(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】吊り具、吊り具システム及び吊り具システムの使用方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/12 20060101AFI20230328BHJP
【FI】
B66C1/12 J
(21)【出願番号】P 2019000647
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】坂井 桂次
(72)【発明者】
【氏名】小矢畑 章
(72)【発明者】
【氏名】中塩屋 弘
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-139278(JP,A)
【文献】特開平10-25086(JP,A)
【文献】特開2017-197375(JP,A)
【文献】米国特許第6142546(US,A)
【文献】登録実用新案第3213085(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-3/20
B66C 19/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械に搭載される長尺物を吊り索により吊り上げるために用いられる吊り具であって、
上記長尺物の長手方向に重心を挟んで配設される第1連結部及び第2連結部を備え、
上記第1連結部が、上記吊り索の一端を上記長尺物に対して固定可能に構成され、
上記第2連結部が、
その先端側に上記吊り索の他の一端を固定可能なリンクと、
上記長尺物に固定され、上記リンクをその基端側を中心として回動可能に保持する回転支持部と、
上記リンクが倒伏した状態で、その先端側を上記長尺物に着脱可能に構成される固定部材と
を有する吊り具。
【請求項2】
上記第2連結部が、上記回転支持部と上記固定部材との間に立設される一対の板状のガイドを有し、
上記一対のガイドが、上記リンクが倒伏した状態で、上記リンクを両側部から挟み込むように当接する請求項1に記載の吊り具。
【請求項3】
上記固定部材が、上記回転支持部に対して側面視で上記長尺物の重心側に位置する請求項1又は請求項2に記載の吊り具。
【請求項4】
上記第2連結部が、上記長尺物の天面からの上記リンクの回動可能な角度を、上記固定部材側を基準として90°以下に規制するストッパを有する請求項3に記載の吊り具。
【請求項5】
それぞれ側面視で重なるように上記長尺物の両側部に配設される一対の上記第1連結部及び一対の上記第2連結部を備え、
一対の上記第2連結部のリンクが、その回動面が上記長尺物の天面に垂直な方向から幅方向中心に向かって傾斜している請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の吊り具。
【請求項6】
上記長尺物がガントリ又はマストである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の吊り具。
【請求項7】
建設機械に搭載される長尺物を吊り索により吊り上げる吊り具システムであって、
吊り上げの起点となる吊治具と、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の吊り具と、
上記吊治具と、上記吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとを連結する吊り索と
を備え、
上記長尺物を吊り上げた状態で、上記吊治具と、上記吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間が等長である吊り具システム。
【請求項8】
請求項7に記載の吊り具システムを用い、
上記吊り索を上記吊り具に連結する工程と、
上記リンクを、その基端側を中心として回動可能とした状態又はその先端側を上記長尺物に固定した状態のいずれか一方の状態に設定する工程と、
上記設定工程後に、上記長尺物を吊り上げ移動する工程と、
上記移動工程後に、上記長尺物を地面に載置する工程と、
上記載置工程後に、上記リンクを、上記設定工程で設定した状態とは異なる状態に切り換える工程と、
上記切り換え工程後に、上記長尺物を再び吊り上げ移動する工程と
を備える吊り具システムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り具及び吊り具システム及び吊り具システムの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建設機械のガントリやマストといった長尺物は、法令等の理由により建設機械本体から取り外して輸送され、輸送後に建設機械に取り付けられる。このような長尺物の取り外しや取り付けを行う際には、荷が触れて作業員に衝突することを回避するため、姿勢が安定するよう重心位置を吊り上げて地切りさせる必要がある。
