IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-精紡機 図1
  • 特許-精紡機 図2
  • 特許-精紡機 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】精紡機
(51)【国際特許分類】
   D01H 5/72 20060101AFI20230328BHJP
   D01H 5/66 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
D01H5/72
D01H5/66
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019113472
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020204125
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江平
(72)【発明者】
【氏名】槌田 大輔
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035463(JP,A)
【文献】特開2013-023808(JP,A)
【文献】特開2004-218105(JP,A)
【文献】特開2005-082956(JP,A)
【文献】米国特許第06336259(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 5/72
D01H 5/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置によってドラフトされた繊維束を集束する繊維束集束装置を備える精紡機において、
前記ドラフト装置は、第1の駆動ローラおよび第1の従動ローラによって構成される最終送り出しローラ対を有し、
前記繊維束集束装置は、前記最終送り出しローラ対よりも下流側に配置されると共に、第2の駆動ローラおよび第2の従動ローラによって構成されるニップローラ対と、前記ニップローラ対よりも上流側でかつ前記最終送り出しローラ対よりも下流側に配置される吸引パイプと、前記吸引パイプに巻き掛けられ、前記第2の駆動ローラには巻き掛けられていない通気エプロンとを備え、
前記第1の駆動ローラと前記第2の駆動ローラとの周速比を変更可能であると共に、
前記第1の従動ローラまたは前記第2の従動ローラが、ローラ対を構成する前記第1の駆動ローラまたは前記第2の駆動ローラと、前記通気エプロンが巻き掛けられた前記吸引パイプとに押し付けられるように、前記第1の従動ローラまたは前記第2の従動ローラを加圧する加圧機構を具備し、
前記吸引パイプに巻き掛けられた前記通気エプロンは、前記第1の従動ローラまたは前記第2の従動ローラの回転にしたがって周回移動する
ことを特徴とする精紡機。
【請求項2】
前記加圧機構は、前記第1の従動ローラまたは前記第2の従動ローラの回転支軸を支持するホルダを備え、
前記ホルダは、前記加圧機構によって前記第1の従動ローラまたは前記第2の従動ローラを加圧する場合に、前記回転支軸の前記第1の駆動ローラまたは前記第2の駆動ローラと前記吸引パイプとが隣り合う方向の動きを許容しつつ前記回転支軸を支持する
請求項1に記載の精紡機。
【請求項3】
前記ホルダは、前記回転支軸に対し、前記第1の駆動ローラまたは前記第2の駆動ローラと前記吸引パイプとが隣り合う方向に隙間を形成した支持部を有する
請求項2に記載の精紡機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束集束装置を備える精紡機に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機には、ドラフト装置でドラフトされた繊維束を撚り掛けの前に予め集束し、毛羽の低減等の糸品質の向上を目的とした繊維束集束装置を備えたものがある。たとえば、特許文献1には、ドラフト装置の最終送り出しローラ対の下流側にニップローラ対を設けると共に、このニップローラ対と最終送り出しローラ対との間に吸引パイプを設け、ニップローラ対のボトムローラと吸引パイプとガイド部とに通気エプロンを巻き掛けた構成が記載されている。特許文献1に記載された構成では、ニップローラ対のボトムローラに通気エプロンを巻き掛け、ニップローラ対のトップローラとボトムローラとの間に通気エプロンを挟んでボトムローラを回転させることにより、通気エプロンを周回移動させることができる。
【0003】
