(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果素子、磁気メモリ装置並びに磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20230328BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20230328BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20230328BHJP
G11C 11/16 20060101ALI20230328BHJP
G11C 11/18 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/20
H10N50/10 M
G11C11/16 240
G11C11/16 230
G11C11/18
(21)【出願番号】P 2020514123
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015858
(87)【国際公開番号】W WO2019203132
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018080252
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 好昭
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/090730(WO,A1)
【文献】特開2017-199743(JP,A)
【文献】特開2017-059679(JP,A)
【文献】国際公開第2010/024201(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/122995(WO,A1)
【文献】特開2014-045196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0351085(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03382767(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0077177(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0056060(US,A1)
【文献】特開2018-022545(JP,A)
【文献】特表2005-520271(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208880(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/10
G11C 11/16
G11C 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル層である重金属層と、
面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転を
し、
前記重金属層は、W-Hf、W-Ta、Pt-Au、Pt-Ir又はPd-Rhの少なくとも1種類からなる
磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記記録層は、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが強磁性層である積層膜である
請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記記録層は、非磁性層を挟んだ強磁性層間に層間相互作用を有している
請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記記録層の最も前記重金属層側の層又は最も前記障壁層側の層の少なくとも1つが、前記記録層の他の強磁性層よりも薄い
請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記記録層は、第1強磁性層、第1非磁性層、第2強磁性層、第2非磁性層、第3強磁性層がこの順に積層された積層膜であり、前記第1強磁性層及び前記第3強磁性層が、前記第2強磁性層よりも薄い
請求項4に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
最も前記障壁層側の層がCo-Fe-B、Fe-B又はCo-Bのアモルファス層であり、
前記アモルファス層と接する非磁性層が、Ta、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む合金でなる
請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記記録層の前記非磁性層が、Ir、Rh、Ru、Os、Re又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む合金でなる
請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記接合部は、
前記記録層の最も前記障壁層側の層と前記参照層の磁化方向が平行のとき、前記参照層から、前記記録層の最も前記障壁層側の層に、書き込み補助電流が流れ、
前記記録層の最も前記障壁層側の層と前記参照層の磁化方向が反平行のとき、前記記録層の最も前記障壁層側の層から、前記参照層に、前記書き込み補助電流が流れる
請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
エピタキシャル層である重金属層と、
面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をし、
前記記録層は、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが強磁性層である積層膜であり、
前記記録層の最も前記重金属層側の層又は最も前記障壁層側の層の少なくとも1つが、前記記録層の他の強磁性層よりも薄く、
前記記録層は、第1強磁性層、第1非磁性層、第2強磁性層、第2非磁性層、第3強磁性層がこの順に積層された積層膜であり、前記第1強磁性層及び前記第3強磁性層が、前記第2強磁性層よりも薄く、
前記第1非磁性層と前記第2非磁性層とが異なる材料で構成されている
磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
エピタキシャル層である重金属層と、
面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をし、
前記重金属層は、(100)方向に配向したMgO層上にエピタキシャル成長したエピタキシャル層である
磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
エピタキシャル層である重金属層と、
面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をし、
前記重金属層は、(100)方向に配向したMgO層に隣接しており、前記MgO層と前記重金属層との界面で、前記MgO層の格子と前記重金属層の格子が整合している
磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
エピタキシャル層であり、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Au、Pb又はこれらの元素を含む合金である重金属層と、
面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をする
磁気抵抗効果素子。
【請求項13】
重金属層と、
前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記記録層は、
強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、エピタキシャル層である強磁性層を含む積層膜であり、
最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが面内方向に磁化した強磁性層であり、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をし、
前記記録層の最も前記重金属層側の層が、前記記録層の他のすべての強磁性層よりも薄い
磁気抵抗効果素子。
【請求項14】
エピタキシャル層である重金属層と、
面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をし、
前記記録層は、第1強磁性層、第1非磁性層、第2強磁性層、第2非磁性層、第3強磁性層がこの順に積層された積層膜であり、前記第1強磁性層及び前記第3強磁性層が、前記第2強磁性層よりも薄く、
前記第1非磁性層と前記第2非磁性層とが異なる材料で構成されている
磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
重金属層と、
前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記記録層は、
第1強磁性層、第1非磁性層、第2強磁性層、第2非磁性層、第3強磁性層がこの順に積層され、エピタキシャル層である強磁性層を含む積層膜であり、
最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが面内方向に磁化した強磁性層であり、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をし、
前記第1強磁性層及び前記第3強磁性層が、前記第2強磁性層よりも薄く、
前記第1非磁性層と前記第2非磁性層とが異なる材料で構成されている
磁気抵抗効果素子。
【請求項16】
重金属層と、
前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部と
を備え、
前記記録層は、
強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが強磁性層である積層膜であり、
前記強磁性層が面内方向に磁化しており、
前記記録層の最も前記重金属層側の層が、前記記録層の他の前記強磁性層よりも薄く、
前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をする
磁気抵抗効果素子。
【請求項17】
前記記録層は、第1強磁性層、第1非磁性層、第2強磁性層、第2非磁性層、第3強磁性層がこの順に積層された積層膜であり、前記第1強磁性層及び前記第3強磁性層が、前記第2強磁性層よりも薄い
請求項16に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項18】
前記接合部のアスペクト比が1.5以下である
請求項1~17のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項19】
前記参照層は、積層フェリ構造の積層膜である
請求項1~18のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項20】
前記参照層が、Ir、Rh、Ru、Os、Re又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む合金でなる非磁性層を有する
請求項19に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項21】
前記接合部は、前記参照層上に、反強磁性体で構成される反強磁性層を備える
請求項1~20のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項22】
前記反強磁性体は、Ir-Mn、Pt-Mn又はNi-Mnである
請求項21に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項23】
前記重金属層は、W-Hf、W-Ta、Pt-Au、Pt-Ir又はPd-Rhの少なくとも1種類からなる
請求項
9~22のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項24】
前記重金属層に前記書き込み電流が流れると共に、前記記録層と前記参照層との間に書き込み補助電流が流れると、前記記録層が磁化反転し、
前記接合部は、前記重金属層に流れる前記書き込み電流がオフになった後も、前記記録層と前記参照層との間に前記書き込み補助電流が流れる
請求項1~23のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を備える磁気メモリ装置。
【請求項26】
複数の前記磁気抵抗効果素子を有し、一の前記磁気抵抗効果素子の前記重金属層が第1方向に延伸され、延伸された前記重金属層を他の複数の前記磁気抵抗効果素子が共有し、前記重金属層上で、前記接合部が前記第1方向に配列されている磁気抵抗効果素子アレイと、
前記磁気抵抗効果素子アレイから選択した2つの前記接合部の抵抗差に応じた電圧を出
力する差動アンプと
を備える請求項25に記載の磁気メモリ装置。
【請求項27】
重金属層と、前記重金属層上に設けられた磁化反転可能な記録層、前記記録層上に設けられた障壁層及び前記障壁層上に設けられ、磁化方向が固定された参照層を有する接合部とを備える磁気抵抗効果素子を複数有し、一の前記磁気抵抗効果素子の前記重金属層が第1方向に延伸され、延伸された前記重金属層を他の複数の前記磁気抵抗効果素子が共有し、前記重金属層上で、前記接合部が前記第1方向に配列されている磁気抵抗効果素子アレイと、
前記磁気抵抗効果素子アレイから選択した2つの前記接合部の抵抗差に応じた電圧を出力する差動アンプと
を備える磁気メモリ装置。
【請求項28】
第1方向に延伸された重金属層上に、磁化反転可能な記録層、障壁層及び磁化方向が固定された参照層を有する接合部を複数備え、前記接合部が前記第1方向に配列された磁気抵抗効果素子アレイを有し、前記接合部の抵抗値に応じてデータを記憶する磁気メモリ装置であって、
複数の前記接合部から選択された2つの前記接合部が接続される差動アンプを備え、
前記磁気抵抗効果素子アレイは、
前記重金属層の一端部と他端部の間にリセット電流が流れると、各前記接合部の前記記録層の磁化方向が所定方向に揃い、
前記記録層の磁化方向が前記所定方向に揃っている状態で、前記重金属層の前記一端部と前記他端部との間に書き込み電流が流れると共に、一の前記接合部の前記参照層から、前記重金属層を介して、他の前記接合部の前記参照層に書き込み補助電流が流れると、前記書き込み補助電流が流れる2つの前記接合部のいずれか一方の前記記録層が磁化反転し、
前記差動アンプが、一の前記接合部を流れる電流と、他の前記接合部を流れる電流との差に基づく電圧を出力し、
前記差動アンプの出力電圧に基づいて、一の前記接合部と他の前記接合部とに記憶されたデータが読み出される
磁気メモリ装置。
【請求項29】
請求項28に記載の磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法であって、
第1方向に延伸された重金属層上に、磁化反転可能な記録層、障壁層及び磁化方向が固定された参照層を有する接合部を複数備え、前記接合部が前記第1方向に配列された磁気抵抗効果素子アレイを有し、前記接合部の抵抗値に応じてデータを記憶する磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法であり、
前記重金属層にリセット電流を流し、各前記接合部の前記記録層の磁化方向を所定方向に揃えるリセット工程と、
前記重金属層に書き込み電流を流すと共に、一の前記接合部の前記参照層から、前記重金属層を介して、他の前記接合部の前記参照層へ向けて書き込み補助電流を流す書き込み工程と、
一の前記接合部を流れる電流と、他の前記接合部を流れる電流の差に基づいて、一の前記接合部と他の前記接合部とに記憶されたデータを読み出す読み出し工程と
を有する磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法。
【請求項30】
前記書き込み工程は、一の前記接合部から、該接合部と隣接する他の前記接合部に前記書き込み補助電流を流す
請求項29に記載の磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ装置並びに磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速性と高書き換え耐性が得られる次世代不揮発メモリとして、磁気抵抗効果素子を記憶素子として用いたMRAM(Magnetic Random Access Memory)が知られている。MRAMに用いる次世代の磁気抵抗効果素子としては、スピン軌道トルクを利用してMTJ(Magnetic Tunnel Junction)を磁化反転させるSOT-MRAM(Spin-Orbit Torque Magnetic Random Access Memory)素子が注目されている(特許文献1参照)。
【0003】
SOT-MRAM素子は、重金属層上に、強磁性層(記録層ともいう)/絶縁層(障壁層ともいう)/強磁性層(参照層ともいう)の3層構造を含む接合部が設けられた構成をしている。SOT-MRAM素子は、現状用いられているCo-Fe形の磁性体の場合、記録層と参照層の磁化方向が平行な平行状態より、記録層と参照層の磁化方向が反平行な反平行状態の方が素子の抵抗が高いという性質を有し、平行状態と反平行状態を0と1に対応させてデータを記録する。SOT-MRAM素子は、参照層の磁化方向が固定され、記録層が磁化反転可能になされており、記録層が磁化反転することで、平行状態と反平行状態とを切り替えることができる。SOT-MRAM素子では、重金属層に電流を流すことでスピン軌道相互作用によりスピン流を誘起し、スピン流により分極したスピンが記録層に流入することで記録層が磁化反転し、データが書き込まれる。また、記録層は、磁化容易方向に磁化されるので、スピンの流入がなくなっても、磁化状態が保持され、SOT-MRAM素子はデータが保存される。
【0004】
SOT-MRAM素子には、記録層、参照層を面内方向に磁化させる面内磁化型のSOT-MRAM素子と、記録層、参照層を厚さ方向(垂直方向)に磁化させる垂直磁化型のSOT-MRAM素子がある。面内磁化型のSOT-MRAM素子には、磁化方向が面内であるため、磁化方向が垂直方向であるときより流入したスピンにより磁化反転し易く、垂直磁化型のSOT-MRAM素子より書き込み電流を小さくできるという特徴がある。そのため、面内磁化型のSOT-MRAM素子は、MRAMに用いる磁気抵抗効果素子として特に注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
