(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】コーティング組成物。
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20230328BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230328BHJP
C09G 1/00 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/63
C09G1/00 A
(21)【出願番号】P 2019035348
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391021226
【氏名又は名称】株式会社カーメイト
(74)【代理人】
【識別番号】100107939
【氏名又は名称】大島 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】真子 義邦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 希望
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-167525(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104559589(CN,A)
【文献】特開2011-189273(JP,A)
【文献】特開2000-265108(JP,A)
【文献】特開2004-018780(JP,A)
【文献】特開2002-180090(JP,A)
【文献】特開2016-163847(JP,A)
【文献】特開平04-089877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカおよび多価アルコールを含むコーティング組成物であって、ツヤ出し用途に使用されることを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカを、コーティング組成物中、シリカの固形分濃度で0.2質量%以上、25質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールを、コーティング組成物中、1質量%以上、40質量%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記多価アルコールが、グリセリン、プロピレングリコール、および1,3-ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記コーティング組成物の主媒体が水であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物に関し、特に、砂や埃等のドライソイルの付着防止、およびツヤ出し効果を有するコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のダッシュボード、自動車や鉄道車両等の座席シートや、床材、壁材、天井材等の内装材などは、土砂、粉じん、黄砂等のドライソイルが付着しやすい。ところが、壁材や座席シートなどにドライソイルが付着してしまうと除去することが難しく、例えば、座席シートにドライソイル等が付着すると、座席シート用表皮材を座席からはずして洗濯しなければならないが、作業が煩わしいし、頻繁に洗濯できるものでもない。そのため、一度付着した汚れを落ちやすくする加工や、フッ素系加工材で繊維表面等を被覆して汚れを付きにくくする加工が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、繊維布帛の表面に、親水性樹脂組成物を固着した後、フッ素系化合物とシリカ微粒子とを含む組成物を繊維布帛の表面に付着させることでドライソイルリリース性に優れた座席シート用表皮材を製造する方法が開示されており、特許文献2には、座席シート用表皮材等に、親水性フッ素系化合物と撥水性フッ素化合物とシリカ微粒子とを含む組成物を付着させて、汚れを簡単に落とすことができる性能を付与することが開示されている。
【0004】
近年においては、自動車のダッシュボードなど硬表面の樹脂材に対し、ツヤ出し、かつ、汚れの付着を防ぐ手法として、界面活性剤や帯電防止剤等を配合している。しかしながら、一般的に配合されているツヤの主成分であるシリコーンのタックにより汚れが付着しやすい。また、繊維で公知である、シリカ微粒子を含む組成物を硬表面の樹脂材に付着させても粒子の白さが目立ち、ツヤ出しの効果が十分でないため、硬表面に対してツヤとドライソイルリリース性の両方を満たすようなコーティング剤は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5553556号公報
【文献】特開2013-53378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、ドライソイルなどの汚れを防止するか容易に除去することができると共に、良好なツヤ出し効果を発揮することができるコーティング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコーティング組成物は、コロイダルシリカおよび多価アルコールを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、前記コロイダルシリカを、コーティング組成物中、シリカの固形分濃度で0.2質量%以上、25質量%以下含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明においては、前記多価アルコールを、コーティング組成物中、1質量%以上、40質量%以下含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明においては、前記多価アルコールが、グリセリン、プロピレングリコールおよび1,3-ブタンジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。
【0011】
また、本発明においては、前記コーティング組成物の主媒体が水であることが好ましい。
【0012】
