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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】光安定性および溶出性に優れた医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5383 20060101AFI20230328BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 9/32 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 9/62 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 9/58 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
A61K31/5383
A61K9/36
A61K9/32
A61K9/62
A61K9/58
A61K47/02
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/22
A61P31/16
A61P43/00 111
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020018408
(22)【出願日】2020-02-06
(62)【分割の表示】P 2019549013の分割
【原出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020079283
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017222068
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113789
【弁理士】
【氏名又は名称】杉田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100209598
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】林 尚美
(72)【発明者】
【氏名】五味 真人
(72)【発明者】
【氏名】相川 昇平
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/175224(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 31/16
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光安定化物質および高分子を含有する被覆層を有し、式(I):
【化1】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤であって、
当該被覆層中の光安定化物質が酸化チタンおよび/またはタルクであり、
当該被覆層中の高分子がセルロース系高分子および/またはビニル系高分子である、固形製剤(但し、酸化チタンおよび/またはタルク、ならびにヒプロメロースを含有する被覆層を有するものは除く。)。
【請求項2】
被覆層中の高分子がセルロース系高分子であり、当該セルロース系高分子がヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートおよびエチルセルロースから選択される1以上である請求項1記載の固形製剤。
【請求項3】
セルロース系高分子がヒドロキシプロピルセルロースである請求項2記載の固形製剤。
【請求項4】
被覆層中の高分子がビニル系高分子であり、当該ビニル系高分子がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコール・メチルメタクリレート・アクリル酸共重合体から選択される1以上である請求項1記載の固形製剤。
【請求項5】
ビニル系高分子がポリビニルアルコールである請求項記載の固形製剤。
【請求項6】
覆層中の高分子がヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはポリビニルアルコールである請求項1記載の固形製剤。
【請求項7】
120万lux・hrの光を照射した際、色差ΔEが13以下である請求項1~のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項8】
さらに崩壊剤を含有する請求項1~のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項9】
当該崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、部分α化デンプンおよびカルボキシメチルスターチナトリウムから選択される1以上である請求項記載の固形製剤。
【請求項10】
崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたはクロスカルメロースナトリウムである請求項記載の固形製剤。
【請求項11】
崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムである請求項10記載の固形製剤。
【請求項12】
式(I):
【化1】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、および崩壊剤を含有し、
当該崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはクロスカルメロースナトリウムである固形製剤。
【請求項13】
崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムある請求項12記載の固形製剤。
【請求項14】
光安定化物質および高分子を含有する被覆層を有し、式(I):
【化1】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤であって、
被覆層中の光安定化物質が酸化チタンおよび/またはタルクであり、
被覆層中の高分子がヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはポリビニルアルコールであり、
さらに崩壊剤を含有し、当該崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたはクロスカルメロースナトリウムである、固形製剤(但し、酸化チタンおよび/またはタルク、ならびにヒプロメロースを含有する被覆層を有し、崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムであるものは除く。)。
【請求項15】
溶出試験開始45分後の式(I)で示される化合物の溶出率が80%以上である請求項1~14のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項16】
固形製剤が顆粒剤または錠剤である請求項1~15のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項17】
式(I):
【化8】
で示される化合物を、10mg、20mg、40mgまたは80mg含有する、請求項1~16のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項18】
インフルエンザ罹病期間を短縮するために用いられる、請求項1~17のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項19】
インフルエンザウイルスを減少させるために用いられる、請求項1~18のいずれかに記載の固形製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環性ピリドン化合物を含有する製剤に関する。光安定化物質および高分子で被覆した、光を照射しても着色しない、多環性ピリドン化合物を含有する固形製剤、詳しくは、光安定化物質として食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上を含有し、高分子としてヒプロメロースを含有する、光を照射しても着色しない、多環性ピリドン化合物を含有する固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは、インフルエンザウイルスの感染に起因する急性呼吸器感染症である。日本では毎冬数百万人からのインフルエンザ様患者の報告があり、インフルエンザは高い罹患率と死亡率を伴う。乳幼児、高齢者等ハイリスク集団においては特に重要な疾患であり、高齢者では肺炎の合併率が高く、インフルエンザによる死亡の多くが高齢者で占められている。
【0003】
抗インフルエンザ薬としては、ウイルスの脱核過程を阻害するシンメトレル(Symmetrel;商品名:アマンタジン(Amantadine))やフルマジン(Flumadine;商品名:リマンタジン(Rimantadine))、ウイルスの細胞からの出芽・放出を抑制するノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミヴィル(Oseltamivir;商品名:タミフル(Tamiflu))やザナミヴィル(Zanamivir;商品名:リレンザ(Relenza))が公知である。しかし、耐性株の出現や副作用の問題、また病原性や致死性の高い新型インフルエンザウイルスの世界的な大流行などが懸念されていることから、新規メカニズムの抗インフルエンザ薬の開発が要望されている。
【0004】
インフルエンザウイルス由来酵素であるキャップ依存的エンドヌクレアーゼは、ウイルス増殖に必須であり、かつ宿主が有さないウイルス特異的な酵素活性であるため、抗インフルエンザ薬のターゲットに適していると考えられている。
【0005】
キャップ依存的エンドヌクレアーゼを阻害する化合物として、下記の式(II)で示される化合物が特許文献1に記載されており、抗ウイルス作用、特にインフルエンザウイルスの増殖抑制活性を有する化合物として、有用である。
【化1】

式(II)で示される化合物を生体へ投与(例えば、経口投与)した場合、さらに効率よく体内に吸収されて、高い薬理効果を示すとともに、インフルエンザ罹病期間を短縮する化合物を提供することが必要であり、これらの目的を達成するために、式(II)で示される化合物のプロドラックである、式(I)で示される化合物が提供される。式(I)で示される化合物も、特許文献1に開示されている。

【化2】
【0006】
しかし、特許文献1には、式(I)で示される化合物の具体的な製剤については、開示されていない。
【0007】
特許文献5~7には、溶出性を改善した製剤について開示されている。しかし、特許文献5~7で用いられている化合物は、式(I)で示される化合物の化学構造と大きく異なっており、特許文献5~7記載の製剤処方により、式(I)で示される化合物の溶出性が改善できるか否かは不明であり、そういったことは開示も示唆もされていない。また、溶出性を改善する添加剤によっては、多量の類縁物質を生じる可能性もある。
また、特許文献2~4には、光を照射することにより着色する製剤について、酸化チタンを被覆することによって、製剤の着色を軽減できることが記載されている。しかし、光照射によって、製剤が着色するかどうかは、化合物によって異なり、式(I)で示される化合物を含有する製剤が着色するか否かは不明であり、そういったことは開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/175224号パンフレット
【文献】特開2013-14610号公報
【文献】国際公開第2002/060446号パンフレット
【文献】国際公開第2007/052592号パンフレット
【文献】特開2010-270112号公報
【文献】国際公開第2004/052342号パンフレット
【文献】国際公開第2012/144592号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、光を照射しても着色しない、式(I)で示される化合物を含有する製剤を見出すことであり、さらに、当該製剤からの式(I)で示される化合物の溶出性が改善された製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、式(I)で示される化合物を含有する製剤に光を照射した場合、製剤自体着色することを見出した。また、式(I)で示される化合物は、溶解性が低く、所望の溶出性を得ることは困難であることを見出した。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、式(I)で示される化合物を含有する製剤に、光安定化物質および高分子を被覆することによって、光を照射しても、ほとんど着色しないことを見出し、本発明を完成するに至った。また、式(I)で示される化合物は、溶解性が低く、所望の溶出性を得ることは困難であったが、崩壊剤を種々検討し、類縁物質が少なく、しかも溶出性を改善することができる崩壊剤を見出し、本発明を完成するに至った。以下、本発明で完成するに至った製剤を「本発明製剤」という場合がある。
【0011】
すなわち、
(1)光安定化物質および高分子を含有する被覆層を有し、式(I):
【化3】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、
(2)被覆層中の光安定化物質が食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上である上記(1)記載の固形製剤、
(3)被覆層中の光安定化物質が食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、カルミン、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ベンガラ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上である上記(1)記載の固形製剤、
(4)被覆層中の光安定化物質が三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上である上記(3)記載の固形製剤、
(5)被覆層中の光安定化物質が酸化チタンおよび/またはタルクである上記(4)記載の固形製剤、
(6)食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、カルミン、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ベンガラ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上、ならびに高分子を含有する被覆層を有し、式(I):
【化4】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、
(7)酸化チタンおよび/またはタルク、ならびに高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する上記(6)記載の固形製剤、
(8)被覆層中の高分子がセルロース系高分子、アクリル系高分子およびビニル系高分子から選択される1以上である上記(1)から(7)のいずれかに記載の固形製剤、
(9)被覆層中の高分子がヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートおよびエチルセルロースから選択される1以上のセルロース系高分子である上記(1)から(7)のいずれかに記載の固形製剤、
(10)セルロース系高分子がヒプロメロースである上記(9)記載の固形製剤、
(11)被覆層中の高分子がメタクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーRSから選択される1以上のアクリル系高分子である上記(1)から(7)のいずれかに記載の固形製剤、
(12)被覆層中の高分子がポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルアルコール・メチルメタクリレート・アクリル酸共重合体から選択される1以上のビニル系高分子である上記(1)から(7)のいずれかに記載の固形製剤、
(13)ビニル系高分子がポリビニルアルコールである上記(12)記載の固形製剤、
(14)酸化チタンおよび/またはタルク、ならびにヒプロメロースを含有する被覆層を有し、式(I):
【化5】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、
(15)さらに崩壊剤を含有する上記(1)から(14)のいずれかに記載の固形製剤、
(16)式(I):
【化6】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、および崩壊剤を含有する固形製剤、
(17)崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、部分α化デンプンおよびカルボキシメチルスターチナトリウムから選択される1以上である上記(15)または(16)記載の固形製剤、
(18)崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたはクロスカルメロースナトリウムである上記(17)記載の固形製剤、
(19)崩壊剤がクロスカルメロースナトリウムある上記(18)記載の固形製剤、
(20)被覆層中の光安定化物質が酸化チタンおよび/またはタルクであり、高分子がヒプロメロースである、上記(19)記載の固形製剤、
(21)120万lux・hrの光を照射した際、色差ΔEが13以下である上記(1)から(20)のいずれかに記載の固形製剤、
(22)光安定化物質および式(I):
【化7】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有し、120万lux・hrの光を照射した際、色差ΔEが13以下である固形製剤、
(23)光安定化物質が食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上である、上記(22)記載の固形製剤、
(24)光安定化物質が酸化チタンおよび/またはタルクである上記(23)記載の固形製剤、
(25)アルミブリスター包装形態である、上記(1)から(24)のいずれかに記載の固形製剤、
(26)アルミブリスター包装形態である、式(I):
【化8】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、
(27)固形製剤が顆粒剤または錠剤である上記(1)から(26)のいずれかに記載の固形製剤、
(28)溶出試験開始45分後の式(I)で示される化合物の溶出率が80%以上である上記(1)から(27)のいずれかに記載の固形製剤、
(29)
a)式(I):
【化9】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤を試料とし、当該試料においてクロマトグラフィーを行う工程;及び
b)上記工程で得られたクロマトグラフィーデータにおいて、式(II):
【化10】

