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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】内輪分離型アンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20230327BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20230327BHJP
   F16C 43/06 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/16
F16C43/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019049975
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020153391
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】上堀 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-035465(JP,A)
【文献】特開2016-118294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00
F16C 33/00
F16C 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(1)と、
前記外輪(1)の径方向内側に同軸に配置される内輪(2)と、
前記外輪(1)と前記内輪(2)の間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の玉(3)と、
前記複数の玉(3)を保持する保持器(4)と、を備え、
前記内輪(2)の外周には、前記玉(3)が転がり接触する内輪軌道溝(8)と、前記内輪軌道溝(8)の軸方向の一方側に隣接する内輪カウンタボア部(9)と、前記内輪軌道溝(8)の軸方向の他方側に隣接し、前記内輪カウンタボア部(9)よりも大きい外径をもつ内輪肩部(10)とが設けられ、
前記外輪(1)の内周には、前記玉(3)が転がり接触する外輪軌道溝(5)と、前記外輪軌道溝(5)の軸方向の前記一方側に隣接する外輪肩部(6)と、前記外輪軌道溝(5)の軸方向の前記他方側に隣接する外輪カウンタボア部(7)とが設けられ、
前記保持器(4)は、前記玉(3)に対して軸方向の前記一方側を周方向に延び、前記内輪肩部(10)の外径よりも小さい内径をもつカウンタ側環状部(12)と、前記玉(3)に対して軸方向の前記他方側を周方向に延び、前記内輪肩部(10)の外径よりも大きい内径をもつ反カウンタ側環状部(13)と、前記複数の玉(3)同士の間を通って前記カウンタ側環状部(12)と前記反カウンタ側環状部(13)を連結する複数の柱部(14)とを有し、
前記カウンタ側環状部(12)と前記反カウンタ側環状部(13)と前記柱部(14)とで、前記玉(3)を収容するポケット(15)が区画され、
前記ポケット(15)は、前記内輪(2)を分離させたときに前記玉(3)が前記ポケット(15)から径方向内側に抜け落ちない形状を有する内輪分離型アンギュラ玉軸受において、
前記柱部(14)の内周面が、前記カウンタ側環状部(12)から前記反カウンタ側環状部(13)の側に軸方向に延び出すストレート面(25)と、前記ストレート面(25)から反カウンタ側環状部(13)に向かって次第に拡径するテーパ面(26)とを有し、
前記ポケット(15)の径方向内側の開口縁は、径方向に見て前記ストレート面(25)と前記テーパ面(26)の境界位置で前記ポケット(15)の内側に突出する一対の凸縁部(33)を形成し、
前記内輪(2)を分離して前記玉(3)を径方向内側に移動させたときに、前記一対の凸縁部(33)と前記反カウンタ側環状部(13)とで前記玉(3)を受け止めて前記玉(3)の抜け落ちを阻止し、
前記内輪カウンタボア部(9)には、前記内輪軌道溝(8)から遠ざかるに従って次第に外径が小さくなるように軸方向に対して5°以上20°未満の範囲の大きさの角度(θ)をもって傾斜したテーパ状の外周面(11)と、そのテーパ状の外周面(11)と前記内輪(2)の側面との交差稜を面取りした面取り部(34)とが設けられ、
前記テーパ状の外周面(11)は、前記内輪軌道溝(8)と前記面取り部(34)との間を途切れずに連続して延びるように形成され、
前記内輪カウンタボア部(9)の外周面(11)の前記内輪軌道溝(8)から最も遠い部位、すなわち前記テーパ状の外周面(11)と前記面取り部(34)の境界の部位の外径(H)が、前記内輪(2)を分離して前記玉(3)を径方向内側に移動させ、その玉(3)を前記一対の凸縁部(33)と前記反カウンタ側環状部(13)とで受け止めたときの前記玉(3)の内接円径(F)よりも小さく設定されていることを特徴とする、
内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記内輪(2)を分離して前記玉(3)を径方向内側に移動させ、その玉(3)を前記一対の凸縁部(33)と前記反カウンタ側環状部(13)とで受け止めたときに、前記玉(3)に対する前記凸縁部(33)の接触位置と前記玉(3)の中心位置との間の軸方向距離(g)が、玉(3)の直径(D)の10%以下に収まるように前記凸縁部(33)が配置されている請求項1に記載の内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記柱部(14)は、前記玉(3)を前記外輪(1)と前記内輪(2)の間に組み込んだ状態でそれらの玉(3)の中心を共通して通るピッチ円(P)の位置から前記ストレート面(25)までの径方向厚さ(T)が、前記玉(3)の直径(D)の30%以上50%以下の範囲となるように形成されている請求項1または2に記載の内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項4】