面内磁化型のMTJを用いたSOT-MRAM素子では、接合部を楕円形状や長方形状のような高アスペクト比の長細形状に形成して記録層に形状磁気異方性を生じさせ、記録層の長軸方向を磁化容易方向にし、記録層の磁化方向が面内となるようにしている。このように、面内磁化型のSOT-MRAM素子は、接合部をアスペクト比が2~3程度の形状に形成することで、面内方向に形状磁気異方性を生じさせて、磁化方向が面内となるようにしている。そのため、面内磁化型のSOT-MRAM素子には、メモリの大容量化のために接合部のアスペクト比を小さくすると、磁気異方性が小さくなり熱安定性が損なわれ、不揮発メモリとしての性質が損なわれるという問題があり、接合部のアスペクト比を小さくするのが難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、接合部のアスペクト比を小さくできる磁気抵抗効果素子、磁気メモリ装置並びに磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による磁気抵抗効果素子は、エピタキシャル層である重金属層と、面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部とを備え、前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をする。
【0009】
本発明による磁気抵抗効果素子は、重金属層と、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部とを備え、前記記録層は、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、エピタキシャル層である強磁性層を含む積層膜であり、最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが面内方向に磁化した強磁性層であり、前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をする。
【0010】
本発明による磁気抵抗効果素子は、重金属層と、前記重金属層上に設けられた記録層と、前記記録層上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層と、前記障壁層上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層とを有する接合部とを備え、前記記録層は、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も前記重金属層側の層と、最も前記障壁層側の層とが強磁性層である積層膜であり、前記強磁性層が面内方向に磁化しており、前記記録層の最も前記重金属層側の層又は最も前記障壁層側の層の少なくとも1つが前記記録層の他の強磁性層よりも薄く前記重金属層に書き込み電流を流すことにより、前記記録層が磁化反転をする。
【0011】
本発明による磁気メモリ装置は、請求項1~22のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を備える。
【0012】
本発明の磁気メモリ装置は、重金属層と、前記重金属層上に設けられた磁化反転可能な記録層、前記記録層上に設けられた障壁層及び前記障壁層上に設けられ、磁化方向が固定された参照層を有する接合部とを備える磁気抵抗効果素子を複数有し、一の前記磁気抵抗効果素子の前記重金属層が第1方向に延伸され、延伸された前記重金属層を他の複数の前記磁気抵抗効果素子が共有し、前記重金属層上で、前記接合部が前記第1方向に配列されている磁気抵抗効果素子アレイと、前記磁気抵抗効果素子アレイから選択した2つの前記接合部の抵抗差に応じた電圧を出力する差動アンプとを備える。
【0013】
本発明の磁気メモリ装置は、第1方向に延伸された重金属層上に、磁化反転可能な記録層、障壁層及び磁化方向が固定された参照層を有する接合部を複数備え、前記接合部が前記第1方向に配列された磁気抵抗効果素子アレイを有し、前記接合部の抵抗値に応じてデータを記憶する磁気メモリ装置であって、複数の前記接合部から選択された2つの前記接合部が接続される差動アンプを備え、前記磁気抵抗効果素子アレイは、前記重金属層の一端部と他端部の間にリセット電流が流れると、各前記接合部の前記記録層の磁化方向が所定方向に揃い、前記記録層の磁化方向が前記所定方向に揃っている状態で、前記重金属層の前記一端部と前記他端部との間に書き込み電流が流れると共に、一の前記接合部の前記参照層から、前記重金属層を介して、他の前記接合部の前記参照層に書き込み補助電流が流れると、前記書き込み補助電流が流れる2つの前記接合部のいずれか一方の前記記録層が磁化反転し、前記差動アンプが、一の前記接合部を流れる電流と、他の前記接合部を流れる電流との差に基づく電圧を出力し、前記差動アンプの出力電圧に基づいて、一の前記接合部と他の前記接合部とに記憶されたデータが読み出される。
【0014】
本発明の磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法は、第1方向に延伸された重金属層上に、磁化反転可能な記録層、障壁層及び磁化方向が固定された参照層を有する接合部を複数備え、前記接合部が前記第1方向に配列された磁気抵抗効果素子アレイを有し、前記接合部の抵抗値に応じてデータを記憶する磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法であって、前記重金属層にリセット電流を流し、各前記接合部の前記記録層の磁化方向を所定方向に揃えるリセット工程と、前記重金属層に書き込み電流を流すと共に、一の前記接合部の前記参照層から、前記重金属層を介して、他の前記接合部の前記参照層へ向けて書き込み補助電流を流す書き込み工程と、一の前記接合部を流れる電流と、他の前記接合部を流れる電流の差に基づいて、一の前記接合部と他の前記接合部とに記憶されたデータを読み出す読み出し工程とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録層が、エピタキシャル層である強磁性層を含むので、面内磁気異方性としての結晶磁気異方性により磁化方向が面内となり、形状磁気異方性により磁化方向を面内とする必要がなく、磁気異方性が小さくなり熱安定性が損なわれることも抑制でき、接合部のアスペクト比を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1Aは、本発明の第1実施形態の磁気抵抗効果素子の上面図であり、
図1Bは本発明の第1実施形態の磁気抵抗効果素子に関する他の実施形態を示す上面図である。
【
図2】
図2Aは、
図1A中のA-A’で磁気抵抗効果素子を切断したときのA-A’断面図であり、第1実施形態の磁気抵抗効果素子の記録層と参照層とが反平行状態にあるときを示しており、
図2Bは、
図2Aと同様の断面図であり、第1実施形態の磁気抵抗効果素子の記録層と参照層とが平行状態にあるときを示している。
【
図3】
図3Aは、第2実施形態の磁気抵抗効果素子の記録層と参照層とが反平行状態にあるときを示す概略断面図であり、
図3Bは、第2実施形態の磁気抵抗効果素子の記録層と参照層とが平行状態にあるときを示す概略断面図である。
【
図4】
図4Aは、第2実施形態の磁気抵抗効果素子の記録層と参照層とが反平行状態にあるときを示す概略断面図であり、
図4Bは、第2実施形態の磁気抵抗効果素子の記録層と参照層とが平行状態にあるときを示す概略断面図である。
【
図5】強磁性層同士が強磁性的に結合した記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図である。
【
図6】強磁性層同士が強磁性的に結合した記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図である。
【
図7AB】
図7Aは、最も重金属層側の強磁性層が他の強磁性層より薄い記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図であり、
図7Bは、最も障壁層側の強磁性層が他の強磁性層より薄い記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図である。
【
図7C】最も重金属層側の強磁性層と最も障壁層側の強磁性層が他の強磁性層より薄い記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図である。
【
図8】
図8Aは、最も重金属層側の強磁性層が他の強磁性層より薄い記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図であり、
図8Bは、最も障壁層側の強磁性層が他の強磁性層より薄い記録層を有する磁気抵抗効果素子の概略断面図である。
【
図9】
図9Aは、本発明の実施形態の磁気抵抗効果素子を使用した1ビット分のメモリセル回路で、重金属層の両端の下部に端子を設けた場合の回路構成を示す例であり、
図9Bは、重金属層の両端の表面に端子を設けた場合の回路構成を示す例である。
【
図10】
図9Aに示すメモリセル回路を複数個配置した磁気メモリ装置のブロック図である。
【
図11】
図11Aは、本発明の磁気抵抗効果素子アレイを用いた磁気メモリ装置を示す概略図であり、
図11Bは、磁気抵抗効果素子アレイを用いた磁気メモリ装置の配線の一例を示す概略図である。
【
図12】
図12Aは、本発明の磁気抵抗効果素子を用いた磁気メモリ装置の全体構成を示す概略図であり、
図12Bは、
図12A中のB-B’で磁気抵抗効果素子アレイを切断したときのB-B’断面図である。
【
図14】
図14は、ビットセレクターの構成の一例を示す概略図である。
【
図15】
図15Aは、書き込み補助電流により磁化反転をアシストできる場合の例を示す図であり、
図15Bは、書き込み補助電流により磁化反転をアシストできない場合の例を示す図である。
【
図16】
図16は、磁気メモリ装置の読み出し方法を説明する模式図である。
【
図17】
図17Aは、本発明の他の実施形態の磁気抵抗効果素子の上面図であり、
図17Bは、本発明の他の実施形態の磁気抵抗効果素子の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)本発明の第1実施形態の磁気抵抗効果素子
以下、
図1A、
図2A、
図2Bを参照して、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1を説明する。
図1Aは、磁気抵抗効果素子1の上面図であり、
図2A、2Bは、
図1A中のA-A’で磁気抵抗効果素子1を切断したときのA-A’断面図である。本明細書では、
図1Aに示すように、重金属層2の短手方向をx方向(紙面右側を+x方向)とし、長手方向をy方向(上面図では紙面上側、断面図では紙面奥側を+y方向)とし、重金属層2の表面に対して垂直方向をz方向(断面図では紙面上側を+z方向)としている。
【0018】
図1Aに示すように、磁気抵抗効果素子1は、重金属層2と、記録層と障壁層と参照層とを含む磁気トンネル接合部3(以下、単に接合部3という)とを備えている。重金属層2は、第1方向(本実施形態ではy方向)に延伸された直方体形状をしており、上面から見ると長方形状をしている。重金属層2は、厚さ0.5nm~20nm、望ましくは、1nm~10nmである。重金属層2は、x方向に幅10~150nmであり、望ましくは、接合部3の幅と同じ長さにするのが良く、最も書込み効率が良くなる。本実施形態では、重金属層2のx方向の幅を接合部3の幅よりも大きくなるようにしている。また、例えば、
図1Bに示す磁気抵抗効果素子1bのように、重金属層2のx方向の幅を、接合部3の幅と等しくなるようにしてもよい。重金属層2は、y方向に長さ15nm~260nmであり、電流さえ流すことができれば短ければ短いほどよく、メモリを高密度化できる。この重金属層2の長手方向の長さは、重金属層2に1つの接合部3を設けるときの望ましい長さであり、1つの重金属層2上に複数の接合部3を配置する場合は、この限りではない。重金属層2は、スピン軌道相互作用の大きい重金属、例えば、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pb又はこれらの元素を含む合金が望ましい。合金としては、例えば、W-Hf、W-Ta、Pt-Au、Pt-Irなどが特に望ましい。さらに、重金属層2はPd-Rhなどの合金で構成されてもよい。重金属層2は、高配向のエピタキシャル層であり、導電性を有している。本実施形態では、重金属層2は、接合部3の記録層を磁化反転させる書き込み電流Iwが、重金属層2の第1方向の一端部と他端部の間に流される。すなわち、書き込み電流Iwは、重金属層2の長手方向に沿って、第1方向と同じ向きに流される。本明細書では、エピタキシャル層は、エピタキシャル成長により形成された層又は薄膜を意味し、例えば、単結晶の層、概ね単結晶であるが、一部が多結晶などになっている層、及び、単結晶が支配的であり、実際上、単結晶とみなすことができる層などを含むものとする。
【0019】
重金属層2は、表面にエピタキシャル層を有する下地層上に形成されている。本実施形態の場合、下地層は、アモルファス金属層20と、エピタキシャル層であるMgO層21とでなる2層膜であり、MgO層21上に重金属層2がエピタキシャル成長により形成されている。アモルファス金属層20は、例えば、Co-Fe-B、Fe-B又はTa-BなどBを含む金属でなるアモルファス(非晶質)の層である。MgO層21は、(100)方向に配向した結晶性の良いMgO層であり、アモルファス金属層上にMgOを積層すると、(100)方向に配向した単結晶が支配的なMgO層が形成される性質を利用して形成されている。このように、本実施形態の下地層は、アモルファス金属層20上に、MgOを堆積してエピタキシャル層のMgO層21を形成することで作製される。重金属層2は、エピタキシャル層であるMgO層21上に、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法によりエピタキシャル成長させて形成しているので、エピタキシャル層となる。なお、表面にエピタキシャル層を有する下地層は、単結晶基板であってもよく、アモルファス層などの基材上にエピタキシャル層をCMOSセンサーなどで用いられている基板のReverse Engineering技術によって別途形成したエピタキシャル層を張り合わせたものであってもよい。また、重金属層2は、エピタキシャル層である重金属層を種々の基材上に張り合わせて重金属層2を形成してもよい。なお、重金属層2の結晶構造は、重金属層2を構成する材料によって異なり、W-Hf又はW-Taの場合、bcc又はβ構造であり、Pt-Au、Pt-Ir又はPd-Rhの場合fcc構造である。
【0020】
接合部3は、記録層の磁化容易方向(
図1A中に示す矢印A1)が重金属層2の長手方向(y方向)と重金属層2の面内で概ね垂直になるように、エピタキシャル成長した重金属層2上に設けられている。そのため、書き込み電流Iwが、記録層の磁化方向と概ね直交する方向に、重金属層2の一端部と他端部の間で流れる。接合部3は、円柱形状に形成されており、上面から見たとき、円形状をしている。そのため、接合部3のアスペクト比は概ね1である。ここで、本明細書でいう接合部3のアスペクト比は、上面から見た接合部3の形状のアスペクト比をいい、接合部3が、上面から見たとき(あるいは、幅方向の断面が)、正方形状や円形状などの長軸及び短軸の区別のない形状の場合は1であり、四辺形状の場合は長辺の長さと短辺の長さの比であり、楕円形状の場合は長軸の長さと短軸の長さの比である。後述するように、接合部3の記録層31がエピタキシャル層の強磁性層を含むようにしているので、結晶磁気異方性により記録層31の磁化方向を面内方向にでき、このような接合部3のアスペクト比を、1~1.5程度にすることができる。アスペクト比は、1~1.5が望ましく、1~1.3とすることがさらに望ましい。このようにすることで、従来よりも高密度に磁気抵抗効果素子を配置した磁気メモリ装置を作成できる。接合部3のアスペクト比が1~1.5であれば、接合部3の形状は特に限定されず、立方体や直方体、楕円柱などであってもよい。例えば、
図1Bに示す磁気抵抗効果素子1bのように、接合部3は、角部が丸まった四角柱形状をしていてもよい。このような接合部3は、上面から見たとき、正方形の四つの角が丸まって曲線となった形状をしている。
【0021】
なお、接合部3は、短辺の長さ又は短軸の長さ(アスペクト比が1の場合は1辺の長さ又は直径)を10~100nmとするのが望ましく、この範囲で小さければ小さいほど大容量化が可能である。また、本実施形態の場合、接合部3は、重金属層2上に、接合部3の各層をエピタキシャル成長により積層後、フォトリソグラフィ技術を用いて円柱形状に成形している。そのため、接合部3の各層は、エピタキシャル層である。
【0022】
図2Aに示すように、接合部3は、記録層31と、障壁層32と、参照層33と、反強磁性層34とを備えている。記録層31は、例えば、Co、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金が望ましい。具体的に説明すると、Coを含む合金としては、Co-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Ptなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Coを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるCo-richであることが望ましい。Feを含む合金としては、Fe-Pt及びFe-Pdなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Feを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるFe-richであることが望ましい。Co及びFeを含む合金としては、Co-Fe、Co-Fe-Pt及びCo-Fe-Pdなどの合金が望ましい。Co及びFeを含む合金は、Co-richであってもFe-richであってもよい。Mnを含む合金としては、Mn-Ga及びMn-Geなどの合金が望ましい。また、上記で説明したCo、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金に、B、C、N、O、P、Al及びSiなどの元素が多少含まれていてもかまわない。なお、記録層31は、上記の材料で構成された強磁性層と、Ta、W、Mo、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Cr、Au、Cu、Os及びReなどの非磁性体で形成された非磁性層との積層膜であってもよい。本実施形態では、記録層31が1層の強磁性層により構成されるが、記録層31は、例えば、強磁性層、非磁性層、強磁性層の3層構造や、強磁性層、非磁性層、強磁性層、非磁性層、強磁性層の5層構造など、エピタキシャル層である強磁性層と非磁性層の積層膜であってもよい。非磁性層は、エピタキシャル層でも、アモルファス層であってもよく、後述する第1非磁性層11aと同じ材料で構成できる。なお、アモルファス層とは、アモルファスの層又は薄膜を意味し、アモルファスが支配的であれば、一部に結晶を有する層も含むものとする。
【0023】
