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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】負極材用粉末及び負極材料製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20230328BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
H01M4/48
C01B33/113 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017192525
(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公開番号】P2019067644
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100123467
【弁理士】
【氏名又は名称】柳舘 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 悠介
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/002356(WO,A1)
【文献】特開2004-349057(JP,A)
【文献】特開2002-260651(JP,A)
【文献】特開2007-290919(JP,A)
【文献】幸琢寛ほか,熱処理したSiO粉末の特性と高出力・耐熱性LiFePO4/SiOリチウムイオン二次電池,Electrochemistry,2012年,80(6),p.401-404
【文献】LV, Pengpeng et al.,Journal of Power Sources,2015年,274,542-550
【文献】NGUYEN, Dan Thien et al.,ACS Applied Materials & Interfaces,2013年,5,11234-11239
【文献】HWA,Yoon et al.,Journal of Power Sources,2013年,222,129-134
【文献】LI, Mingqi et al.,Electrochimica Acta,2015年,164,163-170
【文献】JUNG, Chan-Ok et al.,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,13(2),2013年,1153-1158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
C01B 33/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成がSiO(0.5<x<1.5)で表される酸化珪素粉末であって、
CuKα線を用いるXRD測定を行った際に、回折角2θ=10~60°の範囲において、半値幅が2°以上のブロードな結晶ピークが10~40°にのみ一つだけ検出され、
そのブロードな結晶ピークの強度をP1とするとき、他の結晶ピークの強度P2がP2/P1<0.1を満足する負極材用粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の負極材用粉末において、1.5≦B/A≦100が満足される負極材用粉末。
ここで、Aは粒度分布を用い、粉末粒子が球体であると仮定して算出した負極材用粉末の比表面積で、下式により表され、BはBET法により1点法で測定した負極材用粉末の比表面積である。
A=Σ{ni ×(di/2)2}/〔ρ×Σ{ni ×(di/2) 3/3 }〕
ここで、di は負極材用粉末の粒径、ni は粒度分布において粒径di ~di+1 の範囲にある粒子数、ρはSiOの真密度(2.2g/cm3) である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の負極材用粉末において、当該粉末の平均粒径が、粒度分布におけるD50の値で表して、1μm≦D50≦50μmを満足する負極材用粉末。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の負極材用粉末を負極に負極活物質として含むリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