前記一対の凸縁部(33)の周方向間隔(W)が、前記玉(3)の直径(D)の65%以下である請求項1から3のいずれかに記載の内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記ポケット(15)の径方向内側の開口縁は、径方向に見て、前記反カウンタ側環状部(13)に向かって開口する半円状の第1縁部(31)と、前記半円状の第1縁部(31)の両端に前記凸縁部(33)が形成されるように前記第1縁部(31)の両端に接続し、前記反カウンタ側環状部(13)に向かって幅が広がる対向一対の第2縁部(32)とを有する請求項1から4のいずれかに記載の内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項6】
前記カウンタ側環状部(12)と前記反カウンタ側環状部(13)と前記柱部(14)とが樹脂で形成されている請求項1からのいずれかに記載の内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項7】
自動車のトランスミッションの軸受として使用される請求項1からのいずれかに記載の内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内輪を分離させたときに玉が保持器のポケットから径方向内側に抜け落ちないように構成された内輪分離型アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のオートマチックトランスミッションに用いる軸受は、ラジアル荷重だけでなくアキシアル荷重も負荷されることから、円すいころ軸受が多く使用されていた。しかしながら、近年、自動車の省燃費化のニーズにより、トランスミッションの軸受として、アンギュラ玉軸受を使用することが増えている。アンギュラ玉軸受は、ラジアル荷重と一方のアキシアル荷重を負荷することが可能であり、円すいころ軸受よりも低トルクである。
【0003】
トランスミッションにアンギュラ玉軸受を使用する場合、トランスミッションの組み立ておよび分解の作業性を確保するため、一般に、分離型アンギュラ玉軸受が採用される。分離型アンギュラ玉軸受は、内輪または外輪を分離させたときにも、玉が保持器のポケットから抜け落ちないように構成されたアンギュラ玉軸受である。
【0004】
分離型アンギュラ玉軸受として、例えば、特許文献1の内輪分離型アンギュラ玉軸受が知られている。特許文献1の内輪分離型アンギュラ玉軸受は、外輪と、外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、外輪と内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の玉と、複数の玉を保持する保持器とを備えている。内輪の外周には、玉が転がり接触する内輪軌道溝と、内輪軌道溝の軸方向の一方側に隣接する内輪カウンタボア部と、内輪軌道溝の軸方向の他方側に隣接する内輪肩部とが設けられている。内輪カウンタボア部は、内輪軌道溝の溝肩の一部または全部を取り除いた形状をもつ部位である。
【0005】
保持器は、玉に対して軸方向の一方側(内輪カウンタボア部の側)を周方向に延びるカウンタ側環状部と、玉に対して軸方向の他方側(内輪肩部の側)を周方向に延びる反カウンタ側環状部と、玉同士の間を通ってカウンタ側環状部と反カウンタ側環状部を連結する複数の柱部とを有する。カウンタ側環状部と反カウンタ側環状部と柱部は、玉を収容するポケットを区画している。
【0006】
ここで、反カウンタ側環状部の内径は、カウンタ側環状部の内径よりも大きい。また、柱部の内周面は、カウンタ側環状部から反カウンタ側環状部に向かって次第に拡径するテーパ面とされている。そして、ポケットの径方向内側の開口は、内輪を分離させたときにも、玉が保持器のポケットから径方向内側に抜け落ちないように、玉の大きさよりも狭くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-95929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の発明者は、特許文献1の構成の内輪分離型アンギュラ玉軸受をトランスミッションに使用し、その内輪分離型アンギュラ玉軸受を組み付ける作業を行なったところ、外輪と複数の玉と保持器とを一体に保持したもの(以下「外輪アッシー」という)を、内輪の外周に装着するときに装着がしにくく、玉の表面に傷がつくおそれがあることに気付いた。
【0009】
