(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法及び腐食検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/11 20060101AFI20230328BHJP
【FI】
G01N29/11
(21)【出願番号】P 2019150390
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515282669
【氏名又は名称】日本エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000235532
【氏名又は名称】非破壊検査株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】磯部 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 遼
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】星名 浩人
(72)【発明者】
【氏名】政門 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】加納 勇
(72)【発明者】
【氏名】青木 智弘
(72)【発明者】
【氏名】永井 辰之
(72)【発明者】
【氏名】松田 智宏
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015530(JP,A)
【文献】特開2010-071920(JP,A)
【文献】特開2017-181122(JP,A)
【文献】特開2001-153848(JP,A)
【文献】特開平10-318998(JP,A)
【文献】特開2016-027321(JP,A)
【文献】特開2015-161533(JP,A)
【文献】特開2005-061987(JP,A)
【文献】特開2018-004457(JP,A)
【文献】特開2005-083907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の露出部の外面に探触子を設置し、前記探触子から遠隔の前記検査対象物の非露出部に向けて超音波を入射させると共に前記非露出部からの反射波を受信し、受信した反射波を評価することにより前記非露出部の腐食の有無を検査する検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法であって、
前記探触子は、前記超音波としてSH表面波をバースト波として送信する送信振動子と、前記非露出部において反射した反射SH表面波を受信する受信振動子とを含み、
前記送信振動子及び前記受信振動子は、各振動子の超音波ビームの中心軸が前記非露出部の端部近傍で交差するように配向され、
自然腐食を模した模擬腐食部を有する試験体において予め基準波を生成しておき、
前記反射SH表面波と前記基準波とを比較することにより前記腐食の程度を評価する検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項2】
前記模擬腐食部の最大深さと、前記基準波における前記模擬腐食部に起因する信号のエコー高さと、前記基準波を測定した際の基準感度とを予め測定しておき、前記反射SH表面波を受信した際の測定感度と、前記反射SH表面波における前記腐食に起因するエコー高さとを測定し、これら測定した値に基づいて前記腐食の深さを算出する請求項1又は2記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項3】
前記反射SH表面波の内、所定のエコー高さを超える正常な反射信号により前記非露出部の検査範囲を特定する請求項1又は2記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項4】
前記SH表面波は、前記探触子の公称周波数が100kHz以上500kHz以下である請求項1~3のいずれかに記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項5】
前記送信振動子及び前記受信振動子は、その大きさが高さ20mm×幅20mm以上高さ50mm×幅50mm以下である請求項1~4のいずれかに記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項6】
