(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】タフテッドカーペット
(51)【国際特許分類】
A47G 27/02 20060101AFI20230328BHJP
B60N 3/04 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
A47G27/02 101Z
B60N3/04 C
(21)【出願番号】P 2019519426
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010194
(87)【国際公開番号】W WO2019188277
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018067723
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 大
(72)【発明者】
【氏名】土倉 弘至
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-223366(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006807(WO,A1)
【文献】特開昭59-053781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 27/02
B60N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)パイル層と、
ii)高温収縮率が
-5%以上3%以下で、且つISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が0.060W/m・K以下である非溶融繊維Aと、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である炭化型熱可塑性繊維Bとを含
み、前記パイル層のパイルを把持可能な組織を有し、かつ当該パイルが打ち込まれた基布層から成る表皮層と、
iii)裏打ち層を備えた
、タフテッドカーペットであって、
前記基布層の非溶融繊維Aの含有率が20~80重量%であり、
前記基布層の非溶融繊維Aが、耐炎化繊維であり、炭化型熱可塑性繊維Bが、ポリアリーレンスルフィドからなる繊維であり、
前記パイル層の基布層に対する重量比が5以下であるタフテッドカーペット。
【請求項2】
前記基布層の炭化型熱可塑性繊維Bの含有率が20~80重量%である請求項
1に記載の
タフテッドカーペット。
【請求項3】
前記基布層が不織布または織編物の形態を有する請求項1または2に記載のタフテッドカーペット。
【請求項4】
前記パイル層はポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、天然繊維およびこれらの混合物の群から選択される繊維を含む請求項1~
3の何れかに記載の
タフテッドカーペット。
【請求項5】
目付が300~2500g/m
2の範囲である請求項1~
4の何れかに記載の
タフテッドカーペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車輌、自動車、船舶等の乗物用座席や、家庭、オフィス等のフロアなどに、タフテッドカーペットは多く使用されている。一方、火災時の安全性を高めるために、これらのインテリア製品において難燃化が強く要望されている。その難燃性を付与するために、特許文献1で、パイルの表面を難燃剤により処理したものが開示されている。また、特許文献2では、パイルに難燃剤を練り込む方法として、ナイロン6とナイロン66の混合物に無機難燃化剤を添加した糸を用いたカーペットが開示されている。さらに、特許文献3では、メタアラミドと難燃レーヨンを有する難燃性繊維を用いたタフトカーペット基布用不織布にする方法が開示されている。
【0003】
一方、特許文献4、5では、裏面に設けられる裏貼層に難燃剤を含有せしめる方法が開示されている。さらに、特許文献6では、予め基布に難燃剤を含浸する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-33270号公報
【文献】特開昭58-104218号公報
【文献】特開昭50-65648号公報
【文献】特開平6-166148号公報
【文献】特開2001-73275号公報
