(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ハイブリッド電気推進システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20230327BHJP
B63H 21/20 20060101ALI20230327BHJP
B63H 21/16 20060101ALI20230327BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
H02P27/06
B63H21/20
B63H21/16
B63H21/17
(21)【出願番号】P 2020078658
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】土井 信明
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/234920(WO,A1)
【文献】特開2019-069686(JP,A)
【文献】特開2017-013715(JP,A)
【文献】特開2010-116760(JP,A)
【文献】特開2013-112304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B63H 21/20
B63H 21/16
B63H 21/17
B63W 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の推進力を発生させるガスタービンと電動機とを協調運転させることが可能なハイブリッド電気推進システムであって、
前記電動機の巻線に電流を流すインバータと、
条件により前記ガスタービンと前記電動機を協調運転させるように前記インバータを制御する制御部と、
を備え、
前記インバータの制御に関わる第1条件として、前記インバータの出力電流値が前記インバータの出力電流の定格電流値を超え、かつ前記インバータの出力電流値が前記出力電流の過電流許容値に基づいて決定された第1閾値以下であることが規定され、
前記制御部は、
前記協調運転させるように前記インバータを制御している協調運転期間に前記第1条件が満たされたことを前記第1閾値を用いて識別し、前記第1条件が満たされた場合に、前記ガスタービンの運転状態を識別して、前記識別結果に応じた運転モードで前記電動機を制御する、
ハイブリッド電気推進システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記協調運転期間内に前記第1条件が満たされた場合に、前記ガスタービンが第1運転状態にあるときには前記電動機の運転モードを継続し、前記ガスタービンが第2運転状態にあるときには前記電動機を駆動させる電気推進モードで、前記電動機を制御する、
請求項1に記載のハイブリッド電気推進システム。
【請求項3】
前記協調運転期間内に前記電動機がトルク制御されていて、さらに前記第1条件が満たされた場合に、前記電動機の制御を前記トルク制御から速度制御に切り替える、
請求項2に記載のハイブリッド電気推進システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記協調運転期間内であることを、前記ガスタービンと前記推進力を出力する出力部との間に設けられたクラッチが嵌状態にあることを示す信号に基づいて検出する、
請求項3に記載のハイブリッド電気推進システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1条件が満たされたことを識別した後に、前記ガスタービンの運転状態を示す情報を前記ガスタービンから取得して、前記ガスタービンの運転状態を識別する、
請求項3に記載のハイブリッド電気推進システム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記インバータの出力電流値が前記出力電流の過電流許容値に基づいて決定された第1閾値を超えた場合に、重故障が発生したことを示す情報を出力する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載のハイブリッド電気推進システム。
【請求項7】
移動体の推進力を発生させるガスタービンと電動機とを協調運転させることが可能なハイブリッド電気推進システムであって、
前記電動機の巻線に電流を流すインバータと、
条件により前記ガスタービンと前記電動機を協調運転させるように前記インバータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記電動機をトルク制御で駆動するように前記インバータを制御している期間内に、前記インバータの出力電流値が前記インバータの出力電流の定格電流値に基づき定められた第2閾値を超えた場合に、前記ガスタービンの出力側に設けられたクラッチの状態と、前記ガスタービンの運転状態とに基づいて、前記電動機を制御する、