前記検査対象物は河川等に立設した水中鋼製橋脚であり、前記検査対象物の露出部は前記河川等の水面よりも上方で前記水中鋼製橋脚の外周面を覆う外周鋼板が露出した部分であり、前記非露出部は前記外周鋼板をアスファルト及び防食板よりなる外装材で覆われた部分であり、前記探触子を前記防食板の上端より上方の前記外周鋼板の表面に配置し、前記水中鋼製橋脚の周方向へ走査させる請求項1~6のいずれかに記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項7】
前記探触子は、二探触子法によるものである請求項1~7のいずれかに記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項8】
前記探触子は、一探触子法によるものである請求項1~7のいずれかに記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法。
【請求項9】
検査対象物の露出部の外面に設置され、探触子の設置位置から遠隔の前記検査対象物の非露出部に向けて超音波を入射させると共に前記非露出部からの反射波を受信する探触子と、前記探触子で受信した反射波を評価する信号処理装置を備え、受信した反射波を評価することにより前記非露出部の腐食の有無を検査する検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査装置であって、
前記探触子は、前記超音波としてSH表面波をバースト波として送信する送信振動子と、前記非露出部において反射した反射SH表面波を受信する受信振動子とを含み、
前記送信振動子及び前記受信振動子は、各振動子の超音波ビームの中心軸が前記非露出部の端部近傍で交差するように配向され、
前記信号処理装置は、自然腐食を模した模擬腐食部を有する試験体において予め基準波を記憶する記憶部と、前記反射SH表面波と前記基準波とを比較することにより前記腐食の程度を評価する評価部とを有する検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査装置。
【請求項10】
前記記憶部は、前記模擬腐食部の最大深さと、前記基準波における前記模擬腐食部に起因する信号のエコー高さと、前記基準波を測定した際の基準感度とが予め記憶されていると共に、前記反射SH表面波を受信した際の測定感度と、前記反射SH表面波における前記腐食に起因するエコー高さとを記憶し、前記評価部は、前記記憶部に記憶されたこれらの測定した値に基づいて前記腐食の深さを算出する請求項9記載の検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法及び腐食検査装置に関する。さらに詳しくは、検査対象物の露出部の外面に探触子を設置し、前記探触子から遠隔の前記検査対象物の非露出部に向けて超音波を入射させると共に前記非露出部からの反射波を受信し、受信した反射波を評価することにより前記非露出部の腐食の有無を検査する検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法及び腐食検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述の如き腐食検査方法として、例えば特許文献1に記載の如きものが知られている。この方法では、超音波として横波を用い、腐食からの反射信号の信号幅と検査対象部の端面からの反射信号の信号幅との差分により腐食の有無を評価している。端面からの反射信号を評価に用いるため、反射信号が明瞭に得られない場合、本手法の適用が困難となっていた。