(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】化粧料基剤及びそれを用いた皮膚化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/91 20060101AFI20230327BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230327BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230327BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230327BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20230327BHJP
A61K 8/87 20060101ALI20230327BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20230327BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
A61K8/91
A61K8/02
A61K8/73
A61K8/81
A61K8/86
A61K8/87
A61Q1/02
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2019539564
(86)(22)【出願日】2018-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2018031890
(87)【国際公開番号】W WO2019044880
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/031338
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】上野 堅登
(72)【発明者】
【氏名】伊部 絢子
(72)【発明者】
【氏名】菊田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】堀 文香
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 大樹
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-030698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/91
A61K 8/02
A61K 8/73
A61K 8/81
A61K 8/86
A61K 8/87
A61Q 1/02
A61Q 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.15~0.6質量%のアクリル酸Naグラフトデンプン、及び
(B)0.25~1.35質量%のポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤、を含む化粧料基剤であって、
前記(A)アクリル酸Naグラフトデンプンと(B)ポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤との合計配合量が0.5~1.5質量%であ
り、
水膨潤性粘土鉱物を含まない、化粧料基剤。
【請求項2】
前記(B)ポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤が、(B-1)疎水変性ポリエーテルウレタン、(B-2)疎水変性アルキルセルロース、及び(B-3)ポリアクリレートクロスポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の化粧料基剤。
【請求項3】
前記(B-1)疎水変性ポリエーテルウレタンが、下記式(I):
【化1】
[式(I)中、
R
1
、R
2
およびR
4
は、それぞれ独立に炭素原子数2~4のアルキレン基、またはフェニルエチレン基を示し;
R
3
はウレタン結合を有していてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を示し;
R
5
は炭素原子数8~36の直鎖、分岐または2級のアルキル基を示し;mは2以上の数であり;hは1以上の数であり;kは1~500の数であり;nは1~200の数である。]
で表される、請求項2に記載の化粧料基剤。
【請求項4】
前記(B-1)疎水変性ポリエーテルウレタンが、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマーである、請求項3に記載の化粧料基剤。
【請求項5】
(B-2)疎水変性アルキルセルロースが、下記式(II):
【化2】
(Rは、結合基
R
1
-R
2
であり、
R
1
は、分子内で同一でも異なってもよく、-[CH
2CH(CH
3)O]
r-、-[CH
2CH
2O]
r-、及び、-[CH
2CH(OH)CH
2O]
r-から選ばれる1種以上の基(式中、rは、0~4の整数である)であり、
R
2
は、炭素原子数が12~28の炭化水素基、水素原子、及び、炭素原子数が1~4のアルキル基から選ばれる1種以上の基であり、少なくとも1カ所の
R
2
は、炭素原子数が12~28の炭化水素基である。Aは、基-(CH
2)
t-(tは、1~3の整数)であり、sは、100~10000の数である)で表される、請求項2に記載の化粧料基剤。
【請求項6】
前記(B-2)疎水変性アルキルセルロースが、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項5に記載の化粧料基剤。
