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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】防護用フード
(51)【国際特許分類】
   A62B 17/04 20060101AFI20230328BHJP
   A42B 1/018 20210101ALI20230328BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20230328BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20230328BHJP
   A42B 1/04 20210101ALI20230328BHJP
【FI】
A62B17/04 Z
A42B1/018 B
A41D13/11 G
A42B1/018 C
A41D13/00 102
A42B1/04 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019513093
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006731
(87)【国際公開番号】W WO2019167826
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018036187
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸敏
(72)【発明者】
【氏名】林 祐一郎
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/063303(WO,A1)
【文献】米国特許第05452712(US,A)
【文献】特開2014-237907(JP,A)
【文献】登録実用新案第3110058(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 17/04
A42B 1/018
A41D 13/11
A41D 13/00
A42B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の頭部を被覆するフードを有し、着用者の顔に対応する位置に開口部が形成されてなり、
前記開口部の上辺には着用者の頭部周りで係止可能な係止具Aを有するとともに、前記開口部の左右側部には係止具Bを有し、
前記係止具Bは帯状部材であって、その一部が前記左右側部に結合され、別の一部が前記係止具Aに結合されている、または、結合可能に構成されており、
前記係止具A、係止具B、およびフードの素材が不織布である、
ことを特徴とする防護用フード。
【請求項2】
さらに、着用者の鼻および口を覆うマスクを有し、前記フードと前記マスクとによって前記開口部が形成されてなり、前記マスクは、前記開口部の下方において前記フードに結合されている、請求項1に記載の防護用フード。
【請求項3】
前記マスクの左右側辺に帯状部材を有し、該帯状部材が前記係止具Aに結合されている、または、結合可能に構成されている、請求項に記載の防護用フード。
【請求項4】
前記マスクは、透湿度が200g/m・h以上2000g/m・h以下の不織布で構成されている、請求項またはに記載の防護用フード。
【請求項5】
前記マスクは、通気量が20cm/cm/sec以上200cm/cm/sec以下、かつ、通塵捕集効率が80%以上の不織布で構成されている、請求項のいずれかに記載の防護用フード。
【請求項6】
前記フードは、透湿度が200g/m・h以上2000g/m・h以下の不織布で構成されている、請求項1~のいずれかに記載の防護用フード。
【請求項7】
前記フードは、通気量が20cm/cm/sec以上200cm/cm/sec以下、かつ、通塵捕集効率が80%以上の不織布で構成されている、請求項1~のいずれかに記載の防護用フード。
【請求項8】
前記フードは、頭頂部に対応する部分を構成する布帛と、側頭部に対応する部分を構成する布帛とが縫合されて構成されている、請求項1~のいずれかに記載の防護用フード。
【請求項9】
使い捨てである、請求項1~のいずれかに記載の護用フード。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の防護用フードを取り付けてなる防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着脱しやすく、頭部や顔面への密着度が高い防護用フードに関する。
【背景技術】
【0002】
