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特許7250673ポリビニルアルコール分解酵素とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール分解酵素とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20230327BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230327BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/55
C12N9/04 Z
C12N9/14
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019502962
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(86)【国際出願番号】 JP2018006767
(87)【国際公開番号】W WO2018159497
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2017039678
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 章裕
(72)【発明者】
【氏名】松尾 直紀
(72)【発明者】
【氏名】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西本 友之
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-206079(JP,A)
【文献】特開平11-103861(JP,A)
【文献】KAWAI F et al.,Biochemistry of microbial polyvinyl alcohol degradation,Appl Microbiol Biotechnol,2009年,Vol.84,227-237,Abstact
【文献】SHIMAO M et al.,The gene pvaB encodes oxidized polyvinylalcohol hydrolase of Pseudomonas sp. strain VM15C and forms,Microbiology,2000年,Vol.146,649-657,Abstract
【文献】KLOMKLANG W et al.,Biochemical and molecular characterization of a periplasmic hydrolase for oxidized polyvinyl alcohol,Microbiology,2005年,Vol.151,1255-1262,Abstract
【文献】SHIMAO M et al.,Properties and Roles of Bacterial Symbionts of Polyvinyl Alcohol-Utilizing Mixed Cultures,APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,1983年,Vol.46, No.3,605-610,page 605, Isolation procedure for bacterial symbionts.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
C12N 9/
C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)乃至(7)の特徴を有するポリビニルアルコール分解酵素:
(1)ポリビニルアルコールを酸化し、過酸化水素を生成する活性を有する;
(2)β-ジケトンを加水分解する活性を有する;
(3)SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において分子量100,000±20,000を示す;
(4)至適温度
pH7.0、60分間反応の条件下で、35乃至40℃;
(5)至適pH
27℃、60分間反応の条件下で、pH6.5乃至8.0;
(6)温度安定性
pH7.0、60分間保持の条件下で、45℃まで安定;及び
(7)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で、pH4.5乃至10.5で安定。
【請求項2】
さらに、下記(8)の特徴を有する請求項1記載のポリビニルアルコール分解酵素:
(8)N末端アミノ酸配列として、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。
【請求項3】
配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列か、又は、それらアミノ酸配列において、ポリビニルアルコール分解酵素の活性を保持する範囲で1個以上のアミノ酸残基が欠失、付加若しくは置換したアミノ酸配列であって、且つ、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列との相同性(配列同一性)が90%以上であるアミノ酸配列を有する請求項記載のポリビニルアルコール分解酵素。
【請求項4】
シュードモナス(Pseudomonas)属微生物由来の酵素である請求項記載のポリビニルアルコール分解酵素。
【請求項5】
請求項3記載のポリビニルアルコール分解酵素をコードするDNA。
【請求項6】
配列表における配列番号4又は5で示される塩基配列か、若しくは、それらの塩基配列において、コードするポリビニルアルコール分解酵素の活性を保持する範囲で1個以上の塩基が欠失、付加若しくは置換した塩基配列であって、且つ、配列表における配列番号4又は5で示される塩基配列との相同性(配列同一性)が90%以上である塩基配列、又はそれらに相補的な塩基配列を有する請求項5記載のDNA。
【請求項7】
遺伝子コードの縮重に基づき、コードするアミノ酸配列を変えることなく、配列表における配列番号4又は5で示される塩基配列における塩基の1個以上を他の塩基で置換した請求項5又は6記載のDNA。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載のDNAと自律複製可能なベクターを含んでなる複製可能な組換えDNA。
【請求項9】
請求項8記載の組換えDNAを適宜の宿主に導入してなる形質転換体。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれかに記載のポリビニルアルコール分解酵素の産生能を有する微生物を栄養培地で培養する工程、及び得られる培養物から、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリビニルアルコール分解酵素を採取する工程を含むことを特徴とするポリビニルアルコール分解酵素の製造方法。
【請求項11】
微生物が、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物である請求項10記載のポリビニルアルコール分解酵素の製造方法。
【請求項12】
請求項9記載の形質転換体を培養し、培養物から組換え型ポリビニルアルコール分解酵素を採取することを特徴とする組換え型ポリビニルアルコール分解酵素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール分解酵素とその製造方法に関し、詳細には、新規ポリビニルアルコール分解酵素とその製造方法、当該酵素をコードするDNAとこれを含んでなる組換えDNA、及び、形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略称する。)は、酢酸ビニルのモノマーを重合させて得られるポリマーであるポリ酢酸ビニルを、鹸化(アルカリ加水分解)することにより得られる水溶性のポリマーであって、接着性、粘結性、造膜性、被膜性、界面活性に優れるとともに高い化学安定性を備えていることから、ビニロン繊維、繊維糊剤、紙加工剤、接着剤、フィルム、及び重合助剤等の原料として工業的に広く用いられている。ただし、繊維糊剤などの用途では、使用後にPVAを除去する必要があり、PVAの除去には大量の水や、薬剤などが用いられることから、コストに及ぼす影響や環境への負荷が大きい。PVAは合成高分子であるが故に自然界にて分解され難いという不都合を有している。
【0003】
PVAを分解する手段としては、PVAを含む工場廃液を処理するための活性汚泥からPVA分解能を有する微生物を単離し、当該微生物を用いてPVAを分解する試みが数多く報告されている。PVA分解能を有する微生物として、特許文献1乃至5などには、シュードモナス、アシネトバクター、スフィンゴピクシス(以前はスフィンゴモナス、シュードモナスに分類)、コマモナス(紅色細菌、光合成細菌)、ミクロバクテリウム、エンテロバクター、コリネバクテリウム、ロドコッカス、カセオバクター、キサントモナス、ナイセリア、バチルス、ブレビバクテリウム、エッシェリヒア、アエロバクター、アルカリゲネス、アグロバクテリウム、アルスロバクター、パエニバチラス、カルディオバクテリウム、ストレプトマイセス、ポヴァリバクター(以前はステロイドバクターに分類)、サラッソスピラなどの細菌が開示されており、また、ペニシリウム、ゲオトリカムなどのカビ類、担子菌類も開示されている。
【0004】
微生物によるPVAの分解は、一般に、PVAを酸化する酵素と酸化されたPVAを加水分解する酵素との共同作用により行われることが報告されている(非特許文献1)。図1にPVAの酵素分解メカニズムを模式的に示した。図1に見られるとおり、PVAを酸化する酵素としては、PVA酸化酵素(PVAオキシダーゼ、「第二級アルコールオキシダーゼ(Secondary Alcohol Oxidase)」とも呼称される。)と、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするPVA脱水素酵素(PVAデヒドロゲナーゼ,PVADH)の2種類が知られており、一方、酸化されたPVAを加水分解する酵素としては、酸化PVA加水分解酵素(酸化PVAヒドロラーゼ(Oxidized PVA Hydrolase、OPH)、「β-ジケトン加水分解酵素」とも呼称される。)が知られている。
【0005】