【請求項7】
前記(B-3)ポリアクリレートクロスポリマーが、ポリアクリレートクロスポリマー-6である、請求項2に記載の化粧料基剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の化粧料基剤を含み、
水膨潤性粘土鉱物を含まず、5,000mPa・s~250,000mPa・sの粘度を持つジェル状である、皮膚化粧料。
【請求項9】
油分の配合量が20質量%以下である、
請求項8に記載の皮膚化粧料。
【請求項10】
粉末及び水溶性増粘剤(成分A及びBは除く)を更に含有する、
請求項8又は9に記載の皮膚化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な外観及び使用感を有する化粧料基剤及び当該基剤を用いた皮膚化粧料に関する。より詳細には、シャーベット様の外観を有し、肌に塗布すると化粧料が崩れて水が溢れだすような独特の感触を与えることのできる化粧料基剤及び皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や皮膚外用剤の技術分野においては、製剤の安定性や使用性の調整あるいは剤型保持等のために種々の増粘剤が配合されている。例えば、特許文献1には、水溶性モノマーと疎水性モノマーからなる比較的低分子量の疎水変性ポリエーテルウレタンからなる会合性増粘剤が、塩濃度やpHなどの外的要因に対して優れた増粘安定性を有し、しっとりさ等の使用性にも優れることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、疎水変性ポリエーテルウレタンと親水性化合物とからなるゲルを粉砕して得られるミクロゲル及び粉末を所定量配合した乳化化粧料が開示され、当該化粧料は、皮膚に塗布した際に浸透感を想起させる崩壊感を有すると記載されている。
【0004】
一方、アクリル酸Naグラフトデンプンは親水性(高吸水性)の高分子として知られ、それを配合することで、ムース状を呈し、ふんわりとした軽い独特の使用感及び清涼感に優れた化粧料が得られる(特許文献3)。そして、アクリル酸Naグラフトデンプン(デンプン・アクリル酸ブロック重合体)及び疎水変性ポリエーテルウレタン、更には水膨潤性粘土鉱物を組み合わせて配合することにより、化粧料の硬度の温度安定性を向上させた例がある(特許文献4)。しかしながら、特許文献4の発明は、化粧料を一定以上の硬度に維持することを目的とする発明であり、その目的を達成するためには、アクリル酸Naグラフトデンプンと疎水変性ポリエーテルウレタンのみでは足りず、更に水膨潤性粘土鉱物を配合する必要がある(特許文献4の比較例5及び6参照)。このようにして得られる化粧料は硬い使用感触のものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-239120号公報
【文献】特開2014-40385号公報
【文献】特開2011-256154号公報
【文献】特開2015-30698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記技術の現状に鑑み、本発明は、従来にない外観と使用感を有する化粧料基剤を提供すること、特に、外観がシャーベット様で見た目の清涼感を与え、なおかつ化粧料が柔らかくはじけて崩れるとともに水が溢れ出すような独特の感触を与える新規な使用感の化粧料基剤及びそれを用いた皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アクリル酸Naグラフトデンプン及び特定の増粘剤を組み合わせて配合するとともに、それら各々の配合量のみならず両者の合計配合量を特定範囲内になるよう調節することにより、前記独特の外観と使用感が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(A)0.15~0.6質量%のアクリル酸Naグラフトデンプン、及び
(B)0.25~1.35質量%のポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤、を含む化粧料基剤であって、
前記(A)アクリル酸Naグラフトデンプンと(B)ポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤との合計配合量が0.5~1.5質量%である化粧料基剤、及びそれを用いた皮膚化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化粧料基剤は、外観がシャーベット様で見た目の清涼感を与え、なおかつ肌に塗布すると柔らかくはじけて崩れるとともに水が溢れ出すような独特の感触を与える新規な外観及び使用感を有し、特に皮膚化粧料とするのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(A)アクリル酸Naグラフトデンプン
本発明の化粧料におけるアクリル酸Naグラフトデンプン(A成分)は、デンプンにアクリル酸をグラフト重合したもののナトリウム塩であり、高吸水性のポリマーとして知られ、化粧料分野においては、吸着剤、結合剤、乳化安定剤、親水性増粘剤等として使用されていた。
【0011】
特に限定されるものではないが、本発明におけるアクリル酸Naグラフトデンプンは、白色粒子状で調製された市販品として入手可能なものを使用することができる。市販品としては、例えば、MAKIMOUSSE7(平均粒径約7μm)、MAKIMOUSSE12(平均粒径約12μm)、MAKIMOUSSE25(平均粒径約25μm)、及びMAKIMOUSSE400(平均粒径約400μm)(以上、大東化成工業株式会社製)、Sanflesh ST-100C、ST100MC及びIM-300MC(以上、三洋化成工業株式会社製)等が挙げられる。
