(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
A61B8/14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021149455
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2021-09-14
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508291928
【氏名又は名称】スーパー ソニック イマジン
【氏名又は名称原語表記】SUPER SONIC IMAGINE
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】フラスキーニ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ボゥ
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-512570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法であって、上記方法は処理システム(8)によって実施され、上記方法は、
上記処理システムによって超音波信号データを処理して上記媒体の同相及び直交位相位相(IQ)データを提供する処理ステップ(c)と、
上記媒体における複数の異なる深度(z
1
,z
2
,z
n
)のそれぞれについて、予め定義されたシフトマップに基づいて周波数シフト量を決定するシフト量決定ステップ(d1)と、
上記複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)にわたってIQデータスペクトルが再センタリングされるように、上記複数の異なる深度のそれぞれに係る
上記各周波数シフト量の関数として上記IQデータの位相を補償する減衰補償ステップ(f)とを含む、
方法。
【請求項2】
上記IQデータスペクトルは、予め定義された基準周波数において再センタリングされる、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記シフトマップは、上記複数の異なる深度のそれぞれについて、単一の予め定義された減衰係数又は複数の減衰係数から導出され、
上記減衰係数は、上記媒体の深度方向における単位距離あたりの周波数の関数として上記超音波信号データにおける超音波振幅の減少(dB/cm/MHz)を指定する、
請求項
1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記方法は、上記処理ステップ(c)の後かつ上記減衰補償ステップ(f)の前に、
上記媒体における複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、上記IQデータの自己相関関数を決定する関数決定ステップ(d2)と、
上記複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、上記自己相関関数の位相の関数として中心スペクトル位置ω
c(z)を推定する中心推定ステップ(e2)とをさらに含み、
上記減衰補償ステップ(f)において、各異なる深度(z
1,z
2,z
n)について、上記周波数シフト量は、上記各中心スペクトル位置ω
c(z)の関数として決定される、
請求項1~
3のうちの1つに記載の方法。
【請求項5】
上記減衰補償ステップ(f)は、上記減衰補償ステップ(f)によって処理される入力データに対して、複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれに係る複素位相を最大深度(z
max)まで乗算することで、時間領域において実行され、
深度(z
k)における複素位相は、深度(z
k)までの合計シフト量の関数である、
請求項1~
4のうちの1つに記載の方法。
【請求項6】
上記方法は、上記処理ステップ(c)の後に、
上記複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、上記IQデータの自己相関係数の関数として各スペクトル標準偏差を推定する帯域幅推定ステップ(d2’)と、
上記複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、上記IQデータが上記複数の異なる深度にわたって適応的にフィルタリングされるように、上記スペクトル標準偏差の関数としてフィルタの周波数帯域幅を決定する帯域幅決定ステップ(e2’)とを含み、
上記方法は、上記減衰補償ステップ(f)の後に、上記補償されたIQにデータに上記フィルタを適用するフィルタリングステップ(g)を含む、
請求項1~
5のうちの1つに記載の方法。
【請求項7】
上記超音波信号データは、超音波トランスデューサの複数の超音波ラインのデータを含み、
上記中心推定ステップ(e2)及び/又は上記帯域幅推定ステップ(d2’)は、上記複数の超音波ラインのそれぞれについて実行され、上記ステップ(e2,e2’)の出力データは上記超音波ラインにわたって平滑化される、
請求項
4~6のうちの1つに記載の方法。
【請求項8】
上記中心推定ステップ(e2)及び/又は上記帯域幅推定ステップ(d2’)の出力データは、正規化ステップによって深度方向に正規化される、
請求項
4~7のうちの1つに記載の方法。
【請求項9】
上記中心推定ステップ(e2)及び/又は上記帯域幅推定ステップ(d2’)の出力データの頑健性は、純ノイズモデル、すなわち、H
0:|ρ
1|=0の仮説検定を行うことによって向上され、
上記出力データがノイズから受けるバイアスが低減されるように、統計的に有意な点のみが上記出力データに含まれる、
請求項
4~8のうちの1つに記載の方法。
【請求項10】
隣接した深度(z
1,z
2)に係る区間ごとの減衰関数をマップにあてはめることで、上記異なる深度(z
1,z
2,z
n)に係る周波数シフト量に基づいて、上記深度にわたる周波数シフトマップが生成される、