で示される化合物の含有量または含有割合に関するデータを得る工程、
を含んで成る、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤中の分解物を分析する方法、
(30)式(II):
【化11】

で示される化合物を含有する、式(I):
【化12】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の分解組成物、
(31)式(I):
【化13】
で示される化合物を、10mg、20mg、40mgまたは80mg含有する、上記(1)から(28)のいずれかに記載の固形製剤、
(32)インフルエンザ罹病期間を短縮するために用いられる、上記(1)から(28)および(31)のいずれかに記載の固形製剤、
(33)インフルエンザウイルスを減少させるために用いられる、上記(1)から(28)および(31)のいずれかに記載の固形製剤、
の発明に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光安定化物質および高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤に光を照射しても、製剤の色は、試験当初とほとんど変わらない。すなわち、本発明製剤は、好ましくは色差ΔEが13以下である製剤である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、崩壊剤として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いた錠剤の溶出挙動である。
図2図2は、崩壊剤として、クロスカルメロースナトリウムを用いた錠剤の溶出挙動である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明製剤中の有効成分として、式(I):
【化14】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩が用いられる。
【0015】
式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩の製法は、特許文献1に開示されている。
【0016】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、生体内で式(II)で示される化合物に変換され、キャップ依存的エンドヌクレアーゼ阻害作用を有する。したがって、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、インフルエンザの治療剤および/または予防剤として有用である。
【0017】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、インフルエンザウイルスにより誘発される症状及び/又は疾患に有用である。例えば、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などを伴う風邪様症状や、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、咳、痰などの気道炎症状、腹痛、嘔吐、下痢といった胃腸症状、さらに、急性脳症、肺炎などの二次感染を伴う合併症の治療及び/又は予防、症状改善に有効である。すなわち、本発明に用いられる化合物は、インフルエンザウイルス感染症の治療及び/又は予防に有用である。
【0018】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、インフルエンザ罹病期間の短縮に有効である。たとえば、約20~40時間、約25~30時間、インフルエンザ罹病期間を短縮することができる。具体的には、「咳」、「喉の痛み」、「頭痛」、「鼻づまり」、「熱っぽさまたは悪寒」、「筋肉または関節の痛み」、「疲労感」が改善するまでの時間を短縮することができる。特に、「鼻づまり」、「筋肉または関節の痛み」、「疲労感」、「熱っぽさまたは悪寒」、「頭痛」が改善するまでの時間を短縮に有用である。さらには、「鼻づまり」と「筋肉または関節の痛み」が改善するまでの時間を短縮に有用である。
さらに、本発明に用いられる化合物(親化合物及び/又はプロドラッグ)は、体内のインフルエンザウイルスを短い期間で減少させるため、インフルエンザウイルス感染症の治療及び/又は予防に有用な優れた医薬品となりうる。本発明に用いられる化合物の投与後、72時間以内、好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内に体内のインフルエンザウイルス量の減少効果が認められ、他剤に比べてより早期の治療効果が期待できる。
【0019】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、医薬としての有用性を備えている。式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、プロドラッグであり、経口吸収性が高く、良好なバイオアベイラビリティーおよびクリアランスを示し、肺移行性が高いなどの利点を有するため、優れた医薬品となりうる。
【0020】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、代謝安定性や経口吸収性が高く、良好なバイオアベイラビリティーおよびクリアランスを示す。また、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、肺移行性が高く、半減期が長い。さらに、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、非タンパク結合率が高く、hERGチャネル阻害やCYP阻害が低く、CPE(CytoPathic Effect、細胞変性効果)抑制効果が認められ、及び/又は光毒性試験、Ames試験、遺伝毒性試験で陰性を示し、もしくは肝障害などの毒性を有さない等の利点も有する。したがって、本発明の医薬組成物は、優れた医薬品となりうる。
【0021】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の投与量は、投与方法、患者の年齢、体重、状態及び疾患の種類によっても異なるが、通常、経口投与の場合、成人1日あたり約0.05mg~3000mg、好ましくは、約0.1mg~1000mg、さらに好ましくは、約10mg~80mg、特に好ましくは約10mg~40mgを、要すれば分割して投与すればよい。また、非経口投与の場合、成人1日あたり約0.01mg~1000mg、好ましくは、約0.05mg~500mg、約1mg~80mgを投与する。これを1日1回~数回に分けて投与すればよい。
【0022】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、該化合物の作用の増強または該化合物の投与量の低減等を目的として、他の薬剤等(以下、併用薬剤と略記する)と組み合わせて用いることができる。例えば、インフルエンザの疾患においては、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびイナビル等)、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤(例えば、ファビピラビル)、M2タンパク阻害剤(例えばアマンダジン)、PB2 Cap結合阻害剤(例えば、VX-787)、抗HA抗体(例えば、MHAA4549A)、または免疫作用薬(例えば、ニタゾキサニド)と組み合わせて使用されうる。この際、本発明に用いられる化合物と併用薬剤の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。さらに、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩との併用薬剤は、それぞれの活性成分を含む2種類以上の製剤として投与されてもよいし、全ての活性成分を含む単一の製剤として投与されてもよい。
【0023】
併用薬剤の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩と併用薬剤の配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、組み合わせ等により適宜選択することができる。例えば、投与対象がヒトである場合、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩1重量部に対し、併用薬剤を0.01~100重量部用いればよい。
【0024】
式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、キャップ構造依存的エンドヌクレアーゼに対する阻害活性が高い、ウイルス特異的な酵素であるため選択性が高いなどの効果を有するため、副作用が軽減された医薬品となりうる。
【0025】
以下に、式(I)で示される化合物またはその結晶、または式(II)で示される化合物を特定する方法について説明する。
特に言及がなければ、本明細書中及び特許請求の範囲記載の数値は、おおよその値である。数値の変動は、装置キャリブレーション、装置エラー、物質の純度、結晶サイズ、サンプルサイズ、その他の因子に起因する。
【0026】
本明細書中で用いる「結晶」とは、固体を構成する原子、イオン、分子などが規則正しく並んだ構造を持ち、その結果周期性、異方性を持つような構造を意味する。結晶形態の結晶化度は、例えば、粉末X線回折測定、水分吸脱着測定、示差走査熱量測定、示差熱熱重量同時測定、溶液比色測定、溶解特性を含めた多くの技術によって測定することができる。
【0027】
化合物のNMR分析は、300MHzで行い、DMSO-d、CDClを用いて測定した。
【0028】
粉末X線回折パターンの測定
日本薬局方の一般試験法に記載された粉末X線回折測定法に従い、各実施例で得られた結晶の粉末X線回折測定を行った。測定条件を以下に示す。
(装置)
リガク社製MinFlex600、またはRINT-TTRIII
(操作方法)
検出器:高速一次元検出器(D/TecUltra2)および可変ナイフエッジ
測定法:反射法
光源の種類:Cu管球
使用波長:CuKα線
管電流:10mA、または15mA
管電圧:30Kv、または40Kv
試料プレート:アルミニウム、またはガラス
X線の入射角(θ):3-40°、サンプリング幅:0.01°、または
X線の入射角(θ):4-40°、サンプリング幅:0.02°
一般に、粉末X線回折における回折角度(2θ)は±0.2°の範囲内で誤差が生じ得るので、回折角度の値は±0.2°程度の範囲内の数値も含む。したがって、粉末X線回折におけるピークの回折角度が完全に一致する結晶だけでなく、ピークの回折角度が±0.2°程度の誤差で一致する結晶も本発明に含まれる。
【0029】
本発明製剤中における式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の配合量としては、製剤全量に対し、1~80重量%、好ましくは、5~75重量%、より好ましくは10~70重量%である。
【0030】
本発明製剤は、光安定化物質を含有する。本明細書中、光安定化物質としては、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を、光に対して、安定化することができ、また、製剤の変色を防止することができる添加物であればよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書に収載されているものを使用することができる。
光安定化物質としては、光を遮蔽する遮光効果のある遮光物質や光を吸収する効果のある光吸収物質がある。具体的には、食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタン、タルク等が挙げられる。好ましくは、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、カルミン、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ベンガラ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化チタン、タルク等が挙げられる。より好ましくは、遮光物質である酸化チタン、タルク、光吸収物質である三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄であり、特に好ましくは遮光物質である酸化チタン、タルクである。
【0031】
本発明製剤の光安定化物質は、製剤中に配合してもよく、製剤の表面を被覆してもよいが、好ましくは製剤の表面を被覆する、いわゆる被覆層中に光安定化物質を含有するのがよい。製剤の被覆層中に光安定化物質を含有すれば、製剤外からの光を吸収したり、遮蔽したりするので、製剤中に含有している式(I)で示される化合物の光安定性を向上し、または製剤の変色を防止することができる。
【0032】
本発明製剤中の光安定化物質の含量は、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩が光に対し、安定化する量であればよい。具体的には、光安定化物質のうち、酸化チタンやタルクのような光を遮蔽する遮光物質は、製剤の表面積1mmに対して、0.00075~0.075mg、好ましくは0.001~0.05mg、より好ましくは0.0015~0.03mgである。
【0033】
