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特許7251875ソナーシステム、位置ずれ検出方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】ソナーシステム、位置ずれ検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/521 20060101AFI20230328BHJP
   G01S 19/45 20100101ALI20230328BHJP
【FI】
G01S7/521 B
G01S19/45
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021012939
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116651
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 隆
(72)【発明者】
【氏名】島津 定生
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-289132(JP,A)
【文献】特開2004-345434(JP,A)
【文献】特開2005-345414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0178829(US,A1)
【文献】Pazan, Stephen E. 外1名,“Recovery of Near-Surface Velocity from Undrogued Drifters”,JOURNAL OF ATMOSPHERIC AND OCEANIC TECHNOLOGY,2001年,Volume 18, Number 3,Pages 476-489,<URL: https://doi.org/10.1175/1520-0426(2001)018<0476:RONSVF>2.0.CO;2 >
【文献】寄高博行 外2名,“相模湾における漂流実験と吹送流について”,水路部技報,2001年03月,第19号,Pages 55-60,<URL: https://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/KENKYU/report/tbh19/tbh19-07.pdf >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 - G01S 7/64
G01S 15/00 - G01S 15/96
G01S 19/00 - G01S 19/55
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中部を吊下げ自己の位置を計測する手段を備えた水上部と、
水中部を吊下げない構成とされ自己の位置を計測する手段を備えた比較用水上部と、
位置計算手段と、
を備え、
前記位置計算手段は、前記水上部と前記比較用水上部で計測されたそれぞれの位置情報から前記水上部と前記比較用水上部の移動方向の差と移動速度の差を算出し、
前記水上部と前記比較用水上部の前記移動方向の差と前記移動速度の差に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を求め、
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、ソナーシステム。
【請求項2】
前記位置計算手段は、前記水上部の位置と、前記水中部の前記位置ずれ距離及び前記位置ずれ方向とを用いて、前記水中部で受信した水中音波の到来方位及び距離の起点となる前記水中部の位置を補正する、請求項1記載のソナーシステム。
【請求項3】
前記位置計算手段は、前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出するにあたり、
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向を、前記水流の流向とするか、あるいは、
前記水中部と吊下ケーブルの流体運動シミュレーション又は水槽内での水流実験で予め取得した、前記水流の流速と、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離との関係に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、請求項1又は2記載のソナーシステム。
【請求項4】
前記位置計算手段を航空機に備えた請求項1乃至3のいずれか1項に記載のソナーシステム。
