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7252026関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット
<図1>
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図1
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図2
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図3
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図4
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図5
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図6
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図7
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図8
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図9
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図10
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図11
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図12
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図13
  • -関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニット
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20230328BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61H1/02 R
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019057479
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020156627
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安齊 秀伸
(72)【発明者】
【氏名】長妻 明美
(72)【発明者】
【氏名】三井 和幸
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-142958(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0235830(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に回動自在に結合された第1回動部材及び第2回動部材と、
前記第1回動部材及び前記第2回動部材に接続され前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を一方向にのみ許容するワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との間の接続状態を断続する断続部とを備え、
前記ワンウェイクラッチは、インナー及びアウターを有して両者間を係脱可能な係脱部材を備え且つ前記第2回動部材に連動して軸周りに回転する筒状の接続部と前記第1回動部材に連動する固定軸部との間に備えられ、
前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との間の接続状態について前記断続部により前記接続部の前記第2回動部材に対する連動を切断することで前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を双方向に許容する、
ことを特徴とする関節機構。
【請求項2】
請求項1記載の関節機構であって、
前記ワンウェイクラッチに設けられ前記第2回動部材を接続するための接続部と、
前記第2回動部材に設けられ前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との切断時に前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動に応じて前記接続部に対して変位可能な変位部とを備え、
前記断続部は、前記接続部と前記変位部との間を接続して変位不能にすることで、前記第2回動部材を前記ワンウェイクラッチに接続する、
ことを特徴とする関節機構。
【請求項3】
請求項2記載の関節機構であって、
前記接続部及び前記変位部は、回動軸方向で重ねて配置されると共に回動軸周りに相対回転可能であり、前記回動軸方向で連通する連通穴を備え、
前記断続部は、前記連通穴内に軸方向に移動可能に配置されたピンを備え、前記ピンの前記軸方向への移動によって前記断続を行わせる、
ことを特徴とする関節機構。
【請求項4】
請求項2記載の関節機構であって、
前記接続部及び前記変位部は、回動軸に交差する交差方向で離間して配置されると共に回動軸周りに相対回転可能であり、
前記断続部は、前記変位部に対して係合する第1係合部を有する本体部と、前記本体部に前記回動軸周りに回転自在に支持され前記接続部に対して係合する第2係合部を有する回転部と、前記回転部の回転を制動及び制動解除することで前記断続を行わせる制動部とを備えた、
ことを特徴とする関節機構。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の関節機構であって、
前記断続部は、前記ワンウェイクラッチに着脱可能に取り付けられる、
ことを特徴とする関節機構。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の関節機構を用いた膝関節補助装置であって、
前記関節機構の前記第1回動部材及び前記第2回動部材の一方に設けられ被補助者の大腿に装着するための大腿装着部と、
前記関節機構の前記第1回動部材及び前記第2回動部材の他方に設けられ前記被補助者の下腿に装着するための下腿装着部とを備え、
前記関節機構は、前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動のロックにより前記大腿装着部及び前記下腿装着部間の回動を伸展方向にのみ許容し前記ロックの解除により前記大腿装着部及び前記下腿装着部間の回動を前記伸展方向及び屈曲方向の双方向へ許容する、
ことを特徴とする膝関節補助装置。
【請求項7】
請求項6記載の膝関節補助装置であって、
前記被補助者の大腿の前後位置を検出するセンサーを備え、
前記関節機構は、前記回動のロック及び前記ロックの解除を電気的に切り替え可能であり、
前記センサーでの検出に基づき、前記被補助者の大腿が前記被補助者の体の重心よりも前に位置するときに前記回動のロックを行い、前記被補助者の大腿が前記被補助者の体の重心よりも後ろに位置するときに前記回動のロックを解除する、