請求項1~
9のうちの1つに記載の方法。
【請求項11】
上記同相及び直交位相位相(IQ)データは、散乱及び/又は後方散乱されたIQデータ及び/又はビームフォーミングされたIQデータである、
請求項1~
10のうちの1つに記載の方法。
【請求項12】
上記方法は、ビームフォーミング処理によって上記IQデータを処理して、上記媒体のビームフォーミングされた捕捉データを提供するビームフォーミングステップ(cf)を含み、
上記ビームフォーミング処理では、上記処理ステップ(c)と、上記減衰補償ステップ(f)と、(c)及び(f)の間の任意のステップとが実行される、
請求項1~
11のうちの1つに記載の方法。
【請求項13】
上記方法は、少なくとも1つの超音波トランスデューサ(2)に関連付けられた処理システム(8)によって実施され、
上記方法は、上記処理ステップ(c)の前に、
媒体においてトランスデューサによって少なくとも1つのパルスを送信する送信ステップ(a)と、
上記パルスに応答してトランスデューサによって超音波信号データを取得する受信ステップ(b)とをさらに含む、
請求項1~
12のうちの1つに記載の方法。
【請求項14】
上記方法は、
上記複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)に同じフィルタを適用するように、上記補償されたIQデータスペクトルにフィルタを適用するフィルタリングステップ(g)、及び/又は、
補償されかつフィルタリングされたIQデータのエンベロープを出力するエンベロープ検出ステップ(h)
をさらに含む、
請求項1~
13のうちの1つに記載の方法。
【請求項15】
データ処理システムによって実行されたとき、請求項1~
14のうちの1つに記載の方法を上記データ処理システムを実行させるコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項16】
媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するためのシステムであって、
超音波信号データを処理して上記媒体の同相及び直交位相位相(IQ)データを提供することと、
上記媒体における複数の異なる深度(z
1
,z
2
,z
n
)のそれぞれについて、予め定義されたシフトマップに基づいて周波数シフト量を決定することと、
上記深度依存性の減衰を補償するために、上記複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)にわたってIQデータスペクトルが再センタリングされるように、上記複数の異なる深度のそれぞれに係る
上記各周波数シフト量の関数として上記IQデータの位相を補償することとを
行うように構成された処理システム(8)を備える、
システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に医療用イメージングのために、上記方法を実現するイメージング方法及び装置に関する。
【0002】
本開示は、媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法に関する。本方法は、例えば、上記媒体に対して所定関係を有する複数のトランスデューサ(例えば、ライン又はアレイ)に関連付けられた処理システムによって実現されてもよい。
【背景技術】
【0003】
古典的な超音波イメージングは、トランスデューサによって送信される1つ又は複数の超音波パルス(又は波)を用いて媒体の超音波照射(insonification)を行うことからなる。これらのパルスのエコーに応答して、例えば同じトランスデューサを用いることで、超音波信号データが取得される。
【0004】
単一の超音波照射の後方散乱エコーを用いて、画像のライン全体が動的受信ビームフォーミング処理を用いて計算されうる。画像全体を構築するために、この手順は、所与の深度において横方向のラインに沿って走査する、焦点を合わせた一組の波(焦点面と呼ぶ)を送信することで繰り返される。焦点を合わせた各波について、動的ビームフォーミングが実行され、画像全体が1ラインずつ構築されて取得される。動的ビームフォーミングは、受信モードでは一様な合焦を保証するが、送信モードでは、焦点は所与の深度に固定される。最終的な画像は、焦点面において、また、焦点軸長に対応する媒体の限られた領域において最適である。しかしながら、回析の法則によって課されるこのエリアの外部では、画像品質は、(合焦されたビームの近傍界及び遠方界における)他の深度では急速に劣化する。
【0005】
この制限を克服するための解決方法は、多焦点イメージングを実行するというものであり、画像全体にわたって均質な品質を得るために、異なる送信焦点深度が使用される。所与の焦点深度における各送信は、軸焦点距離によって定められた範囲を有する領域における部分画像の実施を可能にする最終的な画像は、様々な深度に対応するこれらの部分画像を再結合したものを用いて取得される。合成動的送信合焦を実行することで、画像品質の改善を期待することができる。そのようなアプローチは、互いに異なる一組の超音波照射のビームフォーミングを行って、次いで結合することにより、動的送信合焦(すなわち、画像中の画素数と同じ個数の焦点深度)を再合成することにある。
【0006】
上述した技術に基づいて、イメージングされる媒体の二次元断面の音響インピーダンスを示すBモード画像(Brightness:明るさ)を準備することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、超音波イメージングにおいて、いくつかのアプリケーションでは望ましくは考慮されなければならない別の現象は、検査される媒体の内部における超音波減衰である。超音波が1つ又は複数の組織において伝搬するとき、それは、深度及び組織特性の関数としての減衰効果の影響を受ける。このことは、異なる深度における受信信号のスペクトルの変形をもたらす。
【0009】
