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特許7251610電波環境解析装置および電波環境解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】電波環境解析装置および電波環境解析方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/22 20090101AFI20230328BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20230328BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20230328BHJP
【FI】
H04W16/22
H04W24/08
H04B17/391
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021508233
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005502
(87)【国際公開番号】W WO2020195296
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019063600
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省、「狭空間における周波数稠密利用のための周波数有効利用技術の研究開発」に関する委託業務、産業技術力強化法第17条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164035
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 正人
(72)【発明者】
【氏名】浅田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】江村 鉄兵
(72)【発明者】
【氏名】島崎 安徳
【審査官】野村 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170685(JP,A)
【文献】特表2018-519711(JP,A)
【文献】特開2009-005250(JP,A)
【文献】国際公開第2005/088868(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
H04B 17/391
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの移動体が存在する対象エリア内に配置された無線送信機の位置情報と前記無線送信機からの電波が受信される基準点の位置情報とを保持するメモリと、
前記少なくとも1つの移動体が初期位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度、ならびに、前記少なくとも1つの移動体が前記初期位置から複数回にわたり所定距離ずつ移動した複数の移動位置のそれぞれに存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度をそれぞれ取得するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記少なくとも1つの移動体が前記初期位置および前記複数の移動位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度に基づいて、前記対象エリアにおける電波環境のシミュレーションを実行するための前記複数の移動位置のうち1以上の位置を選定する、
電波環境解析装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記選定された1以上の位置のそれぞれに前記少なくとも1つの移動体が存在するという条件を用いて、前記シミュレーションを実行する、
請求項1に記載の電波環境解析装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記シミュレーションの実行結果を、前記少なくとも1つの移動体の位置ごとに連続的に表示部に表示させる、
請求項2に記載の電波環境解析装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの移動体は、1つの第1の移動体であって、
前記プロセッサは、
前記第1の移動体が直前の位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度と、前記第1の移動体が移動した直後の位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度との差分と閾値との比較に応じて、前記シミュレーションを実行するための前記第1の移動体の前記1以上の位置を選定する、
請求項1または2に記載の電波環境解析装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの移動体は、第1の移動体および第2の移動体を含む複数の移動体であって、
前記プロセッサは、
前記第1の移動体が前記第1の移動体の初期位置から複数回にわたり所定距離ずつ移動した複数の移動位置のそれぞれに存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度と、前記第2の移動体が前記第2の移動体の初期位置から複数回にわたり所定距離ずつ移動した複数の移動位置のそれぞれに存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度とに基づいて、前記対象エリアにおける電波環境のシミュレーションを実行するための前記複数の移動体のそれぞれについて前記1以上の位置を選定する、
請求項1または2に記載の電波環境解析装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記基準点での前記電波の受信強度をシミュレーションにより取得する、
請求項1または2に記載の電波環境解析装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記基準点での前記電波の受信強度を実測により取得する、
請求項1または2に記載の電波環境解析装置。
【請求項8】
移動体が存在する対象エリア内に配置された無線送信機の位置情報と前記無線送信機からの電波が受信される基準点の位置情報とを保持するステップと、
前記移動体が初期位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度、ならびに、前記移動体が前記初期位置から複数回にわたり所定距離ずつ移動した複数の移動位置のそれぞれに存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度をそれぞれ取得するステップと、
前記移動体が前記初期位置および前記複数の移動位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度に基づいて、前記対象エリアにおける電波環境のシミュレーションを実行するための前記複数の移動位置のうち1以上の位置を選定するステップと、を有する、