【請求項5】
水中部を吊下げ自己の位置を計測する手段を備えた水上部を有する吊下ソナーシステムにおける前記水中部の位置ずれを検出する方法であって、
水中部を吊下げない構成とされ自己の位置を計測する手段を備えた比較用水上部を、前記水上部とともに水面に配備し、
前記水上部と前記比較用水上部で計測されたそれぞれの位置情報から前記水上部と前記比較用水上部の移動方向の差と移動速度の差を算出し、
前記水上部と前記比較用水上部の前記移動方向の差と前記移動速度の差に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を求め、
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、位置ずれ検出方法。
【請求項6】
前記水上部の位置と、前記水中部の前記位置ずれ距離及び前記位置ずれ方向とを用いて前記水中部の位置を補正する、請求項5記載の位置ずれ検出方法。
【請求項7】
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出するにあたり、
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向を、前記水流の流向とするか、あるいは、
前記水中部と吊下ケーブルの流体運動シミュレーション又は水槽内での水流実験で予め取得した、前記水流の流速と、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離との関係に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、請求項5又は6記載の位置ずれ検出方法。
【請求項8】
水中部を吊下げ自己の位置を計測する手段を備えた水上部と、
水中部を吊下げない構成とされ自己の位置を計測する手段を備えた比較用水上部と、を有するソナーシステムのコンピュータに、
前記水上部と前記比較用水上部で計測されたそれぞれの位置情報から前記水上部と前記比較用水上部の移動方向の差と移動速度の差を算出する処理と、
前記水上部と前記比較用水上部の前記移動方向の差と前記移動速度の差に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を求める処理と、
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項9】
前記水上部の位置と、前記水中部の前記位置ずれ距離及び前記位置ずれ方向とを用いて、前記水中部の位置を補正する処理を実行する、請求項8記載のプログラム。
【請求項10】
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出するにあたり、
前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向を、前記水流の流向とするか、あるいは、
前記水中部と吊下ケーブルの流体運動シミュレーション又は水槽内での水流実験で予め取得した、前記水流の流速と、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向及び位置ずれ距離との関係に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する、請求項8又は9記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はソナーシステム、位置ずれ検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
吊下式ソナーは、航空機等(例えば固定翼対潜哨戒機や対潜ヘリコプタ等)から投下され海面に着水後、水上部と水中部に分離される。水上部は、海水に対して浮力を有し、海面上を漂流する。水上部は、水中部から吊下ケーブルを介して受信した水中音波の電気信号や、該水上部に設けられたGPS(Global Positioning System)受信機で計測した該水上部の位置情報を、該水上部の無線通信機及び無線アンテナを介して航空機等や地上又は海上等の情報センタへ送信する。
【0003】
水中部は、海水よりも比重が大きいため、海中に沈降する。水中部は、音響素子(電歪振動子)を備えている。水中部において、音響素子は、水中の物体から放射される水中音波を受信し受信音波を電気信号に変換し該電気信号を吊下ケーブルの信号線を介して水上部に送信する。アクティブソナー方式の水中部では、内蔵電池から電力供給される増幅回路等で増幅された送信信号(電気信号)を音響素子(電歪振動子)で音波に変換して送波し、水中の物体にて反射された反響音を音響素子(電歪振動子)で受信し該反響音を電気信号に変換し吊下ケーブルの信号線(信号ケーブル)を介して該電気信号を水上部に送信する。