【0003】
上記マストを輸送後に建設機械本体に取り付ける場合を例にとり具体的に説明する。まず、建設機械本体から切り離されトレーラにより輸送されたマストは、トレーラから積み下ろされる。通常トレーラの荷台の積荷面は水平であるため、マストが水平となるように地切りされる。積み下ろされたマストはいったん地面に置かれた後、建設機械本体に取り付けられる。マストは建設機械本体に傾斜して取り付けられるため、建設機械本体へ取り付ける際にはマストは傾斜した状態で地切りされる。
【0004】
このようにマストはその吊り上げられる状況に応じて安定させるべき姿勢(傾斜角)が異なる。吊り上げ時の姿勢を変えるためには、例えば
図1に示すように、マスト100の天面に、長さ方向に位置の異なる2対の吊環101(第1吊環101a及び第2吊環101b)を設け、吊り上げるワイヤをマストに連結するシャックルの位置を変更することで行える。具体的には、マストが水平となるように地切りする場合は第1吊環101aにシャックルを連結し、マストが傾斜するように地切りする場合は第2吊環101bにシャックルを連結する。
【0005】
この場合、マストの吊り上げ姿勢を変更するためには、シャックルの付け替え作業が発生する。大型の建設機械では、マストを吊り上げるためのシャックルは10kg程度の重量があり、付け替え作業を行う作業者の負担は大きく、かつ作業時間及び作業空間を必要とするため、作業効率が低い。また、複数の取り付け場所があるため、付け替えを行う際に取り付けミスが発生し得る。
【0006】
マストのような長尺物を吊り上げる際の姿勢を効率よく変更する方法として、吊り上げるワイヤの長さを可変とする引込装置を有する吊り具が提案されている(特開平10-25086号公報参照)。上記従来の吊り具では、長尺物を吊り上げる吊天秤が引込装置を有し、この引込装置によりワイヤを引き込んだり引き出したりすることで、長尺物を長手方向前後で吊るしているワイヤの長さを変えて、長尺物の傾斜を変化させる。
【0007】
上記従来の吊り具では、シャックルの付け替え作業は不要とできるものの、吊天秤に引込装置を取り付ける必要があり、構造が複雑になるとともに重量が増加する。また、吊り上げる長尺物とその角度に応じてワイヤの長さを適宜選択する必要があるため、作業ミスの発生確率は必ずしも低減されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、簡便な構成で長尺物の吊り上げ姿勢を変更でき、かつ作業ミスの発生し難い吊り具及び吊り具システム並びにこの吊り具システムの使用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた発明は、建設機械に搭載される長尺物を吊り索により吊り上げるために用いられる吊り具であって、上記長尺物の長手方向に重心を挟んで配設される第1連結部及び第2連結部を備え、上記第1連結部が、上記吊り索の一端を上記長尺物に対して固定可能に構成され、上記第2連結部が、その先端側に上記吊り索の他の一端を固定可能なリンクと、上記長尺物に固定され、上記リンクをその基端側を中心として回動可能に保持する回転支持部と、上記リンクが倒伏した状態で、その先端側を上記長尺物に着脱可能に構成される固定部材とを有する。
【0011】
当該吊り具は、第2連結部のリンクが基端側を中心として回動可能であるので、この回動可能なリンクが吊り索の一部として機能し、等価的に吊り索が長い状態とできる。一方、当該吊り具では、リンクが倒伏した状態で、その先端側を長尺物に固定できる。リンクを倒伏して固定した場合、当該吊り具では、リンクが吊り索の一部として機能せず、吊り索は実長のままとなる。つまり、当該吊り具では、リンクを回動可能とするか、固定するかを選択することで、等価的に吊り索を変化させて、長尺物の吊り上げ姿勢を変えることができる。また、当該吊り具では、吊り索はリンクの先端側に固定したまま長尺物の吊り上げ姿勢を変更できるので、付け替え作業は不要とできるうえ、作業者はリンクを回動可能とするか、固定するかの選択のみ行えばよく、作業が簡単で作業ミスの発生を抑止できる。さらに、当該吊り具は、吊り索の一端を長尺物に対して固定可能な第1連結部と、リンクを有する第2連結部とで構成できるので、構造が簡便かつ軽量である。
【0012】
上記第2連結部が、上記第2連結部が、上記回転支持部と上記固定部材との間に立設される一対の板状のガイドを有し、上記一対のガイドが、上記リンクが倒伏した状態で、上記リンクを両側部から挟み込むように当接するとよい。このように第2連結部が上述の板状のガイドを有することで、リンクが倒伏する際にガイドに沿って移動する。このため、リンクが倒伏した状態で、その先端側を上記長尺物に固定し易い。