シュードモナス属微生物由来の第二級アルコールオキシダーゼ(PVA酸化酵素)及び酸化PVA加水分解酵素については、1970年代後半から1980年代前半にかけて、酵素の精製とその性質がそれぞれ報告されており(非特許文献2及び3)、PVA酸化酵素は分子量約50,000の単一ポリペプチドとして、また、酸化PVA加水分解酵素は分子量約38,000の単一ポリペプチドとして、それぞれ特徴付けられている。さらに、特定のクロマトグラフィー用担体を用いてPVA酸化酵素と酸化PVA加水分解酵素を効率的に分離精製する方法も報告されている(非特許文献4)。また、特許文献6には、シュードモナス属微生物の培養液から調製された「酵素組成物」が開示され、PVAを酸化可能な酵素と、酸化されたPVAを加水分解可能な酵素とを含む当該「酵素組成物」が、PVAを含む文化財を修復する際のPVAの除去に利用できることが記載されている。PQQを補酵素とするPVA脱水素酵素については、複数の微生物由来の酵素についてそのアミノ酸配列が明らかにされており(特許文献7、非特許文献5)、酸化PVA加水分解酵素については、シュードモナス属微生物由来の酵素のアミノ酸配列(特許文献3を参照)や、その立体構造までが既に明らかにされている(非特許文献6)。その一方で、PVA酸化酵素をポリペプチドとして単一なレベルまで精製し、理化学的性質を明らかにした報告例は数少なく、また、具体的なアミノ酸配列などは一切報告されていない。このためPVAの分解にかかわる従来公知の酵素又は酵素群の実体には不明な点が多く、PVAの分解を産業的規模で安定的に、かつ効率良く行う上で十分なレベルにまでその実体が解明されたPVA分解酵素は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-000259号公報
【文献】特開2005-278639号公報
【文献】特開2006-042611号公報
【文献】特開2006-042612号公報
【文献】特開2006-180706号公報
【文献】特許第5891478号公報
【文献】特開平09-206079号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Matsumuraら、『マクロモレキュールズ(Macromolecules)』、32巻、7753-7761頁(1999年)
【文献】Moritaら、『アグリカルチュラル・バイオロジカル・ケミストリー(Agric.Biol.Chem.)』,第43巻、1225-1235頁(1979年)
【文献】Sakaiら、『アグリカルチュラル・バイオロジカル・ケミストリー(Agric.Biol.Chem.)』,第45巻、63-71頁(1981年)
【文献】Sakaiら、『アグリカルチュラル・バイオロジカル・ケミストリー(Agric.Biol.Chem.)』,第47巻、153-155頁(1983年)
【文献】Shimaoら、『Biosci.Biotechnol.Biochem.』、60巻、1056-1062頁(1996年)
【文献】Yangら、『Chembiochem.』、15巻,1882-1886頁(2014年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、そのアミノ酸配列のレベルまで実体が解明された新規なPVA分解酵素を提供するとともに、その製造方法、当該酵素をコードするDNA、これを含んでなる組換えDNA及び形質転換体を提供することにあり、以て、PVAの産業的規模での安定的かつ高効率の分解に資することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために、新規なPVA分解酵素に期待を込めて、PVAの分解に関与する酵素を産生する微生物について検討を重ねてきた。その過程で、従来よりPVA酸化酵素や酸化PVA加水分解酵素を産生することが知られていたシュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.) VT1B株(NBRC110478)が、意外にも、PVA酸化活性と酸化PVA加水分解活性の両方を併せ持ち、双頭酵素として単独でPVAを分解できる、全く新規なPVA分解酵素を産生することを見出した。そして、当該PVA分解酵素のアミノ酸配列並びに諸性質を明らかにするとともに、その製造方法を確立し、また、当該酵素をコードするDNAとこれを含んでなる組換えDNA及び形質転換体を確立して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記(1)乃至(3)の特徴を有する新規なPVA分解酵素を提供するとともに、その製造方法、当該酵素をコードするDNAとこれを含んでなる組換えDNA及び形質転換体を提供することによって上記課題を解決するものである:
(1)PVAを酸化し、過酸化水素を生成する活性を有する;
(2)β-ジケトンを加水分解する活性を有する;及び
(3)SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において分子量100,000±20,000を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、その実体がアミノ酸配列レベル並びにDNAレベルで解明された新規なPVA分解酵素とその製造方法を提供することができるので、分解酵素の産生も含めて、PVAの分解を工業的又は産業的規模で、より効率良く安定的に実行することが可能になるという利点が得られる。また、当該PVA分解酵素は、PVA酸化活性と酸化PVA加水分解活性の両方を併せ持つ双頭酵素であり、他の酵素と併用する必要がなく、それ単独でPVAを効率よく酸化及び分解することができるので、使い勝手が良いという利点を有している。このため、本発明が提供する新規なPVA分解酵素は、PVAの分解のみでなく、PVA含有製品の改質、改良など、PVAが関与する幅広い分野に有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】PVA酸化酵素と酸化PVA加水分解酵素の共同作用によるPVAの分解メカニズムを模式的に示した図である。
図2】PVA分解酵素の精製標品のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動図である。
図3】PVA分解酵素の精製標品PVA-AのPVA酸化活性の至適温度を示した図である。
図4】PVA分解酵素の精製標品PVA-AのPVA酸化活性の至適pHを示した図である。
図5】PVA分解酵素の精製標品PVA-AのPVA酸化活性の温度安定性を示した図である。
図6】PVA分解酵素の精製標品PVA-AのPVA酸化活性のpH安定性を示した図である。
図7】本発明のPVA分解酵素のN末端側前半部のアミノ酸配列と、公知のPVA脱水素酵素との相同性を調べた結果を示す図である。
図8】本発明のPVA分解酵素のC末端側後半部のアミノ酸配列と、公知の酸化PVA加水分解酵素との相同性を調べた結果を示す図である。
図9】PVA分解酵素、PVA-A及びPVA-Bの構造を模式的に示した図である。
図10】PVA分解酵素PVA-AをコードするDNAを含む自律複製可能な組換えDNA「pRSET A-PVA-A」の構造を示す模式図である。
図11】基質PVAにPVA分解酵素PVA-Aを作用させて得られたPVA分解物のゲル濾過クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下記(1)乃至(3)の特徴を有する新規なPVA分解酵素に係るものである:
(1)PVAを酸化し、過酸化水素を生成する活性を有する;
(2)β-ジケトンを加水分解する活性を有する;及び
(3)SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において分子量100,000±20,000を示す。
【0014】
本発明のPVA分解酵素は、上記(1)に示されるとおり、基質としてのPVAを酸化するとともに過酸化水素を生成する反応を触媒する活性、すなわち、PVA酸化活性を有している。PVA酸化活性は、例えば、以下の方法により測定することができる。
【0015】
<PVA酸化活性の測定方法>
PVA(試薬級ポリビニルアルコール、重合度2,000、ナカライテスク株式会社販売)を2%(w/v)の濃度になるよう100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解した基質溶液0.5mLに、2%(w/v)のアジ化ナトリウム溶液を15μL添加し、これに酵素液0.5mLを添加し27℃で60分間振トウしながら反応させる。反応後、反応液0.32mLをチタニウム試薬0.8mLと混合して反応を停止させ、酵素反応により生成した過酸化水素とチタニウム試薬が反応して生ずる黄色い呈色を410nmの吸光度(A410)を指標に測定する。別途、基質溶液に酵素液を添加し、直ちにチタニウム試薬と混合し同様に測定した値を反応0分の値とし、以下に示す式に基づき生成した過酸化水素の量を求めPVA酸化活性を算出する。因みに、過酸化水素が3.65μモル/mL生成すると、410nmの吸光度(A410)は「1」変化することが分かっているので、下記式1においては、吸光度の変化量に「3.65」の係数が乗算されている。PVA酸化活性1単位は、上記条件下で1分間に1μモルの過酸化水素を生成する酵素量と定義する。なお、チタニウム試薬は、硫酸チタン(IV)溶液(5%、ナカライテスク株式会社販売)を10%(w/w)硫酸にて25倍希釈して調製する。
【0016】
式1:
【数1】
【0017】
また、本発明のPVA分解酵素は、上記(2)に示されるとおり、β-ジケトンを加水分解する活性、すなわち、β-ジケトン加水分解活性を有している。β-ジケトン加水分解活性を有する酵素はβ-ジケトン構造を有する酸化されたPVA(酸化PVA)を加水分解することができる。β-ジケトン加水分解活性は、β-ジケトン構造を有する酸化PVAのモデル化合物である2,4-ペンタンジオンの加水分解を調べることで確認できる。PVA分解酵素が2,4-ペンタンジオンを加水分解するとアセトンと酢酸を生成する。したがって、β-ジケトン加水分解活性は、2,4-ペンタンジオンを基質として用い、例えば、下記の方法で確認することができる。
【0018】
<β-ジケトン加水分解活性の確認方法>
2,4-ペンタンジオン(試薬、和光純薬工業株式会社販売)を0.2%(w/v)の濃度になるように調製した50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)1mLを基質溶液とし、これに酵素液0.2mL、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)0.8mLを添加し、27℃で3時間振トウして反応させる。反応後、2mLの反応液をガラスバイアルに分注、密閉し、95℃、40分間加熱し、バイアル中の気体1mLを採取して下記のガスクロマトグラフィー(GC)分析に供することにより、2,4-ペンタンジオンの加水分解産物であるアセトンを検出する。アセトンの生成が認められた酵素液を「β-ジケトン加水分解活性あり」と判定する。
【0019】
(GC条件)
装置:GC-2010 Plus(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-5(Part number.122-5032)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