【0004】
図1(A)は、上方から海面を見下ろした場合の水上部2と水中部3の一例を模式的に示す平面図(xy平面)である。特に制限されないが、図1(A)においてz軸は紙面手前から奥方向を正方向としている。なお、x軸を東西方向、y軸を南北方向としてもよい。図1(A)において、白抜き矢線5は、海面1上を漂流する水上部2の移動方向と移動速度を表している。なお、本明細書では、移動速度を、速度の大きさ(速さ)(スカラー量)とし、移動方向と移動速度をベクトルで表したものを「速度ベクトル」という。
【0005】
図1(B)は、水上部2と水中部3を側面からみた側面模式図である。特に制限されないが、図1(B)において、z軸は海面からの深さ方向を正方向としている。図1(B)は、例えばyz平面に平行な平面から水上部2と水中部3をみた図としてもよいし、図1(A)において、xy座標の第1象限に示した矢線(図1(A)のxy平面の水上部2と水中部3を結ぶ直線)に平行且つxy平面と直交する平面から、水上部2と水中部3の側面をみた図としてもよい。図1(B)において、航空機6は、吊下式ソナーを投下した固定翼対潜哨戒機または対潜ヘリコプタ等である。
【0006】
図1(A)、(B)に示すように、水中部3は水上部2の真下には位置せず、水上部2と水中部3との間に位置のずれが存在する。
【0007】
例えば、特許文献1には、航空機から投下されたソノブイは、風波、海潮流等の影響によりブイ位置が時々刻々と変化し、ブイ位置には投下位置に対し位置誤差(位置ずれ)が生じ、風浪、海潮流等の影響によりハイドロフォンの位置はブイ位置に対して位置誤差(位置ずれ)が生じ、これらのソノブイ等の位置誤差はブイ位置からの水中目標等の位置算出に大きな誤差を生じさせることが記載されている。この問題について以下に説明する。
【0008】
現在のところ、水上部2と水中部3の位置のずれを検出する技術は確立されていないというのが実情である。一般に、吊下式ソナーは、水中部3が水上部2の真下に存在するという仮定のもとで使用されている。吊下式ソナーを単純化したモデルでは、海上の風や波浪の影響を受ける水上部2の移動に引っ張られる形で水中部3が水上部2に牽引されていることが想定されている。
【0009】
図2(A)、(B)は、実際の吊下式ソナーを模式的に例示する図である。図2(A)、(B)において、白抜き矢線7は、水上部2の風力による移動(移動方向、移動速度)を表している。水上部2に作用しその移動に影響する力(運動エネルギー)としては、風力が支配的である。時々刻々と変化する海面1上の風向及び風速を高精度で観測することは不可能ではないが、コストが高く長時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0010】
白抜き矢線8は、水上部2の潮流等による移動(移動方向、移動速度)を表している。水上部2に作用しその移動に影響する力(運動エネルギー)としては、潮流、海流、波浪等、風力以外のものもある。風力以外の潮流、海流、波浪等を全て観測することは、不可能ではないが、コストが高く長時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0011】
白抜き矢線9は、中層海流による吊下ケーブル4の移動(移動方向、移動速度)を表している。吊下ケーブル4に作用する力(運動エネルギー)としては、例えば深度数100mの中層海流がある。中層海流は、海面上の風力及び波浪の影響が小さく、海面上の波浪等による移動とは異なる方向へ作用する。それらを全て観測することは不可能ではないが、コストが高く長時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0012】
白抜き矢線10は、水上部2による牽引(移動方向、移動速度)を表している。水中部3の移動に影響する力(運動エネルギー)としては、一般的に、水上部2の移動による牽引が支配的である。
【0013】
白抜き矢線11は、中層海流による水中部3の移動(移動方向、移動速度)を表している。水中部3の移動に影響する力(運動エネルギー)としては、例えば深度数100mの中層海流もある。中層海流は、水深によって流向及び流速が一定とは限らず、水深によって流向及び流速が異なる場合がある。したがって、それらを全て観測することは不可能ではないが、コストが高く長時間を要するため、リアルタイムのオペレーションには向いていない。
【0014】
