(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】等速ジョイント用ブーツ 等速ジョイント用ブーツの製造方法 等速ジョイント用ブーツの製造装置
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20230327BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230327BHJP
B29C 45/37 20060101ALI20230327BHJP
B29C 45/44 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
F16D3/84 R
B29C45/14
B29C45/37
B29C45/44
(21)【出願番号】P 2020510995
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013661
(87)【国際公開番号】W WO2019189603
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018063451
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000136354
【氏名又は名称】株式会社フコク
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】末岡 一彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 雄三
(72)【発明者】
【氏名】落合 全二
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-098486(JP,A)
【文献】特開2005-98487(JP,A)
【文献】特開2006-17277(JP,A)
【文献】特開2014-228123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/84
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリポッドジョイントの外筐が挿入される環状の大径側端部と、
前記トリポッドジョイントに連結された軸部が挿入される環状の小径側端部と、
前記大径側端部と前記小径側端部との間にわたって連通状に一体に設けられ、大径部と小径部とを繰り返し配列してなるベローズ部とで構成される等速ジョイント用ブーツであって、
前記大径側端部の内周面には、前記外筐の外周面に形成される複数の凹部に適合してブーツ内径方向に張り出して形成される複数の厚肉部と、前記複数の厚肉部の間に配置された薄肉部とを有してなり、
前記厚肉部の内周面と前記薄肉部の内周面には、前記凹部を含めた前記外筐の外周面に接してブーツ内部領域を密封する周方向に連続したリップ部が形成されており、
前記厚肉部には、内周面側からブーツ外径方向に窪んだ少なくとも1つ以上の溝部が形成されており、
前記溝部は、前記厚肉部の周方向にわたって形成され
ており、
前記厚肉部の締め付バンドと接する外周面は平面で構成されることを特徴とする等速ジョイント用ブーツ。
【請求項2】
前記リップ部は2本以上形成されており、
このうち少なくとも2本のリップ部は、ブーツ軸方向において前記溝部を挟んで位置していることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント用ブーツ。
【請求項3】
前記厚肉部は、前記大径側端部の底面側から見たときに、大径側端部の周方向で左右の裾部から頂部に向けてそれぞれ昇り傾斜状に形成された弧形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の等速ジョイント用ブーツ。
【請求項4】
前記溝部は、前記厚肉部の頂部におけるブーツ軸方向の溝幅に対して、裾部におけるブーツ軸方向の溝幅が狭く形成されていることを特徴とする請求項3に記載の等速ジョイン
ト用ブーツ。
【請求項5】
前記溝部は、前記厚肉部の内周面におけるブーツ軸方向溝幅に対して、ブーツ外径方向に向ってブーツ軸方向の溝幅が狭く形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の等速ジョイント用ブーツ。
【請求項6】
前記溝部は、ブーツ軸方向に対向し、当該溝部を構成する内壁面間に架け渡されるリブが設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の等速ジョイント用ブーツ。
【請求項7】
外周面に複数の凹部を有するトリポッドジョイントの外筐が挿入される大径側端部と、前記トリポッドジョイントに連結された軸部が挿入される小径側端部と、前記大径側端部と前記小径側端部との間に形成され大径部と小径部とを繰り返し配列してなるベローズ部とを有し、前記大径側端部の内周面には、前記トリポッドジョイントの外筐の凹部に適合してブーツ内径側に張り出して形成された複数の厚肉部と、前記複数の厚肉部の間に配置された薄肉部とを有してなる等速ジョイント用ブーツの製造方法であって、
ベローズ部の内部空間と連通する小径側端部と大径側端部を両端に備えて成形された予備成形品の大径側端部内にコア型を配するとともに、少なくとも前記予備成形品の大径側端部の外周面側に保持用金型を配し、
前記コア型に備えられる上方突出部を前記ベローズ部の内周面又は前記大径側端部の内周面に当接させ、前記保持用金型の内周面を前記大径部側端部の外周面に当接させ、前記予備成形品の大径側端部の内周面と前記コア型の下方周面部との間で前記大径側端部に複数の厚肉部と複数の薄肉部とからなる二次成形部分を成形するための二次成形空間を形成する工程と、
前記二次成形空間に溶融材料を射出注入し、前記予備成形品の前記大径側端部に厚肉部と薄肉部とからなる二次成形部分を成形する工程と、を少なくとも含み、
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記上方突出部と、前記下方周面部にコア型の中心軸方向にスライド可能に設けられた下方突出部とを、前記コア型の中心軸方向に退避させて前記二次成形空間のうちの厚肉部成形空間領域から外し、その状態で前記コア型とブーツとを分離させる工程、とを有することを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造方法。
【請求項8】
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の上方突出部と下方突出部のいずれか一方若しくは双方を、コア型中心軸若しくはコア型中心軸と平行する軸を中心として旋回するカム部材の駆動により前記厚肉部領域から退避させることを特徴とする請求項7に記載の等速ジョイント用ブーツの製造方法。
【請求項9】
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の下方突出部は、前記厚肉部に形成される溝部形成用金型面を有していることを特徴とする請求項7又は8に記載の等速ジョイント用ブーツの製造方法。
【請求項10】
外周面に複数の凹部を有するトリポッドジョイントの外筐が挿入される大径側端部と、前記トリポッドジョイントに連結された軸部が挿入される小径側端部と、前記大径側端部と前記小径側端部との間に形成され大径部と小径部とを繰り返し配列してなるベローズ部とを有し、前記大径側端部の内周面には、前記トリポッドジョイントの外筐の凹部に適合してブーツ内径側に張り出して形成された複数の厚肉部と、前記複数の厚肉部の間に配置された薄肉部とを有してなる等速ジョイント用ブーツの製造装置であって、
前記ベローズ部の内部空間と連通する小径側端部と大径側端部を両端に備えて成形された予備成形品の外面を保持する保持用金型と、
前記予備成形品の大径側端部内に挿入されるコア型と、
前記予備成形品の大径側端部内周面と前記コア型外周面との間にて形成される複数の厚肉部成形空間と複数の薄肉部成形空間からなる二次成形部分を成形するための二次成形空間に溶融材料を射出充填する射出機構とを備え、
前記保持用金型は、前記大径側端部の外周面に当接可能な内周面を備え、
前記コア型は、前記ベローズ部の内周面又は前記大径側端部の内周面に当接可能な上方突出部と、前記大径側端部の内周面との間に複数の厚肉部と複数の薄肉部とからなる二次成形部分を成形するための二次成形空間を形成する下方周面部及び当該下方周面部に、コア型の中心軸方向にスライド可能に設けられた下方突出部と、を備え、