【0013】
上記固定部材が、上記回転支持部に対して側面視で上記長尺物の重心側に位置するとよい。リンクを回動可能とした際に、リンクの先端側が重心方向に向かって安定する。上述のように固定部材を回転支持部に対して側面視で上記長尺物の重心側に位置させると、長尺物の天面からの上記リンクの回動角が90°未満となる。従って、例えば長尺物を地面に置き、吊り索が緩むとリンクは自重で固定部材側、つまりリンクの先端側を長尺物に固定する位置に戻り易い。このため、リンクが倒伏した状態で、その先端側を上記長尺物に固定し易い。
【0014】
上記第2連結部が、上記長尺物の天面からの上記リンクの回動可能な角度を、上記固定部材側を基準として90°以下に規制するストッパを有するとよい。固定部材が、回転支持部に対して側面視で上記長尺物の重心側に位置する場合であっても、リンクを回動可能とした際、偶発的に長尺物の天面からの上記リンクの回動角が90°を超えることがあり、その場合、リンクは自重では固定部材側に戻り難い。これに対し、第2連結部が上述のストッパを有することで、上記リンクの回動角が90°を超えることが抑止され、より確実にリンクの先端側を長尺物に固定する位置に戻り易くすることができる。このため、リンクが倒伏した状態で、その先端側を上記長尺物にさらに固定し易くできる。
【0015】
それぞれ側面視で重なるように上記長尺物の両側部に配設される一対の上記第1連結部及び一対の上記第2連結部を備え、一対の上記第2連結部のリンクが、その回動面が上記長尺物の天面に垂直な方向から幅方向中心に向かって傾斜しているとよい。一対の第1連結部及び一対の第2連結部をそれぞれ側面視で重なるように上記長尺物の両側部に配設することで、幅方向に広い長尺物であっても安定して吊り上げることができる。また、通常長尺物は吊治具を用いて1点で吊るされるため、リンクの回動面を長尺物の幅方向中心に向かって傾斜させることで、リンクと吊り索とを一直線状に位置させ易くなり、リンクをスムーズに回動させることができる。
【0016】
上記長尺物がガントリ又はマストであるとよい。本発明の吊り具は、ガントリ又はマストに特に好適に用いることができる。なお、ガントリ及びマストは、移動式クレーンに用いられる長尺物である。
【0017】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、建設機械に搭載される長尺物を吊り索により吊り上げる吊り具システムであって、吊治具と、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の吊り具と、上記吊治具と、上記吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとを連結する吊り索とを備え、上記長尺物を吊り上げた状態で、上記吊治具と、上記吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間が等長である。
【0018】
当該吊り具システムは、本発明の吊り具を用いるので、簡便かつ軽量な構成で長尺物の吊り上げ姿勢を変更できる。また、当該吊り具システムは、長尺物を吊り上げた状態で、吊治具と、吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間が等長である。つまり、当該吊り具システムは、リンクの長さでのみ長尺物の吊り上げ姿勢の変更を制御できるように構成されているので、吊り索の長さの調整も含め、作業が簡単で作業ミスの発生を抑止できる。
【0019】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、本発明の吊り具システムを用い、上記吊り索を上記吊り具に連結する工程と、上記リンクを、その基端側を中心として回動可能とした状態又はその先端側を上記長尺物に固定した状態のいずれか一方の状態に設定する工程と、上記設定工程後に、上記長尺物を吊り上げ移動する工程と、上記移動工程後に、上記長尺物を地面に載置する工程と、上記載置工程後に、上記リンクを、上記設定工程で設定した状態とは異なる状態に切り換える工程と、上記切り換え工程後に、上記長尺物を再び吊り上げ移動する工程とを備える吊り具システムの使用方法である。
【0020】