ハイブリッド電気推進システム。
【請求項8】
移動体の推進力を発生させるガスタービンと電動機とを協調運転させることが可能なハイブリッド電気推進システムの制御方法であって、
前記ハイブリッド電気推進システムは、
前記電動機の巻線に電流を流すインバータと、
条件により前記ガスタービンと前記電動機を協調運転させるように前記インバータを制御する制御部と、
を備えていて、
前記インバータの制御に関わる第1条件として、前記インバータの出力電流値が前記インバータの出力電流の定格電流値を超え、かつ前記インバータの出力電流値が前記出力電流の過電流許容値に基づいて決定された第1閾値以下であることが規定され、
前記協調運転させるように前記インバータを制御している協調運転期間に前記第1条件が満たされたことを前記第1閾値を用いて識別し、前記第1条件が満たされた場合に、前記ガスタービンの運転状態を識別して、前記識別結果に応じた運転モードで前記電動機を制御する過程
を含むハイブリッド電気推進システムの制御方法。
【請求項9】
移動体の推進力を発生させるガスタービンと電動機とを協調運転させることが可能なハイブリッド電気推進システムの制御方法であって、
前記ハイブリッド電気推進システムは、
前記電動機の巻線に電流を流すインバータと、
条件により前記ガスタービンと前記電動機を協調運転させるように前記インバータを制御する制御部と、
を備えていて、
前記電動機をトルク制御で駆動するように前記インバータを制御している期間内に、前記インバータの出力電流値が前記インバータの出力電流の定格電流値に基づき定められた第2閾値を超えた場合に、前記ガスタービンの出力側に設けられたクラッチの状態と、前記ガスタービンの運転状態とに基づいて、前記電動機を制御する過程、
を含むハイブリッド電気推進システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ハイブリッド電気推進システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンと電動機を協調運転させるハイブリッド電気推進システムが知られている。ガスタービンと電動機が協調運転状態にあるときに、異常によってガスタービンの出力が急に低下することにより、ハイブリッド電気推進システムの稼働状態が不安定になることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、協調運転中にガスタービンが停止する事象に対して安定に稼働させることができるハイブリッド電気推進システム及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のハイブリッド電気推進システムは、インバータと、制御部とを備え、移動体の推進力を発生させるガスタービンと電動機とを協調運転させる。前記インバータは、前記電動機の巻線に電流を流す。前記制御部は、条件により前記ガスタービンと前記電動機を協調運転させるように前記インバータを制御する。前記インバータの制御に関わる第1条件として、前記インバータの出力電流値が前記インバータの出力電流の定格電流値を超え、かつ前記インバータの出力電流値が前記出力電流の過電流許容値に基づいて決定された第1閾値以下であることが規定されている。前記制御部は、前記協調運転させるように前記インバータを制御している協調運転期間に前記第1条件が満たされたことを前記第1閾値を用いて識別し、前記第1条件が満たされた場合に、前記ガスタービンの運転状態を識別して、前記識別結果に応じた運転モードで前記電動機を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態のハイブリッド電気推進システムの構成図。
【
図3】実施形態の電動機のトルク制御について説明するための図。
【
図4】実施形態の協調運転に係る制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のハイブリッド電気推進システム及び制御方法を、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。なお、本明細書で言う「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。さらに、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0008】
(実施形態)
図1は、実施形態のハイブリッド電気推進システム1の構成図である。
図1に示すハイブリッド電気推進システム1は、船舶2(移動体)に設けられ、船舶2に推力を供給する。
図1に示す船舶2は、少なくともガスタービン(GT)10と電動機(M)20を推進用の動力源とするハイブリッド型の電気推進構造からの推力を利用する。ハイブリッド電気推進システム1は、ハイブリッド型の電気推進構造の一例である。
