(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】食道内電気刺激具
(51)【国際特許分類】
A61N 1/05 20060101AFI20230328BHJP
A61N 1/08 20060101ALI20230328BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
A61N1/05
A61N1/08
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2022569926
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045338
(87)【国際公開番号】W WO2022131126
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020210349
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】椎谷 紀彦
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0038894(US,A1)
【文献】特開2017-000230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0051450(US,A1)
【文献】国際公開第2016/021633(WO,A1)
【文献】特表2014-520585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0177190(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/055
A61B 5/388
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食道内に配置されて同食道の内壁面を介して脊髄に電気刺激を与えるための食道内電気刺激具であって、
前記食道内に配置されて同食道の内壁面に対して電気刺激を与えるための少なくとも1つの刺激付与電極と、
少なくとも口から喉に達する長さの長尺に延びて形成されて前記刺激付与電極を保持する刺激具本体と、
前記刺激付与電極に電気を供給する給電電線とを備え、
前記刺激具本体は、
少なくとも口から喉に達する長さでかつ少なくとも長手方向に可撓性を有する
とともに前記食道の内腔を外側に押し広げる幅の平板状に形成されており、
前記刺激付与電極は、
前記刺激具本体の幅方向の中央部に設けられていることを特徴とする食道内電気刺激具。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のうちのいずれか1つに記載した食道内電気刺激具において、
前記刺激具本体は、
一方の面に前記刺激付与電極が設けられるととともに他方の面が滑面に形成されていることを特徴とする食道内電気刺激具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食道内に配置されて同食道の内壁面に対して電気刺激を与える食道内電気刺激具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外科手術中における脊髄の状態を監視するために食道の内壁面に対して電気的刺激を与える食道内電気刺激具がある。例えば、下記特許文献1には、可撓性を有する円筒のチューブ状に形成された長尺部材の外表面に第1電極および第2電極を設けた食道内電気刺激具としての脊髄機能監視用電極装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された脊髄機能監視用電極装置は、第1電極および第2電極を備えて食道内に挿入される長尺部材が円筒状に形成されているため、食道内に他の医療器具(例えば、経食道エコープローブなど)を挿入し難いとともに食道内で位置決めした長尺部材の位置がずれ易いという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、食道内で他の医療器具も挿入し易いとともに食道内における位置ずれも抑えることができる食道内電気刺激具を提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、食道内に配置されて同食道の内壁面を介して脊髄に電気刺激を与えるための食道内電気刺激具であって、食道内に配置されて同食道の内壁面に対して電気刺激を与えるための少なくとも1つの刺激付与電極と、少なくとも口から喉に達する長さの長尺に延びて形成されて刺激付与電極を保持する刺激具本体と、刺激付与電極に電気を供給する給電電線とを備え、刺激具本体は、少なくとも口から喉に達する長さでかつ少なくとも長手方向に可撓性を有するとともに食道の内腔を外側に押し広げる幅の平板状に形成されており、刺激付与電極は、刺激具本体の幅方向の中央部に設けられていることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、食道内電気刺激具は、食道内に挿入される刺激具本体が長尺に延びる方向に可撓性を有した平板状に形成されているため、食道内に他の医療器具も挿入した場合であっても物理的に干渉し難く他の医療器具の挿入がし易いとともに食道内における刺激具本体の位置ずれも抑えることができる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、長手方向に直交する幅方向にも可撓性を有することにある。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体が長手方向に直交する幅方向にも可撓性を有しているため、食道内に対する挿入または抜き取りを円滑に行うことができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、幅方向の両端の外縁部が可撓性を有することにある。