粉塵、放射能やウイルス等の外的有害物質の存在する場所で作業するとき、それらから身体を守るため防護服や防護用フードを着用する。一方、食品工場やクリーンルームでは人体からの発塵や毛髪等汚物を外に出さないことを目的に防護服や防護用フードを着用する。いずれも着用順序は煩雑であったり、着用に手間がかかることが多かった。また、重複して装備しなくてはならないため長時間着用していると蒸れ感を感じて不快になることも多かった。装備の中でも特に防護用フードは、頭部や顔面を覆うため呼吸しづらかったり細かな作業時に視界を遮り邪魔になったりすることが多かった。
【0003】
そこで、軟質のフードによりマスク両端の固定帯をフード外部で人体の耳朶あるいは頭部にかけることができる「マスク付き医療用フード装置」(特許文献1)、目元には保護メガネを、鼻口元にはマスクを一体化させた「防塵フード」(特許文献2)、着用者がフードを着用した状態でマスクを容易に着脱できる「防塵フード」(特許文献3)、(特許文献4)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のフード装置は、フード本体にマスクを一体的に設けるとともにフード本体の人体眼部に対応する位置にも透明材料などの可視材料を一体的に設けるものであり、着脱性やフードの人体への密着性、さらには可視領域の確保という点で、課題の残るものであった。また、特許文献2に記載の防塵フードは、フード本体に保護眼鏡やマスクを一体的に組み込み、保護メガネやマスクを掛ける耳掛けや鼻掛けをフード内側に設けることで、人体と保護具とのズレを防止するものであるが、やはり着脱性やフードの人体への密着性、可視領域の確保という点で課題が残るものであった。
【0005】
一方、食品現場などで着用されることを想定した特許文献3と特許文献4に記載のフードでは、食品のにおいをかいだり試食したりするときに口や鼻の部分を開口できる工夫がなされている。しかし、特許文献3に記載のフードは、頭髪や眉毛の外部露出を防ぐために人体眼部の上方に対応する位置を伸縮性帯状部材などでアーチ状に形成するものであり、かかるアーチには常に内側へと力がかかる。また、特許文献4に記載のフードも、目、鼻、口に対応する開口部の周縁部には伸縮性布地を用いるものであり、かかる周縁部には常に開口部内側へと力がかかる。そのため、いずれの文献に記載のフードも、フード着用者が右に左にと頭を動かしながら作業するような場合にはフード自体が目を覆うことにもなりかねず、密着性、可視領域の確保という点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第3110058号公報
【文献】特開2013-253344公報
【文献】特開2014-237907公報
【文献】特許第6051125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、かかる従来技術の欠点を改良し、簡単に着用出来、密着性に優れた防護用フードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は次の(1)~(11)のいずれかの構成を有する。
(1)着用者の頭部を被覆するフードを有し、着用者の顔に対応する位置に開口部が形成されてなり、該開口部の上辺には、着用者の頭部周りで係止可能な係止具Aを有することを特徴とする防護用フード。
(2)前記フードは開口部の左右側部に係止具Bを有し、該係止具Bは帯状部材であって、その一部が前記左右側部に結合され、別の一部が前記係止具Aに結合されている、または、結合可能に構成されている、前記(1)に記載の防護用フード。
(3)さらに、着用者の鼻および口を覆うマスクを有し、前記フードと前記マスクとによって前記開口部が形成されてなり、前記マスクは、前記開口部の下方において前記フードに結合されている、前記(1)に記載の防護用フード。
(4)前記マスクの左右側辺に帯状部材を有し、該帯状部材が前記係止具Aに結合されている、または、結合可能に構成されている、前記(3)に記載の防護用フード。
(5)前記マスクは、透湿度が200g/m・h以上2000g/m・h以下の不織布で構成されている、前記(3)または(4)に記載の防護用フード。
(6)前記マスクは、通気量が20cm/cm/sec以上200cm/cm/sec以下、かつ、通塵捕集効率が80%以上の不織布で構成されている、前記(3)~(5)のいずれかに記載の防護用フード。
(7)前記フードは、透湿度が200g/m・h以上2000g/m・h以下の不織布で構成されている、前記(1)~(6)のいずれかに記載の防護用フード。
(8)前記フードは、通気量が20cm/cm/sec以上200cm/cm/sec以下、かつ、通塵捕集効率が80%以上の不織布で構成されている、前記(1)~(7)のいずれかに記載の防護用フード。
