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特許7250801制御された細孔径を有するアルカリ電池セパレーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】制御された細孔径を有するアルカリ電池セパレーター
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/414 20210101AFI20230327BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20230327BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230327BHJP
【FI】
H01M50/414
H01M50/429
H01M50/489
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020537890
(86)(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 IB2018057465
(87)【国際公開番号】W WO2019064205
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】62/563,291
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521518057
【氏名又は名称】エスヴェーエム ルクセンブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】デリアン ステファーヌ
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-157349(JP,A)
【文献】特開2014-123443(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150439(WO,A1)
【文献】特開2014-026877(JP,A)
【文献】特開2006-236808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0049627(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106207053(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4.0μm未満の平均細孔径を有する、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールを含む、アルカリ電池セパレーター。
【請求項2】
前記平均細孔径が1.5μm~3μmである、請求項1に記載のアルカリ電池セパレーター。
【請求項3】
少なくとも55質量%のポリビニルアルコールおよび少なくとも45質量%のセルロース誘導体を含む、請求項2に記載のアルカリ電池セパレーター。
【請求項4】
16μm未満の最大細孔径を有する、請求項1に記載のアルカリ電池セパレーター。
【請求項5】
請求項1に記載の電池セパレーターを含む電池。
【請求項6】
請求項2に記載の電池セパレーターを含む電池。
【請求項7】
請求項3に記載の電池セパレーターを含む電池。
【請求項8】
請求項4に記載の電池セパレーターを含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、制御された細孔径を有する、ポリビニルアルコールおよびセルロースまたはセルロース誘導体のブレンドを含むアルカリ電池セパレーター、ならびにそのようなセパレーターを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池用のセパレーター紙は、細孔中の電解質によってイオンの輸送を可能にしつつ、短絡を防止するための電極間の機械的な障壁として役立つ。セパレーターは、電極間のイオンを一様に輸送するために良好な機械的一体性、化学的不活性、および輪郭の明確な一貫した細孔率および屈曲性を有していなければならない。アルカリ電池に使用されるセパレーター紙は、しばしば、ポリビニルアルコール(PVA)繊維およびセルロース、またはレーヨンもしくはテンセルなどのセルロース誘導体のブレンドを含む。一般に、PVA繊維は、水酸化カリウム電解質中で寸法安定性を促進し、一方、セルロースおよびその誘導体は吸収特性を支援する。
繊維組成に加えて、セパレーターは様々なレベルの坪量で設計されている。太番手のPVAならびにレーヨン繊維が利用可能であることにより、より多量の活物質を可能にして放電性能を高めるためのセル内の空間の節約を目標として、材料軽量化の流れが可能なった。しかしながら、技術的および経済的関心事を考慮すると、低レベルの坪量はもはや究極の目標とは考えられない。技術的な懸案には、不十分な落下耐性に結びつくバッテリーの、剛性ならびに機械的特性を引き起こす加工性が含まれる。太番手繊維の包含は、コストに著しく寄与する。より高い性能を有する新しい型の負極が開発されている。しかしながら、これらの負極はまた、短絡の原因となるデンドライトを生成する、より強い傾向があり、そのために電池メーカーは障壁特性の強化を探し求めている。
