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特許7251545非正規車載装置の検出システム、ハーネスシステム、検出装置、及びコンピュータプログラム
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  • 特許-非正規車載装置の検出システム、ハーネスシステム、検出装置、及びコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】非正規車載装置の検出システム、ハーネスシステム、検出装置、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/023 20060101AFI20230328BHJP
   G06F 21/44 20130101ALI20230328BHJP
【FI】
B60R16/023 Z
G06F21/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020525270
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011779
(87)【国際公開番号】W WO2019239669
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018113801
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】柿井 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】野村 康
(72)【発明者】
【氏名】戴 桂明
(72)【発明者】
【氏名】濱田 芳博
(72)【発明者】
【氏名】畑 洋一
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/170451(WO,A1)
【文献】特開平07-007842(JP,A)
【文献】特開平06-013993(JP,A)
【文献】特開2016-213789(JP,A)
【文献】特開2015-005829(JP,A)
【文献】特開2014-143631(JP,A)
【文献】特開2007-036512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/023
G06F 21/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車載装置のそれぞれに接続され、電気信号を伝送する複数の通信線を有するワイヤハーネスと、
前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線と、
前記検出用電線に発生する、前記複数の車載装置のそれぞれから前記通信線へ出力される信号の波形及び出力タイミングを反映したクロストーク信号の前記波形及び出力タイミングを表す特徴を解析し、前記複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行する検出装置と、
を備える、
非正規車載装置の検出システム。
【請求項2】
前記検出用電線は、一端が開放されている、
請求項1に記載の非正規車載装置の検出システム。
【請求項3】
前記検出用電線は、両端が終端抵抗を介して接地される、
請求項1に記載の非正規車載装置の検出システム。
【請求項4】
前記検出処理は、前記クロストーク信号を時間領域及び周波数領域の少なくとも1つにおいて解析する処理である、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の非正規車載装置の検出システム。
【請求項5】
前記検出処理は、正規の車載装置から送信される電気信号により生じる前記クロストーク信号である正常クロストーク信号に基づいて、非正規車載装置から送信される電気信号により生じる前記クロストーク信号である異常クロストーク信号を検出する処理である、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の非正規車載装置の検出システム。
【請求項6】
前記検出処理は、学習モデルに対して前記クロストーク信号に基づく入力データを与えることにより実行され、
前記学習モデルは、前記正常クロストーク信号を学習データとする機械学習により構築される、
請求項5に記載の非正規車載装置の検出システム。
【請求項7】
複数の通信線を有するワイヤハーネスに接続される非正規車載装置を検出するための検出装置であって、
前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線において発生する、前記複数の車載装置のそれぞれから前記通信線へ出力される信号の波形及び出力タイミングを反映したクロストーク信号を受け付ける入出力インタフェースと、
前記入出力インタフェースによって受け付けられる前記クロストーク信号の前記波形及び出力タイミングを表す特徴を解析し、前記ワイヤハーネスに接続される複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行するプロセッサと、