電波環境解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波環境解析装置および電波環境解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、送信機および受信機に関するデバイス情報と、送信機および受信機による送受信が行われる環境に関する情報とに基づいて、レイトレース法(レイトレーシング法)を用いた第1のシミュレーションにより、受信機が設置される複数の設置候補位置のそれぞれの中心にある設置候補点と、設置候補点のそれぞれに対して、第1の距離以内に設定される近傍点における第1の受信強度を計算する、無線機器の設置位置決定装置が開示されている。この設置位置決定装置は、第1の受信強度の計算結果に基づいて、各設置候補位置の第2の受信強度を計算し、第2の受信強度に基づいて、受信機の設置位置を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-12875号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、実環境において移動体が存在する対象エリアを対象とした電波環境の全体シミュレーションの計算回数の増大を抑制し、電波環境の全体シミュレーションの解析処理を効率よく実行する電波環境解析装置および電波環境解析方法を提供することを目的とする。
【0005】
本開示の電波環境解析装置は、少なくとも1つの移動体が存在する対象エリア内に配置された無線送信機の位置情報と前記無線送信機からの電波が受信される基準点の位置情報とを保持するメモリと、前記少なくとも1つの移動体が初期位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度、ならびに、前記少なくとも1つの移動体が前記初期位置から複数回にわたり所定距離ずつ移動した複数の移動位置のそれぞれに存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度をそれぞれ取得するプロセッサと、を備える。前記プロセッサは、前記少なくとも1つの移動体が前記初期位置および前記複数の移動位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度に基づいて、前記対象エリアにおける電波環境のシミュレーションを実行するための前記複数の移動位置のうち1以上の位置を選定する。
【0006】
また、本開示の電波環境解析方法は、移動体が存在する対象エリア内に配置された無線送信機の位置情報と前記無線送信機からの電波が受信される基準点の位置情報とを保持するステップと、前記移動体が初期位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度、ならびに、前記移動体が前記初期位置から複数回にわたり所定距離ずつ移動した複数の移動位置のそれぞれに存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度をそれぞれ取得するステップと、前記移動体が前記初期位置および前記複数の移動位置に存在する時の前記基準点での前記電波の受信強度に基づいて、前記対象エリアにおける電波環境のシミュレーションを実行するための前記複数の移動位置のうち1以上の位置を選定するステップと、を有する。
【0007】
本開示によれば、実環境において移動体が存在する対象エリアを対象とした電波環境の全体シミュレーションの計算回数の増大を抑制でき、電波環境の全体シミュレーションの解析処理を効率よく実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る電波環境解析装置のハードウェア構成例を示すブロック図
図2】電波測定装置の外観を示す斜視図
図3】対象エリアの一例を模式的に示す平面図
図4A図3に示す基準点における、移動体の移動距離に対する電界強度の変化例1を示すグラフ
図4B図3に示す基準点における、移動体の移動距離に対する電界強度の変化例2を示すグラフ
図5】実施の形態1に係る電波環境解析装置の動作手順例を示すフローチャート
図6図3に示す移動体の位置に対応する、対象エリアにおける電波環境の全体シミュレーション結果例を示す図
図7】実施の形態2に係る電波環境解析装置の動作概要例を示す図
図8A図7に示す基準点における、移動体MV1の移動距離に対する電界強度の変化例を示すグラフ
図8B図7に示す基準点における、移動体MV2の移動距離に対する電界強度の変化例を示すグラフ
図9】実施の形態2に係る電波環境解析装置の動作手順例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に至る経緯)
特許文献1の技術は公知のレイトレーシング法の使用が前提となっており、このレイトレーシング法によると対象エリアを対象とした電波環境の全体シミュレーションを行うことが可能である。しかし、レイトレーシング法を用いた電波環境の全体シミュレーションでは、その計算処理(解析処理)に伴う演算装置の負荷が大きいという課題がある。更に、実環境においては対象エリア内に存在する人物あるいはAGV(Automated Guided Vehicle、いわゆる無人搬送ロボット)等の移動体が移動することがある。このため、移動体の位置ごとに電波環境の全体シミュレーションを行うと計算回数が膨大になり、解析処理に多くの時間を要することになる。
【0010】
そこで、以下の実施の形態1では、実環境において移動体が存在する対象エリアを対象とした電波環境の全体シミュレーションの計算回数の増大を抑制し、電波環境の全体シミュレーションの解析処理を効率よく実行する電波環境解析装置および電波環境解析方法の例を説明する。
【0011】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る電波環境解析装置および電波環境解析方法の構成および動作を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0012】
<実施の形態1>
以下の実施の形態1では、受信機の適切な設置位置を判断および決定するために、電波環境の計算(言い換えると、シミュレーション)および可視化を目的とする対象エリア(以下「エリア」と略記)には、電波発信源としての無線送信機(例えばアクセスポイント)と、無線送信機からの電波を受信する受信機(図2に示す電波測定装置を参照)とが配置される。なお、このエリアは、屋内の部屋でもよいし、屋外等の広域なエリアでもよい。
【0013】
以下の説明において、電波環境とは、送信点(つまり、上述した無線送信機が配置される位置)に配置される無線送信機から電波が送信(放射)された場合に、電波環境解析装置による解析処理(言い換えると、シミュレーション)の中で計算されるエリア内の地点ごとの受信強度(受信品質の一例)である。受信品質は、例えば受信電界強度(電界強度)もしくは受信電力である。
【0014】
(電波環境解析装置の構成)
図1は、実施の形態1に係る電波環境解析装置100のハードウェア構成例を示すブロック図である。電波環境解析装置100は、電波発信源としての無線送信機が配置される送信点TX1(図3参照)が配置されたエリアARE1に関する解析基礎データ7bを用いて、エリアARE1における電波環境の解析処理を実行する。電波環境の解析処理とは、送信点からの電波がエリアARE1内の基準点RCV1(図3参照)において受信される時の電波環境のシミュレーションを実行して受信品質(上述参照)を計算する処理である。電波環境解析装置100は、解析処理に基づく解析結果のデータ(例えば、送信点からの電波がエリアARE1内のそれぞれの地点においてどのような電界強度にて受信されるかを示す電界強度分布図等)を表示する(図6参照)。
【0015】
電波環境解析装置100は、プロセッサ1と、ROM(Read Only Memory)2と、RAM(Random Access Memory)3と、キーボード4と、マウス5と、ディスプレイ6と、HDD(Hard Disk Drive)7と、入出力インターフェース8とを含む構成である。ROM2、RAM3、キーボード4、マウス5、ディスプレイ6、HDD7および入出力インターフェース8は、それぞれプロセッサ1との間でデータもしくは情報の入出力が可能に内部バス等で接続される。なお、図1では、記載を簡略化するために、インターフェースを「I/F」と略記している。
