(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】熱電発電器、関連する埋め込み型デバイス、及び方法
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20230328BHJP
【FI】
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2021515282
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2019063381
(87)【国際公開番号】W WO2019224325
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-06
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517017399
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
(73)【特許権者】
【識別番号】518095987
【氏名又は名称】アンスティチュート ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ レシェルシュ メディカル (アンセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】520456952
【氏名又は名称】サントゥル オスピタリエ ユニベルシテール グルノーブル アルプ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゼブダ、アブデルカデール
(72)【発明者】
【氏名】サンカン、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】アルカラズ、ジャン - ピエール
(72)【発明者】
【氏名】マルタン、ドナルド
(72)【発明者】
【氏名】バクリ、アジズ
(72)【発明者】
【氏名】カーレフ、ナウェル
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-205066(JP,A)
【文献】特表2009-529975(JP,A)
【文献】米国特許第6131581(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
H10N 10/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の第1の化学種を含有する流体(F)中に浸漬されるように意図されている熱電発電器(45)であって、前記熱電発電器(45)は、少なくとも2つの電極(55、60)を備え、各電極(55、60)は、第1の端部(70)と第2の端部(75)とを有し、前記第1の端部(70)は、互いに電気的に接続されており、前記発電器(45)は、各第1の端部(70)と同じ電極(55、60)の前記第2の端部(75)との間に温度差が与えられると、前記2つの第2の端部(75)の間に電位差を生むように構成されており、前記温度差は、各電極(55、60)の前記第1の端部(70)及び第2の端部(75)のうちの、「高温端」と呼ばれる一方の端部が、同じ電極(55、60)の前記第1の端部(70)及び第2の端部(75)のうちの、「低温端」と呼ばれる他方の端部(70、75)の温度よりも、厳密に高い温度を有するものであり、
少なくとも1つの電極(55、60)の前記高温端は、微生物及び酵素から成る群から選択される少なくとも1つの要素(80)を備え、前記要素(80)は、前記第1の化学種が関与する少なくとも1回の発熱反応を引き起こすことが可能であり、
前記熱電発電器(45)は、少なくとも1つの電極(55、60)の前記高温端と接触しているブロックを更に備え、前記ブロックは、マトリクスを備え、前記マトリクスは、特にポリマー材料で形成されており、前記要素(80)は、前記マトリクスに封入された粒子の形態である、熱電発電器(45)。
【請求項2】
前記2つの高温端を収容するチャンバ(85)を画定しているケーシング(65)を備え、前記チャンバ(85)は、前記要素(80)も収容しており、前記ケーシング(65)は、少なくとも前記第1の化学種がそこを通過できるように構成されている、請求項1に記載の熱電発電器。
【請求項3】
前記ケーシング(65)は、多孔質材料で形成されている、請求項2に記載の発電器。
【請求項4】
前記ケーシング(65)の外部から前記チャンバ(85)内部に流体(F)の流れを注入することができるポンプを備える、請求項2又は3に記載の発電器。
【請求項5】
前記ケーシング(65)は、ポリマー材料で形成されている、請求項2から4までのいずれか一項に記載の発電器。
【請求項6】
前記多孔質材料は、多孔質3Dマトリクスで製作されている、請求項3又は4に記載の発電器。
【請求項7】
前記マトリクスの幾何形状は、立方体、円筒、厚板のうちの1つである、請求項6に記載の発電器。
【請求項8】
前記3Dマトリクスの表面の70%から80%が、断熱層で被覆されている、請求項6又は7に記載の発電器。
【請求項9】
前記マトリクスは、流体入口と流体出口とを有する、請求項6から8までのいずれか一項に記載の発電器。
【請求項10】
前記3Dマトリクスは、前記3Dマトリクスの内部にバイオフィルムを形成する微生物を含む、請求項6から8までのいずれか一項に記載の発電器。
【請求項11】
前記多孔質マトリクスは、金属ブロックである、請求項6から10までのいずれか一項に記載の熱電発電器。
【請求項12】
前記要素(80)は、第1の発熱反応及び第2の発熱反応を引き起こすことができ、前記第1の反応は、前記第1の化学種の反応によって少なくとも1つの生成物を生成し、前記第2の反応は、前記第1の反応の前記生成物が関与する反応である、請求項1から11までのいずれか一項に記載の発電器。
【請求項13】
少なくとも1つの要素(80)は微生物であり、
前記微生物は酵母を含む、及び
前記微生物は細菌を含む、
という特性のうちの少なくとも一方が立証される、請求項1から12までのいずれか一項に記載の熱電発電器。
【請求項14】
前記第1の化学種は、尿素、アルコール、及び糖から成る群から選択される、請求項1から13までのいずれか一項に記載の発電器。
【請求項15】
少なくとも1つの種は、グルコースである、請求項14に記載の発電器。
【請求項16】
人体又は動物体に埋め込まれるように構成されている埋め込み型デバイス(10)であって、請求項1から15までのいずれか一項に記載の熱電発電器(45)を備え、前記流体(F)は、前記人体又は動物体の体液であり、前記第1の化学種は、特にグルコースである、埋め込み型デバイス(10)。