ことを特徴とする関節機構。
【請求項8】
相互に回動自在に結合された第1回動部材及び第2回動部材と、
前記第1回動部材及び前記第2回動部材に接続され前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動をロックして一方向にのみ許容するワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチは、インナー及びアウターを有して両者間を係脱可能な係脱部材を備え且つ前記第2回動部材に連動して軸周りに回転する筒状の接続部と前記第1回動部材に連動する固定軸部との間に備えられ、
前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との間の接続状態について前記断続部により前記接続部の前記第2回動部材に対する連動を切断することで前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を双方向に許容し、
前記筒状の接続部は、前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との間の接続状態を断続する断続部を取り付けるための取付部を備えた、
ことを特徴とする関節部材。
【請求項9】
第1回動部材及び第2回動部材に着脱自在に取り付けられて前記第1回動部材及び第2回動部材間の回動をロックして一方向にのみ許容するためのクラッチユニットであって、
前記第1回動部材に回動方向に係合して取り付けられる第1取付部材及び前記第2回動部材に回動方向に係合して取り付けられる第2取付部材と、
前記第1取付部材又は前記第2取付部材を前記第1回動部材又は前記第2回動部材に着脱自在に固定する固定部材と、
前記第1取付部材及び前記第2取付部材の一方に支持され前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を一方向にのみ許容するためのワンウェイクラッチと、
前記第1取付部材及び前記第2取付部材の他方に設けられ前記ワンウェイクラッチの外周に相対回転自在に支持されると共に前記固定部材に取り付けられる相対回転部と、
前記筒状の接続部に備えられ前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との接続状態を断続する断続部を取り付けるための取付部と、
を備え、
前記ワンウェイクラッチは、インナー及びアウターを有して両者間を係脱可能な係脱部材を備え且つ前記第2取付部材又は前記第1回動部材に連動して軸周りに回転する筒状の接続部と前記第1回動部材又は前記第2取付部材に連動する固定軸部との間に備えられた、
ことを特徴とするクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック及びロックの解除が可能な関節機構、膝関節補助装置、関節部材、並びにクラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
被補助者の歩行補助用又はリハビリテーション用の器具等として、例えば膝関節補助装置である歩行動作補助装置が利用されている。歩行動作補助装置としては、特許文献1のように、電動モータ等のアクチュエータを備えたものが提案されている。
【0003】
この歩行動作補助装置は、被補助者の大腿に装着される大腿側装具と下腿に装着される下腿側装具とを関節機構により回動自在に結合し、電動モータ等のアクチュエータにより関節機構にトルクを与えるようになっている。
【0004】
これにより、被補助者が歩行するときには、例えば、下肢の踵が床面に着いてから離れるまでの間、大腿側装具及び下腿側装具間が屈曲しないように関節機構にトルクを与えてロックし、被補助者の膝折れを防止できる。また、歩行に応じて踵が離れた後は、逆向きのトルクを関節機構に与え、ロックを解除すると共に下肢を前方に振って次に踵を床面に着くまでの動作を補助することができる。
【0005】
このように、特許文献1の歩行動作補助装置では、被補助者の歩行動作を補助して円滑に行わせることを可能とする。
【0006】
しかし、被補助者の歩容を自然なものにするには、被補助者の歩容に合わせて大腿及び下腿(関節機構の)が伸びきったときや伸びきる途中でロックされる必要がある。このため、特許文献1の歩行動作補助装置では、各種のセンサーを備えており、装置の複雑化や重量増を招くという問題があった。
【0007】
このような問題は、電動モータ等のアクチュエータを使用して関節機構が伸びきったときや伸びきる途中でロックされる必要がある足首、肘、肩等といった他の関節の補助装置やロボットの関節においても生じていた。また、関節によっては、曲げきったときや曲げきる途中でロックされる必要があり、そのような場合にも同様の問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-050881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、関節機構が伸びきった状態又は伸びきる途中もしくは曲げきった状態又は曲げきる途中でロックするために装置の煩雑化や重量増を招いていた点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、相互に回動自在に結合された第1回動部材及び第2回動部材と、前記第1回動部材及び前記第2回動部材に接続され前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を一方向にのみ許容するワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との間の接続状態を断続する断続部とを備え、前記ワンウェイクラッチは、インナー及びアウターを有して両者間を係脱可能な係脱部材を備え且つ前記第2回動部材に連動して軸周りに回転する筒状の接続部と前記第1回動部材に連動する固定軸部との間に備えられ、前記ワンウェイクラッチと前記第2回動部材との間の接続状態について前記断続部により前記接続部の前記第2回動部材に対する連動を切断することで前記第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を双方向に許容することを特徴とする関節機構を最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、断続部によりワンウェイクラッチと第2回動部材との間を接続し、第1回動部材と第2回動部材との間の回動を伸展方向又は屈曲方向にのみ許容するようにロックすることができる。
【0012】
この結果、第1回動部材と第2回動部材との間が伸びる又は曲がる過程においてロックすれば、そのまま第1回動部材と第2回動部材との間を伸展方向又は屈曲方向に動作させると共に伸びきった状態又は伸びきる途中で若しくは曲げきった状態又は曲げきる途中でロックできる。
【0013】
このため、複雑な制御が不要であり、装置の煩雑化や重量増を抑制しながら簡単な構造で関節機構が伸びきった状態又は伸びきる途中で若しくは曲げきった状態又は曲げきる途中でのロックを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】関節機構を適用した膝関節補助措置としての長下肢装具を示す斜視図である。(実施例1)