本発明製剤は、高分子を含有する。本明細書中、高分子としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書に収載されているものを使用することができる。具体的には、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、フマル酸・ステアリン酸・ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート・ヒドロキシプロピルメチルセルロース混合物等のセルロース系高分子、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、2-メチル-5-ビニルピリジンメチルアクリレート・メタクリル酸コポリマー、乾燥メタクリル酸コポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー等のアクリル系高分子、ポリビニルピロリドン、クロスポビドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・メチルメタクリレート・アクリル酸共重合体およびポリビニルアルコールコポリマー等のビニル系高分子、カルナバロウ、ステアリルアルコール、セラック、セタノール等が挙げられるが、好ましくは、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)である。
【0034】
本発明製剤の高分子は、製剤中に配合してもよく、製剤の表面を被覆してもよいが、好ましくは製剤の表面を被覆し、被覆層を形成する、いわゆるコーティング剤として用いるのがよい。製剤の被覆層中に高分子を含有すれば、光安定化物質とともに、製剤表面を被覆することができ、製剤中に含有している式(I)で示される化合物の光安定性を向上し、または製剤の変色を防止することができる。
【0035】
本明細書中の被覆層中における高分子の含量は、光安定化物質を製剤表面に被覆できる量であればよい。
【0036】
本発明製剤は、崩壊剤を含有してもよい。崩壊剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書等に収載されている崩壊剤を使用することができるが、崩壊剤の種類によっては、式(II)で示される化合物を含む類縁物質の量が増加する場合もある。具体的には、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられ、好ましくはクロスカルメロースナトリウムである。
【0037】
本発明製剤中の崩壊剤の含量は、製剤全量に対し、0.5~20重量%、好ましくは0.75~15重量%、より好ましくは1~10重量%である。この量よりも少なければ、固形製剤、特に錠剤が十分に崩壊しない可能性がある。
【0038】
本発明製剤は、賦形剤を含有してもよい。賦形剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書等に収載されている賦形剤を使用することができる。具体的には、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、オリゴ糖アルコール等の糖アルコール類、キシロース、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フラクトース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)ショ糖(シュクロース)、異性化糖、水飴、精製白糖、白糖、精製白糖球状顆粒、無水乳糖、白糖・デンプン球状顆粒等の糖類、半消化体デンプン、ブドウ糖水和物、粉糖、結晶セルロース、微結晶セルロース、プルラン、β-シクロデキストリン、アミノエチルスルホン酸、アメ粉、塩化ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリシン、グルコン酸カルシウム、L-グルタミン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、デキストラン40、デキストリン、乳酸カルシウム、ポビドン、マクロゴール(ポリエチレングリコール)1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000、マクロゴール6000、無水クエン酸、DL-リンゴ酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、L-アスパラギン酸、アルギン酸、カルメロースナトリウム、含水二酸化ケイ素、クロスポビドン、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、小麦粉、コムギデンプン、コムギ胚芽粉、小麦胚芽油、米粉、コメデンプン、酢酸フタル酸セルロース、酸化チタン、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、第三リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム、トウモロコシデンプン、トウモロコシデンプン造粒物、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム造粒物、リン酸二水素カルシウム等が挙げられ、好ましくは、糖類、結晶セルロースであり、より好ましくは、乳糖、結晶セルロースである。
【0039】
本発明製剤中の賦形剤の含量は、製剤全量に対し、10~90重量%、好ましくは15~87.5重量%、より好ましくは20~85重量%である。
【0040】
本発明製剤は、結合剤を含有してもよい。結合剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書等に収載されている結合剤を使用することができる。具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、アラビアゴム、アラビアゴム末、ゼラチン、カンテン、デキストリン、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース等が挙げられ、好ましくはポリビニルピロリドンである。
【0041】
本発明製剤中の結合剤の含量は、製剤全量に対し、0.1~20重量%、好ましくは0.25~15重量%、より好ましくは0.5~10重量%である。
【0042】
本発明製剤は、滑沢剤を含有してもよい。滑沢剤としては、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書等に収載されている滑沢剤を使用することができる。具体的には、ステアリン酸金属塩、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、含水二酸化ケイ素、フマル酸ステアリルナトリウム等が挙げられるが、好ましくは、フマル酸ステアリルナトリウムである。
【0043】
滑沢剤の含量は、製剤全量に対し、通常、0.05~10重量%、好ましくは0.075~7.5重量%、より好ましくは0.1~5重量%である。
【0044】
高分子のコーティングの作業を効率よく行うために、本発明製剤の被覆層のコーティング剤中に、可塑剤や凝集防止剤を含有してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書に収載されているものを使用することができる。具体的には、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ヒマシ油、トリアセチン,タルク等が挙げられる。一方、マクロゴール(ポリエチレングリコール)を配合した場合、類縁物質が増加する場合もある。
【0045】
本発明製剤は、色素または着色剤を含有してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格または医薬品添加物規格等に収載されている色素を使用することができる。色素は錠剤中にでも、被覆層中にでも含有することができる。色素として、具体的には、酸化鉄、タール色素および天然色素等が挙げられる。酸化鉄としては、三二酸化鉄、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等がある。タール色素としては、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用青色1 号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色102号、食用赤色2号、食用赤色3号等がある。天然色素としては、ウコン抽出液、β -カロチン、カロチン液、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ハダカムギ緑葉エキス末、裸麦緑葉青汁乾燥粉末、裸麦緑葉抽出エキス、酸化チタン、タルク等がある。色素は、光安定化物質で使用されるものも含まれる。
【0046】
本発明製剤は、さらに必要であれば、上述以外の添加剤を含有してもよく、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格および食品添加物公定書に収載されている添加剤を使用することができる。また、これらの添加剤の含量は、任意の割合でよい。上述以外の添加剤としては、具体的には、香料、流動化剤、矯味剤等が挙げられる。
香料として、具体的には、オレンジエッセンス、オレンジ油、カラメル、カンフル、ケイヒ油、スペアミント油、ストロベリーエッセンス、チョコレートエッセンス、チェリーフレーバー、トウヒ油、パインオイル、ハッカ油、バニラフレーバー、ビターエッセンス、フルーツフレーバー、ペパーミントエッセンス、ミックスフレーバー、ミントフレーバー、メントール、レモンパウダー、レモン油、ローズ油等が挙げられる。
流動化剤として、具体的には、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、タルク等が挙げられる。
矯味剤として、具体的には、アスパルテーム、スクラロース、グリシン、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、希塩酸、クエン酸およびその塩、無水クエン酸、L-グルタミン酸およびその塩、コハク酸およびその塩、酢酸、酒石酸およびその塩、炭酸水素ナトリウム、フマル酸およびその塩、リンゴ酸およびその塩、氷酢酸、イノシン酸二ナトリウム、ハチミツ等が挙げられる。
【0047】
本発明製剤は、固形製剤であればよい。具体的には、顆粒剤、細粒剤、錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤等であればよいが、好ましくは顆粒剤または錠剤である。固形製剤中に含有する式(I)で示される化合物の重量は、特に制限されないが、具体的には、10mg、20mg、40mgまたは80mgが好ましい。この場合、10mgとは、9.0~11.0mg、好ましくは9.5~10.5mgの範囲の範囲を示し、20mgとは、18.0~22.0mg、好ましくは19.0~21.0mgの範囲を示し、40mgとは、36.0~44.0mgの範囲を示し、好ましくは38.0~42.0mgの範囲を示し、80mgとは、72.0~88.0mg、好ましくは76.0~84.0mgの範囲を示す。
【0048】
本発明製剤のうち顆粒剤の製造方法は、特に制限されないが、具体的には、有効成分、崩壊剤、賦形剤等の添加剤を混合して、混合末を製造後、当該混合末を造粒する方法であり、好ましくは水や結合剤を含有する水や溶媒を添加して造粒する湿式造粒法や圧縮成形して水を使用しない乾式造粒法や溶融造粒法である。有効成分や添加剤等を混合する機械として、V型混合機やコンテナブレンダーを使用することができる。また、造粒する機械としては、湿式押出造粒機、流動層造粒機、撹拌造粒機、乾式破砕造粒機や溶融押出造粒機を使用することができる。湿式造粒の場合、混合末に対する造粒時の水分は、1~50%、好ましくは5~47.5%、より好ましくは、10~45%である。
【0049】
本発明製剤のうち、錠剤の製造方法は、特に制限されないが、具体的には、上記方法によって顆粒を製造し、さらに、この顆粒に対して、崩壊剤および滑沢剤を混合し、当該混合顆粒を打錠機で打錠する打錠法である。有効成分や添加剤等を混合する機械として、V型混合機やコンテナブレンダーを使用することができる。また、打錠機としては、単発打錠機、ロータリー式打錠機等を使用することができる。
【0050】
本発明製剤は、上記の顆粒剤や錠剤を製造後、当該顆粒剤や錠剤を光安定化物質および高分子で被覆し、被覆層を形成することがある。顆粒剤に被覆層を形成する際、流動層造粒コーティング機、流動層転動コーティング機等を用いることができる。錠剤に被覆層を形成する際、パンコーティング機、通気式コーティング機等を用いることができる。光安定化物質および高分子によって製剤表面に被覆層を形成する際、光安定化物質および高分子を水やエタノール等の溶媒中に溶解または懸濁させ、コーティング液を調製する。コーティング機の中で、顆粒剤や錠剤を流動させながら、この顆粒剤や錠剤に当該コーティング液を噴霧、乾燥し、被覆層を形成する。
なお、本発明製剤の式(I)で示される化合物の溶出率は、溶出試験開始45分後で、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。
【0051】
本発明製剤に、光を照射しても、類縁物質は、実験開始時からほとんど増加せず、また製剤の色差もほとんど変化しない、特に、製剤の色差ΔEは、実験開始からほとんど変化しない。具体的には、曝光装置に製剤をいれ、総照射光量として、120万lux・hrの光を照射した際、製剤の色差は、Δ13以下である。
【0052】
さらに、本発明は、a)式(I):
【化15】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤を試料とし、当該試料においてクロマトグラフィーを行う工程;及び
b)上記工程で得られたクロマトグラフィーデータにおいて、式(II):
【化16】

