を示す図である。
図7】実施形態1の吊り具を用いた荷役作業手順を示すフローチャートである。
図8】実施形態2のフック回動機構を適用してなるフック周りの拡大図であり、(A)は側面図、(B)は正面図である。
図9】実施形態2のフック回動機構の空圧回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。
【0023】
(実施形態1)
本発明の実施形態1の吊り具について、図1図7を参照して説明する。本実施形態は、例えば、荷役ヤードなどのリン木の上に積み重ねて載置された複数枚の鋼矢板をクレーンなどにより吊り上げて、船積みするのに好適な吊り具を想定したものである。これとは逆に、船積された複数枚の鋼矢板をクレーンなどにより吊り上げて、荷役ヤードなどのリン木の上に積み重ねて荷卸しするのに好適な吊り具でもある。しかし、本発明の吊り具はこれらに限られるものではなく、例えば、長尺の鋼材や鋼板あるいは金属薄板を巻き取ったコイル等の重量物の積荷をクレーンなどで吊り上げて、船舶の船倉やトレーラなど荷台と、所望の荷役ヤードとの間で、荷積み及び荷卸しする荷役作業に適用できることは言うまでもない。
【0024】
また、本実施形態の吊り具は、図示していないが、クレーンなどにより吊り上げられた水平ビームの長手方向に走行可能に組み付けられた複数の走行体に、チェーン等を介して吊下げて用いることを想定している。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、クレーンなどの昇降移動装置に本実施形態の吊り具を直接吊下げて、長尺の鋼材や鋼板あるいは金属薄板のコイル等の重量物を吊り上げる吊り具に適用できることは言うまでもない。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の吊り具は、柱状部材1と、柱状部材1の柱軸に左右対称に、かつ互いに相反方向に移動可能に設けられた一対の可動部材2(2a、2b)と、一対の可動部材2の先端から垂下された一対の吊アーム3(3a、3b)を備えて形成されている。以下では、図1、2において左側の可動部材2aと吊アーム3aの構成について説明し、右側の可動部材2bと吊アーム3bについては説明を省略する。なお、本実施形態の柱状部材1は、図3(B)の要部拡大図に示すように、2枚の狭幅の板部材1a、1bを平行に配置し、両者の間を適宜連結して柱状に形成されているが、これに限られるものではない。また、一対の可動部材2(2a、2b)、後述する昇降部材5、連結部材17及び駆動機構15等は、板部材1a、1bに支持させて、それらの間の空間に組み付けられている。また、柱状部材1の上端には、クレーンなどにより吊り上げられた水平ビームの長手方向に走行可能に組み付けられた複数の走行体に、チェーン等を介して吊下げて用いるための一対の吊手27が設けられている。
【0026】
本実施形態の可動部材2aは、周知の一対の平行四辺形リンク機構4を用いて形成されている。つまり、平行四辺形リンク機構4は、柱状部材1の柱軸に沿って昇降自由に柱状部材1に組み付けられた逆台形状の板材からなる昇降部材5と、昇降部材5の傾斜した側縁に沿って間隔を空けて設けられたピン6、7に回動自由に連結された一端を有する一対の平行リンク8、9と、平行リンク8、9の他端を吊アーム3の上端部に間隔を空けて設けられたピン10、11に回動自由に連結して構成されている。ここで、平行リンク8のピン6、10を結ぶ線分及び平行リンク9のピン7、11を結ぶ線分は同一長さに形成され、昇降部材5の側縁のピン6、7を結ぶ線分(以下、昇降リンクという。)及び吊アーム3の上端部のピン10、11を結ぶ線分(以下、吊リンク(12、12a、12b)という。)は同一長さに形成されている。したがって、一対の平行リンク8、9と昇降リンクと吊リンクは、平行四辺形リンク機構4を構成し、柱状部材1の柱軸に対称に、かつ同一平面内に形成される。一対の吊アーム3(3a、3b)は、それぞれ上端部のピン10、11から垂下して柱状部材1の柱軸に平行に設けられている。
【0027】