当該吊り具システムの使用方法では、本発明の吊り具システムを用いるので作業が簡単で作業ミスの発生を抑止できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の吊り具及び吊り具システムは、簡便かつ軽量な構成で長尺物の吊り上げ姿勢を変更できる。従って、本発明の吊り具及び吊り具システムを用いた吊り具システムの使用方法を用いることで、作業ミスが発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、従来の吊り具を示す模式的側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態の吊り具を示す模式的側面図である。
【
図3】
図3は、
図2の第2連結部を示す模式的斜視図であり、リンクが固定された状態を示す。
【
図4】
図4は、
図2の第2連結部を示す模式的斜視図であり、リンクが回動可能な状態を示す。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態の吊り具システムを示す模式的側面図であり、トレーラからマストを積み下ろす際の状態を示す。
【
図6】
図6は、
図5の吊り具システムを示す模式的側面図であり、建設機械本体へマストを搭載する際の状態を示す。
【
図7】
図3とは異なる第2連結部を示す模式的正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る吊り具、吊り具システム及び吊り具システムの使用方法について適宜図面を参照しつつ説明する。
【0024】
[吊り具]
図2乃至
図4に示す吊り具1は、建設機械に搭載される長尺物であるマスト10を吊り索により吊り上げるために用いられる吊り具である。当該吊り具1は、マスト10に特に好適に用いることができる。
【0025】
当該吊り具1は、マスト10の天面側に、その長手方向に重心を挟んで配設される一対の第1連結部20及び一対の第2連結部30を備える。一対の上記第1連結部20及び一対の第2連結部30は、それぞれ側面視で重なるようにマスト10の両側部に配設される。このように一対の第1連結部20及び一対の第2連結部30をそれぞれ側面視で重なるようにマスト10の両側部に配設することで、幅方向に広いマスト10を安定して吊り上げることができる。なお、
図2乃至
図4では片側の第1連結部20及び第2連結部30のみを示している。
【0026】
第1連結部20と第2連結部30とは、マスト10の長手方向に離間して配設される。第1連結部20と第2連結部30との離間距離は、短過ぎると吊り上げた際にマスト10が搖動し易くなる。このため、上記離間距離は、マスト10を安定して吊り上げられるように決定するとよい。
【0027】
第1連結部20と第2連結部30とは、いずれが前方に配設されてもよい。第1連結部20と第2連結部30とのいずれを前方に配設するかは、リンク31を回動可能とした場合(以下、「回動可能状態」ともいう)と、リンク31を倒伏させ固定した場合(以下、「固定状態」ともいう)とに割り当てる長尺物の傾斜角度の設定により適宜決定される。具体的には、第2連結部30を配設した側がリンク31を固定状態から回動可能状態とした場合に下がる。
図2では、第2連結部30が前方にある場合を示している。以下、この
図2の場合をもとに説明するが、第2連結部30が後方にあっても同様である。
【0028】
<第1連結部>
第1連結部20は、吊り索の一端を上記長尺物に対して固定可能に構成される。具体的には、第1連結部20は、例えば公知の吊環、つまりマスト10の天面側に突出し、マスト10の幅方向に貫通する貫通孔を有する構成とすることができる。
【0029】
<第2連結部>
第2連結部30は、リンク31と、回転支持部32と、固定部材33と、一対のガイド34と、ストッパ35とを有する。
【0030】
(リンク)
リンク31は、棒状又は板状で一定の長さを有する部材である。リンク31の形状としては、板状が好ましい。リンク31を板状とすることで、後述する一対のガイド34によりガイドされ易くできる。また、リンク31の長さは、リンク31を回動可能状態とした際に、マスト10が所望の傾斜(水平を含む)となるように決定される。
【0031】
リンク31は、その先端側に吊り索の他の一端を固定可能である。具体的には、リンク31は、その先端部にマスト10の幅方向に貫通する第1貫通孔31aを有する構成とすることができる。
【0032】
また、リンク31の基端側は、後述する回転支持部32に保持されている。
【0033】
(回転支持部)
回転支持部32は、マスト10に固定され、リンク31をその基端側を中心として回動可能に保持する。
【0034】
回転支持部32の構成は、特に限定されないが、例えば
図3及び
図4に示すように、マスト10の天面から突出し、リンク31の基端部を挟み込む一対の板状体32aと、この一対の板状体32a及びリンク31の基端部を貫通する軸部32bとを有する構成とすることができる。
【0035】
