(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】診断支援システムおよび制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/361 20210101AFI20230328BHJP
A61B 5/352 20210101ALI20230328BHJP
【FI】
A61B5/361
A61B5/352
(21)【出願番号】P 2019184841
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-129954(JP,A)
【文献】特開2017-006230(JP,A)
【文献】特表2019-502437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0052957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/318 - 5/367
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の心電図を計測する心電図計測部と、
前記心電図計測部により計測された心電図データに基づいて、時系列的に隣り合うR波のピーク間隔である心拍間隔における心房細動の特徴を表す心房複雑電位を判定する心房複雑電位判定部と、
前記心房複雑電位判定部による判定結果を前記対象者に固有の判定データとして時系列的に記憶するデータ記憶部と、
前記データ記憶部から読み出した前記対象者における所定期間にわたって収集された前記判定データに基づいて、当該期間内の発生頻度に応じた頻度ヒストグラムを生成する頻度ヒストグラム生成部と、
前記頻度ヒストグラム生成部による前記対象者における前記頻度ヒストグラムに基づいて、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習を行う判断学習部と
を備えることを特徴とする診断支援システム。
【請求項2】
前記心房複雑電位判定部により判定される心房複雑電位は、心房波の発生頻度および連続的に発生する心房電位の組合せである
ことを特徴とする請求項1に記載の診断支援システム。
【請求項3】
前記頻度ヒストグラム生成部による前記対象者における前記頻度ヒストグラムを表示する表示部と、
前記表示部に表示されている前記頻度ヒストグラムに対して、対応する前記対象者が患う心房細動の進行度合いを医師が診断結果として入力する入力部と、
前記対象者について、前記判断学習部による判断学習の結果と、前記入力部による前記医師の診断結果とを参照し、前記心房細動の進行度合いを判断するための基準を示す基準関数を生成する基準関数生成部と
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の診断支援システム。
【請求項4】
前記基準関数生成部により生成された前記基準関数により、前記頻度ヒストグラム生成部による前記対象者における前記頻度ヒストグラムから当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断する進行度合判断部
を備えることを特徴とする請求項3に記載の診断支援システム。
【請求項5】
前記心房細動の進行度合いは、前記心電図データに基づく心電図波形の基線が細かく動揺しており、かつP波が存在せず、前記心拍間隔が不規則である状態が進行する度合いである
ことを特徴とする請求項3または4に記載の診断支援システム。
【請求項6】
診断支援システムに、
対象者の心電図を計測して得られる心電図データに基づいて、時系列的に隣り合うR波のピーク間隔である心拍間隔における心房細動の特徴を表す心房複雑電位を判定する第1ステップと、
前記第1ステップによる判定結果を前記対象者に固有の判定データとして時系列的にデータ記憶部に記憶しておく第2ステップと、
前記データ記憶部から読み出した前記対象者における所定期間にわたって収集された前記判定データに基づいて、当該期間内の発生頻度に応じた頻度ヒストグラムを生成する第3ステップと、
前記第3ステップによる前記対象者における前記頻度ヒストグラムに基づいて、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習を行う第4ステップと
からなる一連の処理を実行させるための制御プログラム。
【請求項7】
前記第1ステップにより判定される心房複雑電位は、心房波の発生頻度および連続的に発生する心房電位の組合せである
ことを特徴とする請求項6に記載の
制御プログラム。
【請求項8】
請求項6または7に記載の診断支援システムに、