【文献】特開2012-223366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載のような表面処理では、カーペットのパイル表面の風合いが低下し、カーペットを靴等で使用する際に、表面処理剤が落脱するため、難燃性が持続できないという問題があった。また、特許文献2記載の方法では、パイルとなる原糸に練り込むため設備が大がかりとなるほか、練り込む粒子の濃度が高い場合には、曳糸性が低下し、糸品質が安定しない問題があった。特許文献3記載の方法では、15mm高さの炎で10秒という短時間の接炎時での難燃効果しか確認されておらず、単に基布を難燃性の高い繊維としたのみでは難燃性の効果は十分とはいえなかった。特許文献4、5記載の方法では、裏面だけの難燃性付与であるため、表面パイルの燃焼は抑えられず、難燃性としては不十分なものであった。さらに、特許文献6記載の方法では、難燃剤の種類と含浸量を規定することによって経時的なブリードアウト等の問題を改善できることが記載されているが、長期保管や、移送中の高温多湿条件下でのブリードアウトの問題を解決する余地があるうえ、難燃剤と含浸樹脂を付与することによってカーペット全体が重くなるという問題もあり、適度な重さのカーペットを得ようとすれば難燃性が不十分であった。
【0006】
したがって本発明は、高い難燃性を備えたカーペットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、次のような手段を採用する。
【0008】
(1)i)パイル層と、
ii)高温収縮率が3%以下で、且つISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が0.060W/m・K以下である非溶融繊維Aと、JIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である炭化型熱可塑性繊維Bとを含む基布層
から成る表皮層と、
iii)裏打ち層を備えたカーペット。
【0009】
(2)前記基布層の非溶融繊維Aの含有率が20~80重量%である(1)に記載のカーペット。
【0010】
(3)前記基布層の炭化型熱可塑性繊維Bの含有率が20~80重量%である(1)または(2)に記載のカーペット。
【0011】
(4)前記基布層の非溶融繊維Aが、耐炎化繊維またはメタアラミド系繊維である(1)~(3)の何れかに記載のカーペット。
【0012】
(5)前記基布層の炭化型熱可塑性繊維Bが、異方性溶融ポリエステル、難燃性ポリ(アルキレンテレフタレート)、難燃性ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される樹脂からなる繊維である(1)~(4)の何れかに記載のカーペット。
【0013】
(6)前記基布層の炭化型熱可塑性繊維Bの融点が300℃以下である(1)~(5)の何れかに記載のカーペット。
【0014】
(7)前記パイル層はポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、天然繊維およびこれらの混合物の群から選択される繊維を含む(1)~(6)の何れかに記載のカーペット。
【0015】
(8)前記パイル層の基布層に対する重量比が5以下である(1)~(7)の何れかに記載の難燃カーペット。
【0016】
(9)目付が300~2500g/m2の範囲である(1)~(8)の何れかに記載の難燃カーペット。
【発明の効果】
【0017】
本発明の難燃カーペットは、上記の構成を備えることにより、優れた難燃性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の難燃カーペットの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、i)パイル層1と、ii)高温収縮率が3%以下で、且つISO22007-3(2008年)に準拠する熱伝導率が0.060W/m・K以下である非溶融繊維Aと、JIS K 7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である炭化型熱可塑性繊維Bとを含む基布層2から成る表皮層3と、iii)裏打ち層4を備えたカーペットである。
図1は本発明の難燃カーペットの一例を示す概略断面図である。
【0020】
《高温収縮率》
本発明において高温収縮率とは、不織布の原料となる繊維を標準状態(20℃、相対湿度65%)中で12時間放置後、0.1cN/dtexの張力を与えて原長L0を測定し、その繊維に対して荷重を付加せずに290℃の乾熱雰囲気に30分間暴露し、標準状態(20℃、相対湿度65%)中で十分冷却したうえで、さらに繊維に対して0.1cN/dtexの張力を与えて長さL1を測定し、L0およびL1から以下の式で求められる数値である。
高温収縮率=〔(L0-L1)/L0〕×100(%)
