(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】医療装置
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20230328BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20230328BHJP
A61B 1/015 20060101ALI20230328BHJP
A61M 16/10 20060101ALI20230328BHJP
G05D 23/00 20060101ALI20230328BHJP
G05D 23/19 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
G05B13/04
A61B1/00 550
A61B1/015 514
A61M16/10 C
G05D23/00 B
G05D23/19 J
(21)【出願番号】P 2017557247
(86)(22)【出願日】2016-01-27
(86)【国際出願番号】 DE2016000027
(87)【国際公開番号】W WO2016119773
(87)【国際公開日】2016-08-04
【審査請求日】2018-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】102015000845.5
(32)【優先日】2015-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511072910
【氏名又は名称】ダブリュー.オー.エム.ワールド オブ メディシン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】メンツェル,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】シェイシック,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ケルナー,ヨハネス
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】大山 健
【審判官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533560(JP,A)
【文献】特開2004-159687(JP,A)
【文献】特表2004-511309(JP,A)
【文献】特開平11-178787(JP,A)
【文献】特開平6-98893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/04
A61B 1/00
A61B 1/015
A61M 16/10
G05D 23/00
G05D 23/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔鏡検査のための医療装置
であって、
ガス供給装置、ガス供給ホース、及び前記ガス供給ホース内の電熱線を備え、
ガス温度を測定及び制御するための装置を備え、
前記ガス供給装置により供給ラインを利用してガスを患者に供給し、
前記ガス供給ホース内で前記ガスを加熱し、
加熱は
前記電熱線により実行され、
前記電熱線の加熱力は電気的に制御され、
前記電熱線の加熱力の制御には、数学的推定システムにより推定される前記ガス供給ホース出口の実際温度の推定値が用いられるものであり、
前記数学的推定システムは状態空間を数学的に説明するものであって、
前記電熱線の電力、前記ガスの体積流量、及び、前記電熱線の温度が入力変数であり、
前記ガス供給ホース出口の実際温度の推定値を出力値とする数学的推定システムであり、
前記数学的推定システムはルーエンバーガー観測器として構成されるものであり、
前記ガスの供給ラインにはいかなる温度センサーも設置し利用することがないことを特徴とする
医療装置。
【請求項2】
前記ガスはCO
2であることを特徴とする請求項1に記載の
医療装置。
【請求項3】
ガス温度を測定及び制御するために設けられた少なくとも1つのマイクロプロセッサ、少なくとも1つのメモリ、及び少なくとも1つのソフトウェアを有することを特徴とする請求項
1又は2に記載の医療装置。
【請求項4】
前記医療装置は腹腔鏡検査用の吹送器であることを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載
の医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療装置、例えば腹腔鏡検査又は呼吸の分野においてガス温度を制御する方法、及び上記方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスは多様な医療処置において身体の内部に導入する。その1例は腹腔鏡検査であり、従来から治療介入中にガス(例えばCO2)を腹部に供給している。過度に低温及び高温のガスは患者の疼痛症状を招くことから、これらの処置では身体の内部に入るガスが体温に近くなるように供給するガスは通常加熱する。従って、ガス温度の測定及び制御は特に重要である。通常、このような処置に使用するガスラインには、対応する温度制御を可能にするように意図した温度センサが設けられる。このような別個のセンサの使用は、とりわけ、追加コストが生じることから不利である。