前記第3ステップによる前記対象者における前記頻度ヒストグラムを表示部に表示しておき、当該表示部に表示されている前記頻度ヒストグラムに対して、対応する前記対象者が患う心房細動の進行度合いが診断結果として外部入力された際、前記対象者について、前記第4ステップによる判断学習の結果と、当該診断結果とを参照し、前記心房細動の進行度合いを判断するための基準を示す基準関数を生成する第5ステップ
からなる処理を続けて実行させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載の診断支援システムに、
前記
第5ステップにより生成された前記基準関数により、前記第3ステップによる前記対象者における前記頻度ヒストグラムから当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断する
第6ステップ
からなる処理を続けて実行させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項10】
前記心房細動の進行度合いは、前記心電図データに基づく心電図波形の基線が細かく動揺しており、かつP波が存在せず、前記心拍間隔が不規則である状態が進行する度合いである
ことを特徴とする請求項6から9までのいずれか一項に記載の
制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援システムおよび診断支援方法に関し、特に心臓の不整脈をモニタリングしながら持続性の心房細動を判定する診断支援システムおよび診断支援方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
心房細動は、我が国における死因の上位を占める心不全や脳梗塞を起こす重篤な疾患である。心房細動の有効な治療として、経皮的カテーテル心筋焼灼術がある。この経皮的カテーテル心筋焼灼術は心臓内部で計測した心電図を元に医師が焼灼部位を判定し、高周波通電を用いて、電気的に細胞を壊死させることにより心房細動を治療する手術である。
【0003】
経皮的カテーテル心筋焼灼術の焼灼部位として、心房複雑電位(CFAEs:Complex Fractionated Atrial Electrograms)の計測される部位が重要な標的であることが従来から知られている。
【0004】
心房複雑電位とは、120[ms]未満の短い間隔で発生する心房波と連続的に電位が発生する心房電位である連続電位という2つの特徴が1つ以上存在する心電図信号であり、心房細動を持続させることに寄与する。
【0005】
従来から経皮的カテーテル心筋焼灼術における心房複雑電位の判定は、視覚により確認する手法以外にも、周波数解析や閾値判定による自動判定手法が提案されている。これらの周波数解析や閾値判定を用いた手法により、心房複雑電位の特徴の一つである短い間隔の心房波を判定することが可能となった。
【0006】
しかし、連続的に電位が発生する心房電位である連続電位の計測される部位への焼灼も、経皮的カテーテル心筋焼灼術における焼灼標的として有効であるものの、自動判定を行う手法の確立には至っていないのが現状である。
【0007】
従来から心房細動の検出方法としては、複数の脈波のうち全ての発生間隔を平均した平均発生間隔を中心とする予め設定された発生間隔判定範囲内にない発生間隔を有する不規則脈波を抽出し、複数の脈波の全ての発生間隔の数に対する不規則脈波の数の割合が予め設定された異常発生間隔発生割合判定値よりも大きい場合に、生体の心房細動が発生していると判定するようにした心房細動判定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
またユーザの心臓活動に関連する生体信号であるそれぞれの拍動と直前の拍動との間の拍動間隔を連続する拍動間隔シーケンスとして作成し、当該拍動間隔シーケンスを、連続する拍動間隔からなる既定の時間的長さの複数の有限のシーケンスセグメントに分割しておき、各シーケンスセグメントにおいて、拍動間隔シーケンスに関連するデータの分散を表す散布図を作成してシーケンスセグメントを暗号化する。
【0009】
そして散布図の各特定の領域にプロットされたプロットポイントの量を表すヒストグラムを作成して当該散布図を暗号化し、散布図のプロットポイントの合計で各ビン(ヒストグラムに含まれる既定幅かつ既定数のビン)のビンカウントを除算してヒストグラムを正規化することにより、シーケンスセグメントが心房細動のリズムまたは非心房細動のリズムである確率を決定するようになされたユーザの心房細動の兆候を解析および同定するための方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
さらに被検者の心臓の拍動間隔を測定して得られる拍動間隔データから当該被検者の心臓の拍動に由来しない不正な拍動間隔を除外した後、その除外後データを用いて心房細動が発生したか否かを判定して表示手段に表示することにより、被検者の心房細動の有無を検出する心房細動検出システムが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018-153487号公報