それによって、減衰は、敏感な、周波数及び深度に依存する現象を構成する。従って、組織減衰を考慮して例えば時間利得保証によって従来行われるように、結果的に得られる計算された画像に対する減衰のいかなる影響も補償することが望ましい。
【0010】
さらに、特許文献1は、送信された基本周波数の高調波エコー成分から超音波画像を生成する超音波画像診断方法について説明している。提案された減衰補償は、基本波信号及び高調波信号を混合するにある。言いかえると、深度の関数として異なる周波数応答フィルタが提案されている。
【0011】
その結果、既知の方法は、例えば減衰の非線形を無視するので不正確になるか、又は、例えば減衰効果を補償するために複数の異なるフィルタを必須とするので複雑になるかのいずれかである。
【0012】
現在、上述の課題を克服し、特に、媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を確実に補償するための方法及びシステムであって、例えば必要とされるフィルタ及び計算複雑性に関して、高速でありかつ複雑性が低いという優位点をもたらしうる方法及びシステムを提供することが望まれたままである。また、本方法及びシステムは、望ましくは、例えば、スペックル/クラッターの低減に関して、及び/又は、鮮鋭度の向上に関して、改善された画像品質をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本開示の実施形態によれば、媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法が提供される。上記方法は、例えば少なくとも1つの超音波トランスデューサ(これは上記媒体と所定関係にあってもよい)に関連付けられた、処理システムによって実施される。本方法は、
- 処理システムによって超音波信号データを処理して媒体の同相及び直交位相位相(IQ)データを提供する処理ステップと、
- 媒体における複数の異なる深度にわたってIQデータスペクトル(すなわち、補償されたIQデータスペクトル)が再センタリングされるように、複数の異なる深度のそれぞれに係る各周波数シフト量の関数としてIQデータの位相を補償する減衰補償ステップと
を含む。
【0014】
言いかえると、減衰補償ステップは、媒体の異なる深度にわたるスペクトルシフトをもたらす可能性があり、それは、減衰効果によって引き起こされた任意のシフトを補償する。例えば、シフト量及び低域通過フィルタの帯域幅は、深度の関数として自動的に推定されうる。
【0015】
そのような方法を提供することによって、超音波信号データにおける減衰効果を、各信号データ処理によって補償(すなわち補正)することができる。従って、処理された信号データに適用されるフィルタの深度における適応化は不要である。
【0016】
例えば、本開示は、ノイズ低減及び画像の鮮鋭度に関して、より良好なBモード画像品質をもたらす。同時に、本開示の方法は、後のフィルタリングステップにおいて、単一の従来技術のフィルタを用いることを可能にする。言いかえると、本開示の方法は、減衰効果を補償するために深度依存性のスペクトルシフトを達成するので、入力データの非整列のスペクトルと整合させるために、フィルタを適応化すること、又は、異なる深度に係るいくつかの各適応化されたフィルタ(例えば、中心が異なるフィルタ)を使用することは必要ではない。このことは、フィルタ設計を簡単化するという優位点を有する。
【0017】
さらに、本開示の方法及びシステムは一般的であり、従って任意の減衰に適用可能であり、線形の減衰に限定されない。
【0018】
それによって、本開示は、スペックル/クラッターの低減及び鮮鋭度に関して、(例えばBモード画像の)改善された画像品質を可能にし、それと同時に、深度依存性の減衰補正のために特定のフィルタを用いる従来技術よりも計算効率的なアプローチである。
【0019】
特に、深度依存性の減衰補償は、望ましくは時間領域において実施され、スペクトル領域では実施されないので、本開示の方法は、計算上、より効率的である(すなわち、より少ない計算を必要とする)。
【0020】
異なる深度は、異なる深度レベル(例えば離散値)を意味してもよく、又は、異なる深度エリア(例えば、2つの隣接した深度レベルの間の範囲又は区間)を意味してもよい。
【0021】
補償されたIQデータスペクトルは、予め定義された基準周波数に、例えば、ゼロ周波数又は他の予め定義された正又は負の値に再センタリングされてもよい。
【0022】
本開示の方法は、処理ステップの後かつ減衰補償ステップの前に、複数の異なる深度のそれぞれについて、予め定義されたシフトマップに基づいて周波数シフト量を決定するシフト量決定ステップをさらに含んでもよい。
【0023】
また、シフトマップは、1つ又は複数の異なる超音波トランスデューサタイプ及び/又は1つ又は複数の異なる媒体タイプの関数として予め決められてもよい。例えば、マップは、各トランスデューサタイプ及び/又は各媒体タイプに対して1つ又は複数の異なる係数を含んでもよい。
【0024】
シフトマップは、複数の異なる深度のそれぞれについて、単一の予め定義された減衰係数又は複数の減衰係数から導出されてもよい。例えば、上記減衰係数は、媒体の深度方向における単位距離あたりの周波数の関数として超音波信号データにおける超音波振幅の減少(dB/cm/MHz)を指定してもよい。
【0025】
言いかえると、一実施形態において、マップはただ1つの減衰係数を含んでもよく、それに基づいて、線形シフト関数が決定されてもよい。例えば、上記係数は、線形関数の勾配を定義してもよい。
【0026】
それにもかかわらず、シフトマップは複数の係数を含んでもよく、例えば、媒体における各深度範囲ごとに1つずつの係数を含んでもよい。この場合、それぞれ取得された線形関数が組み合わされてもよい。
【0027】
本開示の方法は、処理ステップの後かつ減衰補償ステップの前に、
- 媒体における複数の異なる深度のそれぞれについて、IQデータの自己相関関数を決定する関数決定ステップと、
- 複数の異なる深度のそれぞれについて、自己相関関数の位相の関数として中心スペクトル位置ωc(z)を推定する中心推定ステップと
