(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】疎水性素材に亜硝酸塩又は固形状酸性試薬を含浸させることにより、検体の展開を制御し得る、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト試験片
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230327BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230327BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01N33/543 525W
G01N33/53 V
G01N33/543 521
G01N33/569 F
G01N33/569 G
(21)【出願番号】P 2019012974
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】村松 志野
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151330(JP,A)
【文献】特開2018-151331(JP,A)
【文献】特開2018-151329(JP,A)
【文献】特開2014-232064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸塩又は酸性溶液と混合した検体を添加するサンプルパッド、糖鎖抗原に対する抗体を標識した標識抗体を含む標識体領域及び前記糖鎖抗原に対する抗体を固相化した検出領域を含み、検出領域において抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体を形成させ、糖鎖抗原を測定するイムノクロマト試験片であって、前記標識体領域の上流に中和試薬を含浸させた領域を有し、さらに該中和試薬を含浸させた領域の上流に、亜硝酸塩と混合した検体を用いるときには固形状酸性試薬を含浸させた領域を有し、酸性溶液と混合した検体を用いるときには亜硝酸塩を含浸させた領域を有する、検体中の糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト試験片であって、
亜硝酸塩又は固形状酸性試薬を含浸させた領域に疎水性の素材
である不織布(ポリエステル・ポリエチレン混合)を用い
、さらに該素材に0.2~0.5(w/v)%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含浸させることを特徴とする、イムノクロマト試験片。
【請求項2】
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルがTriton X-100である、請求項
1記載のイムノクロマト試験片。
【請求項3】
サンプルパッド上に固形状酸性試薬若しくは亜硝酸塩を含浸させた領域が存在する、請求項1
又は2に記載のイムノクロマト試験片。
【請求項4】
固形状酸性試薬が、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸及び酒石酸からなる群から選択される、請求項1~
3のいずれか1項に記載のイムノクロマト試験片。
【請求項5】
中和試薬が、トリスヒドロキシルメチルアミノメタン又は水酸化ナトリウムである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のイムノクロマト試験片。
【請求項6】
糖鎖抗原が、原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア又はウイルスの糖鎖抗原である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のイムノクロマト試験片。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のイムノクロマト試験片と亜硝酸塩溶液若しくは酸性溶液を含むイムノクロマト試験キット。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のイムノクロマト試験片を用いてイムノクロマト法により検体中の糖鎖抗原を測定する方法であって、
イムノクロマト試験片が固形状酸性試薬を含浸させた領域を有するときには検体を亜硝酸溶液と混合し、イムノクロマト試験片が亜硝酸塩を含浸させた領域を有するときには検体を酸性溶液と混合し、前記イムノクロマト試験片のサンプルパッドに添加することを含み、
固形状酸性試薬を含浸させた領域又は亜硝酸塩を含浸させた領域において、亜硝酸塩と固形状酸性試薬の反応により発生した亜硝酸の作用により検体から糖鎖抗原が抽出され、 中和試薬を含浸させた領域において、前記糖鎖抗原を含む酸性溶液が中和され、
検出領域において、抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体が形成される、イムノクロマト法により、イムノクロマト試験片上での検体の展開のスピードや方向を制御し、酸性試薬と亜硝酸塩と中和試薬による処理を制御して、検体中の糖鎖抗原を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマト試験片上で糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理をすることが可能な、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト試験片に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマト法を原理とする迅速診断薬の多くは、ウイルス又は細菌感染症を迅速・簡便に測定し、治療方針を決定する一つの手段として広く使用されている。
