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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】筒状編地の編成方法、及び筒状編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20230328BHJP
   D04B 1/24 20060101ALI20230328BHJP
   D04B 1/22 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
D04B1/24
D04B1/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019029868
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020133064
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 一良
(72)【発明者】
【氏名】山田 善之
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110849(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020829(WO,A1)
【文献】特開2017-166084(JP,A)
【文献】特開2012-180616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に対向する一側針床と他側針床とを備える横編機を用いて、第一ベース部と第二ベース部とが筒状に繋がった筒状ベース部の終端部を周回するように、外層と内層とが筒状に繋がった帯状部を形成するにあたり、
前記第一ベース部が前記一側針床に係止され、前記第二ベース部が前記他側針床に係止された前記筒状ベース部を編成する工程Aと、
前記筒状ベース部の編成範囲の外側において、前記一側針床に係止される外層編出し部と、前記他側針床に係止される内層編出し部と、を編成する工程Bと、
前記外層編出し部のウエール方向に続く前記外層と、前記内層編出し部のウエール方向に続く前記内層とを筒状に編成しつつ、前記帯状部と前記第一ベース部とを繋げた後、前記帯状部と前記第二ベース部とを繋げる工程Cと、を行う筒状編地の編成方法において、
前記工程Bでは、前記外層編出し部の各編目に渡り糸で繋がる編目からなる外層接続部と、前記内層編出し部の各編目に渡り糸で繋がる編目からなる内層接続部とで構成される接続部を前記他側針床に形成し、
前記工程Cの後に、回し込みによって前記帯状部と前記接続部とを互いに反対方向に回転させて、前記内層のウエール方向の終端と前記内層接続部とを、前記帯状部の厚み方向に近接された状態から離反された状態にし、前記外層のウエール方向の終端と前記外層接続部とを、前記厚み方向に離反された状態から近接された状態にする工程D
前記帯状部における前記筒状ベース部との接続側から順次、前記外層のウエール方向の終端と前記外層接続部とを伏せ目処理によって接続した後、前記接続側の反対側から順次、前記内層のウエール方向の終端と前記内層接続部とを伏せ目処理によって接続する工程Eと、を行う筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程Bにおいて、前記外層編出し部の編目と前記外層接続部の編目とを交互に編成してから、前記内層編出し部の編目と前記内層接続部の編目とを交互に編成する請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記外層編出し部と前記内層編出し部の各編目を二重編目とする請求項1又は請求項2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
第一ベース部と第二ベース部とが筒状に繋がった筒状ベース部と、
外層と内層とが筒状に繋がることで構成され、前記筒状ベース部の終端部に無縫製で接続される帯状部と、を備え、
前記帯状部のウエール方向が、前記筒状ベース部の周方向に沿っている筒状編地であって、
前記外層の始端である外層編出し部の各編目に繋がる編目からなる外層接続部と、
前記内層の始端である内層編出し部の各編目に繋がる編目からなる内層接続部と、