を含んでもよく、
減衰補償ステップにおいて、各異なる深度について、周波数シフト量は、各中心スペクトル位置ωc(z)の関数として決定される。
【0028】
従って、シフト量は、必ずしも、予め決められたデータ(例えば、予め定義されたシフトマップ又はテーブル)に基づくものではなく、それは、本開示の方法によって自動的に決定されてもよい。
【0029】
上記自己相関関数は、例えば、次数1の自己相関関数である。
【0030】
減衰補償ステップは、減衰補償ステップによって処理される入力データに対して、複数の異なる深度のそれぞれに係る複素位相を最大深度zmaxまで乗算することで、時間領域において実行されてもよい。深度zkにおける複素位相は、例えば、深度zkまでの合計シフト量の関数であってもよい。最大深度zmaxは、超音波データにおける最深深度であってもよい。従って、データは、予め定義された最大深度zmaxまでの各深度において補正されてもよい。この最大深度zmaxのみが、望ましくは、プローブ又はシステム又はユーザによって(予め)定義される。このことは、深度z1,z2,znにおけるデータに、z1,z2,znまでの計算された位相をそれぞれ乗算してもよいことを意味する。概して、z1,z2,znは、0及びzmaxの間における離散深度データであってもよい。
【0031】
例えば、上記最大深度は、ユーザによって選択された値に対応してもよく、又は、システムによって予め定義されてもよく、これは、超音波イメージング方法でスキャンされる媒体における領域の最深深度を表す。概述したように、深度は、任意の種類の予め定義されたか又は予め選択された値であってもよい。
【0032】
従って、補償ステップは時間領域において行われてもよいので、本開示の方法は、計算上、スペクトル領域において補償を行うよりもずっと効率的であるという優位点を有する。
【0033】
本方法は、処理ステップの後に、
- 複数の異なる深度のそれぞれについて、IQデータの自己相関係数の関数として各スペクトル標準偏差を推定する帯域幅推定ステップと、
- 複数の異なる深度のそれぞれについて、IQデータが複数の異なる深度にわたって適応的にフィルタリングされるように、スペクトル標準偏差の関数としてフィルタ(例えば、低域通過又は帯域通過フィルタ)の周波数帯域幅を決定する帯域幅決定ステップと
をさらに含んでもよく、
上記方法は、減衰補償ステップの後に、
- 補償されたIQにデータにフィルタを適用するフィルタリングステップ
をさらに含んでもよい。
【0034】
従って、減衰補償ステップにおけるスペクトルシフトに加えて、スペクトルの帯域幅は、超音波信号データに対する帯域幅の任意の影響を補償するように適応化されてもよい。
【0035】
超音波信号データは、通常、少なくとも1つの超音波トランスデューサの複数の超音波ラインのデータを含む。次いで、複数の超音波ラインそれぞれについて、中心推定ステップ及び/又は帯域幅推定ステップが実行されてもよい。上記ステップの出力データは、オプションで付加的に、予め定義されたルール及びパラメータの関数として、超音波ラインにわたって平滑化(例えば平均)されてもよい。
【0036】
言いかえると、各ラインについて中心推定ステップ及び/又は帯域幅推定ステップによって取得されたデータは、例えば各ラインに係るデータ間の平均を決定することで、合成されたデータを平滑化するように互いに合成されてもよい。
【0037】
従って、減衰補償及び/又は帯域幅補正の精度が向上されうる。
【0038】
さらに、出力データは、オプションで、予め定義されたさらなるルール及びパラメータ、例えば、使用されるトランスデューサの超音波ラインの個数、トランスデューサタイプ、及び/又は媒体の関数として、超音波ラインにわたって平滑化されてもよい。
【0039】
中心推定ステップ及び/又は帯域幅推定ステップの出力データは、正規化ステップによって深度方向に正規化されてもよい。
【0040】
従って、より滑らかな深度依存性の変動を取得することができ、フィルタリングの安定性を改善することができる。
【0041】
中心推定ステップ及び/又は帯域幅推定ステップの出力データの頑健性は、純ノイズモデルの仮説検定を行うことにより向上されてもよい。出力データがノイズから受けるバイアスが低減されるように、統計的に有意な点のみが出力データに含まれてもよい。例えば、ρ1が次数1の自己相関係数を表わす場合、仮説H0:|ρ1|=0が検定されてもよい。純ノイズの仮定下において、Tより高い|ρ1|を観測する確率が、予め定義された有意水準又はp値(典型的な選択は5%又は1%である)を超過しないように、|ρ1|の値に対するしきい値Tが導出されてもよい。この場合、出力データがノイズから受けるバイアスが低減されるように、(予め定義された有意水準に従って)統計的に有意な点から得られる推定値のみが出力データに含まれてもよい。
【0042】
このステップ、特に仮説検定ステップは、中心推定ステップ及び/又は帯域幅推定ステップの前に行われてもよく、例えば本開示の処理ステップの前に行われてもよく、中心推定ステップ及び/又は帯域幅推定ステップにおいて使用される予め決められたデータを提供してもよい。
【0043】
上述したステップの任意の組み合わせ、特に、ライン間の組み合わせた出力データを平滑化するステップと、出力データを正規化するステップと、出力データの頑健性を向上させるステップとを組み合わせてもよい。
【0044】
隣接した深度(すなわち、深度方向における深度範囲又は領域)に係る区間ごとの減衰関数、例えば線形又は非線形関数をマップにあてはめることで、異なる深度に係る周波数シフト量に基づいて、深度にわたる周波数シフトマップが生成されてもよい。
【0045】
本開示の方法は、望ましくは、散乱又は後方散乱処理の一部であってもよく、特に、ビームフォーミング処理方法、例えば合成ビームフォーミング処理であってもよい。
【0046】
例えば、同相及び直交位相位相(IQ)データは、散乱及び/又は後方散乱されたIQデータであってもよく、特に、それらはビームフォーミングされたIQデータであってもよい。