【0003】
一般的なイムノクロマト法を原理とする迅速診断薬は、検体を検体浮遊液に浮遊させた後、その浮遊液をイムノクロマト試験片に供給することで迅速・簡便に測定できる。
【0004】
A群β溶血性レンサ球菌(A群β溶連菌)、口腔内レンサ球菌等ストレプトコッカス属に属する微生物を検出するためには糖鎖抗原を抽出し、糖鎖抗原を測定する必要がある。
【0005】
例えば、イムノクロマト試験片に予め亜硝酸ナトリウムと中和試薬を含ませることにより、検体を酢酸等の酸性溶液に浮遊してイムノクロマト試験片に供給する操作のみで亜硝酸抽出処理をイムノクロマト試験片上で行う方法が報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、イムノクロマト試験片に予め酸性試薬と中和試薬を含ませておき、検体を亜硝酸塩に浮遊してイムノクロマト試験片に供給する方法もある。
【0007】
さらに、イムノクロマト試験片上で効率的に糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理を行う方法が報告されている(特許文献2~4)。
【0008】
しかし、デバイス上で抽出させる機構を用いる際、目標とする性能を達成するためには、デバイス上で一定の抽出時間を担保する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開WO2005/121794号公報
【文献】特開2018-151329号公報
【文献】特開2018-151330号公報
【文献】特開2018-151331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在市販されているイムノクロマト法を原理とするA群β溶連菌(Strep A)抗原検出試薬の多くが亜硝酸塩溶液(R1)と酸溶液(R2)を混合して発生させた酸性の亜硝酸を、イムノクロマト法用検出試薬(試験片)上にある乾燥状態の中和剤(R3)で中和し反応させる技術を採用しているが、R1もしくはR2をパッドに塗布することで、R1とR2の用事調製及び抽出工程を省く、1ステップ化の技術も知られている。1ステップのStrep A抗原検出試薬においては、テストデバイス上で抽出工程を行うため、サンプル滴下後、一定の抽出時間を担保することが必須である。しかし、デバイス上で抽出させる機構を用いる際、目標とする性能を達成するためには、デバイス上で一定の抽出時間を担保する必要があった。一定の抽出時間を担保するためには、含浸させるパッドに親水性があり、厚みのある素材を使うことも可能であるが、検体の粘性によっては保持出来る時間にバラツキが生じ、コントロールが難しかった。また、疎水性の高いパッド上に試料を保持することで抽出時間を確保することも可能であるが、やはり、検体の粘性によっては、抽出時間にバラツキが生じ、いつまで経っても検体が展開せず、5分の判定時間内に液が展開しきらないという問題があった。
【0011】
本発明は、イムノクロマト試験片上での検体の展開を制御し、酸性試薬と亜硝酸塩と中和試薬による処理を適切に制御するためのイムノクロマト試験片及び該試験片を用いたイムノクロマト方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、イムノクロマト試験片上での検体の展開を制御し、酸性試薬と亜硝酸塩と中和試薬による処理を適切に制御する方法について鋭意検討を行った。
【0013】
その結果、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させる素材に疎水性を有する素材を用いることで反応時間を向上させることを見出した。
【0014】
また、素材に塗布する界面活性剤の濃度を調節することで、最適な亜硝酸抽出時間をコントロールでき、シグナルの強さを調節することが可能であることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 亜硝酸塩又は酸性溶液と混合した検体を添加するサンプルパッド、糖鎖抗原に対する抗体を標識した標識抗体を含む標識体領域及び前記糖鎖抗原に対する抗体を固相化した検出領域を含み、検出領域において抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体を形成させ、糖鎖抗原を測定するイムノクロマト試験片であって、前記標識体領域の上流に中和試薬を含浸させた領域を有し、さらに該中和試薬を含浸させた領域の上流に、亜硝酸塩と混合した検体を用いるときには固形状酸性試薬を含浸させた領域を有し、酸性溶液と混合した検体を用いるときには亜硝酸塩を含浸させた領域を有する、検体中の糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト試験片であって、
亜硝酸塩又は固形状酸性試薬を含浸させた領域に疎水性の素材を用いることを特徴とする、イムノクロマト試験片。
[2] 亜硝酸塩又は固形状酸性試薬を含浸させた疎水性の素材に界面活性剤を含浸させる、[1]のイムノクロマト試験片。
[3] 界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、[2]のイムノクロマト試験片。
[4] ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルがTriton X-100である、[3]のイムノクロマト試験片。
[5] 亜硝酸塩又は固形状酸性試薬を含浸させた疎水性を有する素材が、ポリエステル、ポリエチレン、レーヨン、ナイロン、及びそれらのいずれか2種以上の混合物からなる群から選択される、[1]~[4]のいずれかのイムノクロマト試験片。
[6] サンプルパッド上に固形状酸性試薬若しくは亜硝酸塩を含浸させた領域が存在する、[1]~[5]のいずれかのイムノクロマト試験片。