図2図1の長下肢装具に用いられる関節機構を示す斜視図である。(実施例1)
図3図2の関節機構の要部を拡大して示す側面図である。(実施例1)
図4図2の関節機構の要部を拡大して示す底面図である。(実施例1)
図5図2の関節機構に用いられる関節部材を示す斜視図である。(実施例1)(実施例1)
図6図5の関節部材を示す分解斜視図である。(実施例1)
図7図5の関節部材の要部を拡大して示す平面図である。(実施例1)
図8図5の関節部材のVIII-VIII線に係る斜視断面図である。(実施例1)
図9図5の関節部材のVIII-VIII線に係る断面図である。(実施例1)
図10図2の関節機構に用いられる断続部を底面側から見た斜視図である。(実施例1)。
図11図10の断続部を示すブロック図である。(実施例1)
図12】関節部材の動きとロックとの関係を示す概略図である。(実施例1)
図13】関節機構を示す断面図である。(実施例2)
図14】断続部を示すブロック図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0015】
装置の煩雑化や重量増を抑制しながら関節機構が伸びきった状態又は伸びきる途中で若しくは曲げきった状態又は曲げきる途中でのロックを可能とするという目的を、相互に回動自在に結合された第1回動部材及び第2回動部材間にワンウェイクラッチを接続し、ワンウェイクラッチと第2回動部材と間を断続部で断続する関節機構により実現した。
【0016】
すなわち、関節機構は、相互に回動自在に結合された第1回動部材及び第2回動部材と、第1回動部材及び第2回動部材に接続され第1回動部材及び第2回動部材間の回動をロックして一方向にのみ許容するワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチと第2回動部材との間の接続状態を断続する断続部とを備え、ワンウェイクラッチと第2回動部材との間を断続部により切断することで回動のロックを解除して第1回動部材及び前記第2回動部材間の回動を双方向に許容する。
【0017】
関節機構は、ワンウェイクラッチに設けられ第2回動部材を接続するための接続部と、第2回動部材に設けられワンウェイクラッチと第2回動部材との切断時に第1回動部材及び第2回動部材間の回動に応じて接続部に対して変位可能な変位部とを備え、断続部が、接続部と変位部との間を接続して変位不能にすることで、第2回動部材をワンウェイクラッチに接続する構成としてもよい。
【0018】
接続部及び変位部は、回動軸方向で重ねて配置されると共に回動軸周りに相対回転可能であり、回動軸方向で連通する連通穴を備え、断続部は、連通穴内に軸方向に移動可能に配置されたピンを備え、ピンの軸方向への移動によって断続を行わせる構成としてもよい。
【0019】
接続部及び変位部は、回動軸に交差する交差方向で離間して配置されると共に回動軸周りに相対回転可能であり、断続部は、変位部に対して係合する第1係合部を有する本体部と、本体部に回動軸周りに回転自在に支持され接続部に対して係合する第2係合部を有する回転部と、回転部の回転を制動及び制動解除することで断続を行わせる制動部とを備えた構成としてもよい。
【0020】
断続部は、ワンウェイクラッチに着脱可能に取り付けられてもよい。
【0021】
かかる構成の関節機構を用いた膝関節補助装置は、関節機構の第1回動部材及び第2回動部材の一方に設けられ被補助者の大腿に装着するための大腿装着部と、関節機構の第1回動部材及び第2回動部材の他方に設けられ被補助者の下腿に装着するための下腿装着部とを備え、関節機構が、第1回動部材及び第2回動部材間の回動のロックにより大腿装着部及び下腿装着部間の回動を伸展方向にのみ許容しロックの解除により大腿装着部及び下腿装着部間の回動を伸展方向及び屈曲方向の双方向へ許容する構成としてもよい。
【0022】
膝関節補助装置は、被補助者の大腿の前後位置を検出するセンサーを備え、関節機構が、回動のロック及びロックの解除を電気的に切り替え可能であり、センサーでの検出に基づき、被補助者の大腿が被補助者の体の重心よりも前に位置するときに回動のロックを行い、被補助者の大腿が被補助者の体の重心よりも後ろに位置するときに回動のロックを解除する構成としてもよい。
【0023】
関節機構を構成する関節部材は、相互に回動自在に結合された第1回動部材及び第2回動部材と、第1回動部材及び第2回動部材に接続され第1回動部材及び第2回動部材間の回動をロックして一方向にのみ許容するワンウェイクラッチと、ワンウェイクラッチと第2回動部材との間の接続状態を断続する断続部を取り付けるための取付部とを備えた構成としてもよい。
【0024】
関節機構に用いられるクラッチユニットは、第1回動部材及び第2回動部材に回動方向に係合する第1取付部材及び第2取付部材と、第1取付部材又は第2取付部材を第1回動部材又は第2回動部材に着脱自在に固定する固定部材と、第1取付部材及び第2取付部材の一方に支持され第1回動部材及び第2回動部材間の回動をロックして一方向にのみ許容するためのワンウェイクラッチと、第1取付部材及び第2取付部材の他方に設けられワンウェイクラッチの外周に相対回転自在に支持される相対回転部と、ワンウェイクラッチと第2回動部材との間の接続状態を断続する断続部を取り付けるための取付部とを備えた構成としてもよい。
【実施例1】
【0025】
[長下肢装具]
図1は、本発明の実施例1に係る関節機構を適用した膝関節補助措置としての長下肢装具を示す斜視図である。
【0026】
図1のように、長下肢装具1は、歩行補助用又はリハビリテーション用の器具であり、被補助者の下肢に装着して用いられるものである。なお、図1の長下肢装具1は、右足用である。左足用の長下肢装具は、長下肢装具1と対称に構成される。
【0027】
以下において、上下、左右、前後は、それぞれ被補助者に長下肢装具1が装着されたときの上下、左右、前後を意味する。また、軸方向とは、後述する関節機構3の回動軸25の軸心に沿った回動軸方向をいう。回動方向とは、関節機構3の大腿フレーム部13a,13bと下腿フレーム部15a,15bとが回動する方向をいう。
【0028】
本実施例の長下肢装具1は、関節機構3を備えたフレーム5と、大腿装着部7と、下腿装着部9と、足装着部11とを備えている。
【0029】
フレーム5は、大腿側に位置する大腿フレーム部13a,13b及び下腿側に位置する下腿フレーム部15a,15bを相互に回動自在に結合することで構成されている。本実施例のフレーム5は、下腿フレーム部15a,15bに下方へ延びる延長フレーム部17a,17bが結合されているが、延長フレーム部17a,17bを省略することも可能である。
【0030】
一方側の大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aは、それぞれ本実施例の第2回動部材及び第1回動部材として関節部材19を構成し、後述するようにワンウェイクラッチ37を備えている。この関節部材19は、断続部21が取り付けられて関節機構3を構成する。なお、本実施例の関節部材19は、延長フレーム部17aが含まれないが、延長フレーム部17aを含めてもよい。また、関節部材19は、大腿フレーム部13aを第1回動部材とし、下腿フレーム部15aを第2回動部材としてもよい。
【0031】
なお、フレーム5は、大腿フレーム部13b、下腿フレーム部15b、延長フレーム17bを省略し、関節機構3を構成する大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15a並びに延長フレーム部17aで構成してもよい。