【0009】
ハイブリッド電気推進システム1は、例えば、第1系統1Aと第2系統1Bに分けて構成され、第1系統1Aと第2系統1Bの交流BUSが遮断機CBによって互いに接続されている。第1系統1Aと第2系統1Bは同様の構成を備えている。以下の説明では、第1系統1Aを中心に説明する。
【0010】
ハイブリッド電気推進システム1は、第1系統1Aとして、例えば、ガスタービン(GT)10と、電動機(M)20と、クラッチ部30と、減速機40と、プロペラ50と、発電機(G)70と、電動機駆動装置100とを備える。
【0011】
ガスタービン10は、原動機の一例であり、動力を生成することでクランク軸11を回転させる。ガスタービン10のクランク軸11は、クラッチ31を介して減速機40の第1の入力軸に連結される。
【0012】
電動機20は、例えば3相交流型の誘導電動機である。電動機20の軸21は、クラッチ32を介して減速機40の第2の入力軸に連結される。電動機20には、速度センサ(不図示)が設けられている。例えば、速度センサは、電動機20の軸21の回転速度を検出して、速度FBK(電動機速度)を出力する。ガスタービン10と電動機20は、それぞれが船舶2の推進用の動力源である。
【0013】
クラッチ部30は、例えばクラッチ31と、クラッチ32とを含む。クラッチ31と、クラッチ32は、夫々、船舶推進用の動力が供給される入力軸と、負荷側の出力軸と、クラッチ本体とを備える。クラッチ31とクラッチ32の種類は、例えば、入力軸と出力軸との速度に基づいて連結状態を決定する3Sクラッチ(Synchro Self Shifting clutch)である。3Sクラッチは、例えば、入力軸の速度が出力軸の速度を超えるとクラッチ32が嵌合状態になり、入力軸の速度が出力軸の速度より低下するとクラッチ32が脱状態になる。なお、このクラッチ部30は、自動嵌脱クラッチの一例である。
【0014】
クラッチ31の入力軸は、ガスタービン10のクランク軸11に連結されている。クラッチ31の出力軸は減速機40の第1の入力軸に連結されている。クラッチ32の入力軸は、電動機20の軸21に連結されている。クラッチ32の出力軸は減速機40の第2の入力軸に連結されている。なお、クラッチ31とクラッチ32は、それぞれの連結状態を示すクラッチ信号を出力する。
【0015】
減速機40は、第1の入力軸の回転速度(回転数)を所定の減速比で減速し、また、第2の入力軸の回転数を所定の減速比で減速して、第1と第2の入力軸の回転に合わせて出力軸を回転させる。減速比の設定は任意である。出力軸には、主軸51が連結されている。主軸51にはプロペラ50(出力部)が設けられている。減速機40は、出力軸の回転数で主軸51、つまりプロペラ50を回転させる。プロペラ50が回転することにより、船舶2の推力が生じる。
【0016】
発電機70は、例えば、ガスタービン(GT)71と、発電機本体72と、変圧器73とを備える。発電機70は、発電機本体72によって生成される交流電力を、変圧器73によって変圧してインバータ120の電源端子に供給する。この交流電力は、電動機20の駆動に利用される。発電機70内の各部の構成と接続は、適宜変更してもよい。例えば
図1に示すように、発電機本体72の入力側には、ガスタービン71が設けられ、ガスタービン71から動力が供給される。発電機本体72の出力側には、交流BUSを介して変圧器73の一次側巻線が接続されている。上記の通り、この交流BUSは、遮断機CBを介して第2系統1Bに接続される。
【0017】
電動機駆動装置100は、例えば制御装置110(制御部)と、インバータ120とを備える。
【0018】
インバータ120は、交流入力交流出力型の電力変換器の一例である。インバータ120の交流入力には発電機70が接続されている。インバータ120は、制御装置110から運転指令を受ける。例えば、インバータ120は、複数の半導体スイッチ(不図示)を備える。インバータ120は、運転指令に基づいて、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)などによって変調されたゲート信号を生成し、生成したゲート信号によって複数の半導体スイッチをスイッチングする。これによりインバータ120は、発電機70側から供給される交流電力を3相交流電力に変換する。インバータ120の交流出力には電動機20の巻線(不図示)が接続されている。インバータ120は、生成した3相交流電力を電動機20に供給する。インバータ120は、3相交流を電動機20の巻線に流す。
【0019】
制御装置110は、ハイブリッド電気推進システム1の状態を検出するための各種検出器の検出結果の情報と、ガスタービン10の状態信号とを取得する。各種検出器の検出結果には、インバータ120が電動機20の巻線(不図示)に流す電流値、電動機20の軸21の回転速度(速度FBK)などが含まれる。例えば、電流センサ(不図示)は、インバータ120が電動機20の巻線(不図示)に流す電流を検出する。電流センサは、3相のうち少なくとも複数の相の相電流を検出する。
