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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20230327BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20230327BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H9/64 Z
H03H9/72
【請求項の数】 27
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019110074
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2019216422
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】62/684,330
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/693,027
(32)【優先日】2018-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503031330
【氏名又は名称】スカイワークス ソリューションズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SKYWORKS SOLUTIONS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小松 禎也
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-263296(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098816(WO,A1)
【文献】特開2017-220929(JP,A)
【文献】特表2011-528878(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187724(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/187768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイスであって、
噛み合わされたインターディジタルトランスデューサ電極をそれぞれが含む第1弾性表面波共振器及び第2弾性表面波共振器と、
前記第1弾性表面波共振器及び第2弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極上に配置された誘電材料層と、
前記第1弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極上に配置された誘電材料層内に配置された高速度層と
を含み、
前記第1弾性表面波共振器及び第2弾性表面波共振器は、同じ圧電基板上に形成され、
前記第1弾性表面波共振器は、前記第2弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極とは異なる指ピッチを有するインターディジタルトランスデューサ電極を有し、
前記第2弾性表面波共振器は、前記第2弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極上に配置された誘電材料層内に配置された高速度層を欠く、電子デバイス。
【請求項2】
前記第1弾性表面波共振器は、前記第1弾性表面波共振器のレイリー振動モードの反共振周波数を上回る共振周波数を有するシア波スプリアスモードを示す、請求項1の電子デバイス。
【請求項3】
前記第1弾性表面波共振器と第2弾性表面波共振器とは互いに電気的に結合されてラダーフィルタに含まれ、
前記ラダーフィルタは、
前記ラダーフィルタの入力ポートと出力ポートとの間に電気的に直列に結合された少なくとも一つの直列弾性表面波共振器と、
前記少なくとも一つの直列弾性表面波共振器の端子とグランドとの間に電気的に接続された少なくとも一つの並列弾性表面波共振器と
を含む、請求項2の電子デバイス。
【請求項4】
前記シア波スプリアスモードの共振周波数は、前記ラダーフィルタの通過帯域の外側の周波数において生じる、請求項3の電子デバイス。
【請求項5】
前記第1弾性表面波共振器の指ピッチに対する前記誘電材料層の厚さが、前記第1弾性表面波共振器の周波数温度係数と、前記第1弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極と前記圧電基板との間の結合係数とに基づいて決定され、
前記圧電基板のカット角は、前記第1弾性表面波共振器の指ピッチに対する前記誘電材料層の厚さに基づいて、前記シア波スプリアスモードの共振周波数におけるシア波の強度を最小限にするように選択される、請求項4の電子デバイス。
【請求項6】
前記誘電材料層は二酸化ケイ素を含む、請求項5の電子デバイス。
【請求項7】
前記高速度層は、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム又はダイヤモンドの一つ以上を含む、請求項6の電子デバイス。
【請求項8】
前記第1弾性表面波共振器の誘電材料層は、前記高速度層によって上側層及び下側層に分割される、請求項7の電子デバイス。
【請求項9】
前記高速度層は、前記第1弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極の上方において前記誘電材料層の厚さの0と40%との間に配置される、請求項8の電子デバイス。
【請求項10】
電子デバイスモジュールに含まれる請求項1の電子デバイス。
【請求項11】
前記電子デバイスモジュールは無線周波数デバイスモジュールである請求項10の電子デバイス。
【請求項12】
電子デバイスであって、
同じ圧電基板上に配置された複数の弾性表面波共振器をそれぞれが含む第1フィルタ及び第2フィルタと、
前記第1フィルタ及び第2フィルタの複数の弾性表面波共振器を覆う誘電膜と、
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器と前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器とを覆う誘電膜内に配置された高速度層と
を含み、
前記第1フィルタは前記第2フィルタとは異なる通過帯域を有し、
前記第2フィルタは、前記高速度層を欠く一つ以上の弾性表面波共振器を含み、