[7] 固形状酸性試薬が、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸及び酒石酸からなる群から選択される、[1]~[6]のいずれかのイムノクロマト試験片。
[8] 中和試薬が、トリスヒドロキシルメチルアミノメタン又は水酸化ナトリウムである、[1]~[7]のいずれかのイムノクロマト試験片。
[9] 糖鎖抗原が、原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア又はウイルスの糖鎖抗原である、[1]~[8]のいずれかのイムノクロマト試験片。
[10] [1]~[9]のいずれかのイムノクロマト試験片と亜硝酸塩溶液若しくは酸性溶液を含むイムノクロマト試験キット。
[11] [1]~[10]のいずれかのイムノクロマト試験片を用いてイムノクロマト法により検体中の糖鎖抗原を測定する方法であって、
イムノクロマト試験片が固形状酸性試薬を含浸させた領域を有するときには検体を亜硝酸溶液と混合し、イムノクロマト試験片が亜硝酸塩を含浸させた領域を有するときには検体を酸性溶液と混合し、前記イムノクロマト試験片のサンプルパッドに添加することを含み、
固形状酸性試薬を含浸させた領域又は亜硝酸塩を含浸させた領域において、亜硝酸塩と固形状酸性試薬の反応により発生した亜硝酸の作用により検体から糖鎖抗原が抽出され、 中和試薬を含浸させた領域において、前記糖鎖抗原を含む酸性溶液が中和され、
検出領域において、抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体が形成される、イムノクロマト法により、イムノクロマト試験片上での検体の展開のスピードや方向を制御し、酸性試薬と亜硝酸塩と中和試薬による処理を制御して、検体中の糖鎖抗原を測定する方法。
【発明の効果】
【0016】
1ステップのStrepA抗原検出試薬において、亜硝酸塩又は固形状の酸性試薬を含浸させる素材として疎水性の素材を使用する際、界面活性剤濃度を調節することにより、固形状酸性試薬と亜硝酸塩による処理にかかる時間を最適なものに調節することを可能にし、結果として、目標とする性能(ライン発色時間が早く、感度が高い)を出せるイムノクロマト試験片を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片であって、固形状酸性試薬領域がサンプルバッドを兼ねているイムノクロマト試験片(2枚パッド試験片)の構造を模式的に示す図である。
【
図2】固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片であって、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域がサンプルバッドを兼ねているイムノクロマト試験片(1枚パッド試験片)の構造を模式的に示す図である。
【
図3】固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片であって、固形状酸性試薬領域が中和試薬領域を兼ねており、サンプルバッドが別に存在するイムノクロマト試験片(2枚パッド試験片)の構造を模式的に示す図である。
【
図4】PETシートが固形状酸性試薬領域と中和試薬領域の間に貼付された、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片の構造を模式的に示す図である。
【
図5】PETシートが固形状酸性試薬領域と中和試薬領域の間に貼付された、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片の構造を模式的に示す図であり、各パーツ間の距離を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理をイムノクロマト試験片上で行えるように簡便化し、被検出物質である糖鎖抗原を迅速かつ正確に測定することを可能にするイムノクロマト試験片又は該イムノクロマト試験片と亜硝酸溶液又は酸性溶液を含むキットに係る。
【0020】
イムノクロマト試験片は、被検出物質(抗原等)を捕捉する抗体(抗体1)が固定化された検出領域を有する支持体、移動可能な標識抗体(抗体2)を有する標識体領域、検体を添加するサンプルパッド、展開された検体液を吸収する吸収帯、これら部材を1つに貼り合わせるためのバッキングシート等を具備する。
【0021】
本発明のイムノクロマト試験片は、格納容器内に収められていてもよく、該格納容器により、例えば紫外線や空気中の湿気による劣化を防ぐことができる。また、汚染性、感染性の有る検体試料を用いる場合、格納容器によりアッセイを行う試験者が汚染又は感染するのを防止することができる。例えば適当な大きさの樹脂製ケースを格納容器として用い、該ケース中に本発明の装置を収納すればよい。また、抗原又は抗体を固定化した試験片の表面を樹脂製フィルム等(PETシート)で覆ってもよい。格納容器とその中に納められた試験片を、一体としてイムノクロマトデバイスという場合がある。
【0022】
なお、検出領域の数及び標識体領域に含まれる標識抗体の種類は1つに限られるものではなく、複数の被検出物質に対応する抗体を用いることで、2つ以上の抗原を同一の試験片にて測定することができる。
【0023】
支持体は、被検出物質(抗原)を捕捉するための抗体を固定化する性能を持つ材料であり、かつ液体が水平方向に通行することを妨げない性能を持つ。好ましくは、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)であり、液体及びそれに分散した成分を吸収により輸送可能な材料である。支持体を成す材質は特に限定されるものではなく、例えばセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ガラス繊維、ナイロン、ポリケトンなどが挙げられる。このうちニトロセルロースを用いて薄膜又はメンブレンとしたものがより好ましい。抗体を固定化したメンブレンを抗体固定化メンブレンと呼ぶ。