また、記録層31は、強磁性層上にTa、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などで形成された1nm以下の非磁性層と、例えばCo-Fe-B、Fe-B及びCo-Bなどの強磁性体で形成されたアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)とをこの順に備えていてもよい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層32をアモルファス強磁性体上にエピタキシャル成長させることとなり、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。そして、アモルファス強磁性層は、層間相互作用により、非磁性層を挟んで向かい合う強磁性層と磁化が強磁性的に結合し、面内方向に磁化が向く。アモルファス強磁性層とは、強磁性体で構成されたアモルファスの層又は薄膜を意味し、アモルファスが支配的であれば、一部に結晶を有する層も含むものとする。
【0024】
エピタキシャル層である重金属層2上に、エピタキシャル成長により積層されているため、記録層31は、重金属層2と接しており、エピタキシャル層である。記録層31の結晶構造は、記録層31を構成する材料によって異なる。さらに、記録層31は、記録層31を構成する材料の格子定数と重金属層2を構成する材料の格子定数の不整合などにより、結晶に歪が生じている。そのため、バルクではbcc構造の材料で形成された記録層31が、エピタキシャル成長した場合、bcc構造が歪んだbct構造となり、バルクでfcc構造の材料で形成された記録層31がエピタキシャル成長した場合には、fcc構造が歪んだfct構造となる。例えば、Co-Feでは、下地の種類、組成比によりbct構造、fct構造にもなりえる。そして、この結晶の歪により、記録層31に面内磁気異方性としての結晶磁気異方性が生じ、記録層31の面内に磁化容易軸が生じ、磁化容易軸に沿った方向が磁化容易方向となる。記録層31は、このようにして生じた結晶磁気異方性が支配的である。記録層31の磁化M31は、飽和磁化以上の外部磁場やスピントルクなどがかかっていない状態では、概ねこの磁化容易方向を向き、面内方向に磁化している。そのため、記録層31の磁化状態が保持され、記録層31に記録されたデータが保持される。
【0025】
本実施形態では、記録層31の磁化容易方向が重金属層2の長手方向(y方向)と概ね垂直となるように、接合部3を重金属層2上に設けているので、記録層31の磁化M31は、+x方向又は-x方向を向いている。
図2A、
図2Bでは、記録層31の磁化M31を白抜きの矢印で示しており、矢印の向いている方向が磁化方向を表している。なお、
図2A、
図2Bでは各層の磁化を便宜的に矢印で表しており、実際には、磁化方向を向いていない成分も各層に含まれている。以下、本明細書の図面において磁化を矢印で表した場合は、このことと同様である。
【0026】
このように、磁気抵抗効果素子1では、記録層31が結晶磁気異方性により磁化容易方向を有するので、記録層31が形状磁気異方性を有するようにする必要がなく、接合部3をアスペクト比の大きい長細形状にする必要がないので、アスペクト比を小さくできる。また、形状磁気異方性により記録層31を面内に磁化させる場合は、アスペクト比を小さくすると磁気異方性が小さくなり熱安定性が損なわれたが、記録層31が結晶磁気異方性を有しているので、アスペクト比を小さくしても結晶磁気異方性により十分に磁気異方性を有し、熱安定性が損なわれることも抑制できる。なお、記録層31の厚さは1.0nm~20nm程度とするのが望ましい。
【0027】
障壁層32は、例えば、MgO、Al2O3、AlN及びMgAlOなどの絶縁体でなる絶縁層であり、記録層31上に形成されている。障壁層32は、例えば、その厚さが0.1nm~5nm、望ましくは、0.5nm~2nmとなるように形成されている。なお、記録層31は、記録層31と障壁層32の材質及び厚さの組み合わせにより、障壁層32との界面における界面異方性効果により磁化方向が垂直方向となる場合があるため、障壁層32との関係で界面異方性効果により、磁化M31が垂直方向を向くことを避けることができる厚さに形成するのが特に望ましい。例えば、障壁層32がMgOで、記録層31の表面がCo-Fe-Bの場合、記録層31は、1.4nmより厚いことが望ましい。
【0028】
尚、本実施形態では、エピタキシャル層である記録層31上に、障壁層32をエピタキシャル成長させて形成しているので、障壁層32も、エピタキシャル層である。そして、(100)に配向したMgO層21上に重金属層2、記録層31がエピタキシャル成長により形成されているので、障壁層32は(100)に配向したMgOのエピタキシャル層となる。なお、前述したように、障壁層32を構成するMgO(100)膜の形成は、エピタキシャル層である記録層31上に、Ta、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などで形成された非磁性層と、Co-Fe-B、Fe-B又はCo-Bなどで構成されるアモルファス強磁性層を形成した上に成長しても形成できる。
【0029】
参照層33は、強磁性層15、非磁性層16、強磁性層17が、障壁層32上にこの順に積層された3層積層膜であり、3層の積層フェリ構造をしている。積層フェリ構造とは、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、非磁性層を挟んで向かい合う強磁性層が層間相互作用により反強磁性的に結合して磁化方向が反平行となる構造をいう。そのため、強磁性層15の磁化M15の向きと強磁性層17の磁化M17の向きとが反平行である。本明細書では、磁化方向が反平行といった場合、磁化の方向が概ね180度異なることをいう。
【0030】
強磁性層15及び強磁性層17は、記録層31と同様の材料で形成することができ、非磁性層16は、Ir、Rh、Ru、Os、Re又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などで形成することができる。非磁性層16は、Ruの場合は0.5nm~1.0nm、Irの場合は0.5nm~0.8nm、Rhの場合は0.7nm~1.0nm、Osの場合は0.75nm~1.2nm、Reの場合は0.5nm~0.95nm程度の厚さに形成する。そのため、参照層33では、強磁性層15の磁化M15と強磁性層17の磁化M17とが、層間相互作用により反強磁性的に結合している。強磁性層15及び強磁性層17は、それぞれ、1.0nm~5.0nm程度、1.0nm~5.0nm程度に形成され、記録層31に印加される漏れ磁場が小さくなるように強磁性層17の膜厚を強磁性層15の膜厚より少し厚めにすることが望ましい。参照層33は、5層以上の積層フェリ構造をしてもよく、積層フェリ構造とせずに、1層の強磁性層で構成してもよい。本実施形態では、参照層33は、各層がエピタキシャル層であるが、一部の層がアモルファスの材料で構成されていてもよい。また、強磁性層15は、例えばCo-Fe-B、Fe-B又はCo-Bなどで構成されるアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)、Ta、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金で形成された非磁性層(1nm以下)、強磁性層の順に積層した3層膜であってもよい。
【0031】
反強磁性層34は、例えば、Ir-Mn、Pt-Mn及びNi-Mnなどの反強磁性体でなり、厚さが5nm~15nm程度に形成されている。参照層33上に反強磁性層34を設けることで、反強磁性層34と接する参照層33の強磁性層17の磁化M17の向きが、反強磁性層34を構成する反強磁性体による反強磁性相互作用によって、所定方向に固着される。その結果、強磁性層17の磁化M17と反強磁性的に結合している強磁性層15の磁化M15の向きも固定される。このように、反強磁性層34は、参照層33の磁化方向を所定方向に固定する。
図2A、
図2Bでは、固定された磁化M15、M17を黒塗りの矢印で示している。本実施形態では、反強磁性層34は、エピタキシャル層である必要はなく、多結晶でもかまわない。さらに、反強磁性層34は、面内で記録層31の磁化容易方向と概ね平行又は反平行となるように、磁化M15、磁化M17を磁場中熱処理により固定している。参照層33の強磁性層15、強磁性層17は、当該磁化容易方向と平行又は反平行に固定された成分が多数を占めていればよく、磁化容易方向と平行でない成分を含んでいてもよい。なお、反強磁性層34を用いなくてもよい。
【0032】
本実施形態の一例として、磁気抵抗効果素子1は、例えば、重金属層2:W-Hf(7nm)と、記録層31:Co-Fe(1.8nm)と、障壁層32:MgO(100)(1.0nm)、強磁性層15:Co-Fe-B(1.5nm)/Ta(0.5nm)/Co-Fe(1.0nm)、非磁性層16:Ru(0.85nm)、強磁性層17:Co-Fe(2.8nm)でなる参照層33と、反強磁性層34:Ir-Mn(10nm)とで構成される。
【0033】
このような磁気抵抗効果素子1では、記録層31と参照層33の磁化方向が、平行か、反平行かによって、接合部3の抵抗が変化する。本実施形態では、参照層33が多層構造をしているので、実際には、記録層31(記録層31が多層の場合は障壁層32に接する強磁性層)の磁化方向(磁化M31の向き)と障壁層32に接する強磁性層15の磁化方向(磁化M15の向き)が、平行か、反平行かによって接合部3の抵抗が変化する。具体的には、磁化M31と磁化15の向きが平行のときは、磁化M31と磁化M15の向きが反平行のときより抵抗が低い。本実施形態では、記録層31と参照層33が平行状態といった場合は、磁化M31と磁化M15の向きが平行な状態を指し、記録層31と参照層33が反平行状態といった場合は、磁化M31と磁化M15の向きが反平行な状態であることを指すものとする。
【0034】
磁気抵抗効果素子1では、重金属層2を流れる書き込み電流Iwにより記録層31の磁化M31の向きを反転させることで、記録層31と参照層33とが抵抗の低い平行状態と抵抗の高い反平行状態の間で変化する。この平行状態と反平行状態とに“0”と“1”の1ビットデータを割り当てることにより、磁気抵抗効果素子1にデータを記憶させることができる。なお、磁気抵抗効果素子1からデータを読み出す際には、反強磁性層34上に設けられた電極(図示せず)と重金属層2との間に読み出し電流Ireを流し、磁気抵抗効果素子1の状態(平行状態か反平行状態か)を検出し、記憶データを読み出す。
【0035】
次に、磁気抵抗効果素子1の書き込み動作を説明する。
図2Aは、記録層31と参照層33とが反平行状態にあるときを示しており、
図2Bは、記録層31と参照層33とが平行状態にあるときを示している。すなわち、
図2Aは、磁気抵抗効果素子1がデータ“1”を記憶している状態を示しており、
図2Bは、磁気抵抗効果素子1がデータ“0”を記憶している状態を示している。
【0036】
まずは、
図2Aに示すように、データ“1”を記憶している磁気抵抗効果素子1にデータ“0”を書き込む例を説明する。重金属層2の長手方向に、且つ、
図2Aの紙面奥側から紙面手前側(
図1Aでは-y方向)に向かって書き込み電流Iwを流す。書き込み電流Iwはパルス電流である。すると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が生じ、Hf、Ta、W、Re又はこれらを主とする合金などで重金属層2が構成され、重金属層2のスピンホール角の符号が負のとき、記録層31の磁化M31と向きが反平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、スピンSAと向きが平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、スピンSAが記録層31に流入する。なお、Ir、Pt、Au又はこれらを主とする合金などで重金属層2が構成され、重金属層2のスピンホール角の符号が正のときは、書き込み電流Iwを
図2Aの紙面手前側から紙面奥側(+y方向)に流すことで、記録層31の磁化M31と向きが反平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、スピンSAと向きが反平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。
【0037】
図2Aの記録層31内では、流入したスピンSAが、磁化M31の向きと反平行のため、磁化M31がスピンSAによりトルクを受け、磁化M31が反転する。このようにして記録層31の磁化方向が反転し、
図2Bに示すように、記録層31と参照層33とが平行状態になる。反転した磁化M31は、書き込み電流Iwが0になっても維持される。このようにしてデータ“0”を磁気抵抗効果素子1に書き込む。書き込み電流Iwのパルスのパルス幅は、書き換えに要する時間以上の時間であり、本実施の形態においては、30ns未満の時間、例えば、0.1ns秒以上10ns秒未満である。パルス電流のパワーは、強磁性層の厚さや異方性の強さ、パルス幅などに応じて適宜選定する。
【0038】
このとき、記録層31と参照層33との間に、記録層31の磁化反転をアシストする書き込み補助電流Iwaとしてパルス電流を流すようにしてもよい。この場合、重金属層2から反強磁性層34上に設けた電極(
図2Aには不図示)に向けて(+z方向に)書き込み補助電流Iwaを流す。書き込み補助電流Iwaを流すことで、記録層31から強磁性層15にトンネル効果によってトンネル電流が流れる。このとき、スピン注入磁化反転方式と同様に、強磁性層15から記録層31に、記録層31の磁化M31と向きが反平行のスピンが流入し、記録層31では、流入したスピンにより磁化M31にトルクがかかる。このスピントルクにより磁化M31の反転がアシストされる。スピン軌道トルク磁化反転方式よりもスピン注入磁化反転方式の方が少ない電流で磁化反転できるので、重金属層2から電極に向かって書き込み補助電流Iwaを流すことにより、記録層31の磁化反転をアシストすることで、書き込み電流Iwを削減でき、磁気抵抗効果素子1を省電力化できる。
【0039】
書き込み補助電流Iwaのパルスのパルス幅は、書き換えに要する時間以上の時間であり、本実施の形態においては、30ns未満の時間、例えば、1ns秒以上20ns秒未満である。パルス電流のパワーは、強磁性層の厚さや異方性の強さ、パルス幅などに応じて適宜選定する。なお、書き込み補助電流Iwaを流す場合は、重金属層2に流す書き込み電流Iw(パルス電流)よりも後に、書き込み補助電流Iwa(パルス電流)をオフにするのが望ましい。
【0040】
次に、
図2Bに示すように、データ“0”を記憶している磁気抵抗効果素子1にデータ“1”を書き込む例を重金属層2のスピンホール角の符号が負の時を例にとり説明する。重金属層2の長手方向に、且つ、
図2Bの紙面手前側から紙面奥側(
図1Aでは+y方向)に向かって書き込み電流Iwを流す。すると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流が生じ、記録層31の磁化M31と向きが平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の下面側(-z方向)に流れ、スピンSAと向きが反平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の上面側(+z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、スピンSBが記録層31に流入する。
【0041】
記録層31内では、流入したスピンSBが、磁化M31の向きと反平行のため、磁化M31がスピンSAによりトルクを受け、磁化M31が反転し、
図2Aに示すように、記録層31と参照層33とが反平行状態になる。反転した磁化M31は、書き込み電流Iwが0になっても維持される。このようにしてデータ“1”を磁気抵抗効果素子1に書き込む。
【0042】
また、反強磁性層34上に設けた電極(
図2Bには不図示)から重金属層2に書き込み補助電流Iwaを流すようにしてもよい。書き込み補助電流Iwaを流すことで、強磁性層15から記録層31にトンネル電流が流れる。このとき、記録層31の磁化M31の向きと強磁性層15の磁化M15の向きが平行であるので、記録層31の大多数のスピンが磁化M15の向きと平行であり、記録層31から強磁性層15に、当該スピンが流入する。一方で、強磁性層15の磁化M15と向きが反平行の一部のスピンは、障壁層32と強磁性層15との界面で散乱され、再度、記録層31に流入する。磁化M15と向きが反平行のスピンは磁化M31とも向きが反平行であるので、記録層31では、磁化M31が流入したスピンからトルクを受け、スピントルクにより磁化M31の反転がアシストされる。このように、書き込み補助電流Iwaにより、記録層31の磁化反転をアシストすることで、データ“0”を書き込む場合と同様に書き込み電流Iwを削減でき、磁気抵抗効果素子1を省電力化できる。
【0043】
このようにして、磁気抵抗効果素子1が保持するデータを書き換えることが可能になる。
【0044】
なお、データ“0”を記憶している磁気抵抗効果素子1の重金属層2にデータ“0”を書き込むための書き込み電流Iwを流した場合、記録層31の磁化M31の向きと記録層31に流入するスピンの向きが平行になるため、磁化M31にトルクがかからず、データの書き換えは起こらない。データ“1”を記憶している磁気抵抗効果素子1の重金属層2にデータ“1”を書き込むための書き込み電流Iwを流した場合も同様である。なお、本実施形態では、上記とは逆向きに書き込み補助電流Iwaを流した場合は、スピントルクにより、記録層31の磁化反転をアシストできないので、記録層31の磁化M31の磁化方向と、参照層33の強磁性層15の磁化方向とにより適宜書き込み補助電流を流す方向を選ぶ必要がある。
【0045】
(作用及び効果)
以上の構成において、磁気抵抗効果素子1は、エピタキシャル層である重金属層2と、面内方向に磁化したエピタキシャル層の強磁性層を含み、重金属層2上に設けられた記録層31と、記録層31上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層32と、障壁層32上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層33とを有する接合部3とを備え、重金属層2にパルス電流を流すことにより、記録層31が磁化反転をするように構成した。
【0046】
よって、磁気抵抗効果素子1は、記録層31がエピタキシャル層である強磁性層であるので、面内磁気異方性としての結晶磁気異方性により磁化方向が面内となり、形状磁気異方性により磁化方向を面内とする必要がなく、磁気異方性が小さくなり熱安定性が損なわれることも抑制でき、接合部3のアスペクト比を小さくすることができる。
【0047】
また、磁気抵抗効果素子1は、記録層31をエピタキシャル層とすることで、重金属層2上に形成した記録層を非晶質としたときと比較して抵抗が低くなるため、重金属層2内に生じたスピン流によって接合部3の記録層31にスピンが流入しやすくなり、書き込み電流Iwを小さくでき、省電力化できる。
【0048】
さらに磁気抵抗効果素子1は、重金属層2をエピタキシャル層とすることで、重金属層2上にエピタキシャル成長により記録層31を連続して形成できるので、エピタキシャル層の記録層31を容易に形成できる。磁気抵抗効果素子1は、エピタキシャル層である重金属層2に記録層31を連続してエピタキシャル成長させることで、重金属層2と記録層31の界面に欠陥が生じることを抑制できる。よって、磁気抵抗効果素子1は、界面の欠陥で散乱されるスピンを減少でき、その分、重金属層2から記録層31にスピンが流入しやすくなり、書き込み電流Iwを小さくでき、省電力化できる。