平行四辺形リンク機構4は、一対の吊アーム3の対向間隔を開閉する駆動機構15によって駆動されるようになっている。駆動機構15は、一対の平行リンク8、9の対応するいずれか一方(本実施形態では平行リンク8)の中間部に一端がピン16を介して回動自由に連結された一対の駆動リンク19を備えている。一対の駆動リンク19の他端は、柱状部材1の下端に固定された連結部材17にピン18を介して回動自由に連結されている。駆動機構15には、昇降部材5を柱状部材1の柱軸に沿って昇降させる昇降機構が設けられている。昇降機構は、柱状部材1の柱軸と同軸に位置されたねじ棒22を有して構成されている。つまり、ねじ棒22の上端を柱状部材1に支持部材21を介して回転自由に支持し、他端側を昇降部材5に設けられたナットユニット5aのナットに螺合して構成されている。また、ねじ棒22は断面が台形のネジを有して形成され、トルクリミッタ23を介してモータ24に回転可能に連結されている。ねじ棒22の下端は、連結部材17に形成された軸受部25に回転自由に軸支され、モータ24は支持部材26に支持されている。
【0028】
次に、駆動機構15により平行四辺形リンク機構4を駆動して、一対の吊アーム3の対向間隔を開閉する動作を説明する。図1は昇降部材5が柱状部材1の最下位の位置に下降された状態であり、図2は昇降部材5が柱状部材1の最上位の位置に上昇された状態である。モータ24によりねじ棒22を回転して、昇降部材5を柱状部材1の柱軸に沿って上昇させると、昇降部材5のピン6と連結部材17のピン18の間隔が徐々に開く。つまり、ピン6とピン18を結ぶ線分を底辺とし、ピン16を頂点として形成される三角形が扁平になり、一対の平行リンク8が互いに反対方向に回動して、図2に示すように一対の平行四辺形が扁平に変形する。また、平行四辺形の性質から、昇降部材5のピン6とピン7を結ぶ昇降リンクと、ピン10とピン11を結ぶ吊リンクとは常に平行である。したがって、モータ24を駆動して昇降部材5の高さを可変することにより、柱状部材1の柱軸に対する一対の平行リンク8、9の角度が開閉され、ピン10とピン11を結ぶ吊リンクから垂下された一対の吊アーム3a、3bの対向間隔が開閉される。これにより、積荷の幅に応じて一対の吊アーム3の対向間隔を連続的に可変できる。
【0029】
昇降部材5は、柱状部材1の柱軸に沿って昇降自由に柱状部材1に組み付けられているが、図3(A)、(B)に示すように、柱状部材1の前後一対の板部材1a、1bの側面に沿って転動するガイドローラ28がピン6の両端に軸支して設けられている。ガイドローラ28には外周を覆うカバー29が設けられている。なお、図3(B)は、柱状部材1の手前側の板部材1aを省略して記載している。
【0030】
ここで、本実施形態の特徴部に係る吊アーム3(3a、3b)の詳細構成について、図1図5を参照して説明する。図1図2に示すように、吊アーム3aは、吊リンクのピン10、11から垂下させて、柱状部材1に平行に設けられている。吊アーム3aの上端部は、ピン10、11が回動自由に連結され、吊リンク12aを構成している。吊アーム3aの吊リンク12aよりも下方の部分は、上端部の吊リンク12aよりも幅の狭いアーム部材13aで形成されている。また、吊アーム3aは、図4に示す側面図のように、図1の奥行き方向にほぼ同一形状に形成された4枚のアーム部材13a(13aa~13ad)を適宜間隔を空けて重ねて形成されている。
【0031】
フック31は、図1の一対の吊アーム3a、3bの先端部に対向させて、図4(A)、(B)に示すように、アーム部材13aa~13adの下部の回動自由に支持された軸部材30に固定して設けられている。フック31は、吊アーム3aから水平に突出された図5(A)の引掛け位置(略水平位置)から、図示矢印32方向に回動して、吊アーム3aに平行に収納された図5(B)の収納位置(略垂直位置)の間で、つまり略90°の範囲で、回動自由に設けられる。フック31の収納位置は、アーム部材13ab、13acの間の空間に設定される。フック31は、引掛け位置に回動されたときは、後端部の上面がアーム部材13ab、13acに固定された第1ストッパ34に当接して回動が規制され、水平状態が保持される。さらに、フック31の下面がアーム部材13ab、13acに固定された第2ストッパ35に当接し、積荷の荷重を受けるようになっている。また、フック31の外面(上面、側面、裏面)は引掛けて吊り上げる積荷の鋼材等に傷を付けないように、MCナイロンなどのクッション材で被覆されている。なお、フック31が収納位置に回動されたときに、それ以上の回動を規制するストッパを設けてもよい。その場合、ストッパに作用する荷重は小さいので、簡単な構成のストッパでよい。