炎が近づき、熱が加わると熱可塑性繊維が溶融し、溶融した熱可塑性繊維が非溶融繊維(骨材)の表面に沿って薄膜状に広がる。さらに温度が上がると、やがて、両繊維は炭化するが、非溶融繊維の高温収縮率が3%以下であるから、高温となった接炎部近辺は収縮しにくく、炎の接していない低温部と高温度部の間で生じる熱応力による基布の破断が生じにくいので、優れた難燃性を維持することができる。この点で、高温収縮率は低いことが好ましいが、縮まずとも熱によって大幅に膨張しても、熱応力による基布の破断を生じる原因となるので、高温収縮率は-5%以上であることが好ましい。なかでも高温収縮率が0~2%であることが好ましい。
【0021】
《熱伝導率》
熱伝導率とは、熱の伝導のしやすさを数値化したものであり、熱伝導率が小さいとは、一方の面から材料が加熱された際の、加熱されていない部分の温度上昇が小さくなることを意味する。目付200g/m2、JIS L1913(2010)に準拠する方法で測定した厚さが2mm(密度100kg/m3)の不織布を試験体とし、ISO22007-3(2008年)に準拠する方法で測定した熱伝導率が0.060W/m・K以下である素材は、熱を伝えにくく、カーペットの表皮層から熱した際に裏打ち層の温度上昇を抑制することができるため、カーペットの難燃性を向上できる。熱伝導率は低い方が好ましいが、入手可能な繊維材料では、0.020W/m・K程度が上限である。
【0022】
《LOI値》
LOI値は、窒素と酸素の混合気体において、物質の燃焼を持続させるのに必要な最小酸素量の容積百分率であり、LOI値が高いほど燃え難いと言える。そこで、JIS K7201-2(2007年)に準拠するLOI値が25以上である熱可塑性繊維は燃えにくく、たとえ、着火しても火源を離せばすぐに消火し、通常わずかに燃え広がった部分に炭化膜を形成し、この炭化部分が延焼を防ぐことができる。LOI値は高い方が好ましいが、現実に入手可能な物質のLOI値の上限は65程度である。
【0023】
《発火温度》
発火温度は、JIS K7193(2010年)に準拠した方法で測定した自然発火温度である。
【0024】
《融点》
融点は、JIS K7121(2012年)に準拠した方法で測定した値である。10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度の値をいう。
【0025】
《非溶融繊維A》
本発明において、非溶融繊維Aとは炎にさらされた際に液化せずに繊維形状を保つ繊維をいい、700℃の温度で液化および発火しないものが好ましく、800℃以上の温度で液化および発火しないものがさらに好ましい。上記高温収縮率が本発明で規定する範囲にある非溶融繊維として、例えば、耐炎化繊維、メタアラミド系繊維およびガラス繊維を挙げることができる。耐炎化繊維は、アクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、フェノール系繊維等から選択される繊維を原料として耐炎化処理を行った繊維である。これらは単独で使用しても2種類以上を同時に使用してもよい。なかでも、高温収縮率が低くかつ、後述する炭化型熱可塑性繊維Bが接炎時に形成する皮膜による酸素遮断効果によって、炭素化が進行し、高温下での耐熱性がさらに向上する耐炎化繊維が好ましく、各種の耐炎化繊維の中で比重が小さく柔軟で難燃性に優れる繊維としてアクリロニトリル系耐炎化繊維がより好ましく用いられ、かかる耐炎化繊維は前駆体としてのアクリル系繊維を高温の空気中で加熱、酸化することによって得られる。市販品としては、後記する実施例および比較例で使用した、Zoltek社製耐炎化繊維PYRON(登録商標)の他、東邦テナックス(株)パイロメックス(Pyromex)(登録商標)等が挙げられる。また、一般にメタアラミド系繊維は高温収縮率が高く、本発明で規定する高温収縮率を満たさないが、高温収縮率を抑制処理することにより本発明の高温収縮率の範囲内としたメタアラミド系繊維であれば、好ましく使用することができる。また本発明で好ましく用いられる非溶融繊維は、非溶融繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~70mmの範囲内であれば、一般的なニードルパンチ法や水流交絡法で不織布とすることが可能であり、異素材と複合することが容易である。また、紡績糸とし、織物や編物の形態とする場合には、繊維長が38~51mmの範囲内であれば、一般的な紡績工程で防錆糸とすることが可能である。非溶融繊維の単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、カード工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0026】
