(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20230328BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230328BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20230328BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230328BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230328BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20230328BHJP
F16H 61/682 20060101ALI20230328BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/30
F16H61/682
F16H63/50
(21)【出願番号】P 2020061531
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】小林 寛英
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】荒武 宗伸
(72)【発明者】
【氏名】秋田 晋悟
(72)【発明者】
【氏名】西山 忍
(72)【発明者】
【氏名】澤村 聡一郎
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-095156(JP,A)
【文献】特開2014-133554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0064561(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/10
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/30
F16H 61/682
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、該電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、
走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、
前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、
を有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン始動制御部は、前記エンジン断接装置をスリップ係合させて前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式、および前記エンジン回転速度が前記所定回転速度に達する前の段階から着火して自力回転させる第2始動方式、の2種類の始動方式で前記エンジンを始動させることが可能であり、
前記第2始動方式で前記エンジンが始動させられる時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている場合は、前記第1始動方式で前記エンジンが始動させられる時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている場合に比較して、前記変速条件を低ギヤ段とすることを許可するダウンシフト先拡張部を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記エンジン始動制御部は、前記エンジン始動制御の開始時に前記電動機の回転速度である電動機回転速度が予め定められた第1判定値未満の場合は前記第1始動方式を実行して前記エンジン始動制御を完了させ、前記エンジン始動制御の開始時に前記電動機回転速度が前記第1判定値以上の場合は前記第2始動方式を実行して前記エンジン始動制御を完了させる
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記エンジン始動制御部は、前記第1始動方式の実行により前記エンジン始動制御が完了する前に前記電動機の回転速度である電動機回転速度が予め定められた第2判定値以上になった場合には前記第2始動方式に切り替えるもので、
前記ダウンシフト先拡張部は、前記自動変速機の変速制御中に前記エンジンの始動方式が前記第1始動方式から前記第2始動方式に切り替えられた場合には、該始動方式の切り替えに伴って、前記変速条件を、前記第1始動方式時における前記変速条件よりも低ギヤ段とすることを許可する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
エンジンと、該エンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、該電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、
走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、
複数の摩擦係合装置の係合解放状態を切り替えることにより、前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、
