(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ゴム補強用アラミド短繊維集束体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/693 20060101AFI20230327BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20230327BHJP
D06M 15/41 20060101ALI20230327BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20230327BHJP
D06M 101/36 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
D06M15/693
D06M15/55
D06M15/41
D06M13/395
D06M101:36
(21)【出願番号】P 2019059834
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰一
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189931(JP,A)
【文献】特開平02-105829(JP,A)
【文献】特開2012-207326(JP,A)
【文献】特開平09-021073(JP,A)
【文献】特開2001-146686(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187364(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム補強用アラミド短繊維集束体であって、繊維表面もしくは繊維骨格内にエポキシ化合物が付着もしくは浸透しており、かつ、
数平均粒子径が100~150nmの範囲にある
スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックスを含有する集束剤が付着していることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維集束体。
【請求項2】
集束剤が、さらに、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物、ブロックドポリイソシアネート化合物及びクロロフェノール化合物を含有する請求項
1に記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
【請求項3】
繊維骨格内にエポキシ化合物が浸透するとともに、繊維表面にもエポキシ化合物が付着しており、かつ、繊維骨格内に浸透したエポキシ化合物量(A)と繊維表面に付着したエポキシ化合物量(B)との比、(B)/(A)が0.5以下である請求項1
または2に記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
【請求項4】
アラミド繊維の水分率を0%に換算したときの繊維質量に対して、繊維骨格内に浸透したエポキシ化合物量が0.1~10.0質量%であり、繊維表面に付着したエポキシ化合物量が0.05~0.5質量%である請求項1~
3いずれかに記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
【請求項5】
集束剤の付着量が、アラミド繊維の水分率を0%に換算したときの繊維質量に対して、2~10質量%である請求項1~
3いずれかに記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
【請求項6】
繊維もしくは繊維骨格内にエポキシ化合物が付着もしくは浸透しており、かつ、水分率が25質量%以上であるアラミド繊維束に、
数平均粒子径が100~150nmの範囲にある
スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックスを含有する集束剤を1回のみ付与した後、乾燥及び熱処理を行い、しかる後、繊維長0.1~10mmにカットすることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維集束体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用アラミド短繊維集束体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びない等の高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維であることから、タイヤ、ベルト、コンベヤ等のゴムに配合され、ゴム補強材として使用されている。
【0003】
しかし、アラミド繊維は表面が不活性であるため、ゴムとの接着力が低く、またゴムに配合するときの分散性が悪いという問題がある。そのため、ゴムに配合するアラミド繊維束に、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(以下、「RFL」と記す)処理をすることが一般的に行われている。
【0004】
タイヤ、ベルト向けのゴム補強材では、タイヤやベルトの使用環境温度の上昇にともない、補強材とゴムとの高温下における接着性(以下、「高温接着性」という)を改善する必要がある。従来ゴムとの高温接着性を改善する技術として、粒子径が小さいラテックスが用いられており、その多くは、撚糸を施した繊維コード表面にエポキシ化合物及びゴム接着剤となるRFLを付着させ、ゴムとの接着性を向上させる方法であった。しかし、繊維束内部にRFL未付着単糸が存在すると、短繊維にカットする際にファイバーボールが形成しやすい。