【0011】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体における幅方向の両端の外縁部が可撓性を有しているため、刺激具本体の外縁部が食道の内壁に沿って変形することで刺激具本体の挿入および抜き取りが行い易いとともに食道内における位置ずれを抑えることができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、幅方向の両端の外縁部より内側部分の剛性が同外縁部よりも高く形成されていることにある。
【0013】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体における幅方向の両端の外縁部より内側部分の剛性が同外縁部よりも高く形成されているため、刺激具本体を食道内に挿入する際における刺激具本体の座屈(長手方向の折れ曲がり)を抑えて円滑に挿入することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、平板状に形成された第1平板部材と、第1平板部材より幅が狭い平板状に形成されて第1平板部材に重ねられた第2平板部材とを備えることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体が平板状に形成された第1平板部材と第1平板部材より幅が狭い平板状に形成されて第1平板部材に重ねられた第2平板部材とを備えているため、刺激具本体における幅方向の両端の外縁部より内側部分の剛性が高い刺激具本体を簡単に構成することができる。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、先端部に向かって幅が細く形成されていることにある。
【0017】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体の先端部に向かって幅が細く形成されているため、刺激具本体を食道内に円滑に挿入することができる。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、給電電線は、刺激具本体に一体的に取り付けられていることにある。
【0019】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、給電電線が刺激具本体に対して分離することなく一体的に取り付けられているため、刺激具本体を食道内に円滑に挿入することができるとともに食道内への他の医療器具の挿入が行い易くなる。
【0020】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激付与電極は、刺激具本体の長手方向に沿って少なくとも2つ設けられていることにある。
【0021】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激付与電極が刺激具本体の長手方向に沿って少なくとも2つ設けられているため、食道内で正極と負極とを設けて電気刺激を付与することができる。また、食道内電気刺激具は、刺激付与電極が刺激具本体の長手方向に沿って2つ以上設けることで、所望する位置または複数の位置で同時に電気刺激を付与することもできる。
【0022】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激付与電極は、刺激具本体の板面から突出していることにある。
【0023】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激付与電極が刺激具本体の板面から突出しているため、刺激付与電極を食道の内壁面に効果的に接触させることができる。
【0024】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、長手方向に沿って目盛りが設けられていることにある。
【0025】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体に長手方向に沿って目盛りが設けられているため、刺激具本体の体内への挿入量または体内に挿入した刺激付与電極の位置を正確に把握することもできる。
【0026】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激付与電極は、刺激具本体の食道内における脊髄側の面に設けられていることにある。
【0027】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激付与電極が刺激具本体における食道内での脊髄側の面に設けられているため、脊髄に対して電気刺激を精度よく安定的に付与することができる。
【0028】
また、本発明の他の特徴は、前記食道内電気刺激具において、刺激具本体は、一方の面に刺激付与電極が設けられるととともに他方の面が滑面に形成されていることにある。