【0012】
また、デンプンを主鎖とし、アクリル系ポリマーがグラフトされた高吸水性ポリマーも本発明におけるアクリル酸Naグラフトデンプンに包含されるものとする。そのようなポリマー(INCI名:デンプン/アクリルアミド/アクリル酸ナトリウムコポリマー)の市販品としては、Water Lock A-240、A-180、B-204、D-223、A-100、C-200及びD-223(Grain Processing社製)が挙げられる。
【0013】
本発明の化粧料基剤における(A)アクリル酸Naグラフトデンプンの配合量は、化粧料基剤全量に対して0.15~0.6質量%、好ましくは0.15~0.55質量%、より好ましくは0.2~0.55質量%である。配合量が0.15質量%未満であるとシャーベット様の外観が得られない。配合量の下限値は、例えば、0.16質量%以上、0.17質量%以上、0.18質量%以上、0.19質量%以上、あるいは0.20質量%以上等の、上記範囲内の任意の値としてもよい。配合量が0.6質量%を超えると、ヌルついた使用感が生じる場合がある。配合量の上限値は、0.54質量%以下、0.53質量%以下、0.52質量%以下、0.51質量%以下、0.50質量%以下、あるいは0.49質量%以下等の上記範囲内の任意の値としてもよい。
【0014】
(B)ポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤
本発明における(B)成分は、分子内にポリオキシアルキレン鎖を持つ会合性増粘剤である。「会合性増粘剤」とは、水溶性モノマーからなる親水性部分と疎水性モノマーからなる疎水性部分を有する共重合体であり、水性溶媒中で疎水性相互作用により会合することで、あたかも物理的に架橋した巨大分子として振る舞うことによって系を増粘する作用を持つ増粘剤である(例えば、前記特許文献1の段落0014等を参照)。
【0015】
本発明の(B)成分は、親水性部分としてポリオキシアルキレン鎖を有する会合性増粘剤である。ポリオキシアルキレン鎖としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシブチレン鎖等が例示される。
なお、本明細書においては、以下、(B)成分を単に「会合性増粘剤」と称する場合がある。
【0016】
本発明における会合性増粘剤((B)成分)は、(B-1)疎水変性ポリエーテルウレタン、(B-2)疎水変性アルキルセルロース、及び(B-3)ポリアクリレートクロスポリマーからなる群から選択される少なくとも1種とするのが好ましい。本発明にあっては、(B-1)疎水変性ポリエーテルウレタン、(B-2)疎水変性アルキルセルロース、及び(B-3)ポリアクリレートクロスポリマーのいずれか1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0017】
(B-1)疎水変性ポリエーテルウレタン
本発明の化粧料基剤で用いられる疎水変性ポリエーテルウレタン(B-1成分)としては、下記式(I):
【化1】
で表される疎水変性ポリエーテルウレタンが好ましい。
【0018】
上記式(I)中、R1、R2およびR4は、それぞれ独立に炭素原子数2~4のアルキレン基、またはフェニルエチレン基を示す。好ましくは炭素原子数2~4のアルキレン基である。
R3はウレタン結合を有していてもよい炭素原子数1~10のアルキレン基を示す。
R5は炭素原子数8~36、好ましくは12~24の、直鎖、分岐または2級のアルキル基を示す。
mは2以上の数、好ましくは2である。hは1以上の数、好ましくは1である。kは1~500の数、好ましくは100~300の数である。nは1~200の数、好ましくは10~100の数である。
【0019】
本発明で特に好ましい疎水変性ポリエーテルウレタンとしては、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー(上記式(I)に示すコポリマーであって、R1=エチル基、R2及びR4は各々エチレン基、R3=ヘキサメチレン基、R5=デシルテトラデシル基、h=1、m=2、k=120、n=20であるもの)が挙げられる。当該コポリマーは、商品名「アデカノールGT700」又は「アデカノールGT730」として株式会社ADEKAから市販されている。
【0020】
(B-2)疎水変性アルキルセルロース
本発明で用いられる疎水変性アルキルセルロース(B-2成分)は、一般式(II)で示されるものが好ましい。
【0021】
【0022】
上記式(II)において、Rは、結合基R1-R2であり、R1は、分子内で同一でも異なってもよく、-[CH2CH(CH3)O]r-、-[CH2CH2O]r-、及び、-[CH2CH(OH)CH2O]r-から選ばれる基(式中、rは、0~4の整数である)であり、R2は、炭素原子数が12~28の炭化水素基(好ましくは炭素原子数が1~4のアルキル基)、及び水素原子から選ばれる1種以上の基であり、1分子中のR2の少なくとも1つは、炭素原子数が12~28の炭化水素基(好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基)である。Aは、基-(CH2)t-(tは、1~3の整数)であり、sは、100~10000の数である。
【0023】
式(II)の疎水変性アルキルセルロースは、水溶性セルロースエーテル誘導体に、ポリオキシアルキレン鎖を介して疎水性基である長鎖アルキル基を導入した構造を有する。分子の基となる水溶性セルロースエーテル誘導体は、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等であり、それらと長鎖アルキルグリシジルエーテル(例えば、下記式(II’)で表されるもの)とを反応させて得ることができる。
