(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20230328BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C11/03 C
B60C11/03 E
(21)【出願番号】P 2019039631
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】疋田 真浩
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-153655(JP,A)
【文献】特開昭61-160303(JP,A)
【文献】特開2003-159910(JP,A)
【文献】特開2002-274125(JP,A)
【文献】特開2015-131603(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104029567(CN,A)
【文献】英国特許出願公開第02114069(GB,A)
【文献】米国特許第02327057(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大き
く、
前記内側部の溝幅は、タイヤ半径方向内側に向かって漸増する、
タイヤ。
【請求項2】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく、
前記第3部分は、直線状に延びている、
タイヤ。
【請求項3】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく、
溝深さに関して、前記外側部は、前記第3部分の30%以上である、
タイヤ。
【請求項4】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく、
溝深さに関して、前記第3部分の溝深さは、前記第1部分及び前記第2部分の80%~120%である、
タイヤ。
【請求項5】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく、
前記外側部の横断面は、前記第3部分の溝中心線に対して線対称形状である、
タイヤ。
【請求項6】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく、
溝幅に関して、前記外側部は、前記第1部分及び前記第2部分の60%以下である、
タイヤ。
【請求項7】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、
前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく、
前記各傾斜溝は、第1傾斜溝と、前記第1傾斜溝よりも長さが小さい第2傾斜溝とを含む、
タイヤ。
【請求項8】
前記第1傾斜溝の前記第1部分は、タイヤ赤道に達しており、前記第2傾斜溝の前記第1部分は、タイヤ赤道に達していない、請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第3部分のタイヤ軸方向の長さは、トレッド幅の5%以上である、請求項1ないし8のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に溝を有したタイヤが記載されている。前記溝は、横方向に沿って対向する一対の側面と、前記一対の側面の間に延在する半径方向外側部と、前記半径方向外側部と流体的に接続している半径方向内側部とを備えている。前記半径方向内側部は、一対の拡がる側壁である空間を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高速道路網の整備によって、直進走行時間が増えてきている。また、車両の高性能化によって、走行速度が高くなっている。このため、タイヤの特定の領域が多く摩耗するという問題があった。さらに、高い走行速度でも、ハイドロプレーニング現象が生じないよう、排水性能を維持することが望まれていた。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、排水性能を維持しつつ、耐偏摩耗性能を高めることができるタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、前記トレッド部の踏面において、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きい。
【0007】
本発明に係るタイヤは、前記内側部の溝幅が、タイヤ半径方向内側に向かって漸増するのが望ましい。
【0008】
