(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】カチオン可染性ポリエステルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/688 20060101AFI20230328BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C08G63/688
C08G63/183
(21)【出願番号】P 2019063287
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】栗林 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】小松 弘和
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅明
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-106922(JP,A)
【文献】特開平05-086176(JP,A)
【文献】特開2002-220445(JP,A)
【文献】特開2015-143314(JP,A)
【文献】特開2018-123309(JP,A)
【文献】特開2001-049094(JP,A)
【文献】特開2000-109660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 - 63/91
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルであって、ジカルボン酸成分に対してスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分が1.0~3.0モル%であり、酸化チタンをポリエステルポリマーに対して5.0重量%以上含有し、かつ、濾過性試験での濾圧上昇速度が3.0MPa/hr以下であることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル。
【請求項2】
酸化チタンをポリエステルポリマーに対して15.0重量%以上含有し、マスターバッチ用である請求項1に記載のカチオン可染ポリエステル。
【請求項3】
ジエチレングリコールの含有量がポリエステルポリマーに対し2.5~8.0重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のカチオン可染性ポリエステル。
【請求項4】
酸化チタン
のエチレングリコールスラリーを、エステル化工程を行うエステル反応槽でジカルボン酸またはそのエステル誘導体とジオール成分との反応率が95%以上となり、かつスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を添加後15分以上攪拌混合した時点と、重合反応槽に反応溶液が移液された後、かつ減圧し重縮合反応を行う前段階の時点とに分割して添加することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のカチオン可染性ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
エステル反応槽で酸化チタン
のエチレングリコールスラリーを添加している際の反応溶液の温度が220℃以上、かつ、重合反応槽で酸化チタン
のエチレングリコールスラリーを添加している際の反応溶液の温度が230℃以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のカチオン可染性ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン可染性ポリエステルおよび、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルは、その優れた機械的、力学的および化学的特性から、衣料用、産業用等の繊維や、磁気テープ用、表面コーティング用等のフィルム、およびタイヤコード、ネット等の産業用等に広く使用されている。
【0003】
特に、衣料用途に関しては、近年のファッションの多様化、用途の拡大が進み、スポーツウェア、カジュアルウェア等に関しては、従来技術からの性能向上が常に要求される。特に最近では、酸化チタンなどの白色顔料をポリエステル繊維中に多く含有させ、防透け性を保持しつつも、発色性に優れたポリエステル繊維の要求が高まっている。
【0004】
ポリエステルは染色性に劣るため、衣料用繊維として用いる場合には、その染色性を補うために、5-ナトリウムスルホイソフタル酸に代表されるスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を共重合させ、カチオン可染性ポリエステルとする技術が広く用いられている。しかしながら、このスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分は、重合反応中に酸化チタンの凝集を促進するため、高濃度で酸化チタンを含有した場合、凝集した酸化チタンが異物となり、紡糸時の濾圧が上昇しやすくなって、安定生産が難しいという課題があった。
【0005】
例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを主原料とした直重法オリゴマーを用いて、ポリエチレングリコールおよびスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を共重合させ、改質ポリエステル中のスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分とリチウム原子の物質量比およびリチウム原子とリン原子の物質量比を一定範囲内にすることで、溶融紡糸時の濾圧上昇速度を抑制する改質ポリエステル組成物が例示されている(特許文献1)。しかしながらこの方法では、リチウムおよびリン由来の濾圧上昇原因物質を抑制することができるが、高濃度で酸化チタンを含有させることは想定しておらず、酸化チタン添加量は0.1重量%の添加に留まっている。
【0006】