で示される化合物の含有量または含有割合に関するデータを得る工程、
を含んで成る、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤中の分解物を分析する方法を包含する。
たとえば、式(II)で示される化合物を含む類縁物質の量(含有量または含有割合)を高速液体クロマトグラフィーによって測定することができる。その際、式(II)で示される化合物を類縁物質測定の際のリファレンスとして用いることができる。式(II)で示される化合物の含有量または含有割合は、クロマトグラフィーデータのピーク面積から算出することができる。たとえば、式(I)で示される化合物、式(II)で示される化合物をクロマトグラフィーで測定するには、測定波長として260nmの波長を用いることができる。含有割合とは、製剤全体に対する割合、式(I)で示される化合物に対する割合、式(I)で示される化合物と式(II)で示される化合物の合計に対する割合などを用いることができる。さらに、式(II)で示される化合物の量を低減することによって、製剤の色差ΔEを低減することができる可能性がある。
なお、式(I):
【化17】

で示される化合物の主な類縁物質は、以下の構造である。
【化18】
【0053】
固形製剤、特に、錠剤中の式(I)に示される化合物の含量は、患者が服用しやすく、錠剤を製造することができる含量であればよいが、1錠あたり、1~400mg、好ましくは1.25~350mg、より好ましくは2.5~300mgである。具体的には、1錠あたり、式(I)に示される化合物の含量は、10mg、20mg、40mgまたは80mgである。この場合、10mgとは、9.0~11.0mg、好ましくは9.5~10.5mgの範囲の範囲を示し、20mgとは、18.0~22.0mg、好ましくは19.0~21.0mgの範囲を示し、40mgとは、36.0~44.0mgの範囲を示し、好ましくは38.0~42.0mgの範囲を示し、80mgとは、72.0~88.0mg、好ましくは76.0~84.0mgの範囲を示す。
【0054】
本発明は、光安定化物質および高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤である。
【0055】
好ましくは、被覆層中の光安定化物質として光を遮蔽または吸収する物質を用いる固形製剤である。
光安定化物質としては、食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上の光安定化物質が好ましい。
光安定化物質としては、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、食用赤色3号アルミニウムレーキ、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号アルミニウムレーキ、食用青色1号アルミニウムレーキ、食用青色2号アルミニウムレーキ、カルミン、銅クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィル、ベンガラ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄等の光吸収物質、酸化チタン、タルク、二酸化ケイ素等の光遮蔽物質が好ましい。
特に、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、黄酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上が好ましい。
さらには、酸化チタンおよび/またはタルクが好ましい。
【0056】
また、被覆層中の高分子としては、セルロース系高分子、アクリル系高分子およびビニル系高分子からなる群から選択される1以上が好ましい。
セルロース系高分子としては、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒプロメロースフタル酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートおよびエチルセルロースからなる群から選択される1以上が好ましい。
特に、ヒプロメロースが好ましい。
アクリル系高分子としては、メタアクリル酸コポリマー、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEおよびアミノアルキルメタアクリレートコポリマーRSからなる群から選択される1以上が好ましい。
ビニル系高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、クロスポビドンおよびポリビニルアルコール・メチルメタクリレート・アクリル酸共重合体から選択される1以上が好ましい。
【0057】
被覆層中の光安定化物質が、酸化チタンおよびタルクであり、高分子がヒプロメロースである場合が好ましい。
【0058】
以下、好ましい態様を記載する。
光を遮蔽または吸収する光安定化物質および高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、特に好ましくは、酸化チタン、タルクおよび高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤である。
【0059】
別の態様としては、光安定化物質および、セルロース系高分子、アクリル系高分子およびビニル系高分子からなる群から選択される1以上の高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、好ましくは、光を遮蔽または吸収する光安定化物質および、セルロース系高分子、アクリル系高分子およびビニル系高分子からなる群から選択される1以上の高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、より好ましくは、食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上の光安定化物質および、セルロース系高分子、アクリル系高分子およびビニル系高分子からなる群から選択される1以上の高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、特に好ましくは、酸化チタン、タルクおよび、セルロース系高分子、アクリル系高分子およびビニル系高分子からなる群から選択される1以上の高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤である。
【0060】
別の態様としては、光安定化物質およびセルロース系高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、好ましくは、光を遮蔽または吸収する光安定化物質およびセルロース系高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、より好ましくは、食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上の光安定化物質およびセルロース系高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、特に好ましくは、酸化チタン、タルクおよびセルロース系高分子を含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤である。
【0061】
別の態様としては、光安定化物質およびヒプロメロースを含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、好ましくは、光を遮蔽または吸収する光安定化物質およびヒプロメロースを含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤、より好ましくは、食用タール色素、食用レーキ化したタール色素、食用天然色素、酸化鉄、酸化チタンおよびタルクからなる群から選択される1以上の光安定化物質およびヒプロメロースを含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、特に好ましくは、酸化チタン、タルクおよびヒプロメロースを含有する被覆層を有し、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を含有する固形製剤である。
【0062】
本発明製剤は、光の吸収物または遮蔽物によって包装した場合でも、総照射光量として、120万lux・hrの光を照射した際、製剤の色差は、Δ13以下である。さらに、単に式(I)で示される化合物を含有する製剤を、光の吸収物または遮蔽物によって包装した場合でも、総照射光量として、120万lux・hrの光を照射した際、製剤の色差は、Δ13以下である。当該光の吸収物または遮蔽物としては、アルミや着色フィルム等があり、包装形態としては、アルミブリスターの包装形態等がある。
【0063】
錠剤の形状としては、どのような形状も採用することができ、具体的には、丸形、楕円形、球形、棒状型、ドーナツ型の形状の錠剤とすることができる。また、積層錠、有核錠などであってもよいが、好ましくは製造法が簡便な単層錠が好ましい。さらには、識別性向上のためのマーク、文字などの刻印さらには分割用の割線を付けてもよい。
【実施例
【0064】
以下、実施例、比較例および参考例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。化合物IIは、国際公開第2016/175224号パンフレットに開示されている方法により製造することができる。
【0065】
実施例A 化合物Iの製造方法
【化19】
化合物II(4.0g,8.3mmol)に炭酸カリウム(1483.4mg, 10.7mmol)とヨウ化カリウム(549.5mg,3.3mmol)、テトラヒドロフラン(33.1g)、N,N-ジメチルアセトアミド(3.8g)および水(80.3mg)を加え、撹拌した。60℃まで昇温し、クロロメチルメチルカルボネート(1758.9mg,14.2mmol)を加えた。60℃で9時間撹拌し、20℃まで冷却した。酢酸(822.0mg)、2-プロパノール(3.1g)および水(20.0g)を加え、テトラヒドロフラン(1.8g,8.9g)で2回抽出した。減圧濃縮により、液重量を約32gまで溶媒を留去した。45℃まで昇温した後、2-プロパノール(1.6g)を加え、20℃まで冷却した。酢酸ナトリウム(339.0mg)と水(46.0g)より調製した酢酸ナトリウム水溶液を加えた後、5℃まで冷却した。5℃で3時間撹拌した後、生じた淡黄白色沈殿をろ取した。2-プロパノール(4.7g)と水(6.0g)の混合液で得られた固体を洗浄した後、2-プロパノール(6.3g)で固体を再度洗浄した。得られた淡黄白色固体にジメチルスルホキシド(30.9g)を加え、撹拌した。60℃まで昇温し、ジメチルスルホキシド(2.2g)と水(4.8g)の混合液を加えた。さらにジメチルスルホキシド(19.9g)と水(28.4g)の混合液を加え、20℃まで冷却した。20℃で3時間撹拌した後、生じた白色沈殿をろ取した。ジメチルスルホキシド(8.0g)と水(4.8g)の混合液で得られた固体を洗浄した後、水(12.0g)で固体を再度洗浄した。得られた固体を乾燥することにより、白色結晶の化合物I(4.21g)を得た。
1H-NMR (DMSO-D6) δ: 2.91-2.98 (1H, m), 3.24-3.31 (1H, m), 3.44 (1H, t, J = 10.4 Hz), 3.69 (1H, dd, J = 11.5, 2.8 Hz), 3.73 (3H, s), 4.00 (1H, dd, J = 10.8, 2.9 Hz), 4.06 (1H, d, J = 14.3 Hz), 4.40 (1H, d, J = 11.8 Hz), 4.45 (1H, dd, J = 9.9, 2.9 Hz), 5.42 (1H, dd, J = 14.4, 1.8 Hz), 5.67 (1H, d, J = 6.5 Hz), 5.72-5.75 (3H, m), 6.83-6.87 (1H, m), 7.01 (1H, d, J = 6.9 Hz), 7.09 (1H, dd, J = 8.0, 1.1 Hz), 7.14-7.18 (1H, m), 7.23 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.37-7.44 (2H, m)
粉末X線回折2θ(°):8.6±0.2°、14.1±0.2°、17.4±0.2°、20.0±0.2°、24.0±0.2°、26.3±0.2°、29.6±0.2°および35.4±0.2°
【0066】
(1)崩壊剤の検討
a.配合性試験
式(I)で示される化合物と崩壊剤との配合性試験をおこない、経時保存品の類縁物質量を評価した。式(I)で示される化合物と崩壊剤を1:1で混合し、水で湿式調製した後、40℃/75%相対湿度下で2週間および1ヶ月保管し、式(II)で示される化合物を含む総類縁物質量を測定した。総類縁物質測定法は、以下の通りである。崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学社製)、クロスカルメロースナトリウム(FMC Bio Polymer社製)、デンプングリコール酸ナトリウム(JRS Pharma社製)およびクロスポビドン(BASF社製)を使用した。