【請求項17】
少なくとも1つの要素(80)は、酵素を含み、前記要素(80)は、グルコース・オキシダーゼ及びカタラーゼを含む、請求項16に記載の埋め込み型デバイス。
【請求項18】
前記埋め込み型デバイス(10)は、ペースメーカーである、請求項16又は17に記載の埋め込み型デバイス。
【請求項19】
少なくとも2つの電極(55、60)を備える熱電発電器(45)を準備するステップ(100)であって、各電極(55、60)は、第1の端部(70)及び第2の端部(75)を有し、前記第1の端部(70)は、互いに電気的に接続されており、前記発電器(45)は、各第1の端部(70)と同じ電極(55、60)の前記第2の端部(75)との間に温度差が与えられると、前記2つの第2の端部(75)の間に電位差を生むように構成されており、前記温度差は、各電極(55、60)の前記第1の端部(70)及び前記第2の端部(75)のうちの、「高温端」と呼ばれる一方の端部(70、75)が、同じ電極(55、60)の前記第1の端部(70)及び前記第2の端部(75)のうちの、「低温端」と呼ばれる他方の端部(70、75)の温度よりも、厳密に高い温度を有するものであり、少なくとも1つの電極(55、60)の前記高温端は、微生物及び酵素から成る群から選択される少なくとも1つの要素(80)を備え、前記熱電発電器(45)は、少なくとも1つの電極(55、60)の前記高温端と接触しているブロックを更に備え、前記ブロックは、マトリクスを備え、前記マトリクスは、特にポリマー材料で形成されており、前記要素(80)は、前記マトリクスに封入された粒子の形態である、準備するステップ(100)と、
前記熱電発電器(45)を少なくとも1種の第1の化学種を含む流体(F)中に浸漬するステップ(110)と、
前記要素(80)によって、前記第1の化学種が関与する少なくとも1回の発熱反応を実施するステップ(120)と、
前記要素(80)を備える前記電極(55、60)の前記高温端と前記低温端との間に、温度差を発生させるステップ(130)と、
前記2つの第2の端部(75)の間に電位差を発生させるステップ(140)と、
を含む、電位差を生むための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電発電器に関する。本発明は、電位差を生むための関連する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
電流若しくは電圧を生成して特定のデバイスに電力を供給するための、又は置かれた環境が内包しているエネルギーを取り出すためのデバイスが、多数の用途で使用されている。しかしながら、これらのデバイスは、一般に、ある特定の用途に適合されており、他の用途には適合されていない。
【0003】
例えば、ペースメーカーなどの埋め込まれたデバイスに電力を供給するための、人体の化学種間の酸化還元反応を触媒する生物電池が提案されている。しかしながら、これらの生物電池は、互いと反応することが可能な酸化物質及び還元物質が利用可能な環境での使用にしか適していない。
【0004】
他の分野では、2つの区域の間の温度差から電流を生成する、熱電発電器が使用されている。例えば、そのような発電器により、いくつかのプロセスから得られた熱エネルギーの一部を、その一部を電気エネルギーに変換することによって回収することが可能になる。
【0005】
一般的に言えば、熱電発電器は、第1の端部及び第2の端部を各々有する、2つの電極を備える。各電極はドープ半導体材料で形成され、ドーピングの種類は電極によって異なる。第1の端部は互いに電気的に接続されている。各電極の第1の端部と第2の端部との間に温度差が与えられると2つの電極の間に電位差が生じ、このことにより電流の生成が可能になる。したがって、端部のうちの1つが産業設備の排出口などの高温の物体と接触しており、各電極の他方の端部が同じ設備の外壁又は広範囲の水などの低温の物体と接触していると、排出物に内包されている熱エネルギーの一部が回収される。
【0006】
しかしながら、熱電発電器によって送達される電力は、第1の端部と第2の端部の間の温度の差に依存する。この温度差が小さいほど、送達される電力は弱くなる。したがって、熱電発電器は、利用可能な温度差が小さい用途にはほとんど適合していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、従来技術の発電器よりも多数の用途に適合された発電器が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、少なくとも1種の第1の化学種を含有する流体中に浸漬されるように意図された熱電発電器であって、熱電発電器は、第1の端部及び第2の端部を各々有する少なくとも2つの電極を備え、第1の端部は、互いに電気的に接続されており、発電器は、各第1の端部と同じ電極の第2の端部との間に温度差が与えられると、2つの第2の端部の間に電位差を生むように構成されており、温度差は、各電極の第1の端部及び第2の端部のうちの、「高温端」と呼ばれる一方の端部が、同じ電極の第1の端部及び第2の端部のうちの、「低温端」と呼ばれる他方の端部の温度よりも、厳密に高い温度を有するものである、熱電発電器が提案される。少なくとも1つの電極の高温端は、微生物及び酵素から成る群から選択される少なくとも1つの要素を備え、要素は、第1の化学種が関与する少なくとも1回の発熱反応を引き起こすことが可能である。
【0009】
特定の実施例によれば、熱電発電器は、単独で採用されるか又は技術的に可能な任意の組合せとされる、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む:
- 発電器は、2つの高温端を収容するチャンバを画定しているケーシングを備え、チャンバは、要素も収容しており、ケーシングは、少なくとも第1の化学種がそこを通過できるように構成されている、
- ケーシングは、多孔質材料で形成される、
- 発電器は、ケーシングの外部からチャンバ内部に流体流を注入することができるポンプを備える、
- ケーシングは、ポリマー材料で形成される、
- 多孔質材料は、多孔質3Dマトリクスから成る、
-3 D多孔質マトリクスは、金属粒子の粉末及び粘性のバインダの粘性のペーストから3Dプリントによって作製される、
- 3Dマトリクスの細孔のサイズは、50μmから1mmまでの値をとる、
- 金属粒子粉末の粒子は、炭素粒子、カーボン・ナノチューブ粒子、活性炭粒子、グラフェン粒子、アルミニウム粒子である、
- 粘性のバインダは、以下の化合物のうちの1つ、又はいくつかの要素の混合物である:セルロース誘導体、アルギネート、アガロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、