前記帯状部の編幅方向における前記筒状ベース部と接続される端部を前記帯状部の下端とし、前記下端の反対側にある端部を前記帯状部の上端としたとき、前記下端から前記上端に向って前記外層のウエール方向の終端と前記外層接続部とを伏せ目処理によって接続した後、前記上端から前記下端に向って前記内層のウエール方向の終端と前記内層接続部とを伏せ目処理によって接続してなる伏せ目処理部と、を備える筒状編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状ベース部と、そのウエール方向の終端部に繋がる帯状部とを備える筒状編地、及び筒状編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、筒状ベース部と、その筒状ベース部の筒状の終端部を周回するように設けられた帯状部とを備える筒状編地を編成する方法が開示されている。帯状部は、筒状編地の外側に配置される外層と、筒状編地の内側に配置される内層とが筒状に繋がることで構成されている。
【0003】
特許文献1,2では、まず、第一ベース部と第二ベース部とが筒状に繋がった筒状ベース部を編成する。次に、筒状ベース部の編成範囲の外側に編出し部を形成する。編出し部は、帯状部の外層の基点となる外層編出し部と、帯状部の内層の基点となる内層編出し部とを備える。この編出し部を基点とし、外層と内層とで構成される帯状部を編成しながら、筒状ベース部の筒状の終端部を周回するように筒状ベース部と帯状部とを繋げる。筒状ベース部と帯状部とを繋げる際、特許文献1,2では、(1)筒状の帯状部を筒状ベース部の側に移動させて、帯状部の編目を筒状ベース部の編目に重ね合わせることと、(2)その重ね目を含む帯状部のウエール方向に続けて、帯状部の新たな編成コースを形成することと、を繰り返している。その結果、筒状ベース部の終端部に繋がる帯状部を備える筒状編地を編成できる。その筒状編地の帯状部のウエール方向は、筒状ベース部の周方向に沿った方向となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-074240号公報
【文献】特開2015-110849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2には、帯状部の始端と終端とを編成によって繋ぐ方法が開示されていない。帯状部の始端と終端とを縫製で繋ぐ場合、縫製作業が煩雑であるため、筒状編地の生産性が低下する。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、帯状部の始端と終端とを無縫製で接続できる筒状編地の編成方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記筒状編地の編成方法で得られた筒状編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明の筒状編地の編成方法は、
前後に対向する一側針床と他側針床とを備える横編機を用いて、第一ベース部と第二ベース部とが筒状に繋がった筒状ベース部の終端部を周回するように、外層と内層とが筒状に繋がった帯状部を形成するにあたり、
前記第一ベース部が前記一側針床に係止され、前記第二ベース部が前記他側針床に係止された前記筒状ベース部を編成する工程Aと、
前記筒状ベース部の編成範囲の外側において、前記一側針床に係止される外層編出し部と、前記他側針床に係止される内層編出し部と、を編成する工程Bと、
前記外層編出し部のウエール方向に続く前記外層と、前記内層編出し部のウエール方向に続く前記内層とを筒状に編成しつつ、前記帯状部と前記第一ベース部とを繋げた後、前記帯状部と前記第二ベース部とを繋げる工程Cと、を行う筒状編地の編成方法において、
前記工程Bでは、前記外層編出し部の各編目に渡り糸で繋がる編目からなる外層接続部と、前記内層編出し部の各編目に渡り糸で繋がる編目からなる内層接続部とで構成される接続部を前記他側針床に形成し、
前記工程Cの後に、回し込みによって前記帯状部と前記接続部とを互いに反対方向に回転させて、前記内層のウエール方向の終端と前記内層接続部とを、前記帯状部の厚み方向に近接された状態から離反された状態にし、前記外層のウエール方向の終端と前記外層接続部とを、前記厚み方向に離反された状態から近接された状態にする工程D
前記帯状部における前記筒状ベース部との接続側から順次、前記外層のウエール方向の終端と前記外層接続部とを伏せ目処理によって接続した後、前記接続側の反対側から順次、前記内層のウエール方向の終端と前記内層接続部とを伏せ目処理によって接続する工程Eと、を行う。
