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特許7250873地盤の比抵抗モニタリング装置及び斜面崩壊警報システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-24
(45)【発行日】2023-04-03
(54)【発明の名称】地盤の比抵抗モニタリング装置及び斜面崩壊警報システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/02 20060101AFI20230327BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20230327BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G01V3/02 Z
G01N27/04 Z
E02D17/20 106
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021151280
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000210908
【氏名又は名称】中央開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠
(72)【発明者】
【氏名】王寺 秀介
(72)【発明者】
【氏名】上原 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 匠
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-112368(JP,A)
【文献】特公平04-020151(JP,B2)
【文献】特開2018-195111(JP,A)
【文献】特開2006-177807(JP,A)
【文献】特開2006-177802(JP,A)
【文献】特開平7-217362(JP,A)
【文献】三森利昭、外3名,降雨を原因とする斜面崩壊に土層厚が及ぼす影響,新砂防学会誌,公益社団法人砂防学会,1995年05月,Vol.48,No.1,p.12-p.23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/00
G01N 27/00
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地盤の比抵抗を経時的に測定しながらモニタリングする地盤の比抵抗モニタリング装置であって、
互いに所定方向に所定間隔を隔てた状態で、前記地盤に設置された一対の電流電極と、
当該一対の電流電極を間にした状態で、互いに前記所定方向に所定間隔を隔てて前記地盤に設置された2つの電極を一組とし、前記一対の電流電極に最も近い組から最も遠い組において、各組の前記2つの電極の間隔が次第に大きくなるように設定された複数組の電位電極と、
前記一対の電流電極に電気的に接続され、測定時に、当該一対の電流電極に所定電流を通電することにより、前記地盤に電流を流す通電電源と、
前記複数組の電位電極に電気的に接続され、当該各組の2つの電位電極間の電位差を測定する電位差測定手段と、
前記所定電流及び前記測定された前記電位差に基づいて、前記各組の2つの電位電極の間隔に対応する、前記地盤の所定深さの見掛比抵抗をそれぞれ算出する見掛比抵抗算出手段と、
所定の逆解析手法により、前記算出された見掛比抵抗に基づき、前記地盤中の比抵抗構造を推定する比抵抗構造解析手段と、
前記推定された比抵抗構造に基づき、前記地盤の土層内における帯水層を低比抵抗層として検出し、当該地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を算出する帯水層厚さ割合算出手段と、
を備えていることを特徴とする地盤の比抵抗モニタリング装置。
【請求項2】
前記通電電源を制御する電源制御手段を、さらに備えており、
前記電源制御手段は、第1所定時間ごとに前記一対の電流電極への通電を前記第1所定時間よりも短い第2所定時間ずつ行う第1通電サイクルによって、当該通電電源を制御することを特徴とする請求項1に記載の地盤の比抵抗モニタリング装置。
【請求項3】
前記所定の地盤における降雨の有無を検出する降雨検出手段を、さらに備えており、
前記電源制御手段は、前記降雨検出手段によって降雨が検出されているときに、前記第1通電サイクルで前記通電を行い、前記降雨が検出されていないときに、前記第1所定時間よりも長い第3所定時間ごとに前記一対の電流電極への通電を前記第2所定時間ずつ行う第2通電サイクルによって、前記通電電源を制御することを特徴とする請求項2に記載の地盤の比抵抗モニタリング装置。
【請求項4】
前記比抵抗モニタリング装置は、複数の比抵抗モニタリング装置で構成されており、
当該複数の比抵抗モニタリング装置の各々の前記電源制御手段は、前記通電のタイミングが互いに重ならないように、対応する前記通電電源を制御することを特徴とする請求項2又は3に記載の地盤の比抵抗モニタリング装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の比抵抗モニタリング装置によって、傾斜した地盤の斜面崩壊の危険度をモニタリングし、当該危険度が高くなったときに警報を実行する斜面崩壊警報システムであって、
前記比抵抗モニタリング装置によって得られた前記地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を、前記斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとして設定する危険度パラメータ設定手段と、
しきい値を設定するしきい値設定手段と、
前記設定された危険度パラメータが、前記設定されたしきい値に達したときに、前記警報を実行する警報手段と、
を備えていることを特徴とする斜面崩壊警報システム。
【請求項6】
前記設定されたしきい値は、40%であることを特徴とする請求項5に記載の斜面崩壊警報システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に設置された多数の電極を介して、その地盤の比抵抗を経時的に測定しながらモニタリングする比抵抗モニタリング装置、及びそのモニタリング結果を用い、傾斜した地盤の危険度が高くなったときに警報を実行する斜面崩壊警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地盤では、不透水性を有する基盤上に各種の土壌による土層が積層されており、降雨によって土層の含水率が上昇すると、例えば傾斜した地盤では、その斜面が不安定になり、斜面崩壊が生じることがある。このような斜面崩壊の危険性を評価したり、事前に検知したりするための防災システムとして、従来、降雨による土壌雨量指数又は土砂災害警戒避難基準雨量を基準とするものや、地表に設置された伸縮計、斜面崩壊センサ又は傾斜計などによって、その地表の変状を観測するものがある。前者の防災システムでは、地形や地質が考慮されていないため、それらに応じた斜面崩壊の危険性評価を細かく行うことができない。一方、後者の防災システムでは、地盤内部で斜面崩壊の可能性が高まっていたとしても、地表に変状が発生するまで、斜面崩壊の可能性を適切に評価することができない。