- マトリクスの幾何形状は、立方体、円筒、厚板のうちの1つである、
- マトリクスの1つの表面は、断熱材によって閉じられており、マトリクスのその他の表面は、熱伝導材によって閉じられている、
- 熱伝導材は、例えばアルミニウムである、
- 断熱材は、例えばパリレンである、
- マトリクスは、流体入口と流体出口とを有する、
- 3Dマトリクスは、3Dマトリクスの内部にバイオフィルムを形成する微生物を含む、
- 微生物は、金属粒子粉末及び粘性のバインダの粘性のペーストと混合される、
- 多孔質3Dマトリクスを3Dプリントによって作製するために、微生物を金属粒子粉末及び粘性のバインダの粘性のペーストと混合することで形成される複合材が使用される、
- 3Dマトリクスの表面の70%から80%が、断熱層で被覆されている、
- 断熱層は、例えばPCBである、
- 多孔質マトリクスは、金属ブロック、例えばアルミニウム、炭素、チタン、金、又は等価物であり、金属ブロックは3Dプリントによって作製される、
- 発電器は、少なくとも1つの電極の高温端と接触しているブロックを備え、ブロックは、マトリクスを備え、マトリクスは、特にポリマー材料で形成されており、要素は、マトリクスに封入された粒子の形態である、
- 要素は、多孔質の固体を形成する圧粉粒子の形態である、
- 要素は、第1の発熱反応及び第2の発熱反応を引き起こすことができ、第1の反応は、第1の化学種の反応によって少なくとも1つの生成物を生成し、第2の反応は、第1の反応の生成物が関与する反応である、
-少なくとも1つの要素は、微生物であり、以下の特性のうちの少なくとも一方が立証される;
・微生物は酵母を含む、及び
・微生物は細菌を含む、
- 第1の化学種は、尿素、アルコール、及び糖から成る群から選択される、
- 少なくとも1つの種は、グルコースである。
【0010】
多孔質3Dマトリクスを使用することで、多孔質3Dマトリクスの表面及び内部における細菌又は微生物のバイオフィルムの形成によって、微生物の数又は密度の増加が可能になり、有利である。
【0011】
微生物の密度は実際には、微生物が溶液中にあるときよりも、バイオフィルム中にある場合の方が大きい。
【0012】
3Dマトリクスの多孔性によりまた、微生物に水及び基質を供給することもでき、有利である。
【0013】
本発明の熱電発電器における熱損失を最小限にし、このことにより微生物が放出する熱を最適化するために、多孔質3Dマトリクスを形成する材料は比熱が低く熱伝導率が高いのが好ましいが、これは例えば、金属とその複合材に当てはまる。
【0014】
上で定義したような熱電発電器を備える、人体又は動物体に埋め込まれるように構成された埋め込み型デバイスであって、流体が人体の体液であり、第1の化学種が特にグルコースである、埋め込み型デバイス、も提案される。
【0015】
特定の実施例によれば、埋め込み型デバイスは、単独で採用されるか又は技術的に可能な任意の組合せとされる、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む:
- 少なくとも1つの要素は、酵素を含み、要素は、グルコース・オキシダーゼ及びカタラーゼを含む、
- 埋め込み型デバイスは、ペースメーカーである。
【0016】
電位差を生むための方法であって、
・少なくとも2つの電極を備える熱電発電器を準備するステップであって、各電極は、第1の端部及び第2の端部を有し、第1の端部は、互いに電気的に接続されており、発電器は、各第1の端部と同じ電極の第2の端部との間に温度差が与えられると、2つの第2の端部の間に電位差を生むように構成されており、温度差は、各電極の第1の端部及び第2の端部のうちの、「高温端」と呼ばれる一方の端部が、同じ電極の第1の端部及び第2の端部のうちの、「低温端」と呼ばれる他方の端部の温度よりも、厳密に高い温度を有するものであり、少なくとも1つの電極の高温端は、微生物及び酵素から成る群から選択される少なくとも1つの要素を備える、準備するステップと、
・熱電発電器を少なくとも1種の第1の化学種を含む流体中に浸漬するステップと、
・要素によって第1の化学種が関与する少なくとも1回の発熱反応を実施するステップと、
・要素を備える電極の高温端と低温端との間に、温度差を発生させるステップと、
・2つの第2の端部の間に電位差を発生させるステップと
を含む方法が、更に提案される。
【0017】
本発明の特徴及び利点は、非限定的な実例としてのみ与えられている以下の説明を、下記の付属の図面を参照して読むことで、はっきりと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の熱電発電器を備える埋め込み型デバイスの実例の概略図である。
【
図2】
図1の熱電発電器を用いて実施される、電位差を生むための方法の実例のフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施例に係る熱電発電器の多孔質3Dマトリクスの図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る熱電発電器の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
【0020】
埋め込み型デバイス10とは、この埋め込み型デバイス10が動物、例えば人間の体内に埋め込まれるよう意図されることを意味している。特に、「埋め込み型」とは、この埋め込み型デバイス10が厳密に1週間超、好ましくは厳密に1箇月超、好ましくは1年以上の時間の間、体内に常在するよう意図されることを意味している。
【0021】
例えば、埋め込み型デバイス10は、流体Fを含む体の体腔内に設置されるように構成されている。腸又は胃は体腔の実例である。
【0022】
変形例として、埋め込み型デバイス10は体腔の外部に、例えば筋肉内又は患者の皮下に埋め込まれるように構成されている。
【0023】
埋め込み型デバイス10は、体の器官を刺激するように構成されている。例えば、器官は心臓であり、埋め込み型デバイス10はこの場合ペースメーカーである。
【0024】
刺激以外の機能を実行する埋め込み型デバイス10もまた企図され得ることに留意されたい。例えば、体液F中の特定のマーカのレベルなどの体の生理学的パラメータの値を測定し、測定した値を別のデバイスに送信できる、センサを備える、埋め込み型デバイス10が企図され得る。
【0025】
埋め込み型デバイス10が医薬製品などの作用物質の予備を含み、作用物質を体内に注入するように設計されることもまた企図され得る。
【0026】
一般的に言えば、埋め込み型デバイス10は、埋め込み型デバイス10への電力供給が必要などのような機能も実行できる。
【0027】