(9)前記フードは、頭頂部に対応する部分を構成する布帛と、側頭部に対応する部分を構成する布帛とが縫合されて構成されている、前記(1)~(8)のいずれかに記載の防護用フード。
(10)使い捨てである、前記(1)~(9)のいずれかに記載の護用フード。
(11)前記(1)~(10)のいずれかに記載の防護用フードを取り付けてなる防護服。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防護用フードは、着用者の顔に対応する位置に開口部が形成されてなり、開口部の上辺には、着用者の頭部周りで係止可能な係止具Aを有しているので、フードの着用者への密着性が極めて優れたものとなる。そして、フードの開口部の左右側部に帯状部材の係止具Bを設け、その一部を前記左右側部に結合するとともに、別の一部を前記係止具Aに結合、または、結合可能に構成する場合には、密着性および着脱性がより優れたものとなる。
【0010】
また、本発明の防護用フードが、フードとマスクを有するとともに該フードとマスクによって開口部を形成されてなり、その開口部の下方にマスクを結合している場合も、着脱性に優れ、しかも開口部の上辺に、着用者の頭部周りで係止可能な係止具Aを設けることで、フードの着用者への密着性を極めて優れたものとすることができる。そして、マスクの左右側辺に帯状部材を設け、該帯状部材を前記係止具Aに結合、または、結合可能に構成する場合には、密着性および着脱性がさらに優れたものとなる。
【0011】
また、フードやマスクを、透湿度が200g/m・h以上2000g/m・h以下の不織布で構成する場合には、例えば屋外作業時や蒸し暑い屋内で長時間着用してもムレにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】日本人寸法データブックにおけるNo.15頬弓幅Aを示す図である。
図2】日本人寸法データブックにおけるNo.8眉間・オトガイ距離Bを示す図である。
図3】本発明の一実施形態を示す防護用フードの正面図である。
図4】本発明の一実施形態を示す防護用フードの正面図である。
図5】本発明の一実施形態を示す防護服の正面図である。
図6】本発明の一実施形態を示す防護用フードの正面図である。
図7】本発明の一実施形態を示す防護用フードにおけるマスク部分の拡大図である。
図8】本発明の一実施形態を示す防護服の正面図である。
図9】一般的なフードの形状図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0014】
本発明の防護用フードは、例えば図3に示すように、着用者の頭部を被覆するフード2を有し、そのフード2には、着用者の顔に対応する位置に開口部20が形成されるとともに、開口部20の上辺に、頭部周りで係止可能な係止具5(係止具A)が設けられている。着用者の顔に対応する位置に開口部20を形成することで目、鼻、口を露出することができ、係止具5により、開口部20周辺でのフードの顔への密着性を高めることができる。
【0015】
係止具5は、頭部周りで係止可能なものであればいかなるものであってもよいが、例えば、紐やゴム、テープ状物(バイヤステープ、綾テープ、面ファスナーなど)などの係止具を例示できる。また、その端部に両面テープを設けてフード本体に係止可能にしてもよい。着用者はフードの額に対応する部位とフード側面とを一緒にひっぱることができ、着用工程数を減らせることができ、なおかつ密着度を向上することができる。
【0016】
係止具5は、帯状部材の左右両端部を頭囲周囲に合わせて引っ張って止めるなど、張力を付与して係止できる構造が好ましい。帯状部材の両端を互いに後頭部で交差させて結んだり、帯状部材の端部に面ファスナーや両面テープをつけて、その帯状部材の両端部を互いに接触して固定するようにしたり、その両面テープを頭部側面に貼り付けて固定すしたりすればよい。なお、帯状部材は、その両端部を互いに交差したり接触させて固定する場合、着用者の頭囲以上の長さを有する必要がある。
【0017】
そして、フード2の、開口部20の左右側部には、帯状部材の係止具50(係止具B)を設けることが好ましい。該帯状部材の係止具50(係止具B)は、一部を前記左右側部に結合するとともに、別の一部を係止具5(係止具A)に結合する、または、結合可能に構成することが好ましい。このようにすることで、該2本の係止具5、50(係止具A、B)を左右それぞれの側頭部で結合または結合可能に構成する。
【0018】
係止部5、50の素材はフード2の共生地であってもフード2とは異素材であってもよいが、フード2と同じ生地で作ったものにすることでコストダウンでき、素材特徴を活かすことができ、また、縫製後の滅菌加工をする場合にも問題が発生しないので、好ましい。
【0019】