基布における非溶融繊維Aの含有率が低すぎると、骨材としての機能が不十分となるためカーペットとしたときに十分な難燃性を得られなくなる傾向にある。一方、非溶融繊維Aの含有率が高すぎても、すなわち、炭化型熱可塑性繊維Bの含有量が低すぎても接炎時に十分な炭化膜を形成できないため、難燃性が低下する傾向となる。そのため、基布層における非溶融繊維Aの混率は、20~80重量%であるのが好ましく、30~70重量%であるのがより好ましい。
【0027】
《炭化型熱可塑性繊維B》
本発明で用いる炭化型熱可塑性繊維Bとしては、前記LOI値が本発明で規定する範囲にあり、かつ融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低い融点を有するものであるが、具体例としては例えば、異方性溶融ポリエステル、難燃性ポリ(アルキレンテレフタレート)、難燃性ポリ(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、難燃性ポリスルホン、ポリ(エーテル-エーテル-ケトン)、ポリ(エーテル-ケトン-ケトン)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアリーレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドおよびこれらの混合物の群から選択される熱可塑性樹脂で構成される繊維を挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。LOI値が本発明で規定する範囲にあることで、空気中での燃焼を抑制し、ポリマーが炭化しやすくなる。また、融点が非溶融繊維Aの発火温度よりも低いことで、溶融したポリマーが非溶融繊維Aの表面および繊維間で皮膜を形成し、さらにそれが炭化されることで酸素を遮断する効果が高くなり、非溶融繊維Aの酸化劣化を抑制でき、また、その炭化膜が優れた難燃性を有する。炭化型熱可塑性繊維Bの融点は、非溶融繊維Aの発火温度よりも200℃以上低いことが好ましく、300℃以上低いことがさらに好ましい。具体的には融点は300℃以下であることが好ましい。これらの中で、LOI値の高さおよび融点の範囲および入手の容易さの点から、最も好ましいのはポリフェニレンスルフィド繊維(以下、PPS繊維ともいう)である。PPS繊維は加熱されて溶融する際、架橋物を形成し、炭化しやすい。よって、カーペットが加熱されたときに、パイル層が熱可塑性繊維の場合には、溶融したPPS繊維と混溶して架橋を形成するためドリップ抑制効果を発揮する。一方、パイル層が非溶融性のセルロース系繊維であっても、PPS繊維が熱分解する際に発生する硫酸でセルロース系繊維の炭化を促進するため、パイル層で炭化膜を形成し、カーペットとしての難燃性が向上する。また、LOI値が本発明で規定する範囲にないポリマーであっても、難燃剤で処理することによって、処理後のLOI値が本発明で規定する範囲内であれば好ましく用いることができる。ポリマー構造中あるいは、難燃剤中に硫黄原子を含むことにより、ポリマーあるいは難燃の熱分解時にリン酸あるいは硫酸を生成し、ポリマー基材を脱水炭化させる機構を発現するため、加熱されたときにパイル層を炭化し、カーペットとしての難燃性が向上する。難燃剤を用いる場合には、リン系や硫黄系の難燃剤が好ましい。
【0028】
また本発明で用いられる炭化型熱可塑性繊維Bは、上記熱可塑性樹脂単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~70mmの範囲内であれば、一般的なニードルパンチ法や水流交絡法で不織布とすることが可能であり、異素材と複合することが容易である。また、紡績糸とする場合には、一般的な紡績工程で紡績糸とするために、繊維長が38~51mmの範囲であることが好ましい。炭化型熱可塑性繊維Bの単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、カード工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0029】
本発明で好ましく用いられるPPS繊維は、ポリマー構成単位が-(C6H4-S)-を主な構造単位とする重合体からなる合成繊維である。これらPPS重合体の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPPS重合体としては、ポリマーの主要構造単位として、-(C6H4-S)-で表されるp-フェニレンスルフィド単位を、好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。質量の観点からは、p-フェニレンスルフィド単位を80重量%、さらには90重量%以上含有するポリフェニレンスルフィドが望ましい。