【0008】
<2>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記工程Bにおいて、前記外層編出し部の編目と前記外層接続部の編目とを交互に編成してから、前記内層編出し部の編目と前記内層接続部の編目とを交互に編成する形態を挙げることができる。
【0009】
<3>本発明の筒状編地の編成方法の一形態として、
前記外層編出し部と前記内層編出し部の各編目を二重編目とする形態を挙げることができる。
【0010】
<4>本発明の筒状編地
第一ベース部と第二ベース部とが筒状に繋がった筒状ベース部と、
外層と内層とが筒状に繋がることで構成され、前記筒状ベース部の終端部に接続される帯状部と、を備え、
前記帯状部のウエール方向が、前記筒状ベース部の周方向に沿っている筒状編地であって、
前記外層の始端である外層編出し部の各編目に繋がる編目からなる外層接続部と、
前記内層の始端である内層編出し部の各編目に繋がる編目からなる内層接続部と、
前記帯状部の編幅方向における前記筒状ベース部と接続される端部を前記帯状部の下端とし、前記下端の反対側にある端部を前記帯状部の上端としたとき、前記下端から前記上端に向って前記外層のウエール方向の終端と前記外層接続部とを伏せ目処理によって接続した後、前記上端から前記下端に向って前記内層のウエール方向の終端と前記内層接続部とを伏せ目処理によって接続してなる伏せ目処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筒状編地の編成方法によれば、筒状になった帯状部を無縫製で筒状ベース部の端部に形成でき、かつ帯状部の始端と終端とを無縫製で繋げられる。また、本発明の筒状編地の編成方法によれば、筒状編地の編成の最後にある端糸が筒状編地の内側に隠れるので、筒状編地の見栄えが良い。
【0012】
上記<2>の筒状編地の編成方法によれば、帯状部の始端が閉じられた状態にならないので、帯状部の始端と終端とが筒状に連通した状態にできる。
【0013】
上記<3>の筒状編地の編成方法によれば、編出し部と接続部とを編成する際、編出し部の編目と接続部の編目を繋ぐ渡り糸の数が多くなるので、帯状部の始端と終端とを繋げたときに、編出し部と接続部との間に孔が空き難い。
【0014】
本発明の筒状編地は、帯状部の始端と終端とが無縫製で繋がっている。また、本発明の筒状編地では、帯状部の下端から上端に向って外層と外層接続部とが接続された後、上端から下端に向って内層と内層接続部とが接続されている。つまり、筒状編地の編成が筒状編地の内側で終わっているため、帯状部の上端に段差ができ難く、かつ編成の最後にある端糸が筒状編地の内側に配置される。従って、本発明の筒状編地は見栄えが良い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1に示すセーター(筒状編地)の概略構成図である。
図2】実施形態1に示す筒状編地の編成方法を模式的に示すイメージ図である。
図3】実施形態1に示すセーターの衿(帯状部)の部分拡大図である。
図4】実施形態1に示す筒状編地の編成方法における編出し部の編成例を示す編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
本実施形態1では、本発明の筒状編地の編成方法を用いて、身頃と袖とを有するセーターを編成する例を説明する。
【0017】
図1に示すセーター100(筒状編地)は、身頃5と左袖6Lと右袖6Rとを有する。身頃5は、便宜上、前身頃5Fと後身頃5Bとに分けることができ、その身頃5の衿ぐり7には、編成によって衿8が接続されている。身頃5は、第一ベース部11(後身頃5B)と、第二ベース部12(前身頃5F)とが筒状に繋がった筒状ベース部1である。一方、衿8は、筒状に形成された帯状部2である。
【0018】
身頃5のウエール方向(太線矢印を参照)は、裾から衿ぐり7に向う方向である。そのため、衿ぐり7は、身頃5(筒状ベース部1)のウエール方向の終端部10で構成される。一方、衿8のウエール方向は、身頃5の周方向、即ち衿ぐり7の周方向(太線矢印を参照)に沿っている。衿8の始端と終端とは伏せ目処理部9で接続される。伏せ目処理部9は編成によって形成されている。つまり、本例のセーター100は縫製することなく製造されている。
【0019】