水上部2は、風力による移動、及び、潮流等の風力以外による移動の影響を受ける。また、吊下ケーブル4は、中層海流の影響を受ける。水中部3は、水上部2による牽引及び中層海流の影響を受ける。複雑な気象及び海象の影響を、海上及び海中で観測する場合、観測器材のコストが高いことに加えて観測に長時間を要する。このため、水上部2と水中部3の位置ずれは無視できるほど小さいものとして扱われている。
【0015】
しかし、吊下ケーブル4の長さが、例えば数100mに達する場合、水上部2と水中部3の位置ずれの距離も100mを超える場合がある。この場合、吊下式ソナーで検出された水中音波の到来方位及び距離の精度について、起点となる水中部3の位置が正確でない、という問題がより顕在化することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平6-289132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
GPS受信機等を備えたソノブイの普及等、水上部の位置計測精度が向上する傾向にある。このため、水上部と水中部の位置ずれを低コストかつ短時間で検出する技術の実用化が望まれている。
【0018】
したがって、本発明は、上記課題を解決するシステム、方法、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一つ側面によれば、ソナーシステムは、水中部を吊下げ自己の位置を計測する手段を備えた水上部と、水中部を吊下げない構成とされ自己の位置を計測する手段を備えた比較用水上部と、位置計算手段と、を備えている。前記位置計算手段は、前記水上部と前記比較用水上部で計測されたそれぞれの位置情報から前記水上部と前記比較用水上部の移動方向の差と移動速度の差を算出し、前記水上部と前記比較用水上部の前記移動方向の差と前記移動速度の差に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を求め、前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する。
【0020】
本発明の別の一つ側面によれば、水中部を吊下げ自己の位置を計測する手段を備えた水上部を有するソナーシステムにおける前記水中部の位置ずれを検出する方法であって、
水中部を吊下げない構成とされ自己の位置を計測する手段を備えた比較用水上部を、前記水上部とともに水面に配備し、
前記水上部と前記比較用水上部で計測されたそれぞれの位置情報から前記水上部と前記比較用水上部の移動方向の差と移動速度の差を算出し、
前記水上部と前記比較用水上部の前記移動方向の差と前記移動速度の差に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を求め、
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する。
【0021】
本発明のさらに別の側面によれば、水中部を吊下げ自己の位置を計測する手段を備えた水上部と、水中部を吊下げない構成とされ自己の位置を計測する手段を備えた比較用水上部と、を有するソナーシステムのコンピュータに、
前記水上部と前記比較用水上部で計測されたそれぞれの位置情報から前記水上部と前記比較用水上部の移動方向の差と移動速度の差を算出する処理と、
前記水上部と前記比較用水上部の前記移動方向の差と前記移動速度の差に基づき、前記水中部に作用する水流の流向及び流速を求める処理と、
前記水流の流向及び流速に基づき、前記水上部と前記水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する処理を実行させるプログラムが提供される。さらに、本発明によれば、上記プログラムを記憶したコンピュータ可読型記録媒体((例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、又は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM))等の半導体ストレージ、HDD(Hard Disk Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc))が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、水上部と水中部の位置ずれを低コストかつ短時間で検出することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(A)、(B)は関連技術を説明する図である。
図2】(A)、(B)は関連技術を説明する図である。
図3】(A)、(B)は本発明の実施形態を説明する図である。