【0030】
また本発明で好ましく用いられるPPS繊維は、PPS繊維単独あるいは異素材と複合する方法で用いられ、フィラメント、ステープルのいずれの形態であってもよい。ステープルを紡績して用いる場合には、繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、38~70mmの範囲内にあることがより好ましい。繊維長が38~70mmの範囲内であれば、一般的なニードルパンチ法や水流交絡法で不織布とすることが可能であり、異素材と複合することが容易である。また、また、紡績糸とする場合には、一般的な紡績工程で紡績糸とするために、繊維長が38~51mmの範囲であることが好ましい。PPSの単繊維の太さについても、特に限定されるものではないが、カード工程の通過性の点から、単繊維繊度は0.1~10dtexの範囲内にあるものが好ましい。
【0031】
本発明で用いられるPPS繊維の製造方法は、上述のフェニレンスルフィド構造単位を有するポリマーをその融点以上で溶融し、紡糸口金から紡出することにより繊維状にする方法が好ましい。紡出された繊維は、そのままでは未延伸のPPS繊維である。未延伸のPPS繊維は、その大部分が非晶構造であり、破断伸度は高い。一方、このような繊維は熱による寸法安定性が乏しいので、紡出に続いて熱延伸して配向させ、繊維の強力と熱寸法安定性を向上させた延伸糸が市販されている。PPS繊維としては、“トルコン”(登録商標)(東レ製)、“プロコン”(登録商標)(東洋紡績製)など、複数のものが流通している。
【0032】
本発明においては、本発明の範囲を満たす範囲で上記未延伸のPPS繊維と延伸糸を併用することができる。なお、PPS繊維の代わりに本発明の範囲を満たす繊維の延伸糸と未延伸糸を併用することでももちろん構わない。
【0033】
基布における炭化型熱可塑性繊維Bの混率が低すぎると、骨材の非溶融繊維の間に熱可塑性繊維が十分膜状に広がりにくくなる傾向にあるため、カーペットとしたときに難燃性が低下する。一方、炭化型熱可塑性繊維Bの混率が高すぎると、接炎部分の基布が脆くなり、脆化した部分から割れが発生しやすくなり、難燃性が低下する傾向にある。基布層における炭化型熱可塑性繊維Bの混率は、20~80重量%であるのが好ましく、30~70重量%であるのがより好ましい。
【0034】
本発明において、基布に用いる繊維の形態として、繊維同士の絡合性を十分得るために、繊維のけん縮数は7個/2.54cm以上であることが好ましく、さらには12個/2.54cm以上であることが好ましい。非溶融繊維Aおよび炭化型熱可塑性繊維Bの短繊維の長さは、より均一な不織布を得るため、あるいは、安定して紡績糸とするために同じ長さとすることが好ましい。なお同じ長さは厳密に同じでなくてもよく、非溶融繊維Aの長さに対し±5%程度の差異があってもよい。かかる観点から、非溶融繊維の繊維長も、溶融繊維の繊維長も繊維長は30~120mmの範囲内にあることが好ましく、不織布の場合には、38~70mm、紡績糸の場合には38~51mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0035】
本発明で用いる基布は、パイルの把持力があれば、組織は限定されるものではない。上記短繊維を用いて、不織布とする場合には、ニードルパンチ法や水流交絡法などで製造される。不織布の場合、タフティング機のニードルの貫通の際に抵抗が少なく、クッション性のあるものが好適である。一方、織物や編物の形態とする場合には、一般的な製造方法で紡績糸とした後、紡績糸を用いて織物や編物とする。織物の場合は、特に織物組織に限定はない。また、編物についても編組織は限定されるものではなく、横編み、丸編み、経編のいずれであってもよいが、カーペットを製造する工程での加工張力による基布の伸びを抑制する点で経編が好ましい。
【0036】
基布は、不織布あるいは織編物とした後、テンターを用いて熱セットしてもよいし、カレンダー加工をおこなってもよい。当然、生機のまま使用してもよい。セット温度は高温収縮率を抑制する効果が得られる温度がよく、好ましくは160~240℃、より好ましくは190~230℃である。カレンダー加工は、基布の厚さや密度を調整するものであり、カーペットのパイルを打ち込む際の加工性に影響のない範囲で実施されるものであるので、カレンダーの速度、圧力、温度は制限されるものではない。基布の目付としては50~400g/m2の範囲が好ましい。目付が軽すぎるとタフト性を確保できず、逆に目付が重すぎると、タフトを打ち込めなかったり、カーペット全体が重くなりすぎる。
【0037】