【0047】
代替又は追加として、本開示の方法は、ビームフォーミング処理によってIQデータを処理して、媒体のビームフォーミングされた捕捉データを提供するビームフォーミングステップを含んでもよい。処理ステップ、減衰補償ステップ、及びこれらのステップ間の任意のステップは、ビームフォーミング処理において実行されてもよい。
【0048】
ビームフォーミング処理に起因して、取得データにおける回析パターンを低減することが可能になる。ビームフォーミング処理は、例えば、合成ビームフォーミング処理であってもよい。このことは、回析パターンをさらに低減することを可能にするという優位点を有する。
【0049】
また、本開示の方法における超音波データの処理は、IQデータのリフェージング(rephasing)を含むビームフォーミング処理の処理ステップにおいて行われてもよい。従って、本開示の方法は、計算コストの大幅な増加を意味しない。
【0050】
本方法は、少なくとも1つの超音波トランスデューサに関連付けられたか又は接続された処理システムによって実施されてもよい。本方法は、処理ステップの前に、
- 媒体においてトランスデューサによって少なくとも1つのパルスを送信する送信ステップと、
- パルスに応答してトランスデューサによって超音波信号データを取得する受信ステップと
をさらに含んでもよい。
【0051】
本方法は、
- 複数の異なる深度に同じフィルタを適用するように、補償されたIQデータスペクトルに低域通過フィルタを適用するフィルタリングステップ、及び/又は、
- 補償されかつフィルタリングされたIQデータのエンベロープを出力するエンベロープ検出ステップ
のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0052】
フィルタリングステップは、単一の低域通過フィルタ及び/又は帯域通過フィルタを用いることを含んでもよい。それはまた、複数の低域通過フィルタ及び/又は帯域通過フィルタを用いることを含んでもよい。フィルタに入力される入力信号データが、再センタリングされたスペクトルを既に有している(すなわち、減衰は、入力信号データにおけるスペクトルシフトによって既に補償されている)ので、望ましくは、複数の異なる深度に適用されるただ1つのフィルタが使用されてもよい。それにもかかわらず、例えば各深度レベルに対して異なる帯域幅を有する、いくつかのフィルタを使用してもよい。
【0053】
従って、減衰効果を補償するために深度依存性のスペクトルシフトを行うようにそれ自体は構成されたものではない、ただ1つのフィルタ(例えば、低域通過又は帯域通過フィルタ)が使用されてもよい。このこともまた、フィルタに入力される信号データが減衰効果に関して既に補償(すなわち補正)されているので不要である。フィルタは、予め定義されてもよく、又は、トランスデューサ及び/又は媒体の関数として予め定義されたリストから選択されてもよく、又は、本方法が実行されるときに適応可能であってもよい(例えば、フィルタは、本方法によって推定されたものの平均帯域幅を有するように決定されてもよい)。
【0054】
それにもかかわらず、使用されるフィルタは、上述したように、深度依存性の帯域幅適応化のために適応化されてもよい。言いかえると、複数の深度のための複数のフィルタがそれぞれ存在してもよい。各フィルタは、適応化された、おそらくは異なる1つ又は複数の帯域幅を有してもよい。しかしながら、フィルタの中心が整列されてもよい。従って、上記スペクトルシフトが減衰補償ステップにおいて既に達成されているので、フィルタは必ずしも異なる中心周波数をもたない。
【0055】
本開示はさらに、データ処理システムによって実行されたとき、上述したように、媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法をデータ処理システムに実行させるコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラムに関する。
【0056】
本開示はさらに、画像処理において減衰効果が上述したように補償される、超音波画像のイメージング方法に関してもよい。次いで、1つ又は複数の画像は、同じ又は同様の時間期間の間及び/又は場所又はその他において、ローカル又は遠隔の、任意の関連付けられたディスプレイ上に表示されてもよい。
【0057】
本開示はさらに、媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するためのシステムに関し、本システムは、
- 超音波信号データを処理して媒体の同相及び直交位相位相(IQ)データを提供することと、
- 上記媒体における複数の異なる深度にわたってIQデータスペクトルが再センタリングされるように、上記複数の異なる深度のそれぞれに係る各周波数シフト量の関数として上記IQデータの位相を補償することと
を行うように構成された処理システムを備える。
【0058】
本システムは、オプションで、例えば少なくとも1つのトランスデューサを備える、超音波データ収集システムを備えてもよい。しかしながら、本システムはこのオプションに限定されなくてもよい。本システムは、超音波信号データを外部捕捉システムから受信するように構成されてもよく、外部捕捉システムは、例えば、インターネット、「クラウド」、4G又は5Gプロトコル、WIFI(登録商標)、任意のローカルネットワーク、又は他の任意のデータ接触又は非接触接続を介して、本開示のシステムに接続可能である。
【0059】
少なくとも1つのトランスデューサは、パルスを送信して組織の応答を受信するように構成された単一のトランスデューサであってもよい。例えば、合焦されたトランスデューサは、例えば、凹面形式を有してもよく、又は、各レンズを有してもよい。また、単一のトランスデューサを掃引することも可能である。
【0060】
複数のトランスデューサ及び/又はトランスデューサアレイを用いることも可能である。例えば、典型的には、軸X(水平又はアレイ方向X)に沿って並置された数十個のトランスデューサ(例えば100~300)を含む、リニアアレイが提供されてもよい。本開示の実施例では、3Dプローブ又は他の任意のプローブが使用されてもよい。
