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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】改質セルロース繊維粉末
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20230327BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEP
C08B15/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020562412
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051131
(87)【国際公開番号】W WO2020138291
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018244934
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】坪井 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】森岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 淳之介
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186018(JP,A)
【文献】特開2015-134873(JP,A)
【文献】特開2019-151791(JP,A)
【文献】特開2009-242590(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143150(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030310(WO,A1)
【文献】特開2017-052942(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104448007(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105175557(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
C08B 15/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が1μm以上500μm以下であり、平均繊維径が0.1μm以上200μm以下である改質セルロース繊維粉末。
【請求項2】
次式から求められる改質セルロース繊維粉末の残分が50質量%以上である、請求項1に記載の改質セルロース繊維粉末。
残分(質量%)=(105℃、60分間加熱した時の改質セルロース繊維粉末の質量/加熱前の改質セルロース繊維粉末の質量)×100
【請求項3】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の量が0.2mmol/g以上である、請求項1又は2に記載の改質セルロース繊維粉末。
【請求項4】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基がカルボキシ基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
【請求項5】
改質セルロース繊維におけるアニオン性基と修飾基との結合様式がイオン結合及び/又は共有結合である、請求項1~4のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
【請求項6】
アニオン変性セルロース繊維が、TEMPO酸化由来のものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
【請求項7】
平均繊維長が10μm以上300μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
【請求項8】
平均繊維径が1μm以上100μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末が媒体に分散してなる分散体。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末と樹脂とを配合してなる樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質セルロース繊維粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されてきたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになってきた。かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を用いた材料が注目されている。
【0003】
通常、セルロース繊維が乾燥すると繊維間で水素結合を形成し凝集してしまう。その結果、乾燥したセルロース繊維を水や有機溶媒等の媒体に分散させることは困難となり、この意味で、乾燥したセルロース繊維は使い勝手の悪い材料と言うことができる。
【0004】
乾燥したセルロース繊維の分散性を向上させるために、例えば、特許文献1には、アニオン変性セルロースナノファイバー(CNF)と再分散性改善剤を混合し乾燥させることで、CNFの再分散性が向上する旨、示されている。更に、例えば特許文献2には、CNFの乾燥固形物を溶媒に再分散させる前に熱水で処理することで、未乾燥状態から調製した場合と同様に溶媒にナノ分散させることができる旨、示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2018/143150
【文献】特開2017-002136
【発明の概要】
【0006】
本発明は、下記〔1〕~〔4〕に関する。
〔1〕 アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が1μm以上500μm以下である改質セルロース繊維粉末。
〔2〕 前記〔1〕に記載の改質セルロース繊維粉末が媒体に分散してなる分散体。
〔3〕 前記〔1〕に記載の改質セルロース繊維粉末と樹脂とを配合してなる樹脂組成物。
〔4〕 前記〔3〕に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【0007】
特許文献1、2ともにセルロース繊維をナノメートルのサイズにまで解繊処理した後、乾燥させ、溶媒に再分散させている。セルロース繊維のかかるナノ解繊処理には大きなエネルギーが必要なので、これらの技術はこのような高価なプロセスを必然的に伴う。
【0008】
従って本発明は、安価なプロセスによって得ることができる、溶媒への分散性に優れるセルロース繊維粉末及びその製造方法に関する。
【0009】
本発明によれば、安価なプロセスによって得ることができる、溶媒への分散性に優れるセルロース繊維粉末及びその製造方法を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【0010】
<改質セルロース繊維粉末>
本発明の改質セルロース繊維粉末とは、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が1μm以上500μm以下のものである。
【0011】
本発明者らが前記課題について検討したところ、驚くべきことに、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、特定の平均繊維長を有する改質セルロース繊維粉末が溶媒や樹脂への分散性に優れることを見出した。このメカニズムは不明であるが、改質セルロース繊維間の水素結合力が低下したため分散性が向上したのではないかと推定される。
【0012】
本発明の改質セルロース繊維粉末は、原料のセルロース繊維から、平均繊維長が1μm以上500μm以下の改質セルロース繊維を製造し、次いで、該改質セルロース繊維を乾燥させることにより製造することができる。
【0013】
(セルロース繊維)
原料のセルロース繊維としては、環境負荷の観点から、天然セルロース繊維を用いることが好ましい。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
原料のセルロース繊維の平均繊維径は特に限定されないが、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、更に好ましくは15μm以上であり、一方、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは60μm以下である。
【0015】
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは1,000μmを超えるものであり、より好ましくは1,200μm以上であり、更に好ましくは1,500μm以上であり、好ましくは10,000μm以下であり、より好ましくは5,000μm以下、更に好ましくは3,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0016】
(アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維)