【0032】
本実施形態のフック回動機構は、フック31を引掛け位置から収納位置に逆回転させて収納させるとともに、フック31を収納位置から引掛け位置に正回転させて突出させる機構を有している。すなわち、図4(A)に示すように、アーム部材13ab、13acの間に位置させて、アーム部材13abの上部に支持されたアクチュエータ40を動力源として備えている。アクチュエータ40には、例えば単数又は複数のベーンを備えて構成されるエア駆動式のロータリアクチュエータが選択できるが、これらに限られるものではない。アクチュエータ40の出力軸41にはスプロケット42が固定され、フック31が支持された軸部材30にはスプロケット36が固定され、両スプロケット36、42に掛け渡されたはチェーン43によりアクチュエータ40の回転がフック31に伝達されるようになっている。
【0033】
したがって、アクチュエータ40は、フック31を引掛け位置と収納位置との間の略90°の角度範囲で、引掛け位置方向に正回転、収納位置方向に逆回転するように形成されている。また、アクチュエータ40は、後述する図6に示す空圧回路と相まってフック回動機構を構成している。フック回動機構は、フック31の回動が積荷に妨げられない自由状態にて、フック31の正回転又は逆回転に対応させて定めた設定正転駆動力又は設定逆転駆動力が、レギュレータ52で調節され回路に供給される空圧により設定される。つまり、フック31の回転範囲内に積荷が存在しない自由状態で、設定正転駆動力又は設定逆転駆動力でフック31を回動する駆動力を発生可能に形成されている。なお、自由状態でフック31を引掛け位置に突出させるときは、フック31の重力による正回転力が駆動力に加わる。これに対し、自由状態でフック31を収納位置に回動するときは、フック31の重力による正回転力に逆らって回動しなければならない。したがって、フック回動機構は、自由状態でフックが収納できるよう、レギュレータ52の設定圧力を調整することで設定逆転駆動力を設定するのが良い。なお、機構上設定正転駆動力は設定逆転駆動力とほぼ等しくなる。
【0034】
なお、煩雑になるため図示していないが、フック31の引掛け位置に突出したことを検出する近接センサが、アーム部材13ab又は13acに取り付けられている。近接センサは、ストッパ34、35に当接したフック31を検知し、例えばランプなどを点灯して作業者に知らせる。同様に、フック31が収納位置に退避したことを検出する近接センサが、アーム部材13ab又は13acに取り付けられ、フック31が収納位置に退避したことを検出し、例えばランプなどを点灯して作業者に知らせる。
【0035】
前述したように、アクチュエータ40は、図6に示す空圧回路によって駆動されるようになっている。なお、図6において、アクチュエータ40は、シングルベーン型又は複数ベーン型のロータリエアアクチュエータの機能を記号で示している。図示のように空気源である空気圧縮機51から供給される空気は、レギュレータ52で圧力が調節され、空気供給管53を介して空圧ヘッダ54に供給される。空圧ヘッダ54から供給される空気は5ポートでポジション55a、55bを有する2ポジション式切替弁55を介して、正転空圧回路56又は逆転空圧回路57に切り替えて供給される。切替弁55は、通常はポジション55aにあり、正転空圧回路56に圧力が供給される。正転空圧回路56は、アクチュエータ40の正転空気供給口40aに連通されている。切替弁55の切り替え部55cが動作するとポジション55bに切り替わり、空圧ヘッダ54の空気供給管53が逆転空圧回路57に連通され、アクチュエータ40の逆転空気供給口40bに連通される。