を有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン始動制御部により前記エンジン始動制御が開始される時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている時、前記変速制御に基づいて前記自動変速機の入力回転速度が上昇させられるイナーシャ相が開始する前で且つ該イナーシャ相の開始前の状態で待機できる場合は、該イナーシャ相中または該イナーシャ相が開始する前で且つ該イナーシャ相の開始前の状態で待機できない場合に比較して、前記変速条件を低ギヤ段とすることを許可するダウンシフト先拡張部を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記変速制御部による前記ダウンシフトの変速制御は、前記複数の摩擦係合装置の中の解放側摩擦係合装置の係合圧を低下させて前記入力回転速度が上昇することを許容するもので、
前記ダウンシフト先拡張部は、前記変速制御部に対して前記係合圧の低下を中断する指令を出力することにより、前記イナーシャ相が開始する前の状態に待機させる
ことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
エンジンと、該エンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、該電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、
走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、
複数の摩擦係合装置の係合解放状態を切り替えることにより、前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、
を有するハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジン始動制御部により前記エンジン始動制御が開始される時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている時、前記変速制御に基づいて前記自動変速機の入力回転速度が上昇させられるイナーシャ相が開始する前で且つ前記エンジン断接装置が同期した後の場合は、前記イナーシャ相が開始する前で且つ前記エンジン断接装置が同期する前の場合に比較して、前記変速条件を低ギヤ段とすることを許可するダウンシフト先拡張部を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記エンジン始動制御部は、前記エンジン断接装置をスリップ係合させて前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式で前記エンジンを始動させることができる
ことを特徴とする請求項4~6の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとエンジン断接装置と電動機と自動変速機とを備えているハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、自動変速機の変速制御中にエンジンを始動させる際の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) エンジンと、そのエンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、その電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、(b) 走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、(c) 前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、を有するハイブリッド車両の制御装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、クラッチK0がエンジン断接装置である。特許文献1にはまた、エンジン断接装置をスリップ係合させてエンジン回転速度を上昇させた後に着火して自力回転させるエンジン始動方式が記載されているとともに、自動変速機のダウンシフトを伴うエンジン始動時には、エンジン回転速度を上昇させてエンジンを始動させるとともにエンジン断接装置を完全係合させた後に自動変速機のダウンシフトを進行させることにより、エンジン断接装置のスリップ係合による発熱や損傷を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-151907号公報
