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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】スランプ測定機及びスランプ測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20230328BHJP
   G01N 11/14 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
G01N11/00 E
G01N11/14 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019105776
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020201041
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000194516
【氏名又は名称】世紀東急工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】110000866
【氏名又は名称】特許業務法人三澤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柴 朋広
(72)【発明者】
【氏名】吉野 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】金沢 浩司
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩昭
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-506540(JP,A)
【文献】特開昭58-052546(JP,A)
【文献】特開2000-329673(JP,A)
【文献】特開2002-001721(JP,A)
【文献】特開2016-217740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00 - 11/16
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯可能に形成された本体と、
前記本体に設けられたモータと、
前記本体に設けられ、前記モータの駆動により回転する回転軸と、
前記回転軸に設けられ、前記回転軸の周方向に並ぶ複数の羽根と、
生コンクリート内で回転する前記複数の羽根が前記生コンクリートから受ける抵抗の値である抵抗値として把握される前記モータの電流値を測定する測定部と、を備え、
前記複数の羽根は、それぞれの羽根における前記回転軸の先端側の端と前記回転軸の先端とが、前記生コンクリート内で最大となる砕石の最長サイズ以上離れる位置に設けられていることを特徴とするスランプ測定機。
【請求項2】
前記複数の羽根は、それぞれ板形状に形成されており、それぞれの平面が前記回転軸の延伸方向に対して平行になるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスランプ測定機。
【請求項3】
前記複数の羽根は、それぞれ板形状に形成されており、それぞれの平面が前記回転軸の延伸方向に対して30度以下の角度で前記回転軸の周方向に傾くように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスランプ測定機。
【請求項4】
前記複数の羽根の本数は、2本以上6本以下であり、
前記複数の羽根は、前記回転軸の周方向に等間隔で並ぶことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスランプ測定機。
【請求項5】
前記測定部により測定された前記モータの電流値を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスランプ測定機。
【請求項6】
前記抵抗値とスランプ値との相関関係を示すデータを記憶する記憶部と、
前記記憶部により記憶された前記データに基づいて、前記測定部により測定された前記抵抗値からスランプ値を求める取得部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスランプ測定機。
【請求項7】
