(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】航空機の運航支援システム、航空機の運航支援方法及び航空機の運航支援プログラム
(51)【国際特許分類】
B64F 5/40 20170101AFI20230328BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20230328BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20230328BHJP
【FI】
B64F5/40
G05B19/418 Z
G06Q10/20
(21)【出願番号】P 2019193879
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】山岸 保司
(72)【発明者】
【氏名】静野 薫
(72)【発明者】
【氏名】中平 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】安東 幸希
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】渕上 尚美
(72)【発明者】
【氏名】毛利 直人
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-106178(JP,A)
【文献】特開2018-200681(JP,A)
【文献】特開2016-24187(JP,A)
【文献】特開2001-206297(JP,A)
【文献】特開2003-002298(JP,A)
【文献】特表2010-524750(JP,A)
【文献】特開2012-071829(JP,A)
【文献】特表2018-520946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64F 5/40
G05B 19/418
G06Q 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の識別情報と飛行時間を前記航空機から自動的に取得する運航情報取得部と、
前記航空機の飛行時間に基づいて前記航空機の部品の交換時期を自動的に特定する交換時期特定部と、
前記部品の交換時期に基づいて前記部品の発注時期を自動的に決定する発注時期決定部と、
を有する航空機の運航支援システム。
【請求項2】
前記運航情報取得部は、前記航空機に備えられるエンジンの駆動時間を更に取得し、
前記交換時期特定部は、前記エンジンの駆動時間に基づいて前記航空機の部品のうち前記エンジンに関連する部品の交換時期を更に自動的に特定する請求項1記載の航空機の運航支援システム。
【請求項3】
前記航空機の交換対象となる複数の部品の各交換時期を、新しい部品に交換した後の前記航空機の累積飛行時間又は新しい部品に交換した後の前記エンジンの累積駆動時間と対応付けて部品ごとに保存する交換時期記憶部を更に有し、
前記交換時期特定部は、前記交換時期記憶部を参照し、交換時期が前記航空機の累積飛行時間と対応付けられている部品については前記運航情報取得部で取得された前記航空機の飛行時間に基づいて前記部品の交換時期を特定する一方、交換時期が前記エンジンの累積駆動時間と対応付けられている部品については前記運航情報取得部で取得された前記エンジンの駆動時間に基づいて前記部品の交換時期を特定する請求項2記載の航空機の運航支援システム。
【請求項4】
前記交換時期特定部は、前記航空機の過去の飛行時間の時間変化の直線近似又は曲線近似を行って前記航空機の将来の飛行時間を予測し、予測した前記将来の飛行時間に基づいて前記部品の交換時期を特定する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運航支援システム。
【請求項5】
前記発注時期決定部は、前記部品の発注から納品までに要するリードタイムを、前記部品の交換時期から遡る時期を前記部品の発注時期に決定する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の運航支援システム。
【請求項6】
前記発注時期決定部は、回転翼機のブレード、回転翼機のトランスミッション、回転翼機のドライブシャフト、固定翼機のプロペラ及び固定翼機のエンジンに関連する部品の少なくとも1つを含む、疲労寿命が設定されている複数の部品の各発注時期を決定する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の運航支援システム。
【請求項7】
前記運航情報取得部、前記交換時期特定部及び前記発注時期決定部を地上に設け、