図4】本発明の実施形態を説明する図である。
図5】本発明の実施形態の水上部を説明する図である。
図6】本発明の実施形態の構成例を説明する図である。
図7】本発明の実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について説明する。図3(A)、(B)は、本発明の一実施形態を説明する図である。図3(A)は、上方から海面を見下ろした場合の水上部2と水中部3の一例を模式的に示す平面図(xy平面)である。図3(A)では、x軸を東西方向15、y軸を南北方向14としている。図3(B)は、比較用水上部12、水上部2及び水中部3を側面からみた側面模式図である。図3(A)、(B)においてxyz座標系は図1(A)、(B)と同様である。
【0025】
本実施形態によれば、不図示の航空機等から海上に投下される吊下式ソナーにおいて、吊下式ソナーが海面上の水上部2と海中の水中部3に分離した後における水上部2と水中部3の位置ずれを検出するために、位置計算手段では、水中部3を吊下しない比較用水上部12の位置を監視する。位置計算手段は、比較用水上部12と水上部2の移動方向及び移動速度の差を検出し、水中部3に作用する水流の流向と流速を算出する。位置計算手段は、水流の流向と流速に基づき水上部と水中部の位置ずれ方向と位置ずれ距離を算出する。
【0026】
図3(A)、(B)において、白抜き矢線5は、海面1上を漂流する水上部2の移動方向と移動速度、すなわち速度ベクトルを表している。図3(B)において白抜き矢線13は、水中部3に作用する水流を表している。
【0027】
図3(A)、(B)に例示するように、水中部3、吊下ケーブル4及び水中部3で構成される吊下式ソナーに加えて、水上部だけで構成される比較用水上部12を海上に投入する。
【0028】
本実施形態において、比較用水上部12は、水上部2のみに作用する力(風力等の運動エネルギー)による移動方向及び移動速度を計測するために用いられる。
【0029】
水中部3は、図2を参照して説明したように、中層海流に沿って漂流しようとするが、水上部2から吊下された吊下ケーブル4により中層海流に逆らって移動する。このため、水中部3は、水流13による抵抗を受ける。水流13による抵抗を受けた水中部3は、水上部2の真下からずれた位置に流される。
【0030】
比較用水上部12と水上部2は、それぞれGPS受信機(不図示)を備えている。比較用水上部12と水上部2のGPS受信機は、それぞれの位置を緯度及び経度として連続的に計測し、その軌跡から比較用水上部12及び水上部2の移動方向及び移動速度を算出する。
【0031】
比較用水上部12の移動方向及び移動速度は、風力等による運動エネルギーが該比較用水上部12のみに作用していることによると想定される。そこで、本実施形態によれば、比較用水上部12の移動方向及び移動速度と水上部2の移動方向及び移動速度の差分を算出し、該移動方向及び移動速度の差分を、水中部3と吊下ケーブル4に作用する水流等による移動方向及び移動速度とする。すなわち、水上部2は比較用水上部12と同様風力等による運動エネルギーの作用を受けるが、水中部3が水流等の作用を受けることから、該水中部3を吊下げる水上部2の移動方向及び移動速度と水中部を吊下げない比較用水上部12の移動方向及び移動速度との間に差が生じる。この差(差分)を水中部3に作用する水流等による移動方向及び移動速度としている。
【0032】
吊下式ソナーの水上部2と水中部3の位置ずれとして、例えば、水上部2から見た水中部3までの水平方位(同一平面(水平面)内に投影された方位)、及び水平距離(同一水平面(xy平面)上に投影された二点間の距離)を算出する。
【0033】
図4は、本実施形態を説明する図であり、図3(A)に対応する。図4において、矢線16は、水上部2の移動方向及び移動速度(速度ベクトル)を表している。水上部2の移動方向及び移動速度は、吊下式ソナーの水上部2の移動方向及び移動速度(速度ベクトル)と同義であり、その値は一致する。
【0034】
矢線17は、比較用水上部12の移動方向及び移動速度(速度ベクトル)を表している。
【0035】
角度18は、比較用水上部12と水上部2の移動方向のずれ角度θ(ずれ水平方位)を表している。比較用水上部12と水上部2の移動方向のずれ角度は、吊下式ソナーの水中部3に作用する水流等により生じるものと考えられる。
【0036】