また、本手法では、探触子に比較的近い部位が検査対象であるため、より遠方の腐食検査も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、探触子から離隔した遠隔(遠方)の検査対象部の腐食の有無を精度良く評価し得る検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法及び腐食検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法の特徴は、検査対象物の露出部の外面に探触子を設置し、前記探触子から遠隔の前記検査対象物の非露出部に向けて超音波を入射させると共に前記非露出部からの反射波を受信し、受信した反射波を評価することにより前記非露出部の腐食の有無を検査する方法において、前記探触子は、前記超音波としてSH表面波をバースト波として送信する送信振動子と、前記非露出部において反射した反射SH表面波を受信する受信振動子とを含み、前記送信振動子及び前記受信振動子は、各振動子の超音波ビームの中心軸が前記非露出部の端部近傍で交差するように配向され、自然腐食を模した模擬腐食部を有する試験体において予め基準波を生成しておき、前記反射SH表面波と前記基準波とを比較することにより前記腐食の程度を評価することにある。
【0006】
上記構成によれば、探触子は超音波としてSH表面波を送受信するものである。SH表面波は、超音波モードの変換がなく且つ超音波の減衰も少なく、直進性に優れている。そして、そのSH表面波をバースト波として送信するので、振動子を複数個設置することなく超音波のエネルギーを増強することができる。さらに、送信振動子及び受信振動子は、各振動子の超音波ビームの中心軸が非露出部の端部近傍で交差するように配向されている。従って、探触子の設置位置よりも遠方の部位を検査することができる。しかも、自然腐食を模した模擬腐食部からの反射信号を予め基準波を生成しておき、反射SH表面波と基準波とを比較する。ここで、SH表面波は、対象物の表面近傍を伝搬するので、反射SH表面波の大きさは腐食の断面形状に依存しやすい。よって、反射SH表面波と基準波とを比較することで、現実の腐食に起因する反射信号を基準に判定でき、検査精度も向上する。このように、探触子から離隔した遠方(遠隔)の検査対象部の腐食を精度良く評価することが可能となる。
【0007】
上記構成において、前記模擬腐食部の最大深さと、前記基準波における前記模擬腐食部に起因する信号のエコー高さと、前記基準波を測定した際の基準感度とを予め測定しておき、前記反射SH表面波を受信した際の測定感度と、前記反射SH表面波における前記腐食に起因するエコー高さとを測定し、これら測定した値に基づいて前記腐食の深さを算出するとよい。これにより、模擬腐食部のデータを用いて現実の腐食の深さを推定することができる。
【0008】
前記反射SH表面波の内、所定のエコー高さを超える正常な反射信号により前記非露出部の検査範囲(探触子からの距離)を特定するようにしてもよい。上述したように、SH表面波は、超音波モードの変換がなく且つ超音波の減衰も少なく、直進性に優れ、より遠方まで伝搬する。よって、例えば外周鋼板の溶接線や補強材等の位置(探触子からの距離)が既知の部材に起因する正常な反射信号によって検査範囲を特定できる。
【0009】
前記SH表面波は、前記探触子の公称周波数が100kHz以上500kHz以下であるとよい。この範囲内の低周波帯域であれば、超音波の減衰がより抑制されるので、検査精度をより向上させることができる。
【0010】
また、前記送信振動子及び前記受信振動子は、その大きさが高さ20mm×幅20mm以上高さ50mm×幅50mm以下であるとよい。一般の超音波振動子の大きさは、高さ10mm×幅10mm程度であるが、このように振動子を比較的大きくすることで、超音波のエネルギーをより増強することができ、検査精度をより向上させることができる。
【0011】
上記いずれかの構成において、前記検査対象物は河川等に立設した水中鋼製橋脚であり、前記検査対象物の露出部は前記河川等の水面よりも上方で前記水中鋼製橋脚の外周鋼板が露出した部分であり、前記非露出部は前記外周鋼板をアスファルト及び防食板よりなる外装材で覆われた部分であり、前記探触子を前記防食板の上端より上方の前記外周鋼板の表面に配置し、前記水中鋼製橋脚の周方向へ走査させるとよい。このような検査対象物において、外装材で覆われた水中鋼製橋脚の水中部分を水上から検査できる。
【0012】