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の上方突出部及び下方突出部は、前記厚肉部成形空間に向けて前進可能、コア型中心軸方向に向けて退避可能に構成されている、ことを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造装置。
【請求項11】
前記コア型中心軸若しくはコア型中心軸と平行する軸を中心として旋回するカム部材を有し、
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の上方突出部と下方突出部のいずれか一方若しくは双方は、前記カム部材によって前記厚肉部成形空間に向けて前進可能、コア型中心軸方向に向けて退避可能に構成されていることを特徴とする請求項10に記載の等速ジョイント用ブーツの製造装置。
【請求項12】
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の下方突出部は、前記厚肉部に形成される溝部形成用金型面を有していることを特徴とする請求項10又は11に記載の等速ジョイント用ブーツの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイント用ブーツ(CONSTANT VELOCITY UNIVERSAL JOINT)、例えば、自動車のエンジンの動力をタイヤが装着されるハブへ伝えるドライブシャフトやプロペラシャフトに使用されるトリポッド型等速ジョイントの外周面に装着される等速ジョイント用ブーツに関する。また、前記等速ジョイント用ブーツの製造方法及び、前記製造方法に用いる等速ジョイント用ブーツの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のドライブシャフトには、その両端部に等速ジョイントが用いられる。そして、デフ側(インボード側)の等速ジョイントには、ドライブシャフトの軸部に三叉状に装着された例えば3組のころがそれぞれ軸方向に滑動可能に構成されてなるトリポッドジョイント(トリポートジョイント)を用いることが一般的である。
トリポッドジョイントの外筐には、その薄肉化および軽量化を図るため、外周面の軸方向に溝状に設けられる凹部が、例えば三箇所周方向に分散して形成される。この種のトリポッドジョイントに用いられる等速ジョイント用ブーツの大径側端部の内周面には、前記凹部の表面に適合して、例えば軸方向視形状が円弧状に張り出して形成された厚肉部が形成される。この種のトリポッドジョイント用ブーツとして、本願の発明者等は、先に特許第4359532号に記載の技術を提案している(特許文献1参照。)。この先行技術では、予備成形品の大径側端部の内周面に、厚肉部と薄肉部が周方向に連続して一体成形することが可能であるとともに、成形後の厚肉部にアンダーカット部分を有していてもコア型からのブーツの引き抜きを容易にしたことを特徴としている。
【0003】
昨今、自動車は、低燃費・低コストなどの要請から各種部品のさらなる軽量化が図られている。
【0004】
そこで、この種のトリポッドジョイント用のブーツにあっても軽量化の要請が高まっており、軽量化を図ることに主眼を置いて改良された等速ジョイント用ブーツとして特許文献2に開示の構造が提案されている。
特許文献2では、大径側端部の厚肉部の外面側から肉抜きをして軽量化を図っている(特許文献2参照。)。
また、このような肉抜き構成は、この種のトリポッドジョイント用のブーツ(等速ジョイント用ブーツ)が、その大径側端部に厚肉部と薄肉部の厚さの異なる箇所を有していることから、成形時に収縮を招いてしまうおそれがあるため、熱バランスを図り成形時の収縮(ヒケ)を防止する役割も有している。
【0005】
この種のトリポッドジョイント用のブーツ(等速ジョイント用ブーツ)は、外筐の外周に嵌合させた後に、大径側端部の外周面を、金属製の締め付けバンドを用いて締め付けることにより、大径側端部の内周面に突設されているリップ部を外筐の外周面に押圧して密封させるものとしている。
このとき、密封性を向上させるためにも、締め付けバンドによる締め付け力は、大径側端部の内周面に突設されているリップ部に集中させるのが好ましい。
【0006】
しかし、特許文献2に開示のトリポッドジョイント用ブーツの構造の場合、締め付けバンドが接する側の大径側端部の外周面側から肉抜きをしているため、肉抜きをした溝の開口側が締め付けバンドに対向し、締め付けバンドが接触する面積が少ない。
すなわち、特許文献2に開示のトリポッドジョイント用ブーツにあっては、締め付け力が最も大きく掛かるバンド下部分に肉抜きした溝が位置し、かつ溝とリップ部との間には中実部分が存しているため、締め付けバンドを締結しても、溝の開口側部分(大径側端部の外周面)が大きく変形するだけで、リップ部には締め付け力が集中しないものであった(リップ部での締め付け力が弱い。)。なお、この点については、後述の実施形態との比較においても詳述する。
【0007】
また、大径側端部の外周側に肉抜き部を形成する際に、外周面には型成形時のパーティングラインが出てしまう。
大径側端部の外周面は、上述のとおり締め付けバンドの締結面であることから凹凸のないフラットな面であることが好ましく、余計なパーティングラインがあると均一な締め付け力が与えられず、締め付け力の低下を招く虞がある。
【0008】
さらに、等速ジョイント用ブーツが装着されている箇所は、泥水や粉塵などが舞う過酷な環境であるため、特許文献2に開示のように、大径側端部の外周側に肉抜きの溝が設けられていると、前記溝内に、粉塵、石、泥、泥水などが入り込んでしまう虞があり、その結果、締結力の低下を招く虞がある。
また、路面凍結防止剤などの薬品や泥水などが溜まったりすると、締結バンドは金属であるため、締結バンドの損傷(錆、傷)などを招き易く、商品寿命が短くなる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4359532号公報
【文献】特開2002-13546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みなされたものであり、その課題とするところは、トリポッドジョイント用ブーツの軽量化を図りつつも、適切な締結バンドによる締め付け力を付与し、この締め付け力の低下を防止し、良好な密封性能を維持することのできるトリポッドジョイント用ブーツを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を達成するために、第1の本発明は、トリポッドジョイントの外筐が挿入される環状の大径側端部と、
前記トリポッドジョイントに連結された軸部が挿入される環状の小径側端部と、
前記大径側端部と前記小径側端部との間にわたって連通状に一体に設けられ、大径部と小径部とを繰り返し配列してなるベローズ部とで構成される等速ジョイント用ブーツであって、
前記大径側端部の内周面には、前記外筐の外周面に形成される複数の凹部に適合してブーツ内径方向に張り出して形成される複数の厚肉部と、前記複数の厚肉部の間に配置された薄肉部とを有してなり、
前記厚肉部の内周面と前記薄肉部の内周面には、前記凹部を含めた前記外筐の外周面に接してブーツ内部領域を密封する周方向に連続したリップ部が形成されており、
前記厚肉部には、内周面側からブーツ外径方向に窪んだ少なくとも1つ以上の溝部が形成されており、
前記溝部は、前記厚肉部の周方向にわたって形成されており、
前記厚肉部の締め付バンドと接する外周面は平面で構成されることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0012】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記リップ部は2本以上形成されており、
このうち少なくとも2本のリップ部は、ブーツ軸方向において前記溝部を挟んで位置していることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0013】
第3の本発明は、第1の本発明又は第2の本発明において、前記厚肉部は、前記大径側端部の底面側から見たときに、大径側端部の周方向で左右の裾部から頂部に向けてそれぞれ昇り傾斜状に形成された弧形状であることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0014】
第4の本発明は、第3の本発明において、前記溝部は、前記厚肉部の頂部におけるブーツ軸方向の溝幅に対して、裾部におけるブーツ軸方向の溝幅が狭く形成されていることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0015】
第5の本発明は、第1の本発明乃至第4の本発明のいずれかにおいて、前記溝部は、前記厚肉部の内周面におけるブーツ軸方向溝幅に対して、ブーツ外径方向に向ってブーツ軸方向の溝幅が狭く形成されていることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0016】