前記運航情報取得部は、前記航空機の識別情報と飛行時間の発信を要求する第1の信号を地上に設置された第1の無線機を通じて無線で前記航空機に向けて発信し、前記第1の信号への応答として前記航空機に備えられる第2の無線機から発信される第2の信号を前記第1の無線機を通じて受信することによって、前記航空機の識別情報と飛行時間を取得する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の運航支援システム。
【請求項8】
前記航空機に設けられ、前記第2の無線機を通じて前記第1の信号を受信した場合に、前記航空機の識別情報と飛行時間を前記第2の信号として前記第2の無線機を通じて発信させる運航情報発信部を更に有する請求項7記載の航空機の運航支援システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の運航支援システムを用いて前記航空機の部品の発注時期を自動的に決定する航空機の運航支援方法。
【請求項10】
航空機の識別情報と飛行時間をコンピュータで前記航空機から自動的に取得するステップと、
前記航空機の飛行時間に基づいて前記航空機の部品の交換時期を前記コンピュータで自動的に特定するステップと、
前記部品の交換時期に基づいて前記部品の発注時期を前記コンピュータで自動的に決定するステップと、
を有する航空機の運航支援方法。
【請求項11】
コンピュータに、
航空機の識別情報と飛行時間を前記航空機から自動的に取得するステップ、
前記航空機の飛行時間に基づいて前記航空機の部品の交換時期を自動的に特定するステップ、及び
前記部品の交換時期に基づいて前記部品の発注時期を自動的に決定するステップ、
を実行させる航空機の運航支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、航空機の運航支援システム、航空機の運航支援方法及び航空機の運航支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機の運航を支援するための様々なシステムが提案されている。例えば、航空機の整備を地上において支援するためのシステム、航空機の飛行中において航法情報等を自動的に追跡するためのシステム、航空機と地上との間で通信を行うためのシステム等が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-520946号公報
【文献】特開2012-071829号公報
【文献】特表2010-524750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、航空機の部品交換に起因する航空機の稼働停止期間(ダウンタイム)を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る航空機の運航支援システムは、航空機の識別情報と飛行時間を前記航空機から自動的に取得する運航情報取得部と、前記航空機の飛行時間に基づいて前記航空機の部品の交換時期を自動的に特定する交換時期特定部と、前記部品の交換時期に基づいて前記部品の発注時期を自動的に決定する発注時期決定部とを有するものである。
【0006】
また、本発明の実施形態に係る航空機の運航支援方法は、上述した運航支援システムを用いて前記航空機の部品の発注時期を自動的に決定するものである。
【0007】
また、本発明の実施形態に係る航空機の運航支援方法は、航空機の識別情報と飛行時間をコンピュータで前記航空機から自動的に取得するステップと、前記航空機の飛行時間に基づいて前記航空機の部品の交換時期を前記コンピュータで自動的に特定するステップと、前記部品の交換時期に基づいて前記部品の発注時期を前記コンピュータで自動的に決定するステップとを有するものである。
【0008】
また、本発明の実施形態に係る航空機の運航支援プログラムは、コンピュータに、航空機の識別情報と飛行時間を前記航空機から自動的に取得するステップ、前記航空機の飛行時間に基づいて前記航空機の部品の交換時期を自動的に特定するステップ、及び前記部品の交換時期に基づいて前記部品の発注時期を自動的に決定するステップを実行させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る航空機の運航支援システムの構成図。
【
図3】航空機の部品の交換時期と発注時期を予測する方法の一例を示すグラフ。
【
図4】航空機を構成する部品ごとの使用期間と製造に要するリードタイムの違いを表すグラフ。
【
図5】
図1に示す航空機の運航支援システムにより航空機の部品の発注時期を自動的に決定して交換する際の流れの一例を示すシーケンスチャート。
【