【文献】特開2006-348863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えばアクセルがOFFのパワーOFFダウンシフトの変速制御が開始された後にアクセルが開き操作されてエンジンを始動させる場合など、変速制御部による自動変速機の変速制御中にエンジン始動制御部によってエンジン始動制御が開始されると、特許文献1のように変速前にエンジンを始動してエンジン断接装置を完全係合させることができない。その場合、アクセルの開き操作に伴って更なるダウンシフトの変速制御が実行されると、電動機回転速度が上昇してエンジン回転速度との速度差が大きくなるため、エンジン回転速度を電動機回転速度に対応する同期回転速度まで引き上げるのに時間が掛かるようになり、エンジン断接装置のスリップ係合による熱負荷が大きくなってエンジン断接装置が熱により損傷する恐れがある。特に、アクセルの開き操作に伴って1または複数のギヤ段を跳び超えてダウンシフトさせる飛び変速が行われる場合には、電動機回転速度の上昇幅が大きくなるため、上記問題が顕著となる。これに対し、エンジンの始動時に自動変速機がダウンシフトしている場合、そのダウンシフト先のギヤ段が高ギヤ段側に制限されるように変速条件を定めることが考えられるが、目的とするギヤ段までダウンシフトするのに時間が掛かるためドライバビリティが悪化する恐れがある。
【0005】
なお、エンジンの停止を含む低回転の段階から着火して自力回転させるエンジン始動方式が知られている(例えば特許文献2参照)。このようなエンジン始動方式によれば、エンジン断接装置のスリップ係合が軽減され或いは不要になるため、エンジン断接装置の熱負荷による損傷を防止できる。しかしながら、例えば電動機回転速度が比較的低い場合には、エンジン始動後にエンジン断接装置を完全係合させてエンジンを電動機に接続する際に、エンジンのイナーシャによりショックが発生する可能性があるなど、無条件にこのエンジン始動方式を採用することは適当でない。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、自動変速機のダウンシフト中にエンジン始動制御が開始された場合に、エンジン断接装置の熱負荷に応じてダウンシフト先のギヤ段が適切に定められるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) エンジンと、そのエンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、その電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、(b) 走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、(c) 前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、を有するハイブリッド車両の制御装置において、(d) 前記エンジン始動制御部は、前記エンジン断接装置をスリップ係合させて前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式、および前記エンジン回転速度が前記所定回転速度に達する前の段階から着火して自力回転させる第2始動方式、の2種類の始動方式で前記エンジンを始動させることが可能であり、(e) 前記第2始動方式で前記エンジンが始動させられる時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている場合は、前記第1始動方式で前記エンジンが始動させられる時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている場合に比較して、前記変速条件を低ギヤ段とすることを許可するダウンシフト先拡張部を有することを特徴とする。
なお、自動変速機のダウンシフトとは、変速比(=入力回転速度/出力回転速度)が小さいギヤ段すなわちハイ側のギヤ段から、変速比が大きいギヤ段すなわちロー側のギヤ段へ変速することである。また、低ギヤ段とは、変速比が大きいギヤ段すなわちロー側のギヤ段のことである。
【0008】
第2発明は、第1発明のハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン始動制御部は、前記エンジン始動制御の開始時に前記電動機の回転速度である電動機回転速度が予め定められた第1判定値未満の場合は前記第1始動方式を実行して前記エンジン始動制御を完了させ、前記エンジン始動制御の開始時に前記電動機回転速度が前記第1判定値以上の場合は前記第2始動方式を実行して前記エンジン始動制御を完了させることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明のハイブリッド車両の制御装置において、(a) 前記エンジン始動制御部は、前記第1始動方式の実行により前記エンジン始動制御が完了する前に前記電動機の回転速度である電動機回転速度が予め定められた第2判定値以上になった場合には前記第2始動方式に切り替えるもので、(b) 前記ダウンシフト先拡張部は、前記自動変速機の変速制御中に前記エンジンの始動方式が前記第1始動方式から前記第2始動方式に切り替えられた場合には、その始動方式の切り替えに伴って、前記変速条件を、前記第1始動方式時における前記変速条件よりも低ギヤ段とすることを許可することを特徴とする。
【0010】