本発明で用いられるアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維(単に「アニオン変性セルロース繊維」とも称する。)は、セルロース繊維中にアニオン性基を含むようにアニオン変性されたセルロース繊維である。
【0017】
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長の好適範囲は、製造工程の順序による。例えば、アニオン変性セルロース繊維が短繊維化処理を受けていない場合、アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長の好適範囲は原料のセルロース繊維のものと同等である。アニオン変性セルロース繊維が短繊維化処理を受けている場合、アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長の好適範囲は後述の短繊維化セルロース繊維のものと同等である。
【0018】
アニオン変性セルロース繊維は、安定的な微細化及び修飾基導入の観点から、アニオン性基の含有量が、好ましくは0.1mmol/g以上であり、より好ましくは0.2mmol/g以上であり、更に好ましくは0.5mmol/g以上であり、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。その上限は、好ましくは3mmol/g以下であり、より好ましくは2mmol/g以下であり、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。このようなアニオン性基の含有量の範囲とするためには、例えば酸化処理等の処理条件を調整したり、還元処理を行うことによって制御することができる。アニオン性基含有量とは、アニオン性基含有セルロース繊維を構成するセルロース繊維中のアニオン性基の総量を意味し、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
アニオン変性セルロース繊維中に含まれるアニオン性基は、例えばカルボキシ基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、セルロース繊維への導入効率の観点から、カルボキシ基であることが好ましい。
【0020】
(アニオン性基を導入する工程)
本発明で用いられるアニオン変性セルロース繊維は、対象のセルロース繊維に酸化処理又はアニオン性基の付加処理を施して、少なくとも1つ以上のアニオン性基を導入してアニオン変性させることによって得ることができる。
アニオン変性の対象となるセルロース繊維としては、(1)原料のセルロース繊維、及び(2)原料のセルロース繊維を短繊維化処理して得られた短繊維化セルロース繊維、が挙げられる。本発明の効果を発現する観点から、アニオン変性の対象となるセルロース繊維は、(1)の原料のセルロース繊維が好ましい。
【0021】
(i)セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロースの水酸基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロースの水酸基にカルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
【0022】
前記セルロースの水酸基を酸化処理する方法としては特に制限されないが、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて酸化処理する方法が適用できる。より詳細には、特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができる。
【0023】
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CHOH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位の水酸基の選択性に優れており、且つ反応条件も穏やかである点で有利である。従って、本発明におけるアニオン変性セルロース繊維の好ましい態様として、TEMPO酸化由来のもの、即ち、セルロース構成単位のC6位がカルボキシ基であるセルロース繊維が挙げられる。本明細書において、かかるセルロース繊維を「酸化セルロース繊維」という場合がある。
【0024】
セルロース繊維へのカルボキシ基の導入に使用するための、カルボキシ基を有する化合物は特に限定されないが、具体的にはハロゲン化酢酸が挙げられる。ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸等が挙げられる。
【0025】
セルロース繊維へのカルボキシ基の導入に使用するための、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体は特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸及び無水アジピン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物やカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。これらの化合物は疎水基で置換されていてもよい。
【0026】
(ii)セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基又はリン酸基を導入する場合
セルロース繊維にアニオン性基としてスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
【0027】
セルロース繊維にアニオン性基としてリン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0028】
(セルロース繊維を短繊維化処理する工程)
短繊維化処理の対象となるセルロース繊維としては、(1)原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入する工程を経て得られたアニオン変性セルロース繊維、(2)原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入する工程、次いで修飾基を導入する工程を経て得られた改質セルロース繊維、並びに(3)原料のセルロース繊維、が挙げられる。本発明の効果を発現する観点から、短繊維化処理の対象となるセルロース繊維は、(1)のアニオン変性セルロース繊維が好ましい。短繊維化処理により、セルロース繊維の平均繊維長を、1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上とし、500μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは250μm以下とすることができる。平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0029】
セルロース繊維の平均繊維長は、分散性と生産性の両立の観点から、50μm以上、80μm以上、100μm以上であって良く、250μm以下、220μm以下、200μm以下であって良い。
【0030】
短繊維化処理は、対象のセルロース繊維をアルカリ処理、酸処理、熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群より選択される1種以上の処理方法を実施することによって達成され得る。
【0031】
アルカリ処理の条件としては、例えば、対象のセルロース繊維の固形分含有量が好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは10.0質量%以下であって、pHが好ましくは8.0以上であり、好ましくは15.0以下である溶液又は分散液を準備し、この溶液又は分散液を好ましくは60℃以上であり、好ましくは110℃以下であって、好ましくは30分間以上であり、好ましくは240分間以下加熱するという条件が挙げられる。溶液又は分散液の媒体としては、好ましくは水、エタノールである。pHを調整するために使用できるアルカリとしては、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムである。溶液又は分散液には、アニオン性基含有セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは2.5質量部以下の過酸化水素を含んでもよい。
【0032】
酸処理の条件としては、例えば、対象のセルロース繊維の固形分含有量が好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは10.0質量%以下であって、pHが好ましくは0.1以上であり、好ましくは4.0以下である溶液又は分散液を準備し、この溶液又は分散液を好ましくは80℃以上であり、好ましくは120℃以下であって、好ましくは5分間以上であり、好ましくは240分間以下加熱するという条件が挙げられる。溶液又は分散液の媒体としては、好ましくは水、エタノールである。pHを調整するために使用できる酸としては、入手性およびコストの観点から、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、および酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸であり、より好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸であり、さらに好ましくは塩酸である。