本発明に係るタイヤは、前記第3部分が、直線状に延びているのが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤは、溝深さに関して、前記外側部が、前記第3部分の30%以上であるのが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤは、溝深さに関して、前記第3部分の溝深さが、前記第1部分及び前記第2部分の80%~120%であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤは、前記外側部の横断面が、前記第3部分の溝中心線に対して線対称形状であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤは、溝幅に関して、前記外側部が、前記第1部分及び前記第2部分の60%以下であるのが望ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤは、前記第3部分のタイヤ軸方向の長さが、トレッド幅の5%以上であるのが望ましい。
【0014】
本発明に係るタイヤは、前記各傾斜溝は、第1傾斜溝と、前記第1傾斜溝よりも長さが小さい第2傾斜溝とを含むのが望ましい。
【0015】
本発明に係るタイヤは、前記第1傾斜溝の前記第1部分が、タイヤ赤道に達しており、前記第2傾斜溝の前記第1部分は、タイヤ赤道に達していないのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタイヤは、トレッド部に複数の傾斜溝が設けられている。前記各傾斜溝は、小さい溝幅を有する第3部分により、この近傍のトレッド剛性を高く維持し耐偏摩耗性能を高める。また、前記第3部分は、第1部分及び第2部分につながるので、前記第1部分及び前記第2部分の接地時の滑りが抑制されて、耐偏摩耗性能が、さらに向上する。
【0017】
前記各傾斜溝の第1部分及び前記第2部分は、前記トレッド部の踏面での溝幅が大きいので、優れた排水性能を提供する。また、前記第3部分は、前記踏面側に配された外側部と、前記外側部よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部とを含み、前記内側部は、前記外側部よりも溝幅が大きく形成されている。このような第3部分は、その外側部で前記踏面側のトレッド剛性を維持し耐偏摩耗性能を高めつつ、前記内側部の溝容積を大きくして、排水性能を維持することができる。
【0018】
したがって、本発明のタイヤは、排水性能を維持しつつ耐偏摩耗性能を高める。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のタイヤの一実施形態を示すタイヤ子午線断面図である。
【
図6】(a)は、他の実施形態の第3部分の横断面図、(b)は、さらに他の実施形態の第3部分の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図である。
図1には、例えば、自動二輪車用の空気入りタイヤ1が示されている。但し、本発明は、このようなタイヤ1に限定されるものではなく、例えば、乗用車用や重荷重用の空気入りタイヤ1の他、空気が充填されない非空気式のタイヤ1にも採用される。
【0021】
前記「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態において特定される値である。
【0022】
「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0023】
「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0024】
本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2のトレッド端2t、2t間の踏面2aが、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲してのびている。このようなタイヤ1は、キャンバー角の大きい旋回時においても十分な接地面積を得ることができる。本明細書では、トレッド部2を平面に展開したときのトレッド端2t、2t間のタイヤ軸方向距離が、トレッド幅TWとされる。
【0025】
本実施形態のタイヤ1のトレッド部2は、その内部に、カーカス6及びトレッド補強層7が配されている。カーカス6及びトレッド補強層7は、例えば、それぞれ複数本のコードを引き揃えて、トッピングゴムで被覆したコードプライとして形成されている。
【0026】
図2は、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の展開図である。
図2のA-A線断面が