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化高さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化高さと異なり、
前記高速度層の正規化高さは、前記第1フィルタ及び前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極の上面からの前記高速度層の下面の高さを、前記第1フィルタ及び前記第2フィルタそれぞれの複数の弾性表面波共振器の共振周波数における弾性表面波の波長によって除算することによって定義される、電子デバイス。
【請求項13】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜は、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜とは異なる厚さを有する、請求項12の電子デバイス。
【請求項14】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器を覆う誘電膜は、
前記高速度層の上面に配置された上側部分と、
前記高速度層の下面と前記第1フィルタの弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器のインターディジタルトランスデューサ電極の上面との間に配置された下側部分と
を含む、請求項13の電子デバイス。
【請求項15】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜の下側部分の厚さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜の下側部分の厚さと異なる、請求項14の電子デバイス。
【請求項16】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化高さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化高さと同じである、請求項15の電子デバイス。
【請求項17】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化厚さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化厚さと異なる、請求項16の電子デバイス。
【請求項18】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層とは異なる厚さを有する、請求項14の電子デバイス。
【請求項19】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化厚さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化厚さと同じである、請求項18の電子デバイス。
【請求項20】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層は、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層と異なる厚さを有する、請求項12の電子デバイス。
【請求項21】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化厚さは、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層の正規化厚さと同じである、請求項20の電子デバイス。
【請求項22】
前記第1フィルタ又は前記第2フィルタの少なくとも一方のフィルタはマルチモード弾性表面波フィルタである、請求項12の電子デバイス。
【請求項23】
前記第1フィルタ又は前記第2フィルタの少なくとも一方のフィルタはデュアルモード弾性表面波フィルタである、請求項22の電子デバイス。
【請求項24】
電子デバイスモジュールに含まれる請求項12の電子デバイス。
【請求項25】
前記電子デバイスモジュールは無線周波数デバイスモジュールである、請求項24の電子デバイス。
【請求項26】
前記第1フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層は、前記第2フィルタの複数の弾性表面波共振器のうちの前記少なくとも一つの弾性表面波共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層と同じ厚さを有する、請求項12の電子デバイス。
【請求項27】
前記第1フィルタ又は第2フィルタの少なくとも一方のフィルタは、複数の直列共振器と複数の並列共振器とを含むラダーフィルタであり、
前記高速度層は、前記複数の直列共振器の少なくとも一つと前記複数の並列共振器の少なくとも一つとを覆う誘電膜内に配置される、請求項12の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年6月13日に出願された「ニオブ酸リチウムフィルタにおける高速度層の付加によるスプリアスシアホリゾンタルモードの周波数制御」との名称の米国仮特許出願第62/684,330号に係る、及び2018年7月2日に出願された「ニオブ酸リチウムフィルタにおける高速度層の付加によるスプリアスシアホリゾンタルモードの周波数制御」との名称の米国仮特許出願第62/693,027号に係る米国特許法第119条(e)の優先権の利益を主張する。これらの開示はそれぞれ、その全体がここに参照により組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話機のような情報通信デバイスの分野では、デバイス内に付加的特徴を含めながらもデバイスの電子回路により占められるスペースを維持又は低減したいという要望が増大している。様々な情報通信デバイスは、デバイスが信号を送信及び受信する周波数帯域を画定する複数のフィルタを含む。これらのフィルタは、圧電基板上に形成された弾性表面波素子を含み得る。かかるフィルタのサイズを低減する一つの方法は、単数の集積回路における一つのフィルタのために多数の弾性表面波素子を形成すること、又は単数の集積回路内に多数のフィルタを形成することを含み得る。
【発明の概要】
【0003】
ここでの開示の一側面によれば、電子デバイスが与えられる。電子デバイスは、噛み合わされたインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極をそれぞれが含む第1弾性表面波(SAW)共振器及び第2SAW共振器と、第1SAW共振器及び第2SAW共振器のIDT電極上に配置された誘電材料層と、第1SAW共振器のIDT電極上に配置された誘電材料層内に配置された高速度層とを含み、第1SAW共振器及び第2SAW共振器は同じ圧電基板上に形成され、第1SAW共振器のIDT電極は、第2SAW共振器のIDT電極とは異なる指ピッチを有し、第2SAW共振器は、IDT電極上に配置された誘電材料層内に配置される高速度層を欠いている。
