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特許7251725化学物質評価用のデバイス、および、化学物質評価方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】化学物質評価用のデバイス、および、化学物質評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230328BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12Q1/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018562427
(86)(22)【出願日】2018-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2018001356
(87)【国際公開番号】W WO2018135572
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2017006873
(32)【優先日】2017-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190068
【氏名又は名称】伸晃化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】松永 民秀
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡志
(72)【発明者】
【氏名】土井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】西東 勲
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-210157(JP,A)
【文献】特表2007-510429(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110754(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121886(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/069885(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0082632(US,A1)
【文献】特開2004-129558(JP,A)
【文献】特開2014-233275(JP,A)
【文献】青江 誠一郎,上部消化管機能と食物繊維,日本食物繊維学会誌,2006年,Vol. 10, No. 2,pp. 53-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質評価用のデバイスであって、
N個のコンパートメント(Nは2以上の整数)であって、第1のコンパートメントから第Nのコンパートメントまで連通して灌流液が流れることを可能にすると共に、前記N個のコンパートメントの少なくとも1つは細胞の培養を可能とし、前記N個のコンパートメントの前記少なくとも1つに評価用の化学物質が投入又は流入される、前記N個のコンパートメントと、
前記N個のコンパートメントのうちの隣り合う2つのコンパートメントを区画するN-1個の隔壁と
を備え、
前記N-1個の隔壁の各々は、各隔壁が区画する前記隣り合う2つのコンパートメントのうち上流側のコンパートメント内において、前記隣り合う2つのコンパートメントのうち下流側のコンパートメントに向かうに従って前記上流側のコンパートメントの底面から次第に壁高が高くなるように傾斜した平坦状の傾斜面を有し、
前記傾斜面は、該傾斜面の上端付近の、前記灌流液の液面レベルが表面張力によって上昇する部分が、鉛直壁と比べて水平方向に長くなるように形成される、
デバイス。
【請求項2】
化学物質評価用のデバイスであって、
N個のコンパートメント(Nは2以上の整数)であって、第1のコンパートメントから第Nのコンパートメントまで連通して灌流液が流れることを可能にすると共に、前記N個のコンパートメントの少なくとも1つは細胞の培養を可能とし、前記N個のコンパートメントの前記少なくとも1つに評価用の化学物質が投入又は流入される、前記N個のコンパートメントと、
前記N個のコンパートメントのうちの隣り合う2つのコンパートメントを区画するN-1個の隔壁と
を備え、
前記N-1個の隔壁の各々は、各隔壁が区画する前記隣り合う2つのコンパートメントのうち上流側のコンパートメント内において、前記隣り合う2つのコンパートメントのうち下流側のコンパートメントに向かうに従って壁高が高くなるように傾斜した傾斜面を有し、
前記傾斜面には、該傾斜面の頂部から前記上流側のコンパート面側に向けて延在する溝が形成されている
デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のデバイスであって、
前記N個のコンパートメントを覆うためのカバーを備える
デバイス。
【請求項4】
請求項に記載のデバイスであって、
前記第1のコンパートメントを形成する壁部には、内部で細胞を培養可能な細胞培養容器を、該細胞培養容器が前記第1のコンパートメント内に挿入された状態で、支持するための支持構造が形成された
デバイス。
【請求項5】
請求項に記載のデバイスであって、
前記カバーには、前記第1のコンパートメントに連通し、該第1のコンパートメントに灌流液を注入するための入口ポートが形成され、
前記入口ポートは、前記細胞培養容器が前記支持構造によって支持された状態において、前記第1のコンパートメントにおける前記細胞培養容器の外部の領域に連通するように形成された
デバイス。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のデバイスであって、
前記第Nのコンパートメントを通る経路で前記灌流液を循環させるために、ポンプに接続するための循環入口ポートおよび循環出口ポートを備える
デバイス。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のデバイスであって、
前記第2のコンパートメントは、前記第1のコンパートメントと並んで配置された
デバイス。
【請求項8】
化学物質評価用のキットであって、
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のデバイスを備え、
前記デバイスは、複数のデバイスを備え、
前記キットは、さらに、前記複数のデバイスの各々が並んだ状態で前記複数のデバイスの各々を収納するケースを備える
キット。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のデバイスであって、
Nは3以上の整数である、
デバイス。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7及び請求項9のいずれか一項に記載のデバイスであって、
前記N個のコンパートメントを形成する壁部には、内部で細胞を培養可能な細胞培養容器を、該細胞培養容器が前記N個のコンパートメント内にそれぞれ挿入された状態で、支持するための支持構造が形成された
デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載のデバイスであって、
前記N個のコンパートメントの各々は、M個(Mは2以上の整数)のサブコンパートメントを備え、
前記隔壁は、(N-1)×M個の隔壁を備え、
前記N個のコンパートメントのうち隣り合う2つのコンパートメントのそれぞれのサブコンパートメントは、1対1の関係で連通し前記隔壁によって区画される
デバイス。
【請求項12】
化学物質の評価方法であって、
請求項1ないし請求項7および請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載のデバイスの各コンパートメントに細胞を播種すること、
化学物質をいずれかのコンパートメントに適用すること、
各コンパートメントにおいて化学物質を評価すること、
を含む評価方法。
【請求項13】
化学物質の評価が、化学物質の体内動態評価、生体への効果の評価又は毒性評価である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各コンパートメントに異なる細胞を播種することを含む、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
単一又は複数のコンパートメントに異なる化学物質を適用することを含む、請求項12ないし請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項12ないし請求項15のいずれか一項に記載の方法であって、
前記コンパートメント内の液体に食物繊維を添加することと、
前記コンパートメント内の前記食物繊維が添加された前記液体を撹拌することと
を含む方法。
【請求項17】
請求項1ないし請求項7および請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載のデバイスに1又はそれ以上の臓器の細胞を適用した臓器モデル。
【請求項18】
請求項1ないし請求項7および請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載のデバイス、あるいは、請求項17の臓器モデルの、請求項12ないし請求項16のいずれか一項に記載の方法への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質評価用のデバイス、および、化学物質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品には様々な剤形が存在し、その投与ルートは多岐にわたっているが、経口製剤は臨床で最も使用されている投与剤形である。経口投与された化学物質は、主に小腸で吸収され、門脈、肝臓を経て全身循環系に入る。そのため、経口製剤は、小腸や肝臓での初回通過効果(吸収、代謝、排泄)を受けるため、バイオアベイラビリティの低下やその個体間変動が、化学物質療法上の重要な問題となる。したがって、開発候補物質の優先順位付けやヒトにおける化学物質動態を予測する際には、これら腸管および肝臓における初回通過効果を正確に予測することが重要である。このような化学物質動態を評価することができるデバイスとして、例えば、下記特許文献1,2に記載された細胞培養デバイスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2005-503169号公報
【文献】国際公開第94/28501号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1,2のデバイスでは、小腸や肝臓での初回通過効果を同時に評価することはできず、化学物質の代謝安定性や吸収性はインビトロ実験で別々に評価される。また、実験動物を用いたインビボ実験では、化学物質投与後の門脈血中、全身循環血中化学物質濃度の差から、小腸での吸収の程度や速度、肝通過率などを評価するPS法などによる間接的な評価が行われているが、これらの方法は化学物質の動態的な種差の問題や倫理的な問題がある。かかる問題は、化学物質の小腸や肝臓での初回通過効果等の体内動態の評価に限らず、生体の複数の組織、臓器を経由する化学物質の生体への影響の評価(例えば、薬効・薬理等の効果の評価、毒性評価等)にも共通する。