前記取得部により取得された前記スランプ値を表示する表示部を備えることを特徴とする請求項6に記載のスランプ測定機。
【請求項8】
前記測定部は、前記本体に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のスランプ測定機。
【請求項9】
携帯可能に形成された本体と、前記本体に設けられたモータと、前記本体に設けられ、前記モータの駆動により回転する回転軸と、前記回転軸に設けられ、前記回転軸の周方向に並ぶ複数の羽根とを有し、前記複数の羽根は、それぞれの羽根における前記回転軸の先端側の端と前記回転軸の先端とが、生コンクリート内で最大となる砕石の最長サイズ以上離れる位置に設けられているスランプ測定機を用いて、スランプ値を測定するスランプ測定方法であって、
前記生コンクリート内で回転する前記複数の羽根が前記生コンクリートから受ける抵抗の値である抵抗値として把握される前記モータの電流値を測定部により測定する工程と、
前記抵抗値とスランプ値との相関関係を示すデータに基づいて、前記測定部により測定された前記抵抗値からスランプ値を求める工程と、
を有することを特徴とするスランプ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スランプ測定機及びスランプ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生コンクリート(レディミクストコンクリート)のスランプ管理においては、通常、JIS法(例えば、JIS A 1108:2005)によりスランプ値(スランプ)が測定される。このスランプ測定では、個人や測定ごとに誤差が生じることがあり、精度が高いスランプ測定のためには熟練を要する。特に、打設した生コンクリートを自立させる必要があるスリップフォーム工法に使用する生コンクリートは、例えば、最大粒径が40mmと大きく、試料のサンプリング、スランプコーンへの試料の入れ方、棒の突き方などによって誤差が生じやすいものである。スランプ管理は重要であるが、スランプ測定に関して熟練や測定時間を要する。また、現状、生コンクリートの現場到着時のスランプ管理は午前と午後に各一回行われるのみである。
【0003】
生コンクリートのスランプ値は、細骨材の表面水の変化に対して非常に敏感である。この細骨材の表面水管理は、二つの方法で行われている。一つ目の方法では、細骨材のストックヤードを二つ以上持つプラントにおいて、当日出荷する生コンクリートで使用する細骨材を前日までに受け入れて細骨材の表面水を一定にしてから使用する。二つ目の方法では、プラントにおいて自動的に細骨材の表面水をリアルタイムに機械測定し、細骨材の表面水を管理する。このような管理が行われているが、実際に現場到着するアジテータ車に対するスランプ測定では、スランプ値に大きいバラつきが生じることがある。特に、スリップフォーム工法では、スランプ値を許容範囲内にすることはもちろん、スランプ値のバラつきを抑えるため、スランプ管理は重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-121531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、精度が高いスランプ測定を簡易に行うことができるスランプ測定機及びスランプ測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るスランプ測定機は、携帯可能に形成された本体と、前記本体に設けられたモータと、前記本体に設けられ、前記モータの駆動により回転する回転軸と、前記回転軸に設けられ、前記回転軸の周方向に並ぶ複数の羽根と、生コンクリート内で回転する前記複数の羽根が前記生コンクリートから受ける抵抗の値である抵抗値として把握される前記モータの電流値を測定する測定部と、を備え、前記複数の羽根は、それぞれの羽根における前記回転軸の先端側の端と前記回転軸の先端とが、前記生コンクリート内で最大となる砕石の最長サイズ以上離れる位置に設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記スランプ測定機について、前記複数の羽根は、それぞれ板形状に形成されており、それぞれの平面が前記回転軸の延伸方向に対して平行になるように設けられているようにしてもよい。
【0008】