【0004】
いくつかの実施形態において、第1SAW共振器は、第1SAW共振器のレイリー振動モードの反共振周波数を上回る共振周波数を有するせん断波(シア波)スプリアスモードを示す。
【0005】
いくつかの実施形態において、第1SAW共振器と第2SAW共振器とは互いに電気的に結合されてラダーフィルタに含まれる。ラダーフィルタは、当該ラダーフィルタの入力ポートと出力ポートとの間に電気的に直列に結合された少なくとも一つの直列SAW共振器と、当該少なくとも一つの直列SAW共振器の端子とグランドとの間に電気的に接続された少なくとも一つの並列SAW共振器とを含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、シア波スプリアスモードの共振周波数は、ラダーフィルタの通過帯域外の周波数において生じる。
【0007】
いくつかの実施形態において、圧電基板のカット角と、第1SAW共振器の指ピッチに対する誘電材料層の厚さとは、シア波スプリアスモードの共振周波数におけるシア波の強度を最小限にするように選択される。
【0008】
いくつかの実施形態において、誘電層は二酸化ケイ素を含む。いくつかの実施形態において、高速度層は、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム又はダイヤモンドの一つ以上を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、第1SAW共振器の誘電層は、高速度層を介して上側層と下側層とに分離される。
【0010】
いくつかの実施形態において、高速度層は、第1SAW共振器のIDT電極の上方において誘電材料の厚さの約0%と約40%との間に配置される。
【0011】
いくつかの実施形態において、電子デバイスは、電子デバイスモジュールに含まれる。電子デバイスモジュールは、無線周波数デバイスモジュールとしてよい。
【0012】
他側面によれば、電子デバイスが与えられる。電子デバイスは、同じ圧電基板上に配置された弾性表面波(SAW)共振器をそれぞれが含む第1フィルタ及び第2フィルタと、第1フィルタ及び第2フィルタのSAW共振器を覆う誘電膜と、第1フィルタのSAW共振器を覆う誘電膜内に配置された高速度層とを含み、第1フィルタの通過帯域は第2フィルタの通過帯域とは異なり、第2フィルタは、高速度層を欠いた一つ以上のSAW共振器を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜は、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜とは異なる厚さを有する。
【0014】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化高さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化高さとは異なる。
【0015】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さと同じである。
【0016】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さと異なる。
【0017】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化厚さと同じである。
【0018】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器を覆う誘電膜は、高速度層の上面に配置された上側部分と、高速度層の下面と第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つのインターディジタルトランスデューサ電極の上面との間に配置された下側部分とを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜の下側部分の厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜の下側部分の厚さと異なる。
【0020】

いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化高さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化高さと同じである。
【0021】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化厚さと異なる。
【0022】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内に配置された高速度層の厚さと異なる。
【0023】
いくつかの実施形態において、第1フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化厚さは、第2フィルタのSAW共振器の少なくとも一つを覆う誘電膜内の高速度層の正規化厚さと同じである。
【0024】
いくつかの実施形態において、第1フィルタ又は第2フィルタの少なくとも一方は、複数の直列共振器と複数の並列共振器とを含むラダーフィルタであり、高速度層は、複数の直列共振器少なくとも一つと複数の並列共振器の少なくとも一つとを覆う誘電膜内に配置される。
【0025】
いくつかの実施形態において、第1フィルタ又は第2フィルタの少なくとも一方は、マルチモードSAWフィルタである。
【0026】
いくつかの実施形態において、第1フィルタ又は第2フィルタの少なくとも一方は、デュアルモードSAWフィルタである。
【0027】
いくつかの実施形態において、電子デバイスは、電子デバイスモジュールに含まれる。電子デバイスモジュールは、無線周波数デバイスモジュールとしてよい。
【0028】
他側面によれば、弾性表面波(SAW)共振器が与えられる。SAW共振器は、噛み合わされたインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極と、SAW共振器のIDT電極上に配置された誘電材料層と、SAW共振器のIDT電極上に配置された誘電材料層内に配置された高速度層とを含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、高速度層は、SAW共振器の共振周波数の周波数温度係数を、高速度層を欠く実質的に同様のSAW共振器よりもゼロ近くにまでシフトさせるのに十分な寸法を有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、IDT電極は、各層が異なる材料を含む少なくとも2つの層の積層を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