【0003】
また、降雨によって地盤に浸透した雨水や土層内の水分などによる地下水の挙動は、斜面崩壊を引き起こす大きな要因の1つであるものの、上述した従来の防災システムでは、地下水の挙動を適切に検出することができない。もちろん、地盤の水分変化を計測する手法として、土層の帯水層までボーリング孔を掘削し、そのボーリング孔にセンサを設置して水位を観測したり、プローブを有する土壌水分率計を用い、そのプローブを地盤に挿すことで、地盤の水分率を計測したりすることは知られている。しかし、これらの手法では、ボーリング孔やプローブに沿って雨水が土層内に浸透し、本来の水分変化が適切に計測できないことがあり、加えて、斜面の不安定性が増大するおそれがある。
【0004】
他方、地下水の状態、具体的には、地盤の間隙率や間隙の水飽和度と、地盤の比抵抗とは、相関性が高く、地盤の比抵抗を測定することにより、地下水の状態を知ることが可能である。しかも、比抵抗測定は一般に、比較的小さな電極を地盤表面に設置することによる非破壊手法であり、上述したボーリング孔やプローブを介した雨水の浸透を生じることもない。従来、地盤の比抵抗を経時的に取得し、地盤の水分変化をモニタリングするものとして、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0005】
この特許文献1のモニタリング方法では、比抵抗を測定すべき地盤において、測線の両端の外側遠方の一方に電流電極(遠電流電極)を配置するとともに、他方に電位電極(遠電位電極)を配置する。また、上記測線には、多数の電極を等間隔で配置する。そして、遠電流電極と測線上の電流電極との間に、所定の電流値Iを通電し、電流電極に近い4つの電位電極と遠電位電極との電位差Vを測定し、このような通電及び電位差の測定を、測線の一端から他端に向かって、電極を1つずつずらしながら、測線の全体にわたって行う。そして、下式(1)によって、測線の垂直下方における地盤の見掛比抵抗ρaを算出する。
ρa=KV/I ・・・(1)
なお、式(1)のKは、電極間の距離で決まる係数である電極配置係数である。また、見掛比抵抗ρaは、地盤を均質であると仮定した場合の比抵抗であり、電極周辺の平均的な比抵抗を反映する。
【0006】
また、地盤の比抵抗の測定手法として、例えばシュランベルジャー法が知られている。図9は、シュランベルジャー法を用いた電気探査による地盤の比抵抗測定装置を示している。同図に示すように、この比抵抗測定装置21では、測定ユニット22と、この測定ユニット22に電気的に接続され、地盤Gにおいて、測線Sに沿って設置される多数(図9(a)では18個)の電極23とを備えている。測定ユニット22は、電源22aと、測定を制御するための測定制御部22bと、通電される電流電極を切り替えるための電極切替え部22cとを有している。一方、多数の電極23は、2つの電極を一組とする複数組(図9(a)では9組)の電極で構成されており、互いに所定間隔を隔てた2つの電位電極23P、23Pが測線Sの中央部に配置され、それらの電位電極23P、23Pの外側に、各組の電流電極23C、23Cが、互いの距離を次第に大きくするように配置されている。
【0007】
上記のように構成された比抵抗測定装置21では、測定時に、測定ユニット22の電極切替え部22cにより、通電すべき一組の電流電極23C、23Cを、電源22aに接続するように切り替える。具体的には、まず、図9(b)に示すように、2つの電位電極23P、23Pの直ぐ外側に配置された一組の電流電極23C(C11)、23C(C21)に、所定の電流値Iで通電し、そのときの電位差Vを、2つの電位電極23P、23Pで測定する。次いで、同図(c)に示すように、通電した上記一組の電流電極C11、C21の直ぐ外側に配置された一組の電流電極23C(C12)、23C(C22)に、上記と同様に通電し、2つの電位電極23P、23Pで電位差を測定する。さらに、同図(d)に示すように、通電した上記一組の電流電極C12、C22の直ぐ外側に配置された一組の電流電極23C(C13)、23C(C23)に、上記と同様に通電し、2つの電位電極23P、23Pで電位差を測定する。その後も上記と同様にして、測線Sの両端側の一組の電流電極23C、23Cまで順に通電を繰り返し、その都度2つの電位電極23P、23Pで電位差を測定する。
【0008】
上記のように、電位電極23P、23Pの外側に配置され、通電すべき各組の電流電極23C、23Cの間隔を順に広げながら、両電位電極23P、23P間の電位差の測定を繰り返し、前述した式(1)を用いて、測線Sの垂直下方における地盤Gの見掛比抵抗ρaを取得し、地盤Gの水分状態などを知ることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-112368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1のモニタリング方法及びシュランベルジャー法によって、見掛比抵抗を取得する場合、前者では電流電極及び複数の電位電極を測線に沿って順にずらしながら、後者では通電すべき各組の電流電極を順に切り替えながら、電流電極への通電及び電位電極による電位差の測定を行っている。このため、地盤の測線全体にわたって見掛比抵抗を測定しようとすると、上述したいずれの場合も、消費電力が多くなるとともに、測定時間が長くなってしまう。
【0011】
また、上記の特許文献1には、地盤の水分変化をモニタリングすることにより、地滑りの予測や警報を発することが可能であることが記載されている。しかし、特許文献1には、上記警報の具体的な発出基準については何ら記載されておらず、安定した信頼性の高い警報を実行することはできない。