また、特許文献2には、ドラフト装置の最終送り出しローラ対の下流側に、ニップローラと吸引パイプとを設けると共に、吸引パイプに通気エプロンを巻き掛けた構成が記載されている。特許文献2に記載された構成では、通気エプロンが巻き掛けられた吸引パイプに対してニップローラを加圧により接触させ、この状態でニップローラを回転させることにより、通気エプロンを周回移動させることができる。
【0004】
また、特許文献3には、ドラフト装置の下流側に、トップローラとボトムローラからなるニップローラ対を設けると共に、トップローラの上流側に吸引パイプを設け、この吸引パイプとトップローラとに通気エプロンを巻き掛けた構成が記載されている。特許文献3に記載された構成では、通気エプロンが巻き掛けられたトップローラをボトムローラに加圧により接触させ、この状態でボトムローラを回転させることにより、通気エプロンを周回移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-095233号公報
【文献】特開2000-034631号公報
【文献】特開2000-170043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載された技術には、以下のような課題があった。
一般に、ドラフト装置の最終送り出しローラ対とこれよりも下流側に設けられるニップローラ対との周速比(以下、単に「周速比」ともいう。)は、糸品質(糸の毛羽、ムラ、強さなど)に大きく影響することが知られている。このため、糸品質を良好に維持するには周速比が安定していることが重要である。ただし、一方では、糸の原料によって周速比の最適値が異なることが知られている。したがって、周速比は糸の原料に応じて容易に変更できる構成になっていることが望ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、少数のユニット単位で、最終送り出しローラ対のボトムローラからニップローラ対のボトムローラ(以下、「ニップボトムローラ」ともいう。)へと回転駆動力を歯車伝達機構により伝達しており、特許文献2に記載された技術でも、少数のユニット単位で、最終送り出しローラ対のトップローラからニップローラへと回転駆動力を駆動ベルトにより伝達している。このため、周速比を変更するには、その都度、数多くの部品を交換する必要があり、現実的には周速比の変更に対応できない。また、特許文献1に記載の技術では、交換部品の数を減らすために、ニップボトムローラを1つの軸で連結する構成も考えられる。ただし、ニップボトムローラには通気エプロンが巻き掛けられているため、ニップボトムローラを1つの軸で連結すると、通気エプロンの交換が困難になるという別の問題が生じる。
【0008】
一方、特許文献3に記載の技術では、トップローラと同じ側(トップ側)に吸引パイプを設け、この吸引パイプの下を繊維束が移動する構成になっている。このため、精紡機の運転中に繊維束の集束状態を目視等で確認することができず、トラブル発生時の発見が遅くなるという課題がある。また、トップローラ(ゴム製のローラ)は摩耗によって真円度などに狂いが生じるため、その狂いをなくすためにトップローラを研磨すると、研磨によるローラ径の変化によって吸引パイプの位置にずれが生じ、糸品質が悪化するという別の課題が生じる。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、最終送り出しローラ対のトップローラとニップローラとを定期的に研磨する場合、研磨の前後で両ローラの径の比が変わると、それによって周速比が変わることになる。このため、ローラの研磨によって糸品質が低下しないように、両ローラを同じタイミングで研磨する必要があるなど、ローラ径の管理を厳密に行う必要がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、ドラフト装置の最終送り出しローラ対とニップローラ対との周速比を変更可能であるとともに、ローラの研磨に伴う周速比の変化を抑制することができる精紡機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ドラフト装置によってドラフトされた繊維束を集束する繊維束集束装置を備える精紡機において、ドラフト装置は、第1の駆動ローラおよび第1の従動ローラによって構成される最終送り出しローラ対を有し、繊維束集束装置は、最終送り出しローラ対よりも下流側に配置されると共に、第2の駆動ローラおよび第2の従動ローラによって構成されるニップローラ対と、ニップローラ対よりも上流側でかつ最終送り出しローラ対よりも下流側に配置される吸引パイプと、吸引パイプに巻き掛けられ、第2の駆動ローラには巻き掛けられていない通気エプロンとを備え、第1の駆動ローラと第2の駆動ローラとの周速比を変更可能であると共に、第1の従動ローラまたは第2の従動ローラが、ローラ対を構成する第1の駆動ローラまたは第2の駆動ローラと、通気エプロンが巻き掛けられた吸引パイプとに押し付けられるように、第1の従動ローラまたは第2の従動ローラを加圧する加圧機構を具備し、吸引パイプに巻き掛けられた通気エプロンは、第1の従動ローラまたは第2の従動ローラの回転にしたがって周回移動する。