縮尺どおりに描かれることを意図しない添付図面を参照して、少なくとも一つの実施形態の様々な側面が以下に説明される。図面は、様々な側面及び実施形態の例示及びさらなる理解を与えるべく含まれ、本明細書に組み入れられかつその一部をなすが、本発明の制限を画定するものとして意図されるわけではない。図面において、様々な図面に例示される同一又はほぼ同一のコンポーネントは、同じ番号によって代表される。明確性を目的として、すべての図面においてすべてのコンポーネントが標識されるわけではないこともあり得る。
【0032】
図1】弾性表面波(SAW)共振器の一部分の断面図である。
図2】ラダーフィルタの一部分の模式的な図である。
図3図2のラダーフィルタのパラメータの周波数応答を示す。
図4】SAW共振器の設計パラメータを示す。
図5】SAW共振器の一実施形態における誘電層厚さの変化に伴う、結合係数(k)及び周波数温度係数(TCF)の変化を示す。
図6】SAW共振器の一実施形態における誘電層厚さ及び圧電基板カット角の変化に伴う、せん断(シア)モードスプリアス信号の強度の変化を示す。
図7】共通圧電基板上に形成されたSAW共振器を含む複数のラダーフィルタを含む集積回路の一実施形態を模式的に示す。
図8】誘電膜層と当該誘電膜層内に配置された高速度層とを含むSAW共振器の一部分の断面図である。
図9A】SAW共振器の誘電膜層内に高速度層を欠くSAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線におけるシアモードスプリアス信号の箇所を示す。
図9B】SAW共振器の誘電膜層内に第1厚さの高速度層を有するSAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線におけるシアモードスプリアス信号の箇所を示す。
図9C】SAW共振器の誘電膜層内に第2厚さの高速度層を有するSAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線におけるシアモードスプリアス信号の箇所を示す。
図10】誘電膜層と当該誘電膜層内に配置された高速度層とを含む共振器を含むラダーフィルタのパラメータの周波数応答を示す。
図11】SAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線における縦振動モードの反共振周波数とシアモードスプリアス信号と間の周波数差を示す。
図12】SAW共振器の誘電膜内の高速度層厚さ及び高速度層位置の変化に伴う、SAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線における縦振動モードの反共振周波数とシアモードスプリアス信号の周波数との差を示す。
図13A】誘電膜層と当該誘電膜層内の第1l箇所に配置された高速度層とを含むSAW共振器の一部分の断面図である。
図13B】誘電膜層と当該誘電膜層内の第2箇所に配置された高速度層とを含むSAW共振器の一部分の断面図である。
図14】SAW共振器の誘電膜内の高速度層厚さ及び高速度層位置の変化に伴う、SAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線における結合係数(k)の変化を示す。
図15】SAW共振器の誘電膜内の高速度層厚さ及び高速度層位置の変化に伴う、SAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線における品質係数の変化を示す。
図16A】誘電層と当該誘電層の中心に配置された高速度層とを有するSAW共振器の一部分の断面図である。
図16B】誘電層厚さの変化に伴う、図16Aの共振器の縦振動モードの共振周波数のTCFの変化を示す。
図16C】誘電層厚さの変化に伴う、図16Aの共振器の縦振動モードの反共振周波数のTCFの変化を示す。
図17】他のラダーフィルタの模式的な図である。
図18】共通圧電基板上に形成された2つのフィルタの共振器に対する膜厚さの差の一例を示す。
図19】共通圧電基板上に形成された2つのフィルタの共振器に対する膜厚さの差の他例を示す。
図20】共通圧電基板上に形成された2つのフィルタの共振器に対する膜厚さの差の他例を示す。
図21】共通圧電基板上に形成された2つのフィルタの共振器に対する膜厚さの差の他例を示す。
図22A】SAW共振器の一実施形態を示す。
図22B】マルチモードSAWフィルタの一実施形態を示す。
図23】ここに開示のフィルタのいずれかが実装され得るフロントエンドモジュールのブロック図である。
図24】ここに開示のフィルタのいずれかが実装され得る無線デバイスのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ここに開示の側面及び実施形態は、無線通信デバイス用のフィルタ構造と、これを製造する方法とを含む。ここで、フィルタの通過帯域内で低レベルのスプリアスせん断(シア)モードが示される。特定の実施形態が、例えば周波数温度係数、品質係数及び結合係数のような所望のパラメータ、並びにフィルタの通過帯域内の最小スプリアスシアモードを達成するべく選択された組成及び厚さを有する誘電被覆を有する弾性波素子を含むラダーフィルタ構造を含む。
【0034】
ここに開示の側面及び実施形態は、例えばLiNbO又はLiTaOのような圧電基板上に構築されて直列共振器及び並列共振器を含むラダー構造体を示すRFフィルタを含む。共振器は、弾性表面波(SAW)共振器を含み得る。これは、例えばSiOのような誘電膜、又は、例えばSiO及びSiのような誘電膜の組み合わせにより覆われた噛み合わされたインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極を含む。
【0035】
一般に100で示されるSAW共振器の一実施形態の単純化された断面図が、図1に提示される。SAW共振器100は、圧電基板110上に配置された複数のIDT電極105を含む。圧電基板110は、例えばLiNbO、LiTaO、又は他の圧電材料から構成され又はこれらを含み得る。図1に示される特定の実施形態において、圧電基板110は、128YXカットLiNbOである。複数のIDT電極105、及び圧電基板110は、誘電材料115、例えば二酸化ケイ素(SiO)の層により覆われる。ここに開示される実施形態のいずれにおいても、誘電材料115の層は、例えば窒化ケイ素(Si)のような誘電材料の第2層により覆われる。これは、SAW共振器100の表面安定化及び周波数トリミングを与えることができる。この誘電材料の第2層は、単純化を目的として図面から省略される。IDT電極105は、図1において、下側層105A及び上側層105Bを含むように示される。下側層105Aは、例えばタングステン又はモリブデンを含み又はこれらから構成されてよく、上側層105Bは、例えばアルミニウムを含み又はこれから構成されてよい。本願の他の図面に示されるIDT電極が、単純化のために単数の材料層を含むように示されるにもかかわらず、ここに開示のいずれの実施形態もIDT電極も、単数の材料又は多層の異なる材料から形成され得ることを認識するべきである。