【0029】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、食道内電気刺激具は、刺激具本体における一方の面に刺激付与電極が設けられるととともに他方の面が滑面に形成されているため、食道内に超音波プローブなどの他の医療器具を滑面に形成された他方の面上を滑らせて円滑に通すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る食道内電気刺激具の外観構成およびシステム構成の概略を示した説明図である。
【
図2】
図1に示す食道内電気刺激具の主要部を側面から見た一部側面図である。
【
図3】
図2に示す食道内電気刺激具の内部構成の概略を示した要部断面図である。
【
図4】
図1に示した食道内電気刺激具を人間の食道内に挿入する様子を断面図で模式的に示した説明図である。
【
図5】
図1に示した5-5線から見た食道内電気刺激具を食道内に挿入した状態を断面で模式的に示す説明図である。
【
図6】本発明の変形例に係る食道内電気刺激具の内部構成の概略を示した要部断面図である。
【
図7】本発明の他の変形例に係る食道内電気刺激具の外観構成の概略を平面的に示した説明図である。
【
図8】本発明の他の変形例に係る食道内電気刺激具の外観構成の概略を平面的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る食道内電気刺激具の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る食道内電気刺激具100の全体構成の概略を示す平面図である。また、
図2は、
図1に示す食道内電気刺激具100の全体構成の概略を示す側面図である。また、
図3は、
図1に示す食道内電気刺激具100を人間Hの食道S内に挿入した状態を模式的に示す人体の一部断面図である。
【0032】
この食道内電気刺激具100は、人間Hの食道S内に配置されて食道Sの内壁面を介して脊髄Spに電気刺激を与えるための器具である。この食道内電気刺激具100は、例えば、大動脈の外科手術中に虚血性の脊髄障害の発生の有無を監視するために食道S内に配置されて内壁面を介して脊髄Spに電気刺激を与える。なお、
図4においては、背骨内を通る脊髄Spを二点鎖線で示している。
【0033】
(食道内電気刺激具100の構成)
食道内電気刺激具100は、刺激具本体101を備えている。刺激具本体101は、刺激付与電極111,112をそれぞれ食道S内に配置するための部品であり、少なくとも人間Hの口Mから食道Sにおける刺激付与電極111,112をそれぞれ配置する位置までの長さに延びる長尺体で構成されている。この場合、刺激具本体101は、人間Hの体内の管腔に沿って弾性変形するように長手方向に屈曲可能な可撓性を有して構成されている。本実施形態においては、刺激具本体101は、少なくとも人間Hの口Mから喉Nに達する長さ(約300mm)に形成されている。この刺激具本体101は、主として、第1平板部材102、第2平板部材103および外装体104をそれぞれ備えて構成されている。
【0034】
第1平板部材102は、人間Hの口腔内および食道S内に沿って挿入される主たる部品であり、少なくとも人間Hの口Mから喉Nに達する長さの薄板状に形成されている。この場合、第1平板部材102は、長手方向および幅方向において自由に弾性的に屈曲する可撓性を有して構成されている。
【0035】
本実施形態においては、第1平板部材102は、透明なポリカーボネート材を長さが300mm、幅が16mm、厚さが0.3mmに形成して構成されている。この場合、本実施形態においては、第1平板部材102は、人間Hの体内に挿入される先端部102aに向かって幅が徐々に細くなる先細りの形状に形成されている。また、第1平板部材102の先端部102aおよびこの先端部102aの反対側の後端部102bは、平面視でそれぞれ円弧状に形成されている。また、第1平板部材102には、2つの刺激付与電極111,112がそれぞれ板面から露出した状態で取り付けられている。
【0036】
第2平板部材103は、第1平板部材102を部分的に補強して剛性を高めるとともに刺激付与電極111,112および給電電線113,114をそれぞれ第1平板部材102とともに保持するための部品であり、第1平板部材102に取り付けられている。より具体的には、第2平板部材103は、第1平板部材102よりも短い長さでかつ短い幅の可撓性を有する平面視で方形状の薄板で構成されている。本実施形態においては、第2平板部材103は、透明なポリカーボネート材を長さが255mm、幅が8mm、厚さが0.5mmに形成して構成されている。
【0037】
この第2平板部材103は、第1平板部材102の幅方向の中央部でかつ第1平板部材102の先端部102aから後端部102b側に後退した位置に図示しない接着剤を用いて貼り付けられている。これにより、第1平板部材102は、第2平板部材103が貼り付けられた部分の剛性が補強されて刺激具本体101全体として第2平板部材103が貼り付けられた部分が撓み変形し難く形成される。この場合、第1平板部材102は、第2平板部材103が貼り付けられた部分の外側の外縁部102cの可撓性は維持される。また、第1平板部材102と第2平板部材103との間には、刺激付与電極111,112および給電電線113,114がそれぞれ配置されている。
【0038】
