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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】透明フィルムおよび透明電極
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230328BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20230328BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230328BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08J7/046 Z
C08L69/00
C08G64/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020522638
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021799
(87)【国際公開番号】W WO2019230966
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018105967
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018203798
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】楠本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】木稲 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-111885(JP,A)
【文献】特開2000-147202(JP,A)
【文献】特開2004-269844(JP,A)
【文献】特開平03-102657(JP,A)
【文献】特開2017-210569(JP,A)
【文献】特開2006-350371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02;5/12-5/22
B32B1/00-43/00
C08J7/04-7/06
C08G64/04
H01B5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される構成単位を有するポリカーボネート樹脂(A)を含む樹脂組成物を含み、光弾性係数が80×10-12/N以下である透明フィルムであって、
【化1】

(式(1)中、R~Rは、各々独立に水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;Xは、単結合または下記一般式(2)で表される基である)
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;RおよびRの少なくとも一方はアリール基である)
前記樹脂組成物が、さらに、一般式(3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(B)を含み、
【化3】

前記一般式(1)で表される構成単位が下記式(4)または(5)で表される構成単位を含み、
【化4】

厚みが30~180μmである、透明フィルム。
【請求項2】
前記透明フィルムが、厚さ160μmにおけるJIS K7136に準拠した0.0~1.5%のヘイズ値を有する、請求項1に記載の透明フィルム。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記ポリカーボネート樹脂(B)の合計質量に対する前記ポリカーボネート樹脂(A)の割合が10~100質量%である、請求項に記載の透明フィルム。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される構成単位が、前記式(4)または(5)で表される構成単位である、請求項1~3のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項5】
前記樹脂組成物のガラス転移温度が150~185℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物における、300℃、せん断速度30~250sec-1でのせん断粘度が、300~1200Pa・sである、請求項1~5のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項7】
厚みが30~170μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項8】
さらに鉛筆硬度がH以上である高硬度樹脂層が積層された、請求項1~7のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項9】
光弾性係数が55×10 -12 /N~80×10 -12 /Nである、請求項1~8のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項10】
透明電極基材用フィルムである、請求項1~のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の透明フィルムを具備した光学フィルム。
【請求項12】
請求項10に記載の透明フィルムと、該透明フィルムに積層された透明電極層とを具備した透明電極。
【請求項13】
前記透明電極層が、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、Ag、Cu、Auおよびカーボンナノチューブの1つ以上を含む請求項12に記載の透明電極。
【請求項14】
保護フィルムである、請求項1~のいずれか一項に記載の透明フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を含む透明フィルムであって、特に光学フィルムを構成するフィルムおよび基材フィルムとして有用な透明フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などに優れる汎用エンジニアリングプラスチックとして種々の分野で用いられている。その特徴的な用途の一つが、透明性に優れる特性を生かした光学分野での使用である。一般的なポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAから誘導されたものであり、比較的高い屈折率を有することから、光学レンズとしての使用が検討されている。例えば、特許文献1には、特定の構成単位を共重合して得られるポリカーボネート樹脂が、光学特性および衝撃性に優れ、メガネレンズやカメラレンズに使用できることが記載されている。また、特許文献2には、芳香族ポリカーボネートからなる光学部品が開示されており、光学部品の具体例として、光ディスク基盤、ピックアップレンズ等が挙げられている。
【0003】
さらには、ポリカーボネート樹脂を各種フィルムにおいて使用することも検討されており、用途としては、例えば、電子・電気機器部品用のフィルム、光学フィルム、耐熱性フィルム、電気絶縁性フィルム等が挙げられる(特許文献3)。特許文献3には、特定の構成単位を有するポリカーボネート共重合体を成形してなるポリカーボネートフィルムが記載されており、特に機械的強度、耐熱性等に優れることが記載されている。更に、ポリカーボネート樹脂の優れた特性を活かして、多岐にわたる技術分野に展開すべく研究開発が盛んであるが、途上のものが多いのが現状であり、その特性等において改善の余地が多分にある。今後は、ポリカーボネート樹脂のより広範囲なフィルム用途での使用を検討することが見込まれるため、各用途に応じて適した特性を有するポリカーボネート樹脂フィルムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-210569号公報
【文献】特開平10-109950号公報
【文献】特許第3131031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、複屈折が成膜条件による影響を受けにくい透明フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、例えば以下のとおりである。
