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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】トランスインピーダンス増幅回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/08 20060101AFI20230328BHJP
   H03F 3/343 20060101ALI20230328BHJP
   H03G 3/30 20060101ALI20230328BHJP
   H03F 3/34 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
H03F3/08
H03F3/343 210
H03G3/30 B
H03F3/34 210
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019140082
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021022901
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓二
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-091688(JP,A)
【文献】特開2009-049488(JP,A)
【文献】特開2016-009971(JP,A)
【文献】特開2004-179998(JP,A)
【文献】特開2003-017950(JP,A)
【文献】特開2005-347949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00- 3/72
H03G 1/00- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光素子によって生成された入力電流信号に応じて差動電圧信号を生成するトランスインピーダンス増幅回路であって、
前記入力電流信号を受ける入力端子と、
電流信号を電圧信号に変換するシングルエンド型増幅回路と、
前記電圧信号と基準電圧信号との差分に応じて前記差動電圧信号を生成する差動増幅回路と、
前記差分の積分値に基づいて制御電流を生成する制御電流生成回路と、
前記制御電流に応じて直流バイパス電流、第1交流バイパス電流、及び第2交流バイパス電流を生成するバイパス回路と、
を備え、
前記電流信号は、前記入力電流信号から前記直流バイパス電流、前記第1交流バイパス電流、及び前記第2交流バイパス電流が引き抜かれることによって生成され、
前記バイパス回路は、前記制御電流が入力される制御回路と、前記制御電流に応じて前記第1交流バイパス電流を生成する第1可変抵抗回路と、前記制御電流に応じて前記第2交流バイパス電流を生成する第2可変抵抗回路と、を備え、
前記制御回路は、所定のオフセット電流値を有するオフセット電流を生成し、前記制御電流を増幅することで生成した電流と前記オフセット電流との差分を第1増幅率で増幅することで第1制御電流及び第2制御電流を生成し、
前記第1可変抵抗回路は、
前記第1制御電流を受ける第1ドレインと、前記第1ドレインに電気的に接続される第1ゲートと、前記基準電圧信号が供給される第1ソースと、を有する第1電界効果トランジスタと、
前記入力端子に電気的に接続される第2ドレインと、前記第1ドレイン及び前記第1ゲートに電気的に接続される第2ゲートと、前記基準電圧信号が供給される第2ソースと、を有する第2電界効果トランジスタと、
を備え、
前記第1可変抵抗回路は、前記第1制御電流に応じて前記第1交流バイパス電流を前記第2ドレインから前記第2ソースに流し、
前記第2可変抵抗回路は、
前記第2制御電流を受ける第3ドレインと、前記第3ドレインに電気的に接続される第3ゲートと、前記入力端子に電気的に接続される第3ソースと、を有する第3電界効果トランジスタと、
前記基準電圧信号が供給される第4ドレインと、前記第3ドレイン及び前記第3ゲートに電気的に接続される第4ゲートと、前記第3ソースに電気的に接続される第4ソースと、を有する第4電界効果トランジスタと、
を備え、
前記第2可変抵抗回路は、前記第2制御電流に応じて前記第2交流バイパス電流を前記第4ソースから前記第4ドレインに流す、トランスインピーダンス増幅回路。
【請求項2】
前記バイパス回路は、前記制御電流に応じて前記直流バイパス電流を生成する帰還電流源をさらに備え、
前記制御回路は、前記制御電流が大きくなるにつれて前記直流バイパス電流が大きくなるように前記帰還電流源を制御する、請求項1に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【請求項3】
前記制御回路は、前記制御電流を第2増幅率で増幅することで第3制御電流を生成し、
前記帰還電流源は、
前記第3制御電流を受ける第5ドレインと、前記第5ドレインに電気的に接続される第5ゲートと、接地電位に電気的に接続される第5ソースと、を有する第5電界効果トランジスタと、
前記入力端子に電気的に接続される第6ドレインと、前記第5ドレイン及び前記第5ゲートに電気的に接続される第6ゲートと、前記第5ソースに電気的に接続される第6ソースと、を有する第6電界効果トランジスタと、
を備え、
前記帰還電流源は、前記第3制御電流に応じて前記直流バイパス電流を前記第6ドレインから前記第6ソースに流す、請求項2に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【請求項4】
前記直流バイパス電流は、前記第2可変抵抗回路から流れ出る前記第2制御電流を含むように設定されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【請求項5】
前記基準電圧信号を生成する基準電圧生成回路をさらに備え、
前記基準電圧生成回路は、増幅器と、前記増幅器の入出力間に電気的に接続された帰還抵抗素子と、を備える、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のトランスインピーダンス増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランスインピーダンス増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信用の光信号を電気信号に変換するトランスインピーダンス増幅回路がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1には、フォトダイオードのカソード及びアノードにそれぞれ設けられた、直流電流を引き抜くためのトランジスタと、交流電流を引き抜くためのトランジスタと、反転増幅回路及び帰還抵抗素子で構成されるTIA部と、を備えるトランスインピーダンス増幅回路が記載されている。このトランスインピーダンス増幅回路では、交流電流を引き抜くためのトランジスタのソース電位は、TIA部の入力電位に一致するようにバッファによって与えられ、当該トランジスタのゲートは制御回路に接続され、当該トランジスタのドレインはTIA部の入力端子に接続されている。差動出力信号の振幅が一定となるように、ゲート電圧が調整され、TIA部の出力において、フォトダイオードからの入力電流が歪まないように振幅制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9774305号明細書
【文献】特開2012-10107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のトランスインピーダンス増幅回路では、交流電流を引き抜くためのトランジスタのソースは、バッファによって接地されており、直流から高周波に亘ってソース電位は一定である。また、当該トランジスタのゲートには、信号振幅と目標電位との誤差が積分された信号が制御回路から供給されるので、高周波では一定の電圧が供給される。これに対して、TIA部の入力インピーダンスは、通常10~100Ω程度であり、フォトダイオードからの入力電流に対して電位変動が発生し得るので、トランジスタのドレイン電位は僅かに変動し得る。交流電流を引き抜くためのトランジスタは、ソース電圧とドレイン電圧とがほぼ一致しているので、抵抗素子として動作する。しかしながら、ドレイン電位が僅かながら変動しているので、トランジスタのドレイン-ソース間のオン抵抗の値(抵抗素子の抵抗値)は変化し得る。その結果、ドレイン電位が高い場合と低い場合とで抵抗値が変化し、これによって引き抜かれる交流電流の電流量に差が生じることがある。この差が歪みとなり、信号品質に影響を与えるおそれがある。
【0005】
本開示は、信号品質を改善可能なトランスインピーダンス増幅回路を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るトランスインピーダンス増幅回路は、受光素子によって生成された入力電流信号に応じて差動電圧信号を生成する回路である。このトランスインピーダンス増幅回路は、入力電流信号を受ける入力端子と、電流信号を電圧信号に変換するシングルエンド型増幅回路と、電圧信号と基準電圧信号との差分に応じて差動電圧信号を生成する差動増幅回路と、差分の積分値に基づいて制御電流を生成する制御電流生成回路と、制御電流に応じて直流バイパス電流、第1交流バイパス電流、及び第2交流バイパス電流を生成するバイパス回路と、を備える。電流信号は、入力電流信号から直流バイパス電流、第1交流バイパス電流、及び第2交流バイパス電流が引き抜かれることによって生成される。バイパス回路は、制御電流が入力される制御回路と、制御電流に応じて第1交流バイパス電流を生成する第1可変抵抗回路と、制御電流に応じて第2交流バイパス電流を生成する第2可変抵抗回路と、を備える。制御回路は、所定のオフセット電流値を有するオフセット電流を生成し、制御電流を増幅することで生成した電流とオフセット電流との差分を第1増幅率で増幅することで第1制御電流及び第2制御電流を生成する。第1可変抵抗回路は、第1制御電流を受ける第1ドレインと、第1ドレインに電気的に接続される第1ゲートと、基準電圧信号が供給される第1ソースと、を有する第1電界効果トランジスタと、入力端子に電気的に接続される第2ドレインと、第1ドレイン及び第1ゲートに電気的に接続される第2ゲートと、基準電圧信号が供給される第2ソースと、を有する第2電界効果トランジスタと、を備える。第1可変抵抗回路は、第1制御電流に応じて第1交流バイパス電流を第2ドレインから第2ソースに流す。第2可変抵抗回路は、第2制御電流を受ける第3ドレインと、第3ドレインに電気的に接続される第3ゲートと、入力端子に電気的に接続される第3ソースと、を有する第3電界効果トランジスタと、基準電圧信号が供給される第4ドレインと、第3ドレイン及び第3ゲートに電気的に接続される第4ゲートと、第3ソースに電気的に接続される第4ソースと、を有する第4電界効果トランジスタと、を備える。第2可変抵抗回路は、第2制御電流に応じて第2交流バイパス電流を第4ソースから第4ドレインに流す。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、信号品質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係るトランスインピーダンス増幅回路を備える光受信装置の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、図1に示される積分回路の回路構成例を示す図である。
