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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20230327BHJP
   F16K 15/04 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F16K15/04 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019063511
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165447
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】小西 一平
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-077465(JP,A)
【文献】特開2018-040399(JP,A)
【文献】特開2009-014167(JP,A)
【文献】特開2012-127436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F16K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口し他端が閉じた筒状のシリンダ(9)と、前記シリンダ(9)の内周で軸方向に摺動可能に支持され前記シリンダ(9)内への挿入端が開口し前記シリンダ(9)からの突出端が閉塞した筒状のプランジャ(10)と、前記プランジャ(10)を前記シリンダ(9)の一端から突出する方向に付勢するリターンスプリング(33)と、前記プランジャ(10)の軸方向移動に伴って容積が変化するように前記シリンダ(9)内に形成された圧力室(18)と、前記プランジャ(10)内に形成されたリザーバ室(27)と、前記リザーバ室(27)から前記圧力室(18)へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブ(20)と、前記プランジャ(10)の外周(15)と前記シリンダ(9)の内周(14)との間のリーク隙間(19)と、前記リーク隙間(19)と前記プランジャ(10)の内部とを連通する連通路(30)と、前記シリンダ(9)の外側と内側とを結ぶ給油通路(31)とを備え、
前記チェックバルブ(20)は、前記リザーバ室(27)と前記圧力室(18)とを結ぶ弁孔(21a)が形成されたバルブシート(21)と、前記弁孔(21a)を開閉弁する弁体(25)と、前記弁体(25)の移動範囲を規制するリテーナ(26)を有し、
前記リテーナ(26)は、前記弁体(25)が前記圧力室(18)側へ離脱することを防止する保持部(26a)と、その保持部(26a)を前記バルブシート(21)に支持する裾部(26b)とを有し、
前記裾部(26b)の外径(d)が、前記バルブシート(21)を取り付ける前記プランジャ(10)の他端(10c)側の段部(10a)の内径(d)よりも大きく、
なおかつ、前記裾部(26b)の外径(d )側の突出部(26d)が前記プランジャ(10)の他端(10c)に引っ掛かるチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記裾部(26b)の外径(d)を、前記シリンダ(9)の内径(d)以下とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記裾部(26b)の外径(d)を、前記プランジャ(10)の外径(d)以下とする請求項1又は2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記チェックバルブ(20)はプランジャ(10)に対して圧入固定された、請求項1から3のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記リテーナ(26)の裾部(26b)は金属材料からなる、請求項1から4のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記プランジャ(10)を前記シリンダ(9)の一端から突出する方向に付勢するリターンスプリング(33)を備え、前記リターンスプリング(33)は、前記プランジャ(10)側を小径側とするテーパ状のコイルスプリングである請求項1から5のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記リターンスプリング(33)の一端側は、前記裾部(26b)に当接する請求項6に記載のチェーンテンショナ。
【請求項8】