[1] 一般式(1)で表される構成単位を有するポリカーボネート樹脂(A)を含む樹脂組成物を含み、光弾性係数が80×10-12/N以下である透明フィルム:
【化1】
(式(1)中、R~Rは、各々独立に水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;Xは、単結合または下記一般式(2)で表される基である)
【化2】
(式(2)中、RおよびRは、水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;RおよびRの少なくとも一方はアリール基である)。
[1-1] 一般式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)を含み、光弾性係数が80×10-12/N以下である透明フィルム:
【化3】
(式(1)中、R~Rは、各々独立に水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;Xは、単結合または下記一般式(2)で表される基である)
【化4】
(式(2)中、RおよびRは、水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;RおよびRの少なくとも一方はアリール基である)
(ただし、前記ポリカーボネート樹脂(A)が、前記一般式(1)で表される構成単位および下記一般式(3)で表される構成単位を含む共重合体である場合を除く)。
【化5】
[1-2] 前記一般式(1)で表される構成単位は、前記ポリカーボネート樹脂(A)の全構成単位に対して70~100モル%の割合で含まれる、[1]または[1-1]に記載の透明フィルム。
[1-3] 前記ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が7,000~35,000である、[1]~[1-2]のいずれかに記載の透明フィルム。
[2] 前記樹脂組成物が、さらに式(3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(B)を含む、[1]~[1-3]のいずれかに記載の透明フィルム。
【化6】
[2-1] 前記樹脂組成物が、さらに式(3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(B)を含む、[1]~[1-3]のいずれかに記載の透明フィルム:
【化7】
(ただし、前記ポリカーボネート樹脂(B)が、上記一般式(1)で表される構成単位および一般式(3)で表される構成単位を含む共重合体である場合を除く)。
[2-2] 前記一般式(3)で表される構成単位は、前記ポリカーボネート樹脂(B)の全構成単位に対して70~100モル%の割合で含まれる、[2]または[2-1]に記載の透明フィルム。
[2-3] 前記ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量が10,000~35,000である、[2]~[2-2]のいずれかに記載の透明フィルム。
[3] 前記ポリカーボネート樹脂(A)と前記ポリカーボネート樹脂(B)の合計質量に対する前記ポリカーボネート樹脂(A)の割合が10~100質量%である、[2]~[2-3]のいずれかに記載の透明フィルム。
[4] 前記一般式(1)で表される構成単位が下記式(4)または(5)で表される構成単位を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の透明フィルム。
【化8】
[5] 前記樹脂組成物のガラス転移温度が150~185℃である、[1]~[4]のいずれかに記載の透明フィルム。
[6] 前記樹脂組成物における、300℃、せん断速度30~250sec-1でのせん断粘度が、300~1200Pa・sである、[1]~[5]のいずれかに記載の透明フィルム。
[6-1] 厚さ160μmにおけるヘイズが0~1.5%である、[1]~[6]のいずれかに記載の透明フィルム。
[7] 厚みが30~200μmである、[1]~[6-1]のいずれかに記載の透明フィルム。
[8] さらに鉛筆硬度がH以上である高硬度樹脂層が積層された、[1]~[7]のいずれかに記載の透明フィルム。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の透明フィルムを具備した光学フィルム。
[10] 透明電極基材用フィルムである、[1]~[8]のいずれかに記載の透明フィルム。
[11] [10]に記載の透明フィルムと、該透明フィルムに積層された透明電極層とを具備した透明電極。
[12] 前記透明電極層が、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、Ag、Cu、Auおよびカーボンナノチューブの1つ以上を含む[11]に記載の透明電極。
[13] 保護フィルムである、[1]~[8]のいずれかに記載の透明フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、複屈折が成膜条件による影響を受けにくい透明フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の透明フィルムは、一般式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)を含み、光弾性係数が80×10-12/N以下である:
【化9】
(式(1)中、R~Rは、各々独立に水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;Xは、単結合または下記一般式(2)で表される基である)
【化10】
(式(2)中、RおよびRは、水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;RおよびRの少なくとも一方はアリール基である)。
【0009】
上述したとおり、ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などの種々の特性において優れているが、ビスフェノールAを主成分として製造されたポリカーボネート樹脂は、光弾性係数が高い傾向にある。光弾性係数が高い樹脂は、成膜条件、特に成膜時に樹脂にかかる外力(例えば、インジェクションにおける保圧、フィルム成膜におけるロール圧着圧等)によって複屈折が変動しやすい。例えば、成膜時に大きな外力が働いた場合には、リタデーション値が高くなる傾向にある。そのため、成膜機の機械的性質や成膜条件によって樹脂に働く圧力が位置によって多少異なるような場合には、フィルム内で複屈折ムラが生じ、均一なフィルムが得られないという問題が生じる。複屈折ムラによって、特に外観不良の問題(虹ムラ等)が生じやすくなる。
【0010】
そのような問題に対して、一般式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を使用し、かつフィルム全体としての光弾性係数を低くした透明フィルムの本発明によれば、上記のような問題を解決することができる。光弾性係数が低いと、複屈折が成膜時の外力による影響を受けにくい。したがって、本発明によると、複屈折が成膜条件による影響を受けにくく、成膜時に樹脂に働く圧力が位置によって多少異なる場合であっても、複屈折等の物性や外観がより均一な透明フィルムを得ることができる。本発明の透明フィルムの光弾性係数は、80×10-12/N以下(例えば、55~80×10-12/N)であり、好ましくは75×10-12/N以下(例えば、55~75×10-12/N)であり、より好ましくは73×10-12/N以下(例えば、55~73×10-12/Nであり、特に好ましくは61×10-12/N以下(例えば、55~61×10-12/N)である。
詳細を後述するように、透明フィルムを構成するポリカーボネート樹脂組成物の種類(構成単位)と含有量とが調整されている本発明の透明フィルムは、好ましい範囲内の光弾性係数の値を有する。
【0011】