気化室温度:150℃; 注入モード:スプリット;
キャリアガス:ヘリウム;
制御モード:線速度 圧力:114.6kPa
全流量:12.6mL/分 カラム流量:1.6mL/分
線速度:35.0cm/秒 パージ流量:3.0mL/分
スプリット比:5.0
カラム温度:40℃; 平衡時間:1.0分;
カラム温度プログラム:カラム温度40℃で5分間保持した後、12分かけて100℃まで5℃/分で昇温し、次いで、15分かけて250℃まで10℃/分で昇温した後、250℃で3分間保持
検出器:FID; 検出器温度:260℃;
【0020】
本発明のPVA分解酵素は、上述したPVA酸化活性(特徴(1))とβ-ジケトン加水分解活性(特徴(2))とを併せ持つことによって、PVA分解活性を有し、単独でPVA分解酵素として機能するものであるが、PVA分解酵素としての活性は、例えば、下記の方法でPVAの分解にともなうPVA溶液の粘度低減を指標として測定することができる。
【0021】
<PVA分解活性(粘度低減活性)の測定方法>
PVA(試薬級ポリビニルアルコール、重合度2,000、ナカライテスク株式会社販売)を2%(w/v)の濃度になるよう100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に溶解した基質溶液0.5mLに、2%(w/v)のアジ化ナトリウム溶液を15μL添加し、これに酵素液0.5mLを添加し27℃で60分間振トウしながら反応させる。反応後、反応液0.6mLを用い、コーンプレート型粘度計(商品名『DV-II+Pro』、ブルックフィールド社製)を使用して、30℃で粘度を測定する。別途、基質溶液に酵素液を添加し、直ちに測定した粘度を反応0分の粘度とし、下記式に基づきPVA分解活性を算出する。PVA分解活性1単位は、上記条件下、1分間に10%の相対粘度の低減を引き起こす酵素量と定義する。
【0022】
式2:
【数2】
【0023】
さらに、本発明のPVA分解酵素は、通常、上記(3)に示される特徴、すなわち、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)において、100,000±20,000の分子量を示すという特徴を有する。
【0024】
また、本発明のPVA分解酵素の好適な一態様としては、PVA酸化活性に関し、下記(4)乃至(7)の酵素学的性質を有する酵素が挙げられる:
(4)至適温度
pH7.0、60分間反応の条件下で、35乃至40℃;
(5)至適pH
27℃、60分間反応の条件下で、pH6.5乃至8.0;
(6)温度安定性
pH7.0、60分間保持の条件下で、45℃まで安定;及び
(7)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で、pH4.5乃至10.5で安定。
【0025】
さらに、本発明のPVA分解酵素のより好適な一態様としては、下記(8)の特徴をさらに有する酵素が挙げられる:
(8)N末端アミノ酸配列として、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。
【0026】
本発明のPVA分解酵素は、通常、ポリペプチドとして所定のアミノ酸配列を有しており、その好適な例としては、例えば、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列、又は、それらに相同的なアミノ酸配列が挙げられる。配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を有する酵素としては、PVAを酸化し過酸化水素を生成する活性、及び、β-ジケトンを分解する活性を保持する範囲で、配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列において1個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列を有するものが挙げられ、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列に対し、通常、84%以上、望ましくは、90%以上、さらに望ましくは、95%以上の相同性(配列同一性)を有するアミノ酸配列を有するものが好適である。
【0027】
本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列として例示される、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列は、実験の項で後述するように、いずれもアミノ酸配列のN末端側前半部に公知のPVA脱水素酵素と相同性を示す領域が、また、C末端側後半部に公知の酸化PVA加水分解酵素と相同性を示す領域がそれぞれ存在するという、特徴的な構造を有するアミノ酸配列である。このような特徴的なアミノ酸配列を有しているという知見は、本発明のPVA分解酵素が双頭酵素として、そのポリペプチドのN末端側前半部でPVAを酸化し、C末端側後半部で酸化PVAを加水分解している可能性を示唆している。
【0028】
なお、後述する実験の項でも示すとおり、ポリペプチドのN末端側前半部に由来するPVA酸化酵素フラグメントと、ポリペプチドのC末端側後半部に由来する酸化PVA加水分解酵素フラグメントが、シュードモナス・スピーシーズ VT1B株の培養液中に実際に認められたことから、本発明のPVA分解酵素が双頭酵素として機能しており、当該N末端側前半部と当該C末端側後半部とにそれぞれPVA酸化酵素と酸化PVA加水分解酵素が存在していることが実証された。このことは、必要に応じ、本発明のPVA分解酵素を人為的にプロテアーゼなどで限定分解することにより、PVA酸化酵素と酸化PVA加水分解酵素とを別々に調製できることを物語るものである。
【0029】
本発明のPVA分解酵素はその給源によって制限されないものの、好ましい給源として、シュードモナス属に属する微生物が挙げられ、本発明者らが見出した微生物、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)VT1B株又はその変異株が好適に用いられる。
【0030】
本発明のDNAとは、前述した本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA全般を意味する。本発明のDNAは、本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものである限り、それが天然由来のものであっても、人為的に合成されたものであってもよい。天然の給源としては、例えば、シュードモナス・スピーシーズ VT1B株を含むシュードモナス属の微生物が挙げられ、これらの菌体から本発明のDNAを含むゲノムDNAを得ることができる。すなわち、斯かる微生物を栄養培地に接種し、好気的条件下で約5乃至10日間培養後、培養物から菌体を採取し、リゾチームやβ-グルカナーゼなどの細胞壁溶解酵素や超音波で処理することにより当該DNAを含むゲノムDNAを菌体外に溶出させる。このとき、プロテアーゼなどの蛋白質分解酵素を併用したり、SDSなどの界面活性剤を共存させたり凍結融解してもよい。斯くして得られる処理物に、例えば、フェノール抽出、アルコール沈殿、遠心分離、リボヌクレアーゼ処理などの常法を適用すれば目的のゲノムDNAが得られる。本発明のDNAを人為的に合成するには、例えば、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列に基づいて化学合成すればよい。また、当該DNAを含むゲノムDNAを鋳型として、適当なプライマーとなる化学合成DNAを用いてPCR合成することも有利に実施できる。
【0031】
本発明のDNAは、通常、所定の塩基配列を有しており、その一例としては、配列表における配列番号4又は5で示される塩基配列、又はそれらに相同的な塩基配列、さらには、それらの塩基配列に相補的な塩基配列が挙げられる。配列表における配列番号4又は5で示される塩基配列に相同的な塩基配列を有するDNAとしては、コードするPVA分解酵素の活性を保持する範囲で、配列番号4又は5で示される塩基配列において1個以上の塩基が欠失、置換若しくは付加した塩基配列を有するものが挙げられ、配列番号4又は5で示される塩基配列に対し、通常、82%以上、望ましくは、85%以上、さらに望ましくは、90%以上、またさらに望ましくは95%以上の相同性(配列同一性)を有する塩基配列を有するものが好適である。また、これらPVA分解酵素をコードするDNAにおいて、遺伝子コードの縮重に基づき、それぞれがコードするPVA分解酵素のアミノ酸配列を変えることなく塩基の1個又は2個以上を他の塩基に置換したものも当然、本発明のDNAに包含される。
【0032】
本発明のDNAを、自律複製可能な適宜ベクターに挿入して組換えDNAとすることも有利に実施できる。組換えDNAは、通常、DNAと自律複製可能なベクターとからなり、DNAが入手できれば、常法の組換えDNA技術により比較的容易に調製することができる。斯かるベクターの例としては、プラスミド、ファージ又はコスミド等を用いることができ、導入される細胞又は導入方法に応じて適宜選択できる。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。宿主細胞の種類に応じて、確実に上記遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと上記遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。かかる発現ベクターとしては、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウィルスベクター、レトロウィルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクター及びウィルス由来ベクター(例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント及びウィルス(例えば、バキュロウィルス、パポバウィルス、ワクシニアウィルス、アデノウィルス、トリポックスウィルス、仮性狂犬病ウィルス、ヘルペスウィルス、レンチウィルス及びレトロウィルス))並びにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミド及びファージミド)を利用可能である。
【0033】
細菌における使用に好ましいベクターとしては、例えば、pQE-70、pQE-60、pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluesciptベクター、pNH8A、pNH6a、pNH18A及びpNH46A;並びにptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540及びpRIT5などが挙げられる。また、真核生物における使用に好ましいベクターとしては、pWLNE0、pSV2CAT、pOG44、pXT1及びpSG;並びにpSVK3、pBPV、pMSG及びpSVLなどが挙げられる。