【0012】
本発明に係る精紡機において、加圧機構は、第1の従動ローラまたは第2の従動ローラの回転支軸を支持するホルダを備え、ホルダは、加圧機構によって第1の従動ローラまたは第2の従動ローラを加圧する場合に、回転支軸の第1の駆動ローラまたは第2の駆動ローラと吸引パイプとが隣り合う方向の動きを許容しつつ回転支軸を支持するものであってもよい。
【0013】
本発明に係る精紡機において、ホルダは、回転支軸に対し、第1の駆動ローラまたは第2の駆動ローラと吸引パイプとが隣り合う方向に隙間を形成した支持部を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドラフト装置の最終送り出しローラ対とニップローラ対との周速比を変更可能であるとともに、ローラの研磨に伴う周速比の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る精紡機の要部の構成を示す概略側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る精紡機において、ニップトップローラを加圧するための加圧機構の構成を説明するための概略側面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る精紡機の要部の構成を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る精紡機の要部の構成を示す概略側面図である。以降の説明では、精紡機における繊維束の送り方向を基準に、一方側を上流側、他方を下流側と記載する。
【0017】
図1に示すように、ドラフト装置1は、フロントローラ対2を備えている。フロントローラ対2は、ドラフト装置1の最終送り出しローラに相当するものである。ドラフト装置1でドラフトされた繊維束は、フロントローラ対2の回転によって下流側に送り出される。ドラフト装置1は、フロントローラ対2の他に、図示しないミドルローラ対およびバックローラ対を備え、各々のローラ対の周速差を利用して繊維束をドラフトする。
【0018】
フロントローラ対2は、フロントトップローラ2aとフロントボトムローラ2bとによって構成されている。フロントトップローラ2aはゴム製のローラによって構成され、フロントボトムローラ2bは金属製のローラによって構成される。フロントトップローラ2aは、所定の加圧力でフロントボトムローラ2bに接触している。フロントトップローラ2aは第1の従動ローラに相当し、フロントボトムローラ2bは第1の駆動ローラに相当する。ここで、駆動ローラとは、駆動源によって回転駆動されるローラをいい、従動ローラとは、駆動ローラの回転にしたがって回転するローラをいう。ドラフト装置1(フロントローラ対2)の下流側には、繊維束集束装置3が配置されている。
【0019】
繊維束集束装置3は、ドラフト装置1でドラフトされた繊維束を集束する装置である。繊維束集束装置3は、吸引パイプ5と、この吸引パイプ5に巻き掛けられた通気エプロン6と、吸引パイプ5を間に置いてフロントローラ対2と反対側(下流側)に配置されたニップローラ対7とを備えている。
【0020】
吸引パイプ5は、図示しない吸引孔を備えた案内面5aを有し、この案内面5aを覆うように吸引パイプ5に通気エプロン6が巻き掛けられている。吸引パイプ5の案内面5aには、後述するガイド部8によって通気エプロン6に加えられるテンションにより、通気エプロン6が密着している。通気エプロン6は、無端状のベルト構造を有するもので、たとえば、適度な通気性を有するメッシュ状の織布によって形成される。通気エプロン6は、吸引パイプ5とガイド部8とに巻き掛けられ、ニップボトムローラ7bには巻き掛けられていない。ガイド部8は、通気エプロン6に適度なテンションを付与しつつ通気エプロン6の移動を案内するものである。
【0021】