上記スランプ測定機について、前記複数の羽根は、それぞれ板形状に形成されており、それぞれの平面が前記回転軸の延伸方向に対して30度以下の角度で前記回転軸の周方向に傾くように設けられているようにしてもよい。
【0010】
上記スランプ測定機について、前記複数の羽根の本数は、2本以上6本以下であり、前記複数の羽根は、前記回転軸の周方向に等間隔で並ぶようにしてもよい。
【0011】
上記スランプ測定機について、前記測定部により測定された前記モータの電流値を表示する表示部を備えるようにしてもよい。
【0012】
上記スランプ測定機について、前記抵抗値とスランプ値との相関関係を示すデータを記憶する記憶部と、前記記憶部により記憶された前記データに基づいて、前記測定部により測定された前記抵抗値からスランプ値を求める取得部を備えるようにしてもよい。
【0013】
上記スランプ測定機について、前記取得部により取得された前記スランプ値を表示する表示部を備えるようにしてもよい。
【0014】
上記スランプ測定機について、前記測定部は、前記本体に設けられているようにしてもよい。
【0015】
本発明の実施形態に係るスランプ測定方法は、携帯可能に形成された本体と、前記本体に設けられたモータと、前記本体に設けられ、前記モータの駆動により回転する回転軸と、前記回転軸に設けられ、前記回転軸の周方向に並ぶ複数の羽根とを有し、前記複数の羽根は、それぞれの羽根における前記回転軸の先端側の端と前記回転軸の先端とが、前記生コンクリート内で最大となる砕石の最長サイズ以上離れる位置に設けられているスランプ測定機を用いて、スランプ値を測定するスランプ測定方法であって、生コンクリート内で回転する前記複数の羽根が前記生コンクリートから受ける抵抗の値である抵抗値として把握される前記モータの電流値を測定部により測定する工程と、前記抵抗値とスランプ値との相関関係を示すデータに基づいて、前記測定部により測定された前記抵抗値からスランプ値を求める工程とを有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、精度が高いスランプ測定を簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の一形態に係るスランプ測定機の概略構成を示す図である。
図2】実施の一形態に係るスランプ測定を説明するための図である。
図3】実施の一形態に係るモータの電流値とスランプ値との関係を示すグラフである。
図4】実施の一形態に係る回転軸に対する羽根の角度を説明するための図である。
図5】実施の一形態に係る回転軸の先端と羽根の下端との離間距離を説明するための図である。
図6】実施の一形態に係る羽根の直径を説明するための図である。
図7】実施の一形態に係る羽根の本数及び配置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の一形態>
実施の一形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(基本構成)
図1に示すように、第1の実施形態に係るスランプ測定機10は、本体20と、モータ30と、回転軸40と、複数の羽根50と、入力部60と、取付部70と、測定ユニット80とを備えている。このスランプ測定機10は、測定者(ユーザ)が一人で持ち運ぶことが可能に、すなわち携帯可能に形成されている。
【0020】
本体20は、円筒部21と、グリップ部22とを有している。円筒部21は、中空の円筒状に形成されており、その内部にモータ30や回転軸40の一部などを収容する。グリップ部22は、測定者が把持しやすい形状に形成されており、円筒部21の中央付近に設けられている。このグリップ部22が測定者によって握られ、本体20、すなわちスランプ測定機10が保持されて携帯される。
【0021】
モータ30は、円筒部21の内部に設けられており、電線やケーブルなどの配線11を介して測定ユニット80に電気的に接続されている。このモータ30としては、例えば、DCモータが用いられる。モータ30は、トルク、回転数及び電流値などに密接な関係を有している。モータ30にかかる負荷トルクが大きくなることに応じて、モータ30の回転数は低下していき、モータ30の電流値は上昇していく。つまり、モータ30の回転数は負荷トルクと反比例し、モータ30の電流値は負荷トルクと比例する。
【0022】