原料を加熱して発生させたSiOガスを冷却して回収する負極材用析出体の製造方法であって、SiOガスを冷却して回収する析出部の温度を-25~+80℃に維持する負極材料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン二次電池の負極形成に使用される酸化珪素系の負極材用粉末及びその粉末の製造に用いる負極材料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化珪素(SiOx)は電気容量が大きく、寿命特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材であることが知られている。この酸化珪素系負極材は、酸化珪素粉末、導電助剤及びバインダーを混合してスラリー化したものを、銅箔等からなる集電体上に塗工して薄膜状の負極とされる。
【0003】
ここにおける酸化珪素粉末は、例えば二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させた後、細かく破砕することにより得られる(特許文献1)。このような析出法で製造される酸化珪素粉末は、析出時の冷却温度が低いと非晶質化し、熱膨張係数が小さくなって、電池性能、特に寿命特性の向上に寄与することが知られている(特許文献2)。
【0004】
酸化珪素粉末の非晶質化とは別に、酸化珪素粉末にLiイオンを添加するLiドープが、電池性能の向上策として知られている。Liドープによると、充放電に寄与しない不可逆容量となるLi化合物が事前に生成され、初回充放電時に不可逆容量となるLi化合物が生成されるのが抑制されることにより、電池性能、特に初期効率の向上が図られる。
【0005】
また、Liドープとは別に、酸化珪素系負極材の粒子表面に導電性材料を被覆することも、電池性能の向上策として知られている。導電性材料の被覆により、表面抵抗が下がり、電池性能が向上する。導電性材料としては、グラファイトが代表的であり、例えば炭化水素ガスを用いた熱CVD反応により、粒子表面へ炭素を被覆することができることから、この処理は一般にCコートと呼ばれている。
【0006】
しかしながら、このような様々な電池性能の向上策にもかかわらず、依然として電池性能、特に負極材の寿命特性が市場要求に達せず、負極材の更なる寿命特性の向上が強く望まれている昨今である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4518278号公報
【文献】特許第5600354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電池性能、特に寿命特性の向上に有効な酸化珪素系の負極材粉末及びその粉末の製造に用いる負極材料製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者は酸化珪素系の負極材粉末の非晶質化に着目し、その非晶質化を進めるべく、析出時の冷却温度を段階的に下げてきた。その結果、冷却温度が900℃より下では、Siの結晶ピークが消失することにより、非晶質構造が得られることが判明している。しかし、更に冷却温度を下げても非晶質構造が変化しないことから、現状が究極の非晶質構造と考えてきた。
【0010】
すなわち、その負極材粉末に対してXRD測定を行ったとき、冷却温度が900℃より下だと、図3に示すように、回折角2θ=25°をピークとし半値幅が10°に達する非晶質に由来の第1のブロードな結晶ピークと、回折角2θ=52°をピークとし半値幅が10°に達する非晶質に由来の第2のブロードな結晶ピークとが検出され、この2ピークの傾向は冷却温度を100℃まで下げても実質的に変化がなく、電池性能への影響度にも大きな変化はなかったのである。
【0011】
このため、この2つのブロードな結晶ピークをもつ非晶質構造が、究極の組織と考えられてきたわけである。ちなみに、一酸化珪素ガスを発生させるための試料加熱温度は減圧下でも1000℃以上と高温である。
【0012】
このような状況下で、本発明者は一つの試みとして、一酸化珪素ガスを析出させるための冷却温度を100℃より更に低い80℃以下まで下げた。その結果、負極材粉末のXRD測定において、これまでとは全く異なる新しい非晶質構造が現れ、しかも、この新しい非晶質構造が電池性能、特に寿命特性を大きく向上させることを見出した。
【0013】
具体的に説明すると、一酸化珪素ガスを析出させるための冷却温度が80℃以下になると、図2に示すように、負極材粉末のXRD測定において、回折角2θ=52°をピークとするブロードな結晶ピークが消失し、回折角2θ=25°をピークとするブロードな結晶ピークのみとなり、この構造が寿命特性の向上に非常に効果的となるのである。
【0014】
本発明の酸化珪素系の負極材用粉末は、かかる知見を基礎として開発されたものであり、平均組成がSiO(0.5<x<1.5)で表される酸化珪素粉末であって、CuKα線を用いるXRD測定を行った際に、回折角2θ=10~60°の範囲において、半値幅が2°以上のブロードな結晶ピークが10~40°にのみ一つだけ検出され、そのブロードな結晶ピークの強度をP1とするとき、他の結晶ピークの強度P2がP2/P1<0.1を満足することを構成上の特徴点とする。