図3図3は、図1に示される制御回路に供給される制御電流と、制御回路によって生成される電流との関係を示す図である。
図4図4は、図1に示される制御回路の回路構成例を示す図である。
図5図5の(a)は、図1に示されるトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対する全高調波歪率の変化を示す図である。図5の(b)は、図1に示されるトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対するTIA部の出力振幅の変化を示す図である。
図6図6の(a)は、比較例のトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対する全高調波歪率の変化を示す図である。図6の(b)は、比較例のトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対するTIA部の出力振幅の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
本開示の一側面に係るトランスインピーダンス増幅回路は、受光素子によって生成された入力電流信号に応じて差動電圧信号を生成する回路である。このトランスインピーダンス増幅回路は、入力電流信号を受ける入力端子と、電流信号を電圧信号に変換するシングルエンド型増幅回路と、電圧信号と基準電圧信号との差分に応じて差動電圧信号を生成する差動増幅回路と、差分の積分値に基づいて制御電流を生成する制御電流生成回路と、制御電流に応じて直流バイパス電流、第1交流バイパス電流、及び第2交流バイパス電流を生成するバイパス回路と、を備える。電流信号は、入力電流信号から直流バイパス電流、第1交流バイパス電流、及び第2交流バイパス電流が引き抜かれることによって生成される。バイパス回路は、制御電流が入力される制御回路と、制御電流に応じて第1交流バイパス電流を生成する第1可変抵抗回路と、制御電流に応じて第2交流バイパス電流を生成する第2可変抵抗回路と、を備える。制御回路は、所定のオフセット電流値を有するオフセット電流を生成し、制御電流を増幅することで生成した電流とオフセット電流との差分を第1増幅率で増幅することで第1制御電流及び第2制御電流を生成する。第1可変抵抗回路は、第1制御電流を受ける第1ドレインと、第1ドレインに電気的に接続される第1ゲートと、基準電圧信号が供給される第1ソースと、を有する第1電界効果トランジスタと、入力端子に電気的に接続される第2ドレインと、第1ドレイン及び第1ゲートに電気的に接続される第2ゲートと、基準電圧信号が供給される第2ソースと、を有する第2電界効果トランジスタと、を備える。第1可変抵抗回路は、第1制御電流に応じて第1交流バイパス電流を第2ドレインから第2ソースに流す。第2可変抵抗回路は、第2制御電流を受ける第3ドレインと、第3ドレインに電気的に接続される第3ゲートと、入力端子に電気的に接続される第3ソースと、を有する第3電界効果トランジスタと、基準電圧信号が供給される第4ドレインと、第3ドレイン及び第3ゲートに電気的に接続される第4ゲートと、第3ソースに電気的に接続される第4ソースと、を有する第4電界効果トランジスタと、を備える。第2可変抵抗回路は、第2制御電流に応じて第2交流バイパス電流を第4ソースから第4ドレインに流す。
【0011】
このトランスインピーダンス増幅回路では、第1可変抵抗回路の第2電界効果トランジスタ及び第2可変抵抗回路の第4電界効果トランジスタのそれぞれの微分抵抗は、ドレイン・ソース間電圧の成分を含むので、ドレイン・ソース間電圧によって変化し得る。第2電界効果トランジスタでは、第2ソースに基準電圧信号が供給され、第2ドレインが入力端子に電気的に接続されているのに対し、第4電界効果トランジスタでは、第4ドレインに基準電圧信号が供給され、第4ソースが入力端子に電気的に接続されている。このため、第2ドレインと第2ソースとの間の電圧の極性と、第4ドレインと第4ソースとの間の電圧の極性とは、互いに反対となる。したがって、入力端子から見た第1可変抵抗回路と第2可変抵抗回路とによる合成抵抗において、第2ドレインと第2ソースとの間の電圧の成分と第4ドレインと第4ソースとの間の電圧の成分とが互いに打ち消し合う。これにより、第1可変抵抗回路と第2可変抵抗回路との合成抵抗が、第2ドレインと第2ソースとの間の電圧及び第4ドレインと第4ソースとの間の電圧によって変動することが抑えられる。その結果、歪みの発生が抑制されるので、信号品質を改善することが可能となる。
【0012】
バイパス回路は、制御電流に応じて直流バイパス電流を生成する帰還電流源をさらに備えてもよい。制御回路は、制御電流が大きくなるにつれて直流バイパス電流が大きくなるように帰還電流源を制御してもよい。この場合、単一の制御ループで、直流成分を除去する制御とトランスインピーダンス増幅回路の利得制御とを実現することができるので、回路規模が大きくなることを抑制することが可能となる。
【0013】
制御回路は、制御電流を第2増幅率で増幅することで第3制御電流を生成してもよい。帰還電流源は、第3制御電流を受ける第5ドレインと、第5ドレインに電気的に接続される第5ゲートと、接地電位に電気的に接続される第5ソースと、を有する第5電界効果トランジスタと、入力端子に電気的に接続される第6ドレインと、第5ドレイン及び第5ゲートに電気的に接続される第6ゲートと、第5ソースに電気的に接続される第6ソースと、を有する第6電界効果トランジスタと、を備えてもよい。帰還電流源は、第3制御電流に応じて直流バイパス電流を第6ドレインから第6ソースに流してもよい。この場合、第5電界効果トランジスタがダイオード接続されているので、第5電界効果トランジスタの第5ドレインが第3制御電流を受けると、第5ゲートと第5ソースとの間にゲート・ソース間電圧が生成される。第5ゲートと第6ゲートとは互いに電気的に接続されており、第5ソースと第6ソースとは互いに電気的に接続されているので、第6電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧は第5電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧と等しくなる。第6電界効果トランジスタでは、第6ソースが第5ソース、つまり接地電位に電気的に接続され、第6ドレインが入力端子に電気的に接続されているので、第6ソースと第6ドレインとの電位差が大きくなる。これにより、第6電界効果トランジスタは飽和領域で動作する。このため、第6電界効果トランジスタは電流源として機能し、第6ドレインの出力インピーダンスが大きくなるので、入力電流信号の交流成分はほとんど第6電界効果トランジスタに流れ込まないものの、入力電流信号の直流成分は直流バイパス電流として第6電界効果トランジスタに流れ込み得る。そして、制御電流が大きくなるにつれて、第6電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧が大きくなるので、入力電流信号の直流成分が直流バイパス電流として入力電流信号から引き抜かれ、入力電流信号から直流成分の除去が適切に行われる。
【0014】
直流バイパス電流は、第2可変抵抗回路から流れ出る第2制御電流を含むように設定されてもよい。第2可変抵抗回路では、第2制御電流が第3電界効果トランジスタの第3ドレインから第3ソースに流れる。第3ソースは入力端子に電気的に接続されているので、第2制御電流は、入力端子に流れ出し、入力電流信号の直流成分を増加させる。これに対し、直流バイパス電流が第2制御電流を含むように設定されることによって、入力電流信号から第2制御電流による直流成分を除去することができる。
【0015】
上記トランスインピーダンス増幅回路は、基準電圧信号を生成する基準電圧生成回路をさらに備えてもよい。基準電圧生成回路は、増幅器と、増幅器の入出力間に電気的に接続された帰還抵抗素子と、を備えてもよい。この場合、基準電圧生成回路の出力インピーダンスが広い周波数範囲において低くなる。つまり、シングルエンド型増幅回路の入力端子から見た第1可変抵抗回路及び第2可変抵抗回路のインピーダンスが、広い周波数範囲において低くなる。このため、入力電流信号から第1交流バイパス電流及び第2交流バイパス電流を引き抜きやすくすることができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るトランスインピーダンス増幅回路の具体例を、図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
図1は、一実施形態に係るトランスインピーダンス増幅回路を備える光受信装置の構成を概略的に示す図である。図2は、図1に示される積分回路の回路構成例を示す図である。図3は、図1に示される制御回路に供給される制御電流と、制御回路によって生成される電流との関係を示す図である。図4は、図1に示される制御回路の回路構成例を示す図である。
【0018】
図1に示される光受信装置1Cは、不図示の光送信装置から送信された光信号Pinを受信する。光受信装置1Cは、受光素子PDと、トランスインピーダンス増幅回路10Cと、を備える。受光素子PDは、光信号Pinを受信し、光信号Pinに応じた光電流Ipd(入力電流信号)を生成する。光電流Ipdは、変調された交流成分(AC成分)と、交流成分に重畳された直流成分(DC成分)と、を含み得る。受光素子PDの例としては、フォトダイオード及びアバランシェ・フォトダイオードが挙げられる。受光素子PDの一方の端子は、所定のバイアス電圧VPDに電気的に接続され、受光素子PDの他方の端子は、光電流Ipdを出力する。
【0019】
トランスインピーダンス増幅回路10Cは、受光素子PDによって生成された光電流Ipdを受け、光電流Ipdに応じて電圧信号である差動電圧信号Vout,Voutbを生成する。差動電圧信号Vout,Voutbは、一対の相補信号である。トランスインピーダンス増幅回路10Cは、入力端子10aを備える。入力端子10aには光電流Ipdが入力される。
【0020】
トランスインピーダンス増幅回路10Cは、TIA(TransImpedance Amplifier)部11(シングルエンド型増幅回路)と、基準電圧発生回路12と、差動増幅回路13と、制御電流生成回路14と、バイパス回路15Cと、を備える。
【0021】