【0049】
(2)本発明の第2実施形態の磁気抵抗効果素子
第2実施形態の磁気抵抗効果素子は、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1とは、記録層の構成が異なる。以下では、第2実施形態の磁気抵抗効果素子について、記録層の構造を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成は、説明を省略する。
図2A、
図2Bと同じ構成には同じ符号を付した
図3A、
図3Bに示すように、第2実施形態の磁気抵抗効果素子41は、エピタキシャル層である重金属層2と、重金属層2上に形成された接合部51とを有する。接合部51は、5層積層膜の記録層31aと、障壁層32と、参照層33と、反強磁性層34とでなる。重金属層2、障壁層32、参照層33及び反強磁性層34は、第1実施形態の磁気抵抗効果素子1と同様なので説明を省略する。
【0050】
記録層31aは、第1強磁性層10a、第1非磁性層11a、第2強磁性層12a、第2非磁性層13a、第3強磁性層14aが重金属層2上にこの順に積層された5層積層膜である。記録層31aは、第1強磁性層10a、第1非磁性層11a、第2強磁性層12a、第2非磁性層13a、第3強磁性層14aがエピタキシャル層である重金属層2上にエピタキシャル成長によって積層されているので、エピタキシャル層である。記録層31aは、積層フェリ構造をしており、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も重金属層2側の層(第1強磁性層10a)と、最も障壁層32側の層(第3強磁性層14a)とが強磁性層である。
【0051】
第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aは、第1実施形態の記録層31と同様の材料によって構成されている。第1強磁性層10aは、第1強磁性層10aを構成する材料の格子定数と重金属層2を構成する材料の格子定数の不整合などにより、結晶に歪が生じている。そのため、バルクではbcc構造の材料で形成された第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aが、エピタキシャル成長した場合、bcc構造が歪んだbct構造となり、バルクでfcc構造の材料で形成された第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aがエピタキシャル成長した場合には、fcc構造が歪んだfct構造となる。この結晶の歪により、第1強磁性層10aに面内磁気異方性としての結晶磁気異方性が生じ、第1強磁性層10aの面内に磁化容易軸が生じ、磁化容易軸に沿った方向が磁化容易方向となる。第2強磁性層12a及び第3強磁性層14aも、エピタキシャル成長により形成されているので、エピタキシャル層であり、第1強磁性層10aと同様に結晶に歪が生じており、第1強磁性層10aと同様の方向が磁化容易方向となる。第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aの磁化は、保磁力以上の外部磁場やスピントルクなどがかかっていない状態では、概ねこの磁化容易方向を向き、面内方向に磁化している。そのため、記録層31aの磁化が保持され、記録層31aに記録されたデータが保持される。また、第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aは、結晶磁気異方性が支配的である。
【0052】
本実施形態では、記録層31aの第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aの磁化容易方向が重金属層2の長手方向(y方向)と概ね垂直となるように、接合部51を重金属層2上に設けているので、各層の磁化は、+x方向又は-x方向を向いている。
図3A、
図3Bでは、第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aの磁化M10a、M12a、M14aを白抜きの矢印で示しており、矢印の向いている方向が磁化方向を表している。なお、
図3A、
図3Bでは各層の磁化を便宜的に矢印で表しており、実際には、磁化方向を向いていない成分も各層に含まれてもよい。
【0053】
記録層31aは、積層フェリ構造をしているので、第1強磁性層10aの磁化M10aと第2強磁性層12aの磁化M12aとが層間相互作用によって反強磁性的に(磁化方向が反平行に)結合されている。同様に、記録層31aは、第2強磁性層12aの磁化M12aと第3強磁性層14aの磁化M14aとが層間相互作用によって反強磁性的に結合されている。
【0054】
第1強磁性層10aの磁化M10aが反転すると、第1強磁性層10aと第2強磁性層12aの間の層間相互作用により第2強磁性層12aの磁化M12aも反転する。そして、第2強磁性層12aの磁化M12aが反転した結果、第2強磁性層12aと第3強磁性層14aとの間の層間相互作用により、第3強磁性層14aの磁化M14aも反転する。第3強磁性層14aの磁化M14aが反転した場合も同様で、層間相互作用により、磁化M12a、磁化M10aも反転する。このようにして記録層31aの強磁性層は磁化反転する。
【0055】
このように、磁気抵抗効果素子41では、記録層31の第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aが結晶磁気異方性により磁化容易方向を有するので、記録層31aが形状磁気異方性を有するようにする必要がなく、接合部51をアスペクト比の大きい長細形状にする必要がないので、アスペクト比を小さくできる。
【0056】
また、記録層31aは、第1強磁性層10aの磁化M10aと第2強磁性層12aの磁化M12aとが層間相互作用によって反強磁性的に結合され、第2強磁性層12aの磁化M12aと第3強磁性層14aの磁化M14aとが層間相互作用によって反強磁性的に結合されている。そのため、記録層31aは、第1強磁性層10a及び第3強磁性層14aの正極側から出た漏れ磁場が第2強磁性層12aの負極側に向かい、第2強磁性層12aの正極側から出た漏れ磁場が第1強磁性層10a及び第3強磁性層14aの負極側に向かう磁場となる。その結果、記録層31aは、記録層が強磁性層1層により構成される場合と比較して、漏れ磁場を抑制できる。その結果、磁気抵抗効果素子41を集積するとき、一の磁気抵抗効果素子41の漏れ磁場が他の磁気抵抗効果素子41に影響を与えることを抑制でき、磁気抵抗効果素子41をより高密度に集積した磁気メモリ装置を製造できる。
【0057】
第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aは、1.0nm~20nm程度の厚さに形成し、漏れ磁場を無くすように各膜厚を微調整する。
【0058】
第1非磁性層11a及び第2非磁性層13aは、例えばIr、Rh、Ru、Os、Re及びこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などの非磁性金属でなり、Ruの場合は0.5nm~1.0nm、1.8~2.3nm、Irの場合は0.5nm~0.8nm、Rhの場合は0.7nm~1.0nm、Osの場合は0.75nm~1.2nm、Reの場合は0.5nm~0.95nmの範囲に形成されている。第1強磁性層10aと第2強磁性層12aとを、このような厚さの第1非磁性層11aを介して積層することで、第1強磁性層10aの磁化M10aと第2強磁性層12aの磁化M12aとを層間相互作用により反強磁性的に結合できる。同様に第2非磁性層13aの厚さを上記のようにすることで、第2強磁性層12aの磁化M12aと第3強磁性層14aの磁化M14aとを層間相互作用により反強磁性的に結合できる。
【0059】
なお、磁気抵抗効果素子41では、第1非磁性層11a及び第2非磁性層13aもエピタキシャル層である。第1非磁性層11a及び第2非磁性層13aは、例えば、Irのような、印加した電流と生成されたスピン流の間の変換効率を表すスピンホール角が逆符号の材料又はスピンホール角が小さい材料で構成するのが望ましい。さらに、例えば第1非磁性層11aをIrで形成し、第2非磁性層13aをRuで形成するなど、第1非磁性層11aと第2非磁性層13aとを異なる材料で構成するのが望ましい。このようにすることで、記録層31a、特に、第1強磁性層10aを磁化反転し易くできる。
【0060】
また、記録層31aは、第3強磁性層14a上にTa、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金で形成された1nm以下の非磁性層と、例えばCo-Fe-B、Fe-B及びCo-Bなどの強磁性体で形成されたアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)とをこの順に備えていてもよい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層32をアモルファス強磁性体上にエピタキシャル成長させることとなり、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。そして、アモルファス強磁性層は、層間相互作用により、第3強磁性層14aと磁化が反強磁性的に結合し、面内方向に磁化が向く。
【0061】
磁気抵抗効果素子41の一例として、記録層31aは、第1強磁性層10a:Co-Fe(1.4nm)、第1非磁性層11a:Ir(0.7nm)、第2強磁性層12a:Co-Fe(3.0nm)、第2非磁性層13a:Ru(0.85nm)、第3強磁性層14a:Co-Fe(1.4nm)で構成される。
【0062】
次に、磁気抵抗効果素子41の書き込み動作を説明する。
図3Aは、記録層31aと参照層33とが反平行状態にあるときを示しており、
図3Bは、記録層31と参照層33とが平行状態にあるときを示している。すなわち、
図3Aは、磁気抵抗効果素子41がデータ“1”を記憶している状態を示しており、
図3Bは、磁気抵抗効果素子41がデータ“0”を記憶している状態を示している。
【0063】
まずは、
図3Aに示すように、データ“1”を記憶している磁気抵抗効果素子41にデータ“0”を書き込む例を重金属層2のスピンホール角の符号が負の時を例にとり説明する。重金属層2の長手方向に、且つ、
図3Aの紙面奥側から紙面手前側(
図1Aでは-y方向)に向かって書き込み電流Iwを流す。すると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流が生じ、第1強磁性層10aの磁化M10aと向きが反平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、スピンSAと向きが平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、スピンSAが第1強磁性層10aに流入する。
【0064】
図3Aの第1強磁性層10a内では、流入したスピンSAが、磁化M10aの向きと反平行のため、磁化M10aがスピンSAによりトルクを受け、磁化M10aが反転する。このようにして第1強磁性層10aの磁化方向が反転する。磁化M10aが反転すると、上述のように層間相互作用によって第2強磁性層12aの磁化M12aが反転し、さらに層間相互作用によって第3強磁性層14aの磁化M14aが反転し、
図3Bに示すように、記録層31aと参照層33とが平行状態になる。反転した磁化M14aは、書き込み電流Iwが0になっても維持される。このようにしてデータ“0”を磁気抵抗効果素子41に書き込む。
【0065】
このとき、記録層31aと参照層33との間に、記録層31aの磁化反転をアシストする書き込み補助電流Iwaとしてパルス電流を流すようにしてもよい。この場合、重金属層2から反強磁性層34上に設けた電極(
図3Aには不図示)に向けて(+z方向に)書き込み補助電流Iwaを流す。書き込み補助電流Iwaを流すことで、第3強磁性層14aから強磁性層15にトンネル効果によってトンネル電流が流れる。このとき、スピン注入磁化反転方式と同様に、強磁性層15から第3強磁性層14aに第3強磁性層14aの磁化M14aと向きが反平行のスピンが流入し、第3強磁性層14aでは、流入したスピンにより磁化M14aにトルクがかかる。このスピントルクにより磁化M14aの反転がアシストされる。スピン軌道トルク磁化反転方式よりもスピン注入磁化反転方式の方が少ない電流で磁化反転できるので、重金属層2から電極に向かって書き込み補助電流Iwaを流すことにより、第3強磁性層14a、すなわち、記録層31aの磁化反転をアシストすることで、書き込み電流Iwを削減でき、磁気抵抗効果素子41を省電力化できる。
【0066】
次に、
図3Bに示すように、データ“0”を記憶している磁気抵抗効果素子41にデータ“1”を書き込む例を重金属層のスピンホール角の符号が負の時を例にとり説明する。重金属層2の長手方向に、且つ、
図3Bの紙面手前側から紙面奥側(
図1Aでは+y方向)に向かって書き込み電流Iwを流す。すると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流が生じ、第1強磁性層10aの磁化M10aと向きが平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の下面側(-z方向)に流れ、スピンSAと向きが反平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の上面側(+z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、スピンSBが第1強磁性層10aに流入する。
【0067】
第1強磁性層10a内では、流入したスピンSBが、磁化M10aの向きと反平行のため、磁化M10aがスピンSAによりトルクを受け、磁化M10aが反転する。この結果、第2強磁性層12a、第3強磁性層14aも磁化方向が反転し、記録層31aの磁化方向も反転し、
図2Aに示すように、記録層31aと参照層33とが反平行状態になる。反転した磁化M14aは、書き込み電流Iwが0になっても維持される。このようにしてデータ“1”を磁気抵抗効果素子1に書き込む。
【0068】
また、反強磁性層34上に設けた電極(
図3Bには不図示)から重金属層2に書き込み補助電流Iwaを流すようにしてもよい。書き込み補助電流Iwaを流すことで、強磁性層15から第3強磁性層14aにトンネル電流が流れる。このとき、第3強磁性層14aの磁化M14aの向きと強磁性層15の磁化M15の向きが平行であるので、第3強磁性層14aの大多数のスピンが磁化M15の向きと平行であり、第3強磁性層14aから強磁性層15に、当該スピンが流入する。一方で、強磁性層15の磁化M15と向きが反平行の一部のスピンは、障壁層32と強磁性層15との界面で散乱され、再度、第3強磁性層14aに流入する。磁化M15と向きが反平行のスピンは磁化M14aとも向きが反平行であるので、第3強磁性層14aでは、磁化M14aが流入したスピンからトルクを受け、スピントルクにより磁化M14aの反転がアシストされる。このように、書き込み補助電流Iwaにより、第3強磁性層14a、すなわち、記録層31aの磁化反転をアシストすることで、データ“0”を書き込む場合と同様に書き込み電流Iwを削減でき、磁気抵抗効果素子41を省電力化できる。
【0069】
このようにして、磁気抵抗効果素子41が保持するデータを書き換えることが可能になる。なお、読み出し動作は、磁気抵抗効果素子1と同様なので説明は省略する。
【0070】
上記では、第2実施形態の磁気抵抗効果素子として、積層フェリ構造をした5層積層膜の記録層31aを有する磁気抵抗効果素子41について説明したが、
図2Aと同じ構成には同じ符号を付した
図4A、4Bに示す磁気抵抗効果素子42のように、接合部52の記録層31bが積層フェリ構造をした3層積層膜であってもよい。記録層31bは、第1強磁性層10b、非磁性層11b、第2強磁性層12bを有し、各層がエピタキシャル層である。このとき、第1強磁性層10bと第2強磁性層12bは、層間相互作用によって反強磁性的に結合している。磁気抵抗効果素子42では、第1強磁性層10bと、第2強磁性層12bとを磁気抵抗効果素子41の第1強磁性層10aと同程度の厚さで、同様の材料で形成している。非磁性層11bは、磁気抵抗効果素子41の第1非磁性層と同程度の厚さで同様の材料で形成するのが望ましい。磁気抵抗効果素子42の一例として、記録層31bは、第1強磁性層10b:Co-Fe(1.8nm)、非磁性層11b:Ir(0.7nm)、第2強磁性層12b:Co-Fe(1.8nm)で構成される。
【0071】
このような磁気抵抗効果素子42は、記録層31bがエピタキシャル層であり、面内に結晶磁気異方性により生じた磁化容易方向を有するので、形状磁気異方性により面内に磁化容易方向を生じさせる必要がなく、接合部52のアスペクト比を小さくすることができる。
【0072】
さらに、磁気抵抗効果素子42は、第1強磁性層10bと第2強磁性層12bとが層間相互作用によって反強磁性的に結合されるようにすることで、第1強磁性層10bの正極側から出た漏れ磁場が第2強磁性層12bの負極側に向かい、第2強磁性層12bの正極側から出た漏れ磁場が第1強磁性層10bの負極側に向かうようにでき、漏れ磁場を抑制できる。そのため、一の磁気抵抗効果素子42の漏れ磁場が他の磁気抵抗効果素子42に影響を与えることが抑制され、磁気抵抗効果素子42をより高密度に集積した磁気メモリ装置を製造できる。
【0073】
また、記録層31bは、第2強磁性層12b上にTa、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などで形成された1nm以下の非磁性層と、例えばCo-Fe-B、Fe-B及びCo-Bなどの強磁性体で形成されたアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)とを備えていてもよい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層32をアモルファス強磁性体上にエピタキシャル成長させることとなり、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。そして、アモルファス強磁性層は、層間相互作用により、第2強磁性層12bと磁化が強磁性的に結合し、面内方向に磁化が向く。
【0074】
このような磁気抵抗効果素子42の動作について、重金属層2のスピンホール角の符号が負の時を例にとり説明する。磁気抵抗効果素子42では、磁気抵抗効果素子41の記録層31aを磁化反転させる場合と、書き込み電流Iwを流す方向が逆である。まずは、
図4Aに示すように、データ“1”を記憶している磁気抵抗効果素子42にデータ“0”を書き込む例を説明する。なお、
図4A、4Bでは、紙面奥側が+y方向である。重金属層2の長手方向に、且つ、
図4Aの紙面手前側から紙面奥側(