ニップローラ対7は、ニップトップローラ7aとニップボトムローラ7bとによって構成されている。ニップトップローラ7aはゴム製のローラによって構成され、ニップボトムローラ7bは金属製のローラによって構成される。ニップトップローラ7aは第2の従動ローラに相当し、ニップボトムローラ7bは第2の駆動ローラに相当する。ここで、フロントローラ対2とニップローラ対7との関係において、フロントボトムローラ2bとニップボトムローラ7bとの周速比は変更可能に構成されている。具体的には、フロントボトムローラ2bとニップボトムローラ7bとをそれぞれ独立した駆動源によって回転駆動する構成を採用すればよい。また、フロントボトムローラ2bとニップボトムローラ7bとを共通の駆動源によって回転駆動する場合は、駆動源の駆動力をフロントボトムローラ2bとニップボトムローラ7bとに伝達する駆動力伝達機構を交換可能な構成を採用してもよい。駆動力伝達機構としては、たとえば、歯車伝達機構を採用することが可能である。
【0022】
ニップトップローラ7aは、このニップトップローラ7aとローラ対を構成する駆動ローラであるニップボトムローラ7bにA点で押し付けられている。また、ニップトップローラ7aは、通気エプロン6が巻き掛けられた吸引パイプ5にB点で押し付けられている。このため、B点においては、吸引パイプ5の案内面5aとニップトップローラ7aの外周面との間に通気エプロン6が挟み込まれている。ただし、ドラフト装置1でドラフトされた繊維束を繊維束集束装置3で集束する場合は、ニップトップローラ7aと通気エプロン6との間、および、ニップトップローラ7aとニップボトムローラ7bとの間に、それぞれ繊維束が挟み込まれることになる。
【0023】
図2は、本発明の第1実施形態に係る精紡機において、ニップトップローラを加圧するための加圧機構の構成を説明するための概略側面図である。
図2に示すように、加圧機構11は、バネ部材15と、このバネ部材15に取り付けられたホルダ16とを備えている。バネ部材15は、所定の形状に曲げられた板バネによって構成されている。バネ部材15の固定端(上端)は、図示しないウェイティングアームに固定されている。
【0024】
ホルダ16は、バネ部材15の自由端(下端)側に取り付けられている。ホルダ16は、ニップトップローラ7aの回転支軸7cを支持するものである。回転支軸7cは、ニップトップローラ7aと同心状に配置されている。ホルダ16には、ニップトップローラ7aの回転支軸7cを支持する支持部17が形成されている。支持部17は、ニップトップローラ7aの回転支軸7cと係合することにより、回転支軸7cを支持するものである。
【0025】
吸引パイプ5とニップボトムローラ7bとは、Z方向で隣り合うように並んでいる。このため、Z方向は、吸引パイプ5とニップボトムローラ7bとが隣り合う方向に相当する。これに対し、支持部17は、Z方向で回転支軸7cの動きを許容するように、Z方向に長い長孔状に形成されている。支持部17の長手寸法は、回転支軸7cの直径よりも長く設定されている。このため、支持部17に回転支軸7cを係合させた状態では、支持部17の長手方向に隙間が生じ、この隙間の存在により支持部17内で回転支軸7cがZ方向に自由に動ける状態になる。すなわち、支持部17は、ニップトップローラ7aの回転支軸7cに対し、吸引パイプ5とニップボトムローラ7bとが隣り合う方向に隙間を形成している。
【0026】
支持部17の上側には、支持部17に対して回転支軸7cを出し入れできるように切り欠き部17aが形成されている。また、ニップトップローラ7aとニップボトムローラ7bとの押圧点Aにおける、ニップボトムローラ7bの接線L1と、通気エプロン6が巻き掛けられた吸引パイプ5とニップトップローラ7aとの押圧点Bにおける、吸引パイプ5の接線L2とのなす形状は、ニップボトムローラ7b及び吸引パイプ5側に窪む凹形状となっている。
【0027】
上記構成からなる加圧機構11においては、ニップトップローラ7aの回転支軸7cをホルダ16の支持部17に係合させて支持し、この状態でバネ部材15の付勢力によってニップトップローラ7aを吸引パイプ5とニップボトムローラ7bとに向かって押し付ける。このとき、支持部17内で回転支軸7cがZ方向に移動することにより、ニップトップローラ7aの位置は、吸引パイプ5に巻き掛けられた通気エプロン6とニップボトムローラ7bとの両方に押し付けられる位置に自動的に調整される。このため、加圧中にニップトップローラ7aの動きを抑制し、ニップトップローラ7aの位置を一定に維持することができる。
【0028】
次に、本発明の第1実施形態に係る精紡機の動作について説明する。