ここで、光弾性係数は、23℃、相対湿度50%の環境下、波長633nmで測定した値である。具体的には、1cmの幅と6cmの長さを有するポリカーボネート樹脂組成物のサンプルフィルムを作成し、上記環境下で分光エリプソメーター(M-220、日本分光株式会社製)を用いて、サンプルフィルムに応力荷重(0~720gf)をかけながら、波長633nmでフィルム面内のリタデーション(Re)値を測定し、応力とReの傾きから光弾性係数を算出した。すなわち、(リタデーション(Re)値)×(フィルム幅(cm))/(荷重(gf)の値を算出し、光弾性係数とした。具体的には、応力荷重(0~720gf)の値を横軸にとり、上述のRe値を横軸にとったグラフにおける、各測定値を示す点を結ぶ(近似)直線の傾きの値を、光弾性係数(m/N)とした。
【0012】
本発明の透明フィルムは、上記のように複屈折が成膜時の外力による影響を受けにくい結果、異なるロール圧着圧にてフィルムを成膜した場合のリタデーションの差を小さく抑えることができる。すなわち、成膜時に樹脂に働く圧力が位置によって多少異なる場合であっても、複屈折等の物性や外観がより均一な透明フィルムを得ることができる。例えば、フィルム成膜時のロール圧着圧を5MPaおよび2MPaとしたときの測定波長523nmにおけるリタデーション(Re)の平均変化率として、30%以下(例えば0~30%)、25%以下(例えば0~25%)、23%以下等の値が得られる。ここで、リタデーション(Re)の平均変化率は、以下の式で算出された値である。
リタデーション(Re)の平均変化率(%)
=(5MPaで成膜した場合のRe平均値-2MPaで成膜した場合のRe平均値)/5MPaで成膜した場合のRe平均値
上記式において、Re平均値とは、実施例で説明するとおり、フィルム幅方向に0.5mm間隔で測定したリタデーション値の平均値(測定波長523nm)である。
【0013】
透明フィルムの用途によっては、意匠性や導電性等の付与のための後加工(例えば、蒸着、スパッタリング等)が必要となるが、そのような後加工が必要な場合には耐熱性が要求されることが多い。そのような場合には、耐熱性に優れた透明フィルムを使用することが好ましいが、本発明によると、そのような耐熱性が要求される後工程を首尾よく行うことができる透明フィルムを提供することもできる。具体的には、本発明によると、ガラス転移温度が、150℃~185℃の透明フィルムを提供することができる。ガラス転移温度は、155~180℃または160~175℃であり得る。また、本発明の透明フィルムのヘイズは、厚さ160μmのフィルムにおいて好ましくは0.0~1.5%、より好ましくは0.0~1.0%、特に好ましくは0.0~0.3%である。このようなヘイズ値を有することにより、本発明の透明フィルムを透明性が要求される用途において好適に使用することができる。
【0014】
本明細書において、本発明の透明フィルムを構成する材料を混合したものであって成膜前のものを「樹脂組成物」とも称するが、樹脂組成物のせん断粘度は、300℃、せん断速度30~250sec-1で測定した場合に、好ましくは300~1100Pa・s、より好ましくは400~800Pa・s、特に好ましくは500~700Pa・sである。せん断粘度が上記範囲である場合には、フィルムに成膜するためにより適した流動性を有する樹脂組成物であると言える。
【0015】
以下、本発明の透明フィルムに含まれる各材料について詳細に説明する。
(1)ポリカーボネート樹脂(A)
本発明の透明フィルムは、一般式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(A)を含む:
【化11】
(式(1)中、R~Rは、各々独立に水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;Xは、単結合または下記一般式(2)で表される基であり、好ましくは、下記一般式(2)で表される基である)。
【化12】
(式(2)中、RおよびRは、水素原子、アルキル基、またはアリール基であり;RおよびRの少なくとも一方はアリール基である)。
【0016】
式(1)中、R~Rは、フェニレン基上の置換基を意味し、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~30のアリール基であることが好ましい。アルキル基としては、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、特に好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。アリール基としては、より好ましくは炭素数6~18のアリール基、特に好ましくは炭素数6~12のアリール基であり、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。これらのアルキル基およびアリール基はさらに置換基を有していてもよい。R~Rは、水素原子または炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、R~Rの全てが水素原子であることが特に好ましい。
【0017】
式(2)におけるRおよびRのアルキル基およびアリール基としては、上記R~Rについて記載したのと同様のものが挙げられる。RおよびRの一方がアルキル基であり、他方がアリール基であるか、あるいはRおよびRの両方がアリール基であることが好ましい。
【0018】
一般式(1)で表される構成単位として、具体的には、4,4’-ビフェノール、2,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェノール、3,3’-ジフェニル-4,4’-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン等に由来する構成単位が挙げられる。
【0019】
一般式(1)で表される構成単位は、好ましくは1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(以下の式(4)で表される構成単位)または、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(以下の式(5)で表される構成単位)を含む。
【化13】
【0020】
一般式(1)で表される構成単位は、ポリカーボネート樹脂(A)の全構成単位に対して、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、特に好ましくは95~100モル%の割合で含まれる。このような割合で含まれることにより、上述したような一般式(1)で表される構成単位に起因する好ましい特性を十分に透明フィルムに与えることができる。ポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(1)で表される構成単位以外の任意の構成単位を含んでいてもよいが、ポリカーボネート樹脂(A)は一般式(1)で表される構成単位のみからなることが好ましい。その他の構成単位としては、従来のポリカーボネート樹脂が含み得るいずれの構成単位であってもよい。ポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(1)で表される構成単位を1種または2種以上含んでいてよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、好ましくは7,000~35,000、より好ましくは8,000~28,000、特に好ましくは12,000~23,000である。このような分子量範囲とすることにより、フィルム成形に適した流動性を樹脂組成物に与えることができる。
【0022】
ポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(1)で表される構成単位を誘導するモノマーおよび任意に他の構成単位を誘導するモノマーを、炭酸エステル形成化合物と反応させることによって製造することができる。具体的には、ポリカーボネート樹脂を製造する際に用いられている公知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法で製造することができる。
【0023】
炭酸エステル形成化合物としては、例えばホスゲンや、ジフェニルカーボネート、ジ-p-トリルカーボネート、フェニル-p-トリルカーボネート、ジ-p-クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリールカーボネートが挙げられる。