なお、アクチュエータ40の逆転空気供給口40bは、正回転時は正転空気供給口40aに供給される空気量に相当する空気の空気放出口として作用する。同様に、正転空気供給口40aは、逆回転時に逆転空気供給口40bに供給される空気量に相当する空気の空気放出口として作用する。なお、正転空圧回路56及び逆転空圧回路57には、それぞれ逆止弁付流量調整弁58、59が取り付けられ、連通されたアクチュエータ40の空気放出口から放出される空気量を絞って、アクチュエータ40の動作速度を調整するようになっている。逆止弁付流量調整弁58、59から放出される空気は、空圧ヘッダ54に設けられた消音器61a、61bを介して大気に放出されるようになっている。
【0036】
本実施形態においては、正転空圧回路56の正転空気供給口40aに連通させてリリーフ弁63が設けられている。リリーフ弁63は、正転空圧回路56の空気圧がリリーフ圧を越えたときに開放され、正転空圧回路56内の空気を大気に放出する。すなわち、フック31の逆回転方向の駆動力が例えば積荷によって外部から作用した場合、アクチュエータ40が逆回転して正転空気供給口40aから正転空圧回路56に空気が排出され、正転空圧回路56の空気圧がリリーフ圧を越えて上昇するので、リリーフ弁63が開かれて正転空圧回路56の空気圧が下がって、アクチュエータ40の逆回転を許容する。なお、リリーフ弁63のリリーフ圧は、設定正転駆動力と設定逆転駆動力を設定しているレギュレータ52で調整された圧力より大きいので、リリーフ弁63がフックの回動(正転動作)を妨げることはない。
【0037】
さらに、本実施形態では、一対の吊アーム3a、3bのアーム部材13(13a、13b)の対向する面に、つまりフック31が突出する側のアーム面に、ストライカ70を進退可能に設けている。ストライカ70は、図4(B)に示すように、アーム部材13(13a、13b)のアーム面に沿って延在する弓状に形成された接触部材71を備えている。接触部材71は、弓状の裏面の上下方向に沿って固定された2枚の補強板71aを有し、補強板71aの上部と下部の2点でそれぞれレバー72の一端にピン75を介して回動自由に連結されている。レバー72の他端は、アーム部材13(13a、13b)にピン76を介して回動自由に支持されている。これにより、接触部材71は、図4(B)に示す矢印73の方向から外力を受けると、レバー72がピン76周りに回動し、図示矢印74の方向に変位すると同時に、アーム部材13(13a、13b)側に変位される。煩雑になるため図示していないが、ストライカ70が動作した(アーム部材13a、13b側に変位された)ことを検知できるセンサが取り付けられている。即ち積荷の大きさに合わせて一対のアーム部材13a、13bを狭める動作中、積荷がストライカ70を蹴った瞬間に両アーム間隔を狭める動作を止める。これにより、一対のアーム部材13a、13bの間隔を最小間隔に留めると共に、積荷や吊り具の損傷を防ぐことができる。なお、接触部材71は、積荷の鋼材等に傷を付けないように、MCナイロンなどのクッション材で被覆することが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、複数枚の鋼矢板を重ねた状態の積荷を荷役することを想定し、さらにその積荷を荷役エリア又は船倉や車両の荷台に密に並べて積載するために、それらの積荷間隔を最小限にすることを想定している。そのために、図1図2等に示すように、アーム部材13(13a、13b)の両側面にガイド部材80(80a、80b)を設けている。ガイド部材80aは、図1図2図4(A)、図4(B)に示すように、アーム部材13aaとアーム部材13adの外面の長手方向に沿わせて、短冊板状に形成されている。ガイド部材80aの幅は、アーム部材13の幅寸法よりも設定寸法大きく形成されている。ガイド部材80aの下端は、アーム部材13の下端よりも設定寸法突出するように形成されている。また、ガイド部材80aの上部と下部の2個所に、長手方向に沿ってスリット81が形成されている。それらのスリット81には、アーム部材13aa、13adに固定されたボルト82が挿通され、これによりガイド部材80aはアーム部材13a、bに沿って上下方向にスライド可能に支持されている。ガイド部材80aは、通常時は自重により最下端に位置される。また、ガイド部材80aの下端が床面に当接する位置よりも吊アーム3が下降されたときは、ガイド部材80aが上方にスライドされる。