【0016】
プロセッサ1は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて構成される。プロセッサ1は、電波環境解析装置100の制御部として機能し、電波環境解析装置100の各部の動作を全体的に統括するための制御処理、電波環境解析装置100の各部との間のデータもしくは情報の入出力処理、データの計算処理、およびデータもしくは情報の記憶処理を行う。プロセッサ1は、HDD7に記憶されたプログラム7aに従って動作する。プロセッサ1は、処理の実行時にROM2およびRAM3を使用し、現在の時刻情報を取得するとともに、後述する解析処理(図5参照)により生成された解析結果データ7cをディスプレイ6に出力して表示させる。
【0017】
ROM2は、読み出し専用のメモリであり、基本的なソフトウェアであるOS(Operating System)および電波環境の解析処理用のアプリケーションのプログラムおよびデータを予め格納する。OSのプログラムは、電波環境解析装置100の起動に伴って実行される。アプリケーションのプログラムは、電波環境解析装置100のユーザの操作に従って起動されて実行される。
【0018】
RAM3は、書き込みおよび読み出しが可能なメモリであり、各種の電波環境の解析処理(図5参照)の実行時にワークメモリとして用いられ、各種の電波環境の解析処理の際に用いるまたは生成されるデータもしくは情報を一時的に保持する。
【0019】
操作入力部の一例としてのキーボード4およびマウス5は、ユーザとの間のヒューマンインターフェースとしての機能を有し、ユーザの操作を入力する。言い換えると、キーボード4およびマウス5は、電波環境解析装置100により実行される各種の処理における入力または指示に用いられる。
【0020】
表示部の一例としてのディスプレイ6は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)または有機EL(Electroluminescence)等の表示デバイスを用いて構成される。ディスプレイ6は、ユーザとの間のヒューマンインターフェースとしての機能を有し、各種の設定の内容や電波環境解析装置100の動作状態、各種の計算結果および解析結果に対応する表示データ7dを表示する。
【0021】
メモリの一例としてのHDD7は、電波環境の解析処理(図5参照)を実行するためのプログラム7aと、電波環境の解析処理の際に用いる解析基礎データ7bと、電波環境の解析処理による解析結果に相当する解析結果データ7cと、その解析結果データ7cに基づいて生成される表示データ7dとを格納する。解析基礎データ7bには、例えばエリアARE1内の地図もしくはレイアウトのデータ、エリアARE1内に設置されている構造物(つまり、電波の進行を遮る散乱体)の数とそれぞれの構造物の種別(例えば材質)とその種別に対応する材料定数(例えば反射率、透過率)とが対応付けられた構造物データ、エリアARE1内の無線送信機の配置位置等の各種のデータもしくは情報が含まれる。また、解析基礎データ7bには、エリアARE1内の移動体(例えば人物、AGV等の無人搬送ロボット)の種別および数を含む情報が含まれる。
【0022】
エリアARE1内の電波環境の解析処理のプログラム7aは、HDD7からプロセッサ1を介してRAM3に読み出されて、プロセッサ1によって実行される。また、このプログラム7aは、HDD7以外の記録媒体(図示略、例えばDVD-ROM)に記録され、対応する読取装置(図示略、例えばDVD-ROMドライブ装置)によりRAM3に読み出されてもよい。
【0023】
上述したように、エリアARE1内の電波環境の解析処理において用いられる解析基礎データ7bは、具体的には、例えば次のデータもしくは情報を含む。
(1)エリアARE1内に配置される無線送信機からの電波の送信電力(dBm)、周波数、変調方式等、アンテナの利得および配置位置、配置位置の高さ等のデータ、
(2)エリアARE1内の地点(つまり、仮想的な電波の受信点)において仮定する無線受信機のアンテナの利得および配置箇所の高さ等のデータ、
(3)エリアARE1の2次元あるいは3次元のサイズに関するデータ、
(4)エリアARE1内に配置されている構造物の数と、それぞれの構造物(つまり、電波の進行を遮る散乱体)の3次元のサイズ、材料定数(例えば透過率、反射率)および位置(つまり、エリア内の2次元座標)とが対応付けられた構造物データ、
(5)解析処理に基づいて計算される受信品質(例えば受信電力)の下限値(例えば「-100dBm」)の設定値データ、
(6)基準点RCV1の位置、基準点RCV1の高さ等のデータ。
【0024】
実施の形態1に係る電波環境解析装置100は、上述した解析基礎データ7bに基づいて、例えば公知のレイトレーシング法または公知の統計的推定法を用いて、エリアARE1内の各地点における電波の受信電界強度を計算できる。従って、実施の形態1においては、エリアARE1内の地点における電波の受信電界強度の計算方法の詳細については説明を省略する。
【0025】
入出力インターフェース8は、電波環境解析装置100との間でデータもしくは情報の入出力を行うインターフェースとしての機能を有し、例えば測定機器11との間で物理的に接続されるコネクタ、コネクタおよびケーブル等を用いて構成される。実施の形態1では、電波環境解析装置100は、入出力インターフェース8を介して測定機器11と接続される。上述したケーブルは、例えばUSB(Universal Serial Bus)ケーブル(図示略)が含まれる。
【0026】
測定機器11は、エリアARE1内において無線送信機から送信された電波を受信する受信機としての電波測定装置12(図2参照)との間でケーブル(図示略)を介して接続される。また、測定機器11は、入出力インターフェース8を介して、電波環境解析装置100とも接続される。測定機器11は、電波測定装置12により受信された電波の検出出力に基づいて、受信電力(言い換えると、受信電波強度)を測定したり、電波の受信に関する遅延スプレッドを測定したりする。測定機器11は、受信電力を測定する場合には、例えばスペクトラムアナライザを用いて、電波測定装置12のそれぞれの面に配置された水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナにおける検出出力に基づいて各周波数の水平偏波、垂直偏波の電波強度を測定できる。また、測定機器11は、遅延スプレッドを測定する場合には、例えばネットワークアナライザを用いて、電波測定装置12のそれぞれの面に配置された水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナにおける検出出力に基づいて反射波の到来方向を特定し、壁面等の障害物(散乱体)が電波を吸収しているかどうかを判別できる。
【0027】
電波測定装置12は、エリアARE1内の基準点RCV1で電波環境の測定が行われる時、基準点RCV1の所定の高さの位置に載置される。電波測定装置12は、エリアARE1内で移動体MV1が初期配置地点(初期位置)から所定距離ずつ移動した各時点ごとに、送信点TX1から送信された電波を基準点RCV1において受信する。電波測定装置12は、その受信により検出された電波の検出出力(例えば受信信号の波形等の特性)を測定機器11に出力する。なお、実施の形態1において、移動体MV1(後述参照)が移動ルートRUT1に沿った各位置に存在する時の基準点RCV1での電波の受信強度(例えば電界強度)は、測定機器11および電波測定装置12を用いた測定(実測)により得られてもよいし、電波環境解析装置100による計算(ピンポイントのシミュレーション)により得られてよい。後者の場合には、測定機器11および電波測定装置12の構成は省略されてよい。