これらの化合物は1種のみを使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ホスゲン法においては、通常、酸結合剤および溶媒の存在下において、一般式(1)で表される構成単位を誘導するモノマーおよび任意に他の構成単位を誘導するモノマーをホスゲンと反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどが用いられる。さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を加え、また重合度調節のために、フェノール、p-t-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等の一官能基化合物を加えることが好ましい。また、所望により亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなどの分岐化剤を少量添加してもよい。反応温度は、通常0~150℃、好ましくは5~40℃の範囲である。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分~10時間、好ましくは1分~2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが好ましい。
【0025】
一方、エステル交換法においては、一般式(1)で表される構成単位を誘導するモノマーおよび任意に他の構成単位を誘導するモノマーを、ビスアリールカーボネートと混合し、高温減圧下で反応させる。反応は、通常150~350℃、好ましくは200~300℃の範囲の温度で行い、最終的には好ましくは133Pa以下まで減圧して、エステル交換反応により生成したビスアリールカーボネートに由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は、反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1~24時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、所望により、分子量調節剤、酸化防止剤、分岐化剤等を添加してもよい。
【0026】
(2)ポリカーボネート樹脂(B)
本発明の透明フィルムは、さらに以下の式(3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(B)を含んでいてもよい。
【化14】
【0027】
式(3)で表される構成単位は、ポリカーボネート樹脂(B)の全構成単位に対して、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%、特に好ましくは95~100モル%の割合で含まれる。このような割合でポリカーボネート樹脂(B)を含むことにより、成膜により適した流動性を樹脂組成物に与えることができる。ポリカーボネート樹脂(B)は、式(3)で表される構成単位のみからなるもの(ビスフェノールA)には限定されず、式(3)で表される構成単位以外の任意の構成単位を含んでいてもよいが、ポリカーボネート樹脂(B)は式(3)で表される構成単位のみからなることが好ましい。その他の構成単位としては、従来のポリカーボネート樹脂が含み得るいずれの構成単位であってもよい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、好ましくは10,000~35,000、より好ましくは22,000~35,000、特に好ましくは25,000~35,000である。このような分子量範囲とすることにより、フィルム成形に適した流動性を確保できると同時に、フィルム成形後の工程において重要となる耐屈曲性、耐衝撃特性等の機械特性をフィルムに付与することができる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の合計質量に対するポリカーボネート樹脂(A)の割合は、好ましくは10~100質量%、より好ましくは30~100質量%、特に好ましくは50~100質量%である。また、上記合計質量に対するポリカーボネート樹脂(A)の割合の好ましい範囲の上限値は、100質量%には限定されず、例えば、90質量%、80質量%、70質量%、60質量%であっても良い。上記合計質量に対するポリカーボネート樹脂(A)の割合は、例えば、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%等であっても良く、30~90質量%、30~80質量%、30~70質量%、30~60質量%等であっても良く、50~90質量%、50~80質量%、50~70質量%、50~60質量%等であっても良い。ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)を上記のような割合で含むことにより、ポリカーボネート樹脂(A)の有する上述したような特性を十分に有し、さらにはポリカーボネート樹脂(B)に由来する良好な流動性を有する樹脂組成物を得ることができる。樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)の割合が大きくなるほど、光弾性係数が低下し、成膜時の外力による複屈折への影響が低下し、ガラス転移温度が上昇する傾向が見られる。したがって、ポリカーボネート樹脂(A)の割合がポリカーボネート樹脂(B)の割合よりも大きいことがより好ましい。
【0030】
透明フィルムを構成する樹脂組成物として、上記一般式(1)で表される構成単位と、上記式(3)で表される構成単位とをともに同一ポリマー鎖に含む、共重合体を用いても良い。このような共重合体における、一般式(1)で表される構成単位と式(3)で表される構成単位との合計モル数に対する、一般式(1)で表される構成単位の割合は、上述のポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の合計質量に対するポリカーボネート樹脂(A)の割合と同様である。
ただし、ポリカーボネート樹脂(B)を含む場合には、ポリカーボネート樹脂(A)とのブレンドとして樹脂組成物中に含まれることが好ましく、すなわち、透明フィルムを構成する樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)との混合物であることが好ましい。
主としてポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)との混合物を用いた樹脂組成物においては、ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)との分子量の選択の幅を広げることが可能であり、また、分子量は、ガラス転移温度と流動性(粘度)にも関連していることから、混合物である樹脂組成物において、これらの性状も容易に調整可能である。
従って、樹脂組成物における上述の共重合体の割合は低いことが好ましく、例えば、樹脂組成物において、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。また、一般式(1)で表される構成単位および式(3)で表される構成単位を含む共重合体として樹脂組成物中に含まれないことが好ましい。
【0031】
ポリカーボネート樹脂(B)としては、市販のポリカーボネート樹脂を使用することができ、あるいは、上記でポリカーボネート樹脂(A)について記載したのと同様の方法によって製造したものを使用することもできる。
【0032】
樹脂組成物は、150~185℃のガラス転移温度を有することが好ましく、樹脂組成物のガラス転移温度は、155~180℃であることがより好ましく、160~175℃であることがさらに好ましい。
また、樹脂組成物における、300℃、せん断速度30~250sec-1でのせん断粘度は、300~1200Pa・sであることが好ましく、400~1150Pa・sであることが好ましく、500~1100Pa・sであることがさらに好ましい。
【0033】
(3)その他の成分
樹脂組成物には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤および着色剤からなる群より選択される少なくとも1種類の添加剤が例示される。
また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を添加してもよい。