を備える、
検出装置。
【請求項8】
複数の通信線を有するワイヤハーネスに接続される非正規車載装置を検出するためのコ
ンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線において発生する、前記複数の車載装置のそれぞれから前記通信線へ出力される信号の波形及び出力タイミングを反映したクロストーク信号を受け付けるステップと、
受け付けられる前記クロストーク信号の前記波形及び出力タイミングを表す特徴を解析し、前記ワイヤハーネスに接続される複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出するステップと、
を実行させるための、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非正規車載装置の検出システム、ハーネスシステム、検出装置、及びコンピュータプログラムに関する。本出願は、2018年6月14日出願の日本出願第2018-113801号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載される車載装置の制御プログラム(ファームウェア)が不正に書き換えられたり、車載装置が不正に交換されたりすることがある。このような非正規の車載装置は、正規の車載装置とは異なる動作を行い、エンジン又はモータ等の動力制御、ブレーキ制御、ステアリング制御、メータ又は車載機器(ナビゲーション装置、ETC(Electronic Toll Collection System)等)の動作制御等に異常が生じる虞がある。
【0003】
特許文献1には、ゲートウェイ装置が車載ネットワークを介して複数のコントローラから信号を受信し、信号の受信順に基づいて、非正規のコントローラを検知する通信システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-11155号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る非正規車載装置の検出システムは、複数の車載装置のそれぞれに接続され、電気信号を伝送する複数の通信線を有するワイヤハーネスと、前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線と、前記検出用電線に発生する前記通信線からのクロストーク信号に基づいて、前記複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行する検出装置と、を備える。
【0006】
本開示の一の態様に係るハーネスシステムは、複数の車載装置のそれぞれに接続され、電気信号を伝送する複数の通信線を有するワイヤハーネスと、前記複数の通信線に沿って延び、検出装置に接続される検出用電線と、を備え、前記検出装置は、前記検出用電線に発生する前記通信線からのクロストーク信号に基づいて、前記複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行する。
【0007】
本開示の一の態様に係る検出装置は、複数の通信線を有するワイヤハーネスに接続される非正規車載装置を検出するための検出装置であって、前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線において発生する前記通信線からのクロストーク信号を受け付ける入出力インタフェースと、前記入出力インタフェースによって受け付けられる前記クロストーク信号に基づいて、前記ワイヤハーネスに接続される複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行するプロセッサと、を備える。
【0008】
本開示の一の態様に係るコンピュータプログラムは、複数の通信線を有するワイヤハーネスに接続される非正規車載装置を検出するためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線において発生する前記通信線からのクロストーク信号を受け付けるステップと、受け付けられる前記クロストーク信号に基づいて、前記ワイヤハーネスに接続される複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出するステップと、を実行させる。
【0009】
本開示は、このような特徴的な処理部を備える検出装置及びかかる特徴的な処理をコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現することができるだけでなく、かかる特徴的な処理をステップとする非正規車載装置の検出方法としても実現することができる。また、検出装置の一部又は全部を半導体集積回路として実現したり、検出装置を含む非正規車載装置の検出システムとして実現したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る非正規車載装置の検出システムの構成の一例を示す図である。