【0028】
ここで、電波測定装置12の形状について、図2を参照して説明する。
【0029】
図2は、電波測定装置12の外観を示す斜視図である。電波測定装置12の説明において、X軸,Y軸,Z軸のそれぞれの方向は図2に示す矢印の方向に従う。具体的には、+X方向および-X方向は電波測定装置12の筐体の上下方向、-Y方向および+Y方向は電波測定装置12の筐体の左右方向、-Z方向および+Z方向は電波測定装置12の筐体の前後方向に相当する。
【0030】
電波測定装置12は、面材の一例としての積層基板13と、電波測定装置12の筐体内部に内方されるフレーム体とを主要な構成として有する。電波測定装置12において、積層基板13とフレーム体とは、多面体(例えば六面体)の筐体を構成する。電波測定装置12の筐体は例えば六面体であり、図2では立方体が例示されている。積層基板13は、立方体のそれぞれの面に、例えば固定ねじ35により螺着されている。
【0031】
なお、電波測定装置12の筐体を構成する面材は、積層基板13に限定されない。また、多面体は、六面体に限定されず、例えば四面体、12面体等であってもよい。
【0032】
電波測定装置12では、1つの上面に配置された積層基板13と、4つの側面のそれぞれに配置された積層基板13と、1つの下面に配置された積層基板13とのそれぞれに、2組(1組以上)のアンテナが設けられている。これにより、電波測定装置12は、到来する電波を、積層基板13の数(面数)と一致する計6つの方向から受信することが可能になる。なお、電波測定装置12の下面を所定の被載置面に固定して電波を測定する際には、電波測定装置12の下面にはアンテナを備えた積層基板13が省略されてもよい。また、図2では、上述した上面に配置された積層基板13に設けられたアンテナが図示されており、他の面に設けられたアンテナ(具体的には、上述した4つの側面のそれぞれに配置された積層基板13に設けられたアンテナ、および1つの下面に配置された積層基板13に設けられたアンテナ)の図示が省略されている。
【0033】
それぞれの積層基板13において配置されたアンテナは、例えば、ダイポールアンテナである。ダイポールアンテナは、例えば積層基板13上に形成され、表面の金属箔をエッチング等することによってダイポールアンテナのパターンが形成される。複数の層のそれぞれは、例えば銅箔やガラスエポキシ等で構成される。
【0034】
電波測定装置12の立方体の筐体のそれぞれの積層基板13には、2組のアンテナとして、例えば2.4GHz帯の水平偏波アンテナ19および垂直偏波アンテナ21の組と、5GHz帯の水平偏波アンテナ23および垂直偏波アンテナ25との組が表面(上層)に設けられている。
【0035】
AMC(Artificial Magnetic Conductor)47は、PMC(Perfect Magnetic Conductor)特性を有する人工磁気導体であり、所定の金属パターンにより形成される。AMC47を利用することで、電波測定装置12のアンテナを積層基板13に対して平行に配置でき、全体のサイズを小さくできる。また、AMC47は、接地導体によって、他の方向からの電波を受けないようにすることができ、アンテナの高利得化ができる。
【0036】
電波測定装置12では、積層基板13の四辺の縁部に、各辺に沿って複数の接地用ビア導体61が直線上に並んで設けられる。なお、接地用ビア導体61は、等間隔に並んで配置されてもよい。また、それぞれの接地用ビア導体61は、積層基板13に配置されたアンテナ導体に対応した周波数帯(言い換えると、波長)に応じて、電波測定装置12の外部からの電波を遮蔽可能な程度に十分なピッチ(間隔)を以て設けられてよい。接地用ビア導体61は、積層基板13の上面から下面に貫通して設けられる。
【0037】
電波測定装置12では、積層基板13が例えば四角形状に形成される。積層基板13は、それぞれの辺部に、その辺部の中央に設けられた一つの段部71を境に、その辺部に沿う方向で凹部73と凸部75とが形成される。即ち、電波測定装置12の筐体は、図2に示すように、隣接する積層基板13同士の凹部73と凸部75とを嵌め合わせて、組み合わされている。
【0038】
図3は、エリアARE1の一例を模式的に示す平面図である。エリアARE1は、例えば工場、オフィス、公共施設等の閉空間として説明する。ここでは、分かり易く説明するために、エリアARE1は工場であると想定して説明する。
【0039】
工場内であるエリアARE1には、その一端側には無線送信機が配置される送信点TX1が設けられ、一端側の反対となる他端側には受信点となる基準点RCV1が設けられる。また、送信点TX1と基準点RCV1との間には、例えば工場内で利用される2種類の構造物C1,C2がそれぞれ配置されている。構造物C1,C2は、電波の進行を遮る不動の散乱体(上述参照)であり、例えば金属製の倉庫、木製の机、不動の機械物であるが、これらに限定されなくてよい。
【0040】
また、送信点TX1と基準点RCV1との間では、移動体MV1が初期配置時の位置P1から位置P2まで所定距離(いわゆる間隔、例えば1m[メートル])ずつ移動するための移動ルートRUT1に沿って移動する。移動体は、同様に電波の進行を遮る可動の散乱体(上述参照)であり、例えば人物あるいは無人搬送ロボットであるが、これらに限定されなくてよい。ここでは、移動体MV1は、初期配置時の位置P1から位置P2までの直線距離15mを1mごとに移動するものとしている。なお、移動体MV1の移動ルートRUT1は図3に示す直線的なルートに限定されなくてもよい。
【0041】
実施の形態1では、電波環境解析装置100は、電波測定装置12(図2参照)が基準点RCV1に載置された状態で、移動体MV1が初期配置時の位置P1に存在する時、ならびに、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から位置P2まで所定距離(例えば1m)ずつ移動した各時点ごとに、基準点RCV1での電波の受信強度(例えば電界強度)を取得する。電波環境解析装置100は、移動体MV1の位置ごとに得られた基準点RCV1での計算された電波の受信強度(例えば電界強度)を用いて、図4Aあるいは図4Bに示すグラフを生成する。
【0042】
図4Aおよび図4Bは、図3に示す基準点RCV1における、移動体MV1の移動距離に対する電界強度の変化例1,2を示すグラフである。図4A図4Bは、それぞれ例えば構造物C1,C2の種類(例えば木製、金属製)および配置数が互いに異なる条件下で計算された結果である。
【0043】
図4Aおよび図4Bのそれぞれに示すグラフの横軸は移動体MV1の移動距離[m]を示し、同グラフの縦軸は基準点RCV1での電界強度を示す。移動体MV1の移動距離が1mである場合、移動体MV1は初期配置時の位置P1(図3参照)から移動ルートRUT1に沿って1m移動したことを示す。同様にして、移動体MV1の移動距離が15mである場合、移動体MV1は初期配置時の位置P1(図3参照)から移動ルートRUT1に沿って15m移動したことを示す。なお、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って15m移動した位置を位置P2とする。また、移動体MV1の移動手段は、人為的に行われてもよいし、機械的な手段により行われてもよく、種別は問わない。
【0044】