【0012】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、省電力かつ短時間で、地盤における所望の深さの比抵抗を容易に取得することができ、その取得結果に基づき、斜面崩壊の危険度を評価し、安定した信頼性の高い警報を実行することができる地盤の比抵抗モニタリング装置及び斜面崩壊警報システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、所定の地盤の比抵抗を経時的に測定しながらモニタリングする地盤の比抵抗モニタリング装置であって、互いに所定方向に所定間隔を隔てた状態で、地盤に設置された一対の電流電極と、一対の電流電極を間にした状態で、互いに所定方向に所定間隔を隔てて地盤に設置された2つの電極を一組とし、一対の電流電極に最も近い組から最も遠い組において、各組の2つの電極の間隔が次第に大きくなるように設定された複数組の電位電極と、一対の電流電極に電気的に接続され、測定時に、一対の電流電極に所定電流を通電することにより、地盤に電流を流す通電電源と、複数組の電位電極に電気的に接続され、各組の2つの電位電極間の電位差を測定する電位差測定手段と、所定電流及び測定された電位差に基づいて、各組の2つの電位電極の間隔に対応する、地盤の所定深さの見掛比抵抗をそれぞれ算出する見掛比抵抗算出手段と、所定の逆解析手法により、算出された見掛比抵抗に基づき、地盤中の比抵抗構造を推定する比抵抗構造解析手段と、推定された比抵抗構造に基づき、地盤の土層内における帯水層を低比抵抗層として検出し、地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を算出する帯水層厚さ割合算出手段と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、一対の電流電極が互いに所定方向に所定間隔を隔てた状態で地盤に設置される一方、上記の電流電極を間にする2つの電極を一組とする複数組の電位電極が地盤に設置されている。また、複数組の電位電極は、一対の電流電極に最も近い組から最も遠い組において、各組の2つの電位電極の間隔が次第に大きくなるように設定されている。つまり、本発明の比抵抗モニタリング装置では、前述したシュランベルジャー法に対し、電流電極と電位電極の位置関係が逆になっている。なお、以下の説明では、上述した一対の電流電極及び複数組の電位電極の配置による地盤の比抵抗の測定手法を、「逆シュランベルジャー法」というものとする。
【0015】
上記のように地盤に設置された一対の電流電極及び複数組の電位電極において、測定時に、通電電源から一対の電流電極に対して所定電流を通電することにより、地盤に電流を流し、電位差測定手段により、各組の2つの電極間の電位差を測定する。この場合、一対の電流電極は、各組の電位電極に対して共通であるため、電流電極への比較的短い時間の一度の通電により、全組の2つの電位電極間の電位差を測定することができる。そして、見掛比抵抗算出手段により、一対の電流電極に通電した所定電流、及び各組の2つの電位電極間の電位差に基づき、地盤の所定深さの見掛比抵抗をそれぞれ算出する。
【0016】
上述した逆シュランベルジャー法による電極の配置を適用した比抵抗モニタリング装置では、2つの電位電極の間隔を大きくするほど、地盤の深部の状態が電位差に反映されるので、測定すべき地盤の比抵抗について、地表面から深部にわたって取得することができる。以上のように、本発明によれば、省電力かつ短時間で、地盤における所望の深さの見掛比抵抗を容易に取得することができる。
また、上記の見掛比抵抗に基づき、所定の逆解析手法により、地盤中の比抵抗構造を推定する。そして、推定した比抵抗構造に基づき、地盤の土層内における帯水層を低比抵抗層として検出し、地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を算出する。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の地盤の比抵抗モニタリング装置において、通電電源を制御する電源制御手段を、さらに備えており、電源制御手段は、第1所定時間ごとに一対の電流電極への通電を第1所定時間よりも短い第2所定時間ずつ行う第1通電サイクルによって、通電電源を制御することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、電源制御手段により、第1所定時間ごとに一対の電流電極への通電を第2所定時間ずつ行う第1通電サイクルで行うので、第2所定時間として、全組の2つの電位電極間の電位差を測定可能でかつできる限り短い時間を設定することにより、モニタリングすべき地盤の見掛比抵抗を、省電力で第1所定時間ごとに得ることができる。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の地盤の比抵抗モニタリング装置において、所定の地盤における降雨の有無を検出する降雨検出手段を、さらに備えており、電源制御手段は、降雨検出手段によって降雨が検出されているときに、第1通電サイクルで通電を行い、降雨が検出されていないときに、第1所定時間よりも長い第3所定時間ごとに一対の電流電極への通電を第2所定時間ずつ行う第2通電サイクルによって、通電電源を制御することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、降雨検出手段によって上記所定の地盤における降雨が検出されているときに、前述した第1通電サイクルで、一対の電流電極への通電を行うように、通電電源が制御される。一方、降雨が検出されていないときには、前記第1所定時間よりも長い第3所定時間ごとに、一対の電流電極への通電を第2所定時間ずつ行う第2通電サイクルで上記通電を実行する。
【0021】
通常、降雨により、地盤内部の水分量が変化すると、それに伴い、地盤内部の水分量が多い部分には電流が流れやすくなり、比抵抗が小さくなるように変化する。このように、降雨時(特に降雨量が多い時)には、地盤内部の比抵抗の変化が比較的早いので、第1所定時間を比較的短い時間に設定し、第1通電サイクルで一対の電流電極への通電及び全組の2つの電位電極間の電位差測定を行うことにより、時々刻々と変化する地盤の見掛比抵抗を取得することができる。
【0022】
それに対し、晴天や曇天時など、上記地盤に雨が降っていない場合には、その地盤内部の水分量の変化はほとんどなく、したがって、地盤内部の比抵抗の変化もほとんどない。したがって、降雨が検出されていないときには、第3所定時間を比較的長い時間に設定し、第2通電サイクルで上記通電及び電位差測定を行うことにより、省電力で地盤の見掛比抵抗を得ることができる。