前記給油通路(31)よりも一端側における前記プランジャ(10)の外周(15)と前記シリンダ(9)の内周(14)との間にシールリング(50)を備える請求項1から7のいずれかに記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンの張力保持に用いられるチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンに使用されるチェーン伝動装置として、例えば、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するものや、クランクシャフトの回転をオイルポンプ等の補機に伝達するものや、クランクシャフトの回転をバランサシャフトに伝達するものや、あるいは、ツインカムエンジンの吸気カムと排気カムを互いに連結するもの等がある。これらのチェーン伝動装置のチェーンの張力を適正範囲に保つために、チェーンテンショナが使用される。
【0003】
チェーンテンショナは、一般的に、エンジンからのオイル供給により油圧ダンパを発生させて、チェーンの張力の変動を一定に保っている。しかし、エンジン停止時はオイル供給が止まっているため、エンジン始動後、チェーンテンショナ内部の圧力室にオイルが充填されるまでの間は、所定の油圧ダンパを発生させることができない場合がある。このような場合、チェーンテンショナが大きく押し込まれて、チェーンのばたつきや異音が発生するという問題がある。そこで、多くのチェーンテンショナでは、ノーバック機構と呼ばれる機構を備え、プランジャが一定量を超えて押し込まれないようにしている。
【0004】
また、チェーンテンショナ内部でオイルを循環することで、チェーンテンショナの外部へのオイルの流出を抑制するとともに、そのオイルをチェーンテンショナ内部に貯留させることで、エンジン始動直後から油圧ダンパを発生できるようにしたチェーンテンショナもある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
例えば、図6(a)に示すチェーンテンショナ60は、一端が開口し他端が閉じた筒状のシリンダ9と、そのシリンダ9の内周で軸方向へ摺動可能に支持された筒状のプランジャ10と、そのプランジャ10をシリンダ9から一端側へ突出する方向に付勢するリターンスプリング33と、プランジャ10の内部に形成されたリザーバ室27と、シリンダ9内においてプランジャ10の他端側に形成されプランジャ10の軸方向移動に伴って容積が変化する圧力室18と、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端に設けられリザーバ室27から圧力室18へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブ20と、を備えている。
【0006】
シリンダ9は、エンジンのオイルポンプ等によって供給されるオイルを、内側に導入する給油通路31を有し、その給油通路31が、プランジャ10の外周とシリンダ9の内周との間に形成されたオイル供給空間28に開口している。プランジャ10の外周とシリンダ9の内周の間にはリーク隙間19が形成されている。リーク隙間19は微小な隙間で構成され、圧力室18からオイル供給空間28を経てシリンダ9の一端の開口に至っている。また、リーク隙間19及びオイル供給空間28とリザーバ室27とは連通路30で連通している。さらに、プランジャ10をチェーンのバタつきに追従させるため、プランジャ10に推力を付与するリターンスプリング33を設けている。
【0007】
エンジン作動中にチェーンの張力が大きくなると、そのチェーンの張力によって、プランジャ10がシリンダ9内の他端側に押し込まれる方向(以下、「押し込み方向」と称する)に移動し、チェーンの緊張を吸収する。このとき、圧力室18側の圧力増大によってチェックバルブ20は閉じられ、オイルは、圧力室18からリーク隙間19を通ってオイル供給空間28側へ流出する。このリーク隙間19を通るオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生し、チェーンのバタつきを防止する。
【0008】
また、圧力室内のオイルが流出しテンショナのダンパ性能が損失することを避ける為、圧力室の給油口にチェックバルブと呼ばれる逆止弁を設置したテンショナもある(例えば、特許文献2)。
【0009】