(固定部材)
固定部材33は、リンク31が倒伏した状態で、その先端側をマスト10に着脱可能に構成される。
【0036】
固定部材33の構成は、特に限定されないが、例えば
図3及び
図4に示すように、マスト10の天面から突出し、リンク31の先端部を挟み込む一対の板状体33aと、この一対の板状体33aを貫通する貫通孔33bと、リンク31に設けられ、リンク31を倒伏した状態で板状体33aの貫通孔33bと側面視で重なる第2貫通孔31bと、リンク31を倒伏した状態で板状体33aの貫通孔33b及びリンク31の第2貫通孔31bを貫通し固定する固定ピン33cとを有する構成とできる。このように構成することで、固定ピン33cの挿抜によりリンク31の先端側をマスト10に着脱可能とできる。
【0037】
固定部材33は、回転支持部32に対して側面視でマスト10の重心側に位置する。リンク31を回動可能とした際に、リンク31の先端側が重心方向に向かって安定する。上述のように固定部材33を回転支持部32に対して側面視でマスト10の重心側に位置させると、マスト10の天面からのリンク31の回動角(
図4のθ)が90°未満となる。従って、例えばマスト10を地面に置き、吊り索が緩むとリンク31は自重で固定部材33側、つまりリンク31の先端側をマスト10に固定する位置に戻り易い。このため、リンク31が倒伏した状態で、その先端側をマスト10に固定し易い。
【0038】
(ガイド)
一対のガイド34は、板状であり、回転支持部32と固定部材33との間に立設される。一対のガイド34は、リンク31が倒伏した状態で、リンク31を両側部から挟み込むように当接する。このように第2連結部30が上述の板状のガイド34を有することで、リンク31が倒伏する際にガイド34に沿って移動する。このため、リンク31が倒伏した状態で、その先端側をマスト10に固定し易い。
【0039】
一対のガイド34の構成は、特に限定されないが、例えば
図3及び
図4に示すように、回転支持部32の一対の板状体32a及び固定部材33の一対の板状体33aのそれぞれにリンク31を両側部から挟み込むように架け渡される板状の部材とを有する構成とできる。このように構成することで、ガイド34を回転支持部32の板状体32a及び固定部材33の板状体33aと一体成型できるので、第2連結部30の強度を高めることができる。
【0040】
(ストッパ)
ストッパ35は、マスト10の天面からのリンク31の回動可能な角度θを、固定部材33側を基準として90°以下に規制する。固定部材33が、回転支持部32に対して側面視でマスト10の重心側に位置する場合であっても、リンク31を回動可能とした際、偶発的にマスト10の天面からのリンク31の回動角が90°を超えることがあり、その場合、リンク31は自重では固定部材33側に戻り難い。これに対し、第2連結部30が上述のストッパ35を有することで、リンク31の回動角θが90°を超えることが抑止され、より確実にリンク31の先端側をマスト10に固定する位置に戻り易くすることができる。このため、リンク31が倒伏した状態で、その先端側をマスト10にさらに固定し易くできる。
【0041】
ストッパ35の構成は、特に限定されないが、例えば
図3及び
図4に示すように、リンク31の基端側の上部に突出して配設されるリンク側突起35aと、回動軸32の一対の板状体32aの間にマスト10の天面から突出して配設され、リンク側突起35aと当接することでリンク31の回動を規制する回転支持部側突起35bとを有する構成とすることができる。
【0042】
なお、例えば
図3及び
図4の構成においてリンク31の回動が規制される回動角θの上限は、90°である。一方、リンク31の回動が規制される回動角θの下限は、特に限定されないが、少なくともリンク31を回動可能状態とした場合にマスト10を所望の傾斜とできる角度とされる。リンク31の回動が規制される回動角θが上記下限未満であると、リンク31が回動してマスト10が所望の傾斜となる前にストッパ35により回動が規制されるおそれがある。
【0043】
<利点>
当該吊り具1は、第2連結部30のリンク31が基端側を中心として回動可能であるので、この回動可能なリンク31が吊り索の一部として機能し、等価的に吊り索が長い状態とできる。一方、当該吊り具1では、リンク31が倒伏した状態で、その先端側をマスト10に固定できる。リンク31を倒伏して固定した場合、当該吊り具1では、リンク31が吊り索の一部として機能せず、吊り索は実長のままとなる。つまり、当該吊り具1では、リンク31を回動可能とするか、固定するかを選択することで、等価的に吊り索を変化させてマスト10の吊り上げ姿勢を変えることができる。また、当該吊り具1では、吊り索はリンク31の先端側に固定したままマスト10の吊り上げ姿勢を変更できるので、付け替え作業は不要とできるうえ、作業者はリンク31を回動可能とするか、固定するかの選択のみ行えばよく、作業が簡単で作業ミスの発生を抑止できる。さらに、当該吊り具1は、吊り索の一端をマスト10に対して固定可能な第1連結部20と、リンク31を有する第2連結部30とで構成できるので、構造が簡便かつ軽量である。