【0034】
本発明のDNAを斯かるベクターに挿入するには、斯界において通常一般の方法が採用される。具体的には、まず、目的とするDNAを含む遺伝子DNAと自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断し、次に、生成したDNA断片とベクター断片とを連結する。斯くして得られる組換えDNAは、適宜宿主に導入して形質転換体とし、これを培養することにより無限に複製することができる。
【0035】
このようにして得られる組換えDNAは、大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母をはじめとする適宜の宿主微生物に導入することができる。形質転換体を取得するには、コロニーハイブリダイゼーション法を適用するか、栄養培地で培養し、PVA分解酵素を産生するものを選択すればよい。
【0036】
本発明のPVA分解酵素は、PVA酸化活性と酸化PVA加水分解活性とを併せ持ち、さらに、実験の項で後述するように、酵素ポリペプチドのアミノ酸配列のN末端側前半部に公知のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列と低いながらも相同性を示す領域を有し、また、C末端側後半部に公知の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列と比較的高い相同性を示す領域を有する。この知見に基づいて、本発明のDNA、すなわち、本発明のPVA分解酵素をコードするDNAの中間部に終始コドン、ターミネーター配列などを挿入することにより、PVA分解酵素のN末端側前半部のみのアミノ酸配列をコードするDNAを人為的に創出し、組換えDNA技術を用いて適宜の宿主微生物中でその改変遺伝子を発現させることにより、PVA酸化活性のみを有するポリペプチド(酵素)を創出でき、これを組換え型PVA酸化酵素として製造及び利用できる。
【0037】
本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列として例示した配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列と、同じく配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列とは、実験の項で後述するとおり、アミノ酸配列全体では相同性(配列同一性)が約84%を示すものの、公知のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列との相同性を有するN末端側前半部約450アミノ酸残基からなるアミノ酸配列の領域に限定すれば、その相同性(配列同一性)は約90%となる。このことから、上記で創出されるPVA酸化活性のみを有する酵素としては、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列のN末端側前半部約450アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有するか、又は、当該アミノ酸配列において、約90%の相同性(配列同一性)を維持する範囲内で1個以上のアミノ酸残基が欠失、付加又は置換した変異体酵素を挙げることができる。
【0038】
一方、同様に上述した知見に基づいて、本発明のDNA、すなわち、本発明のPVA分解酵素をコードするDNAの中間部にプロモーター配列、開始コドン、分泌シグナル配列をコードする塩基配列などを挿入することにより、本発明のPVA分解酵素のC末端側後半部のみのアミノ酸配列をコードするDNAを人為的に創出し、同様に発現させることにより、酸化PVA加水分解活性のみを有するポリペプチド(酵素)を創出でき、これを組換え型酸化PVA加水分解酵素として利用できる。
【0039】
また、上記のとおり、本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列として例示した配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列と、同じく配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列とは、アミノ酸配列全体では相同性(配列同一性)が約84%を示すものの、公知の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列との相同性を有するC末端側後半部約340アミノ酸残基からなるアミノ酸配列の領域に限定すれば、その相同性(配列同一性)は約85%となる。このことから、上記で創出される酸化PVA加水分解活性のみを有する酵素としては、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列のC末端側後半部約340アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有するか、又は、当該アミノ酸配列において、約85%の相同性(配列同一性)を維持する範囲内で1個以上のアミノ酸残基が欠失、付加又は置換した変異体酵素を挙げることができる。
【0040】
さらに、本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列として例示した配列表における配列番号2及び3で示されるアミノ酸配列は、そのいずれにおいても、N末端側前半部のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列と相同性を示す領域とC末端側後半部の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列と相同性を示す領域との間に、約90乃至100アミノ酸残基の配列からなるリンカー部を有している。本発明のPVA分解酵素がN末端側前半部のみでPVA酸化酵素の機能を有し、C末端側後半部のみで酸化PVA加水分解酵素の機能を有しているのであれば、当該リンカーが2種類の酵素活性に悪影響を及ぼすことなく、双頭酵素の構成に役立っていると考えられる。当該リンカー部は、本発明のPVA分解酵素のみでなく、他の適宜の2種類の酵素を連結し双頭酵素とするために利用できる可能性がある。
【0041】
本発明のPVA分解酵素産生能を有する微生物(形質転換体を含む)の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、PVA分解酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地及び天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が生育に利用できる物であればよく、例えば、グリセリン、エチレングリコール、PVAなどのポリアルコール類、植物由来の澱粉やフィトグリコーゲン、動物や微生物由来のグリコーゲンやプルラン、また、これらの部分分解物やグルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸も使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択できる。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物、及び、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を適宜用いることができる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などの塩類を適宜用いることができる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いることができる。
【0042】
微生物の培養は、通常、温度15乃至37℃でpH5.5乃至10の範囲、好ましくは温度20乃至34℃でpH5.5乃至8.5の範囲から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は当該微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは5日間乃至10日間である。また、培養条件における培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、攪拌したりするなどの手段を適宜採用する。また、培養方式は、回分培養または連続培養のいずれでもよい。
【0043】
このようにして微生物を培養した後、本発明のPVA分解酵素を含む培養物を回収する。PVA分解酵素の活性は、主に培養物から菌体を除去して得られる培養上清に認められ、培養上清を粗酵素液として採取することも、培養物全体を粗酵素液として用いることもできる。培養物から菌体を除去するには公知の固液分離法が採用される。例えば、培養物そのものを遠心分離する方法、あるいは、プレコートフィルターなどを用いて濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などの膜濾過により分離する方法などが適宜採用される。培養上清をそのまま粗酵素液として用いることができるものの、一般的には、濃縮して用いられる。濃縮法としては、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空膜などを用いた膜濃縮法などを採用することができる。
【0044】
上記のように本発明のPVA分解酵素は、粗酵素液をそのまま又は濃縮して用いることができるものの、必要に応じて、公知の方法によって、さらに分離・精製して利用することもできる。例えば、実験の項で後述するように、培養液の処理物を硫安塩析して濃縮した部分精製酵素を透析後、『DEAE-トヨパール(Toyopearl)650S』を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、『CM-トヨパール650S』を用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、本発明のPVA分解酵素を電気泳動的に単一な酵素として得ることができる。また、PVA分解酵素の精製には、その他、疎水カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、調製用等電点電気泳動などの適宜の精製方法が有利に利用できる。
【0045】