(総類縁物質量測定法)
以下の方法、条件によって、液体クロマトグラフで、類縁物質を測定した。
・検出器:紫外吸光光度計 (測定波長260 nm)
・カラム:XBridge C18,3.5 μm,3.0×150 mm
・カラム温度:35℃付近の一定温度
・移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸/0.2 mM EDTA溶液、移動相B:アセトニトリル
・移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【表1】

・流量:約0.6 mL/min (式(I)で示される化合物の保持時間約16分)
・注入量:5μL
・サンプルクーラー温度:約5℃
・オートインジェクター洗浄液:アセトニトリル/メタノール混液 (1:3)
・面積測定範囲:試料溶液注入後50分間
・総類縁物質量の計算式
総類縁物質の合計量 (%) =ΣATi/ΣAT×100

ATi:試料溶液の個々の類縁物質のピーク面積
ΣAT:試料溶液のピーク面積の合計 (ブランク及びシステムピークは除く)
ΣATi:試料溶液の個々の類縁物質のピーク面積の合計
【0067】
(結果)
総類縁物質量を表2に示す。その結果、デンプングリコール酸ナトリウムおよびクロスポビドンに比べ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびクロスカルメロースナトリウムにおいて、総類縁物質量は、低い傾向にあった。

【表2】
【0068】
b.式(I)で示される化合物の溶出性
(素錠の製造方法)
崩壊剤として、総類縁物質量が少なかった低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびクロスカルメロースナトリウムを選択し、これらの崩壊剤を含有する錠剤を製造した後、その錠剤の溶出試験をおこなった。
表3に、本発明製剤1錠剤あたりの光安定化物質および高分子を被覆前の素錠の処方を示す。式(I)で示される化合物、乳糖水和物(DMV-Fonterra社)、崩壊剤を30メッシュふるいで篩過し、ハイスピードミキサー(深江工業社製、LFS-GS-2J型)で造粒した。造粒時は、結合剤として、ポリビニルピロリドン(BASF社製)の水溶液を使用した。なお、造粒時の水分は、約20%、40%に調整した。

【表3】

造粒条件、溶出試験法は、以下の通りである。
(造粒条件)
・造粒機:LFS-GS-2J型ハイスピードミキサー
・アジテーター回転数: 333 min-1
・チョッパー回転数: 2500 min-1
・液注加速度:20 g/min

造粒、乾燥及び整粒した顆粒、結晶セルロースおよび滑沢剤であるフマル酸ステアリルナトリウム(JRS Pharma社製)を混合した後、静的圧縮機により、5kNで打錠し、錠剤を製造した。

(溶出試験法)
溶出試験は、第16改正日本薬局方溶出試験法第2法(界面活性剤を含有した溶出試験第2液、パドル法,パドル回転数:50rpm,結果:2錠の平均値)によっておこなった。
【0069】
(実験結果)
素錠1-1および1-2の溶出試験結果を図1に、素錠2-1および2-2の溶出試験結果を図2にそれぞれ示す。その結果、崩壊剤として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いた場合、造粒水分が約20%の素錠1-1製剤に比べ、造粒水分が約40%の素錠1-2製剤の溶出挙動が遅くなった。一方、崩壊剤として、クロスカルメロースナトリウムを用いた場合、造粒水分が約20%の素錠2-1製剤および造粒水分が約40%の素錠2-2製剤の溶出挙動はほぼ同じであった。従って、崩壊剤としては、配合性試験において、総類縁物質量が少なく、しかも造粒時の水分量が変わっても、溶出性がほとんど変化しないクロスカルメロースナトリウムが崩壊剤として最適であると考えられた。
【0070】
(2)光安定化物質、高分子の選択
a.光安定化物質の影響
光安定化物質の影響を調べるために、素錠に光安定化物質および高分子を被覆して、製剤中の類縁物質量および色差を測定した。光安定化物質および高分子を被覆した製剤の処方を表4に示す。光安定化物質としては、酸化チタンおよびタルクを、高分子としては、ポリビニルアルコールを、可塑剤としてマクロゴール4000を用いた。類縁物質量としては、式(II)で示される化合物の量および総類縁物質量を測定した。また、製剤の色差は、一定の光を曝光した後、製剤の色差を測定した。

【表4】


被覆製剤の製造方法、被覆条件、式(II)で示される化合物の測定法および製剤の色差測定法は、以下の通りである。

(被覆製剤の製造方法)
表4に、本発明製剤1錠剤あたりの素錠および素錠への光安定化物質(酸化チタン、タルク)および高分子(ポリビニルアルコール)の被覆量を示す。素錠表面に、光安定化物質および高分子を被覆した。被覆をおこなう機械は、ハイコーターラボ(フロイント社製)を用いた。以下、被覆を行う条件である。

(被覆条件)
・仕込み量:約0.5kg
・コーティング機:ラボコーターHC-LABO(フロイント産業)
・給気温度:60℃ (設定温度)
・給気風量:1.0m3/min
・ノズル径:1.0 mm
・ノズルキャップ径:1.3mm
・噴霧空気量:約40NL/min
・コーティング液速度:約2g/min
・パン回転数:25~32min-1

(式(II)で示される化合物の測定法)
以下の方法、条件によって、液体クロマトグラフで、式(II)で示される化合物の量を測定した。
・検出器:紫外吸光光度計 (測定波長260 nm)
・カラム:XBridge C18,3.5 μm,3.0×150 mm
・カラム温度:35℃付近の一定温度
・移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸/0.2 mM EDTA溶液、移動相B:アセトニトリル
・移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を表5のように変えて濃度勾配制御する。

【表5】


・流量:約0.6 mL/min
・注入量:5μL
・サンプルクーラー温度:約5℃
・オートインジェクター洗浄液:アセトニトリル/メタノール混液 (1:3)
・面積測定範囲:試料溶液注入後50分間
・式(II)で示される化合物の量の計算式
式(II)で示される化合物の量 (%)=ATII/ΣAT×100
ATII:試料溶液の式(II)で示される化合物のピーク面積
ΣAT:試料溶液のピーク面積の合計 (ブランク及びシステムピークは除く)