開口部20の大きさは、幅(ヨコ方向)13cmから16cmが好ましく、15cm程度がより好ましい。開口部の長さ(タテ方向)は9cmから13cmが好ましく、11cmから12cmがより好ましい。これは社団法人人間工学研究センター発行の日本人の人体寸法データブック2004-2006を参考に割り出した数字で、幅方向については図1に示す頬弓幅Aを、長さ方向については図2に示す眉間・オトガイ距離Bを参考に、露出を最小限に抑え、なおかつ視線の妨げにならない大きさである。
【0020】
本発明においては、図4に示すように開口部20の下部を覆うように、すなわち着用者の鼻と口部を覆うように、フード2にマスク3を結合することも可能である。このようにマスク一体型の防護用フードとすることで簡便に着用できる。
【0021】
マスク3は、図4示すように、中央部(着用者の鼻に対応する位置)に左右側辺よりも1.0cmから2.0cm高い凸部が形成されるように、上方側を弓状にすることが好ましい。このような構成により鼻への密着性をあげることができる。さらにこのマスク上辺には、ノーズワイヤー8を挿入することでより鼻に密着させることができる。また、マスクの水平方向にタック9を入れることで、より強固に防護したい場合に該防護用フードの内側に別の立体型マスクを付けても着用出来るし、マスクが口に密着して息苦しくなることを防ぐことができる。タックの分量は2cm以上8cm以下の範囲内で入れること、すなわち、2~8cmの余分布帛量を1本~4本のタックに振り分けて入れることが好ましい。
【0022】
そして、マスク一体型の防護用フードとしては、例えば図6に示すような態様も好ましい。図6に示す防護用フード1は、着用者の頭部を被覆するフード2と着用者の鼻および口を覆うマスク3とを有し、これらフード2とマスク3とによって着用者の顔に対応する位置に開口部20を形成するとともに、開口部20の上辺に、頭部周りで係止可能な係止具5を有している。また、開口部20の下方においては鼻と口部を覆うマスク3がフード2に結合されている。このような本発明の防護用フードは、顔に対応するフード中心部に開口部20を有することにより目が露出するので、この露出した部分をゴーグル、フィルムなどでカバーしても視界を確保することができる。
【0023】
図6に示すような防護用フード1において、開口部20の大きさは、例えば、幅(着用時のヨコ方向)13cmから16cmが好ましい。また、開口部の長さ(着用時のタテ方向)は2.0cmから6.0cmが好ましく、3.0cmから5.0cmがより好ましい。これは社団法人人間工学研究センター発行の日本人の人体寸法データブック2004-2006を参考に割り出した数字で、幅方向については図1に示す頬弓幅Aを、長さ方向については図2に示す眉間・オトガイ距離Bを参考に、露出を最小限に抑え、なおかつ視線を妨げないという観点から導きだした大きさである。
【0024】
そして、図6に示すような本発明の防護用フードにおいても、目を露出させる開口部20周辺でのフードの顔への密着性を高めるため、開口部20の上辺に係止具5を有している。係止具5を設けることで、額部分にフードを密着させることができ、頭や首を左右に動かした場合のフードのずれを防ぐことができる。上辺に係止具5がない場合は、特に動いたときにフードと額の間にすき間ができ、内外からの汚染物侵入を高度に防止することが難しい。
【0025】
かかる係止具5は、図3について説明したものと同様、頭部周りで係止可能なものであればいかなるものであってもよく、例えば、紐やゴム、テープ状物(バイヤステープ、綾テープ、面ファスナーなど)など帯状部材を例示できる。また、帯状部材の端部に両面テープを設け、係止可能にしてもよい。
【0026】
また、かかる係止具5は、その帯状部材の左右両端部を頭囲周囲に合わせて引っ張って止めるなど、張力を付与して係止できる構造であればよい。例えば、帯状部材の両端を互いに後頭部で交差させて結んだり、帯状部材の端部に面ファスナーや両面テープをつけて、その帯状部材の両端部を互いに接触して固定するようにしたり、その両面テープを頭部側面に貼り付けて固定すしたりすればよい。なお、帯状部材は、その両端部を互いに交差させたり接触させて固定する場合には、着用者の頭囲以上の長さを有する必要がある。
【0027】
図6に示すような防護用フードにおいても、係止部5の素材はフードの共生地であってもフードとは異素材であってもよいが、フード本体と同じ生地で作ったものにすることでコストダウンでき、素材特徴を活かすことができ、また、縫製後の滅菌加工をする場合にも問題が発生しないので、好ましい。
【0028】