例えば、埋め込み型デバイス10は、刺激デバイス15と、制御装置20と、貯蔵セル25と、変換器30と、アンカー35と、第1のケーシング40と、熱電発電器45と、を備える。
【0028】
流体Fは体液であり、体腔を完全に又はある程度満たしている。
【0029】
例えば、流体Fは液体である。
【0030】
例えば、流体Fは血液である。変形例として、流体Fは腹水である。別の変形例では、流体Fは胃に含まれる液体、特に胃液の混合物である。
【0031】
細胞外液又は患者の腸に含まれる流体は、流体Fの他の実例である。
【0032】
流体Fは、少なくとも1種の第1の化学種C1を含有する。1つの特定の実施例では、流体Fは、第1の化学種C1及び少なくとも1種の第2の化学種C2を含有する。
【0033】
第1の化学種C1は、流体F中に天然に存在する化学種である。
【0034】
第1の化学種C1は例えばグルコースである。
【0035】
多数の化学種が第1の化学種C1の役割を果たせることに留意されたい。明らかなことであるが、これらには、デバイスと接触しているか又はデバイスの環境内にある流体中に存在する可能性の高い化学種が含まれる。例えば、第1の種C1は、ピルベート、アスコルビン酸、尿素、アルコール、及び糖から成る群から選択できる。グルコースに言及したが、フルクトース、ガラクトース、及びマンノース(炭水化物若しくは糖の消化に及び/又は食物の摂取に由来する)、或いは更にグリコーゲンなどの、その他の単糖を追加してもよい。別の特定の実施例では、糖はスクロースである(特にデバイスが胃の中にある場合)。
【0036】
流体Fが細胞外液である場合、例えば埋め込み型デバイス10を患者の皮下に埋め込むことが意図されているとき、第1の化学種C1はグルコース、例えば又はピルベートである。
【0037】
第2の化学種C2は、流体F中に天然に含有される化学種である。
【0038】
例えば、第2の化学種C2は二原子酸素である。
【0039】
第1の化学種C1及び第2の化学種C2は流体F中に天然に存在する全ての種の中から選択できることに留意されたい。1つの実例では、第1の化学種C1及び第2の化学種C2のうちの少なくとも一方は、患者の胃及び/又は腸に含まれる、食餌に由来する及び/又は食物の消化若しく転換に由来する有機分子である。
【0040】
いくつかの用途では、第1の化学種C1及び/又は第2の化学種C2は、バイオマス中に天然に存在する種、例えばバイオマスを分解すると放出される種であり得る。
【0041】
刺激デバイス15は、器官を刺激するように構成されている。
【0042】
例えば、刺激デバイス15は、器官を電気的に刺激するように構成されている。特に、刺激デバイス15は器官に電気的に接続され得る電極を備え、電極と第1のケーシング40との間に電圧を印加するように構成されている。
【0043】
変形例として、刺激デバイス15は、器官を機械的に刺激するように構成されている。
【0044】
制御装置20は、刺激デバイス15による器官の刺激を要求するように構成されている。例えば、制御装置20は、刺激頻度を計算すること、又は、心拍異常などの体の生理現象を検出し異常が検出されたときに刺激を要求することができる。
【0045】
例えば、制御装置20は、メモリとプロセッサとを備えるデータ処理ユニットである。
【0046】
他の種類の制御装置20を使用できることに留意されたい。例えば、一変形例として、制御装置20はプログラム可能な論理コンポーネントである。プログラム可能な論理コンポーネントは、プログラム可能論理回路又はプログラム可能論理アレイとも呼ばれ、製造後に再プログラム可能な論理集積回路である。別の変形例では、制御装置20は特定用途向け集積回路(ASIC)である。ASICは、特定の用途専用の特化された集積回路である。
【0047】
貯蔵セル25は、電気エネルギーを貯蔵するように構成されている。貯蔵セル25は例えばスーパーキャパシタ、又はバッテリのセットである。
【0048】
変換器30は、熱電発電器45から第1の電圧を受け、これに応答して、貯蔵セル25、制御装置20、及び刺激デバイス15に電力供給する第2の電圧を生成するように構成されている。
【0049】
アンカー35は、埋め込み型デバイス10が体内に埋め込まれるときに、埋め込み型デバイス10を所定位置に保持するように構成されている。例えば、アンカー35は、胃壁などの体の壁50に固定されるように構成されている。
【0050】
多数の種類のアンカー35を使用できることに留意されたい。
【0051】
アンカー35及び埋め込み型デバイス10を固定するために、多数の部位が企図され得る。
【0052】
第1のケーシング40は、刺激デバイス15、制御装置20、貯蔵セル25、及び変換器30を、第1のケーシング40の外部、特に流体Fから隔離するように構成されている。
【0053】
熱電発電器45は、流体F中に浸漬されるように意図されている。特に、熱電発電器45は、流体Fと少なくとも部分的に接触しているように意図されている。
【0054】
熱電発電器45は、第1の電位差を生成するように構成されている。例えば、熱電発電器45は、第1の電位差を生成するように、及び第1の電位差によって変換器30に電力供給するように構成されている。
【0055】
熱電発電器45は、第1の電極55と、第2の電極60と、第2のケーシング65とを備える。
【0056】
各電極55、60は、第1の端部70と第2の端部75とを有する。
【0057】
例えば、各電極55、60は、第1の端部70と第2の端部75との間に主方向Dに沿って延在する。
【0058】
1つの実例では、各電極55、60は、主方向Dに対して垂直な平面において矩形形状の断面を有する。断面の形状は実施例によって異なる場合のあることに留意されたい。
【0059】
各電極55、60は半導体材料で形成されている。
【0060】
「半導体材料」とは、厳密にゼロよりも大きく6.5eV以下であるギャップ値を有する材料であることを意味している。
【0061】
材料の「ギャップ値」とは、材料における価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップの値を意味している。材料のギャップ値は、例えば電子ボルト(eV:electron-volts)で表される。
【0062】
価電子帯は、検討中の材料中の電子に許されるエネルギー帯のうち、20K以下の温度において完全に充満されている、最高のエネルギーを有する帯域であるものと定義される。
【0063】
各価電子帯に対して第1のエネルギー・レベルが定められる。第1のエネルギー・レベルは、価電子帯の最高のエネルギー・レベルである。
【0064】
伝導帯は、材料中の電子に許されるエネルギー帯のうち、20K以下の温度において充満されていない、最低のエネルギーを有する帯域であるものと定義される。