【0005】
このようなことから、化学物質のより適切な評価のためのデバイスおよび方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
本発明の第1の形態によれば、化学物質評価用のデバイスが提供される。このデバイスは、第1のコンパートメントと、第1のコンパートメントに連通し、隔壁によって第1のコンパートメントから区画される第2のコンパートメントと、を備えている。
【0008】
かかる化学物質評価用のデバイスによれば、生体の複数の組織、臓器を経由する化学物質を好適に評価できる。例えば、このデバイスは、以下のように使用することができる。まず、第1のコンパートメント内および第2のコンパートメント内に培養細胞を配置する。次いで、第1のコンパートメントに灌流液が連続的に注入される。この灌流液は、第1のコンパートメント内を流れ、隔壁を越えて第2のコンパートメントに流入し、第2のコンパートメントから排出される。このようにして灌流液が流れる状態において、第1のコンパートメント内に、評価対象としての化学物質が投入される。そして、各コンパートメントに配置された細胞を観察したり、第1のコンパートメント内の灌流液、および、第2のコンパートメントから排出された灌流液をサンプリングして、所定項目の測定を行ったりすることによって、第1のコンパートメント内の細胞と第2のコンパートメント内の細胞とが同時に評価される。すなわち、第1のコンパートメント内の細胞と第2のコンパートメント内の細胞とについて、動物(本願においては、人を含む)の体に模した環境下で互いに関連付けられて評価され得る。第1および第2のコンパートメントに加えて、追加的なコンパートメントが設けられてもよい。
【0009】
本発明の第2の形態によれば、第1の形態において、デバイスは、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントを覆うためのカバーを備える。かかる形態によれば、評価試験中にカバーを第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントに装着することによって、試験環境をクリーンな状態に容易に保つことができる。
【0010】
本発明の第3の形態によれば、第2の形態において、カバーには、カバーを貫通し、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントの少なくとも一方に開口するサンプリング穴が形成されている。かかる形態によれば、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントにカバーを装着した状態で、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントを流れる灌流液を、サンプリング穴を介して容易にサンプリングすることができる。
【0011】
本発明の第4の形態によれば、第2又は第3の形態において、カバーには、カバーを貫通し、第1のコンパートメントに化学物質を投入するための化学物質投入口が形成されている。かかる形態によれば、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントにカバーを装着した状態で、評価対象の化学物質を、化学物質投入口を介して容易に投入することができる。
【0012】
本発明の第5の形態によれば、第2ないし第4のいずれかの形態において、カバーには、第1のコンパートメントに連通し、第1のコンパートメントに灌流液を注入するための入口ポートが形成されている。かかる形態によれば、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントにカバーを装着した状態で、入口を介して灌流液を第1のコンパートメントに容易に注入することができる。
【0013】
本発明の第6の形態によれば、第2ないし第5のいずれかの形態において、第1のコンパートメントを形成する壁部には、内部で細胞を培養可能な細胞培養容器を、細胞培養容器が第1のコンパートメント内に挿入された状態で、支持するための支持構造が形成されている。かかる形態によれば、第1のコンパートメント内に細胞培養容器を挿入することができる。つまり、第2のコンパートメント内に配置される細胞を当該第2のコンパートメント内で培養しつつ、第1のコンパートメント内に配置される細胞を、別の場所で、別の条件下で培養した後に、第1のコンパートメント内に配置することができる。また、第1のコンパートメントの底部にも細胞を培養する場合には、当該細胞と、細胞培養器で培養される細胞と、を別々の条件で培養することができる。
【0014】
本発明の第7の形態によれば、第5の形態を含む第6の形態において、入口ポートは、細胞培養容器が支持構造によって支持された状態において、第1のコンパートメントにおける細胞培養容器の外部の領域に連通するように形成される。かかる形態によれば、細胞培養容器としてトランスウェルを使用することができる。つまり、灌流液がトランスウェルの外部を流れる状態において、化学物質をトランスウェル内に投入し、トランスウェルの膜を通過した化学物質が灌流液に流入する環境下(例えば、小腸を模したモデルが該当する)で、評価を行うことができる。
【0015】
本発明の第8の形態によれば、第2ないし第7のいずれかの形態において、カバーは、透明部材から形成されている。かかる形態によれば、顕微鏡を用いて第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメント内の細胞を観察することができる。
【0016】
本発明の第9の形態によれば、第1ないし第8のいずれかの形態において、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントの各々の底部は、透明部材から形成されている。かかる形態によれば、顕微鏡を用いて第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメント内の細胞を観察することができる。
【0017】
本発明の第10の形態によれば、第1ないし第9のいずれかの形態において、隔壁は、第1のコンパートメント内において、第2のコンパートメントに向かうに従って壁高が高くなるように傾斜した傾斜面を有する。かかる形態によれば、第1のコンパートメントから隔壁を越えて第2のコンパートメント内に流入する灌流液の流れを緩やかにすることができる。その結果、灌流液の流れの緩急変動による灌流液内の化学物質の濃度変化を抑制することができる。
【0018】
本発明の第11の形態によれば、第10の形態において、傾斜面には、傾斜面の頂部から第1のコンパート面側に向けて延在する溝が形成されている。かかる形態によれば、毛細管現象によって、灌流液が溝内を通って第1のコンパートメントから第2のコンパートメントに少量ずつ移動することができる。したがって、灌流液が隔壁を越える際に脈流が生じることが抑制される。その結果、灌流液の脈流による灌流液内の化学物質の濃度変化を抑制することができる。
【0019】
本発明の第12の形態によれば、第1ないし第11のいずれかの形態において、第2のコンパートメントを通る経路で灌流液を循環させるために、ポンプに接続するための循環入口ポートおよび循環出口ポートを備えている。かかる形態によれば、入口ポートおよび出口ポートを介して灌流液を循環させることができる。したがって、動物の循環器系を模した環境下で、化学物質の長期的な影響を評価することができる。
【0020】
本発明の第13の形態によれば、第1ないし第12のいずれかの形態において、第2のコンパートメントは、第1のコンパートメントを少なくとも部分的に取り囲むように第1のコンパートメントの周囲に配置される。かかる形態によれば、第1および第2のコンパートメントをコンパクトに配置して、デバイスの縦および横の幅を小さくすることができる。
【0021】
本発明の第14の形態によれば、第1ないし第12のいずれかの形態において、第2のコンパートメントは、第1のコンパートメントと並んで配置される。かかる形態によれば、デバイスの縦および横の一方の幅を小さくすることができる。したがって、デバイスを複数並べて使用する場合に、複数のデバイスを短手方向に並べることによって、複数のデバイスをコンパクトに配置して、複数のデバイス全体の縦および横の幅を小さくすることができる。
【0022】
本発明の第15の形態によれば、第1ないし第14のいずれかの形態において、第2のコンパートメントは、排出口を備える。排出口は、V字状に形成された内側底面を備える。かかる形態によれば、排出口から排出される灌流液の排出箇所を限定することができる。
【0023】
本発明の第16の形態によれば、第15の形態において、排出口は、下流側の外縁部を備える。排出口の外側底面は、外縁部のところで突出している。かかる形態によれば、排出口から排出される灌流液が外側底面上を伝って第2のコンパートメント側に向けて進入することを抑制できる。
【0024】
本発明の第17の形態によれば、化学物質評価用のキットが提供される。このキットは、第1ないし第16のいずれかの形態のデバイスを備える。デバイスは、複数のデバイスを備えている。複数のデバイスの各々は、ベースを備えている。ベースの各々は、複数のデバイスが並んで配置されるときに隣り合うベース同士が係合可能な係合構造を備えている。かかる形態によれば、複数のデバイスを容易に固定的に並べて配置することができる。
【0025】
本発明の第18の形態によれば、化学物質評価用のキットが提供される。このキットは、第1ないし第16のいずれかのデバイスを備えている。このデバイスは、複数のデバイスを備えている。キットは、さらに、複数のデバイスの各々が並んだ状態で複数のデバイスの各々を収納するケースを備えている。かかる形態によれば、複数のデバイスを容易に固定的に並べて配置することができる。ケースは、デバイスの各コンパートメント底部位置に相当する部位を開放形にしてもよく、あるいは、ケース底部を透明部材から形成してもよい。
【0026】
本発明の第19の形態によれば、化学物質評価用のデバイスが提供される。このデバイスは、直列に連通するN個(Nは3以上の整数)のコンパートメントと、N個のコンパートメントのうちの隣り合う2つのコンパートメントを区画するN-1個の隔壁と、を備えている。かかる形態によれば、第1の形態と同様の効果を奏する。第19の形態に、第2ないし第18の形態のいずれかを付加することも可能である。
【0027】