図2】実施形態に係るハーネスシステムの構成の一例を示す図である。
図3A】検出用電線と検出装置との電気接続構成の一例を示す回路図である。
図3B】検出用電線と検出装置との電気接続構成の他の例を示す回路図である。
図4】実施形態に係る学習モデルの構成の一例を示す模式図である。
図5A】実施形態に係る学習モデルに正常クロストーク信号から生成された入力データを与えたときの特徴抽出データを説明する図である。
図5B】実施形態に係る学習モデルに異常クロストーク信号から生成された入力データを与えたときの特徴抽出データを説明する図である。
図6】特徴抽出データを用いた異常クロストーク信号の検出の概要を説明する模式図である。
図7】実施形態に係る検出装置による検出処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本開示が解決しようとする課題>
しかしながら、特許文献1に開示されている通信システムでは、車載ネットワークによってゲートウェイ装置に接続されるコントローラしか検知対象とすることができない。自動車には、複数の車載ネットワークが設けられ、ゲートウェイ装置が全ての車載ネットワークに接続されない場合がある。このような場合には、上記の検知機能を有するゲートウェイ装置を複数設ける必要があり、システムの大型化及び複雑化、並びにコストの増大を招く。
【0012】
<本開示の効果>
本開示によれば、簡易な構成により複数の車載装置を対象として非正規車載装置の検出を行うことができる。
【0013】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
(1) 本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムは、複数の車載装置のそれぞれに接続され、電気信号を伝送する複数の通信線を有するワイヤハーネスと、前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線と、前記検出用電線に発生する前記通信線からのクロストーク信号に基づいて、前記複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行する検出装置と、を備える。これにより、通信線に沿って設けた検出用電線に生じるクロストーク信号を監視することで、簡易な構成により複数の車載装置を対象として非正規車載装置の検出を行うことができる。
【0014】
(2) 本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムにおいて、前記検出用電線は、一端が開放されてもよい。これにより、検出用電線を簡易な構成とすることができる。
【0015】
(3) 本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムにおいて、前記検出用電線は、両端が終端抵抗を介して接地されてもよい。これにより、明瞭なクロストーク信号を得ることができ、非正規車載装置の検出精度が向上する。
【0016】
(4) 本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムにおいて、前記検出処理は、前記クロストーク信号を時間領域及び周波数領域の少なくとも1つにおいて解析する処理であってもよい。これにより、クロストーク信号の特徴を時間領域及び周波数領域の少なくとも1つにおいて解析することができ、非正規車載装置の検出精度が向上する。
【0017】
(5) 本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムにおいて、前記検出処理は、正規の車載装置から送信される電気信号により生じる前記クロストーク信号である正常クロストーク信号に基づいて、非正規車載装置から送信される電気信号により生じる前記クロストーク信号である異常クロストーク信号を検出する処理であってもよい。非正規なファームウェアは種々存在し、出力信号の波形又は信号の出力タイミングは非正規なファームウェアによって様々である。したがって、様々な異常クロストーク信号から共通の特徴を抽出することは困難である。これに対して、正規のファームウェアが実装された車載装置からは、規定の波形及び出力タイミングで信号が出力されるため、正常クロストーク信号から共通の特徴を抽出することは可能である。このため、上記構成とすることにより、正常クロストーク信号から抽出される特徴とは異なる特徴を有する異常クロストーク信号を検出することができる。
【0018】
(6) 本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムにおいて、前記検出処理は、学習モデルに対して前記クロストーク信号に基づく入力データを与えることにより実行され、前記学習モデルは、前記正常クロストーク信号を学習データとする機械学習により構築されてもよい。これにより、機械学習によって構築された学習モデルにより、入力データから異常クロストーク信号を検出することができる。
【0019】