【0032】
大腿装着部7は、フレーム5の大腿フレーム部13a,13b間に取り付けられたベルト状の装着部材7a,7bを有している。なお、装着部材7a,7bは、ベルト状に限られるものではない。この大腿装着部7は、装着部材7a,7bにより被補助者の大腿部に着脱自在に装着される。
【0033】
下腿装着部9は、フレーム5の下腿フレーム部15a,15b間に取り付けられたベルト状の装着部材9aを有し、この装着部材9aにより被補助者の下腿部に着脱自在に装着される。下腿装着部9の装着部材9aも、ベルト状に限られるものではない。下腿装着部9は、フレーム5を介して大腿装着部7に対して相対的に回動自在に構成されている。
【0034】
足装着部11は、フレーム5の延長フレーム部17a,17bの下端に回動自在に取り付けられ、履物状の装着部材11aを有している。この装着部材11aにより、足装着部11は、被補助者の足部に着脱自在に装着される。
【0035】
なお、足装着部11は、省略することも可能である。また、足装着部11の装着部材11aは、履物状ではなくてもよく、ベルト状等としてもよい。
【0036】
かかる長下肢装具1では、被補助者が装着して歩行する際に、大腿装着部7及び下腿装着部9間の回動に対して関節機構3の断続部21によるロック及びロック解除をすることで、被補助者に自然な歩容を取らせることができる。詳細については後述する。
【0037】
[関節機構]
図2は、図1の長下肢装具1に用いられる関節機構3を示す斜視図、図3は、図2の関節機構3の要部を拡大して示す側面図、図4は、同底面図、図5は、図2の関節機構3に用いられる関節部材19を示す斜視図、図6は、図5の関節部材19を示す分解斜視図、図7は、図5の関節部材19の要部を拡大して示す平面図、図8は、図5の関節部材19のVIII-VIII線に係る斜視断面図、図9は、同断面図である。
【0038】
関節機構3は、関節部材19と、この関節部材19に取り付けられた断続部21とを備えている。本実施例の関節機構3は、長下肢装具1の一部として用いられているが、例えば、伸びきる又はその途中でロックを行うことが必要な足首、肘、肩等といった他の関節の補助装置やロボットの関節に用いることも可能である。関節によっては、曲げきる又はその途中でロックを行う必要がある場合もあるが、そのような場合にも、関節機構3は適用可能である。また、関節機構3は、リハビリ用に限られず、例えば重量物を運ぶ際に関節を補助するための補助装置等にも用いることができる。
【0039】
本実施例の関節部材19は、第1回動部材及び第2回動部材としての下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aと、クラッチユニット23とを備えている。
【0040】
下腿フレーム部15aは、長尺板状に形成されており、図1における上端部(以下、単に上端部と称する)が回動軸25に回転自在に係合している。回動軸25は、回動スリーブ25aの内周に、回動ピン25bの一端を嵌合させて構成されている。回動ピン25bの他端は、軸方向に突出している。この回動軸25の回動スリーブ25aの外周に、下腿フレーム部15aに設けられた嵌合孔27が回転自在に嵌合している。
【0041】
大腿フレーム部13aは、下腿フレーム部15aと同様に長尺板状に形成されており、図1における下端部(以下、単に下端部と称する)に一対の結合プレート31a,31bが一体に設けられている。一対の結合プレート31a,31bは、大腿フレーム部13aの表裏に沿った状態で固定され且つ回動軸25に固定されている。
【0042】
従って、大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aは、回動軸25により相互に回動自在に結合された構成となっている。
【0043】
大腿フレーム部13aの一対の結合プレート31a,31bには、筒状のロック部材33がスライド自在に外嵌している。ロック部材33は、スライドによってロック位置と非ロック位置との間を移動可能であり、ロック位置で大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aの回動を不能にし、非ロック位置で大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aの回動を可能とする。
【0044】
クラッチユニット23は、大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aに着脱自在に取り付けられて大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15a間の回動をロックするためのものである。なお、クラッチユニット23は、大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aに対して固定的(着脱不能)に取り付けられてもよい。
【0045】
このクラッチユニット23は、第1取付部材35と、ワンウェイクラッチ37と、接続部39と、第2取付部材41と、固定部材としての固定ブロック43と、取付部45とを備えている。
【0046】
第1取付部材35は、下腿フレーム部15aに回動方向に係合する部材である。本実施例の第1取付部材35は、下腿フレーム部15aの上端部に沿って設けられたアーム状であり、係合片35aを有している。
【0047】
係合片35aは、ねじ等の締結具36により第1取付部材35に固定されている。この係合片35aは、第1取付部材35を下腿フレーム部15aに対して回動方向で係合させるものである。
【0048】
第1取付部材35は、回動軸25上に位置するクラッチ支持部35bを有している。クラッチ支持部35b上には、ワンウェイクラッチ37が固定されている。
【0049】
ワンウェイクラッチ37は、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aに接続されて、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動をロックして一方向(伸展方向)にのみ許容するものである。
【0050】
本実施例のワンウェイクラッチ37は、スプラグ式、カム式、ラチェット式等の種々のものを採用することが可能であり、図示しないがインナーとアウターとの間に両者間を係脱可能なスプラグ等の係脱部材を備えている。
【0051】
このワンウェイクラッチ37は、全体として筒状であり、内周に設けられた孔部37aに固定軸部47が挿入されている。固定軸部47は、軸心部に挿通孔47aを有する円筒形状であり、挿通孔47aに回動ピン25bの他端が軸方向で挿入され、且つねじ等の締結具49により第1取付部材35のクラッチ支持部35bに固定されている。
【0052】
従って、ワンウェイクラッチ37は、回動軸25と同心に配置される。
【0053】
固定軸部47には、フランジ部47bが設けられており、ワンウェイクラッチ37は、固定軸部47のフランジ部47bとクラッチ支持部35bとの間に支持されている。かかる支持により、ワンウェイクラッチ37のインナーと下腿フレーム部15aとが一体回転するようになっている。
【0054】
このワンウェイクラッチ37の外周には、接続部39が設けられている。
【0055】