本発明の第20の形態によれば、化学物質評価用のデバイスが提供される。このデバイスは、直列に連通するN個(Nは2以上の整数)のコンパートメントと、N個のコンパートメントのうちの隣り合う2つのコンパートメントを区画するN-1個の隔壁と、を備えている。N個のコンパートメントを形成する壁部には、内部で細胞を培養可能な細胞培養容器を、細胞培養容器がN個のコンパートメント内にそれぞれ挿入された状態で、支持するための支持構造が形成される。かかるデバイスによれば、N個のコンパートメントのうちの任意の数の任意の位置のコンパートメントに細胞培養容器を挿入して、所望の評価対象環境をモデル化することができる。また、細胞培養容器の挿入位置を変更することによって、評価対象環境を容易に変更することができるので、汎用性に優れている。
【0028】
本発明の第21の形態によれば、第1の形態において、第1のコンパートメントは、N個(Nは2以上の整数)の第1のコンパートメントを備えている。隔壁は、N個の隔壁を備えている。第2のコンパートメントは、1対1の関係でN個の第1のコンパートメントにそれぞれ連通するN個の第2のコンパートメントであって、N個の隔壁によってN個の第1のコンパートメントからそれぞれ区画されるN個の第2のコンパートメントを備えている。かかる形態によれば、単一のデバイスにおいて、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントの複数の対を確保することができる。
【0029】
本発明の第22の形態によれば、第21の形態において、N個の第1のコンパートメントおよびN個の第2のコンパートメントを覆うためのカバーを備えている。カバーは、N個の第1のコンパートメントおよびN個の第2のコンパートメントの少なくとも一方にそれぞれ開口するN個のサンプリング穴と、N個の第1のコンパートメントの各々に化学物質を投入するためのN個の化学物質投入口と、N個の第1のコンパートメントにそれぞれ連通し、N個の第1のコンパートメントに灌流液を注入するためのN個の入口ポートと、N個の第2のコンパートメントにそれぞれ連通し、N個の第2のコンパートメントから灌流液を排出するためのN個の出口ポートと、を備えている。かかる形態によれば、サンプリング穴、化学物質投入口、入口ポートおよび出口ポートにそれぞれ管を挿入することによって、灌流液の循環、化学物質の投入、および、灌流液のサンプリングを自動的に行うことができる。
【0030】
本発明の第23の形態によれば、化学物質の評価方法が提供される。この方法は、第1ないし第16および第19ないし第22のいずれかの形態のデバイスの各コンパートメントに細胞を播種すること、化学物質をいずれかのコンパートメントに適用すること、各コンパートメントにおいて化学物質を評価すること、を含む。
【0031】
本発明の第24の形態によれば、第23の形態において、化学物質の評価は、化学物質の体内動態評価、効果の評価又は毒性評価である。
【0032】
本発明の第25の形態によれば、第23又は第24の形態において、化学物質の評価方法は、各コンパートメントに異なる細胞を播種することを含む。
【0033】
本発明の第26の形態によれば、第23ないし第25のいずれかの形態において、化学物質の評価方法は、単一又は複数のコンパートメントに異なる化学物質を適用することを含む。
【0034】
本発明の第27の形態によれば、第23ないし第26のいずれかの形態において、化学物質の評価方法は、コンパートメント内の液体に食物繊維を添加することと、コンパートメント内の食物繊維が添加された液体を撹拌することと、を含む。
【0035】
本発明の第28の形態によれば、第1ないし第16および第19ないし第22のいずれかの形態のデバイスに1又はそれ以上の臓器の細胞を適用した臓器モデル、を含む。
【0036】
本発明の第29の形態によれば、第1ないし第16および第19ないし第22のいずれかの形態のデバイス、あるいは、請求項28の形態の臓器モデルの、第23ないし27のいずれかの形態の方法への使用、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第1実施形態による化学物質評価用のデバイスの本体の斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態によるデバイスのカバーの斜視図である。
図3】本体にカバーが装着されたデバイスの斜視図である。
図4A】デバイスの上面図である。
図4B】デバイスの断面図である。
図5】デバイスを用いて評価試験を行う場合の手順を示す説明図である。
図6】本発明の第2実施形態による複数の化学物質評価用のキットの斜視図である。
図7図6の本体の斜視図である。
図8図7の本体の内部を示す断面斜視図である。
図9】本発明の第3実施形態による化学物質評価用のキットの斜視図である。
図10図9のキットの分解斜視図である。
図11】本発明の第4実施形態による化学物質評価用のデバイスの分解斜視図である。
図12図11のデバイスの斜視図である。
図13図11のデバイスの本体の断面図である。
図14A】臓器(腸管・肝臓)-モデル(ヒトB型肝炎ウイルスによる肝炎モデル)の一例である。
図14B】臓器(腸管・肝臓)-モデル(ヒトB型肝炎ウイルスによる肝炎モデル)の一例である。
図15A】臓器(脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルの一例である。
図15B】臓器(脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルの一例である。
図16】臓器(腸管・肝臓・脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルの一例である。
図17】臓器(腸管・肝臓・脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルであって、腸内細菌叢又は薬物による破綻モデルの一例である。
図18】臓器(腸管・肝臓・腎臓)-モデルの一例である。
図19】小腸コンパートメントにおけるミダゾラムの透過量と代謝物の生成量を示す。
図20】肝臓コンパートメントにおけるミダゾラムの透過量と代謝物の生成量を示す。
図21】本発明の第5実施形態による化学物質評価用のデバイスの分解斜視図である。
図22】本体にカバーが装着された状態の図21のデバイスの斜視図である。
図23図21のデバイスの断面図である。
図24図22のデバイスの断面図である。
図25】本発明の第6実施形態による化学物質評価用のデバイスの分解斜視図である。
図26】本体にカバーが装着された状態の図25のデバイスの斜視図である。
図27図25の本体の斜視図である。
図28】本発明の第7実施形態による化学物質評価用のデバイスの斜視図である。
図29図28のデバイスの断面図である。
図30】インサート内を撹拌する様子を示す断面図である。
図31】インサート内を撹拌する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
A.化学物質評価用のデバイス:
図1は、本発明の第1実施形態による化学物質評価用のデバイス20の本体30の斜視図である。本実施形態では、デバイス20は、小腸細胞および肝臓細胞を使用した初回通過効果の評価試験に使用される。ただし、デバイス20は、後述するように、種々の化学物質の生体への影響の評価(例えば、体内動態、効果、毒性の評価)にも使用することができる。本体30は、第1のコンパートメント40と、第2のコンパートメント50と、隔壁60と、ベース70と、を備えている。第1のコンパートメント40は、略円形に湾曲する壁部41によって、その内側に形成されている。壁部41の一部分は、渦巻き状に旋回しながら開口している。壁部41の外側には、壁部41と間隔を隔てて壁部41の周囲を取り囲む壁部51が形成されている。壁部41と壁部51とによって、それらの間に第2のコンパートメント50が形成されている。つまり、第2のコンパートメント50は、第1のコンパートメント40を少なくとも部分的に取り囲むように配置されている。本実施形態では、第1のコンパートメント40および第2のコンパートメント50の底部は、透明部材から形成されている。
【0039】
第1のコンパートメント40の壁部41と第2のコンパートメント50の壁部51との間を延在するように隔壁60が形成されている。この隔壁60によって、単一のデバイス20内において第1のコンパートメント40と第2のコンパートメント50とが区画される。隔壁60は、壁部41および壁部51よりも低い壁高で形成されている。また、隔壁60は、後述する壁部52よりも高い壁高で形成されている。第1のコンパートメント40と第2のコンパートメント50とが隔壁60を介して連通する(つまり、隔壁60をオーバーフローすることのみによって連通する)ことによって、灌流液が流れる渦巻き状の流路が形成される。
【0040】
第1のコンパートメント40には、インサート90が挿入される。インサート90は、その内部で細胞を培養可能な細胞培養容器であり、本実施形態では、市販のトランスウェルである。インサート90の底部91は、多孔性メンブレンフィルターから形成されている。この多孔性メンブレンフィルター上には、小腸細胞96が配置される。インサート90は、有底円筒形に形成されている。インサート90の外面には、対向する一対の突出部92が形成されている(図1では、一方のみ示されている)。
【0041】
第1のコンパートメント40を形成する壁部41の上端には、対向する一対のスリット42が形成されている。スリット42は、突出部92が挿入される大きさに形成されている。スリット42は、インサート90が第1のコンパートメント40内に挿入された状態で、インサート90を支持するための支持構造として機能する。インサート90がスリット42によって支持された状態において、インサート90の底部91と、第1のコンパートメント40の底面と、の間には、灌流液が流通するための僅かな隙間が形成される。この隙間は、細胞を培養するためにも利用され得る。
【0042】
また、第1のコンパートメント40を形成する壁部41の上端には、切欠部44が形成される。切欠部44は、略半円形に形成されており、その断面積は、第1のコンパートメント40の底部に向かうに従って小さくなる。この切欠部44は、スリット42内で支持されるインサート90の外部に位置している。
【0043】
隔壁60は、壁部41および壁部51よりも低い壁高で形成されている。本実施形態では、隔壁60は、第1のコンパートメント40内において、第2のコンパートメント50に向かうに従って壁高が高くなるように傾斜した傾斜面61を有している。かかる構成によれば、傾斜面61の上端付近の、表面張力によって液面レベルが上昇する部分が、鉛直壁と比べて水平方向に長くなる。よって、灌流液が第1のコンパートメント40から隔壁60をオーバーフローして第2のコンパートメント50に僅かな量ずつ流入するように灌流液の量を調節することによって、第1のコンパートメント40から隔壁60を超えて第2のコンパートメント50に流入する灌流液の流れを緩やかにすることができる。その結果、灌流液の流れの緩急変動に起因して生じる、第2のコンパートメント50内での化学物質の濃度変化を抑制することができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、傾斜面61には、傾斜面61の頂部から第1のコンパートメント40側に向けて延在する溝62が形成されている。かかる構成によれば、毛細管現象によって、灌流液が溝62内を通って第1のコンパートメント40から第2のコンパートメント50に少量ずつ移動することができる。したがって、灌流液が隔壁60を越える際に脈流が生じることが抑制される。その結果、第2のコンパートメント50内での化学物質の濃度変化をさらに抑制することができる。本実施形態では、溝62は、傾斜面61の略中央に形成されているが、溝62は、傾斜面61の傾斜に沿って任意の場所から傾斜面61の頂部まで形成されていてもよい。例えば、溝62は、隔壁60と、壁部41又は壁部51と、の接続部に形成されていてもよい。