【0015】
また、本発明の負極材料製造方法は、原料を加熱して発生させたSiOガスを冷却して回収する負極材用析出体の製造方法であって、SiOガスを冷却して回収する析出部の温度を-25~+80℃に維持することを構成上の特徴点とする。
【0016】
10~40°に現れる半値幅が2°以上のブロードな結晶ピークは、非晶質構造に由来する。そのブロードな結晶ピークにおいては、回折角2θ=10°における回折強度と、回折角2θ=40°における回折強度とを直線で結んでその直線をベース強度としたとき、回折角2θ=20~30°の範囲で傾きが0となる位置の強度がピーク強度P1となる。
【0017】
その他の結晶ピークについては、回折角2θ=10~40°の範囲においては、何らかのピークが存在する場合、非晶質構造に由来するブロードなピークの強度をベース強度として、ピーク強度P2を算出する。回折角2θ=40~60°の範囲においては、回折角回折角2θ=40°における回折強度と、回折角2θ=60°における回折強度とを直線で結んでその直線をベース強度としたとき、最も強度が高い部分の強度がピーク強度P2となる。
【0018】
本発明の負極材用粉末においては、P2/P1<0.1が満足されることにより、他の結晶ピークがノイズレベルに留まり、本発明の負極材用粉末に特有の1ピークの非晶質構造が得られる。1ピークの非晶質構造は、他の結晶ピークが存在する非晶質構造と比して、均質化が一段と進んだものと考えられる。その結果、LiがSiOx粒子内に均一拡散しやすくなり、充放電時の膨張収縮による応力集中が緩和されることにより、粒子の割れや抵抗上昇が抑制されることから、寿命特性が向上するものと考えられる。従来の負極材用粉末においては、回折角2θ=40~60°の範囲にも、非晶質構造に由来のブロードなピークが存在し、均質化が十分でないために、寿命特性が劣ると想定される。
【0019】
負極材粉末の平均組成については、SiOx(0.5<x<1.5)であることが必要である。x≦0.5だと、充放電時の膨張収縮が大きくなり、寿命特性が悪化する。x≧1.5だと、不活性な酸化物が多くなり、電池特性が低下する。
【0020】
本発明の負極材用粉末においては、粉末粒子の非晶質構造及び平均組成の他に、粉末粒子の表面状態及び平均粒径が重要である。
【0021】
粉末粒子の形状については、下記の(1)式を満足することが望ましい。
1.5≦B/A≦100・・・(1)
ただし、Aは粒度分布を用い、粉末粒子が球体であると仮定して算出した負極材用粉末の比表面積であり、下記の(2)式により表される。
【0022】
A=Σ{ni ×(di/2)}/〔ρ×Σ{ni ×(di/2)/3 }〕・・・(2)
ここで、di は負極材用粉末の粒径、ni は粒度分布において粒径di ~di+1 の範囲にある粒子数、ρはSiOの真密度(2.2g/cm) である。
【0023】
また、BはBET法により1点法で測定した負極材用粉末の比表面積である。
【0024】
つまり、B/Aは、粉末が球形であると仮定した場合の理論比表面積Aと、実際の比表面積Bの差異を示す値であり、粒子の形状や表面状態を反映しており、B/Aが小さいほど粉末粒子が球形で表面が平坦であり、反対にB/Aが大きいほど凹凸が多く、多孔質状の表面であることを示し、これらにより粒度分布に依存しない表面状態評価を可能とする。このB/Aが100を超えると、粉末粒子の表面積が大きすぎるために、表面酸化による不活性なSiOの増加、充放電時における被膜形成量の増加などの悪影響が生じ、電池性能が低下する。B/Aが1.5より小さい場合、粒子が球状かつ平滑な表面性状を有していなければならず、通常の作製方法では製造が困難となる。特に好ましいB/Aは、1.5以上50以下である。
【0025】
負極材用粉末の平均粒径については、粒度分布におけるD50の値が、1μm≦D50≦50μmを満足することが望まれる。粒径が大きい場合、充放電による粒子への応力増大、割れを引き起こすと共に、電極作製においても問題が生じる。粒径が小さい場合は比表面積が大きくなり、電池性能が悪化する。
【0026】
また、本発明の負極材製造方法においては、SiOガスを冷却して回収する析出部が-25~+80℃の低温に保持されることにより、SiOガスが急冷されると共に急冷後の低温に維持され、均質化の進んだ非晶質構造のSiOxが析出生成される。この結果、その析出体を回収し、粉砕することにより、本発明の負極材用粉末の製造が可能となる。
【0027】