【0034】
熱安定剤としては、フェノール系、リン系、および硫黄系の熱安定剤を挙げることができる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸等のリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛等の第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等を挙げることができる。あるいは、フェノールおよび/または炭素数1~25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化されたエステル基を分子中に少なくとも1つ含む亜リン酸エステル化合物(a)、亜リン酸(b)およびテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。亜リン酸エステル化合物(a)の具体例としては、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、アデカ社製の「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」および「アデカスタブHP-10」;城北化学工業社製の「JP-351」、「JP-360」および「JP-3CP」;チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製の「イルガフォス168」等を挙げることができる。
【0036】
また、有機ホスフェートとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0037】
熱安定剤を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂100質量部(複数のポリカーボネート樹脂を含む場合にはそれらの合計質量)に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.01~0.7質量部、特に好ましくは0.03~0.5質量部である。このような量で添加することにより、十分な熱安定効果が得られる。
【0038】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等を挙げることができる。具体的には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3 -(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4- ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等を挙げることができる。フェノール系酸化防止剤として、具体的には、例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製の「イルガノックス(登録商標)1010」、「イルガノックス(登録商標)1076」;アデカ社製の「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等を挙げることができる。
【0039】
酸化防止剤を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂100質量部(複数のポリカーボネート樹脂を含む場合にはそれらの合計質量)に対して、好ましくは0.001~1質量部、より好ましくは0.01~0.5質量部である。このような量で添加することにより、十分な酸化防止効果が得られる。
【0040】
難燃剤としては、有機スルホン酸金属塩等が挙げられる。有機スルホン酸金属塩としては、脂肪族スルホン酸金属塩および芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、金属塩としては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が好ましい。アルカリ金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを挙げることができる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム等が挙げられる。より好ましくはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属であり、特に好ましくはナトリウムまたはカリウムである。このような金属を採用することにより、燃焼時の炭化層形成を効果的に促進したり、高い透明性を維持できるという効果が得られる。
【0041】
脂肪族スルホン酸塩としては、好ましくはフルオロアルカン-スルホン酸金属塩、より好ましくはパーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩を挙げることができる。
また、フルオロアルカン-スルホン酸金属塩としては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。フルオロアルカンスルホン酸金属塩の炭素数としては、1~8が好ましく、2~4がより好ましい。このような範囲とすることにより、高い透明性を維持できるという効果が得られる。好ましいフルオロアルカン-スルホン酸金属塩の具体例として、パーフルオロブタン-スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン-スルホン酸カリウム、パーフルオロエタン-スルホン酸ナトリウム、パーフルオロエタン-スルホン酸カリウム等を挙げることができる。
【0042】
芳香族スルホン酸金属塩としては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、3,4-ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5-トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカリウム塩、4,4'-ジブロモジフェニル-スルホン-3-スルホン酸のナトリウム塩、4,4'-ジブロモフェニル-スルホン-3-スルホン酸のカリウム塩、ジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホン酸のジカリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩、p-トルエンスルホン酸カリウム塩、p-スチレンスルホン酸カリウム塩等を挙げることができる。
【0043】
有機スルホン酸金属塩は、特に、透明性を向上させる観点から、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカリウム塩、p-トルエンスルホン酸カリウム塩、p-スチレンスルホン酸カリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩が好ましく、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカリウム塩がより好ましい。
【0044】
有機スルホン酸金属塩以外の難燃剤を添加してもよく、例えばシリコーン化合物が挙げられる。シリコーン化合物としては、分子中にフェニル基を有するものが好ましい。フニル基を有することにより、シリコーン化合物のポリカーボネート中への分散性が向上し、透明性と難燃性が向上する。シリコーン化合物の質量平均分子量は、好ましくは450~5000、より好ましくは750~4000、さらに好ましくは1000~3000、特に好ましくは1500~2500である。質量平均分子量を450以上とすることにより、フィルム製造が容易になり、工業的生産への適応が容易となり、シリコーン化合物の耐熱性も低下しにくくなる。また、シリコーン化合物の質量平均分子量を5000以下とすることにより、樹脂組成物中での分散性が向上し、フィルムの難燃性の低下や、機械物性の低下をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0045】