(色差の測定法)
分光色差計 (レンズ径 4 mm) を用いて,下記の計算式に従って各錠剤のイニシャルを基準に,1~3錠の色調 (ΔE) を測定し、以下の式でその平均値を算出した。ただし、Lは明度,aは色度 (+:赤色度,-:緑色度) ,bは色度 (+:黄色度,-:青色度) を示す。また,表6に色差計による外観判定基準を示す。

ΔE = {(ΔL)2 + (Δa)2 + (Δb)2}1/2
【表6】

【0071】
(実験結果)
表7には、40℃/75%相対湿度下、容器を開栓してイニシャル、2週間後、1ヶ月後の式(II)で示される化合物の量(%)、表8には、総類縁物質量(%)をそれぞれ示す。また、表9には、120万lux・hrの光照射後の製剤の色差(ΔE)を示す。
その結果、40℃/75%相対湿度下、容器を開栓しても、式(II)で示される化合物の量や総類縁物質量は、実施例1~3の製剤や比較例1の製剤において、イニシャルから実験開始1ヶ月後までほとんど変わらなかった。一方、製剤の色差は、光安定化物質を被覆した実施例1~3の製剤に比べ、光安定化物質を被覆していない比較例1の製剤は大きく、12以上となり、表6の外観判定基準によれば、「多大に」製剤の色差が変化していることが明らかとなった。

【表7】

【表8】

【表9】
【0072】
c.光安定化物質および高分子の最適化
光安定化物質および高分子を最適化するために、素錠に光安定化物質および高分子を被覆することによって、製剤中の類縁体量および製剤の色差を測定した。光安定化物質および高分子を被覆した製剤の処方を表10に示す。光安定化物質としては、酸化チタンおよびタルクを、高分子としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースを、可塑剤としてマクロゴール4000を用いた。
【表10】

【0073】
(実験結果)
表11には、40℃/75%相対湿度下、容器を開栓してイニシャル、2週間後の式(II)で示される化合物の量(%)、表12には、総類縁物質量(%)をそれぞれ示す。また、表13には、120万lux・hrの光照射後の製剤の色差(ΔE)を示す。
その結果、40℃、75%相対湿度下、容器を開栓しても、式(II)で示される化合物の量や総類縁物質量は、実施例4~6の製剤において、イニシャルから実験開始2週間後までは、ほとんど変わらなかった。特に、光安定化物質が酸化チタンおよびタルク、高分子がヒプロメロースである実施例6の製剤において、総類縁物質量は、ほとんど増加しなかった。製剤の色差は、光安定化物質を被覆した実施例4~6の製剤において、ほとんど変化しておらず、表6の外観判定基準によれば、「かすかに」または「わずかに」製剤の色差が変化している程度であった。

【表11】

【表12】

【表13】
【0074】
(臨床試験)
インフルエンザウイルス感染患者への治験薬(有効成分(式(I)で示される化合物、以下、「化合物II-6」という場合がある。):10mg, 20mg, 40mg)の単回経口投与の有効性および安全性の評価を、プラセボを比較対象とした無作為割り付けによる二重盲検比較試験により実施した。主要評価項目としては、インフルエンザ罹病期間(治験薬投与開始から7つのインフルエンザ症状(「咳」、「喉の痛み」、「頭痛」、「鼻づまり」、「熱っぽさまたは悪寒」、「筋肉または関節の痛み」、「疲労感」)が改善するまでの時間)について、4段階[0:なし,1:軽症,2:中程度,3:重症]で被験者本人が評価することによりプラセボに対する治験薬の有効性を評価した。

対象は下記の基準全てに該当する患者を選択した。
(ア)20歳以上65歳未満の男性または女性患者。
(イ)以下のいずれにも合致し,インフルエンザウイルス感染症と診断されている患者。
・鼻腔または咽頭ぬぐい液によるインフルエンザ迅速診断 [Rapid antigen test (RAT)] が陽性
・38℃以上の発熱 (腋窩温) がある
・インフルエンザウイルス感染症による以下の全身症状および呼吸器症状のうち,それぞれで中等度以上の症状を1項目以上有する
・全身症状 (頭痛,熱っぽさまたは悪寒,筋肉または関節の痛み,疲労感)
・呼吸器症状 (咳,喉の痛み,鼻づまり)
(ウ)発症から48時間までの患者 (登録時)。ただし,発症の定義は以下のいずれかとする。
・体温が初めて上昇した時点 (平熱から少なくとも1℃以上の上昇)
・全身症状および呼吸器症状のいずれか1項目以上の症状を有した時点
【0075】
治験薬の投与方法
(i)被験薬
化合物II-6の10mg錠:化合物II-6を10mg含む白色から淡黄白色の円形のフィルムコーティング錠(本発明製剤)。
化合物II-6の20mg錠:化合物II-6を20mg含む白色から淡黄白色の楕円形のフィルムコーティング錠(本発明製剤)。
(ii)プラセボまたは対照薬
化合物II-6の10mg錠のプラセボ:化合物II-6の10mg錠と識別不能な錠剤。
化合物II-6の20mg錠のプラセボ:化合物II-6の20mg錠と識別不能な錠剤。
【0076】
投与量および投与方法
適格と判断された被験者を、1:1:1:1の比率で,化合物II-6の10mg群、20mg群、40mg群,またはプラセボ群のいずれかの群に無作為に割付けた。被験者には、化合物II-6錠及び/またはプラセボ錠からなる以下の表に示す組合せで、それぞれ計3錠をDay1に単回経口投与した。
投与群ごとの治験薬
【表14】
【0077】
有効性の主要評価項目
有効性の主要評価項目はインフルエンザ症状が消失するまでの時間 (インフルエンザ罹病期間)である。
投与開始時点からインフルエンザ症状が消失するまでの時間とする。インフルエンザ症状の消失は、被験者が記録する患者日記において、インフルエンザ7症状(咳、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、熱っぽさまたは悪寒、筋肉または関節の痛み、疲労感)が全て「0:なし」または「1:軽症」となった時点を指し、その状態が少なくとも21.5時間(24時間-10%)持続していることとする。
【0078】
有効性の副次評価項目
有効性の副次評価項目は以下のとおりである。
(1)インフルエンザ各症状が消失するまでの時間
投与開始時点からインフルエンザ各症状が消失するまでの時間とする。症状の消失は、対象とする項目が「0:なし」または「1:軽度」となった時点を指し、その状態が少なくとも21.5時間(24時間-10%)持続していることとする。
【0079】
主要評価項目の解析
主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間について、主要解析と副次解析を記載する。主要解析はITTI集団に加えて、感度解析のためにPPS集団でも実施した。それ以外の解析はITTI集団のみで実施した。
(1)主要解析
ITTI集団を対象として、インフルエンザ罹病期間を応答、投与群を母数効果、割付け因子である現在の喫煙の有無と投与前のベースライン時点でのインフルエンザ7症状の合計スコアを共変量とするCox比例ハザードモデルでプラセボ群に対する各投与群のハザード比、その95%信頼区間、P値を算出した。複数回検定を実施することによる第1種の過誤確率の膨張を防ぐために、P値をHommel法で調整した。
(2)副次解析
インフルエンザ罹病期間を応答、投与群を説明変数、割付因子である投与前のインフルエンザ7症状の合計スコアのカテゴリー(11点以下、12点以上)と喫煙の有無を層別因子とする、層別一般化Wilcoxon検定でプラセボ群と治験薬の各投与群を比較した。
また、各群でKaplan-Meier生存曲線を描き、インフルエンザ罹病期間の中央値とその95%信頼区間を算出した。信頼区間の算出にはGreenwood法を用いた。
【0080】
副次評価項目の解析
(1)インフルエンザ各症状が消失するまでの時間
インフルエンザ症状毎に、各症状が消失するまでの時間を応答とし、主要評価項目と同様の解析を実施した。このとき、投与前の症状が「0:なし」または「1:軽度」である症例を解析対象から除いた。
【0081】
(1)主要評価項目の結果(インフルエンザの罹病期間)について
無作為に選ばれた400人の患者のうち、389人(10mg投与群98人(98%)、20mg投与群95人(95%)、40mg投与群99人(99%)およびプラセボ群97人(97%))が試験を完了した。ITTI Population(治験薬が投与され、かつインフルエンザウイルスの感染が確認された症例)は、主要評価項目については、400人の患者で構成された。
パープロトコルセット症例は368人(10mg投与群89人(89%)、20mg投与群92人(92%)、40mg投与群96人(96%)およびプラセボ群91人(91%))で構成された。それぞれの群のITTI Populationについては、迅速抗原検出試験から75%~79%の患者はA型インフルエンザウイルスに感染し、21%~25%の患者はB型インフルエンザウイルスに感染していることが分かった。
解析結果を以下の表に示す。

【表15】

この試験の主要評価項目、すなわち、症状の軽減までの時間の中央値は、10mg投与群は54.2時間(95%CI: 47.7, 66.8)であり、20mg投与群は51.0時間(95%CI: 47.7, 66.8)であり、40mg投与群は49.5時間(95%CI: 44.5, 64.4)であったのに対して、プラセボ群は77.7時間(95%CI: 67.6, 88.7)であった。
【0082】
(2)各7症状が軽減するまでの時間
下記の表には7つのそれぞれのインフルエンザ症状(「咳」、「喉の痛み」、「頭痛」、「鼻づまり」、「熱っぽさまたは悪寒」、「筋肉または関節の痛み」、「疲労感」)が改善されるまでの時間の解析結果を示した。