【0023】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載の比抵抗モニタリング装置であって、比抵抗モニタリング装置は、複数の比抵抗モニタリング装置で構成されており、複数の比抵抗モニタリング装置の各々の電源制御手段は、通電のタイミングが互いに重ならないように、対応する通電電源をそれぞれ制御することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、複数の比抵抗モニタリング装置が、上記地盤に設置される場合、各比抵抗モニタリング装置の電源制御手段は、対応する一対の電流電極への通電のタイミングが互いに重ならないように、対応する通電電源を制御する。これにより、各比抵抗モニタリング装置における全組の2つの電位電極間の電位差の測定時に、他の比抵抗モニタリング装置による通電の影響を受けることがなく、各比抵抗モニタリング装置による地盤の見掛比抵抗の取得を良好に行うことができる。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の比抵抗モニタリング装置によって、傾斜した地盤の斜面崩壊の危険度をモニタリングし、危険度が高くなったときに警報を実行する斜面崩壊警報システムであって、比抵抗モニタリング装置によって得られた地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を、斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとして設定する危険度パラメータ設定手段と、しきい値を設定するしきい値設定手段と、設定された危険度パラメータが、設定されたしきい値に達したときに、警報を実行する警報手段と、を備えていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、前述した比抵抗モニタリング装置によって得られる地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を利用して、傾斜した地盤の斜面崩壊の危険度をモニタリングし、その危険度が高くなったときに警報を実行する。具体的には、まず、比抵抗モニタリング装置によって得られた地盤の所定深さの見掛比抵抗に基づき、公知の逆解析手法を用いて、地盤における多層構造の各層の厚さと比抵抗を推定する。一般に地盤では、間隙水の飽和度が高くなるほど、比抵抗が低下することから、飽和度が高い帯水層は、低比抵抗層として検出することが可能になる。次いで、上記地盤の土層内における帯水層の厚さの割合を、斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとして設定する。そして、設定された危険度パラメータが、しきい値設定手段によって設定されたしきい値に達したときに、警報が実行される。上述したように、危険度パラメータとして上記帯水層の厚さの割合を採用することにより、斜面崩壊の危険度を評価し、安定した信頼性の高い警報を実行することができる。
【0027】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の斜面崩壊警報システムであって、設定されたしきい値は、40%であることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、警報を実行するために、危険度パラメータと比較するしきい値を、40%に設定することにより、後述するように、地盤の斜面崩壊が生じる前に、適切な警報を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態による地盤の比抵抗モニタリング装置を適用した斜面崩壊警報システムの全体構成を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態による比抵抗モニタリング装置の比抵抗測定装置を概略的に示す図である。
図3】傾斜した地盤において、基盤上に積層された土層における不飽和帯、湿潤帯及び飽和帯(帯水層)を説明するための説明図であり、(a)は土層が不飽和帯のみである状態、(b)は土層が湿潤帯及び飽和帯である状態を示す。
図4図3に示す傾斜地盤において、降雨による地盤(土層)の水分変化を順に示す図である。
図5図4に示す土層No.1~11のモデルにそれぞれ対応し、シミュレーション計算により、電位電極間の1/2の距離rと、見掛比抵抗ρaとの関係を示すグラフである。
図6図4に示す土層No.6~9のモデルにそれぞれ対応し、図5に示す見掛比抵抗の曲線No.6~9を逆解析することによって得られた地盤の深さと比抵抗との関係を示すグラフである。
図7図3(b)と同様の図であり、傾斜地盤の基盤と土層の間の潜在崩壊面をすべり面とする安全率について説明するための図である。
図8】地盤の傾斜角と土層厚さをパラメータとした複数の等安全率曲線を示すグラフである。
図9】シュランベルジャー法を用いた電気探査による地盤の比抵抗の検出方法を説明するための図であり、(a)は電気探査装置の全体図、(b)~(d)は一対の電位電極及び複数組の電流電極を拡大し、各組の電流電極に電流を印加する状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による地盤の比抵抗モニタリング装置を適用した斜面崩壊警報システムの全体構成を概略的に示している。同図に示すように、斜面崩壊警報システム1は、傾斜した地盤Gの比抵抗を測定するための複数(図1では2つのみ図示)の比抵抗測定装置2と、各比抵抗測定装置2との間で通信回線を介してデータや指令を送受信するとともに、受信したデータに基づいて比抵抗を算出するサーバ4(見掛比抵抗算出手段、比抵抗構造解析手段、帯水層厚さ割合算出手段、危険度パラメータ設定手段、しきい値設定手段)と、このサーバ4からの指令によって警報を行う警報装置5(警報手段)とを備えている。
【0031】
なお、図1では、下側の比抵抗測定装置2は、図示の便宜上、水平な地盤Gに設置されているが、実際には、上側の比抵抗測定装置2と同様、傾斜した地盤Gに設置されている。また、これらの比抵抗測定装置2は、互いに所定距離を隔てて設置されている。
【0032】
図2(a)に示すように、比抵抗測定装置2は、地盤G上に所定方向に延びるように設定された測線S上に配置された多数の電極を有する電極アレイ11と、この電極アレイ11の各電極に多芯ケーブルを介して電気的に接続された測定ユニット12とを備えている。電極アレイ11は、測線Sに沿って互いに所定間隔を隔てた状態で、地盤Gに挿された状態に設置された一対の電流電極C1、C2と、これらの電流電極C1、C2を間にした状態で、互いに上記測線Sに沿って所定間隔を隔てて、地盤Gに挿された状態に設置される2つの電極を一組とし、上記一対の電流電極C1、C2に最も近い組から最も遠い組において、各組の2つの電極の間隔が次第に大きくなるように設定された複数組の電位電極P1n、P2n(n:電位電極の組数)とを備えている。このように、比抵抗測定装置2の電極アレイ11は、従来のシュランベルジャー法による電流電極と電位電極の位置関係が逆である逆シュランベルジャー法によって、地盤Gの比抵抗を測定可能に構成されている。
【0033】