図1に示されている。
図2に示されるように、本実施形態のトレッド部2は、タイヤ赤道Cを含むクラウン領域Crと、クラウン領域Crの両側に配される一対のミドル領域Mi、Miと、ミドル領域Miの外側に配される一対のショルダー領域Sh、Shとを含んでいる。クラウン領域Cr及びミドル領域Miは、前記正規状態のタイヤ1に、キャンバー角0度で1.5kNの荷重を負荷したときに平面(図示省略)に接地する領域である。両領域Cr、Miは、一般に直進走行時に接地する領域である。なお、ミドル領域Miは、クラウン領域Crよりもタイヤ周長が小さいので、滑りによる摩耗量が大きくなる傾向がある。ショルダー領域Shは、トレッド端2tを含み、キャンバー角が最大となる旋回走行時に接地する領域である。
【0027】
特に、限定されるものではないが、クラウン領域Crのタイヤ軸方向幅Wcは、例えば、トレッド幅TWの10%~20%である。ミドル領域Miのタイヤ軸方向幅Wmは、例えば、トレッド幅TWの15%~20%である。ショルダー領域Shのタイヤ軸方向幅Wsは、例えば、20%~30%である。
【0028】
本実施形態のトレッド部2には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝8が設けられている。これにより、高い排水性能が発揮される。
【0029】
各傾斜溝8は、クラウン領域Cr側の第1部分9と、ショルダー領域Sh側の第2部分10と、第1部分9と第2部分10とをつなぐ第3部分11とを含んでいる。トレッド部2の踏面2aにおいて、第3部分11は、第1部分9及び第2部分10よりも小さい溝幅Wbを有している。このような第3部分11は、トレッド剛性を高く維持しつつ、接地時の第1部分9及び第2部分10の主にタイヤ周方向に生じる滑りを抑制するので、耐偏摩耗性能を高める。とりわけ、トレッド補強層7の前記コードがタイヤ赤道Cに対して0度で配されている場合には、タイヤ周方向の滑りの抑制効果が大きくなる。第1部分9及び第2部分10は、溝幅Waが大きいので、排水性能を高く維持する。
【0030】
図3は、
図2のB-B線断面図である。
図3には、第3部分11の長手方向と直交する向きの横断面が示されている。
図3に示されるように、第3部分11は、踏面2a側に配された外側部13と、外側部13よりもタイヤ半径方向内側に配された内側部14とを含んでいる。内側部14は、外側部13よりも溝幅wbが大きく形成されている。このような第3部分11は、内側部14が溝容積を大きくして、排水性能を高く維持するとともに、外側部13がトレッド剛性の低下を抑制して、耐偏摩耗性能を高める。
【0031】
第3部分11は、本実施形態では、横断面がフラスコ状に形成されている。本実施形態の外側部13は、両溝壁13e、13eが法線n方向に沿って延びている。本実施形態の内側部14は、両溝壁14e、14eがタイヤ半径方向外側に向かってテーパ状に延びている。換言すると、内側部14の溝幅wb2は、タイヤ半径方向内側に向かって漸増している。このような第3部分11は、トレッド部2の踏面2a側のトレッド剛性を効果的に高めつつ、溝容積を確保するので、排水性能をさらに高く維持しつつ、耐偏摩耗性能を一層向上する。前記法線nは、踏面2aと溝壁13eとの交点における踏面2aの接線に直交する直線である。
【0032】
外側部13は、例えば、第3部分11の溝中心線8cに対して線対称形状である。このような外側部13は、トレッド剛性を高く維持する。とりわけ、第3部分11の踏面2aでの溝幅Wbが小さく形成される場合、接地時、両溝壁13e、13eが強固に支え合って、ミドル領域Miの滑り抑制効果が高められる。本実施形態では、内側部14も溝中心線8cに対して線対称形状である。溝中心線は、本明細書では、溝幅の中点を結ぶ線分である。
【0033】
外側部13の溝壁13e及び内側部14の溝壁14eは、本実施形態では、タイヤ半径方向に直線状に延びている。なお、両溝壁13e、14eは、このような態様に限定されるものではなく、例えば、円弧状や波状に延びるものでもよい。
【0034】
外側部13の深さH1は、第3部分11の溝深さHbの30%以上が望ましい。外側部13の深さH1が第3部分11の溝深さHbの30%未満の場合、トレッド剛性が小さくなり、耐偏摩耗性能が低下するおそれがある。外側部13の深さH1は、第3部分11の溝深さHbの50%以下が望ましい。外側部13の深さH1が第3部分11の溝深さHbの50%を超える場合、内側部14の溝容積が小さくなり、排水性能が低下するおそれがある。
【0035】
内側部14の最大溝幅Wb2は、踏面2aの溝幅Wbの2.0~3.0倍であるのが望ましい。
【0036】