このようにして得られる基布層は、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤等の有機難燃剤、金属水酸化物やアンチモン系難燃剤等の無機難燃剤等いわゆる難燃剤を含まなくとも優れた難燃性を有する。ここでいう「難燃剤を含まなくとも」における難燃剤は、基布層を構成する前記炭化型熱可塑性繊維Bにおいて、LOI値を調整するために含まれる難燃剤ではなく、基布層中、非溶融繊維Aと炭化型熱可塑性繊維Bとを含む以外に別途難燃剤を含まなくてもよいという意味である。 本発明におけるパイルはタフティング機により基布に植設される。パイル層の形態としては、カットパイル、ループパイル、カットアンドループ等どの様な形態でも用いることができる。
【0038】
パイルを構成するパイル素材としては、一般的にカーペット素材として使用しているものを用いればよく、ウール、麻、コットン等の天然繊維やポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成樹脂繊維等が挙げられる。なかでもパイル層にはポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、セルロース系繊維、天然繊維およびこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0039】
パイルの繊度は800~4000dtexのパイル糸を用いることが好ましい。上記範囲のパイルを用いれば、良好な見栄えとなり、踏み心地の良好なカーペットとなる。800dtexを下回れば、透けが発生し見苦しい表情のカーペットとなり、4000dtexを上回れば経済的にも不利となり、重量が嵩み運搬、収納等に問題が生じる。
【0040】
本発明においては、基布層の炭化作用によって、パイル層側から接炎させたときのパイル層の難燃化および裏打ち層への延焼防止を達成するが、パイル層の基布層に対する重量比は5以下であることが好ましい。パイル層の重量比が大きくなりすぎると、パイル層による空気遮断効果で難燃性が向上する場合もある。特にパイル素材が熱可塑性繊維の場合には、燃焼中にドリップを生じ、ドリップ物に引火して難燃性が悪化する場合があるうえ、重量が嵩み運搬、収納等に問題が生じる。
【0041】
タフト表面で延焼が生じてしまう場合には、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤等の有機難燃剤、または金属水酸化物やアンチモン系難燃剤等の無機難燃剤等を、スプレー加工などの方法を用いてパイル層に付与してもよい。
【0042】
上記有機難燃剤としては、ハロゲン化ジフェニルスルフィド類などのハロゲン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、トリフェニルホスフェート等のリン系難燃剤、テトラブロモビスフェノールAおよびその誘導体、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモエタン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモシクロデカン等の臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、塩化ジフェニル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン等の塩素系難燃剤等が主に挙げられる。上記無機難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化スズの水和物、ホウ砂等の無機金属化合物の水和物、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤が挙げられる。難燃剤の付与量は、風合いやブリードアウト等の品質面で問題のない範囲とすればよい。
【0043】
裏打ち層は、タフテッドカーペットの用途によって異なるが、形態として、ペーストによるコーティング、シートラミネート等が使用できる。使用する樹脂として、例えば樹脂としてはアクリル系、ウレタン系、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の樹脂が挙げられる。あるいは、ゴムラテックスとして、ゴム成分はSBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、MBR(メチルメタクリレート-ブタジエンゴム)あるいは天然ゴム等が挙げられる。
【0044】
本発明におけるカーペットは、基布にタフティング機で、パイル糸を植え込んで表面パイル層を形成して表皮層と成し、該表皮層の裏面に裏打ち層を積層一体化することで得られる。