図1Aでは+y方向)に向かって書き込み電流Iwを流す。すると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が生じ、第1強磁性層10bの磁化M10bと向きが反平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、スピンSAと向きが平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、スピンSBが第1強磁性層10bに流入する。
【0075】
第1強磁性層10b内では、流入したスピンSBが、磁化M10bの向きと反平行のため、磁化M10bがスピンSBによりトルクを受け、第1強磁性層10bの磁化方向が反転する。磁化M10bが反転すると、上述のように層間相互作用によって第2強磁性層12bの磁化M12bが反転し、
図4Bに示すように、記録層31bと参照層33とが平行状態になる。
【0076】
このとき、記録層31bと参照層33との間に、記録層31bの磁化反転をアシストする書き込み補助電流Iwaとしてパルス電流を流すようにしてもよい。この場合、重金属層2から反強磁性層34上に設けた電極(
図4Aには不図示)に向けて(+z方向に)書き込み補助電流Iwaを流す。書き込み補助電流Iwaを流すことで、スピントルクにより第2強磁性層12bの磁化M12bの反転がアシストされる。
【0077】
次に、
図4Bに示すように、データ“0”を記憶している磁気抵抗効果素子42にデータ“1”を書き込む例を重金属層2のスピンホール角の符号が負の時を例にとり説明する。重金属層2の長手方向に、且つ、
図4Bの紙面奥側から紙面手前側(
図1Aでは-y方向)に向かって書き込み電流Iwを流す。すると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が流れ、第1強磁性層10bの磁化M10bと向きが平行(-x方向)のスピンSBが重金属層2の下面側(-z方向)に流れ、磁化M10bと向きが反平行(+x方向)のスピンSAが重金属層2の上面側(+z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、スピンSAが第1強磁性層10bに流入する。
【0078】
その結果、第1強磁性層10bの磁化方向が反転し、第2強磁性層12bの磁化方向も層間相互作用によって反転する。このようにして
図4Aに示すように、記録層31bと参照層33とが反平行状態になり、データ“1”が磁気抵抗効果素子42に書き込まれる。また、反強磁性層34上に設けた電極(
図4Bには不図示)から重金属層2に書き込み補助電流Iwaを流し、スピントルクにより第2強磁性層12bの磁化M12bの反転をアシストするようにしてもよい。なお、重金属層2のスピンホール角が正の場合は上記いずれの場合も、重金属層2に流す電流方向を逆に流す必要がある。また、読み出し動作は、磁気抵抗効果素子1と同様なので説明は省略する。
【0079】
さらに、記録層は、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も重金属層2側の層と、最も障壁層32側の層とが強磁性層であり、エピタキシャル層である積層膜であれば、強磁性層と非磁性層の積層数をさらに増やしてもよい。
【0080】
上記の第2実施形態では、エピタキシャル層である重金属層2上に、記録層31a又は記録層31bをエピタキシャル成長させて形成することで、重金属層2上に、重金属層2に接し、エピタキシャル層である記録層31a又は記録層31bを備えるようにした場合について説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、別途形成したエピタキシャル膜である記録層31a又は記録層31bを、エピタキシャル層やアモルファス層である重金属層2上に張り合わせることで、重金属層2上にエピタキシャル層である記録層31a又は記録層31bを備えるようにすることもできる。また、アモルファスの重金属層2上に、MgOを積層することで、アモルファスの重金属層2上にエピタキシャル層であるMgO層を得て、当該MgO層上に、エピタキシャル成長により記録層31a又は記録層31bを形成するようにしてもよい。
【0081】
上記の第2実施形態では、積層フェリ構造の記録層31aを有する磁気抵抗効果素子41や積層フェリ構造の記録層31bを有する磁気抵抗効果素子42について説明してきたが、本発明はこれに限られない。例えば、
図3Aと同じ構成には同じ符号を付した
図5に示す磁気抵抗効果素子43のように、記録層31cが、第1強磁性層10c、第1非磁性層11c、第2強磁性層12c、第2非磁性層13c、第3強磁性層14cでなり、各層がエピタキシャル層である5層膜であり、各強磁性層の磁化方向がそろっていてもよい。
【0082】
記録層31cは、第1強磁性層10cと第2強磁性層12cとが層間相互作用により強磁性的に結合しており、第1強磁性層10cの磁化M10cの方向と、第2強磁性層12cの磁化M12cの方向とがそろっている。同様に、記録層31cは、第2強磁性層12cと第3強磁性層14cとが層間相互作用により強磁性的に結合しており、第2強磁性層12cの磁化M12cの方向と、第3強磁性層14cの磁化M14cの方向とがそろっている。このように記録層は、磁化M10cと磁化M12cと磁化M14cの方向がそろっている。
【0083】
記録層31cでは、第1強磁性層10cの磁化M10cがスピントルクなどによって反転すると、第1強磁性層10cと第2強磁性層12cとの間の層間相互作用によって、第2強磁性層12cの磁化M12cが反転する。さらに、第2強磁性層12cの磁化M12cが反転したことによって、第2強磁性層12cと第3強磁性層14cの間の層間相互作用によって、第3強磁性層14cの磁化M14cが反転する。また、第3強磁性層14cの磁化M14cがスピントルクなどにより反転すると、層間相互作用によって、第2強磁性層12cの磁化M12cが反転し、第1強磁性層10cの磁化M10cが反転する。ここで、記録層31cの反転電流を下げ、高熱安定性を保つには磁化M10cの磁気異方性の大きさを小さくし反転しやすくし、第2強磁性層12cの磁気異方性の大きさを大きくし、高熱安定性を保つ層として設計することが好ましい。磁化M10cと磁化12cの磁気異方性定数の大きさの最適の大きさは第2強磁性層12cが全体の70~85%程度の磁気異方性の大きさを有することが好ましい。
【0084】
層間相互作用は、強磁性層の間の非磁性層の厚さに応じて変わり、2つの強磁性層を強磁性的に結合させたり、反強磁性的に結合させたりする。磁気抵抗効果素子43では、第1非磁性層11cと第2非磁性層13cの厚さを、磁気抵抗効果素子41の第1非磁性層11a及び第2非磁性層13aの厚さよりも、薄く又は厚くすることで、第1強磁性層10c及び第2強磁性層12cを強磁性的に結合させ、第2強磁性層12c及び第3強磁性層14cとの間を強磁性的に結合させている。第1非磁性層11cと第2非磁性層13cは、第1非磁性層11a及び第2非磁性層13aと同様の材料で形成されている。
【0085】
第1強磁性層10c、第2強磁性層12c、第3強磁性層14cは、磁気抵抗効果素子41の第1強磁性層10aと同じ材料で形成されており、磁気抵抗効果素子43では、各層の膜厚を等しくしている。磁気抵抗効果素子41は、例えば、第1強磁性層10c:Co-Fe(1.4nm)、第1非磁性層11c:Ir(1.1nm)、第2強磁性層12c:Co-Fe(2.8nm)、第2非磁性層13c:Ru(1.25nm)、第3強磁性層14c:Co-Fe(1.4nm)で構成される。
【0086】
書き込み動作は及び読み出し動作は、磁気抵抗効果素子41と同様であるので説明は省略する。
【0087】
また、
図4Aと同じ構成には同じ符号を付した
図6に示す磁気抵抗効果素子44のように、記録層31dが、第1強磁性層10d、非磁性層11d、第2強磁性層12dでなり、各層がエピタキシャル層である3層膜であり、第1強磁性層10dと第2強磁性層12dを層間相互作用によって強磁性的に結合し、第1強磁性層10dの磁化M10dと第2強磁性層12dの磁化M12dの方向がそろっていてもよい。
【0088】
磁気抵抗効果素子44の一例として、記録層31dは、第1強磁性層10d:Co-Fe(1.6nm)、非磁性層11d:Ir(0.7nm)、第2強磁性層12d:Co-Fe(1.8nm)で構成される。
【0089】
(作用及び効果)
上記の構成において、磁気抵抗効果素子41は、重金属層2と、重金属層2上に設けられた記録層31aと、記録層31a上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層32と、障壁層32上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層33とを有する接合部51とを備え、記録層31aは、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、エピタキシャル層である強磁性層(第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14a)を含む積層膜であり、最も重金属層2側の層(第1強磁性層10a)と、最も障壁層側の層(第3強磁性層14a)とが面内方向に磁化した強磁性層であり、重金属層にパルス電流を流すことにより、記録層31が磁化反転をするように構成した。
【0090】
よって、磁気抵抗効果素子41は、記録層31aがエピタキシャル層である強磁性層を含むので、面内磁気異方性としての結晶磁気異方性により磁化方向が面内となり、形状磁気異方性により磁化方向を面内とする必要がなく、磁気異方性が小さくなり熱安定性が損なわれることも抑制でき、接合部51のアスペクト比を小さくすることができる。
【0091】
さらに、磁気抵抗効果素子41は、第1強磁性層10aと第2強磁性層12aとが層間相互作用によって反強磁性的に結合され、第2強磁性層12aと第3強磁性層14aとが層間相互作用によって反強磁性的に結合されるようにすることで、第1強磁性層10及び第3強磁性層14aの正極側から出た漏れ磁場が第2強磁性層12aの負極側に向かい、第2強磁性層12aの正極側から出た漏れ磁場が第1強磁性層10a及び第3強磁性層14aの負極側に向かうようにでき、漏れ磁場を抑制できる。よって、磁気抵抗効果素子41を集積するとき、一の磁気抵抗効果素子41の漏れ磁場が他の磁気抵抗効果素子41に影響を与えることを抑制でき、磁気抵抗効果素子1をより高密度に集積した磁気メモリ装置を製造できる。
【0092】
また、磁気抵抗効果素子41は、記録層(第1強磁性層10a、第2強磁性層12a、第3強磁性層14a)をエピタキシャル層とすることで、重金属層2上に形成した強磁性層を非晶質としたときと比較して抵抗が低くなるため、重金属層2内に生じたスピン流によって接合部3の記録層31aを構成する第1強磁性層10aにスピンが流入しやすくなり、書き込み電流Iwを小さくでき、省電力化できる。
【0093】
(3)本発明の第3実施形態の磁気抵抗効果素子
上述の面内磁化型の磁気抵抗効果素子のように、面内方向に磁化方向が固定された参照層と、障壁層と、磁化方向が面内であり、参照層の磁化方向に対して、平行又は反平行に磁化反転できる記録層を有する磁気抵抗効果素子では、記録層の面内磁気異方性が低いと記録層の磁化反転がしやすく、書き込み電流Iwや書き込み補助電流Iwaを削減でき、省電力化できる。一方で、記録層の面内磁気異方性が低くなると、記録層の保磁力も低下し、漏れ磁場などの外的な要因によって、記録層の磁化方向が変わり、記録された情報が消失する恐れがある。
【0094】
そこで、第3実施形態では、省電力でデータを記憶でき、安定的にデータを記憶できる磁気抵抗効果素子を提供することを目的としている。
【0095】
図3Aと同じ構成には同じ符号を付した
図7Aに示すように、磁気抵抗効果素子45は、第1強磁性層10e、第1非磁性層11e、第2強磁性層12e、第2非磁性層13e、第3強磁性層14eがこの順に積層された5層積層膜であり、各層がエピタキシャル層である記録層31eを備えている。第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eは、強磁性体でなり、例えば、Co、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金が望ましい。具体的に説明すると、Coを含む合金としては、Co-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Ptなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Coを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるCo-richであることが望ましい。Feを含む合金としては、Fe-Pt及びFe-Pdなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Feを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるFe-richであることが望ましい。Co及びFeを含む合金としては、Co-Fe、Co-Fe-Pt及びCo-Fe-Pdなどの合金が望ましい。Mnを含む合金としては、Mn-Ga及びMn-Geなどの合金が望ましい。第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eは、上記で説明したCo、Fe又はNiを少なくとも1つ以上含む合金と、Ta、W、Mo、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Cr、Au、Cu、Os又はReなどの非磁性体との積層膜であってもよい。また、Co、Fe又はNiを少なくとも1つ以上含む合金にB、C、N、O、P、Al及びSiなどの元素が多少含まれていてもかまわない。
【0096】
本実施形態では、第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eは、Co-Feで形成している。第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eは、重金属層2上にエピタキシャル成長により形成され、重金属層2に接するエピタキシャル層であり、各強磁性層を構成する材料の格子定数と重金属層2を構成する材料の格子定数の不整合などにより、結晶に歪が生じている。そのため、バルクではbcc構造の材料で形成された第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eが、エピタキシャル成長した場合、bcc構造が歪んだbct構造となり、バルクでfcc構造の材料で形成された第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eがエピタキシャル成長した場合には、fcc構造が歪んだfct構造となる。第1強磁性層10e、第2強磁性層12e、第3強磁性層14eは、この結晶の歪に起因する面内磁気異方性としての結晶磁気異方性が支配的であり、結晶磁気異方性によって面内方向に磁化する。第1非磁性層11e、第2非磁性層13eは、上記の磁気抵抗効果素子41と同様の材料で構成され、同様の膜厚に成膜される。記録層31e以外の構成は、磁気抵抗効果素子41と同様であるので説明を省略する。
【0097】
記録層31eでは、第1強磁性層10e(記録層31eの最も重金属層2側の層)の厚さを、記録層31eの強磁性層の厚さの合計値の10-30%程度とするのが望ましい。具体的には、第1強磁性層10eの厚さを1.2nmとし、第2強磁性層12eの厚さを3.0nmとし、第3強磁性層14eの厚さを2.1nmとし、漏れ磁場を無くすように各膜厚を微調整しつつ、第1強磁性層10eの厚さが、第2強磁性層12e及び第3強磁性層14eの厚さよりも薄く形成している。
【0098】
ここで、強磁性層の面内磁気異方性は、E∝(KuV-KiS)で表される。Kuは結晶磁気異方性や形状磁気異方性など面内磁気異方性成分、Kiは界面磁気異方性であり垂直方向の磁気異方性成分、V、Sは強磁性層の体積、強磁性層の面積である。強磁性層の体積はV=S*t(tは強磁性層の厚さ)であり強磁性層の厚さに比例するので、上記式の第1項は強磁性層の厚さに比例して大きくなる。一方で、界面磁気異方性Kiは界面だけに働くので、強磁性層の厚さを厚くしても第2項は変化しない。そのため、強磁性層の面内磁気異方性は、強磁性層の厚さに比例する。
【0099】
第1強磁性層10eは、第2強磁性層12e及び第3強磁性層14eより薄くすることで、好ましくは、第1強磁性層10eを記録層31eの強磁性層の厚さの合計値の10-30%程度の厚さとすることで、面内磁気異方性Kuが低くなり、磁化反転しやすくなる。記録層31eでは、このような磁化反転しやすい第1強磁性層10eを、最も重金属層2側の層側に(本実施形態では、重金属層2上に)設け、書き込み電流Iwによって磁化反転させるようにしているので、第1強磁性層10eの磁化M10eをより少ない書き込み電流Iwで反転でき、記録層31eを磁化反転させるために必要な書き込み電流Iwを削減でき、より省電力でデータを書き込みできる。一方で、第2強磁性層12e及び第3強磁性層14eは、第1強磁性層10eより厚さを厚くしているので、面内磁気異方性が高い。第2強磁性層12e及び第3強磁性層14eは、第1強磁性層10aより厚いことから、面内磁気異方性Kuが高く、磁化反転しにくい。そのため、記録層31e全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層31eの磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。このように、磁気抵抗効果素子45は、省電力でデータを記憶でき、安定的にデータを記憶できる。
【0100】
また、
図7Aと同じ構成には同じ符号を付した
図7Bに示す磁気抵抗効果素子46のように、記録層31fが、第3強磁性層14f(記録層31fの最も障壁層32側の層)の厚さを、第1強磁性層10f及び第2強磁性層12fの厚さより薄く形成されていてもよい。第1強磁性層10f、第2強磁性層12f、第3強磁性層14fは、磁気抵抗効果素子45と同様の材料で形成できる。第1非磁性層11f、第2非磁性層13fは、上記の磁気抵抗効果素子45と同様である。
【0101】
記録層31fでは、磁気抵抗効果素子45の第1強磁性層10eと同様に、第3強磁性層14fの厚さを、記録層31fの強磁性層の厚さの合計値の概ね10-30%程度とするのが望ましい。具体的には、例えば、第1強磁性層10fの厚さを2.2nmとし、第2強磁性層12fの厚さを3.5nmとし、第3強磁性層14fの厚さを1.2nmとし、漏れ磁場を無くすように各膜厚を微調整しつつ、第1強磁性層10fの厚さが、第2強磁性層12f及び第3強磁性層14fの厚さよりも薄く形成している。
【0102】
磁気抵抗効果素子46では、書き込み補助電流Iwaによって生じるスピントルクにより磁化反転をアシストする第3強磁性層14fを、第1強磁性層10f及び第2強磁性層12fより薄く、より好ましくは、記録層31fの強磁性層の厚さの合計値の10-30%程度の厚さとし、面内磁気異方性Kuを小さくし、磁化反転し易くしている。そのため、磁気抵抗効果素子46では、より少ない書き込み補助電流Iwaで第3強磁性層14fの磁化M14fを反転でき、書き込み補助電流Iwaを削減でき、より省電力でデータを書き込みできる。一方で、第1強磁性層10f及び第2強磁性層12fは、第3強磁性層14fより厚いことから、面内磁気異方性が高く、磁化反転しにくい。そのため、記録層31f全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層31fの磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。このように、磁気抵抗効果素子46は、省電力でデータを記憶でき、安定的にデータを記憶できる。