【0044】
[吊り具システム]
図5及び
図6に示す吊り具システム2は、建設機械に搭載されるマスト10を吊り索4により吊り上げる吊り具システムである。当該吊り具システム2は、吊治具3と、吊り具1と、吊り索4とを備える。
【0045】
(吊治具)
吊治具3は、重量物をバランスよく吊るための装置で、吊り上げの起点となる。つまり、当該吊り具システム2は、吊治具3を持ち上げることにより重量物をバランスよく吊りあげることができる。当該吊り具システム2に用いられる吊治具3は特に限定されず、例えば長尺物を吊り上げるクレーンのフックそのものであってもよく、公知の吊天秤等を用いてもよい。なお、吊治具3として吊天秤を用いる場合、この吊天秤は例えばクレーンのフックに吊り下げられて用いられる。
【0046】
(吊り具)
吊り具1は、
図2乃至
図4に示す本発明の一実施形態に係る吊り具であるので、対応する部分には、同一符号を付し、詳細説明を省略する。
【0047】
(吊り索)
吊り索4は、吊治具3と吊り具1の第1連結部20及び第2連結部30それぞれとを連結する。なお、当該吊り具1は、一対の上記第1連結部20及び一対の第2連結部30が、それぞれ側面視で重なるようにマスト10の両側部に配設されている。吊り索4は、マスト10の幅方向で同じ側の第1連結部20及び第2連結部30に対してそれぞれ設けられる。
【0048】
それぞれの吊り索4は、吊治具3と第1連結部20とを連結する第1吊り索と、吊治具3と第2連結部30とを連結する第2吊り索とに分けて構成されてもよいし、吊治具3を介して第1連結部20と第2連結部30とを連結する一体として構成されてもよい。
【0049】
吊り索4の構成としては、特に限定されないが、例えば
図5及び
図6に示すようにワイヤ4aと、第1連結部20及び第2連結部30に連結される端部にシャックル4bとを有する構成とすることができる。
【0050】
当該吊り具システム2において、マスト10を吊り上げた状態で、吊治具3と、吊り具1の第1連結部20及び第2連結部30それぞれとの間は等長である。つまり、吊治具3と第1連結部20とを連結する部分の吊り索4の長さと、吊治具3と第2連結部30(リンク31の先端部にある第1貫通孔31a)とを連結する部分の吊り索4の長さとが等しくなるように構成されている。
【0051】
また、当該吊り具システム2では、第2連結部30のリンク31を回動可能状態とした際にマスト10が水平に吊り上げられ、第2連結部30のリンク31を固定状態とした際にマスト10が所望の角度で前方が上がった状態で吊り上げられるよう構成されている。
【0052】
上述のような構成は、第1連結部20及び第2連結部30の配設位置及びリンク31の長さを調整することで実現できる。具体的には、以下の手順で調整することができる。まず、リンク31が固定状態である場合に、マスト10が所望の角度で前方が上がった状態で吊り上げられるように、第1連結部20及び第2連結部30の配設位置を決定する。次に、リンク31が回動可能状態となった際に、マスト10が水平となるように、リンク31の長さを決定する。実際には、第1連結部20及び第2連結部30の配設位置及びリンク31の長さは、吊治具3での吊り上げ位置によっても変動し得るため、この点も加味したシミュレーション等を行って決定するとよい。
【0053】
<利点>
当該吊り具システム2は、本発明の吊り具1を用いるので、簡便かつ軽量な構成でマスト10の吊り上げ姿勢を変更できる。また、当該吊り具システム2は、マスト10を吊り上げた状態で、吊治具3と、吊り具1の第1連結部20及び第2連結部30それぞれとの間が等長である。つまり、当該吊り具システム2は、リンク31の長さでのみマスト10の吊り上げ姿勢の変更を制御できるように構成されているので、吊り索4の長さの調整も含め、作業が簡単で作業ミスの発生を抑止できる。
【0054】
[吊り具システムの使用方法]
本発明の一実施形態に係る吊り具システムの使用方法では、
図5及び
図6に示す本発明の吊り具システム2を用いる。当該吊り具システムの使用方法は、吊り索4を吊り具1に連結する工程(吊り索連結工程)と、リンク31を、その基端側を中心として回動可能とした状態又はその先端側を長尺物に固定した状態のいずれか一方の状態に設定する工程(設定工程)と、上記設定工程後に、上記長尺物を吊り上げ移動する工程(移動工程)と、上記移動工程後に、上記長尺物を地面に載置する工程(載置工程)と、上記載置工程後に、リンク31を、上記設定工程で設定した状態とは異なる状態に切り換える工程(切り換え工程)と、上記切り換え工程後に、上記長尺物を再び吊り上げ移動する工程(再移動工程)とを備える。