外装体104は、第1平板部材102および第2平板部材103を一体的に被覆する薄膜状の部品である。本実施形態においては、外装体104は、透明なシリコンゴムチューブを熱収縮させることで第1平板部材102および第2平板部材103を一体的に被覆している。この場合、外装体104は、刺激具本体101から突き出た刺激具本体101との境界部分も被覆している。本実施形態においては、外装体104は、収縮後の厚さが片側0.2mmの厚さで形成されている。この外装体104によって、刺激具本体101における後述する刺激付与電極111,112が設けられた面、およびその反対面がそれぞれ滑らかな面である滑面に形成される。
【0039】
刺激付与電極111,112は、食道Sの内壁面に接触して電気的刺激を与えるための部品であり、白金、銅またはステンレスなどの導電性を有する材料で構成されている。この刺激付与電極111,112は、主として、接触部111a,112aおよび接続部111b,112bをそれぞれ備えて構成されている。
【0040】
接触部111a,112aは、食道Sの内壁面に接触して同内壁面に対して電気を流す部分であり、第1平板部材102における第2平板部材103が貼り付けられた板面とは反対側の板面から突出して形成されている。本実施形態においては、接触部111a,112aは、それぞれ球体状に形成されている。これらの接触部111a,112aは、第1平板部材102の幅方向の中央部に長手方向に所定の間隔を介して設けられている。
【0041】
この場合、接触部111aと接触部112aとの間の配置間隔は、食道内電気刺激具100が挿入される食道Sの大きさ、状態、脊髄Spの状態、通電する電気の電圧値、電流値または通電の目的などに応じて適宜設定される。本実施形態においては、接触部111aと接触部112aとの間の配置間隔は、40mmに設定されている。
【0042】
また、刺激具本体101の先端部102a側に設けられた接触部111aは、先端部102aから所定の間隔を介して配置されている。この場合、先端部102aと刺激付与電極111の接触部111aとの間の所定の間隔は、接触部111aよりも先端部102a側の第1平板部材102が食道Sの湿った内壁面に撓み変形しながらでも貼り付くことができる長さであり、概ね30mm以上である。本実施形態においては、先端部102aと刺激付与電極111の接触部111aとの間の所定の間隔は、50mmに設定されている。
【0043】
接続部111b,112bは、給電電線113,114に電気的に接続されて電気の供給を受ける部分であり、接触部111a,112aから突出して第1平板部材102を貫通する円柱状の突起で構成されている。なお、接続部111b,112bは、接触部111a,112aに給電電線113,114を電気的に接続することができればどのような形態であってもよいことは当然である。
【0044】
給電電線113,114は、刺激付与電極111,112に対して電気を供給するための部品であり、銅線などの導電性を有する金属線を樹脂製のチューブなどの絶縁体で被覆して構成されている。これらの給電電線113,114は、物理的に分離していてもよいが、絶縁性の1つのチューブ内に給電電線113,114を通したり、2つの給電電線113,114を互いに撚ったりして1つの線状にまとめてもよい。この給電電線113,114は、一方の端部が半田付けなどの接続手法を介して刺激付与電極111,112にそれぞれ接続されているとともに、他方の端部が接続端子113a,114aを介して給電源となる制御装置120にそれぞれ接続されている。
【0045】
制御装置120は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを備えて構成されており、記憶装置に予め記憶された図示しない制御プログラムを実行することにより、食道内電気刺激具100の作動を総合的に制御する。より具体的には、制御装置120は、食道Sを介して脊髄Spを電気的に刺激するための電気信号を給電電線113,114に出力する。この場合、電気信号としては、例えば、100V以上かつ600V以下の範囲の一定の電圧でかつ100mA以上かつ300mAの範囲の一定の電流を2ms間隔で0.05msの間出力するパルス信号である。なお、制御装置120は、刺激付与電極111,112のどちらを正極または負極として電気信号を供給するようにしてもよい。
【0046】
この制御装置120には、使用者からの指示を受け付けて制御装置120に入力するスイッチ群からなる入力装置および制御装置120の作動状況を表示する表示ランプおよび液晶表示装置をそれぞれ備えた操作盤121を備えている。なお、制御装置120は、外部電源か電力を受けて食道内電気刺激具100に供給する電源部を備えていることは当然である。
【0047】
(食道内電気刺激具100の製造)
次に、食道内電気刺激具100の製造過程について説明する。まず、作業者は、第1平板部材102、第2平板部材103、刺激付与電極111,112および給電電線113,114をそれぞれ用意する。この場合、第1平板部材102および第2平板部材103は、樹脂材による射出成形加工または樹脂材を切断する切断加工によって成形することができる。また、刺激付与電極111,112は、金属材料の切削加工またはプレス加工によって成形することができる。
【0048】
次に、作業者は、刺激付与電極111,112の接続部111b,112bをそれぞれ第1平板部材102に貫通させて取り付けた後、これらの接続部111b,112bに給電電線113,114をそれぞれ接続する。次に、作業者は、第2平板部材103の片面に接着剤を塗布した後、第1平板部材102上の接続部111b,112bおよび給電電線113,114を覆うように第2平板部材103を第1平板部材102上に貼り付ける。