【0024】
標識体領域は、標識抗体を含む多孔性基材から成り、基材の材質は一般的に用いられているガラス繊維(グラスファイバー)や不織布等を用いることができる。該基材は、多量の標識抗体を含浸させるために、厚さ0.3mm~0.6mm程度のパッド状であることが好ましい。標識抗体を含浸させ乾燥させた多孔性基材を乾燥パッドとも呼ぶ。
【0025】
標識抗体の標識には、アルカリフォスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイドのような金属コロイド、シリカ粒子、セルロース粒子、磁性粒子、蛍光粒子、着色ポリスチレン粒子及び着色ラテックス粒子等が用いられることが多い。金属コロイド粒子、着色ポリスチレン粒子や着色ラテックス粒子等の着色粒子を用いる場合には、これらの標識試薬が凝集することによって着色が生じるので、この着色を測定する。抗体を固定化した粒子を抗体固定化粒子と呼ぶ。
【0026】
検出領域は、被検出物質(抗原)を捕捉する抗体が固定化された支持体の一部の領域を指す。検出領域は、抗原を捕捉するための抗体を固定化した領域を少なくとも1つ設ける。検出領域は支持体に含まれていればよく、支持体上に抗体を固定化すればよい。
【0027】
サンプルパッドは、検体を添加するための部位であり、多孔性材料である。サンプルパッドはイムノクロマト試験片の最も上流にある部位である。該材料には一般的に用いられる濾紙、ガラス繊維、不織布等を用いることができる。多量の検体を免疫測定に用いるために、厚さ0.3mm~1mm程度のパッド状であることが好ましい。検体には、検体を他の溶液に浮遊して得られる試料等、検体を用いて調製された試料も含む。
【0028】
吸収帯は、支持体に供給され検出領域で反応に関与しなかった成分を吸収するための部材である。材料には、一般的な天然高分子化合物、合成高分子化合物等からなる保水性の高い濾紙、スポンジ等を用いることができるが、検体の展開促進のためには吸水性が高いものが好ましい。
【0029】
バッキングシートは、前述の全ての材料、すなわち支持体、サンプルパッド、標識体領域、吸収帯等が、部分的な重なりをもって貼付・固定されるための部材である。バッキングシートは、これらの材料が最適な間隔で配置・固定されるのであれば、必ずしも必要ではないが、製造上あるいは使用上の利便性から、一般的には用いた方が好ましい。
【0030】
本発明のイムノクロマト試験片には、さらに対照表示領域(部材)が存在していてもよい。対照表示領域は試験が正確に実施されたことを示す部位である。例えば、対照表示領域は、検出領域の下流に存在し、検体試料が検出領域を通過し、対照表示領域に到達したときに着色等によりシグナルを発する。対照表示領域には、標識担体を結合させた抗体に結合する物質を固相化しておいてもよいし、検体が到達したときに色が変化するpHインジケーター等の試薬を固相化しておいてもよい。標識担体を結合させた抗体がマウスモノクローナル抗体の場合、抗マウスIgG抗体を用いればよい。
【0031】
イムノクロマト試験片の大きさは限定されないが、例えば、縦の長さ数cm~十数cm、横の長さ数mm~数cm程度である。
【0032】
上記の形態の試験片において、検体は、サンプルパッド、標識体領域、支持体、検出領域、吸収帯等の一連の接続により形成された多孔性流路を通過する。よって本形態においては、これら全てが検体移動領域となる。各構成材料の材質や形態によって、検体が材料内部を浸透せず界面を通行する形態もありうるが、本明細書で定義する検体移動領域は材料の内部か界面かを問わないため、該形態の試験片も本明細書の範囲に含まれる。
【0033】
本発明のイムノクロマト試験片を用いて検体中の糖鎖抗原を測定する場合、最初に検体中の糖鎖抗原を抽出する必要がある。糖鎖抗原の抽出は、糖鎖抗原を含む検体を亜硝酸で処理することにより行う。亜硝酸は亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩を酸と混合することにより発生させることができ、このようにして発生させた亜硝酸で糖鎖抗原を含む検体を処理すればよい。抽出した抗原はイムノクロマト試験片上に固相化した抗体に抗原抗体反応により結合されるが、この際、反応系に酸が残っていると反応系は酸性になり、抗原抗体反応が阻害される。そこで、反応系の酸を中和する必要がある。
【0034】
本発明において、亜硝酸塩と酸を混合し亜硝酸を発生させて、該亜硝酸により検体中の糖鎖抗原を抽出して、酸を中和した上で、イムノクロマト試験片上に固相化した抗体に糖鎖抗原を結合させ、糖鎖抗原を測定する方法において、糖鎖抗原を抽出して測定する方法として以下の方法が挙げられる。いずれの方法においても、亜硝酸による糖鎖抗原の抽出と中和はイムノクロマト試験片上で行う。亜硝酸による糖鎖抗原の抽出をイムノクロマト試験片上で行うためには、イムノクロマト試験片上に酸性試薬又は亜硝酸塩を含ませておけばよい。中和をイムノクロマト試験片上で行うためには、イムノクロマト試験片上に中和試薬を含浸させておけばよい。
【0035】
(A)予め検体と酸性溶液を混合し、亜硝酸塩と中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片のサンプルパッドに添加する。混合液が亜硝酸塩を含浸させた領域に達すると亜硝酸塩と酸が反応し、亜硝酸が発生し、検体中の糖鎖抗原が抽出される。糖鎖抗原の抽出液はイムノクロマト試験片上の中和試薬を含浸させた領域で中和され、糖鎖抗原はイムノクロマト試験片上に固相化した抗体に結合し、検出できる。該方法において、用いる酸性溶液としては、酢酸、塩酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