【0045】
第2のコンパートメント50の下流端には、壁部41と壁部51との間を延在する壁部52が形成される。壁部52は、壁部41および壁部51よりも低い壁高で形成されている。壁部52よりも下流側には、灌流液の出口31が形成されている。かかる第2のコンパートメント50の底部には肝臓細胞97が配置される。上述の壁部52は、第2のコンパートメント50内で細胞を培養する際に、第2のコンパートメント50内に培地液を貯留するために設けられている。この壁部52が形成されていない場合には、例えば、出口31をシールによって塞ぐことで、第2のコンパートメント50内に培地液が貯留されてもよい。この説明からも明らかなように、本願において、「コンパートメント」との用語は、細胞が配置される複数の領域であって、互いから区画された複数の領域を意味しており、各コンパートメントは、例えば、壁部52が形成されていない場合の出口31のように、その一部が開放されていてもよい。
【0046】
ベース70は、壁部51の外側において、壁部51の基部から水平方向に延在している。ベース70は、それぞれ2つの凸部71と凹部72とを備えている。この凸部71および凹部72は、相補的な形状を有している。凸部71および凹部72は、複数のデバイス20が並べて配置される際に、隣り合うベース70同士を係合させる。つまり、1つのベース70の凸部71は、隣り合う他の1つのベース70の凹部72と係合する。かかる構成によれば、複数のデバイス20を容易に固定的に並べて配置することができる。
【0047】
デバイス20は、さらに、第1のコンパートメント40および第2のコンパートメント50を覆うためのカバー80を備えている。本実施形態では、カバー80は、透明部材から形成されている。図2は、カバー80の斜視図である。図示するように、カバー80の上面には、当該上面を貫通するサンプリング穴81が形成されている。本実施形態では、サンプリング穴81は、第1のコンパートメント40の直上に形成されており、第1のコンパートメント40に開口している。サンプリング穴81に代えて、又は、加えて、第2のコンパートメント50に開口するサンプリング穴が形成されていてもよい。
【0048】
さらに、カバー80の上面には、当該上面を貫通する化学物質投入口82が形成されている。化学物質投入口82は、評価対象の化学物質を第1のコンパートメント40に投入するために設けられる。本実施形態では、化学物質投入口82は、カバー80の略中央に形成されており、その直下には、第1のコンパートメント40、あるいは、インサート90が位置する。このため、化学物質投入口82から投入された化学物質は、インサート90が設置されてない場合は第1のコンパートメント40に、インサート90が設置されている場合にはインサート90内に投入される。さらに、カバー80には、入口ポート83が形成される。入口ポート83は、第1のコンパートメント40に灌流液を注入するために設けられる。入口ポート83には、例えば、灌流液を供給するためのシリンジポンプが接続される。入口ポート83の内部通路は、切欠部44の直上で開口する。切欠部44は、インサート90の外部に位置しているので、入口ポート83は、第1のコンパートメント40におけるインサート90の外部に連通する。つまり、入口ポート83から供給される灌流液は、切欠部44を介して、第1のコンパートメント40内かつインサート90の外部に供給される。かかるカバー80は、図3に示すように、壁部51上に載置される。
【0049】
かかるカバー80によれば、評価試験中に試験環境(すなわち、第1のコンパートメント40および第2のコンパートメント50)をクリーンな状態に容易に保つことができる。しかも、サンプリング穴81によって、灌流液を容易にサンプリングすることができる。さらに、化学物質投入口82によって化学物質を容易に投入できるとともに、入口ポート83によって灌流液を容易に注入することができる。
【0050】
図4Aは、デバイス20の上面図である。図4Bは、図4Aの矢視角A~Cに基づくデバイス20の断面図であり、初回通過効果の評価試験時の様子を示している。入口ポート83から連続的に注入される灌流液95は、第1のコンパートメント40に流入し、インサート90の周囲およびインサート90の底部91の下方を流れて、隔壁60を超えて、第2のコンパートメント50に流入する。灌流液は、第2のコンパートメント50では、第2のコンパートメント50の底部に配置された肝臓細胞97の上方を流れ、壁部52を超えて、出口31から排出される。また、化学物質投入口82から投入された化学物質は、インサート90内の培地液98と混ざり、小腸細胞96および底部91(多孔性メンブレンフィルター)を透過して、第1のコンパートメント40内の灌流液95に移行する。そして、化学物質は、上述した灌流液95の流れによって肝臓細胞97上を流通して、肝臓細胞97で代謝される。
【0051】
図5は、デバイス20を用いて初回通過効果の評価試験を行う場合の手順を示す説明図である。この試験では、まず、本体30の第2のコンパートメント50に肝臓細胞97を播いてカバー80を被せて培養する(ステップS110)。次いで、インサート90に小腸細胞96を播いて、底部91(多孔性メンブレンフィルター)の上面を覆うように培養する(ステップS120)。次いで、肝臓細胞97を培養させた本体30(より具体的には、第1のコンパートメント40)に、小腸細胞96を培養させたインサート90を差し込む(ステップS130)。次いで、本体30にカバー80を被せて、入口ポート83にシリンジポンプを接続する(ステップS140)。次いで、シリンジポンプを作動させ、一度、灌流液95をデバイス20全体(つまり、第1のコンパートメント40および第2のコンパートメント50全体)に流す(ステップS150)。そして、カバー80の中心に形成された化学物質投入口82から、インサート90に化学物質を投入し、カバー80を被せた状態で試験を実施する(ステップS160)。
【0052】
この試験では、サンプリング穴81から灌流液95をサンプリングして、化学物質成分がどの程度混入しているかを確認することができる。また、出口31から排出される灌流液95を経時的にサンプリングして、検査することができる。さらに、第1のコンパートメント40および第2のコンパートメント50の底部(透明部材)を介して、小腸細胞96および肝臓細胞97を顕微鏡で観察することができる。また、カバー80(透明部材)を介して、小腸細胞96および肝臓細胞97を顕微鏡で観察することもできる。
【0053】
図6は、第2実施形態としての化学物質評価用のキット105の斜視図である。以下、キット105について、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。キット105は、複数の化学物質評価用のデバイス120を備えている。
【0054】
図7は、デバイス120の本体130およびインサート90の斜視図である。図8は、本体130およびインサート90の断面斜視図である。デバイス120は、その形状が第1実施形態のデバイス20と異なっている。具体的には、図7に示すように、デバイス120は、略円筒形の壁部141によって形成された第1のコンパートメント140と、壁部141から連続する2つの矩形状の壁部151によって形成された第2のコンパートメント150とを備えている。つまり、本実施形態では、第1のコンパートメント140と第2のコンパートメント150とが並んで配置されている。第2のコンパートメント150は、円柱状の第1のコンパートメント140から延在する細長い形状を有している。図8に示すように第1のコンパートメント140と第2のコンパートメント150とは、第1実施形態と同様に、傾斜面161を有する隔壁160によって区画されている。また、第2のコンパートメント150の下流端には、壁部152が形成されている。壁部152が形成されていない場合には、図7に示すように、壁部152よりも下流側には、第2のコンパートメント150における細胞培養時に第2のコンパートメント150をシールするためのシール93が取り付けられてもよい。
【0055】
本実施形態では、デバイス120は、カバーを備えていない。このため、図7に示すように、灌流液を注入するためにシリンジポンプに接続される入口ポート145が壁部141に形成されている。ただし、デバイス120は、第1実施例と同様のカバーを備えていてもよい。この場合、カバーは、入口ポートを備えていなくてもよい。入口ポート145は、図8に示すように、第1のコンパートメント140の内部と直接的に連通している。入口ポート145の下端は、隔壁160よりも高い位置にあってもよい。この場合、第1のコンパートメント140内の灌流液の水位は、入口ポート145よりも下方に位置することになる。このため、シリンジポンプから入口ポート145を介して第1のコンパートメント140内に供給される灌流液の流速が遅い場合であっても、第1のコンパートメント140内の灌流液と入口ポート145内の灌流液との間での化学物質の濃度勾配に起因して第1のコンパートメント140から入口ポート145へ化学物質が移行することを防止できる。また、壁部141には、第1実施形態と同様に、インサート90を支持するための一対のスリット142が形成されている。
【0056】
壁部151の基部からベース170が延在している。ベース170は、壁部141の外径とほぼ同一の幅を有している。ベース170は、第1実施例と同様に、凸部171および凹部172を備えており、図6に示すように、複数のデバイス120を、第1のコンパートメント140と第2のコンパートメント150とが並ぶ方向と直交する方向に連結することができる。かかるキット105によれば、複数のデバイス120をコンパクトに並べて配置することができる。
【0057】
図9は、第3実施形態としての化学物質評価用のキット205の斜視図である。図10は、キット205の分解斜視図である。以下、キット205について、第2実施形態と異なる点についてのみ説明する。キット205は、複数の化学物質評価用のデバイス220を備えている。図10に示すようにデバイス220の本体230は、略直方体の外形を有しており、その中に、第2実施形態と同様に、略円筒形の第1のコンパートメント240と、細長い第2のコンパートメント250と、が並んで配置されている。第1のコンパートメント240には、インサート290が挿入される。インサート290は、その上縁部がフランジ状に形成されており、当該フランジ状部分が本体230の上面に載置される点のみが第1実施形態のインサート90と異なっている。本体230には、第2実施形態と同様に、第1のコンパートメント240と直接的に連通する入口ポート245が形成されている。デバイス220は、カバーを備えていない。ただし、デバイス220は、第1実施例と同様のカバーを備えていてもよい。この場合、カバーは、入口ポートを備えていなくてもよい。