【0065】
各伝導帯に対して第2のエネルギー・レベルが定められる。第2のエネルギー・レベルは、伝導帯の最低のエネルギー・レベルである。
【0066】
したがって、各ギャップ値は、検討中の材料の第1のエネルギー・レベルと第2のエネルギー・レベルの間で測定される。
【0067】
例えば、各電極55、60は単一の半導体材料で形成される。
【0068】
1つの実例では、少なくとも1つの電極55、60は複数の部分を備え、各部分は検討中の電極55、60のその他の部分とは異なる半導体材料で形成されている。
【0069】
例えば、各半導体材料は、テルリウムと1つの他の元素の合金、及び熱電性ポリマーから成る群から選択される。
【0070】
半導体材料がテルリウムと1つの他の元素の合金であるとき、この他の元素は例えばビスマス又はアンチモンである。
【0071】
他の半導体材料を使用してもよいことに留意されたい。
【0072】
ポリアニリン及びポリピロールは熱電性ポリマーの実例であるが、他の熱電性ポリマーが企図され得る
【0073】
これらの部分は電気的に1つに接続される。特に、これらの部分は、第1の端部70と第2の端部75の間で直列に接続される。例えば、1つの同じ電極55、60のこれらの部分は、主方向Dに沿って位置合わせされる。
【0074】
各第2の端部75は、例えば変換器30に電気的に接続される。
【0075】
各電極55、60に対して、高温端及び低温端が定められる。
【0076】
高温端及び低温端の各々は、第1の端部70及び第2の端部75の中から選択される。
【0077】
高温端及び低温端は、熱電発電器45が各電極55、60の高温端と低温端との間に温度差が与えられると第1の電位差を生むように構成され、高温端の温度が低温端の温度よりも厳密に高い、ということによって定義される。
【0078】
図1に示す実例では、各電極55、60の高温端は第1の端部70であり、各電極55、60の低温端は第2の端部75である。
【0079】
各電極55、60の低温端が第1の端部70であり各電極55、60の高温端が第2の端部75である実施例も企図され得ることに留意されたい。
【0080】
各電極55、60の第1の端部70は、他方の電極55、60の第1の端部70に電気的に接続される。
【0081】
第1の端部70は例えば、金属導体、例えば金、銅、又は別の金属材料で製作される導体を介して、互いに電気的に接続される。
【0082】
第1の電極55は第1のタイプのドーピングを有する。例えば、第1の電極の各部分は、第1のタイプのドーピングを有する。
【0083】
ドーピングは、材料中に自由電荷キャリアに寄与する不純物が存在することとして定義される。例えば、不純物は、その材料中に天然には含有されない要素の原子である。
【0084】
不純物の存在によって非ドープ材料に比べて材料中の正孔の体積密度が上がるとき、ドーピングはp型である。
【0085】
不純物の存在によって非ドープ材料に比べて材料中の自由電子の体積密度が上がるとき、ドーピングはn型である。
【0086】
第1のタイプのドーピングは、n型ドーピング及びp型ドーピングから選択される。例えば、第1のタイプのドーピングはn型ドーピングである。
【0087】
第2の電極60は、p型ドーピング及びn型ドーピングから選択される、第2のタイプのドーピングを有する。特に、第2のタイプのドーピングは、第1のタイプのドーピングとは異なる。例えば、第2のタイプのドーピングはp型ドーピングである。
【0088】
少なくとも1つの電極55、60の高温端は、要素80を含む。例えば、各電極55、60の高温端は要素80を含む。
【0089】
逆に、各電極55、60の低温端は要素80を含まない。
【0090】
1つの実例では、熱電発電器45は、全ての電極55、60に共通の単一の要素80を備える。
【0091】
要素80は、対応する電極55、60の第1の端部70と同じ電極55、60の第2の端部75との間に温度差を生むように構成されている。特に、要素80は、高温端の温度が低温端の温度よりも厳密に高いような温度差を生むように構成されている。
【0092】
特に、要素80は、第1の化学種C1が関与する少なくとも1回の発熱反応を引き起こすことができる。
【0093】
1つの実例では、要素80は、少なくとも1回の第1の発熱反応及び少なくとも1回の第2の発熱反応を引き起こすことができる。
【0094】
要素80が引き起こす発熱反応の回数は様々であり得ることに留意されたい。例えば、要素80が単一の第1の発熱反応を引き起こすことができる実施例が企図され得、同様に、要素80が3回以上の発熱反応を引き起こすことができる実施例も企図され得る。
【0095】
1つの実例では、各要素80は、要素80が生成できる発熱反応の触媒である。触媒は、化学反応によって消費されずにその化学反応を引き起こすか又は化学反応の速さを高める物質である。
【0096】
各要素80は、微生物及び酵素から成る群から選択される。例えば、要素80は、1種の酵素、数種の酵素の混合物、1種の微生物、数種の微生物の混合物又は少なくとも1種の酵素と少なくとも1種の微生物の混合物である。
【0097】
酵素は触媒活性を有するタンパク質である。
【0098】
1つの実例では、要素80は酵素である。例えば、要素80は2種の異なる酵素の混合物である。特に、要素80は、グルコース・オキシダーゼ及びカタラーゼを含む。
【0099】
グルコース・オキシダーゼ(頭字語GOx及びGODでも表される)は、過酸化水素及びグルコン酸へのグルコースの酸化を触媒する、EC命名法EC1.1.3.4のオキシドレダクターゼ酵素である。
【0100】
EC命名法(ECは酵素委員会のロゴである)は、酵素が触媒する化学反応に基いた、数字による酵素の分類である。
【0101】
カタラーゼ(ギリシャ語のkataluein「分解する」から)は、水及び二原子酸素への過酸化水素の不均化を触媒する、ヘム含有オキシドレダクターゼである。
【0102】
不均化は、化学種が酸化物質として及び還元物質としての両方で作用する、併発反応である。水及び二原子酸素への過酸化水素の不均化は、以下の平衡式で定義される:
2H2O2 → O2+2H2O (式1)
一変形例では、酵素は、スクラーゼ、フルクトース・オキシダーゼ及びガラクトース・オキシダーゼの中から選択される、少なくとも1つの酵素を含む。例えば、酵素は、グルコース・オキシダーゼ、カタラーゼ、フルクトース・オキシダーゼ、スクラーゼ、及びガラクトース・オキシダーゼを含む。
【0103】
「微生物」とは、各々の最大サイズが100ミクロン以下、例えば50ミクロン以下、特に5ミクロンから20ミクロンの間である生物群を意味している。
【0104】
各微生物は、第1の化学種C1が関与する発熱反応を引き起こすことができる。