【0039】
このようなガイド部材80を備えていることから、本実施形態によれば、多数並べて載置された積荷と積荷の間に吊アーム3を挿入する際、又は載置された積荷の隣に並べて積荷を積載する際、ガイド部材80が積荷の側面に接するように吊アーム3を下降させればよいから、位置合せの作業が容易になる。つまり、載置された積荷にガイド部材80が接するように吊アーム3を下降させることにより、載置された積荷と積荷の間隔を最小限にすることができ、積荷の載置スペースを最小にすることができる。
【0040】
次に、本実施形態の吊り具を用いて行う荷役作業手順について、図7に示したフローチャートを参照して説明する。なお、本実施形態の吊り具の操作は、図示していないリモートコントローラと制御装置により、図7に示した操作手順にしたがって遠隔操作することができる。
【0041】
なお、説明の便宜のため、本実施形態の吊り具により、複数の鋼矢板などの長尺鋼材を積み重ねた積荷の荷役作業を例に説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、金属薄板を巻き取ったコイルや長尺鋼材を束ねた積荷の荷役作業にも適用できることは言うまでもない。また、長尺鋼材等の積荷は、長手方向の少なくとも2点に本発明の吊り具を引掛けて把持するのが望ましいが、ここでは、煩雑さを避けるために、1つの吊り具の荷役作業の操作について説明し、他の吊り具の操作は同様であるので省略する。
【0042】
まず、図7のフローチャートに示すように、荷役作業を、(A)吊り上げ手順と、(B)荷卸し手順に分けて説明する。吊り上げ手順は、便宜的にステップS1~S6の手順に分け、荷卸し手順はステップS7~S12の手順に分けて説明する。
【0043】
(ステップS1)
クレーン操作によりクレーンに吊り下げた吊り具の一対の吊アーム3a、3bを吊り上げ対象の積荷の真上に移動する。この移動の過程で、一対の吊アーム3a、3bの一対のフック31を引掛け位置に突出させておくことが好ましい。この操作は、図6の空圧回路の切替弁55をポジション55a側に切り替えて、空圧ヘッダ54からアクチュエータ40の正転空気供給口40aに作動空気を供給して行う。これにより、アクチュエータ40が正回転し、スプロケット42、チェーン43、スプロケット36を介して一対のフック31が図5の矢印32の方向に回動して図5(A)の引掛け位置に突出される。このとき、フック31の表面の後端がストッパ34に、背面がストッパ35に当接して回動が規制される。その結果、アクチュエータ40は停止状態になる。
【0044】
(ステップS2)
一対の吊アーム3a、3bの下端を積荷に近づけ、吊アーム3a、3bの対向間隔を吊り上げ対象の積荷の横幅よりも少し広めに調整する。
【0045】
(ステップS3)
一対の吊アーム3a、3bの一対のフック31が引掛け位置に突出した状態で積荷に向けて下降させる。一対の吊アーム3a、3bを下降していくと、引掛け位置に突出した状態の一対のフック31の下面が積荷の上面に当接し、一対のフック31は吊アーム3a、3bの下降に応じて積荷から反力を受ける。この反力によって、一対のフック31は引掛け位置から収納位置に自動的に逆回転(退避)されるので、フック31は吊アーム3a、3bの下降の障害にはならない。一方、アクチュエータ40には正転空気供給口40aに空気圧が供給されているが、フック回動機構の設定正転駆動力は、積荷の荷重などの外力(例えば、吊り具の自重等)に打ち勝ってフック31を突出させることはない。すなわち、本実施形態では、設定正転駆動力で付勢されているフック31に逆回転力が作用すると、アクチュエータ40の正転空気供給口40aの空気圧がリリーフ弁63のリリーフ圧を越えて大気に放出される。これにより、アクチュエータ40の逆回転が許容され、一対のフック31は引掛け位置から収納方向に逆回転し、吊アーム3a、3bの下降に応じて積荷の側面を滑って下降する。