図5は、水上部2の構成を説明する図である。なお、比較用水上部12は、図5の吊下ケーブル4に接続されていないこと(すなわち、吊下ケーブル4を介しての水中部3から電気信号(受信音響信号)の受信や水中部3への信号の送信は行わない)以外は、好ましくは、水上部2の物理構成と同一とされる。図5において、参照番号19は鉛直方向を示し、参照番号23は水上部2の傾斜角度を示している。水上部2はGPS受信機20を備えている。GPS受信機20は、比較用水上部12及び水上部2にそれぞれ装備され、水上部2と比較用水上部12のそれぞれの位置として、緯度及び経度の情報を一定時間毎に連続して無線通信機21へ出力する。無線通信機21は、水上部2と比較用水上部12にそれぞれ装備され、航空機6(図6参照)と無線通信を行う。
【0037】
水上部2と比較用水上部12の無線通信機21は、水上部2と比較用水上部12のGPS受信機20がそれぞれ計測した水上部2と比較用水上部12の位置情報を、水上部2と比較用水上部12にそれぞれ装備された無線アンテナ22を介して、航空機6(図6参照)に送信する。
【0038】
図6は、航空機6と水上部2の機能構成を説明する図である。なお、図6において、比較用水上部12は、水中部3から吊下ケーブル4を介しての電気信号(受信音響信号)の受信や水中部3への送信信号は行わない点以外は、水上部2の機能構成と同一とされる。
【0039】
航空機6は、機上無線アンテナ62、機上無線通信機61、位置計算部60を備えている。機上無線通信機61は、機上無線アンテナ62が受信した比較用水上部12及び水上部2の位置情報を復調し位置計算部60へ出力する。位置計算部60は、機上無線通信機61から入力した比較用水上部12及び水上部2の位置情報から水上部2と水中部3の位置ずれ水平方位及び位置ずれ水平距離を算出する。
【0040】
本実施形態における吊下式ソナーの水中部3の位置ずれ検出の一例について説明する。
【0041】
水上部2のGPS受信機20は、例えば1秒周期で水上部2の位置(緯度及び経度)を計測し、無線通信機21により無線アンテナ22から無線にて送出し、航空機6の機上無線アンテナ62にて受信され、機上無線通信機61から位置計算部60へ出力される。
【0042】
航空機6の位置計算部60は、水上部2の最新の位置情報から所定時間前(例えば30秒前)までの水上部2の位置情報を記憶し、位置情報を次式(1)、(2)によって緯度及び経度のデータ(秒単位)に変換する。経度、緯度は度・分・秒による座標表記が用いられる。
【0043】
位置情報(緯度1~30)→度の値×60×60+分の値×60+秒の値
…(1)
【0044】
位置情報(経度1~30)→(度の値×60×60+分の値×60+秒の値)×cos(位置情報(緯度(deg)))
…(2)
【0045】
ここで、位置情報(経度1~30)、位置情報(緯度1~30)を配列X[i], Y[i](i=1,..,30)で表す。
【0046】
航空機6の位置計算部60では、例えば1秒間毎の位置情報から1秒間に水上部2が移動した移動方向(例えば図4の角度α:例えば南北方向14(y軸)を基準方位とする水平方位)及び移動速度Vを次式(3)、(4)で算出する。
【0047】
(i=1,…,30)
…(3)
【0048】
αは逆正接関数tan-1の主値として-π/2<α<π/2(radian)をとる。
【0049】
ここで、αの値を0から359度(deg)の整数の方位として算出する場合、式(3)で求めた主値αに対して、α←INT(α×180/π) (INT(x)はガウス記号[x]に対応しxを超えない最大の整数を返す)の演算を行い、ラジアン(radian)から度(degree)(整数)に変換した上で以下の演算を行う。
(X[i+1]―X[i])/(Y[i+1]-Y[i])≧0であれば、
X[i+1]≧X[i]かつY[i+1]>Y[i]の場合、α←0deg+αdeg
X[i+1]<X[i]かつY[i+1]<Y[i]の場合、α←180deg+αdeg
(X[i+1]―X[i])/(Y[i+1]-Y[i])<0であれば、
X[i+1]>X[i]かつY[i+1]<Y[i]の場合、α←180deg+αdeg
X[i+1]<X[i]かつY[i+1]>Y[i]の場合、α←360deg+αdeg
【0050】
(m/秒)
…(4)
【0051】
水上部2の移動に関する方位基準の速度ベクトル図4参照)は、次式(5)で規定される。
【0052】
…(5)
【0053】
航空機6の位置計算部60では、例えば30秒間の水上部2の移動方向及び移動速度(m/秒)の平均値を算出するようにしてもよい。あるいは、位置計算部60では、位置情報(緯度1)X[1]、及び、30秒前の位置情報(緯度30)X[30]、位置情報(経度1)Y[1]及び30秒前の位置情報Y[30](経度30)について、式(1)により30秒間の水上部2の移動方向及び水上部2の移動距離(30秒間の移動速度ともいう)を算出し、30秒間の水上部2の移動距離に、1/30を乗算して、単位時間(1秒)あたりの水上部2の移動距離、すなわち移動速度(m/秒)を求めるようにしてもよい。