まず、ドラフト装置1でドラフトされた繊維束はフロントローラ対2によって繊維束集束装置3へと送り出される。繊維束集束装置3に送り出された繊維束は吸引パイプ5の案内面5aを通気エプロン6と共に移動した後、ニップローラ対7にニップされ、ニップローラ対7によってさらに下流側へと送り出される。
【0029】
その際、フロントトップローラ2aはフロントボトムローラ2bの回転にしたがって回転し、ニップトップローラ7aはニップボトムローラ7bの回転にしたがって回転する。このため、フロントトップローラ2aの周速はフロントボトムローラ2bの周速と同じになり、ニップトップローラ7aの周速はニップボトムローラ7bの周速と同じになる。したがって、たとえば、フロントボトムローラ2bとニップボトムローラ7bとがそれぞれ独立した駆動源によって回転駆動する構成となっている場合は、フロントボトムローラ2bの駆動源およびニップボトムローラ7bの駆動源のうち、少なくともいずれか一方の駆動源によってローラの回転数(周速)を変更することにより、フロントローラ対2とニップローラ対7との周速比を変更することができる。よって、フロントローラ対2とニップローラ対7との周速比を糸の原料に応じた最適値に設定することができる。
【0030】
また、ニップトップローラ7aを研磨した場合は、研磨の前後でニップトップローラ7aの直径が変化する。ただし、上述したとおりニップトップローラ7aの周速はニップボトムローラ7bの周速と同じになる。すなわち、ニップトップローラ7aは、研磨の有無にかかわらず、常にニップボトムローラ7bと同じ周速で回転する。このため、ニップトップローラ7aを研磨しても、ニップトップローラ7aの周速は変化しない。この点は、フロントローラ対2についても同様である。したがって、ローラの研磨に伴う周速比の変化を抑制することができる。
【0031】
一方、吸引パイプ5に巻き掛けられた通気エプロン6は、ニップトップローラ7aの回転にしたがって周回移動する。このため、通気エプロン6の移動速度は、ニップトップローラ7aの周速によって決まる。よって、上述のようにニップトップローラ7aの研磨前後でニップトップローラ7aの周速が変化しなければ、通気エプロン6の移動速度も変化することはない。したがって、フロントローラ対2とニップローラ対7との周速比を糸の原料に応じた最適値に設定した後は、ニップトップローラ7aを研磨した場合にも、その最適な設定状態を維持することができる。
【0032】
また、本第1実施形態においては、吸引パイプ5の下流側にニップローラ対7を設け、このニップローラ対7によって繊維束を引き込む構成になっている。このため、吸引パイプ5の案内面5a上を移動する通気エプロン6に繊維束の繊維が引っ掛かった場合でも、ニップローラ対7の引き込み力を利用して通気エプロン6から繊維束を引き剥がすことができる。したがって、通気エプロン6への繊維の引っ掛かりによる糸切れの発生を抑制することができる。
【0033】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る精紡機の要部の構成を示す概略側面図である。
本第2実施形態においては、上記第1実施形態で挙げた構成要素と同様の部分に同じ符号を付して説明する。
図3に示すように、フロントローラ対2は、フロントトップローラ2aとフロントボトムローラ2bとによって構成され、ニップローラ対7は、ニップトップローラ7aとニップボトムローラ7bとによって構成されている。フロントローラ対2(フロントボトムローラ2b)とニップローラ対7(ニップボトムローラ7b)との周速比は変更可能に構成されている。両ローラ対の周速比を変更するための具体的な構成は上記第1実施形態で述べたとおりである。
【0034】
フロントトップローラ2aは、C点でフロントボトムローラ2bに押し付けられている。また、フロントトップローラ2aは、吸引パイプ5に巻き掛けられた通気エプロン6にD点で押し付けられている。このため、D点においては、吸引パイプ5の案内面5aとフロントトップローラ2aの外周面との間に通気エプロン6が挟み込まれている。ただし、ドラフト装置1から繊維束集束装置3へと繊維束を搬送する場合は、フロントトップローラ2aとフロントボトムローラ2bとの間、および、フロントトップローラ2aと通気エプロン6との間に、それぞれ繊維束が挟み込まれることになる。
【0035】