付随するホースは使い捨て物品であるため、費用の追加を避けることが望ましい。温度を測定する別の可能性としては、熱線温度の測定が挙げられる。ホース出口のガス温度と熱線の温度との間には関連性はあるが、それは、要素を挙げるとすれば、例えばガスの体積流量、ガスの種類、加熱力、幾何学的形状及びホースの材料、ならびに外気温度などのパラメータの数に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような背景から、ガス温度を測定及び制御する方法を提供し、上記の欠点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的の解決策として、請求項1に記載の方法を提案する。有利な実施形態は、請求項1を参照する従属請求項の対象物である。更に、請求項5に記載の方法を実施するための装置を提案する。その有利な実施形態は、請求項5を参照する従属請求項の対象物である。
【0005】
本発明に従った方法は実質的に、加熱ホースの患者側端部におけるガス温度を測定及び制御するため、数学的モデルを使用することに基づいている。このため、熱線、電子測定システム、供給ライン、温度センサ及びガス流から構成される完全なシステムは一組の微分方程式によって説明され、いわゆる状態‐空間モデルに組み込まれる。モデルのパラメータが十分正確に決定され、その時に入力変数が同一である条件では、ガスホースの出口(すなわちトロカールの入口)のガス温度を推定することが可能になる。実際の熱線温度と推定熱線温度とを比較することにより、偏差(いわゆる観測器誤差)を検出することが可能になる。偏差は、例えば異なる初期状態(例えば、ガス供給の開始時のガス温度に関する演繹的な情報がないこと)により生じ得る。観測器誤差が性能基準で評価され、次にその結果がモデルにフィードバックされれば(状態‐変数補正)、誤差は減少し、結果として、ホース出口におけるガス温度の正確な推定値が得られる。提案した方法の利点は、とりわけ、ホース出口でのガス温度の測定に温度センサを追加する必要がないことである。その結果、ホース出口に温度センサがなくても、温度センサを備える従来のホースによる測定精度に匹敵する推定精度が達成される。従って、センサを追加しなくても患者の安全が確保される。
【0006】
好ましくは、本発明に従った方法は、推定システムが状態観測器として、特にルーエンバーガー観測器として実装されるように構成している。ルーエンバーガー観測器などのこのような状態観測器は、例えば制御工学の教科書で説明されている。
【0007】
上記の方法を実施するこのような装置の特定の実施形態は、腹腔鏡検査用の吹送器である。それは、必要な出口圧力が供給され、適切な体積流量を達成することが可能な(例えば耐圧瓶からの)ガス供給源を備える。体積流量は例えば0~50L/分の範囲で制御可能である。ガスは供給ホースを介して身体の内部に導入する。ホースの出口を所望の温度(体温程度、すなわち約37℃)にするため、ホースの内部に加熱装置、例えば熱線を設ける。身体の内部に導入したガスは、別個のガス排出装置を介して、吸引器を介して、又は単に身体の内部からの漏出を介して排出してもよい。本発明に従った上記方法により、(抵抗測定によって)熱線からの測定データを使用してホース出口における実際の温度を推定し、熱線の加熱力の変化により制御する。別の温度センサを使用する必要はない。抵抗が温度依存的である熱線を使用する場合、熱線温度の測定は抵抗測定により行うことが可能であり、それにより追加の部品は不要となる。
【0008】
本発明の別の実施形態は呼吸器を備える。呼吸器により酸素又は酸素含有ガス混合物を患者の肺に導入する。呼吸には、酸素含有ガス混合物が湿潤していることが必ず必要である。結露を防止すると共に、患者にとって許容可能なガス温度を得るため、呼吸ホース内で電熱線により抵抗加熱を行う。上述の腹腔鏡検査用装置と同様に、対応する抵抗測定を利用することにより熱線は温度センサとして機能できる。ホース出口における実際の温度は、本発明に従った方法により推定する。推定値により加熱力を電子的に制御する。結果として、呼吸条件が最も多様になる場合でさえ、確実にホース入口のガス温度を正確に測定及び制御する装置が得られる。
【0009】
本発明の実施形態を図面に示し、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明に従った推定プロセスを概略的に示す。
【
図3】時間経過に伴う熱線温度の挙動を説明するための手順を例示的に示す。
【
図5】実測データと当該方法により得た推定データとの比較を示す。
【
図6】妨害要素としてモデル化された異なる周囲条件での方法を示す。
【
図7a】妨害要素としてモデル化された異なる周囲条件での方法を示す。
【
図7b】妨害要素としてモデル化された異なる周囲条件での方法を示す。
【
図8】本発明に従った熱線制御と、熱線の抵抗により熱線の電力を調整するだけの従来の事前制御との比較を示す。
【
図9】ソフトウエアモジュールのシーケンス図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は熱線を内蔵したガス供給ホースをモデル表現で示している。
【0012】
ガス体積流量は矢印の方向にホースを流れる。しかしこのモデルでは、熱線の長さに対応して、ホースの部分的な長さのみを加熱している。次いで気流は、加熱していない残りの長さ及び患者への移送用のルアーアダプタに続く。ここでは、抵抗測定により熱線の温度を測定する。出口におけるホースからの気流の温度は0~50L/分の体積流量で32~42℃の範囲で測定する。