第4発明は、(a) エンジンと、そのエンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、その電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、(b) 走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、(c) 複数の摩擦係合装置の係合解放状態を切り替えることにより、前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、を有するハイブリッド車両の制御装置において、(d) 前記エンジン始動制御部により前記エンジン始動制御が開始される時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている時、前記変速制御に基づいて前記自動変速機の入力回転速度が上昇させられるイナーシャ相が開始する前で且つそのイナーシャ相の開始前の状態で待機できる場合は、そのイナーシャ相中またはそのイナーシャ相が開始する前で且つそのイナーシャ相の開始前の状態で待機できない場合に比較して、前記変速条件を低ギヤ段とすることを許可するダウンシフト先拡張部を有することを特徴とする。
【0011】
第5発明は、第4発明のハイブリッド車両の制御装置において、(a) 前記変速制御部による前記ダウンシフトの変速制御は、前記複数の摩擦係合装置の中の解放側摩擦係合装置の係合圧を低下させて前記入力回転速度が上昇することを許容するもので、(b) 前記ダウンシフト先拡張部は、前記変速制御部に対して前記係合圧の低下を中断する指令を出力することにより、前記イナーシャ相が開始する前の状態に待機させることを特徴とする。
【0012】
第6発明は、(a) エンジンと、そのエンジンから摩擦係合式のエンジン断接装置を介して動力が伝達される電動機と、その電動機よりも動力伝達経路の下流側に設けられた自動変速機と、を備えているハイブリッド車両に関し、(b) 走行中に前記エンジンが自力回転できるように始動させ且つ前記エンジン断接装置を完全係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、(c) 複数の摩擦係合装置の係合解放状態を切り替えることにより、前記自動変速機の複数のギヤ段を予め定められた変速条件に従って切り替える変速制御部と、を有するハイブリッド車両の制御装置において、(d) 前記エンジン始動制御部により前記エンジン始動制御が開始される時に、前記変速制御部による変速制御で前記自動変速機がダウンシフトしている時、前記変速制御に基づいて前記自動変速機の入力回転速度が上昇させられるイナーシャ相が開始する前で且つ前記エンジン断接装置が同期した後の場合は、前記イナーシャ相が開始する前で且つ前記エンジン断接装置が同期する前の場合に比較して、前記変速条件を低ギヤ段とすることを許可するダウンシフト先拡張部を有することを特徴とする。
なお、エンジン断接装置の同期とは、エンジン断接装置を完全係合させることができる状態のエンジン側の回転速度と電動機側の回転速度との関係で、クラッチの場合、エンジン側の回転速度と電動機側の回転速度とが等しくなる関係である。
【0013】
第7発明は、第4発明~第6発明の何れかのハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン始動制御部は、前記エンジン断接装置をスリップ係合させて前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式で前記エンジンを始動させることができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明のハイブリッド車両の制御装置においては、第2始動方式でエンジンが始動させられる場合は、第1始動方式でエンジンが始動させられる場合に比較して、ダウンシフト先のギヤ段を定めた変速条件を低ギヤ段とすることが許可される。すなわち、エンジン回転速度が低回転の段階から着火して自力回転させる第2始動方式では、エンジン断接装置のスリップ係合が比較的少ないか或いは不要であるため、ダウンシフト先のギヤ段が比較的低ギヤ段でダウンシフトに伴う電動機回転速度の上昇幅が大きく、エンジン回転速度との速度差が大きい場合でも、スリップ係合による熱負荷でエンジン断接装置が損傷する恐れはない。このため、変速条件を低ギヤ段とすることを許可することができ、目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせることができる。また、比較的低ギヤ段へのダウンシフトによって電動機回転速度が比較的高回転になるため、エンジン始動後にエンジン断接装置を完全係合させてエンジンを電動機に接続する際に、エンジンのイナーシャに起因して生じるショックが抑制される。
【0015】
第2発明では、エンジン始動制御の開始時に電動機回転速度が第1判定値以上の場合には第2始動方式を実行してエンジン始動制御を完了させるため、電動機回転速度が比較的高回転の状態で第2始動方式によるエンジン始動制御が実行されるとともに、第2始動方式では変速条件を低ギヤ段とすることが許可されてダウンシフト先のギヤ段が低ギヤ段とされることにより電動機回転速度が更に高回転になるため、エンジン断接装置を完全係合させてエンジンを電動機に接続する際にエンジンのイナーシャに起因して生じるショックが適切に抑制される。一方、エンジン始動制御の開始時に電動機回転速度が第1判定値未満の場合には第1始動方式を実行してエンジン始動制御を完了させるため、変速条件に従ってダウンシフト先のギヤ段が比較的高ギヤ段とされることにより、電動機回転速度が比較的低回転の状態で第1始動方式によるエンジン始動制御が実行されることになり、エンジン断接装置の熱負荷による損傷が抑制される。
【0016】