なお、フロントボトムローラ2bおよび通気エプロン6に対して、フロントトップローラ2aを加圧により押し付ける加圧機構に関しては、たとえば、上記第1実施形態で挙げた加圧機構11と同様にバネ部材15とホルダ16とを備えた構成とし、ホルダ16の支持部17でフロントトップローラ2aの回転支軸を支持するようにすればよい。
【0036】
本発明の第2実施形態に係る精紡機においては、フロントトップローラ2aが、フロントボトムローラ2bと通気エプロン6の両方に押し付けられている。このため、フロントトップローラ2aは、フロントボトムローラ2bの回転にしたがって回転し、吸引パイプ5に巻き掛けられた通気エプロン6は、フロントトップローラ2aの回転にしたがって周回移動する。一方、ニップトップローラ7aは、ニップボトムローラ7bにのみ押し付けられている。このため、ニップトップローラ7aは、ニップボトムローラ7bの回転にしたがって回転する。したがって、たとえば、フロントボトムローラ2bとニップボトムローラ7bとがそれぞれ独立した駆動源によって回転駆動する構成となっている場合は、フロントボトムローラ2bの駆動源およびニップボトムローラ7bの駆動源のうち、少なくともいずれか一方の駆動源によってローラの回転数(周速)を変更することにより、フロントローラ対2とニップローラ対7との周速比を変更することができる。よって、フロントローラ対2とニップローラ対7との周速比を糸の原料に応じた最適値に設定することができる。
【0037】
また、フロントトップローラ2aを研磨した場合は、研磨の前後でフロントトップローラ2aの直径が変化する。ただし、フロントトップローラ2aの周速はフロントボトムローラ2bの周速と同じになる。すなわち、フロントトップローラ2aは、研磨の有無にかかわらず、常にフロントボトムローラ2bと同じ周速で回転する。このため、フロントトップローラ2aを研磨しても、フロントボトムローラ2bの周速は変化しない。したがって、ローラの研磨に伴う周速比の変化を抑制することができる。
【0038】
一方、吸引パイプ5に巻き掛けられた通気エプロン6は、フロントトップローラ2aの回転にしたがって周回移動する。このため、通気エプロン6の移動速度は、フロントトップローラ2aの周速によって決まる。よって、上述のようにフロントトップローラ2aの研磨前後でフロントトップローラ2aの周速が変化しなければ、通気エプロン6の移動速度も変化することはない。したがって、フロントローラ対2とニップローラ対7との周速比を糸の原料に応じた最適値に設定した後は、フロントトップローラ2aを研磨した場合にも、その最適な設定状態を維持することができる。
【0039】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0040】
たとえば、上記第1実施形態においては、ニップトップローラ7aを加圧する加圧機構11にバネ部材15を用いたが、本発明はこれに限らず、たとえば、エア圧または磁力によって加圧する構成を採用してもよいし、ローラの自重によって加圧する構成を採用してもよい。この点は上記第2実施形態についても同様である。また、エア圧によって加圧する機構を採用した場合は、加圧の対象となるローラの直径が研磨によって変化しても、エア圧によってローラに作用する加圧力は変わらない。このため、研磨の前後でローラへの加圧力を一定に維持することができる。
【0041】
また、上記第1実施形態においては、ホルダ16に支持部17を形成し、この支持部17を長孔状に形成することにより、回転支軸7cのZ方向の動きを許容する構成を採用したが、本発明はこれに限らない。たとえば、ニップトップローラ7aの回転支軸7cをホルダ16に固定し、ホルダ16と回転支軸7cとを、Z方向に移動可能な状態でウェイティングアーム(図示せず)によって支持することにより、回転支軸7cのZ方向の動きを許容する構成を採用してもよい。あるいは、ホルダ16を、互いにZ方向に相対移動可能な第1のホルダ部分および第2のホルダ部分を有する2体構成とし、第1のホルダ部分を回転支軸7cに固定し、第2のホルダ部分をウェイティングアームに固定することにより、回転支軸7cのZ方向の動きを許容する構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 ドラフト装置、2 フロントローラ対(最終送り出しローラ対)、2a フロントトップローラ(第1の従動ローラ)、2b フロントボトムローラ(第1の駆動ローラ)、3 繊維束集束装置、5 吸引パイプ、6 通気エプロン、7 ニップローラ対、7a ニップトップローラ(第2の従動ローラ)、7b ニップボトムローラ(第2の駆動ローラ)、7c 回転支軸、11 加圧機構、16 ホルダ、17 支持部。
図1
図2
図3