すなわち、内輪分離型アンギュラ玉軸受を対象物に組み付けるに際しては、まず、ハウジング穴に外輪アッシーを嵌め込み、一方、内輪は、軸体の外周に装着する。次に、内輪の外周に外輪アッシーを装着する。ここで、ハウジング穴に外輪アッシーを嵌め込んだとき、外輪アッシーの玉は、保持器のポケットから径方向内側に抜け落ちないように保持器のポケットに保持されているが、その玉はポケットの内部で自由に移動可能である。このとき、玉の自重で、玉がポケットの径方向内側の開口縁で受け止められる位置まで移動すると、玉の内接円径(複数の玉に共通して内接する仮想円の直径)が小さくなり、その後、内輪の外周に外輪アッシーを装着する(相対的には内輪を外輪アッシーに挿入する)ときに、玉が引っ掛かって円滑に径方向外側に移動せず、外輪アッシーの装着がしにくい場合がある。この場合、無理に外輪アッシーを押し込むと、玉の表面に傷がつくおそれがあることが分かった。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、内輪に外輪アッシーを円滑に装着することができ、玉の表面に傷がつきにくい内輪分離型アンギュラ玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の内輪分離型アンギュラ玉軸受を提供する。
外輪と、
前記外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の玉と、
前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、
前記内輪の外周には、前記玉が転がり接触する内輪軌道溝と、前記内輪軌道溝の軸方向の一方側に隣接する内輪カウンタボア部と、前記内輪軌道溝の軸方向の他方側に隣接し、前記内輪カウンタボア部よりも大きい外径をもつ内輪肩部とが設けられ、
前記保持器は、前記玉に対して軸方向の前記一方側を周方向に延び、前記内輪肩部の外径よりも小さい内径をもつカウンタ側環状部と、前記玉に対して軸方向の前記他方側を周方向に延び、前記内輪肩部の外径よりも大きい内径をもつ反カウンタ側環状部と、前記複数の玉同士の間を通って前記カウンタ側環状部と前記反カウンタ側環状部を連結する複数の柱部とを有し、
前記カウンタ側環状部と前記反カウンタ側環状部と前記柱部とで、前記玉を収容するポケットが区画され、
前記ポケットは、前記内輪を分離させたときに前記玉が前記ポケットから径方向内側に抜け落ちない形状を有する内輪分離型アンギュラ玉軸受において、
前記柱部の内周面が、前記カウンタ側環状部から前記反カウンタ側環状部の側に軸方向に延び出すストレート面と、前記ストレート面から反カウンタ側環状部に向かって次第に拡径するテーパ面とを有し、
前記ポケットの径方向内側の開口縁は、径方向に見て前記ストレート面と前記テーパ面の境界位置で前記ポケットの内側に突出する一対の凸縁部を形成し、
前記内輪を分離して前記玉を径方向内側に移動させたときに、前記一対の凸縁部と前記反カウンタ側環状部とで前記玉を受け止めて前記玉の抜け落ちを阻止することを特徴とする、
内輪分離型アンギュラ玉軸受。
【0012】
このようにすると、内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、その玉が、ポケットの径方向内側の開口縁に形成された一対の凸縁部で受け止められるので、玉の内接円径が小さくなるのを抑制することができる。そのため、外輪アッシー(外輪と複数の玉と保持器とを一体に保持したもの)を内輪の外周に装着するときに、円滑に装着することができ、アンギュラ玉軸受の組み付け作業のサイクルタイムを短くすることが可能である。また、短いサイクルタイムでアンギュラ玉軸受の組み付け作業を行なったときにも、玉の表面に傷がつきにくい。
【0013】
前記内輪を分離して前記玉を径方向内側に移動させ、その玉を前記一対の凸縁部と前記反カウンタ側環状部とで受け止めたときに、前記玉に対する前記凸縁部の接触位置と前記玉の中心位置との間の軸方向距離が、玉の直径の10%以下に収まるように前記凸縁部を配置すると好ましい。
【0014】
このようにすると、内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、玉が、玉の軸方向中心かその近傍で凸縁部に受け止められるので、玉の内接円径が小さくなるのを効果的に抑制することが可能となる。
【0015】
前記柱部は、前記玉を前記外輪と前記内輪の間に組み込んだ状態でそれらの玉の中心を共通して通るピッチ円の位置から前記ストレート面までの径方向厚さが、前記玉の直径の30%以上50%以下の範囲となるように形成すると好ましい。
【0016】
柱部のピッチ円の位置からストレート面までの径方向厚さを、玉の直径の30%以上とすると、一対の凸縁部の周方向間隔を特に狭くすることができるので、内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、玉の内接円径が小さくなるのを特に効果的に抑えることが可能となる。
【0017】
前記一対の凸縁部の周方向間隔は、前記玉の直径の65%以下に設定すると好ましい。
【0018】
このようにすると、内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、玉の内接円径が小さくなるのを特に効果的に抑えることが可能となる。
【0019】
前記ポケットの径方向内側の開口縁は、径方向に見て、前記反カウンタ側環状部に向かって開口する半円状の第1縁部と、前記半円状の第1縁部の両端に前記凸縁部が形成されるように前記第1縁部の両端に接続し、前記反カウンタ側環状部に向かって幅が広がる対向一対の第2縁部とを有する構成のものを採用することができる。
【0020】
前記内輪カウンタボア部の外周面は、前記内輪軌道溝から遠ざかるに従って次第に外径が小さくなるテーパ状に形成すると好ましい。
【0021】
このようにすると、内輪の外周に外輪アッシーを装着するときに、内輪カウンタボア部の外周面のテーパによって玉が径方向外側に押し動される。そのため、特に円滑に内輪に外輪アッシーを装着することが可能となり、玉の表面に傷がつきにくい。