第6の本発明は、第1の本発明乃至第5の本発明のいずれかにおいて、前記溝部は、ブーツ軸方向に対向し、当該溝部を構成する内壁面間に架け渡されるリブが設けられていることを特徴とする等速ジョイント用ブーツとしたことである。
【0017】
第7の本発明は、外周面に複数の凹部を有するトリポッドジョイントの外筐が挿入される大径側端部と、前記トリポッドジョイントに連結された軸部が挿入される小径側端部と、前記大径側端部と前記小径側端部との間に形成され大径部と小径部とを繰り返し配列してなるベローズ部とを有し、前記大径側端部の内周面には、前記トリポッドジョイントの外筐の凹部に適合してブーツ内径側に張り出して形成された複数の厚肉部と、前記複数の厚肉部の間に配置された薄肉部とを有してなる等速ジョイント用ブーツの製造方法であって、
ベローズ部の内部空間と連通する小径側端部と大径側端部を両端に備えて成形された予備成形品の大径側端部内にコア型を配するとともに、少なくとも前記予備成形品の大径側端部の外周面側に保持用金型を配し、
前記コア型に備えられる上方突出部を前記ベローズ部の内周面又は前記大径側端部の内周面に当接させ、前記保持用金型の内周面を前記大径部側端部の外周面に当接させ、
前記予備成形品の大径側端部の内周面と前記コア型の下方周面部との間で前記大径側端部に複数の厚肉部と複数の薄肉部とからなる二次成形部分を成形するための二次成形空間を形成する工程と、
前記二次成形空間に溶融材料を射出注入し、前記予備成形品の前記大径側端部に厚肉部と薄肉部とからなる二次成形部分を成形する工程と、
を少なくとも含み、
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記上方突出部と、前記下方周面部にコア型の中心軸方向にスライド可能に設けられた下方突出部とを、前記コア型の中心軸方向に退避させて前記二次成形空間のうちの厚肉部成形空間領域から外し、その状態で前記コア型とブーツとを分離させる工程、
とを有することを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造方法としたことである。
【0018】
第8の本発明は、第7の本発明において、前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の上方突出部と下方突出部のいずれか一方若しくは双方を、コア型中心軸若しくはコア型中心軸と平行する軸を中心として旋回するカム部材の駆動により前記厚肉部領域から退避させることを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造方法としたことである。
【0019】
第9の本発明は、第7の本発明又は第8の本発明において、前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の下方突出部は、前記厚肉部に形成される溝部形成用金型面を有していることを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造方法としたことである。
【0020】
第10の本発明は、外周面に複数の凹部を有するトリポッドジョイントの外筐が挿入される大径側端部と、前記トリポッドジョイントに連結された軸部が挿入される小径側端部と、前記大径側端部と前記小径側端部との間に形成され大径部と小径部とを繰り返し配列してなるベローズ部とを有し、前記大径側端部の内周面には、前記トリポッドジョイントの外筐の凹部に適合してブーツ内径側に張り出して形成された複数の厚肉部と、前記複数の厚肉部の間に配置された薄肉部とを有してなる等速ジョイント用ブーツの製造装置であって、
前記ベローズ部の内部空間と連通する小径側端部と大径側端部を両端に備えて成形された予備成形品の外面を保持する保持用金型と、
前記予備成形品の大径側端部内に挿入されるコア型と、
前記予備成形品の大径側端部内周面と前記コア型外周面との間にて形成される複数の厚肉部成形空間と複数の薄肉部成形空間からなる二次成形部分を成形するための二次成形空間に溶融材料を射出充填する射出機構とを備え、
前記保持用金型は、前記大径側端部の外周面に当接可能な内周面を備え、
前記コア型は、前記ベローズ部の内周面又は前記大径側端部の内周面に当接可能な上方突出部と、前記大径側端部の内周面との間に複数の厚肉部と複数の薄肉部とからなる二次成形部分を成形するための二次成形空間を形成する下方周面部及び当該下方周面部に、コア型の中心軸方向にスライド可能に設けられた下方突出部と、を備え、
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の上方突出部及び下方突出部は、前記厚肉部成形空間に向けて前進可能、コア型中心軸方向に向けて退避可能に構成されている、ことを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造装置としたことである。
【0021】
第11の本発明は、第10の本発明において、前記コア型中心軸若しくはコア型中心軸と平行する軸を中心として旋回するカム部材を有し、
前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の上方突出部と下方突出部のいずれか一方若しくは双方は、前記カム部材によって前記厚肉部成形空間に向けて前進可能、コア型中心軸方向に向けて退避可能に構成されていることを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造装置としたことである。
【0022】
第12の本発明は、第10の本発明又は第11の本発明において、前記二次成形空間を構成する厚肉部成形空間に対応している前記コア型の下方突出部は、前記厚肉部に形成される溝部形成用金型面を有していることを特徴とする等速ジョイント用ブーツの製造装置としたことである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、等速ジョイント用ブーツの軽量化を図りつつも、適切な締結バンドによる締め付け力を付与し、この締め付け力の低下を防止し、良好な密封性能を維持することのできる等速ジョイント用ブーツを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の等速ジョイント用ブーツの一実施形態を示す概略縦断面図である。
【
図2】本発明の等速ジョイント用ブーツの一実施形態を示す概略底面図である。
【
図5】厚肉部周辺を拡大して示す概略斜視図である。
【
図6A】厚肉部を構成する一対の厚肉部構成体の相対向する内壁面間にわたってリブが形成されている厚肉部の他の実施形態を拡大して示す概略斜視図である。
【
図6B】厚肉部を構成する一対の厚肉部構成体の相対向する内壁面間にわたってリブが形成されている厚肉部の他の実施形態を拡大して示す概略斜視図である。
【
図6C】
図6Bの大径側端部の内周面に直交する方向から見た厚肉部の概略拡大図である。
【
図8】本発明の厚肉部と比較例の厚肉部を比較する概略縦断面図である。
【
図9】本発明の製造装置に用いられるコア型であって、第二型部が厚肉部成形空間方向へと押し出されている状態を示す概略平面図である。
【
図10】本発明の製造装置に用いられるコア型であって、第二型部が厚肉部成形空間方向へと押し出されている状態を示す概略縦断面図である。
【
図11】本発明の製造装置に用いられるコア型であって、第二型部が厚肉部成形空間から退避している状態を示す概略平面図である。
【
図12】本発明の製造装置に用いられるコア型であって、第二型部が厚肉部成形空間から退避している状態を示す概略縦断面図である。
【
図13】本発明の製造装置に用いられるコア型であって、一部省略するとともに破線にて示す概略斜視図である。
【
図14】本発明の製造方法の全体の流れを示す概略図である。
【
図15】本発明の製造装置に用いられるコア型の他の実施形態であって、第一部材と第二部材が厚肉部成形空間に位置している状態を示す概略縦断面図である。
【
図16】本発明の製造装置に用いられるコア型の他の実施形態であって、第一部材と第二部材が厚肉部成形空間から退避している状態を示す概略縦断面図である。
【
図17】本発明の等速ジョイント用ブーツの他の実施形態であって、傾斜部内面と二次成形部上面との間に空間が形成されている概略部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図に基づいて説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施形態にすぎず何等これに限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0026】