前記探触子は二探触子法によるものであってもよく、前記探触子は一探触子法によるものであってもよい。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査装置の特徴は、検査対象物の露出部の外面に設置され、探触子の設置位置から遠隔の前記検査対象物の非露出部に向けて超音波を入射させると共に前記非露出部からの反射波を受信する探触子と、前記探触子で受信した反射波を評価する信号処理装置を備え、受信した反射波を評価することにより前記非露出部の腐食の有無を検査する構成において、前記探触子は、前記超音波としてSH表面波をバースト波として送信する送信振動子と、前記非露出部において反射した反射SH表面波を受信する受信振動子とを含み、前記送信振動子及び前記受信振動子は、各振動子の超音波ビームの中心軸が前記非露出部の端部近傍で交差するように配向され、前記信号処理装置は、自然腐食を模した模擬腐食部を有する試験体において予め基準波を記憶する記憶部と、前記反射SH表面波と前記基準波とを比較することにより前記腐食の程度を評価する評価部とを有することにある。
【0014】
また、前記記憶部は、前記模擬腐食部の最大深さと、前記基準波における前記模擬腐食部に起因する信号のエコー高さと、前記基準波を測定した際の基準感度とが予め記憶されていると共に、前記反射SH表面波を受信した際の測定感度と、前記反射SH表面波における前記腐食に起因するエコー高さとを記憶し、前記評価部は、前記記憶部に記憶されたこれらの測定した値に基づいて前記腐食の深さを算出するとよい。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明に係る検査対象物の遠隔非露出部の腐食検査方法及び腐食検査装置の特徴によれば、探触子から離隔した遠隔の検査対象部の腐食の有無を精度良く評価することが可能となった。
【0016】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る腐食検査方法の検査対象物の一例を示す概略図である。
【
図4】SH表面波を説明する図であり、(a)は概略斜視図、(b)は概略断面図である。
【
図5】(a)はバースト波を示す図、(b)はスパイク波を示す図である。
【
図6】補強材に起因する健全反射信号の検出例を示す図である。
【
図7】人工傷d1を設けたテストピースでの測定状態及び測定波形の一例を示す図である。
【
図8】人工傷d2を設けたテストピースにおける
図7相当図である。
【
図9】模擬腐食部を有する試験体の一例を示す写真である。
【
図10】現実の腐食部分を3Dスキャンしたスキャンデータの一例を示す図である。
【
図12】受信した反射SH表面波の信号波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施形態において、検査対象物100として、高速道路H等において河川等Wに設置された水中鋼製橋脚(以下、「橋脚」と称する)を例に説明する。
【0019】
図1,2に示すように、橋脚100は、河川等の底部に設置した基礎部101に立設された中詰コンクリートの橋脚本体102の周面に外周鋼板103が巻設された円柱である。橋脚本体102の基端部は、アンカーボルト101bを介して基礎部101に支持され、根巻きコンクリート101aにより固定されている。
【0020】
外周鋼板103の下端部103a近傍から河川等の水面F近傍までの外周鋼板103の外周部は、アスファルト104a及び防食板104bよりなる2層構造の外装材104により覆われている。外装材104の上下端部には、上鍔部105a及び下鍔部105bが設けられている。
【0021】
この橋脚100における露出部100Aは、水面Fより上方で外周鋼板103が露出した水上部である。一方、非露出部100Bは、水面Fより下方(水中)で外装材104により覆われた外周鋼板103が露出していない水中部である。本実施形態では、非露出部100Bにおける外周鋼板103の損傷(主に腐食損傷)を露出部100Aである水上部(地上)から検査する。検査対象部分となる非露出部100Bは、水面F近傍から7m程度の下方の範囲であるので、検査の際に超音波を遠方まで伝搬させなければならない。なお、外周鋼板103には、軸方向に適宜間隔をおいて隣接する鋼板を溶接した溶接線106や、外周鋼板103の外面又は内面に溶接されたL型アングル等の補強材107が形成されている。
【0022】
図3に示すように、本発明に係る腐食検査装置1は、大略、橋脚100の露出部100Aの外面に設置され、橋脚100の非露出部100Bに向けて超音波を入射させると共に非露出部100Bからの反射波を受信する探触子2と、探触子2で受信した反射波を評価する信号処理装置3を備え、受信した反射波を評価することにより非露出部100Bの腐食Dの有無を検査する。
【0023】