図6(a)に示すチェーンテンショナ60では、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端に、プランジャ10の内部から圧力室18側へのオイルの流れのみを許容し、圧力室18からプランジャ10の内部へのオイルの流れを規制するチェックバルブ20が設けられている。チェックバルブ20は、バルブシート21と、チェックボール25と、リテーナ26とを有している。バルブシート21は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端に設けられている。バルブシート21には、軸方向に貫通する弁孔21aが設けられている。チェックボール25は、弁孔21aを圧力室18の側から開閉する球状の弁体である。リテーナ26は、弁体25の移動範囲を規制する。リテーナ26内に設けたスプリング26cが、弁体25を弁孔21aに押し付けることで、オイルの流れを規制している。
【0010】
このチェックバルブ20は、リテーナ26に囲まれたチェックボール25が、バルブシート21よりもシリンダ9の底部13方向に向いている。圧力室18に仕込まれたリターンスプリング33が、他端をシリンダ9の底部13で支持され、一端がプランジャ10を押圧し、その押圧によってプランジャ10をシリンダ9からの突出方向(以下、「突出方向」と称する)に付勢する。リターンスプリング33の一端は、具体的にはプランジャ10の挿入端に取り付けられたチェックバルブ20のリテーナ26やバルブシート21を押圧するように配置する実施形態も取りうる。図6(a)ではリターンスプリング33がリテーナ26を押圧するように配された例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-183767号公報
【文献】特許第5848269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、チェーンテンショナの組立工程で、チェックバルブをプランジャに挿入または圧入し組み付ける際、正しい向きと逆向きに組むことが出来てしまう。すなわち、図6(b)に示すように、リテーナ26に囲まれたチェックボール25が、弁孔21aよりもプランジャ10の内部を向いた配置である。このようなヒューマンエラーによる誤組が内部でされていても、見かけ上はチェーンテンショナとして部品を過不足なく備えた製品が完成してしまう。
【0013】
だが、このような誤組み品は、チェックバルブ20が規制するオイルの流れの向きが逆向きとなるため、正常なダンパ特性を得ることができず、チェーンテンショナの機能が著しく損なわれる。このような誤組み品を実機エンジンに使用してしまうと、エンジンの異音や破損に繋がる可能性がある。
【0014】
そこでこの発明が解決しようとする課題は、チェックバルブを誤った向きに組む事態を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、この発明は、一端が開口し他端が閉じた筒状のシリンダと、前記シリンダの内周で軸方向に摺動可能に支持され前記シリンダ内への挿入端が開口し前記シリンダからの突出端が閉塞した筒状のプランジャと、前記プランジャを前記シリンダの一端から突出する方向に付勢するリターンスプリングと、前記プランジャの軸方向移動に伴って容積が変化するように前記シリンダ内に形成された圧力室と、前記プランジャ内に形成されたリザーバ室と、前記リザーバ室から前記圧力室へのオイルの流れのみを許容するチェックバルブと、前記プランジャの外周と前記シリンダの内周との間のリーク隙間と、前記リーク隙間と前記プランジャの内部とを連通する連通路と、前記シリンダの外側と内側とを結ぶ給油通路とを備え、
前記チェックバルブは、前記リザーバ室と前記圧力室とを結ぶ弁孔が形成されたバルブシートと、前記弁孔を開閉弁する弁体と、前記弁体の移動範囲を規制するリテーナを有し、
前記リテーナは、前記弁体が前記圧力室側へ離脱することを防止する保持部と、その保持部を前記バルブシートに支持する裾部とを有し、
前記裾部の外径が、前記バルブシートを取り付ける前記プランジャの他端側の段部の内径よりも大きいチェーンテンショナを採用した。
【0016】
前記裾部の外径を、前記バルブシートを取り付ける前記プランジャの前記段部の内径よりも大きくすることで、前記プランジャの前記段部に前記チェックバルブを取り付ける際に、逆向きに取り付けようとしても、裾部が前記プランジャの前記段部の入口と干渉して、前記バルブシートを含む前記チェックバルブを前記段部に格納できない。これにより、組み立て方を誤ったことがすぐにわかるようになる。
【0017】
また、前記裾部の外径を、前記プランジャの外径以下とする構成を採用することができる。
【0018】
さらに、前記裾部の外径を、前記シリンダの内径以下とする構成を採用することができる。
【0019】
さらに、前記チェックバルブはプランジャに対して圧入固定された構成を採用することができる。
【0020】
さらに、前記リテーナの裾部は金属材料からなる構成を採用することが出来る。
【0021】
また、これらの各態様において、前記プランジャを前記シリンダの一端から突出する方向に付勢するリターンスプリングを備え、前記リターンスプリングは、前記プランジャ側を小径側とするテーパ状のコイルスプリングである構成を採用することができる。