【0024】
【化3】
式(II‘)において、R’は、炭素原子数が10~28、好適には12~22のアルキル基である。
【0025】
上記の水溶性セルロースエーテル誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロースが好ましく、特に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを選択することが好適である。さらに、長鎖アルキルグリシジルエーテル(II’)のR’は、ステアリル基(-C18H37)またはセチル基(-C16H33)であることが好適である(これらの場合、-CH2CH(OH)CH2OR’は、-CH2CH(OH)CH2O-C18H37または-CH2CH(OH)CH2O-C16H33となる)。
【0026】
疎水変性アルキルセルロース(B-2成分)の最も好適な態様は、式(II’)における疎水基R’をステアリル基としたステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、「サンジェロース」という商品名で大同化成工業株式会社から市販されている製品を用いることも可能である。(商品名:サンジェロース90L、90M、90H、60L、60M、及び60H等)。
【0027】
(B-3)ポリアクリレートクロスポリマー
本発明で用いられるポリアクリレートクロスポリマー(B-3成分)は、好ましくは、ポリアクリレート系の主鎖をポリオキシアルキレン鎖で架橋したクロスポリマーである。会合性増粘剤として作用する限り、ポリアクリレート系の主鎖は、種々の置換基(側鎖)を有していてもよい。
【0028】
特に好ましいポリアクリレートクロスポリマー(B-3成分)の例として、ポリアクリレートクロスポリマー-6を挙げることができる。ポリアクリレートクロスポリマー-6は、アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム、ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸ラウリルとメタクリル酸ラウレス-4の共重合体をトリアクリル酸トリメチロールプロパンで架橋したものである。例えば、セピック(SEPPIC)社から「SEPIMAX ZEN」という商品名で市販されているものを使用できる。
【0029】
本発明における(B)会合性増粘剤の配合量は、化粧料基剤の全量に対して、0.25~1.35質量%、好ましくは0.25~1.0質量%、より好ましくは0.25~0.8質量%、最も好ましくは0.3~0.8質量%である。0.25質量%未満では本発明独特の使用感が実現できない。配合量の下限値は、例えば、0.26質量%以上、0.27質量%以上、0.28質量%以上、0.29質量%以上、あるいは0.30質量%以上等の、上記範囲内の任意の値としてもよい。1.35質量%を超えて配合すると、べたつきが生じる傾向がある。配合量の上限値は、1.30質量%以下、1.20質量%以下、1.10質量%以下、1.00質量%以下、0.80質量%以下、あるいは0.70質量%以下等の、上記範囲内の任意の値としてもよい。
【0030】
本発明の化粧料基剤は、(A)アクリル酸Naグラフトデンプン及び(B)会合性増粘剤の各々の配合量を上記の通りに特定するとともに、両者の合計配合量を0.5~1.5質量%の範囲に限定することによって、独特の外観及び使用感を達成している。この合計配合量の上限値は、1.3質量%以下とするのがより好ましく、1.2質量%以下とするのが更に好ましく、1.0質量%以下とするのが最も好ましい。合計配合量の下限値は、好ましくは0.55質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上である。
【0031】
本発明に係る化粧料基剤は、シャーベット様の外観及び崩れて水が溢れ出すような使用感を有することを特徴としており、これらの特徴を生かした皮膚化粧料として製剤するのが好ましい。よって本発明は、上述の化粧料基剤を含む皮膚化粧料にも関する。
本明細書における「水が溢れ出すような使用感」とは、塗布直後は化粧料から水があふれ出るよう感触を伴わないシャーベット状塗布物であるが、指や手などで押圧することにより化粧料内から水が飛び出すような感触を伴って肌上に水分が広がる状態になることを意味する。
【0032】
一方、本発明における「シャーベット様の外観」とは、化粧料自体は実際には氷を含んでいないが、その外観から氷と水とが混合したシャーベットを想起させる外観を意味する。そのような外観を有する化粧料は、使用者に塗布時の清涼感を期待させる。例えば、当該化粧料を冷蔵又は冷凍しておき、夏期の日光に曝された肌や疲労が蓄積したと感じる肌に低温の化粧料を塗布することにより、外観から期待される清涼感が実際に感じられると共に、みずみずしい使用感触によって極めて高い満足感を得ることができる。
【0033】
本発明の基剤を用いた皮膚化粧料は、その特徴から水性化粧料とするのが好ましい。本明細書における「水性皮膚化粧料」とは、油分の配合量が約20質量%以下の皮膚化粧料を意味する。場合によっては、油分の配合量を15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、あるいは5質量%以下等とすることができ、非常に軽い使用感が達成できる。さらに、油分の配合量を3質量%以下に減らすこと、又は油分を含まない化粧料とすることも可能である。
【0034】
なお、油分を配合する場合の配合量の下限値は特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上等とすることができる。本発明の水性皮膚化粧料の形態は特に限定されず、水溶液、水中油型乳化物、水中油中水型乳化物等の形態とすることができる。