「第一実施形態」
本発明の等速ジョイント用ブーツ、その等速ジョイント用ブーツを製造するために用いられる製造装置、及びその製造装置を用いた製造方法の一実施形態をそれぞれ分節して説明する。
【0027】
[等速ジョイント用ブーツについての説明]
本実施形態の等速ジョイント用ブーツ(以下、単にブーツともいう。)1は、外筐の外周面に凹部を形成してなるトリポッドジョイントに用いられる。すなわち、このようなトリポッドジョイントの外筐には、例えば断面視円弧状に形成される軸方向溝が、外周面の周方向に略等間隔に離間して三箇所形成されている。
【0028】
図1に示すように、等速ジョイント用ブーツ(トリポッドジョイント用ブーツ)1は、トリポッドジョイントの外筐が挿入される大径側端部3と、この大径側端部3よりも内径、外径をそれぞれ小さく形成されてなる小径側端部5とを有する。この小径側端部5には、トリポッドジョイントに接続されたドライブシャフトの軸部が挿入される。そして、大径側端部3と小径側端部5との間には、蛇腹状に形成されたベローズ部7が設けられている。
そして、このブーツ1は、大径側端部3、小径側端部5及びベローズ部7が、例えば熱可塑性エラストマ等の樹脂を用いて周知の予備成形工程によって一体成形され(以下、この成形品を、予備成形品と称して説明する。)、さらに、前記予備成形品の大径側端部3の内周側には、熱可塑性エラストマ等の樹脂を用いて肉厚の異なる部分である二次成形部13が一体成形されている。
【0029】
前記ベローズ部7は、
図1に示すように、径が大きく形成され、ブーツ1の外側が凸となるように形成された大径部(山部ともいう)7aと、径が小さく形成され、ブーツ1の外側が凹となるように形成された小径部(谷部ともいう)7bとを、ブーツ1の筒軸方向に繰り返し形成して構成されている。例えば、本実施形態の場合には、五個の大径部7aと、これら五個の大径部7aに対しそれぞれ大径側端部3側に配置された五個の小径部7bとを有して構成されている。これらの各大径部7aおよび小径部7bは、それぞれ小径側端部5側から大径側端部3側に近づくにつれて順次径が大きく形成され、その結果、ブーツ1は、全体として略円すい台状に形成されている。
【0030】
なお、本発明にてこのベローズ部7は、特に限定されるものではなく、そのベローズ部7の肉厚や大径部7aと小径部7bのピッチなどの諸条件は本発明の範囲内で適宜最適な条件が適用される。
また、本実施形態では、上記した予備成形品の大径側端部3と小径側端部5の双方を、夫々所望厚さの均一肉厚としている。これら肉厚は特に限定されず最適な任意厚さが選択される。
この大径側端部3と小径側端部5の諸条件は、特に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜最適な条件が適用される。なお、本実施形態では大径側端部3と小径側端部5の肉厚を均一にしているが、肉厚を均一にしていないものであっても本発明の範囲内である。
【0031】
図1乃至
図4に示すように、予備成形品である大径側端部3の外周面15は略円形に形成され、前記外周面15にはブーツ1をトリポッドジョイントに装着する際のバンド締結部37を凹設している。そして、この外周面15の内側に形成された二次成形部13には、その内周側に張り出して形成された複数個の厚肉部17と、前記厚肉部17間に形成される複数個の薄肉部19が設けられている。
本実施形態の場合には、大径側端部3の内周方向にて略等間隔に離間して、例えば三個の厚肉部17が形成され、隣り合う各厚肉部17の間には、周方向にわたって略一定の肉厚を有する三個の薄肉部19が形成されている。
【0032】
厚肉部17は、一対の厚肉部構成体(土台)17a,17aと、一対の厚肉部構成体17a,17a間に形成され、大径側端部3の内周面側から大径側端部3の外周面側に向けて径方向(図にて矢印R1にて示す方向)に窪み、かつ厚肉部17の周方向にわたって連続して形成されている溝部18とで構成されている(
図1乃至
図8参照。)。
【0033】
前記厚肉部構成体17aは、前記大径側端部3の底面側から見たときに、大径側端部3の周方向で左右の裾部17b,17bから頂部17cに向けてそれぞれ昇り傾斜状に形成された底面視形状で弧形状に張り出して形成されている(
図2参照。)。
前記厚肉部17(厚肉部構成体17a)の略弧形状は、ブーツ1が装着されるトリポッドジョイントの外筐の外周面の軸方向溝(凹部)に適合するように設定されている。
本実施形態では、一対の厚肉部構成体17aと17aが同一の軸方向幅(厚み)をもって形成されているが、一対の厚肉部構成体17aと17aが、異なる軸方向幅(厚み)をもって形成されているものであっても本発明の範囲内である。
【0034】
前記溝部18のブーツ径方向(R1)における溝形状は、前記厚肉部の内周面(前記厚肉部構成体17aの頂部17c付近の溝部開口位置)方向から前記大径側端部3の外径方向に向って幅狭状となるように形成されている。溝部開口位置の溝幅をW1、大径側端部3の外径寄りの溝幅をW2にて示す(
図4、
図7及び
図8参照。)。なお、本実施形態では、僅かに幅狭状に形成されているが、その形状に限定されるものではなく、さらに極端に幅狭状に形成してもよく、また前記W1からW2までの幅を同一幅とすることを排除する趣旨ではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0035】
相対向する裾部17b,17b間のブーツ軸方向における溝幅W3は、相対向する頂部17c,17c間のブーツ軸方向における溝幅W4に比して狭く形成されている(
図5参照。)。
本実施形態では、それぞれの厚肉部構成体17aの裾部17bの軸方向幅(厚み)を、頂部17cの軸方向幅(厚み)に比して大きく形成することにより、上記溝幅W3とW4の関係を形成している。このように裾部17bの軸方向幅(厚み)を大きくすることにより、裾部17bに対する頂部17cの剛性を低く、つまり柔らかくできる。これにより、後述するリップ部の密着性を向上することができ、グリース漏れ防止効果を向上させることができる。
【0036】
なお、溝部18は、少なくとも1つ以上設けられていれば良く、その配設本数には限定されない。また、本実施形態では、周方向に連続した溝形状に形成しているが、断続的に形成されているものであっても本発明の範囲内である。
【0037】
そして、
図1乃至
図8に示すように、大径側端部3の内周面には、上述した厚肉部17のそれぞれの厚肉部構成体17aの表面(厚肉部の内周面)および薄肉部19の表面(薄肉部の内周面)にわたり、前記凹部を含めた前記外筐の外周面に接してブーツ内部領域を密封する周方向に連続し、平行に配設されたリップ部(シールリップ)21a,21bが設けられている。
このリップ部(シールリップ)21a,21bにより、ブーツ内部領域を密封し、グリース漏れを防止するとともに、粉塵・泥水などの侵入防止を図っている。
すなわち、前記リップ部(シールリップ)21a,21bは平行して2本形成されており、それぞれのリップ部(シールリップ)21a,21bは、ブーツ軸方向(図にて矢印S1にて示す方向)において前記溝部18を挟んで位置している。
前記リップ部(シールリップ)21a,21bは、断面視形状が例えば略三角形または台形状に形成された突条として形成されている。また図示は省略しているが、前記リップ部(シールリップ)21a,21bの頂部にはR面取りが施されている。
なお、本実施例では、2本のリップ部(シールリップ)21a,21bを設けた実施の一例を示すが、リップ部の本数・形状などは限定されず、1本でも3本以上でもよく設計変更可能である。
【0038】
ここで、本実施形態の厚肉部17と、前記特許文献2に開示のブーツにおける厚肉部とを
図8に基づいて比較すると次のとおりである。
図8(a)は本実施形態の厚肉部17を外筐200の軸方向溝201に締め付けバンド300を介して締め付け固定した際の図で、(b)は特許文献2に開示のブーツの厚肉部を外筐200の軸方向溝201に締め付けバンド300を介して締め付け固定した際の図を示す。
なお、相違点の理解を助けるために、本実施形態の厚肉部17と特許文献2の厚肉部との形態を略同一で、溝部18の配設位置のみを変えた概略形態とするとともに、特許文献2の厚肉部にも本実施形態と同一の符合を付して説明するものとする。
【0039】
本実施形態の場合、締め付けバンド300が接するバンド締結部37の領域をA、バンド締結部37の直下の中実領域をB、溝部18を設けている領域をC、リップ部21a(21b)の領域をDと規定する。
これに対して特許文献2に開示の厚肉部の場合、締め付けバンド300が接するバンド締結部37の領域をA、バンド締結部37の直下の領域で、溝部18を設けている領域をB、溝部18とリップ部21a,21bとの間の中実領域をC、リップ部21a,(21b)の領域をDと規定する。