TIA部11は、電流信号Iinを電圧信号Vtiaに変換する回路である。具体的には、TIA部11は、電圧アンプ11aと、帰還抵抗素子11bとを備える。電圧アンプ11aの入力端子と出力端子とは、帰還抵抗素子11bを介して電気的に接続されている。つまり、帰還抵抗素子11bは、電圧アンプ11aの入出力間に電気的に接続されている。電流信号Iinは、光電流Ipdから直流バイパス電流Iaoc、交流バイパス電流Iagc1(第1交流バイパス電流)、及び交流バイパス電流Iagc2(第2交流バイパス電流)が引き抜かれることによって生成される。直流バイパス電流Iaoc、交流バイパス電流Iagc1、及び交流バイパス電流Iagc2はバイパス回路15Cによって制御されるが、詳細については後述する。電圧信号Vtiaの増減は、電流信号Iinの増減に対して反転している。電圧アンプ11aは、例えば反転増幅回路である。TIA部11は、電圧信号Vtiaを差動増幅回路13及び制御電流生成回路14に出力する。TIA部11の利得(電流信号Iinの大きさに対する電圧信号Vtiaの大きさの比)は、帰還抵抗素子11bの抵抗値(トランスインピーダンス)によって決まる。TIA部11の入力インピーダンスは、10~100Ω程度である。
【0022】
基準電圧発生回路12は、直流の電圧信号である基準電圧信号Vrefを生成する回路である。基準電圧発生回路12は、基準電圧信号Vrefを差動増幅回路13、制御電流生成回路14、及びバイパス回路15Cに出力する。基準電圧信号Vrefは、所定の電圧値(固定値)を有する。基準電圧発生回路12は、出力インピーダンスが広帯域にわたって低インピーダンスとなるように構成されてもよい。本実施形態では、基準電圧発生回路12は、TIA部11と同様に、電圧アンプ12a(増幅器)と帰還抵抗素子12bとを備えるダミーTIAである。電圧アンプ12aの入力端子と出力端子とは、帰還抵抗素子12bを介して電気的に接続されている。つまり、帰還抵抗素子12bは、電圧アンプ12aの入出力間に電気的に接続されている。基準電圧発生回路12がTIA部11と同様の回路構成を有することで、電圧アンプ11aの電源電圧及び温度の変化による電圧信号Vtiaの変化を補償(相殺)するように基準電圧信号Vrefが生成され得る。
【0023】
差動増幅回路13は、電圧信号Vtiaと基準電圧信号Vrefとの差分ΔVtia(誤差)に応じて差動電圧信号Vout,Voutbを生成する回路である。言い換えると、差動増幅回路13は、基準電圧信号Vrefを用いて、単一(単相)の電圧信号Vtiaを差動電圧信号Vout,Voutbに変換する。差動増幅回路13は、差分ΔVtiaを増幅することで、差動電圧信号Vout,Voutbを生成する。差動増幅回路13は、差動電圧信号Vout,Voutbを後段の回路(不図示)に出力する。
【0024】
制御電流生成回路14は、電圧信号Vtiaと基準電圧信号Vrefとの差分ΔVtiaの積分値に基づいて制御電流Icntを生成する回路である。制御電流生成回路14は、積分回路41と、OTA(Operational Transconductance Amplifier)42と、を備える。
【0025】
積分回路41は、差分ΔVtiaを積分する回路である。図2に示されるように、積分回路41は、入力端子41a,41bと、出力端子41c,41dと、を有する。入力端子41aは、基準電圧発生回路12(電圧アンプ12a)の出力端子に電気的に接続されており、入力端子41aには、基準電圧信号Vrefが入力される。入力端子41bは、TIA部11(電圧アンプ11a)の出力端子に電気的に接続されており、入力端子41bには、電圧信号Vtiaが入力される。出力端子41cは、OTA42の反転入力端子に電気的に接続されており、OTA42に電圧信号Vinnを出力する。出力端子41dは、OTA42の非反転入力端子に電気的に接続されており、OTA42に電圧信号Vinpを出力する。
【0026】
積分回路41は、オペアンプ43と、抵抗素子44,45と、コンデンサ46,47と、を備える。オペアンプ43は、非反転入力端子43aと、反転入力端子43bと、反転出力端子43cと、非反転出力端子43dと、を有する。非反転入力端子43aは、抵抗素子44を介して入力端子41aに電気的に接続されている。反転入力端子43bは、抵抗素子45を介して入力端子41bに電気的に接続されている。反転出力端子43cは、出力端子41cに電気的に接続されるとともに、コンデンサ46を介して非反転入力端子43aに電気的に接続されている。つまり、コンデンサ46は、反転出力端子43cと非反転入力端子43aとの間を負帰還で接続する。非反転出力端子43dは、出力端子41dに電気的に接続されるとともに、コンデンサ47を介して反転入力端子43bに電気的に接続されている。つまり、コンデンサ47は、非反転出力端子43dと反転入力端子43bとの間を負帰還で接続する。
【0027】
ここで、オペアンプ43の利得が無限大であり、抵抗素子44の抵抗値R1と抵抗素子45の抵抗値R2とが互いに等しく、コンデンサ46の容量値C1とコンデンサ47の容量値C2とが互いに等しいと仮定すると、積分回路41は、時定数R1×C1を有する積分器として動作する。
【0028】
OTA42は、差動電圧信号(電圧信号Vinp及び電圧信号Vinn)をシングル電流信号(誤差電流)である制御電流Icntに変換する回路である。OTA42は、公知の回路構成を有し、例えば、差動増幅回路にカレントミラー回路が付加された構成を有する。OTA42は、トランスコンダクタンスを有しており、OTA42の入出力インピーダンスは例えば無限大である。制御電流Icntは、OTA42に入力される電圧信号Vinpと電圧信号Vinnとの差である入力差動電圧にトランスコンダクタンスを乗算することによって求められる。電圧信号Vinpと電圧信号Vinnとの差は、差分ΔVtiaの積分値に応じて変化する。OTA42は、制御電流Icntをバイパス回路15Cに出力する。
【0029】
バイパス回路15Cは、制御電流Icntに応じて、直流バイパス電流Iaoc、交流バイパス電流Iagc1、及び交流バイパス電流Iagc2を生成する回路である。バイパス回路15Cは、制御回路51Cと、帰還電流源52と、可変抵抗回路53(第1可変抵抗回路)と、可変抵抗回路80(第2可変抵抗回路)と、を備える。
【0030】
制御回路51Cには、制御電流Icntが入力される。制御回路51Cは、制御電流Icntが大きくなるにつれて直流バイパス電流Iaocが大きくなるように帰還電流源52を制御する。制御回路51Cは、制御電流Icntがオフセット電流Iofsの電流値を越えた場合に、制御電流Icntが大きくなるにつれて交流バイパス電流Iagc1,Iagc2が大きくなるように可変抵抗回路53,80を制御する。オフセット電流Iofsの電流値は、所定の電流値(固定値)である。具体的には、制御回路51Cは、制御電流生成回路14(OTA42)から制御電流Icntを受け、制御電流Icntに応じて制御電流Iaoccnt(第3制御電流)、制御電流Iagc1cnt(第1制御電流)、及び制御電流Iagc2cnt(第2制御電流)を生成する。制御回路51Cは、制御電流Iaoccntを帰還電流源52に出力し、制御電流Iaoccntによって帰還電流源52を制御する。制御回路51Cは、制御電流Iagc1cntを可変抵抗回路53に出力し、制御電流Iagc1cntによって可変抵抗回路53を制御する。制御回路51Cは、制御電流Iagc2cntを可変抵抗回路80に出力し、制御電流Iagc2cntによって可変抵抗回路80を制御する。
【0031】
図3に示されるように、制御電流Iagc1cnt及び制御電流Iagc2cntの電流値は、制御電流Icntの電流値がオフセット電流Iofsの電流値よりも大きい場合に、制御電流Icntの電流値に比例する。言い換えると、制御電流Iagc1cnt及び制御電流Iagc2cntの電流値は、制御電流Icntからオフセット電流Iofsの電流値を減算した電流値のγ倍である(Iagc1cnt=Iagc2cnt=γ×(Icnt-Iofs))。制御回路51Cは、例えば、所定の電流値(オフセット電流値)を有するオフセット電流Iofsを生成し、制御電流Icntを増幅することで生成した電流(ここでは、制御電流Icnt)とオフセット電流Iofsとの差分を増幅率γで増幅することで制御電流Iagc1cnt及び制御電流Iagc2cntを生成する。
【0032】
制御電流Iaoccntの電流値は、制御電流Icntの電流値のα倍に、制御電流Iagc2cntの電流値を加えた値である(Iaoccnt=α×Icnt+Iagc2cnt)。制御回路51Cは、例えば、制御電流Icntを増幅率αで増幅することで生成した電流に制御電流Iagc2cntを加えることで制御電流Iaoccntを生成する。このように、制御電流Iaoccntでは、増幅率αが調整され、制御電流Iagc1cnt,Iagc2cntでは、自動利得制御(automatic gain control;AGC)を開始する電流を決定するためのオフセット電流値と、AGCの制御感度を決定する増幅率γとが調整される。
【0033】
図4に示される制御回路51Cは、図3に示される制御電流Iaoccnt、制御電流Iagc1cnt、及び制御電流Iagc2cntを実現するための回路構成を有する。図4に示されるように、制御回路51Cは、入力端子51aと、出力端子51b,51c,51eと、電源端子51dと、を有する。入力端子51aは、制御電流生成回路14(OTA42)の出力端子に電気的に接続されており、入力端子51aには、制御電流Icntが入力される。出力端子51bは、帰還電流源52の入力端子52aに電気的に接続されており、帰還電流源52に制御電流Iaoccntを出力する。出力端子51cは、可変抵抗回路53の制御端子53aに電気的に接続されており、可変抵抗回路53に制御電流Iagc1cntを出力する。電源端子51dは、電源電圧VCCを供給する電源配線に電気的に接続されており、電源端子51dには電源電圧VCCが供給される。出力端子51eは、可変抵抗回路80の制御端子80aに電気的に接続されており、可変抵抗回路80に制御電流Iagc2cntを出力する。
【0034】
制御回路51Cは、トランジスタ61~69,71,72と、電流源70と、を備える。トランジスタ61~69,71,72は、例えば、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)構造を有する電界効果トランジスタ(MOSFET)である。図4に示される例では、トランジスタ61~63は、NチャネルMOSトランジスタであり、トランジスタ64~69,71,72は、PチャネルMOSトランジスタである。
【0035】
トランジスタ61~63は、カレントミラー回路を構成している。トランジスタ61は、入力トランジスタとして機能し、トランジスタ62,63は、出力トランジスタとして機能する。トランジスタ61~63のソースは、接地電位GNDに電気的に接続されている。トランジスタ61のゲートとドレインとは互いに電気的に接続され、さらに入力端子51aに電気的に接続されている。トランジスタ62,63のそれぞれのゲートは、トランジスタ61のゲート及びドレインに電気的に接続されている。トランジスタ62のドレインは、トランジスタ64のドレイン及びゲートに電気的に接続されている。トランジスタ63のドレインは、ノードN1を介してトランジスタ68のドレイン及びゲートに電気的に接続されている。
【0036】