【0105】
一部の微生物は例えば、第1の化学種C1の酸化発熱反応を引き起こすことができる。酸化還元反応ではない発熱反応も企図され得ることに留意されたい。
【0106】
微生物は例えば、少なくとも1種の酵母を含む。例えば、微生物は、数種の異なる酵母の混合物を含む。
【0107】
酵母は単細胞の真菌類である。
【0108】
1つの特定の実施例では、酵母は例えばサッカロマイセス・セレビシエである。他の種類の酵母も企図され得ることに留意されたい。
【0109】
変形例として、微生物は少なくとも1種の細菌を含む。例えば、微生物は、数種の異なる細菌の混合物を含む。
【0110】
微生物として多数の種類の細菌が企図され得る。
【0111】
例えば、微生物は、1種類の共生細菌、又は複数種の共生細菌の群(混合物)を含む。共生細菌は、ヒトなどの宿主の体(一般的には皮膚又は粘膜)に、疾患を引き起こすことなくコロニー形成する細菌である。大腸菌は本発明で使用できる共生細菌の実例である。
【0112】
埋め込み型デバイス10を患者の腸に埋め込むことが意図される場合、微生物は、例えば腸内に天然に存在する、少なくとも1種類の細菌を含む。
【0113】
他の種類の細菌も企図され得ることに留意されたい。
【0114】
第1の発熱反応では、第1の化学種C1の反応によって少なくとも1つの生成物Pが生成される。
【0115】
例えば、第1の発熱反応は、第1の化学種C1と第2の化学種C2の間の反応である。酸化反応は、第1の化学種C1と第2の化学種C2の間の反応の実例である。しかしながら、酸化還元反応ではない発熱反応も企図される可能性が高い。
【0116】
1つの実例では、第1の発熱反応は、第1の化学種の、又は第2の化学種の、加水分解反応である。別の実例では、第1の発熱反応は、第1の化学種の、又は第2の化学種の、不均化反応である。
【0117】
第1の化学種C1がグルコースである場合、第1の反応は例えば、二原子酸素の存在下での、グルコン酸と過酸化水素H2O2の混合物へのグルコースの分解である。この場合、第1の発熱反応は、グルコン酸と過酸化水素である2つの生成物Pを生成する。
【0118】
要素80が一群の細菌を含む場合、第1の発熱反応は例えば細菌の代謝反応、すなわち、細菌が生命維持、発達、増殖、又は細菌が曝されている環境の刺激への反応のために機能させる反応である。
【0119】
多数の第1の発熱反応が企図され得ることに留意されたい。
【0120】
第2の発熱反応は、第1の反応によって生成される少なくとも1つの生成物Pが関与する発熱反応である。例えば、第2の発熱反応は、生成物Pと第2の化学種C2の間の反応である。
【0121】
1つの実例では、第2の発熱反応は、生成物Pのみが関与する反応である。
【0122】
例えば、第2の発熱反応は生成物Pの分解反応である。分解反応の1つの実例は、水及び二水素の混合物への過酸化水素の分解である。
【0123】
要素80は例えば、少なくとも1つの電極55、60の高温端と接触している。
【0124】
図1に示す実施例では、要素80は対応する電極55、60の高温端を取り囲んでいる。例えば、要素80は、各2つの電極55、60の高温端、ここでは第1の端部70を、取り囲んでいる。
【0125】
特に、要素80は、主方向Dに対して垂直な平面において、対応する電極55、60の高温端を取り囲んでいる。要素80はまた、高温端、要素80、及び第2のケーシング65が主方向Dに沿ってこの順番で整列されるように、第2のケーシング65と高温端との間に間挿される。
【0126】
要素80は例えば多孔質の固体である。
【0127】
要素80は特に、流体Fに含有される分子がそこを通過できるように構成されている。特に、要素80は、細孔により第1の化学種C1及び/又は第2の化学種C2の通過が可能になるように設計されている。
【0128】
最小サイズが1ナノメートル(nm)以上の細孔を有する多孔質の固体は、要素80として使用できる多孔質の固体の実例である。
【0129】
要素80は例えば断熱材で形成される。
【0130】
特に、要素80は生体適合性材料で形成される。生体適合性は、生物媒質中で材料を使用したときに、その材料が生物媒質に干渉せずそれを劣化させない能力である。生体適合性材料は生体材料とも呼ばれる。
【0131】
要素80は、1マイクロメートルから2センチメートルの間の、高温端の表面に対して垂直な方向に測定される厚さを有する。
【0132】
要素80は、例えば対応する高温端の表面を少なくとも部分的に覆う、フィルムである。
【0133】
変形例として、要素80は、高温端と接触しているブロックである。
【0134】
例えば、要素80は粒子の集合である。
【0135】
1つの実例では、要素80は、粒子を圧粉することによって形成される固体である。
【0136】
別の実施例では、熱電発電器45はマトリクスを備え、粒子はマトリクスに封入されている。
【0137】
「マトリクス」とは、異なる粒子間の凝集を保証するバインダを意味している。特に、各粒子を取り囲む物質の塊は、マトリクスの実例である。例えば、各粒子はマトリクス中に含まれ、マトリクスと一体である。
【0138】
例えば、マトリクスは、ポリマー材料で形成されるマトリクスである。
【0139】
1つの実例では、要素80は、対応する電極55、60の高温端を形成する少なくとも1つの半導体材料に組み込まれている。例えば、半導体材料は多孔質であり、要素80を形成する粒子用のマトリクスを形成する。
【0140】
その半導体材料が多孔質であり粒子用のマトリクスを形成している、電極55、60の高温端は、例えば半導体粒子、特にナノ粒子、及び要素80の粒子を、機械的に圧粉することによって形成される。1つの実例では、高温端は、半導体粒子と要素80の粒子とポリマー粒子とを、機械的に圧粉することによって形成される。
【0141】
企図され得る別の実施例によれば、高温端は、半導体粒子と要素80の粒子とポリマー粒子とを含むインクから形成される。
【0142】
第2のケーシング65は、各電極55、60の高温端の少なくとも1つの部分を、熱電発電器45が浸漬される流体Fから熱的に絶縁するように構成されている。
【0143】
特に、第2のケーシング65は、少なくとも各電極55、60の高温端を収容するチャンバ85を画定する。
【0144】
要素80は特にチャンバ85内に収容される。
【0145】
図1に示す実例では、各電極55、60の低温端はチャンバ85内に収容されない。特に、各電極55、60の低温端は流体F中に浸されている。
【0146】
各電極55、60が完全にチャンバ85内に収容される実施例も企図され得ることに留意されたい。例えば、第2のケーシング65はチャンバ85を2つの副チャンバに分割する内壁を備え、各電極55、60の高温端は一方の副チャンバ内に収容され、各電極55、60の低温端は他方の副チャンバ内に収容される。内壁はその場合、2つの副チャンバを互いから断熱するように構成されている。