回転軸40は、円柱状(円柱の棒状)に形成されており、その一端がモータ30に連結されている。この回転軸40は、モータ30の駆動により回転軸40の軸心を中心として回転軸40の周方向に回転する。回転軸40の下端(図1中)が先端となり、回転軸40の上端(図1中)が後端となる。
【0023】
羽根50は、回転軸40の周方向(円周方向)に等間隔で並ぶように、例えば、三本(三枚)、すなわち120度ごとに回転軸40の周面に設けられている。これらの羽根50は、それぞれ扇形状の板材により形成されており、それぞれの平面が回転軸40の延伸方向に対して平行になるように設けられている。各羽根50は、回転軸40の回転に応じて回転軸40の周方向(軸周り)に回転して移動する。
【0024】
入力部60は、グリップ部22における円筒部21側の外周面、すなわちグリップ部22の根元に設けられている。この入力部60は、測定者からの入力操作を受け付けるものであり、配線11を介して測定ユニット80に電気的に接続されている。入力部60としては、例えば、押下スイッチが用いられる。入力部60が測定者により入力操作されると、測定ユニット80に信号が入力される。この信号が入力されるとモータ30は駆動し(ON)、信号が入力されなくなるとモータ30は停止する(OFF)。
【0025】
取付部70は、曲板71と、複数の固定部材72とを有している。この取付部70は、本体20に測定ユニット80を取り付けるための部材である。曲板71は、途中で折り曲げられ、L字形状に形成されている。この曲板71の延伸部71aは、本体20の上端側(図1中)の外周面に各固定部材72により固定されている。曲板71の屈曲部71bには測定ユニット80が設けられている。各固定部材72は、曲板71を本体20の円筒部21に固定する部材である。これらの固定部材72としては、例えば、Uボルトが用いられる。
【0026】
測定ユニット80は、制御部81と、測定部82と、表示部83とを有している。この測定ユニット80は、電線やケーブルなどの配線12を介して電源(図示せず)に電気的に接続され、電源から電気の供給を受け、また、モータ30に電気の供給を行う。例えば、電源としては、発電機や電池などが用いられ、電池としては、蓄電池(二次電池)や組電池などが用いられる。
【0027】
制御部81は、各部を集中的に制御するマイクロコンピュータ(図示せず)、処理情報や各種プログラムなどを記憶する記憶部(図示せず)などを有している。この制御部81は、各種情報や各種プログラムに基づいて、モータ30や測定部82、表示部83などの各部を制御し、また、入力部60からの入力信号を受信する。制御部81は、入力部60からの入力信号(ON、OFF信号)に応じて、モータ30の駆動(ON、OFF)を制御する。
【0028】
測定部82は、モータ30の電流値や電圧値を測定し、測定した電流値や電圧値を制御部81に送信する。また、測定部82は、測定した電流値や電圧値を用いて、電力値(パワー)や電力量(エネルギー)を算出し、算出した電力値や電力量を制御部81に送信する。測定部82としては、例えば、電圧電流計が用いられる。
【0029】
表示部83は、制御部81による制御に応じて、モータ30の電流値や電圧値、電力値、電力量などを表示する。制御部81は、測定部82から送信された電圧値や電流値、電力値、電力量を表示部83に表示させる制御を行う。表示部83としては、例えば、液晶ディスプレイ(白黒やカラーなど)が用いられる。
【0030】
(スランプ測定)
次に、前述のスランプ測定機10によるスランプ測定の流れについて図2及び図3を参照して説明する。
【0031】
現場への材料(生コンクリート)の運搬はアジテータ車で行われる。現場ではアジテータ車が止められ、1分間高速回転で材料が撹拌され、一輪車1台分の材料が一輪車(例えば、深底タイプの一輪車)内に抜き取られる。スランプ測定では、マスターデータ(マスターカーブ)が予め求められ、そのマスターデータと、測定されたモータ30の電流値とから、スランプ値(スランプ)が求められる。マスターデータとは、モータ30の電流値とスランプ値との相関関係を示すデータである(図3参照)。
【0032】
図2に示すように、まず、回転軸40の一部及び各羽根50が測定者によって一輪車内の生コンクリートに挿入される(各羽根50の上部には、例えば5cm以上の厚さで生コンクリートが存在する)。この挿入状態で、入力部60が測定者により入力操作されると、所定の一定電圧(例えば、定格電圧)がモータ30に印加され、モータ30が駆動する。この所定電圧は予め設定されている。モータ30が駆動して回転すると、回転軸40及び各羽根50も回転する。なお、回転軸40の一部及び各羽根50が一輪車内の生コンクリートに挿入される前に、入力部60が測定者により入力操作されてモータ30が駆動し、回転軸40及び各羽根50が回転していても良く、回転開始のタイミングは特に限定されるものではない。