【0036】
多数のSAW共振器が、一緒に組み付けられてラダーフィルタを形成する。ラダーフィルタの一部分の一実施形態が、図2に示される。ラダーフィルタの当該一部分は、ラダーフィルタの当該一部分の入力ポートPort1と出力ポートPort2との間に直列に位置決めされた単数の直列共振器Res1と、直列共振器Res1の端子とグランドとの間に電気的に並列接続された単数の並列共振器Res2とを含む。共振器Res1及びRes2は、異なる共振周波数及び反共振周波数を有し得る。直列共振器Res1は典型的に、並列共振器Res2の共振周波数よりも高い共振周波数を有するとともに、並列共振器Res2の反共振周波数よりも高い反共振周波数を有する。
【0037】
共振器Res1及びRes2の、及びラダーフィルタの当該一部分の性能のシミュレーションが、図3に示される。共振器Res1及びRes2の縦波(レイリー)振動モードのインピーダンスパラメータY21の曲線は、305及び310に標識されるように不連続部を示す。これは、動作中に発生するシア波振動モードに起因する。共振器Res1及びRes2のインピーダンスパラメータ曲線の不連続部は、ラダーフィルタのPort1からPort2への送信パラメータS21において、315及び320に標識される不連続部をもたらす。不連続部315及び320は、ラダーフィルタの性能を劣化させる点で望ましくない。
【0038】
調整され得るSAW共振器の様々なパラメータは、IDT電極105間のスペーシングを含む。これはさらに、共振器の共振周波数の波長λ、誘電層115の厚さhSiO2、及び圧電結晶基板のカット角を画定する。これらのパラメータが図4に示される。圧電結晶基板のカット角は「xxx」のように指定される。
【0039】
誘電層115の厚さhSiO2は、図5に示されるように、SAW共振器の周波数温度係数(TCF)、IDT電極105及び圧電基板110間の結合係数kに影響を与える。よって、典型的には、SAW共振器においてこれらのパラメータの望しい値を達成するべく、誘電層115の相対厚さhSiO2/λが選択される。ひとたび誘電層115の相対厚さhSiO2/λが選択されると、シア波スプリアス信号の強度を最小にするように圧電結晶基板のカット角xxxを選択することができる。図6に示されるように、誘電層の相対厚さhSiO2/λが25%から30%となるSAW共振器の一実施形態において、シア波スプリアス信号が最小になるように129度のカット角を選択することができる一方、誘電層の相対厚さhSiO2/λが約35%を超えるSAW共振器の一実施形態においては、例えば約127度の浅いカット角が適切となり得る。
【0040】
いくつかの実施形態において、例えば、図7に模式的に示されるように、異なる共振周波数(ひいては異なるλパラメータ)を備えた異なる共振器Res1~Res8を有するフィルタ部分f、f、f及びfとして標識される多数のフィルタ部分を、共通圧電基板上の単数のチップに形成することができる。異なるフィルタ部分f、f、f及びfの異なる共振器のλパラメータが異なり得るので、フィルタ部分の各共振器の誘電層の相対厚さhSiO2/λを取得するためには、各フィルタ部分の各共振器に対して望ましいTCF及びkを与える異なるフィルタ部分のIDT電極を覆う誘電層の異なる厚さhSiO2が望ましい。異なる共振器に対応する箇所において異なる厚さを有する誘電層115の領域を形成することは、製造上困難となる。さらに、ひとたび各共振器に対する誘電層の相対厚さhSiO2/λが選択されると、圧電結晶基板のカット角は、各フィルタ部分においてスプリアスシア波信号を抑制するように各共振器に対して別個の選択することができない。各フィルタ部分が同じ基板上に形成されるからである。
【0041】
発見されていることだが、誘電層115内の誘電材料よりも高い音響速度を有する一層の材料を付加することにより、シア波スプリアスモードの発生に起因してSAW共振器のインピーダンスパラメータ曲線の不連続部が生じる周波数をシフトすることができる。誘電層115よりも音響速度が高い材料層を、「高速度層」と称してよい。一般に800で標識されるSAW共振器の一実施形態に高速度層805を含める一例が、図8に示される。誘電層115がSiOである実施形態において、高速度層805は、業界周知のSiOよりも高い音響速度を有するSi、酸窒化ケイ素(SiO)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、ダイヤモンド又は他の材料を、含み又はこれらから構成される。高速度層805の厚さは、図8においてhとして標識され、高速度層805の相対厚さはここで、h/λと称される。
【0042】
誘電層115が、高速度層805により上側部分115Aと下側部分115Bとに分割される実施形態において、上側部分115A及びと下側部分115Bの厚さの和が、誘電層115の厚さhSiO2とみなされる。誘電層115が、高速度層805により上側部分115Aと下側部分115Bとに分割される実施形態において、上側部分115A及び下側部分115Bはここで、まとめて誘電層115と称する。高速度層805の存在は、同じ相対厚さhSiO2/λを有するが高速度層805は存在しない共振器と比べ、誘電層115が相対厚さhSiO2/λを有する共振器のTCF及びkのパラメータに影響を与え得る。したがって、望ましいTCF及びkパラメータを達成するべく、相対厚さhSiO2/λを有する共振器の誘電層115に高速度層805が付加される実施形態において、誘電層115の相対厚さhSiO2/λを調整して高速度層805のTCF及びkパラメータへの影響を補償することができる。
【0043】
図8に示される共振器の誘電層115に高速度層805を含むことの影響が、図9A~9Cに示される。図9Aは、高速度層が存在しない(相対厚さh/λがゼロの)共振器のインピーダンスパラメータY21曲線を示す。インピーダンスパラメータ曲線における不連続部905が、共振器の共振周波数910と反共振周波数915との間に容易に認められる。図9Bは、図8に示される共振器の誘電層115に1%の相対厚さh/λを有する高速度層805を追加することの影響を示す。高速度層805の追加により、インピーダンスパラメータ曲線において不連続部905が、図9Aに示されるものと比べて反共振周波数915の上方にシフトし、不連続部905の大きさが減少する。図9Cは、図8に示される共振器の誘電層115に4%の相対厚さh/λを有する高速度層805を追加することの影響を示す。インピーダンスパラメータ曲線における不連続部905は、図9Bに示されるものと比べてさらに上方にシフトし、大きさがさらに減少する。