また、ジカルボン酸成分に対するスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の比率と、ポリエステル組成物に対するポリエチレングリコール含有率を一定範囲内にすることで、ポリマーの増粘を抑制し、溶融紡糸時の濾圧上昇を抑制する技術が例示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、ポリマー重合中に酸化チタン凝集物が生成した場合の濾圧上昇は抑制できない。本文献においても酸化チタン含有量は0.07重量%と低濃度である。
【0007】
一方、イソフタル酸成分を共重合させたポリエステルポリマーに、高濃度で酸化チタンを含有させる技術として、ポリエステルポリマーと酸化チタンを2段階で混練させる技術が知られている。例えば、樹脂着色用マスターバッチを得る工程で、少なくともマスターバッチ用樹脂と顔料とからなる混練物を特定の粒子以下に微粉砕し、得られた微粉砕物を再び混錬することによって、顔料の粗大粒子が無く、均一に微分散する技術が例示されている。しかしながら、溶融混練で作成したチップは粗大粒子が多く存在し、たとえ、50μm以下に粉砕後に再混練したとしても、繊維用途で求められる5μm以上の粗大粒子を抑制するまでには至らず、溶融紡糸時の濾圧上昇を十分抑制することは不可能である。
【0008】
つまり、上記背景技術においては、高濃度で酸化チタンを含有し、かつ溶融紡糸時の濾圧上昇抑制できるカチオン可染性ポリエステルは公知ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-45696号公報
【文献】特開2015-143314号公報
【文献】特開2008-285649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高濃度で酸化チタンを含有し、かつ溶融紡糸時の濾圧上昇抑制できる繊維用カチオン可染性ポリエステルを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、下記の構成によって解決することができる。
【0012】
(1)主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルであって、全ジカルボン酸成分に対するスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を酸性分に対し1.0~3.0モル%であり、酸化チタンをポリエステルポリマーに対して5.0重量%以上含有し、かつ、濾過性試験での濾圧上昇速度が3.0MPa/hr以下であることを特徴とするカチオン可染性ポリエステル。
【0013】
(2)酸化チタンをポリエステルポリマーに対して15.0重量%以上含有する、前記(1)に記載のマスターバッチ用カチオン可染ポリエステル。
【0014】
(3)ジエチレングリコール量がポリエステルポリマーに対し2.5~8.0重量%であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のカチオン可染性ポリエステル。
【0015】
(4)酸化チタンのエチレングリコールスラリーを、エステル化工程を行うエステル反応槽でジカルボン酸またはそのエステル誘導体とジオール成分との反応率が95%以上となり、かつスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を添加後15分以上攪拌混合した時点と、重合反応槽に移液し減圧し重縮合反応を行う前段階に分割して添加することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかに記載のカチオン可染性ポリエステルの製造方法。
【0016】
(5)エステル反応槽で酸化チタンのエチレングリコールスラリーを添加している際の反応溶液の最低温度が210℃以上、かつ、重合反応槽で酸化チタンのエチレングリコールスラリーを添加している際の反応溶液の最低温度が220℃以上であることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかに記載のカチオン可染性ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、溶融紡糸する際の濾圧上昇を抑制し、濾過フィルター交換に伴うロスが少なくなるなどのコストダウンを図ることが可能であり、かつ優れた防透け性と染色性を両立した繊維向けのカチオン可染性ポリエステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のカチオン可染性ポリエステルについて詳述する。
【0019】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、酸化チタンを高濃度で含有し、かつ酸化チタンの分散性が良好で溶融紡糸時の濾圧上昇が抑制されたカチオン可染ポリエステルである。
【0020】
本発明の、カチオン可染性ポリエステルの主成分は、ジカルボン酸またはそのエステル誘導体および、ジオールを、エステル化反応またはエステル交換反応させた後に得られるポリエステルである。
【0021】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルである。具体的には、エチレンテレフタレートが70モル%以上からなり、さらに好ましくは80モル%以上からなる。
【0022】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、全ジカルボン酸成分に対してスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を1.0~3.0モル%含み、かつ酸化チタン含有量がポリエステルポリマーに対して5.0重量以上含有することが必要である。