【0033】
回転軸40の一部及び各羽根50が生コンクリート内で回転すると、各羽根50の周辺の生コンクリートが各羽根50の回転を妨げるため、回転する各羽根50は生コンクリートによる抵抗を受け、各羽根50及び回転軸40にはそれらの回転を妨げる負荷がかかる。モータ30の電流値や電圧値は測定部82により常時測定され、それらの電流値や電圧値、また、電力値や電力量が表示部83により表示される。測定者は、各羽根50が生コンクリート内で回転している状態で、表示部83に表示されたモータ30の電流値(安定した電流値)を視認し、携帯端末や筆記用具などにより記録する。また、熟練者が一輪車から生コンクリートを取り出し、JIS法(例えば、JIS A 1108:2005)によるスランプ測定を行う。測定者は、前述のように記録したモータ30の電流値に関連付けて、JIS法によるスランプ値を記録する。
【0034】
次いで、測定者は、一輪車内の生コンクリートの水分量を変え、前述と同様にモータ30の電流値及びJIS法によるスランプ値を測定し、測定した電流値及びスランプ値を関連付けて記録する。このような水分量の調整、モータ30の電流値の測定及びJIS法によるスランプ値の測定が繰り返され、モータ30の電流値とJIS法によるスランプ値とが関連付けられて複数回(図3では5回)記録される。その後、指数回帰式が用いられ、図3に示すように、モータ30の電流値とスランプ値との相関関係を示すマスターデータが生成される。図3において、グラフAは、工事Aで使用される生コンクリートに対するグラフであり、グラフBは、工事Bで使用される生コンクリートに対するグラフである。工事Aの生コンクリートと工事Bの生コンクリートとでは、セメントや骨材などの配合が異なっている。グラフA及びグラフBにおいては、R(決定係数)=0.9以上となり、高い相関が得られている。
【0035】
なお、グラフA及びグラフBのように、生コンクリートの配合などの違いによりモータ30の電流値とスランプ値との相関関係は異なるため、生コンクリートの配合毎にマスターカーブを作成する必要がある。ただし、生コンクリートの配合が同じであれば、現場初日のプラントや現場、室内試験場などのいずれかにおいて、マスターカーブを一度作成すれば、現場でのスランプ管理において、全台数の運搬車のスランプ値を簡易に管理することが可能である。
【0036】
次に、マスターカーブ生成後のスランプ測定では、現場において、前述のように回転軸40の一部及び各羽根50が測定者によって一輪車内の生コンクリートに挿入され、入力部60が測定者により入力操作される。この挿入状態で、所定の一定電圧(例えば、定格電圧)がモータ30に印加され、モータ30が駆動すると、回転軸40及び各羽根50が回転する。モータ30の電流値が測定部82により常時測定され、表示部83により表示される。測定者は、各羽根50が生コンクリート内で回転している状態で、表示部83に表示されたモータ30の電流値(安定した電流値)を視認し、携帯端末や筆記用具などにより記録し、また、記録したモータ30の電流値とマスターデータからスランプ値を求めて記録する。例えば、スリップフォーム工法のスランプ管理としては、目標のスランプ値が4cmとされ、許容範囲が±1cm以内とされる。なお、求められたスランプ値(推定スランプ値)が許容範囲外の2.5cmであり、生コンクリートが硬めであると予想される場合には、打設現場で表面部のモルタル浮き不足が確認された。
【0037】
前述のスランプ測定によれば、回転軸40の一部及び各羽根50が生コンクリート内に存在し、モータ30の駆動によって回転している状態で、モータ30の電流値が測定される。そして、測定されたモータ30の電流値からマスターデータに基づいてスランプ値が求められる。これにより、スランプ測定は熟練度などに依存せず、JIS法によるスランプ測定のような個人や測定ごとの誤差が生じることが抑えられ、さらに、JIS法によるスランプ測定のような切り返し作業や成形作業などが不要になるので、精度が高いスランプ測定を簡易に行うことができる。
【0038】