【0103】
また、
図7Aと同じ構成には同じ符号を付した
図7Cに示す磁気抵抗効果素子47のように、記録層31gが、第1強磁性層10g(記録層31gの最も重金属層2側の層)及び第3強磁性層14g(記録層31gの最も障壁層32側の層)の厚さを、第2強磁性層12gの厚さより薄く形成されていてもよい。第1強磁性層10g、第2強磁性層12g、第3強磁性層14gは、磁気抵抗効果素子45と同様の材料で形成できる。第1非磁性層11g、第2非磁性層13gは、上記の磁気抵抗効果素子45と同様である。
【0104】
記録層31gでは、第1強磁性層10g及び第2強磁性層12gの厚さを、それぞれ、記録層31gの強磁性層の厚さの合計値の10-25%程度とし、第2強磁性層12gの厚さを、記録層31gの強磁性層の厚さの合計値の65-85%程度とするのが望ましい。一例としては、第1強磁性層10gの厚さは1.0nm程度であり、第2強磁性層12gの厚さは6.0nm程度であり、第3強磁性層14gの厚さは1.0nm程度であり、漏れ磁場を無くすように各膜厚を微調整する。
【0105】
磁気抵抗効果素子47では、第1強磁性層10g及び第2強磁性層12gが記録層31gの強磁性層の厚さの合計値の10-25%を占め、第2強磁性層12gが記録層31gの強磁性層の厚さの合計値の65-85%程度を占めるようにすることで、書き込み電流Iwによって磁化反転する第1強磁性層10gと、書き込み補助電流Iwaによって生じるスピントルクにより磁化反転をアシストする第3強磁性層14gとが薄くなり、面内磁気異方性Kuが小さくなって、磁化反転し易くなる。そのため、書き込み電流Iw及び書き込み補助電流Iwaを削減でき、よりいっそう省電力でデータを書き込みできる。
【0106】
一方で、第2強磁性層12gは、強磁性層の厚さの合計値の65-85%程度であるので、面内磁気異方性Kuが高く、記録層31g全体の面内磁気異方性Kuの80%程度を担う。よって、記録層31g全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層31gの磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。このように、磁気抵抗効果素子47は、第2強磁性層12gが記録層31gの強磁性層の厚さの合計値の65-85%程度を占めるようにすることで、書き込み電流Iwに加えて書き込み補助電流Iwaも削減できるのでより省電力化でき、かつ、第2強磁性層12gの厚さが厚くなり、記録層31g全体の面内磁気異方性Kuの80%を担うようになるので、記録層31gの保磁力を高めることができ、安定的に記憶できるので、最も望ましい。磁気抵抗効果素子47は、省電力でデータを記憶でき、安定的にデータを記憶できる。
【0107】
また、上記の記録層31e、31f、31gは、第3強磁性層14e、14f、14g上にTa、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などで形成された1nm以下の非磁性層と、例えばCo-Fe-B、Fe-B及びCo-Bなどの強磁性体で形成されたアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)とをこの順に備えていてもよい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層32をアモルファス強磁性体上にエピタキシャル成長させることとなり、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。そして、記録層31e、31f、31gのアモルファス強磁性層は、層間相互作用により、第3強磁性層14e、14f、14gと磁化が強磁性的に結合し、面内方向に磁化が向く。この場合、書き込み補助電流Iwaにより磁化反転がアシストされる層は、アモルファス強磁性層となる。アモルファス強磁性層は、エピタキシャル層ではないので結晶磁気異方性は小さく、面内磁気異方性が小さい。また、第1強磁性層10e、10f、10g、第2強磁性層12e、12f、12g及び第3強磁性層14e、14f、14gよりアモルファス強磁性層の厚さが薄ければ、さらに面内磁気異方性が小さく、磁化反転しやすい。そのため、アモルファス強磁性層を有するようにすることで、書き込み補助電流Iwaを削減でき、省電力化できる。
【0108】
加えて、
図4Aと同じ構成には同じ符号を付した
図8Aに示す磁気抵抗効果素子48のように、第1強磁性層10h、非磁性層11h、第2強磁性層12hがこの順に積層された3層膜であり、各層がエピタキシャル層である記録層31hを備え、第1強磁性層10h(記録層31hの最も重金属層2側の層)が第2強磁性層12hよりも薄く形成されていてもよい。この場合、第1強磁性層10h、第2強磁性層12hは、磁気抵抗効果素子45の強磁性層と同様の材料で形成できる。非磁性層11hは、上記の磁気抵抗効果素子45と同様である。
【0109】
記録層31hでは、第1強磁性層10hの厚さを記録層31hの強磁性層の厚さの合計値の10-35%程度とし、第2強磁性層12hの厚さを記録層31hの強磁性層の厚さの合計値の65-90%程度とするのが望ましい。具体的には、例えば、第1強磁性層10hの厚さを2nmとし、第2強磁性層12hの厚さを8nmとし漏れ磁場を無くすように各膜厚を微調整しつつ、第1強磁性層10hの厚さが、第2強磁性層12hの厚さよりも薄く形成している。
【0110】
磁気抵抗効果素子48では、第1強磁性層10hの厚さを記録層31hの強磁性層の厚さの合計値の10-35%程度とし、書き込み電流Iwによって磁化反転させる第1強磁性層10hの厚さを薄くして面内磁気異方性Kuを小さくし、磁化反転し易くしているので、書き込み電流Iwを削減でき、より省電力でデータを書き込みできる。一方で、第2強磁性層12hは、厚さを、記録層31hの強磁性層の厚さの合計値の65-90%程度としているので、面内磁気異方性Kuが高く、記録層31h全体の面内磁気異方性Kuの80%程度を担う。そのため、記録層31h全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層31hの磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。このように、磁気抵抗効果素子48は、省電力でデータを記憶でき、安定的にデータを記憶できる。
【0111】
さらに、
図8Aと同じ構成には同じ符号を付した
図8Bに示す磁気抵抗効果素子49のように、第2強磁性層12i(記録層31iの最も障壁層32側の層)が第1強磁性層10iよりも薄く形成されていてもよい。この場合、第1強磁性層10i、第2強磁性層12iは、磁気抵抗効果素子45の強磁性層と同様の材料で形成できる。非磁性層11iは、上記の磁気抵抗効果素子45と同様である。
【0112】
記録層31iでは、第2強磁性層12iの厚さを記録層31iの強磁性層の厚さの合計値の10-35%程度とし、第1強磁性層10iの厚さを記録層31iの強磁性層の厚さの合計値の65-90%程度とするのが望ましい。具体的には、例えば、第1強磁性層10iの厚さを7nmとし、第2強磁性層12iの厚さを1.1nmとし、漏れ磁場を無くすように各膜厚を微調整しつつ、第2強磁性層12iの厚さが、第1強磁性層10iの厚さよりも薄く形成している。
【0113】
磁気抵抗効果素子49では、第2強磁性層12iの厚さを記録層31iの強磁性層の厚さの合計値の10-35%程度とし、書き込み補助電流Iwaによって生じるスピントルクにより磁化反転をアシストする第2強磁性層12iの面内磁気異方性Kuを小さくし、磁化反転し易くしているので、書き込み補助電流Iwaを削減でき、より省電力でデータを書き込みできる。一方で、第1強磁性層10iは、厚さが記録層31iの強磁性層の厚さの合計値の65-90%程度であり、面内磁気異方性Kuが高く、記録層31i全体の面内磁気異方性Kuの80%程度を担う。そのため、記録層31i全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層31iの磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。このように、磁気抵抗効果素子49は、省電力でデータを記憶でき、安定的にデータを記憶できる。
【0114】
また、上記の記録層31h、31iは、第2強磁性層12h、12i上にTa、W、Mo又はこれらの元素を少なくとも1つ以上含む非磁性の合金などを含む1nm以下の非磁性層と、例えばCo-Fe-B、Fe-B及びCo-Bなどの強磁性体で形成されたアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)とをこの順に備えていてもよい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層32をアモルファス強磁性体上にエピタキシャル成長させることとなり、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。そして、記録層31h、31iのアモルファス強磁性層は、層間相互作用により、第2強磁性層12h、12iと磁化が強磁性的に結合し、面内方向に磁化が向く。この場合、書き込み補助電流Iwaにより磁化反転がアシストされる層は、アモルファス強磁性層となる。アモルファス強磁性層は、エピタキシャル層ではないので結晶磁気異方性は小さく、面内磁気異方性が小さい。また、第1強磁性層10h、10i及び第2強磁性層12h、12iよりアモルファス強磁性層の厚さが薄ければ、さらに面内磁気異方性が小さく、磁化反転しやすい。そのため、アモルファス強磁性層を有するようにすることで、書き込み補助電流Iwaを削減でき、省電力化できる。
【0115】
また、第3実施形態では、面内磁気異方性としての結晶磁気異方性によって、記録層の強磁性層が面内に磁化している場合を例に説明したが、記録層の強磁性層が面内磁気異方性としての形状磁気異方性により面内に磁化していてもよく、形状磁気異方性の場合は、強磁性層が多結晶及びアモルファスでもよい。この場合も、最も重金属層側の強磁性層又は最も障壁層側の強磁性層の少なくとも1つを他の強磁性層より薄くすることで、書き込み電流Iwによって磁化反転される強磁性層又は書き込み補助電流Iwaによって磁化反転がアシストされる強磁性層を磁化反転し易くし、書き込み電流Iw又は書き込み補助電流Iwaの少なくとも1つを削減でき、省電力化できる。そして、当該他の強磁性層は、最も重金属層側の強磁性層又は最も障壁層側の強磁性層よりも厚いので、面内磁気異方性が高く、記録層全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層の磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。また、重金属層2は、エピタキシャル層ではなくアモルファス層であってもよい。さらに、第1非磁性層11e、11f、11g、第2非磁性層13e、13f、13g、非磁性層11h、11iは、アモルファス層であってもよい。この場合は、エピタキシャル層である強磁性層上にアモルファスの非磁性層を形成し、その上に、エピタキシャル層である強磁性層を張り合わせることで、積層膜を形成する。
【0116】
(作用及び効果)
第3実施形態の磁気抵抗効果素子は、重金属層2と、重金属層2上に設けられた記録層(記録層31e、31f、31g、31h、31i)と、記録層31e上に設けられ、絶縁体で構成された障壁層32と、障壁層32上に設けられ、磁化が面内方向に固定された参照層33とを有する接合部(接合部55、56、57、58、59)とを備え、記録層(記録層31e、31f、31g、31h、31i)は、強磁性層と非磁性層とが交互に積層され、最も重金属層2側の層(第1強磁性層10e、10f、10g、10h、10i)と、最も障壁層32側の層(第3強磁性層14e、14f、14g、第2強磁性層12h、12i)とが強磁性層である積層膜であり、強磁性層が面内方向に磁化しており、記録層の最も重金属層側の層(第1強磁性層10e、10f、10g、10h、10i)又は最も障壁層側の層(第3強磁性層14e、14f、14g、第2強磁性層12h、12i)の少なくとも1つが記録層(記録層31e、31f、31g、31h、31i)の他の強磁性層よりも薄く重金属層2にパルス電流(書き込み電流Iw)を流すことにより、記録層(記録層31e、31f、31g、31h、31i)が磁化反転をするように構成した。
【0117】
よって、磁気抵抗効果素子は、最も重金属層側の強磁性層又は最も障壁層側の強磁性層の少なくとも1つを他の強磁性層より薄くすることで、書き込み電流Iwによって磁化反転される強磁性層又は書き込み補助電流Iwaによって磁化反転がアシストされる強磁性層を磁化反転し易くし、書き込み電流Iw又は書き込み補助電流Iwaの少なくとも1つを削減でき、省電力化できる。そして、当該他の強磁性層は、最も重金属層側の強磁性層又は最も障壁層側の強磁性層よりも厚いので、面内磁気異方性が高く、記録層全体の保磁力を高めることができ、外部からの影響による記録層の磁化方向の反転を抑制し、データを安定的に記憶できる。
【0118】
(4)本発明の磁気抵抗効果素子を備えた磁気メモリ装置
次に、上記構成を有する磁気抵抗効果素子1を記憶素子として使用するメモリセル回路の構成例を、
図2Aと同じ構成には同じ符号を付した
図9Aを参照して説明する。
図9Aは、1ビット分の磁気メモリセル回路200の構成を示している。この磁気メモリセル回路200は、1ビット分のメモリセルを構成する磁気抵抗効果素子1と、第1ビット線BL1と、第2ビット線BL2と、アシスト線ALと、ワード線WLと、第1トランジスタTr1と、第2トランジスタTr2とを備える。
【0119】
磁気抵抗効果素子1は、重金属層2の一端部の下面に第1端子T1、他端部の下面に第2端子T2が接続され、反強磁性層34又はその上に設けられたCap層(
図9Aには不図示)上に第3端子T3が配置された3端子構造を有する。なお、説明の便宜上、
図9Aでは、重金属層2の下部のMgO層21及びアモルファス金属層20を省略している。重金属層2は、MgO層21及びアモルファス金属層20に形成されたスルーホールなどを介して、第1端子T1及び第2端子T2とコンタクトされていても良いが、重金属層2にコンタクトを取っても良く、電気的に接続されていれば良い。
【0120】
第3端子T3はアシスト線ALに接続されている。第1端子T1は第1トランジスタTr1のドレインに接続されている。第2端子T2は第2トランジスタTr2のドレインに接続されている。第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2のゲート電極はワード線WLに接続されている。第1トランジスタTr1のソースは第1ビット線BL1に接続されている。第2トランジスタTr2のソースは第2ビット線BL2に接続されている。
【0121】
磁気抵抗効果素子1にデータを書き込む方法は次の通りである。まず、磁気抵抗効果素子1を選択するため、ワード線WLに第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2をオンさせるアクティブレベルの信号を印加する。ここでは、第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2がNチャネルMOSトランジスタから構成されているものとする。この場合、ワード線WLはHighレベルに設定される。これによって第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2はオン状態になる。一方、書き込み対象のデータに応じて、第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の一方をHighレベルに設定し、他方をLowレベルに設定する。
【0122】
具体的には、データ“0”を書き込む場合は、第1ビット線BL1をLowレベルとし、第2ビット線BL2をHighレベルとする。これにより、第2端子T2から第1端子T1(
図2Aの紙面奥側から紙面手前側に相当)に書き込み電流Iwが流れ、データ“1”が書き込まれる。このとき、アシスト線ALをHighレベルとすることで、第3端子T3から第1端子T1に書き込み補助電流Iwaを流し、記録層31の磁化反転をアシストするようにしてもよい。一方、データ“1”を書き込む場合は、第1ビット線BL1をHighレベルとし、第2ビット線BL2をLowレベルとする。これにより、第1端子T1から第2端子T2(
図2Bの紙面手前側から紙面奥側に相当)に書き込み電流Iwが流れ、データ“1”が書き込まれる。このとき、アシスト線ALをLowレベルとすることで、第1端子T1から第3端子T3に書き込み補助電流Iwaを流し、記録層31の磁化反転をアシストするようにしてもよい。このようにして、磁気抵抗効果素子1へのビットデータの書き込みが行われる。
【0123】
磁気抵抗効果素子1に記憶されているデータを読み出す方法は次の通りである。まず、ワード線WLをアクティブレベルに設定し、第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2とをオン状態とする。第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の両方をHighレベルに設定する、或いは、第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の一方をHighレベルに、他方を開放状態に設定する。そして、アシスト線ALをLowレベルにする。Highレベルとなったビット線より重金属層2→記録層31→障壁層32→参照層33→反強磁性層34→第3端子T3→アシスト線ALと読み出し電流Ireが流れる。この電流の大きさを測定することにより、重金属層2から反強磁性層34に至る経路の抵抗の大きさ、即ち、記憶データを判別することができる。
【0124】
なお、磁気メモリセル回路200の構成や回路動作は一例であって、適宜変更されうる。例えば、データを読み出すため、ワード線WLをHighレベルにセットするとともに、アシスト線ALをHighレベルにセットし、第1ビット線と第2ビット線の一方又は両方をLowレベルとする。このようにして、読み出し電流Ireをアシスト線ALから第1ビット線BL1、第2ビット線BL2に流すように構成してもよい。書き込み補助電流Iwaを流さない場合は、第3端子T3をグラウンド線に接続するようにしてもよい。また、
図9Bに示す磁気メモリセル回路200aのように、重金属層2の一端部の上面に第1端子T1を設け、重金属層2の他端部の上面に第2端子T2を設けるようにしてもよい。
【0125】
次に、
図9Aに例示した磁気メモリセル回路200を複数備える磁気メモリ装置300の構成を、
図10を参照して説明する。磁気メモリ装置300は、