【0023】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、全ジカルボン酸成分に対するスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を1.0~3.0モル%含むことが、染色性が良好かつ溶融紡糸時の濾圧上昇を抑制した繊維を得るために必要である。全ジカルボン酸成分に対するスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の量が1.0モル%より少ないと酸化チタンを高濃度で含有した場合、発色性が十分な繊維となるカチオン可染性ポリエステルを得ることができない。また、全ジカルボン酸成分に対するスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の量が3.0モル%を超えると、酸化チタン分散性に悪影響を与えるため、溶融紡糸時の濾圧上昇を十分に抑えることができない。好ましくは1.5~2.5モル%である。
【0024】
本発明のカチオン可染性ポリエステルにおいて、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分は公知のものを使用して良いが、具体的には5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジエチルエステル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸グリコールエステル、5-リチウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸ジメチルエステル、5-リチウムスルホイソフタル酸ジエチルエステル、5-リチウムスルホイソフタル酸ジグリコールエステル等が挙げられ、これらの混合物であっても差し支えないが、入手の容易さから5-ナトリウムスルホイソフタル酸メチル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸グリコールエステルが好ましい。
【0025】
本発明のカチオン可染性ポリエステルに含まれる酸化チタンの量は、ポリエステルポリマーに対して5.0重量%以上とすることが優れた防透け性のあるポリエステル繊維を得るために必要である。また、さらに酸化チタン高濃度に含有させ、溶融紡糸の際に他のポリマーなどとブレンドして使用する、マスターバッチとして使用することも可能である。マスターバッチとすることで、他の機能性を付与したポリマーと組み合わせ、多種多様な繊維を得ることが可能となる。特に、マスターバッチ用とすることを考えると、酸化チタンの好ましい含有量は15重量%以上であり、さらに好ましくは30重量%以上である。一方、70重量%を超えると、ポリマー中の酸化チタン濃度が大きくなるため、溶融紡糸時の濾圧上昇を十分に抑えることができなくなる。
【0026】
防透け性にすぐれた繊維を得るための酸化チタンは二酸化チタンが好ましく、平均粒子径は0.30~1.20μmであることが好ましく、より好ましくは0.35~1.00μmである。酸化チタン粒子の表面は、アルミナ、亜鉛、シリカ等の化合物で処理されていてもよい。また、酸化チタンの分散性を向上させるための分散剤を添加してもよい。
【0027】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは目開き5μmのフィルターを用いて濾過性試験を行ったときの濾圧上昇速度が3.0MPa/hr以下であることが必要である。近年の衣料用繊維は、単繊維の細繊度化が進み、単繊維の太さが10μm以下の原糸が求められるため、5μm以上の異物が存在すると、糸切れや原糸の強度低下といった問題が発生する。そのため、溶融紡糸の段階で濾砂やフィルターなどでの異物除去を強化しているが、異物が多く残っていると濾圧上昇が大きくなるため、濾過フィルター交換に伴うロスが多くなりコストアップする。目開き5μmのフィルターを用いて濾過性試験を行ったときの濾圧上昇速度が3.0MPa/hr以下であれば、濾圧上昇による濾過フィルター交換の頻度を減らすことができ、濾圧上昇速度は、好ましくは2.5MPa/hr以下、さらに好ましくは2.0MPa/hr以下である。
【0028】
一般的に、ポリエステルを重合する際には副生成物としてジエチレングリコール(以下、DEG)が副生し、ポリエステルポリマーに対し0.5~2.0重量%含有する。本発明のカチオン可染性ポリエステルでは、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分をエステル反応中に添加し、かつ酸化チタンをエチレングリコールスラリーで添加することにより、ジエチレングリコールの副生量を増加させることが可能である。好ましくはDEGの含有量(以下、DEG量)を2.5~8.0重量%とすることで、染色性をさらに向上させることが可能である。さらに好ましくは2.9~5.5重量%である。DEG量を8.0重量%以上とした場合、ポリマーとしての耐熱性が低下するため溶融紡糸用途として好ましくない。
【0029】
本発明のカチオン可染性ポリエステルには、ポリエチレングリコールを共重合させることが好ましい。ポリエチレングリコールを共重合させることで、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分による増粘作用を抑制することができるため、酸化チタンの分散性をさらに向上させることが可能となる。ポリエチレングリコールの含有量としては、ポリエステルポリマーに対して0.5~5.0重量%であり、さらに好ましくは、0.5~2.0重量%である。ポリエチレングリコールの種類としては、入手の容易さから、数平均分子量400~10000のものが好ましく使用される。更に好ましくは、界面活性剤の親水性部分との相互作用による減粘効果が高い、数平均分子量600~5000である。
【0030】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分によるポリエステルの増粘作用を抑制するという点から界面活性剤を添加することが好ましい。
【0031】
親水基と疎水基を有する公知のものが用いられるが、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分やポリエチレングリコールと分子構造や分子量が比較的近いものがより相乗効果を発揮するため、界面活性剤は芳香環を有する化合物が好ましい。より好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩である。例えば、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物は、花王(株)製の“デモールN”として入手可能である。特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、親水基部分がスルホン酸塩基を有するイソフタル酸と同一で、スルホン酸塩基が置換している芳香環が類似構造を持ち、また側鎖のアルキル基がポリエチレングリコールとの相互作用を発揮しやすいことから、好ましく使用される。