【0147】
別の実施例では、チャンバ85は、第2のケーシング65によって及び電極55、60の表面によって画定される。この場合、第2のケーシング65は例えば電極55、60に固定され、対応する要素80を電極55、60と接触させて保持するように構成されている。
【0148】
第2のケーシング65は、第1の化学種C1がそこを通過できるように構成されている。例えば、第2のケーシング65は、チャンバ85内に流体Fの流れを注入することができるポンプを備える。
【0149】
例えば、ポンプは圧電ダイヤフラム型ポンプである。
【0150】
変形例として、第2のケーシング65は、流体Fが通過できる多孔質材料で形成されている。
【0151】
別の変形例では、第2のケーシング65は、第1の化学種C1のみがそこを通過できるように構成されている。
【0152】
第2のケーシング65は例えばポリマー材料、特に化学種C1及びC2が通過できる多孔質ポリマー材料で形成される。
【0153】
先行する実例では、熱電発電器45が埋め込み型デバイス10に組み込まれている場合の、熱電発電器45について記載されている。熱電発電器45が体液ではない流体F中に浸漬されるように意図されている実施例も企図され得ることに留意されたい。
【0154】
例えば、流体Fは、産業又は農業設備から排出される流体である。この場合、第1の化学種C1は、例えば尿素、糖、アルコール、及びバイオマスから成る群から選択される。
【0155】
一変形例では、流体Fは主排管の排水(mains drainage)などの排水流、特に台所又は下水の排水である。
【0156】
この場合、第1の化学種C1は、例えば尿素、糖、及びアルコールから成る群から選択される。
【0157】
ここで熱電発電器45の動作について、
図2を参照して記載する。
【0158】
電位差を生むための方法の実例のステップのフローチャートが、
図2に示されている。
【0159】
生成方法は、準備ステップ100と、浸漬ステップ110と、実施ステップ120と、温度差発生ステップ130と、電位差発生ステップ140と、を含む。
【0160】
準備ステップ100において、熱電発電器45が準備される。
【0161】
浸漬ステップ110において、熱電発電器45は流体F中に浸漬される。
【0162】
例えば、埋め込み型デバイス10は体内に埋め込まれ、アンカー35によって、熱電発電器45が体腔を満たしている流体F中に浸されるように、体腔内に固定される。
【0163】
流体Fが体液ではない場合、熱電発電器45はこれが流体F中に浸されるような所定位置に固定され、例えば流体Fを収容するよう意図された管材の内壁に固定される。
【0164】
実施ステップ120において、要素80によって少なくとも第1の発熱反応が実施される。例えば、流体Fが要素80と接触し、要素80によって第1の発熱反応が引き起こされる。
【0165】
特に、要素80は、第1の発熱反応及び各第2の発熱反応を引き起こす。より具体的には、要素80は少なくとも第1の化学種から第1の発熱反応を引き起こし、それが生成物Pの発生をもたらす。要素80は更に、第1の発熱反応によって生成される生成物Pから、第2の発熱反応を引き起こす。
【0166】
多数の発熱反応を使用できることに留意されたい。例えば、要素80が、グルコース・オキシダーゼ及びカタラーゼ、カタラーゼ、フルクトース・オキシダーゼ、スクラーゼ、及びガラクトース・オキシダーゼを含む場合、要素80はグルコン酸及び過酸化水素へのグルコースの酸化を引き起こし、次いで過酸化水素がカタラーゼによって分解される。
【0167】
要素80がグルコース・オキシダーゼ、フルクトース・オキシダーゼ、スクラーゼ、及びガラクトース・オキシダーゼを含む場合、スクロースはスクラーゼによってグルコース、フルクトース、及びガラクトースに分解され、これらの生成物自体は次いでグルコース・オキシダーゼ、フルクトース・オキシダーゼ、及びガラクトース・オキシダーゼによって分解される。
【0168】
温度差発生ステップ130において、発熱反応に続いて、要素80を含む各電極55、60の高温端と低温端の間で温度差が生じる。より具体的には、発熱反応が、低温端に対する高温端の加熱をもたらす。
【0169】
電位差発生ステップ140において、温度差の発生に続いて、熱電効果によって2つの第2の端部75の間で電位差が生じる。
【0170】
特に、要素80を含む各電極55、60の高温端と低温端との間に、電圧が生まれる。2つの第1の端部70は互いに電気的に接続されているので、このことにより2つの第2の端部75の間に電位差が生じる。
【0171】
電位差は例えば、1度ケルビンあたり1マイクロボルトから1度ケルビンあたり9ミリボルトの間である。
【0172】
電位差は、例えば、変換器30を電極55、60の第2の端部75に各々接続する2つの導電体を介して、変換器30に伝達される。
【0173】
要素80の使用によって、熱電発電器45は、熱電発電器45が均一な温度の流体F中に浸漬される場合であっても、電位差を生むことができる。例えば、熱電発電器45が体内に埋め込まれているとき、体温は比較的均一であるにも関わらず、熱電発電器45は数ミリワットの領域内で電力を送達できる。同様に、産業設備から排出された流出物中に浸漬されると、熱電発電器45は、この流出物が均一な温度のものであっても、かなりの電力を生成できる。
【0174】
熱電発電器45はしたがって、従来技術の熱電発電器であればほとんど又は全く電力を生み出せないような媒質中に熱電発電器45がある場合でさえも、かなりの電力を送達できる。
【0175】
更に、熱電発電器45は酸化物質及び還元物質が存在する媒質に制限されず、一緒に反応して発熱反応を形成できる化学種が利用可能であれば、この反応が酸化還元反応ではなくても、多数の媒質中で使用することができる。
【0176】
この熱電発電器45はしたがって、最新技術の熱電発電器45よりも多数の媒質に適合されている。
【0177】
更に、熱電発電器45は小サイズであり、したがって、埋め込み型デバイスへの電力供給などの用途に、他の種類の発電器よりも良好に適合されている。
【0178】
第2のケーシング65によって流体のほとんどから高温端を断熱することが可能になり、したがって、第2のケーシング65がない場合に到達すると考えられるよりも高い温度に、高温端が容易に到達することが可能になる。生成される電力はしたがって、第2のケーシング65がない場合に生成される電力よりも大きい。
【0179】
ポリマー材料は、断熱性の第2のケーシング65を形成するのに特に適している。また、多数のポリマーに対して、人体又は動物体は特に良好な耐性を有する。