制御され、前もって決定された細孔径を有する、すなわち、平均径、最大径および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
本開示は一般に、約4.0μm未満の制御された細孔径を有する、PVAおよびセルロース誘導体のブレンドを含むアルカリ電池セパレーターに関する。
一実施形態において、セパレーターは、約30%~約60%のPVAおよび約40%~約60%のテンセルなどのリヨセル繊維を含む。別の実施形態において、セパレーターは、少なくとも55%のPVAおよび少なくとも45%のテンセルを含む。
一実施形態において、アルカリ電池はZn/MnO2電池である。
別の態様において、本開示は、制御された細孔径を有するアルカリ電池セパレーターを製造する方法であって、セルロース誘導体および任意にセルロースを高度にフィブリル化するステップ、ならびにPVAと組み合わせるステップを含む、方法に関する。
本開示の様々な実施形態によって満たされる望ましい物の本明細書における記載は、本開示の最も一般的な実施形態、またはそのより限定された実施形態のいずれかにおいて、これらの物のいずれかまたはすべてが、個々にまたは総体として、必須の特色として存在することを暗示または示唆することを意味するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0004】
他に指示がある場合を除いて、単語「約」または「およそ」などが述べられるかどうかに関係なく、いかなる量的値も近似である。本明細書において記述される材料、方法および例は単なる例示であって、限定することを意図するものではない。いかなる分子量の値も近似であり、説明のためにのみ提供される。
本明細書において、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンドを含むアルカリ電池セパレーターが開示される。セパレーターは制御された細孔径を有する、すなわち、細孔径は予め決定または選択することができる。一部の実施形態において、アルカリ電池セパレーターは、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体およびセルロースのブレンドを含む。セパレーターは、Zn/MnO2電池などの様々なアルカリ電池において使用することができる。
セルロースおよびセルロース誘導体は、天然セルロース(木質繊維およびパルプ、綿、麻など)、および再生セルロース(例えば、レーヨンおよびテンセル)を含むことができるがこれらに限定されない。
【0005】
セパレーターは、少なくとも約20質量%、少なくとも約30質量%、および少なくとも約55質量%の比率でPVAを含むことができる。セパレーターは、少なくとも約25質量%、少なくとも約35質量%、および少なくとも約45質量%の比率でテンセルなどのリヨセル繊維を含むことができる。一実施形態において、セパレーターは、少なくとも55%のPVA、および少なくとも45%のテンセルなどのリヨセル繊維を含む。セパレーターは、約0%~約30%のセルロースを含むことができる。
一般に、セパレーターを製造する方法は、PVAと組み合わせる前に、セルロース誘導体例えば、テンセルなどのリヨセル繊維、および任意にセルロースを高度にフィブリル化するステップを含む。セルロースのフィブリル化は、個々の繊維およびより小さなフィブリル単位を作製するために、セルロースまたはセルロース誘導体を機械的に粉砕または加工するために使用されるシングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、コニカルリファイナー、回転シリンダリファイナーまたは他の型のリファイナーなどの機械的リファイナーを使用して達成することができる。この工程のための供給材料は、パルプに形成された、前もって処理されたセルロース系材料(例えば木材チップ、1年生植物など)であってもよい。供給材料として使用されるパルプを作製するセルロース系材料の前処理は、クラフト蒸解、亜硫酸塩蒸解、ソーダ蒸解などの化学的消化、機械的リファイニング、および化学的消化とリファイニングの組み合わせ、または他の公知の工程などの結果であってもよい。
【0006】
フィブリル化は、125分~200分、0.65~0.75J/mの比縁荷重(SEL)に対応する全エネルギー185KW~200kWなどの、様々な継続時間およびエネルギーレベルでありうる。フィブリル化工程は30g/lの繊維懸濁液で実施される。一般に、フィブリル化は、低いエネルギーで長い期間の間に生じ、目標は、全エネルギー1200~1500KWH/T(比エネルギー700~1150kWh/T)などのエネルギーの所定量をセルロースに導入して、140~100のカナダ標準ろ水度(CSF)の範囲、さらには37~25CSFの間のフィブリル化レベルに到達することである。結果として得られたフィブリル化された繊維は通常、16~20μmの幅および1000~1150μmの長さを有する。フィブリル化工程において、長い継続時間は、繊維の切断を回避するために高いレベルのエネルギーより好ましい。