電波環境解析装置100は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って初期配置時の位置P1から最終の位置P2まで移動し終えた後、移動体MV1の1回の移動前後において基準点RCV1でのそれぞれの電界強度を比較する。例えば、電波環境解析装置100は、移動体MV1が初期配置時の位置P1に存在する時の基準点RCV1での電界強度と、移動体MV1が位置P1から移動ルートRUT1に沿って1m移動した直後の時点の基準点RCV1での電界強度とを比較する。また、電波環境解析装置100は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って1m移動した位置に存在する時の基準点RCV1での電界強度と、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って2m移動した位置に存在する時の基準点RCV1での電界強度とを比較する。同様にして、また、電波環境解析装置100は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って14m移動した位置に存在する時の基準点RCV1での電界強度と、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って15m移動した位置P2に存在する時の基準点RCV1での電界強度とを比較する。以下、説明を分かり易くするために、比較される2つの電界強度のうち、移動体MV1の移動前の位置に存在する時の基準点RCV1での電界強度を「移動前電界強度」と称し、移動体MV1の移動後の位置に存在する時の基準点RCV1での電界強度を「移動後電界強度」と称する。
【0045】
電波環境解析装置100は、移動前電界強度と移動後電界強度とを移動体MV1の移動の度に都度比較し、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値以上となるか否かを判定する。電波環境解析装置100は、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値以上となると判定した場合に、その移動後電界強度が得られた時の移動体MV1の位置を、レイトレーシング法を用いたエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションを行う対象となる移動体の位置(以下「移動ポイント」と称する)と判定する。言い換えると、電波環境解析装置100は、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値未満であると判定した場合、その移動後電界強度が得られた時の移動体MV1の位置を上述した移動ポイントに採用しないと判定する。これは、移動体MV1が所定距離(例えば1m)ずつ移動しても基準点RCV1での電波の電界強度が閾値未満程度の微小値しか変化していないなら、その移動後電界強度が得られた時の移動体MV1の位置を、計算負荷のかかる全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして採用する必然性が低いためである。つまり、移動体MV1が所定距離(例えば1m)ずつ移動しても基準点RCV1での電波の電界強度が閾値未満程度しか変化しない場合には、その移動後電界強度が得られた時の移動体MV1の位置を間引くことで、電波環境解析装置100の全体シミュレーションの実行負荷を低減できる。
【0046】
上述した移動ポイントの採用方法に従って、電波環境解析装置100は、移動体MV1の位置が位置P1,Pt1,Pt4,Pt6,Pt7,Pt9,Pt10,Pt15(つまり位置P2)のそれぞれを、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして絞り込む(決定する)。つまり、電波環境解析装置100は、移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿った移動終了後の位置P2までの合計16ポイント(地点)のうち全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして合計8ポイントに選定して絞り込む。
【0047】
なお、位置Pt1は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から1m移動した位置である。位置Pt4は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から4m移動した位置である。位置Pt6は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から6m移動した位置である。位置Pt7は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から7m移動した位置である。位置Pt9は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から9m移動した位置である。位置Pt10は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から10m移動した位置である。位置Pt15(つまり位置P2)は、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って位置P1から15m移動した位置である。
【0048】
図4Aに示すグラフと図4Bに示すグラフとでは、例えばエリアARE1内に配置されている構造物C1,C2の種類が異なっている。同様に図4Bでは、上述した移動ポイントの採用方法に従って、電波環境解析装置100は、移動体MV1の位置が位置P1,Pt1,Pt3,Pt4,Pt6,Pt8,Pt10,Pt15(つまり位置P2)のそれぞれを、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして絞り込む(決定する)。つまり、電波環境解析装置100は、移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿った移動終了後の位置P2までの合計16ポイント(地点)のうち全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして合計8ポイントに選定して絞り込む。
【0049】
(電波環境解析装置の動作)
次に、実施の形態1に係る電波環境解析装置100の動作について、図5を参照して説明する。図5は、電波環境解析装置100の動作手順例を示すフローチャートである。図5に示す動作の各処理(ステップ)は、主に電波環境解析装置100のプロセッサ1により実行される。
【0050】
図5において、電波環境解析装置100は、エリアARE1内において移動体MV1が初期配置時の位置P1に存在する時に、送信点TX1から送信された電波の基準点RCV1での電界強度の計算を実行する(St1)。基準点RCV1での電界強度の計算は、基準点RCV1を含む周辺のみを対象とした電界強度をシミュレーションにより計算する処理(言い換えると、小さくシミュレーションする処理)である。小さくシミュレーション処理することは、計算処理の対象エリアを、エリアARE1全体でなく基準点RCV1の周囲に限定したシミュレーション処理である。この小さいシミュレーション処理によれば、エリアARE1全体をシミュレーションすると計算量が多くなって電波環境解析装置100の負荷が上がることを回避できる。なお、基準点RCV1での電界強度は、上述した計算(小さいシミュレーション処理)によって取得されてもよいし、測定機器11および電波測定装置12(図1参照)を用いた実測によって取得されてもよく、以降の実施の形態においても同様である。
【0051】
次に、電波環境解析装置100は、エリアARE1内において移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿って所定距離(例えば1m)ほどに移動した時に、同様に基準点RCV1での電波の電界強度の計算を実行する(St2)。
【0052】
