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  • 特許-円筒形電池及び電池モジュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】円筒形電池及び電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/107 20210101AFI20230327BHJP
   H01M 50/152 20210101ALI20230327BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20230327BHJP
   H01M 50/213 20210101ALI20230327BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20230327BHJP
【FI】
H01M50/107
H01M50/152
H01M50/131
H01M50/213
H01M50/342 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020531194
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024669
(87)【国際公開番号】W WO2020017237
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018134109
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山上 雄史
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-134308(JP,A)
【文献】特開2010-262899(JP,A)
【文献】特開平10-214604(JP,A)
【文献】特開2003-059539(JP,A)
【文献】特開2015-204267(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0194713(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/107
H01M 50/152
H01M 50/131
H01M 50/202
H01M 50/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体とを含む円筒形の電池ケースを備えた円筒形電池であって、
前記外装缶の底部又は前記封口体に排気弁が設けられ、
前記電池ケースの外周面において、前記電池ケースの軸方向中央よりも前記排気弁側に位置する第1領域は、前記排気弁と反対側に位置する第2領域よりも放射率が高い、円筒形電池。
【請求項2】
有底円筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体とを含む円筒形の電池ケースを備えた円筒形電池であって、
前記外装缶の底部及び前記封口体に排気弁が設けられ、
前記電池ケースの外周面において、前記電池ケースの軸方向中央よりも前記底部側に位置する第1領域は、前記封口体側に位置する第2領域よりも放射率が高い、円筒形電池。
【請求項3】
前記第1領域と前記第2領域の放射率の差は0.35以上である、請求項1又は2に記載の円筒形電池。
【請求項4】
前記第1領域の少なくとも一部には、前記外装缶の構成材料よりも放射率が高い材料で構成された赤外線吸収層が設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の円筒形電池。
【請求項5】
前記赤外線吸収層の面積は、前記外周面の総面積の25%~50%である、請求項4に記載の円筒形電池。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の円筒形電池を複数備える電池モジュールであって、
複数の前記円筒形電池は、それぞれの前記電池ケースの軸方向が互いに平行となる状態で、同一平面上に配列されている、電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円筒形電池及び当該電池を用いた電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、円筒形電池を複数備えた電池モジュールが車載用バッテリなどに使用されており、電池1つの安全性に加えて、モジュールとしての安全性も極めて重要になっている。一般的に、円筒形電池の外装缶の底部及び封口体の少なくとも一方には、異常発熱等で電池の内圧が上昇した場合に電池内部に発生したガスを排出させる排気弁が設けられている。例えば、特許文献1には、外装缶の底部に環状の薄肉部を形成して排気弁を設け、当該底部の面積に対する排気弁の面積の割合を10%以上とした円筒形電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/045569号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気弁からガスがスムーズに排出されない場合、外装缶の側壁部が裂ける所謂横裂けが発生する可能性がある。例えば、電池モジュールにおいて、外装缶の横裂けが発生すると、高温のガスにより近接する電池等に熱が伝播する。そのため、外装缶の横裂けを抑制することは重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の一態様である円筒形電池は、有底円筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体とを含む円筒形の電池ケースを備えた円筒形電池であって、前記外装缶の底部又は前記封口体に排気弁が設けられ、前記電池ケースの外周面において、前記電池ケースの軸方向中央よりも前記排気弁側に位置する第1領域は、前記排気弁と反対側に位置する第2領域よりも放射率が高い。