【0040】
本実施形態の場合、締め付けバンド300の締め込みにより、Aに印加された締め付け力は、AからBを介してCに伝達される。ここで、Bは、中実領域で構成されるため、締め付け力をほぼそのままCに伝達する。Cは、溝部18の存在により、断面積(荷重をうけることができる体積)が小さくなっているため、Cの基部に伝達された締め付け力は、その頂部であるD、すなわちリップ部21a(21b)に集中して伝達される。さらに、Cは、中実領域であるBに比べて、剛性が低く、弾性変形可能であるので、Cは、Bに伝達された締め付け力を弾性的にDに印加することができる。
さらにCの領域はリップ部21a(21b)に向って徐々に面積(断面積)が小さくなる構成とすることで、頂部に向って、徐々に変形しやすい構成を採用しているため、走行振動などにより、リップ部21a(21b)が当接してシールする相手側部材であるトリポッドジョイントの外筐が振動などにより多少ぶれたとしても、リップ部21a(21b)の密着性を維持することができる。
【0041】
これに対して特許文献2に開示のブーツの厚肉部の場合、締め付けバンド300の締め込みにより、Aに印加された締め付け力は、AからBを介してCに伝達される。ここで、Bは、外径方向に開口する溝部18が形成されているため、断面積(荷重をうけることができる体積)が小さくなっているため、Bが変形して締め付け力を吸収し、AからBを介して伝達される締め付け力は小さくなる。つまり、Bの領域でAから伝達された締め付け力をロスしてしまう。さらに、Cの領域が中実であって面積(荷重をうけることができる体積)が大きいため、Bを介して伝達された小さな締め付け力では、Cの領域が変形しづらい(大きく縮径できない)ので、Dの領域に存しているリップ部21a(21b)には締め付け力が集中せず、また、相手側部材であるトリポッドジョイントの外筐への押付け力も小さく、振動などによりトリポッドジョイントの外筐がずれた場合、密着性が維持できないおそれがある。
従って、本発明にかかる本実施形態の場合、相手側部材であるトリポッドジョイントの外筐に対して、十分な締付け力を弾性的に印加することができるので、締め付け力の低下を防止し、良好な密封性を維持できる構造とすることができる。
【0042】
さらに、溝部18を型成形するにあたり、型抜き容易性を考慮して溝部18は、開口側の幅W1が内底面側の幅W2よりも大きく形成されている。従って、特許文献2の場合、さらにBの面積が小さくなるため、Bの領域の変形が大きくなって力のロスが大きくなってしまうのでシール性能が低くなってしまう。これに対して本実施形態によれば、溝部18の幅W1の大きい開口側がリップ部21a(21b)寄りに形成されるものであるため、B,Cの面積が逆に大きくなりシール性能が向上することとなる。
【0043】
よって、特許文献2の場合には、上述したとおり、Bの領域に溝部18が存在し、この領域で大きく変形してバンド締結力を大きくロスしてしまい、リップ部21a(21b)までバンド締結力が及ばなくなりシール性能があまり高くないという結果となるのに対し、本実施形態の場合は、締め付けバンド300寄りのAの領域からリップ部21a(21b)の存するDの領域へと徐々に面積が小さくなる構成を採用しているため、リップ部21a(21b)に力が集中し、リップ部21a(21b)を変形させることができる。さらに、Cの領域、すなわち、溝の大きさ(幅W1、W2)、深さ、形状によりリップ部21a(21b)に加えられるバンド締め付け力を適正に調整できるため、シール性能が極めて高いという作用効果が期待できる。
【0044】
本実施形態によれば、上述のとおり、シール性能の向上が図れるとともに、ブーツ全体の製品重量の軽量化が図れるため当初の課題を十分に達成でき、需要者ニーズにも十分に対応可能である。
また、溝部18の周方向幅を、溝部18の中央領域(頂部17c,17c間の領域)の幅W4と、裾部17b,17b間の幅W3とで変えることにより、リップ部(シールリップ21a,21b)に加えられるバンド締め付け力を適正に調整できるため、シール性能が極めて高いという作用効果が期待できる。
さらに、厚肉部17に溝部18を設けることにより、厚肉部17と薄肉部19で素材ボリュームの偏りが少なくなるため、成形時の収縮量の差を小さくでき、収縮(ひけ)の問題も生じづらい。
また、厚肉部に溝部18を設けるものとしたことにより、樹脂材料の使用量の削減及び製造コストの削減が図れる。
【0045】
また、
図6Aに示すように、前記溝部18には、溝部18を構成している一対の厚肉部構成体17a,17aのそれぞれの軸方向の対向内壁面17d,17d間にわたって架け渡されるリブ(支承壁)20が設けられている構成を採用することが可能である。
【0046】
このようにリブ20を架け渡すことにより、厚肉部17、すなわち、厚肉部構成体17a,17aの強度を保つことができ、想定外の変形を抑えることができる。
リブ20は、特に限定解釈されるものではないが、ブーツ全体の軽量化を図れる範囲内でその大きさを設計変更可能であり、また溝部18内において、周方向に複数個所定間隔をあけて配設することも可能である。また、リブ20は、本実施形態では後述する製造方法にて厚肉部17を成形すると同時に一体成形しているが、別体で成形して溝部18内に接着固定することも可能で本発明の範囲内である。
リブ20は、基端側(溝内底面側)の幅を先端側(溝開口側)の幅と比して大きく形成することも可能である。
【0047】
また、本実施形態では、軸方向で内方に位置している厚肉部構成体17aの外側壁17eと、軸方向で外方に位置している厚肉部構成体17aの外側壁17fにそれぞれの厚肉部構成体17aの倒れ防止のためのリブを設けてはいないが、設けるものとすることもでき、本発明の範囲内で設計変更可能である。
その他の構成及び作用効果は
図5と同様であるため、同一箇所に同一符号を付してその説明を省略する。
【0048】
厚肉部構成体17aの軸方向S1の幅(厚み)は、特に限定されるものではないが、少なくとも自立性を有するとともに、バンド締め付け時の形状保持性を有する程度に形成されていることが好ましい。
図6B及び
図6Cは、他の実施形態であって、
図5及び
図6Aと比して、厚肉部構成体(土台)17aの軸方向S1の幅(厚み)を厚肉状に構成した実施の一形態を示す。
すなわち、
図6B及び
図6Cに示す厚肉部構成体(土台)17aの形態は、大径側端部3の内周面と連続する基端部の軸方向幅が
図5や
図6Aで示す厚肉部構成体(土台)17aの形態と比して厚肉に構成しているものである。
なお、本実施形態では、奥側(軸方向で内側)の厚肉部構成体(土台)17aと連続して凸部22を一体に設けており、凸部22は、大径側端部直近の小径部7bの内面方向に向けて設けられている。また、本実施形態では、この凸部22の一部を所定範囲で肉盗みして軽量化を図っている(図中、符号22aは肉盗み部を示す。)。
その他の構成及び作用効果は
図5及び
図6Aと同様であるため、同一箇所に同一符号を付してその説明を省略する。
【0049】
大径側端部3、小径側端部5及びベローズ部7からなる予備成形品と、肉厚の異なる部分からなる二次成形部13を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されず、本発明の範囲内で最適な材料が選択され、また夫々同材質であっても、硬度の違う材質であっても、異材質であっても本発明の範囲内である。なお、二次成形部13たる肉厚の異なる部分は、シール性が良好な材質が好ましく、一方予備成形品は、純粋に本来の目的にあった材質、すなわち屈曲性・耐熱性・耐寒性などを有する材質を選択することが出来る。
【0050】
[等速ジョイント用ブーツの製造装置]についての説明
ここで本発明の等速ジョイント用ブーツを製造するために用いられる製造装置の一実施形態について説明する。
【0051】
本発明の等速ジョイント用ブーツを製造する製造装置の要部である金型49についての概略構造を説明すると、
図9乃至
図14に示すように、本装置の要部である射出成形用の金型49は、可動盤側を構成する保持用金型(割型)51と、固定盤49a側に備えられたコア型69とを有している。
【0052】
保持用金型(割型)51の内面には
図14に示すように、予備成形品の外観形状が密着する(予備成形品の外面を保持する)輪郭57が形成され、前記保持用金型(割型)51を型締した際に、ブーツ1の外観形状(外側輪郭)に合致する予備成形品収容空間55が形成される。
この予備成形品収容空間55は、型締時に予備成形品収容空間55に収容された予備成形品の大径側端部3の外周面15の開口縁59が、保持用金型(割型)51の下端面51aと同一平面上に位置するように形成されている。
【0053】
金型49の固定盤49aには、