移動体MV1が移動ルートRUT1に沿った最終のポイント(つまり位置P2)に到達していない場合には(St3、NO)、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿った最終のポイント(つまり位置P2)に到達するまで、電波環境解析装置100は、移動体MV1の残りの位置(ポイント)に存在する時に基準点RCV1での電界強度の計算を繰り返して実行する(St2)。
【0053】
一方、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿った最終のポイント(つまり位置P2)に到達した場合には(St3、YES)、電波環境解析装置100は、移動体MV1の1回の移動前後において基準点RCV1でのそれぞれの電界強度を比較する(St4)。電波環境解析装置100は、移動前電界強度と移動後電界強度とを移動体MV1の移動の度に都度比較し、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値以上となるか否かを判定する(St4)。電波環境解析装置100は、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値以上となると判定した場合に、その移動後電界強度が得られた時の移動体MV1の位置を、レイトレーシング法を用いたエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションを行う対象となる移動体MV1の移動ポイントとして決定する(St4、図4Aあるいは図4B参照)。
【0054】
電波環境解析装置100は、ステップSt4の後、移動体MV1が初期配置時の位置P1に存在する時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの計算を実行する(St5)。更に、電波環境解析装置100は、ステップSt4において決定された(絞り込まれた)移動ポイント(例えば図4Aの例では合計8つ)ごとに移動体MV1が存在する時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの計算をそれぞれ実行する(St6)。
【0055】
最終の移動ポイントに移動体MV1が存在する時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの計算が未だ終了していない場合には(St7、NO)、最終の移動ポイントに移動体MV1が存在する時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの計算が終了するまで、電波環境解析装置100は、移動体MV1が残りの移動ポイントに存在する時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの計算をそれぞれ実行する(St6)。
【0056】
一方、最終の移動ポイントに移動体MV1が存在する時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの計算が終了した場合には(St7、YES)、電波環境解析装置100は、ステップSt6において実行された移動体MV1の移動ポイントごとに得られた一連のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果(図6参照)を連続的にディスプレイ6に表示させる(St8)。
【0057】
図6は、図3に示す移動体MV1の位置に対応する、エリアARE1における電波環境の全体シミュレーション結果例を示す図である。図6には、移動体MV1が移動ルートRUT1に沿って移動中のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果と、移動体MV1が最終の位置P2に移動した時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果とが例示的に示されている。それぞれの全体シミュレーションの実行結果には、送信点TX1、移動体MV1、基準点RCV1のそれぞれの位置が明示的に示され、電波の電界強度(受信強度)が分かるようにグレースケール表示で示されている。
【0058】
図6において、時刻T=t1では、移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿って1m移動(図4A参照)した時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果が示されている。送信点TX1近くでは電波の受信強度(電界強度)が高く、基準点RCV1では送信点TX1から距離が遠いだけでなく、構造物C1,C2および移動体MV1のそれぞれによる電波散乱の影響等の影響を受けて受信強度(電界強度)が相対的に低くなっている。
【0059】
また、時刻T=t2では、移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿って6m移動(図4A参照)した時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果が示されている。時刻T=t2でも、送信点TX1近くでは電波の受信強度(電界強度)が高く、基準点RCV1では送信点TX1から距離が遠いだけでなく、構造物C1,C2および移動体MV1のそれぞれによる電波散乱の影響等の影響を受けて受信強度(電界強度)が相対的に低くなっている。
【0060】
また、時刻T=t3では、移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿って9m移動(図4A参照)した時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果が示されている。時刻T=t3でも、送信点TX1近くでは電波の受信強度(電界強度)が高く、基準点RCV1では送信点TX1から距離が遠いだけでなく、構造物C1,C2および移動体MV1のそれぞれによる電波散乱の影響等の影響を受けて受信強度(電界強度)が相対的に低くなっている。
【0061】
また、時刻T=t4では、移動体MV1が初期配置時の位置P1から移動ルートRUT1に沿って15m移動(図4A参照)した時のエリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果が示されている。時刻T=t4でも、送信点TX1近くでは電波の受信強度(電界強度)が高く、基準点RCV1では送信点TX1から距離が遠いだけでなく、構造物C1,C2および移動体MV1のそれぞれによる電波散乱の影響等の影響を受けて受信強度(電界強度)が相対的に低くなっている。
【0062】
以上により、実施の形態1に係る電波環境解析装置100は、移動体MV1が存在するエリアARE1内に配置された無線送信機の位置情報と無線送信機からの電波が受信される基準点RCV1の位置情報とをHDD7に保持する。電波環境解析装置100は、移動体MV1が初期位置に存在する時の基準点RCV1での電波の受信強度、ならびに、移動体MV1が初期位置から複数回にわたり所定距離(例えば1m)ずつ移動した各時点の基準点RCV1での電波の受信強度をそれぞれ計算する。電波環境解析装置100は、移動体MV1のそれぞれの位置における基準点RCV1での電波の受信強度に基づいて、エリアARE1における電波環境のシミュレーションを実行するための移動体MV1の位置(移動ポイント)を選定する。
【0063】
これにより、電波環境解析装置100は、移動体MV1が存在する工場等のエリアARE1の実環境において、移動体MV1が移動すると想定される移動ルートRUT1の各位置に移動体MV1が存在する時の基準点RCV1の電界強度を用いることで、移動体MV1が存在し得る全ての移動ポイントから電波環境の全体シミュレーションの計算に有効な一部の移動ポイントを効率的に絞り込むことができる。従って、電波環境解析装置100は、電波環境の全体シミュレーションを行うための計算回数の増大を抑制できるので、電波環境の全体シミュレーションの解析処理を早期に実行できる。