(B)予め検体と亜硝酸塩溶液を混合し、酸性試薬と中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片のサンプルパッドに添加する。混合液が酸性試薬を含浸させた領域に達すると亜硝酸塩と酸が反応し、亜硝酸が発生し、検体中の糖鎖抗原が抽出される。糖鎖抗原の抽出液はイムノクロマト試験片上の中和試薬を含浸させた領域で中和され、糖鎖抗原はイムノクロマト試験片上に固相化した抗体に結合し、検出できる。
【0036】
上記の(A)又は(B)の方法を行うための本発明のイムノクロマト試験片では、標識体領域よりも上流(検体の流れの上流でありサンプルパッドが存在する側)に、すなわち、サンプルパッド内又はサンプルパッドと標識体領域の間に亜硝酸塩が含浸されているイムノクロマト試験片は上記(A)の方法に用いることができる。また、サンプルパッド内又はサンプルパッドと標識体領域の間に酸性試薬が含浸されているイムノクロマト試験片は上記(B)の方法に用いることができる。なお、酸性試薬としては、固形状酸性試薬が用いられる。これらの方法により、被検試料中の被検出物質を被検試料の試験に供される量によらず、正確に、特異的に測定することが可能になる。
【0037】
固形状酸性試薬が含浸された領域を固形状酸性試薬領域と呼び、酸性試薬が含浸された領域を酸性試薬領域と呼び、中和試薬が含浸された領域を中和試薬領域と呼ぶ。
【0038】
前記固形状酸性試薬又は亜硝酸塩は、サンプルパッドに含浸させてもよいし、サンプルパッドとは別の不織布等の多孔性材料からなるパッドに含浸させて、得られた固形状酸性試薬含浸多孔性材料又は亜硝酸塩含浸多孔性材料を、サンプルパッドと標識体領域との間、すなわち標識体領域の上流側に配置してもよい。ここで、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域とサンプルパッド又は標識体領域は接触していても、いなくてもよい。本発明において、試薬を含浸させた領域を試薬を含浸させたパッドともいう。
【0039】
前記中和試薬は、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させる領域よりも下流に配置する。中和試薬は、支持体に含浸させてもよいし、支持体とは別の不織布等の多孔性材料からなるパッドに含浸させて、得られた中和試薬含浸多孔性材料を、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域と標識体領域との間に配置してもよい。すなわち、標識体領域の上流に中和試薬を含浸させた領域を有し、さらに該中和試薬を含浸させた領域の上流に固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域を有する。
【0040】
ここで、中和試薬を含浸させた領域と固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域又は標識体領域は接触していても、いなくてもよい。
【0041】
固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させる領域に多孔性材料の素材としては、疎水性を有する素材を用いる。具体的にはポリエステルでできた不織布、ポリエチレンでできた不織布等、レーヨンでできた不織布等、ナイロンでできた不織布等又はそれらのいずれか2種以上の疎水性を有する素材の混合物である不織布等、あるいはそれらのいずれか2種以上の疎水性を有する素材と親水性を有する素材との混合物である不織布が挙げられる。
【0042】
また、疎水性を有する素材には界面活性剤を含浸させることが好ましい。界面活性剤は限定されないが、非イオン系界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤のいずれも用いることができる。具体的には、Triton X-100、Triton X-114等のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の第4級アンモニウム化合物;Tween 20、Tween 80等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;Brij-35、Brij-58等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;コール酸ナトリウム、デオキシコール酸等のステロイド骨格を有するコール酸系;ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。この中でも、Triton X-100、Triton X-114等のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが好ましい。界面活性剤の濃度は種類によって至適濃度が異なるが、高すぎると感度が低下し(抽出時間が短すぎて、感度が低下)、低すぎると効果が見られない。Triton X-100の場合は、0.1~2%で効果があり、0.2~0.5%が更に良い。ただし、この数値は、1テストあたりの塗布する量と界面活性剤の種類、塗布する素材の疎水度により異なる。
【0043】
中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材としては、具体的には、セルロースの綿繊維でできた濾紙やガラス繊維でできたガラス濾紙等が挙げられる。
【0044】
固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片は、支持体上に上流からサンプルパッド、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域、中和試薬領域、標識体領域、検出領域及び吸収帯を有し、固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域はサンプルパッド上にあってもよい。また、サンプルパッド、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域、中和試薬領域、標識体領域、検出領域及び吸収帯は、隣合う領域どうしで接触していても、いなくてもよい。