接続部39は、大腿フレーム部13aをワンウェイクラッチ37に接続するためのものである。本実施例の接続部39は、筒状部39aの外周に接続フランジ39bが一体に設けられている。なお、接続部39は、大腿フレーム部13aをワンウェイクラッチ37に接続することができればよく、上記構成に限定されるものではない。
【0056】
筒状部39aの内周は、ワンウェイクラッチ37の外周に嵌合して結合されている。これにより、接続部39は、ワンウェイクラッチ37のアウター側と一体回転するようになっている。
【0057】
なお、接続部39は、ワンウェイクラッチ37のアウターに一体に設けてもよい。この場合、筒状部39aを省略して、接続フランジ39bのみをワンウェイクラッチ37のアウターに一体に設けることも可能である。
【0058】
筒状部39aの軸方向の先端は、接続フランジ39bに対して突出している。
【0059】
接続フランジ39bには、後述する断続部21の第2係合部71aが係合する係合穴51aが軸方向に貫通して設けられている。また、接続フランジ部39には、実施例2において用いられる連通穴53aが軸方向に貫通して設けられている。
【0060】
接続部39には、第2取付部材41が支持されている。第2取付部材41は、大腿フレーム部13aに回動方向に係合する。第2取付部材41は、全体として板状であり、相対回転部41aとアーム部41bとが一体に設けられている。
【0061】
相対回転部41aは、ワンウェイクラッチ37の外周に相対回転自在に支持されている。本実施例では、リング状に形成され、内周に設けられた嵌合孔55が接続部39の筒状部39aの外周に相対回転自在に嵌合している。このため、相対回転部41aは、軸方向で接続部39の接続フランジ39bに重ねて配置されると共に回動軸周りに相対回転可能である。
【0062】
この相対回転部41aは、軸方向の一側で接続フランジ39bに当接し、軸方向の他側でストッパーリング57により支持されており、軸方向に位置決められている。
【0063】
相対回転部41aには、実施例2において用いられる連通穴53bが周方向に複数設けられている。各連通穴53bは、相対回転部41aを軸方向に貫通している。これら連通穴53bは、相対回転部41aの接続部39に対する相対回転状況に応じ、選択的に接続部39の連通穴53aと軸方向で連通する。
【0064】
第2取付部材41のアーム部41bは、相対回転部41aの外周から径方向に突出して設けられている。アーム部41bは、大腿フレーム部13a下端部に沿って設けられ、大腿フレーム部13aに係合する係合片41cを有している。係合片41cは、第2取付部材41を大腿フレーム部13aに対して回動方向の一側で係合させる。
【0065】
このアーム部41b上には、後述する断続部21の第1係合部69aが係合する変位部としての突起部59が軸方向に突設されている。これにより、突起部59は、接続部39に対し、回動軸25に交差する交差方向で離間して配置されると共に回動軸25周りに相対回転可能になっている。
【0066】
すなわち、突起部59は、大腿フレーム部13aに設けられ、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの切断時に下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動に応じて接続部39に対して変位可能な構成となっている。
【0067】
突起部59は、第1係合部69aを入れ込む係合凹部59aを有し、第1係合部69aに回動方向で係合する。なお、突起部59は、第2取付部材41に設ける必要はなく、例えば大腿フレーム部13aに直接設けることも可能である。
【0068】
第2取付部材41のアーム部41bの係合片41cには、固定部材としての固定ブロック43が取り付けられ、クラッチユニット23を大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aに対して着脱自在に固定する。
【0069】
固定ブロック43は、異なる方向に延びるスリット43a,43bを有している。一方のスリット43aは、大腿フレーム部13aを回動方向に入れ込み、大腿フレーム部13aの表裏及び回動方向の他側に固定ブロック43を係合させる。他方のスリット43bは、第2取付部材41の係合片41cを入れ込み、回動方向において係合片41cの両側に固定ブロック43を係合させる。この状態で、固定ブロック43は、第2取付部材41の係合片41cにねじ等の締結具61により固定されている。
【0070】
従って、固定ブロック43は、大腿フレーム部13aに第2取付部材41を着脱自在に固定している。この状態で、クラッチユニット23の突起部59は、大腿フレーム部13aと一体回転するようになっている。
【0071】
そして、突起部59と接続部39との間を断続部21により断続することで、長下肢装具1の大腿装着部7及び下腿装着部9間の回動に対して関節機構3によるロック及びロック解除が行われる。
【0072】
取付部45は、断続部21をワンウェイクラッチ37に対して取り付けるためのものである。本実施例の取付部45は、断続部21をワンウェイクラッチ37に対して着脱自在に取り付け可能とする。なお、断続部21は、ワンウェイクラッチ37又はクラッチユニット23に対して固定的(着脱不能)に取り付けてもよい。
【0073】
取付部45は、接続部39の接続フランジ39bの表面にねじ等の締結具63により重ねた状態で固定されている。本実施例の取付部45は、リング状に形成され、内周が接続部39の筒状部39aの軸方向の先端外周に嵌合している。
【0074】
この取付部45には、接続フランジ39bの係合穴51aと連通する係合穴51bが軸方向に設けられている。係合穴51bには、接続部39の係合穴51aと共に断続部21の第2係合部71aが係合する。また、取付部45には、実施例2において用いられる連通穴53cが軸方向に設けられている。
【0075】
取付部45の裏面側には、リテーナプレート65が設けられている。リテーナプレート65は、リング状に形成され、接続部39の筒状部39aの先端外周に相対回転自在に嵌合している。このリテーナプレート65は、取付部45の裏面に設けられた凹部45a内に収容され、所定範囲で回転可能となっていると共にばね等の付勢部材67により回転方向に付勢されている。
【0076】
リテーナプレート65には、係合穴51cが軸方向に設けられている。リテーナプレート65の係合穴51cは、リテーナプレート65が付勢部材67により付勢されて変位することで、取付部45の係合穴51b及び接続部39の係合穴51aに対して回転方向で僅かにずれて配置されている。そして、リテーナプレート65の係合孔51cは、リテーナプレート65を付勢部材67の付勢力に抗して変位させることで、接続部39の係合穴51a及び取付部45の係合穴51bに対して回転方向でのずれがなくなった状態で軸方向に連通する。
【0077】
本実施例のリテーナプレート65は、一部が取付部45の凹部45aから径方向に突出しており、その突出部分を操作することで変位させることができるようになっている。
【0078】
図10は、図2の関節機構に用いられる断続部を底面側から見た斜視図、図11は、図10の断続部21を示すブロック図である。
【0079】