PVA分解酵素が組換え型酵素である場合には、宿主の種類によっては菌体内に酵素が蓄積することがある。このような場合には、菌体又は培養物をそのまま使用することも可能であるものの、通常は使用に先立ち、必要に応じて、浸透圧ショックや界面活性剤により菌体から抽出した後、又は、超音波や細胞壁溶解酵素により菌体を破砕した後、濾過、遠心分離などにより組換え型酵素を菌体又は菌体破砕物から分離して用いることも有利に実施できる。
【0046】
本発明のPVA分解酵素の基質としてのPVAは、その分子量(又は重合度)、鹸化度により、特に限定されるものではないが、一般的には、分子量は15,000~200,000(重合度は400~3,900)、鹸化度は70~99モル%等のものが挙げられる。
【0047】
本発明のPVA分解酵素を基質であるPVAに作用させるに際しては、その基質濃度は特に限定されず、例えば、基質濃度0.1%(w/v)の比較的低濃度の溶液を用いた場合でも、本発明のPVA分解酵素の反応は進行してPVAを分解する。工業的には、基質濃度1%(w/v)以上が好適であり、この条件でPVAを有利に分解できる。反応温度は反応が進行する温度、即ち55℃付近までで行えばよい。好ましくは25乃至50℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、4.5乃至8.0の範囲、好ましくはpH5.0乃至7.5の範囲に調整するのがよい。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており目的とする酵素反応の進行により適宜選択すればよい。
【0048】
以下、実験により本発明を詳細に説明する。
【0049】
<実験1:シュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)の培養と粗酵素剤の調製>
PVA(試薬級ポリビニルアルコール、重合度500、ナカライテスク株式会社販売)1g/L、リン酸二カリウム0.3g/L、リン酸一カリウム1g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、硝酸アンモニウム1g/L及び水からなる液体培地をpH7.0に調整後オートクレーブ(121℃、20分間)にて滅菌し、この滅菌培地に、別途ろ過滅菌した硫酸マグネシウム・7水和物、塩化カルシウム・2水和物及び硫酸第二鉄・7水和物をそれぞれ終濃度0.5g/L、0.05g/L及び0.02g/Lとなるように添加し、さらに、ろ過滅菌した塩酸チアミン及びピロロキノリンキノン(PQQ)をそれぞれ終濃度0.01g/L及び10μg/Lとなるように添加して得られる液体培地を培養に用いた。
【0050】
平板寒天培地にて継代培養したシュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)を白金耳でかきとり、滅菌した0.85%食塩水(約2mL)に懸濁した。懸濁液の濁度(波長660nmの吸光度、A660)を0.5に調整し、上記液体培地3mLを入れた試験管に60μL植菌し、27℃、240rpmで5日間振トウ培養してシード培養とした。
【0051】
さらに消泡剤(アデカノールLG-126)を終濃度0.2g/Lとなるように添加した以外は上記液体培地と同じものを200mLずつ20本の500mL容三角フラスコに分注し、それぞれに、上記で得たシード培養液を2%(v/v)ずつ植菌し、27℃、240rpmで10日間振トウ培養し、メイン培養とした。培養後、培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)して菌体を除き、培養上清約4Lを粗酵素液として得た。粗酵素液のPVA酸化活性は、全活性として約139単位であった。
【0052】
<実験2:PVA分解酵素の精製>
実験1で得た培養上清4Lに、終濃度60%飽和となるように硫安を添加し、4℃、24時間放置することにより塩析した。生成した塩析沈殿物を遠心分離(11,000rpm、30分間)にて回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、硫安塩析透析液として約45mLを得た。この硫安塩析透析液を『DEAE-トヨパール 650S』ゲル(東ソー株式会社製)を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量24mL)に供した。PVA酸化活性は、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したカラムに吸着することなく非吸着画分に溶出する活性画分と、カラムに吸着し同緩衝液の食塩濃度を0Mから0.5Mまで直線的に上昇させるグラジエント溶出にて溶出する活性画分とに分かれた。『DEAE-トヨパール 650S』ゲルに吸着し食塩で溶出させた活性画分を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に透析してPVA分解酵素精製標品(PVA-B)とした。
【0053】
次いで、『DEAE-トヨパール 650S』を用いた陰イオン交換カラムに非吸着であった活性画分を『CM-トヨパール 650S』ゲル(東ソー株式会社製)を用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量23mL)に供した。PVA酸化活性は『CM-トヨパール 650S』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.08M付近に溶出した。活性画分を回収し、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に透析してPVA分解酵素精製標品(PVA-A)とした。
【0054】
上記精製工程の各段階におけるPVA分解酵素の、PVA酸化活性としての全活性、全蛋白、比活性及び収率を表1にまとめた。また、別途、培養上清(粗酵素)と精製酵素標品について定性的に確認した2,4-ペンタンジオン分解活性と、PVA酸化活性の測定と併せて精製工程の各段階で測定したPVA分解活性について、それぞれ表1に併記した。なお、表1における2,4-ペンタンジオン分解活性についての表記「○」は、2,4-ペンタンジオンの加水分解産物であるアセトンが検出されたことを意味する。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に見られるとおり、PVAを酸化して過酸化水素を生成するPVA酸化活性とβ-ジケトンである2,4-ペンタンジオンを加水分解する活性、さらには、PVA分解活性(粘度低減活性)のいずれをも有する2種類の精製酵素標品「PVA-A」及び「PVA-B」が得られた。
【0057】
PVA分解酵素精製標品としてのPVA-A及びPVA-Bを、それぞれSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(8乃至16w/v%濃度勾配)に供し、純度を検定したところ、いずれも単一な蛋白バンドを示し、純度の高い標品であることが判明した。
【0058】
<実験3:PVA分解酵素の性質>
<実験3-1:分子量>
実験2で得たPVA分解酵素精製標品、すなわち、PVA-A及びPVA-Bを、それぞれSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(8乃至16w/v%濃度勾配)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(商品名『プレシジョンPlusプロテイン未着色スタンダード』、日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社販売)と比較して分子量を測定した。結果を図2に示す。なお、図2において、符号Mは、同時に電気泳動した分子量マーカーを、符号A及びBは、それぞれPVA-A及びPVA-Bを意味する。図2に見られるとおり、PVA-A及びPVA-Bはいずれもほぼ単一な蛋白バンドを示し、また、分子量マーカーとの対比により、ほぼ同等の分子量、100,000±20,000を有することが判明した。
【0059】
<実験3-2:至適温度及び至適pH>
実験2で得たPVA分解酵素精製標品の内、PVA-Aを用い、PVA酸化活性を指標として、酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定法に準じ調べた。これらの結果を図3(至適温度)、図4(至適pH)に示した。なお、図4中の符号●、■及び▲は、それぞれ、pHコントロールに酢酸緩衝液、リン酸緩衝液及びグリシン-NaOH緩衝液を用いて測定した値を意味する。PVA酸化活性の至適温度は、pH7.0、60分間反応の条件下で、35乃至40℃であり、至適pHは、27℃、60分間反応の条件下で6.5乃至8.0であることが判明した。また、詳細なデータは省略するものの、PVA-BもPVA-Aとほぼ同じ至適温度及び至適pHを示した。
【0060】
<実験3-3:温度安定性及びpH安定性>
実験2の方法で得たPVA分解酵素精製標品の内、PVA-Aを用い、PVA酸化活性を指標として、温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。pH安定性は、酵素溶液を各pHの100mM緩衝液中で4℃、24時間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図5(温度安定性)、図6(pH安定性)に示した。なお、図6中の符号●、■、▲及び◆は、それぞれ、pHコントロールに酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液及び塩化カリウム-NaOH緩衝液を用いて得た値を意味する。図5から明らかなように、PVA酸化活性の温度安定性は45℃までであることが判明した。また、図6から明らかなように、PVA酸化活性のpH安定性はpH4.5乃至10.5の範囲であることが判明した。また、詳細なデータは省略するものの、PVA-BもPVA-Aとほぼ同じ温度安定性及びpH安定性を示した。
【0061】
<実験3-4:PVA酸化活性に及ぼす各種金属塩の影響>
実験2の方法で得たPVA-A及びPVA-Bの精製酵素標品を用い、PVA酸化活性を指標として、各種金属塩が酵素活性に及ぼす影響を濃度1mMの金属塩の存在下で活性測定方法に準じて調べた。結果を表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に見られるとおり、PVA酸化活性に及ぼす金属塩の影響においてPVA-AとPVA-Bとの間に大きな差は認められず、Hg2+、Fe3+イオンで著しく阻害され、また、EDTAによっても阻害されることが判明した。
【0064】
<実験3-5:PVA酸化活性についての基質特異性>