【文献】特表2019-502437号公報
【文献】特開2019-129954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献1では、複数の心拍同期波の数に対する異常発生間隔心拍同期波の数の割合に応じて心房細動か否かを判定する手法であるが、予め設定した基準範囲を閾値とするため、判定精度の向上には限界がある。
【0013】
また特許文献2では、連続する拍動間隔に基づくシーケンスセグメントが心房細動のリズムまたは非心房細動のリズムである確率を人工ニューラルネットワークを用いて決定するものであるが、医師による実際の判断結果を含むことなく、心房細動のリズム検出のアルゴリズムの精度向上に努めているにすぎない。
【0014】
さらに特許文献3では、心臓の拍動間隔から不正な拍動間隔を除外して信号細動の有無を検出するにとどまり、実際の医師による判断結果とは無関係である。
【0015】
実際に心房細動の症状については、患者本人が自覚している場合も少なく、医師が判断するには1ヶ月程度の期間分の拍動間隔を測定しておく必要があるため、患者の判断と医師の判断とが曖昧になるケースが多い。
【0016】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、持続性の心房細動を医師が正確に判断できるように支援する診断支援システムおよび制御プログラムを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するため本発明においては、診断支援システムについて、対象者の心電図を計測する心電図計測部と、心電図計測部により計測された心電図データに基づいて、時系列的に隣り合うR波のピーク間隔である心拍間隔における心房細動の特徴を表す心房複雑電位を判定する心房複雑電位判定部と、心房複雑電位判定部による判定結果を対象者に固有の判定データとして時系列的に記憶するデータ記憶部と、データ記憶部から読み出した対象者における所定期間にわたって収集された判定データに基づいて、当該期間内の発生頻度に応じた頻度ヒストグラムを生成する頻度ヒストグラム生成部と、頻度ヒストグラム生成部による対象者における頻度ヒストグラムに基づいて、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習を行う判断学習部とを備えるようにした。
【0018】
この診断支援システムでは、対象者の心電図データから得られる所定期間分の心房複雑電位の判定結果に基づく発生頻度に応じた頻度ヒストグラムに基づいて、対象者が患う心房細動の進行度合いを判断して学習するようにしたことにより、持続性の心房細動を対象者自身が認識できない状況下でも医師が正確に診断することができるように支援することが可能となる。
【0019】
また本発明においては、心房複雑電位判定部により判定される心房複雑電位は、心房波の発生頻度および連続的に発生する心房電位の組合せである。この結果、診断支援システムでは、経皮的カテーテル心筋焼灼術の焼灼部位を求めるための計測指標となる心房複雑電位(CFAEs)を自動的に判定することができる。
【0020】
さらに本発明においては、頻度ヒストグラム生成部による対象者における頻度ヒストグラムを表示する表示部と、表示部に表示されている頻度ヒストグラムに対して、対応する対象者が患う心房細動の進行度合いを医師が診断結果として入力する入力部と、対象者について、判断学習部による判断学習の結果と、入力部による医師の診断結果とを参照し、心房細動の進行度合いを判断するための基準を示す基準関数を生成する基準関数生成部とを備えるようにした。
【0021】
この結果、診断支援システムでは、医師が表示部に表示されている対象者の頻度ヒストグラムを目視確認しながら、所定期間にわたる対象者の心房細動の進行度合いを医師が入力部を介して入力することにより、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習の精度を格段と向上させることができる。
【0022】
さらに本発明においては、診断支援システムに、対象者の心電図を計測して得られる心電図データに基づいて、時系列的に隣り合うR波のピーク間隔である心拍間隔における心房細動の特徴を表す心房複雑電位を判定する第1ステップと、第1ステップによる判定結果を対象者に固有の判定データとして時系列的にデータ記憶部に記憶しておく第2ステップと、データ記憶部から読み出した対象者における所定期間にわたって収集された判定データに基づいて、当該期間内の発生頻度に応じた頻度ヒストグラムを生成する第3ステップと、第3ステップによる対象者における頻度ヒストグラムに基づいて、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習を行う第4ステップとからなる一連の処理を制御プログラムに実行させるようにした。