第3発明は、第1始動方式でエンジンを始動させる際に、そのエンジン始動制御が完了する前に電動機回転速度が予め定められた第2判定値以上になった場合、すなわちエンジン断接装置をスリップ係合させてエンジン回転速度を上昇させる過程で電動機回転速度が上昇して第2判定値以上になった場合には、第2始動方式に切り替えられるため、エンジン始動制御中の電動機回転速度の上昇に拘らずエンジン断接装置の熱負荷による損傷が適切に抑制される。また、このようにエンジンの始動方式が第1始動方式から第2始動方式に切り替えられると、その始動方式の切り替えに伴って変速条件が低ギヤ段とされるため、目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせることができるとともに、電動機回転速度が高くなるためエンジン断接装置を完全係合させる際にエンジンのイナーシャに起因して生じるショックが適切に抑制される。
【0017】
第4発明のハイブリッド車両の制御装置においては、エンジン始動制御が開始される時に自動変速機がダウンシフトしている場合に、イナーシャ相が開始する前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できる場合は、イナーシャ相中またはイナーシャ相が開始する前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できない場合に比較して、ダウンシフト先のギヤ段を定めた変速条件を低ギヤ段とすることが許可される。すなわち、イナーシャ相の開始前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できる場合は、そのイナーシャ相の開始前の状態に待機させることにより電動機回転速度が比較的低回転に維持されるため、前記第1始動方式でエンジンを始動させる場合でも、エンジン断接装置のスリップ係合による熱負荷が小さくてエンジン断接装置の損傷が抑制される。また、エンジン始動制御が完了した後はエンジン断接装置が完全係合させられており、ダウンシフト先のギヤ段を制限する必要がないため、変速条件を低ギヤ段とすることを許可することができ、目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせることができる。
【0018】
第5発明は、複数の摩擦係合装置の中の解放側摩擦係合装置の係合圧を低下させて入力回転速度が上昇することを許容することによりダウンシフトを進行させる場合で、その係合圧の低下を中断する指令を出力することによりイナーシャ相が開始する前の状態に待機させるため、電動機回転速度が比較的低回転に維持され、第1始動方式によりエンジンを始動させる場合でもエンジンを適切に始動させることができるとともにエンジン断接装置の熱負荷が抑制される。
【0019】
第6発明のハイブリッド車両の制御装置においては、エンジン始動制御が開始される時に自動変速機がダウンシフトしている場合に、イナーシャ相が開始する前で且つエンジン断接装置が同期した後の場合は、イナーシャ相が開始する前で且つエンジン断接装置が同期する前の場合に比較して、ダウンシフト先のギヤ段を定めた変速条件を低ギヤ段とすることが許可される。すなわち、イナーシャ相が開始する前で且つエンジン断接装置が同期した後の場合は、エンジン断接装置がスリップ係合による熱負荷で損傷する恐れはなく、ダウンシフト先のギヤ段を制限する必要がないため、変速条件を低ギヤ段とすることを許可することができ、目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせることができる。
【0020】
第7発明は、エンジン断接装置をスリップ係合させてエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式でエンジンを始動させることができる場合で、ダウンシフトにより電動機回転速度が上昇させられるとエンジン断接装置の熱負荷が大きくなるため、そのエンジン始動時にダウンシフト先のギヤ段を高ギヤ段側に制限するように変速条件が定められる。したがって、ダウンシフト先拡張部によりエンジン始動時に一定の条件下で変速条件を比較的低ギヤ段とすることが許可されることにより、エンジン断接装置の熱負荷による損傷を抑制しつつ目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせる、という第4発明~第6発明の効果が適切に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明が適用されたハイブリッド車両の駆動系統の概略構成図で、制御機能の要部を併せて示した図である。
【
図2】
図1のハイブリッド車両に備えられた自動変速機の一例を説明する骨子図である。
【
図3】
図2の自動変速機の複数のギヤ段と油圧式摩擦係合装置の係合解放状態との関係を説明する係合作動表である。
【
図4】
図1のハイブリッド車両において専ら電動機を駆動源として走行するモータ走行モードと、少なくともエンジンを駆動源として走行するエンジン走行モードとを、運転状態に応じて切り替える走行モード切替マップの一例を説明する図である。
【
図5】
図2の自動変速機のギヤ段を運転状態に応じて切り替える変速マップの一例を説明する図である。
【
図6】
図1の電子制御装置が機能的に備えているエンジン始動制御部の作動を説明するフローチャートである。
【
図7】
図6のステップSS2で選択可能な始動方式Aを説明するタイムチャートの一例である。