【0032】
本発明のカチオン可染性ポリエステルに含まれるリチウム原子は、ポリエステルポリマーに対しリチウム元素換算で0.03~0.4モル%であることが好ましい。より好ましくは0.1~0.4モル%である。リチウム原子がこの範囲にあると、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の金属塩部分と塩交換を生じることで、溶融紡糸時の濾圧上昇原因物であるイオン性不純物をポリマー中に溶けやすくすることができ、濾圧上昇が抑制されるため好ましい。界面活性剤を併用する場合はリチウム原子がこの範囲にあると、界面活性剤およびスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の金属塩部分と塩交換を生じることにより、界面活性剤がスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分に配位しやすくなる。配位しやすくなる理由は、リチウム原子の原子半径が最も小さいためであると考える。界面活性剤がスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分に配位しやすくなると、溶融紡糸時の濾過初期圧が低減し、濾圧上昇を抑制することができる。リチウム原子は、公知のリチウム化合物として添加することができる。好ましくは、その入手の容易さから酢酸リチウム・2水和物である。
【0033】
本発明のカチオン可染性ポリエステルに含まれるリン原子は、ポリエステルポリマーに対しリン元素換算で0.005~0.08モル%であることが好ましい。さらに好ましくは0.03~0.05モル%である。リン原子は界面活性剤に直接的に作用することはないが、リチウム原子とリン原子は反応しやすいことから、リン原子と反応したリチウム原子はスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の金属塩部分もしくは界面活性剤と塩交換を起こしにくくなる。このことから、リン原子量を最適化することで、ポリエステルの耐熱性を向上させることができ、界面活性剤を併用している場合は前記リチウム原子の界面活性剤への効果を発現しやすくすることが出来る。リン原子は、公知のリン化合物をとして添加することができる。好ましくはリン酸トリメチル、リン酸である。
【0034】
本発明のカチオン可染性ポリエステルにおいては、シリコーン化合物が抗酸化剤や界面活性剤等の発泡性を抑制するために好ましく使用される。ポリエステルポリマーに対しシリコーン化合物として25ppm以上、250ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、25ppm以上、100ppm以下である。そのシリコーン化合物は、公知のリシコーン化合物を用いることができる。好ましくは、ポリメチルフェニルシロキサンである。ポリメチルフェニルシロキサンは、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社からTSF433として購入することが出来る。
【0035】
本発明のカチオン可染性ポリエステルのカルボキシル末端基量は、繊維製品としての耐熱耐久性を保持するために20~60当量/トンであることが好ましい。さらに好ましくは20~45当量/トンである。カルボキシル末端基量は低いほど耐熱耐久性が優れるが、20当量/トン以下とすると、重合速度が著しく低下するため、コストを考慮すると好ましくない。
【0036】
その他、本発明の目的を損なわない範囲で公知の添加物を含むことが出来る。例えば、酢酸コバルト、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム等の金属酢酸塩に代表されるエステル交換触媒、イルガノックス(登録商標)1010などに代表されるラジカル捕捉剤、酸化チタンとは別のシリカなどの艶消し剤などである。これらは単独もしくは併用して使用することができる。酢酸コバルトの含有量はポリエステルポリマーに対しコバルト元素量換算で5~50ppmが好ましい。酢酸マンガンの含有量はマンガン元素量換算で20~80ppmが好ましい。
【0037】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは具体的には次のように製造することができる。
【0038】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールとでエステル化反応もしくはエステル交換反応(以下、あわせてエステル化反応と表現することがある)を行い、全ジカルボン酸成分に対してスルホン酸を有するイソフタル酸成分1.0~3.0モル%と、ポリエステルポリマーに対して5.0重量%以上の酸化チタンを適切なタイミングで添加した後、重縮合触媒の存在下で重縮合することで製造することができる。
【0039】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法としてのエステル化反応は、予めエステル反応槽に低重合体を存在させた状態で、エチレングリコールとテレフタル酸のモル比率が1.05~1.50のスラリーをエステル反応槽に連続的に供給しながら反応で生成する水を反応系外へ留去することでエステル反応を行うことが出来る。または、予めエステル反応槽に低重合体を存在させた状態で、エステル化反応開始前にエチレングリコールとテレフタル酸をエステル反応槽に全量添加した後、エステル化反応を行っても良い。