【0023】
この結果、診断支援システムの制御プログラムでは、対象者の心電図データから得られる所定期間分の心房複雑電位の判定結果に基づく発生頻度に応じた頻度ヒストグラムに基づいて、対象者が患う心房細動の進行度合いを判断して学習するようにしたことにより、持続性の心房細動を対象者自身が認識できない状況下でも医師が正確に診断し得るように支援することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように本発明によれば、対象者に身体的負荷をかけることなく医師が心房細動の進行度合いを正確に診断し得るように支援することができる診断支援システムおよび制御プログラムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る診断支援システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す情報管理装置における制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】持続性の心房細動を患う対象者の心電図を示すグラフである。
【
図4】心房波の除去前後の対象者の心電図を示すグラフである。
【
図5】心房波の判定結果に対する閾値超えの説明に供するグラフである。
【
図6】心房波を除去した後の心房複雑電位を示すグラフである。
【
図7】心房波を除去した後の2乗の電位や閾値の算出結果を示すグラフである。
【
図8】心房複雑電位の判定処理の説明に供するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0027】
(1)本発明による診断支援システムの構成
図1は本実施の形態における診断支援システム1は、対象者の左胸部に非侵襲に装着される複数の電極からなる心電図センサ(心電図計測部)2と、当該対象者の手首に装着される通信端末部3とを有する。
【0028】
心電図センサ2は、対象者の心筋の興奮による生じる活動電位を示す心電図を連続的に計測しながら、当該計測結果である心電図データを無線または有線にて腕時計型の通信端末部3に送信する。通信端末部3は、心電図データを内部メモリ(図示せず)に記憶するとともに、インターネット等の通信ネットワーク4を介して通信可能な情報管理装置10に送信する。
【0029】
情報管理装置10は、装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit)からなる制御装置11と、通信端末部か3ら通信ネットワーク4を介して通信インタフェース12にて受信される心電図データを記憶するデータ記憶部13とを有する。
【0030】
制御装置11は、心房複雑電位判定部20と、頻度ヒストグラム生成部21と、判断学習部22とを有する。心房複雑電位判定部20は、通信インタフェース12を介して受信した心電図データに基づいて、時系列的に隣り合うR波のピーク間隔である心拍間隔における心房細動の特徴を表す心房複雑電位を判定し、当該判定結果を対象者に固有の判定データとしてデータ記憶部13に記憶する。
【0031】
頻度ヒストグラム生成部21は、データ記憶部13から読み出した対象者における所定期間にわたって収集された判定データに基づいて、当該期間内の発生頻度に応じた頻度ヒストグラムを生成する。
【0032】
判断学習部22は、頻度ヒストグラム生成部21による対象者における頻度ヒストグラムに基づいて、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習を行う。
【0033】
さらに診断支援システム1においては、情報管理装置10に加えて、医師が対象者の心房細動の進行度合いを診断するための医師側端末部30が通信ネットワーク4を介してワイヤレス接続されている。この医師側端末部30は、タッチパネル型の無線通信端末であり、通信インタフェース31を介して受信した各種情報に基づく映像等を表示する表示部32と、指先を用いた接触により入力操作が可能なタッチパネル式の入力部33と、本端末全体を統括制御する端末制御部34とを有する。
【0034】
(2)制御装置における診断支援処理
ここで、心電図センサ2により測定した心電図を
図2(A)~(C)に示す。心房波が120[ms]以上の間隔で計測される特徴がある、心房細動が生じていない心房複雑電位の心電図を
図2(A)に示し、短い間隔の心房波と連続電位の二つの特徴が確認できる心房複雑電位の心電図をそれぞれ
図2(B)および(C)に示す。
【0035】
経皮的カテーテル心筋焼灼術において、心房複雑電位の判定を行う心房から計測される心電図は、心房電位と同時に心室波が計測される場合がある。この心室波は持続性心房細動に寄与しないため、体表で計測した心室波を用いて、心房で計測される心電図信号から心室波を除去する。