【0058】
キット205は、さらに、複数のデバイス220の各々を、それらが短手方向に並んだ状態で収納するケース100を備えている。ケース100は、1つの底部102と、複数のパーティション101と、を備えている。複数のパーティション101は、隣り合う2つのパーティション101の間にデバイス220を摺動的に挿入できるように離間されている。壁部103には、入口ポート245が挿入される貫通穴(図示省略)が形成されている。かかるキット205によれば、複数のデバイス220をコンパクトに並べて配置することができ、また、容易に固定的に並べて配置することができる。ケース100の底部102は、細胞を観察できるように透明部材から形成されていてもよい。また、代替態様として、ケース100は、底部102を備えていなくてもよい。つまり、デバイス220の各コンパートメントの底部位置に相当する部位は開放形であってもよい。かかる構成によっても各コンパートメント内の細胞を観察することができる。
【0059】
図11は、第4実施形態としての化学物質評価用のデバイス320の分解斜視図である。図12は、デバイス320の斜視図である。図13は、デバイス320の本体330の断面図である。以下、デバイス320について、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。図11に示すように、デバイス320の本体330は、略円筒形の壁部341と、壁部341の外側で壁部341を取り囲むように配置された略円筒形の壁部351とを備えている。壁部341の内部に第1のコンパートメント340が形成され、壁部341と壁部351との間に第2のコンパートメント350が、第1のコンパートメント340と同心状に形成されている。第1のコンパートメント340と第2のコンパートメント350とは、隔壁360によって区画されている。
【0060】
第2のコンパートメント350において、隔壁360の近傍には、第2のコンパートメント350の上流端と下流端とを仕切る仕切壁352が形成されている。図13に示すように、壁部351には、灌流液を注入するための入口ポート345が形成されている。入口ポート345は、第2のコンパートメント350の下方を延在して、連通穴346を介して第1のコンパートメント340内に連通している。図11に示すように、第2のコンパートメント350の下流端に対応する位置において、壁部351には、灌流液を排出するための排出口353が形成されている。入口ポート345から灌流液を連続的に供給すると、灌流液は、第1のコンパートメント340および第2のコンパートメント350を流れて、排出口353から排出される。
【0061】
壁部351には、さらに、第2のコンパートメント350を通る経路で灌流液を循環させるために、ポンプ(例えば、チューブポンプ)に接続するための循環入口ポート354および循環出口ポート355が形成されている。循環入口ポート354は、第2のコンパートメント350の上流端に対応する位置に形成されており、循環出口ポート355は、第2のコンパートメント350の下流端に対応する位置に形成されている。排出口353および循環出口ポート355の上流側には、壁部356が形成されている。この壁部356は、第2のコンパートメント350内で細胞を培養する際に、培地液を貯留するために設けられており、図7に示される壁部152に相当する。
【0062】
第1のコンパートメント340および第2のコンパートメント350に灌流液が一定量貯留された後、灌流液は、循環入口ポート354および循環出口ポート355を介して循環され得る。具体的には、まず、入口ポート345からの灌流液の供給を停止するとともに、排出口353が塞がれる。その後、循環出口ポート355を出た灌流液は、ポンプを介して、再度、循環入口ポート354から第2のコンパートメント350に流入する。それによって、灌流液は、第2のコンパートメント350を循環することになる。かかる構成によれば、動物の循環器系を模した環境下で、第2のコンパートメント350に配置された細胞に対する化学物質の長期的な影響を評価することができる。
【0063】
図11に示すように、本実施形態では、カバー380は、サンプリング穴および化学物質投入口を有していない。このため、サンプリング時、および、化学物質投入時には、カバー380は取り外される。
【0064】
上述した諸実施形態において、インサートは必須ではなく、第1のコンパートメント内に直接的に細胞が配置されてもよい。また、デバイスは、第1のコンパートメントおよび第2のコンパートメントのうちの少なくとも一方は、並列的に区画された2つ以上のサブコンパートメントを備えていてもよい。この場合、コンパートメント同士を区画する隔壁は、サブコンパートメントごとに設けられてもよい。さらに、デバイスは、直列に連通する3つ以上のコンパートメントを備えていてもよい。この場合、3つ以上のコンパートメントのうちの隣り合う2つのコンパートメントは、それぞれ、隔壁によって区画される。3つ以上のコンパートメントのうちの少なくとも1つは、並列的に区画された2つ以上のサブコンパートメントを備えていてもよい。
【0065】
B.デバイスの使用態様
上述したデバイスは、複数あるコンパートメントに播種する細胞をヒトの臓器・組織を模して組み合わせることが可能であることから、例えば、経口初回通過効果(腸管上皮細胞-肝細胞)、血液脳関門(脳毛細血管内皮細胞-神経細胞)、血液胎盤関門(シンシチオトロホブラスト(栄養膜合胞体)層-胎児組織・未分化組織)、腸管(腸管上皮細胞)-肝臓(肝細胞)-血液脳関門(脳毛細血管内皮細胞-神経細胞)、腸管(腸管上皮細胞)-肝臓(肝細胞)-腎(腎臓尿細管上皮細胞)等のモデル化が可能である。
【0066】
本発明の一態様において、デバイスに、底面に多孔質メンブレンフィルターを有する、着脱可能な細胞培養容器(インサート)を装着してもよい。細胞培養容器中で細胞を培養することにより、好ましくは、多孔質メンブレンフィルター上(又は下)に細胞の膜(細胞シート)が形成される。細胞培養液、灌流液等の液体、および、液体に溶解又は縣濁した小分子(化学物質等)は、多孔質メンブレンフィルターを透過するが、細胞は多孔質メンブレンフィルターを透過しない。細胞シートにより化学物質と液体キャリヤーとを分離させることで、化学物質が細胞シートを透過し、液体キャリヤーに移行する化学物質動態を直接的に評価出来る。細胞シートからの化学物質透過は、小腸、脳血管関門、胎盤、肺、腎臓などにおける化学物質吸収・排泄に加え、化学物質代謝、化学物質相互作用、遺伝子多型の影響等を直接的に反映できる。
【0067】
(1)化学物質
デバイスに適用しうる化学物質の種類は特に限定されない。デバイスに適用しうる化学物質には、生体に適用される可能性がある任意の化学物質が含まれる。化学物質は、液体であってもよく、あるいは、細胞培養液、灌流液等に溶解又は縣濁可能な固体、半固体であってもよい。化学物質には、例えば、医薬品、香粧品(化粧品)、食品添加物、農薬、あるいはこれらの候補物質などが含まれる。化学物質は、化合物、核酸、ペプチド、タンパク質(抗体等)、金属などを含む。化学物質は、人工的に合成されたものであっても、微生物、植物、動物等より得られた天然由来のものであってもよい。
【0068】
デバイスに提供される化学物質は、生体に影響を及ぼしうる有効成分自体であってもよい。あるいは、デバイスに提供される化学物質は、有効成分の他に生体に適用するための、生体に適用可能な担体、ビヒクル等を含む、組成物、剤の態様であってもよい。担体およびビヒクルは、経口投与又は非経口投与(経皮投与、皮下投与、腹腔内投与等)のための医薬組成物の調製のために一般に用いられるものを使用可能である。適切な単位形態には、経口形態、例えば錠剤、軟又は硬のカプセル剤、サシェ剤中の散剤又は顆粒剤、および液剤、懸濁剤又は乳剤、並びに、非経口投与用の注射剤、点滴剤、パッチ剤、エアゾール剤、点眼剤、眼軟膏剤、軟膏剤、リニメント剤、リモナーデ剤、流エキス剤、ローション剤、経皮吸収型製剤、貼付剤等が含まれる。
【0069】
あるいは、例えば、細胞培養容器(インサート)デバイスに適用するものは、生体に影響を及ぼしうる有効成分としての化学物質自体ではなく、化学物質を産生する若しくは放出する物質、生物であってもよい。「化学物質を産生する若しくは放出する物質、生物」とは、例えば、非限定的に、腸内細菌、核酸(核酸医薬等)等が含まれる。「化学物質を産生する若しくは放出する物質、生物」は、灌流液により運ばれなくても、これらから産生/放出された有効成分(化学物質)が細胞培養液、灌流液に溶解又は縣濁して、運ばれる。本明細書においては、このような「有効成分を産生する若しくは放出する物質、生物」も含めて「化学物質」と呼称する場合がある。
【0070】
複数種の化学物質を、上記のデバイスに適用してもよい。例えば、複数種の化学物質を細胞培養容器に同時又は経時的に適用したものを、第1のコンパートメントに挿入してもよい。本明細書および特許請求の範囲において、「第1のコンパートメントに化学物質を適用する」との記載は、特に明示しない限り、細胞培養容器を第1のコンパートメントに挿入し、化学物質を細胞培養容器に適用することと、細胞培養容器を使用しない場合において化学物質を第1のコンパートメントに直接的に適用することと、の双方を含む。これにより、複数種の化学物質の組み合わせを同じ臓器・組織に同時又は経時的に投与した場合の生体への影響を調べることができる。あるいは、第1のコンパートメントに細胞培養容器を挿入して、化学物質を細胞培養容器に適用し、別の又は同じ化学物質を第2又はそれ以降のコンパートメントに適用してもよい。これらにより、複数種の化学物質の組み合わせ又は1種類の化学物質を、異なる臓器・組織に同時又は経時的に投与した場合の生体への影響を調べることができる。
【0071】
(2)細胞
上記のデバイスに適用しうる細胞の種類は、特に限定されない。デバイスに適用する細胞は、フィルター又は容器の底面若しくは壁面に付着する付着性細胞であってもよく、細胞培養液若しくは灌流液中に浮遊する浮遊細胞であってもよい。上記デバイスによれば、細胞を含むコンパートメントを連続的につなげることにより、より生体の臓器、組織の環境に近い状態を再現できる。評価をしたい臓器、組織の構成を再現するのに適した細胞を用いるのが好ましい。各臓器、組織のモデル細胞として確立している細胞株を用いることも可能である。例えば、非限定的に、腸管上皮細胞のモデル細胞としてCaco-2細胞、肝細胞のモデル細胞としてHepG2細胞、神経細胞のモデル細胞としてNSC-34細胞系(CELLutions BIOSYSTEMS社製、コスモバイオ社販売)、脳毛細血管内皮細胞のモデル細胞として、ヒト不死化脳毛細血管内皮細胞、腎臓尿細管上皮細胞は遺伝子操作されたイヌ腎臓尿細管上皮細胞株(MDCK)を用いてもよい。あるいは、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化誘導した細胞、あるいはiPS細胞細胞から分化誘導して作製した3次元組織体(オルガノイドあるいはスフェロイド)を用いてもよい。血液胎盤関門(シンシチオトロホブラスト(栄養膜合胞体))のモデルは、例えば、ヒトの胎盤を用いて、例えば、Reproductive Biology and Endocrinology (2015) 13:71に記載のように調製することができる。遺伝子操作を施した細胞株を用いてもよい。