図1のセーター100は、本発明の筒状編地の編成方法によって編成される。本発明の筒状編地の編成方法を図2の編成イメージ図に基づいて説明する。図中の「T+数字」は編成工程の番号を示す。本例に使用する横編機は4枚ベッド横編機であるが、2枚ベッド横編機であっても良い。図中のFDは下部前針床(一側針床)を、FUは上部前針床(一側針床)を、BDは下部後針床(他側針床)を、BUは上部後針床(他側針床)を示す。BD,BUは、FD,FUに対して左右にラッキング可能で、前後の針床間で編目の目移しが可能である。図2では、身頃5を筒状ベース部1、後身頃5Bを第一ベース部11、前身頃5Fを第二ベース部12、衿8を帯状部2として説明を行う。図中の横棒は、筒状ベース部1及び帯状部2、並びに後述する編出し部3及び接続部4の前後の境界を示す。帯状部2は、セーター100(図1)の外側に配置される外層21と、セーター100の内側に配置される内層22と、で構成される。
【0020】
本例のセーター100を編成する場合、図2のT1の右側に示されるように、第一ベース部11がBDに係止され、第二ベース部12がFDに係止された筒状ベース部1を編成する(工程A)。本例の筒状ベース部1は、1×1の針抜き編成によって編成されている。『1×1の針抜き編成』とは、編幅方向に隣接する編目の間に空針を1つだけ配置した状態で編成することを意味する。本例とは異なり、筒状ベース部1は、総針編成によって編成されていても良い。『総針編成』とは、編幅方向に隣接する編目の間に空針が無い状態で編成することを意味する。
【0021】
次に、T1の左側に示されるように、筒状ベース部1の編成範囲の外側において、BDに係止される外層編出し部31と、FUに係止される内層編出し部32と、を備える編出し部3を編成する(工程B)。工程Bでは更に、編出し部3に加えて、外層編出し部31の各編目に渡り糸で繋がる編目からなる外層接続部41と、内層編出し部32の各編目に渡り糸で繋がる編目からなる内層接続部42とで構成される接続部4をFDに編成する。つまり、接続部4は、編出し部3とは別の針床に編成される。この接続部4は、後述するように、帯状部2の終端に接続され、帯状部2の始端と終端とを繋ぐためのものである。編出し部3と接続部4とは1×1の針抜き編成によって編成される。FDにおいて、外層接続部41の編目と内層接続部42の編目とは編幅方向に交互に並んでいる。この工程Bの詳しい編成手順の一例については、図4を参照して後述する。
【0022】
T2では、外層編出し部31のウエール方向に続く外層21と、内層編出し部32のウエール方向に続く内層22とを筒状に編成しつつ、帯状部2と第一ベース部11とを繋げる(工程Cの一部)。この工程は、特許文献1,2に記載される公知の工程である。具体的には、帯状部2を第一ベース部11に向って移動させ、帯状部2の編目と、第一ベース部11の紙面左側の端部編目とを重ね合わせる。その重ね目を含む帯状部2のウエール方向に続けて、新たな帯状部2の編成コースを形成する。この帯状部2の移動と帯状部2の編成とを繰り返す。T2の間、接続部4はFDに係止されたまま全く移動されることはない。本例とは異なり、第一ベース部11を帯状部2に向って移動させ、帯状部2の編目と第一ベース部11の端部編目とを重ね合わせることもできる。
【0023】
ここで、第一ベース部11に接続される編目は、内層22における第一ベース部11側の端部編目、もしくは端部編目から3目以内の編目であることが好ましい。第一ベース部11と内層22とを接続することで、帯状部2と筒状ベース部1の繋ぎ目がセーター100(図1)の外側から見え難くなる。
【0024】
T2では更に、帯状部2と第一ベース部11とを繋ぎ終えた後、帯状部2と第二ベース部12とを繋げる(工程Cの残部)。この工程も、特許文献1,2に記載される公知の工程である。具体的には、帯状部2を第二ベース部12に向って移動させ、帯状部2の編目と第二ベース部12の紙面右側の端部編目とを重ね合わせる。その重ね目を含む帯状部2のウエール方向に続けて、新たな帯状部2の編成コースを形成する。この帯状部2の移動と帯状部2の編成とを繰り返す。
【0025】
帯状部2と筒状ベース部1との接続が完了した状態がT3に示されている。筒状ベース部1との接続が終わった帯状部2は、接続部4に対向する位置に戻っている。白抜き矢印は、帯状部2における筒状ベース部1との接続側である。T3に示されるように、帯状部2の厚み方向(紙面上下方向)に、内層22のウエール方向の終端22eと内層接続部42とが近接した状態になっている。本例ではセーター100の編成をセーター100の内側で終えるために、次のT4で説明する回し込みが必要になる。その準備として、帯状部2の内層22をBDに目移ししておく。帯状部2の外層21と内層22は1×1の針抜き編成によって形成されている。そこでT3では、上向き矢印によって示されるように、BDにおける外層21の空針に内層22の編目を目移しする。