一方、測定ユニット12は、電源12a(通電電源)、測定制御部12b(電源制御手段)及び通信制御部12cを備えている。電源12aは、例えばバッテリ本体及び太陽電池(いずれも図示せず)を有しており、太陽電池で発電した電気がバッテリ本体に蓄電され、測定ユニット12の各部や電流電極C1、C2に電流が供給されるようになっている。測定制御部12bは、電源12aによる電流電極C1、C2への通電を制御するとともに、各組の電位電極P1n、P2n間の電位差の測定を制御するものである。通信制御部12cは、サーバ4からの指令を受信するとともに、測定した各組の電位電極P1n、P2n間の電位差のデータなどをサーバ4に送信するものである。
【0034】
上記のように構成された比抵抗測定装置2は、将来的に斜面崩壊の可能性があることなどにより、監視の必要があると認められた地盤Gの斜面において、次のように設置される。すなわち、まず、上記の地盤Gに対し、一般的な公知の比抵抗2次元探査やボーリング調査などによる事前調査を実施し、比抵抗測定装置2を設置すべき個所を選定する。次いで、上記の事前調査によって確認された潜在崩壊面の深さに応じて、測線Sの長さ及び電極間隔などの仕様を決定する。そして、決定した仕様で、比抵抗測定装置2の一対の電流電極C1、C2及び複数組の電位電極P1n、P2nを、測線Sに沿って地盤Gに設置する。これにより、電極アレイ11が地盤Gに設置され、また、測定ユニット12は、電極アレイ11の付近に設置される。
【0035】
また、上記の地盤Gには、降雨センサ13(降雨検出手段)が適切な位置に設置されている。この降雨センサ13は、地盤Gにおける降雨の有無を検出するものであり、その検出信号が、サーバ4に送信される。
【0036】
以上のように構成された斜面崩壊警報システム1において、本発明の比抵抗モニタリング装置は、上述した比抵抗測定装置2、サーバ4及び降雨センサ13によって構成されている。
【0037】
ここで、図3及び図4を参照して、傾斜した地盤Gの構造及び降雨による地盤(土層)の水分変化について説明する。図3は、傾斜した地盤Gの構造を模式的に示しており、(a)は降雨前の状態、(b)は降雨時又は降雨後の状態を示している。同図に示すように、この地盤Gでは、不透水性を有する基盤上に各種の土壌による土層が積層されており、全体として傾斜した状態を示している。なお、基盤と土層との境界部分は、土層が崩壊する可能性が高い潜在崩壊面である。
【0038】
図4は、図3に示す傾斜地盤Gにおいて、降雨による土層の水分変化を順に示している。なお、図4では、水分状態の異なる土層を、降雨の浸透過程にしたがって、第1~第11に区分し、丸数字を用いて示しており、以下の説明では、区分された第1~第11の土層をそれぞれ、土層No.1~11として説明するものとする。
【0039】
図4の土層No.1は、図3(a)と同様の降雨前の状態を示しており、水分が非常に少なく、土粒子間の間隙が水で満たされていない状態の不飽和帯のみである。このような状態の土層を有する地盤Gにおいて、雨が降り始めると、土層No.2~5に順に示すように、土層の上面、すなわち地表面から、降雨による水分が土層内に浸透し、土層No.2~5の一点鎖線で示す湿潤前線が下降しながら、水分を含んだ状態の湿潤帯の厚さが次第に厚くなる。なお、湿潤帯では、飽和度はほぼ一定であるが、飽和状態にはなっていない。そして、降雨が継続することにより、土層No.6に示すように、湿潤前線が基盤に到達し、土層全体が湿潤帯になる。
【0040】
その後、降雨がさらに継続することにより、土層No.7~10に順に示すように、土層の底部から地表面に向かって、飽和帯の上面である水位が上昇しながら、飽和帯の厚さが次第に厚くなる。この飽和帯は、水分が非常に多く、土粒子間の間隙が水で満たされた状態である。そして、降雨が継続することにより、土層No.11に示すように、飽和帯の水位が地表面に到達し、土層全体が飽和帯になる。なお、この飽和帯は、水分を非常に多く含んだ層であるので、以下の説明では適宜、「帯水層」というものとする。
【0041】
次に、前述した図1の斜面崩壊警報システム1において、比抵抗測定装置2による比抵抗の測定手順について説明する。サーバ4からの測定指令により、比抵抗測定装置2の測定ユニット12の測定間隔を設定すると、測定制御部12bは、測定指令に基づき、電源12aから所定の電流値Iの電流を、所定時間(第2所定時間、例えば数秒)、一対の電流電極C1、C2に通電し、この通電時において、全組の電位電極P1n、P2n間の電位差Vを同時に測定する。そして、通信制御部12cが、上記電流値I及び測定した全組の電位差Vを、サーバ4に送信する。上記のように、比抵抗測定装置2による測定時には、比較的短時間である上記の所定時間、一対の電流電極C1、C2に電流を通電するだけで、全組の電位電極P1n、P2n間の電位差Vを短時間で測定することができる。
【0042】
また、上記の測定間隔は、降雨時と、晴天や曇天などの降雨時以外の時とで異なっている。具体的には、降雨センサ13によって地盤Gに雨が降っていることが検出された降雨時には、比較的短い所定時間(第1所定時間、例えば5~10分)ごとに測定するよう、遠隔操作によって測定ユニット12を設定する。また、上記の降雨センサ13に代えて、気象庁のアメダスによる降雨情報や天気予報に基づき、上記の測定指令を測定ユニット12に送信して、測定ユニット12の測定間隔を設定することも可能である。以上のように、降雨時には、短時間ごとに上記通電が実行される(第1通電サイクル)。
【0043】
一方、降雨時以外の時には、比較的長い所定時間(第3所定時間、例えば1時間)ごとに測定をするように、サーバ4から測定ユニット12を設定する。また、上述した降雨時と同様、アメダスや天気予報に基づき、上記の長い所定時間ごとに測定するよう、測定ユニット12を設定することも可能である。以上のように、降雨時以外の時には、長時間ごとに上記通電が実行される(第2通電サイクル)。
【0044】
なお、前述したように、複数の比抵抗測定装置2が地盤Gに設置されている場合には、各測定ユニット12への測定指令のタイミングや、一対の電流電極C1、C2への通電のタイミングが互いに重ならないように制御される。これにより、各比抵抗測定装置2における全組の電位電極P1n、P2n間の電位差Vの測定時に、他の比抵抗測定装置2による通電の影響を受けることがなく、各比抵抗測定装置2による測定を適切に行うことができる。
【0045】
サーバ4では、受信した電流値I及び全組の電位差Vに基づき、前述した下式(1)により、各組の電位電極P1n、P2n間にそれぞれ対応する見掛比抵抗ρaを算出する。
ρa=KV/I ・・・(1)
【0046】