【0035】
本発明の皮膚化粧料に配合可能な油分は、皮膚化粧料に通常配合され得る油分、例えば、液体油脂、固形又は半固形油脂、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油等から選択される1種又は2種以上であってよく、特に限定されない。
【0036】
具体例を挙げれば、アボカド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、オリーブ油、ヒマシ油、ホホバ油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリンなどの液体油脂、流動パラフィン、スクワラン、パラフィン、セレシン、スクワレンなどの炭化水素油、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸などの高級脂肪酸、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール、モノステアリルグリセロールエーテル、モノパルミチルグリセロールエーテル、コレステロール、フィトステロール、イソステアリルアルコールなどの高級アルコール、カプリル酸ヤシ油アルキル、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、ジオクタン酸エチレングリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、トリオクタン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラオクタン酸ペンタエリスリトール、トリオクタン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル油、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコンなどの直鎖状シリコーン油、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの環状シリコーン油、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、鯨ロウ、モンタンロウ、ヌカロウ、ラノリン、カポックロウ、モクロウ、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、還元ラノリン、ホホバロウ、硬質ラノリン、セラックロウ、ビースワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、POEラノリンアルコールエーテル、POEラノリンアルコールアセテート、POEコレステロールエーテル、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸クリセリド、硬化ヒマシ油、ワセリン、POE水素添加ラノリンアルコールエーテル等の常温で固形又は半固形状の油脂等が挙げられる。
【0037】
シリコーン油としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のシリコーン油、例えば、ジメチコン、フェニルジメチコン、アミノ変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油等が挙げられる。
【0038】
油分を配合する場合には、当該油分を乳化させる界面活性剤を配合するのが好ましい。本発明で用いる界面活性剤は、化粧料に使用出来るものであればよく特に限定されない。特に、HLB値が7以上、好ましくは10以上の親水性非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。
【0039】
また、本発明の効果を損なわない範囲内で、化粧料や皮膚外用剤に通常配合されている成分、例えば、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、酸化防止剤、粉体、色材等を必要に応じて配合することができる。
【0040】
例えば、本発明の皮膚化粧料にエタノール等の低級アルコール(炭素数1~6のアルコール)を配合すると、肌に塗布した際の清涼感及び爽快感を更に向上させることができる。本発明の皮膚化粧料は、疎水変性ポリエーテルウレタン及びアクリル酸Naグラフトデンプンの両方を含んでいるため、アルコールを配合しても粘度低下を起こさない。
また、本発明の皮膚化粧料にシリコーンエラストマーを配合すると、塗布後のべたつき感を更に抑制してサラサラした感触を維持することができる。
【0041】
また、本発明の化粧料は、顔料や色素等の色材を配合した着色化粧料として提供することもできる。色材としては、無機白色顔料(例えば、顔料級の酸化チタン及び酸化亜鉛等);微粒子金属酸化物(例えば、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛);無機赤色系顔料(例えば、チタン酸鉄等);無機紫色系顔料(例えば、マンゴバイオレット、コバルトバイオレット等);無機緑色系顔料(例えば、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等);無機青色系顔料(例えば、群青、紺青等);パール顔料(例えば、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドオキシ塩化ビスマス、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等);ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック;金属粉末顔料(例えば、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等);ジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキ等の有機顔料(例えば、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、橙色204号、黄色205号、黄色401号、青色404号、赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、緑色3号及び青色1号等);天然色素(例えば、クロロフィル、β-カロチン等)等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
色材として顔料を配合する場合、化粧料に水溶性増粘剤(前記A成分及びB成分以外)を配合すると顔料粉末の沈降が抑制されて安定性が向上する。水溶性増粘剤としては、寒天、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ペクチン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン等の動物系高分子、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOLなど)等のビニル系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト等の無機系水溶性高分子等が挙げられる。これらの水溶性増粘剤の中でも、寒天及び任意に他の水溶性増粘剤を含む水性ゲルを粉砕して得られる微粉状寒天を用いるのが有効である。
【0043】
水溶性増粘剤による安定化効果は、顔料を配合したときのみならず、無機粉末(例えば、タルク、カオリン、セリサイト、白雲母、合成雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、バーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、珪藻土、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、シリカ、ヒドロキシアパタイト、ゼオライト、窒化ホウ素、セラミクスパウダー等)及び/又は有機粉末(PMMA粉末、ナイロン粉末等)を配合した場合にも発揮される。
【0044】
本発明の皮膚化粧料の形態は、シャーベット様の外観を呈するジェル状であり、その粘度は、30℃においてB型粘度計で測定した値が、5,000mPa・s以上、好ましくは10,000mPa・s以上、より好ましくは20,000mPa・s以上とする。粘度の上限値としては、250,000mPa・s以下、好ましくは200,000mPa・s以下、より好ましくは150,000mPa・s以下である。
よって、寒天等の水溶性高分子の配合量は、0.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以下とする。
【0045】
本発明の皮膚化粧料は、従来から使用されている方法に準じて製造することができる。例えば、水性成分、粉末成分および油性成分を別途混合し、水性成分に粉末成分及び油性成分を加えて撹拌することにより製造することができる。
【0046】
本発明の皮膚化粧料は、特に、顔または身体用の水性化粧料として提供するのに適している。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。配合量については特記しない限り質量%を示す。
【0048】
下記の表に示す処方で皮膚化粧料(試料)を調製した。各例の試料について、以下の項目を評価した。結果を表に併せて示す。
<清涼感を想起させる外観(シャーベット様外観)>
<崩れて水が溢れ出すような独特の使用感(水崩れ感)>
【0049】
専門パネラー(女性10名)に各試料(組成物)を使用してもらい、シャーベット様の外観から清涼感を感じるか否か、肌に塗布してから本発明に独特の新規な使用感触を感じるか否か、について、下記の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
A+:10名中9名以上が感じると回答
A:10名中8名以上が感じると回答
B:10名中5~7名が感じると回答
C:10名中3~4名が感じると回答
D:10名中2名以下が感じると回答
【0050】
上記の他、「塗布したときの爽快感」、「塗布後のべたつきのなさ」、「化粧料のよれ」、「肌のしっとり感」についても同様の基準で評価した。
【0051】
【0052】
表1に示すように、(A)アクリル酸Naグラフトデンプン及び(B)会合性増粘剤((PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー)各々の配合量並びに両者の合計配合量が本発明の要件を満たす実施例1-1~1-3では、シャーベット様外観及び水崩れ感の評価が「A+」となり、殆ど全てのパネラーが優れた外観(シャーベット様外観)及び感触(水崩れ感)を実感した。しかし、(A)アクリル酸Naグラフトデンプン又は(B)会合性増粘剤((PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー)を含まない比較例1-1及び1-3、(B)会合性増粘剤の配合量が本発明の範囲に入らない比較例1-2では、優れた外観及び感触が得られなかった。
【0053】