断続部21は、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間の接続状態を断続するものである。この断続により、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間を接続することで、大腿フレーム部13a(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a(下腿装着部9)との回動をロックする。このロックにより、かかる回動は、屈曲方向へ規制されると共に伸展方向にのみ許容される。一方、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間を切断することで、大腿フレーム部13a(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a(下腿装着部9)との回動がロックを解除され伸展方向及び屈曲方向の双方向に許容される。
【0080】
特に、本実施例の断続部21は、クラッチユニット23の接続部39と第2取付部材41の突起部59との間を断続し、両者間を接続して変位不能にすることで大腿フレーム部13aをワンウェイクラッチ37に接続し、両者間を切断して変位可能にすることで大腿フレーム部13aをワンウェイクラッチ37から切り離す。
【0081】
断続部21は、手動及び電動の何れでもよいが、本実施例では、電動となっている。この断続部21は、本体部69と、回転部71と、制動部73とを備えている。
【0082】
本体部69内には、制動部73に対して給電するバッテリー75、給電を制御するコントローラー77、無線通信部79等が収容されている。
【0083】
なお、コントローラー77は、プロセッサー等の演算装置である。無線通信部79は、少なくとも信号の受信を可能とするユニットであり、コントローラー77に対して給電及び給電解除の指示を無線で入力可能とするものである。
【0084】
給電及び給電解除の指示は、被補助者やその介助者が操作するリモートコントローラー等の遠隔操作機器によって行うことが可能である。無線通信部79及びコントローラー77に代えて、給電及び給電解除を行わせるスイッチを断続部21に設けてもよい。
【0085】
この本体部69は、第2取付部材41に対して係合する第1係合部69aを有している。本実施例の第1係合部69aは、ピンであり、本体部69から突出して突起部59の係合凹部59a内に係合する。なお、第1係合部69aは、第2取付部材41を保持する係合爪等としてもよい。この場合、第2取付部材41自体が変位部となる。
【0086】
回転部71は、本体部69に回動軸25周りに回転自在に支持され、接続部39に対して係合する。本実施例の回転部71は、クラッチユニット23の取付部45上に、第2係合部71aにより取付部45に取り付けられ、接続部39に係合する。なお、第2係合部71aは、接続部39の接続フランジ39bを保持する係合爪等としてもよい。
【0087】
本実施例の第2係合部71aは、ピン状に形成され、回転部71から軸方向に突出している。この第2係合部71aは、取付部45の係合孔51b及びリテーナプレート65の係合穴51cを挿通し、先端が接続部39の接続フランジ39bの係合穴51aに至る。
【0088】
第2係合部71aは、リテーナプレート65に対応する軸方向での位置にくびれ部71bが設けられ、このくびれ部71bにリテーナプレート65が付勢部材67の付勢力により係合して抜け止めがなされている。これにより、断続部21は、クラッチユニット23(ワンウェイクラッチ37)に着脱自在に取り付けられている。
【0089】
制動部73は、本体部69と回転部71との間に配置され、回転部71の回転に対する負荷トルクを付与又は解除する。これにより、制動部73は、回転部71を本体部69に対して制動及び制動解除し、クラッチユニット23の突起部59を接続部39に対して断続する。
【0090】
制動部73は、本出願人が特願2015-42789号において提案したERG(Electrorheological gel)を用いた電磁クラッチ、その他、摩擦板や磁性流体を用いた電磁クラッチ等、各種の電磁クラッチやブレーキを採用することが可能である。
【0091】
[長下肢装具の動作]
以下、長下肢装具1の動作について図12をも参照して説明する。なお、長下肢装具1が右足用であるため、右足に長下肢装具1を装着した場合を例に説明する。
【0092】
図12は、関節機構3の下腿フレーム部15aと大腿フレーム部13aの動作とロックとの関係を示す概略図である。
【0093】
本実施例の長下肢装具1は、被補助者の下肢に装着した状態で被補助者に歩行を行わせるときに、ロック及びロック解除を行うことで、被補助者の歩行時に膝回りの補助を行いつつ歩容を自然なものとすることができる。
【0094】
具体的には、被補助者が歩行するときには、右足の踵が床面に着くまでの大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との間が伸びる過程において(図12(A))、大腿フレーム部13aと下腿フレーム部15aとの回動に対するロックを行う。
【0095】
このロックは、断続部21の制動部73により回転部71と本体部69との間に回転部71の回転に対する負荷トルクを付与することで行われる。これにより、関節機構3の大腿フレーム部13aは、クラッチユニット23の突起部59、断続部21、クラッチユニット23の接続部39を介してワンウェイクラッチ37に接続される。
【0096】
従って、ワンウェイクラッチ37は、大腿フレーム部13a及び下腿フレーム部15aに接続された状態となり、両者間の相対回転をロックし伸展方向にのみ許容することになる。
【0097】
この結果、大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との間が伸びる過程においてロックされても、被補助者の歩行状況に応じて、そのまま大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との間を伸展方向に動作させることができ、被補助者の歩容に応じて伸びきった状態又は伸びきる途中でロックすることができる。なお、被補助者によっては、膝を伸びきらせることができないことがあるため、伸びきる途中でロックする必要が生じることがある。ただし、図12(B)~(H)では、伸びきる場合を例示している。
【0098】
そして、大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との間が伸び切った状態で右足の踵が床面に着くことで、被補助者は、右足の膝折れが防止されると共に自然な歩容で立脚期(体重が掛かる状態)へと移行することができる(図12(B)~(E))。
【0099】
立脚期へと移行した後は、右足の踵が床面から離れるときに大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との回動に対するロックが解除され、自然と被補助者の右足の膝が曲がりながらつま先が床面から離れて遊脚期へと移行することができる(図12(F)~(H))。
【0100】
遊脚期へ移行した後は、再度、右足の踵が床面に着くまでの大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との間が伸びる過程において、関節機構3により大腿フレーム部13aと下腿フレーム部13bとの回動に対するロックが行われる。
【0101】