析出部の温度が80℃を超えている場合は、負極材粉末のXRD測定において回折角2θ=40~60°の範囲に非晶質由来のブロードな結晶ピークが発生し、従来の非晶質SiOxとなる。また、析出部の温度が900℃以上の場合は、XRD測定において回折角2θ=47.4付近にSi結晶に由来する、半値幅が2°を下回る尖った結晶ピークが発現し、非晶質と呼べない構造となる。析出部の温度が-25℃を下回る場合は、低温維持が容易でなく、量産設備としては不適となる。
【0028】
析出部は、ガス発生部の直上に、ガス発生部に対面して配置されるのが好ましい。SiOガスが高温状態で直接、析出部に到達することにより、組織が緻密化し、非晶質でありながら、比表面積及びB/Aの小さいSiOxが析出生成される。
【0029】
析出部に回収される析出体の厚みは1μm以上1mm以下とするのが好ましい。析出体の厚みが大きすぎる場合は、析出体自体が断熱材として機能し、SiOガス回収時に発生する昇華熱やガス発生部からの輻射熱によって析出体の表面温度が上昇する。その結果、析出体の非晶質構造が変化するおそれが生じる。析出体の厚みが薄すぎる場合は析出体の回収が難しく、かつ粉砕後の粒径が小さくなり、粒度調整が困難となる。
【0030】
析出原料にはSi単体とSi酸化物との混合物やSiOxなどを用いることができる。SiOガス発生反応は、減圧下で析出原料を加熱することにより進行する。この観点から反応温度は1000℃以上、特に1100~1600℃が望ましい。
【0031】
析出部から回収した析出体については、所定の粒度に粉砕、調整することで、負極材用粉末とすることができる。粉砕方法は特に限定されないが、金属不純物が混入しないように、粉末との接触部にはセラミック等の非金属材料を用いるのが望ましい。
【0032】
得られた負極材用粉末をリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用することにより、負極の寿命特性が向上し、イオン二次電池の電池特性が向上する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の負極材用粉末は、均質化が進んだ固有の非晶質構造を有することにより、電池性能の向上、特に寿命特性の向上に有効である。
【0034】
また、本発明の負極材料製造方法は、SiOガスを冷却して回収する析出部の温度を80℃以下に保持することにより、均質化が進んだ固有の非晶質構造を有する析出体の生成を可能にし、これを粉末化して負極活物質として用いることにより、電池性能の向上、特に寿命特性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の負極材用粉末の製造実験に用いた析出体生成装置の概略構成図である。
図2】本発明の負極材用粉末の一例についてその非晶質構造を示すXRDプロファイ図である。
図3】従来の負極材用粉末の典型的な非晶質構造を示すXRDプロファイ図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に本発明の実施形態を説明する。本発明の負極材粉末は、典型的には次のような方法により製造される。
【0037】
Si粉末とSiO粉末とを所定比率で混合した粉末原料を、図3に示す析出装置内に装填する。析出装置は、チャンバー1と、チャンバー1内の中心部に配置されたるつぼ2と、るつぼ2を周囲から包囲するヒータ3とを備えている。ヒータ3は、るつぼ2と共に断熱材4に覆われた状態でチャンバー1内に配置されており、るつぼ2の内部に装填された前記粉末原料5を所定温度以上に加熱する。チャンバー1内は、真空ポンプ10により所定の減圧雰囲気に保持される。
【0038】
チャンバー1内には又、るつぼ2の直上に位置して、水平板状の第1蒸着板6が配置されると共に、第1蒸着板6の更に上側に位置して第2蒸着板7が設置されている。第1蒸着板6は、下面をるつぼ2内に対向させており、背面側(上面側)より冷却機構8により所定温度に冷却され保持される。第1蒸着板6の背面側(上面側)に位置する第2蒸着板7は、チャンバー1の天井面に直接取付けられており、背面側(上面側)より冷却機構9により所定温度に冷却され保持される。冷却機構8,9は、銅板に冷媒流通用の銅管を取り付けた構造である。
【0039】
実施例1~4及び比較例1,2として、上記析出装置を使用して実際に得た析出体から、負極材用粉末を製造し、その組織を調査した。
【0040】
(実施例1)
Si粉末とSiO粉末とを1:1のモル比で混合して得た粉末原料を前記析出装置により1Paの減圧下にて1400℃に加熱することによりSiOガスを発生させた。ガス発生部であるるつぼ内の真上に設置され-25℃に冷却された第1蒸着板の下面にSiOガスを10μm析出させた。回収した析出体のSi量、及びO量をICP発光分析法、赤外線吸収法により分析して、析出体の平均組成がSiOx(x=1.15)であることを確認した。そのSiOx析出体をめのう乳鉢により粉砕し、リチウムイオン電池用負極向けの粉末とした。