実験2の方法で得たPVA-A及びPVA-Bの精製酵素標品を用い、基質として各種の第二級アルコール、第一級アルコール、他に作用させ、PVA酸化活性についての基質特異性を調べた。すなわち、鎖長の異なる第一級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、デカノール)、第二級アルコール(2-プロパノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール、4-ヘプタノール、2-オクタノール、4-デカノール、2,4-ペンタンジオール)、第三級アルコール(tert-ブタノール)に対する酵素活性を測定した。基質濃度は1%(v/v)とし、水に溶解しないものは懸濁し飽和濃度とした。結果を表3に示した。
【0065】
【表3】
【0066】
表3に見られるとおり、PVA-A及びPVA-BはPVAに対する酸化活性を100%とした場合の相対活性で、第二級アルコールである4-ヘプタノールに対して12乃至21%と弱く作用し、同じく第二級アルコールである2-ヘキサノール、2-オクタノールに対して3乃至8%と僅かに作用した以外は、他の第二級アルコール、第一級アルコール、第三級アルコール(tert-ブタノール)、ジオールにはほとんど作用しなかった。
【0067】
<実験3-6:N末端アミノ酸配列>
実験2で得たPVA分解酵素の精製標品、すなわち、PVA-A及びPVA-BをそれぞれN末端アミノ酸配列分析に供し、N末端から20残基までのアミノ酸配列を解析した。なお、N末端アミノ酸配列分析は、ペプチドシーケンサー(装置名『PPSQ-31A』、島津製作所製)を用いて実施した。その結果、PVA-Aは、配列表における配列番号11で示されるアミノ酸配列、すなわち、アラニン-グルタミン酸-アスパラギン-トリプトファン-プロリン-メチオニン-フェニルアラニン-グリシン-リジン-アスパラギン-チロシン-グルタミン酸-アスパラギン-スレオニン-アルギニン-アラニン-スレオニン-セリン-アスパラギン酸-スレオニン;のアミノ酸配列を、また、PVA-Bは、配列表における配列番号12で示されるアミノ酸配列、すなわち、アラニン-グルタミン酸-アスパラギン-トリプトファン-プロリン-メチオニン-フェニルアラニン-グリシン-リジン-アスパラギン-チロシン-グルタミン酸-アスパラギン-セリン-アルギニン-アラニン-スレオニン-アラニン-アスパラギン酸-スレオニン;のアミノ酸配列を、それぞれ有していることが判明した。さらに、両者は、N末端から13残基までは同一のアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列を共通して有していることが判明した。
【0068】
<実験4:シュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)の全ゲノム解析>
本発明のPVA分解酵素をコードするDNAの塩基配列並びにPVA分解酵素のアミノ酸配列を決定するため、同酵素を産生するシュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)の全ゲノム解析を行った。
【0069】
<実験4-1:ゲノムDNAの調製>
平板寒天培地にて継代培養したシュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)を一白金耳かきとり、実験1で用いた液体培地3mLを入れた試験管に植菌し、27℃、240rpmで5日間振トウ培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して回収した菌体より、市販の全DNA精製キット(商品名『DNeasy Blood&Tissue Kit』,QIAGEN社販売)を用いて、常法によりゲノムDNAを調製した。
【0070】
<実験4-2:次世代シーケンサーを用いた全ゲノム塩基配列の決定>
実験4-1で得たゲノムDNAを市販のキット(商品名『Nextera XT DNA Library Preparation Kit』、イルミナ社販売)を用いて酵素的に断片化し、断片化したDNAの末端の平滑化処理とDNA末端へのアダプター配列の付加を行うことによりDNA断片をライブラリー化し、さらにPCRで増幅した後、市販のDNA精製キット(商品名『AMPure XP』、ベックマン・コールター社販売)を用いて精製した。次いで、ライブラリー化したDNA断片の塩基配列を次世代シーケンサー(装置名『MiSeq』、イルミナ社製)を用いて決定し、決定した各DNA断片の塩基配列(コンティグ配列)をコンピュータ上で統合することにより、全ゲノムDNAの塩基配列を得た。
【0071】
次いで、遺伝子領域予測ソフトウェア(『Glimmer』)を用いて全ゲノムDNAの塩基配列を解析し、蛋白質をコードしていると推定されるオープンリーディングフレーム(Open Reading Frame、ORF:推定遺伝子領域)を予測したところ、シュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)の全ゲノムDNAには、ORFが4,749個あることが判明した。
【0072】
<実験4-3:PVA分解酵素をコードするORFの同定>
実験4-2の全ゲノム解析において認められた4,749個のORFを対象とし、実験3-2で決定した2種のPVA分解酵素PVA-A及びPVA-BのN末端アミノ酸配列と一致するアミノ酸配列をコードするORFを検索したところ、PVA-AのN末端アミノ酸配列と完全に一致するアミノ酸配列がORF3286にコードされており、また、PVA-BのN末端アミノ酸配列と完全に一致するアミノ酸配列がORF3283にコードされていることが判明した。この結果から、ORF3286の塩基配列、すなわち配列表における配列番号4で示される塩基配列がPVA-Aの構造遺伝子DNAであり、PVA-Aは、配列表における配列番号4で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列から、分泌シグナル配列と推定されるN末端部分の26アミノ酸残基が除去されたアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列からなることが判明した。また、同様に、ORF3283の塩基配列、すなわち配列表における配列番号5で示される塩基配列がPVA-Bの構造遺伝子DNAであり、PVA-Bは、配列表における配列番号5で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列から、分泌シグナル配列と推定されるN末端部分の26アミノ酸残基が除去されたアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列からなることが判明した。
【0073】
因みに、配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるPVA-Aの分子量は101,426と、また、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるPVA-Bの分子量は109,679と算出され、これら両者の分子量はいずれも、前記実験3-1においてSDS-PAGEにより求めた分子量100,000±20,000とよく一致した。配列表における配列番号2で示されるPVA-Aのアミノ酸配列と、配列表における配列番号3で示されるPVA-Bのアミノ酸配列との相同性(配列同一性)を市販の遺伝情報処理ソフトウェア(『GENETYX Ver.13』、株式会社ゼネティックス販売)を用いて調べたところ、84%と算出された。また同様に、それぞれの酵素をコードする配列表における配列番号4で示される塩基配列と配列番号5で示される塩基配列との相同性(配列同一性)は82%と算出された。
【0074】
<実験5:PVA分解酵素のアミノ酸配列に基づく相同性探索>
実験4で得たPVA-A及びPVA-Bのアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号2又は3で示されるアミノ酸配列に基づき、配列データベースGenBankを対象にBLAST検索したところ、全く意外なことにPVA-A及びPVA-Bのアミノ酸配列は、GenBankに登録されているPVA脱水素酵素のアミノ酸配列、及びこれと触媒する反応が全く異なる酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列の双方と相同性を示すことが判明し、さらにこれらPVA-A及びPVA-Bのアミノ酸配列は、PVA脱水素酵素と相同性を示すN末端側前半部と、酸化PVA加水分解酵素と相同性を示すC末端側後半部がリンカーと予測される相同性が比較的低いアミノ酸配列を介して連結していることが判明した。
【0075】
上記BLAST検索において本発明のPVA分解酵素と相同性を有することが判明した公知の酵素群のアミノ酸配列の内、PVA-A及びPVA-BのN末端側前半部のアミノ酸配列と比較的高い相同性を有する酵素のアミノ酸配列として、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列(GenBank アクセッションNo.BAA94193.1)と、スフィンゴピクシス・スピーシーズ(Sphingopyxis sp.) 113P3株由来のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列(GenBank アクセッションNo.BAD95543.3)の2つのアミノ酸配列を選択し、その相同性を遺伝情報処理ソフトウェア(『GENETYX Ver.13』、株式会社ゼネティックス販売)を用いて調べた。
【0076】
その結果、PVA-Aのアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列のN末端側前半部(1乃至442残基)は、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来PVA脱水素酵素のアミノ酸配列(144乃至627残基)と約24%の相同性(配列同一性)を、また、同N末端側前半部(1乃至429残基)は、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列(151乃至627残基)と約26%の相同性(配列同一性)を示した。
【0077】
一方、PVA-Bのアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端側前半部(1乃至445残基)は、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来PVA脱水素酵素のアミノ酸配列(144乃至630残基)と約23%の相同性(配列同一性)を、また、同N末端側前半部(1乃至429残基)は、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列(151乃至627残基)と約25%の相同性(配列同一性)を示した。
【0078】