【0006】
実施形態の他の一態様である円筒形電池は、有底円筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部を塞ぐ封口体とを含む円筒形の電池ケースを備えた円筒形電池であって、前記外装缶の底部及び前記封口体に排気弁が設けられ、前記電池ケースの外周面において、前記電池ケースの軸方向中央よりも前記底部側に位置する第1領域は、前記封口体側に位置する第2領域よりも放射率が高い。
【0007】
実施形態の他の一態様である電池モジュールは、上記円筒形電池を複数備える電池モジュールであって、複数の前記円筒形電池は、それぞれの前記電池ケースの軸方向が互いに平行となる状態で、同一平面上に配列されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る円筒形電池によれば、異常発生時に電池内圧が上昇して所定値に達した場合、電池内部に発生したガスを排気弁からスムーズに排出でき、外装缶の横裂けを十分に抑制できる。また、本開示に係る円筒形電池を用いて電池モジュールを構成することで、モジュールの安全性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図2図2は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の正面図である。
図3図3は、実施形態の他の一例である非水電解質二次電池の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述の通り、近接する電池等への熱伝播につながる外装缶の横裂けを抑制することは重要な課題である。本発明者らは、かかる課題を解消すべく鋭意検討した結果、円筒形電池が加熱環境下に置かれた場合に、排気弁の近傍が優先的に加熱されるようにすることで排気弁からガスがスムーズに排出されることを見出した。本開示に係る円筒形電池では、排気弁の近傍が優先的に加熱されるように、電池ケースの外周面の上記第1領域の放射率を上記第2領域よりも高くしている。
【0011】
上記構成を備える円筒形電池を用いた電池モジュールによれば、円筒形電池の内圧が上昇しても外装缶の横裂けが充分に抑制される。そのため、高温ガスによる電池間の熱伝播が抑制される。
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る円筒形電池の実施形態について詳細に説明する。本開示の円筒形電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。また、水系電解質を用いた電池であってもよく、非水系電解質を用いた電池であってもよい。以下では、実施形態の一例である円筒形電池10として、非水電解質を用いた非水電解質二次電池(リチウムイオン電池)を例示するが、本開示の円筒形電池はこれに限定されない。
【0013】
図1は、円筒形電池10の断面図である。図1に例示するように、円筒形電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する円筒形の電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成される。また、円筒形電池10は、外装缶16と封口体17との間に配置される樹脂製のガスケット27を備える。
【0014】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。
【0015】
電極体14は、長尺状の正極11と、長尺状の負極12と、長尺状の2枚のセパレータ13と、正極11に接合された正極リード20と、負極12に接合された負極リード21とで構成される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0016】
正極11は、正極集電体と、集電体の両面に形成された正極合剤層とを有する。正極集電体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含む。正極11は、例えば正極集電体上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層を集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0017】
正極活物質は、リチウム含有金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。
【0018】
正極合剤層に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0019】
負極12は、負極集電体と、集電体の両面に形成された負極合剤層とを有する。負極集電体には、銅、銅合金など、負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層は、負極活物質、及び結着剤を含む。負極12は、例えば負極集電体上に負極活物質、及び結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層を集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