(7) 本実施形態に係るハーネスシステムは、複数の車載装置のそれぞれに接続され、電気信号を伝送する複数の通信線を有するワイヤハーネスと、前記複数の通信線に沿って延び、検出装置に接続される検出用電線と、を備え、前記検出装置は、前記検出用電線に発生する前記通信線からのクロストーク信号に基づいて、前記複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行する。これにより、通信線に沿って設けた検出用電線に生じるクロストーク信号を監視することで、簡易な構成により複数の車載装置を対象として非正規車載装置の検出を行うことができる。
【0020】
(8) 本実施形態に係る検出装置は、複数の通信線を有するワイヤハーネスに接続される非正規車載装置を検出するための検出装置であって、前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線において発生する前記通信線からのクロストーク信号を受け付ける入出力インタフェースと、前記入出力インタフェースによって受け付けられる前記クロストーク信号に基づいて、前記ワイヤハーネスに接続される複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出する検出処理を実行するプロセッサと、を備える。これにより、通信線に沿って設けた検出用電線に生じるクロストーク信号を監視することで、簡易な構成により複数の車載装置を対象として非正規車載装置の検出を行うことができる。
【0021】
(9) 本実施形態に係るコンピュータプログラムは、複数の通信線を有するワイヤハーネスに接続される非正規車載装置を検出するためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記複数の通信線に沿って延びる検出用電線において発生する前記通信線からのクロストーク信号を受け付けるステップと、受け付けられる前記クロストーク信号に基づいて、前記ワイヤハーネスに接続される複数の車載装置に含まれる非正規車載装置を検出するステップと、を実行させる。これにより、通信線に沿って設けた検出用電線に生じるクロストーク信号を監視することで、簡易な構成により複数の車載装置を対象として非正規車載装置の検出を行うことができる。
【0022】
<本開示の実施形態の詳細>
【0023】
[1.非正規車載装置の検出システムの構成]
図1は、本実施形態に係る非正規車載装置の検出システムの構成の一例を示す図である。本実施形態に係る非正規車載装置の検出システム100は、自動車に搭載される。検出システム100は、ハーネスシステム200と、検出装置300とを備える。
【0024】
ハーネスシステム200は、ワイヤハーネス210と、検出用電線220とを有する。ワイヤハーネス210は、複数の通信線を有する。各通信線221は、一又は複数のECU(Electronic Control Unit)400に接続される。なお、ECU400は、車載装置の一例である。各通信線221は、例えばCAN(Controller Area Network)、CANFD(CAN with Flexible Data Rate)、LIN(Local Interconnect Network)、Ethernet(登録商標)、又はMOST(Media Oriented Systems Transport:MOSTは登録商標)等の通信規格に準じたケーブルであり、それぞれの通信規格に応じたプロトコルの電気信号を伝送する。
【0025】
ワイヤハーネス210は、中継装置411,412,413に接続される。中継装置411,412,413のそれぞれは、異なる車内ネットワークに接続されたECU400間の通信を中継する。つまり、中継装置411,412,413のそれぞれは、1つのECU400から送信されたデータのプロトコル及びデータ形式を変換し、宛先のECU400へと転送する。
【0026】
検出用電線220は、複数の通信線221に沿って延びる。検出用電線220は、ECU400に接続されておらず、ECU400から出力される電気信号を伝送しない。検出用電線220は、A/Dコンバータ230を介して検出装置300に接続される。通信線221において電気信号が伝送されると、検出用電線220には、クロストーク信号が発生する。検出用電線220に発生したクロストーク信号は、A/Dコンバータ230によってA/D変換され、検出装置300に与えられる。
【0027】
[2.ハーネスシステムの構成]
図2は、本実施形態に係るハーネスシステム200の構成の一例を示す図である。ワイヤハーネス210は、複数の通信線221の束である。各通信線221の端部はカプラ222に接続される。1つのカプラ222には、検出用電線220の一端部が接続される。また、検出用電線220の他端は、カプラ222に接続されてもよいし、カプラ222に接続されなくてもよい。
【0028】
検出用電線220は、通信線221に沿わされる。例えば、検出用電線220は、ワイヤハーネス210に沿って設けられ、ビニールテープ又は結束バンドによってワイヤハーネス210に取り付けられる。検出用電線220は、ビニールテープ又は合成樹脂製の絶縁被覆によって通信線221と束ねられ、ワイヤハーネス210と一体化されてもよい。