PVA-A及びPVA-BのN末端側前半部のアミノ酸配列と、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来、及び、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来PVA脱水素酵素のアミノ酸配列の計4種のアミノ酸配列の多重シークエンスアラインメントを図7に示した。PVA-A及びPVA-Bのアミノ酸配列のN末端側前半部が、それぞれシュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来、又は、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列と低いながらも相同性を示すことは、図7からも視覚的に見て取れる。これらの結果は、本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列のN末端側前半部が、PVA分解酵素が有する2つの活性の内、PVAを酸化する活性を有するドメインを形成していることを示唆するものである。
【0079】
また、N末端前半部のアミノ酸配列について調べたのと同様に、上記BLAST検索において本発明のPVA分解酵素と相同性を有することが判明した公知の酵素群のアミノ酸配列の中から、PVA-A及びPVA-BのC末端側後半部のアミノ酸配列と比較的高い相同性を有する酵素のアミノ酸配列として、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列(GenBank アクセッションNo.BAA94192.1)と、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列(GenBank アクセッションNo.BAD95542.3)の2つのアミノ酸配列を選択し、その相同性を同様に調べた。
【0080】
その結果、PVA-Aのアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列におけるC末端側後半部(625乃至973残基)は、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来酸化PVA加水分解酵素アミノ酸配列(34乃至379残基)と約54%の相同性(配列同一性)を、また、同C末端側後半部(643乃至973残基)は、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列(39乃至363残基)と約55%の相同性(配列同一性)を示した。
【0081】
一方、PVA-Bのアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列におけるC末端後半部(586乃至963残基)は、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列(3乃至379残基)と約50%の相同性(配列同一性)を、また、同C末端側後半部(619乃至963残基)は、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列(24乃至363残基)と約51%の相同性(配列同一性)を示した。
【0082】
PVA-AとPVA-BのC末端側後半部のアミノ酸配列と、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来、及び、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列の計4種のアミノ酸配列の多重シークエンスアラインメントを図8に示した。PVA-A及びPVA-Bのアミノ酸配列のC末端側後半部が、シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来、又は、スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来の酸化PVA加水分解酵素と比較的高い相同性を示すことは、図8からも視覚的に見て取れる。これらの結果は、本発明のPVA分解酵素のアミノ酸配列のC末端側後半部が、PVA分解酵素が有する2つの活性の内、酸化PVA加水分解活性を有するドメインを形成していることを示唆するものである。
【0083】
上記の知見をまとめ、PVA分解酵素としてのPVA-AとPVA-Bの構造を図9にそれぞれ模式的に示した。図9に見られるとおり、PVA-Aのアミノ酸配列(配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列)の内、442番目のアミノ酸残基までのN末端側前半部は、公知のPVA脱水素酵素のアミノ酸配列と相同性を示すPVAの酸化を触媒するドメインを形成しており、アミノ酸残基約90残基の長さのリンカー配列を介して、633番目のアミノ酸残基から963番目のアミノ酸残基までのC末端側後半部は、公知の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列と相同性を示す酸化PVAの加水分解を触媒するドメインを形成していることとなる。PVA-Bのアミノ酸配列(配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列)の場合もほぼ同様である。
【0084】
<実験9:PVA分解酵素をコードするDNAのクローニングと組換えDNAの調製>
ORF3286とORF3283がそれぞれコードするPVA分解酵素の分泌シグナル配列と推定される部分を欠損させたDNAをIn-Fusion反応させることによって、PVA-A又はPVA-BをコードするDNAのクローニングを行った。
【0085】
<実験9-1:PVA分解酵素をコードするDNAのクローニングと組換えDNAの調製>
まず、プラスミドベクターpRSET Aを鋳型とし、配列表における配列番号6及び7で示される塩基配列をそれぞれ有するプライマー1及びプライマー2を用いてPCRを行い、直鎖状のpRSET Aを作製した。次いで、ゲノムDNAを鋳型として、配列表における配列番号8及び9で示される塩基配列をそれぞれ有するプライマー3及びプライマー4を用いてPCRを行い、ORF3286がコードするアミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、すなわちPVA-AをコードするDNAを増幅した。また、同様に、ゲノムDNAを鋳型として、配列表における配列番号8及び10で示される塩基配列をそれぞれ有するプライマー3及びプライマー5を用いてPCRを行い、ORF3283がコードするアミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、すなわちPVA-BをコードするDNAを増幅した。
【0086】
上記で作製した直鎖状プラスミドとPVA-A遺伝子又はPVA-B遺伝子を市販のIn-Fusionクローニングキット(商品名『In-Fusion HD Cloning Kit』、タカラバイオ株式会社販売)を用いてIn-Fusion反応させることにより、それぞれ組換えプラスミドを作製し、それぞれ「pRSET A-PVA-A」及び「pRSET A-PVA-B」と名付けた。上記の方法で得られた、PVA-Aをコードする組換えDNAである「pRSET A-PVA-A」の構造を模式的に図10に示した。
【0087】
<実験9-2:形質転換体の調製とPVA分解酵素蛋白の発現>
実験9-1で得たPVA-Aをコードする組換えDNA、「pRSET A-PVA-A」を用い、常法に従い大腸菌HST08を形質転換して組換えDNAを大量調製した後、大腸菌BL21(DE3)を形質転換して組換え酵素の発現を試みたところ、組換えDNAの発現にともなう発現蛋白の生成が認められた。
【0088】
<実験10:PVA分解酵素によるPVAの分解>
実験2の方法で得たPVA-A精製酵素標品を用い、PVA濃度を変えた基質溶液に酵素作用量を変えて作用させ、溶液の粘度低下を指標としてPVAの分解を経時的に調べた。
【0089】
基質としてのPVA(試薬級ポリビニルアルコール、重合度2,000、ナカライテスク株式会社販売)、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、及び、同緩衝液に溶解したPVA-Aの精製酵素液を混合し、PVAの終濃度が1%、4%又は10%(w/v)、PVA-Aの酵素作用量がPVA1g当たりPVA酸化活性として1(又は1.25)、5又は10単位となる反応液(反応液量各1mL)を調製し、プラスチックチューブ内で35℃で1、4又は20時間、160rpmで振トウしながら反応させた。なお、各PVA濃度において、酵素液に替えて50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を加えたものを対照(酵素作用量0単位)とした。各条件下で反応させることにより得た反応液0.6mLをコーンプレート型粘度計(商品名『DV-II+Pro』、ブルックフィールド社製)を用いた粘度測定に供した。各反応条件における反応液の粘度を表4に纏めた。
【0090】
【表4】
【0091】
表4に見られるとおり、いずれのPVA濃度においても、PVA1g当たりPVA酸化活性として1単位以上のPVA分解酵素を作用させた場合、PVA溶液の粘度低下が観察された。濃度1%(w/v)のPVA溶液を基質とした反応では、反応開始時の溶液の粘度が2.7mPa・sであったものが、酵素作用量10単位で20時間作用させた反応液では粘度は1.2mPa・sまで低下した(因みに、同一条件での粘度測定において、精製水の粘度は約1.0mPa・sである。)。また、濃度4%(w/v)のPVA溶液を基質とした反応では、反応開始時の溶液の粘度が約36mPa・sであったものが、酵素作用量5単位で20時間作用させた反応液では粘度は約1/10の3.7mPa・sまで低下した。さらに、PVA分解酵素PVA-Aは10%(w/v)と比較的高濃度の基質溶液であっても良く作用し、PVA1g当たり5単位の酵素作用量で20時間作用させると、反応液の粘度が反応開始時の2,430mPa・sから約1/10の231mPa・sまで低下した。
【0092】
一方、PVA濃度1%(w/v)、酵素作用量10単位で20時間作用させて得た反応液について、PVA分解物の分子量を常法のゲル濾過HPLC法にて分析した。ゲル濾過HPLCは、カラムに『TSKgel α-4000』(東ソー株式会社製)を2本連結したものを用い、溶離液に50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、カラム温度40℃、流速0.5ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID-20A(株式会社島津製作所製造)を用いて行った。なお、PVA及びPVA分解物の分子量は、分子量測定用プルラン標準品(株式会社林原販売)を同様にゲル濾過HPLCに供して作成した分子量の検量線に基づきそれぞれ算出した。図11に反応液のゲル濾過HPLCクロマトグラム(図11における符号b)を、基質として用いたPVAのそれ(図11における符号a)と比較しつつ示した。