【0026】
T4では、太線矢印で示されるように、回し込みによって帯状部2と接続部4とを互いに反対方向に回転させる(工程D)。その結果、内層22のウエール方向の終端22eと内層接続部42とが、帯状部2の厚み方向に近接された状態から離反された状態になり、外層21のウエール方向の終端21eと外層接続部41とが、上記厚み方向に離反された状態から近接された状態になる。より具体的には、帯状部2を時計回りに、接続部4を反時計回りに回転させている。回し込みは、公知の手順で行うことができる。例えば、帯状部2の右側の編目から順次、接続部4の右側に移動させた後、接続部4の左側の編目から順次、帯状部2の編目に対向する位置に移動させる手順が挙げられる。工程Dを行うことによって、帯状部2を構成する編目と接続部4を構成する編目の左右の並びが入れ替わり、帯状部2における筒状ベース部1との接続側は、白抜き矢印で示されるように紙面左側になる。
【0027】
T5では、帯状部2における筒状ベース部1との接続側から順次、外層21のウエール方向の終端21eと外層接続部41とを伏せ目処理によって接続する(工程Eの一部)。伏せ目処理は、公知の手順で行うことができる。例えば、外層21における隣接する二つの編目を重ねて、その重ね目に続く編目(伏せ目)を編成することと、外層接続部41における隣接する二つの編目を重ねて、その重ね目に続く編目(伏せ目)を編成することと、を交互に繰り返す手順が挙げられる。終端21eと外層接続部41との伏せ目処理が終了したら、上記接続側の反対側(紙面右側)から順次、内層22のウエール方向の終端22eと内層接続部42とを伏せ目処理によって接続する(工程Eの残部)。
【0028】
以上説明した編成工程に従って編成されたセーター(筒状編地)100の帯状部2近傍の拡大図を図3に示す。この筒状編地100は、帯状部2の始端と終端とを伏せ目によって接続してなる伏せ目処理部9を備える。伏せ目処理部9は、図2のT5によって形成される。図3では、伏せ目処理部9を分かり易くするためにジグザグ線で示している。また、図3では、帯状部2の編幅方向(両端矢印で示す方向)における筒状ベース部1と接続される端部を帯状部2の下端2dとし、下端2dの反対側の端部を前記帯状部2の上端2uとして説明を行う。
【0029】
伏せ目処理部9は、円弧矢印で示されるように、下端2dから上端2uに向って外層21のウエール方向の終端21eと外層接続部41とを伏せ目処理によって接続した後、上端2uから下端2dに向って内層22のウエール方向の終端22eと内層接続部42とを伏せ目処理によって接続している。つまり、本例の筒状編地100では、筒状編地100の編成が帯状部2の内側でかつ下端2d側で終わっている。そのため、本例の構成によれば、従来の編成において衿8の編成後の糸始末箇所となる帯状部2の上端2uに凸状の段差ができず、かつ編成の最後にある端糸9eが筒状編地100の内側に配置され、端糸9eが外部から見えない。このような筒状編地100は、優れた見栄えを備える。
【0030】
また、伏せ目処理部9において、帯状部2の始端と終端とが筒状に連通している。そのため、帯状部2に孔を形成しておけば、その孔を介して帯状部2の内部の全周にわたって紐状の部材などを挿通させられる。
【0031】
ここで、図2のT4の回し込みを行わずに、外層21と外層接続部41との接合を、内層22と内層接続部42との接合よりも先に行うと、外層21と内層22とが閉じ合わされてしまう。一方、回し込みを行わずに、内層22と内層接続部42との接合を、外層21と外層接続部41との接合よりも先に行えば、外層21と内層22とが閉じ合わされることは無い。しかし、筒状編地100の編成が筒状編地100の外側で終わることになるので、端糸9eが筒状編地100の外部に露出してしまう。
【0032】
次に、編出し部3と接続部4の具体的な編成手順の一例を図4に基づいて説明する。図中の「S+数字」は編成工程の番号を、黒点はFD,FU,BD,BUの編針を示している。また、Vマークは掛け目(編目の一種)を、逆三角マークはヤーンフィーダーを、直線矢印は目移しを示している。また、各編成工程において行われた編成動作は太線によって示されている。
【0033】