【0044】
図10は、高速度層805が、図8に示されるフィルタの共振器の誘電層115に含まれるときの、図2に示されるものと同様のフィルタのフィルタ性能への影響を示す。図10に示される送信パラメータ曲線1005と図3に示されるものとを比較して明らかなのは、共振器のインピーダンスパラメータ曲線において不連続部305、310が生じる周波数のシフトに起因して、図3の315に示されるインピーダンスパラメータ曲線における不連続部が排除され、図3の320に示される不連続部が、大きさが有意に低減されるとともに、周波数がフィルタの通過帯域から有効に外れるようにシフトする。
【0045】
図9A~9Cに戻ると、共振器の縦モードインピーダンスパラメータ曲線における不連続部905は、共振器におけるシア波振動モードの共振に対応する。図10に示されるように、SAW共振器を含むラダーフィルタの性能は、共振器の縦波振動モード(レイリーモード)の反共振周波数と、共振器のシア波振動モードの共振周波数との周波数差を増加させることによって改善され得る。この周波数差が、図11に周波数差dとして示される。周波数差dは、高速度層805の厚さ、及び共振器の誘電層115における高速度層805の位置双方の関数となり得る。例えば、図12に示されるように、周波数差d(図12における「SHf-レイリーf」パラメータ)が、高速度層805の相対厚さh/λ(図12における「SiN厚さ/λ」パラメータ)とともに増加する。いくつかの実施形態において、高速度層805の相対厚さh/λは、約0.1%から約5%である。周波数差dはまた、誘電層115における高速度層805の位置が低下すると一般に増加する。ただし、誘電層115における高速度層805の位置が誘電層115の厚さの20%から0%まで低下すると、周波数差dは、ある程度減少する。誘電層115における高速度層805の位置は、ここで、高速度層805の下面の下に配置された誘電層115のパーセント厚さ、すなわち図8に示される距離間の比t/T、として記載される。高速度層805が配置される誘電層115のパーセント厚さの意味が、図13Aにさらに示される。図13Aに示されるように、誘電層115の厚さ100%における位置は、誘電層115全体の頂面の位置である。図13Bに示されるように、誘電層115の厚さ0%における位置は、誘電層115におけるIDT電極105の頂面に直接触れる位置である。
【0046】
共振器の結合係数k及び品質係数Qはまた、誘電層115における高速度層805の厚さ及び箇所に依存し得る。図14に示されるように、共振器の結合係数kは、高速度層805の相対厚さ(SiN厚さ/λ)の増加に伴い減少し、誘電層115における高速度層805の箇所の高さの減少に伴い増加し得る。同様に、図15に示されるように、共振器の品質係数(Q)は、高速度層805の相対厚さ(SiN厚さ/λ)の増加に伴い減少し、誘電層115における高速度層805の箇所の高さの減少に伴い増加し得る。
【0047】
図12、14及び15に示される関係に鑑み、誘電層115における高速度層805の箇所の高さが、IDT電極105の頂面上方において誘電層115の厚さの約40%未満であるが、誘電層115の厚さの約2%を超える場合、所望の共振器パラメータを達成することができる。共振器の縦波振動モード(レイリーモード)の反共振周波数とシア波振動モードの共振周波数との周波数差、共振器の品質係数、及び共振器の結合係数との所望のバランスを達成するべく、高速度層805の相対厚さh/λ(図12、14及び15に示されるSiN厚さ/λ)を選択することができる。
【0048】
図16Aに示されるように高速度層805が誘電層115内に配置された共振器の相対誘電層厚さhSiO2/λの変化に伴う共振周波数のTCFの変化が、図16Bに示される。誘電層厚さhSiO2は、誘電膜115の上側部分115Aの厚さと誘電膜115の下側部分115Bの厚さとの和である。図16Aのものと同様であるが高速度層805が誘電層115に配置されない共振器に対する相対誘電層厚さhSiO2/λの変化に伴う共振周波数のTCFの変化もまた、比較を目的として図16Bに示される。相対誘電層厚さhSiO2/λの変化iに伴う図16Aの共振器の反共振周波数のTCFの変化が、図16Cに示される。図16Aのものと同様であるが高速度層805が誘電層115に配置されない共振器に対する相対誘電層厚さhSiO2/λの変化に伴う反共振周波数のTCFの変化もまた、比較を目的として図16Cに示される。図16B及び16Cに見られるように、共振周波数及び反共振周波数双方のTCFが、高速度層805を誘電膜層115に含めることによって改善されている(ゼロの近くへとシフトしている)。
【0049】
ラダーフィルタは、入力ポートと出力ポートとの間に電気的に直列に結合された複数の直列共振器と、直列共振器の端子とグランドとの間に接続された複数の並列共振器とを含み得る。ラダーフィルタの一例が、図17に模式的に示される。ここで、直列共振器はS1、S2、S3及びS4に示され、並列共振器はP1、P2及びP3に示される。いくつかの実施形態において、高速度層805が、TCFの調整が望まれるこれらの共振器のみによって、又はそれぞれの共振周波数及び反共振周波数間において下方にスプリアスシア波を示すこれらの共振器のみによって、誘電層115に形成され得る。図17に示されるもののようなラダーフィルタのいくつかの実施形態において、並列共振器の一つ又は部分集合、例えば共振器P3が、又は代替的に、直列共振器S1、S2、S3及びS4の一つ又は部分集合が、共振器のIDT電極を覆う誘電層115の中に形成された高速度層805を含み得る一方、他の共振器は、他の共振器それぞれのIDT電極それぞれを覆う誘電層115の中に形成された高速度層805を含まない。
【0050】