【0045】
本発明で用いられる固形状酸性試薬は常温において固形状のものであり、高温において揮発しないものである。
【0046】
本発明に用いられる好ましい固形状酸性試薬としては、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸を挙げることができる。
【0047】
また、本発明で用いられる好ましい固形状酸性試薬としては、例えばクエン酸のような価数の多い酸を用いればより少ない量で抽出できる。また同じ価数ならより酸解離定数が小さい、例えばマレイン酸、酒石酸は効率が良い。
【0048】
また、本発明で用いられる好ましい固形状酸性試薬としては、イムノクロマト試験片上で着色されないような試薬、具体的には乾燥状態で白色又は乾燥熱や酸化で着色されにくい試薬が好ましい。
【0049】
本発明で用いられる亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が挙げられる。
【0050】
本発明に用いられる固形状酸性試薬又は亜硝酸塩の使用量、すなわちイムノクロマト試験片に含浸させる量は、特に限定されないが、通常、イムノクロマト試験片の一試験片あたり0.01μg~1mg程度であり、好ましくは0.1μg~0.1mg程度である。もっとも、使用する固形状酸性試薬又は亜硝酸塩の種類、検体浮遊液の組成や添加量などにより効果が得られる最適な量を選択することが好ましい。
【0051】
固形状酸性試薬又は亜硝酸塩をサンプルパッド又は多孔性材料に含浸させるには、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を一度溶解させて塗布し乾燥させる。例えば、0.1~数Mの固形状酸性試薬又は亜硝酸塩溶液を塗布し乾燥させればよい。
【0052】
本発明に用いられる中和試薬は常温において固形状のものであり、高温において揮発しないものである。中和試薬を塩基性試薬ともいう。
【0053】
本発明に用いられる好ましい中和試薬としては、トリス塩基(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、水酸化ナトリウム、リン酸水素二カリウム、クエン酸三ナトリウム、アルカリ領域に緩衝能を持つグッドバッファーを挙げることができる。
【0054】
本発明に用いられる中和試薬の使用量、すなわちイムノクロマト試験片に含浸させる量は、特に限定されないが、通常、イムノクロマト試験片の一試験片あたり0.01μg~1mg程度であり、好ましくは0.1μg~0.1mg程度である。もっとも、使用する中和試薬の種類、検体浮遊液の組成や添加量などにより効果が得られる最適な量を選択することが好ましい。
【0055】
中和試薬を多孔性材料に含浸させるには、中和試薬を一度溶解させて、溶液を多孔性材料に塗布し、その後乾燥させればよい。例えば、0.1~数M、好ましくは0.5~数Mの中和試薬溶液を塗布し乾燥させればよい。
【0056】
図1~3は、典型的なイムノクロマト試験片の好ましい1形態を示した図である。
図1に示すイムノクロマト試験片は、固形状酸性試薬及び中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片であるが、固形状酸性試薬の代りに亜硝酸塩を含浸させてもよく、この場合は、亜硝酸塩及び中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片となる。すなわち、以下の試験片の説明において、固形状酸性試薬領域の代わりに亜硝酸塩試薬領域を設けることがある。当業者ならば、亜硝酸塩及び中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片を適宜設計し製造することができる。なお、イムノクロマト試験片は、
図1~3に示すものに限定されるものではない。
図1中、1が支持体、2が標識体領域、3が検出領域、7が吸収帯、8がバッキングシートを指している。
【0057】
図1及び2は、固形状酸性試薬領域5がサンプルパッド10を兼ねている試験片を示す。
図1Aが上面図、
図1Bが切断断面図である。
図1の例では、標識体領域2の上流に固形状酸性試薬領域5及び/又は中和試薬領域6が存在し、これらが重ね合わされており、これにより連続したラテラルフローの流路が形成されている。
図1に示す試験片においては、固形状酸性試薬領域5がサンプルパッド10を兼ねている。すなわち、固形状酸性試薬領域5がサンプルパッド10上に存在する。この試験片においては、固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6が別々の2枚の多孔性材料(パッド)上に設けられているので、2枚パッド試験片と呼ぶことがある。固形状酸性試薬領域の上流にさらにサンプルパッドが存在してもよい。固形状酸性試薬領域とサンプルパッドが別々に存在していてもよい。
【0058】
図2の試験片は、サンプルパッド10が固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6を兼ねており、固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6がサンプルパッド10上に存在する。
図2Aが上面図、
図2Bが切断断面図であり、
図2Cが中和試薬領域6と固形状酸性試薬領域5若しくは亜硝酸試薬領域の位置関係を示す。この試験片においては、固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6が1枚の多孔性材料(パッド)上に設けられているので、1枚パッド試験片と呼ぶことがある。
【0059】