図2に示されるように、傾斜溝8は、例えば、一方の傾斜溝15と他方の傾斜溝16とを含んでいる。一方の傾斜溝15は、本実施形態では、クラウン領域Crからタイヤ軸方向の一方側(図では左側)のショルダー領域Sh側に延びている。他方の傾斜溝16は、本実施形態では、クラウン領域Crからタイヤ軸方向の他方側(図では右側)のショルダー領域Sh側に延びる一方の傾斜溝15及び他方の傾斜溝16は、本実施形態では、タイヤ周方向に交互に配されている。
【0037】
傾斜溝8は、本実施形態では、第1傾斜溝8Aと、第1傾斜溝8Aよりも長さが小さい第2傾斜溝8Bとを含んでいる。第1傾斜溝8A及び第2傾斜溝8Bは、例えば、タイヤ周方向に交互に配されている。
【0038】
第1傾斜溝8Aの第1部分9Aは、タイヤ赤道Cに達しており、第2傾斜溝8Bの第1部分9Bは、タイヤ赤道Cに達していない。このような傾斜溝8は、大きな接地圧の作用するタイヤ赤道C上のトレッド剛性の大きな低下を抑制して、耐偏摩耗性能を維持する。第1傾斜溝8Aの第1部分9Aは、本実施形態では、第2傾斜溝8Bの第1部分9Bよりも大きい長さを有している。
【0039】
第1傾斜溝8Aの内端12eは、例えば、タイヤ赤道C上に位置している。第2傾斜溝8Bの内端12iとタイヤ赤道Cとのタイヤ軸方向の離間距離Laは、例えば、トレッド幅TWの5%~10%である。これにより、上述の作用が効果的に発揮される。
【0040】
第1部分9は、本実施形態では、クラウン領域Cr及びミドル領域Miに跨たがっている。このような第1部分9は、排水されにくいクラウン領域Cr上の水を速やかに排出する。第1傾斜溝8Aの第1部分9は、本実施形態では、クラウン領域Crよりも大きなタイヤ軸方向長さを有している。
【0041】
第1傾斜溝8Aの第1部分9Aは、例えば、タイヤ周方向に対する角度θ1aがタイヤ軸方向外側に向かって大きくなる向きに傾斜している。第2傾斜溝8Bの第1部分9Bは、例えば、直線状に延びている。本明細書では、傾斜溝8の角度は、溝中心線8cで測定される。
【0042】
第2部分10は、本実施形態では、ショルダー領域Sh及びミドル領域Miに跨っている。このような第2部分10は、旋回走行時の排水性能を高める。第2部分10は、本実施形態では、トレッド端2tに連なることなくショルダー領域Sh内で終端している。これにより、トレッド端2t側のトレッド剛性が高く維持される。
【0043】
図4は、傾斜溝8の拡大図である。
図4に示されるように、第2部分10は、本実施形態では、直線状にのびる複数の直線部17が複数連なって形成されている。直線部17のタイヤ周方向に対する角度θ2は、タイヤ軸方向外側ほど大きくなっている。このような第2部分10は、溝容積を大きくするとともに、大きな横力の作用するショルダー領域Shのタイヤ軸方向のトレッド剛性を大きく維持する。なお、第2部分10は、例えば、タイヤ周方向の一方側へ凸の滑らかな円弧状に形成されても良い(図示省略)。
【0044】
第2部分10のタイヤ軸方向の長さL2は、例えば、トレッド幅TWの20%~30%が望ましい。このような第2部分10は、ショルダー領域Shやミドル領域Miの排水性能を高める。
【0045】
図5は、
図2のC-C線断面図である。
図5には、第2部分10の長手方向と直交する向きの横断面が示されている。
図5に示されるように、第2部分10は、本実施形態では、タイヤ半径方向内側に向かって溝幅waが漸減する部分を有している。第2部分10は、例えば、踏面2aから溝底まで溝幅waが漸減している。なお、第2部分10の横断面は、このような形状に限定されるものではなく、例えば、溝幅waがタイヤ半径方向に沿って同じ等幅部と、前記等幅部に連なって溝幅waが漸減する態様でも良い(図示省略)。また、第1部分9も、第2部分10と同様の横断面を有しているのが望ましい(図示省略)。
【0046】
このような第1部分9及び第2部分10は、踏面2aでの溝幅Waが4.0~6.0mmであるのが望ましい。溝深さHaは3.5~9.5mmであるのが望ましい。溝幅Waは、本明細書では、各部分9、10の長手方向の平均値である。
【0047】
図2に示されるように、第3部分11は、例えば、タイヤ1に1.5kNの荷重を負荷し、かつ、キャンバー角0°で平面(図示省略)に接地させたときに前記平面に接地するように配されている。これにより、走行時間の長い直進走行時に接地するクラウン領域Crやミドル領域Miの滑りによる摩耗が低減されるので、その領域Cr、Miでの耐偏摩耗性能が効果的に高められる。
【0048】
第3部分11は、本実施形態では、ミドル領域Miに設けられている。ミドル領域Miは、クラウン領域Crに比してタイヤ周長が小さく、滑りが生じやすい領域である。このため、ミドル領域Miの滑りが抑制されて、摩耗がさらに低減されるので、ミドル領域Miとクラウン領域Crとの摩耗量の差が小さくなり、偏摩耗が抑えられる。