【0072】
細胞は、細胞培養容器に播種してもよい。細胞は、多孔質メンブレンフィルターを通過できず、かつ、灌流液によって運ばれることがない付着性細胞の場合、細胞培養器の多孔質メンブレンフィルターの上面に付着し、細胞シートを形成しうる。あるいは、細胞を第1のコンパートメントに播種してもよい。付着性細胞の場合、細胞培養器の多孔質メンブレンフィルターの下面又は第1のコンパートメントの容器の底面に細胞が付着して、細胞シートを形成しうる。本明細書および特許請求の範囲において、「第1のコンパートメントに細胞を播種する(配置する)」との記載は、特に明示しない限り、細胞を細胞培養容器に播種し、細胞培養容器を第1のコンパートメントに挿入することと、細胞を第1のコンパートメントに播種することと、の双方を含む。あるいは、細胞を第2又はそれ以降のコンパートメントに播種してもよい。
【0073】
細胞培養容器、コンパートメント毎に異なる種類の細胞を播種することができる。また、1つの容器又はコンパートメント中に2種類以上の細胞を播種してもよい。
【0074】
(3)細胞培養容器(インサート)
細胞培養容器(インサート)は、公知のものを使用可能である。例えば、Falcon社製のカルチャー インサート、ミリポア社製のミリセル セルカルチャーインサート等が含まれる。多孔質メンブレンフィルターは、好ましくはポリカーボネート(PC)、ポリエステル又はポリエチレンテレフタレート(PET)、もしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の材質で形成されており、好ましくは直径約0.1μm~約10.0μm、より好ましくは、約0.2μm~8.0μmの穴が複数空いているものである。
【0075】
本発明は、上記デバイスに1又は1以上の臓器の細胞を適用した臓器モデルも含む。本発明は、上記デバイス又は上記臓器モデルの化学物質の評価方法への使用も含む。
【0076】
(4)臓器(腸管・肝臓)-モデル(ヒトB型肝炎ウイルスによる肝炎モデル)
上記のデバイスを用いたモデルの一態様として、臓器(腸管・肝臓)-モデル(ヒトB型肝炎ウイルスによる肝炎モデル)が含まれる。
【0077】
腸管上皮細胞は腸管免疫系に様々な形で関わっている。炎症性サイトカインや過酸化物などにより腸管上皮細胞層が傷害をうけると、その周囲の免疫細胞が活性化され、上皮層の修復や異物の排除が行われる。この免疫応答が過剰になると腸管組織に炎症を生じる。一方、腸管上皮細胞の炎症性サイトカイン産生は炎症反応の重要な要因の一つであり、免疫応答の初期段階を担っている。炎症性サイトカインは、免疫応答を自ら示すだけでなく、他の免疫担当細胞の応答を誘導する役割も担っている。
【0078】
経口投与された化学物質は、腸管上皮細胞から吸収され、門脈系の血管を介して、肝臓に運ばれる。門脈系の血管とは、腹部臓器の血液を集めて肝臓に入る血管であり、小腸の全部、盲腸、上行結腸、横行結腸からの上腸間膜静脈、下行結腸、S状結腸からの下腸間膜静脈、そして、脾臓からの脾静脈を含む。
【0079】
図14Aおよび図14Bは、臓器(腸管・肝臓)-モデル(ヒトB型肝炎ウイルスによる肝炎モデル)の一例を示す。肝細胞がヒトB型肝炎ウイルス(HBV)に感染して炎症を起こす状態のモデルである。細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルター上に、ヒト腸管上皮細胞が細胞シートを形成している。細胞培養溶液中には、腸内細菌代謝産物(腸内細菌生産物質)、リポ多糖(LPS)等が含まれている。炎症状態のため、灌流液中に、インターロイキン類(ILs)、腫瘍壊死因子(TNF)α、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β等の炎症性サイトカイン、および、白血球の一種である好中球が存在する。第1のコンパートメントからの灌流液が、第2のコンパートメントに供給される。第2のコンパートメントには、ヒト肝細胞およびマクロファージ(M1又はM2-Mφ)が存在する。マクロファージは白血球の1種で遊走性の食細胞である。第2のコンパートメントの肝細胞はHBVに感染しており、どの様な条件が最も肝炎を起こしやすいかを評価できるモデルである。また、例えば、細胞培養溶液中に化学物質(例えば、医薬品候補物質)を添加することにより、化合物が腸管上皮細胞を通過し、肝細胞に感染しているHBVへの影響を評価することができる。HBVの代わりにヒトC型肝炎ウイルス(HCV)であってもよい。
【0080】
図14Aは、第1のコンパートメントと第2のコンパートメントの独立した組み合わせが複数ある態様である。第2のコンパートメントは、1つめの組み合わせ(図14Aの左)では、ヒト肝細胞がカプセル化されており、2つめの組み合わせ(図14Aの真ん中)では、ヒト肝細胞とマクロファージが各々別個にカプセル化されており、そして、3つめの組み合わせ(図14Aの右)では、ヒト肝細胞とマクロファージの双方がまとめてカプセル化あるいは共培養されている。カプセルとは、細胞は通り抜けできないがHBV、HCVあるいはタンパク質等は通り抜けできる膜である。
【0081】
図14Bは、第2のコンパートメントが複数のサブコンパートを有する態様である。第1のコンパートメントからの灌流液が、並列的に区画された3つのサブコンパートメントを備える第2のコンパートメントに分かれて供給される。第2のコンパートメントの1つめのサブコンパートメントでは、ヒト肝細胞がカプセル化されており、2つめのサブコンパートメントでは、ヒト肝細胞とマクロファージが各々別個にカプセル化されており、そして、3つめのサブコンパートメントでは、ヒト肝細胞とマクロファージの双方がまとめてカプセル化あるいは共培養されている。
【0082】
(5)臓器(脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデル
上記のデバイスは、臓器(脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルとしても利用可能である。
【0083】
血管周皮細胞(ペリサイト、pericyte)は、Rouget細胞とも呼ばれ、中胚葉性の細胞で毛細血管壁を取り巻くように存在する。脳神経においては、血管周皮細胞(ペリサイト)は神経細胞、脳血管内皮細胞、アストロサイト(astrocyte)(星状膠細胞)(中枢神経系に存在するグリア細胞の1つ)等と共に神経血管単位(Neurovascular unit、NVU)を形成し、血管の成熟・安定化、脳血液関門の維持、虚血時の神経保護・修復等を担っていると考えられている。
【0084】
図15Aおよび図15Bは、臓器(脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルの一例を示す。細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルター上に、ヒト脳血管内皮細胞が細胞シートを形成している。第1のコンパートメントに含まれるヒトのペリサイトは、細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルターの下面に付着し、細胞シートを形成している。ヒトのアストロサイトは、第1のコンパートメントの底面に付着し、細胞シートを形成している。化学物質が、第1のコンパートメントに添加される。第1のコンパートメントからの灌流液が、第2のコンパートメントに供給される。第2のコンパートメントには、ヒト神経細胞やグリア細胞が存在する。神経細胞はドーパミン産生細胞等であり、グリア細胞(神経膠細胞)は、ミクログリア(小膠細胞)、オリゴデンドロサイト(希突起グリア細胞)、アストロサイト(星状膠細胞)、上衣細胞、シュワン細胞等である。例えば、細胞培養溶液中に、化学物質を添加することにより、化学物質が、血管内皮細胞、ペリサイトを通過し、アストロサイトと接触する。化学物質又はその代謝物が、第2のコンパートメント中の脳(中枢神経系)モデルに到達し、神経細胞あるいはグリア細胞への影響を評価することができる。
【0085】
図15Aは、第1のコンパートメントと第2のコンパートメントの独立した組み合わせが複数ある態様である。第2のコンパートメントは、1つめの組み合わせ(図15Aの左)では、神経細胞が存在しており、2つめの組み合わせ(図15Aの真ん中)では、ヒトグリア細胞が存在しており、そして、3つめの組み合わせ(図15Aの右)では、ヒト神経細胞とグリア細胞の双方が存在して、共培養されている。
【0086】
図15Bは、第2のコンパートメントが複数のサブコンパートを有する態様である。第1のコンパートメントからの灌流液が、並列的に区画された3つのサブコンパートメントを備える第2のコンパートメントに分かれて供給される。1つめのサブコンパートメントでは、神経細胞が存在しており、2つめのサブコンパートメントでは、ヒトグリア細胞が存在しており、そして、3つめのサブコンパートメントでは、ヒト神経細胞とグリア細胞の双方が存在して、共培養されている。
【0087】
(6)臓器(腸管・肝臓・脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデル
上記のデバイスは、臓器(腸管・肝臓・脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルとしても利用可能である。
【0088】
図16は、臓器(腸管・肝臓・脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルの一例を示す。この態様では、腸管モデル、肝臓モデル、血液脳関門モデルおよび中枢神経系モデルがタンデムに連通している。化学物質(例えば、医薬品候補物質)が、腸管上皮細胞、肝細胞、血液脳関門、中枢神経系に与える効果を評価する。細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルター上に、ヒト腸管上皮細胞が細胞シートを形成している。化学物質が、第1のコンパートメントに添加される。化学物質は、腸管上皮細胞を介して、第1のコンパートメント中に入り、灌流液により運ばれる。腸管上皮細胞を経ることにより化学物質の全部又は一部が代謝されうる。第1のコンパートメントからの灌流液が、第2のコンパートメントに供給される。第2のコンパートメントは、肝臓モデルである。第2のコンパートメントには、ヒト肝細胞およびマクロファージ(M1又はM2-Mφ)が存在する。マクロファージは白血球の1種で遊走性の食細胞である。第3のコンパートメントは、血液脳関門のモデルである。細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルター上に、ヒト脳血管内皮細胞が細胞シートを形成している。第3のコンパートメントに含まれるヒトのペリサイトは、細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルターの下面に付着し、細胞シートを形成している。ヒトのアストロサイトは、第3のコンパートメントの底面に付着し、細胞シートを形成している。第4のコンパートメントは、中枢神経系のモデルである。第4のコンパートメントには、ヒト神経細胞が存在する。神経細胞はドーパミン産生細胞等である。化学物質の血液脳関門の透過や機能への影響を評価することができる。