【0029】
図3Aは、検出用電線220と検出装置300との電気接続構成の一例を示す回路図である。この例では、検出用電線220の一端が開放され、他端が接地される。これにより、検出用電線220を簡易な構成とすることができる。このような構成の検出用電線220では、近傍に配置された通信線221に電流が流れると、静電結合によって検出用電線220に電圧が誘起され、クロストーク信号が発生する。本例の場合、検出用電線220の一端はカプラ222に接続されるが、カプラ222から先は接地されない。
【0030】
図3Bは、検出用電線220と検出装置300との電気接続構成の他の例を示す回路図である。この例では、検出用電線220の両端が終端抵抗を介して接地される。このような構成の検出用電線220では、近傍に配置された通信線221の周囲に変動磁界が生じると、電磁結合によって検出用電線220に電流が流れ、クロストーク信号が発生する。本例の場合、検出用電線220の両端はカプラ222に接続され、さらにその先が終端抵抗を介して接地される。これにより、明瞭なクロストーク信号を得ることができ、非正規ECUの検出精度が向上する。上記の終端抵抗は、例えば検出用電線220のインピーダンスに整合した抵抗値とすることができる。
【0031】
[3.検出装置の構成]
再び図1を参照する。検出装置300は、プロセッサ301と、一過性メモリ302と、非一過性メモリ303と、入出力インタフェース309とを備える。プロセッサ301、一過性メモリ302、非一過性メモリ303、及び入出力インタフェース309は、バスにより相互接続される。
【0032】
一過性メモリ302は、例えばSRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリである。非一過性メモリ303は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリである。非一過性メモリ303には、コンピュータプログラムである非正規ECU検出プログラム305及び非正規ECU検出プログラム305の実行に使用されるデータが格納される。検出装置300は、コンピュータを備えて構成され、検出装置300の各機能は、前記コンピュータの記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムである非正規ECU検出プログラム305がCPUであるプロセッサ301によって実行されることで発揮される。非正規ECU検出プログラム305は、フラッシュメモリ、ROM、CD-ROMなどの記録媒体に記憶させることができる。プロセッサ301は、非正規ECU検出プログラム305を実行し、後述するような検出を行う。
【0033】
なお、プロセッサ301は、CPUに限られない。プロセッサ301は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ゲートアレイ、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアロジック回路であってもよい。この場合、ハードウェアロジック回路は、非正規ECU検出プログラム304と同様の処理を実行可能に構成される。
【0034】
検出処理は、クロストーク信号に基づいて、非正規ECU(非正規車載装置)を検出する処理である。さらに具体的には、クロストーク信号を時間領域及び周波数領域の少なくとも1つにおいて解析する処理であり、正常クロストーク信号に基づいて、非正規ECUから送信される電気信号により生じるクロストーク信号(異常クロストーク信号)を検出する処理である。時間領域及び周波数領域の少なくとも1つにおいてクロストーク信号の特徴を解析することで、高精度に非正規ECUの検出を行うことができる。また、検出処理は、学習モデル305にクロストーク信号に基づく入力データを与えることによって実行される。
【0035】
[4.学習モデルの例]
以下、学習モデル305の一例を説明する。図4は、学習モデル305の構成の一例を示す模式図である。学習モデル305は、畳み込みニューラルネットワークにより構成される。学習モデル305は、入力層351と、コンボリューション層(CONV層)352と、デコンボリューション層(DECONV層)353と、出力層354とを含む。コンボリューション層352は、入力データ306を次元圧縮する層の一例であり、入力データ306に対して畳み込み積分を行って次元圧縮する。デコンボリューション層353は、次元圧縮されたデータを元の次元に復元する層の一例であり、コンボリューション層352とは逆の操作を行って、コンボリューション層352において畳み込み積分されたデータに対して逆畳み込み処理を行い元の次元に復元する。図4では、コンボリューション層352及びデコンボリューション層353のそれぞれが2層ずつ設けられる例を示しているが、それぞれが1層又は3層以上の構造であってもよい。
【0036】