【0061】
パルスを送信して応答を受信するために1つ又は複数の同じトランスデューサが使用されてもよく、又は、送信及び受信のために異なるトランスデューサが使用されてもよい。
【0062】
本開示はさらに、コンピュータによって実行されるとき、上述した方法のうちの少なくとも1つに係るステップを実行するための命令を含むコンピュータプログラムに関してもよい。
【0063】
本開示はさらに、コンピュータによって読み取り可能な記録媒体であって、コンピュータによって実行されるとき、上述した方法のうちの少なくとも1つに係るステップを実行するための命令を含むコンピュータプログラムをその上に記録した記録媒体に関してもよい。
【0064】
本開示及びその実施形態は、ヒト、動物用の医療用装置のコンテキストにおいて使用されてもよく、また、例えば金属部品、砂利、小石などのように見做される任意の材料のコンテキストにおいてでは使用されてもよい。
【0065】
矛盾しない限り、上述した構成要素及び本明細書内で説明したものが組み合わされもよいことが意図される。
【0066】
先述の概要説明及び後述の詳細説明の両方は例示及び説明にすぎず、実例の提示を目的とし、請求項に記載された開示の限定ではないことは理解されるべきである。
【0067】
添付図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、その説明とともに本開示の実施形態を示し、その原理をサポート及び例証として提示される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】本開示の実施形態に係る超音波装置を示す概略図である。
【
図3】本開示に係る媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法を示すフローチャートである。
【
図4】本開示に係る方法の(予め定義された係数/マップを用いる)第1の例示的な実施形態を示す図である。
【
図5】本開示に係る方法の(自動化されたシフト量決定を用いる)第2の例示的な実施形態を示す図である。
【
図6】本開示に係る方法の(自動化された帯域幅補正を用いる)第3の例示的な実施形態を示す図である。
【
図7a】超音波画像の深度依存性のスペクトルに関する、減衰補償なしの第1の例を示す図である。
【
図7b】減衰補償を用いた第1の例を示す図である。
【
図8a】超音波画像の深度依存性のスペクトルに関する、減衰補償なしの第2の例を示す図である。
【
図8b】減衰補償を用いた第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
ここで、本開示の例示的な実施形態が詳細に参照され、その実施例は添付図面に図示されている。図面の全体にわたって可能であればどこでも、同じ部分又は同様の部分を示すために同じ参照番号が使用される。
【0070】
図1に示す装置は、媒体の領域1、例えば、生体組織、特に、患者のヒト組織又は動物又は植物のイメージングを行うように適応化される。本装置は、本開示のシステムに対応してもよい。本装置は、例えば、以下の構成要素を含んでもよい。
【0071】
・(オプションで)少なくとも1つのトランスデューサであって、例えば、パルスを送信して組織の応答を受信するように構成された単一のトランスデューサ。また、複数のトランスデューサ及び/又はトランスデューサアレイ2を用いることも可能である。例えば、典型的には、通常のプローブで既知のように、軸X(水平又はアレイ方向X)に沿って並置された数十個のトランスデューサ(例えば100~300)を含む、リニアアレイが提供されてもよい。この場合、アレイ2は、領域1の二次元(2D)イメージングを実行するように適応化されるが、アレイ2は、領域1の3Dイメージングを実行するように適応化された二次元アレイであってもよい。トランスデューサアレイ2は、曲線に沿って整列された複数のトランスデューサを含む凸面のアレイであってもよい。パルスを送信して応答を受信するために1つ又は複数の同じトランスデューサが使用されてもよく、又は、送信及び受信のために異なるトランスデューサが使用されてもよい。
・トランスデューサアレイを制御してそこから信号を取得する電子的ベイ3。
・電子的ベイ3を制御し、例えば、電子的ベイから取得された画像を見るためのマイクロコンピュータ4(変形例では、単一の電子装置が、電子的ベイ3及びマイクロコンピュータ4のすべての機能を満たしてもよい)。マイクロコンピュータは、例えばPCであってもよい。
【0072】
それにもかかわらず、トランスデューサは、電子的ベイ3及び/又はマイクロコンピュータ4の外部にあってもよい。例えば、トランスデューサは、電子的ベイ3及び/又はマイクロコンピュータ4に遠隔に接続可能であってもよい。1つの例示的な実施形態において、トランスデューサは、IOT装置であり、及び/又は、IOT装置及び/又はスマートフォンに接続可能である。トランスデューサは、インターネット、「クラウド」、4G又は5Gプロトコル、WIFI、任意のローカルネットワーク、又は他の任意のデータ接触又はリモート接続を介して、電子的ベイ3及び/又はマイクロコンピュータ4に接続可能であってもよい。
【0073】
さらに、電子的ベイ3及びマイクロコンピュータ4が、例えば、インターネット、「クラウド」、4G又は5Gプロトコル、WIFI、任意のローカルネットワーク、又は他の任意のデータ接触又はリモート接続を介して、遠隔に接続可能であってもよい。
【0074】
本装置は、超音波画像を表示するためにディスプレイをさらに備えてもよい。上記ディスプレイは、マイクロコンピュータ4に接続されてもよく、又は、マイクロコンピュータに設けられてもよい。ディスプレイは、例えば、インターネット、「クラウド」、4G又は5Gプロトコル、WIFI、任意のローカルネットワーク、又は他の任意のデータ接触又はリモート接続を介して、電子的ベイ3及びマイクロコンピュータ4に遠隔に接続可能であってもよい。