【0022】
さらに、前記リターンスプリングの一端側は、前記裾部に当接する構成を採用することができる。
【0023】
さらに、前記給油通路よりも一端側における前記プランジャの外周と前記シリンダの内周との間にシールリングを備える構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明は、チェーンテンショナにチェックバルブを誤った向きに組み込むことを抑止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】チェーンテンショナを組み込んだチェーン伝動装置を示す全体図
図2】(a)は図1のチェーンテンショナの右側面図、(b)はその背面図
図3】(a)は、この発明の実施形態のチェーンテンショナを示す縦断面図、(b)チェックバルブ付近の拡大図
図4】この発明で用いるチェックバルブのみの縦断面図
図5】(a)組み立て時にプランジャに対して間違った方向にチェックバルブを組み込もうとする際の縦断面図、(b)リテーナの突出部がプランジャの他端に引っ掛かり誤組を防止する際の縦断面図
図6】(a)比較例のチェーンテンショナを示す縦断面図、(b)比較例のチェーンテンショナでチェックバルブを逆に組み込んだ際の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に、この発明の実施形態のチェーンテンショナ1を組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランクシャフト2に固定されたスプロケット3と、2本のカムシャフト4にそれぞれ固定されたスプロケット5とがチェーン6を介して連結されており、そのチェーン6がクランクシャフト2の回転をカムシャフト4に伝達し、そのカムシャフト4の回転により燃焼室のバルブの開閉を行なう。
【0027】
エンジンが作動しているときのクランクシャフト2の回転方向は一定(図1では右回転)であり、このときチェーン6は、クランクシャフト2の回転に伴ってスプロケット3に引き込まれる側(図1の右側)の部分が張り側となり、スプロケット3から送り出される側(図1の左側)の部分が弛み側となる。そして、チェーン6の弛み側の部分には、支点軸7を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド8が接触している。チェーンテンショナ1は、チェーンガイド8を介してチェーン6を押圧している。
【0028】
図2及び図3に示すように、チェーンテンショナ1は、一端が開口し、他端が閉じた筒状のシリンダ9と、シリンダ9の内周で軸方向に摺動可能に支持されたプランジャ10とを備えている。シリンダ9の一端から突出するプランジャ10の突出端17は、チェーンガイド8を押圧している。
【0029】
シリンダ9は、金属(例えば、アルミ合金)で一体成形されている。シリンダ9は、シリンダ9の外周に一体に形成された複数の取付片11の孔11a(図2(a)(b)参照)に挿通されたボルト12を締め込むことによって、シリンダブロック等のエンジン壁面に固定されている。チェーンテンショナ1をエンジン壁面に取り付ける場合、その仕様によって、チェーンテンショナ1を水平状態に設定したり、あるいは、プランジャ10の突出方向が斜め下向きになるように設定される場合もある。
【0030】
プランジャ10は、その他端のシリンダ9内への挿入端が開口し、一端のシリンダ9からの突出端17が閉塞する筒状に形成されている。プランジャ10の材質は、鉄系材料(例えば、SCM(クロームモリブデンン鋼)やSCr(クローム鋼)等の鋼材)である。
【0031】
シリンダ9内の他端には、プランジャ10の軸方向移動に伴ってその容積が変化する圧力室18が形成されている。圧力室18の容積は、プランジャ10が突出方向に移動したときに拡大し、プランジャ10が押し込み方向に移動したときに縮小する。
【0032】
プランジャ10のシリンダ9内への挿入端には、プランジャ10の内部から圧力室18側へのオイルの流れのみを許容し、圧力室18からプランジャ10の内部へのオイルの流れを規制するチェックバルブ20が設けられている。チェックバルブ20は、プランジャ10の他端10c側に設けた段部10aに格納される。格納時の形態としては、圧入固定された形態が挙げられる。段部10aの内周面10bの内径は、プランジャ10の内部の内周48よりも大きく、段部10aを形成している。
【0033】
ここで、プランジャ10の内部は、チェックバルブ20の弁孔21aの径よりも大径のリザーバ室27となっている。チェックバルブ20のバルブシート21はリザーバ室27の他端に取り付けられている。バルブシート21は円柱又は円盤状を成し、バルブシート21に備えられる弁孔21aは、そのバルブシート21の軸心に一端側と他端側を貫通するように形成されている。弁体25が弁孔21aから他端側へ離脱している場合には、その弁孔21aを通じて、圧力室18とリザーバ室27とが連通する。