さらに、図6に示すような本発明の防護用フードにおいては、開口部20に結合させたマスクの左右側辺にタテ方向に延びる帯状部材6を配することでマスクの密着度を上げることができる。帯状部材6は、図6に示すように、例えばマスクよりも上方で、かつ、側頭部に対応する位置で、係止具5に縫合により一体化(図中C)しておくことが好ましい。このようにすることで、着用者はフードの額に対応する部位とマスクとを一緒にひっぱることができ、着用工程数を減らせることができ、なおかつ密着度を向上することができる。なお、係止具5と帯状部材6とを結合する場合、かかる結合は着用者が本発明の防護用フードを着用するまでに行われていればよいため、着用者のサイズに合わせて両者の位置関係を変更できるように、面ファスナーや両面テープなどにより結合可能に構成することも好ましい。
【0029】
図6に示す防護用フードに用いられるマスク3も、図7で示すように、中央部(着用者の鼻に対応する位置)に左右側辺よりも1.0cmから2.0cm高い凸部が形成されるように、上方側を弓状7にすることが好ましい。このような構成により鼻への密着性をあげることができる。さらにこのマスク上辺には、ノーズワイヤー8を挿入することでより鼻に密着させることができる。また、マスクの水平方向にタック9を入れることで、より強固に防護したい場合に該防護用フードの内側に別の立体型マスクを付けても、着用出来るし、マスクが口に密着して息苦しくなることを防ぐことができる。タックの分量は2cm以上8cm以下の範囲内で入れること、すなわち、2~8cmの余分布帛量を1本~4本のタックに振り分けて入れることが好ましい。
以上のような本発明の防護用フードは、いずれの態様であっても簡便な構造であるため、素早く着用することができる。特に、クリーンルームなどでは着用する際に床や壁面に防護服や防護用フードが触れないように素早く着用する必要があるが、本発明の防護用フードおよび該防護用フードを縫着した防護服によれば、それが容易になる。
【0030】
そして、本発明の防護用フードは、例えば図5、8に示すように、概ね正円の、頭頂部に対応する部分を構成する布帛10と、概ね台形の、側頭部に対応する部分を構成する布帛11とを縫い合わせることにより構成できる。このような構成で、頭部により密着できるものとすることができる。一般的には図9に示すように左右同型の2枚の生地を縫い合わせているフードが多く、その場合、額の正しい位置が固定しづらく頭を動かすとフードの中であたまが動くため、視界を遮り着用感が悪いものとなりやすい。
【0031】
また、防護用フード使用時には、通常、目を保護するためにゴーグルや保護メガネを使用するが、本発明の防護用フードであればかかるゴーグル・保護メガネとマスクとのすき間を格段に減少させることができる。また、ゴーグル・保護メガネを着用する代わりに、開口部20に視認性の高いフィルムを縫着してもかまわない。その際マスクからの呼気流出による曇りが発生するため、紡曇加工しているフィルムを用いることが好ましい。
【0032】
本発明の防護用フードは、図5、8に示すような防護服12を構成するものとして使用できるが、防護用フードおよび/または防護服に使用する素材は、フード2もマスク3も透湿度が200g/m・h以上2000g/m・h以下の不織布であることが、着用快適性の点で好ましい。透湿度が200g/m・hを下回るとムレやすく着用快適性に劣りやすい。また2000g/m・hを上回る場合は通塵捕集効率が劣るため、防護服として好ましくない。
【0033】
さらに、フード2および/またはマスク3に使用する素材は、通気量が20cm/cm/sec以上200cm/cm/sec以下、なおかつ通塵捕集効率が80%以上の不織布であることが好ましい。不織布が20cm/cm/secを下回ると蒸れやすく着用快適性に劣る。200cm/cm/secを上回ると通塵捕集効率が劣り、内外からの汚染物侵入を防止することが難しくなる場合がある。
【0034】
本発明の防護用フードおよび/または防護服に使用する素材(生地構成)は、不織布単層や不織布を用いた積層体などが挙げられる。積層体の例としては、SMS構造(スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布)やSFS構造(スパンボンド不織布/フィルム/スパンボンド不織布)の3層積層体がよく知られている。SMS構造やSFS構造は、真ん中の層に機能性素材を用いる事ができ、かつ表裏層のスパンボンド不織布が外部からの保護層の役目を果たし、かつ風合いならびに柔らかさを与えることができることから、好ましい形態のひとつである。
【0035】
防護用フードの作り方や防護服への防護用フードの取り付け方については特に限定はなく、例えば超音波による融着縫製やミシン糸を使ったミシン縫製、接着テープなどを使った接着縫製があり、用途に合わせて選択することができる。
【0036】