【0022】
この場合、前記内輪カウンタボア部の外周面の前記内輪軌道溝から最も遠い部位の外径は、前記内輪を分離して前記玉を径方向内側に移動させ、その玉を前記一対の凸縁部と前記反カウンタ側環状部とで受け止めたときの前記玉の内接円径よりも小さく設定すると好ましい。
【0023】
このようにすると、内輪カウンタボア部の外周面の内輪軌道溝から最も遠い部位の外径が、玉の内接円径よりも小さいので、内輪の外周に外輪アッシーを装着するときに、確実に、内輪カウンタボア部のテーパ状の外周面で、玉を径方向外側に押し動かすことができる。そのため、内輪に外輪アッシーを装着する作業がきわめて円滑となり、玉の表面に傷がつくのを確実に防止することが可能となる。
【0024】
前記カウンタ側環状部と前記反カウンタ側環状部と前記柱部とは樹脂で形成すると好ましい。
【0025】
このようにすると、上記保持器を低コストで製造することが可能となる。
【0026】
上記構成の内輪分離型アンギュラ玉軸受は、自動車のトランスミッションの軸受として使用すると特に好適である。
【発明の効果】
【0027】
この発明の内輪分離型アンギュラ玉軸受は、内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、その玉が、ポケットの径方向内側の開口縁に形成された一対の凸縁部で受け止められるので、玉の内接円径が小さくなるのを抑制することができる。そのため、内輪の外周に外輪アッシーを装着するときに、円滑に装着することができ、アンギュラ玉軸受の組み付け作業のサイクルタイムを短くすることが可能である。また、短いサイクルタイムでアンギュラ玉軸受の組み付け作業を行なったときにも、玉の表面に傷がつきにくい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明の実施形態にかかる内輪分離型アンギュラ玉軸受を示す断面図
図2図1に示すアンギュラ玉軸受の内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、その玉が保持器の一対の凸縁部と反カウンタ側環状部とで受け止められた状態を示す玉と保持器の部分拡大断面図
図3図2に示す玉と保持器を径方向外側から見た図
図4図2に示す玉と保持器を径方向内側から見た図
図5図2に示す玉と保持器を、ピッチ円を含んで軸方向に直交する平面で破断した断面図
図6図1に示すアンギュラ玉軸受の内輪の部分拡大断面図
図7図1に示すアンギュラ玉軸受を2個(第1および第2のアンギュラ玉軸受)用意し、そのうちの第2のアンギュラ玉軸受の外輪アッシーを、ハウジング穴に装着した状態を示す断面図
図8図7に示す状態の後、第1のアンギュラ玉軸受の外輪アッシーをハウジング穴に装着した状態を示す断面図
図9図8に示す状態の後、第1のアンギュラ玉軸受の外輪アッシーを、第1の内輪の外周に装着する過程を示す断面図
図10図9に示す状態の後、第2のアンギュラ玉軸受の外輪アッシーに、第2の内輪を挿入する過程を示す断面図
図11】比較例の内輪分離型アンギュラ玉軸受を示す断面図
図12図11に示すアンギュラ玉軸受の内輪を分離して玉を径方向内側に移動させたときに、その玉が保持器のカウンタ側環状部と反カウンタ側環状部とで受け止められた状態を示す玉と保持器の部分拡大断面図
図13図1に示すアンギュラ玉軸受を組み込んだ自動車のトランスミッションの一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に、この発明の実施形態にかかる内輪分離型アンギュラ玉軸受Aを示す。このアンギュラ玉軸受Aは、外輪1と、外輪1の径方向内側に同軸に配置された内輪2と、外輪1と内輪2の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の玉3と、複数の玉3を保持する保持器4とを有する。
【0030】
外輪1の内周には、玉3が転がり接触する外輪軌道溝5と、外輪軌道溝5の軸方向の一方側(図では左側)に隣接する外輪肩部6と、外輪軌道溝5の軸方向の他方側(図では右側)に隣接する外輪カウンタボア部7とが設けられている。外輪軌道溝5は、外輪1の内周を周方向に延びる断面円弧状の溝である。外輪1は軸受鋼で形成されている。
【0031】
外輪カウンタボア部7は、外輪軌道溝5の溝肩の一部または全部を取り除いた形状をもつ部位である。外輪カウンタボア部7の内径は、外輪肩部6の内径よりも大きい。外輪カウンタボア部7は、外輪軌道溝5の溝底(外輪軌道溝5の内面の直径が最大となる部分)から外輪カウンタボア部7の内周までの径方向高さが玉3の直径Dの2~10%(好ましくは4~8%)の範囲となるように形成されている。玉3の中心から、外輪1の外輪カウンタボア部7の側の側面までの軸方向距離は、玉3の中心から、外輪1の外輪肩部6の側の側面までの軸方向距離よりも短くなっている。また、玉3の中心から、外輪1の外輪カウンタボア部7の側の側面までの軸方向距離は、玉3の半径よりも短い。
【0032】
内輪2の外周には、玉3が転がり接触する内輪軌道溝8と、内輪軌道溝8の軸方向の一方側(図では左側)に隣接する内輪カウンタボア部9と、内輪軌道溝8の軸方向の他方側に隣接する内輪肩部10とが設けられている。内輪軌道溝8は、内輪2の外周を周方向に延びる断面円弧状の溝である。内輪2は軸受鋼で形成されている。
【0033】