【0049】
次に、作業者は、第2平板部材103を貼り付けた第1平板部材102を外装体104で被覆する。具体的には、作業者は、外装体104の材料である筒状のシリコンゴム製のチューブ内に第2平板部材103を貼り付けた第1平板部材102を挿入して加熱することで第2平板部材103を貼り付けた第1平板部材102を外装体104で被覆することができる。これにより、作業者は、食道内電気刺激具100を完成させることができる。
【0050】
(食道内電気刺激具100の作動)
上記のように構成した食道内電気刺激具100の作動について説明する。この食道内電気刺激具100は、前記したように、大動脈の外科手術中に虚血性の脊髄障害の発生の有無を監視するために食道S内に配置されて脊髄Spに電気刺激を与える。まず、医師または看護師などの使用者は、食道内電気刺激具100の接続端子113a,114aを制御装置120に接続して制御装置120の電源をONする。これにより、制御装置120は、図示しない制御プログラムを実行して待機状態となる。
【0051】
次に、使用者は、
図4に示すように、食道内電気刺激具100を挿入する患者(人間H)の口Mから刺激具本体101を挿入して刺激付与電極111,112を食道S内における所望する位置に配置する。この場合、使用者は、刺激具本体101が長手方向に自由に屈曲するため、食道S内の形状に沿って刺激具本体101を屈曲させながら挿入することができる。また、この場合、刺激具本体101は、第1平板部材102における第2平板部材103が貼り付けられた部分の剛性が高く形成されているため、挿入時に頻繁または不必要に屈曲することが抑えられる。
【0052】
また、使用者は、刺激具本体101が平板状に形成されているため、食道S内に他の医療器具が配置されている場合においても円滑に挿入することができるとともに、他の医療器具の位置がずれることも抑えることができる。また、食道内電気刺激具100は、
図5に示すように、食道Sの内径を刺激具本体101の幅方向に広げながら挿入されることで食道Sの内壁面が刺激付与電極111,112に密着し易くなる。また、この場合、食道内電気刺激具100は、第1平板部材102の幅方向の外縁部102cが同幅方向に沿って曲面状に撓み変形することで食道Sの内腔を外側に押し広げて空洞状態を維持させる。なお、
図5においては、外装体104の図示を省略している。
【0053】
次に、使用者は、患者の脊髄Spに対して電気刺激を与える。具体的には、使用者は、制御装置120を操作することで食道内電気刺激具100の刺激付与電極111,112から食道Sの内壁面に対して電気刺激を与える。これにより、使用者は、食道Sを介して脊髄Spに対して電気刺激を与えることができる。この場合、使用者は、脊髄Spへの電気刺激に際して脊髄Spから誘発される電気を記録する誘発電位検出装置(図示せず)を患者に別途装着しておくことで、脊髄Spに電気刺激を与えた際の誘発電位を検出して虚血性の脊髄障害の発生の有無を監視することができる。
【0054】
また、この場合、使用者は、食道Sの内壁面に対して刺激付与電極111,112が正しく接触していない場合には、使用者は、刺激具本体101を長手方向または長手方向の軸線周りに回動させることで刺激付与電極111,112を食道Sの内壁面に密着するように位置または向きを調整することができる。また、使用者は、食道S内に軽食道エコープローブなどの他の医療器具を挿入する場合においては、刺激具本体101が平板状に形成されているため、他の医療器具を円滑に挿入することができるとともに刺激具本体101の位置がずれることも抑えることができる。
【0055】
次に、使用者は、食道S内から刺激具本体101を撤去する場合には、制御装置120を操作して刺激付与電極111,112による電気刺激付与を中断した後、刺激具本体101を食道S内から抜き取る。これにより、使用者は、食道S内から刺激具本体101を撤去することができる。この場合、使用者は、刺激具本体101が平板状に形成されているため、食道S内に他の医療器具が配置されている場合においても円滑に挿入することができるとともに、他の医療器具の位置がずれることも抑えることができる。
【0056】
次に、使用者は、食道内電気刺激具100の接続端子113a,114aを制御装置120から取り外して作業を終了することができる。
【0057】
上記作動からも理解できるように、上記実施形態によれば、食道内電気刺激具100は、食道S内に挿入される刺激具本体101が長尺に延びる方向に可撓性を有した平板状に形成されているため、食道S内に他の医療器具も挿入した場合であっても物理的に干渉し難く他の医療器具の挿入がし易いとともに食道S内における刺激具本体101の位置ずれも抑えることができる。
【0058】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記各実施形態と同様の構成部分には対応する符号を付して、その説明は省略する。
【0059】
例えば、上記実施形態においては、食道内電気刺激具100は、2つの刺激付与電極111,112を備えて構成した。しかし、食道内電気刺激具100は、少なくとも1つの刺激付与電極を備えて構成することができる。ここで、使用者は、食道内電気刺激具100が1つの刺激付与電極を備えて構成した場合には、食道内電気刺激具100が備えた刺激付与電極に付与する電位とは逆極性の電位を付与する電極を患者に設けて脊髄Spに対して直接的または間接的に電気刺激を与えることができる。また、食道内電気刺激具100は、3つ以上の刺激付与電極を備えることで任意の刺激付与電極を用いて脊髄Spに対して電気刺激を与えることもできる。