学習モデル305の入力データ306は、検出用電線220に生じるクロストーク信号の時系列データ(時間領域で表現されるデータ)若しくはスペクトルデータ(周波数領域で表現されるデータ)である。スペクトルデータは、クロストーク信号の時系列データを周波数変換することにより得られる。また、入力データ306は、時系列データ又はスペクトルデータのグラフの画像データであってもよい。学習モデル305は、入力データ306が与えられると、当該入力データ306を次元圧縮し、その後、元の次元に復元する処理を行う。したがって、学習モデル305の出力データは、入力データ306と同次元のデータである。
【0037】
学習モデル305の構築について説明する。学習モデル305は、正常クロストーク信号の時系列データ又はスペクトルデータを学習データとする機械学習によって構築される。この機械学習では、学習データが入力データ306として学習モデル305に入力され、出力データが入力データ306と同じになるように学習が行われる。このような機械学習は、複数の学習データを用いて繰り返し行われる。機械学習が終了すると、学習モデル305は、入力データ306に対して、正常クロストーク信号の特徴を抽出した出力データ(以下、「特徴抽出データ」ともいう)307を出力するようになる。
【0038】
正規のECUからは、規定の波形及び出力タイミングで信号が出力されるため、正常クロストーク信号から共通の特徴を抽出することが可能である。このため、多数の学習データによって機械学習を行うと、学習モデル305は、正常クロストーク信号に共通する特徴を学習する。したがって、このようにして構築される学習モデル305を用いて、異常クロストーク信号の検出を行うことができる。
【0039】
上記の機械学習によって構築された学習モデル305に、入力データ306を与えたときの処理について説明する。正規のECU400から電気信号が出力され、クロストーク信号が検出用電線220に生じる場合、当該クロストーク信号は正常クロストーク信号である。図5Aは、学習モデル305に正常クロストーク信号から生成された入力データ306を与えたときの特徴抽出データ307を説明する図である。正常クロストーク信号から生成された入力データ306が学習モデル305に与えられると、図5Aに示すように、学習モデル305から出力される特徴抽出データ307は、正常クロストーク信号から生成された入力データ306と殆ど同じデータとなる。
【0040】
他方、非正規ECU400から電気信号が出力され、クロストーク信号が検出用電線220に生じる場合、当該クロストーク信号は異常クロストーク信号である。図5Bは、学習モデル305に異常クロストーク信号から生成された入力データ306を与えたときの特徴抽出データ307を説明する図である。学習モデル305は、正常クロストーク信号から作成された学習データを用いて機械学習しているため、異常クロストーク信号に含まれる異常な部分(正常クロストーク信号とは異なる部分)を正常クロストーク信号の特徴に置き換えて出力する。つまり、異常クロストーク信号から生成された入力データ306が学習モデル305に与えられると、図5Bに示すように、学習モデル305から出力される特徴抽出データ307は、正常クロストーク信号に共通する特徴を抽出したデータとなる。つまり、この場合の特徴抽出データ307は、異常クロストーク信号から、正常クロストーク信号の特徴と重なる部分が抽出されたデータであり、言い換えれば、異常クロストーク信号のうち、異常な部分(正常クロストーク信号の特徴とは異なる部分)が無くなった(画像データの場合、薄く写り込むこともある)状態のデータである。
【0041】
検出処理では、上記のようにして得られた特徴抽出データ307を用いて、異常クロストーク信号の検出が行われる。入力データ306と特徴抽出データ(出力データ)307とを比較すれば、正常クロストーク信号に共通する特徴に対して入力データ306が相違する要素、あるいは、入力データ306と正常クロストーク信号に基づき生成されたデータ(時系列データ又はスペクトルデータ)の類似性を把握することができる。このような相違する要素、あるいは、類似性に基づいて、異常クロストーク信号の検出を行う。しかも、特徴抽出データ307は、入力データ306と同次元のデータであるため、両者を適切に比較できる。
【0042】
図6は、特徴抽出データ307を用いた異常クロストーク信号の検出の概要を説明する模式図である。検出処理では、入力データ306と特徴抽出データ307との差分データ308を生成する。この差分データ308は、異常クロストーク信号に含まれる異常な部分が抽出されたデータである。このため、差分データ308のデータ量が基準値以上であるか否かを判定することで、異常クロストーク信号の検出が行われる。なお、入力データを画像データとする場合、入力データ306と特徴抽出データ307との差分が閾値以上の画素数が基準値以上であるか否かを判定することで、異常クロストーク信号の検出を行うことができる。また、入力データ306を多階調の画像データとする場合、入力データ306と特徴抽出データの同一画素同士の階調値の差分の合計が基準値以上であるか否かを判定することでも、異常クロストーク信号の検出を行うことができる。
【0043】