【0089】
図17は、臓器(腸管・肝臓・脳(血液脳関門/中枢神経系))-モデルであって、腸内細菌叢又は薬物による破綻モデルの一例である。図16と同様に、腸管モデル、肝臓モデル、血液脳関門モデル、中枢神経系モデルがタンデムに連通している。本モデルは、腸内細菌(Intestinal flora)あるいは腸内細菌が増殖に伴い産生する物質(腸内細菌代謝産物又は腸内細菌生産物質)が、腸管、肝蔵、血液脳関門又は中枢神経系に与える効果を評価するモデルである。細胞培養容器の細胞培養液中に腸内細菌(乳酸桿菌、ビフィズス菌、大腸菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌等)が添加されている。あるいは腸内細菌産生物質(代謝産物、生産物質)、又は、腸管、肝蔵、血液脳関門若しくは中枢神経系の機能への影響を与える可能性のある薬物を添加してもよい。細胞培養溶液中には、リポ多糖(LPS)等が含まれている。第1のコンパートメントの底面にヒト腸管上皮細胞が付着し、細胞シートを形成している。炎症状態のため、灌流液中に、インターロイキン類(ILs)、腫瘍壊死因子(TNF)α、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β等の炎症性サイトカイン、および、白血球の一種である好中球が存在する。第1のコンパートメントからの灌流液が、第2のコンパートメントに供給される。第1~第4のコンパートメントのその他の構成は、図16に記載の態様と同様である。
【0090】
図17のモデルは、腸内細菌が産生する物質あるいは薬物により、腸管、肝蔵、血液脳関門若しくは中枢神経系が障害された状態が再現されたモデルである。腸内細菌が産生する物質あるいは薬物による、腸管、肝臓、血液脳関門又は中枢神経系の機能への影響を評価することができる。
【0091】
(7)臓器(腸管・肝臓・腎臓)-モデル
上記のデバイスは、臓器(腸管・肝臓・腎臓)-モデルとしても利用可能である。
【0092】
図18は、臓器(腸管・肝臓・腎臓)-モデルの一例である。この態様では、腸管モデル、肝臓モデルおよび腎臓モデルがタンデムに連通している。第1のコンパートメントの腸管モデル、および第2のコンパートメントの肝臓モデルは、図16と同様である。第2のコンパートメントのヒト肝細胞により、化学物質はさらに代謝を受け、灌流液により第3のコンパートメントに運ばれる。第3のコンパートメントは、腎臓モデル(尿排泄)である。第3のコンパートメントに挿入される細胞培養容器の多孔質メンブレンフィルター上に、ヒト腎臓尿細管上皮細胞が細胞シートを形成している。第3のコンパートメントに挿入される細胞培養容器の下を化学物質およびその代謝物が移動する。移動の際に化学物質およびその代謝物の一部はヒト腎臓尿細管上皮細胞を経ることにより細胞培養容器内に移行する(尿細管排泄モデル)。あるいは、第3のコンパートメントに挿入される細胞培養容器に、第1のコンパートメントに添加される化学物質と同一又は異なる化学物質を添加してもよい(尿細管再吸収モデル)。
【0093】
(8)評価
上記のデバイスは、生体の組織、臓器により近い環境を提供するために、これを用いて、種々の化学物質の評価を行うことができる。化学物質の評価の内容は特に限定されない。医薬品、香粧品(化粧品)、食品添加物、農薬等の化学物質(その代謝産物を含む)の体内動態、生体に与える影響(生物学的活性を含む)、化学物質が生体から受ける影響など、化学物質を能動的若しくは受動的に生体に適用することによるあらゆる影響(生体内の単なる通過状況を含む)の評価を含む(本明細書において、「生体への影響の評価」と総称することがある)。非限定的に、化学物質の体内動態評価、医薬品の薬効・薬理などの効果の評価、毒性評価、食品添加物の生体へ与える効果・毒性の評価、あるいは、農薬の毒性評価等が含まれる。
【0094】
体内動態評価は、例えば、投与した化学物質又はその代謝物の各臓器、組織中の細胞(本発明のデバイス中の細胞シート、各コンパートメント)の透過量や透過率、などの動態を調べることによって行うことができる。
薬効・薬理評価は、例えば、化学物質が医薬品の場合に、投与する医薬品、対象とする組織、臓器、疾患等に応じて適宜公知の方法を用いて行うことができる。EC50、IC50等の数値によって効果の度合いを示すことができる。毒性評価は、医薬品の安全な投与量、投与期間等、化学質を安全に投与するために必要な評価で、適宜公知の方法を用いて行うことができる。
あるいは、食品添加物、農薬等が生体に取り込まれた場合の好ましくない影響(毒性)の評価も含まれる。これらも、適宜公知の方法を用いて行うことができる。
【実施例
【0095】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0096】
実施例1:化学物質の初回通過効果の評価
本実施例では、小腸上皮細胞と肝細胞を各々別のコンパートメントに播種し、各コンパートメントを流路系でつなげたデバイスを用い、化学物質の初回通過効果の評価を行った。図1に記載のデバイスに小腸上皮細胞のモデル細胞としてCaco-2細胞、肝細胞のモデル細胞としてHepG2細胞にCYP3A4が過剰発現するように遺伝子操作されたHepG2-CYP3A4細胞を播種し、化学物質の初回通過効果(吸収、代謝)を2種類の細胞(小腸上皮細胞および肝細胞)について同時に評価した。
【0097】
(1)細胞
Caco-2細胞は理化学研究所バイオソースセンター(茨城)より入手した。HepG2-CYP3A4細胞は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB 細胞バンク(大阪)より入手した。
【0098】
(2)細胞培養培地
10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mmol/LのL-グルタミン(L-Glu)、1%非必須アミノ酸(NEAA)、100units/mLペニシリンG、100μg/mLのストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。
【0099】
(3)細胞の培養
a)Caco-2細胞
i)多孔性メンブレンフィルターの内側(apical側)に、細胞懸濁液を0.5-5×105cells/cm2(例:0.6×105cells/cm2)の密度で0.4mL添加した。
ii)多孔性メンブレンフィルターの外側(basal側)に培地を0.8mL添加した。
iii)炭酸ガス培養器(37℃、5% CO2、加湿条件下)内でおよそ3週間培養した。適宜、apical側、およびbasal側の培地交換を行った。
試験に供する前に、電気抵抗測定装置を用いて単層膜の電気抵抗を測定した。試験には100-800Ω×cm2の電気抵抗値を示す単層膜を使用した。
b)HepG2-CYP3A4細胞
i)デバイスに1.0×106cellsの細胞を播種した。
ii)炭酸ガス培養器(37℃、5% CO2、加湿条件下)内で培養した。
iii)適宜、培地交換を行い、デバイスの培養面に対して100%コンフルエントになった時点で試験に供した。
【0100】
(4)基質溶液の調製
ミダゾラム(Midazolam)(ベンゾジアゼピン系の麻酔導入薬)をメタノールに溶解し、10mg/mLに調製した。さらにHBSSで希釈することで62.5μg/mLの基質溶液を調製した。
【0101】
(5)灌流試験
各操作は40℃設定したホットプレート上で実施した。
(i)HBSS(pH7.4)、および試験溶液を恒温槽(37℃)内で加温した。
(ii)Caco-2単層膜を調製したプレートのapical側とbasal側の培地を吸引除去した。
(iii)HBSSをapical側に0.4mL、basal側に0.8mL添加して洗浄し、残ったHBSSを吸引除去した。
(iv)HBSSをapical側に0.06mL添加し、インサートをデバイスに移した。
(v)10分間、10mL/hrの流速でデバイスにHBSSを予備灌流した。
(vi)5分間、0.5mL/hrの流速でデバイスにHBSSを予備灌流した。
(vii)インサートに基質溶液を240μL添加し、本灌流を開始した。
(viii)30分ごとに小腸コンパートメント、および肝臓コンパートメントより180分間サンプリングを行った。
【0102】
(6)定量
LC-MS-MSを用い、ミダゾラム、およびその代謝物(1-ヒドロキシミダゾラム、4-ヒドロキシミダゾラム)の定量を行った。
【0103】
結果
小腸コンパートメントにおいて、Caco-2細胞単層膜を透過したミダゾラムの継時的な透過量の増大が認められた。また、代謝物である1-ヒドロキシミダゾラムの生成が確認された(図19)。肝臓コンパートメントにおいてもミダゾラムの継時的な透過量の増大が認められ、それに伴い代謝物である1-ヒドロキシミダゾラム、および4-ヒドロキシミダゾラムの生成が確認された(図20)。
【0104】
上記のデバイスにより、腸管上皮細胞のモデル細胞と肝細胞のモデル細胞を同時に用いることで、従来の方法では不可能であった化学物質の腸管からの吸収と代謝、肝臓での代謝を同時にかつ簡便に評価することが可能となった。本実施例では腸管上皮細胞のモデル細胞と肝細胞のモデル細胞を用いたが、その他の臓器モデル細胞をさらに用いることで、吸収や代謝に加え、薬効・薬理や毒性についても評価可能である。また、動物実験の代替法としての利用も可能であり、動物愛護にも貢献可能である。
【0105】
C.デバイスの他の態様:
図21は、本発明の第5実施形態による化学物質評価用のデバイス420の分解斜視図である。図22は、デバイス420の斜視図であり、本体430にカバー480が装着された状態を示している。図23は、図21の断面図であり、図24は、図22の断面図である。以下、デバイス420について、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。図21に示すように、デバイス420の本体430は、略直方体の外形を有している。本体430は、複数の第1のコンパートメント440と、1対1の関係で複数の第1のコンパートメント440にそれぞれ連通する複数の第2のコンパートメント450と、を備えている。第1のコンパートメント440および第2のコンパートメント450の形状は、第2実施形態と同様である。この第1のコンパートメント440および第2のコンパートメント450の対は、本体430の長手方向に複数(図示する例では12個)並んで配置されている。第1のコンパートメント440の各々には、インサート290(第3実施形態参照)が挿入される。
【0106】
図23および図24に示すように、第1のコンパートメント440と第2のコンパートメント450とは、第2実施例と同様に、傾斜面461を有する隔壁460によって区画されている。また、第2実施例と同様に、第2のコンパートメント450の下流端には、壁部452が形成されている。
【0107】