図3の試験片は、サンプルパッド10が固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6と別々に存在し、固形状酸性試薬領域5が中和試薬領域6を兼ねており、サンプルパッドが別に存在する。サンプルパッド10には試薬は含浸されておらず、サンプルパッドのみとして機能する。
図3Aが上面図、
図3Bが切断断面図であり、
図3Cが中和試薬領域6と固形状酸性試薬領域5若しくは亜硝酸試薬領域の位置関係を示す。
図3の試験片は、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を兼ねる多孔性材料(パッド)とサンプルパッドが別々の2枚の多孔性材料(パッド)として設けられているので、2枚パッド試験片と呼ぶことができる。図には示していないが、サンプルパッド10、固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6の3つが別々に存在していてもよい。
【0060】
測定は、検体又は検体を用いて調製された試料を亜硝酸塩溶液と接触混合させ、検体を亜硝酸塩溶液に浮遊させ、サンプルパッド10、固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10、又は中和試薬領域6と固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10に添加して供することにより開始される。この際、検体5~100μLと0.1M~8Mの亜硝酸塩0.01~2mLを混合し、5~200μLをサンプルパッド10、固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10、又は中和試薬領域6と固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10に供すればよい。亜硝酸塩として、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が挙げられる。
【0061】
サンプルパッド10、固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10、又は中和試薬領域6と固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10に供された被検出物質である糖鎖抗原を含む検体は毛管作用によって、サンプルパッド10、固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10、若しくは中和試薬領域6と固形状酸性試薬領域5を兼ねるサンプルパッド10及び中和試薬領域6へ展開される。この際、固形状酸性試薬領域5と中和試薬領域6の間には、PETシートであるトップラミネートシートが存在する。このため、固形状酸性試薬領域5から中和試薬領域6への検体の流れは抑制され、かつ、一旦中和試薬領域6に入った検体が固形状酸性試薬領域5に逆流するのを妨げることができる。次いで、検体は標識体領域2、支持体1、吸収帯7へと順次、水平方向に展開される。固形状酸性試薬領域5において、検体に混合した亜硝酸塩と固形状酸性試薬領域5上の固形状酸性試薬が反応し、遊離の亜硝酸が発生し、その亜硝酸の作用によって検体から糖鎖抗原が抽出される。抽出された糖鎖抗原は酸性の展開溶液と共に中和試薬領域6に展開移動し、中和試薬領域6で糖鎖抗原を含む酸性の展開溶液のpHが中和され中性域に調整される。その結果、糖鎖抗原は中性条件下においてさらに下流に展開移動する。標識体領域2では検体試料の展開と共に標識抗体が液中に放出され支持体1へと展開される。検体試料中に糖鎖抗原が存在する場合において、支持体1の検出領域3では捕捉抗体により糖鎖抗原が特異的に捕捉され、なおかつ糖鎖抗原は標識抗体とも特異的反応により複合体を形成する。これにより検出領域3では糖鎖抗原を介した抗体のサンドイッチが成立し、標識抗体-糖鎖抗原複合物を検出領域3にて測定することができる。
【0062】
本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法によれば、検体中の糖鎖抗原の抽出はイムノクロマト試験片上で行われるため、イムノクロマト試験片を用いた測定の前にあらかじめ検体中の糖鎖抗原を抽出する必要はなく、1ステップで検体中の糖鎖抗原を測定することができる。
【0063】
本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法において、検体となる生体試料は、特に限定されないが、血清、血漿、血液、尿、便、唾液、組織液、髄液、拭い液等の体液等又はその希釈物が挙げられる。
【0064】
本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法において、測定対象となる被検出物質はイムノアッセイ、すなわち抗原抗体反応を利用したアッセイで測定し得る糖鎖抗原である。抗原としては亜硝酸抽出処理によって抽出される細菌の細胞壁に存在する糖鎖抗原である多糖体等が挙げられる。これらの物質を含む原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等も測定し得る。本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法により、被験体の生体試料中に原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等に由来する糖鎖抗原が含まれているか否かを確認することができ、糖鎖抗原が含まれている場合、被験体は原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等による感染症に罹患していると判断することができる。例えば、A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、大腸菌、レジオネラ、カンピロバクター等の感染の有無を検出することができる。