【0040】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法としてのエステル交換反応は、そのエチレングリコールとテレフタル酸ジメチルをエステル交換反応槽に仕込み、反応で生成するメタノールを反応系外へ留去することで進行させることができる。また、エチレングリコールとテレフタル酸のモル比は1.5~2.5程度であることがエステル交換反応速度やジエチレングリコールなどの副生成を適度にコントロールすることが出来るため好ましい。
【0041】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法においては、ジエチレングリコールの副生量を制御するために水酸化テトラエチルアンモニウムの20重量%含有水溶液(以下、EAH20)や水酸化カリウムなどの塩基性化合物を用いてもよく、これら塩基性化合物は併用してもよい。特に、他の添加物との相互作用が生じにくいため、EAH20が好ましく用いられる。
【0042】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法において用いられるエステル交換触媒は公知の触媒を用いることが出来る。例えば、コバルト、マグネシウム、マンガン、チタンの酸化物や酢酸塩などが好ましく使用される。これらは混合して使用してもよく、単一でも用いても何ら差し支えない。
【0043】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法として、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の添加時期は、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分が、主骨格であるエチレンテレフタレート単位に取り込まれやすくするために、エステル反応中であることが好ましい。さらに好ましくは、ジアルキレングリコールの副生量を制御するため、ジカルボン酸成分またはそのエステル誘導体とジオール成分との反応率が95%以上となってからが好ましく、さらに好ましくはエステル反応率が98%以上である。
【0044】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法として、酸化チタンの添加時期は、未反応のスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分が存在すると、酸化チタン凝集の原因となるため、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分がエチレンテレフタレート単位に十分に取り込まれた後に添加することが好ましい。スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を添加してから15分以上攪拌混合した後に添加することが好ましく、さらに好ましくは20分以上である。
【0045】
また、エステル反応槽で酸化チタンを添加する際の反応溶液の温度は210~245℃を保持することが好ましい。この範囲であれば、反応溶液の粘度低いため酸化チタンを分散させるのに十分であり、かつスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分に起因する酸化チタンの凝集や、その他の触媒などとの反応による異物の生成を抑制することができる。さらに好ましくは220~240℃である。
【0046】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは多量の酸化チタンを添加するため、その分散性の観点から、エステル反応槽またはエステル交換反応槽(以下、あわせてエステル反応槽と表現することがある)でジカルボン酸またはそのエステル誘導体とジオール成分との反応率が95%以上となった時点と、その後溶媒のエチレングリコールを留去させ、重合反応槽に反応溶液を移液し、減圧し、重縮合反応を行う前段階に分割して添加することが好ましい。反応溶液中の酸化チタン濃度が高い時点でエチレングリコールが多く存在すると、エステル交換反応により再生成したスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分のモノマーの影響により酸化チタンが凝集するためである。エステル反応槽で添加する酸化チタン量は、ポリエステルポリマーに対して25%以下であることが好ましく、また、重合反応槽で添加する酸化チタン量は、ポリエステルポリマーに対して25%以下であることが好ましい。エステル化反応槽で添加する酸化チタン量と重合反応槽で添加する酸化チタン量の割合は、10:1~1:1の割合とすることが好ましい。重合反応を開始する前の段階で酸化チタンを添加する際の反応溶液の温度は溶液の粘度を低下させる点で220~255℃に保持することが好ましい。さらに好ましくは230~245℃である。
【0047】
また添加する酸化チタンはエチレングリコールと混合したスラリー状で添加することが、酸化チタンがエステル反応槽および重合反応槽内に素早く拡散させる点で好ましく、またこれによりDEG量の調整が可能となる。スラリー中の酸化チタン濃度は5.0~25.0重量%が好ましく、さらに好ましくは10.0~20.0重量%である。
【0048】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法において、ポリエチレングリコールを添加する場合、その添加時期は、熱履歴を最小限とするために重合反応を開始する直前が好ましい。
【0049】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法において、界面活性剤を添加する場合、その添加時期は、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分を添加する時期と同一であることが好ましく、この際スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分と事前に混合しておくことが好ましい。同一の時期に反応系に添加することで、界面活性剤がスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分に配位しやすくなり、その結果として増粘作用を抑制しやすくなるため好ましい。界面活性剤とスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の混合時間は特に限定されないが、界面活性剤をスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分に配位しやすくするため、反応系へ添加する15分以上前に予め混合しておくことが好ましい。