(i)「鼻づまり」の症状が緩和するまでの時間
【表16】

(ii)「筋肉または関節の痛み」の症状が緩和するまでの時間
【表17】

(iii)「疲労感」の症状が緩和するまでの時間
【表18】

(iv)「熱っぽさまたは悪寒」の症状が緩和するまでの時間
【表19】

(v)「頭痛」の症状が緩和するまでの時間
【表20】

(vi)「咳」の症状が緩和するまでの時間
【表21】

(vii)「喉の痛み」の症状が緩和するまでの時間
【表22】

a プラセボに対する層別一般化ウィルソン検定。層別要因:喫煙習慣、ベースラインでの複合症状のスコア。
b プラセボに対するCox比例ハザードモデル。共変量:喫煙習慣、ベースラインでの複合症状のスコア。
ベースラインでの症状のスコアが「中程度」または「重症」であった患者のサブセット
CI:信頼区間

40mg投与群は、Cox比例ハザードモデルを用いて解析したところ、プラセボ群と比較して、次の5症状:「鼻づまり」、「筋肉または関節の痛み」、「疲労感」、「熱っぽさまたは悪寒」、「頭痛」、については症状が改善するまでの時間に有意な減少が見られた。たとえば、「鼻づまり」と「筋肉または関節の痛み」の2症状について、症状が改善されるまでの時間の中央値はプラセボ群よりも40mg投与群は21.0時間、16.4時間それぞれ短縮された。

10mg投与群や20mg投与群においても、次に示す症状:「筋肉または関節の痛み」、「鼻づまり」、「熱っぽさまたは悪寒」、で統計学的に有意な差が見られた。
【0083】
(臨床試験(Ph3:成人および青少年))
インフルエンザウイルス感染症患者への治験薬(有効成分(化合物II-6):40 mg、80mg)の単回経口投与の有効性および安全性の評価を、オセルタミビル75mgの1日2回、5日間投与又はプラセボを比較対象とした無作為割り付けによる二重盲検比較試験により実施した。主要評価項目としては、インフルエンザ罹病期間(治験薬投与開始から7つのインフルエンザ症状(「咳」、「喉の痛み」、「頭痛」、「鼻づまり」、「熱っぽさまたは悪寒」、「筋肉または関節の痛み」、「疲労感」)が改善するまでの時間)について、4段階[0:なし、1:軽症、2:中程度、3:重症]で被験者本人が評価することによりプラセボに対する治験薬の有効性を評価した。
また、有効性の副次評価項目として、鼻腔又は咽頭ぬぐい液を用いたインフルエンザウイルス力価による治験薬の有効性や副作用についても評価した。

対象は下記の基準全てに該当する患者を選択した。
(ア)12歳以上65歳未満の男性または女性患者。
(イ)以下のいずれにも合致し、インフルエンザウイルス感染症と診断されている患者。
・38℃以上の発熱(腋窩温)がある
・インフルエンザウイルス感染症による以下の全身症状および呼吸器症状のうち、それぞれで中等度以上の症状を1項目以上有する
・全身症状(頭痛、熱っぽさまたは悪寒、筋肉または関節の痛み、疲労感)
・呼吸器症状(咳、喉の痛み、鼻づまり)
(ウ)発症から48時間までの患者(登録時)。ただし、発症の定義は以下のいずれかとした。
・体温が初めて上昇した時点(平熱から少なくとも1℃以上の上昇)
・全身症状および呼吸器症状のいずれか1項目以上の症状を有した時点
【0084】
治験薬の投与方法
(i)被験薬
化合物II-6の20mg錠。
(ii)プラセボまたは対照薬
化合物II-6の20mg錠のプラセボ。
オセルタミビル75mgカプセル
オセルタミビル75mgカプセルのプラセボ:オセルタミビル75mgカプセルと識別不能なカプセル。
【0085】
投与量および投与方法
適格と判断された20~64歳の患者を、2:2:1の比率で,化合物II-6の単回投与(体重に応じて40又は80mg)群、オセルタミビル75mgの1日2回、5日間投与群、またはプラセボ群のいずれかの群に無作為に割付けた。
適格と判断された12~19歳の患者を、2:1の比率で化合物II-6の単回投与(体重に応じて40又は80mg)群又はプラセボ投与群のいずれかに無作為に割付けた。
化合物II-6の投与量は、体重が80kg未満の被験者で40mg、80kg以上の被験者で80mgとした。

投与群ごとの治験薬
[化合物II-6群]
Day 1:
化合物II-6の20mg錠(体重に応じて2錠又は4錠)を経口投与した。オセルタミビルのプラセボカプセルを1日2回(朝、夕)、1回1カプセル経口投与した。
Day 2~Day 5:
オセルタミビルのプラセボカプセルを1日2回(朝、夕)、1回1カプセル経口投与した。
[オセルタミビル群]
Day 1:
化合物II-6のプラセボ錠(体重に応じて2錠又は4錠)を経口投与した。オセルタミビルの75 mgカプセルを1日2回(朝、夕)、1回1カプセル経口投与した。
Day 2~Day 5:
オセルタミビルの75 mgカプセルを1日2回(朝、夕)、1回1カプセル経口投与した。
[プラセボ群]
Day 1:
化合物II-6のプラセボ錠(体重に応じて2錠又は4錠)を経口投与した。オセルタミビルのプラセボカプセルを1日2回(朝、夕)、1回1カプセル経口投与した。
Day 2~Day 5:
オセルタミビルのプラセボカプセルを1日2回(朝、夕)、1回1カプセル経口投与した。

なお、「Day 1」は投与初日を表し、「Day 2~Day 5」は投与初日から数えて、2日目~5日目を表す。
【0086】
有効性の主要評価項目
有効性の主要評価項目はインフルエンザ症状が消失するまでの時間(インフルエンザ罹病期間)である。
投与開始時点からインフルエンザ症状が消失するまでの時間とする。インフルエンザ症状の消失は、被験者が記録する患者日記において、インフルエンザ7症状(咳、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、熱っぽさまたは悪寒、筋肉または関節の痛み、疲労感)が全て「0:なし」または「1:軽症」となった時点を指し、その状態が少なくとも21.5時間(24時間-10%)持続していることとする。
【0087】
有効性の副次評価項目
有効性の副次評価項目は以下のとおりである。
(1)各点におけるインフルエンザウイルス力価陽性患者の割合
(2)各点におけるウイルス力価のベースラインからの変化量
(3)ウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間
(4)副作用の発現頻度
【0088】
ウイルスの力価は、以下の手順で測定した。
(1)平底96 wellマイクロプレートに播種したMDCK-SIAT1細胞を、37±1℃、5%CO2インキュベーター内で1日培養した。
(2)標準株(インフルエンザウイルスAH3N2、A/Victoria/361/2011、保存条件:-80℃、由来:National Institute of Infectious Diseases)、検体(化合物II-6の第三相臨床試験で患者より収集したものを超低温冷凍庫で保管)、および細胞コントロールのための培地を、10倍連続希釈法で、101-107倍まで希釈した。
(3)倒立顕微鏡下でシート状に存在する細胞を確認した後、培地を除去し、新しい培地を100 μL/ウェルで加えた。
(4)培地を除いた。
(5)上記(2)で調整したそれぞれの検体(100-107)を、1検体あたり4ウェルを用いて、100μL/ウェルで接種した。
(6)室温、1000rpm、30分で遠心吸着させた。
(7)遠心後、培地を除去し、新しい培地にて細胞を一回洗浄した。
(8)新しい培地を、100μL/ウェルで添加した。
(9)5%CO2インキュベーター内で、33±1℃で3日間、インキュベーションを行った。
(10)インキュベーション後、細胞変性効果(CPE)を倒立顕微鏡下で評価した。
【0089】
ウイルス力価陽性の判定方法
前記のウイルス力価の測定方法による測定により、検出限界を超えている場合に陽性と判断した。
【0090】
主要評価項目の解析
主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間について、主要解析と副次解析を記載する。主要解析はITTI集団にて実施した。
(1)主要解析
12~64歳の患者を対象として、投与前のインフルエンザ7症状の合計スコア(11点以下、12点以上)と地域(日本/アジア,その他地域)を層別因子とする層別一般化Wilcoxon検定でプラセボ群と治験薬の投与群を比較した。
また、各群でKaplan-Meier生存曲線を描き、インフルエンザ罹病期間の中央値とその95%信頼区間、インフルエンザ罹病期間の群間差とその95%信頼区間を算出した。
(2)副次解析
20~64歳の患者を対象として、主要解析と同様の方法により、インフルエンザ罹病期間を化合物II-6群とオセルタミビル群で比較した。
【0091】
副次評価項目の解析
以下の有効性の副次評価項目を化合物II-6群とプラセボ群の間、化合物II-6群とオセルタミビル群の間(20~64歳の年齢層)で比較した。
(1)各時点におけるインフルエンザウイルス力価陽性患者の割合
Visit 1の投与開始前時点でウイルス力価が定量下限以上であった患者のみを解析に含めた。Visitごとに投与前のインフルエンザ7症状の合計スコア及び地域を層別因子とするMantel-Haenszel検定を適用し、ウイルス力価陽性の患者の割合を2群間で比較した。
(2)各時点におけるウイルス力価のベースラインからの変化量
Visit 1の投与開始前時点でウイルス力価が陽性患者のみを解析に含めた。Visitごとに投与前のインフルエンザ7症状の合計スコア及び地域を層別因子とするvan Elteren検定を適用し、インフルエンザウイルス力価のベースラインからの変化量を2群間で比較した。
(3)ウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間
Visit 1の投与開始前時点でウイルス力価が定量下限以上であった患者のみを解析に含めた。投与前のインフルエンザ7症状の合計スコア及び地域を層別因子とする層別一般化Wilcoxon検定を適用した。
(4)副作用の発現頻度
副作用の発現件数及び例数を投与群ごとに計数した。
【0092】
(1)主要評価項目の結果(インフルエンザの罹病期間)について
無作為に選ばれた1436人の患者のうち、1366人(化合物II-6 40mgまたは80mg投与群578人、オセルタミビル投与群498人、およびプラセボ群290人)が試験を完了した。ITTI症例(GCPが順守され、治験薬が投与され、かつインフルエンザウイルスの感染が確認された症例)は、主要評価項目については、1064人の患者で構成された。
パープロトコルセット症例は990人(化合物II-6 40mgまたは80mg投与群427人、オセルタミビル投与群351人、およびプラセボ群212人)で構成された。
解析結果を以下の表に示す。
【表23】