【0075】
図1における軸Zは、軸Xに垂直な軸であり、それは、通常、アレイのトランスデューサによって生成された超音波ビームの方向であり、例えば、検査された媒体の深度方向にある。
この方向は、本開示では、垂直方向又は軸方向と呼ばれる。
【0076】
図2に示すように、電子的ベイ3は、例えば、以下の構成要素を含んでもよい。
【0077】
・トランスデューサアレイ2のL個のトランスデューサ(Tl-TL)に個々に接続されたL個のアナログ/ディジタル変換器5(A/Di-A/DL);
・n個のアナログ/ディジタル変換器5にそれぞれ関連付けられたL個のバッファメモリー6(Bi-Bn);
・例えば、バッファメモリー6及びマイクロコンピュータ4と通信する中央処理装置8a(central processing unit:CPU)及び/又はグラフィカル処理装置8b(graphical processing unit :GPU)を備える、処理システム8;
・中央処理システム8に接続されたメモリ9(MEM);
・中央処理システム8に接続されたディジタル信号プロセッサ10(digital signal processorDSP)。
【0078】
本願で開示した装置は超音波イメージングのための装置であり、トランスデューサは超音波トランスデューサであり、実現された方法は、領域1に係る超音波減衰パラメータを推定し、また、オプションで、領域1の超音波画像を生成してもよい。
【0079】
しかしながら、本装置は、超音波とは異なる波(超音波波長とは異なる波長を有する波)を用いる任意のイメージング装置であってもよく、この場合、トランスデューサ及び電子的ベイ構成要素は上記波に適応化される。
【0080】
図3は、本開示に係る媒体の超音波信号データにおける深度依存性の減衰を補償するための方法を示すフローチャートである。上記方法は、
図1の装置において実施されてもよい。
【0081】
本方法のステップは、主として、例えば中央処理装置8a及び/又はGPU8bを備える処理システム8によって制御されてもよく、最終的にはディジタル信号プロセッサ10の寄与によって制御されてもよく、又は、他の任意の手段によって制御されてもよい。
本方法は、以下の主なステップを含む。
【0082】
- 媒体においてトランスデューサによって少なくとも1つのパルスを送信するオプションの送信ステップ(a)、及び、
- パルスに応答してトランスデューサによって超音波信号データを取得するオプションの受信ステップ(b)、
- 処理システムによって超音波信号データを処理して媒体の同相及び直交位相位相(IQ)データを提供する処理ステップ(c)、
・
図5のコンテキストで説明するようなオプションのシフト量決定ステップ(d1)、又は、
・
図6のコンテキストで説明するようなオプションの関数決定ステップ(d2)及びオプションの中心推定ステップ(e2)、
・
図7のコンテキストで説明するようなオプションの帯域幅推定ステップ(d2’)及びオプションの帯域幅決定ステップ(e2’)、
- 媒体における複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)にわたってIQデータスペクトルが再センタリングされるように、複数の異なる深度のそれぞれに係る各周波数シフト量の関数としてIQデータの位相を補償する減衰補償ステップ(f)、
- 複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)に同じフィルタを適用するように、補償及び補正されたIQデータスペクトルに(例えば単一の)フィルタを適用するオプションの(例えば低域通過)フィルタリングステップ(g)、及び、
- 補償されかつフィルタリングされたIQデータのエンベロープを出力するオプションのエンベロープ検出ステップ(h)。
【0083】
本方法は、処理ステップ(c)と、減衰補償ステップ(f)と、(c)及び(f)の間の任意のステップとを含むオプションのビームフォーミングステップ(c-f)をさらに含んでもよく、オプションのビームフォーミングステップでは、ビームフォーミング処理によってIQデータを処理して、媒体のビームフォーミングされた捕捉データを提供する。
【0084】
本方法は、例えばステップ(h)からステップ(a)にループすることによって、繰り返し実行されてもよい。このように、繰り返された超音波データ捕捉及び/又は超音波イメージングが、例えばリアルタイム又は準リアルタイムで実行可能になる。
【0085】
図4は、本開示に係る方法の(予め定義された係数/マップを用いる)第1の例示的な実施形態を示す図である。
図4に示すように、本方法は、複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、予め定義されたシフトマップに基づいて、また、例えばプローブタイプの関数として、周波数シフト量を決定するオプションのシフト量決定ステップ(d1)を含んでもよい。例えば、ユーザ入力及び推定のいずれかによって、予め定義されたシフトマップ、例えば減衰係数が取得されてもよく、これにより、深度の関数として周波数シフトの量を計算する。入力されたIQデータに対して周波数シフトが適用される。補正は、シフト量に対応する入力データに対して複素位相を乗算することで、時間領域において行われてもよい。補正されたデータは、次いで、エンベロープ検出に送られる前に、ノイズを低減するために低域通過フィルタリングされる。
【0086】
図5は、本開示に係る方法の(自動化されたシフト量決定を用いる)第2の例示的な実施形態を示す図である。
図5に示すように、本方法は、媒体における複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、IQデータの自己相関関数を決定するオプションの関数決定ステップ(d2)を含んでもよい。また、本方法は、複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、自己相関関数の位相の関数として中心スペクトル位置ω