【0180】
多孔質材料で形成される第2のケーシング65により、ポンプの必要がないため、断熱と操作の容易さの両方を組み合わせることが可能になる。更に、ポンプに給電するために流用される電力が無いため、熱電発電器から出力される利用可能な電力がより大きくなる。
【0181】
流体Fをチャンバ85に注入するためのポンプの使用によって、流体Fの移動が対流によってのみ行われる場合と比べて、要素80と接触する流体Fの流量を大きくすることができる。また、流体Fの流量、及びしたがって埋め込み型デバイス10によって生成される電力を、ポンプの制御によって調節することができる。
【0182】
圧電ダイヤフラム型ポンプはほとんどエネルギーを消費せず、チャンバ85に注入される流体Fの体積が小さい用途に、例えば熱電発電器45が体内に埋め込まれる場合に、非常に良好に適合されている。
【0183】
要素80がマトリクス中に分散させた粒子の形態であるか又は圧粉粒子で形成された多孔質の固体である場合、多数の化学種C1、C2が要素80と接触し、この結果対応する発熱反応に加わることが可能になる。この場合も、生成される電力はより大きくなる。
【0184】
細菌及び酵母は自己増殖できるので、熱電発電器45の性能は、他の種類の要素80と比較して、時間が経過しても低下しない可能性が高い。
【0185】
酵母及び細菌は、特にこれらの種が埋め込み型デバイス10を浸漬することが意図される環境中に天然に存在する場合、特にこれらの種が流体F中に天然に存在する場合に、これらが浸漬されている環境に対して良好な耐性を有する。これは例えば、埋め込み型デバイス10を腸内に埋め込むことが意図される場合の、腸内細菌に当てはまる。
【0186】
酵素は触媒される反応において高い選択性を示し、したがってこれらの反応に対する良好な制御を実現する。
【0187】
一方が他方の生成物Pに関与する、少なくとも2回の連続した発熱反応を使用することで、高温端において得られる温度の向上、及びしたがって送達される電力の増加が可能になる。
【0188】
グルコースは多数の体液F中で利用可能な分子であり、したがって、特にグルコース及び/又はその分解の結果得られる生成物Pが多数の発熱反応に関与していることから、第1の化学種C1及び/又は第2の化学種C2としての使用に非常に適している。
【0189】
上記の実例では、熱電発電器45を、熱電発電器45が2つの電極55、60を備えるケースについて記載してきた。熱電発電器45が3つ以上の電極55、60を備える実施例が企図され得ることに留意されたい。
【0190】
例えば、熱電発電器45は、第2の電極60の第2の端部75が第3の電極の第2の端部75に電気的に接続されるかたちで直列に装着された、3つの電極を備える。第3の電極は特に、第1の電極55と同一である。
【0191】
熱電発電器45によってこのように生じた電位差は、第1の電極55の第2の端部75と第3の電極の第1の端部70の間で測定される。特に、第1の電位差は第1の電極55の第2の端部75及びと第2の電極60の第2の端部75の間で生じ、第2の電位差は3の電極の第1の端部と第2の端部の間で生じる。
【0192】
熱電発電器45内で4つ以上の電極が直列に装着されている実施例も企図され得る。
【0193】
図3を参照すると、本発明の熱電発電器用の多孔質材料として使用できる多孔質3Dマトリクス200が図示されていることが見て取れる。
【0194】
多孔質3Dマトリクス200は図示された実施例では立方体であるが、ただし本発明はこの点に関して制限されず、多孔質3Dマトリクスは場合によっては円筒又は厚板の形状も有する。
【0195】
多孔質3Dマトリクス200上に示されている矩形201は、多孔質3Dマトリクス200の細孔を表す。多孔質3Dマトリクスの細孔のサイズは、50μmから1mmまでの値をとり得る。
【0196】
多孔質3Dマトリクスは例えば、金属粒子粉末及び粘性のバインダの粘性のペーストから3Dプリントによって作製され、金属粒子粉末の粒子は例えば、炭素粒子、カーボン・ナノチューブ粒子、活性炭粒子、グラフェン粒子、アルミニウム粒子である。
【0197】
粘性のバインダは、以下の化合物のうちの1つの要素、又はいくつかの要素の混合物である:セルロース誘導体、アルギネート、アガロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル。
【0198】
多孔質3Dマトリクス200のある面は断熱材、例えばPCBによって閉じられており、多孔質3Dマトリクスのその他の面は熱伝導材、例えばアルミニウムによって閉じられている。
【0199】
細菌又は微生物は多孔質3Dマトリクス200の細孔201内で増殖できることになる。
【0200】
図4は、
図3に示す多孔質3Dマトリクス200と共に使用されている、本発明の一実施例に係る熱電発電器202を示す。
【0201】
図4に見ることができるように、多孔質3Dマトリクス200は流体入口203と流体出口204とを備え、流体はここではグルコースであり、流体入口203と流体出口204との間に多孔質3Dマトリクス200が含有する細菌又は微生物に給餌するためのグルコースのチャネルが確立され、多孔質3Dマトリクスを形成する材料の多孔性もまたこの給餌を可能にしている。
【0202】
多孔質3Dマトリクス200は、そこに含有される細菌又は微生物209が放出する熱が最適化されるように、熱電発電器202における熱損失が最小限となるような、熱容量の低い炭素ポリマーのマトリクスである。多孔質3Dマトリクスは、図示された非限定的な実施例では立方体であって、その面のうちの5つが断熱材、例えばパリレン系のポリマーで被覆されており、最後の面205が、例えばアルミニウム系の熱伝導材で被覆されている。
【0203】
熱電発電器202は、電圧源206と、一方の端部が電圧源に接続され他方の端部がアルミニウム系の熱伝導タイプの材料のプレート208に接続されて、電圧源206の側に低温源を、及びプレート208の側に高温源を作り出す、2つの電極207a及び207bと、から成る。高温源としてのプレート208は、多孔質3Dマトリクス200の面205と接触させられるか又はその近傍に置かれ、そこに熱を伝達する。
【0204】
多孔質3Dマトリクス200中には、細菌又は微生物209が存在する。多孔質3Dマトリクスを使用することで、多孔質3Dマトリクス200の表面及び内部における細菌又は微生物のバイオフィルムの形成によって、細菌又は微生物209の数又は密度の増加が可能になる。
【0205】
細菌又は微生物209の密度は、細菌又は微生物が溶液中にあるときよりも、バイオフィルム中にある場合の方が大きい。
【0206】
3Dマトリクスの多孔性によりまた、微生物に水及び基質を供給することもでき、有利である。