【0050】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法として、リチウム化合物は、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分と混合したのちに反応系へ添加することが、金属塩との交換が好適に行われ、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分との配位が生じやすくなるため好ましい。
【0051】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法として、リン化合物およびシリコーン化合物は、重合反応が開始する前の任意の段階で添加することができる。
【0052】
本発明のカチオン可染性ポリエステルの製造方法として用いられる重縮合触媒は公知の重縮合触媒を用いることが出来る。例えば、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物などが好ましく使用される。これらは混合して使用してもよく、単一で用いてもよい。
【0053】
本発明のカチオン可染性ポリエステルを製造するためのエステル化もしくはエステル交換反応および重縮合反応装置は通常用いられる反応装置であればどのような装置であっても構わないが、酸化チタンを効率良く攪拌し、分散性の良いポリエステルポリマーを得るためにはバッチ式の重合設備が好ましい。バッチ式の場合、一般的にエステル反応槽でエステル化もしくはエステル交換反応を行った後、重合反応槽に移液し、重合反応を進める。連続バッチ重合を行う場合は、エステル反応槽をエチレングリコールやテレフタル酸、およびスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分をエステル化もしくはエステル交換反応させる槽と酸化チタンを添加する槽に分割することが、スルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分による酸化チタンの凝集を抑制する点からして好ましい。
【0054】
本発明のカチオン可染性ポリエステルは、酸化チタンを高濃度で含有し、かつ酸化チタンの分散性が良好であるため、濾過性試験での濾圧上昇が少ないポリエステルポリマーである。従って、本発明のカチオン可染性ポリエステルを用いた場合、溶融紡糸時の濾圧上昇が抑制され、かつ防透け性、発色性に優れたポリエステル繊維を提供することができる。
【実施例】
【0055】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0056】
(1)ジカルボン酸またはそのエステル誘導体とジオール成分との反応率の算出
ジカルボン酸とジオールとの反応では水が、ジカルボン酸ジメチルとジオールとの反応ではメタノールが生成する。ジカルボン酸またはそのエステル誘導体の仕込み量から100%反応した際の理論生成量と、実際に反応系外に留去した水、メタノールの量から反応率を求めた。
【0057】
(2)ポリエステルの固有粘度(IV)
試料0.1gをオルソクロロフェノール10mlに100℃、30分で溶解し、オストワルト粘度計を用いて25℃で測定した。
【0058】
(3)ポリエステルのジエチレングリコール(DEG)含有量
試料0.5gをモノメタノールアミンで加水分解後、1,6-ヘキサンジオール/メタノールで希釈し、テレフタル酸で中和した後、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から求めた。
【0059】
(4)ポリエステル中のスルホン酸塩基を有するイソフタル酸成分の定量
試料をトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A-600 超伝導FT-NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、各プロトン量により定量した。
【0060】
(5)ポリエステル中の酸化チタン量の定量
ポリマー中のTi元素含有量を(株)リガク製蛍光X線分析装置(ZSX-100e)を用いてTiに対する傾向X線強度を求め、あらかじめ作成した検量線により測定した。
【0061】
(6)濾過性試験での濾圧上昇速度
150℃で8時間、133Pa以下の真空下で乾燥したチップを、濾過性試験機(富士フィルター工業(株)製メルトスピニングテスターCII)を用いて、濾圧上昇速度を測定した。フィルターは(株)渡辺義一製作所製ダイナロイフィルターX5(目開き5μm、濾過面積4.5cm2)を使用し、ポリマー温度300℃、通過量10g/分で濾過を行った。フィルター取り付け後1時間経過時点の濾圧と2時間経過時点の濾圧との差を測定し、濾圧上昇速度(MPa/hr)とした。
【0062】
(7)紡糸時の濾圧上昇(紡糸ΔP)の測定
直径95mmの目開き15ミクロン不織布フィルターを用い、吐出量70g/分でポリエステルを温度285℃で溶融濾過し、押し流し開始から2時間後の不織布フィルターの入り側圧力を紡糸時初期圧とした。
【0063】
その後、不織布フィルターの入り側の圧力が25MPaに到達するまでの経過日数を元に、式1によりMPa/日で算出し、以下の基準で判定した。
(25.0-紡糸時初期圧)/経過日数=紡糸時の濾圧上昇[MPa/日]・・・式1
○:2.5MPa/日 未満
×:2.5MPa/日 以上。
【0064】
(8)染色性(L値)
実施例・比較例で得られた延伸糸を2本合糸(150dtex)にて22ゲージで筒編み地を作製し、この筒編み地をC.I.Basic Blue66の5%owf、酢酸0.5ml/l、酢酸ソーダ0.2g/lからなる、浴比1:100の95℃熱水溶液中で60分間染色を行い、色差計(スガ試験機製、SMカラーコンピュータ型式SM-T45)を用いて色調L値を求め、以下の基準で判定した。
【0065】
〇:45 未満
×:45 以上
(9)防透け性