図10に示すように、メモリセルアレイ311、Xドライバ312、Yドライバ313、コントローラ314を備えている。メモリセルアレイ311はN行M列のアレイ状に配置された磁気メモリセル回路200を有している。各列の磁気メモリセル回路200は対応する列の第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の対に接続されている。また、各行の磁気メモリセル回路200は、対応する行のワード線WLとアシスト線ALに接続されている。
【0126】
Xドライバ312は、複数のワード線WLとアシスト線ALとに接続されており、受信したローアドレスをデコードして、アクセス対象の行のワード線WLをアクティブレベルに駆動すると共に、アシスト線ALをHighレベル又はLowレベルに設定する。例えば、第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2がNチャネルMOSトランジスタの場合、Xドライバ312はワード線WLをHighレベルにする。
【0127】
Yドライバ313は、磁気抵抗効果素子1にデータを書き込む書き込み手段及び磁気抵抗効果素子1からデータを読み出す読み出し手段として機能する。Yドライバ313は、複数の第1ビット線BL1と第2ビット線BL2に接続されている。Yドライバ313は、受信したカラムアドレスをデコードして、アクセス対象の磁気メモリセル回路200に接続されている第1ビット線BL1と第2ビット線BL2をデータ書き込み状態或いは読み出し状態に設定する。
【0128】
データ“0”の書き込みにおいて、Yドライバ313は書き込み対象の磁気メモリセル回路200に接続された第1ビット線BL1をLowレベルとし、第2ビット線BL2をHighレベルとする。書き込み補助電流Iwaを流す場合は、Xドライバ312が、書き込み対象の磁気メモリセル回路200の属する行のアシスト線ALをHighレベルとする。また、データ“1”の書き込みにおいてYドライバ313は、書き込み対象の磁気メモリセル回路200に接続された第1ビット線BL1をHighレベルとし、第2ビット線BL2をLowレベルとする。書き込み補助電流Iwaを流す場合は、Xドライバ312が、書き込み対象の磁気メモリセル回路200の属する行のアシスト線ALをLowレベルとする。さらに、磁気メモリセル回路200に記憶されているデータの読み出しにおいて、Yドライバ313は、まず、読み出し対象の磁気メモリセル回路200に接続された第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の両方をHighレベルに、或いは、第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の一方をHighレベルに、他方を開放状態に設定する。Xドライバ312は、読み出し対象の磁気メモリセル回路200の属する行のアシスト線ALをLowレベルとする。そして、Yドライバ313は、第1ビット線BL1、第2ビット線BL2を流れる電流と基準値とを比較して、各列の磁気メモリセル回路200の抵抗状態を判別し、これにより、記憶データを読み出す。
【0129】
コントローラ314は、データ書き込み、あるいはデータ読み出しに応じて、Xドライバ312とYドライバ313のそれぞれを制御する。なお、磁気抵抗効果素子1の代わりに、上記で説明した磁気抵抗効果素子41などを適用することもできる。
【0130】
また、本実施形態の磁気抵抗効果素子1は、上記のように、書き込み電流Iwに加えて書き込み補助電流Iwaを流し、スピン軌道トルクを利用した記録層31の磁化反転をスピン注入磁化反転によりアシストできるので、
図11Aに示すように、第1方向に延伸された1つの細長形状の重金属層2上に、複数(例えば8個)の接合部3を第1方向(重金属層2の長手方向)に配列し、一の磁気抵抗効果素子1の重金属層2を他の複数の磁気抵抗効果素子1が共有している磁気抵抗効果素子アレイ400とすることもできる。すなわち、磁気抵抗効果素子アレイ400は、磁気抵抗効果素子1を複数有し、一の磁気抵抗効果素子1の重金属層2が第1方向に延伸され、延伸された重金属層2を他の複数の磁気抵抗効果素子1が共有し、重金属層2上で、接合部3が第1方向に配列されている。そして、このような磁気抵抗効果素子アレイ400を複数個用意して磁気メモリ装置410を構成できる。磁気メモリ装置410では、1つの接合部3を1ビットとしてデータを記憶する。なお、磁気抵抗効果素子アレイ400の重金属層2のサイズは、接合部のサイズや接合部の数などに応じて適宜選定することがで、例えば、重金属層2の幅を、
図1Aに示した磁気抵抗効果素子1と同様に接合部3の幅よりも大きくしてもよく、
図1Bに示した磁気抵抗効果素子1bと同様に接合部3と同じサイズにしてもよい。
【0131】
また、
図11Bに示すように、磁気抵抗効果素子アレイ400は、一端がグラウンドに接続され、他端がトランジスタ421を介してコントロール線420に接続されている。例えば、コントロール線420の電位をグラウンドよりLowレベルに設定し、トランジスタ421をオンにする(ゲートに電圧を印加する)ことで、重金属層2に書き込み電流Iwを-y方向に流すことができる。そして、オンにするトランジスタ421を選択することで、書き込み電流Iwを流す磁気抵抗効果素子アレイを選択できる。なお、
図11A、
図11Bでは、便宜上、接合部3の記録層31、障壁層32、参照層33のみを図示している。また、ここでは、接合部3を設けた磁気抵抗効果素子アレイ400を1例として説明するが、
図7Cに示す磁気抵抗効果素子47のように、第1強磁性層10g、第1非磁性層11g、第2強磁性層12g、第2非磁性層13g、第3強磁性層14gの5層積層膜で各層がエピタキシャル層である積層フェリ構造をし、第1強磁性層10gと第3強磁性層14gとが第2強磁性層12gより薄い記録層31gを有する接合部57を複数個備える磁気抵抗効果素子アレイとするのが最も有利である。この場合、漏れ磁場を抑制できるので、より高密度にきおくすることができ、書き込み電流Iwと書き込み補助電流Iwaとを削減できるので、より省電力化できる。
【0132】
磁気抵抗効果素子アレイ400では、記録層が磁化反転しない程度の大きさで書き込み電流Iwを、第1方向(重金属層2の長手方向)に沿って、重金属層2の一端部と他端部との間に流しつつ、所定の接合部3にのみ書き込み補助電流Iwaを流すことで、所定の磁気抵抗効果素子の記録層を選択的に磁化反転させることができる。書き込み補助電流Iwaは、書き込み時間はかかるが、それのみによっても記録層を磁化反転させることができるので、書き込み電流Iwでの書き込みを書き込み補助電流Iwaでアシストすることで、半選択による誤書込みを抑制でき、より多ビット磁気メモリ装置を構成できる。
【0133】
このような磁気メモリ装置410について、
図12A、
図12Bを参照してより具体的に説明する。
図12Aは、磁気メモリ装置410の全体構成を示す概略図であり、
図12Bは、
図12AのB-B’断面図である。磁気メモリ装置410は、複数の磁気抵抗効果素子アレイ400が並列に配置されており、各磁気抵抗効果素子アレイ400の重金属層2の一端がトランジスタ421を介してコントロール線420に接続されている。トランジスタ421は、FET型のトランジスタであり、ドレイン412bが重金属層2に接続され、ソース412cがコントロール線420に接続されている。また、重金属層2の他端は、スルーホール422などを介して図示しないグラウンドに接続されている。実際には、
図12Bに示すように、トランジスタ421が重金属層2よりも下層に設けられており、重金属層2は、図示しない層間絶縁膜に設けられたスルーホール422a、422b、422c、422dと、金属電極層423a、423b、423cとを介して、トランジスタ421のドレイン421bに接続されている。コントロール線420は、スルーホール422dを介してトランジスタ421のソース421cに接続されている。そして、トランジスタ421のゲート421aに電圧を印加することで、後述のように重金属層2の長手方向に沿って重金属層2の一端部と他端部の間に書き込み電流Iwを流せるようになされている。
【0134】
そして、コントロール線420をグラウンドよりLowレベルにすることで、重金属層2を-y方向に書き込み電流Iwを流し、コントロール線420をグラウンドよりHighレベルにすることで、重金属層2を+y方向に書き込み電流Iwを流せるようにしている。接合部3上には、電極401が形成されている。電極401には、図示しないアシスト線ALに接続されており、例えば、アシスト線ALをコントロール線420よりHighレベルにすることで、読み出し電流Ireと書き込み補助電流Iwaとを電極401から接合部3に流せるようになされている。
【0135】
磁気メモリ装置410では、所定のトランジスタ421のゲート421aに電圧を印加することで、書き込み電流Iwを流す磁気抵抗効果素子アレイ400の重金属層2を選択し、ビットラインをコントロール線420よりHighレベルにするかLowレベルにするかで、書き込み電流Iwを流す方向を選択し、書き込み補助電流Iwaを流す接合部3を選択することで、所定の接合部3の記録層のみ磁化反転させることができる。一方で、アシスト線ALをコントロール線420よりHighレベルにすることで、コントロール線420から重金属層2を介して接合部3に読み出し電流Ireを流すことで、接合部3毎に、すなわち、1ビットずつ記憶されたデータを読み出すことができる。
【0136】
上述のメモリ装置では、1ビットずつデータを読み出していたため、読み出しに時間がかかる。そこで、以下では、重金属層2のスピンホール角の符号が負の時を例にとり、より早くデータを読み出すことのできる磁気メモリ装置について説明する。
【0137】
図11A、
図12Aと同じ構成には同じ符号を付した
図13A、13Bに示す磁気メモリ装置4100は、重金属層2上に複数の接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h(ビットともいう)を備える磁気抵抗効果素子アレイ400と、ビットセレクター36と、差動アンプ37とを備えている。
図13A、
図13Bでは、便宜上、1つの磁気抵抗効果素子アレイ400を示しているが、磁気メモリ装置4100は、複数の磁気抵抗効果素子アレイ400と、各磁気抵抗効果素子アレイ400に接続されたビットセレクター36と差動アンプ37とを備えている。また、磁気抵抗効果素子アレイ400に設けられた接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hは、便宜的に異なる符号を付しているが、すべて同じ構成である。なお、重金属層2上に設ける接合部の数は、特に限定されない。また、このような磁気メモリ装置4100に用いる接合部として、接合部3のかわりに、上記の接合部51、52、53、54、55、56、57、58、59を用いてもよい。さらに磁気メモリ装置4100の接合部は、磁化反転可能な記録層、障壁層及び磁化方向が固定された参照層を有する磁気トンネル接合であれば特に限定されず、記録層及び参照層の強磁性層が、形状磁気異方性などの他の磁気異方性により面内方向に磁化していてもよく、界面磁気異方性などにより面内方向に対して垂直な方向に磁化していてもよい。
【0138】
重金属層2は、一端がビット線BLに接続され他端がコントロール線420に接続されている。重金属層2は、ビット線BLとコントロール線420の電圧レベルに応じて、ビット線BLからコントロール線420に、又は、コントロール線420からビット線BLに、すなわち、重金属層2の一端部と他端部の間に、各ビットのデータをリセットする(各記録層31の磁化方向を所定方向に揃える)リセット電流Isや書き込み電流Iwを流される。ビットセレクター36は、アシスト線AL1、アシスト線AL2と、差動アンプ37と、配線35を介して各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hとに接続されている。接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの参照層33の磁化方向はプラスx方向(
図13Aの紙面手前側から紙面奥側に向かう方向)に揃えられている。
【0139】
ビットセレクター36は、アシスト線AL1に電気的に接続する接合部と、アシスト線AL2に電気的に接続する接合部とを選択する。
図14に示すように、ビットセレクター36は、第1トランジスタTr1a、Tr1b、Tr1c、Tr1d、Tr1e、Tr1f、Tr1g、Tr1hと、第2トランジスタTr2a、Tr2b、Tr2c、Tr2d、Tr2e、Tr2f、Tr2g、Tr2hと、第3トランジスタTr3a、Tr3bと、これらのトランジスタのオン状態(電流がながれ得る状態)とオフ状態(電流が流れない状態)を制御するドライバ36aとを備えている。本実施形態では、これらのトランジスタすべてはFET型のトランジスタであるが、オン状態とオフ状態とを切り替え可能な素子であれば、特に限定されない。
【0140】
第1トランジスタTr1a、Tr1b、Tr1c、Tr1d、Tr1e、Tr1f、Tr1g、Tr1hは、ソース側にアシスト線AL1が接続されている。同様に、第2トランジスタTr2a、Tr2b、Tr2c、Tr2d、Tr2e、Tr2f、Tr2g、Tr2hは、ソース側にアシスト線AL2が接続されている。そして、第1トランジスタTr1aのドレイン側と第2トランジスタTr2aのドレイン側とが結線されて配線35を介して接合部3aに接続されている。
【0141】
同様に、第1トランジスタTr1bのドレイン側と第2トランジスタTr2bのドレイン側とが結線されて接合部3bに接続され、第1トランジスタTr1cのドレイン側と第2トランジスタTr2cのドレイン側とが結線されて接合部3cに接続され、第1トランジスタTr1dのドレイン側と第2トランジスタTr2dのドレイン側とが結線されて接合部3dに接続されている。そして、第1トランジスタTr1eのドレイン側と第2トランジスタTr2eのドレイン側とが結線されて接合部3eに接続され、第1トランジスタTr1fのドレイン側と第2トランジスタTr2fのドレイン側とが結線されて接合部3fに接続されている。また、第1トランジスタTr1gのドレイン側と第2トランジスタTr2gのドレイン側とが結線されて接合部3gに接続され、第1トランジスタTr1hのドレイン側と第2トランジスタTr2hのドレイン側とが結線されて接合部3hに接続されている。
【0142】
このように、ビットセレクター36は、第1トランジスタTr1a、Tr1b、Tr1c、Tr1d、Tr1e、Tr1f、Tr1g、Tr1hをオン状態とすることで、接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hをアシスト線AL1に電気的に接続できる。同様に、ビットセレクター36は、第2トランジスタTr2a、Tr2b、Tr2c、Tr2d、Tr2e、Tr2f、Tr2g、Tr2hをオン状態とすることで、接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hをアシスト線AL2に電気的に接続できる。
【0143】
また、第3トランジスタTr3aは、ドレイン側にアシスト線AL1が接続され、ソース側に差動アンプ37のプラス端子が接続されており、オン状態のとき、差動アンプ37のプラス端子をアシスト線AL1に電気的に接続する。第3トランジスタTr3bドレイン側にアシスト線AL2が接続され、ソース側に差動アンプ37のマイナス端子が接続されており、オフ状態のとき、差動アンプ37のマイナス端子をアシスト線AL2に電気的に接続する。ドライバ36aは、図示しない配線によって各トランジスタのゲートに接続されており、ゲートに電圧を印加することで、トランジスタをオフ状態からオン状態にする。
【0144】
例えば、ビットセレクター36は、第1トランジスタTr1aをオン状態とし、第2トランジスタTr2aをオフ状態とすることで、アシスト線AL1と電気的に接続する接合部として接合部3aを選択できる。同様に、ビットセレクター36は、第1トランジスタTr1bをオフ状態とし、第2トランジスタTr2bをオン状態とすることで、アシスト線AL2と電気的に接続する接合部として接合部3bを選択できる。このとき、アシスト線AL1をhighレベルに設定し、アシスト線AL2をlowレベルに設定すると、アシスト線AL1から、接合部3a、重金属層2、接合部3b、アシスト線AL2の順に電流がながれ、接合部3a、接合部3bに書き込み補助電流Iwaを流すことができる。書き込み補助電流Iwaは、アシスト線AL1に電気的に接続された一の接合部の参照層から重金属層2を介してアシスト線AL2に電気的に接続された他の接合部の参照層に向けて流れる。このように、磁気メモリ装置4100では、アシスト線AL1に電気的に接続した接合部からアシスト線Al2に電気的に接続した接合部に、又は、その逆方向に書き込み補助電流Iwaを流すことができる。
【0145】
磁気メモリ装置4100では、書き込み補助電流Iwaが2つの接合部を流れることから、重金属層2に書き込み電流Iwを流し、書き込み補助電流Iwaを流すことで、2つの接合部に同時にデータを書き込むことができる。このように、磁気メモリ装置4100は、2つの接合部をセットとして書き込みを行う。
【0146】
ここで、書き込み補助電流Iwaには、接合部を流れる向きによって磁化反転がアシストされる場合と磁化反転がアシストされない場合がある。このことについて、
図13A、
図13Bと同じ構成には同じ符号を付した
図15A、15Bを用いて説明する。
図15A、15Bは、磁気抵抗効果素子アレイ400の接合部3aをy方向に切断した場合の断面図である。
図15Aは、反平行状態の接合部3aを平行状態にするために、重金属層2に書き込み電流Iwを-y方向(紙面奥側から紙面手前側に向かう方向)に流し、書き込み補助電流Iwaを接合部3aに、重金属層2から参照層33に向かって流している状態を示している。このとき、書き込み電流Iwによって重金属層2にスピンホール効果が生じ、記録層31の磁化方向と反平行のスピンSAが記録層31に流入する。スピンSAは記録層31の磁化方向を反転させるように働く。
【0147】
また、書き込み補助電流Iwaが重金属層2から参照層33に流れるので、参照層33から記録層31に電子が流れ、参照層33から記録層31に、記録層31の磁化方向と反平行のスピンが流入する。書き込み補助電流Iwaによって記録層31に流入したスピンは、記録層31の磁化方向と反平行なので、記録層31の磁化方向を反転させるようにトルクが働く。このように、接合部3aが反平行状態の場合において、重金属層2から参照層33に書き込み補助電流Iwaを流すようにすると、書き込み補助電流Iwaは、記録層31の磁化反転をアシストするように働く。
【0148】
一方で、
図15Bは、重金属層2に書き込み電流Iwを-y方向(紙面奥側から紙面手前側に向かう方向)に流し、書き込み補助電流Iwaを接合部3aに、参照層33から重金属層2に向かって流している状態を示している。この場合、書き込み電流Iwによって重金属層2にスピンホール効果が生じ、記録層31の磁化方向と反平行のスピンSAが記録層31に流入する。スピンSAは記録層31の磁化方向を反転させるように働く。書き込み補助電流Iwaが参照層33から重金属層2に流れるので、記録層31から参照層33に電子が流れる。このとき、記録層31中の参照層33の磁化方向と平行のスピンは参照層33に流入するが、記録層31中の参照層33の磁化方向と反平行のスピンは、障壁層32と参照層33の界面で散乱され、再び記録層31に流入する。