負極活物質には、一般的に、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素材料が用いられる。好適な炭素材料は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛などの黒鉛である。負極合剤層には、負極活物質として、Si含有化合物が含まれていてもよい。また、負極活物質には、Si以外のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物等が用いられてもよい。
【0021】
負極合剤層に含まれる結着剤には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)又はその変性体を用いる。負極合剤層には、例えばSBR等に加えて、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどが含まれていてもよい。
【0022】
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【0023】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部16b側に延びている。正極リード20は、封口体17の底板23の下面に溶接等で接続され、底板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ26が正極端子となる。負極リード21は、外装缶16の底部16bの内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0024】
外装缶16は、略円筒状の側壁部16a、及び底面視円形状の底部16bを有する、有底円筒状の金属製容器である。外装缶16は、一般的に鉄又はアルミニウムを主成分とする金属で構成される。外装缶16は、例えば側壁部16aを外側からプレスして形成された、封口体17を支持する溝入部22を有する。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。また、外装缶16の上端部は、内側に折り曲げられ封口体17の周縁部に加締められている。外装缶16と封口体17との間にはガスケット27が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。
【0025】
外装缶16の底部16bには、電池の内圧が所定値に達したときに開口する排気弁28が設けられている。また、円筒形電池10では、封口体17にも排気弁24が設けられている。即ち、円筒形電池10は、電池ケース15の軸方向両端部にガス排出機構を有する。底部16bには、例えば環状の溝28aが形成され、溝28aに囲まれた部分が、内圧が所定圧力に達したときに開口する排気弁28となる。溝28aは、底部16bの外面側から形成された刻印である。底部16bの溝28aが形成された部分は他の部分よりも厚みが薄い薄肉部となるため、内圧上昇時に優先的に破断し易い。
【0026】
溝28aは、例えば底面視真円形状を有し、底部16bの外周縁と同心円状に形成される。溝28aの底面視形状は特に限定されず、例えば真円形状、半円形状、多角形状等であってもよいが、通常使用時の耐久性及び内圧上昇時の排気弁の作動性等の観点から、好ましくは真円形状である。
【0027】
封口体17は、電極体14側から順に、底板23、下弁体24a、絶縁部材25、上弁体24b、及びキャップ26が積層された構造を有する。下弁体24a及び上弁体24bが排気弁24を構成する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。底板23は、少なくとも1つの貫通孔23aを有する。下弁体24aと上弁体24bは、各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。
【0028】
円筒形電池10は、封口体17の排気弁24の作動圧が底部16bの排気弁28の作動圧より低くなるように設計されている。また円筒形電池10は、封口体17側の排気弁24に比べて底部16b側の排気弁28からの排気量が大きくなるように設計されている。例えば、排気弁28の開口予定面積は、封口体17の底板23に形成された貫通孔23aの開口面積よりも大きい。底部16bの排気弁28は、電池外部に直接露出しているため効率的にガスを排出することができ、排気弁28を経由するガス排出経路が閉塞されにくい。排気弁28の開口予定面積は、特に限定されないが、底部16bの総面積に対して、好ましくは10%~70%、より好ましくは15%~50%である。排気弁28の薄肉部(溝28aが形成された部分)は、例えば排気弁24の薄肉部よりも厚みが小さく、内圧上昇時に破断し易い。
【0029】
電池の内圧が上昇すると、例えば下弁体24aが上弁体24bをキャップ26側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24aと上弁体24bの間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体24bが破断して、キャップ26の開口部からガスが排出される。さらに内圧が上昇すると、排気弁28が破断して排気弁28からガスが排出される。なお、下弁体24aの代わりに、貫通孔を有する板状の導電部材を用いてもよく、或いは上弁体24bが底板23の上面に溶接された構造を適用してもよい。
【0030】
図2は、円筒形電池10の正面図である。図2の一点鎖線は、電池ケース15の軸方向中央(上下方向中央)を示す。円筒形電池10では、外装缶16(側壁部16a)の外周面に対応する電池ケース15の外周面の放射率が、電池ケース15の軸方向中央よりも底部16b側に位置する領域Ra(第1領域)と、外装缶16の軸方向中央よりも封口体17側に位置する領域Rb(第2領域)とで異なっている。ここで、放射率は、赤外線放射温度計(JIS1423)により測定される。放射率は赤外線の吸収のし易さを示す指標となり、放射率が高いものほど赤外線を吸収し易く、輻射熱により温度が上昇し易いことを意味する。