内輪カウンタボア部9は、内輪軌道溝8の溝肩の一部または全部を取り除いた形状をもつ部位である。内輪肩部10の外径は、内輪カウンタボア部9の外径よりも大きい。内輪カウンタボア部9の外周面11は、内輪軌道溝8から遠ざかるに従って次第に外径が小さくなるテーパ状に形成されている。内輪カウンタボア部9は、内輪軌道溝8の溝底(内輪軌道溝8の内面の直径が最小となる部分)から、内輪カウンタボア部9の内輪軌道溝8の側の端部外周までの径方向高さが、玉3の直径Dの0~5%(好ましくは1~3%)の範囲となるように形成されている。玉3の中心から、内輪2の内輪カウンタボア部9の側の側面までの軸方向距離は、玉3の半径よりも長い。また、玉3の中心から、内輪2の内輪肩部10の側の側面までの軸方向距離は、玉3の半径よりも長い。玉3は鋼球である。
【0034】
保持器4は、玉3に対して軸方向の一方側(図では左側)を周方向に延びるカウンタ側環状部12と、玉3に対して軸方向の他方側(図では右側)を周方向に延びる反カウンタ側環状部13と、周方向に隣り合う玉3同士の間を通ってカウンタ側環状部12と反カウンタ側環状部13を連結する複数の柱部14とを有する。カウンタ側環状部12と反カウンタ側環状部13と柱部14は、玉3を収容するポケット15を区画している。
【0035】
カウンタ側環状部12と反カウンタ側環状部13と柱部14は、樹脂で継ぎ目の無い一体に形成されている。樹脂としては、ポリアミドを採用することができる。ポリアミドとしては、PA46(ポリアミド46)、PA66(ポリアミド66)、PA9T(ポリノナメチレンテレフタルアミド)等のスーパーエンジニアリングプラスチックを使用することができる。ポリアミドに代えて、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を採用することも可能である。また、保持器4を構成する合成樹脂には、繊維強化材(ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等)が添加されている。PA46、PA66、PPSを採用すると、アンギュラ玉軸受Aを自動車のトランスミッションに使用したときに、保持器4の耐熱性を確保することができる。保持器4は、樹脂の削り加工により形成することも可能であるが、樹脂の射出成形により形成すると低コストである。
【0036】
カウンタ側環状部12および反カウンタ側環状部13は、玉3に嵌合することで、保持器4を位置決めしている。すなわち、カウンタ側環状部12は、周方向に直交する断面において、玉3の表面のうちピッチ円P(外輪1と内輪2の間に複数の玉3を組み込んだ状態でそれらの玉3の中心を共通して通る仮想円)よりも径方向内側の部分に嵌合する円弧形状のポケット内面16を有し、反カウンタ側環状部13は、周方向に直交する断面において、玉3の表面のうちピッチ円Pよりも径方向外側の部分に嵌合する円弧形状のポケット内面17を有する。そして、このカウンタ側環状部12のポケット内面16と、反カウンタ側環状部13のポケット内面17とが玉3に嵌合することで、保持器4が、径方向と軸方向の両方向に位置決めされている。カウンタ側環状部12は、外輪1および内輪2の両方に対して非接触であり、反カウンタ側環状部13も、外輪1および内輪2の両方に対して非接触である。
【0037】
カウンタ側環状部12の内径は、内輪肩部10の外径よりも小さい。反カウンタ側環状部13の外径は、外輪肩部6の内径よりも大きい。反カウンタ側環状部13の内径は、カウンタ側環状部12の外径と同じかそれよりも大きい。
【0038】
図2に示すように、柱部14は、反カウンタ側環状部13からカウンタ側環状部12の側に軸方向に延び出す外径側柱部20と、カウンタ側環状部12から反カウンタ側環状部13の側に軸方向に延び出す内径側柱部21とで構成されている。外径側柱部20は、軸方向(図の左右方向)に直交する断面の大きさが反カウンタ側環状部13の側からカウンタ側環状部12の側に向かって次第に縮小するように形成され、内径側柱部21は、カウンタ側環状部12の側から反カウンタ側環状部13の側に向かって軸方向に直交する断面の大きさが次第に縮小するように形成されている。外径側柱部20と内径側柱部21は、径方向(図の上下方向)に隣接して配置され、樹脂で継ぎ目の無い一体に成形されている。
【0039】
外径側柱部20の外周面22は、反カウンタ側環状部13の側からカウンタ側環状部12の側に向かって次第に縮径するテーパ状に形成されている。外径側柱部20の周方向側面は、ピッチ円Pの位置よりも反カウンタ側環状部13の側の軸方向範囲に形成された凹球面23と、ピッチ円Pの位置よりもカウンタ側環状部12の側の軸方向範囲に形成された凹円筒面24とで構成されている。凹球面23は、ピッチ円Pの位置にある玉3の表面に沿った凹状の球面である。凹円筒面24は、ピッチ円Pの位置にある玉3を中心に軸方向に延びる凹状の円筒面である。凹球面23と凹円筒面24は、ピッチ円Pに対応する軸方向位置で接続している。
【0040】
内径側柱部21の内周面は、カウンタ側環状部12から反カウンタ側環状部13の側に軸方向に延び出すストレート面25と、ストレート面25から反カウンタ側環状部13に向かって次第に拡径するテーパ面26とを有する。ストレート面25は、図では軸方向に沿って内径が変化せず一定の円筒面である。テーパ面26は、図ではカウンタ側環状部12の側から反カウンタ側環状部13の側に向かって内径が一定の割合で拡大する円錐面である。
【0041】
ストレート面25とテーパ面26は、ポケット15の中心位置と同じ軸方向位置かその近傍で角度変化するように形成されている。具体的には、ストレート面25とテーパ面26の境界位置と、ポケット15の中心位置(ピッチ円Pの位置)との間の軸方向距離が、玉3の直径Dの10%以下(好ましくは7%以下、より好ましくは4%以下)に収まるように、ストレート面25とテーパ面26の境界が設定されている。図は、ストレート面25とテーパ面26の境界位置と、ポケット15の中心位置(ピッチ円Pの位置)との間の軸方向距離がゼロの例を示している。