【0060】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、長手方向に直交する幅方向にも可撓性を有するように構成した。これにより、食道内電気刺激具100は、食道S内の形状に沿って柔軟に変形することで円滑に挿入または抜き取りをすることができる。しかし、刺激具本体101は、少なくとも長手方向において弾性的に屈曲する可撓性を有して構成されていればよい。
【0061】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、幅方向の両端の外縁部102cが可撓性を有するように構成した。これにより、食道内電気刺激具100は、刺激具本体101の外縁部102cが食道Sの内壁面に沿って変形することで刺激具本体101の挿入を円滑に行うことができる。また、食道内電気刺激具100は、刺激具本体101の外縁部102cが食道Sの内壁面を押し広げて筒状に形成することで他の医療器具を挿入し易くすることができる。しかし、刺激具本体101は、幅方向の全域に亘って可撓性を有するように構成することもできる。しかし、刺激具本体101は、幅方向の両端部側のうちの一方のみについて可撓性を有するように構成することもできる。また、刺激具本体101は、幅方向においては可撓性を有さないように構成することもできる。
【0062】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、長手方向および幅方向に平坦に延びる平面状に形成した。しかし、刺激具本体101は、平板を長手方向および/または幅方向に当初から撓んだまたは屈曲した形状に形成して構成することもできる。例えば、刺激具本体101は、
図6に示すように、刺激付与電極111,112が張り出すように幅方向に沿って図示下方に凸状に湾曲して構成することができる。これによれば、食道内電気刺激具100は、刺激付与電極111,112をより効果的に食道Sの内壁面に接触させることができる。なお、
図6においても、外装体104の図示を省略している。
【0063】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、第1平板部材102の幅方向の中央部に第2平板部材103を貼り付けることで幅方向の両端の外縁部102cの間の内側部分の剛性が外縁部102cよりも高く形成した。これにより、食道内電気刺激具100は、刺激具本体101を食道S内に挿入する際における刺激具本体101の座屈(長手方向の折れ曲がり)を抑えて円滑に挿入することができる。しかし、刺激具本体101は、幅方向の両端の外縁部102cの間の内側部分の剛性を外縁部102cと同じまたはそれ以下に形成することもできる。
【0064】
また、刺激具本体101は、第1平板部材102における中央部の厚さを外縁部102cよりも厚くすることでも外縁部102cの間の内側部分の剛性が外縁部102cよりも高く形成することもできる。また、刺激具本体101は、第1平板部材102とは異なる材料(例えば、第1平板部材102よりも剛性の高い異種材料)を幅方向の中央部に貼り付けることでも外縁部102cの間の内側部分の剛性が外縁部102cよりも高く形成することもできる。
【0065】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、刺激具本体101の後端部102b側から先端部102aに向かって幅が細くなるように平面視で砲弾状に形成した。これにより、食道内電気刺激具100は、刺激具本体101を食道S内に円滑に挿入することができる。しかし、刺激具本体101は、刺激具本体101の後端部102bから先端部102aに亘って同じ幅で形成することもできる。また、刺激具本体101は、後端部102bから先端部102aに向かって幅が広がるように形成することもできる。
【0066】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、給電電線113,114を第1平板部材102と第2平板部材103とで挟むことで内包して構成されている。これにより、食道内電気刺激具100は、給電電線113,114が刺激具本体101に対して分離することなく一体的に取り付けられているため、刺激具本体101を食道S内に円滑に挿入することができるとともに食道S内への他の医療器具の挿入が行い易くなる。しかし、刺激具本体101は、給電電線113,114を第1平板部材102および第2平板部材103に貼り付けることなく物理的に分離した状態で設けることもできる。また、給電電線113,114は、線状の電線のほか、可撓性を有するフラットなフレキシブルケーブルで構成することもできる。
【0067】
また、上記実施形態においては、刺激付与電極111,112は、刺激具本体101の板面からそれぞれ突出して形成されている。これにより、食道内電気刺激具100は、刺激付与電極111,112を食道Sの内壁面にそれぞれ効果的に接触させることができる。しかし、刺激付与電極111,112は、刺激具本体101の板面から突出することなく面一に形成することもできる。また、刺激付与電極111,112は、球体形状のほか、板状またはフィルム状の平板状、または導電性材料を蒸着した層状に形成することもできる。