【0054】
比較用水上部12のGPS受信機20は、例えば1秒周期で比較用水上部12の位置(緯度及び経度)を計測し、無線通信機21、無線アンテナ22を介して比較用水上部12の位置情報を出力し、航空機6の機上無線アンテナ62、機上無線通信機61で受信され、比較用水上部12の位置情報は位置計算部60へ供給される。
【0055】
位置計算部60では、上記した水上部2の移動方向及び移動速度を算出と同様の処理を行い、比較用水上部12の移動方向及び比較用水上部12の移動速度(m/秒)の平均値を算出する。
【0056】
航空機6の位置計算部60では、比較用水上部12の移動方向β及び移動速度V(m/秒)(図4参照)から、比較用水上部12の移動に関する方位基準の速度ベクトル図4参照)の東西方向成分(x成分)Vb-xと南北方向(y成分)Vb-yを算出する。なお、特に制限されないが、東西方向及び南北方向をそれぞれx軸及びy軸に対応させている。
【0057】

…(6)
【0058】
…(7)
【0059】
航空機6の位置計算部60では、水上部2及び比較用水上部12の方位基準の速度ベクトル(移動方向、移動速度)に基づき、水中部3の速度ベクトル(移動方向、移動速度)を算出する。
【0060】
水上部2、比較用水上部12、水中部3の速度ベクトルをそれぞれとすると、以下が成り立つ。すなわち、水上部2は水流等の作用を受ける水中部3を吊下げているが、比較用水上部12は水中部を吊下げていないため水流等の影響を受けず、このため、比較用水上部12の速度ベクトルから水上部2の速度ベクトルを差し引いたベクトルが、水中部3の速度ベクトルとなる。
【0061】
…(8)
【0062】
c-xとVc-yは、水中部3の速度ベクトルの東西方向成分(x成分)と南北方向成分(y成分)(m/秒)である。
【0063】
航空機6の位置計算部60は、水中部3の速度ベクトルから、次式(9)により水上部2と水中部3の移動方向のずれ角度θ(図4の18)を算出する。
【0064】
…(9)
【0065】
ずれ角度θを0から359deg(整数)として算出する場合、式(9)で求めた主値θに対して演算:θ←INT(θ×180/π) (INT(x)はxを超えない最大の整数を返す)によりラジアン(radian)から度(degree)(整数)に変換した上で以下の演算を行う。
Vc-x/Vc-y≧0であれば、
Vc-x≧0かつVc-y>0の場合、θ←0deg+θdeg
Vc-x<0かつVc-y<0の場合、θ←180deg+θdeg
Vc-x/Vc-y<0であれば、
Vc-x>0かつVc-y<0の場合、θ←180deg+θdeg
Vc-x<0かつVc-y>0の場合、θ←360deg+θdeg
【0066】
ずれ角度θは、図4のxy平面での角度であり、水上部2と水中部3の位置ずれ角度(位置ずれ水平方位)ともいう。
【0067】
水中部3の位置ずれ水平方位は水流13(図3)の流向とほぼ同じ方位である。
【0068】
ただし、より高精度の位置ずれ水平方位を算出するには、例えば数100mの長さがある吊下ケーブル4が水流の影響を受け、吊下ケーブル4は上空から俯瞰したときに直線にならず、水流の抵抗により水流の流向の方向にカーブした曲線になっていることを考慮する必要がある。
【0069】
この場合、吊下ケーブル4の曲線化による水中部3の位置ずれ方向のずれ角度については、例えば、水中部3及び吊下ケーブル4の流体運動シミュレーションモデルを作成し、水流13の流速及び吊下ケーブル4の長さから算出するようにしてもよい。あるいは、水槽内に水中部3を沈めて吊下し水中部3を水平方向に移動させるか水槽内で水流を起こすことにより、既知の流速の水流13の場合に、吊下ケーブル4の上側起点となる水上部2と水中部3の位置ずれ方向が何度であるか計測し、少なくとも水中部3に作用する水流の流速と、水上部2と水中部3の位置ずれ角度(位置ずれ水平方位)の換算テーブルを予め作成するという手法を用いてもよい。
【0070】
位置計算部60は、水中部3の位置ずれ距離について、次式(10)により水中部3の移動速度Vc(m/秒)を算出する。水中部3の移動速度(m/秒)は、図3(B)等に示す水流13の流速(m/秒)と同じである。水中部3に作用する水流13の流速V(m/秒)は、次式で求められる。
【0071】
…(10)
【0072】
位置計算部60は、水中部3に作用する水流13の流速(m/秒)から、水上部2と水中部3の位置ずれ距離を算出する。その算出方法としては、例えば以下の手法を用いることができる。
【0073】