トランジスタ61,62、及びトランジスタ61,63は、それぞれカレントミラー回路を構成するので、例えば、トランジスタ61のドレイン電流(制御電流Icnt)の大きさに比例した大きさの出力電流(ドレイン電流)がトランジスタ62,63のドレインからそれぞれ出力される。ここでは説明の便宜上、カレントミラー比は、1:1:1とする。このため、入力端子51aに入力された制御電流Icntはトランジスタ61~63によってコピーされ、トランジスタ62,63のドレインからそれぞれ制御電流Icntが出力される。なお、制御電流Icntは、トランジスタ62,63のドレインに向かって流れる。
【0037】
トランジスタ64,65は、カレントミラー回路を構成している。トランジスタ64は、入力トランジスタとして機能し、トランジスタ65は、出力トランジスタとして機能する。トランジスタ64,65のソースは、電源端子51dに電気的に接続されている。トランジスタ64のゲートとドレインとは互いに電気的に接続され、さらにトランジスタ62のドレインに電気的に接続されている。トランジスタ65のゲートは、トランジスタ64のゲート及びドレインに電気的に接続されている。トランジスタ65のドレインは、ノードN2を介して出力端子51bに電気的に接続されている。
【0038】
トランジスタ62のドレインから出力された制御電流Icntは、トランジスタ64のドレインに入力され、トランジスタ64のドレイン電流(制御電流Icnt)の大きさに比例した大きさの出力電流(ドレイン電流)が、トランジスタ65のドレインから出力される。ここでは、トランジスタ64,65によって構成されるカレントミラー回路のカレントミラー比は1:αに設定されている。つまり、トランジスタ65のドレイン電流は、制御電流Icntをα倍に増幅することで得られる大きさの電流(α×Icnt)である。なお、トランジスタ65のドレイン電流は、トランジスタ65のドレインからノードN2に向かって流れる。
【0039】
トランジスタ66,67は、カレントミラー回路を構成している。トランジスタ66は、入力トランジスタとして機能し、トランジスタ67は、出力トランジスタとして機能する。トランジスタ66,67のソースは、電源端子51dに電気的に接続されている。トランジスタ66のゲートとドレインとは互いに電気的に接続され、さらに電流源70に電気的に接続されている。トランジスタ67のゲートは、トランジスタ66のゲート及びドレインに電気的に接続されている。トランジスタ67のドレインは、ノードN1を介してトランジスタ68のドレイン及びゲートに電気的に接続されている。
【0040】
電流源70から供給される基準電流Irefは、トランジスタ66のドレインに入力され、トランジスタ66のドレイン電流(基準電流Iref)の大きさに比例した大きさの出力電流(ドレイン電流)が、トランジスタ67のドレインからオフセット電流Iofsとして出力される。ここでは、トランジスタ66,67によって構成されるカレントミラー回路のカレントミラー比は1:mに設定されている。つまり、オフセット電流Iofsは、基準電流Irefをm倍に増幅することで得られる大きさの電流(m×Iref)である。なお、オフセット電流Iofsは、トランジスタ67のドレインからノードN1に向かって流れる。mの値は、AGCを動作させたい光パワーに応じて任意に選択される。基準電流Irefの電流値は、固定値であるので、オフセット電流Iofsの電流値(オフセット電流値)も固定値である。
【0041】
トランジスタ68,69、トランジスタ68,71、及びトランジスタ68,72は、それぞれカレントミラー回路を構成している。トランジスタ68は、入力トランジスタとして機能し、トランジスタ69,71,72は、出力トランジスタとして機能する。トランジスタ68,69,71,72のソースは、電源端子51dに電気的に接続されている。トランジスタ68のゲートとドレインとは互いに電気的に接続され、さらにノードN1を介してトランジスタ63のドレイン及びトランジスタ67のドレインに電気的に接続されている。トランジスタ69,71,72のそれぞれのゲートは、トランジスタ68のゲート及びドレインに電気的に接続されている。トランジスタ69のドレインは、出力端子51cに電気的に接続されている。トランジスタ71のドレインは、出力端子51eに電気的に接続されている。トランジスタ72のドレインは、ノードN2を介して出力端子51bに電気的に接続されている。
【0042】
トランジスタ63のドレインから出力された制御電流Icntは、ノードN1において、トランジスタ67のドレインから出力されたオフセット電流Iofsと合成される。具体的には、制御電流Icntからオフセット電流Iofsが差し引かれる(減算される)。このとき、制御電流Icntの電流値がオフセット電流Iofsの電流値よりも大きい場合にのみ、差電流(Icnt-Iofs)がトランジスタ68のドレインに流れ、トランジスタ68のドレイン電流(差電流)の大きさに比例した大きさの出力電流(ドレイン電流)が、トランジスタ69のドレインから制御電流Iagc1cntとして出力され、トランジスタ71,72のドレインからそれぞれ制御電流Iagc2cntとして出力される。
【0043】
ここでは、トランジスタ68,69,71,72によって構成されるカレントミラー回路のカレントミラー比は1:γ:γ:γに設定されている。つまり、制御電流Iagc1cnt,Iagc2cntは、差電流(Icnt-Iofs)をγ倍に増幅することで得られる大きさの電流(γ×(Icnt-Iofs))である。なお、トランジスタ68,69のカレントミラー回路で生成された制御電流Iagc1cntは、トランジスタ69のドレインから出力端子51cに向かって流れる。トランジスタ68,71のカレントミラー回路で生成された制御電流Iagc2cntは、トランジスタ71のドレインから出力端子51eに向かって流れる。トランジスタ68,72のカレントミラー回路で生成された制御電流Iagc2cntは、トランジスタ72のドレインからノードN2に向かって流れ、ノードN2において、トランジスタ65のドレインから出力されたドレイン電流と合成される。トランジスタ65のドレイン電流と制御電流Iagc2cntとが合成されることによって、制御電流Iaoccntが生成され、制御電流IaoccntはノードN2から出力端子51bに向かって流れる。
【0044】
一方、制御電流Icntの電流値がオフセット電流Iofsの電流値よりも小さい場合には、トランジスタ68には電流は流れないので、ダイオード接続されたトランジスタ68によって、ノードN1の電位は、電源電圧VCC側に高抵抗でプルアップされる。また、トランジスタ67のドレイン・ソース間電圧が小さくなるので、トランジスタ66,67はカレントミラー回路としては動作しない。このとき、トランジスタ67は、3極管領域(線形領域)で動作するので、ノードN1の電位は、電源電圧VCC側に低抵抗でプルアップされる。3極管領域とは、トランジスタのゲート・ソース間電圧から閾値電圧を減算した結果が、ドレイン・ソース間電圧よりも大きいという状態である。
【0045】
トランジスタ68には、ゲート・ソース間電圧が印加されないので、ゲート・ソース間電圧が印加されているトランジスタ67の抵抗値の方が、トランジスタ68の抵抗値よりも小さくなる。このように、トランジスタ67が3極管領域で動作することによって、トランジスタ67は、オフセット電流Iofsを供給できなくなると同時に、トランジスタ63からの制御電流Icntが全てトランジスタ67を流れる。これにより、制御電流Icntの電流値がオフセット電流Iofsの電流値よりも大きい場合に(Icnt-Iofs>0の領域で)のみ、制御電流Iagc1cntが出力端子51cから出力され、制御電流Iagc2cntが出力端子51e及びトランジスタ72のドレインから出力される。
【0046】
このように、制御電流Iagc1cntと制御電流Iagc2cntとは互いに同じ電流量を有し、互いに同じ方向に流れる。つまり、制御電流Iagc1cnt,Iagc2cntは、電源電圧VCCから接地電位GNDに向けて吐き出されるように流れる。
【0047】
なお、図4に示される制御回路51Cによって、図3の入出力特性が得られるが、上述のカレントミラー比は、適宜変更され得る。また、制御回路51Cの回路構成として、図3の入出力特性を得ることができる別の回路構成が採用されてもよい。
【0048】
帰還電流源52は、自動オフセット制御(Auto-Offset Control:AOC)回路を構成する。帰還電流源52は、制御電流Icntに応じて直流バイパス電流Iaocを生成する回路である。より具体的には、帰還電流源52は、制御電流Iaoccntに応じて直流バイパス電流Iaocを生成する。帰還電流源52は、入力端子52aと、出力端子52bと、接地端子52cと、を有する。入力端子52aは、制御回路51Cの出力端子51bに電気的に接続されており、制御回路51Cから制御電流Iaoccntを受ける。出力端子52bは、入力端子10aに電気的に接続されており、直流バイパス電流Iaocを出力する。接地端子52cは、接地電位GNDに電気的に接続されている。帰還電流源52は、電界効果トランジスタ54(第5電界効果トランジスタ)と、電界効果トランジスタ55(第6電界効果トランジスタ)と、を備える。
【0049】
電界効果トランジスタ54,55のそれぞれは、例えば、NチャネルMOSトランジスタである。電界効果トランジスタ54のサイズと電界効果トランジスタ55のサイズとは互いに同じでもよく、互いに異なっていてもよい。電界効果トランジスタ54,55のソースは、互いに電気的に接続されるとともに、接地端子52cを介して接地電位GNDに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ54のドレインは、入力端子52aを介して、制御回路51Cの出力端子51bに電気的に接続されており、制御回路51Cから制御電流Iaoccntを受ける。電界効果トランジスタ54のゲートは、電界効果トランジスタ54のドレインに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ55のドレインは、出力端子52bを介して、入力端子10aに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ55のゲートは、電界効果トランジスタ54のドレイン及びゲートに電気的に接続されている。
【0050】
このように構成された帰還電流源52では、入力端子52aから流れ込んだ制御電流Iaoccntは、ダイオード接続されている電界効果トランジスタ54に流れることによって、電界効果トランジスタ54のゲートとソースとの間にゲート・ソース間電圧Vgs1を発生させる。電界効果トランジスタ54のゲートと電界効果トランジスタ55のゲートとは互いに電気的に接続されており、電界効果トランジスタ54のソースと電界効果トランジスタ55のソースとは互いに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ55のゲート・ソース間電圧は、ゲート・ソース間電圧Vgs1と等しくなる。電界効果トランジスタ55のソースは、接地電位GNDに電気的に接続されているので、ソース電位は略0Vである。一方、電界効果トランジスタ55のドレインには、TIA部11の入力電位(例えば、0.5~2V程度)が印加されている。したがって、電界効果トランジスタ55は、飽和領域で動作している。飽和領域とは、トランジスタのゲート・ソース間電圧から閾値電圧を減算した結果が、ドレイン・ソース間電圧よりも小さいという状態である。飽和領域において、電界効果トランジスタ55のドレイン電圧が増加してもそれに対してドレイン電流が増加する度合いは線形領域に比べて小さくなる。したがって、出力端子51bのインピーダンス(出力インピーダンス)は、比較的大きい値となる。