【0045】
本発明のカーペットの目付は、難燃性と、収納性や持ち運び性の両立の点から300~2500g/m2の範囲であることが好ましく、350~2300g/m2であることがより好ましい。
【0046】
かくして得られる本発明の難燃カーペットは難燃性に優れ、自動車、鉄道、航空機などの高い難燃性が求められる用途に好適である。
【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0048】
[目付]
30cm角のサンプルの重量を測定し、1m2当たりの重量(g/m2)で表した。
【0049】
[難燃性評価]
(1)車輌材料試験
鉄道車輌用非金属材料の燃焼試験方法として規定されている、国土交通省令第83条 アルコールランプ燃焼試験を実施し、「難燃性」以上、すなわち、「難燃性」、「極難燃性」、「不燃性」のいずれかの基準を満たすものを合格とし、合格をA、不合格をFとした。
【0050】
(2)消防法45度ミクロバーナー試験
日本国の消防法の45度ミクロバーナー試験方法に準拠し、炭化面積30cm2以下、残炎時間3秒以下、残じん時間5秒以下を合格とし、合格をB、炭化面積20cm2 以下、残炎時間3秒以下でとくに良好な難燃性であるものをA、規格を不合格であったものをFとした。
【0051】
(3)自動車内装材燃焼試験
JIS D 1201(1998年)に規定される、自動車内装材用の水平燃焼試験FMVSSNo.302に準拠し、燃焼速度4インチ(102mm)/分以下を合格とし、4インチ(102mm)/分以下をB、3インチ(76mm)/分以下をA、不合格をFとした。
【0052】
次に、以下の実施例および比較例における用語について説明する。
【0053】
《PPS繊維の延伸糸》
延伸されたPPS繊維として、単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmの東レ製“トルコン”(登録商標)、品番S371を用いた。このPPS繊維のLOI値は34、融点は284℃である。
【0054】
《耐炎化繊維》
1.7dtexのZoltek社製耐炎化繊維PYRONを51mmにカットしたものを用いた。PYRONの高温収縮率は1.6%であった。JIS K7193(2010年)に準拠した方法で加熱したところ、800℃でも発火は認められず、発火温度は800℃以上である。また、熱伝導率は、0.042W/m・Kであった。
【0055】
《ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維》
延伸されたPET繊維として、単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)、カット長51mmの東レ製“テトロン”(登録商標)を用いた。このPET繊維のLOI値は22、融点は267℃である。
【0056】
《炭素繊維》
直径30ミクロンの東レ製“トレカ”(登録商標)を51mmにカットしたものを用いた。熱伝導率は、8.4W/m・Kであった。
【0057】
《ポリエステル繊維の延伸糸》
延伸されたポリエステル繊維として、単繊維繊度2.2dtex(直径14μm)のポリエチレンテレフタレート繊維である東レ製“テトロン”(登録商標)、品番T9615を51mmにカットして用いた。このポリエステル繊維のLOI値は22、融点は256℃である。
【0058】
[実施例1]
(基布作製)
PPS繊維の延伸糸および耐炎化繊維を開繊機によって混合し、次いで混打綿機によって更に混合し、次いで梳綿機に通じてスライバーとした。得られたスライバーの重量は、310ゲレン/ 6 ヤード( 1 ゲレン= 1 / 7 0 0 0 ポンド)(20.09g/5.486m) であった。次いで練条機でトータルドラフトを8 倍に設定して延伸し、290 ゲレン/ 6 ヤード(18.79g/5.486m)のスライバーとした。次いで粗紡機で0 . 55T / 2 . 5 4 c m に加撚して7.4 倍に延伸し、2 5 0 ゲレン/ 6 ヤード(16.20g/5.486m)の粗糸を得た。次いで精紡機で16.4T / 2 . 5 4 c m に加撚してトータルドラフト30倍に延伸して加撚し、綿番手で30番の紡績糸を得た。得られた紡績糸をダブルツイスターで64.7T/2.54cmで上撚をかけ、30番双糸とした。紡績糸のPPS繊維の延伸糸と耐炎化繊維の重量混率は、60対40であった。
【0059】
得られた紡績糸を、レピア織機で経50本/インチ(2.54cm)、緯50本/インチ(2.54cm)の平織りで製織した。
【0060】