難燃助剤を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂100質量部(複数のポリカーボネート樹脂を含む場合にはそれらの合計質量)に対して、好ましくは0.1~7.5質量部、より好ましくは0.2~5.0質量部である。このような量で添加することにより、十分な難燃性が得られ、外観不良の発生も抑えることができる。
【0046】
紫外線吸収剤としては、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物、サリチル酸フェニル系化合物等の有機紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物の具体例として、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2'-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]、[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステル、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルメチル)フェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2,4-ジ-tert-ブチル-6-(5-クロロベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラブチル)フェノール、2,2′-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラブチル)フェノール]、[メチル-3-[3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート-ポリエチレングリコール]縮合物等を挙げることができる。これらの2種以上を併用してもよい。上記の中でも、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレン-ビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール2-イル)フェノール]が好ましい。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4-ジヒドロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシロキシ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシ-ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-ベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシ-ベンゾフェノン等を挙げることができる。また、サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例として、フェニルサリシレート、4-tert-ブチル-フェニルサリシレート等を挙げることができる。更には、トリアジン系紫外線吸収剤の具体例として、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール等を挙げることができる。また、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例として、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケート等を挙げることができる。
【0047】
紫外線吸収剤を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂100質量部(複数のポリカーボネート樹脂を含む場合にはそれらの合計質量)に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.1~1質量部である。このような量で添加することにより、優れた耐候性が得られ、モールドデボジット等が発生することによる金型や冷却ロールの汚染を抑制することもできる。
【0048】
離型剤としては、カルボン酸エステル、ポリシロキサン化合物、パラフィンワックス(ポリオレフィン系)等を挙げることができる。具体的には、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の脂肪族1価、2価または3価カルボン酸を挙げることができる。ここで、脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中でも、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の1価または2価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和1価カルボン酸がさらに好ましい。脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等を挙げることができる。ここで、脂肪族炭化水素には脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。そのような化合物としては、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスの部分酸化物がより好ましい。数平均分子量は、好ましくは200~5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、種々の構成および分子量を有する複数の物質の混合物であってもよく、主成分の数平均分子量が上記範囲内であればよい。ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等を挙げることができる。これらの離型剤は、1種のみを使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
離型剤を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂100質量部(複数のポリカーボネート樹脂を含む場合にはそれらの合計質量)に対して、好ましくは0.001~2質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。このような量で添加することにより、十分な離形性を得ることができ、耐加水分解性の低下、成膜機の汚染等を抑制することもできる。
【0050】
着色剤としては染顔料を使用することができ、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等を挙げることができる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青等の珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青等のフェロシアン系顔料等を挙げることができる。また、有機顔料および有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;キノリン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等を挙げることができる。これらの中で、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系染顔料等が好ましい。なお、着色料は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、着色剤として、成膜時のハンドリング性を改良したり、樹脂組成物中での分散性を向上させるために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂と着色剤とを混合してマスターバッチとしたものを使用してもよい。
【0051】
着色剤を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂100質量部(複数のポリカーボネート樹脂を含む場合にはそれらの合計質量)に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。このような量で添加することにより、良好な耐衝撃性を維持することができる。
【0052】