【0051】
すなわち、電界効果トランジスタ54,55は、カレントミラー回路を構成しており、制御電流Iaoccntに比例した直流バイパス電流Iaocを出力する。言い換えると、帰還電流源52は、制御電流Iaoccntに応じて直流バイパス電流Iaocを電界効果トランジスタ55のドレインから電界効果トランジスタ55のソースに流す。後述するように、可変抵抗回路80から制御電流Iagc2cntがTIA部11の入力端子に向けて流れ出し、光電流Ipdの直流成分を増加させる。このため、直流バイパス電流Iaocは、制御電流Iagc2cntを含むように設定されている。具体的には、図3に示されるように、制御電流Iaoccntは、制御電流Icntを増幅率αで増幅することで生成した電流に制御電流Iagc2cntを加えることによって生成される。これにより、光電流Ipdから直流成分及び制御電流Iagc2cntが直流バイパス電流Iaocとして引き抜かれる。その結果、差分ΔVtiaから直流成分及び低周波成分が除去され、電圧信号Vtiaの電位が基準電圧信号Vrefの電位に合わせられる(DCオフセット制御)。
【0052】
可変抵抗回路53は、制御電流Icntに応じて交流バイパス電流Iagc1を生成する回路である。より具体的には、可変抵抗回路53は、制御電流Iagc1cntに応じて交流バイパス電流Iagc1を生成する。可変抵抗回路53は、制御端子53aと、抵抗端子53bと、抵抗端子53cと、を有する。制御端子53aは、制御回路51Cの出力端子51cに電気的に接続されており、制御回路51Cから制御電流Iagc1cntを受ける。抵抗端子53bは、入力端子10aに電気的に接続されている。抵抗端子53cは、基準電圧発生回路12(電圧アンプ12a)の出力端子に電気的に接続されており、基準電圧発生回路12から基準電圧信号Vrefを受ける。可変抵抗回路53は、電界効果トランジスタ56(第1電界効果トランジスタ)と、電界効果トランジスタ57(第2電界効果トランジスタ)と、を備える。
【0053】
電界効果トランジスタ56,57のそれぞれは、例えば、NチャネルMOSトランジスタである。電界効果トランジスタ56のサイズと電界効果トランジスタ57のサイズとは互いに同じでもよく、互いに異なっていてもよい。電界効果トランジスタ56,57のソースは、互いに電気的に接続されるとともに、抵抗端子53cを介して、基準電圧発生回路12(電圧アンプ12a)の出力端子に電気的に接続されている。電界効果トランジスタ56,57のソースには、基準電圧信号Vrefが入力(供給)される。電界効果トランジスタ56のドレインは、制御端子53aを介して、制御回路51Cの出力端子51cに電気的に接続されており、制御回路51Cから制御電流Iagc1cntを受ける。電界効果トランジスタ56のゲートは、電界効果トランジスタ56のドレインに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ57のドレインは、抵抗端子53bを介して、入力端子10aに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ57のゲートは、電界効果トランジスタ56のドレイン及びゲートに電気的に接続されている。
【0054】
このように構成された可変抵抗回路53では、制御端子53aから流れ込んだ制御電流Iagc1cntは、ダイオード接続されている電界効果トランジスタ56に流れることによって、電界効果トランジスタ56のゲートとソースとの間にゲート・ソース間電圧Vgs2を発生させる。電界効果トランジスタ56のゲートと電界効果トランジスタ57のゲートとは互いに電気的に接続されており、電界効果トランジスタ56のソースと電界効果トランジスタ57のソースとは互いに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ57のゲート・ソース間電圧は、ゲート・ソース間電圧Vgs2と等しくなる。電界効果トランジスタ57のソースには、基準電圧信号Vrefが供給されており、電界効果トランジスタ57のドレインには、TIA部11の入力電位が印加されている。基準電圧信号Vrefは、TIA部11の入力電位と略同じ電位であるので、電界効果トランジスタ57は、深い3極管領域(線形領域)で動作している。深い3極管領域とは、トランジスタのゲート・ソース間電圧から閾値電圧を減算した結果が、ドレイン・ソース間電圧よりも非常に大きいという状態である。線形領域において、電界効果トランジスタ57のドレイン電圧が増加すると、それに応じてドレイン電流も増加する。特にドレイン電圧が比較的小さいときには、ドレイン電流はドレイン電圧に比例して変化する(線形)とみなすことができる。電界効果トランジスタ57のドレイン電流に対するドレイン電圧の比を抵抗値RAGC1と表すことにする。抵抗値RAGC1については後述する。
【0055】
3極管領域でバイアスされた電界効果トランジスタ57のドレイン電流Id(つまり、交流バイパス電流Iagc1)は、電界効果トランジスタ57の固有利得(利得係数)β及び閾値電圧Vthを用いて、式(1)で表され得る。固有利得βは、電界効果トランジスタ57の半導体プロセスに依存する値である。
【数1】
【0056】
3極管領域では、ドレインとソースとの間の電位差が小さい場合、ドレイン電位とソース電位との大小関係が逆転することがある。この場合、ゲートに対して電圧が最も低い端子がソースとして機能する。トランジスタの回路記号は、回路の表現上において便宜的に用いられているので、回路図におけるトランジスタの端子表記と実際のトランジスタの動作とは一致しないことがある。ここでは、ドレイン・ソース間電圧Vdsが0以上となるように適宜端子を入れ替え、常に電位が低い端子をソースとみなすこととする。
【0057】
式(2)に示されるように、ゲート・ソース間電圧Vgs2は、ゲート・ソース間電圧Vgs0にドレイン・ソース間電圧Vdsを加えることによって表現される。ゲート・ソース間電圧Vgs0は、ドレイン・ソース間電圧Vdsが0Vである時のゲート・ソース間電圧である。
【数2】
【0058】
式(2)を式(1)に代入することによって、式(3)が得られる。式(3)に示されるように、ドレイン電流Id(交流バイパス電流Iagc1)は、ドレイン・ソース間電圧Vdsの2乗に比例するので、非線形な成分を含んでいる。
【数3】
【0059】
式(4)に示されるように、式(3)をドレイン・ソース間電圧Vdsで微分し、その演算結果の逆数を計算することによって、微分抵抗値Rd(抵抗値RAGC1)が得られる。式(4)に示されるように、抵抗値RAGC1は、ドレイン・ソース間電圧Vdsに応じて変化する。光電流Ipdに応じてドレイン電位が変調されるので、抵抗値RAGC1は非線形に変動する。
【数4】
【0060】
式(5)に示されるように、式(3)をゲート・ソース間電圧Vgs0で微分することによって、3極管領域でのトランスコンダクタンスgmが求められる。3極管領域では、ドレイン・ソース間電圧Vdsは、ゲート・ソース間電圧Vgs2から閾値電圧Vthを減算することによって得られる電圧よりも小さい。特に、深い3極管領域では、ドレイン・ソース間電圧Vdsは、ゲート・ソース間電圧Vgs2から閾値電圧Vthを減算することによって得られる電圧よりも非常に小さいので、3極管領域でのトランスコンダクタンスgmは、飽和動作におけるトランスコンダクタンス(β×(Vgs-Vth))と比較すると、無視できるほど小さくなる。
【数5】
【0061】
すなわち、可変抵抗回路53は、帰還電流源52と同様な回路構成を有しているにもかかわらず、カレントミラー回路としては動作せず、電界効果トランジスタ57は、ゲート・ソース間電圧Vgs2によって制御される可変抵抗器として動作する。つまり、基準電圧発生回路12によって、電界効果トランジスタ57は交流的に接地され、電界効果トランジスタ57は深い3極管領域でバイアスされる。抵抗端子53bの電位と抵抗端子53cの電位とが略同じであるので、光電流Ipdの直流成分は可変抵抗回路53にほとんど流れず、光電流Ipdの交流成分の一部が可変抵抗回路53(電界効果トランジスタ57)に交流バイパス電流Iagc1として流れ込む。言い換えると、可変抵抗回路53は、制御電流Iagc1cntに応じて交流バイパス電流Iagc1を電界効果トランジスタ57のドレインとソースとの間に流す。交流バイパス電流Iagc1は交流成分であるので、交流バイパス電流Iagc1は、光電流Ipdに応じて、電界効果トランジスタ57のドレインからソースに流れることもあれば、電界効果トランジスタ57のソースからドレインに流れることもある。
【0062】
すなわち、光電流Ipdが大きくなって、差分ΔVtiaが大きくなり、制御電流Icntがオフセット電流Iofsの電流値を超えると、制御電流Iagc1cntが可変抵抗回路53に供給される。これにより、電界効果トランジスタ56,57にゲート・ソース間電圧Vgs2が発生する。ゲート・ソース間電圧Vgs2が大きくなるにつれて、電界効果トランジスタ57の抵抗値RAGC1が小さくなるので、光電流Ipdの直流成分を除く信号成分(交流成分)の一部が交流バイパス電流Iagc1として引き抜かれる。その結果、TIA部11が大信号入力によって飽和する可能性が低減される。
【0063】
上述のように、深い3極管領域(線形領域)にバイアスされている電界効果トランジスタ57のドレイン・ソース間には、ドレイン・ソース間電圧に比例した電流が流れることになる。基準電圧信号Vrefは、TIA部11の入力電位と略同じ電位であるので、DC電流が流れることはなく、交流バイパス電流Iagc1はDCオフセット制御を乱さない。電界効果トランジスタ57の抵抗値RAGC1の変化によってAOC制御利得の特性にのみ影響を与える。
【0064】
可変抵抗回路80は、制御電流Icntに応じて交流バイパス電流Iagc2を生成する回路である。より具体的には、可変抵抗回路80は、制御電流Iagc2cntに応じて交流バイパス電流Iagc2を生成する。可変抵抗回路80は、制御端子80aと、抵抗端子80bと、抵抗端子80cと、を有する。制御端子80aは、制御回路51Cの出力端子51eに電気的に接続されており、制御回路51Cから制御電流Iagc2cntを受ける。抵抗端子80bは、基準電圧発生回路12(電圧アンプ12a)の出力端子に電気的に接続されており、基準電圧発生回路12から基準電圧信号Vrefを受ける。抵抗端子80cは、入力端子10aに電気的に接続されている。可変抵抗回路80は、電界効果トランジスタ81(第3電界効果トランジスタ)と、電界効果トランジスタ82(第4電界効果トランジスタ)と、を備える。