【0031】
上述の通り、外装缶16の底部16bに排気弁28が、封口体17に排気弁24がそれぞれ設けられている場合、排気弁28は大量のガスを効率的に排出することができ、排気弁28を経由するガス排出経路が閉塞されにくい。したがって、二つの排気弁24,28が円筒形電池10に設けられている場合、電池ケース15の外周面のうち、電池ケース15の軸方向中央を基準として、底部16b側に位置する領域Raは、封口体17側に位置する領域Rbよりも放射率が高いことが好ましい。
【0032】
領域Raの少なくとも一部には、外装缶16の構成材料よりも放射率が高い材料で構成された赤外線吸収層29が設けられている。即ち、本実施形態では、領域Raに赤外線吸収層29を設けることで、外装缶16の外周面の放射率を領域Ra>領域Rbとしている。なお、領域Rbの少なくとも一部に、赤外線を反射する赤外線反射層を設けることで、放射率を領域Ra>領域Rbとすることも可能である。但し、領域Ra,Rbの放射率の差を大きくして外装缶16の横裂け抑制効果を向上させるためには、領域Raに赤外線吸収層29を設けることが好ましい。本開示では、外装缶16に設けられた赤外線吸収層29は電池ケース15に含まれる。
【0033】
赤外線吸収層29の好適な一例は、赤外線の吸収率(放射率)が高いフィラーを含む塗膜である。この場合、赤外線吸収層29は、外装缶16の外周面に当該フィラーを含む塗料を塗布して形成される。赤外線吸収層29は、例えば黒色顔料を含む黒色の塗膜であるが、塗膜の色は黒色以外であってもよい。赤外線吸収層29の厚みは特に限定されないが、好ましくは10μm~500μmである。
【0034】
赤外線吸収層29は、メッキ、蒸着、スパッタリング等の薄膜生成法により形成される薄膜層であってもよい。赤外線吸収層29は、例えばクロムメッキ層であってもよい。また、赤外線の吸収率が高いフィラーを含む層、又は赤外線の吸収率が高い材料で構成された層を含む絶縁チューブを外装缶16に装着する、或いは粘着テープを外装缶16に貼着することで、赤外線吸収層29を設けてもよい。
【0035】
赤外線吸収層29の面積は、外装缶16の外周面の総面積の25%~50%であることが好ましい。赤外線吸収層29の一部は領域Rbに設けられてもよいが、好ましくは赤外線吸収層29の総面積の50%を超える部分が領域Raに設けられ、より好ましくは赤外線吸収層29の大部分(略全て)又は全てが領域Raに設けられる。図2に示す例では、領域Raのみに赤外線吸収層29が設けられている。赤外線吸収層29を外装缶16の外周面の総面積の25%~50%の範囲に形成することで、近接する電池が異常発熱したときに外装缶16の領域Raのみが加熱され易くなり、外装缶16の横裂けがより発生し難くなる。
【0036】
赤外線吸収層29は、外装缶16の領域Raにおいて、底部16bの近傍、外装缶16の軸方向中央の近傍、又は底部16bと軸方向中央との中間部分など、領域Raの一部に設けられていてもよい。また、領域Raの大部分(略全体)又は全体に赤外線吸収層29が設けられていてもよい。赤外線吸収層29の面積は、例えば領域Raの総面積の50%~100%である。赤外線吸収層29が領域Raの一部に設けられる場合、及び全体に設けられる場合のいずれにおいても、赤外線吸収層29は領域Raの周方向全長にわたって設けられることが好ましい。即ち、赤外線吸収層29は外装缶16の周方向に連続した環状に形成されることが好ましい。
【0037】
外装缶16の外周面において、領域Raと領域Rbの放射率の差が大きいほど、排気弁28がスムーズに作動して、外装缶16の横裂けが発生し難くなる。具体的には、領域Raと領域Rbの放射率の差が、好ましくは0.35以上であり、より好ましくは0.4以上であり、特に好ましくは0.5以上である。
【0038】
円筒形電池10では、外装缶16の横裂けが十分に抑制される。そのため、電池ケースの外周面が互いに対向するように電池が配置される電池モジュールに円筒形電池10が好ましく用いられる。本開示の電池モジュールの一例として、複数の円筒形電池10をそれぞれの電池ケース15の軸方向が互いに平行となる状態で、同一平面上に配列した電池モジュールが挙げられる。
【0039】
図3は、実施形態の他の一例である円筒形電池50の正面図である。円筒形電池50は、外装缶16の底部16bに排気弁28が設けられていない点で、円筒形電池10と異なる。そして、円筒形電池50では、外装缶16の外周面のうち、外装缶16の軸方向中央よりも封口体17側に位置する領域Rbに赤外線吸収層29が設けられている。つまり、外装缶16の外周面において、外装缶16の軸方向中央よりも排気弁24側に位置する領域Rb(第1領域)は、排気弁24と反対側に位置する領域Ra(第2領域)よりも放射率が高い。この場合、電池内部に発生したガスを排気弁24からスムーズに排出でき、外装缶16の横裂けを十分に抑制できる。
【0040】