例えば図7に示されるような、共通圧電基板上に形成された多数のフィルタを含む実施形態について、当該フィルタの部分集合のみが、当該フィルタの部分集合の一つ以上の共振器のIDT電極を覆う誘電層115の中に形成された高速度層805を有する共振器を含んでよい。代替的に、フィルタの部分集合のみが、高速度層805を欠く共振器を含んでよい。例えば、図7に模式的に示されるチップにおいて、フィルタf及びfは、当該フィルタの一つ以上の共振器のIDT電極を覆う誘電層115の中に形成された高速度層805を有する一方、フィルタf及びfはそうではない。代替的に、フィルタf、f、f及びfはそれぞれが、対応する誘電層115内に配置された高速度層805を含む少なくとも一つの共振器を含み得る。いくつかの実施形態において、フィルタが、当該フィルタの一つ以上の共振器のIDT電極を覆う誘電層115の中に形成された高速度層805を有する場合、高速度層805は、少なくとも一つの直列共振器及び少なくとも一つの並列共振器の上に形成されてよい。他実施形態において、フィルタが、当該フィルタの一つ以上の共振器のIDT電極を覆う誘電層115の中に高速度層805を有する場合、高速度層805は、各直列共振器及び各並列共振器の上に形成されてよい。
【0051】
異なる共振周波数及び反共振周波数を備えた共振器を有するフィルタにおいて、又は異なる通過帯域を有するフィルタを含むチップにおいて、異なる共振器又はフィルタの誘電層115の上側部分115A及び115Bと高速度層805との相対厚さは、異なる基準に従って選択され得る。第1フィルタf及び第2フィルタfを含むチップ1800の一例において、フィルタfの通過帯域は、フィルタfの通過帯域よりも低周波数側にあり、フィルタfにおける共振器のIDT電極105は、フィルタfの共振器におけるIDT電極105よりも大きな周期を有し得る。いくつかの実施形態において、狭い(小さな)IDT電極周期を有する共振器上の誘電層155の上側部分115Aは、広いIDT電極周期を有する共振器と狭いIDT電極周期を有する共振器とにおける正規化厚さhSiO2/λを整合させるべく、エッチバックされ得る。広いIDT電極周期を有する共振器と狭いIDT電極周期を有する共振器とにおける正規化厚さhSiO2/λにより、同様の結合係数k、TCF、及びシアモードスプリアス信号のレベルを有する異なる共振器が得られる(図5及び図6を参照)。この実施形態の一例が図18に示される。
【0052】
チップ1800の一修正例において、フィルタfの共振器においてIDT電極105の上に配置された高速度層805は、2つのフィルタの共振器間で正規化厚さh/λを整合させるべくエッチバックされる。これにより、縦波振動モード(レイリーモード)の反共振周波数とシア波振動モードの共振周波数との同様の周波数差、同様の品質係数、及び同様の結合係数kを有する異なる共振器を得ることができる(図12、14及び15を参照)。この実施形態の一例が一般に、図19において1900に示される。
【0053】
第1フィルタf及び第2フィルタfを含むチップ2000の他実施形態において、フィルタfの通過帯域は、フィルタfの通過帯域よりも低周波数側にあり、フィルタfにおける共振器のIDT電極105は、フィルタfの共振器におけるIDT電極105よりも広い周期を有し、フィルタfの共振器におけるIDT電極105の上に配置された誘電膜115の下側部分115Bは、誘電層115内における高速度層の正規化高さ805を異なるフィルタの共振器間で整列させるべくエッチバックされ得る。これにより、異なる共振器それぞれにおける、縦波振動モード(レイリーモード)の反共振周波数とシア波振動モードの共振周波数との周波数差、品質係数、及び結合係数kの最適化を与えることができる。(図12、14及び15を参照)この実施形態の一例が図20に示される。
【0054】
チップ2000の一修正例において、フィルタfの共振器においてIDT電極105の上に配置された高速度層805は、2つのフィルタの共振器間で正規化厚さh/λを整合させるべくエッチバックされる。これにより、縦波振動モード(レイリーモード)の反共振周波数とシア波振動モードの共振周波数との同様の周波数差、同様の品質係数、及び同様の結合係数kを有する異なる共振器を得ることができる(図12、14及び15を参照)。この実施形態の一例が一般に、図21において2100に示される。
【0055】
図18~21に示される誘電層115及び高速度層85の厚さの異なる組み合わせを、単数フィルタ内の異なる共振器に、又は異なるフィルタにおける異なる共振器に適用することができる。
【0056】
ここに開示される側面及び実施形態はいずれもが、一例が図22Aに示されるSAW共振器、又は一例が図22Bに示されるマルチモードSAWフィルタにおいて、利用することができる。図22BのマルチモードSAWフィルタは、デュアル-モードSAWフィルタ(DMSフィルタ)としてよい。
【0057】
上で参照された実施形態のいずれかに例示されたフィルタは、広範囲の電子デバイスにおいて使用することができる。
【0058】
図23を参照すると、例えば無線通信デバイス(例えば携帯電話機)のような電子デバイスにおいて使用できるフロントエンドモジュール2200の一例のブロック図が例示される。フロントエンドモジュール2200は、共通ノード2212、入力ノード2214及び出力ノード2216を有するアンテナデュプレクサ2210を含む。アンテナ2310は共通ノード2212に接続される。フロントエンドモジュール2200はさらに、デュプレクサ2210の入力ノード2214に接続された送信器回路2232と、デュプレクサ2210の出力ノード2216に接続された受信器回路2234とを含む。送信器回路2232は、アンテナ2310を介した送信のための信号を生成し、受信器回路2234は、アンテナ2310を介して信号を受信し、受信した信号を処理することができる。いくつかの実施形態において、受信器回路及び送信器回路は、図23に示されるように別個のコンポーネントとして実装されるが、他実施形態においてはこれらのコンポーネントは、共通送受信器回路又はモジュールに一体化され得る。当業者にわかることだが、フロントエンドモジュール2200は、図23に例示されない他のコンポーネント(スイッチ、電磁結合器、増幅器、プロセッサ等を含むがこれらに限られない)を含んでよい。
【0059】
アンテナデュプレクサ2210は、入力ノード2214と共通ノード2212との間に接続された一つ以上の送信フィルタ2222と、共通ノード2212と出力ノード2216との間に接続された一つ以上の受信フィルタ2224とを含み得る。送信フィルタの通過帯域は、受信フィルタの通過帯域と異なる。送信フィルタ2222及び受信フィルタ2224はそれぞれが、ここに開示の一実施形態のフィルタを含み得る。インダクタ又は他の整合コンポーネント2240を、共通ノード2212に接続してよい。
【0060】
所定の例において、送信フィルタ2222及び/又は受信フィルタ2224において使用される弾性波素子は、単数の圧電基板上に配置される。この構造により、各フィルタの周波数応答時の温度変化の効果が低減され、特に、温度変化に起因する当該フィルタの通過特性又は減衰特性の劣化が低減される。これは、各フィルタにおける各弾性波素子が、環境温度の変化に応答して同様に変化するからである。複数のフィルタの第1のものの温度に、基板を介して当該フィルタの第2のものから当該フィルタの第1のものへと伝達される熱に起因する変化が存在する例において、当該フィルタの第1のものにおける誘電膜内の高速度層は、通過特性又は減衰特性の劣化をさらに低減することができる。加えて、(単数の圧電基板上に配置される)この配列により、送信フィルタ2222又は受信フィルタ2224のサイズを小さくすることが許容される。