本発明の透明フィルムには、必要に応じて、上述したポリカーボネート樹脂以外の樹脂が含まれていてもよい。このような他の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(A)および(B)以外のポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート-スチレン共重合体(MS樹脂)等のスチレン系樹脂;メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)等のコア/シェル型のエラストマー、ポリエステル系エラストマー等のエラストマー;環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン(COP)共重合体樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)等のアクリル樹脂;ポリカプロラクトン等を挙げることができる。
【0053】
他の樹脂を添加する場合、その添加量は、樹脂組成物に含まれる全樹脂の合計質量に対して10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましい。このような量で添加することにより、本発明の効果に及ぼす影響が少ない。
【0054】
上述したような材料を混合して得られる樹脂組成物を成形して樹脂ペレットを得ることができる。その方法としては、周知のストランド方式のコールドカット法(一度溶融させた樹脂組成物をストランド状に成形、冷却後、所定の形状に切断してペレット化する方法)、空気中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させた樹脂組成物を、空気中で水に触れぬうちにペレット状に切断する方法)、水中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させた樹脂組成物を、水中で切断し、同時に冷却してペレット化する方法)を挙げられる。得られた樹脂ペレットは、熱風乾燥炉、真空乾燥炉または脱湿乾燥炉等を用いて乾燥させることが好ましい。
【0055】
(4)透明フィルム
本発明の透明フィルムは、既知の成膜方法を適宜使用して作製することができるが、具体的には押出成形、キャスト成形等を使用することが好ましい。押出成形の例としては、任意に添加剤を加えた樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押し出して得られる半溶融状のシートを、ポリッシングロール等で挟圧しながら、冷却、固化してフィルムとする方法が挙げられる。押出機は一軸押出機でも二軸押出機でもよく、またベント付きおよびノンベントのいずれも使用できる。
キャスト成形の例としては、溶媒に樹脂組成物を十分溶解させ、得られた溶液を支持体上に流延してフィルム状の流延膜を形成し、この流延膜を加熱等により乾燥し、フィルムを得る方法が挙げられる。なお、溶媒については、キャストフィルム化できるものであれば制限なく用いることができるが、例えばメチレンクロライド、ジオキソラン等が好適に用いられる。
【0056】
フィルムの厚みは用途に応じて適宜調整することが可能であるが、好ましくは30~200μm、より好ましくは40~180μm、特に好ましくは50~170μmである。このような厚みとすることにより、屈曲性、剛性等の機械特性に優れ、2次加工の際のハンドリングも良好なフィルムを得ることができる。
【0057】
また、他の樹脂層を本発明の透明フィルムに積層して、複数の樹脂層からなる積層フィルムとすることもできる。他の樹脂層は、1層であっても複数層であってもよく、透明フィルムの片面または両面に配置することができる。また、透明フィルムと他の樹脂層との間にはさらなる層が存在していてもよい。他の樹脂層に含まれる樹脂としては、上記で樹脂組成物に添加し得る他の樹脂として記載したものを使用することができ、鉛筆硬度がH以上である高硬度樹脂が好適である。鉛筆硬度がH以上である高硬度樹脂を使用することによって、積層フィルムに硬度を与えることができる。また、2次加工を行う際の搬送時のキズ防止や、高硬度樹脂層の上に更にハードコートを施工する際、ハードコートの機械特性を維持しやすい等の効果も得られる。そのような背景により、高硬度樹脂層を設けることにより用途の幅が広がることが期待できる。高硬度樹脂層に用いる樹脂として、例えば、鉛筆硬度がH以上である熱硬化性樹脂、エネルギー線硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂が挙げられる。アクリル樹脂を使用する場合、具体的には、メチルメタクリル酸より重合されるメチルメタクリル樹脂(PMMA:ポリメチル(メタ)アクリレートともいう)、メタクリル酸メチル-ビニルシクロヘキサン共重合樹脂、メタクリル酸メチル-スチレン-無水マレイン酸共重合樹脂が挙げられる。ポリカーボネート樹脂を使用する場合、具体的には、ビスフェノールCを主成分とした高硬度ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0058】
(5)用途
本発明の透明フィルムは、その形状、模様、色彩、寸法等に制限はなく、これらは用途に応じて任意に設定すればよい。本発明の透明フィルムは、光学フィルム、基材フィルム保護フィルム等として有用である。具体的には、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品、各種家庭用電気製品等の部品、電気器具のハウジング、容器、カバー、収納部、ケース、照明器具のカバーやケース等において使用することができる。電気電子機器としては、例えば、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、テレビジョン受像機、液晶表示装置やプラズマ表示装置等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、スマートフォン、タブレット、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等を挙げることができる。また、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、スクリーン、反射板やメーター部品等の自動車部品、玩具、装飾品等においても使用することができる。
【0059】
特に、本発明の透明フィルムは、透明電極基材用フィルムとして使用することができる。ここで、透明電極とは、透明基材の一方または両方の面に透明電極層が配置されたものである。透明基材と透明電極層との間には、さらなる層が存在していてもよい。この透明電極における透明基材として、本発明の透明フィルムを使用することができる。本発明の一実施形態によると、本発明の透明フィルムと、該透明フィルムに積層された透明電極層とを具備した透明電極が提供される。透明電極層の材料は、導電性を有する限り特に限定されないが、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ITO(インジウムスズ複合酸化物)に代表される酸化物導電材料;Ag、CuおよびAuに代表される金属材またはカーボンナノチューブを主成分とする導電材料を1つ以上含むことが好ましい。透明電極は、タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパー、色素増感型太陽電池、タッチセンサー等において使用され得る。
【0060】
透明電極を製造する際、140℃以上、30分以上の熱処理が必要になることが多い。特に透明電極層がITO層である場合、150℃以上で長時間アニール処理を行うほど導電性能が向上することから、従来のポリカーボネート系フィルムを基材として用いることは困難とされている。また、透明電極は、タッチパネルのフィルムセンサー等、外観が厳しく管理される部位に使用されることから、複屈折が成膜条件による影響を受けやすいポリカーボネートフィルムは虹模様が発生しやすいため採用が見送られることが多々ある。本発明の透明フィルムを透明電極の基材として使用する場合、上記のような課題を解決することができる。更には、ポリカーボネート樹脂の優れた機械的特性を活かしてフォルダブルディスプレー等においても好適に使用し得る。
【0061】