【0036】
体表で計測される心室波の判定には、後述する心房波間隔判定アルゴリズムを用いる。除去する心室波の興奮時間は60[ms]から100[ms]である。
【0037】
制御装置11において、心房複雑電位判定部20は、心房波間隔判定アルゴリズムによって判定した体表の各心室波に対し、最大値を求め、心房で計測した電位に対して、各心室波の最大値が判定された時間の前後30[ms]に計測された電位を0[mV]にする。
【0038】
心房で計測された心電図と心室波除去後の心電図をそれぞれ
図3(A)および(B)に示す。
図3の(B)は、
図3(A)から、心室波を除去した心房電位である。
【0039】
心房複雑電位判定部20は、
図3(B)のように、計測された心電図データから心室波除去処理を施した心電図データを用いて、心房複雑電位の特徴である短い間隔の心房波と連続電位を判定する。
【0040】
心房複雑電位判定部20は、心房波間隔判定アルゴリズムを用いて、心房複雑電位の特徴の一つである短い間隔の心房波を判定する。具体的には、
図2(B)に示すような、心房波の間隔が120[ms]未満である部分を判定する。
【0041】
まず心房複雑電位判定部20は、心電図データ中の心房波と連続電位との差を強調し、電位を正値にするため、電位e
1(t)を2乗する。e
1(t)
2に対して心房波間隔の判定を行う。心房波の電圧値は、計測部位、心臓の筋肉量等により大きく変動するため、波形毎に閾値を生成する必要がある。そこで、2乗した各電位e
1(t)
2に対して、電位e
1(t)の分散を用いて閾値e
th1を生成し、当該閾値e
th1を次式(1)にて定義する。
【数1】
【0042】
図2(B)に対する2乗した電位e
1(t)
2および閾値e
th1を
図4に示す。この心房波間隔判定アルゴリズムを用いて、200[ms]間隔で2乗した電位e
1(t)
2が閾値e
th1を超える回数が求められる。
図2(B)に対して、閾値e
th1を超える回数を求めた結果が
図5に示される。
【0043】
ここで、閾値を超える回数が2回以上のとき、心房波の間隔が120[ms]未満となり、短い間隔の心房波と判定される。
図5の網掛け部に示すような閾値を超える回数が2回以上である部分の閾値を超えた回数を積分した値I
1を算出する。値I
1の値が大きい程、心房複雑電位の特徴である短い間隔の心房波が存在することを示す。
【0044】
心房波の最小値を決定するパラメータK1は、3人の持続性の心房細動患者(男性2名、女性1名、平均年齢59±6.4)から計測した計30の心電図を用いた判定結果から設定した。医師が判定した心房波に対して、この心房波間隔判定アルゴリズムにより検出した心房波の正診率が100[%]となるパラメータK1=3に設定した。
【0045】
続いて心房複雑電位判定部20は、連続電位判定アルゴリズムを用いて、
図2(B)および(C)に示す連続電位を判定する。連続電位は、連続的に計測される心房電位であるが、ここでは振れ幅の大きい心房電位(心房波)とは区別する必要がある。そのため、連続電位判定アルゴリズムにより判定された心房波を電位から除去し、当該アルゴリズムで心房波を判定することを避ける。
図6に連続電位判定アルゴリズムにより判定された心房波を除去した電位e
2(t)を実線、除去された心房波を点線でそれぞれ示す。
【0046】
連続電位は連続した振動する心房電位であり、その電圧値は、計測部位、心臓の筋肉量等により変動する。そこで心房波の最大値から閾値を生成し、閾値を超えた部分を連続電位として判定する。心房波の最大値e
maximumから、連続電位を判定するための閾値e
th2を次式(2)にて定義する。
【数2】
【0047】
設定された閾値に対して、閾値を超えた回数の積分値を値I2として計算する。値I2は連続電位の継続時間を表しており、値I2が大きい程、電位が持続的で安定した心房複雑電位であることを示す。
【0048】
連続電位の最小値を決定するパラメータK
2は、パラメータK
1と同様の計30の心電図を用いた判定から設定した。心電図に対して、医師が連続電位の見られる電位と連続電位の見られない電位に判定した結果と連続電位判定アルゴリズムにより判定された連続電位の正診率が最も高い93[%]となるK
2=1/40に設定した。
図6の心房波を除去した電位e
2(t)に対して2乗の電位e
2(t)
2と閾値e
th2を求めた結果を
図7に示す。
【0049】
心房複雑電位判定部20は、心房波間隔判定アルゴリズムにより求めた値I1と、連続電位判定アルゴリズムにより求めた値I2を用いて、心房複雑電位の特徴である短い間隔の心房波と連続電位の2項目から心房複雑電位を判定する。値I1は短い間隔の心房波の発生頻度を反映しており、値I2は連続電位の持続時間を反映している。
【0050】
続いて心房複雑電位判定部20は、心房複雑電位の特徴である短い間隔の心房波と連続電位の2項目を反映した値I