【0049】
第3部分11のタイヤ軸方向の長さL3(
図4に示す)は、トレッド幅TWの5%以上が望ましい。このような第3部分11は、ミドル領域Miのトレッド剛性を高く維持して、優れた耐偏摩耗性能を発揮する。排水性能の低下を抑制するために、第3部分11の長さL3は、トレッド幅TWの15%以下が望ましい。本実施形態の第3部分11の長さL3は、ミドル領域Miのタイヤ軸方向幅Wmよりも小さい。
【0050】
図4に示されるように、第3部分11は、例えば、直線状に延びている。このような第3部分11は、傾斜溝8内の水の流れをスムーズにするので、排水性能を高く維持する。本明細書では、「直線状」とは、第3部分11の長手方向に延びる一対の溝壁20e、20iが、直線のみで形成されているものだけではなく、例えば、一対の溝壁20e、20iのそれぞれが、200mm以上の曲率半径rを有する円弧で形成されているものを含む。第3部分11の両溝壁20e、20iは、例えば、平行に延びている。
【0051】
第3部分11の一方の溝壁20eは、本実施形態では、第1部分9の一方の溝壁21e及び第2部分10の一方の溝壁22eと一直線状に連続している。これにより、さらに、傾斜溝8内のスムーズな水の流れが確保され、排水性能が高められる。また、このような態様は、傾斜溝8近傍のトレッド剛性の低下を抑制する。なお、第3部分11の一方の溝壁20eは、第1部分9の一方の溝壁21e又は第2部分10の一方の溝壁22eのいずれか一方のみと一直線状に連続していても良い(図示省略)。
【0052】
一方の溝壁20eは、例えば、タイヤ回転方向Rの後着側に配される。この場合、傾斜溝8内の水の流れがよりスムーズになるので、高い排水性能が発揮される。
【0053】
第3部分11の他方の溝壁20iは、本実施形態では、第1部分9の他方の溝壁21i及び第2部分10の他方の溝壁22iと屈曲して連続している。このように、本実施形態では、第3部分11の溝幅Wbを小さくしつつ、少なくとも、一方の溝壁20eに隣接する領域のトレッド剛性を高く維持して、耐偏摩耗性能を高める。第3部分11は、例えば、第1部分9の溝幅Waが第3部分11に向かって漸減する漸減部9a、及び、第2部分10の溝幅Waが第3部分に向かって漸減する漸減部10aに連なっている。なお、第3部分11の他方の溝壁20iは、第1部分9の他方の溝壁21i及び第2部分10の他方の溝壁22iと滑らかな円弧状で連続しても良い(図示省略)。また、一方の溝壁20eが、一方の溝壁21e、22eと屈曲して連続するとともに、他方の溝壁20iが他方の溝壁21i、22iと屈曲して連続していても良い(図示省略)。
【0054】
第3部分11のタイヤ周方向に対する角度θ3は、例えば、20~40度が望ましい。
【0055】
溝幅に関して、第3部分11は、第1部分9及び第2部分10の60%以下が望ましい。このような第3部分11は、第1部分9及び第2部分10の接地時の滑りを効果的に抑制する。第3部分11の溝幅Wbが過度に小さくなると、傾斜溝8内の水のスムーズな流れが阻害され、排水性能が低下するおそれがある。このため、溝幅に関して、第3部分11は、第1部分9及び第2部分10の30%以上が望ましい。
【0056】
とりわけ、第3部分11の溝幅Wbは、4mm以下が望ましい。これにより、第3部分11の溝壁20e、20iが、接地時に接触して互いに支え合うようになるので、さらに滑りが抑制される。これにより、耐偏摩耗性能が向上する。
【0057】
溝深さに関して、第3部分11は、第1部分9及び第2部分10の80%~120%であるのが望ましい。このような第3部分11は、傾斜溝8内の水のスムーズな流れを維持するとともに、耐偏摩耗性能の低下を抑制する。本実施形態の第3部分11の溝深さHb(
図3に示す)は、第1部分9及び第2部分10の溝深さHa(
図5に示す)と同じである。
【0058】
面積当たりの溝容積に関して、第3部分11は、第1部分9及び第2部分10の20%以上であるのが望ましい。また、第3部分11は、第1部分9及び第2部分10の60%以下であるのが望ましい。これにより、上述の作用が効果的に発揮される。
【0059】
第1部分9、第2部分10及び第3部分11は、タイヤ周方向に対して同じ向きに傾斜している。これにより、傾斜溝8内の水のスムーズな流れが確保されるため、排水性能が高く維持される。
【0060】
図6(a)は、他の実施形態の第3部分11の横断面図、
図6(b)は、さらに他の実施形態の第3部分11の横断面図である。本実施形態の第3部分11と同じ構成には、同じ符号が付されてその説明が省略される。
【0061】