図1において、各種検出器と各種検出器と制御装置110との接続の表記を省略している。
【0020】
制御装置110は、各種検出器の検出結果の情報などに基づいて、ガスタービン10の出力を推力に利用する機械推進モード(第1モード)と、電動機20の出力を推力に利用する電気推進モード(第2モード)と、ガスタービン10と電動機20の双方の出力を推力に利用するハイブリッド推進モード(第3モード)とを切り替えて、船舶2の推力を発生させる。
【0021】
例えば、制御装置110は、機械推進モード時に、インバータ120の出力を0にして待機させる。制御装置110は、電気推進モード時に、インバータ120を速度制御によって制御する。制御装置110は、ハイブリッド推進モード時に、インバータ120をトルク制御によって制御する。上記の各モードの切り替えの具体例については、後述する。
【0022】
なお、制御装置110は、例えば、プロセッサを含み、そのプロセッサ(コンピュータ)がプログラムを実行することにより実現される機能部であってもよく、その一部又は全部がハードウェアであってもよい。
【0023】
図2を参照して、ハイブリッド推進モード時の協調運転について説明する。
図2は、実施形態の協調運転を説明するための図である。
【0024】
図2に示すタイミングチャートは、その横軸を時間軸にして、ガスタービン10の動力で推進力を得ている状態から協調運転の状態に遷移させて、その後、再びガスタービン10の動力で推進力を得ている状態に戻すように制御するときの各信号の状態を示す。
【0025】
図2の上段から順に、(a)速度基準、(b)速度FBK、(c)トルク基準、(d)励磁中(FLD)、(e)運転指令(EXT)、(f)トルク制御(ST)、(g)直流制動(CMD_DCDB)、(h)クラッチ信号の各信号が示されている。
【0026】
「(a)速度基準」は、上位装置(不図示)からの指令に基づいて制御装置110が生成する信号であり、その振幅が電動機20の(機械)角速度(単に、速度という。)の制御目標値を示す。協調運転の対象のガスタービン10の速度基準を1点鎖線SP_GTで示す。「(b)速度FBK」は、電動機20に設けられた速度センサの検出結果を示す信号であり、その振幅が電動機20の速度を示す。「(c)トルク基準」は、上位装置からの指令に基づいて制御装置110が生成する信号であり、電動機20が発生するトルクを規定する制御目標値を示す。ここでは、定トルク負荷の場合を示し、1点鎖線TENS_R2がその大きさを示す。上記の(a)から(c)の信号の振幅はその信号の大きさを示す。
【0027】
以下に示す(d)から(h)の信号は、2値論理の信号である。
「(d)励磁中」は、インバータ120が電動機20の巻線に電流を流すことで電動機20が励磁状態になっていることを「1」で示し、非励磁状態にあるときを「0」で示す。「(e)運転指令」は、インバータ120が電動機20の巻線に電流を流す状態(通電状態)が指定されていることを「1」で示し、指定されていないことを「0」で示す。ここに含まれる通電状態は、上記(e)の「励磁中」の期間のほか、後述する(g)の「直流制動」の期間が含まれる。「(f)トルク制御」は、電動機20をトルク制御で制御することを「1」で示し、トルク制御以外で制御することを「0」で示す。「(g)直流制動」は、電動機20を電気的に制動(直流制動)を掛けることを「1」で示し、直流制動を掛けないことを「0」で示す。「(h)クラッチ信号」は、クラッチ部30の嵌合状態として、クラッチ31と32がともに嵌状態にあるときを「1」で示し、クラッチ31と32の何れかが脱状態にあるときを「0」で示す。
【0028】
時間軸上の時刻t0において、制御装置110は、協調運転を開始させるための指令を受け、電動機20を起動させる。時刻t1において、制御装置110は、トルク基準を第1トルク値に定め、電動機20を加速させる。時刻t2において、制御装置110は、電動機20の速度FBKの大きさがSP_GTに達したことを検出する。ここで、制御装置110は、トルク基準を第2トルク値に上げてクラッチ32が嵌合するのを待機する。
【0029】
時刻t3において、クラッチ32が嵌合して、クラッチ部30からクラッチ信号として「1」が出力される。制御装置110は、クラッチ信号が「1」になったことを検出する。
【0030】
時刻t4において、制御装置110は、協調運転を開始する。より具体的には、制御装置110は、電動機20の制御を、第3トルク値を基準にしたトルク制御に切り替える。このとき、速度基準はSP_GTよりも所定量高くなる。
【0031】