【0041】
得られた負極用粉末に対して、レーザー回折式粒度分布測定により粒度測定を実施すると共に、BET比表面積測定装置により比表面積測定を実施した。また、粉末X線回折装置により、CuKα線を用い、回折角の間隔を0.2°としてXDR測定を実施した。そのXDRプロフィルを図2に示す。回折角2θ=25°をピークとする半値幅11°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークが検出された。その他の結晶ピークについては明確なものは存在せず、前記P2/P1の最大値は0.05であった。
【0042】
(実施例2)
Si粉末とSiO粉末とを1:1のモル比で混合して得た粉末原料を前記析出装置により1Paの減圧下にて1400℃に加熱することによりSiOガスを発生させた。ガス発生部であるるつぼ内の真上に設置され80℃に冷却された第1蒸着板の下面にSiOガスを10μm厚に析出させた。回収した析出体のSi量、及びO量をICP発光分析法、赤外線吸収法により分析して、析出体の平均組成がSiOx(x=1.11)であることを確認した。そのSiOx析出体をめのう乳鉢により粉砕し、リチウムイオン電池用負極向けの粉末とした。
【0043】
得られた負極用粉末に対して、レーザー回折式粒度分布測定により粒度測定を実施すると共に、BET比表面積測定装置により比表面積測定を実施した。また、粉末X線回折装置により、CuKα線を用い、回折角の間隔を0.2°としてXDR測定を実施した。XDR測定においては、回折角2θ=25°をピークとする半値幅11°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークが検出された。その他の結晶ピークについては明確なものは存在せず、前記P2/P1の最大値は0.08であった。
【0044】
(実施例3)
Si粉末とSiO粉末とを1:1のモル比で混合して得た粉末原料を前記析出装置により1Paの減圧下にて1400℃に加熱することによりSiOガスを発生させた。るつぼ内の真上に設置された第1蒸着板を冷却せず、その上の天井面に設置された第2蒸着板を-25℃に冷却し、その下面にSiOガスを10μm厚に析出させた。回収した析出体のSi量、及びO量をICP発光分析法、赤外線吸収法により分析して、析出体の平均組成がSiOx(x=1.21)であることを確認した。そのSiOx析出体をめのう乳鉢により粉砕し、リチウムイオン電池用負極向けの粉末とした。
【0045】
得られた負極用粉末に対して、レーザー回折式粒度分布測定により粒度測定を実施すると共に、BET比表面積測定装置により比表面積測定を実施した。また、粉末X線回折装置により、CuKα線を用い、回折角の間隔を0.2°としてXDR測定を実施した。XDR測定においては、回折角2θ=25°をピークとする半値幅11°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークが検出された。その他の結晶ピークについては明確なものは存在せず、前記P2/P1の最大値は0.04であった。
【0046】
(実施例4)
Si粉末とSiO粉末とを1:1のモル比で混合して得た粉末原料を前記析出装置により1Paの減圧下にて1400℃に加熱することによりSiOガスを発生させた。るつぼ内の真上に設置された第1蒸着板を冷却せず、その上の天井面に設置された第2蒸着板を80℃に冷却し、その下面にSiOガスを10μm厚に析出させた。回収した析出体のSi量、及びO量をICP発光分析法、赤外線吸収法により分析して、析出体の平均組成がSiOx(x=1.18)であることを確認した。そのSiOx析出体をめのう乳鉢により粉砕し、リチウムイオン電池用負極向けの粉末とした。
【0047】
得られた負極用粉末に対して、レーザー回折式粒度分布測定により粒度測定を実施すると共に、BET比表面積測定装置により比表面積測定を実施した。また、粉末X線回折装置により、CuKα線を用い、回折角の間隔を0.2°としてXDR測定を実施した。XDR測定においては、回折角2θ=25°をピークとする半値幅11°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークが検出された。その他の結晶ピークについては明確なものは存在せず、前記P2/P1の最大値は0.06であった。
【0048】
(比較例1)
Si粉末とSiO粉末とを1:1のモル比で混合して得た粉末原料を前記析出装置により1Paの減圧下にて1400℃に加熱することによりSiOガスを発生させた。るつぼ内の真上に設置された第1蒸着板の下面にSiOガスを2cm厚に析出させた。第1蒸着板の温度は400℃になっていた。回収した析出体のSi量、及びO量をICP発光分析法、赤外線吸収法により分析して、析出体の平均組成がSiOx(x=1.09)であることを確認した。そのSiOx析出体をめのう乳鉢により粉砕し、リチウムイオン電池用負極向けの粉末とした。