赤外線吸収層29の面積は、電池ケース15の外周面の総面積の25%~50%であることが好ましく、赤外線吸収層29の総面積の50%を超える部分が領域Rbに設けられる。図3に示す例では、領域Rbのみに赤外線吸収層29が設けられている。また、赤外線吸収層29は、領域Rbにおいて、溝入部22よりも外装缶16の軸方向中央側に設けられている。なお、円筒形電池は、封口体に排気弁が設けられず、外装缶の底部のみに排気弁が設けられた構造を有していてもよい。この場合は、図2に示す例と同様に、外装缶の底部側に位置する領域の放射率が、封口体側に位置する領域の放射率よりも高いことが好ましい。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<比較例>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.88Co0.09Al0.03で表されるリチウム含有金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、カーボンブラックと、PVdFとを、100:1.0:0.9の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドンを適量加えた後、これを混練して正極合剤スラリーを調製した。当該正極合剤スラリーを厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延した。その後、集電体の両面に合剤層が形成された長尺体を所定の電極サイズに切断して、厚み0.15mm、幅63mm、長さ860mmの正極を作製した。正極の集電体露出部には、アルミニウム製の正極リードを取り付けた。
【0043】
[負極の作製]
負極活物質として、黒鉛と、LiSiで表されるリチウムシリケート相中にシリコン粒子が分散してなる粒子の表面に炭素被膜が形成されたSi含有化合物とを、94:6の質量比で混合して、負極活物質を調製した。負極活物質と、CMCと、SBRのディスパージョンとを、100:1.0:1.0の固形分質量比で混合し、水を適量加えた後、これを混練して負極合剤スラリーを調製した。当該負極合剤スラリーを厚みが8μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延した。その後、集電体の両面に合剤層が形成された長尺体を所定の電極サイズに切断して、厚み0.15mm、幅66mm、長さ960mmの負極を作製した。負極の集電体露出部には、ニッケル/銅/ニッケルの積層構造を有する負極リードを取り付けた。
【0044】
[電極体の作製]
上記正極及び上記負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して巻回し、円筒状の巻回型電極体を作製した。
【0045】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネートと、フルオロエチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートとを、1:1:3の体積比で混合した混合溶媒に、ビニレンカーボネートを4質量%の濃度で溶解させた。その後、LiPFを1.5モル/リットルの濃度になるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0046】
[電池の作製]
上記電極体の上下に絶縁板をそれぞれ配置し、負極リードを外装缶の底部内面に、正極リードを封口体の底板にそれぞれ溶接して、電極体及び絶縁板を外装缶内に挿入した。封口体には、電池ケース内の圧力が所定の閾値を超えたときに開弁する排気弁が設けられている。外装缶は、鉄を主成分とする金属で構成された有底円筒状の容器であって、外周面の放射率は0.25である。なお、外装缶の底部に排気弁は設けられていない。後述する加熱試験において本発明の効果が顕著になるように、外装缶には側面の厚みが通常より薄いものを用いた。電極体が収容された外装缶の内部に上記電解液を注入した後、ガスケットを介して外装缶の開口端部を封口体に加締めることで、円筒形の電池ケースを備える非水電解質二次電池を作製した。電池の外径は21mm、電池の高さは70mm、及び電池の設計容量は4700mAhであった。
【0047】
<実施例>
外装缶の外周面に黒色塗膜である赤外線吸収層を設けたこと以外は、比較例と同様にして非水電解質二次電池を作製した。黒色塗膜は、外装缶の外周面に黒色塗料をスプレー塗布することで、外装缶の軸方向中央よりも封口体側に位置する領域の略全体に形成した。黒色塗膜が形成された部分の放射率は0.6であった。外装缶の軸方向中央を基準として、排気弁側(封口体側)に位置する領域の放射率が0.6、排気弁と反対側に位置する領域の放射率が0.25であり、その差は0.35であった。
【0048】
[加熱試験(外装缶の横裂け評価)]
比較例・実施例の各電池について、下記の手順で評価を行った。比較例・実施例それぞれ5つの電池について試験を行い、評価結果(外装缶の横裂けが発生した個数)を表1に示した。
(1)CC-CV充電により満充電状態まで電池を充電した。
(2)満充電状態の電池を300℃に加熱した加熱炉に入れて輻射熱により加熱し、強制的に熱暴走させた。
(3)電池の熱暴走後、電池を加熱炉から取り出し、外装缶の横裂けの有無を確認した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、上記加熱試験において、黒色塗膜を有さない比較例の電池では、4/5の確率で外装缶の横裂けが発生したのに対して、黒色塗膜を有する実施例の電池では、外装缶の横裂けが発生しなかった。実施例の電池では、黒色塗膜が輻射熱を吸収することで、外装缶の排気弁側部分が優先的に加熱されて排気弁からガスがスムーズに排出され、これにより外装缶の横裂けが防止されたと考えられる。実施例の電池を用いて電池モジュールを構成すれば、外装缶の横裂けに起因する電池間の熱伝播が起こり難く、モジュールの安全性が向上する。
【符号の説明】
【0051】
10,50 円筒形電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 外装缶、16a 側壁部、16b 底部、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 底板、23a 貫通孔、24,28 排気弁、24a 下弁体、24b 上弁体、25 絶縁部材、26 キャップ、27 ガスケット、28a 溝、29 赤外線吸収層
図1
図2
図3