時刻t5において、制御装置110は、協調運転を終えて電動機20の制動を開始する。より具体的には、制御装置110は、電動機20のトルク制御を終了し、インバータ120の出力を停止して電動機20の励磁を止める。これにより、電動機20は、フリーラン状態になるが、この段階では、クラッチ32の嵌状態が継続しているため、速度FBKの値に大きな変化が生じない。
【0032】
時刻t6になると、電動機20は、クラッチ32の嵌状態を維持し続けるだけの速度を維持しなくなり、クラッチ32が脱状態になって、クラッチ信号を「0」にする。制御装置110は、これを検出して、直流制動を開始する。これにともない、電動機20の速度が低下し始める。
【0033】
時刻t7になると、制御装置110は、直流制動を中断する。これにより、電動機20は、フリーラン状態になって、徐々に速度が低下する。制御装置110は、速度FBKが所定の値よりも低下するまで待機する。
【0034】
時刻t8になると、制御装置110は、電動機20の励磁を開始して、時刻t9になってから第4トルク値をトルク基準としたトルク制御によって電動機20の制動を継続する。
【0035】
上記のタイミングチャートは、正常時のシーケンスを示したものである。
【0036】
図3は、実施形態の電動機20の制御について説明するための図である。
図3に示すグラフは、電動機20の速度(横軸)とトルクとの関係を示す。例えば、制御装置110は、所定のベース速度以下の比較的低回転領域(比較的低回転状態)では、基準トルク(定トルク特性)に基づいたトルク制御を行い、所定のベース速度を超えると基準出力(定出力特性)に基づいた界磁弱め制御などを行う。上記の
図2に示した協調運転時の制御は、本図の所定のベース速度以下の比較的低回転領域の範囲内で、定トルク制御にて実施される。
【0037】
図4は、実施形態の協調運転に係る制御のフローチャートである。例えば、制御装置110は、この図に示す処理を、所定の周期で繰り返し実施する。
【0038】
制御装置110は、クラッチ部30から出力されるクラッチ信号に基づいてクラッチ部30(3Sクラッチ)の状態を判定する(ステップS10)。例えば、制御装置110は、クラッチ部30から出力されるクラッチ信号によって、クラッチ31とクラッチ32の両方が嵌状態にあるのか、クラッチ31とクラッチ32の何れかが脱状態にあるのかを識別する。
【0039】
クラッチ31とクラッチ32の何れかが脱状態にあると識別される場合に、制御装置110は、ガスタービン10から取得する状態信号に基づいてガスタービン10の状態を判定する(ステップS12)。ガスタービン10の状態が運転中である場合、制御装置110は、機械推進モードを選択して(ステップS13)、処理を終える。この機械推進モードでは、制御装置110は、インバータ120を待機中に制御する。
【0040】
ガスタービン10の状態が停止中である場合、制御装置110は、上位装置からのインバータ120の運転指令を受けているか否か(運転指令の有無)を判定する(ステップS14)。インバータ120の運転指令を受けていない場合には、制御装置110は、インバータ120を停止させて(ステップS15)、処理を終える。「インバータ120を停止」させるとは、インバータ120の出力を0にして待機させることを含む。インバータ120の運転指令を受けていなる場合には、制御装置110は、電気推進モードを選択し(ステップS16)、電動機20を速度制御によって駆動するようにインバータ120を制御して、処理を終える。
【0041】
クラッチ31とクラッチ32とがともに嵌状態にあると識別される場合に、制御装置110は、ハイブリッド推進モードを選択し(ステップS17)、電動機20をトルク制御によって駆動するようにインバータ120を制御する。
【0042】
ここで、制御装置110は、インバータ120の出力電流が定格の範囲内か否かを判定する(ステップS20)。より具体的には、インバータ120の出力電流が定格電流値の100%以内か否かを判定する。インバータ120の出力電流が定格電流値の100%以内である場合には、制御装置110は、運転の制御状態を継続させて(ステップS21)、処理を終える。上記の判定は、第1条件が満たされたか否かの判定の一例である。
【0043】
インバータ120の出力電流が定格電流値の100%を超える場合には、制御装置110は、インバータ120の出力電流値が第1閾値以内か否かを判定する(ステップS22)。より具体的には、インバータ120の出力電流の大きさが第1閾値以内か否かを判定する。インバータ120の出力電流の大きさが第1閾値以内である場合には、制御装置110は、インバータ120は軽故障が生じていることを制御装置110に対して通知する。制御装置110は、この軽故障の通知を取得する(ステップS23)。
【0044】
ここで、制御装置110は、ガスタービン10から状態信号を取得して、状態信号に基づいてガスタービン10の状態を判定する(ステップS24)。ガスタービン10の状態が運転中(第1運転状態)である場合、制御装置110は、「過負荷警報」を出力して、運転の制御状態を継続させて(ステップS25)、処理を終える。この状況は、インバータ120をすぐに停止させるほどではないが、長期的な利用を推奨しない状況にある。制御装置110は、上記の状況を上位装置に通知する。