【0065】
電界効果トランジスタ81,82のそれぞれは、例えば、NチャネルMOSトランジスタである。電界効果トランジスタ81のサイズと電界効果トランジスタ82のサイズとは互いに同じでもよく、互いに異なっていてもよい。電界効果トランジスタ81,82のソースは、互いに電気的に接続されるとともに、抵抗端子80cを介して、入力端子10aに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ81のドレインは、制御端子80aを介して、制御回路51Cの出力端子51eに電気的に接続されており、制御回路51Cから制御電流Iagc2cntを受ける。電界効果トランジスタ81のゲートは、電界効果トランジスタ81のドレインに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ82のゲートは、電界効果トランジスタ81のドレイン及びゲートに電気的に接続されている。電界効果トランジスタ82のドレインは、抵抗端子80bを介して、基準電圧発生回路12(電圧アンプ12a)の出力端子に電気的に接続されている。電界効果トランジスタ82のドレインには、基準電圧信号Vrefが入力(供給)される。言い換えると、基準電圧発生回路12に接続される抵抗端子と入力端子10aに接続される抵抗端子との関係は、可変抵抗回路53と可変抵抗回路80とで反対になっている。
【0066】
このように構成された可変抵抗回路80では、制御端子80aから流れ込んだ制御電流Iagc2cntは、ダイオード接続されている電界効果トランジスタ81に流れることによって、電界効果トランジスタ81のゲートとソースとの間にゲート・ソース間電圧Vgs3を発生させる。電界効果トランジスタ81のゲートと電界効果トランジスタ82のゲートとは互いに電気的に接続されており、電界効果トランジスタ81のソースと電界効果トランジスタ82のソースとは互いに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ82のゲート・ソース間電圧は、ゲート・ソース間電圧Vgs3と等しくなる。電界効果トランジスタ82のドレインには、基準電圧信号Vrefが供給されており、電界効果トランジスタ82のソースには、TIA部11の入力電位が印加されている。基準電圧信号Vrefは、TIA部11の入力電位と略同じ電位であるので、電界効果トランジスタ82は、深い3極管領域(線形領域)で動作している。線形領域において、電界効果トランジスタ82のドレイン電圧が増加すると、それに応じてドレイン電流も増加する。特にドレイン電圧が比較的小さいときには、ドレイン電流はドレイン電圧に比例して変化する(線形)とみなすことができる。電界効果トランジスタ82のドレイン電流に対するドレイン電圧の比を抵抗値RAGC2と表すことにする。
【0067】
その結果、電界効果トランジスタ82は、電界効果トランジスタ57と同様に、ゲート・ソース間電圧Vgs3によって制御される可変抵抗器として動作する。電界効果トランジスタ82の抵抗値RAGC2は、抵抗値RAGC1と同様に、式(4)で表される。つまり、基準電圧発生回路12によって、電界効果トランジスタ82は交流的に接地され、電界効果トランジスタ82は深い3極管領域でバイアスされる。抵抗端子80bの電位と抵抗端子80cの電位とが略同じであるので、光電流Ipdの直流成分は可変抵抗回路80にほとんど流れず、光電流Ipdの交流成分の一部が可変抵抗回路80(電界効果トランジスタ82)に交流バイパス電流Iagc2として流れ込む。言い換えると、可変抵抗回路80は、制御電流Iagc2cntに応じて交流バイパス電流Iagc2を電界効果トランジスタ82のドレインとソースとの間に流す。交流バイパス電流Iagc2は交流成分であるので、交流バイパス電流Iagc2は、光電流Ipdに応じて、電界効果トランジスタ82のソースからドレインに流れることもあれば、電界効果トランジスタ82のドレインからソースに流れることもある。
【0068】
すなわち、光電流Ipdが大きくなって、差分ΔVtiaが大きくなり、制御電流Icntがオフセット電流Iofsの電流値を超えると、制御電流Iagc2cntが可変抵抗回路80に供給される。これにより、電界効果トランジスタ81,82にゲート・ソース間電圧Vgs3が発生する。ゲート・ソース間電圧Vgs3が大きくなるにつれて、電界効果トランジスタ82の抵抗値RAGC2が小さくなるので、光電流Ipdの直流成分を除く信号成分(交流成分)の一部が交流バイパス電流Iagc2として引き抜かれる。その結果、TIA部11が大信号入力によって飽和する可能性が低減される。
【0069】
深い3極管領域(線形領域)にバイアスされている電界効果トランジスタ82のドレイン・ソース間には、ドレイン・ソース間電圧に比例した電流が流れることになる。基準電圧信号Vrefは、TIA部11の入力電位と略同じ電位であるので、DC電流が流れることはなく、交流バイパス電流Iagc2はDCオフセット制御を乱さない。電界効果トランジスタ82の抵抗値RAGC2の変化によってAOC制御利得の特性にのみ影響を与える。
【0070】
なお、可変抵抗回路80では、制御端子80aから流れ込んだ制御電流Iagc2cntは、ダイオード接続されている電界効果トランジスタ81に流れ、抵抗端子80cからTIA部11の入力端子に向けて流れ出し、光電流Ipdの直流成分を増加させる。上述のように、制御電流Iagc2cntは、帰還電流源52によって直流バイパス電流Iaocの一部として引き抜かれる。これにより、制御電流Iagc2cntに起因して電圧信号Vtiaの電位にDCオフセットが生じることが抑制される。
【0071】
次に、可変抵抗回路53と可変抵抗回路80との関係について説明する。TIA部11の入力端子では、電流信号Iinによって最大で100mV程度の振幅が発生している。この電位変動に伴って、電界効果トランジスタ57,82のドレイン・ソース間電圧Vdsが変動し得る。上述のように、電界効果トランジスタ57のドレイン及び電界効果トランジスタ82のソースが入力端子10a(TIA部11の入力端子)に共通に接続されており、電界効果トランジスタ57のソース及び電界効果トランジスタ82のドレインが基準電圧発生回路12(電圧アンプ12a)の出力端子に共通に接続されている。このため、上述の電位変動に伴って、電界効果トランジスタ57及び電界効果トランジスタ82には、互いに逆向き(逆極性)のドレイン・ソース間電圧Vds(の変動)が発生する。
【0072】
可変抵抗回路53と可変抵抗回路80とが入力端子10aと基準電圧発生回路12の出力端子との間に並列に接続されているので、入力端子10a(TIA部11の入力)から見た可変抵抗回路53と可変抵抗回路80との合成抵抗値RAGCTと抵抗値RAGC1と抵抗値RAGC2とには、式(6)の関係が成立する。ここでは、電界効果トランジスタ57と電界効果トランジスタ82とは、同じ構造のトランジスタであり、同じサイズを有しており、互いに同じ電気的特性を有していることとしている。つまり、電界効果トランジスタ57の固有利得β、ゲート・ソース間電圧Vgs0、及び閾値電圧Vthは、電界効果トランジスタ82の固有利得β、ゲート・ソース間電圧Vgs0、及び閾値電圧Vthとそれぞれ等しい。この場合、抵抗値RAGC1及び抵抗値RAGC2はいずれも式(4)で表されるが、電界効果トランジスタ57及び電界効果トランジスタ82には、逆極性のドレイン・ソース間電圧Vdsが発生しているので、電界効果トランジスタ57に生じるドレイン・ソース間電圧Vdsを「+Vds」とし、電界効果トランジスタ82に生じるドレイン・ソース間電圧Vdsを「-Vds」としている。
【数6】
【0073】
式(6)を整理することで、式(7)が得られる。式(7)に示されるように、合成抵抗値RAGCTは、ドレイン・ソース間電圧Vdsの成分を含まないので、ドレイン・ソース間電圧Vdsによって変化しない。したがって、合成抵抗値RAGCTは、ドレイン・ソース間電圧Vdsに依存しなくなり、ドレイン・ソース間電圧Vdsが0Vである時の抵抗値から変動しなくなる。これにより、光電流Ipdから交流成分が低歪で引き抜かれる。
【数7】
【0074】
例えば、TIA部11の入力端子における電位変動によって、入力端子10aの電位が基準電圧信号Vrefよりも電圧Δvdsだけ大きくなった場合、電界効果トランジスタ57のドレイン・ソース間電圧Vdsは+Δvdsとなり、電界効果トランジスタ82のドレイン・ソース間電圧Vdsは-Δvdsとなる。このとき、可変抵抗回路53には、電圧Δvdsによる電流Δidsが抵抗端子53bから抵抗端子53cに向けて流れる。一方、可変抵抗回路80には、電圧Δvdsによる電流Δidsが抵抗端子80bから抵抗端子80cに向けて流れる。これらの電流Δidsは、基準電圧発生回路12に対して互いに逆向きに流れ、相殺される。このため、基準電圧発生回路12の基準電圧信号Vrefは、光電流Ipdによらず略一定となる。これにより、基準電圧信号Vrefが安定するので、ドレイン・ソース間電圧Vdsが合成抵抗値RAGCTに与える影響はより一層低減される。つまり、可変抵抗回路53と可変抵抗回路80とは、非線形性を補償する関係にある。このため、トランスインピーダンス増幅回路10Cでは、電流信号Iinを歪ませることなく増幅することができる。
【0075】
次に、トランスインピーダンス増幅回路10Cの作用効果を説明する。図5の(a)は、図1に示されるトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対する全高調波歪率の変化を示す図である。図5の(b)は、図1に示されるトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対するTIA部の出力振幅の変化を示す図である。図6の(a)は、比較例のトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対する全高調波歪率の変化を示す図である。図6の(b)は、比較例のトランスインピーダンス増幅回路における入力光平均パワーに対するTIA部の出力振幅の変化を示す図である。
【0076】
図5の(a)、図5の(b)、図6の(a)、及び図6の(b)の横軸は、光信号Pinの光入力パワーの平均値である入力光平均パワーPin_ave(単位:dBm)を示す。図5の(a)及び図6の(a)の縦軸は、出力波形(差動電圧信号Vout,Voutbの波形)の全高調波歪率(Total Harmonic Distortion;THD)(単位:%)を示す。図5の(b)及び図6の(b)の縦軸は、電圧信号Vtiaの振幅(単位:mVpp)を示す。
【0077】
図5の(a)及び図5の(b)に示される計算結果は、トランスインピーダンス増幅回路10Cにおける計算結果である(以下、「実施例」という。)。図6の(a)及び図6の(b)に示される計算結果は、比較例のトランスインピーダンス増幅回路における計算結果である(以下、「比較例」という。)。比較例のトランスインピーダンス増幅回路は、トランスインピーダンス増幅回路10Cと比較して、可変抵抗回路80を備えていない点、及び電界効果トランジスタ57の抵抗値RAGC1がトランスインピーダンス増幅回路10Cの半分に設定されている点において主に相違する。