本実施形態において、探触子2は、
図3に示すように、超音波としてSH表面波Pをバースト波として送信する送信振動子2aを有する送信探触子21と、非露出部100Bにおいて反射した反射SH表面波Qを受信する受信振動子2bを有する受信探触子22とを備え、二探触子法を採用している。
【0024】
送信振動子2a(送信探触子21)及び受信振動子2b(受信探触子22)は、各振動子2a,2bの超音波ビームの中心軸A1,A2が非露出部100Bの端部近傍で交差するように配向されている。これにより、超音波ビームの中心軸A1,A2が交差する交点C(外周鋼板103の端部103aに近い遠方のところ)の周辺の反射信号を他の反射信号に比べ大きく検出することができ、水面Fより遠方(より深い)箇所の検査精度が向上する。
【0025】
また、本実施形態において、送信振動子2a及び受信振動子2bには、その大きさが高さ40mm×幅40mmのものを用いている。超音波振動子の大きさは、一般的には高さ10mm×幅10mm程度である。このように振動子を比較的大きくすることで、送信するSH表面波のエネルギーを増加させて、反射信号を明瞭に検出できるようにする。
【0026】
信号処理装置3は、例えばパーソナルコンピューターにより構成され、
図3に示すように、パルサー4を制御して送信探触子21からSH表面波Pをバースト波として発生させる。外周鋼板103に入射されたSH表面波Pは、外周鋼板103の表面に沿って伝搬し、非露出部100Bにおける腐食Dや溶接線106、補強材107で反射し、これら反射した反射SH表面波Qが受信探触子22で受信される。受信した反射信号(反射SH表面波Q)は、プリアンプ5により増幅されてレシーバー6で受信され、フィルタ7によりノイズが除去された状態でA/D変換部8によりデジタル信号に変換される。そして、信号処理装置3にて信号処理がなされ、表示部3aに表示される。
【0027】
信号処理装置3は、さらに、自然腐食を模した模擬腐食部FDを有する試験体Nにおいて予め基準波Qnを記憶する記憶部31と、反射SH表面波Qと基準波Qnとを比較することにより腐食Dの程度を評価する評価部32と、SH表面波Pの送信や腐食評価を指示・制御する制御部33とを備える。なお、信号処理装置3としてパーソナルコンピューターを用いたが、パルサー4、プリアンプ5、レシーバー6、フィルタ7、A/D変換器8と、信号処理装置3と同等に機能する信号処理部とを有する探傷装置10を用いてもよい。
【0028】
ここで、本発明に用いるSH表面波Pは、
図4に示すように、入射した超音波が検査対象(外周鋼板103)の表面に沿うように伝搬し且つその波の振動方向が検査対象の表面に対して水平方向(平行)となる横波である。斜角探傷で用いられる横波(SV波)は振動方向が検査対象の表面に対し垂直であり、振動モードの変換や表面の付着物や構造体等による減衰を受けやすい。一方、SH表面波Pでは、これらの影響を受けにくいので、上述の外装材104等による減衰を抑制でき遠方の腐食を検出することができる。
【0029】
さらに、本実施形態では、SH表面波Pをバースト波として送信する。バースト波とは、
図5(a)に示す如き複数の波(波形)が所定時間内において連続して出力されたものである。これにより、同図(b)に示す如きスパイク波と比較し、超音波の送信エネルギーを大きくでき、より遠方まで超音波を伝搬させ且つ反射信号も明瞭となる。なお、バースト波の波数は特に制限されないが、例えば2波~20波であるとよい。
【0030】
また、SH表面波Pは、探触子2の公称周波数が100kHz以上500kHz以下であるとよい。この範囲内の低周波帯域であれば、超音波の減衰がより抑制されるので、検査精度をより向上させることができる。さらに、各振動子2a,2bは比較的大型で且つ送信周波数は低周波帯域であるので、遠方に伝搬するに従い外周鋼板103に板厚全体に(厚み方向にも)拡がって伝搬する。そのため、外周鋼板103の溶接線106や外周鋼板103の内面又は外面に取り付けられた補強材107に起因する正常な反射信号Snも得られる。
図6に探触子2から7m離れた位置に存在する補強材107に起因する正常な反射信号Snの検出例を示す。このように、これらの周方向の位置や水面からの深さが既知であれば、これらの正常な反射信号に基づいて検査対象範囲(探触子からの離隔距離(深さ))を特定することができる。
【0031】