S1には、筒状ベース部1の第一ベース部11がBDの編針に、第二ベース部12がFDの編針に係止された状態が示されている。筒状ベース部1は、1×1の針抜き編成によって編成されている。S1では、ヤーンフィーダーを紙面右方向に移動させ、筒状ベース部1の編成範囲の外側におけるBDの編針に外層編出し部31の掛け目を編成する。続いて、ヤーンフィーダーを左方向に移動させ、FDの編針のうち、外層編出し部31の編目に対向する編針に外層接続部41の掛け目を編成する。外層接続部41の掛け目は、外層編出し部31の掛け目に対向する位置でなくても良い。しかし、両掛け目が対向する位置にあれば、渡り糸が短くなるので、伏せ目処理部9の仕上がりが綺麗になる。
【0034】
S2では、ヤーンフィーダーを右方向に移動させ、外層編出し部31の掛け目に重なる掛け目を編成した後、ヤーンフィーダーを左方向に移動させる。つまり、外層編出し部31の編目が二重掛け目(二重編目)となる。その結果、外層編出し部31と外層接続部41の各編目を繋ぐ渡り糸の数が多くなるので、図3に示されるように、帯状部2の始端と終端とを繋げたときに、外層編出し部31と外層接続部41との間に孔が空き難い。ここで、S2は必須の工程ではなく、省略できる。高伸縮性の編糸を用いる場合、S2を行わなくても編出し部3と接続部4との間に孔が空き難くできる。
【0035】
以降、S1とS2とを交互に繰り返すことで、S3に示されるように、BDに係止される外層編出し部31と、FDに係止される外層接続部41とが形成される。外層編出し部31の各編目と外層接続部41の各編目とは、S1及びS2に示されるように、繋がった状態になる。S2を行わない場合、S1を繰り返せば良い。
【0036】
S4では、ヤーンフィーダーを右方向に移動させ、BDの編針に内層編出し部32の掛け目を編成する。内層編出し部32の掛け目は、外層編出し部31の隣接する二つの二重掛け目の間に編成される。S4では更に、ヤーンフィーダーを左方向に移動させ、FDの編針に内層接続部42の掛け目を編成する。内層接続部42の掛け目は、外層接続部41の隣接する二つの掛け目の間に編成される。
【0037】
S5では、ヤーンフィーダーを右方向に移動させ、FUの編針に内層編出し部32の掛け目を編成する。この掛け目は、S4においてBDに編成した掛け目に対向する位置に編成される。S5は必須の工程ではなく、省略できる。このSの掛け目も、BDの掛け目に対向する位置でなくても良い。
【0038】
以降、S4とS5とを交互に繰り返すことで、S6に示されるように、BD及びFUに係止される内層編出し部32と、FDに係止される内層接続部42とが形成される。続くS7では、BDに係止される内層編出し部32の掛け目を、FUに係止される内層編出し部32の掛け目に重ねる。その結果、FUの編針に、二重の掛け目からなる内層編出し部32が形成される。内層編出し部32を二重の掛け目によって形成することで、図3に示されるように、帯状部2の始端と終端とを繋げたときに、内層編出し部32と内層接続部42との間に孔が空き難い。
【0039】
ここで、S7における掛け目の目移しの際、FDとBDとの間を渡る渡り糸が絡むことが無い。外層編出し部31の編目と外層接続部41の編目とを交互に編成してから、内層編出し部32の編目と内層接続部42の編目とを交互に編成しているからである。内層編出し部32と内層接続部42を先に編成すると、S7における掛け目の目移しの際に、渡り糸が絡んで、外層編出し部31と内層編出し部32とが閉じられてしまう。
【0040】
S7以降は、図2のT2に示されるように、帯状部2のウエール方向に続く新たな帯状部2を編成しながら、その帯状部2を筒状ベース部1に接続すれば良い。
【0041】
<その他の実施形態>
本発明の筒状編地の編成方法は、セーター以外の筒状編地の編成にも利用できる。例えば、本発明の筒状編地の編成方法によってニットスカートを編成することが挙げられる。ニットスカートの履き口を帯状部とすると、履き口の全周にわたってゴムを挿入できる。
【符号の説明】
【0042】
100 セーター(筒状編地)
1 筒状ベース部、10 終端部
11 第一ベース部、12 第二ベース部
2 帯状部
2d 下端、2u 上端
21 外層、22 内層、21e,22e 終端
3 編出し部
31 外層編出し部、32 内層編出し部
4 接続部
41 外層接続部、42 内層接続部
5 身頃(筒状ベース部)
5F 前身頃、5B 後身頃
6L 左袖、6R 右袖
7 衿ぐり
8 衿(帯状部)
9 伏せ目処理部、9e 端糸
図1
図2
図3
図4