【0005】
一方、繊維束内部に存在する単糸まで均一にRFLを付着させた後に、規定の長さに切断して得るゴム補強用短繊維では、ラテックス粒子径を小さくするとラテックス粘度が増加し、繊維束内部への浸透性が悪くなるため、RFLを均一に付着させることが困難となる。さらには、繊維束表面に多量のRFLが付着することで工程カスが発生し生産性が低下する等の問題が生じる。
【0006】
特許文献1には、エチレンプロピレン系ゴムにRFL処理を施す際に、平均粒子径0.30μm、最大粒子径0.50μm、0.30μm以下の粒子が96累積%のポリブタジエンゴムラテックスを用いるとポリエステル繊維コードの剥離接着力が向上することが開示されている。特許文献2には、ラテックスを含有する集束剤とワックスを用いるとカット性及びゴム中での分散性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-273880号公報(特許請求の範囲、[0037]等)
【文献】特開2018-111903号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている方法は、繊維束内部への浸透性が悪くゴム練り時の短繊維分散性が悪い、またゴムとの高温接着性の点で課題があり、高温接着が求められるゴム補強用短繊維には適さない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ゴムとの高温接着性が良好で、ゴムに対する分散性が良好なゴム補強用アラミド短繊維集束体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、あらかじめエポキシ化合物を付与した高水分率のアラミド繊維に、数平均粒子径が規定の範囲内にあるラテックスを含有する集束剤を付着させることにより、ゴムとの高温接着性及びゴムに対する分散性が良好なアラミド短繊維集束体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ゴム補強用アラミド短繊維集束体であって、繊維表面もしくは繊維骨格内にエポキシ化合物が付着もしくは浸透しており、かつ、数平均粒子径が100~150nmの範囲にあるスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックスを含有する集束剤が付着していることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維集束体。
(2)集束剤が、さらに、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物、ブロックドポリイソシアネート化合物及びクロロフェノール化合物を含有する前記(1)に記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
(3)繊維骨格内にエポキシ化合物が浸透するとともに、繊維表面にもエポキシ化合物が付着しており、かつ、繊維骨格内に浸透したエポキシ化合物量(A)と繊維表面に付着したエポキシ化合物量(B)との比、(B)/(A)が0.5以下である前記(1)または(2)に記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
(4)アラミド繊維の水分率を0%に換算したときの繊維質量に対して、繊維骨格内に浸透したエポキシ化合物量が0.1~10.0質量%であり、繊維表面に付着したエポキシ化合物量が0.05~0.5質量%である前記(1)~(3)いずれかに記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
(5)集束剤の付着量が、アラミド繊維の水分率を0%に換算したときの繊維質量に対して、2~10質量%である前記(1)~(3)いずれかに記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体。
(6)繊維表面もしくは繊維骨格内にエポキシ化合物が付着もしくは浸透しており、かつ、水分率が25質量%以上であるアラミド繊維束に、数平均粒子径が100~150nmの範囲にあるスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックスを含有する集束剤を1回のみ付与した後、乾燥及び熱処理を行い、しかる後、繊維長0.1~10mmにカットすることを特徴とするゴム補強用アラミド短繊維集束体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴムとの高温接着性及びゴムに対する分散性に優れるゴム補強用アラミド短繊維集束体を提供できる。
従来法では、接着剤を付着させるための集束剤の付着処理は複数回必要であったが、本発明によれば、集束剤の付着処理が1回で済むため、過剰な集束剤の付着を無くすことができ、繊維束表面に多量のRFLが付着することで生じる工程カスの問題を解消できる。特にクロロプレンゴムを用いたベルトにおける短繊維での補強に好適なゴム補強用アラミド短繊維集束体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維集束体は、アラミド繊維の表面もしくは繊維骨格内にエポキシ化合物を付与したアラミド繊維であって、繊維水分率が25質量%以上の状態にあるアラミド繊維束に、数平均粒子径が規定の範囲内にあるラテックスを含有する集束剤を付着させた後、カットしたものである。