【0033】
熱処理の条件としては、例えば、対象のセルロース繊維の固形分含有量が好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは80質量%以下であって、任意に無機塩類、無機微粒子、有機微粒子、界面活性剤、防腐剤などを含んでいてもよい溶液または分散液を準備し、この溶液又は分散液を好ましくは50℃以上であり、好ましくは230℃以下であって、好ましくは4時間以上であり、好ましくは2500時間以下加熱するという条件が挙げられる。溶液又は分散液の媒体としては、好ましくは水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、イソプロパノール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、トルエン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(改質セルロース繊維)
本発明における改質セルロース繊維とは、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されたもの(即ち結合したもの)である。本発明の効果をより発揮させる観点から、改質セルロース繊維におけるアニオン性基と修飾基との結合様式としては、好ましくはイオン結合及び/又は共有結合であり、アニオン変性セルロース繊維表面に存在するアニオン性基に、修飾基を有する化合物をイオン結合及び/又は共有結合させることにより結合を達成できる。
【0035】
(改質セルロース繊維を製造する工程)
改質セルロース繊維は、順序を問わず、アニオン性基を導入する工程、修飾基を導入する工程、短繊維化処理する工程、及び余剰の溶媒成分を除く工程を行うことによって製造することができる。例えば、(1)原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維を得る工程、アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維を短繊維化処理する工程、該セルロース繊維に修飾基を導入する工程、(2)原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維を得る工程、アニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維に修飾基を導入する工程、次いで得られた改質セルロース繊維を短繊維化処理する工程、及び(3)原料のセルロース繊維を短繊維化処理する工程、該セルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン性基を含むアニオン変性セルロース繊維を得る工程、次いで該セルロース繊維に修飾基を導入する工程、のいずれかを経て製造することができる。本発明の効果を発現する観点から、(1)の工程を採用することがより好ましい。なお、原料のセルロース繊維の繊維長が1,000μm以下の場合、上記短繊維化処理の工程を省略することができる。
【0036】
(アニオン変性セルロース繊維に修飾基を導入する工程)
アニオン変性セルロース繊維を、任意の修飾基で改質して改質セルロース繊維とする。 アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させるためには、例えば修飾基を有する化合物(「改質種」ともいう。)を用いることが好ましい。改質種としては、アニオン性基との結合様式に応じて適切なものを選択すればよい。
【0037】
結合様式がイオン結合の場合には、特開2015-143336号公報を参照して修飾基を導入することができる。ここで、改質種として金属無機塩基化合物、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ホスホニウム化合物等が挙げられる。これらの中では、有機媒体などへの分散性の観点から、好ましくは第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ホスホニウム化合物であり、これらの化合物には、修飾基として各種の炭化水素基、例えば鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基等の炭化水素基や、共重合部位等を導入することができる。これらの基や部位は単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。これらの各種の炭化水素基の炭素数は、分散性の観点から、好ましくは6以上であり、同様の観点から、好ましくは30以下であり、より好ましくは24以下であり、好ましくは18以下である。
【0038】
金属無機塩基化合物としては、水への分散性の観点から、金属水酸化物が好ましく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。かかる化合物を改質種として使用することで、ナトリウム、カリウム、カルシウム又はストロンチウムを修飾基として導入することができる。
【0039】
第1~3級アミンとしては、分散性の観点から、炭素数が好ましくは2以上であり、より好ましくは6以上であり、同様の観点から、炭素数が好ましくは30以下であり、より好ましくは24以下であり、更に好ましくは18以下である。第1級アミン~第3級アミンの具体例としては、例えば、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ジステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、オクタデシルアミン、ジメチルベヘニルアミンが挙げられる。これらの中では、分散性の観点から、好ましくは、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミンである。
【0040】
改質種としてホスホニウム化合物を用いる場合には、その陰イオン成分として、反応性の観点から、好ましくは塩化物イオン及び臭化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン及びヒドロキシイオンが挙げられ、より好ましくはヒドロキシイオンが挙げられる。
【0041】
結合様式が共有結合の場合には、例えばアミド結合を介して修飾する場合、特開2015-143337号公報を参照して修飾基を導入することができる。ここで、改質種として例えば第1級アミン及び第2級アミンを用いることが好ましい。エステル結合を介して修飾する場合には、改質種として例えばブタノール、オクタノール及びドデカノール等のアルコールを用いることが好ましい。ウレタン結合を介して修飾する場合には、改質種として例えばイソシアネート化合物を用いることが好ましい。これらの化合物には、修飾基として各種の炭化水素基、例えば鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基等の炭化水素基や、共重合部位等を導入することができる。これらの基や部位は単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。
【0042】
修飾基が共重合部位を含む場合、共重合部位としては、例えば、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドEOPO共重合部位等を用いることができる。EOPO共重合部位とは、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)がランダム又はブロック状に重合した構造を意味する。
【0043】
改質種が、EOPO共重合部位とアミノ基とを有するアミンである場合、EOPO共重合部位を有するアミン(「EOPOアミン」とも称する。)としては、例えば下記式(i)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化1】
【0045】
〔式中、Rは水素原子、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を示し、EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数であり、bはPOの平均付加モル数を示す正の数である。式(i)中、アミノ基とEO又はPOとの間に、炭素数1~3のアルキレン基が存在していてもよい。〕
【0046】
は、分散性の観点から水素原子であることが好ましい。Rが炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である場合、該アルキル基は好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基及びsec-プロピル基である。
【0047】
式(i)におけるaはEOの平均付加モル数を示し、分散性を一層向上させる観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは3以上であり、更に好ましくは5以上である。同様の観点から、好ましくは100以下であり、より好ましくは70以下であり、更に好ましくは50以下である。
【0048】
式(i)におけるbはPOの平均付加モル数を示し、分散性を一層向上させる観点から、好ましくは1以上であり、より好ましくは3以上である。同様の観点から、好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下である。
【0049】