図14に示すように、上記二次成形空間43内にランナー45を介して熱可塑性樹脂を射出するゲート47が形成されている。本実施形態においては、このゲート47が、薄肉部成形空間43bの任意の一箇所乃至複数箇所を選択して備えられている。すなわち、二次成形空間43における薄肉部成形空間43bの任意の一箇所乃至複数箇所に二次成形用の熱可塑性樹脂射出(注入)ポイントを設けると、射出ゲート47から厚肉部成形空間43aまでの薄肉部成形空間43bが狭いランナーとしての役割を兼ね、高温状態を維持しつつ厚肉部成形空間43aまで溶融材料が高速・高温で一瞬にして送り込まれるため、ウェルドやエアー巻き込みの発生が無く、予備成形品の大径側端部3内面と、二次成形部13の外面とが溶着される。
もちろん、ゲート47は厚肉部成形空間43aの任意の一箇所乃至複数箇所を選択して備えることも、薄肉部成形空間43bと厚肉部成形空間43aを含んだ任意の一箇所乃至複数箇所を選択して備えることもなんら問題はなく設定可能である。
なお、ゲート47は厚肉部成形空間43aに備え、厚肉部成形空間43aのみから若しくは厚肉部成形空間43aを含む複数箇所から熱可塑性樹脂を射出するものとしてもよいが、エアー不良やウェルド不良発生防止などの観点からすれば本実施形態のように薄肉部成形空間43bにゲート47を備えるのが好ましい。
【0054】
コア型69は、ベローズ部7の内周面又は大径側端部3の内周面に当接可能な上方突出部74,81aと、前記大径側端部3の内周面との間に複数の厚肉部と複数の薄肉部とからなる二次成形部分を成形するための二次成形空間43を形成する下方周面部76a,81c、及び当該下方周面部76a,81cに、コア型69の中心軸方向にスライド可能に設けられた下方突出部81bとを備えて構成されており、前記二次成形空間43を構成する厚肉部成形空間43aに対応している前記コア型69の上方突出部81a及び下方突出部81bは、前記厚肉部成形空間43aに向けて前進可能、コア型69の中心軸方向に向けて退避可能に構成されている。
【0055】
コア型69は、
図9乃至
図14に示すように、中心部に備えられ、中心軸を中心にして水平方向で左右に回転可能に構成され、操作部として機能する回転駒部89(カム部材99)と、前記回転駒部89(カム部材99)の周囲にて、周方向に交互に備えられる薄肉部成形空間43bを形成する第一型部(ベース部)70と、厚肉部成形空間43aを形成する第二型部79とにより全体が所望肉厚の円盤状に形成されている。
また、コア型69の外周径は、予備成形品の大径側端部3内面に形成される二次成形部の内径を構成するように設計される。なお、この二次成形部の内径は、装着対象となるトリポッドジョイントの外筐外径に嵌合する径とする。
【0056】
前記第一型部70は、
図9乃至
図14に示すように、平面視略扇状で、少なくとも予備成形品の大径側端部3直近の小径部7bより小径側端部5方向で、前記小径部7b内面よりも外径方向に位置する先端面(
図10にて上方の端面)71と、大径側端部端面3aと同一平面上に位置する下端面(
図10にて下方の端面)72にわたる肉厚に形成されている。
そして、前記回転駒部89を中心にして周方向に所望間隔をあけて三個備えられ、上端側外周には、予備成形品における大径側端部3直近の小径部7b内面を嵌合する凹状周溝(上方突出部)74が設けられ、前記凹状周溝(上方突出部)74の溶融材料射出側の周縁75から下端面72に至るまでの外周面76は、予備成形品の大径側端部3内周面との間で形成される薄肉部19の内面形状を形成する面部(下方周面部)76aを備えている。
【0057】
そして、隣り合う第一型部70,70の間には、第二型部79が径方向(水平方向)に摺動(スライド移動)可能な第二型部摺動用溝90が設けられている(
図13参照。)。
【0058】
第二型部摺動用溝90には、相対向する溝内側面90a,90aにわたって水平状に架け渡される内装板部91,91が鉛直方向で所定間隔をあけて2枚配設されている。
内装板部91は、コア型中央に配される回転駒部89と対向する後面91aが平坦面で、厚肉部成形空間43aと対向する前面91bが、後面91a方向に窪む曲面をもって形成されている(
図13参照。)。
【0059】
この2枚の内装板部91,91は、厚肉部17を構成する厚肉部構成体(土台)17a,17aを形成するために用いられるものであり、第二型部79が厚肉部成形空間43a方向に移動した際に、第二型部79の第二部材92の下方突出部81bの先端から内方に向けて凹設された二条の深溝93,93内に収納される。
この内装板部91,91は、前記二条の深溝93,93内に収納された際に、その板部前面(曲面部分)91b,91bと前記深溝93,93の開口93a,93aとの間に、厚肉部構成体(土台)17aを型成形するための所定のキャビティ(成形空間)110,110が形成されるように、前記溝内側面90a,90aの所定位置に備えられている。
【0060】
第二型部79は、
図9乃至
図14に示すように、前記隣り合う第一型部70,70間の第二型部摺動用溝90に配設されており、第一型部70と一体的に設けられている固定部80上にて回転駒部89の左右回転作動に応じてコア型69の中心軸方向にスライド移動可能、若しくは厚肉部成形空間43a方向にスライド移動可能に構成されている。
【0061】
第二型部79は、前記隣り合う第一型部70,70間に配設される幅で、かつ前記第一型部70と同一肉厚(鉛直方向の肉厚)に構成され、前記回転駒部89を中心にして周方向に三個備えられている。
第二型部79は、鉛直方向で配設される第一部材94と第二部材92とで構成され、本実施形態では、第一部材94と第二部材92が一体成形されており、回転駒部89(カム部材99)と対向する側に平面視で円弧状に形成された摺動面部95を備えるとともに、反対側の面には、上方突出部81aと下方突出部81bとからなる外周面81が形成されている。
【0062】
そして、第二型部79は鉛直方向に立設された芯材79aが内装されており、芯材79aには、後述する回転駒部89(カム部材99)に内装される芯材89aとの間にわたって引張りばね96が架け渡されており、コア型69の中心方向に引っ張られるように付勢されている。すなわち、三個の第二型部79は、それぞれ回転駒部89(カム部材99)に内装される芯材89aとの間にわたってそれぞれ引張りばね96が架け渡されてコア型69の中心方向に引っ張られるように付勢されている。
【0063】
第一部材94は、第二型部79が、回転駒部89によって押し出されて厚肉部成形空間43aに突出している状態のときに、前記第一型部70の凹状周溝74と周方向で連通する凹状周溝85が上端側外周面に備えられている上方突出部81aが設けられており、第二部材92は、厚肉部17の内周面側から径方向に窪んだ溝部を形成するための溝部形成用金型面としての下方突出部81bが下方周面部81cに設けられている。
【0064】
下方突出部81bは、第二型部79の第二部材92の先端から内方に向けて凹設された二条の深溝93,93と、二条の深溝93,93間に挟まれて突出している所定厚さを有した溝部形成用板部材97を備えている。
前記二条の深溝93,93は、上述したとおり、前記第二型部摺動用溝90に備えられている2枚の内装板部91,91とともに厚肉部構成体(土台)17a,17aを形成するために用いられるものであり、前記溝部形成用板部材97は、前記第二型部摺動用溝90に備えられている2枚の内装板部91,91の間を通過して厚肉部成形空間43aに突出して備えられ、厚肉部構成体17a,17a間に溝部18を形成するために用いられるものである。
【0065】
前記第一部材94と第二部材92で構成された第二型部79は、回転駒部89(カム部材99)の左右方向の回転作動により、前記厚肉部成形空間43a方向にスライド移動して、前記第一型部70の凹状周溝74とともに、前記凹状周溝85に大径側端部3直近の小径部7b内面を嵌合し、前記厚肉部成形空間43a内に前記下方突出部81bを突出可能、若しくはコア型69の中心軸方向にスライド移動して厚肉部成形空間43aから退避可能に構成されている。
【0066】
前記回転駒部89は、芯材89aと、芯材89aに取り付けられたカム部材99とで構成されている。芯材89aは、コア型69の略中心にて鉛直方向に立設されるとともに、カム部材99の中心に配設されている。
【0067】
前記カム部材99は、平面視で変形三角形状を有する略三角柱状に形成され、平面視でそれぞれの中央領域が窪んだゆるやかな曲面をもって形成されている三箇所の凹状側面部99a,99a,99aと、各凹状側面部99a間に形成されている三箇所の凸状側面部99b,99b,99bを備えている。
また、カム部材99の頂面には、操作部材101の係止腕部101aを係止する係止溝部100aを凹設した突起部100を設けている。