図7】
図1に示す運航支援システムによる部品発注時期の決定を含む航空機の部品交換の流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る航空機の運航支援システム、航空機の運航支援方法及び航空機の運航支援プログラムについて添付図面を参照して説明する。
【0011】
(航空機の運航支援システム)
図1は本発明の実施形態に係る航空機の運航支援システムの構成図である。
【0012】
運航支援システム1は、航空機2をサポートする航空機メーカ3が消耗部品等の交換を要する様々な部品を航空機2のユーザ4に適切な時期に提供することによって航空機2のダウンタイムの低減を図るシステムである。交換対象となる部品は、例えば、航空機メーカ3が部品サプライヤ5に発注し、部品サプライヤ5において製造することができる。もちろん、航空機メーカ3の製造部門に部品を発注し、航空機メーカ3の製造部門において製造しても良い。
【0013】
航空機2は、固定翼機、回転翼機、有人航空機、無人航空機(UAV:Unmanned aerial vehicle)、有人航空機と無人航空機のハイブリッド航空機であるOPV(Optionally Piloted Vehicle)のいずれであっても良い。UAVはドローンとも呼ばれ、無人のマルチコプタやヘリコプタ等の回転翼航空機が代表的である。OPVはパイロットが搭乗して操縦することも可能な無人航空機である。
【0014】
交換及び手配の対象となる部品の代表的な具体例としては、航空機2が回転翼機であれば、ロータブレード、トランスミッション及びドライブシャフト等の疲労寿命がある部品が挙げられる。一方、航空機2が固定翼機であれば、プロペラ、圧力隔壁及びエンジンの構成部品等の疲労寿命がある部品が挙げられる。交換対象となる航空機2の部品は、通常、100種類以上あり、作業者が多数の部品の使用期間の記録をとりながら交換時期の管理を行うことは非常に煩雑な作業となる。
【0015】
しかも、各部品の疲労による消耗は部品の使用期間によって進行するが、航空機2の飛行期間中に消耗する部品と、航空機2が飛行していなくても航空機2のエンジンが駆動していれば消耗する部品がある。航空機2の飛行期間中に消耗する部品は、航空機2の飛行時間の累計が部品の使用期間となる。一方、航空機2のエンジンの駆動期間中に消耗する部品は、航空機2が地上を滑走又は走行したり、待機している場合であっても、エンジンが駆動していれば消耗することになる。従って、航空機2のエンジンの駆動期間中に消耗する部品の使用期間は、エンジンの駆動時間の累計となり、航空機2の飛行期間中に消耗する部品の使用期間よりも長くなる。このため、部品ごとに異なる基準で使用期間を評価することが必要となる。
【0016】
そこで、運航支援システム1は、航空機2の多数の部品の交換時期及び発注時期を自動的に決定する機能を有している。運航支援システム1は、航空機メーカ3に設置されるコンピュータ6等の電子回路と、航空機2に搭載される制御システム7を構成するコンピュータ等の電子回路に、運航支援プログラムを読込ませて構築することができる。
【0017】
具体例として、運航支援システム1は、航空機メーカ3に設置されるコンピュータ6を、運航情報取得部1A、交換時期特定部1B、発注時期決定部1C及び交換時期記憶部1Dとして機能させる一方、航空機2に搭載される制御システム7に運航情報発信部1Eとしての機能を付与したシステムとすることができる。
【0018】
この場合、航空機メーカ3に設置されるコンピュータ6にインストールされる運航支援プログラムは、コンピュータ6を運航情報取得部1A、交換時期特定部1B、発注時期決定部1C及び交換時期記憶部1Dとして機能させるプログラムとなり、航空機2に搭載される制御システム7にインストールされる運航支援プログラムは、コンピュータを運航情報発信部1Eとして機能させるプログラムとなる。また、運航情報取得部1A、交換時期特定部1B、発注時期決定部1C及び交換時期記憶部1Dは地上のコンピュータ6に設けられ、運航情報発信部1Eは航空機2に設けられることになる。
【0019】
運航情報取得部1Aは、単一又は複数の航空機2の識別情報と飛行時間を少なくとも含む運航情報を各航空機2からそれぞれ自動的に取得する機能を、交換時期特定部1Bは、運航情報取得部1Aにおいて取得された各航空機2の飛行時間等の運航情報に基づいて各航空機2の各部品の交換時期をそれぞれ自動的に特定する機能を、発注時期決定部1Cは、交換時期特定部1Bにおいて特定された各部品の交換時期に基づいて各部品の発注時期をそれぞれ自動的に決定する機能を、交換時期記憶部1Dは、各航空機2の飛行時間等の運航情報に基づいて各航空機2の部品の交換時期を特定するための参照情報を保存する機能を、運航情報発信部1Eは、搭載対象となる航空機2の識別情報と飛行時間を含む運航情報を運航情報取得部1Aに向けて発信させる機能を、それぞれ有している。