(EOPO)共重合部位の分子量は、分散性の観点から好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上であり、同様の観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは8,000以下、さらに好ましくは5,000以下、さらに好ましくは3,000以下である。
【0050】
かかるEOPOアミンとしては、例えば、市販品を好適に用いることができ、具体例としては、HUNTSMAN社製のJeffamine M-2070、Jeffamine M-2005、Jeffamine M-2095、Jeffamine M-1000、Jeffamine M-600、Surfoamine B200、Surfoamine L100、Surfoamine L200、Surfoamine L207,Surfoamine L300、XTJ-501、XTJ-506、XTJ-507、XTJ―508;Jeffamine M3000、Jeffamine ED-900、Jeffamine ED-2003、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000、XTJ-510、Jeffamine T-3000、JeffamineT-5000、XTJ-502、XTJ-509、XTJ-510等が挙げられる。
【0051】
式(i)で表されるEOPO共重合部位を有するアミンについての詳細は、例えば特許第6105139号公報に記載されている。
【0052】
なお、改質セルロース繊維を製造する工程は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、イソプロパノール(IPA)、t-ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサン、1,4-ジオキサン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0053】
また、作業環境への配慮の観点から、「有機溶剤中毒予防規則第三種有機溶剤及び/又は有機溶剤中毒予防規則に規定されていない有機溶媒」(以下、「特定溶媒」と略記する。)の使用も好ましい。かかる特定溶媒の具体例としては、シクロヘキサン、イソヘキサン、n-へプタン等の炭化水素類、エタノール、n-プロピルアルコール、オクタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、ブチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、メチルメトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、二塩基酸エステル、ジメチルカーボネート等のエステル類、メチルへキシルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン等のケトン類、t-ブチルグリコール、メチルジグリコール、エチルジグリコール、ブチルジグリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、メチルジプロピレングリコール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の窒素系溶媒が挙げられる。
【0054】
〔改質セルロース繊維を乾燥させる工程〕
改質セルロース繊維の乾燥方法は特に限定されず、例えば、凍結乾燥、真空乾燥、圧搾、風乾、熱風乾燥、噴霧乾燥、赤外線乾燥、スピン乾燥等が挙げられる。乾燥方法における具体的な条件は特に限定されず、一般的な条件を採用することができるが、熱による分解を防止する観点から、乾燥時の温度の上限が好ましくは300℃、より好ましくは250℃、更に好ましくは200℃である。
【0055】
<改質セルロース繊維粉末>
本発明の改質セルロース繊維粉末は、固形分の量が多いほど、ハンドリングの観点から好ましい。例えば、JIS K 5601-1-2:2008に記載の加熱残分(固形分)の測定法に則り、下記式から求められる改質セルロース繊維粉末の残分として、本発明の効果を発現する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、乾燥負荷の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。改質セルロース繊維粉末の残分は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
残分(質量%)=(105℃、60分間加熱した時の改質セルロース繊維粉末の質量/加熱前の改質セルロース繊維粉末の質量)×100
【0056】
本発明の改質セルロース繊維粉末の平均繊維長は、分散性の観点から、1μm以上であり、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、また、500μm以下であり、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは350μm以下であり、更に好ましくは300μm以下である。改質セルロース繊維粉末の平均繊維長は、前述の短繊維化処理により達成することができ、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0057】
本発明の改質セルロース繊維粉末の平均繊維径は、分散性の観点から、好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1μm以上である。また、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。改質セルロース繊維粉末の平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0058】
本発明の改質セルロース繊維粉末中のセルロース成分の平均重合度は、分散性の観点から、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上であり、より好ましくは30以上であり、より好ましくは40以上であり、より好ましくは50以上であり、より好ましくは70以上であり、また、好ましくは500以下であり、より好ましくは400以下であり、より好ましくは300以下であり、より好ましくは250以下であり、より好ましくは200以下であり、より好ましくは150以下であり、更に好ましくは100以下である。改質セルロース繊維粉末の平均重合度を小さくすることは、前述の短繊維化処理により達成することができ、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0059】
本発明の改質セルロース繊維粉末は、その原料として天然セルロース繊維を使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有している。セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうちのセルロースI型結晶領域量の占める割合のことを意味する。
本発明の改質セルロース繊維粉末のセルロースI型結晶化度は、機械物性発現の観点から、好ましくは30%以上であり、一方、好ましくは95%以下である。なお、本明細書において、セルロースI型結晶化度は、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0060】
<分散体>
本発明の分散体は、前記改質セルロース繊維粉末が媒体に分散してなるものである。本発明の改質セルロース繊維粉末を、有機溶媒や樹脂などの媒体中で分散することで、ハンドリング性に優れる、微細改質セルロース繊維を含有する分散体を調製することができる。かかる分散体は、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品、航空機部品、スポーツ用品、三次元造形用材料等の様々な工業用途に好適に使用することができる。
【0061】
分散体中の改質セルロース繊維粉末の量は、配合量に換算して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。一方、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
【0062】
〔媒体〕
媒体としては、特に限定されず、用途に応じて水、各種有機溶媒やモノマーやプレポリマー、樹脂、硬化剤、可塑剤などを好適に用いることが出来る。より具体的には、媒体としては、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、アセトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びプレポリマー(例えば、エポキシ樹脂プレポリマー、ウレタン樹脂プレポリマー、アクリル樹脂プレポリマー、シリコーン樹脂プレポリマー、フェノキシ樹脂プレポリマー)からなる群より選択される1種以上が好ましい。なお、媒体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
分散体中の媒体の量は、配合量に換算して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上である。一方、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下であり、更に好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。