a 対プラセボ又は対オセルタミビル。
b ブートストラップ推定。
c 地域及び投与前のインフルエンザ7症状の合計スコアを層別因子とし、症状が消失しなかった患者は最終評価時点で打ち切りとした。

ITTI集団でのインフルエンザ罹病期間(中央値)(95%CI)は、化合物II-6群53.7時間(95%CI:49.5,58.5)に対し,プラセボ群80.2時間(95%CI:72.6,87.1)であり、化合物II-6群とプラセボ群との差は-26.5時間であった。インフルエンザ罹病期間は、層別一般化Wilcoxon検定を用いた主要解析ではプラセボ群と比較して化合物II-6群で有意に短かった(p<.0001)。
20歳以上65歳未満の部分集団でのインフルエンザ罹病期間は、化合物II-6群53.5時間(95%CI:48.0,58.5)に対し、オセルタミビル群53.8時間(95%CI:50.2,56.4)であり、化合物II-6群とオセルタミビル群との差は-0.3時間であった。インフルエンザ罹病期間は、層別一般化Wilcoxon検定では化合物II-6群とオセルタミビル群との間で有意差はなかった。
【0093】
副次評価項目の解析
(1)各点におけるインフルエンザウイルス力価陽性患者の割合
解析結果を以下の表に示す。
【表24】

Day 2は投与初日から数えて24時間後であり、Day 3は48時間後、Day 4は72時間後、Day 5は96時間後、Day 6は120時間後、Day 9は192時間後を表す。
a 対プラセボ又は対オセルタミビル。Mantel-Haenszel検定。地域及び投与前のインフルエンザ7症状の合計スコアを層別因子とし、投与前にウイルス力価が陽性であった集団を対象とした。

ウイルス力価陽性患者の割合は,Day 2においてプラセボ群と比較して化合物II-6群で有意に低く(Mantel-Haenszel検定:p<.0001)、Day 3でも同様にプラセボ群と比較して化合物II-6群で有意に低かった(p<.0001)。20歳以上65歳未満の部分集団でのウイルス力価陽性患者の割合は、Day 2及びDay 3で、オセルタミビル群と比較して化合物II-6群で有意に低かった(p<.0001)。
【0094】
(2)各点におけるウイルス力価のベースラインからの変化量
解析結果を以下の表に示す。
【表25】

単位:log10 [TCID50/mL]。
Day 2は投与初日から数えて24時間後であり、Day 3は48時間後、Day 4は72時間後、Day 5は96時間後、Day 6は120時間後、Day 9は192時間後を表す。
a 対プラセボ又は対オセルタミビル。van Elteren検定。地域及び投与前のインフルエンザ7症状の合計スコアを層別因子とした。投与前にウイルス力価が陽性であった集団を対象とした。

ウイルス力価は、Day 2においてプラセボ群と比較して化合物II-6群で有意に減少し、Day 3でも同様にプラセボ群と比較して有意に減少していた(van Elteren検定:p<.0001)。20歳以上65歳未満の部分集団でのウイルス力価は、Day 2及びDay 3で、オセルタミビル群と比較して化合物II-6群で有意に減少していた(p<.0001)。
【0095】
(3)ウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間
解析結果を以下の表に示す。
【表26】

a 対プラセボ又は対オセルタミビル。
b 地域及び投与前のインフルエンザ7症状の合計スコアを層別因子とした。
ウイルス力価が消失しなかった患者は、最終評価時点で打ち切りとした。
Day 1でウイルス力価が陽性、かつ、ウイルス排出が停止するまでの時間が欠測ではない患者を解析対象とした。

ウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間(中央値)は、化合物II-6群24.0時間に対し、プラセボ群96.0時間であり、プラセボ群と比較して化合物II-6群で有意に短かった(層別一般化Wilcoxon検定:p<.0001)。20歳以上65歳未満の部分集団でのウイルス排出停止までの時間は、化合物II-6群24.0時間、オセルタミビル群72.0時間であり、オセルタミビル群と比較して化合物II-6群で有意に短かった(p<.0001)。
【0096】
(4)有害事象の発現頻度
因果関係が否定できない重篤な有害事象は報告されていない。因果関係が否定できない有害事象は、化合物II-6群では610例中27例(4.4%、37件)、プラセボ群では309例中12例(3.9%、19件)、オセルタミビル群で513例中43例(8.4%、53件)で発現した。化合物II-6群とプラセボ群との間の発現率に統計学的有意差は見られなかった(フィッシャーの正確検定、両側P値:0.8627)。しかし、化合物II-6群の発現率はオセルタミビル群よりも有意に低かった(フィッシャーの正確検定、両側P値:0.0088)。
【0097】
試験例17 臨床試験(Ph3:小児)
インフルエンザウイルス感染患者への治験薬(有効成分(化合物II-6):5mg, 10mg, 20mg, 40mg)の単回経口投与の有効性および安全性の評価を実施した。主要評価項目としては、インフルエンザ罹病期間(治験薬投与開始からインフルエンザ症状(「咳」、「鼻水/鼻づまり」及び「発熱」)が改善するまでの時間)について、保護者又は被験者本人が評価・測定することにより治験薬の有効性を評価した。
なお、「咳」及び「鼻水/鼻づまり」については、4段階[0:なし,1:軽症,2:中程度,3:重症]で評価した。
対象は下記の基準全てに該当する患者を選択した。
(ア)6カ月以上12歳未満の男性または女性患者。
(イ)以下のいずれにも合致し,インフルエンザウイルス感染症と診断されている患者。
・鼻腔または咽頭ぬぐい液によるインフルエンザ迅速診断[Rapid antigen test (RAT)]が陽性
・38℃以上の発熱(腋窩温)がある
・7歳以上の患者では、インフルエンザウイルス感染症による呼吸器症状(咳、鼻水/鼻づまり)のうち、中程度以上の症状を1項目以上有する
(ウ)発症から48時間までの患者(登録時)。ただし,発症の定義は、37.5℃を超える発熱を最初に確認した時点とする。
(エ)体重が5kg以上の患者。
【0098】
治験薬の投与方法
(i)被験薬
化合物II-6の5mg錠:化合物II-6の10mg錠の半錠。
化合物II-6の10mg錠。
化合物II-6の20mg錠。
【0099】
投与量および投与方法
患者には、体重に基づいて換算した用量で、Day1に単回経口投与した(下記表参照)。
【表27】
【0100】
有効性の主要評価項目
有効性の主要評価項目はインフルエンザ症状が消失するまでの時間(インフルエンザ罹病期間)である。
投与開始時点からインフルエンザ症状が消失するまでの時間とする。インフルエンザ症状の消失は、投与開始時点から下記のa及びbを満たした時点とし、その臨床状態が少なくとも21.5時間(24時間-10%)持続していることとする。
a. 患者日記による「咳」及び「鼻水/鼻づまり」が両方とも「0:なし」又は「1:軽症」
b. 体温(腋窩温)が37.5℃未満
【0101】
主要評価項目の解析
主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間について、主要解析を記載する。主要解析はITTI集団にて実施した。
(1)主要解析
インフルエンザ症状(「咳」、「鼻水/鼻づまり」及び「発熱」)が消失するまでの時間(インフルエンザ罹病期間)のKaplan-Meier曲線を描き、インフルエンザ症状が完全に消失するまでの時間の中央値とその95%信頼区間を算出した。観察期間中にインフルエンザ症状が完全に消失しなかった患者は、打ち切り例として扱った。
【0102】
(1)主要評価項目の結果(インフルエンザの罹病期間)について
主要評価項目については、103人の患者で構成された。ITTI集団でのインフルエンザ罹病期間(中央値)は、44.6時間(95%CI:38.9, 62.5)であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
式(I)で示される化合物を含有する製剤に光を照射することによって、製剤の色差が高くなるという新たな知見を見出した。そこで、当該製剤の表面に、光安定化物質および高分子を被覆することによって、製剤の色差を低減することができた。このことによって、式(I)で示される化合物を含有する製剤を光照射下においても、安定に保存することができる。
図1
図2