また、スランプ値は細骨材の表面水率の変化によって急激に変化することがある。このため、現場でスランプ値を検査するには、より多くのロッドを検査することが望ましい。前述のスランプ測定によれば、簡易にスランプ測定を行うことが可能になるため、スランプ測定の回数を午前と午後の各一回だけではなく、生コンクリートの現場到着毎にスランプ測定を行うことも可能であり、スランプ測定の回数を増やすことができる。
【0039】
なお、舗装などの現場で生コンクリートを購入する場合には、生コン販売者の運搬車(例えば、アジテータ車)により現場まで持ち込まれた生コンクリートを材料代+運賃の合計で購入することが一般的である。通常、運搬車は生コン販売者が保有する車であるため、生コン販売者の運搬車に対してスランプ値を測定するための改造などを行うことは難しく、運搬車ごとにスランプ値を測定することは困難である。運搬車ごとにスランプ値を測定しない場合には、スランプ値が許容範囲内に入らない生コンクリートを購入する恐れがある。一方、前述のスランプ測定機10は携帯可能であり、現場にスランプ測定機10を容易に導入することができる。これにより、運搬車ごとにスランプ値を簡易に測定することが可能になるので、スランプ値が許容範囲内に入らない生コンクリートを購入することを避けることができる。
【0040】
ここで、モータ30の電流値は負荷トルクに比例するため、モータ30の電流値を測定することで負荷トルクを把握することが可能である。負荷トルクは、各羽根50が生コンクリート内で回転する状態において、生コンクリートが各羽根50や回転軸40の回転を妨げる負荷の値(負荷値)である。この負荷トルクは、生コンクリート内で回転する各羽根50が生コンクリートから受ける抵抗の値(抵抗値)の一例である。なお、生コンクリート内で回転する各羽根50が生コンクリートから受ける抵抗値として、負荷トルク、すなわちモータ30の電流値を測定することを例示したが、これに限るものではなく、例えば、モータ30の回転数などを測定するようにしてもよい。
【0041】
(羽根の形状とモータのワット数)
次に、羽根50の形状とモータ30のワット数について説明する。
【0042】
羽根50の形状は、粗骨材を弾き飛ばすような形であること、羽根周辺のモルタル(セメント、砂及び水)にしっかり接することが必要である。プロペラ型の羽根において、相関値(例えば、決定係数)の高い結果が得られ、プロペラ型以外の形状の羽根では、相関値の高い結果が得られなかった。このため、羽根50としては、プロペラ型の羽根が用いられる。また、羽根50の形状が扇形の板形状であり、羽根50の本数が三本であり、それぞれの平面が回転軸40の延伸方向に対して平行である場合(図1参照)、相関値が一番高い結果が得られた。
【0043】
モータ30の出力は、回転軸40の一部及び各羽根50が生コンクリート内に挿入された状態で、生コンクリート内の回転軸40及び各羽根50を回転させることができる出力に設定されている。モータ30の出力が弱いと、各羽根50が生コンクリートの負荷(抵抗)に負けて回転しなくなるため、モータ30のワット数は、例えば100W以上であることが望ましい。
【0044】
(羽根の角度)
次に、羽根50の角度について図4を参照して説明する。なお、羽根50の形状は扇形の板形状であり、羽根50の本数は三本である(図1参照)。
【0045】
図4に示すように、回転軸40に対する羽根50の角度が0度以上45度以下である場合、相関値の高い結果(◎、○、△)が得られた。最も敏感にスランプ値を読み取ることができる一番目の角度は0度(水平面に対して90度)であり(◎)、次に敏感にスランプ値を読み取ることができる二番目の角度は0度より大きく30度以下であり(○)、三番目の角度は30度より大きく45度以下である(△)。角度が45度より大きい場合には、低いスランプ値の時にモータ30の電流値の差が小さく、スランプ値を敏感に読み取ることが難しくなる(×)。なお、各羽根50の角度が0度より大きい場合には、各羽根50は、それぞれ同じ方向、すなわち回転軸50の周方向(例えば、回転方向又は回転方向の逆方向)に同じ角度で傾いている。
【0046】
したがって、各羽根50は、前述のように、それぞれ板形状に形成されており、それぞれの平面が回転軸40の延伸方向に対して平行になるように設けられているが(図1参照)、これに限るものではなく、例えば、それぞれの平面が回転軸40の延伸方向に対して30度以下又は45度以下の角度で回転軸40の周方向に傾くように設けられていてもよい。なお、羽根50の平面が回転軸40の延伸方向に対して平行である角度が0度である。