【0149】
書き込み補助電流Iwaによって記録層31に流入したスピンは、記録層31の磁化方向と平行のスピンであるので、このスピンによって記録層31の磁化にトルクは生じず、記録層31の磁化反転をアシストしない。さらに、書き込み補助電流Iwaによって記録層31に流入したスピンは、書き込み電流Iwによって流入したスピンによって磁化が回転しようとするのを抑制し、磁化反転しないことをアシストするように働く。その結果、記録層31の磁化は反転しない。このように、接合部3aの磁化方向が反平行のときは、重金属層2から参照層33に書き込み補助電流Iwaが流れると、記録層31の磁化反転がアシストされて記録層31の磁化方向が反転し、参照層33から重金属層2に書き込み補助電流Iwaが流れると、磁化反転がアシストされず(磁化反転しないことがアシストされて)記録層31の磁化方向が反転しない。なお、記録層31の磁化方向と参照層33の磁化方向が平行の場合は、参照層33から重金属層2に書き込み補助電流Iwaが流れると記録層31の磁化反転がアシストされ、重金属層2から参照層33に書き込み補助電流Iwaが流れると記録層31の磁化反転がアシストされない。
【0150】
磁気メモリ装置4100は、2つの接合部(例えば、接合部3a、3b)を選択し、一の接合部3bの参照層33から重金属層2を介して他の接合部3aの参照層33向けて書き込み補助電流Iwaを流し、2つの接合部3a、3bをセットとして書き込みを行う。そのため、一の接合部3bは参照層33から重金属層2に書き込み補助電流Iwaが流れ、他の接合部3aは重金属層2から参照層33に書き込み補助電流Iwaが流れ、セットとした接合部3a、3b同士で書き込み補助電流Iwaの流れる方向が異なる(
図13B参照)。
【0151】
また、ビットセレクター36は、差動アンプ37にデータを読み出す接合部を電気的に接続する。例えば、ビットセレクター36が、第1トランジスタTr1aをオン状態とし、他の第1トランジスタTr1b、Tr1c、Tr1d、Tr1e、Tr1f、Tr1g、Tr1hをオフ状態としてアシスト線AL1に接合部3aを電気的に接続する。そして、ビットセレクター36が、第2トランジスタTr2bをオン状態とし、他の第2トランジスタTr2a、Tr2c、Tr2d、Tr2e、Tr2f、Tr2g、Tr2hをオフ状態としてアシスト線AL2に接合部3bを電気的に接続する。続いて、ビットセレクター36が、第3トランジスタTr3a、Tr3bを共にオン状態にして、差動アンプ37のプラス端子をアシスト線AL1に電気的に接続し、差動アンプ37のマイナス端子をアシスト線AL2に電気的に接続する。その結果、読み出す接合部として、接合部3aが差動アンプ37のプラス端子に電気的に接続され、接合部3bが差動アンプ37のマイナス端子に電気的に接続される。このようにして、複数の接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hから2つの接合部3a、3bが選択され、選択された2つの接合部3a、3bが差動アンプ37に接続される。
【0152】
このとき、ビット線BLをhighレベルに設定したとする。そうすると、重金属層2から接合部3aを介して差動アンプ37のプラス端子に電流が流れ、重金属層2から接合部3bを介して差動アンプ37のマイナス端子に電流が流れる。その結果、差動アンプ37は、プラス端子に入力された電流とマイナス端子に入力された電流の差に基づいた電圧、すなわち、磁気抵抗効果素子アレイから選択した接合部3aと接合部3bとの抵抗差に応じた電圧を出力する。この出力電圧に基づいて、接合部3aと接合部3bの抵抗差を検出し、接合部3a、接合部3bが平行状態にあるか反平行状態にあるかを判断でき、接合部3aと接合部3bに記憶されたデータを読み出すことができる。このように、磁気メモリ装置4100では、差動アンプ37を用いて、2つのビットを同時に読み出すので、1ビットずつ読み出す場合と比較して、より早くデータを読み出すことができる。なお、ビットセレクター36の構成は、一例であり、アシスト線AL1、アシスト線AL2及び差動アンプに接続する接合部を選択することができれば、特に限定されない。
【0153】
このような磁気メモリ装置4100では、接合部の記録層と参照層との磁化方向が反平行状態と磁化方向が平行の平行状態で接合部の抵抗値が異なることを利用して、平行状態にデータ“0”を対応させ、反平行状態にデータ“1”を対応させて、接合部の抵抗値に応じてデータを記憶する。磁気メモリ装置4100は、2つの接合部をセットとして書き込み及び読み込みを行う。なお、隣接する接合部をセットにするのが望ましい。このようにすることで、対にしたすべての接合部に書き込み補助電流Iwaを流すことができ、磁気抵抗効果素子アレイ400の各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hに一括して書き込みができる。
【0154】
このような磁気メモリ装置4100のデータの書き込み動作と読み出し動作とを具体的に説明する。このとき、隣接する接合部3a、接合部3bを接合部対30aとし、接合部3c、接合部3dを接合部対30bとし、接合部3e、接合部3fを接合部対30cとし、接合部3g、接合部3hを接合部対30dとして、各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hをセットで取り扱ってデータの書き込み及び読み出しを行うものとする。
【0155】
最初に、
図13Aに示すように、コントロール線420をhighレベルに設定し、ビット線BLをlowレベルに設定して、リセット電流Isを重金属層2に+y方向に流す。リセット電流Isは、リセット電流Isのみで各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの記録層31を磁化反転できる程度の大きさに設定されている。そのため、接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの記録層31の磁化内、-x方向(
図13Aの紙面奥側から紙面手前側に向かう方向)を向いていない磁化が反転され、記録層31の磁化方向が-x方向(所定方向)に揃えられ、すべての接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hが反平行状態となり、すべてのビットにデータ“1”を記録した状態となる。このようにして、重金属層2の一端部と他端部の間にリセット電流Isが流れると、各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの記録層31の磁化方向が所定方向に揃い、すべてのビットが反平行状態となってデータ“1”を記録した状態となり、磁気抵抗効果素子アレイ400が初期化される。このとき、リセット電流Isを-y方向に流し、すべての接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hを平行状態、すなわち、データ“0”を記録した状態として、磁気抵抗効果素子アレイ400を初期化してもよい。
【0156】
次に、ビットセレクター36が、接合部3b、3c、3f、3hをアシスト線AL1に電気的に接続し、接合部3a、3d、3e、3gをアシスト線AL2に電気的に接続する。すなわち、各接合部対30a、30b、30c、30dの一の接合部をアシスト線AL1に電気的に接続し、他の接合部をアシスト線AL2に電気的に接続するようにする。
【0157】
続いて、
図13Bに示すように、ビット線BLをhighレベルに設定し、コントロール線420をlowレベルに設定して、重金属層2の一端部と他端部の間で-y方向に書き込み電流Iwを流すと共に、アシスト線AL1をhighレベルに設定し、アシスト線AL2をlowレベルに設定して、書き込み補助電流Iwaを各接合部に流す。書き込み電流Iwは、書き込み電流Iwのみでは記録層31の磁化反転が起こらない程度の大きさに設定されている。このとき、接合部対30aでは、接合部3bがアシスト線AL1に電気的に接続され、接合部3aがアシスト線AL2に電気的に接続されているので、書き込み補助電流Iwaが接合部3bから接合部3aに流れる。そのため、接合部3bでは、参照層33から記録層31に書き込み補助電流Iwaが流れ、書き込み補助電流Iwaによって生じるスピントルクが記録層31の磁化方向を維持するように働くので、記録層31の磁化反転がアシストされず、磁化反転が生じない。その結果、接合部3bでは、データ“1”を記憶した状態が維持される、すなわち、データ“1”が書き込まれる。一方で、接合部3aでは、記録層31から参照層33に書き込み補助電流Iwaが流れるので、記録層31の磁化反転がアシストされる。その結果、接合部3aは、記録層31が磁化反転され、平行状態となり、データ“0”が書き込まれる。このように、各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの記録層31の磁化方向が所定方向に揃っている状態で、重金属層2の一端部と他端部との間に書き込み電流Iwが流れると共に、一の接合部3bの参照層33から、重金属層2を介して、他の接合部3aの参照層33に書き込み補助電流Iwaが流れると、書き込み補助電流Iwaが流れる2つの接合部3a、3bのいずれか一方(ここでは接合部3a)の記録層31が磁化反転する。
【0158】
同様に、接合部対30bでは、書き込み補助電流Iwaが接合部3cから接合部3dに流れ、接合部3dにデータ“0”が書き込まれ、接合部3cに、データ“1”が書き込まれる。接合部対30cでは、書き込み補助電流Iwaが接合部3fから接合部3eに流れ、接合部3eにデータ“0”が書き込まれ、接合部3fに、データ“1”が書き込まれる。接合部対30dでは、書き込み補助電流Iwaが接合部3hから接合部3gに流れ、接合部3gにデータ“0”が書き込まれ、接合部3hに、データ“1”が書き込まれる。このようにして、磁気抵抗効果素子アレイ400の各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hに一括してデータを書き込むことができる。このとき、重金属層2に書き込み電流Iw(パルス電流)を流し、一の接合部の参照層33から、重金属層2を介して、他の接合部の参照層33に書き込み補助電流(パルス電流)を流して、記録層31を磁化反転させた後、重金属層2に流す書き込み電流Iwよりも後に、書き込み補助電流Iwaをオフするのが望ましい。なお、隣接した2つの接合部を接合部対とするのが効率的ではあるが、1つおきや2つおきなど離れた2つの接合部を接合部対とし、当該接合部間に書き込み補助電流を流すようにしてもよい。
【0159】
磁気メモリ装置4100は、リセット電流Isを流して、磁気抵抗効果素子アレイ400の各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hそれぞれの記録層31の磁化方向を所定方向に揃えることで初期化した後、各接合部対30a、30b、30c、30dに、すなわち、一の接合部の参照層33から重金属層2を介して他の接合部の参照層33向けて書き込み補助電流Iwaを流し、接合部対30a、30b、30c、30dの2つの接合部をセットとして書き込みを行う。そして、上述のように、セットとした接合部同士では書き込み補助電流Iwaの流れる方向が異なる。そのため、磁気メモリ装置4100はで、接合部対の一方の接合部は書き込み補助電流Iwaによって磁化反転がアシストされ記録層31が磁化反転し、他方の接合部は書き込み補助電流Iwaによって磁化反転しないことがアシストされて記録層31が磁化反転されない。よって、磁気メモリ装置4100は、各接合部対30a、30b、30c、30dに、データ“0”とデータ“1”とを確実に書き込むことができる。
【0160】
続いて、
図13Aと同じ構成には同じ符号を付した
図14を参照して、磁気メモリ装置4100の読み出し動作について説明する。まず、ビットセレクター36が、例えば、接合部3aを差動アンプ37のプラス端子に電気的に接続し、接合部3bを差動アンプ37のマイナス端子に電気的に接続する。このとき、ビットセレクター36は、接合部対を1つ選択し、選択した接合部対の一の接合部を差動アンプ37のプラス端子に電気的に接続し、他の接合部を差動アンプのマイナス端子に電気的に接続する。
【0161】
次に、ビット線BLをhighレベルに設定し、重金属層2から接合部3aを介して差動アンプ37のプラス端子に電流を入力すると共に、重金属層2から接合部3bを介して差動アンプ37のマイナス端子に電流を入力する。差動アンプ37は、プラス端子に入力された接合部3a(一の接合部)を流れる電流と、マイナス端子に入力された接合部3b(他の接合部)を流れる電流の差に基づく電圧を出力する。この差動アンプ37の出力電圧から、接合部3a、接合部3bが平行状態にあるか反平行状態にあるかを判断し、接合部3aと接合部3bに記憶されたデータを読み出す。本実施形態では、接合部3aからデータ“0”を読み出し、接合部3bからデータ“1”を読み出すことができる。その後、ビットセレクター36が、順次、接合部を差動アンプ37に電気的に接続してゆき、差動アンプ37の出力電圧に基づいて、各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hに記憶されたデータが読み出されていく。このように複数の接合部(ビット)に記憶したデータを同時に読み出すので、データを従来よりも早く読みだすことができる。
【0162】
このとき、2つの差動アンプ37を用意して、4ビットずつデータを読み出すようにしてもよく、各接合部対30a、30b、30c、30dにそれぞれ専用の差動アンプ37を用意し、磁気抵抗効果素子アレイ400に記憶されたデータを一括して読み出すようにしてもよい。また、効率的にデータを読み出す点からは、一の接合部対に属する2つ接合部を、同じ差動アンプ37に電気的に接続するのが望ましいが、一の接合部対に属する1つの接合部と、他の接合部対に属する1つの接合部とを同時に差動アンプ37に電気的に接続して、記憶したデータを読み出すようにすることもできる。
【0163】
この磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法は、重金属層2上に複数の接合部3を備えた磁気抵抗効果素子アレイ400を複数備える磁気メモリ装置4100で説明してきたが、上述の他の接合部51、52、53、54、55、56、57、58、59を、複数個、重金属層2上に備える磁気抵抗効果素子アレイを有する磁気メモリ装置にも適用することができ、同様の効果を奏する。また、形状磁気異方性などの他の磁気異方性により面内方向に磁化した記録層及び参照層を有する接合部を、複数個、重金属層2上に設けた磁気抵抗効果素子アレイや面内方向に対して垂直な方向に磁化した記録層及び参照層を有する接合部を、複数個、重金属層2上に設けた磁気抵抗効果素子アレイを備える磁気メモリ装置に適用しても同様の効果を奏する。また、磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法は、垂直方向に磁化した記録層及び参照層を有する接合部を備える磁気抵抗効果素子アレイを用いる場合、各接合部の記録層を、エピタキシャル層とし、垂直方向に磁化しているが、エピタキシャル層であることに起因する面内磁気異方性も有するようにし、記録層の面内磁気異方性の方向と重金属層2の長手方向(第1方向)が大略平行となるように接合部を配置して、記録層の面内磁気異方性の方向の向きに重金属層2に書き込む電流Iwを流すことで、エピタキシャル層起因の面内磁気異方性によって、無磁場下で記録層を磁化反転できる。
【0164】
以上の構成において、磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法は、重金属層2にリセット電流Isを流し、各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの記録層31の磁化方向を所定方向に揃えるリセット工程と、重金属層2に書き込み電流Iwを流すと共に、一の接合部の参照層33から、重金属層2を介して、他の接合部3の参照層33へ向けて書き込み補助電流Iwaを流す書き込み工程と、一の接合部を流れる電流と、他の接合部を流れる電流の差に基づいて、一の接合部と他の接合部とに記憶されたデータを読み出す読み出し工程とを有するように構成した。
【0165】
よって、磁気メモリ装置の書き込み及び読み出し方法は、2つの接合部に記憶されたデータを同時に読み出すことができるので、従来よりも早くデータを読み出すことができる。
【0166】
また、記書き込み工程が、一の接合部から、当該接合部と隣接する他の接合部に書き込み補助電流Iwaを流すようにすることで、重金属層2上に形成された各接合部3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hに一括してデータを書き込むことができる。
【0167】
(5)他の実施形態
上記の実施形態では、記録層31(記録層が多層膜の場合は各強磁性層)の磁化容易方向が、磁気抵抗効果素子1を上部から見たとき、重金属層2の長手方向(書き込み電流Iwを流す方向)と概ね直交するよう接合部3を重金属層2上に設けた場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、
図17Aに示す磁気抵抗効果素子600のように、記録層31の磁化容易方向(
図17A中の矢印A600)が、概ね重金属層2の長手方向となるように、接合部3jを重金属層2上に設けてもよい。この場合、磁気抵抗効果素子1の下部に磁場発生装置を設けるなどして、重金属層2に対して垂直方向(+z方向)に磁場を印加するようにする。磁気抵抗効果素子600では、接合部3jを円柱形状とし、重金属層2の幅を接合部3jの幅と同じにしている。なお、接合部3jの形状以外の構成は接合部3と同様である。このように、重金属層2のサイズや接合部3jの幅方向の断面形状は特に限定されない。
【0168】
また、
図17Bに示す磁気抵抗効果素子700ように、記録層31の磁化容易方向(
図17B中の矢印A700)が、重金属層2の長手方向に対して所定角度θだけ傾くように、接合部3を重金属層2上に設けてもよい。この場合、θは、±3度~±177度、より好ましくは、±15度~±165度、よりより好ましくは±30~±150度である。このように設定することで、無磁場、低電流で、接合部3jの記録層の磁化反転が可能となる。また、θを±3~±25度又は±155度~±177度に設定することで、消費電力が増加するが、接合部3jの記録層の磁化反転がより速くなり、書き込み速度を高速化することができる。この場合も、書き込み電流Iwは、第1方向(重金属層2の長手方向)と同じ向きに、重金属層2の一端部と他端部の間で流される。よって、書き込み電流Iwは、記録層の磁化方向に対して所定角度(±3度~±177度)傾いた方向に流れる。
【符号の説明】
【0169】
1、41、42、43、44、45、46、47、48、49 磁気抵抗効果素子
2 重金属層
31、31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h、31i 記録層
32 障壁層
33 参照層
34 反強磁性層
300、410、4100 磁気メモリ装置
400 磁気抵抗効果素子アレイ
Iw 書き込み電流
Iwa 書き込み補助電流