次いで、算出された見掛比抵抗ρaと、各組の電位電極P1n、P2nの間の1/2の距離rとに基づき、両者の関係を表す見掛比抵抗曲線を算出する。そして、この見掛比抵抗曲線を公知の逆解析手法を用いて解析することにより、地盤Gの深さ方向における層ごとの比抵抗構造を推定する。具体的には、観測された見掛比抵抗曲線と近似できる見掛比抵抗曲線が計算されるように、地盤Gにおける各部層の厚さと比抵抗を非線形最小二乗法により推定する。次いで、推定した比抵抗構造に基づいて、土層内における帯水層の厚さの割合を、斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとして算出する。
【0047】
そして、算出された危険度パラメータと、あらかじめ設定されたしきい値(例えば40%)とを比較し、危険度パラメータがしきい値に達したとき、すなわち、土層内における帯水層の厚さの割合が、40%に達したときに、斜面崩壊の可能性が高いとして、サーバ4から警報装置5に対し警報指令が送信され、警報装置5による警報が実行される。なお、この警報装置5による警報は、例えば設置者(自治体など)や地盤Gの周辺の住民に対し、避難やその準備を促す内容の放送や警報メールなどによって実行される。
【0048】
次に、前述した図3及び図4に加えて、図5~8を参照して、本実施形態の斜面崩壊警報システム1において、警報を実行するための基準を確認するために実施したシミュレーション解析とその結果について説明する。このシミュレーション解析の条件は、以下のとおりである。すなわち、前述した図4に示す土層No.1~11をモデルとし(以下、これらの土層のモデルを「土層モデルNo.1~11」という)、土層の各部層、具体的には、不飽和帯、湿潤帯及び帯水帯、並びに基盤の飽和度及び比抵抗を下記の表1のように設定した。
【0049】
【表1】
【0050】
また、本シミュレーション解析では、上述した土層モデルNo.1~11の厚さを2.5mに設定した。さらに、本シミュレーション解析では、前述した図2(a)の比抵抗測定装置2における電極アレイ11と同様の逆シュランベルジャー法によって、一対の電流電極及び複数組の電位電極が、所定長さ(例えば20m)の測線に沿って配置されるものとする。
【0051】
図5は、以上の条件により、土層モデルNo.1~11について、一対の電流電極に電流が通電され、全組の電位電極間の電位差が測定された場合において得られる見掛比抵抗曲線をそれぞれ示している。これらの見掛比抵抗曲線は、横軸を電位電極間の1/2の距離r、縦軸を見掛比抵抗ρaとして、両対数グラフを用いて表示されている。また、図5において、1~11の丸数字が付された見掛比抵抗曲線は、図4に示す土層モデルNo.1~11に対応している。なお、以下の説明では、土層モデルNo.1~11にそれぞれ対応する見掛比抵抗曲線を適宜、曲線No.1~11として説明するものとする。
【0052】
図5に示すように、曲線No.1~11は、距離rが長くなるに従い、以下のような傾向を有する曲線で表されている。
曲線No.1:距離rが0.4~2.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは不飽和帯に対応する高比抵抗(2000Ωm)に維持され、距離rが2.0m以上では、見掛比抵抗ρaは基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)に向かって低下するように変化している。
曲線No.2:距離rが0.4m付近では、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)であり、距離rが0.4~2.0mまでは、見掛比抵抗ρaは急激に上昇し、2.0m付近で1000Ωmを上回り、距離rが2.0~6.0m付近までは、見掛比抵抗ρaはゆるやかに上昇し、さらに距離rが6.0m以上では、見掛比抵抗ρaは基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)に向かって低下するように変化している。つまり、曲線No.2は、全体として上側に凸状になっている。
曲線No.3:距離rが0.4~0.7m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが0.7~4.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは急激に上昇し、4.0m付近で1000Ωmを上回り、距離rが4.0~8.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは緩やかに上昇し、さらに距離rが8.0m以上では、見掛比抵抗ρaは基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)に向かって低下するように変化している。つまり、曲線No.3は、上記の曲線No.2と同様、全体として上側に凸状になっている。
曲線No.4:距離rが0.4~1.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが1.0~10.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは上昇し、10.0m付近で1000Ωmを上回るように変化している。
曲線No.5:距離rが0.4~1.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが1.0~10.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは、曲線No.4のそれに比べて緩やかに上昇するように変化している。
曲線No.6:距離rが0.4~2.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが2.0~10.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは、曲線No.5のそれに比べて緩やかに、直線的に上昇するように変化している。
曲線No.7:距離rが0.4~3.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが3.0~10.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは上昇し、10.0m付近で700Ωmを上回るように変化している。つまり、曲線No.7は全体として下側に凸状になっている。
曲線No.8:距離rが0.4~1.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが1.0~4.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは緩やかに低下し、距離rが4.0m以上では、見掛比抵抗ρaは上昇し、10.0m付近で600Ωmを上回るように変化している。つまり、曲線No.8は、上記の曲線No.7と同様、全体として下側に凸状になっている。