【0042】
内径側柱部21の周方向側面は、ピッチ円Pの位置よりもカウンタ側環状部12の側の軸方向範囲に形成された凹球面27と、ピッチ円Pの位置よりも反カウンタ側環状部13の側の軸方向範囲に形成された凹円筒面28と、凹球面27の径方向外側に隣接して形成された玉導入面29とで構成されている。凹球面27は、ピッチ円Pの位置にある玉3の表面に沿った凹状の球面である。凹円筒面28は、ピッチ円Pの位置にある玉3を中心に軸方向に延びる凹状の円筒面である。凹球面27と凹円筒面28は、ピッチ円Pに対応する軸方向位置で接続している。玉導入面29は、径方向外側からポケット15に玉3を挿入するときに、玉3がポケット15の径方向外側の開口縁に干渉するのを回避するために設けられた凹状の円筒面である。
【0043】
柱部14は、ピッチ円Pの位置からストレート面25までの径方向厚さTが、玉3の直径Dの30%以上50%以下(好ましくは35%以上50%未満、より好ましくは40%以上50%未満)の範囲となるように形成されている。
【0044】
図4に示すように、ポケット15の径方向内側の開口縁は、径方向に見て、反カウンタ側環状部13に向かって開口する半円状の第1縁部31と、第1縁部31の両端に接続し、反カウンタ側環状部13に向かって幅が広がる対向一対の第2縁部32とを有する。第1縁部31は、ストレート面25とポケット15の内面(凹球面27)との交差稜であり、第2縁部32は、テーパ面26とポケット15の内面(凹円筒面28)との交差稜である。
【0045】
ポケット15の径方向内側の開口縁は、径方向に見て、ストレート面25とテーパ面26の境界位置(第1縁部31の両端の位置)でポケット15の内側に突出する一対の凸縁部33を形成している。一対の凸縁部33の周方向間隔Wは、玉3の直径Dよりも小さい。これにより、図2図3図5に示すように、内輪2を分離して玉3をピッチ円Pの位置から径方向内側に移動させたときに、一対の凸縁部33と反カウンタ側環状部13とで玉3が受け止められ、玉3がポケット15から径方向内側に抜け落ちないようになっている。
【0046】
ここで、図4に示すように、一対の凸縁部33の周方向間隔Wは、玉3の直径Dの65%以下(好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下)に設定されている。また、内輪2を分離して玉3をピッチ円Pの位置から径方向内側に移動させ、その玉3を一対の凸縁部33と反カウンタ側環状部13とで受け止めたときに、玉3に対する凸縁部33の接触位置と玉3の中心位置との間の軸方向距離gが、玉3の直径Dの10%以下(好ましくは7%以下、より好ましくは4%以下)に収まるように凸縁部33が配置されている。
【0047】
図6に示すように、内輪カウンタボア部9のテーパ状の外周面11は、軸方向(図の左右方向)に対して、角度θをもって傾斜している。角度θの大きさは、5°以上20°未満の範囲の大きさに設定されている。内輪カウンタボア部9の外周面11の内輪軌道溝8から最も遠い部位の外径Hは、内輪カウンタボア部9の外周面11の内輪軌道溝8の側の端部の外径Iよりも小さい。また、内輪カウンタボア部9の外周面11の内輪軌道溝8から最も遠い部位の外径Hは、図2に示すように、内輪2を分離して玉3をピッチ円Pの位置から径方向内側に移動させ、その玉3を一対の凸縁部33と反カウンタ側環状部13とで受け止めたときの玉3の内接円径F(複数の玉3に共通して内接する仮想円筒の直径)よりも小さい。内輪カウンタボア部9の外周面11の内輪軌道溝8から最も遠い部位の外径Hは、内輪2の内径よりも2mm以上大きい。
【0048】
内輪カウンタボア部9の外周面11と、内輪2の内輪カウンタボア部9の側の側面との交差稜(内輪カウンタボア部9の軸方向外側の角部分)には、軸方向に対して、40°~50°の角度で傾斜する面取り34が設けられている。
【0049】
この実施形態のアンギュラ玉軸受は、例えば、図10に示すように、両方向のアキシアル荷重を受けることができるように、第1のアンギュラ玉軸受Aと第2のアンギュラ玉軸受Bとを組み合わせて使用する。第1のアンギュラ玉軸受Aと第2のアンギュラ玉軸受Bは、全く同一構成のアンギュラ玉軸受であるが、アキシアル荷重を負荷することができる向きが互いに逆向きとなるように装着されている。
【0050】
この第1のアンギュラ玉軸受Aと第2のアンギュラ玉軸受Bを対象物に組み付ける作業の一例を説明する。以下の説明において「第1の」の接頭語を付す部材は、第1のアンギュラ玉軸受Aの構成要素であり、「第2の」の接頭語を付す部材は、第2のアンギュラ玉軸受Bの構成要素である。
【0051】
まず、図7に示すように、対象物に設けられたハウジング穴40に、第2の外輪アッシーB’(外輪1と複数の玉3と保持器4とを一体に保持したもの)を嵌め込む。このとき、第2の外輪アッシーB’は、保持器4の反カウンタ側環状部13が上側、カウンタ側環状部12が下側となる向きでハウジング穴40に挿入する。また、第2の外輪アッシーB’の外輪1は、ハウジング穴40の内周に締め代をもって嵌合させる。
【0052】
次に、図8に示すように、ハウジング穴40の内周に形成された止め輪溝41に止め輪42を装着する。この止め輪42により、第2の外輪アッシーB’の外輪1の位置が固定される。その後、第1の外輪アッシーA’を、ハウジング穴40の第2の外輪アッシーB’よりも下側の部分に嵌め込む。このとき、第1の外輪アッシーA’は、保持器4のカウンタ側環状部12が上側、反カウンタ側環状部13が下側となる向きでハウジング穴40に挿入する。また、第1の外輪アッシーA’の外輪1は、ハウジング穴40の内周に締め代をもって嵌合させる。