また、本発明の透明フィルムは、製品を保護するための保護フィルムとして使用することも可能であり、例えば製品輸送時の衝撃から製品を保護する目的で製品の表面に配置することができる。保護対象の製品は特に限定されるものではないが、例えば上述したような透明電極を保護するためのフィルムとして使用することができる。透明電極の保護フィルムとして使用する場合には、透明電極を使用する際には保護フィルムを除去してから使用することが通常であるが、このように除去してから使用する態様に限定されるものではない。保護フィルムの一方の面に粘着層を設けることにより、保護フィルムを製品に貼り付けることが可能になる。また、粘着層を設けた側とは反対側の面にアンチブロック性を有する層を積層して、保護フィルムとしての滑り性を高めることもできる。アンチブロック性を有する層を積層する代わりに、テクスチャーを設けることでも滑り性を高めることができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
(合成例1:ポリカーボネート樹脂(A)の合成)
100リットル反応容器に、8.0質量/質量%の水酸化ナトリウム水溶液34L、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(BPAP)5800g(本州化学工業製、20.00mol)、およびハイドロサルファイト10gを加えて混合した。ここにジクロロメタン22リットルを加え、15℃で攪拌しながら、ホスゲン2600gを30分かけて吹き込んだ。
吹き込み終了後、1分間激しく攪拌して反応液を乳化させ、p-ターシャルブチルフェノール240g(PTBP、1.60mol)を加えた。さらに10分間攪拌後、トリエチルアミン20mLを加え、さらに50分間攪拌を継続した。
【0063】
得られた液体を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和した。洗浄液の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返し、精製された樹脂液を得た。得られた樹脂液をジクロロメタンで希釈して、10.0質量/質量%に調整した。樹脂液を45℃に維持した温水中に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃で24時間乾燥して、ポリカーボネート樹脂(A)の粉末を得た。ポリカーボネート樹脂(A)は、上記式(4)で表される構成単位(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(BPAP)由来の構成単位)を主成分とするもの(ビスフェノールAP)であり、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、12,000であった。
【0064】
(実施例1)
合成例1で製造したポリカーボネート樹脂(A)の粉末を、ベント付き二軸押出機にて溶融混錬し、フィルム状に押し出し、成形方向に対して垂直に配置された3本の冷却ロールを有するフィルム成形機の第1冷却ロールと第2冷却ロールの間に落とし、これらのロールでフィルムを圧着することにより幅250mm、厚さ160μmのフィルムを得た。その際、第1冷却ロールおよび第2冷却ロールの圧着圧を5kPaとしたサンプルと2kPaとしたサンプルの2種を得た。
【0065】
(実施例2)
合成例1で製造したポリカーボネート樹脂(A)5.0kg、および、上記式(3)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂(B)である粘度平均分子量27500のE-2000F(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製のビスフェノールA型ポリカーボネート)5.0kgをブレンダーで攪拌し、均一に混合した。得られた粉体を用いて、実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0066】
(実施例3)
合成例1で製造したポリカーボネート樹脂(A)3.0kgおよび粘度平均分子量27500のE-2000F(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)7.0kgをブレンダーで攪拌し、均一に混合した。得られた粉体を用いて、実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0067】
(実施例4)
合成例1で製造したポリカーボネート樹脂(A)1.0kgおよび粘度平均分子量27500のE-2000F(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)9.0kgをブレンダーで攪拌し、均一に混合した。得られた粉体を用いて、実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0068】
(比較例1)
粘度平均分子量27500のE-2000F(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)10.0kgを用いて、実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0069】
(比較例2)
粘度平均分子量16000のポリカーボネート樹脂H-4000F(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)10.0kgを用いて、実施例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0070】
実施例および比較例の樹脂およびフィルムについて、物性を以下のように評価した。
(1)せん断粘度
東洋精機株式会社製キャピログラフB1に実施例および比較例の樹脂を投入し、300℃にて、長さ10mm×直径1.0mmのノズル穴(オリフィス)から樹脂を押し出して、せん断速度30~250sec-1におけるせん断粘度を測定した。
【0071】
(2)ガラス転移温度
株式会社日立ハイテクサイエンス製EXTAR DSC7020にて、実施例および比較例の樹脂のガラス転移温度を測定した。測定対象約10mgをアルミニウム製非密閉容器に入れ、窒素ガス気流中、昇温速度5℃/分で300℃まで昇温し、一旦40℃まで降温した。再び同条件にて昇温し、DSC曲線を得た。転移前後の2つの基線(ガラス状態の基線および溶融状態の基線)の間のDSC曲線に接線を引き、その接線とガラス状態側の基線の交点における温度をガラス転移温度とした。
【0072】
(3)光弾性係数
実施例および比較例で得られたフィルムに、アニール処理を行った。アニール処理後のフィルムについて、23℃、相対湿度50%の環境下で日本分光株式会社製 エリプソメーターM-220を用いて、フィルムに応力荷重(0~720gf)をかけながら、波長633nmでフィルム面内のリタデーション(Re)値を測定した。そして、応力とReの傾きから光弾性係数を算出した。
【0073】
(4)ヘイズ
実施例および比較例で得られたフィルムのヘイズを、村上色彩技術研究所製HM-150を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
【0074】
(5)リタデーション(Re)
実施例および比較例で作製したフィルム(ロール圧着圧5MPaおよび2MPaの各々)について、株式会社フォトニクスラティス製 WPA-100を用いて、測定波長523nmを選択し、フィルム幅方向のリタデーションを0.5mm間隔で測定した。各サンプルについて得られたリタデーション値の平均値を算出し、「Re平均値」とした。また、各実施例および比較例について、ロール圧着圧5MPaのサンプルと2MPaのサンプルのRe平均値の差(5MPaのRe平均値-2MPaのRe平均値)を算出し、「Re平均変化量」とした。さらに、5MPaサンプルのRe平均値に対するRe平均変化量の割合(Re平均変化量/5MPaのRe平均値)を算出して、「Re平均変化率」とした。
各物性の評価結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0075】
表1より、本発明の透明フィルムは、複屈折が成膜条件による影響を受けにくいことがわかる。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。