【0064】
〔微細改質セルロース繊維を含有する分散体の製造方法〕
微細改質セルロース繊維を含有する分散体の製造方法としては、前記の本発明の分散体に、撹拌翼を備えた撹拌機、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、短軸混練機、2軸混練機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いた機械的な微細化処理などを行うことで得ることが出来る。なお、必要に応じて温度や圧力等の処理条件の調整を行ってもよい。
【0065】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、前記改質セルロース繊維粉末と樹脂とを配合してなる組成物である。樹脂組成物を使用して、公知の成形方法により成形体を製造できるため、樹脂組成物は、本発明における好ましい態様の一つである。
【0066】
〔樹脂〕
使用できる樹脂は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂を用いることができる。かかる熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、セルロース系樹脂及びゴム系樹脂は、樹脂として1種のみ使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸樹脂等の飽和ポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン樹脂;塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、スチレン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等のビニル樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリウレタン樹脂;フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いても良い。これらの中でも、分散性に優れる分散液が得られることから、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂及びポリウレタン樹脂が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂及びアクリル系樹脂を含む概念を意味する。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂としては、該樹脂を構成する全重合体の単量体単位の合計を基準として、50重量%以上の(メタ)アクリル酸メチルを単量体単位として含むものが好ましく、メタクリル系樹脂がより好ましい。
【0069】
メタクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル及びこれに共重合可能な他の単量体を共重合することによって製造することができる。重合方法は特に限定されず、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、注型重合法(例えば、セルキャスト重合法)などが挙げられる。
【0070】
(硬化性樹脂)
硬化性樹脂としては、光硬化性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂が好ましい。
光硬化性樹脂は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線照射により、ラジカルやカチオンを発生する光重合開始剤を用いることで重合反応が進行する。
【0071】
前記光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3-ジアルキルジオン類化合物類、ジスルフィド化合物、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等が挙げられる。より具体的には、特開2018-024967号公報の段落0113に記載の化合物が挙げられる。
【0072】
光重合開始剤で、例えば、単量体(単官能単量体、多官能単量体)、反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂等を重合することができる。
【0073】
単官能単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体、ビニルピロリドンなどのビニル系単量体、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの架橋環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。多官能単量体には、2~8程度の重合性基を有する多官能単量体が含まれ、2官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの架橋環式炭化水素基を有するジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。3~8官能単量体としては、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0074】
反応性不飽和基を有するオリゴマー又は樹脂としては、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートなど)、ポリエステル(メタ)アクリレート(例えば、脂肪族ポリエステル型(メタ)アクリレート、芳香族ポリエステル型(メタ)アクリレートなど)、ウレタン(メタ)アクリレート(ポリエステル型ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル型ウレタン(メタ)アクリレートなど)、シリコーン(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらのオリゴマー又は樹脂は、前記単量体と共に用いても良い。
【0075】
光硬化性樹脂は、凝集物が少なく、透明性に優れる分散液や樹脂成形体が得られる観点から、好ましい。
【0076】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの中では、分散性に優れる分散液が得られることから、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0077】
前記樹脂成分を用いる場合は、硬化剤を使用することが好ましい。硬化剤を配合することによって、樹脂を含む分散液から得られる樹脂成形体を強固に成形することができ、機械的強度を向上させることができる。尚、硬化剤の配合量は、樹脂の種類及び/又は使用する硬化剤の種類により適宜設定すればよい。
【0078】
(セルロース系樹脂)
セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース(セルロースアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース混合アシレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の有機酸無機酸混酸エステル;アセチル化ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルエステルなどが挙げられる。上記酢酸セルロースには、セルローストリアセテート(アセチル置換度2.6~3)、セルロースジアセテート(アセチル置換度2以上2.6未満)、セルロースモノアセテートが含まれる。セルロース系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
(ゴム系樹脂)
また、本発明では、樹脂としてゴム系樹脂を用いることができる。ゴム系樹脂は、強度を高めるために、補強材としてカーボンブラックやシリカ等の無機フィラー配合品が汎用されているが、その補強効果にも限界があると考えられる。しかしながら、本発明の分散液にゴム系樹脂を配合することで得られる分散液中での分散性に優れることから、機械的強度及び耐熱性に優れる分散液や成形体(ゴム)を提供することが可能になると考えられる。
【0080】
ゴム系樹脂としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムが好ましい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体ゴム、クロロプレンゴム及び変性天然ゴム等が挙げられる。変性天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム等が挙げられる。非ジエン系ゴムとしては、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、多硫化ゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
総合すると、樹脂組成物に配合される樹脂としては、オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ビニル樹脂及びゴム系樹脂からなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0082】