【0014】
[アラミド繊維束]
本発明において、アラミド繊維としては、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていても良い二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維、またはアラミド繊維と称されるものであって良い。「置換されていても良い二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していても良い二価の芳香族基を意味する。
【0015】
アラミド繊維としては、公知のものから適宜選択して用いることができるが、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。アラミド繊維は市販品として入手でき、その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン(株)製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等が挙げられる。これらのパラ系アラミド繊維の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【0016】
本発明において、アラミド繊維としては、あらかじめ繊維の表面にエポキシ化合物を付着させたアラミド繊維、または、あらかじめ繊維骨格内にエポキシ化合物を浸透させたアラミド繊維が用いられる。あらかじめエポキシ化合物が付与されたアラミド繊維は、集束剤が含有するラテックスの接着性を向上させる機能を有している。
【0017】
あらかじめエポキシ化合物を付着させたアラミド繊維は、エポキシ化合物を常法によりアラミド繊維に付着させる方法により得られる。エポキシ化合物の付着量は、アラミド繊維の水分率を0%に換算した繊維質量に対して、0.05~0.5質量%が好ましく、0.15~0.25質量%がさらに好ましい。
【0018】
あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド繊維は、特開2012-207326号公報に記載された方法等により得られる。エポキシ化合物の浸透量(A)は、アラミド繊維の水分率を0%に換算した繊維質量に対して、0.1~10.0質量%が好ましく、0.25~2.0質量%がさらに好ましい。
具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解した18~20質量%の粘調な溶液を紡糸口金から吐出し、水洗中和処理した原糸を、100~160℃で好ましくは5~20秒間乾燥した、水分率15~200質量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維にエポキシ化合物を付与する方法が挙げられる。水分率が15質量%未満では、エポキシ化合物を均一に繊維骨格内に浸透させることが困難となる。一方、水分率が200質量%を超えると、浸透させたエポキシ化合物が巻き取り工程までにガイド等に接触した際に水分と共に脱落するおそれがあり、また繊維の巻き取り工程が難しくなる。前記水分率は、15~100質量%がさらに好ましい。エポキシ化合物を繊維骨格内に均一に浸透させるためには、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維は、紡出後、水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないことが好ましい。
【0019】
上記工程では、エポキシ化合物が繊維骨格内に浸透するとともに、繊維表面にもエポキシ化合物が付着する。このときのエポキシ化合物の表面付着量(B)は、アラミド繊維の水分率を0%に換算した繊維質量に対して、0.05~0.5質量%が好ましく、0.15~0.25質量%がさらに好ましい。
【0020】
上記の繊維骨格内に浸透したエポキシ化合物量(A)と、上記の繊維表面に付着したエポキシ化合物量(B)との比、(B)/(A)は0.5以下であることが好ましい。エポキシ化合物がこのような状態で存在するアラミド繊維は、ラテックスの種類による影響を受け難く、ラテックスを含有する集束剤を均一に付着させるために特殊な前処理工程を設ける必要がなく、集束剤がより均一に付与されたアラミド短繊維集束体を得ることができる。一方、前記の(B)/(A)が0.5を超えると、短繊維ダマ及びカスの発生が顕著になる。
【0021】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維集束体では、ラテックスを含有する集束剤を付着させる際のアラミド繊維の水分率は、25質量%以上であることが好ましく、25~70質量%がさらに好ましく、25~50質量%が特に好ましい。アラミド繊維の水分率が25質量%以上の場合は、繊維表面に該集束剤が馴染みやすく、より均一に付着し易い。さらに、水分率が70質量%以下の状態で前記集束剤を付与すれば、集束剤を付着させた後、乾燥、熱処理工程でガイド等に接触した際に、ラテックスが水分と共に脱落することを防止できる。
【0022】
エポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド繊維は、上記の水分量を保持した状態で、巻き取り工程でボビンに巻き取り、ラテックスを含有する集束剤を付与するまで、未加熱状態で水分率を25~70質量%に保持することが好ましく、必要に応じてエージング処理を行っても良い。
【0023】
アラミド繊維骨格内へのエポキシ化合物をより均一に浸透させるために、エポキシ化合物を水や溶剤等で希釈して付与しても良い。あるいは、アラミド繊維に一般的に用いられる油剤とともに付与しても良く、具体的な油剤としては、例えば、炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテル、鉱物油等が挙げられる。アラミド繊維骨格内にエポキシ化合物を浸透させる方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0024】
集束体を構成するアラミド短繊維集束体の単糸本数は、100本~3,000本であることが好ましく、500本~2,500本であることがさらに好ましい。単糸本数が100本以上あれば、集束剤による浸漬処理を施す際に断糸する恐れがなく、一方、単糸本数が3,000本以下であれば、単糸が重なり合い集束剤の付着が著しく損なわれることがない。
【0025】
繊維束を構成するアラミド繊維の単糸繊度は特に限定されないが、好ましくは0.5~10dtex、さらに好ましくは1~5dtexの範囲である。0.5dtex以上であれば、製糸技術上の困難性を伴うことがなくゴム物性を改良することができ、また、10dtex以下であれば短繊維集束体を均一にゴム中へ分散させることができる。
【0026】
[エポキシ化合物]
本発明において、エポキシ化合物としては、脂肪族エポキシ化合物、芳香環を有するエポキシ化合物のいずれでもよく、これらを併用しても良いが、アラミド繊維に対する浸透・含浸性に優れる点より、脂肪族エポキシ化合物が好ましい。
【0027】
脂肪族エポキシ化合物は、公知のものから適宜選択して用いることができるが、本発明では、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロール等の3価以上の多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種、または2種以上の混合物が好ましい。
脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。前記のエポキシ化合物の中でも、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0028】
必要に応じて、エポキシ化合物と共に硬化剤を用いても良い。硬化剤としては、アミン化合物が好ましく、三級アミン化合物が特に好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミン等が挙げられる。
【0029】
[集束剤]
本発明の集束剤で用いるラテックスとしては、公知のものから適宜選択して用いれば良く、その具体例としては、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレン重合体ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレン重合体ラテックス、ブタジエン重合体ラテックス、アクリレート系ラテックス、及び天然ゴムラテックス等が挙げられる。これらのラテックスは、単独で、または2種以上併用して用いることができる。その中でも、アラミド短繊維の集束性、ゴム中での分散性、アラミド短繊維とゴムとの耐熱接着性に優れている点より、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックスが最適である。
【0030】
ラテックスとしては、数平均粒子径が100~150nmの範囲にあるものを用いる。数平均粒子径が100nm未満の場合は、ラテックス粘度が増大することでアラミド繊維束内部にラテックス未付着糸が生じ、繊維表面に多量のラテックスが付着することで短繊維カット時にファイバーボールが形成し易くなる。短繊維集束体とゴムとの混練時にダマが生じ、高温に暴露された場合の短繊維とゴムとの耐熱接着性も低下する。一方、数平均粒子径が150nmを超える場合は、アラミド繊維束内部へのラテックス粒子の浸透性が低下し、ラテックス未付着単糸が生じ易くなることで、ゴムとの耐熱接着性が低下する。なお、本発明でいう数平均粒子径は、電子顕微鏡法によって測定された粒子径の数平均を言う。
【0031】
本発明の集束剤は、ラテックスを、集束剤の全固形分の20質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがさらに好ましい。含有量が少なすぎると、ラテックスの数平均粒子径を規定したことによる効果が充分に得られないことがある。
【0032】
本発明の集束剤では、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物を含有するのが良い。ここで、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物とは、アルカリ触媒または酸触媒の存在下で、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたものである。レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物としては、公知のものを用いることができ、また市販品(例えば、住友化学(株)製の「スミカノール700S」等)を用いることもできる。