【0046】
(ステップS4)
一対の吊アーム3a、3bが下降して一対のフック31の先端が積荷側面の引掛け部位の下端(コイルの場合は内径位置)に達すると、一対のフック31の先端が積荷の側面から離れる。これにより、一対のフック31の先端には積荷からの反力が作用しなくなり、リリーフ弁63が閉じ、自動的にアクチュエータ40が正回転方向に回転して、一対のフック31が引掛け位置に突出される。なお、一対のフック31が引掛け位置に突出されると、ストッパ34、35に当接して回動が規制されるのは言うまでもない。
【0047】
(ステップS5)
オペレータは、一対のフック31が引掛け位置に突出したことをセンサあるいは目視で確認し、クレーン操作により一対の吊アーム3a、3bを上昇させる。これにより、一対のフック31が積荷の引掛け部位の下面に引っ掛かるので、クレーン操作により積荷を吊り上げることができる。
【0048】
(ステップS6)
一対の吊アーム3a、3bにより吊上げた積荷は、クレーンを操作して、所望の荷卸し位置に移動する。
【0049】
次に、ステップS7~S12を参照して、積荷を所望の場所へ荷卸しする手順について説明する。
(ステップS7)
クレーン操作により、積荷を荷卸し位置の真上に移動する。ステップS6に続く今の状態は、吊り具で積荷を吊り上げた状態、言い換えるとストッパ34、35に当接して回動が規制された一対のフック31の上面に積荷の荷重が乗った状態である。この状態で、図6の空圧回路の切替弁55を操作してポジション55bに切り替え、フック31を逆回転して収納位置の方向に付勢して荷卸しの準備をすることが好ましい。これにより、空圧ヘッダ54の作動空気が逆止弁付流量調整弁59、及び逆転空圧回路57を介してアクチュエータ40の逆転空気供給口40bに供給され、アクチュエータ40は逆回転しようとする。つまり、スプロケット42、チェーン43、スプロケット36を介して一対のフック31は図5(A)の引掛け位置から矢印32の反対方向に回動して図5(B)の収納位置に退避しようとする。しかし、アクチュエータ40に供給される空気圧は、レギュレータ52により低く制御されているため、一対のフック31は積荷の荷重に打ち勝てないので収納位置の方向に回動することができない。言い換えると、一対のフック31により積荷の荷重は支えられたままである。しかし、一対のフック31には図5(A)の引掛け位置から矢印32の反対方向に回動して、図5(B)の収納位置に退避させようとする弱く制御された力(設定逆転駆動力)が常に作用した状態である。したがって、積荷の吊り上げ移動中にフック回動機構により一対のフック31を収納位置に付勢しておいても、一対のフック31は安定して積荷を保持することができる。
【0050】
(ステップS8)
一対のフック31を収納位置に付勢した状態で、積荷の位置が荷下ろし位置の真上に来たら、クレーン操作により一対の吊アーム3a、3bの位置を所望の荷卸し場所(例えば、荷役エリア又は船倉や車両の荷台等)の荷卸し位置に調整する。
【0051】
(ステップS9)
荷卸し位置に向かって、一対の吊アーム3a、3bを下降して、一対のフック31に把持された積荷をリン木上に載置する。積荷がリン木上に載置されると、一対のフック31にかかっていた積荷の荷重はゼロになる。
【0052】
(ステップS10)
積荷がリン木上に載置されると、積荷の荷重が一対のフック31からリン木に移り、アクチュエータ40により逆回転方向に付勢されている一対のフック31は、収納位置に向けて逆回転を開始しようとする。しかし、逆回転するフック31の先端の回動半径内に積荷の引掛け部位に当接する間は逆回転が妨げられ、吊り具をさらに下降していくと、フック31の先端が積荷の引掛け部位から外れる位置まで徐々に移動する。
【0053】
(ステップS11)