すなわち、コア型69の中心軸を中心として、回転駒部89(カム部材99)を水平方向で左右いずれかの方向に回転作動せしめることにより、前記第二型部79の摺動面部95が前記凸状側面部99bと凹状側面部99aに沿いながら水平方向で直線状にスライド移動する。
たとえば、本実施形態では、回転駒部89(カム部材99)を回転作動させて凸状側面部99bが第二型部79の摺動面部95を押圧する位置に到達すると、第二型部79は、厚肉部成形空間43aに下方突出部81bを位置させるようにスライド移動(前進移動)し、また、回転駒部89(カム部材99)を反対方向に回転作動させると、第二型部79は、引張りばね96により、凸状側面部99bから凹状側面部99aに摺動面部95が沿いつつスライド移動(後進移動)し、第二部材92先端の下端側外周面に設けた下方突出部81bを、厚肉部17領域から退避させる。
【0068】
操作部材101は、先端に三叉状の係止腕部101aを備えた回転操作可能な所望な部材であって、係止腕部101aを、カム部材99の突起部100の頂面に凹設した三叉状の係止溝部100aに係止させ、水平方向で左右いずれかの方向に所定角度、本実施形態では約60度回転させるものである。なお、操作部材101は本実施形態に限定解釈されるものではなく、カム部材99を所定方向に所定角度だけ回転操作可能な構成を有するものであればよく本発明の範囲内で適宜選択可能である。また、操作部材101は手動式であっても、動力を介して自動的に回転作動可能に構成されているものであってもよい。
また、カム部材99の下方領域に所定の動力源を備えてカム部材99を自動的に回転作動させることも可能である。
【0069】
[等速ジョイント用ブーツの製造装置を用いた製造方法についての説明]
次に、前記説明した製造装置を用いた本発明の等速ジョイント用ブーツの製造方法(製造工程)について説明する。
図14は、前記製造装置(コア型69)を用いた等速ジョイント用ブーツの製造方法の全体の流れの一実施形態を示す概略図である。
【0070】
本実施形態の製造方法は、「予備成形工程」→「二次成形工程」→「ブーツ引き抜き工程」にて構成されている。
【0071】
「予備成形工程」
上述した大径側端部3、小径側端部5及びベローズ部7からなる予備成形品の成形方法としては、ブロー成形や射出ブロー成形などが良く知られているが、特に限定されず、本発明の範囲内で適宜最適な成形方法が適用される。
【0072】
「二次成形工程」
本工程は、予備成形にて成形された予備成形品の大径側端部3内にコア型69を挿入して射出成形用金型49内に保持すると共に、前記金型49内に所望の溶融材料を射出することにより、予備成形品の大径側端部3の外周面15の内面とコア型69外面との間に、厚肉部17と薄肉部19からなる二次成形部13を一体成形するものである。なお、以下に説明する構成以外の構成については既知の構成が適用されるためそれらの説明については省略する。
【0073】
二次成形工程は、(1)二次成形空間を形成する工程と、(2)二次成形部分を成形する工程とからなる。
【0074】
「(1)二次成形空間を形成する工程」
例えば、まず、予め固定盤49a側に備えてあるコア型69の外周に、予備成形品の大径側端部3の内周がくるように配置して、コア型69に予備成形品を取り付ける(
図14(a))。
そして、次に、上述のように大径側端部3をコア型69の外周に取り付けて備えた予備成形品を、保持用金型(割型)51を型締することにより金型49内に配設保持する(
図14(b))。
このとき、コア型69は、操作部材101の三叉状の係止腕部101aを、回転駒部89(カム部材99)の突起部100に設けた三叉状の係止溝部100aに係止させ、そして所定の方向(左右何れかの方向)に所定角度(本実施形態では60度)回転駒部89(カム部材99)を回転させることにより、回転駒部89(カム部材99)の凸状側面部99bが第二型部79の摺動面部95を押圧する位置に到達すると、第二型部79は、厚肉部成形空間43aに下方突出部81b(深溝93,93、溝部形成用板部材97)を位置させるようにスライド移動(前進移動)する。
【0075】
このように保持用金型(割型)51を型締したとき、
図14(b)に示すように、ベローズ部7の大径側端部3直近の小径部7b外面全域には、保持用金型(割型)51の内面の凸条53が嵌り込み、そして前記小径部7bの内面全域には、コア型69の凹状周溝74,85が嵌り込み、保持用金型(割型)51の凸条53とコア型69の凹状周溝74,85によって前記小径部7bが挟持される。
【0076】
このような工程を経ることにより、予備成形品の大径側端部3の内周面とコア型69の外周面76,81との間で、大径側端部3の内周面に厚肉部17と薄肉部19とからなる二次成形部13部分を成形する二次成形空間43が形成される。
すなわち、二次成形空間43は、本実施形態では、コア型69の第二型部79の外周面81と大径側端部3の内周面との間で厚肉部形成空間43aが形成され、コア型69の第一型部70の外周面76と大径側端部3の内周面との間で、前記厚肉部形成空間43aと連通する薄肉部形成空間43bが形成される。
第二型部79が、厚肉部成形空間43a方向に移動した際に、第二型部79の第二部材92の下方突出部81bの先端から内方に向けて凹設された二条の深溝93,93内に、第二型部摺動用溝90に備えた2枚の内装板部91,91がそれぞれ収納され、その内装板部前面(曲面部分)91a,91aと前記深溝93,93の開口93a,93aとの間に、厚肉部構成体(土台)17aを型成形するための所定のキャビティ(厚肉部構成体17aの成形空間)110,110が形成される。
また、このとき、前記二条の深溝93,93間に設けられている溝部形成用板部材97は、前記2枚の内装板部91,91の間を通過して厚肉部成形空間43aに突出して備えられる。
なお、上述した本工程は一例に過ぎず、この工程以外の他の工程を採用することも本発明の範囲内で可能であり、適宜設計変更可能である。
【0077】
「(2)二次成形部分を成形する工程」
まず、前記工程により形成された二次成形空間43における薄肉部成形空間43bの任意の一箇所乃至複数箇所に二次成形用の溶融材料注入ポイントを位置せしめる。
そして、前記注入ポイントを介して、例えば260℃以上の高温に加熱され、溶融した熱可塑性樹脂を、前記二次成形空間43に高速で射出注入し、前記予備成形品の大径側端部3の内周面に、厚肉部17と薄肉部19からなる二次成形部13部分を一体成形する。
すなわち、薄肉部成形空間43bから注入された溶融材料が厚肉部成形空間43aに流入されるとともに、第二型部79の先端面に備えた二条の深溝93,93と、第二型部摺動用溝90に備えた2枚の内装板部91,91とで形成された、厚肉部構成体(土台)17aを型成形するための所定のキャビティ(厚肉部構成体17aの成形空間)110,110に溶融材料が入り込み、厚肉部構成体17a,17aと、溝部18が一体成形される。
なお、上述したとおり、射出される熱可塑性樹脂は例えば260℃以上であるが、特に限定されず、素材に不具合が生じない範囲で適宜設計変更可能である。
【0078】
「ブーツ引き抜き工程」
前記二次成形工程により、予備成形品の大径側端部3の内周面に、厚肉部17と薄肉部19からなる二次成形部13を一体成形したブーツ1が形成される(
図1)。
このように成形されたブーツ1の大径側端部3の内面の厚肉部17には、
図4に示すように、ブーツ軸心方向に突出するアンダーカット部分となる厚肉部構成体17a,17aが設けられている。
【0079】
そして、コア型69とブーツ1を分離する前に、操作部材101の三叉状の係止腕部101aを、回転駒部89(カム部材99)の突起部100に設けた三叉状の係止溝部100aに係止させ、そして所定の方向(左右何れかの方向)に所定角度(本実施形態では60度)回転駒部89を回転させると、第二型部79は、引張りばね96により、凸状側面部99bから凹状側面部99aに摺動面部95が沿いつつスライド移動(後進移動)し、第二部材92先端の下端側外周面に設けた下方突出部81bを、厚肉部17領域から退避させる(
図14(e))。
【0080】
これにより、厚肉部17をコア型69から引き抜く際に、厚肉部17のアンダーカット部分である厚肉部構成体17a,17aに引っ掛かるコア型部分がなくなり、その状態でコア型69からブーツ1を引き抜き分離させる(
図14(f))。
【0081】
以上のように、本実施形態によれば、いわゆるアンダーカット部分となる厚肉部構成体17a,17aに接する面を、成形品たるブーツ1の引き抜き時にはコア型69の中心軸方向に退避させているから、コア型69からの成形品たるブーツ1の引き抜きが容易となり、いわゆる無理抜きを防止することができる。
なお、本発明は上述した実施形態によって限定されるものではなく、その発明の範囲内で適宜変更を加えることが可能である
【0082】
「第二実施形態」
図15及び