実施例・比較例で得られた延伸糸を2本合糸(150dtex)にて22ゲージで筒編み地を作製し、この筒編み地の5cm×5cmのサンプルを太メッシュの柄台紙に貼り付け、熟練者5名による肉眼法で官能評価を行い、防透け性の高いものを〇、防透け性の低いものを×と判定法で評価し、各者〇×を付け、多数決で判断した。
【0066】
[参考例1]
(エステル交換反応)
精留塔を備えた反応槽に、エチレングリコール/テレフタル酸ジメチルのモル比率が2.0となるように、エチレングリコールとテレフタル酸ジメチルを添加し、エステル交換触媒として酢酸コバルト・4水和物を得られる低重合体中に400ppm含有するよう添加した。その後、反応槽の温度を140℃から235℃まで昇温させながら、メタノールを留去させてエステル交換反応を行いビスヒドロキシエチルテレフタレートの低重合体を得た。この時のエステル交換反応率は98%だった。
【0067】
[参考例2]
(酸化チタンを含まないカチオン可染性ポリエステルの製造)
ビスヒドロキシエチルテレフタレートの低重合体が1750kg存在しているエステル反応槽に、エチレングリコール/テレフタル酸のモル比が1.15のスラリーを3時間かけて連続して供給し、精留塔上段からエステル反応時に生じる水のみを留去させ、反応槽温度を245℃に保ちながら、エステル化反応率が98%となるまで反応を行った。次に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の両末端がエチレングリコールに置換されたもの(以下、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジEGエステルと称す)を得られるポリエステルに対して1.8モル%と酢酸リチウム・2水和物を得られるポリエステルに対し0.30モル%を予め30分間混合し、エステル反応槽に約10分かけて添加し、約30分間加熱混合した。得られた5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジEGを含む低重合体は3185kgだった。こうして得られた低重合体のうち、1435kgを10ミクロンのフィルターで濾過しながら重合反応槽へ移液した。
【0068】
重合反応槽へ移液された低重合体に、シリコーン化合物(製品名:TSF-433、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を得られるポリエステルに対し50ppmとなるように添加し、添加から1分後にリン酸を、得られるポリエステルに対し0.040モル%になるように添加した。リン酸添加から7分後に、イルガノックス1010を得られるポリエステルに対し900ppm、酢酸コバルトを得られるポリエステルに対してコバルト換算で60ppm、三酸化アンチモンを得られるポリエステルに対しアンチモン元素換算で225ppmとなるように添加した。添加終了から3分後に数平均分子量1000のポリエチレングリコールを得られるポリエステル組成物に対して1.0重量%となるように添加した。添加終了後、2分経過した後に、常圧から0.1kPaになるまで40分かけて減圧を行い、290℃まで昇温を行い、0.1kPa以下の高真空を維持して、固有粘度(IV)が0.69dl/gになるまで重縮合反応を行った。得られたポリエステルのDEG量は2.9重量%であった。
【0069】
[実施例1]
ビスヒドロキシエチルテレフタレートの低重合体が1750kg存在しているエステル反応槽に、エチレングリコール/テレフタル酸のモル比が1.15のスラリーを3時間かけて連続して供給し、精留塔上段からエステル反応時に生じる水のみを留去させ、反応槽温度を245℃に保ちながら、エステル化反応率が98%となるまで反応を行った。次に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸の両末端がエチレングリコールに置換されたもの(以下、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジEGエステルと称す)を得られるポリエステルに対して1.8モル%と酢酸リチウム・2水和物を得られるポリエステルに対し0.30モル%を予め30分間混合し、エステル反応槽に約10分かけて添加し、攪拌しながら約30分間加熱混合した。得られた5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジEGを含む低重合体は3185kgだった。このうち、1435kgをエステル反応槽へ移液し、二酸化チタン(商品名:TA-100富士チタン社製)のエチレングリコールスラリー(エチレングリコール中の酸化チタン濃度13.0重量%)を得られるポリエステルポリマーに対して17.0重量%の添加量を攪拌速度100rpmで攪拌しながら約20分かけて添加し、約30分間加熱混合した。二酸化チタンを添加しているときの反応溶液の最低温度は224℃であった。こうして得られた低重合体を10ミクロンのフィルターで濾過しながら重合反応槽へ移液した。
【0070】
重合反応槽へ移液された低重合体に、シリコーン化合物(製品名:TSF-433、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を得られるポリエステルに対し50ppmとなるように添加し、添加から1分後にリン酸を得られるポリエステルに対し0.040モル%になるように添加した。リン酸添加から7分後に、イルガノックス1010を得られるポリエステルに対し900ppm、酢酸コバルトを得られるポリエステルに対してコバルト換算で60ppm、三酸化アンチモンを得られるポリエステルに対しアンチモン元素換算で225ppmとなるように添加した。添加終了から3分後に数平均分子量1000のポリエチレングリコールを得られるポリエステル組成物に対して1.0重量%となるように添加し、添加終了から3分後に、酸化チタン(酸化チタンのエチレングリコールスラリー、エチレングリコール中の酸化チタン濃度13.0重量%)を得られるポリエステルに対し3.0重量%の添加量を約5分かけて添加した。二酸化チタンを添加しているときの反応溶液の最低温度は245℃であった。添加終了後、2分経過した後に、常圧から0.1kPaになるまで40分かけて減圧を行い、290℃まで昇温を行い、0.1kPa以下の高真空を維持して、固有粘度(IV)が0.60dl/gになるまで重縮合反応を行った。その後、常圧に戻し重合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエステルポリマーのペレットを得た。得られたポリエステルのDEG量は3.5重量%、濾過性試験による濾圧上昇速度は2.0MPa/hrであり酸化チタン分散性に優れていた。