【
図8】
図6のステップSS2で選択可能な始動方式Bを説明するタイムチャートの一例である。
【
図9】
図6のステップSS2で始動方式Aおよび始動方式Bの何れか一方を運転状態に応じて選択する際の始動方式選択マップの一例を説明する図である。
【
図10】
図1の電子制御装置が機能的に備えているダウンシフト先拡張部の作動を説明するフローチャートである。
【
図11】エンジン始動時に
図10のステップS6またはS7でダウンシフトの行き先ギヤ段が設定された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
【
図12】
図11において始動方式Aでエンジンが始動させられる場合の変速の進行状況を具体的に説明するタイムチャートの一例である。
【
図13】エンジン始動時に
図10のステップS8でダウンシフトの行き先ギヤ段が設定された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
【
図14】
図1のエンジン始動制御部が、始動方式Aによるエンジン始動制御の実行中に一定の要件を満たした場合に始動方式Bに切り替える別の実施例を説明するフローチャートである。
【
図15】
図14のフローチャートに従って始動方式Aから始動方式Bに切り替えられた場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
【
図16】
図14のフローチャートに従って始動方式Aが維持された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
【
図17】
図1のダウンシフト先拡張部が、エンジン始動制御の実行中にダウンシフト先のギヤ段を変更する別の実施例を説明するフローチャートである。
【
図18】エンジン始動制御の実行中に
図17のフローチャートに従ってダウンシフトの行き先ギヤ段が設定された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明が適用されるハイブリッド車両のエンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関で、特にエンジン回転速度が低回転の段階から着火して自力回転させる第2始動方式が可能なエンジンは、気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射型の内燃機関である。第2始動方式は、圧縮TDC(Top Dead Center;上死点)付近で燃料を噴射したり着火したりしてエンジンを始動させる方式で、エンジン回転速度が低回転の段階で着火して爆発によりエンジンを自力回転させることができる。制御方法によっては、エンジン回転速度が0の状態から着火してエンジンを自力回転させることができる。エンジン断接装置をスリップ係合させてエンジンを回転させながら第2始動方式でエンジンを始動しても良いが、エンジン断接装置を解放したまま第2始動方式でエンジンを始動させることもできる。エンジン断接装置をスリップ係合させてエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式だけでエンジンを始動させる場合は、必ずしも筒内噴射型の内燃機関である必要はない。所定回転速度は、エンジンが通常の燃料噴射や点火等によるエンジン制御で回転を持続できるアイドル回転速度などである。
【0023】
電動機は、発電機としても用いることができるモータジェネレータが適当であるが、発電機として用いることができない電動機であっても良い。エンジン断接装置は、エンジンと電動機との間の動力伝達経路を接続遮断するもので、摩擦係合式のクラッチやブレーキである。エンジン断接装置は、前後の回転要素を接続遮断する摩擦係合式のクラッチが適当であるが、例えば3つの回転要素を有する遊星歯車装置がエンジンと電動機との間に配設され、2つの回転要素がそれぞれエンジンおよび電動機に連結されている場合に、他の1つの回転要素を回転不能に固定する摩擦係合式のブレーキをエンジン断接装置として用いることもできる。エンジンおよび電動機は、エンジン断接装置を介して直接接続されても良いが、変速歯車等の変速機構がエンジンとエンジン断接装置との間や、エンジン断接装置と電動機との間に設けられても良い。
【0024】
自動変速機は、例えば複数の摩擦係合装置の係合解放状態を切り替えることにより変速比が異なる複数のギヤ段を成立させることができる遊星歯車式等の有段の自動変速機が適当であるが、第1発明~第3発明では、ベルト式等の無段変速機の変速比を有段変速機のように段階的に変化させる場合にも適用できる。また、ハイブリッド車両の減速走行時にダウンシフト判断が為されて自動変速機をダウンシフトさせる変速制御中に、要求駆動力が増加してエンジン始動制御部によるエンジン始動制御が開始されるとともに、変速制御部により1または複数のギヤ段を飛び越えてダウンシフトさせる飛び変速判断が為された場合に、本発明は好適に適用される。要求駆動力の増加は、例えば運転者がアクセルを開き操作した場合、例えばアクセルペダルを踏込み操作した場合であるが、運転者がアクセル操作しない自動運転中に要求駆動力が増加した場合でも良い。車両の減速走行はパワーOFF状態(被駆動状態)であっても良いし、パワーON状態(駆動状態)であっても良い。要求駆動力の増加は、アクセル開度が0のアクセルOFF状態からのアクセルペダルの踏込み操作でも良いし、アクセルペダルが踏まれている状態から更に増し踏みされる場合でも良い。