1、値I
2と計測時間t
mから、心房複雑電位の二つの特徴が発生する頻度を表す値(発生頻度値)Qを次式(3)により算出する。
【数3】
【0051】
本手法では、短い間隔の心房波と連続電位を反映した値Qの値に閾値QThresholdを設定し、心房複雑電位と非心房複雑電位の自動判定を行う。Q≦QThresholdの場合、その電位を非心房複雑電位とし、Q>QThresholdの場合、心房複雑電位として判定する。
【0052】
非心房複雑電位および心房複雑電位の閾値Q
Thresholdは、パラメータK
1、K
2の設定で対象とした3人とは別の持続性心房細動患者7人(男性6名、女性1名、平均年齢56±7.8)から計測した53の電位(心房複雑電位:20、非心房複雑電位:33)に対して値Qを求め、心房複雑電位と非心房複雑電位の判定の正診率が最も高い94[%]となる閾値Q
Threshold=4と設定した。53の電位(心房複雑電位:20、非心房複雑電位:33)に対し、本手法により計算された値Qの結果を
図9(A)に示す。
【0053】
上述した心房複雑電位判定部20による心房複雑電位または非心房複雑電位を判定するフローチャートを
図8に示す。情報管理装置10の制御装置11における心房複雑電位判定部20は、対象者が装着する通信端末部3から心電図データを受け取ると、
図8に示す心房複雑電位判定処理手順RT1をステップSP0から開始する。
【0054】
心房複雑電位判定部20は、対象者の表面心電図(体表で計測した心電図)を用いた心房波間隔判定アルゴリズムにより心房波を検出した後(ステップSP1)、心房波をフィルタリングにより除去する(ステップSP2)。
【0055】
続いて心房複雑電位判定部20は、心房波間隔判定アルゴリズムにより心房波の発生頻度を反映する値I1を算出した後(ステップSP3)、連続電位判定アルゴリズムにより連続電位の持続時間を反映する値I2を算出する(ステップSP4)。
【0056】
そして心房複雑電位判定部20は、値I1および値I2を用いて発生頻度値Qを算出し(ステップSP5)、当該発生頻度値Qを自動判定基準となる所定の閾値QThresholdと比較する(ステップSP6)。
【0057】
心房複雑電位判定部20は、このステップSP6において、発生頻度値Qが閾値より大きい場合には、心房複雑電位として判定する一方(ステップSP7)発生頻度値Qが閾値以下の場合には、非心房複雑電位として判定し(ステップSP8)、当該処理手順RT1を終了する(ステップSP9)。
【0058】
実際に以下に示すような実験を実行して本発明手法の有効性を検証する。すなわち、パラメータK1、K2、閾値QThresholdの設定で対象とした10人とは別の8人の持続性心房細動患者(男性6名、女性2名、平均年齢60±10)の心臓内部から計測された心電図に対する自動判定を行う実験を通して、本発明の有効性を検証した。
【0059】
心電図は4秒から32秒間計測された計100の心電図を用いた。それぞれの電位に対して、心房波の間隔が120[ms]未満である、連続電位が存在するという心房複雑電位の定義に従い、医師が心房複雑電位と非心房複雑電位の判定を行った。その結果、計100の電位は心房複雑電位が62、非心房複雑電位が38であった。この100の電位を用いて、心房複雑電位と非心房複雑電位の自動判定を行った。
【0060】
心房複雑電位の特徴である短い間隔の心房波と連続電位の2項目から心房複雑電位の判定を行う本手法を用いて、心房複雑電位と非心房複雑電位の自動判定行い、自動判定結果の正診率から、心房細動における心房複雑電位の自動判定に対する本発明手法の有効性を検証した。
【0061】
従来技術である高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)による判定手法によって解析を行った。20[Hz]以下でパワースペクトルが最大となる周波数DF(Dominant Frequency)について、心房複雑電位の特徴である心房波の間隔が120[ms]未満であることから8.3[Hz]をDFの閾値とする。DFが8.3[Hz]未満である電位を非心房複雑電位、DFが8.3[Hz]以上である電位を心房複雑電位として判定を行った。本提案手法と従来手法の正診率から有効性を検証する。
【0062】
本発明手法を用いて、心房複雑電位と非心房複雑電位を自動判定した結果を示す。8人の持続性心房細動患者の心房から計測された計100の心電図信号(心房複雑電位:62、非心房複雑電位:38)に対して、本手法により算出したQの値を
図9(B)に示す。これにより、計100の電位(心房複雑電位:62、非心房複雑電位:38)に対して、陽性適中率(positive predictive value)は97[%]、陰性適中率(negative predictive value)は88[%]、正診率(accuracy)は93[%]で判定することができた。