こうして大腿フレーム部13a,13b(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a,15b(下腿装着部9)との回動に対するロック及びロック解除が繰り返されることで、被補助者に膝折れを防止しつつ自然な歩容で歩行を行わせることが可能となる。
【0102】
なお、本実施例の長下肢装具1は、歩行時だけでなく、被補助者の大腿と下腿とが屈曲した座った状態でロックし、立ち上がる際の大腿と下腿との伸展を補助することも可能である。
【0103】
[実施例1の効果]
以上説明したように、本実施例の長下肢装具1に用いられる関節機構3は、回動軸25により相互に回動自在に結合された下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aと、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aに接続され、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動をロックして一方向にのみ許容するワンウェイクラッチ37と、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間の接続状態を断続する断続部21とを備え、ワンウェイクラッチ37と下腿フレーム部15aとの間を断続部21により切断することで下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動のロックを解除して下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動を双方向に許容する。
【0104】
従って、関節機構3は、断続部21によりワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間を接続し、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動を伸展方向にのみ許容するようにロックすることができる。
【0105】
この結果、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間が伸びる過程においてロックすれば、そのまま下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間を伸展方向へ動作させることができると共に伸びきった状態又は伸びきる途中でロックできる。
【0106】
このため、関節機構3は、複雑な制御は不要であり、煩雑化や重量増を抑制しながら簡単な構造で伸びきった状態又は伸びきる途中でのロックが可能となる。また、関節機構3では、複雑な制御が不要であるため、介助者又は被補助者がロック及びロック解除を操作することが可能である。
【0107】
本実施例の関節機構3は、ワンウェイクラッチ37に設けられ大腿フレーム部13aを接続するための接続部39と、大腿フレーム部13aに設けられ、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの切断時に下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動に応じて接続部39に対して変位可能な突起部59とを備え、断続部21が、接続部39と突起部59との間を接続して変位不能にすることで、大腿フレーム部13aをワンウェイクラッチ37に接続する。
【0108】
従って、本実施例では、大腿フレーム部13aとワンウェイクラッチ37との間の断続を確実に行わせることができる。
【0109】
特に、本実施例では、接続部39及び突起部59が回動軸25に交差する交差方向で離間して配置されると共に回動軸25周りに相対回転可能であり、断続部21が、突起部59に対して係合する第1係合部69aを有する本体部69と、本体部69に回動軸25周りに回転自在に支持され接続部39に対して係合する第2係合部71aを有する回転部71と、回転部71の回転を制動及び制動解除することで大腿フレーム部13aとワンウェイクラッチ37との間の断続を行わせる制動部73とを備えている。
【0110】
従って、本実施例では、回転部71の制動部73による制動及び制動解除で大腿フレーム部13aのワンウェイクラッチ37に対する断続を行うため、制動部73を小型化することができ、断続部21全体しての小型化を図ることができる。
【0111】
しかも、本実施例の断続部21は、本体部69に制動部73やこの制動部73を制御するためのバッテリー75或いはコントローラー77等を収容することができるため、より全体としての小型化を図ることができる。
【0112】
また、断続部21は、ワンウェイクラッチ37に着脱可能に取り付けられるため、充電等を容易に行わせることが可能となる。
【0113】
関節機構3を用いた長下肢装具1は、関節機構3の大腿フレーム部13aに設けられ被補助者の大腿に装着するための大腿装着部7と、関節機構3の下腿フレーム部15aに設けられ被補助者の下腿に装着するための下腿装着部9とを備え、関節機構3が、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動をロックして大腿装着部7及び下腿装着部9間の回動を伸展方向にのみ許容し、ロックの解除によって大腿装着部7及び下腿装着部9間の回動を伸展方向及び屈曲方向の双方向へ許容する。
【0114】
従って、本実施例の長下肢装具1は、大腿装着部7と下腿装着部9との間が伸びる過程において回動をロックすることにより、そのまま大腿装着部7と下腿装着部9との間を伸展方向に動作させ、伸びきった状態又は伸びきる途中でロックすることができる。
【0115】
そして、大腿装着部7と下腿装着部9との間がロックされた状態で被補助者の踵が床面に着くことで、被補助者の膝折れが防止されると共に自然と立脚期へと移行させることができる。
【0116】
また、立脚期において踵が床面から離れるときには、大腿装着部7と下腿装着部9との回動に対するロックが解除され、被補助者が自然と膝を曲げながらが踵を床面から離して遊脚期へと移行することができる。
【0117】
このように本実施例の長下肢装具1は、大腿装着部7と下腿装着部9と回動に対するロック及びロック解除が繰り返されることで、簡単な制御で被補助者の膝折れを防止しつつ自然な歩容で被補助者に歩行させることが可能となる。
【0118】
また、関節機構3に用いられる関節部材19は、回動軸25により相互に回動自在に結合された下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aと、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aに接続され下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動をロックして一方向にのみ許容するワンウェイクラッチ37と、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間の接続状態を断続する断続部21を取り付けるための取付部45とを備えている。
【0119】
従って、関節部材19は、断続部21を取り付ければ関節機構3を容易に構成することができる。
【0120】