[5.非正規車載装置の検出システムの動作]
次に、本実施形態に係る非正規車載装置の検出システム100の動作について説明する。ECU400から電気信号が出力されると、検出用電線220にクロストーク信号が発生する。クロストーク信号は、A/Dコンバータ230によってA/D変換され、検出装置300に与えられる。
【0044】
検出装置300のプロセッサ301は、検出処理を実行する。図7は、本実施形態に係る検出装置300による検出処理の手順を示すフローチャートである。以下、図7を参照して、検出処理を説明する。
【0045】
プロセッサ301は、クロストーク信号を受信し(ステップS101)、学習モデル305用の入力データ306を生成する(ステップS102)。入力データ306を時系列データとする場合、プロセッサ301はA/Dコンバータ230からの出力データを所定時間蓄積し、これを入力データ306とする。入力データ306をスペクトルデータとする場合、プロセッサ301は、上記の時系列データに対してFFT(Fast Fourier Transform)等の周波数変換処理を施す。また、入力データ306を時系列データ又はスペクトルデータをグラフにした画像データとする場合、プロセッサ301は、上記のようにして得た時系列データ又はスペクトルデータの2次元座標グラフを作成し、当該グラフの画像データを生成する。
【0046】
プロセッサ301は、生成された入力データ306を、学習モデル305に入力し、特徴抽出データ307を生成する(ステップS103)。プロセッサ301は、生成された特徴抽出データ307と入力データ306との差分データ308を生成する(ステップ104)。
【0047】
プロセッサ301は、差分データのデータ量(差分データ量)と基準値とを比較し、データ量が基準値以上であるか否かを判定する(ステップS105)。ここで、入力データ306が画像データである場合、データ量は差分の画素数とすることができる。また、入力データ306が多階調の画像データである場合、データ量は入力データ306と特徴抽出データ(多階調の画像データ)307との同一画素同士の階調値の差分の合計とすることもできる。
【0048】
差分データ量が基準値未満である場合(ステップS105においてNO)、クロストーク信号は正常クロストーク信号であると判定される。この場合、プロセッサ301は、異常クロストーク信号を検出せず、検出処理を終了する。
【0049】
差分データ量が基準値以上である場合(ステップS105においてYES)、クロストーク信号は異常クロストーク信号であると判定される。この場合、プロセッサ301は、異常クロストーク信号を検出し、非正規ECUが存在することを通知する異常通知処理を実行する(ステップS106)。異常通知処理では、例えばナビゲーション装置を制御するECU400にプロセッサ301が異常通知信号を送信し、ナビゲーション装置の画面に非正規ECUが存在することを示す情報を表示させる。これにより、ユーザに非正規ECUの存在を通知することができる。また、ユーザへの通知と共に、又はユーザへの通知に代えて、プロセッサ301は、車外のサーバに対して、非正規ECUが存在することを示す異常情報を、車両の識別情報又はユーザ識別情報と共に送信してもよい。これにより、例えばECUの製造メーカ又は自動車メーカに対して、非正規ECUの存在を通知することができ、非正規ECUへの対処(正規ファームウェアの提供又はECUの交換)を促すことができる。以上で、検出処理が終了する。
【0050】
上記のような構成とすることにより、検出用電線220に生じるクロストーク信号を監視することで、簡易な構成により複数のECU400を対象として非正規ECUの検出を行うことができる。
【0051】
[6.変形例]
なお、上記の実施形態では、学習モデル305をニューラルネットワークとしたが、これに限定されない。サポートベクタマシン等の他の機械学習アルゴリズムによる学習モデルとしてもよい。また、学習モデル305ではなく、例えば、正常クロストーク信号の条件を規定しておき、クロストーク信号がこの条件に適合するか否かを判定することで、異常クロストーク信号を検出してもよい。
【0052】
[7.補記]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的ではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0053】
100 検出システム
200 ハーネスシステム
210 ワイヤハーネス
220 検出用電線
221 通信線
222 カプラ
230 コンバータ
300 検出装置
301 プロセッサ
302 一過性メモリ
303 非一過性メモリ
304 検出プログラム
305 学習モデル
351 入力層
352 コンボリューション層
353 デコンボリューション層
354 出力層
306 入力データ
307 特徴抽出データ
308 差分データ
309 入出力インタフェース
400 ECU(車載装置)
411,412,413 中継装置
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7