【0063】
同様の8人の持続性心房細動患者の心房から計測された計100の電位(心房複雑電位:62、非心房複雑電位:38)に対して、FFTを用いた解析手法によりDFを算出した結果を
図9(C)に示す。FFTを用いた解析手法により算出したDFから自動判定した結果、計100の電位(心房複雑電位:62、非心房複雑電位:38)に対して、陽性適中率は71[%]、陰性適中率は42[%]、正診率は50[%]で判定することができた。
【0064】
本発明手法と従来手法を比較すると、陽性適中率、陰性適中率、正診率のすべてにおいて、本発明手法はより高い精度で心房複雑電位と非心房複雑電位を自動判定することができた。
【0065】
また
図9(C)に示すように、従来手法の心房複雑電位に対する自動判定の適中率を示す感度は32[%]であったのに対して、
図9(B)に示すように、提案手法の心房複雑電位に対する自動判定の結果は感度92[%]であった。この結果は、心房波間隔を判定する従来手法と比較して、短い間隔の心房波と連続電位の2項目から心房複雑電位を判定する本発明手法が、従来手法で定義された心房複雑電位より高い精度で判定可能であることを示す。
【0066】
(3)本実施の形態による心房細動の進行度合いの判断学習
上述のように心房複雑電位判定部20は、心房複雑電位および非心房複雑電位を判定し、当該判定結果を表す判定データをデータ記憶部13に記憶する。その後、頻度ヒストグラム生成部21は、データ記憶部13から読み出した対象者における所定期間にわたって収集された判定データに基づいて、当該期間内の発生頻度に応じた頻度ヒストグラムを生成する。
【0067】
判断学習部22は、頻度ヒストグラム生成部21による対象者における頻度ヒストグラムに基づいて、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習を行う。すなわち、経皮的カテーテル心筋焼灼術の焼灼部位を求めるための計測指標となる心房複雑電位の判定結果を所定期間にわたって収集して得られる頻度ヒストグラムに基づいて、判断学習部22は、対象者の心房細動の進行度合いを判断して学習する。
【0068】
この結果、持続性の心房細動を対象者自身が認識できない状況下でも医師が正確に診断することができるように支援することが可能となる。
【0069】
(4)医師による診断方法
診断支援システム1においては、医師が医師側端末部30を用いて、対象者の心房細動の進行度合いを診断する。医師側端末部30では、表示部32に頻度ヒストグラム生成部21による対象者における頻度ヒストグラムが表示された状態で、医師が当該頻度ヒストグラムを目視確認しながら、入力部33を用いて、対象者が患う心房細動の進行度合いを診断結果として入力する。
【0070】
端末制御部(基準関数生成部)34は、対象者について、判断学習部22による判断学習の結果と、入力部33による医師の診断結果とを参照し、心房細動の進行度合いを判断するための基準を示す基準関数を生成する。
【0071】
この結果、診断支援システム1では、医師が表示部32に表示されている対象者の頻度ヒストグラムを目視確認しながら、所定期間にわたる対象者の心房細動の進行度合いを医師が入力部33を介して入力することにより、当該対象者が患う心房細動の進行度合いを判断するための判断学習の精度を格段と向上させることができる。
【0072】
(5)他の実施の形態
なお上述のように本実施の形態においては、診断支援システム1を、対象者の胸部に心電図センサ2を非接触で装着するとともに当該対象者の手首に通信端末部3を装着するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、対象者の体表からの心電図を非侵襲で計測することができれば、これ以外の種々の構成に広く適用するようにしてもよい。ただし、所定期間(4週間)程度の間継続して計測することができるように、対象者への身体的負荷が極力かからない構成にするのが望ましい。
【0073】
また本実施の形態においては、頻度ヒストグラム生成部21は、頻度ヒストグラムを生成するための対象者における判定データを収集する所定期間として、4週間を設定した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、1週間以上であれば医師との相談の上で最適なデータ収集期間を所定期間として設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…診断支援システム、2…心電図センサ(心電図計測部)、3…通信端末部、4…通信ネットワーク、10…情報管理装置、11…制御装置、12、31…通信インタフェース、13…データ記憶部、20…心房複雑電位判定部、21…頻度ヒストグラム生成部、22…判断学習部、30…医師側端末部、32…表示部、33…入力部、34…端末制御部、RT1…心房複雑電位判定処理手順。