【0013】
この方法では、体積流量、熱線の温度、電力及びそれらの経時変化を連続的に測定及び処理する。
図2(Isermann R(2008年).Mechatronische Systeme.Grundlagen.Springer‐Verlag:ベルリン)は本発明に従った推定プロセスを概略的に示している。熱線は、例えばパルス幅変調電圧(PWM)により制御する。電力(
図2中のU)及び配線抵抗(
図2中のY)を測定する。測定データは、システムの動的挙動を説明する数学的モデル(
図2中の「固定モデル」)に供する。様々な気流に対して異なるモデルパラメータを提供し、モデルが測定体積流量に適合できるようにした。モデルにより推定した温度値を熱線温度の実測値と比較する(
図2中のy‐yM)。推定値と測定値(
図2中のe)との偏差は、状態変数の推定値が改善されるようにモデルにフィードバックされる(
図2中の状態推定方法)。推定値が実際値と一致すると、推定状態変数(
図2中のx)が得られ、更に利用できる。これらの状態変数の1つはガス流の出口温度であり、これは結果として正確に推定できる。
【0014】
本発明に従った方法には多くの利点がある。観測された温度/状態変数によりプロセスの妨害が判断される(妨害観測器)。観測した変数は制御変数として使用可能であることから、異なる基準値が調整可能となる。全体的に制御性能は結果として、(気流温度を測定するための)温度センサを使用する場合に可能な制御性能に匹敵するものとなる。これにより患者のリスクが大幅に排除され、気流温度センサを省くことによりかなり経済的な方法で制御プロセスを構成することが可能となる。本発明に従った方法の特定の利点は、欠陥のある気流温度センサによる誤差が排除されることである。この方法ではセンサと動作部とが同一であるため、欠陥がある場合には測定要素と駆動装置の両方が故障する。温度測定による同時検証をせずに加熱力を導入することは不可能である。
【0015】
状態変数(排出温度)の推定には、プロセスの数学的モデルが必要である。この数学的モデルは、
図4に示す状態‐空間モデルと呼ばれる標準化された形式を有する。この状態‐空間モデルを決定するには、プロセスの物理的置換モデルを構築し、それをこの標準化された形式に移行する必要がある。使用する行列には数値を与えなければならない(識別)。
図3は時間経過に伴う熱線温度の挙動を説明するための手順を例示的に示しめしており、流体と熱線との間で交換された熱量(式1)、熱線内に蓄積された熱量(式2)、供給された熱量(式3)を微分方程式の形式で表している。次に式4はエネルギー収支(熱収支)を示す。当該方程式に適切な演算を組み合わせることにより、方程式5が得られる。式6は、式6と広義に同一であり、その係数にモデル方程式のパラメータが含まれる応用的状態-空間モデルを比較として示す。ガス及びホース温度をモデル化するには、対応する手順に従う(
図1参照)。
【0016】
図4は得られた状態-空間モデルを示し、これはガス流量に依存する。
【0017】
図5は実測データと当該方法により得た推定データとの比較を示す。結果として、応用モデルが正確であり、推定データの精度が所要精度になることが示されている。
【0018】
図6及び
図7は妨害要素としてモデル化された異なる周囲条件での方法を示している。実際の応用は、例えば異なる周囲温度(
図4中のξ)又は異なるガス入口温度(
図4中のθ
E)などの一連の妨害を受ける。妨害要素は状態‐空間モデルにおいて提供する。流速の変化があっても、測定温度と推定温度との高い一致が見られる。
【0019】
図8は、本発明に従った熱線制御と、熱線の抵抗により熱線の電力を調整するだけの従来の事前制御との比較を示す。結果として、本発明に従った方法により非常に迅速に制御が可能になるということが分かる。
【0020】
上記方法の実際的な実施は、医療装置の一部であるマイクロコントローラ上で好適に達成される。通常、入力部及び出力部ならびにメモリが備えられている。数学的処理はソフトウエアモジュールの形式で行う。
図9はソフトウエアモジュールのシーケンス図を示す。
【0021】
当該ソフトウェアは、自身のメモリチップ、例えばEPROMに内蔵することが可能である。
【0022】
当業者であれば、出願時に公知の図面及び技術文献を含む本明細書に基づいて、更なる発明性を必要とすることなく、本発明の更なる実施形態を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0023】
1.1 体積流量
1.2 θE ガス入口温度
1.3 観測された熱線制御体積
1.4 ξ 周囲温度
1.5 観測された流体制御体積
1.6 η ホース温度
1.7 σ(RDr)熱線温度
1.8 θ ガス出口温度
1.9 非加熱長
1.10 加熱長
1.11 観測されたホース制御体積
1.12 熱交換量
1.13 UDr加熱電圧
9.1 観測器の微分方程式の数値解法
9.2 推定状態変数
9.3 状態変数の分離
9.4 推定ガス出口温度
9.5 ガス出口温度の基準値
9.6 コントローラ
9.7 熱線電圧
9.8 推定熱線温度
9.9 測定熱線温度
9.10 計算観測器誤差
9.11 観測器誤差
9.12 測定体積流量
9.13 測定電力
9.14 計算補正ベクトル
9.15 数値計算:i=i+1