フック31の先端が積荷の引掛け部位から外れる位置まで吊り具3が下降されると、一対のフック31が積荷の引掛け部位から外れ、自動的にアクチュエータ40により収納位置の方向に回動される。つまり、積荷がリン木の上に載置されたとき、一対のフック31には図5(A)の引掛け位置から矢印32の方向に回動させる力が作用するが、図5(B)の収納位置に退避させようとする弱い力が作用した状態である。更に下降操作を続けると、一対のフック31は徐々に図5(A)の引掛け位置から矢印32の方向に回動可能な空間ができると、一対のフック31は完全に矢印32の方向に回動して図5(B)の収納位置に退避され、自動的に収納方向に回動されて収納位置に設けられている所定のストッパに当接される。
【0054】
(ステップS12)
このようにして、一対のフック31が積荷から離れて収納位置に退避したことをセンサで確認し、一対の吊アーム3a、3bをクレーンなどで吊り上げることにより、積荷を所望の場所に載置して荷卸しを完了する。
【0055】
以上述べたように、本実施形態の吊り具によれば、荷卸し手順において、積荷をリン木に載置した後、さらに一対の吊アーム3a、3bを一定の寸法、下降させることで一対のフック31は自動的に収納位置まで回動し、最終的には完全に収納位置に退避する。したがって、これまでの吊り具のようにフック収納操作が可能かどうかを一々確認しながらのフックの高さ位置調整が不要になり、センサの信号のみで荷卸しが完了したことを確認できる。したがって、作業の高速化に大きな効果がある。
【0056】
更に、荷卸し完了後に連続して同じサイズの吊り荷を連続して吊上げる場合は、吊り具を吊上げ対象の積荷の真上の位置に移動させる間に切替弁55の操作によりアクチュエータ40を駆動させ、フック31を引掛け位置に回動させることができる。吊り具が吊り荷の真上に来たら一対のフック31が突出した状態で積荷に向けて降下操作を行う。上述したように、フック31は積荷により収納位置の方向に一時的に退避し、更に自動的に再び引掛け位置に突出する。フック31が引掛け位置に回動したことはセンサで確認できるので、引き続いて直ちに吊上げ操作に入ることができる。
【0057】
すなわち、本実施形態によれば、フック31の引っ掛けと引っ掛け解除を吊アーム3の下降操作の過程で、フック31と積荷との協働により自然に行われるので、フック31の引っ掛け操作および引っ掛け解除操作に必要な時間(フック回動操作及び確認などの時間)を短縮して、積荷の積み降ろし作業を高速化することができる。特に、鋼矢板等の長尺鋼材の荷役作業には、長手方向の少なくとも2点に吊り具を使用するので、これらの操作が省略できる効果は高い。
【0058】
また、本実施形態では、一対の平行四辺形リンク機構4を用いて可動部材を構成する例を示したが、本発明の可動部材はこれに限定されるものではない。例えば、柱状部材の柱軸に直交させてI型又はH型のビームを支持させ、そのビームの下側のフランジに沿って柱軸に対称に、かつ直交方向に走行可能に一対の吊アームを垂下させ、一対の吊アームを相反方向に走行させる駆動機構を設けて形成することも可能である。
【0059】
(実施形態2)
実施形態1では、フック31の駆動機構であるアクチュエータ40に単数又は複数のベーンを備えてなるロータリーエアアクチュエータを用いた例を示したが、本発明の吊り具には、他の形式のアクチュエータも適用可能である。図8に、実施形態1のロータリーエアアクチュエータに換えて、複動式両ロッドエアシリンダ式アクチュエータ(以下、単にエアシリンダと略す。)を適用した本発明の吊り具の実施形態2の吊アームの詳細図を示す。図8(A)は吊アームの側面図、同図(B)は吊アームの正面図である。本実施形態2が実施形態1と異なる点は、ロータリエアアクチュエータをエアシリンダ91に置き換えたこと、及びエアシリンダ91の直動(動力)をフック31の回転運動に変換する動力伝達機構の構成にある。その他の構成部品である吊アーム3及び吊りアーム関連部品、フック31及びフック周りの関連部品などは実施形態1と同一であることから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