フィブリル化工程が実施され制御されたら、セルロースおよび/またはセルロース誘導体は、パルパー中での水溶性PVA繊維と主体PVA繊維の両方の添加を見越して、40℃未満の温度に冷却するために冷水で希釈される。一般に両方の種類のPVA繊維は、2~4mmの切断長さを有する。より細い繊維(例えば、低デニール(d)またはdTex)が使用される場合、予期しない繊維のからみ合いを回避するために、より短い長さの繊維が必要である。繊維ブレンドは、抄紙機箱へ移送される前にパルパー中で完全に混合される。
【0007】
PMI寸法測定器で試験する場合、質量が20~40 g/m2の間の典型的なセパレーターは、1.6~12μmの間の範囲の平均細孔径および6~40μmの間の範囲の最大細孔径を有する。本明細書において記述される高度にフィブリル化された繊維は、より小さな平均細孔径、より小さな最大細孔径を有し、平均細孔径と最大細孔径の間の差が小さい。
本明細書において記述されるセパレーターの平均細孔径は、約5μm未満、約4μm未満、約3μm未満、約2.0μm未満であってもよい。最大細孔径は、約16μm未満、例えば、約4μm~約25μm、約5μm~約20μmおよび約9μm~約16μmであってもよい。一実施形態において、平均細孔径は約1.5μm~約3μmである。
【実施例
【0008】
(実施例1)
PVA(0.5d)(VPB 0.53)および溶解可能なPVA(VPB 105-2)はKuraray Co.から購入した。3mm長さに切断した、テンセル(Lenzing Co.)を、24”のダブルディスクリファイナーを使用して0.65J/mのSELの下で115分間、フィブリル化にかけ、CSF117および最終繊維長1.1mmに到達した。フィブリル化工程を実施し制御したら、パルパー中での水溶性PVA繊維と主体PVA繊維の両方の添加に進む前に、冷水でフィブリル化したテンセル繊維を希釈して40℃未満の温度に冷却した。抄紙機箱へ移送する前に、繊維ブレンドをパルパー中で10分間完全に混合した。傾けたワイヤー抄紙機で90m/分の速度でスラリーを加工して表1に記述のパラメーターを有する多孔質シートを作製した。厚さ、ならびにMDおよびCD引張強さをそれぞれ、ISO 534およびISO 1924-2に従って測定した。100kPaおよび20kPaの圧力を加えることにより厚さを測定した。当業界の標準方法によって34%のKOH溶液からKOH吸収能力および速度を測定した。ASTM 316に従って平均および最大細孔径を測定した。
(実施例2)
主体PVA繊維を0.3d(VPB 033;Kurary Co.)で選択し、テンセルを0.69J/mのSELの下で155分間のフィブリル化後、120CSFにフィブリル化した以外は、実施例1について記述したように、実施例2を調製した。抄紙機で加工する前に、PVAおよびテンセルを55質量%:45質量%の比率で組み合わせた。
(実施例3)
実施例2について記述したように、0.3d PVA VPB 033を使用して実施例3を調製した。第1バッチの1.7dTexのテンセルを248CSFで0.52J/mのSELの下で20分間のリファイニングによってフィブリル化した。第2バッチのテンセルを37CSFの度合いでフィブリル化し、0.08J/mのSELの下で34時間のリファイニングによって調製した。次いで、55%PVA、第1バッチからのテンセル33%および第2バッチからのテンセル12%で構成される繊維ブレンドを抄紙機で加工した。
【0009】
(実施例4)
0.3d PVA VPB 033を使用して、実施例3について記述したように、実施例4を調製した(但し主体PVAと可溶性PVAの比率は表1に示した通りであった)。95CSFで1.4dTex テンセルのバッチを0.52J/mのSELの下で135分間のリファイニングによってフィブリル化した。抄紙機で30g/m2で加工する前に、40質量%:60質量%の比率でPVAおよびテンセルを組み合わせた。
(実施例5)
0.3d PVA VPB 033を使用して、実施例4について記述したように実施例5を調製した(但し主体PVAと可溶性PVAの比率は表1に示した通りであった)。1.4dTexのテンセルのバッチを0.52J/mのSELの下で135分間のリファイニングによって95CSFでフィブリル化した。抄紙機で20g/m2で加工する前に、PVAおよびテンセルを55質量%:45質量%の比率で組み合わせた。
【0010】
【表1】
【0011】
本発明についてその特定の好ましい実施形態に従って本明細書で詳細に記述してきたが、当業者ならば、その中での多くの修正および変更を行うことができる。したがって、前述の開示はそのことによって限定されると解釈されるべきでなく、そのような前述の明白な変形を含み、以下の特許請求の範囲の趣旨および範囲によってのみ限定されると解釈されるべきである。