【0078】
オフセット電流Iofsの電流値は、入力光平均パワーPin_aveが-1dBm付近を超えるとAGCが動作するように設定されている。全高調波歪率としては、10次高調波まで考慮した全高調波歪率が計算されている。後段の差動増幅回路13において歪が生じないようにするために、電圧信号Vtiaの振幅が最大でも500mVppを越えないように、電界効果トランジスタ57のサイズが決定されている。TIA部11の利得(電圧利得)は10倍に設定され、帰還抵抗素子11bの抵抗値は550Ωに設定されている。光信号Pinとしては、1GHzの正弦波で強度変調することによって得られた光信号が用いられ、光信号Pinの振幅は入力光平均パワーPin_aveと同じになるよう(消光比で約5dB)に設定されている。受光素子PDの光電変換利得は、計算を簡略化するために1.0A/Wに設定されている。
【0079】
図5の(a)と図6の(a)とを比較すると、入力光平均パワーPin_aveが3dBmであるときに、比較例ではTHDが5.2%であるのに対し、実施例ではTHDが4.1%に低減していることがわかる。図5の(b)と図6の(b)とを比較すると、比較例及び実施例では、電圧信号Vtiaの振幅が互いに同等に制御されていることがわかる。すなわち、実施例における交流バイパス電流Iagc1の引き抜き量が比較例と同等であるにもかかわらず、実施例のTHDが比較例のTHDよりも改善していることがわかる。
【0080】
実施例では、可変抵抗回路53におけるドレイン・ソース間電圧Vdsと、可変抵抗回路80におけるドレイン・ソース間電圧Vdsとが相補的に変化するので、電界効果トランジスタ57の抵抗値RAGC1の歪が、電界効果トランジスタ82の抵抗値RAGC2の歪によって相殺される。すなわち、電界効果トランジスタ82のドレイン及びソースの接続先が、可変抵抗回路53のドレイン及びソースの接続先とは反転している(入れ替わっている)ので、可変抵抗回路53におけるドレイン・ソース間電圧Vdsが正の値である場合、電界効果トランジスタ82におけるドレイン・ソース間電圧Vdsは負の値となる。したがって、可変抵抗回路53,80は、式(6)及び式(7)に示されるとおり、電界効果トランジスタ57の抵抗値RAGC1の歪と、電界効果トランジスタ82の抵抗値RAGC2の歪とが、互いにキャンセルするように動作する。
【0081】
以上説明したように、トランスインピーダンス増幅回路10Cでは、バイパス回路15Cによって直流バイパス電流Iaoc、交流バイパス電流Iagc1、及び交流バイパス電流Iagc2が生成され、受光素子PDによって生成された光電流Ipdから、直流バイパス電流Iaoc、交流バイパス電流Iagc1、及び交流バイパス電流Iagc2が引き抜かれることで、電流信号Iinが生成される。そして、TIA部11によって電流信号Iinが電圧信号Vtiaに変換され、差動増幅回路13によって電圧信号Vtiaと基準電圧信号Vrefとの差分ΔVtiaに応じて差動電圧信号Vout,Voutbが生成される。
【0082】
可変抵抗回路53では、電界効果トランジスタ56がダイオード接続されているので、電界効果トランジスタ56のドレインが制御電流Iagc1cntを受けると、電界効果トランジスタ56のゲートとソースとの間にゲート・ソース間電圧Vgs2が生成される。電界効果トランジスタ56のゲートと電界効果トランジスタ57のゲートとが互いに電気的に接続されており、電界効果トランジスタ56のソースと電界効果トランジスタ57のソースとが互いに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ57のゲート・ソース間電圧は、ゲート・ソース間電圧Vgs2と等しくなる。電界効果トランジスタ57のソースに基準電圧信号Vrefが供給され、電界効果トランジスタ57のドレインが入力端子10aに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ57のドレインとソースとの電位差はほとんど無い。これにより、電界効果トランジスタ57は(深い)3極管領域で動作する。このため、電界効果トランジスタ57は可変抵抗器として機能し、電界効果トランジスタ57のドレインの出力インピーダンスは低くなる。
【0083】
同様に、可変抵抗回路80では、電界効果トランジスタ81がダイオード接続されているので、電界効果トランジスタ81のドレインが制御電流Iagc2cntを受けると、電界効果トランジスタ81のゲートとソースとの間にゲート・ソース間電圧Vgs3が生成される。電界効果トランジスタ81のゲートと電界効果トランジスタ82のゲートとが互いに電気的に接続されており、電界効果トランジスタ81のソースと電界効果トランジスタ82のソースとが互いに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ82のゲート・ソース間電圧は、ゲート・ソース間電圧Vgs3と等しくなる。電界効果トランジスタ82のドレインに基準電圧信号Vrefが供給され、電界効果トランジスタ82のソースが入力端子10aに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ82のドレインとソースとの電位差はほとんど無い。これにより、電界効果トランジスタ82は(深い)3極管領域で動作する。このため、電界効果トランジスタ82は可変抵抗器として機能し、電界効果トランジスタ82のソースの出力インピーダンスは低くなる。
【0084】
電界効果トランジスタ57,82のドレインとソースとの電位差はほとんど無いことから、光電流Ipdの直流成分はほとんど電界効果トランジスタ57,82に流れ込まないものの、光電流Ipdの交流成分は交流バイパス電流Iagc1,Iagc2として電界効果トランジスタ57,82に流れ込み得る。制御電流Iagc1cnt,Iagc2cntは、制御電流Icntを増幅することで生成した電流とオフセット電流Iofsとの差分を増幅率γで増幅することにより得られるので、制御電流Icntがオフセット電流Iofsの電流値を超えた場合に、制御電流Icntが大きくなるにつれて制御電流Iagc1cnt,Iagc2cntが大きくなり、ゲート・ソース間電圧Vgs2,Vgs3も大きくなる。このため、光電流Ipdが小さい又は中程度の信号強度を有する場合、交流バイパス電流Iagc1,Iagc2の引き抜きが抑えられ、光電流Ipdの交流成分が減衰することを回避できる。光電流Ipdが大きい信号強度を有する場合には、光電流Ipdの交流成分が交流バイパス電流Iagc1,Iagc2として光電流Ipdから引き抜かれるので、光電流Ipdの交流成分を減衰させることができる。このように、可変抵抗回路53,80によって、トランスインピーダンス増幅回路10Cの利得が制御される。
【0085】
可変抵抗回路53の電界効果トランジスタ57の抵抗値RAGC1及び可変抵抗回路80の電界効果トランジスタ82の抵抗値RAGC2は、ドレイン・ソース間電圧Vdsの成分を含むので、ドレイン・ソース間電圧Vdsによって変化し得る。電界効果トランジスタ57では、ソースに基準電圧信号Vrefが供給され、ドレインが入力端子10aに電気的に接続されているのに対し、電界効果トランジスタ82では、ドレインに基準電圧信号Vrefが供給され、ソースが入力端子10aに電気的に接続されている。このため、電界効果トランジスタ57のドレイン・ソース間電圧Vdsの極性と、電界効果トランジスタ82のドレイン・ソース間電圧Vdsの極性とは、互いに反対となる。したがって、入力端子10aから見た可変抵抗回路53と可変抵抗回路80とによる合成抵抗値RAGCTにおいて、電界効果トランジスタ57のドレイン・ソース間電圧Vdsの成分と電界効果トランジスタ82のドレイン・ソース間電圧Vdsの成分とが互いに打ち消し合う。これにより、合成抵抗値RAGCTが、電界効果トランジスタ57のドレイン・ソース間電圧Vds及び電界効果トランジスタ82のドレイン・ソース間電圧Vdsによって変動することが抑えられる。その結果、歪みの発生が抑制されるので、信号品質を改善することが可能となる。
【0086】
なお、抵抗端子53bの出力インピーダンスと抵抗端子80cの出力インピーダンスとの合成出力インピーダンスに応じてトランスインピーダンス増幅回路10Cの利得が変化する。合成出力インピーダンスは、TIA部11の入力インピーダンスZinを考慮して決められてもよい。例えば、TIA部11の利得可変比率をA(Aは1より大きい実数)とするとき、合成出力インピーダンスはZin/(A-1)となるように設定される。それにより、AGCを行わないときのTIA部11の電流信号Iinの値をIinoffとすると、AGCを行うときの電流信号Iinの値Iinonは、Iinon=Iinoff/Aとなる。例えば、A=2のときには合成出力インピーダンスはZinとほぼ等しくなり、Aを2より大きくする場合の合成出力インピーダンスはZinよりも小さい値となるようにする。したがって、AOCとAGCとを同時に行うとき、出力端子52bの出力インピーダンスは、合成出力インピーダンスよりも大きくなるように設定される。ところで、AGCを行わないときには、合成出力インピーダンスは、100×Zin以上とされてもよい。合成出力インピーダンスは、上述の合成抵抗値RAGCTに等しいと考えてもよい。入力インピーダンスZinと合成出力インピーダンスとはそれぞれ互いに異なる周波数特性を持ち得るため、少なくとも所定の周波数範囲(帯域)にて上述の関係が満たされていればよい。
【0087】
バイパス回路15Cは、制御電流Icntに応じて直流バイパス電流Iaocを生成する帰還電流源52と、制御電流Icntに応じて交流バイパス電流Iagc1を生成する可変抵抗回路53と、制御電流Icntに応じて交流バイパス電流Iagc2を生成する可変抵抗回路80と、を備えている。制御回路51Cは、制御電流Icntが大きくなるにつれて直流バイパス電流Iaocが大きくなるように帰還電流源52を制御し、制御電流Icntがオフセット電流Iofsの電流値を超えた場合に制御電流Icntが大きくなるにつれて交流バイパス電流Iagc1,Iagc2が大きくなるように、可変抵抗回路53,80を制御する。この構成によれば、単一の制御ループで、直流成分を除去する制御(DCオフセット制御)とトランスインピーダンス増幅回路10Cの利得制御とを実現することができるので、回路規模が大きくなることを抑制することが可能となる。
【0088】