【0071】
(紡糸方法)
このポリエステルチップと参考例2のポリエステルチップをブレンドし、酸化チタン含有量が全ポリエステルポリマーに対して5.0重量%となるようにした後に乾燥し、その後溶融紡糸した。紡糸温度293℃にて、直径95mmの15ミクロン不織布フィルターで濾過しながら吐出量70g/分の溶融ポリエステルを、吐出口径0.25mm、孔深度0.35mmの丸孔を96個有する口金ノズルより吐出させて、吐出後の糸条は冷却チムニーによって0.5m/秒の冷却風で冷却・固化され、口金下2mの位置で給油装置にて集束させながら油剤を付与し(純油分として繊維重量に対して1重量%塗布)、交絡ノズルにて流体として圧縮空気を用い作動圧0.25MPaで予備交絡を施し、周速度2750m/分の第1ゴデットロール、および第2ゴデットロールにて引き取り、130dtex、48フィラメントの未延伸糸を12kg巻いたチーズパッケージとした。なお、巻取機の周速度は2720m/分とした。紡糸ΔPは2.1MPa/日であり、安定操業を行うことができた。
【0072】
(延伸仮撚り方法)
得られた未延伸糸を、ディスク仮撚り機を用い、ヒーター温度180℃、延伸速度400m/分、DY比1.55、延伸倍率1.7倍で延伸仮撚り加工を行い、75dtex、36フィラメントの加工糸を得た。
【0073】
(染色性、防透け性)
この得られた加工糸を用いて筒編み地を作製し、上記(8)、(9)の方法で測定し、優れた染色性、防透け性を有していた。
【0074】
[実施例2~7]
表1に記載の条件で行う以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを製造し、製糸評価を行った。表1に示すとおり、ポリエステルの品質は良好であり、製糸評価も良好な結果であった。
【0075】
[実施例8]
精留塔を備えたエステル交換反応槽にテレフタル酸ジメチルを1200kgとエチレングリコールを940kg、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを得られるポリエステル中の全酸成分に対して1.8モル%、イルガノックス1010を得られるポリエステルに対し900ppm、シリコーン化合物(製品名:TSF-433、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)を得られるポリエステルに対し50ppmとなるように仕込み、攪拌しながら200℃以下で溶解した。その後、アンチモン化合物をアンチモン元素換算で400ppm、酢酸リチウム・2水和物を1600ppm含有するように添加した。その後、エステル交換反応槽の温度が240℃となるまで徐々に昇温しながら、エステル交換反応時に発生するメタノールを反応系外に留去させエステル化反応率が98%となるまで約180分間反応を進行させた。その後、数平均分子量1000のポリエチレングリコールを得られるポリエステル組成物に対して1.0重量%となるように添加し、添加終了から3分後に、二酸化チタン(二酸化チタンのエチレングリコールスラリー、エチレングリコール中の酸化チタン濃度13.0重量%)を得られるポリエステルポリマーに対して17.0重量%の添加量を攪拌速度100rpmで攪拌しながら約20分かけて添加し、約30分間加熱混合した。二酸化チタンを添加しているときの反応溶液の最低温度は224℃であった。こうして得られた低重合体を10ミクロンのフィルターで濾過しながら重合反応槽へ移液した。
【0076】
重合反応槽へ移液後、酸化チタン(酸化チタンのエチレングリコールスラリー、エチレングリコール中の酸化チタン濃度13.0重量%)を得られるポリエステルに対し3.0重量%の添加量を約5分かけて添加した。二酸化チタンを添加しているときの反応溶液の最低温度は245℃であった。添加終了後、2分経過した後に、常圧から0.1kPaになるまで40分かけて減圧を行い、290℃まで昇温を行い、0.1kPa以下の高真空を維持して、固有粘度(IV)が0.60dl/gになるまで重縮合反応を行った。その後、常圧に戻し重合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエステルポリマーのペレットを得た。
【0077】
得られたポリエステルの品質は表1に示すとおり良好であり、製糸評価も良好な結果であった。
【0078】
【0079】
[比較例1~4、7~10]
表2に記載の条件で行う以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを製造し、製糸評価を行った。
【0080】
[比較例5]
ビスヒドロキシエチルテレフタレートの低重合体が1750kg存在しているエステル反応槽に、酸化チタンを添加した後にエチレングリコール/テレフタル酸を供給した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを製造し、製糸評価を行った。
【0081】
[比較例6]
5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジEGエステルを添加後、5分後に酸化チタンを添加した以外は実施例1と同様の方法でポリエステルを製造し、製糸評価を行った。
【0082】
[比較例11]
参考例2のポリエステルチップに、得られるポリエステルに対して30重量%の含有量となるように二酸化チタン(粉体)を溶融混練した。サイドフィーダー付二軸押出機(商品名「TEM-35B」、東芝機械社製)を用いてホッパー側から上記樹脂を供給し、サイドフィーダー側からは上記二酸化チタンを供給して溶融混練し、その後ストランド状に吐出して冷却後、カッティングしてポリエステルポリマーのペレットを得た。得られたポリエステルを用いて実施例1と同様の方法で製糸評価を実施した。
【0083】