【0033】
上記のレゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物とラテックスとを混合熟成したものが、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)である。
【0034】
本発明の集束剤は、ブロックドポリイソシアネート化合物、クロロフェノール化合物を含有することができ、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含有することができる。これらの化合物は1種または2種以上を用いることができる。
ブロックドポリイソシアネートは、ポリイソシアネート化合物とブロック化剤との付加物であり、加熱によりブロック化剤成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生じる化合物である。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のポリイソシアネート、あるいは、これらのポリイソシアネートと活性水素原子を2個以上有する化合物、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とをイソシアネート基(-NCO)とヒドロキシル基(-OH)の比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基含有のポリオールアダクトポリイソシアネート等が挙げられる。なかでも、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートが好ましい。ブロック化剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン等のフェノール類、ε-カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、エチレンイミン等が挙げられる。その他、2,4-トルエンジイソシアネート2量体のように、ポリイソシアネート化合物自体がブロック化剤を兼ねている化合物等が挙げられる。
クロロフェノール化合物は、パラクロロフェノールとレゾルシンとホルムアルデヒドの共縮合物である。具体例としては、2,6-ビス(2´,4-ジヒドロキシ-フェニルメチル)4-クロロフェノール(トーマスワン社製「カサボンド」、ナガセ化成工業(株)製「デナボンド」等)が挙げられる。なかでも、接着性の点から、ベンゼン核を3以上有するクロロフェノール化合物を主成分とするものが好ましい。
【0035】
ラテックスを含有する集束剤をアラミド繊維に付着させる方法は、公知の方法であって良い。例えば、集束剤の水溶液にアラミド繊維束を浸漬させる方法、走行するアラミド繊維束に集束剤の溶液を付与した駆動ローラーを接触させる方法等が挙げられる。繊維束内部への浸透性に優れている点より、浸漬法が好ましい。
【0036】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維集束体における集束剤の付着量は、アラミド繊維の水分率を0%に換算したときの繊維質量に対して、1~20質量%が好ましい。集束剤の付着量が1質量%以上であれば、短繊維集束体を構成する単糸にまでラテックスを付与することが可能であり、20質量%以下であれば、繊維表面に形成する被膜が厚くなりすぎることなく繊維集束体の内部まで集束剤を付与することが可能である。集束剤の付着量は2~15質量%がさらに好ましく、3~10質量%が特に好ましい。
【0037】
そして、ラテックスを含有する集束剤を付着させたアラミド繊維束を、加熱ロール、ヒーター、スチーム等の公知の方法にて、適宜な温度及び時間、加熱乾燥してアラミド繊維集束体を得る。
【0038】
その後、公知のギロチン式カッターやロータリー式カッターを用いて、公知の方法で繊維長0.1mm~10mmにカットすることにより、ゴム補強用アラミド短繊維集束体を得る。繊維長は、1mm~10mmがさらに好ましく、1mm~5mmが特に好ましい。繊維長が0.1mm以上であれば、ゴムに対する短繊維の補強効果が発揮され、繊維長が10mm以下であれば、短繊維集束体とゴムとの混合時に短繊維同士の絡み合いが生じることがなく、ミキサー内での剪断により短繊維が切断し、短繊維のファイバーボールが形成される等の現象が生じ難く、ゴム中での分散性良好である。
【0039】
本発明では、ラテックスを含有する集束剤を付着させる処理回数は1回が良い。2回以上の処理を行うと集束剤が繊維束表面のみに付着しカスの原因になり易い。
【0040】
本発明のゴム補強用アラミド短繊維集束体は、一般的なRFL処理による接着法に比べて、RFLが単糸1本1本に付与されていることから、ゴム練り中に均一に単糸が分散される。また、当該アラミド短繊維集束体により補強されたゴムの弾性率の改善や短繊維の配向性改善も見込まれるため、各種動力伝達用ベルト、タイヤ(サイドウォール部材、トレッド部材等)、ゴムホース、ゴムシート等の各種ゴム製品の補強材として用いることができる。ゴムの種類は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」、「質量部」は「部」と略記する。なお、実施例中に記載のゴム補強用アラミド短繊維集束体の評価方法は以下の通りである。
【0042】
(1)アラミド繊維水分率