また、上記防護用フードおよび/または防護服が使い捨てであることも好ましい。防護服の外には汚染物質が付着する可能性があるため、脱衣する毎に廃棄することが安全面で好ましく、そのためにはコストの安い不織布を使用することがより好ましい。もちろんコストの安い織物や編物を使うことも可能ではあるが、織物や編物の場合、生地端ほつれの処理をする必要があり、またその部分から糸くずやホコリが出る可能性があることから、生地端がほつれない不織布を使用することがより好ましい。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において用いた防護用フードの品質評価は次の方法で実施した。
【0038】
(測定方法)
(1)透湿度
素材の透湿度は、JIS L 1099:2012 「繊維製品の透湿度試験方法」のA-1法(塩化カルシウム法)に基づき測定し、単位:g/m・hで評価した。
【0039】
(2)通気性
JIS L 1913:2010 6.8.1 フラジール形法に基づき、15cm×15cmの大きさの試験片を通過する空気量をN=3で測定し、その平均値を通気性とした。
【0040】
(3)捕集効率
10カ所測定用サンプルを採取し、それぞれの試料について、捕集性能測定装置で測定した。この捕集性能測定装置は、測定サンプルをセットするサンプルホルダーの上流側にダスト収納箱を連結し、下流側に流量計、流量調整バルブ、ブロワを連結して構成する。また、サンプルホルダーにパーティクルカウンターを使用し、切り替えコックを介して、測定サンプルの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができるように構成する。さらに、サンプルホルダーには圧力計を設け、サンプル上流、下流の静圧差を読みとる。
【0041】
捕集性能の測定にあたっては、直径0.3μmのポリスチレン標準ラテックスパウダー(ナカライテック製0.309Uポリスチレン10質量%溶液を蒸留水で200倍に希釈)をダスト収納箱に充填し、試料をサンプルホルダーにセットし、風量をフィルター通過速度が3m/分になるように流量調整バルブで調整し、ダスト濃度を1万~4万個/2.83×10-4(0.01ft)の範囲で安定させ、サンプルの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター(リオン社製、KC-01E)で1サンプルあたり3回測定し、下記算式にて、捕集性能(%)を求め、10サンプルの平均値を算出した。
捕集効率(%)=〔1-(d/D)〕×100
(4)着用感
防護用フードと防護服をモニターに着用させ、30℃×40%RHの環境下で20分作業した時の着用感、ムレ感およびフードの固定性、視認性について官能評価を実施した。その評価基準を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
<実施例1>
ポリプロピレン製のスパンボンド不織布(20g/m、通気性320cm/cm/sec)とポリプロピレン製のエレクトレットメルトブロー不織布(通気性150cm/cm/sec、目付20g/m、平均繊維径2μm)を、ホットメルト接着剤(株式会社MORESCO社製 モレスコメルト:TN-367Z、140℃の溶融粘度1200mPa・s)を用いてスプレー塗布(塗布量2.0g/m)により接着し、スパンボンド/メルトブローの2層積層品を得た。次に、2層積層品のメルトブロー不織布面とポリプロピレン製のスパンボンド不織布(20g/m、通気性320cm/cm/sec)を、再度同様に接着し、SMS(スパンボンド不織布/メルトブロー不織布/スパンボンド不織布)の3層積層体を得た。
【0044】
この3層積層体を裁断・ミシン縫製して、図6に示すような防護用フードを得た。防護用フードの前中心(着用者の顔に対応する位置)には幅15cm×長さ4.5cmの開口部を設け、開口部の下方にはマスクを取り付けた。マスクは、中央を2cm凸状にし、上辺にはノーズワイヤーを取り付け、さらに4cmの余分布帛をタックとして下向きに入れた。開口部の上辺には2cm幅×130cmの共生地で作った係止具(係止具A)を縫合によって取り付けた。また、マスク左右側辺にも、2cm幅の共生地で作った帯状部材を取り付け、開口部の上辺に設けた係止具に前記帯状部材の上端を無理な力がかからないように重ね、重なっている部分を縫合により一体化した。
【0045】
また、上記防護用フードと同様の三層積層体を用い、前身頃、後身頃、左右袖、および左右ズボンを一体化したつなぎを作製し、これに上記防護用フードを取り付けて、図8に示すような防護服を得た。
【0046】
得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0047】
<実施例2>