【0049】
得られた負極用粉末に対して、レーザー回折式粒度分布測定により粒度測定を実施すると共に、BET比表面積測定装置により比表面積測定を実施した。また、粉末X線回折装置により、CuKα線を用い、回折角の間隔を0.2°としてXDR測定を実施した。そのXDRプロフィルを図3に示す。回折角2θ=25°をピークとする半値幅12°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークの他に、回折角2θ=52°をピークとする半値幅10°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークが検出され、その他には、P2/P1>0.1となるピークは存在しなかった。結果、前記P2/P1の最大値は0.27であった。
【0050】
(比較例2)
Si粉末とSiO粉末とを1:1のモル比で混合して得た粉末原料を前記析出装置により1Paの減圧下にて1400℃に加熱することによりSiOガスを発生させた。るつぼ内の真上に設置され100℃に冷却された第1蒸着板の下面にSiOガスを2cm厚に析出させた。回収した析出体のSi量、及びO量をICP発光分析法、赤外線吸収法により分析して、析出体の平均組成がSiOx(x=1.12)であることを確認した。そのSiOx析出体をめのう乳鉢により粉砕し、リチウムイオン電池用負極向けの粉末とした。
【0051】
得られた負極用粉末に対して、レーザー回折式粒度分布測定により粒度測定を実施すると共に、BET比表面積測定装置により比表面積測定を実施した。また、粉末X線回折装置により、CuKα線を用い、回折角の間隔を0.2°としてXDR測定を実施した。XDR測定においては、回折角2θ=25°をピークとする半値幅12°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークの他に、回折角2θ=52°をピークとする半値幅10°の非晶質に由来するブロードな結晶ピークが検出され、その他には、P2/P1>0.1となるピークは存在しなかった。結果、前記P2/P1の最大値は0.20であった。
【0052】
(電池評価)
次に、実施例1~4及び比較例1,2で得られた負極材用の粉末試料に対して、以下の手順で電池評価を実施した。
【0053】
粉末試料、PIバインダー、及び導電助材(KB)を80:15:5の重量割合で混合し、NMPを溶媒として混練することにより、スラリーを作製した。作製したスラリーを銅箔上に塗工し、350℃で30分間真空処理を行うことで、負極を得た。対極にLi箔、電解液にECとDECの1:1混合液、電解質にLiPFの1mol/l 液、セパレータにポリエチレン製多孔質フィルムを用いて、コインセル電池を作製し、その電池性能を評価した。
【0054】
電池性能試験では、電池の両極間の電圧が0.005Vに達するまでは0.1Cの定電流にて充電を行い、電圧が0.005Vに達した後は、電流が0.01Cになるまで、定電位充電を行った。放電は、電池の両極間の電圧が1.5Vに達するまで0.1Cの定電流で行った。
【0055】
各粉末試料につき、電池性能として劣化特性を50回充放電後の容量維持率により測定した。各粉末試料の他の仕様(平均粒径D50、ブロードピークの回折角、P2/P1、比表面積B、及びB/A)と共に表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1~4については、粉末試料のXDR測定において半値幅が10°を超える非晶質に由来のブロードな結晶ピークが、回折角2θが10~40°の範囲内にのみただ一つ検出され、そのピーク強度P1に対する他の結晶ピークの強度P2の比率が0.1より小さい固有の非晶質構造が認められたことにより、50回充放電後の容量維持率が70%以上を示し、75%を超えている。特に実施例1及び2においては、実施例3及び4に比して、粉末粒子の比表面積Bが小さく、B/Aが50以下であるため、50回充放電後の容量維持率は80%を超えている。
【0058】
これに対し、比較例1及び2については、粉末試料のXDR測定において半値幅が10°に達する非晶質に由来のブロードな結晶ピークが、回折角2θが10~40°の範囲と50~60°の範囲に2つ検出され、その結果として、ピーク強度P1に対する他の結晶ピークの強度P2の比率が0.1を超えた。その結果として、50回充放電後の容量維持率は70%に達していない。
【0059】
なお、実施例1~4及び比較例1,2においては、負極用粉末にLiドープ及びCコートを実施していないが、本発明の負極用粉末に適宜これらを実施することにより、更に電池性能を向上させることが可能なのは言うまでもない。
図1
図2
図3