約5gの試料の質量(乾燥前質量)を測定する。次いで、300℃×20分熱処理した後、25℃、65%RHで5分間放置し、再度質量(乾燥後質量)を測定する。
水分率(質量%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)/(乾燥後質量)]×100
【0043】
(2)エポキシ化合物付着量
総付着量は加熱減量法により、表面付着量は溶媒抽出法により測定した。総付着量と表面付着量の差を繊維骨格内浸透量とした。
【0044】
(3)ゴム接着性
JIS L 1017の接着力-A法に準じて、集束剤処理コードを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で150℃、30分プレス加硫を行った後、放冷した。その後、前記コードをゴムブロックから30cm/minの速度で引き抜くことにより、引き抜き荷重(N/cm)を測定した。接着評価におけるゴムコンパウンドとしては、クロロプレン未加硫ゴムを使用した。
【0045】
(4)老化後ゴム接着性
ゴム接着性評価と同様、集束剤処理コードをクロロプレン未加硫ゴムに埋め込み、加圧下でプレス加硫を行った後、放冷した。その後、120℃×1week条件にて加熱処理を行い、温度25℃、湿度55%RHで24時間放置した後、前記コードをゴムブロックから30cm/minの速度で引き抜くことにより、老化後の引き抜き荷重(N/cm)を測定した。
【0046】
(5)ダマ発生率
目開き2mm×2mmのふるいに200gの短繊維を投入し、短繊維がふるいを通過しなくなるまで十分な時間ふるいに掛けた後、通過しなかった短繊維をダマとして発生率を算出した。
発生率(%)=(ダマ量/投入量)×100
【0047】
(6)工程カス
乾燥熱処理後の繊維を2,000m走行させた際にカスが発生するか否かで判断した。
【0048】
(実施例1)
公知の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、脱水処理をして、110℃で低温乾燥を行い、水分率を50%に調整した。
このPPTA繊維に、エポキシ化合物として、ソルビトールポリグリシジルエーテルを50質量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0%に換算したときの繊維質量に対し1.0%付与した後、巻き取り工程でボビンに巻き取った。
【0049】
別途、水酸化ナトリウムの存在下でスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックス(数平均粒子径;140nm)100部(固形分)に対し、水酸化ナトリウムの存在下で予めレゾルシンとホルムアルデヒドをモル比で、レゾルシン/ホルムアルデヒド=3/1の割合で反応させた初期縮合物を、15部(固形分)混合、熟成させて、(C)液を調製した。調製した(C)液に、ブロックドイソシアネート化合物として、ジフェニルメタン-ビス-4,4´-メチルエチルケトンオキシカルバメートの水系分散体を、(C)液との質量比(固形分)が5:1になるように混合しRFL処理液を調製した。
【0050】
得られたPPTA繊維(水分率0%換算時の繊度1,670dtex、フィラメント数1,000)を、上記のRFL処理液からなる集束剤に含浸させ、RFLを、PPTA繊維質量に対し表1記載の固形分付着量となるよう付着させた。なお、集束剤に含浸させる直前のPPTA繊維の水分率は50%であった。その後、250℃で2分間、乾燥、熱処理を行った。得られたPPTA繊維を公知の方法により3.5mmにカットし短繊維集束体を得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1で得たPPTA繊維であって水分率10%のPPTA繊維に、ディップ浴で、実施例1と同じソルビトールポリグリシジルエーテルを付与した。該ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を、実施例1と同様の方法で集束剤に含浸させRFLを付着させた後、実施例1と同様の方法で短繊維集束体を得た。
【0052】
(比較例2)
実施例1において、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックス(数平均粒子径;172nm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で短繊維集束体を得た。
【0053】
(比較例3)
実施例1において、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン共重合体ラテックス(数平均粒子径;90nm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で短繊維集束体を得た。
【0054】
上記で得られた短繊維集束体の評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1の結果から、実施例1で得られたアラミド短繊維集束体は、ゴムとの接着性及び高温接着性ならびにゴム中での分散性が良好であった。RFLが内部まで均一付与されているため、工程カス発生の問題も生じていない。これに対し、比較例1~3で得られたアラミド短繊維集束体は、ゴムとの耐熱接着性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアラミド短繊維集束体は、各種ゴムの補強材として有用である。