曲線No.9:距離rが0.4~1.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)に維持され、距離rが1.0~3.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは低下し、3.0以上では、見掛比抵抗ρaは上昇し、10.0m付近で600Ωmを上回るように変化している。つまり、曲線No.9は、上記の曲線No.7及び8と同様、全体として下側に凸状になっている。
曲線No.10:距離rが0.4m付近では、見掛比抵抗ρaは湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)であり、距離rが0.4~2.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは急激に低下し、距離rが2.0~3.0m付近では、見掛比抵抗ρaは300Ωmを若干下回った状態で維持され、距離rが3.0m以上では、見掛比抵抗ρaは急激に上昇し、10.0m付近で500Ωmを上回るように変化している。つまり、曲線No.10は、上記の曲線No.7~9と同様、全体として下側に凸状になっている。
曲線No.11:距離rが0.4~2.0m付近までは、見掛比抵抗ρaは帯水層に対応する低比抵抗(222Ωm)に維持され、距離rが2.0m以上では、見掛比抵抗ρaは急激に上昇し、10.0m付近では500Ωmを上回るように変化している。
【0053】
以上の曲線No.1~11の変化から、電位電極間の1/2の距離rが短いほど、すなわち測線の中央に配置される電流電極に近い組の電位電極ほど、その電位差に基づく見掛比抵抗ρaが、土層モデルNo.1~11の上面(地表面)側の比抵抗を表していることがわかる。一方、上記距離rが長く、上記電流電極から遠い組の電位電極ほど、その電位差に基づく見掛比抵抗ρaが、基盤を含む土層モデルNo.1~11の深部側の比抵抗を表していることがわかる。
【0054】
図6は、図4に示す土層モデルNo.6~9にそれぞれ対応し、図5に示す曲線No.6~9を逆解析することによって得られた地盤の深さと比抵抗との関係を示しており、実線は解析結果による比抵抗、破線は各土層モデルの比抵抗を表している。また、以下の説明では、図6において、6~9の丸数字が付された実線及び破線の比抵抗をそれぞれ、解析比抵抗No.6~9及びモデル比抵抗No.6~9として説明するものとする。なお、上記の逆解析の詳細な説明は省略するが、この逆解析では、曲線No.6~9と近似できる見掛比抵抗が得られる比抵抗構造を求めるため、非線形最小二乗法を用い、各層の厚さと比抵抗を反復的に修正して、解析比抵抗No.6~9をそれぞれ算出している。
【0055】
図6に示すように、実線で示す解析比抵抗No.6~9は、破線で示すモデル比抵抗No.6~9に対し、以下のような結果が得られた。
解析比抵抗No.6:モデル比抵抗No.6は、図4の土層モデルNo.6に対応するものであり、地表面(深さ0m)から2.5mまでの深さでは、湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)であり、その湿潤帯の下層が基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)である。
上記のモデル比抵抗No.6に対し、解析比抵抗No.6は、土層及び基盤の地盤全体にわたって一致している。
解析比抵抗No.7:モデル比抵抗No.7は、図4の土層モデルNo.7に対応するものであり、地表面から2.0mまでの深さでは、湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)であり、湿潤帯の下層で、2.5mまでの深さでは、帯水層に対応する低比抵抗(222Ωm)であり、その帯水層の下層が基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)である。したがって、上記の場合、帯水層の厚さは、0.5mである。
上記のモデル比抵抗No.7に対し、解析比抵抗No.7は、地表面から2.0m付近まで、及び4.0m以下の深さでは一致するものの、2.0~4.0mまでの深さでは不一致である。これは、電気探査で「等価層」と呼ばれる問題で、見掛比抵抗曲線がほぼ同じになる比抵抗構造が、理論上複数存在することによる。
解析比抵抗No.8:モデル比抵抗No.8は、図4の土層モデルNo.8に対応するものであり、地表面から1.5mまでの深さでは、湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)であり、湿潤帯の下層で、2.5mまでの深さでは、帯水層に対応する低比抵抗(222Ωm)であり、その帯水層の下層が基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)である。したがって、上記の場合、帯水層の厚さは、1.0mである。
上記のモデル比抵抗No.8に対し、解析比抵抗No.8は、地表面から1.5m付近の深さ、及び2.5m付近の深さにおいて若干ずれが生じているものの、地盤全体としてほぼ一致している。
解析比抵抗No.9:モデル比抵抗No.9は、図4の土層モデルNo.9に対応するものであり、地表面から1.0mまでの深さでは、湿潤帯に対応する中比抵抗(500Ωm)であり、湿潤帯の下層で、2.5mまでの深さでは、帯水層に対応する低比抵抗(222Ωm)であり、その帯水層の下層が基盤に対応する高比抵抗(1000Ωm)である。したがって、上記の場合、帯水層の厚さは、1.5mである。
上記のモデル比抵抗No.9に対し、解析比抵抗No.9は、土層及び基盤の地盤全体にわたって一致している。
【0056】
以上の解析結果により、例えば図4の土層モデルNo.7に対応する解析比抵抗No.7の場合のように、帯水層の厚さ(0.5m)が土層全体の厚さ(2.5m)に対して薄く、土層に対する帯水層の割合(20%)が低い場合には、低比抵抗である帯水層を適切に検出できないことがある。一方、図4の土層モデルNo.8に対応する解析比抵抗No.8の場合のように、帯水層の厚さ(1.0m)が土層全体の厚さ(2.5m)に対して比較的厚く、土層に対する帯水層の割合が所定割合(40%)以上である場合には、低比抵抗である帯水層をほぼ適正に検出することが可能であることがわかる。なお、電気探査では一般に、相似則が成り立つため、低比抵抗層を適正に検出できる土層に対する帯水層の割合(所定割合(40%))は、土層の厚さが変わっても不変である。
【0057】