【0020】
従って、航空機メーカ3に設置されるコンピュータ6にインストールされる運航支援プログラムは、コンピュータ6に、単一又は複数の航空機2の運航情報を各航空機2からそれぞれ自動的に取得するステップ、各航空機2の運航情報に基づいて各航空機2の各部品の交換時期をそれぞれ自動的に特定するステップ及び特定した各部品の交換時期に基づいて各部品の発注時期をそれぞれ自動的に決定するステップを実行させるプログラムとなる。一方、航空機2に搭載される制御システム7にインストールされる運航支援プログラムは、航空機2の制御システム7に、航空機2の識別情報と飛行時間を含む運航情報を運航情報取得部1Aに向けて発信させるステップを実行させるプログラムとなる。
【0021】
地上に設置される運航情報取得部1Aと、航空機2に搭載される運航情報発信部1Eとの間における通信は、航空機2に備えられる既存の設備を利用して行うことができる。航空機2には、通常、無線機を含むトランスポンダ8が備えられている。このため、航空機メーカ3側にも航空機2のトランスポンダ8と通信を行うための無線機9を設けることができる。すなわち、航空機メーカ3側のコンピュータ6に、航空機2のトランスポンダ8と通信を行うための無線機9を接続することができる。もちろん、航空機2の管制センタに設置されている既存の無線機を利用しても良い。
【0022】
加えて、地上に設置される運航情報取得部1Aと、航空機2に搭載される運航情報発信部1Eとの間において通信衛星10を利用した衛星通信を行えるようにしても良い。その場合には、航空機2及び地上の双方に衛星通信用の無線機11、12が備えられる。すなわち、航空機2の制御システム7に衛星通信用の無線機11を接続する一方、航空機メーカ3側のコンピュータ6にも衛星通信用の無線機12を接続することができる。
【0023】
トランスポンダ8の通信距離は、概ね数百キロメートルである。従って、運航情報取得部1Aがトランスポンダ8の通信距離にある航空機2のみと通信を行うようにすれば、航空機2に通信設備を追加せずに通信を行うことができる。逆に、衛星通信を利用すれば、トランスポンダ8の通信距離に制約されずに航空機2と地上の運航情報取得部1Aとの間における通信を行うことが可能となる。もちろん、トランスポンダ8を利用せずに、衛星通信のみによる無線通信としても良い。また、他の通信規格の通信を使用しても良い。
【0024】
航空機2の制御システム7には、トランスポンダ8又は衛星通信を利用して航空機2の識別情報と飛行時間を含む運航情報を地上に向けて発信する運航情報発信部1Eとしての機能が備えられる。このため、地上の運航情報取得部1Aからの要請を受けて、航空機2から自動的に運航情報を発信することができる。
【0025】
具体的には、航空機メーカ3側の運航情報取得部1Aが、航空機2の運航情報の発信を要求する質問信号を地上に設置された無線機9又は無線機12を通じて無線で航空機2に向けて発信すると、航空機2に搭載された運航情報発信部1Eは、航空機2に備えられるトランスポンダ8又は無線機11を通じて質問信号を受信する。一方、運航情報発信部1Eは、質問信号を受信すると、航空機2の運航情報を回答信号としてトランスポンダ8又は無線機11通じて発信させる。これにより、航空機メーカ3側の運航情報取得部1Aは、質問信号への応答として航空機2のトランスポンダ8又は無線機11から発信される回答信号を無線機9又は無線機12を通じて受信し、航空機2の運航情報を取得する。
【0026】
運航情報発信部1Eにおいて取得される運航情報は、部品の交換時期を予測するための部品の使用時間の把握に用いられる。上述したように、部品の使用時間は航空機2の飛行時間の累計とみなせる場合と、エンジンの駆動時間の累計とみなせる場合がある。そこで、航空機2の運航情報発信部1Eから航空機メーカ3側の運航情報取得部1Aに発信される航空機2の運航情報には、航空機2の識別情報と飛行時間に加えて、航空機2に備えられるエンジンの駆動時間を含めることができる。
【0027】
すなわち、運航情報取得部1Aでは、少なくとも航空機2の識別情報と飛行時間を含み、エンジンの駆動時間に応じて部品の交換時期を予測する場合にはエンジンの駆動時間も含む運航情報を航空機2ごとに取得することができる。運航情報取得部1Aで取得された航空機2の運航情報は、交換時期特定部1Bに通知される。
【0028】
交換時期特定部1Bでは、上述したように航空機2の運航情報に基づいて将来の部品の交換時期が特定される。部品の交換時期は、各航空機2の飛行時間又はエンジンの駆動時間に基づいて事前に特定することができる。