【0055】
以下、当該吊り具システム2の使用方法について、トレーラに積まれたマスト10を輸送後に建設機械本体に取り付ける場合を例にとり詳説する。
【0056】
(吊り索連結工程)
吊り索連結工程では、
図5に示すように、吊り索4の一端を当該吊り具1の第1連結部20に固定し、吊り索4の他の一端を第2連結部30のリンク31の先端側に固定する。この作業はマスト10がトレーラに積まれた状態で行われる。
【0057】
(設定工程)
設定工程では、
図5に示すように、リンク31を固定部材33には固定せず、回動可能状態とする。つまり、リンク31を、その基端側を中心として回動可能とした状態に設定する。なお、当該吊り具システム2では、上述のようにリンク31を回動可能状態とした際にマスト10が水平に吊り上げられるように設計されている。
【0058】
(移動工程)
移動工程では、マスト10を輸送したトレーラからマスト10を吊治具3により吊り上げる。リンク31は回動可能状態であるので、マスト10は水平に保たれた状態で吊り上げられる。なお、吊り上られた際のリンク31の回動角θは90°未満である。
【0059】
(載置工程)
載置工程では、吊り上げたマスト10は、地面に置かれる。マスト10を地面に置くと、吊り索4が弛み、リンク31は自重により回動し、その先端側が一対のガイド34に沿って固定部材33側に移動する。なお、本発明において、「地面」には、地面に準ずる場所、例えば地面に設置された板木や架台の上等も含む。
【0060】
(切り換え工程)
切り換え工程では、固定部材33側に移動したリンク31の先端部を固定部材33に固定する。すなわち、リンク31の設定を「その基端側を中心として回動可能とした状態」又は「その先端側をマスト10に固定した状態」のうち、上記設定工程で設定した状態とは異なる状態である「その先端側をマスト10に固定した状態」に切り換える。
【0061】
具体的には、リンク31を倒伏した状態で固定部材33の板状体33aの貫通孔33bとリンク31の第2貫通孔31bとを側面視で重ねたうえで、固定ピン33cを貫通させて留める。これにより、リンク31は固定状態となる。
【0062】
(再移動工程)
再移動工程では、地面に置かれたマスト10を吊治具3により吊り上げ、建設機械本体に取り付ける。このとき、リンク31は固定状態であるので、マスト10は、所望の角度で前方が上がった状態で吊り上げられる。
【0063】
なお、マスト10の建設機械本体への取り付けが完了すれば、吊り索4は、当該吊り具1の第1連結部20及び第2連結部30から取り外される。
【0064】
以上、マスト10を輸送後に建設機械本体に取り付ける場合を例にとり説明したが、マスト10を建設機械本体から取り外し、トレーラに積み込む場合は、上述と逆の手順で行うことができる。
【0065】
つまり、
図6に示すように、吊り索4を吊り具1に連結した(吊り索連結工程)後(所望の角度で前方が上がった状態となるようリンク31を固定状態として(設定工程)、建設機械からマスト10を取り外し(移動工程)、地面に置く(載置工程)。そして、固定部材33の固定ピン33cを取り外すことでリンク31を回動可能状態とした(切り換え工程)後、吊り上げる(再移動工程)。このとき、リンク31は回動可能状態であるので、マスト10は水平に吊り上げられる。このようにマスト10を水平に吊り上げた状態で、トレーラに積み込みを行う。
【0066】
<利点>
当該吊り具システムの使用方法では、本発明の吊り具システム2を用いるので作業が簡単で作業ミスの発生を抑止できる。
【0067】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0068】
上記実施形態では、本発明の吊り具及び吊り具システムをマストに用いる場合について説明したが、本発明の吊り具及び吊り具システムの対象はマストに限定されず、建設機械における他の長尺物、例えばガントリにも適用可能である。
【0069】
上記実施形態では、吊り具の第2連結部が一対のガイドを有する場合を説明したが、一対のガイドは必須の構成要件ではなく、片側のみ、あるいはガイドを有さない吊り具も本発明の意図するところである。
【0070】
上記実施形態では、吊り具の第2連結部のガイドが垂直方向に回動する場合を例に説明したが、