【0047】
(羽根の位置)
次に、羽根50の位置について図5を参照して説明する。なお、羽根50の形状は扇形の板形状であり、羽根50の本数は三本であり、それぞれの平面が回転軸40の延伸方向に対して平行である(図1参照)。
【0048】
図5に示すように、回転軸40の先端(回転軸40の下端)と各羽根50の下端(各羽根50における回転軸40の先端側の端)との離間距離(例えば、鉛直離間距離)が0cmより大きく15cm以下である場合、相関値の高い結果(◎、△)が得られた。最も敏感にスランプ値を読み取ることができる一番目の離間距離は5cm以上10cm以下であり(◎)、次に敏感にスランプ値を読み取ることができる二番目の離間距離は0cmより大きく5cmより小さく(△)、あるいは、10cmより大きく15cm以下である(△)。離間距離が15cmより大きい場合には、スランプ値を敏感に読み取ることが難しくなる(×)。なお、スランプ測定は、一輪車の中で生コンクリートの深さが17cm程度である位置で行われた。
【0049】
前述の離間距離は、一輪車底板と羽根50との間に一定の隙間を確保するためのものである。羽根50の下端、すなわち羽根50の最も低い位置から一輪車の底板まで5cm以上を確保することが望ましい。この理由は、舗装用コンクリート中で最も大きい骨材(呼び名4020砕石)1個の直径に相当し、スランプ測定の際に底に沈殿する砕石の影響をできるだけ排除するためである。
【0050】
したがって、各羽根50は、それぞれの羽根50における回転軸40の先端側の端と回転軸40の先端とが、生コンクリート内で最大となる砕石の最長サイズ以上離れる位置、例えば、5cm以上離れる位置に設けられていることが望ましい。ただし、一輪車以外の場所、例えば、コンクリート舗装の打設現場(敷均し機の前に生コンクリートを荷下ろす位置)で簡易測定を行う場合には、生コンクリートの荷姿(山)が一輪車の中のときよりも大きく、鉄筋を組んだ上に存在する生コンクリートを測定することになる。この場合には、鉄筋に各羽根50が触れない安全な距離を確保するため、各羽根50より下に位置する回転軸40の長さを長めにした方がよい。
【0051】
(羽根の直径)
次に、羽根50の直径(回転直径)について図6を参照して説明する。なお、羽根50の形状は扇形の板形状であり、羽根50の本数は三本であり、それぞれの平面が回転軸40の延伸方向に対して平行である(図1参照)。ここで、羽根50の直径(回転直径)とは、各羽根50が回転したときの個々の羽根50の先端が描く円の直径である。
【0052】
図6に示すように、羽根50の直径が28cm以下である場合(一輪車のサイズやモータ30の出力などに起因する制限)、相関値の高い結果(◎、○、△)が得られた。最も敏感にスランプ値を読み取ることができる一番目の直径は5cm以上15cm以下であり(◎)、次に敏感にスランプ値を読み取ることができる二番目の直径は15cmより大きく25cm以下であり(○)、三番目の直径は0cmより大きく5cmより小さく(△)、あるいは、25cmより大きい(△)。
【0053】
したがって、羽根50の直径は5cm以上25cm以下であることが望ましい。ただし、一輪車内で簡易にスランプ測定を行うためには、一輪車側壁から10cm程度の距離だけ各羽根50を離すことやモータ30の出力を考慮すると、相関値の高い結果が得られるのであれば、羽根50の大きさはできるだけ小さい方が望ましい。
【0054】
(羽根の本数)
次に、羽根50の本数(枚数)について図7を参照して説明する。なお、羽根50の形状は扇形の板形状であり、その平面が回転軸40の延伸方向に対して平行である(図1参照)。
【0055】
図7に示すように、羽根50の本数が2本以上9本以下である場合、相関値の高い結果(◎、○、△)が得られた。最も敏感にスランプ値を読み取ることができる一番目の本数は3本又は4本であり(◎)、次に敏感にスランプ値を読み取ることができる二番目の本数は2本、5本又は6本であり(○)、三番目の本数は7本、8本又は9本である(△)。本数が1本である場合には、スランプ値を敏感に読み取ることが難しくなる(×)。
【0056】