【0029】
図2は、航空機2の運航情報の具体例を示すグラフである。
【0030】
図2の上のグラフは、航空機Aの運航情報を示し、
図2の下のグラフは別の航空機Bの運航情報を示す。各グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は航空機A、Bの飛行時間及びエンジンの駆動時間を示す。また、各グラフ中において、実線は航空機A、Bの飛行時間を、点線は航空機A、Bに備えられるエンジンの駆動時間を、棒グラフは航空機A、Bの各フライトの飛行時間及びエンジンの駆動時間を、折れ線は航空機A、Bの飛行時間及びエンジンの駆動時間の累積を、それぞれ示す。
【0031】
図2に例示されるように、経過時間が同じであっても、航空機A、Bごとに飛行時間の累積と、エンジンの駆動時間の累積は異なる。例えば、
図2において、航空機Aのフライト数は、記録期間中において4回であり、航空機Bのフライト数は、記録期間中において3回であるが、航空機Bの1フライト当たりの平均飛行時間が、航空機Aの1フライト当たりの平均飛行時間よりも長いため、航空機Bの飛行時間の累積の方が、航空機Aの飛行時間の累積よりも長くなっている。
【0032】
また、航空機A、Bが空港等で走行又は滑走している間にもエンジンが駆動していることからエンジンの駆動時間は飛行時間よりも長くなる。また、航空機A、Bが待機している間にエンジンが駆動していれば、エンジンの駆動時間に加算されることになる。
【0033】
このため、交換時期特定部1Bでは、航空機2及び部品ごとに、航空機2の飛行時間の累積又はエンジンの駆動時間の累積に基づいて部品の交換時期を特定することができる。すなわち、航空機2の飛行時間によって部品の交換時期が定まる部品については、航空機2の飛行時間の累積に基づいて部品の交換時期を特定し、エンジンの駆動時間によって部品の交換時期が定まる部品については、エンジンの駆動時間の累積に基づいて部品の交換時期を特定することができる。
【0034】
図3は、航空機2の部品の交換時期と発注時期を予測する方法の一例を示すグラフである。
【0035】
図3において横軸は前回の部品の交換時期からの経過時間を示し、縦軸は航空機2の累積飛行時間を示す。
図3に示すように、前回の部品の交換時期から現在までの経過時間の間における航空機2の累積飛行時間に基づいて、将来の部品の交換時期を推定することができる。
【0036】
具体的には、航空機2の過去の累計飛行時間の時間変化の直線近似又は曲線近似を行うと、航空機2の将来の飛行時間を予測することができる。
図3は、航空機2の累計飛行時間の時間変化を直線で近似した例を示している。過去の累計飛行時間の時間変化を最小2乗法等によりフィッティングして直線又は曲線を求めると、将来の累計飛行時間を計算することができる。
【0037】
そこで、
図3に例示されるように、部品の使用期間の上限値に相当する航空機2の累計飛行期間を閾値に設定し、航空機2の累計飛行時間を表す近似直線又は近似曲線の閾値処理を行えば、将来の部品の交換時期を算定することができる。すなわち、予測した将来の航空機2の飛行時間に基づいて部品の交換時期を特定することができる。
【0038】
尚、
図3は、航空機2の部品の交換時期を航空機2の累計飛行時間に基づいて特定する場合の例を示しているが、航空機2の部品のうちエンジンに関連する部品の交換時期をエンジンの累計駆動時間に基づいて特定する場合についても同様である。
【0039】
交換時期特定部1Bにおいて、部品の交換時期が特定されると、特定された部品の交換時期が交換時期特定部1Bに通知される。そうすると、発注時期決定部1Cにおいて、
図3に示すグラフの下にガントチャートで図示されるように、部品の交換時期までに部品が納品されるように、部品の発注時期を決定することができる。具体的には、部品の発注から納品までに要するリードタイムを、部品の交換時期から遡る時期を部品の発注時期に決定することができる。換言すれば、部品の残りの使用期間から部品の製作時間等を含むリードタイムを減算した期間後の日を、部品の発注時期に決定することができる。
【0040】
図4は、航空機2を構成する部品ごとの使用期間と製造に要するリードタイムの違いを表すグラフである。
【0041】
図4の各グラフにおいて横軸は時間を示し、縦軸は航空機2の累積飛行時間を示す。異なる部品Aと部品Bが同一の航空機2を構成する場合であっても、使用期間及び製造に要するリードタイムが異なる場合がある。このため、部品Aと部品Bの使用を同時に開始したとしても、
図4に示すように部品Aと部品Bの発注時期と交換時期は互いに異なる時期となる。