図7に示す吊り具5のように、一対の第2連結部30のリンク31が、その回動面がマスト10の天面に垂直な方向から幅方向中心に向かって傾斜するとよい。通常マスト10は吊治具を用いて1点で吊るされるため、リンク31の回動面をマスト10の幅方向中心に向かって傾斜させることで、リンク31と吊り索とを一直線状に位置させ易くなり、リンク31をスムーズに回動させることができる。また、リンク31と吊り索とを一直線状に位置させることで、リンク31に加わる力がリンク31の長手方向の力のみとなるため、リンク31に曲げ等の力が加わらない。従って、当該吊り具5の設計を容易化できる。また、リンク31に必要とされる強度が下がるので、リンク31の厚さを薄くできる。従って、当該吊り具5をコンパクトで軽量化することができる。なお、
図7において、
図2乃至
図4と同等の部分には同一符号を付した。
【0071】
上記実施形態では、吊り具の第2連結部において、固定部材が、リンクの回転支持部に対して側面視でマストの重心側に位置する場合について説明したが、固定部材をマストの重心と反対側に位置させることもできる。この場合においては、リンクと吊り索とを一直線状となる回動角は90°を超える。このため、マストの天面からのリンクの回動可能な角度を、固定部材側を基準として90°以下に規制するストッパは設けない。
【0072】
上記実施形態では、吊り具がそれぞれ側面視で重なるようにマストの両側部に配設される一対の第1連結部及び一対の第2連結部を備える場合を説明したが、吊り具の第1連結部及び第2連結部の構成はこれに限定されない。例えば長尺物(マスト)の幅が狭い場合であれば、第1連結部及び第2連結部は、長尺物の幅方向中央に1つずつ設ける構成とすることもできる。
【0073】
上記実施形態では、吊り具の第1連結部及び第2連結部がマストの天面側に配設される場合を説明したが、上記第1連結部及び第2連結部は他の場所、例えば長尺物(マスト)の幅方向外側や下面に設けることも可能である。また、長尺物がビーム等で組まれている場合、第1連結部及び第2連結部は、幅方向で最も外側のビームの内面に設けることもできる。なお、取り付け易さ、作動させ易さ等の観点から、第1連結部及び第2連結部は、天面側に設けられることが好ましく、特に第2連結部を天面側に設けることが好ましい。また、例えばガントリのように天面が薄い長尺物にあっては、強度の観点から第1連結部及び第2連結部は、側面に設けることが好ましい。
【0074】
上記実施形態では、吊り具システムにおいて、マストを吊り上げた状態で、吊治具と、吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間が等長である場合を説明したが、吊治具と、吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間が等長であることは必須の構成要件ではなく、吊治具と、吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間が等長でない場合においても本発明の吊り具を用いることができる。この場合、釣り上げ時の角度は、吊り具の第1連結部及び第2連結部の配設位置及びリンクの長さに加え、吊治具と、吊り具の第1連結部及び第2連結部それぞれとの間の距離により調整される。
【0075】
上記実施形態では、吊り具システムにおいて、吊り具の第2連結部のリンクを回動可能状態とした際にマストが水平に吊り上げられ、第2連結部のリンクを固定状態とした際にマストが所望の角度で前方が上がった状態で吊り上げられるように構成される場合を説明したが、各状態での角度は上述のように限定されるものではなく、逆に構成することも可能である。このとき、吊り具システムの使用方法にあっては、トレーラに積まれたマストを輸送後に建設機械本体に取り付ける場合に、設定工程でリンクの先端側をマストに固定した状態に設定し、マストを建設機械本体から取り外し、トレーラに積み込む場合に、設定工程でリンクの基端側を中心として回動可能とした状態に設定する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明の吊り具及び吊り具システムは、簡便かつ軽量な構成で長尺物の吊り上げ姿勢を変更できる。従って、本発明の吊り具及び吊り具システムを用いた吊り具システムの使用方法を用いることで、作業ミスが発生し難い。
【符号の説明】
【0077】
1、5 吊り具
2 吊り具システム
3 吊治具
4 吊り索
4a ワイヤ
4b シャックル
10 マスト
20 第1連結部
30 第2連結部
31 リンク
31a 第1貫通孔
31b 第2貫通孔
32 回転支持部
32a 板状体
32b 軸部
33 固定部材
33a 板状体
33b 貫通孔
33c 固定ピン
34 ガイド
35 ストッパ
35a リンク側突起
35b 回転支持部側突起
100 マスト
101 吊環
101a 第1吊環
101b 第2吊環