したがって、羽根50の本数は2本以上6本以下であることが望ましい。なお、羽根50の本数は、多すぎても測定精度が悪く、1本では偏心の点からバランスが悪い。このため、3本から4本程度が他の本数に比べて測定精度が高くなる。また、羽根50を一段だけではなく、羽根50を上下方向に二段や三段などの複数段に設けることも可能である。ただし、前述のような各種の結果から得た知見として羽根50の上に、例えば、5cm程度の生コンクリートの被りがあると良いため、羽根50は上下で一段あるいは二段であることが望ましい。
【0057】
なお、前述のスランプ測定機10によれば、一輪車以外の容器として、丸底や平底を有する容器でも、マスターデータにおいて相関値の高い結果が得られた。丸底、平底及び一輪車のいずれでも高い相関が示され、低いスランプ値も敏感にモータ40の電流値に反映される。なお、コンクリート舗装の舗設現場での測定を考慮すると、アジテータ車から一輪車の中に生コンクリートを受けるため、一輪車の中で安定した測定を実現することが望ましい。
【0058】
また、生コンクリートの中で各羽根50を回転させた時に、生コンクリートのモルタル分が各羽根50の周辺に多少集まることが視認された。そこで、どの程度の粒径骨材が各羽根50の周りに移動しているかを確認するため、モータ30の電流値を測定した後、各羽根50の周辺の試料を採取し、0.075mmのふるいで水洗いを行い、乾燥後にふるい分析を行った。各羽根50の周辺の通過百分率と、各羽根50の周辺ではない場所の通過百分率はほぼ同じであり、材料が各羽根50の周辺にモルタル分が多少集まっても、スランプ測定に影響がないことが確認された。
【0059】
以上説明したように、実施の一形態によれば、各羽根50が生コンクリート内でモータ30の駆動により回転している状態で、各羽根50が生コンクリートから受ける抵抗の値である抵抗値として、例えば、負荷トルク、すなわちモータ30の電流値が測定部82により測定される。そして、測定されたモータ30の電流値からマスターデータに基づいてスランプ値が求められる。これにより、スランプ測定は熟練度などに依存せず、JIS法によるスランプ測定のような個人や測定ごとの誤差が生じることが抑えられ、さらに、JIS法によるスランプ測定のような切り返し作業や成形作業などが不要になるので、精度が高いスランプ測定を簡易に行うことができる。
【0060】
<他の実施形態>
前述の説明においては、測定者によりモータ30の電流値に基づいてマスターデータからスランプ値を求めることを例示したが、これに限るものではなく、例えば、マスターデータを制御部81の記憶部に保存しておき、そのマスターデータに基づいて制御部81によりスランプ値を求めるようにしてもよい。この場合、制御部81がマスターデータを記憶しており、測定部82により測定されたモータ30の電流値に基づいてマスターデータから自動的にスランプ値を求め、求めスランプ値を表示部83により表示する。なお、制御部81はスランプ値を求める取得部として機能する。このように自動的にスランプ値が求められるので、精度が高いスランプ測定をより簡易に行うことができる。
【0061】
また、前述の説明においては、表示部83によりモータ30の電流値や電圧値、電力値、電力量などを表示することを例示したが、これに限るものではなく、音声などの報知部により出力するようにしてもよい。なお、表示部83も、測定者などに情報を報知する報知部として機能する。
【0062】
また、前述の説明においては、測定ユニット80を本体20に設けることを例示したが、これに限るものではなく、例えば、測定ユニット80又はその測定ユニット80の一部(制御部81や測定部82、表示部83のいずれか)を測定者のベルトや作業着などに着脱可能に形成し、本体20と別に(別体として)設けるようにしてもよい。
【0063】
なお、本発明は、前述の実施形態に限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、前述の実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0064】
10 スランプ測定機
11 配線
12 配線
20 本体
21 円筒部
22 グリップ部
30 モータ
40 回転軸
50 羽根
60 入力部
70 取付部
71 曲板
71a 延伸部
71b 屈曲部
72 固定部材
80 測定ユニット
81 制御部
82 測定部
83 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7