【0042】
航空機2の累積飛行時間の変化率が同一であっても、部品A,B間において使用期間の上限値が異なる場合には、
図4に示すように航空機2の累積飛行時間に対する閾値が異なるため、部品交換の周期が互いに異なる周期となる。従って、次回の部品A,Bの交換時期を予測するための航空機2の累積飛行時間の起算時となる前回の部品A、Bの交換時期が互いに異なる時期となる。このため、交換時期特定部1B及び発注時期決定部1Cは、部品A、Bごとに、それぞれ交換時期及び発注時期を特定及び決定するように構成される。これは、部品A,Bの交換時期及び発注時期を、エンジンの累積駆動時間に基づいて特定及び決定する場合においても同様である。
【0043】
そのためには、新しい部品に交換した後の航空機2の累積飛行時間又は新しい部品に交換した後のエンジンの累積駆動時間と、部品の使用期間及び交換時期とを対応付けた情報、具体的には、新しい部品に交換した後の航空機2の累積飛行時間に対する閾値又は新しい部品に交換した後のエンジンの累積駆動時間に対する閾値を、予め参照情報として決定しておくことが必要となる。
【0044】
そこで、交換時期記憶部1Dには、航空機2の交換対象となる複数の部品の各交換時期及び使用期間が、新しい部品に交換した後の航空機2の累積飛行時間又は新しい部品に交換した後のエンジンの累積駆動時間と対応付けて部品ごとに保存される。具体的には、各部品の交換時期及び使用期間を表す参照情報として、新しい部品に交換した後の航空機2の累積飛行時間に対する閾値又は新しい部品に交換した後のエンジンの累積駆動時間に対する閾値が、参照情報として交換時期記憶部1Dに保存される。部品ごとの交換時期及び使用期間を表す閾値は、入力装置13の操作によって随時追加又は更新することができる。
【0045】
これにより、交換時期特定部1Bでは、交換時期記憶部1Dを参照し、交換時期が航空機2の累積飛行時間と対応付けられている部品については運航情報取得部1Aで取得された航空機2の飛行時間に基づいて部品の交換時期を特定する一方、交換時期がエンジンの累積駆動時間と対応付けられている部品については運航情報取得部1Aで取得されたエンジンの駆動時間に基づいて部品の交換時期を特定することができる。
【0046】
尚、航空機2の交換部品の中には、リードタイムが短い部品も存在する。このため、リードタイムが長い主要な部品に絞って交換時期特定部1B及び発注時期決定部1Cでそれぞれ部品の交換時期及び発注時期を特定及び決定するようにしても良い。例えば、交換時期特定部1B及び発注時期決定部1Cで、回転翼機のブレード、回転翼機のトランスミッション、回転翼機のドライブシャフト、固定翼機のプロペラ及び固定翼機のエンジンに関連する部品の少なくとも1つを含む、疲労寿命が設定されている複数の部品の各交換時期及び各発注時期を特定及び決定するようにしても良い。
【0047】
発注時期決定部1Cにおいて決定された各部品の発注時期は、航空機メーカ3に備えられるコンピュータ6の表示装置14に表示させることができる。これにより、航空機2をサポートする航空機メーカ3の担当者は、航空機2の各部品を適切な時期に部品サプライヤ5等に発注することができる。もちろん、部品サプライヤ5側に備えられる部品の受注管理システムと運航支援システム1とをネットワークで接続し、各部品の発注を自動化しても良い。
【0048】
(航空機の運航支援方法)
次に航空機2の運航支援システム1を用いた航空機2の運航支援方法について説明する。
【0049】
図5は、
図1に示す航空機2の運航支援システム1により航空機2の部品の発注時期を自動的に決定して交換する際の流れの一例を示すシーケンスチャートである。
【0050】
まずステップS1において、航空機メーカ3に備えられる運航支援システム1からユーザ4の航空機2に向けて運航情報の発信が要求される。具体的には、運航支援システム1の運航情報取得部1Aが航空機2の運航情報を問合わせる質問信号を生成し、生成した質問信号を航空機メーカ3に備えられる無線機9又は無線機12から無線信号として発信させる。
【0051】
そうすると、航空機2に備えられるトランスポンダ8で質問信号が受信される。或いは、通信衛星10を利用した衛星通信によって、航空機2に備えられる無線機11で、質問信号が受信される。
【0052】
次に、ステップS2において、航空機2から運航情報が発信される。具体的には、航空機2を制御する制御システム7の運航情報発信部1Eが、航空機メーカ3から発信された質問信号を取得し、制御システム7の記憶装置に記録されている航空機2の飛行時間とエンジンの駆動時間を参照する。そして、運航情報発信部1Eは、参照した航空機2の飛行時間とエンジンの駆動時間を航空機2の識別情報と関連付けて航空機2の運航情報を表す回答信号を生成し、生成した回答信号を航空機2に備えられるトランスポンダ8又は衛星通信用の無線機11から無線信号として発信させる。