【0064】
また、電波環境解析装置100は、選定された1以上の位置のそれぞれに移動体MV1が存在するという条件を用いて、電波環境の全体シミュレーションを実行する。これにより、電波環境解析装置100は、エリアARE1内において存在する移動体MV1による電波の散乱等の影響を考慮した上で、電波環境の全体シミュレーションを実行でき、基準点RCV1での電波の受信強度を高精度に得ることができる。
【0065】
また、電波環境解析装置100は、エリアARE1の電波環境の全体シミュレーションの実行結果を、移動体MV1の位置ごとに連続的にディスプレイ6に表示させる。これにより、電波環境の観測者は、基準点RCV1での電波の受信強度を含めたエリアARE1全体での電波の受信強度を、移動体MV1の移動過程中の位置による違いを確認しながら俯瞰的に把握できる。
【0066】
また、電波環境解析装置100は、移動体MV1が直前の位置に存在する時の基準点RCV1での電波の受信強度と、移動体MV1が移動した直後の位置に存在する時の基準点RCV1での電波の受信強度との差分と閾値との比較に応じて、全体シミュレーションを実行するための移動体MV1の位置を選定する。これにより、移動体MV1が所定距離(例えば1m)ずつ移動しても基準点RCV1での電波の電界強度が閾値未満程度しか変化しない場合には、その移動後電界強度が得られた時の移動体MV1の位置を間引くことで、電波環境解析装置100の全体シミュレーションの実行負荷を低減できる。
【0067】
また、電波環境解析装置100は、基準点RCV1での電波の受信強度をシミュレーション(計算)により取得する。これにより、電波環境解析装置100は、基準点RCV1での電波の受信強度を測定すること無く、シミュレーション用プログラムの実行処理に基づくシミュレーション(計算)によって簡易に取得できるので、エリアARE1全体を対象とした電波環境の全体シミュレーションの実行および結果の表示までの一連の処理を全て電波環境解析装置100による計算によって効率よく実行できる。
【0068】
また、電波環境解析装置100は、基準点RCV1での電波の受信強度を実測により取得する。これにより、電波環境解析装置100は、測定機器11および電波測定装置12によって基準点RCV1での電波の受信強度(例えば電界強度)を測定により正確に取得できるので、エリアARE1全体を対象とした電波環境の全体シミュレーションの実行結果を高精度に取得できる。
【0069】
<実施の形態2>
実施の形態1では、エリアARE1内に存在する移動体MV1が単一である場合を想定して説明した。実施の形態2では、エリアARE2(図7参照)内に存在する移動体が複数である場合を想定して説明する。説明を分かり易くするために、実施の形態2では、2つの移動体MV1,MV2がエリアARE2内に存在するとして説明する。
【0070】
実施の形態2に係る電波環境解析装置の構成は、実施の形態1に係る電波環境解析装置100の構成と同一であるため、同一の構成については同一の符号を付与して説明を簡略化あるいは省略し、異なる内容について説明する。
【0071】
図7は、実施の形態2に係る電波環境解析装置100の動作概要例を示す図である。実施の形態2では、実施の形態1に係るエリアARE1と同様な環境(例えば、工場、オフィス等の閉空間)に送信点TX1、構造物C1,C2および基準点RCV1が配置されたエリアARE2を参照して説明する。なお、図7では、構造物C1,C2の図示は省略している。移動体MV1,MV2は、実施の形態1に係る移動体MV1と同様でよい。
【0072】
実施の形態2において、移動体MV1,MV2は、例えばそれぞれの移動ルートに沿って100回移動する。つまり、移動体MV1,MV2の移動後のポイントの組み合わせは合計10000(=100×100)通り存在することになるので、電波環境解析装置100は、仮にエリアARE2内の移動体MV1,MV2のそれぞれの全ての移動パターンを考慮した上でエリアARE2における電波環境の全体シミュレーションを行うと、10000回計算を行うことになる。言い換えると、電波環境解析装置100の全体シミュレーションの実行時の負荷が増大してしまう。
【0073】
そこで実施の形態2では、移動体MV1,MV2のそれぞれが100通りの移動パターンで移動する場合、電波環境解析装置100は、複数の移動体のうちいずれか一つの移動体だけが移動し、他の1つ以上の移動体は全て停止しているとみなし、実施の形態1と同様にして移動対象の移動体について、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントを絞り込む。同様に、電波環境解析装置100は、上述した他の1つ以上の移動体についても同様に、その移動体以外の1つ以上の移動体は全て停止しているとみなし、実施の形態1と同様にして移動対象の移動体について、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントを絞り込む。
【0074】
例えば図7を参照して説明すると、電波環境解析装置100は、先ず移動体MV1だけが移動し、他の移動体MV2は停止しているとみなし、移動体MV1の100通りの移動パターンを対象として実施の形態1と同様にして、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントを絞り込む。例えば、移動体MV1の100通りの移動パターンのうち10個の移動ポイントが絞り込まれた(選定された)とする(図8A参照)。図8Aは、図7に示す基準点RCV1における、移動体MV1の移動距離に対する電界強度の変化例を示すグラフである。図8Aに示すグラフの横軸は移動体MV1の移動距離[m]を示し、同グラフの縦軸は基準点RCV1での電界強度を示す。なお、図8Aは、移動体MV1の移動距離として合計100mのうち15mまでの一部が図示されている。
【0075】
図8Aに示すように、電波環境解析装置100は、移動体MV1の位置が位置Pt1a,Pt4a,Pt6a,Pt7a,Pt8a,Pt9a,Pt10a,Pt12a,Pt14a,Pt15aのそれぞれを、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして絞り込む(決定する)。本実施の形態では、説明の簡略化のため、移動体MV1の移動距離15mの間で10ポイントが選定された場合を示しているが、移動距離100mの間で10ポイントを選定してもよい。つまり、電波環境解析装置100は、移動体MV1が初期配置時の位置P11から所定の移動ルートに沿った移動終了後の位置P12までの合計100ポイント(地点)のうち全体シミュレーションを実行するための移動ポイント(例えば10ポイント)を選定して絞り込む。
【0076】
次に、電波環境解析装置100は、移動体MV2だけが移動し、他の移動体MV1は停止しているとみなし、移動体MV2の100通りの移動パターンを対象として実施の形態1と同様にして、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントを絞り込む。例えば、移動体MV2の100通りの移動パターンのうち8個の移動ポイントが絞り込まれた(選定された)とする(図8B参照)。図8Bは、図7に示す基準点RCV1における、移動体MV2の移動距離に対する電界強度の変化例を示すグラフである。図8Bに示すグラフの横軸は移動体MV2の移動距離[m]を示し、同グラフの縦軸は基準点RCV1での電界強度を示す。なお、図8Bは、移動体MV2の移動距離として合計100mのうち15mまでの一部が図示されている。