さらに、発明者らは、
図7,8に示すテストピースT,T’において、高さ40mm×幅40mmの振動子を有する探触子2を用い、送信周波数500kHz、8波のバースト波にて、反射SH表面波を測定した。その結果、
図7に示すように、探触子2からの距離1350mmの位置に形成したφ20mm×深さ6mmの人工傷d1を明瞭に検出できた。さらに、
図8に示すように、上記と同じ人工傷d1よりも手前に(探触子2側に)φ50mm×深さ9mmの人工傷d2が存在していても、人工傷d2と共に人工傷d1を明瞭に検出できた。このように、探触子2側の状況によらず、それより遠方の腐食も検出することができる。
【0032】
ところで、
図7,8の人工傷d1,d2は、実際に生じる腐食Dの形状とは大きく異なる。SH表面波は、上述したように、検査対象の表面を沿うように伝搬するため、腐食Dの断面形状によって反射信号の大きさが異なる。同図の人工傷d1,d2では、傷の周面が表面に対し直交するので、表面SH波Pは反射しやすい。一方、現実の腐食部では、
図9に示すように、腐食の周面(底面)は表面方向になだらか(周面の勾配が緩やか)で且つ不規則に形成されるため、反射波は小さくなる。反射波の大きさは、主に、腐食の大きさ(深さ)とともに周面の勾配と関係している。なお、
図9,10の紙面の上下方向は現実の鉛直方向であり、同図面の上側が探触子2が配置される露出部100A側となる。
【0033】
そこで、本発明では、自然腐食を模した模擬腐食部FDを有する試験体Nを作製し、作製した試験体Nにおいて、
図11に示す如き基準波Qnを予め測定(生成)しておく。模擬腐食部FDに起因する反射信号を含む基準波Qnを基準パルスとすることで、比較対象が現実に即したものとなり、検査精度を向上させることができる。
【0034】
次に、検査手順について説明する。
まずは、上述したように、検査対象となる外周鋼板103と同じ材質の鋼板を用いて、自然腐食を模した模擬腐食部FDを有する試験体Nを製作する。模擬腐食部FDの形成は、現実の橋脚等において発生した腐食部分をシリコンゴム等で型どりして、それを元にレプリカを作成し鋼板を彫刻する。なお、形状のチェック及び深さの測定は、例えばくし形の型取り計を用いて行う。また、現実の腐食部分を3Dスキャンし、
図10に示す如き周方向位置(距離)を横軸(水平方向)とした3Dスキャンデータに基づいて鋼板を加工してもよい。このように、作製した試験体Nの模擬腐食部FDの腐食量(深さ)は、既知となる。現実の腐食部分の断面形状(特に周面の勾配)は、
図10に示す如く、腐食量(深さ)の大きさとは関係がなく同様であるため、同種の腐食検査に対して共通して使用できる。
【0035】
次に、試験体Nにおいて、実際の検査に用いる探触子2を実際の検査と同一条件で探傷し、例えば
図11に示す如き基準波Qnを受信する。これにより、例えば、既知の深さとして模擬腐食部FDの最大腐食(最大深さ)に起因する反射信号Snに対する信号強度(エコー高さ)SPnが得られる。なお、最大腐食深さ等の模擬腐食部FDのデータ、使用したSH表面波の周波数、発信波数、感度(Gain)等の探傷条件、反射信号Snの信号強度SPn等の測定データや基準波Qnの波形データ等は、信号処理装置3の記憶部31に記憶される。なお、この例では、模擬腐食部FDの最大腐食は4.6mm、信号強度(エコー高さ)SPnは0.8として記憶される。
【0036】
そして、実際の検査において、防食板104bの上端に位置する上鍔部105aの上方の外周鋼板103の表面に送信探触子21及び受信探触子22を配置し、外周鋼板103の下端部103aに向けてSH表面波Pを送信し、上鍔部105aより下方の非露出部100Bからの反射SH表面波Qを受信し、例えば
図12に示す如き信号波形を得る。
【0037】
ここで、信号波形と基準波形とを比較する。
本実施形態においては、信号波形において、腐食Dからの反射信号Sの信号強度(エコー高さ)SPを求め、模擬腐食部FDからの反射信号Snの信号強度(エコー高さ)SPnに基づいて腐食量(深さ)を下記式(1)~(4)より求める。
なお、下記式(1)~(4)において、現地検査における信号強度(SP)をA、探傷感度をα(dB)、腐食深さをX(mm)とし、試験体Nにおける信号強度SPnをB、探傷感度をβ(dB)、模擬腐食部FDの腐食深さをd(mm)とする。
【0038】