【0065】
本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法は、イムノクロマト試験片に、亜硝酸塩又は酸性試薬と中和試薬を含浸させる場合に限らず、イムノクロマト試験片上に複数個、すなわち2個からn個の効果の異なる試薬であって、保存中の反応を避けるべき試薬を含浸させる際にも利用することができる。
【実施例】
【0066】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例において、%は、特に断らない場合はw/v%を示す。
【0067】
実施例1
A群溶連菌連鎖球菌測定イムノクロマト試験片の例
亜硝酸塩、固形状酸性試薬及び中和試薬として以下のものを用いた。亜硝酸塩(液状試薬) 2.0M亜硝酸ナトリウム
固形状酸性試薬(イムノクロマト試験片に含浸) 500mM クエン酸、0.0~2.5% TritonX-100
中和試薬(イムノクロマト試験片に含浸) 3.0Mトリス塩酸塩(Trizma BASE)
【0068】
1.抗Streptococcus pyogenes(A群β溶血性レンサ球菌)抗体のニトロセルロースメンブレン(支持体)への固定化
抗Streptococcus pyogenes抗体を希釈した液及び抗ウサギIgG抗体を準備し、PETフィルムで裏打ちされたニトロセルロースメンブレンのサンプルパッド側に抗Streptococcus pyogenes抗体、吸収帯側に抗ウサギIgG抗体をそれぞれ線状に塗布した。その後、ニトロセルロースメンブレンを乾燥させ、抗Streptococcus pyogenes抗体固定化メンブレンを得た。このメンブレンを本実施例において、「抗体固定化メンブレン」と呼ぶ。
【0069】
2.抗Streptococcus pyogenes抗体の着色ポリスチレン粒子への固定化
抗Streptococcus pyogenes抗体希釈液に着色ポリスチレン粒子を加え、攪拌後、カルボジイミドを加え、さらに攪拌する。遠心操作により上清を除き、緩衝液に再浮遊し、抗Streptococcus pyogenes抗体結合着色ポリスチレン粒子浮遊液を得た。この粒子を、本実施例において、「抗体固定化粒子(着色ポリスチレン)」と呼ぶ。
【0070】
3.抗Streptococcus pyogenes抗体結合着色ポリスチレン粒子の塗布・乾燥
2で作製した抗体固定化着色ポリスチレン粒子浮遊液を不織布に所定量を塗布し、乾燥させた。得られた不織布を、本実施例において、「C.Pad」と呼ぶ。
【0071】
4.中和試薬(塩基性試薬)の塗布
上記の中和試薬(塩基性試薬)を濾紙に塗布した。
【0072】
5.固形状酸性試薬含浸パッドの作製
上記の固形状酸性試薬を疎水性を有する素材の不織布(ポリエステル・ポリエチレン混合)に塗布した。塗布後に直ちに乾燥して、固形状酸性試薬含浸領域として固形状酸性試薬含浸パッドを得た。
【0073】
6.Streptococcus pyogenes検出用イムノクロマト試験片の作製
ストリップのバッキングシートに、まず抗体固定化メンブレン(支持体)を下流から20mmの部分に貼付した。
【0074】
メンブレンの下流に、液を吸収させるための吸収帯を貼付した。
メンブレンの上流にメンブレンとの間に2mmの重なりをもたせて、抗体結合着色ポリスチレン粒子が塗布された10mm幅のグラスファイバー(C.Pad)を貼付した。
【0075】
C.Padと中和試薬を含浸させたパッドの重なりが4mmとなるよう、中和試薬含浸パッド(中和試薬含浸領域)を貼付した。
【0076】
イムノクロマト試験片の上部にあわせて、PETシートであるトップラミネートシート(60mm)を貼付した。
【0077】
最後に、固形状酸性試薬を含浸させたパッド(固形状酸性試薬含浸領域)を、中和試薬を含浸させたパッドの上に間にトップラミネートシートが介在し、なおかつ固形状酸性試薬を含浸させたパッドと中和試薬を含浸させたパッドが接触するように、イムノクロマト試験片の上流(下端)にあわせて貼付した。
【0078】
このようにして作製したイムノクロマト試験片の構造を
図4に示す。また、
図5に模式図を各パーツ間の距離(mm)と共に示す。なお、
図4及び
図5において、固形状酸性試薬を含浸させたパッドと中和試薬を含浸させたパッドは、両パッドの間にトップラミネートが存在しない部位でも接触せずに離れているように表されるが、実際には、トップラミネートがない部分で両パッドは接触している。
【0079】
固形状酸性試薬のTriton X-100の濃度が、(1)0.0%、(2)0.1%、(3)0.2%、(4)0.5%、(5)1.0%、(6)1.5%、(7)2.0%、(8)2.5%のイムノクロマト試験片が得られた。
【0080】
実施例2
実施例1で作製したイムノクロマト試験片にStreptococcus pyogenesを105cfc/mLに浮遊した2M亜硝酸Na溶液2倍に倍々希釈した検体を75μL滴下して、経過を観察した。
【0081】
界面活性剤の濃度が高い条件ほど、展開開始(判定窓に試料が見えるまでの時間)までの時間が短縮された。
【0082】
また、(3)、(4)のように界面活性剤の濃度によって、亜硝酸による糖鎖抗原の抽出時間をコントロールすることで、展開時間毎のシグナルの強さを調節することができた(表1)。
【0083】
【符号の説明】
【0084】
1 支持体(検出領域を含む)
2 標識体領域
3 検出領域
5 固形状酸性試薬領域
6 中和試薬領域
7 吸収帯
8 バッキングシート
9 トップラミネートシート
10 サンプルパッド
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のイムノクロマトデバイスを用いてA群β溶血性レンサ球菌の感染を正確に検出することができる。