【0034】
プランジャ10の外周15とシリンダ9の内周14との間には、圧力室18内から圧力室18外へオイルをリークさせるリーク隙間19が設けられている。リーク隙間19の大きさは、例えば、シリンダ9の内周14の内径dとプランジャ10の外周15の外径dとの半径差(d-d)/2で、0.005~0.100mmの範囲に設定することができる。
【0035】
また、プランジャ10の外周15とシリンダ9の内周14の間には、リーク隙間19に連通するオイル供給空間28が形成されている。オイル供給空間28は、プランジャ10の外周全周に形成された凹部16と、シリンダ9の内周14との間に環状に形成されている。オイル供給空間28を形成するための凹部16は、プランジャ10が突出方向、押込み方向にそれぞれ移動した際にも給油通路31と連通する範囲に設けられ、その凹部16を挟んで一端側と他端側にそれぞれリーク隙間19が存在する。
【0036】
圧力室18には、リターンスプリング33が組み込まれている。リターンスプリング33は、他端がシリンダ9の底部13で支持され、一端がリテーナ26の裾部26b及びバルブシート21を介してプランジャ10を押圧している。図3の形態ではリターンスプリング33は裾部26bに当接している。この押圧によって、プランジャ10は突出方向へ付勢されている。この実施形態では、リターンスプリング33として、プランジャ10側を小径側とするテーパ状のコイルスプリングを採用している。
【0037】
プランジャ10には、オイル供給空間28とリザーバ室27との間を連通する連通路30が設けられている。連通路30は、オイル供給空間28を通じて、リーク隙間19とも連通している。
【0038】
連通路30は、シリンダ9の取付片11をエンジン壁面に固定した状態で、プランジャ10の上側の半周に位置するように設けられている。具体的には、連通路30は、プランジャ10の径方向上側部分で、且つ、プランジャ10の外周寸法の半分に相当する範囲内に設けられ、特に、この実施形態では、連通路30は、プランジャ10の外周の頂上に位置するように設けられている。このため、リザーバ室27の内部に空気が存在するときに、その空気を連通路30から円滑に排出することが可能である。
【0039】
シリンダ9には、シリンダ9の外側から内側にオイルを導入する給油通路31が設けられている。給油通路31は、シリンダ9を半径方向に貫通する貫通孔である。図2(b)に示すように、給油通路31の入口は、その給油通路31のエンジン壁面側へ開口している。チェーンテンショナ1をエンジン壁面に取り付けた際に、この開口が、エンジンのオイルポンプからのオイル配管に接続される。また、給油通路31の出口は、シリンダ9の内周の円筒面に開口して、オイル供給空間28に臨んでいる。この給油通路31によって、エンジンのオイルポンプから供給されるオイルが、シリンダ9の外側から内側へ導入される。
【0040】
給油通路31よりも一端側において、プランジャ10の外周15とシリンダ9の内周14との間にシールリング50が備えられている。シールリング50は、プランジャ10の外周15に形成されたシール溝51に収納され、リーク隙間19を通じてシリンダ9の外部へ漏出するオイルを低減する。シールリング50としては、例えば、樹脂製やゴム製、金属製の環状部材を採用することができる。
【0041】
チェックバルブ20付近の拡大図を図3(b)に、チェックバルブのみの拡大図を図4に示す。チェックバルブ20は、プランジャ10のシリンダ9内への挿入端に設けられたバルブシート21と、そのバルブシート21に備えられる弁孔21aと、その弁孔21aを圧力室18の側から開閉する球状の弁体25であるチェックボール(以下、チェックボール25と称する)と、チェックボール25の移動範囲を規制するリテーナ26とからなる。リテーナ26は、チェックボール25が圧力室18側へ離脱することを防止する保持部26aと、その保持部26aをバルブシート21に支持する裾部26bと、チェックボール25を弁孔21aへ付勢するスプリング26cとを備えている。このリテーナ26の裾部26bは金属材料で構成されているとよい。裾部26bから圧力室18側に立ち上がる放射状の保持部26aは、バルブシート21の弁孔21a周囲の円筒状の突部に嵌合している。また、裾部26bは、バルブシート21の端面21cに当接している。
【0042】