本発明の樹脂組成物における樹脂の量は、樹脂の物性や成形法によって一概には決められないが、樹脂本来の性能を発揮させる観点から、配合量で換算して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、一方、経済性の観点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0083】
本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維粉末の量は、樹脂の物性や成形法によって一概には決められないが、改質セルロース繊維粉末の添加効果を発揮させる観点から、配合量で換算して、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、一方、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0084】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、前記成分以外に、可塑剤、結晶核剤、充填剤(無機充填剤、有機充填剤)、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。また同様に、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。
【0085】
可塑剤としては、特に限定はなく、従来からの可塑剤であるフタル酸エステルやコハク酸エステル、アジピン酸エステルといった多価カルボン酸エステル、グリセリン等脂肪族ポリオールの脂肪酸エステル等が挙げられる。具体的には、特開2008-174718号公報及び特開2008-115372号公報に記載の可塑剤が例示される。
【0086】
また、樹脂組成物がゴム系樹脂を配合する場合には、前記以外の成分として、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、ゴム工業界で通常用いられるカーボンブラックやシリカ等の補強用充填剤、各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、プロセスオイル、植物油脂、可塑剤等のタイヤ用、その他一般ゴム用に配合されている各種添加剤を従来の一般的な量で配合させることができる。
【0087】
本発明の樹脂組成物における「その他の成分」の量は特に限定されないが、所定の効果を発揮させる観点から、配合量で換算して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0088】
〔樹脂組成物の調製方法〕
樹脂組成物は、前述の樹脂、改質セルロース繊維粉末、前記媒体を、必要により、これら以外の成分と一緒に高圧ホモジナイザーで分散処理を行うことにより調製することができる。あるいは、これらの各原料を、ヘンシェルミキサー、自転公転式攪拌機等で攪拌、あるいは密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することでも調製することができる。
【0089】
<樹脂成形体>
本発明の樹脂成形体は、樹脂組成物を利用した押出成形、射出成形、プレス成形、注型成型又は溶媒キャスト法等の公知の成形方法を適宜用いることによって調製することができる。本発明の樹脂組成物は、改質セルロース繊維の分散性に優れているので、成形体である各種樹脂製品の機械的強度が従来品よりも向上している。そのため、樹脂成形体を各種用途に好適に用いることができる。
【0090】
樹脂組成物や樹脂成形体が使用できる用途は特に限定されないが、例えば透明樹脂材料、3次元造形材料、クッション材、補修材、接着剤、粘着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、塗料、電子材、包装材料、タイヤ、自動車部品、繊維複合材料に用いることができる。これらの中でも、透明性に優れる成形体が得られる観点からは、特に透明樹脂材料、接着剤、粘着剤、人工皮革材料、塗料、電子材、繊維複合材料用途が好ましく、強度発現の観点からは3次元造形材料、クッション材、補修材、シーリング材、断熱材、吸音材、タイヤ、自動車部品、包装材料用途が好ましい。
【0091】
上述した実施形態に関し、本発明は、さらに以下の、改質セルロース繊維粉末、該粉末が媒体に分散してなる分散体、該粉末と樹脂とを配合してなる樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体を開示する。
【0092】
<1> アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が1μm以上500μm以下である改質セルロース繊維粉末。
【0093】
<2> アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が50μm以上300μm以下である改質セルロース繊維粉末。
<3> アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が80μm以上250μm以下である改質セルロース繊維粉末。
<4> アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が導入されてなり、平均繊維長が100μm以上200μm以下である改質セルロース繊維粉末。
<5> 次式から求められる改質セルロース繊維粉末の残分が50質量%以上である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
残分(質量%)=(105℃、60分間加熱した時の改質セルロース繊維粉末の質量/加熱前の改質セルロース繊維粉末の質量)×100
<6> アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基がカルボキシ基である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<7> 改質セルロース繊維におけるアニオン性基と修飾基との結合様式がイオン結合及び/又は共有結合である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<8> アニオン変性セルロース繊維が、TEMPO酸化由来のものである、<1>~<7>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<9> アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の量が0.2mmol/g以上である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<10> 水分量が15質量%以下である、<1>~<9>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<11> 水分量が10質量%以下である、<1>~<10>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<12> 水分量が5質量%以下である、<1>~<11>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<13> 水分を実質的に含まない、<1>~<12>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<14> 乾燥体である、<1>~<13>いずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末。
<15> <1>~<14>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末が媒体に分散してなる分散体。
<16> 媒体が、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、イソプロパノール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、トルエン、アセトン及びシクロヘキサノンから選ばれる1種以上である<15>記載の分散体。
<17> 分散体中の媒体の量が、配合量に換算して、好ましくは10質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは20質量%以上99質量%以下、更に好ましくは30質量%以上95質量%以下、更に好ましくは35質量%以上90質量%以下である、<15>又は<16>記載の分散体。
<18> <1>~<14>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末と樹脂とを配合してなる樹脂組成物。
<19> 樹脂組成物中の樹脂の量が、配合量に換算して、好ましくは10質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは20質量%以上99質量%以下、更に好ましくは30質量%以上90質量%以下、更に好ましくは40質量%以上80質量%以下である、<18>に記載の樹脂組成物。
<20> 樹脂が熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、セルロース系樹脂、及びゴム系樹脂から選ばれる1種以上である<18>又は<19>記載の樹脂組成物。
<21> 硬化性樹脂が光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂から選ばれる1種以上である<20>記載の樹脂組成物。