カバー480は、本体430全体を覆う大きさを有している。カバー480には、第1のコンパートメント440および第2のコンパートメント450の対と同数のサンプリング穴481、化学物質投入口482および入口ポート483が形成されている。サンプリング穴481、化学物質投入口482および入口ポート483の機能は、第1実施形態におけるサンプリング穴81、化学物質投入口82および入口ポート83の機能と同じである。
【0108】
カバー480には、さらに、第1のコンパートメント440および第2のコンパートメント450の対と同数の出口ポート484が形成されている。出口ポート484は、灌流液を排出するために形成されている。出口ポート484は、本体430のうちの壁部452よりも下流側の領域に対応する位置に配置されている。
【0109】
かかるデバイス420では、サンプリング穴481、化学物質投入口482、入口ポート483および出口ポート484にそれぞれ管を挿入することによって、灌流液の循環、化学物質の投入、および、灌流液のサンプリングを自動的に行うことができる。しかも、単一のデバイス420において、第1のコンパートメント440および第2のコンパートメント450の多数の対をコンパクトにレイアウトすることができる。
【0110】
図25は、本発明の第6実施形態による化学物質評価用のデバイス520の分解斜視図である。図26は、デバイス520の斜視図であり、本体530にカバー580が装着された状態を示している。図27は、デバイス520の本体530の斜視図である。以下、デバイス520について、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。図25に示すように、デバイス520のカバー580は、第1実施形態と同様に、サンプリング穴581と化学物質投入口582とを有している。入口ポート583は、カバー580の側方からカバー580を貫通するように延在している。デバイス520の本体530は、第1実施形態と同様に、壁部541,551によって形成される第1のコンパートメント540および第2のコンパートメント550を備えている。また、壁部541には、第1実施形態と同様に、スリット542が形成されている。壁部541には、切欠部544が形成されている。切欠部544の位置は、入口ポート583の内部通路が切欠部544の直上で開口するように設定されている。
【0111】
図25に示すように、第2のコンパートメント550の排出口531は、側方(水平方向)に向けて開口している。この排出口531は、内側底面532を備えている。内側底面532は、V字状に形成されている。このため、内側底面532には、V字状溝533が形成されている。かかる構成によれば、排出口531から排出される灌流液の排出箇所をV字状溝533の底部付近に限定することができる。
【0112】
図27に示すように、排出口531は、外側底面535を備えている。外側底面535は、排出口531の下流側の(つまり、最も下流側に位置する)外縁部534のところで下方に向けて突出している。かかる構成によれば、排出口531から排出される灌流液が外側底面535上を伝って第2のコンパートメント550側(本体530の中心側)に向けて進入することを抑制できる。
【0113】
図28は、本発明の第7実施形態による化学物質評価用のデバイス620の斜視図であり、デバイス620を組み立てる手順を示している。図29は、デバイス620の断面図である。図28に示すように、デバイス620の本体630は、直列に連通する3つのコンパートメント640,650,655と、ベース670と、を備えている。図29に示すように、コンパートメント640,650,655は、隔壁660,665によって区画されている。本体630を形成する壁部には、各コンパートメント640,650,655のために、インサート90を支持するためのスリット642がそれぞれ形成されている。入口ポート645が、コンパートメント640,650,655のうちの最上流のコンパートメント640に接続されている。コンパートメント640,650,655のうちの最下流のコンパートメント655には、壁部667が形成され、その下流側には、出口631が形成されている。出口631には、シール693が取り付けられてもよい。
【0114】
カバー680は、本体630に追従した形状を有しており、コンパートメント640,650,655を覆う大きさを有している。カバー680には、各コンパートメント640,650,655に対応する位置に、化学物質投入口682が形成されている。化学物質投入口682に加えて、または代えて、サンプリング穴が形成されていてもよい。
【0115】
かかるデバイス620によれば、3つのコンパートメント640,650,655のうちの任意の数の任意の位置のコンパートメント(図示する例では、コンパートメント640,655)にインサート90を挿入して、所望の評価対象環境をモデル化することができる。また、インサート90の挿入位置を変更することによって、評価対象環境を容易に変更することができるので、汎用性に優れている。コンパートメントの数は、3つに限らず、2以上の任意の数であってもよい。
【0116】
上述したデバイスの使用態様において、コンパートメント内の液体には、食物繊維が添加されてもよい。そして、コンパートメント内の食物繊維が添加された液体は撹拌されてもよい。これによって、コンパートメント内の細胞を食物繊維で刺激することができる。
【0117】
図30および図31は、第1のコンパートメント40内に配置されたインサート90内を撹拌する様子を示す断面図である。図30および図31では、第1実施例のデバイス20が例示的に使用されている。培地液98には、食物繊維が予め添加されている。図30では、インサート90内に、多数の孔部を有する容器790(例えば、メッシュであってもよい)が配置されている。容器790内には、回転子795が挿入されている。この例では、スターラ(図示せず)によって回転子795を容器790内で回転させることによって、培地液98を撹拌することができる。図31では、容器790および回転子795に代えて、スポイド890が使用される。スポイド890は、化学物質投入口82を介して挿入される。スポイド890によって、培地液98を吸入し、その後、戻す(排出する)動作を繰り返すことによって、培地液98を撹拌することができる。
【0118】
以上説明した本発明の種々の実施形態によれば、デバイスは、複数の領域(複数のコンパートメント)を備えており、各領域が液相(液体)で連通することができる連通部(流路)が形成される。これらの各領域では、細胞培養が可能である。各領域の細胞培養は、単一細胞種の培養であってもよく、あるいは、複数種細胞の共培養であってもよい。各領域は、細胞培養可能な表面処理(表面親水化、細胞接着因子塗布等)がなされていてもよい。表面処理の種類は、各領域間で同じであってもよく、あるいは、異なっていてもよい。各領域、または、連通部の一部は、細胞透過不可、かつ、液性因子透過可能である。細胞透過不可、かつ、液性因子透過可能である領域は、細胞培養面(細胞接着面)として使用することができる。
【0119】
また、連通部には、一方向の液体の流れが形成される。液体の流れは、重力によって発生されてもよく(そのための勾配が形成されていてもよい)、あるいは、送液デバイスによって発生されてもよい。液体の流れは環流であってもよい。液体は培養液である事が好ましい。
【0120】
上述のデバイスによれば、複数種の細胞を同じ培養系において、同時かつ細胞同士を分離し培養することができる。また、複数種の細胞が生体の物質の流れに関わる順に並ぶように、各コンパートメントに細胞を播種することができる。例えば、液体が流れる方向の上流側から見て、腸管細胞、肝細胞の順、血液脳関門、神経細胞の順、肝細胞、尿管細胞の順、に各コンパートメントに播種してもよい。さらに、これらの組合せにおいて、中間に血管内皮細胞の領域を設けることも可能である。
【0121】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、上記した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、又は、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、又は、省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の諸実施形態によるデバイスおよびデバイス用いた方法は、化学物質の体内動態、効果、毒性などの生体への影響をインビトロでより正確に評価することを可能にするものであり、化学物質の吸収・排泄、代謝、安全性、薬理作用および製剤(DDS)などの研究に有用である。また、医薬品以外にも、例えば化粧品に関し動物実験を用いて実験したものは販売できない地域・国(欧州等)もある。さらに、農薬や食物添加物では、ヒトに対する毒性実験(安全性試験)ができない。このような場合にも、ヒトや動物を模倣したモデル系のニーズがある。本発明の諸実施形態によるデバイスおよび方法は、(1)安価で簡便である、(2)利便性、操作性に優れている、(3)汎用性が高く、応用性に優れている、(4)培養条件が異なる細胞での評価ができる、(5)細胞のコンタミネーションが発生し難い、などの特徴がある。
【符号の説明】
【0123】
20,120,220,320,420,520,620…デバイス
30,230,330,430,530,630…本体
31,631…出口
40,140,240,340,440,540…第1のコンパートメント
41,141,341,541…壁部
42,142,542,642…スリット
44,544…切欠部
50,150,250,350,450,550…第2のコンパートメント
51,52,151,152,351,356,452…壁部
60,160,360,460,660,665…隔壁
61,161,461…傾斜面
62…溝
70,170,670…ベース
71,171…凸部
72,172…凹部
80,380,480,580,680…カバー
81,481,581…サンプリング穴
82,482,582,682…化学物質投入口
83,483,583,645…入口ポート
90,290…インサート
91…底部
92…突出部
93,693…シール
95…灌流液
96…小腸細胞
97…肝臓細胞
98…培地液
100…ケース
101…パーティション
102…底部
103…壁部
105,205…キット
145,245,345…入口ポート
346…連通穴
352…仕切壁
353…排出口
354…循環入口ポート
355…循環出口ポート
484…出口ポート
531…排出口
532…内側底面
533…V字状溝
534…外縁部
535…外側底面
640,650,655…コンパートメント
667…壁部
790…容器
795…回転子
890…スポイド
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
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図15A
図15B
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