探傷信号Vは、係数Gで除した(V/G)を常用対数(log)で表し、単位をdBとする。ここで、係数Gを機械内固定信号値とすると、下記(1)式にて表すことができる。
V/G=(仮に、VdBとする)=20log10V/G・・・(1)
【0039】
そして、V1とV2との物理値の比(V1/V2)をdBで表現すると、下記式(2)(3)に示す如く、差として表すことができる。
20log10V1/V2(dB)=V1(dB)-V2(dB)・・・(2)
V1/V2=10((V1-V2)/20)・・・(3)
【0040】
よって、現地での反射SH表面波の信号から推定される腐食深さX(mm)は、下記式(4)により算出される。
腐食深さX=基準信号の深さd×(信号強度A/信号強度B)×(感度βとαとの比)
=基準信号の深さd×(信号強度A/信号強度B)×10((β(dB)-α(dB))/20)・・・(4)
【0041】
図11に示す基準波Qnでは、同図に示すように、模擬腐食部FDからの反射信号SPnの信号強度(波高値B)を0.8とした。一方、
図12に示す実際の反射SH表面波Qでは、同図に示すように、腐食Dからの反射信号Sの信号強度(波高値A)0.46とした。他の条件は、下記表1の通りである。よって、上述の式(4)に代入すると、以下のように算出される。
X=4.6×0.46/0.8×10
((40.2-60.2)/20)≒0.26(mm)
【0042】
【0043】
さらに、上述のSH表面波の送受信を、橋脚100の周方向に適宜間隔(例えば、100mmピッチ)をおいて繰り返し行う。これにより、外周鋼板103の全周を検査することができ、腐食Dの分布を推定することが可能となる。
【0044】
最後に、本発明の他の実施形態の可能性について言及する。なお、上述の実施形態と同様の部材には同一の符号を附してある。
上記実施形態において、検査対象物として円柱状の水中鋼製橋脚100を例に説明したが、角柱の橋脚でも適用可能である。また、露出部100Aとして、水面Fより上方で外周鋼板103が露出した水上部を例に説明したが、探触子を直接設置できる箇所(部位)であれば構わない。さらに、非露出部100Bとして、水面Fより下方(水中)で外装材104により覆われた外周鋼板103が露出していない水中部を例に説明したが、コンクリート中、土中等、検査対象箇所(部位)が他の部材(物質)で覆われている箇所であればよい。
【0045】
上記実施形態において、探触子2として、送信振動子2aを有する送信探触子21と、受信振動子2bを有する受信探触子22とを用い、二探触子法とした。しかし、二探触子法に限らず、送信及び受信を1つの探触子で行う一探触子法でを採用することも可能である。但し、一探触子法では、送信振動子2aと受信振動子2bとが近接しているため、探触子2近傍の信号も受信されるため、検査精度の点で上記実施形態が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高速道路や陸橋等の橋脚等の水中又は地中における探触子から離隔した遠隔の非露出部の腐食検査方法及び腐食検査装置として利用することができる。また、照明柱、信号柱、標識柱等の柱状体の地中埋設部の腐食検査方法及び腐食検査装置としても利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:腐食検査装置、2:探触子、2a:送信振動子、2b:受信振動子、2z:楔、3:信号処理装置、3a:表示部、4:パルサー、5:プリアンプ、6:レシーバー、7:フィルタ、8:A/D変換部、10:探傷装置、21:送信探触子、22:受信探触子、31:記憶部、32:評価部、33:制御部、100:水中鋼製橋脚(検査対象物)、100A:露出部、100B:非露出部、101:基礎部、101a:根巻きコンクリート、101b:アンカーボルト、102:橋脚本体(中詰コンクリート)、103:外周鋼板、103a:下端部、104:外装材、104a:アスファルト、104b:防食板、105a:上鍔部、105b:下鍔部、106:溶接線(溶接部)、107:補強材(補強部)、A1,A2:中心軸、C:交点、D:腐食、d1,d2:人工傷、FD:模擬腐食部、F:水面、G:地中、H:高速道路、N:試験体、P:SH表面波、Q:反射SH表面波、Qn:基準波、S,S’,S1,S2:反射信号、Sn:正常な反射信号、Sp,Sp’:信号強度、T,T’:テストピース、W:水中(河川)