【0093】
図11に見られるとおり、基質として用いたPVA(符号a)は保持時間30.6分にピークトップを示し、その重量平均分子量(Mw)は約10.6×10と算出された。一方、PVA濃度1%(w/v)、酵素作用量10単位で20時間作用させて得たPVA分解反応液(符号b)では、分解物が保持時間40.4分にピークトップを示し、その重量平均分子量(Mw)は約4,400と算出された。この結果から、PVA分解反応液において基質としたPVAはPVA-Aにより低分子まで分解されていることが分かった。
【0094】
上記のとおり、本願のPVA分解酵素は単独で効率よくPVAを分解することができる。このことは、本願のPVA分解酵素が、PVA酸化活性と酸化PVA加水分解活性の両方を有する双頭酵素であって初めて可能なことである。
【0095】
<実験11:PVA酸化酵素フラグメントと酸化PVA加水分解酵素フラグメントの検出>
実験2のPVA-A及びPVA-Bの精製工程におけるCM-トヨパール650Sカラムクロマトグラフィーにより得られたフラクションには、PVA-A及びPVA-B以外にもPVA酸化活性を示す画分が認められ、同画分を実験3と同様のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供したところ、PVA-A及びPVA-Bよりも低分子の分子量約50,000の蛋白質バンドが検出された。この蛋白質について実験3-6と同様の方法でN末端アミノ酸配列をN末端から20残基調べたところ、PVA-AのN末端アミノ酸配列と全く同一のアミノ酸配列、すなわち、アラニン-グルタミン酸-アスパラギン-トリプトファン-プロリン-メチオニン-フェニルアラニン-グリシン-リジン-アスパラギン-チロシン-グルタミン酸-アスパラギン-スレオニン-アルギニン-アラニン-スレオニン-セリン-アスパラギン酸-スレオニン;が認められた。また、詳細なデータは省略するものの、PVA酸化活性を示す同画分には、酸化PVAを加水分解する活性は認められなかった。この結果は、同画分に存在するPVA酸化活性を有する酵素が、PVA-Aに由来するPVA酸化活性のみを有するPVA酸化酵素フラグメントであることを物語っている。
【0096】
また、同様に、実験2のPVA-A及びPVA-Bの精製工程におけるCM-トヨパール650Sカラムクロマトグラフィーにより得られたフラクションには、PVA-A及びPVA-Bとは異なり、且つ、酸化PVA加水分解活性を有する画分も見出された。同画分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供したところ、PVA-A及びPVA-Bよりも低分子の分子量約35,000の蛋白質バンドが検出された。この蛋白質について実験3-6と同様の方法でN末端アミノ酸配列を調べたところ、5アミノ酸残基が判明し、バリン-セリン-グリシン-グリシン-スレオニン;が認められた。このアミノ酸配列は、PVA-Aのアミノ酸配列、すなわち、配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列の623残基から627残基までのアミノ酸配列と完全に一致した。PVA-A及びPVA-Bのアミノ酸配列と公知の酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列とを比較した図8、及び、PVA-AとPVA-Bの構造を模式的に表わした図9、に示した知見と考え合わせると、このPVA-Aのアミノ酸配列の623残基から627残基までのアミノ酸配列をN末端アミノ酸配列として有する分子量約35,000の蛋白質は、PVA-Aに由来する酸化PVA加水分解活性のみを有する酸化PVA加水分解酵素フラグメントであると考えられた。
【0097】
上記結果は、シュードモナス・スピーシーズ VT1B株(NBRC110478)の培養液において、PVA酸化活性と酸化PVA加水分解活性の両方を併せ持つ双頭酵素として産生されたPVA分解酵素の内、少なくともPVA-Aが部分分解を受け、PVA酸化酵素フラグメントと酸化PVA加水分解酵素フラグメントとが生成していることを物語るものである。このことから、双頭酵素であるPVA-A及びPVA-Bをプロテアーゼで人為的に限定分解することで、PVA酸化酵素と酸化PVA加水分解酵素とを別々に調製することも可能と考えられる。
【0098】
以下、実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0099】
<PVA分解酵素の調製>
PVA(試薬級ポリビニルアルコール、重合度500、ナカライテスク株式会社販売)1g/L、リン酸一カリウム1g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、硝酸アンモニウム4g/L、硫酸マグネシウム・7水和物0.5g/L、酵母エキス(酵母エキスD-3H、日本製薬株式会社製)0.5g/L及び水からなる液体培地をpH7.0に調整後オートクレーブ(121℃、20分間)にて滅菌し、さらに、ろ過滅菌したピロロキノリンキノン(PQQ)を終濃度10μg/Lとなるように添加して得られる液体培地を培養に用いた。
【0100】
シュードモナス・スピーシーズ VT1B株を実験1と同じ方法でシード培養し、上記液体培地50mLを500mL容三角フラスコに分注したものに、シード培養液を1%(w/v)植菌し、27℃、240rpmで5日間振トウ培養した。培養後に得られた培養上清のPVA分解酵素の活性は、PVA酸化活性として0.034単位/mLであった。また、本培養上清を2,4-ペンタンジオンに作用させたところ、加水分解産物であるアセトンが検出され、β-ジケトン加水分解活性、すわなち、酸化PVA加水分解活性をも有していることが確認された。本培養上清は、PVA分解酵素の粗酵素として有利に利用することができる。
【実施例2】
【0101】
<PVA分解酵素剤>
実施例1の方法で得たシュードモナス・スピーシーズ VT1B株の培養液約1Lを遠心分離(10,000rpm、30分)し、得られた培養上清約960mL(PVA酸化活性約32単位)に25%飽和となるように硫安を添加、溶解し、冷室にて一夜放置した。得られた塩析物を遠心分離にて回収し、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、同緩衝液に対して透析した。得られた透析液について実験3-1の方法でSDS-PAGEを行ったところ、分子量100,000±20,000を示す蛋白バンドのみが検出され、培養上清中に認められた夾雑蛋白はほぼ除去されていた。この精製手段によって、PVA分解酵素が効率よく精製できることが分かった。得られた部分精製PVA分解酵素には、PVA酸化活性とともにβ-ジケトン加水分解活性、すわなち、酸化PVA加水分解活性が確認されたことから、PVA分解酵素剤として有利に利用することができる。
【実施例3】
【0102】
<PVA分解酵素剤>
実験1の方法で得たシュードモナス・スピーシーズ VT1B株の培養液約600mLを遠心分離(10,000rpm、30分)し、得られた培養上清約560mL(PVA酸化活性19.1単位)に60%飽和となるように硫安を添加、溶解し、冷室にて一夜放置した。得られた塩析物を遠心分離にて回収し、5mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、同緩衝液に対して透析した。得られた透析液を同リン酸緩衝液で平衡化した『トヨパール AF-Blue HC-650M』(官能基として「Cibacron Blue F3GA」を有する担体)を充填したカラムを用いた液体クロマトグラフィーに供し、塩化カリウム0Mから1Mのリニアーグラジエントにより溶出した。PVA分解酵素は、塩化カリウム濃度約0.2Mで溶出したため、活性画分を回収しPVA分解酵素部分精製品とした。本品は、PVA酸化活性とともにβ-ジケトン加水分解活性、すわなち、酸化PVA加水分解活性をも有することが確認されたことから、PVA分解酵素剤として有利に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、従来未知であった、PVA酸化活性と酸化PVA加水分解活性の両方を併せ持つ、全く新規な双頭酵素としてのPVA分解酵素を大量に製造し、提供することが可能となる。全く新規なPVA分解酵素の提供を可能とする本発明は、PVAの分解、除去などが求められる種々の利用分野に貢献することとなり、その産業的意義はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0104】
図2において、
M:分子量マーカー
A:PVA分解酵素精製標品PVA-A
B:PVA分解酵素精製標品PVA-B
図4及び図6において、
●:酢酸緩衝液
■:リン酸緩衝液
▲:グリシン-NaOH緩衝液
◆:塩化カリウム-NaOH緩衝液
図7及び図8において、
アミノ酸残基は一文字表記で示し、灰色で網掛けしたアミノ酸残基は比較した4種アミノ酸配列の内3種で一致しているアミノ酸残基を意味し、黒色で網掛けしたアミノ酸残基は4種アミノ酸配列の全てで一致しているアミノ酸残基を意味する。
PVA-A:PVA-Aのアミノ酸配列(配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列)
PVA-B:PVA-Bのアミノ酸配列(配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列)
PVADH_VM15C:シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来PVA脱水素酵素のアミノ酸配列
PVADH_113P3:スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来PVA脱水素酵素のアミノ酸配列
OPH_VM15C:シュードモナス・スピーシーズ VM15C株由来酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列
OPH_113P3:スフィンゴピクシス・スピーシーズ 113P3株由来酸化PVA加水分解酵素のアミノ酸配列
図9において、数字はアミノ酸残基番号を示し、NはN末端、CはC末端を意味する。
図10において、
f1 ori:f1ファージ複製起点
Ampicillin:アンピシリン耐性遺伝子
pUC ori:pUC複製起点
PVA-A:PVA-A遺伝子
図11において、
a:基質としたPVAのゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:PVA分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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