図6(a)に示されるように、この実施形態の第3部分11は、外側部13が、タイヤ半径方向内側に向かって溝幅wbが漸減する漸減部13aと、漸減部13aに連なり、タイヤ半径方向に沿って同じ溝幅wbの等幅部13bとを含んで形成されている。漸減部13aの最大溝幅は、内側部14の最大溝幅よりも小さく形成されている。漸減部13aの溝深さh1は、等幅部13bの溝深さh2よりも小さく形成されている。このような外側部13は、本実施形態の外側部13に比して、より多くの水をスムーズに排出する。
【0062】
この実施形態では、漸減部13a、等幅部13b及び内側部14の溝壁が直線状に延びている。なお、このような態様に限定されるものではなく、漸減部13a、等幅部13b及び内側部14の溝壁が、例えば、波状や円弧状に延びる態様でも良い。
【0063】
図6(b)に示されるように、この実施形態の第3部分11は、内側部14の横断面が五角形状に形成される。この実施形態の内側部14は、溝幅wbがタイヤ半径方向内側に向かって漸増する漸増部14aと、漸増部14aに連なり、溝幅wbが漸減する漸減部14bとを含んでいる。漸減部14bの溝幅wb2は、外側部13の溝幅wb1よりも大きい。このような第3部分11は、排水性能を高く維持する。
【0064】
漸増部14aの溝深さh3は、この実施形態では、漸減部14bの溝深さh4よりも小さい。このような内側部14は、大きな溝容積を有するので、排水性能が高く維持される。なお、内側部14は、例えば、漸増部14aの溝深さh3が、漸減部14bの溝深さh4よりも大きくても良い(図示省略)。この場合では、踏面2a側のトレッド剛性が高く維持されて、トレッド部2の滑りが抑制されるので、耐偏摩耗性能に優れる。
【0065】
なお、第3部分11は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、内側部14が円形状や楕円形状でも良い。
【0066】
図7は、他の実施形態のトレッド部2の展開図である。本実施形態と同じ構成には、同じ符号が付されて、その説明が省略される場合がある。
図7に示されるように、一方の溝壁20eは、例えば、タイヤ回転方向Rの先着側に配されても良い。この場合、接地時の他方の溝壁20iの変形が抑制されて、両溝壁20e、20iの接触が効果的に図られる。なお、タイヤ1の回転方向が
図4や
図7の態様に限定されるものではない。
【0067】
以上、本発明の一実施形態のタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0068】
図1の基本構造及び
図2の基本パターンを有するタイヤが試作され、各試供タイヤの耐偏摩耗性能及び排水性能がテストされた。各試供タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
【0069】
<耐偏摩耗性能>
各試供タイヤが、自動二輪車の前輪に装着された。テストライダーは、この自動二輪車を乾燥アスファルトのサーキットコースにて走行させた。走行終了後、主溝の摩耗量が計測され、クラウン領域の摩耗量とミドル領域の摩耗量の差が算出された。結果は、比較例1の摩耗量の差を100とする指数で表示されている。数値が小さい程、耐偏摩耗性能に優れていることを示す。
タイヤサイズ:120/70ZR17(前輪)、200/55ZR17(後輪)
リムサイズ:MT3.50×17(前輪)、MT6.00×17(後輪)
内圧:250kPa(前輪)、290kPa(後輪)
排気量:1000cc
走行距離:5000km
平均速度:120km/h
後輪のタイヤは、全て同じ仕様である。
第1部分及び第2部分の断面形状:
図5
比較例1:第1部分及び第2部分のみで形成される。
比較例2の第3部分の断面形状:
図3に示される外側部のみで形成
【0070】
<排水性能>
直径3mの周知構造のインサイドドラム試験機を用いて、各試供タイヤを水深5.0mmのドラム面上で走行させたときの制動力が測定された。制動力は、各試供タイヤあたり、ドラムの周速度が100km/h、及び、70km/hのときの2回測定され、これらの差が算出された。結果は、比較例1の制動力の差を100とする指数で表示されている。数値が小さい程、ウェット走行時の制動力が高く、排水性能に優れていることを示す。
タイヤサイズ:120/70ZR17
縦荷重:1.5kN
内圧:250kPa
テストの結果が表1に示される。
【0071】
【0072】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して、排水性能が維持されつつ耐偏摩耗性能が高められていることが確認できた。
【符号の説明】
【0073】
1 タイヤ
2 トレッド部
2a 踏面
8 傾斜溝
9 第1部分
10 第2部分
11 第3部分
13 外側部
14 内側部
Cr クラウン領域
Sh ショルダー領域