実施例1のポリプロピレン製のエレクトレットメルトブロー不織布の代わりに、ポリエチレン製の微多孔質フィルム(厚み14μm、融点137℃、微多孔の細孔径32μm、透湿度380g/m・h、引張強度(タテ)40N/50mm、引張強度(ヨコ)40N/50mm、引張伸度(タテ)10%、引張伸度(ヨコ)8%、耐水圧65kPa、突刺強度370N/mm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、SFS(スパンボンド不織布/フィルム/スパンボンド不織布)の3層積層体を得た。
【0048】
得られた3層積層体を用い、超音波にて溶着縫製し、実施例1と同形状の防護用フード、防護服を作製した。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0049】
<実施例3>
実施例2で得た3層積層体を用い、フードの開口部に曇り止めハードコート加工を施した100μmポリエステルフィルムを縫い付けた以外は実施例2と同様に防護用フード、防護服を作製した(但し、ミシン縫製による)。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0050】
<実施例4>
スパンボンド不織布の上に防水コーティングを施した生地を用い、実施例1に示す形状のフードを有する防護服上衣と防護用ズボンを作製した。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0051】
<実施例5>
実施例1で使用した3層積層体を裁断・ミシン縫製して、図3に示すような防護用フードを得た。防護用フードの前中心(着用者の顔に対応する位置)には幅15cm×長さ11cmの開口部を設けた。開口部の上辺には2cm幅×130cm長の共生地で作った係止具(係止具A)を縫合によって取り付けるとともに、開口部の左右側部それぞれには2cm幅×53cm長の共生地で作った帯状部材(係止具B)の一端を取り付け、該帯状部材(係止具B)の一部と開口部の上辺に設けた係止具(係止具A)の一部とを、無理な力がかからないように重ね、重なっている部分を縫合により一体化した。
【0052】
また、上記防護用フードと同様の三層積層体を用い、前身頃、後身頃、左右袖、および左右ズボンを一体化したつなぎを作製し、これに上記防護用フードを取り付けて、図5に示すような防護服を得た。
【0053】
得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0054】
<実施例6>
実施例2で使用した3層積層体を用い、裁断、超音波にて溶着縫製し、実施例5と同形状の防護用フード、防護服を作製した。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
<比較例1>
市販のポリエチレン製フラッシュスパン不織布1層の布帛を用い、図9に示す形状のフードを有する防護服とした以外は実施例1と同様に防護服を作製して、着用試験を実施した。なお、フードには、着用者の額から顎までに相当する位置に最大幅18cm最大長さ15cmの開口部を設けるものの、マスクや開口部上辺および左右側部の帯状部材(係止具A、B)は設けなかった。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0055】
<比較例2>
実施例1で得た3層積層体を用い、係止具5(係止具A)、マスク3、帯状部材6を設けなかった以外は実施例1と同様に防護用フード、防護服を作製し、着用試験を実施した。なお、開口部は、マスクを設けていないため、幅15cm長さ12cmであった。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0056】
<比較例3>
実施例1で得た3層積層体を用い、額の係止具5(係止具A)を設けなかった以外は実施例1と同様に防護用フード、防護服を作製した。得られた防護服の物性値と縫製仕様を表2に、防護服を着用して作業した時の着用感を表3に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の防護用フードは、簡単に着用出来、頭部や顔面への密着性も高いので、有害物質の存在する環境下あるいはクリーンルームなどで好適に着用することができる。また、食品その他の製造・加工工場においても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
A:頬弓幅
B:眉間・オトガイ距離
C:係止具5と帯状部材6との縫合部
1:防護用フード
2:フード
3:マスク
5:係止具(係止具A)
6:帯状部材
7:弓状
8:ノーズワイヤー
9:タック
10:頭頂部に対応する部分を構成する布帛
11:側頭部に対応する部分を構成する布帛
12:防護服
20:開口部
50:係止具(係止具B)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9