前記の実施例1-1の処方において、(B)会合性増粘剤((PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー)及び(A)アクリル酸Naグラフトデンプンの配合量を変化させた試料についても同様に評価した。結果を下記の表2-1、2-2及び2-3に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
表2-1~表2-3に示すように、(A)アクリル酸Naグラフトデンプン及び(B)会合性増粘剤((PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー)各々の配合量並びに両者の合計配合量が本発明の要件を満たす場合は、シャーベット様外観及び水崩れ感の評価が「B」以上となり、半数以上のパネラーが優れた外観及び感触を有すると評価した。特に、合計配合量が1質量%以下であると、殆ど全てのパネラーが優れた外観及び感触を有すると評価した(A+又はA)。一方、本発明の要件を満たさない試料では、評価結果が「C」となり、優れた外観及び感触を感じたパネラーが半数未満であった。
【0058】
次いで、(B)会合性増粘剤を(B-2)疎水変性アルキルセルロース又は(B-3)ポリアクリレートクロスポリマーに置換した試料について同様の評価を実施した。結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
表3に示すように、(B)会合性増粘剤を(B-2)疎水変性アルキルセルロース(ステアロキシヒドロキシプロピルセルロース)又は(B-3)ポリアクリレートクロスポリマー-6に置換した試料についても、疎水変性ポリエーテルウレタンを用いた試料と同等の優れた外観及び感触を殆ど全てのパネラーが感じることが確認された。
【0061】
次に、本発明における任意成分が本発明の基剤及び化粧料に及ぼす影響を検討した。結果を以下の表4~7に示す。
【0062】
【0063】
(A)アクリル酸Naグラフトデンプンと(B)会合性増粘剤とを所定量含む本発明の試料では、エタノール配合による大幅な減粘や不安定化を生じずに爽快感(ひんやり感)が得られた(実施例4-1、4-2)。一方、(A)アクリル酸Naグラフトデンプンを含まない比較例4-1及び4-2は、50℃で3日間保存した後の粘度が大幅に低下し、乳化物の分離も見られた。この減粘は、配合した他の油分に起因するものではないことも確認した(比較例4-3及び4-4)。
【0064】
【0065】
(A)アクリル酸Naグラフトデンプンと(B)会合性増粘剤とを所定量含む本発明の試料では、配合する油分の種類を変更しても、シャーベット様外観及び水崩れ感という本発明の効果が得られることが確認された。油分の種類によって、塗布後のべたつき度合い又は化粧料のよれ具合に若干の変化が生じるが、いずれも問題無いレベルであった。
【0066】
【0067】
(A)アクリル酸Naグラフトデンプンと(B)会合性増粘剤とを所定量含む本発明の試料では、配合する油分の種類/量を変更しても、シャーベット様外観及び水崩れ感という本発明の効果が得られることが確認された。油分として、低粘度の直鎖状シリコーン油(シリコーンKF-96A-6T)を増量すると、塗布後のべたつきが更に抑制され(実施例6-2及び6-3)、シリコーンエラストマーを配合すると「しっとり」した感触が更に向上した。
【0068】
【0069】
(A)アクリル酸Naグラフトデンプンと(B)会合性増粘剤とを所定量含む本発明の試料では、配合する油分及び/又は界面活性剤の種類を変更しても、シャーベット様外観及び水崩れ感という本発明の効果が得られることが確認された。いずれの例も、塗布後のべたつきのなさ、しっとりした感触も優れていた。
【0070】
下記表8の処方で、顔料粉末で着色した化粧料(化粧料A)を調整した。
【表8】
【0071】
下記表9の組成を有する増粘剤水溶液(B)を別途調製した。
【表9】
【0072】
次いで、化粧料Aと増粘剤水溶液Bとを、質量比4:1で混合・撹拌して調整した化粧料Cと化粧料Aについて、上記と同様の評価を実施した。さらに、50℃で4週間静置した後の顔料粉末の沈降の有無を目視で観察し、結果を以下の基準で評価した。
A:粉末の沈降が見られずに安定であった。
C:粉末の沈降が見られた。
【0073】
【0074】
表10に示した結果から明らかなように、本発明に係る化粧料A及び化粧料Cは、シャーベット様の外観および水崩れ感を有し、塗布後のべたつきも感じなかった。化粧料Aでも十分なしっとり感を与えるが、水溶性増粘剤を配合した化粧料Cはしっとり感が更に向上した。また、顔料粉末を配合した化粧料Aを長期間放置すると粉末の沈降が生じたが、水溶性増粘剤を配合することによって粉末の沈降が有効に抑制された。
【0075】
以下に、本発明の化粧料の別の処方例を挙げる。
処方例:下地用ジェル
配合成分 配合量(質量%)
エチルアルコール 5
グリセリン 4
ジグリセリン 0.5
ジプロピレングリコール 5
ポリエチレングリコール1500 2
ソルビトール 3
マルチトール 3
PEG/PPG-14/7ジメチルエーテル 2
PEG/PPG-17/4ジメチルエーテル 0.1
(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー
0.5
アクリル酸Naグラフトデンプン 0.35
キサンタンガム 0.01
PEG/PPG-19/19ジメチコン 0.6
水添ポリイソブテン 0.6
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー
0.05
ジメチコン 5
フェノキシエタノール 適量
酸化チタン 0.9
ヒアルロン酸 0.0001
カミツレ抽出液 0.01
メントール 0.05
水酸化カリウム 0.03
EDTA-2Na・2H2O 適量
色素 適量
香料 適量
イオン交換水 残余