【0053】
一方、図9に示すように、軸体43の外周に、第1の内輪2を装着する。このとき、第1の内輪2は、内輪カウンタボア部9が上側、内輪肩部10が下側となる向きで、軸体43の外周に装着する。また、第1の内輪2は、軸体43の外周に締め代をもって嵌合させる。その後、第1の外輪アッシーA’を、第1の内輪2の外周に上側から装着する。この装着により、第1のアンギュラ玉軸受Aは完成した状態となる。
【0054】
その後、図10に示すように、第2の内輪2を、内輪カウンタボア部9が下側、内輪肩部10が上側となる向きで、第2の外輪アッシーB’に上側から挿入する。このとき、第2の内輪2は、軸体43の外周に締め代をもって嵌合させる。これにより、第2のアンギュラ玉軸受Bは完成した状態となる。
【0055】
以上のようにして、第1のアンギュラ玉軸受Aと第2のアンギュラ玉軸受Bを対象物に組み付けることが可能である。
【0056】
ところで、図8に示すように、第1の外輪アッシーA’をハウジング穴40に装着したとき、第1の外輪アッシーA’の玉3は、保持器4のポケット15から径方向内側に抜け落ちないように保持器4のポケット15に保持されているが、その玉3は、第1の外輪アッシーA’の保持器4のポケット15の内部で自由に移動可能である。そして、図8に示すように、第1の外輪アッシーA’の装着の向きが、保持器4のカウンタ側環状部12が上側、反カウンタ側環状部13が下側となる向きであると、玉3の自重で、玉3がポケット15の径方向内側の開口縁で受け止められる位置まで移動し、玉3の内接円径が小さくなる。
【0057】
ここで、図11に示す比較例のように、保持器4の柱部14の内周面44が、カウンタ側環状部12から反カウンタ側環状部13に向かって次第に拡径するテーパ面となっている場合、図12に示すように、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させたときに、カウンタ側環状部12と反カウンタ側環状部13とで玉3が受け止められ、玉3の内接円径Fが相当程度小さくなる。そのため、内輪2の外周に外輪アッシーを装着する(相対的には内輪2を外輪アッシーに挿入する)ときに、玉3が引っ掛かって円滑に径方向外側に移動せず、外輪アッシーの装着がしにくい場合がある。この場合、無理に外輪アッシーを押し込むと、玉3が、例えば、内輪2の内輪カウンタボア部9の軸方向外側の角部分や、外輪肩部6と外輪軌道溝5の境界の角部分などに押し付けられ、玉3の表面に傷がつくおそれがある。
【0058】
これに対し、この実施形態のアンギュラ玉軸受Aにおいては、図2に示すように、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させたときに、その玉3が、ポケット15の径方向内側の開口縁に形成された一対の凸縁部33で受け止められるので、玉3の内接円径Fが小さくなるのを抑制することができる。そのため、図9に示すように、第1の内輪2の外周に第1の外輪アッシーA’を上側から装着する(相対的には第1の内輪2を第1の外輪アッシーA’に下側から挿入する)ときに、玉3が円滑に径方向外側に移動し、第1の外輪アッシーA’の内輪2への装着がしやすく、第1および第2のアンギュラ玉軸受A,Bの組み付け作業のサイクルタイムを短くすることができる。また、玉3が、例えば、第1の内輪2の内輪カウンタボア部9の軸方向外側の角部分や、第1の外輪アッシーA’の外輪肩部6と外輪軌道溝5の境界の角部分に押し付けられる事態が防止され、玉3の表面に傷がつくのを防止することができる。
【0059】
また、このアンギュラ玉軸受Aは、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させ、その玉3を一対の凸縁部33と反カウンタ側環状部13とで受け止めたときに、図4に示すように、玉3に対する凸縁部33の接触位置と玉3の中心位置との間の軸方向距離gが、玉3の直径Dの10%以下(好ましくは7%以下、より好ましくは4%以下)に収まる。すなわち、玉3が、玉3の軸方向中心かその近傍で凸縁部33に受け止められるので、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させたときに、玉3の内接円径Fが小さくなるのを効果的に抑制することが可能となっている。
【0060】
また、このアンギュラ玉軸受Aは、図2に示すように、ピッチ円Pの位置からストレート面25までの径方向厚さTが、玉3の直径Dの30%以上(好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上)となるように柱部14が形成されているので、図4に示す一対の凸縁部33の周方向間隔Wを特に狭くすることが可能である。そのため、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させたときに、玉3の内接円径Fが小さくなるのを特に効果的に抑えることが可能となっている。
【0061】
また、このアンギュラ玉軸受Aは、図2に示すように、一対の凸縁部33の周方向間隔Wを、玉3の直径Dの65%以下(好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下)に設定しているので、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させたときに、玉3の内接円径Fが小さくなるのを特に効果的に抑えることが可能となっている。