関節機構3に用いられるクラッチユニット23は、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aに回動方向に係合する第1取付部材35及び第2取付部材41と、第2取付部材41を下腿フレーム部13aに着脱自在に固定する固定ブロック43と、下腿フレーム部13aに支持され下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間の回動をロックして一方向にのみ許容するためのワンウェイクラッチ37と、第2取付部材41に設けられワンウェイクラッチ37の外周に相対回転自在に支持される相対回転部41aと、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの接続状態を断続する断続部21を取り付けるための取付部45とを備えている。
【0121】
従って、クラッチユニット23は、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aにワンウェイクラッチ37を着脱自在に取り付けて関節部材19を容易に構成することができる。従って、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13aを汎用化することができ、コストダウンを図ることができる。また、クラッチユニット23は、下腿フレーム部15a及び大腿フレーム部13a間にワンウェイクラッチ37を後付けして関節部材19とすることも可能である。
【実施例2】
【0122】
図13は、本発明の実施例2に係る関節機構の断面図である。なお、実施例2の基本構造は、実施例1と共通するため、実施例2では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0123】
本実施例では、関節機構3の断続部21を手動でロック及びロック解除を行うようにしたものである。その他は、実施例1と同一である。
【0124】
本実施例の断続部21は、接続部39の接続フランジ39bと軸方向で重ねて配置された変位部としての相対回転部41aとの間を断続するものである。この断続部21は、固定部81と、可動部83とを備えている。
【0125】
固定部81は、関節部材19の取付部45に取り付けられる部分である。固定部81は、円柱形状に形成され、実施例1の回転部71と同様に第2係合部71a(図示せず)が設けられている。また、固定部81には、軸方向に貫通する貫通孔81aが設けられている。
【0126】
可動部83は、固定部81に対して軸方向に所定範囲でスライド自在に支持されている。可動部83には、固定部81の貫通孔81aを挿通するピン83aが支持されている。ピン83aは、可動部83のスライドに応じて軸方向に移動自在となっている。
【0127】
これにより、ピン83aは、取付部45の連通穴53c、接続部39の連通穴53a、及び第2取付部材41の相対回転部41aの連通穴53b内に軸方向に移動可能に配置され、軸方向への移動によってワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間の断続を行わせる。
【0128】
すなわち、ピン83aは、取付部45の連通穴53c、接続部39の連通穴53a、及び第2取付部材41の連通穴53bに挿通されると、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間を接続する。一方、ピン83aは、軸方向への移動により、第2取付部材41の連通穴53bから引き抜かれると、ワンウェイクラッチ37と大腿フレーム部13aとの間を切断する。
【0129】
従って、本実施例では、断続部21の可動部83を固定部81に対して手動でスライドさせることにより、大腿フレーム部13a(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a(下腿装着部9)との回動に対するロック及びロック解除を繰り返し、被補助者の膝折れを防止しつつ自然な歩容で歩行を行わせることが可能となる。
【0130】
なお、可動部83は、電動でスライドさせる構成とすることも可能である。また、断続部21は、可動部83を省略し、ピン83aを直接軸方向に移動させる構成としてもよい。さらに、断続部21は、固定部81を省略してもよい。可動部83及び固定部81の双方を省略する場合、ピン83aは、連通穴53a,53b,53c内に支持される構成となる。
【0131】
その他、実施例2でも、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例3】
【0132】
図14は、本発明の実施例3に係る関節機構に用いられる断続部を示すブロック図である。なお、実施例3の基本構造は、実施例1と共通するため、実施例3では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0133】
本実施例では、大腿フレーム部13a(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a(下腿装着部9)との回動に対するロック及びロック解除を自動的に行わせるようにしたものである。このため、断続部21には、センサー85が設けられている。
【0134】
センサー85は、被補助者の大腿の前後位置を検出するものであり、例えばジャイロセンサーや傾斜センサー等によって構成することができる。なお、センサー85は、大腿フレーム部13aに設けてもよい。また、センサー85は、関節機構3ではなく、被補助者の大腿に取り付けるものであってもよい。この場合、センサー85から大腿の前後位置情報を断続部21側に無線又は有線により送信すればよい。
【0135】
関節機構3は、実施例1と同様、大腿フレーム部13a(大腿装着部7)と下腿フレーム部15a(下腿装着部9)と回動のロック及びロックの解除を電気的に切り替え可能となっている。
【0136】
そして、関節機構3は、センサー85での検出に基づき、コントローラー77が被補助者の大腿が被補助者の体の重心よりも前に位置するときに断続部21の制動部73に負荷トルクを生じさせてロックを行い、被補助者の大腿が被補助者の体の重心よりも後ろに位置するときに制動部73の負荷トルクを消失させてロック解除をする。
【0137】
かかるロック及びロック解除により、簡単な制御及び構成で自動的に被補助者の歩行時に膝回りの補助を行いつつ歩容を自然なものとすることができる。
【0138】
その他、実施例3でも実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 長下肢装具(膝関節補助装置)
3 関節機構
7 大腿装着部
9 下腿装着部
13a 大腿フレーム部(第2回動部材)
15a 下腿フレーム部(第1回動部材)
19 関節部材
21 断続部
23 クラッチユニット
25 回動軸
35 第1取付部材
37 ワンウェイクラッチ
39 接続部
41 第2取付部材
43 固定ブロック
45 取付部
53a,53b,53c 連通穴
59 変位部
69 本体部(断続部)
69a 第1係合部
71 回転部
71a 第2係合部
73 制動部
83a ピン
85 センサー
図1
図2
図3
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図5
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図12
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図14