<22> 光硬化性樹脂が単量体(単官能単量体、多官能単量体)、反応性不飽和基を有するオリゴマー、及び反応性不飽和基を有する樹脂から選ばれる1種以上から選ばれる<21>記載の樹脂組成物。
<23> 熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる1種以上である<21>記載の樹脂組成物。
<24> <1>~<14>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末、媒体及び樹脂を含有する組成物。
<25> 媒体が、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、イソプロパノール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、トルエン、シクロヘキサノン、アセトンから選ばれる1種以上である<24>記載の組成物。
<26> 組成物中の媒体の量が、配合量に換算して、好ましくは10質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは20質量%以上99質量%以下、更に好ましくは30質量%以上95質量%以下、更に好ましくは35質量%以上90質量%以下である、<24>又は<25>記載の組成物。
<27> 樹脂がエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる1種以上である<24>~<26>のいずれか1項に記載の組成物。
<28> 組成物中の樹脂の量が、配合量に換算して、好ましくは10質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは20質量%以上99質量%以下、更に好ましくは30質量%以上90質量%以下、更に好ましくは40質量%以上80質量%以下である、<24>~<27>のいずれか1項に記載の組成物。
<29> <18>~<23>のいずれか1項に記載の樹脂組成物、又は<24>~<28>のいずれか1項に記載の組成物を成形してなる樹脂成形体。
<30> <1>~<14>のいずれか1項に記載の改質セルロース繊維粉末の、樹脂成形体の製造における添加剤としての使用。
<31> <15>~<17>のいずれか1項に記載の分散体の、樹脂成形体の製造における添加剤としての使用。
【実施例
【0094】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
【0095】
〔原料のセルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維又は改質セルロース繊維の、平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:1000μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を10000本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
【0096】
〔微細化されたアニオン変性セルロース繊維又は微細化された改質セルロース繊維の平均繊維径及び平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維に媒体を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡((AFM)、Digital instrument社製、Nanoscope III Tapping mode AFM、プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、平均繊維径と平均繊維長を算出する。
【0097】
〔アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-710)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)
【0098】
〔分散体又は分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計(島津製作所社製、商品名:MOC-120H)を用いて測定を行う。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少が0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
【0099】
〔セルロース繊維における結晶構造の確認〕
セルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、「RigakuRINT 2500VC X-RAY diffractometer」)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
【0100】
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm×厚さ1mmに圧縮したペレットを使用する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100 (A)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0101】
〔改質セルロース繊維におけるセルロース繊維(換算量)〕
疎水変性セルロース繊維(又は疎水変性セルロース繊維粉末)におけるセルロース繊維(換算量)は、以下の方法によって測定する。
【0102】
(1)添加される改質種が1種類の場合
セルロース繊維量(換算量)を下記式Aによって算出する。
<式A>
セルロース繊維量(換算量)(g)=疎水変性セルロース繊維の質量(g)/〔1+改質種の分子量(g/mol)×修飾基の結合量(mmol/g)×0.001〕
【0103】
(2)添加される改質種が2種類以上の場合
各改質種のモル比率(即ち、添加される改質種の合計モル量を1とした時のモル比率)を考慮して、セルロース繊維量(換算量)を算出する。
なお、セルロース繊維と修飾基との結合様式がイオン結合の場合、上述の式Aにおいて、「改質種の分子量」とは、「改質種そのものの分子量」を指す。一方、セルロース繊維と改質種との結合様式がアミド結合の場合、上述の式Aにおいて、「改質種の分子量」とは、「改質種そのものの分子量-18」である。
【0104】
〔セルロース繊維中のセルロース成分の平均重合度(DP)〕
セルロース繊維中のセルロース成分の平均重合度は、次のようにして測定する。
(1)測定用溶液の調製
セルロース繊維を1g精秤し1M水酸化ナトリウム水溶液をpHが10になるまで加えた後、水素化ホウ素ナトリウムを0.1g添加し、室温で2時間撹拌する。その後、1M塩酸をpHが2になるまで加え、遠心分離を行い濾物を回収する。イオン交換水を10g加えて遠心分離を行い濾物を回収する操作を3回行い、凍結乾燥を行う。乾燥質量0.1gの測定対象のセルロース繊維を精秤して100mLビーカーにとり、0.5M銅エチレンジアミン溶液を50mL添加する。これをセルロース繊維が完全に溶解するまで1時間撹拌し、測定用溶液を調製する。
【0105】
(2)平均重合度の測定
上記(1)で得られた測定用溶液をウベローデ粘度計に入れ、恒温槽(20±0.1)℃中で1時間静置した後、液の流下時間を測定する。種々のセルロース濃度(g/dL)の銅アンモニア溶液の流下時間(t(秒))とセルロース無添加の銅アンモニア水溶液の流下時間(t(秒))から、下記式により相対粘度ηを求める。
η=t/t
【0106】
次に、それぞれの濃度における還元粘度(ηsp/c)を下記式より求める。
ηsp/c=(η-1)/c (c:セルロース濃度(g/dL))
更に、還元粘度をc=0に外挿して固有粘度[η](dL/g)を求め、下記式により平均重合度を求める。
DP=2000×[η]
【0107】
〔改質セルロース繊維粉末の残分(固形分)〕
改質セルロース繊維粉末の残分は、次のようにして測定する。
サンプル約1gを精秤し、JIS K 5601-1-2:2008の記載に従って、オーブンで常圧化、105℃、60分間乾燥を行った後の改質セルロース繊維粉末の質量を測定する。得られた測定値を用いて、次式を用いて改質セルロース繊維粉末の残分を算出する。
残分(質量%)=(105℃、60分間加熱した時の改質セルロース繊維粉末の質量/加熱前の改質セルロース繊維粉末の質量)×100
【0108】
〔アニオン変性セルロース繊維の調製〕
調製例1
針葉樹の漂白クラフトパルプ(ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン、平均繊維径24μm)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0109】
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO 1.6g、臭化ナトリウム10g、次亜塩素酸ナトリウム38.9gをこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、アニオン変性セルロース繊維を得た。得られたアニオン変性セルロース繊維をイオン交換水を用いてコンパクト電気伝導率計(堀場製作所製、LAQUAtwin EC-33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで十分に洗浄、次いで脱水処理し、固形分20.0%のアニオン変性セルロース繊維を得た。