【0068】
また、刺激付与電極111,112は、
図7に示すように、第1平板部材102の幅方向に平面状に延びて食道Sの内壁面に対して面接触するように構成することもできる。なお、
図7においては、帯状に延びて形成されたシート状、フィルム状または層状の、刺激付与電極111,112を塗り潰して示している。
【0069】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、長さが300mm、幅が16mmおよび厚さが1.2mmに形成した。しかし、刺激具本体101の各部の寸法は、挿入対象である内腔の大きさや長さに応じて適宜設定されるものであり、上記実施形態に限定されるものでないことは当然である。
【0070】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、第1平板部材102に第2平板部材103を重ねた状態で外装体104で全体を被覆して構成した。しかし、刺激具本体101は、長手方向に可撓性を有する平板状に形成されていればよい。したがって、刺激具本体101は、第1平板部材102のみで構成してもよいし、外装体104による被覆を省略して構成することもできる。
【0071】
また、第1平板部材102および第2平板部材103は、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂材、例えば、軟質塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂などが用いることができる。また、第1平板部材102および第2平板部材103は、透明材のほか、半透明または不透明な材料で構成することもできる。また、外装体104は、シリコンゴム以外の材料、例えば、各種樹脂材料で構成してもよい。
【0072】
また、刺激具本体101は、
図8に示すように、長手方向に沿って目盛り130を備えて構成することもできる。これによれば、食道内電気刺激具100は、目盛り130によって刺激具本体101の体内への挿入量または体内に挿入した刺激付与電極111,112の位置を正確に把握することもできる。この場合、目盛り130は、刺激具本体101の先端部102aからの長さを表示してもよいし、刺激付与電極111または刺激付与電極112からの長さを表示してもよい。また、目盛り130は、外装体104の表面に印刷等によって形成してもよいが、外装体104によって被覆される第1平板部材102または第2平板部材103の表面に印刷等によって形成してもよい。
【0073】
また、上記実施形態においては、接触部111a,112aは、第1平板部材102における第2平板部材103が貼り付けられた板面とは反対側の板面に設けた。すなわち、刺激付与電極111,112は、刺激具本体101の食道S内における脊髄Sp側の面に設けられている。これにより、食道内電気刺激具100は、脊髄Spに対して電気刺激を精度よく安定的に付与することができる。しかし、刺激付与電極111,112は、食道Sの内壁面に接触して同内壁面に対して電気を流すことができれば、必ずしも刺激具本体101の食道S内における脊髄Sp側の面に設ける必要はない。したがって、例えば、刺激付与電極111,112は、刺激具本体101における2つの側面(刺激具本体101の厚さ方向の面)のうちの少なくとも一方に設けることもできる。また、刺激付与電極111,112は、刺激具本体101の2つの板面の両方にそれぞれ設けておくことで食道S内に刺激具本体101を挿入する際における板面の向きを考慮する手間を省略することができる。
【0074】
また、上記実施形態においては、刺激具本体101は、刺激付与電極111,112を設けた板面、その反対面および2つの側面など接触部111a,112a以外の全面を外装体104で覆うことで全面を滑面で構成した。これにより、食道内電気刺激具100は、食道S内に対する挿入または引き出し時における摩擦抵抗を減らして円滑に出し入れできるとともに、他の医療機器の出し入れも円滑に行うことができる。しかし、刺激具本体101は、刺激付与電極111,112を設けた板面、その反対面および2つの側面のうちのいずれかの面のみを滑面に形成してもよい。この場合、刺激具本体101は、刺激付与電極111,112を設けた板面またはその反対面を滑面に形成するとよい。また、刺激具本体101は、刺激付与電極111,112を設けた板面、その反対面および2つの側面のうちの滑面に形成しない面については梨地面など細かな凹凸のある面に形成することで食道S内における摩擦抵抗を向上させて位置ズレなどを抑制することもできる。
【0075】
また、上記実施形態においては、食道内電気刺激具100は、人間Hの食道S内に配置した。しかし、食道内電気刺激具100は、人間H以外の生体、例えば、犬または猫などの愛玩動物のほか、牛、馬または豚などの家畜、すなわち動物に対して使用することもできる。
【符号の説明】
【0076】
H…人間、S…食道、M…口、N…喉、Sp…脊髄、
100…食道内電気刺激具、
101…刺激具本体、102…第1平板部材、102a…先端部、102b…後端部、102c…外縁部、103…第2平板部材、104…外装体、
111,112…刺激付与電極、111a,112a…接触部、111b,112b…接続部、113,114…給電電線、113a,114a…接続端子、
120…制御装置、121…操作盤、
130…目盛り。