本発明の艶出コーティング組成物は、上記いずれかのコーティング組成物がツヤ出し用途に使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、汚れ付着を防ぎ、汚れを容易に除去することができるという防汚性能を有すると共に、良好なツヤ出し効果も発揮することができるコーティング組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のコーティング組成物は、コロイダルシリカおよび多価アルコールを含有する。ただし、シリカの固形分濃度は、コーティング組成物中、0.2質量%~25質量%であることが好ましく、下限値は、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上であり、また、上限値は、より好ましくは23質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下であり、最も好ましくは5質量%以下である。
【0015】
本発明に用いられるコロイダルシリカは、一次粒子径が5~100nmであることが好ましく、更に好ましくは7~75nmであり、特に好ましくは10~30nmである。コロイダルシリカの粒子径が大きくなり過ぎると、被着体(対象物)の表面が白くなり、ツヤ出しの効果が得られにくくなる。
【0016】
また、多価アルコールは、コーティング組成物中、1質量%~40質量%であることが好ましく、更に好ましくは3質量%~20質量%であり、特に好ましくは5質量%~10質量%である。
【0017】
本発明においては、コロイダルシリカはコロイダルシリカ分散液として提供されてもよく、コロイダルシリカ分散液は、シリカおよび分散媒を含み、分散媒は、水またはアルコールであることができる。
【0018】
本発明に用いられるコロイダルシリカ分散液としては、例えば、京浜化成株式会社製の商品名「クリアゾールSR100C」、コタニ化学工業株式会社製の商品名「クインセッターPOL」、扶桑化学工業株式会社製のPLシリーズなどが挙げられる。
【0019】
ここで、コロイダルシリカとは、二酸化ケイ素(SiO2)又はその水和物(SiO2・xH2O)のコロイド粒子で、一定の構造をもたないものをいう。コロイダルシリカは、常温常圧下では、分散媒中で安定に分散されており、ゾル状である。コロイダルシリカは、酸性、中性、アルカリ性のいずれで安定化されていてもよいが、例えば、pH5~11で安定化されていることが好ましい。
【0020】
コロイダルシリカは、略球状、楕円球状などの形状を有するが、略球状であることが好ましい。略球状であれば、ドライソイル等の汚れと点接触し易くなり、シリカ粒子と汚れとの接触面積が小さくなり、防汚性が向上する。
【0021】
コロイダルシリカを得る方法としては、例えば、ケイ酸ソーダをイオン交換し、活性ケイ酸を調製後、これを加熱下において、NaOHでpH調製した種粒子含有水溶液中に添加し、粒子成長させる水ガラス法、ケイ酸アルキル(テトラアルコキシシラン)を塩基性触媒の存在下で加水分解すると同時に縮合・粒子成長を行いながらシリカ粒子を製造するアルコキシド法や、特許第5892882号公報に開示されているように、アルカリ触媒及び水を含む母液を調製し、ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を母液に添加してコロイダルシリカを製造する方法、アルカリ触媒、水および種粒子を含む母液を調製し、ケイ酸アルキルを加水分解して得られた加水分解液を母液に添加してコロイダルシリカを製造する方法、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
コロイダルシリカとしては、粒子の表面を処理していないコロイダルシリカでもよいし、粒子の表面を処理したコロイダルシリカでもよい。粒子の表面を処理したコロイダルシリカとしては、例えば、シリカ微粒子の表面のシラノール基と反応する官能基を有する有機化合物、例えばシランカップリング剤等を用いて、シリカ微粒子の表面を処理して得られるオルガノシリケートのコロイダルシリカ等が挙げられる。オルガノシリコートのコロイダルシリカには、変性オルガノシリケートや変性していないオルガノシリケートがある。変性していないオルガノシリケートとしては、例えば、ジメチルシリカ等が挙げられる。
【0023】
コロイダルシリカには、その表面が親水性のものと疎水性のものとがあるが、本発明においては、表面が親水性のコロイダルシリカを用いることが好ましい。コロイダルシリカは、その表面が親水性の場合、水などの水系溶媒への分散性が優れることから、被着体表面に均一に行き渡らせることができ、ドライソイル等のリリース性に優れるという効果がある。
【0024】
コロイダルシリカ分散液は、公知の方法に従い、分散媒を用いて、コロイダルシリカを分散させることにより調整される。本発明においては、必要に応じて、コロイダルシリカを安定させるための安定化剤、界面活性剤等を加えてもよく、さらに、防腐剤、酸化防止剤等を加えても良い。
【0025】
本発明のコーティング組成物の形成に用いられる多価アルコールには、プロピレングリコール(PG)、グリセリン、1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコールが挙げられ、特に、プロピレングリコール、グリセリンが好ましく用いられる。また、二価のエチレングリコールは使用可能だが、人体への影響を考慮するとあまり好ましくない。
【0026】
多価アルコールの使用量は、コーティング組成物中、1質量%~40質量%であることが好ましい。多価アルコールの使用量が多すぎると、コーティング組成物を被着体に適用した後、乾燥し難くなる。また、多価アルコールを使用しないと、ツヤ出しにムラが生じ、良好なツヤ出しを実現できなくなる。本発明においては、コーティング組成物の主媒体は水であることが好ましい。主媒体がアルコールであると、コーティング組成物が適用される対象物の表面を変色させたり、クラックを生じさせたり、塗装ふくれを生じさせるなどの悪影響を及ぼすことがあるが、ベースが水であるコーティング組成物はそのような悪影響を与えることはないからである。
【0027】
コーティング組成物は、コロイダルシリカと多価アルコール、またはコロイダルシリカと水と多価アルコールを混合し、必要に応じて他の添加剤等を混合し、常温で撹拌することによって得られる。