図16は、本発明の等速ジョイント用ブーツの製造方法に用いられるコア型の他の実施形態を示す。
【0083】
コア型69は、複数個(前記第一実施形態と同じく3個)の第一型部70と、複数個(前記第一実施形態と同じく3個)の第二型部79とで構成されており、第二型部79の構成を第一実施形態のコア型69と相違する構成としている。
よって、ここでは第二型部79について説明し、第一型部70についてはその説明を省略する。
【0084】
第二型部79は、第一部材94と第二部材92とで構成されており、第一部材94と第二部材92とは、それぞれ別個独立した動作をするように構成されている。
本実施形態では、第一実施形態の第二型部79における鉛直方向で上方の深溝93を構成する溝天井面位置93bで二分した上方の領域を第一部材94、下方の領域を第二部材92としている(
図15参照)。
【0085】
第一部材(第一の直進式進退部材)94は、第一実施形態と同様に、回転駒部(回転用中子)89のカム部材99によって前後進可能に構成されており、後端面(コア型中心軸側の面)には円弧状の摺動面部95が備えられ、反対側の先端面には、予備成形品における大径側端部3直近の小径部7b内面を嵌合する凹状周溝85が上端側外周面に備えられている。凹状周溝85は、第一型部70の凹状周溝74と周方向で連通する。
第一部材94は、第一実施形態と同様に、引張りばね96によって常時コア型69の中心軸方向に引き寄せるよう付勢されている。引張りばね96の一端は第一部材94の芯材94aに連結され、他端は後述の回転駒部89の略中心に設けた軸部120に連結されている。
【0086】
回転駒部89は、軸部120と、軸部120に取り付けられたカム部材99とで構成されている。
【0087】
軸部120は、円筒軸部121と円筒軸部121の上端に一体成形された円盤状の押圧部122と、円筒軸部121の下端に一体成形された円盤状の接触部123とで構成されており、コア型69の略中心にて、回転駒部89の略中心で鉛直方向に設けた貫通孔111内に、上下スライド自在に挿通し、下方に位置する後述の上下昇降用中子130の頂面130aに立設されている。
軸部120の下端の接触部123は、上下昇降用中子130の頂面130aと固着されていても固着されていなくてもよい。また、軸部120の鉛直方向の長さは、上下昇降用中子130の上昇時(非押圧時)には回転駒部89の頂面(突起部100の頂面)から押圧部122が外方に突出し、上下昇降用中子130の下降時(押圧時)には回転駒部89の頂面(突起部100の頂面)内方に押圧部122が収容可能な程度の長さに設定されている。
【0088】
前記カム部材99は、平面視で変形三角形状を有する略三角柱状に形成され、平面視でそれぞれの中央領域が窪んだゆるやかな曲面をもって形成されている三箇所の凹状側面部99a,99a,99aと、各凹状側面部99a,99a,99a間に形成されている三箇所の凸状側面部99b,99b,99bを備えている。
また、カム部材99の頂面には、操作部材101の係止腕部101aを係止する係止溝部100aを凹設した突起部100を設けている。
【0089】
すなわち、コア型69の中心軸を中心として、回転駒部89を水平方向で左右いずれかの方向に回転作動せしめることにより、前記第一部材94の摺動面部95が前記凸状側面部99bと凹状側面部99aに沿いながら水平方向で直線状にスライド移動する。
たとえば、本実施形態では、回転駒部89を回転作動させて凸状側面部99bが第一部材94の摺動面部(円弧状面部)95を押圧する位置に到達すると、第一部材94はスライド移動(前進移動)して、先端の凹状周溝85が、予備成形品における大径側端部3直近の小径部7b内面を嵌合し、それ以外の先端側の面部は厚肉部成形空間43aに位置する。また、回転駒部89を反対方向に回転作動させると、第一部材94は、引張りばね96により、凸状側面部99bから凹状側面部99aに摺動面部95が沿いつつスライド移動(後進移動)し、第一部材94を厚肉部17領域から退避させる。
【0090】
第二部材(第二の直進式進退部材)92は、引張りばね140によってコア型69の中心方向へと常時付勢されるように構成されている。
そして、第二部材92は、下方に配設した押上げ用ばね150によって、常時鉛直方向で上方に押し上げられている上下昇降用中子(直進用中子)130の上下昇降作動によって前後進作動するように構成されている。引張りばね140の一端は第二部材92の下面に突設した芯材118に連結され、他端は後述のベースコア160の略中心に一体に突設した突状部160aに連結されている。
【0091】
例えば、第二部材92の後面(コア型69の中心軸と対向する側の面)92aをテーパー状に形成し、前記後面92aと対向する上下昇降用中子130の側周面上方領域130bを、前記テーパー状の後面92aと合致するテーパー状に形成し、上下昇降用中子130が押上げ用ばね150によって上昇したときは、テーパー状の上方領域130bによって、第二部材92がスライド移動して前進作動し、その先端面を厚肉部成形空間43aに位置させる。
第二部材92の先端面には、溝部形成用の下方突出部81bが形成されており、溝部形成用の下方突出部81bは、第二部材92の先端から内方に向けて凹設された二条の深溝93,93と、二条の深溝93,93間に挟まれて突出している所定厚さを有した溝部形成用板部材97を備えている。
前記二条の深溝93,93は、第一実施形態と同様に、第二型部摺動用溝90に備えられている2枚の内装板部91,91とともに厚肉部構成体(土台)17a,17aを形成するために用いられるものであり、前記溝部形成用板部材97は、前記第二型部摺動用溝90に備えられている2枚の内装板部91,91の間を通過して厚肉部成形空間43aに突出して備えられ、厚肉部構成体17a,17a間に溝部18を形成するために用いられるものである。
そして、上下昇降用中子130が押上げ用ばね150に抗して押下げられると、そのテーパー状の上方領域130bによって第二部材92がスライド移動して後退作動し、その先端面が厚肉部成形空間43aから退避される。
【0092】
前記カム部材99を回転作動させて第一部材94を進退作動させるには、突起部100の係止溝100aに操作部材101の先端係止腕部101aを係止させて回転作動させる。また、第二部材92を進退作動させる場合、上下昇降用中子130を上下昇降作動させる必要があるが、上下昇降用中子130を押上げ用ばね150に抗して押下げる場合、上下昇降用中子130の頂面に接触部123が当接して立設されている前記軸部120を、操作部材101で押圧することにより行なう。前記軸部120は、その上端の押圧部122がカム部材99の突起部100の上方に突出しているため、操作部材101の下端(係止腕部101aが設けられている面部)で前記押圧部122を押下げることにより行なう。
【0093】
なお、本実施形態において、押上げ用ばね150は、鉛直方向でコア型69の下方に配設したベースコア160に凹設した上面開放状の収容空間161に配設し、収容空間161は、前記上下昇降用中子130が上下進退可能な大きさの円筒状空間に形成されている。また、上下昇降用中子130を上下昇降作動させる押上げ用部材として図示したようなコイルバネを想定しているが、これに限定解釈されるものではなく、板ばねなどの他のばね部材が本発明の範囲内で設計変更可能であり、また、ばね部材に代えて弾発力の高いゴム材・合成樹脂材などからなる押上げ用部材を採用することも可能である。
【0094】
操作部材101は、先端に係止腕部101aを備えた回転操作可能な所望な部材であって、係止腕部101aを、カム部材99の突起部100の頂面に凹設した係止溝部100aに係止させ、水平方向で左右いずれかの方向に所定角度、本実施形態では約60度回転させるものである。なお、操作部材101は本実施形態に限定解釈されるものではなく、カム部材99を所定方向に所定角度だけ回転操作可能な構成を有するもので、かつ軸部120を押圧操作可能な構成を有するものであればよく本発明の範囲内で適宜選択可能である。また、操作部材101は手動式であっても、動力を介して自動的に回転作動可能に構成されているものであってもよい。
【0095】
なお、上述した各実施形態では、コア型69の上方突出部74,81Aを、大径側端部3直近の小径部7b内面に突き当てる(嵌合)構成を採用しているが、例えば、上部に図示せぬ突き当て用フランジを備えたコア型69を採用することにより、
図17に示すような、傾斜部8の内面8aと二次成形部13の上面14(
図17では薄肉部19の上面)との間に空間16が形成される等速ジョイント用ブーツを提供するものとしてもよく本発明の範囲内である。
【符号の説明】
【0096】
3 大径側端部
5 小径側端部
7 ベローズ部
17 厚肉部
17a 厚肉部構成体
18 溝部
19 薄肉部
21a,21b リップ部