【0053】
次に、ステップS3において、航空機メーカ3に備えられる運航支援システム1により、航空機2の運航情報が取得される。具体的には、運航支援システム1の運航情報取得部1Aが航空機メーカ3に備えられる無線機9又は無線機12を通じて航空機2から発信された回答信号を取得する。これにより、運航情報取得部1Aは、
図2に例示されるような航空機2の識別情報と関連付けられた航空機2の飛行時間とエンジンの駆動時間を含む運航情報を取得することができる。すなわち、航空機2の運航情報を航空機メーカ3に備えられるコンピュータ6で航空機2から自動的に取得することができる。
【0054】
次に、ステップS4において、航空機メーカ3に備えられる運航支援システム1により、航空機2を構成する各部品の交換時期が予測される。すなわち、航空機2の運航情報に基づいてコンピュータ6で航空機2の部品の交換時期を自動的に特定することができる。具体的には、運航支援システム1の交換時期特定部1Bが運航情報取得部1Aから航空機2の運航情報を取得し、取得した運航情報に基づいて各部品の交換時期を予測する。
【0055】
例えば、
図3に例示されるように、前回の各部品の交換時期以降における航空機2の単位時間当たりの飛行時間の増加量又は単位時間当たりのエンジンの駆動時間の増加量を最小2乗法等でフィッティングし、前回の各部品の交換時期以降における航空機2の累積飛行時間の増加量又はエンジンの累積駆動時間の増加量を表す近似直線又は近似曲線を求めることができる。そうすると、求めた近似直線又は近似曲線の時間方向への外挿処理によって、前回の各部品の交換時期以降における将来の航空機2の累積飛行時間又はエンジンの累積駆動時間を算定することができる。
【0056】
次に、交換時期特定部1Bは、交換時期記憶部1Dに保存された部品ごとの寿命を表す閾値を参照し、前回の各部品の交換時期以降の将来に亘る航空機2の累積飛行時間又はエンジンの累積駆動時間に対して閾値処理を実行する。尚、閾値処理の閾値と、前回の部品の交換時期は、部品ごとに異なるため、閾値処理は
図4に例示されるように部品ごとに実行される。そうすると、将来の航空機2の累積飛行時間又はエンジンの累積駆動時間が閾値に達する時期を各部品の最適な交換時期として予測することができる。
【0057】
次に、ステップS5において、航空機メーカ3に備えられる運航支援システム1により、航空機2を構成する各部品の発注時期が決定される。すなわち、部品の交換時期に基づいて部品の発注時期をコンピュータ6で自動的に決定することができる。具体的には、運航支援システム1の発注時期決定部1Cが交換時期特定部1Bから各部品の交換時期を取得する。そして、発注時期決定部1Cは、各部品の交換時期以前が納期となるように、各部品の納品日等を決定し、各部品の納期から各部品の製造に要するリードタイムだけ遡る時期を各部品の発注時期に決定する。発注時期決定部1Cにおいて決定された各部品の発注時期は表示装置14に表示させることができる。
【0058】
次に、ステップS6において、航空機2をサポートする航空機メーカ3の担当者は、発注時期決定部1Cにおいて決定された発注時期に各部品を発注する。このため、ステップS7において、各部品の発注を受けた部品サプライヤ5は、各部品の製造を開始する。そして、各部品が完成すると、ステップS8において、各部品が部品サプライヤ5から航空機メーカ3に納品される。そうすると、ステップS9において、航空機メーカ3は各部品を航空機2のユーザ4に提供される。
【0059】
これにより、ステップS10において、ユーザ4側の担当者又はユーザ4側に出向いた航空機メーカ3の担当者は、航空機2の各部品を交換することができる。航空機2の各部品は寿命に応じて事前に製造が開始されているため、各部品の製造を待つことなく各部品の適切な交換時期において交換することができる。
【0060】
尚、
図5に示す部品の発注時期の決定等を含む航空機2の運航支援は、複数の部品及び複数の航空機2を対象として同時かつ個別に行うことができる。
【0061】
(効果)
以上のような航空機2の運航支援システム1、航空機の運航支援方法及び航空機の運航支援プログラムは、航空機2の運航情報を自動的に記録し、記録した航空機2の運航情報に基づいて部品の発注時期を最適化するものである。
【0062】
このため、航空機2の運航支援システム1、航空機の運航支援方法及び航空機の運航支援プログラムによれば、航空機2の部品交換に起因する航空機2のダウンタイムを短縮することができる。