次いで、界面活性剤を含む80℃の温水中で、20分間精練をおこなったのち、130℃のテンターで乾燥させ、さらに230℃のテンターで熱セットをおこなうことで、経54本/インチ(2.54cm)、緯53本/インチ(2.54cm)、目付187g/m2の基布を得た。
【0061】
(カーペット作製)
得られた基布にタフティングカットパイル機を用いて、単繊維繊度40dtexのトータル繊度2400dtexのナイロン(ナイロン66)フィラメントを、ヨコ密度:35本/10cm、タテ密度:30本/10cm、パイル長8mmでタフティングをおこない、パイル重量557g/m2のカットパイルから成るパイル層を形成した。次いで、コーティング加工機で、カーペット原反の裏面にスチレンブタジエンラテックスを763g/m2塗布し、カーペットとした。
【0062】
(難燃性評価)
得られたカーペットの難燃性は良好で、車輌材料試験、消防法45度ミクロバーナー試験、自動車内装材燃焼試験ともに合格であった。
【0063】
以下の実施例2,3は、表中も含め、それぞれ参考例1、2と読み替えるものとする。
[実施例2]
(基布作製)
PPS繊維の延伸糸および耐炎化繊維を開繊機によって混合し、次いで混打綿機によって更に混合し、次いでカード機に通じてウェブを作成した。得られたウェブをクロスラップ機にて積層したのち、ニードルパンチマシンで不織布化し、PPS繊維の延伸糸および耐炎化繊維からなる不織布を得た。不織布のPPS繊維の延伸糸と耐炎化繊維の重量混率は、60対40、目付は173g/m2であった。
【0064】
(カーペット作製)
実施例1と同様の方法でタフティングをおこない、パイル重量553g/m2のカットパイルから成るパイル層を形成した。次いで、実施例1と同様の方法でカーペット原反の裏面にスチレンブタジエンラテックスを741g/m2塗布し、カーペットとした。
【0065】
(難燃性評価)
得られたカーペットの難燃性は良好で、車輌材料試験、消防法45度ミクロバーナー試験、自動車内装材燃焼試験ともに合格であった。
【0066】
[実施例3]
実施例1で、パイル密度をヨコ密度:50本/10cm、タテ密度:45本/10cmに変更し、パイル重量1187g/m2とした。次いで、コーティング加工機で、カーペット原反の裏面にスチレンブタジエンラテックスを825g/m2塗布し、カーペットとした。さらに、得られたカーペットのパイル側に、リン系難燃剤をスプレーした。
【0067】
(難燃性評価)
得られたカーペットの難燃性は良好で、車輌材料試験、消防法45度ミクロバーナー試験、自動車内装材燃焼試験ともに合格であった。
【0068】
[比較例1]
実施例1で、基布を構成する紡績糸を耐炎化繊維の紡績糸に変更して、目付180g/m2の基布とした。得られた基布を用いて実施例1と同様の方法でカーペットを作製した。パイル重量550g/m2、裏打ち層のスチレンブタジエンラテックス塗布量は758g/m2であった。
【0069】
得られたカーペットは、すべての試験で不合格であった。
【0070】
[比較例2]
実施例1で、基布を構成する紡績糸をPPS繊維の延伸糸を用いた紡績糸に変更して、目付177g/m2の基布とした。得られた基布を用いて実施例1と同様の方法でカーペットを作製した。パイル重量550g/m2、裏打ち層のスチレンブタジエンラテックス塗布量は787g/m2であった。
【0071】
得られたカーペットは、自動車内装材燃焼試験は合格であったものの、車輌材料試験、消防法45度ミクロバーナー試験は不合格であった。
【0072】
[比較例3]
実施例1で、基布を構成する紡績糸を炭素繊維を用いた紡績糸に変更して、目付163g/m2の基布とした。得られた基布を用いて実施例1と同様の方法でカーペットを作製した。パイル重量589g/m2、裏打ち層のスチレンブタジエンラテックス塗布量は760g/m2であった。
【0073】
得られたカーペットは、自動車内装材燃焼試験は合格であったものの、車輌材料試験、消防法45度ミクロバーナー試験は不合格であった。
【0074】
[比較例4]
実施例1で、基布を構成する紡績糸をポリエステル繊維の延伸糸を用いた紡績糸に変更して、目付179g/m2の基布とした。得られた基布を用いて実施例1と同様の方法でカーペットを作製した。パイル重量580g/m2、裏打ち層のスチレンブタジエンラテックス塗布量は755g/m2であった。
【0075】
得られたカーペットは、すべての試験で不合格であった。
【0076】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、優れた難燃性を有しており、鉄道車輌、自動車、船舶等の乗物用座席や、家庭、オフィス等のフロアなどのカーペットとして使用するのに好適である。
【符号の説明】
【0078】
1 パイル層
2 基布層
3 表皮層
4 裏打ち層