【0062】
ここで、図11に示す比較例のように、内輪カウンタボア部9の外周面11を、軸方向に沿って外径が一定の円筒面とした場合、内輪2の外周に外輪アッシーを装着する(相対的には内輪2を外輪アッシーに挿入する)ときに、内輪カウンタボア部9の軸方向外側の角部分が玉3に接触し、玉3が円滑に径方向外側に移動しないことがある。特に、内輪カウンタボア部9の外周面11の外径Hが大きいときにその傾向が高い。
【0063】
これに対し、この実施形態のアンギュラ玉軸受Aは、図6に示すように、内輪カウンタボア部9の外周面11が、内輪軌道溝8から遠ざかるに従って次第に外径が小さくなるテーパ状となっているので、図9に示すように、内輪2の外周に外輪アッシーA’を装着する(相対的には内輪2を外輪アッシーA’に挿入する)ときに、内輪カウンタボア部9の外周面11のテーパによって玉3が径方向外側に押し動される。そのため、特に円滑に内輪2に外輪アッシーA’を装着することが可能となり、短いサイクルタイムで第1および第2のアンギュラ玉軸受A,Bの組み付け作業を行なったときにも、玉3の表面に傷がつきにくい。
【0064】
さらに、このアンギュラ玉軸受Aは、図9に示すように、内輪カウンタボア部9の外周面11の内輪軌道溝8から最も遠い部位の外径Hが、内輪2を分離して玉3を径方向内側に移動させ、その玉3を一対の凸縁部33と反カウンタ側環状部13とで受け止めたときの玉3の内接円径Fよりも小さく設定されているので、内輪2の外周に外輪アッシーA’を装着するときに、確実に、内輪カウンタボア部9のテーパ状の外周面11で、玉3を径方向外側に押し動かすことができる。そのため、内輪2に外輪アッシーA’を装着する作業がきわめて円滑となり、玉3の表面に傷がつくのを確実に防止することが可能となっている。
【0065】
また、このアンギュラ玉軸受Aは、カウンタ側環状部12と反カウンタ側環状部13と柱部14とを樹脂で形成しているので、保持器4を低コストで製造することが可能である。
【0066】
図13に示すように、上記の内輪分離型アンギュラ玉軸受Aは、自動車のトランスミッションの軸受として使用することができる。このトランスミッションは、自動車エンジンの回転を変速して出力し、その変速比を無段階で変化させることが可能な無段階トランスミッションである。
【0067】
トランスミッションは、自動車エンジンのクランクシャフト50に接続されるトルクコンバータ51と、トルクコンバータ51を介して自動車エンジンの回転が入力される入力軸52と、入力軸52と平行に設けられた出力軸53と、入力軸52と一体に回転するように入力軸52の外周に設けられた駆動側V溝プーリ54と、出力軸53と一体に回転するように出力軸53の外周に設けられた従動側V溝プーリ55と、駆動側V溝プーリ54と従動側V溝プーリ55の間に巻き掛けられたVベルト56とを有する。
【0068】
駆動側V溝プーリ54は、入力軸52の外周に固定して設けられた駆動側固定シーブ57と、入力軸52の外周に軸方向に移動可能に設けられた駆動側可動シーブ58と、駆動側可動シーブ58を軸方向に移動させる駆動側シーブアクチュエータ59とを有する。駆動側シーブアクチュエータ59は、駆動側可動シーブ58を軸方向に移動させることで、駆動側固定シーブ57と駆動側可動シーブ58の間隔を変化させ、これにより駆動側V溝プーリ54に対するVベルト56の巻き掛け半径を変化させることが可能となっている。
【0069】
従動側V溝プーリ55は、出力軸53の外周に固定して設けられた従動側固定シーブ60と、出力軸53の外周に軸方向に移動可能に設けられた従動側可動シーブ61と、従動側可動シーブ61を軸方向に移動させる従動側シーブアクチュエータ62とを有する。従動側シーブアクチュエータ62は、従動側可動シーブ61を軸方向に移動させることで、従動側固定シーブ60と従動側可動シーブ61の間隔を変化させ、これにより従動側V溝プーリ55に対するVベルト56の巻き掛け半径を変化させることが可能となっている。
【0070】
出力軸53には、デファレンシャル機構63に回転を出力する出力ギヤ64が固定して設けられている。デファレンシャル機構63は、出力ギヤ64から伝達する回転を、左右一対のドライブシャフト65に分配する差動歯車装置である。
【0071】
入力軸52を回転可能に支持する軸受は、アンギュラ玉軸受Aである。ここで、アンギュラ玉軸受Aは、入力軸52からラジアル荷重を受けるだけでなく、Vベルト56から駆動側固定シーブ57と駆動側可動シーブ58に作用する力の軸方向分力であるアキシアル荷重も受けている。
【0072】
また、出力軸53を回転可能に支持する軸受は、アンギュラ玉軸受Aである。ここで、アンギュラ玉軸受Aは、出力軸53からラジアル荷重を受けるだけでなく、Vベルト56から従動側固定シーブ60と従動側可動シーブ61に作用する力の軸方向分力であるアキシアル荷重も受けている。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 外輪
2 内輪
3 玉
4 保持器
8 内輪軌道溝
9 内輪カウンタボア部
10 内輪肩部
12 カウンタ側環状部
13 反カウンタ側環状部
14 柱部
15 ポケット
25 ストレート面
26 テーパ面
33 凸縁部
D 玉の直径
H 外径
P ピッチ円
T 径方向厚さ
周方向間隔
g 軸方向距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13