【0063】
図6は従来の航空機の部品交換の流れを示す図であり、
図7は
図1に示す運航支援システム1による部品発注時期の決定を含む航空機2の部品交換の流れを示す図である。
【0064】
図6に示すように、従来は航空機のユーザ4に属する操縦士が、フライトごとに記録用紙に運航記録として航空機の運転時間を記録し、累積飛行時間を計算する場合がある。特に小型機の場合には、操縦士による手書きによる記録と、計算が行われる場合が多い。ユーザ4側で記録された航空機の累積飛行時間を含む運航記録は、航空機をサポートする航空機メーカ3に提供される。
【0065】
航空機メーカ3は、航空機の運航記録と部品の寿命に基づいて部品サプライヤ5に部品を発注する。そして、部品サプライヤ5で部品が製作される。部品が完成すると、部品サプライヤ5から航空機メーカ3に納品された部品が、航空機メーカ3からユーザ4側に供給される。そして、航空機の部品が交換された後、航空機の運航が再開される。
【0066】
しかしながら、従来の操縦士等による運航情報の記録に基づく部品の発注を行う場合、手書きによる記録作業が煩雑であるのみならず、航空機の運転時間の書き忘れや記入ミス、累積飛行時間の計算ミス、運航記録の読み取りミス、運航記録用紙の紛失等のヒューマン・エラーが起こりやすいという問題がある。運航情報の記録にヒューマン・エラーが生じると、部品の交換時期に間に合うよう適切な時期に部品が発注されず、部品待ち状態が生じることになる。この場合、航空機のダウンタイムは、部品待ちの期間と、部品交換に要する期間の合計となる。
【0067】
これに対して、運航支援システム1を用いれば、
図7に示すように航空機メーカ3がユーザ4の航空機2から運航情報を自動的に取得することができる。このため、航空機のユーザ4に属する操縦士が記録用紙に運転時間を記録する作業や累積時間を計算する作業を不要にできるのみならず、ヒューマン・エラーを防止して航空機メーカ3において正確に航空機2の運航記録を管理することが可能となる。
【0068】
その結果、部品の交換時期に合わせて航空機メーカ3から部品サプライヤ5に適切な時期に部品を発注することができる。特に、航空機メーカ3では、部品の交換時期を予測する情報処理によって、部品の発注時期を最適化することができる。加えて、航空機メーカ3の担当者が、航空機2の運航記録を参照して、100個以上ある複数の部品の中から交換すべき部品と発注時期を特定する作業を不要にすることもできる。
【0069】
このような部品の発注時期の最適化を行うと、部品サプライヤ5による部品の製作と納品が部品の交換前に完了し、部品の交換時期に合わせて航空機メーカ3からユーザ4に部品を提供することが可能となる。その結果、航空機2のダウンタイムは、部品の交換に要する期間のみとなり、航空機2の整備スケジュールの効率化と航空機2の稼働率の向上を図ることができる。
【0070】
また、航空機メーカ3が必要な部品を必要なタイミングで調達できるため、航空機メーカ3が部品の在庫を抱える必要も不要にすることができる。
【0071】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0072】
例えば、上述した実施形態では、運航支援システム1の運航情報取得部1A、交換時期特定部1B、発注時期決定部1C及び交換時期記憶部1Dが航空機メーカ3側に設置されるコンピュータ6を使用して構成される場合について説明したが、運航情報取得部1A、交換時期特定部1B、発注時期決定部1C及び交換時期記憶部1Dの一部又は全部を航空機2に搭載される制御システム7等のコンピュータを使用して構成しても良い。そして、部品の交換時期又は部品の発注時期を無線で航空機2から航空機メーカ3側に送信するようにしても良い。この場合、航空機2が有人航空機であれば、操縦士も部品の交換時期又は部品の発注時期を把握し、航空機2の運航計画や整備計画の立案に役立てることができる。
【0073】
また、部品の交換時期又は部品の発注時期を航空機メーカ3に加えて、或いは航空機メーカ3に代えてユーザ4に通知するようにしても良い。その場合には、ユーザ4側において、航空機2を構成する部品の交換時期及び部品の発注時期を自己管理することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 運航支援システム
1A 運航情報取得部
1B 交換時期特定部
1C 及発注時期決定部
1D 交換時期記憶部
1E 運航情報発信部
2 航空機
3 航空機メーカ
4 ユーザ
5 部品サプライヤ
6 コンピュータ
7 制御システム
8 トランスポンダ
9 無線機
10 通信衛星
11 無線機
12 無線機
13 入力装置
14 表示装置