【0061】
図24は、図23に示されるアンテナデュプレクサ2210を含む無線デバイス2300の一例のブロック図である。無線デバイス2300は、セルラー電話機、スマートフォン、タブレット、モデム、通信ネットワーク、又は音声若しくはデータ通信用に構成された任意の他の携帯若しくは非携帯デバイス構成としてよい。無線デバイス2300は、アンテナ2310から信号を受信及び送信することができる。無線デバイスは、図23を参照して上述されたものと同様のフロントエンドモジュール2200’の一実施形態を含む。フロントエンドモジュール2200’は、上述したデュプレクサ2210を含む。図24に示される例において、フロントエンドモジュール2200’はさらに、アンテナスイッチ2250を含む。これは、例えば送信モード及び受信モードのような、異なる周波数帯域又はモード間の切り替えをするべく構成することができる。図24に示される例において、アンテナスイッチ2250は、デュプレクサ2210とアンテナ2310との間に位置決めされるが、他例においてデュプレクサ2210は、アンテナスイッチ2250とアンテナ2310との間に位置決めしてもよい。他例において、アンテナスイッチ2250とデュプレクサ2210とは一体化して単数のコンポーネントにすることができる。
【0062】
フロントエンドモジュール2200’は、送信のために信号を生成して受信した信号を処理するべく構成された送受信器2230を含む。送受信器2230は、図23の例に示されるように、デュプレクサ2210の入力ノード2214に接続され得る送信器回路2232と、デュプレクサ2210の出力ノード2216に接続され得る受信器回路2234とを含み得る。
【0063】
送信器回路2232による送信のために生成された信号は、送受信器2230からの生成信号を増幅する電力増幅器(PA)モジュール2260によって受信される。電力増幅器モジュール2260は、一つ以上の電力増幅器を含み得る。電力増幅器モジュール2260は、多様なRF又は他の周波数帯域の送信信号を増幅するべく使用することができる。例えば、電力増幅器モジュール2260は、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)信号又は任意の他の適切なパルス信号の送信に役立つように電力増幅器の出力をパルスにするべく使用されるイネーブル信号を受信することができる。電力増幅器モジュール2260は、例えばGSM(Global System for Mobile)(登録商標)信号、CDMA(code division multiple access)信号、W-CDMA信号、ロングタームエボリューション(LTE)信号、又はEDGE信号を含む様々なタイプの信号のいずれかを増幅するべく構成することができる。所定の実施形態において、電力増幅器モジュール2260及びスイッチ等を含む関連コンポーネントは、例えば高電子移動度トランジスタ(pHEMT)又は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(BiFET)を使用するヒ化ガリウム(GaAs)基板上に作製し、又は相補型金属酸化物半導体(CMOS)電界効果トランジスタを使用するシリコン基板上に作製することができる。
【0064】
依然として図24を参照すると、フロントエンドモジュール2200’はさらに、低雑音増幅器モジュール2270を含み得る。これは、アンテナ2310からの受信信号を増幅してその増幅信号を、送受信器2230の受信器回路2234に与える。
【0065】
図24の無線デバイス2300はさらに、送受信器2230に接続されて無線デバイス2300の動作のために電力を管理する電力管理サブシステム2320を含む。電力管理システム2320はまた、無線デバイス2300のベース帯域サブシステム2330及び様々な他のコンポーネントの動作を制御することもできる。電力管理システム2320は、無線デバイス2300の様々なコンポーネントのために電力を供給する電池(図示せず)を含み、又はこれに接続され得る。電力管理システム2320はさらに、例えば信号の送信を制御することができる一つ以上のプロセッサ又は制御器を含み得る。一実施形態において、ベース帯域サブシステム2330は、ユーザに与えられ又はユーザから受け取る音声及び/又はデータの様々な入力及び出力を容易にするユーザインタフェイス2340に接続される。ベース帯域サブシステム2330はまた、無線デバイスの動作を容易にし及び/又はユーザのための情報記憶を与えるデータ及び/又は命令を記憶するように構成されたメモリ2350に接続することもできる。
【0066】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面が上述されたが、当業者には様々な変形例、修正例及び改善例が容易に想到されることがわかる。そのような変形例、修正例及び改善例は、本開示の一部であることが意図され、さらに本発明の範囲内に存在することが意図される。なお、ここに開示の方法及び装置は、アプリケーションにおいて、上記説明に記載され又は添付図面に例示された構造の詳細及びコンポーネントの配列に限られない。方法及び装置は、他の実施形態に実装すること、及び様々な態様で実施又は実装することができる。特定の実施形態の例が、例示目的のみでここに与えられ、限定となることは意図されない。ここに開示のいずれかの実施形態の一つ以上の特徴を、任意の他の実施形態のいずれか一つ以上の特徴に対して付加又は置換することができる。また、ここで使用される表現及び用語は、説明を目的とし、限定としてみなすべきではない。ここでの「含む」、「備える」、「有する」、「包含する」及びこれらのバリエーションの使用は、その後に列挙される項目及びその均等物並びに追加の項目を包囲することを意味する。「又は」及び「若しくは」への言及は、「又は」及び「若しくは」を使用して記載されるいずれの用語も、記載される項目の単数、一つを超えるもの、及びすべてのいずれも示し得るように、包括的に解釈され得る。前、後、左右、頂底、上下、及び垂直水平への言及はいずれも、記載の便宜を意図しており、本システム及び方法又はこれらのコンポーネントをいずれか一つの位置的又は空間的配向に限定することを意図しない。したがって、上記の説明および図面は単なる例示に過ぎない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図23
図24