【0045】
ガスタービン10の状態が停止中(第2運転状態)である場合、制御装置110は、電気推進モードを選択し(ステップS26)、電動機20を電気推進モード(速度制御)によって駆動するようにインバータ120を制御して、処理を終える。
【0046】
インバータ120の出力電流が定格電流値の第1閾値を超える場合には、インバータ120は重故障が生じていることを制御装置110に対して通知して、停止する。制御装置110は、この重故障の通知を取得して(ステップS29)、処理を終える。
【0047】
なお、上記の「第1閾値」は、定格電流値又は後述の第2閾値よりも大きく、インバータ120の出力電流の最大許容電流値よりも小さい任意の値を設定するとよい。上記の「定格電流値(定格値)」は、第2閾値の一例であり、これに制限されず、定格電流値に関連付けて決定した定格電流値近傍の任意の値でよい。第2閾値を、定格電流値を超える105から110%などの値にしてもよい。
【0048】
本実施形態では、上記のステップS22からS26を設けることによって、次の事象に対する信頼性を高めている。例えば、クラッチ部30からのクラッチ信号が正常ではない状況、クラッチ信号を取得できない状況などがすでに生じていて、さらにガスタービン10が急に停止状態になるという複合的な事象が生じる場合が想定される。以下、場合分けをしてこれについて説明する。
【0049】
<第1のシナリオ:クラッチ信号からクラッチ31の脱状態を検出できない場合>
例えば、ガスタービン10が急に停止状態になった段階でクラッチ31が脱状態になる。クラッチ信号が正常であれば、これに応じてクラッチ31の脱状態に対応するクラッチ信号(脱状態)がクラッチ部30から出力される。
これに対し、クラッチ信号にクラッチ31が脱状態になったことが反映されないと、制御装置110は、上記のステップS10の判定で少なくともクラッチ31が脱状態になったことを検知できない。そのため、すでにクラッチ部30が協調運転できない状況になっているのに、制御装置110は、協調運転を継続させようとする。
【0050】
ところが、ガスタービン10が急に停止状態になると、電動機20の負荷側にトルク変動が発生する。この負荷変動により、インバータ120の出力電流が変動する。制御装置110は、ガスタービン10の急停止に起因するクラッチ31が脱状態を直接検知できないが、2次的に発生するインバータ120の出力電流の変動を検出することで、協調運転が継続できない状況にあることを検知する。制御装置110は、これに応じて、協調運転を解除するとともに、ガスタービン10の稼働状況に対応する運転モードに切り替えることができる。
【0051】
<第2のシナリオ:クラッチ信号からクラッチ32の脱状態を検出できない場合>
クラッチ32が脱状態になっているときに電動機20を駆動させると、電動機20は、無負荷運転(軽負荷運転)の状態になる。この場合、制御装置110が定トルク制御を行うと、インバータ120の出力電流が0近傍の値になる。例えば、制御装置110は、定トルク制御時のインバータ120の出力電流の大きさが0近傍である場合、滑り量が0近傍である場合、推定トルクが0近傍である場合の何れかの場合に、協調運転が継続できない状況にあることを検知する。制御装置110は、これに応じて、協調運転を解除するとともに、インバータ120の運転を休止させるとよい。なお、制御装置110は、上記の処理を、
図4に示す協調運転に係る制御と分けて、故障検出の処理として実施するとよい。
【0052】
<第3のシナリオ:クラッチ信号からクラッチ31の嵌状態を検出できない場合>
この場合、実際にクラッチ31が嵌状態であったとしても、制御装置110は、クラッチ信号からクラッチ31の嵌状態を検出できない。そのため、制御装置110は、クラッチ信号からクラッチ31が脱状態であると識別して、ステップS12からS16までの処理の何れかを実行する。実際にクラッチ31が嵌状態であれば、ガスタービン10が運転中であるから、制御装置110は、機械推進モードを選択することで、電動機20をクラッチ32によって切り離された状態にする。この場合、協調運転ができないが、2次的な障害が発生する恐れはない。これに対し実際にクラッチ31が脱状態であれば、ガスタービン10が停止中の場合と同様の動作になるから、制御装置110は、インバータ運転指令に従い運転モードを選択する。
【0053】
<第4のシナリオ:クラッチ信号からクラッチ32の嵌状態を検出できない場合>