本実施形態のフック31の回動機構は、実施形態1と同様、フック31を収納位置から正回転させて引掛け位置に突出させる機構と、動力によりフック31を引掛け位置から逆回転させて収納位置に退避させる機構である。すなわち、図8(A)に示すように、アーム部材13ac、13adの間に支持させてエアシリンダ91が設けられている。エアシリンダ91は、中空のシリンダ92の中にピストンを摺動可能に設け、ピストンの両側に連結されたシャフト93a、93bがシリンダ92の両端から突出されている。シリンダ92には、側面の両端に正転空気供給口94aと逆転空気供給口94bが設けられ、それぞれ作動空気が供給されるようになっている。
【0061】
本実施形態のエアシリンダ91の動力をフック31の回転に伝達する動力伝達機構は、アーム部材13ac、13adの上部間に渡して軸支されたスプロケット96と、フック31が支持された軸部材30に設けられたスプロケット36と、これらのスプロケット96、36間に掛け渡されたチェーン97を備えて形成される。チェーン97の一端はシャフト93aに連結され、他端はシャフト93bに連結されている。シリンダ92の正転空気供給口94aに作動空気を供給するとシャフト93aが伸長してシャフト93bが短縮し、チェーン97がスプロケット96、36間を同図(B)において時計回りに回転し、フック31は矢印32の方向に正転して引掛け位置に突出される。逆に、シリンダ92の逆転空気供給口94bに作動空気を供給するとシャフト93bが伸長してシャフト93aが短縮し、フック31は矢印32の反対に回動して収納位置に退避される。
【0062】
本実施形態の空圧回路は、図9に示したとおりである。実施形態1の空圧回路と異なる点は、アクチュエータ40をエアシリンダ91に置き換えた点だけであり、他の構成は実施形態1と同一であることから、同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
以上、本発明を実施形態1、2に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の主旨の範囲で変形又は変更された形態で実施することが可能であることは、当業者にあっては明白なことであり、そのような変形又は変更された形態が本願の特許請求の範囲に属することは当然である。
【0064】
例えば、実施形態1、2では、アクチュエータの動力源が空圧のエアアクチュエータを説明したが、空圧が使えない箇所では、実施形態2における複動式両ロッド式のエアシリンダ91を、例えば適切な動作力を有するプッシュプル式電動ソレノイドに置き換えることが可能である。
【0065】
プッシュプル式電動ソレノイドを用いた場合、フック回動機構は、フック31の回動が積荷に妨げられない自由状態にて、フック31を所望の設定正転駆動力又は設定逆転駆動力を発生可能にする手段として、実施形態1、2のようにリリーフ弁63あるいはレギュレータ52を用いることができない。プッシュプル式電動ソレノイドの場合は、ソレノイドの電流を制限する電流リミッター回路を用いて対応すればよい。さらに、ロータリーエアアクチュエータに代えて電動モータを用いる場合は、電動モータの出力軸にトルクリミッタを介在させて、正又は逆回転方向のトルクを設定するようにすることができる。さらに、電動モータの正又は逆回転方向の駆動電流を制限するトルクリミッタ回路を設けてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 柱状部材
2、2a、2b 可動部材
3、3a、3b 吊アーム
4 平行四辺形リンク機構
5 昇降部材
5a ナットユニット
8、9 平行リンク
12、12a、12b 吊リンク
13、13a、13b アーム部材
15 駆動機構
17 連結部材
19、20 駆動リンク
22 ねじ棒
23 トルクリミッタ
24 モータ
25 軸受部
27 吊手
31 フック
40 アクチュエータ
40a 正転空気供給口
40b 逆転空気供給口
51 空気圧縮機
52 レギュレータ
55 切替弁
63 リリーフ弁
91 エアシリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9