【0110】
調製例2
使用する次亜塩素酸ナトリウムの量を28.4g、反応時間を30分としたこと以外は調製例1と同様の方法で固形分41.6%のアニオン変性セルロース繊維を得た。
【0111】
〔アニオン変性セルロース繊維の熱水処理〕
調製例3
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたバイアル瓶に、調製例1で得られたアニオン変性セルロース繊維を絶乾質量で0.72g仕込み、処理液の質量が36gとなるまで、イオン交換水を添加した。処理液を95℃で8時間反応させることで、短繊維化されたアニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。
【0112】
調製例4
調製例2で得られたアニオン変性セルロース繊維を使用したこと以外は調製例3と同様の方法で、短繊維化されたアニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。
【0113】
調製例5
処理液の反応時間を72時間としたこと以外は調製例3と同様の方法で、短繊維化されたアニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。
【0114】
調製例6
処理液の反応温度を80℃としたこと以外は調製例3と同様の方法で、短繊維化されたアニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。
【0115】
〔微細化されたアニオン変性セルロース繊維の製造〕
調製例7
調製例1で得られたアニオン変性セルロース繊維5gとイオン交換水195gを混合し、高圧ホモジナイザーを用いて150MPaで微細化処理を3回行い、微細化されたアニオン変性セルロース繊維分散液(固形分含有量1.0%)を得た。
【0116】
各調製例で得られたアニオン変性セルロース繊維の主な性質を表Aにまとめた。
【0117】
【表A】
【0118】
〔改質セルロース繊維粉末の製造〕
実施例1~9
調製例3で得られたアニオン変性セルロース繊維の水懸濁液と、イオン交換水を、アニオン変性セルロース繊維の固形分含有量が1.0質量%となるように混合した。次いで、アニオン変性セルロース繊維に含まれるカルボキシ基1molに対して、表1に示すアミン基量に相当する量の(表1に示す種類の)アミン又は1M NaOH水溶液を溶液のpHが9.0になるまで添加し、マグネティックスターラーで30分間撹拌して、改質セルロース繊維を得た。得られた改質セルロース繊維を凍結乾燥(EYELA社製、FDU-1110、乾燥温度:-80℃、乾燥時間:24時間、減圧度:10Pa)し、改質セルロース繊維粉末を得た。なお、代表例として実施例1の改質セルロース繊維粉末の加熱残分は96.4質量%、平均繊維径は33μm、平均重合度は95であった。
【0119】
実施例10
凍結乾燥の代わりに真空乾燥(50℃、133Pa)を行ったこと以外は実施例3と同様の方法で、改質セルロース繊維粉末を得た。
【0120】
実施例11~13及び比較例1~2
調製例3で得られたアニオン変性セルロース繊維の代わりに、調製例4で得られたアニオン変性セルロース繊維(実施例11)、調製例5で得られたアニオン変性セルロース繊維(実施例12)、調製例6で得られたアニオン変性セルロース繊維(実施例13)、調製例7で得られた微細化されたアニオン変性セルロース繊維(比較例1)、又は調製例1で得られたアニオン変性セルロース繊維(比較例2)を用いたこと以外は実施例3と同様の方法で、改質セルロース繊維粉末を得た。
【0121】
比較例3
アミンを添加しなかったこと以外は実施例3と同様の方法で、未改質セルロース繊維粉末を得た。
【0122】
試験例1(透過率)
上記の各実施例及び各比較例で作製した改質(又は未改質)セルロース繊維粉末と表1に記載の分散媒を、改質(又は未改質)セルロース繊維粉末の固形分含有量が1.0%となるように添加し、マグネティックスターラーで100rpm以上、60分、25℃で撹拌し、分散液を調製した。紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV-VISIBLE SPECTROMETER UV-2550)を用いて、得られた改質(又は未改質)セルロース繊維分散液の660nmでの透過率を測定し、これを透明度の指標とした。なお、媒体となる溶媒の660nmでの透過率を100%とした。数値が高いほど分散性に優れることを示す。
【0123】
【表1】
【0124】
なお、表1等における各成分の詳細は次の通りである。
EOPOアミン:ハンツマン社製、商品名:Jeffamine M-2070
TBAH(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド)
EW(イオン交換水)
EtOH(エタノール)
DMF(ジメチルホルムアミド)
MEK(メチルエチルケトン)
「アミン当量」とは、アニオン変性セルロース繊維中のカルボキシ基1モルに対する、アミン中のアミン基のモル数である。
【0125】
表1から、短繊維化アニオン変性セルロース繊維に修飾基が導入された平均繊維長が所定の範囲内である改質セルロース繊維は、一旦乾燥させて粉末状態にした後に媒体に分散した時の透過率が、比較例に比べて桁違いに高いこと、即ち、媒体への分散性に優れたものであることが分かった。比較例1~2から、平均繊維長が小さすぎても大きすぎても、改質セルロース繊維粉末の分散性が大きく低下することが分かった。
【0126】
〔エポキシ樹脂組成物〕
実施例14、比較例4
実施例2で作製した改質セルロース繊維粉末を用いて、下記の方法でエポキシ樹脂組成物(実施例14)を製造した。
一方、EOPOアミンの使用量を0.5当量にしたこと以外は比較例2と同様の方法で改質セルロース繊維粉末を得た。この改質セルロース繊維粉末を用いて下記のエポキシ樹脂組成物(比較例4)を製造した。
実施例2で作製した改質セルロース繊維粉末、又は前記のようにして作製した改質セルロース繊維粉末に、エポキシ樹脂プレポリマー(三菱ケミカル社製、商品名:jER828)、及び溶媒(DMF)を表2に示す配合量となるよう添加してマグネティックスターラー付きブロックヒーター内で100rpm以上で180分、80℃で撹拌し、混合液を調製した。得られた混合液に硬化剤(2-エチル-4-メチルイミダゾール、和光純薬工業社製)を表2に示す配合量となるように添加して撹拌器(シンキー社製、商品名:あわとり練太郎)を用いて7分間撹拌してエポキシ樹脂組成物(実施例14又は比較例4)を製造した。
次いで、バーコーターを用いて塗布厚0.5mmで銅箔上に塗工した。その後、80℃で1時間乾燥し、溶媒を除去した後、150℃で1時間熱硬化させて、エポキシ樹脂組成物の樹脂成形体を得た。
【0127】
【表2】
【0128】
〔ポリ塩化ビニル樹脂組成物〕
実施例15、比較例5
実施例2で作製した改質セルロース繊維粉末を用いて、下記の方法でポリ塩化ビニル樹脂組成物(実施例15)を製造した。
一方、EOPOアミンの使用量を0.5当量にしたこと以外は比較例2と同様の方法でで改質セルロース繊維粉末を得た。
実施例2で作製した改質セルロース繊維粉末、又は前記のようにして作製した改質セルロース繊維粉末を用いて、表3に示す配合組成において、50ミリリットルの密閉型ミキサーで温度170℃、回転数60rpm、6分間混練し、ポリ塩化ビニル樹脂混合物(実施例15又は比較例5)を得た。得られたポリ塩化ビニル樹脂組成物を15×15×0.2cmの金型中で175℃で5分間シート成型を行い、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の樹脂成形体であるシートを得た。
【0129】
【表3】
【0130】
表3における原料は以下の通りである。
ポリ塩化ビニル樹脂:新第一塩ビ社製、商品名:ZEST1400Z
塩ビ用安定化剤:ADEKA社製、商品名:アデカスタブRUP-103
可塑剤:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル;花王社製、商品名:ビニサイザー80
滑剤:ステアリン酸;花王社製、商品名:ルナックS70V
【0131】
試験例2(粗大繊維量)
実施例14~15及び比較例4~5で作製したエポキシ樹脂組成物及びポリ塩化ビニル樹脂組成物中の粗大繊維の有無を光学顕微鏡で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。ここでいう「粗大繊維」とは、倍率200倍の光学顕微鏡で組成物を観察した際、100μm以上の繊維として観察されたものである。
1:粗大繊維がみられない
2:粗大繊維が一部確認される
3:粗大繊維が全体的に確認される
【0132】
表2~3から、短繊維化アニオン変性セルロース繊維に修飾基が導入された改質セルロース繊維粉末を用いて樹脂組成物を調製した場合でも、改質セルロース繊維粉末が凝集することなく、樹脂組成物中での分散性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の改質セルロース繊維粉末は高い分散性を有するので、該微細化疎水変性セルロース繊維を含有する分散体を日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品等の様々な工業用途、より具体的には、透明樹脂材料、3次元造形材料、クッション材、補修材、粘着剤、接着剤、シーリング材、断熱材、吸音材、人工皮革材料、塗料、電子材、包装材料、スポーツ用品、タイヤ、自動車部品、繊維複合材料等の各種樹脂製品に好適に使用することができる。