【0028】
本発明のコーティング組成物は、硬表面の樹脂構造部材に適用できる。例えば、自動車等のダッシュボード、床材、壁材、天井材等の内壁材、家屋内の壁材、天井材等の内壁材、家具、家電、などに適用することができる。
【0029】
本発明のコーティング組成物は、上記対象物の表面に例えば塗布等することによって適用することができる。塗布の方法としては、任意の方法を使用することができ、例えば、エアゾール、ハンドスプレー等によるスプレー法、布、紙、スポンジ、はけ等を使用する方法等が挙げられる。また、これら任意の塗布方法で効果が十分でない場合は、重ねて塗布することで効果が発揮される。
また、本発明のコーティング組成物を施工した対象物表面は汚れが付着しにくく、かつ、対象物表面にドライソイル等の汚れが付着した場合には、手で払う、風等で払う、布等で拭く、などの操作で容易に汚れを除去することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0031】
(実施例1)
表1に示すように、コロイダルシリカ分散液として商品名「クインセッターPOL」(コタニ化学社製)(固形分濃度5%、粒子径20nm、分散媒は水)を10質量%と、多価アルコールとしてグリセリンを5質量%と、水を85質量%とを、常温で混合し撹拌してコーティング組成物を作製した。ただし、コーティング組成物中のシリカの固形分濃度は0.5質量%であった。得られたコーティング組成物を、4等分したキムワイプ(0.12g)に0.3g含浸させ、試験用のテストピース(PP黒樹脂板、85mm×50mm)に塗り広げて施工した。施工面へのコーティング組成物の塗布量は、約0.03gであった。次いで、コーティング組成物を塗布したテストピースを50℃の恒温槽に入れ、1時間静置して溶媒を蒸発させて乾燥させた。乾燥後の対象物について下記の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0032】
評価方法:
(1)施工膜の評価
乾燥後の対象物の施工膜を目視観察して、ムラおよびツヤについて下記評価基準に基づき評価を行った。
ムラの評価基準は、1~5の間の数値(1:悪い、5:良い)で評価し、合格点は3点以上である。
ツヤの評価基準は、A、B、Cの3段階評価(A:良、C:劣)で行い、合格点はAである。
【0033】
(2)明度の測定
得られた施工膜について、(株)佐藤商事製の色差計を用い明度(L*値)の測定を行った。ただし、明度の測定は、施工膜面の測定箇所をずらして3か所でL*値を測定し、その3点の測定値を平均した数値を、L*値として表に記載した。合格点は、未施工面のL*値と比較して、未施工面の値よりも低いL*値が出ている場合であり、この場合に、ツヤ出し剤として、効果があると判断した。なお、未施工面のL*値は、19.17であった。また、未施工面のL*値との差を求め、その数値を表に記載した。
【0034】
(3)ホコリの除去性の評価
まず、試験に使用する「ホコリ」を作製する。すなわち、JIS S3031:2009(石油燃焼機器の試験方法通則)の45項(耐ほこり性試験)に準じ、各種電化製品・光学関連のほこり侵入試験に使用するほこり発生器によって得たほこりを使用した。具体的には、毛100%、綿100%、及びアクリル65%・毛35%の3種類の繊維を同時に細かく切断したものである。
次いで、ほこり試験を行う。すなわち、試験サンプルの施工面の全面を得られたホコリで覆う。
ホコリで覆った施工面に、下記条件でドライヤーの風をあててホコリの除去性について、目視で評価を行った。評価基準はA、B、Cの3段階評価(A:良、C:劣)で行い、合格点はAである。
【0035】
ドライヤー:Panasonic製
品番:EH5101P
製造年:17年製
風設定:cold(弱冷風)
距離:30cm(テストピースに対して垂直)
風量:21~24m/s
秒数:3秒
【0036】
(実施例2~16)
実施例1において、コーティング組成物の配合を表1及び表2に示すように、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、コーティング組成物を作製した。得られたコーティング組成物について、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
ただし、実施例2~16において使用した材料は以下に示すものを用いた。
【0037】
(比較例1~5)
実施例1において、コーティング組成物の配合を表3に示すように、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、コーティング組成物を作製した。
得られたコーティング組成物について、実施例1と同様に評価を行った。その結果を表3に示す。
ただし、比較例1~5において使用した材料は以下に示すものを用いた。
【0038】
コロイダルシリカ分散液:
・商品名「クインセッターPOL」(コタニ化学工業株式会社製) 粒子径20nm、固形分濃度5.0質量%、主媒体 水
・商品名「クリアゾールSR」(京浜化成株式会社製) 粒子径30nm、固形分濃度5.0質量%、主媒体 水
・商品名「PL-3」(扶桑化学工業株式会社製) 粒子径35nm、固形分濃度20.0質量%、主媒体 水
・商品名「PL-7」(扶桑化学工業株式会社製) 粒子径75nm、固形分濃度23.0質量%、主媒体 水
・商品名「PL-20」(扶桑化学工業株式会社製) 粒子径220nm、固形分濃度20.0質量%、主媒体 水
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
表1~表3から明らかなように、実施例1~16の本発明のコーティング組成物は、施工表面にムラがなく均一であり、良好なツヤが得られており、ホコリが付着しにくく、ドライヤーの風によりホコリを容易に除去することができることが分かった。しかも、実施例1~16の施工面は表面の状態が良好であり、クラック、変色等が発生することもないことが分かった。
【0043】
一方、多価アルコールを配合していない比較例1~5のコーティング組成物は、施工面のツヤおよびムラの評価の一方または両方を満たしておらず、比較例2および5では、未施工面より、明度が上昇している。すなわち、黒樹脂板が白くなっているため、ツヤ出し剤としては不合格なものであることが分かった。