次に、前記図3(b)と同様の図7を参照して、傾斜地盤Gの基盤と土層の間の潜在崩壊面をすべり面とする安全率Fsについて説明する。図7に示す無限長斜面としての傾斜地盤Gにおいて、潜在崩壊面を境界として、土層がすべりを起こそうとする力(以下「すべり力」という)をWt、上記すべり力に抵抗する力(以下「すべり抵抗力」という)をTとすると、安全率Fsは、下式(2)のように表される。
Fs=T/Wt ・・・(2)
【0058】
また、図7に示す土層厚さをD、帯水層の深さ(水深)をH、斜面の傾斜角をβ、土層の内部摩擦角をφ、湿潤帯の単位体積重量をγwet、帯水層の単位体積重量をγsat、及び水の単位体積重量をγw、粘着力をcとすると、上記(2)式のすべり抵抗力T及びすべり力Wtはそれぞれ、下式(3)及び(4)のように表される。
T={(D-H)γwet+H(γsat-γw)}cos2β・tanφ+c ・・・(3)
Wt={(D-H)γwet+H・γsat}cosβ・sinβ ・・・(4)
【0059】
なお、上記の内部摩擦角φ及び粘着力cは、例えば国内各地のまさ土についての平均値などを採用することが可能である。また、湿潤帯の単位体積重量γwetや帯水層の単位体積重量γsatについては、上記のようなまさ土の間隙率、乾燥密度及び土粒子密度、並びに前記表1の飽和度を用いて算出することが可能である。
【0060】
そして、式(3)及び(4)を式(2)に代入することにより、下式(5)により、安全率Fsが得られる。
【数1】
【0061】
安全率Fsについて、Fs>1.0のときには、傾斜地盤Gの斜面は安定な状態であるが、Fs<1.0のときには、すべり力Wtがすべり抵抗力Tよりも大きいため、傾斜地盤Gにおいて斜面崩壊が生じる。また、後述するように、一般的な斜面の条件では、土層内における帯水層の厚さの割合が40%に達したときには、安全率Fs>1.1であることが確認されている。したがって、前述したように、斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとしての上記帯水層の厚さの割合に対し、これと比較すべきしきい値として40%を採用し、帯水層の厚さの割合が40%に達したときに、警報を実行することにより、斜面崩壊が生じる前に、適切な警報を実現することができる。
【0062】
図8は、図7の帯水層の厚さが土層全体の40%である場合において、傾斜地盤Gの傾斜角βと土層厚さDをパラメータとした複数(図8では4つ)の等安全率曲線L1~L4を示している。また、破線で囲まれた領域Rは、一般的な表層崩壊が生じる傾斜角(25~45度)及び土層厚さ(2m以下)の範囲を表している。なお、以下の説明では、等安全率曲線L1~L4をそれぞれ、単に曲線L1~L4というものとする。
【0063】
図8に示すように、安全率Fs=1.0である曲線L1は、地盤Gの傾斜角βが約35度のときには土層厚さDが約5mであり、傾斜角βが60度のときには土層厚さDが約1mであり、左下に凸状に湾曲している。
【0064】
これに対し、安全率Fs=1.1である曲線L2は、曲線L1の左方から下方に延びるように、左下に凸状に湾曲している。また、安全率Fs=1.2である曲線L3は、曲線L2の左方から下方に延び、さらに、安全率Fs=1.5である曲線L4は、曲線L3の左方から下方に延び、いずれも左下に凸状に湾曲している。すなわち、傾斜角βが小さいほど、あるいは土層厚さDが小さいほど、帯水層の厚さが土層全体の40%である場合の安全率は大きくなる。
【0065】
図8から明らかなように、地盤Gの傾斜角β及び土層厚さDが、安全率Fs=1.1である曲線L2の左方から下方の範囲であれば、低比抵抗である帯水層を検出可能なタイミングでは、安全率Fs>1.1ということになる。しかも、前述したように、一般的な表層崩壊は、図8の領域Rの傾斜角β及び土層厚さDの範囲内で生じることが多いことから、ほとんどのケースにおいて、安全率Fs≧1.1で、低比抵抗である帯水層を適切に検出し、土層内における帯水層の厚さの割合が、40%に達したときに、警報を実行することにより、斜面崩壊が生じる前に、適切な警報を実行することができる。
【0066】
以上詳述したように、本実施形態によれば、逆シュランベルジャー法による電極アレイ11を備えた比抵抗測定装置2により、省電力かつ短時間で、地盤Gにおける所望の深さの見掛比抵抗ρaを容易に取得することができる。また、得られた見掛比抵抗ρaを逆解析することにより、地盤Gにおける基盤と土層における各部層の厚さと比抵抗を推定する。そして、地盤Gの斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとして、土層内の帯水層の厚さの割合を採用することにより、斜面崩壊の危険度を評価し、安定した信頼性の高い警報を実行することができる。
【0067】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、危険度パラメータと比較するしきい値として、40%を採用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば土層の厚さや斜面の傾斜角などに応じて設定することも可能である。また、実施形態で示した斜面崩壊警報システム1及び比抵抗測定装置2の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 斜面崩壊警報システム
2 比抵抗測定装置
4 サーバ(見掛比抵抗算出手段、比抵抗構造解析手段、帯水層厚さ割合算出手段、危険度パラメータ設定手段、しきい値設定手段)
5 警報装置(警報手段)
11 電極アレイ
12 測定ユニット
12a 電源(通電電源)
12b 測定制御部(電源制御手段)
12c 通信制御部
13 降雨センサ
G 地盤
C1 電流電極
C2 電流電極
P1n 電位電極
P2n 電位電極
r 電位電極間の1/2の距離
ρa 見掛比抵抗
Fs 安全率
【要約】      (修正有)
【課題】省電力かつ短時間で、地盤における所望の深さの比抵抗を容易に取得することができ、その取得結果に基づき、斜面崩壊の危険度を評価し、安定した信頼性の高い警報を実行することができる地盤の比抵抗モニタリング装置及び斜面崩壊警報システムを提供する。
【解決手段】比抵抗モニタリング装置は、地盤に設置された一対の電流電極と、それらの外側に配置された複数組の電位電極と、を備え、一対の電流電極に所定電流を通電して、各組の2つの電位電極間の電位差を測定し、所定電流及び測定された電位差に基づいて、地盤の所定深さの比抵抗をそれぞれ算出する。また、斜面崩壊警報システムは、比抵抗モニタリング装置によって得られた地盤の比抵抗に基づき、土層における帯水層の厚さの割合を、斜面崩壊の危険度を表す危険度パラメータとして算出し、危険度パラメータがしきい値に達したときに、警報を実行する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9