水中部3及び吊下ケーブル4の流体運動シミュレーションモデルを作成して、水流(m/秒)及び吊下ケーブル4の長さから、水上部2と水中部3の位置ずれ距離を算出する。
【0074】
水槽内に水中部3を沈めて吊下し、水中部3を水平方向に移動させるか水槽内で水流(m/秒)を起こす等の手法により、既知の流速の水流13の場合に、吊下ケーブル4の上側起点となる水上部2と水中部3の位置ずれが何m生じるか計測し、少なくとも水中部3に作用する水流13の流速と位置ずれ距離の換算テーブルを予め作成しておく。位置計算部60では、水中部3に作用する水流13の流速(m/秒)から換算テーブルを参照して水上部2と水中部3の位置ずれ距離を算出する。
【0075】
航空機6の位置計算部60は、上記処理により得られた、吊下式ソナーの水上部2と水中部3の位置ずれ方位(水平方位)及び位置ずれ距離(水平距離)から、吊下式ソナーにより受信した水中音波の方位及び距離の起点となる水中部3の補正位置(図4のxy2次元座標上に投影した位置)を例えば次式(11)、(12)により算出する。
【0076】
水中部3の補正位置(南北方向)=[水上部2の位置]+[水中部3の位置ずれ水平距離(m)]×cos([水中部3の位置ずれ水平方位(deg)])
…(11)
【0077】
水中部3の補正位置(東西方向)=[水上部2の位置]+[水中部3の位置ずれ水平距離(m)]×sin([水中部3の位置ずれ水平方位(deg)])
…(12)
【0078】
なお、GPS受信機及び無線通信機は、当業者にとってよく知られており、その詳細な動作は説明を省略する。なお、GPS受信機は、GPS、準天頂衛星(QZSS)等の衛星測位システムの総称であるGNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)と読み替えてもよいことは勿論である。
【0079】
本実施形態によれば、吊下式ソナーの水上部2と水中部3の位置ずれ水平方向及び位置ずれ水平距離について、航空機6から投下した比較用水上部12の位置と水上部2の位置を観測して補正計算する。このため、吊下式ソナーにより受信した水中音波の受信位置の起点となる水中部3の位置の計算精度を向上させることができる。本実施形態によれば、吊下ケーブル4の長さが数100m程度の吊下式ソナーにも対応可能としている。
【0080】
本実施形態によれば、吊下式ソナーの水上部と水中部の位置ずれが生じる原因となる気象及び海象を観測することなく、比較用水上部を用いることにより、水上部のみに作用する運動エネルギーを観測して補正を行う。このため、水上部2と水中部3の位置ずれを、遅延時間なく、リアルタイムに推定することを可能としている。
【0081】
図7は、本発明の実施の形態を説明する図であり、図6の位置計算部60をコンピュータ装置200に実装した場合の構成を説明する図である。図7を参照すると、コンピュータ装置200は、プロセッサ201と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の半導体メモリ等(あるいは、HDD(Hard Disk Drive)等であってもよい)のメモリ202と、表示装置203と、図6の機上無線通信機61に接続するインタフェース204(バスインタフェース)を備えている。プロセッサ201はDSP(Digital Signal Processor)であってもよい。メモリ202に格納されたプログラム205を実行することで、プロセッサ201は、図6の位置計算部60の処理を実行する。
【0082】
なお、上記の特許文献1の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施の形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0083】
1 海面
2 水上部
3 水中部
4 吊下ケーブル
5 速度ベクトル(移動方向、移動速度)
6 航空機
7 風力による移動
8 潮流等による移動
9 中層海流による移動
10 水上部による牽引
11 中層海流による移動
12 比較用水上部
13 水流
14 南北方向
15 東西方向
16 水上部の速度ベクトル
17 比較用水上部の速度ベクトル(移動方向、移動速度)
18 比較用水上部と水上部の移動方向のずれ角度
19 鉛直方向
20 GPS受信機
21 無線通信機
22 無線アンテナ
23 水上部の傾斜角度
60 位置計算部
61 機上無線通信機
62 機上無線アンテナ
200 コンピュータ装置
201 プロセッサ
202 メモリ
203 表示装置
204 インタフェース
205 プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7