帰還電流源52では、電界効果トランジスタ54がダイオード接続されているので、電界効果トランジスタ54のドレインが制御電流Iaoccntを受けると、電界効果トランジスタ54のゲートとソースとの間にゲート・ソース間電圧Vgs1が生成される。電界効果トランジスタ54のゲートと電界効果トランジスタ55のゲートとが互いに電気的に接続されており、電界効果トランジスタ54のソースと電界効果トランジスタ55のソースとが互いに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ55のゲート・ソース間電圧はゲート・ソース間電圧Vgs1と等しくなる。電界効果トランジスタ55のソースが電界効果トランジスタ54のソース、つまり接地電位GNDに電気的に接続され、電界効果トランジスタ55のドレインが入力端子10aに電気的に接続されているので、電界効果トランジスタ55のソースとドレインとの電位差が大きくなる。これにより、電界効果トランジスタ55は飽和領域で動作する。このため、電界効果トランジスタ55は電流源として機能し、電界効果トランジスタ55のドレインの出力インピーダンスが大きくなるので、光電流Ipdの交流成分はほとんど電界効果トランジスタ55に流れ込まないものの、光電流Ipdの直流成分は直流バイパス電流Iaocとして電界効果トランジスタ55に流れ込み得る。そして、制御電流Icntが大きくなるにつれて、電界効果トランジスタ54のゲート・ソース間電圧Vgs1が大きくなるので、それに応じて電界効果トランジスタ55のドレイン電流が大きくなり、光電流Ipdの直流成分が直流バイパス電流Iaocとして光電流Ipdから引き抜かれ、光電流Ipdから直流成分の除去が適切に行われる。なお、出力端子52bの出力インピーダンスをどの程度の大きさにすべきかは、TIA部11の入力インピーダンスを考慮して決められてもよい。例えば、TIA部11の入力インピーダンスをZinとしたとき、出力端子52bの出力インピーダンスは100×Zin以上にされてもよい。入力インピーダンスZinと出力端子52bの出力インピーダンスとはそれぞれ互いに異なる周波数特性を持ち得るため、少なくとも所定の周波数範囲(帯域)にてこのような関係が満たされていればよい。
【0089】
可変抵抗回路80では、制御電流Iagc2cntが電界効果トランジスタ81のドレインからソースに流れる。電界効果トランジスタ81のソースは入力端子10aに電気的に接続されているので、制御電流Iagc2cntは、入力端子10a(TIA部11の入力端子)に流れ出し、光電流Ipdの直流成分を増加させる。これに対し、直流バイパス電流Iaocが制御電流Iagc2cntを含むように設定されているので、光電流Ipdから制御電流Iagc2cntに起因する直流成分を除去することができる。その結果、制御電流Iagc2cntに起因して電圧信号Vtiaの電位にDCオフセットが生じることを抑制することが可能となる。
【0090】
基準電圧発生回路12は、電圧アンプ12aと、電圧アンプ12aの入出力間に電気的に接続された帰還抵抗素子12bと、を備えている。この構成では、基準電圧発生回路12の出力インピーダンスが広い周波数範囲において低くなる。つまり、TIA部11の入力端子から見た可変抵抗回路53,80のインピーダンスが、広い周波数範囲において低くなる。このため、光電流Ipdから交流バイパス電流Iagc1,Iagc2を引き抜きやすくすることができる。
【0091】
DCオフセット制御は、高インピーダンスの帰還電流源52を用いて行われるので、光電流Ipdの交流成分への影響が少ない(交流成分は流れない)。一方、利得制御は、可変抵抗回路53,80を用いて光電流Ipdの交流成分をバイパスさせることによって行われ、電界効果トランジスタ57,82のドレイン電位とソース電位とが略等しいので、光電流Ipdの直流成分への影響が少ない(直流成分は流れない)。その結果、直流成分の除去の制御と利得制御とが干渉することを回避できる。
【0092】
以上のように、トランスインピーダンス増幅回路10Cによれば、トランスインピーダンス増幅回路10Cの利得制御と差分ΔVtiaを0にするためのDCオフセット制御とを互いに干渉させることなく、単一制御ループで制御することができ、かつ、低歪で利得制御を行うことができる。
【0093】
なお、本開示に係るトランスインピーダンス増幅回路は上記実施形態に限定されない。
【0094】
TIA部11、基準電圧発生回路12、差動増幅回路13、制御電流生成回路14、及びバイパス回路15Cの回路構成は、上記実施形態に示された構成に限られない。例えば、TIA部11は、電流信号Iinを電圧信号Vtiaに変換するように構成されていればよい。基準電圧発生回路12は、基準電圧信号Vrefを供給可能に構成されていればよい。制御電流生成回路14は、差分ΔVtiaの積分値に基づいて制御電流Icntを生成可能に構成されていればよい。
【0095】
一般的には、ダミーTIAの入力インピーダンスは、TIA部11の入力インピーダンスと同様に10~100Ω程度であり、ダミーTIAの出力インピーダンスは、数Ω程度である。ダミーTIAの入力端子及び出力端子は、いずれも略同じ電位の基準電圧信号Vrefを発生しているので、いずれの端子が基準電圧発生回路12の出力端子として用いられてもよい。ダミーTIAの出力インピーダンスの方が入力インピーダンスよりも低いので、ダミーTIAの出力端子を基準電圧発生回路12の出力端子として用いることによって、抵抗値RAGC1及び抵抗値RAGC2を大きくすることができ、電界効果トランジスタ57,82のサイズを小さくすることが可能となる。言い換えると、電界効果トランジスタ57,82の寄生容量を小さくすることができるので、トランスインピーダンス増幅回路10Cの高周波特性を改善することが可能となる。
【0096】
また、制御回路51Cは、図4に示される回路構成に限られず、図3に示される制御電流Iaoccnt、制御電流Iagc1cnt、及び制御電流Iagc2cntを生成可能に構成されていればよい。帰還電流源52は、制御電流Iaoccntが大きくなるにつれて直流バイパス電流Iaocが大きくなるように、直流バイパス電流Iaocを生成可能に構成されていればよい。帰還電流源52は、例えば、ダイオード接続された電界効果トランジスタ54に代えて、制御電流Iaoccntに応じて電界効果トランジスタ55のゲート・ソース間電圧を変更するように設けられた抵抗素子を備えていてもよい。電界効果トランジスタ55のソースは、接地電位GNDに電気的に接続されていなくてもよく、電界効果トランジスタ55が飽和領域で動作するように、電界効果トランジスタ55のソース電位が設定されていればよい。つまり、電界効果トランジスタ55のドレイン電位が電界効果トランジスタ55のソース電位よりも大きくなるように、電界効果トランジスタ55のソース電位が設定される。また、バイパス回路15Cは、単一の制御ループで帰還電流源52、可変抵抗回路53、及び可変抵抗回路80を制御しなくてもよい。
【0097】
上記実施形態では、電界効果トランジスタ57と電界効果トランジスタ82とは、同じ構造のトランジスタであり、同じサイズを有しており、互いに同じ電気的特性を有している。しかしながら、電界効果トランジスタ57の電気的特性は電界効果トランジスタ82の電気的特性と一致していなくてもよい。この場合でも、可変抵抗回路53,80によって、ドレイン・ソース間電圧Vdsの影響を低減することができ、合成抵抗値RAGCTの非線形性を補償することが可能となる。
【0098】
また、トランスインピーダンス増幅回路10Cは、基準電圧発生回路12を備えていなくてもよく、トランスインピーダンス増幅回路10Cは、外部の基準電圧発生回路から基準電圧信号Vrefを供給されてもよい。
【0099】
上記実施形態では、制御電流Iaoccnt(直流バイパス電流Iaoc)の大きさは、増幅率αによって調整されるが、これに代えてトランジスタ61,62のカレントミラー比によって調整されてもよく、増幅率α及びトランジスタ61,62のカレントミラー比の両方によって調整されてもよい。同様に、直流バイパス電流Iaocの大きさは、電界効果トランジスタ54,55のカレントミラー比によって調整されてもよい。
【0100】
上記実施形態では、制御電流Iagc1cnt(交流バイパス電流Iagc1)の大きさは、増幅率γ及びオフセット電流Iofsの電流値によって調整されるが、増幅率γに代えてトランジスタ61,63のカレントミラー比によって調整されてもよく、増幅率γ、トランジスタ61,63のカレントミラー比、及びオフセット電流Iofsの電流値によって調整されてもよい。同様に、交流バイパス電流Iagc1の大きさは、電界効果トランジスタ56のサイズ、及び電界効果トランジスタ57のサイズ等によって調整されてもよい。
【0101】
上記実施形態では、電界効果トランジスタ54,55、及びトランジスタ61~69,71,72として、電界効果トランジスタを用いて説明を行ったが、電界効果トランジスタ54,55、及びトランジスタ61~69,71,72は、バイポーラトランジスタであってもよい。電界効果トランジスタ54,55、及びトランジスタ61~69,71,72がバイポーラトランジスタである場合には、電界効果トランジスタのゲート、ソース、及びドレインは、ベース、エミッタ、及びコレクタにそれぞれ読み替えられる。
【符号の説明】
【0102】
1C…光受信装置、10C…トランスインピーダンス増幅回路、10a…入力端子、11…TIA部(シングルエンド型増幅回路)、11a…電圧アンプ、11b…帰還抵抗素子、12…基準電圧発生回路、12a…電圧アンプ(増幅器)、12b…帰還抵抗素子、13…差動増幅回路、14…制御電流生成回路、15C…バイパス回路、41…積分回路、41a…入力端子、41b…入力端子、41c…出力端子、41d…出力端子、42…OTA、43…オペアンプ、43a…非反転入力端子、43b…反転入力端子、43c…反転出力端子、43d…非反転出力端子、44…抵抗素子、45…抵抗素子、46…コンデンサ、47…コンデンサ、51C…制御回路、51a…入力端子、51b…出力端子、51c…出力端子、51d…電源端子、51e…出力端子、52…帰還電流源、52a…入力端子、52b…出力端子、52c…接地端子、53…可変抵抗回路(第1可変抵抗回路)、53a…制御端子、53b…抵抗端子、53c…抵抗端子、54…電界効果トランジスタ(第5電界効果トランジスタ)、55…電界効果トランジスタ(第6電界効果トランジスタ)、56…電界効果トランジスタ(第1電界効果トランジスタ)、57…電界効果トランジスタ(第2電界効果トランジスタ)、61~69,71,72…トランジスタ、70…電流源、80…可変抵抗回路(第2可変抵抗回路)、80a…制御端子、80b…抵抗端子、80c…抵抗端子、81…電界効果トランジスタ(第3電界効果トランジスタ)、82…電界効果トランジスタ(第4電界効果トランジスタ)、GND…接地電位、Iaoc…直流バイパス電流、Iaoccnt…制御電流(第3制御電流)、Iagc1…交流バイパス電流(第1交流バイパス電流)、Iagc1cnt…制御電流(第1制御電流)、Iagc2…交流バイパス電流(第2交流バイパス電流)、Iagc2cnt…制御電流(第2制御電流)、Icnt…制御電流、Iin…電流信号、Iofs…オフセット電流、Ipd…光電流(入力電流信号)、Iref…基準電流、N1…ノード、N2…ノード、Pin…光信号、PD…受光素子、VCC…電源電圧、Vgs1…ゲート・ソース間電圧、Vgs2…ゲート・ソース間電圧、Vgs3…ゲート・ソース間電圧、Vinn…電圧信号、Vinp…電圧信号、Vout,Voutb…差動電圧信号、VPD…バイアス電圧、Vref…基準電圧信号、Vtia…電圧信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6