c(z)を推定する、後続のオプションの中心推定ステップ(e2)を含んでもよい。この例示的な実施形態では、減衰補償ステップ(f)において、各異なる深度(z
1,z
2,z
n)について、周波数シフト量は、各中心スペクトル位置ω
c(z)の関数として決定される。
【0087】
また、周波数シフトは、IQデータに対する次数1の自己相関によって自動的に推定されてもよい。次数1の自己相関関数R1(z)及び係数ρ1(z)は、各深度におけるIQから計算されてもよい。各深度zにおける中心スペクトル位置ωc(z)は、R1の位相によって推定される。
【0088】
【0089】
各深度におけるIQデータ位相は、この推定された位置を用いることで、補正されたデータスペクトルがゼロ周波数に再センタリングされるように、補償(補正)されてもよい。
【0090】
図6は、本開示に係る方法の(自動化された帯域幅補正を用いる)第3の例示的な実施形態を示す図である。
図6に示すように、本方法は、複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、IQデータの自己相関係数の関数として各スペクトル標準偏差を推定するオプションの帯域幅推定ステップ(e2’)をさらに含んでもよい。本方法は、複数の異なる深度(z
1,z
2,z
n)のそれぞれについて、IQデータが複数の異なる深度にわたって適応的にフィルタリングされるように、スペクトル標準偏差の関数としてフィルタの周波数帯域幅を決定する、後続のオプションの帯域幅決定ステップ(f2’’)をさらに含んでもよい。減衰補償ステップ(f)の後に、補償されたIQにデータにフィルタを適用するフィルタリングステップ(g)を行ってもよい。
【0091】
従って、同じ自己相関関数を用いて介してそれを推定することで、フィルタ帯域幅を適応化してもよい。スペクトル標準偏差は、各深度zにおいて、次式によって推定されてもよい。
【0092】
【0093】
両方の推定値(周波数シフト及び帯域幅)は、複数の超音波ラインからの推定値を平滑化することで、精度に関してさらに改善されてもよい。両方の推定値は、深度の関数としてより滑らかな変動を有するように、従ってフィルタリングの安定性を改善するように、深度に関して正規化されてもよい。両方の推定量の頑健性は、純ノイズモデルの仮説検定を行うことで、すなわち、H0:|ρ1|=0により改善されうる。推定値がノイズから受けるバイアスが低減されるように、統計的に有意な点のみが推定に含まれてもよい。
【0094】
図7aは、超音波画像の深度依存性のスペクトルに関する、減衰補償なしの第1の例を示す図である。
図7bは、減衰補償を用いた同じ第1の例を示す図であり、線形減衰係数を有するファントムにおける深度の関数としての自動スペクトル補正の例を示す。
【0095】
上記実施例において、超音波信号スペクトルは、深度方向に伝搬するとき、減衰によって歪められる。本開示に係る方法は、各深度における周波数中心及び帯域幅を自動的に推定することを可能にする。このことは、スペクトルを再センタリングすることと、超音波信号データを適応的に低域通過フィルタリングすることとを可能にし、これにより、減衰歪みを補償することができる。本方法は、非線形減衰にも適用可能である。
図7bにおいて、スペクトルの各深度レベルに対して単一の低域通過フィルタが使用してもよいことを例示的かつ概略的に示す。このことは、減衰補償のための深度依存性のスペクトルシフトが本開示の方法によって既に実行されているので可能になる。
【0096】
図8aは、超音波画像の深度依存性のスペクトルに関する、減衰補償なしの第2の例を示す図であり、
図8bは、減衰補償を用いたもう1つの例を示す図である。上記第2の実施例に示したように、減衰は必ずしも線形ではない。上記実施例は、生体内の例と、開示した自動補正の結果とを示す。
図8bにおいて、スペクトルの複数の各深度レベルに対して複数の整合帯域幅のフィルタを使用してもよいことを例示的かつ概略的に示す。図示した実施例では、2つのフィルタのみを示すが、2つより多く、例えば10個又は20個のフィルタが使用されてもよい。上記フィルタはローパスフィルタであってもよい。それらの中心は同一であってもよい。言いかえると、フィルタは、超音波信号データの任意のスペクトルシフトと整合しなくてもよい。このことは、減衰補償のための深度依存性のスペクトルシフト(すなわち再センタリング)が本開示の方法によって既に実行されているので不要である。それにもかかわらず、フィルタの帯域幅は互いに異なってもよい。言いかえると、フィルタは深度にわたって変化する帯域幅を有してもよい。従って、異なる深度にわたる異なる整合帯域幅のフィルタを使用してもよい。上記帯域幅は、例えば、上述したステップd2’及びe2’において計算されてもよい。
【0097】
請求項を含む本開示の全体にわたって、用語「1つの~を備える(含む)」は、他の記載がなければ、「少なくとも1つの~を備える(含む)」と同義のものとして理解されるべきである。さらに、請求項を含む本開示で示した任意の範囲は、他の記載がなければ、その端の値を含むものとして理解されるべきである。説明した構成要素に係る特定の値は、当業者に既知である、許容された製造時又は産業上の公差内にあるものと理解されるべきであり、用語「実質的に」及び/又は「約」及び/又は「概して」のいかなる使用も、そのような許容された公差内にあることを意味するものと理解されるべきである。
【0098】
本開示は特定の実施形態を参照してここに説明したが、これらの実施形態は、本開示の原理及び応用の単なる例示であることが理解されるべきである。
【0099】
明細書及び実施例が例示的なものとしてのみ考慮され、本開示の真の範囲は添付の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0100】
要約すると、上述した本開示に係る方法は、より正確な減衰推定を可能にし、より少ない計算上のコストを意味し、このことは、特に、リアルタイム計算モードを改善する。
さらに、増大した精度に起因して、変動の減少を達成することができ、従って、増大した再現性を達成することができる。