【0077】
図8Bに示すように、電波環境解析装置100は、移動体MV2の位置が位置Pt1b,Pt5b,Pt6b,Pt9b,Pt10b,Pt11b,Pt12b,Pt15bのそれぞれを、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして絞り込む(決定する)。本実施の形態では、説明の簡略化のため、移動体MV2の移動距離15mの間で8ポイントが選定された場合を示しているが、移動距離100mの間で8ポイントを選定してもよい。つまり、電波環境解析装置100は、移動体MV2が初期配置時の位置P21から所定の移動ルートに沿った移動終了後の位置P22までの合計100ポイント(地点)のうち全体シミュレーションを実行するための移動ポイント(例えば8ポイント)を選定して絞り込む。
【0078】
従って、実施の形態2では、電波環境解析装置100は、移動体MV1だけが移動する場合を想定して選定された移動ポイントの数(10)と、移動体MV2だけが移動する場合を想定して選定された移動ポイントの数(8)との積(つまり80)を、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントとして算出する。言い換えると、電波環境解析装置100は、上述した10000回の全体シミュレーションを実行する必要もなく、基準点RCV1での電波の受信強度が移動体の移動によって変動し易くなる合計80個の移動ポイントの分だけ、全体シミュレーションを実行すればよいので、全体シミュレーションの実行回数の増大をより一層低減できる。
【0079】
(電波環境解析装置の動作)
次に、実施の形態2に係る電波環境解析装置100の動作について、図9を参照して説明する。図9は、電波環境解析装置100の動作手順例を示すフローチャートである。図5に示す動作の各処理(ステップ)は、主に電波環境解析装置100のプロセッサ1により実行される。また、図9の説明において、図5と重複する処理については同一のステップ番号を付与して説明を簡略化あるいは省略し、異なる内容について説明する。
【0080】
図9において、電波環境解析装置100は、エリアARE2内において複数の移動体MV1,MV2のそれぞれが初期配置時の位置P11,P21に存在する時に、送信点TX1から送信された電波の基準点RCV1での電界強度の計算を実行する(St11)。次に、電波環境解析装置100は、エリアARE2内においていずれか一つの移動体(例えば移動体MV1)だけが移動し、他の1以上の移動体(例えば移動体MV2)は停止したとみなし、移動対象の移動体MV1の初期配置時の位置P11から所定の移動ルートに沿って所定距離(例えば1m)ほどに移動した時に、同様に基準点RCV1での電波の電界強度の計算を実行する(St12)。
【0081】
全ての移動対象の移動体MV1,MV2のそれぞれが自己の移動ルートに沿った最終のポイントに到達した時の基準点RCV1での電波の電界強度が計算されていないとする(St13、NO)。この場合、全ての移動対象の移動体MV1,MV2のそれぞれが自己の移動ルートに沿った最終のポイントに到達した時の基準点RCV1での電波の電界強度が計算されるまで、電波環境解析装置100は、移動体の1つだけが移動対象となった時の基準点RCV1での電界強度の計算を繰り返して実行する(St12)。例えば、移動対象の移動体MV1の移動ルートに沿った最終のポイントに到達した時の基準点RCV1での電波の電界強度が計算された後、電波環境解析装置100は、他の移動体(例えば移動体MV2)を移動対象とし、他の1以上の移動体(例えば移動体MV1)は停止したとみなし、移動対象の移動体MV2の初期配置時の位置P21から所定の移動ルートに沿って所定距離(例えば1m)ほどに移動した時に、同様に基準点RCV1での電波の電界強度の計算を実行する(St12)。
【0082】
全ての移動対象の移動体MV1,MV2のそれぞれが自己の移動ルートに沿った最終のポイントに到達した時の基準点RCV1での電波の電界強度が計算された場合(St13、YES)、電波環境解析装置100は、移動体MV1だけが移動対象となった場合の移動体MV1の位置ごとの1回の移動前後において基準点RCV1でのそれぞれの電界強度を比較する(St14)。電波環境解析装置100は、実施の形態1と同様にして、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値以上となる時の移動体MV1の位置を、エリアARE2の電波環境の全体シミュレーションを行う対象となる移動体MV1の移動ポイントとして決定する(St14、図8A参照)。
【0083】
同様にして、電波環境解析装置100は、移動体MV2だけが移動対象となった場合の移動体MV2の位置ごとの1回の移動前後において基準点RCV1でのそれぞれの電界強度を比較する(St14)。電波環境解析装置100は、実施の形態1と同様にして、移動前電界強度と移動後電界強度との差分が既定の閾値以上となる時の移動体MV2の位置を、エリアARE2の電波環境の全体シミュレーションを行う対象となる移動体MV2の移動ポイントとして決定する(St14、図8B参照)。
【0084】
電波環境解析装置100は、移動体MV1だけが移動する場合を想定して選定された移動ポイントの数と、移動体MV2だけが移動する場合を想定して選定された移動ポイントの数との積を、全体シミュレーションを実行するための移動ポイントの数として算出し(St14)、ステップSt5に進む。図9のステップSt5以降の処理は、図5を参照して説明した実施の形態1におけるステップSt5以降の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
以上により、実施の形態2に係る電波環境解析装置100は、移動体がエリアARE2内に複数存在する場合に、複数の移動体MV1,MV2のうち第1の移動体(例えば移動体MV1)の所定回数の移動ごとの基準点RCV1での電波の受信強度を取得する。電波環境解析装置100は、複数の移動体MV1,MV2のうち第2の移動体(例えば移動体MV2)の所定回数の移動ごとの基準点RCV1での電波の受信強度を取得する。電波環境解析装置100は、上述したそれぞれの基準点RCV1での電波の受信強度に基づいて、エリアARE2における電波環境のシミュレーションを実行するための複数の移動体MV1,MV2のそれぞれの位置を選定する。
【0086】
これにより、電波環境解析装置100は、複数の移動体MV1,MV2のそれぞれが全て移動する場合の移動パターン数(例えば上述した10000)と同数回分の全体シミュレーションを実行する必要もなく、基準点RCV1での電波の受信強度が移動体の移動によって変動し易くなる合計80個の移動ポイントの分だけ、全体シミュレーションを実行すればよいので、全体シミュレーションの実行回数の増大をより一層低減できる。
【0087】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示は、実環境において移動体が存在する対象エリアを対象とした電波環境の全体シミュレーションの計算回数の増大を抑制し、電波環境の全体シミュレーションの解析処理を効率よく実行する電波環境解析装置および電波環境解析方法として有用である。
【符号の説明】
【0089】
1 プロセッサ
2 ROM
3 RAM
4 キーボード
5 マウス
6 ディスプレイ
7 HDD
7a プログラム
7b 解析基礎データ
7c 解析結果データ
7d 表示データ
8 入出力インターフェース
11 測定機器
12 電波測定装置
100 電波環境解析装置
TX1 送信点
RCV1 基準点
MV1,MV2 移動体
ARE1,ARE2 エリア
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9