この場合、実際にクラッチ32が嵌状態であったとしても、制御装置110は、クラッチ信号からクラッチ32の嵌状態を検出できない。そのため、制御装置110は、ステップS12からS16までの処理の何れかを実行する。これらの処理の中には、協調運転にするための処理が含まれない。そのため、制御装置110は、機械推進モードと、インバータ停止と、電気推進モードの何れかに、運転モードに切り替える。これにより、協調運転ができないが、2次的な障害が発生する恐れはない。
【0054】
上記の各シナリオに示す障害が生じた場合であっても、制御装置110は、的確に制御できる。
【0055】
上記の実施形態によれば、ハイブリッド電気推進システム1において、インバータ120の制御に関わる第1条件として、インバータ120の出力電流値が出力電流の定格電流値を超え、かつインバータ120の出力電流値がその出力電流の過電流許容値に基づいて決定された第1閾値以下であることが規定されている。制御装置110は、上記の規定を用いて、条件によりガスタービン10と電動機20を協調運転させるようにインバータ120を制御する。例えば、制御装置110は、協調運転させるようにインバータ120を制御している協調運転期間に第1条件が満たされたことを第1閾値を用いて識別する。第1条件が満たされた場合に、制御装置110は、ガスタービン10の運転状態を識別して、識別結果に応じた運転モードで電動機20を制御する。これにより、ハイブリッド電気推進システム1は、協調運転中にガスタービンが停止する事象に対して安定に稼働させることができる。
【0056】
なお、ガスタービン10の出力容量が電動機20の出力容量よりも大きい場合には、電動機20は、ガスタービン10に代わって、ガスタービン10の出力を補えない状況が生じ得る。協調運転期間中に生じた船舶2の急減速は、電動機20からインバータ120に向かうエネルギー(回生エネルギー)を生じさせる。この回生エネルギーは、インバータ120内の直流電圧(コンバータ本体(不図示)とインバータ本体(不図示)とを繋ぐ直流リンクの電圧)を上昇させることがある。
【0057】
比較例のハイブリッド電気推進システムに上記の事象が生じた場合、過度に直流電圧が上昇すると直流過電圧保護のために、インバータが停止することが生じ得る。さらにインバータの上流側に波及すると、電源になる発電機の容量を超えることが生じ得る。また、過負荷によって電動機そのものが破損することも考えられる。比較例のハイブリッド電気推進システムは、上記の事象によって、その稼働状態が不安定になることがあった。
【0058】
これに対して、本実施形態のハイブリッド電気推進システム1は、クラッチ部30のクラッチ信号の識別結果に加えて、インバータ120とガスタービン10の動作状態に関する情報に基づいてインバータ120を制御するという保護機能を有している。これにより、クラッチ信号の識別結果を単独で用いて制御する方法に比べて、ガスタービン10と電動機20を安定に稼働させることができる。
【0059】
上記の実施形態の制御装置110は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
【0060】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、ハイブリッド電気推進システム1は、インバータ120と、制御装置110とを備える。ハイブリッド電気推進システム1は、移動体の推進力を発生させるガスタービン10と電動機20とを協調運転させる。インバータ120は、電動機20の巻線に電流を流す。制御装置110は、条件によりガスタービン10と電動機20を協調運転させるようにインバータ120を制御する。インバータ120の制御に関わる第1条件として、インバータ120の出力電流値が出力電流の定格電流値を超え、かつインバータ120の出力電流値がその出力電流の過電流許容値に基づいて決定された第1閾値以下であることが規定されている。制御装置110は、協調運転させるようにインバータ120を制御している協調運転期間に第1条件が満たされたことを第1閾値を用いて識別し、第1条件が満たされた場合に、ガスタービン10の運転状態を識別して、識別結果に応じた運転モードで電動機20を制御する。これにより、ハイブリッド電気推進システム1は、協調運転中にガスタービンが停止する事象に対して安定に稼働させることができる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0062】
例えば、上記の実施形態においてハイブリッド電気推進システム1として、少なくともガスタービン10を備えるものを例示したが、これに制限されない。例えば、ハイブリッド電気推進システム1は、ガスタービン10に代えて、エンジンを備え、それぞれを推進用の動力源として利用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…ハイブリッド電気推進システム、2…船舶、10…ガスタービン(GT)、20…電動機(M)、30…クラッチ部、40…減速機、50…プロペラ、70…発電機、100…電動機駆動装置、110…制御装置(制御部)、120…インバータ