この裾部26bの外周側に突き出た突出部26dの外径dは、段部10aの内周面10bの内径dよりも大きい。一方で、突出部26dの外径dは、シリンダ9の内径d以下であることが望ましく、プランジャ10の外径d以下であるとより望ましい。シリンダ9の内径dより大きいと、シリンダ9内へプランジャ10を収納する際に突出部26dが邪魔になる。プランジャ10の外径dより大きいと、シリンダ9内に格納できても、突出部26dがシリンダ9の内周14に接触するおそれがある。具体的には図5(b)に示すように、突出部26dがプランジャ10の他端10cに引っ掛かる程度であるとよい。
【0043】
図5は、このチェックバルブ20をプランジャ10の他端10c側から導入する際に、チェックバルブ20の向きを間違えた場合の状況を示す。バルブシート21よりもチェックボール25がプランジャ10のリザーバ室27側を向いた、本来の組み立て方(図3(a))とは逆の向きに取り付けようとした場合、この発明にかかるチェーンテンショナ1では、チェックバルブ20の裾部26bの外径側の突出部26dが、図5(b)に示すようにプランジャ10の他端10cに引っ掛かるので、チェックバルブ20を逆の向きに取り付けてしまうことはできなくなる。これにより、チェックバルブ20の向きが誤った組み方でチェーンテンショナ1を組み上げてしまうことを防止できる。
【0044】
このチェーンテンショナ1の動作例を説明する。通常運転時、プランジャ10を付勢するリターンスプリング33の推力よりもチェーン6の張力が大きくなると、そのチェーン6の張力によって、プランジャ10がシリンダ9内への押し込み方向へ移動し、チェーン6の緊張を吸収する。そして、プランジャ10とともにバルブシート21が圧力室18側へ移動する。プランジャ10及びバルブシート21の移動に応じて圧力室18の容積が縮小するので、圧力室18の圧力がリザーバ室27の圧力より高くなり、チェックバルブ20が閉じられて圧力室18を密閉する。このとき、圧力室18内からリーク隙間19を通じて流出するオイルのほとんどは、オイル供給空間28、連通路30を通じてリザーバ室27へ戻っていく。このリーク隙間19を流れるオイルの粘性抵抗によってダンパ力が発生し、チェーン6のバタつきを防止する。
【0045】
また、エンジン作動中にチェーン6の張力が小さくなった場合には、リターンスプリング33の付勢力によって、プランジャ10が突出方向へ移動し、チェーン6の弛みを吸収する。このとき、プランジャ10の移動に応じて圧力室18の容積が拡大するので、圧力室18の圧力がリザーバ室27の圧力より低くなり、チェックバルブ20が開く。チェックバルブ20を誤った向きに組み込むことができないため、この機能が働かない状態で組上がることはない。そして、チェックバルブ20の弁孔21aを通じてリザーバ室27から圧力室18にオイルが流入するので、プランジャ10は速やかに移動する。このとき、オイルポンプの圧力によって、エンジン側のオイル配管から、給油通路31、オイル供給空間28、連通路30を通じて、リザーバ室27へオイルが導入される。このため、リザーバ室27内の圧力低下が生じにくく、チェーン6の弛みに対する追従性に優れている。
【0046】
上記の実施形態において、リターンスプリング33は、プランジャ10側に向く一端34aが、底部13側に向く他端34bよりも小径となるテーパ形状のコイルばねで構成されている。このため、小径側の一端34aがバルブシート21を押圧する力の方向がバルブシート21側へ向かうにつれて軸心に近づく方向となり、バルブシート21とプランジャ10との一体性がより高まる効果がある。また、リテーナ26の裾部26bは、バルブシート21の弁孔21a周囲に位置し、比較的内径寄りの部分にある。このため、小径側の一端34aがリテーナ26の裾部26bを押圧しやすくなり、リテーナ26がバルブシート21に保持されやすくなる。また、裾部26bから圧力室18側に立ち上がる放射状の保持部26aの外周にリターンスプリング33の小径側の端部が嵌ることで、その小径側の端部がリテーナ26及びバルブシート21に固定されて、リターンスプリング33の伸縮動作が安定する効果も期待できる。なお、リターンスプリング33は、全長に亘って外径が一定のコイルばねを採用することも可能である。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 チェーンテンショナ
9 シリンダ
10 プランジャ
10a 段部
10b 段部の内周面
10c プランジャの他端
14 内周
15 外周
18 圧力室
19 リーク隙間
20 チェックバルブ
21 バルブシート
21a 弁孔
21b 外周(バルブシートの)
25 弁体(チェックボール)
26 リテーナ
26a 保持部
26b 裾部
26c スプリング
26d 突出部
30 連通路
31 給油通路
33 リターンスプリング
45 開口部
48 内周(プランジャの)
50 シールリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6