【0025】
自動変速機の変速条件は、例えばアクセル開度や車速等の運転状態をパラメータとして、変速先ギヤ段である行き先ギヤ段を定めたもので、例えば運転状態に応じて目標ギヤ段が設定されるとともに、実際のギヤ段と目標ギヤ段とが異なる場合に、目標ギヤ段が行き先ギヤ段として定められる。変速条件はまた、エンジン始動時等の一定の条件下で行き先ギヤ段を制限するように定められる。例えば、前記変速制御部によりダウンシフト判断が為されて前記自動変速機をダウンシフトさせる変速制御中に、要求駆動力が増加して前記エンジン始動制御部により前記エンジン始動制御が開始されるとともに、前記変速制御部により1または複数のギヤ段を飛び越えてダウンシフトさせる飛び変速判断が為された場合には、前記第1始動方式によるエンジン始動時に前記エンジン断接装置が熱負荷により損傷することを防止するため、ダウンシフト先のギヤ段を高ギヤ段側に制限することが行なわれる。
【0026】
第3発明では、自動変速機の変速制御中にエンジンの始動方式が第1始動方式から第2始動方式に切り替えられた場合には、始動方式の切り替えに伴って、前記変速条件を、前記第1始動方式時における変速条件よりも低ギヤ段とすることを許可されるが、第1発明の実施に際しては、始動方式の変更に拘らず変速条件が維持されても良い。第1始動方式時における変速条件よりも低ギヤ段とすることを許可することについては、目的のギヤ段までダウンシフトさせる場合でも良いし、変速前のギヤ段と目的とするギヤ段との間の中間のギヤ段までダウンシフトさせる場合でも良い。
【0027】
第4発明~第6発明では、例えばエンジン断接装置をスリップ係合させてエンジン回転速度を所定回転速度以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる第1始動方式だけでエンジンを始動しても良いが、第1発明~第3発明のように第1始動方式と第2始動方式とを使い分けてエンジンを始動しても良い。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0029】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両10の駆動系統の概略構成図で、制御機能の要部を併せて示した図である。ハイブリッド車両10は、駆動源として機能するエンジン(ENG)12および電動機MGを備えており、それ等のエンジン12および電動機MGにより発生させられた動力は、トルクコンバータ16、自動変速機(A/T)18、差動歯車装置20、および左右1対のドライブシャフト22を有する動力伝達装置を介して左右1対の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。電動機MG、トルクコンバータ16、および自動変速機18は、何れもトランスミッションケース36(以下、単にケース36という)内に収容されている。ケース36は、複数のケース部材を備えて構成されているとともに、車体等の非回転部材に固定されている。このようなハイブリッド車両10は、エンジン12および電動機MGの少なくとも一方を走行用の駆動源として用いて走行する。すなわち、ハイブリッド車両10においては、少なくともエンジン12を走行用の駆動源とするエンジン走行モード、および専ら電動機MGを走行用の駆動源とするモータ走行モードが可能で、エンジン走行モードでは必要に応じて電動機MGが補助的に用いられる。
【0030】
エンジン12は、燃料が燃焼室内に直接噴射される筒内噴射型のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン12のトルクを制御するために、電子スロットル弁を開閉制御するスロットルアクチュエータ、燃料噴射制御を行う燃料噴射装置、および点火時期制御を行う点火装置等を備えた出力制御装置14が設けられている。この出力制御装置14は、電子制御装置70から供給される指令に従ってスロットル制御のために前記スロットルアクチュエータにより前記電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御のために前記燃料噴射装置による燃料噴射を制御し、点火時期制御のために前記点火装置による点火時期を制御する等してエンジン12の出力制御を実行する。
【0031】
トルクコンバータ16のポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間には、それらポンプ翼車16pおよびタービン翼車16tが一体的に回転させられるように直結するロックアップクラッチLUが設けられている。このロックアップクラッチLUは、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、および解放(完全解放)の何れかに制御されるようになっている。トルクコンバータ16のポンプ翼車16pには機械式のオイルポンプ28が連結されており、そのポンプ翼車16pの回転に伴いそのオイルポンプ28により発生させられた油圧が油圧制御回路34に元圧として供給されるようになっている。
【0032】
図2は、自動変速機18の一例を示す骨子図である。自動変速機18は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、
図2の骨子図においては下側半分が省略されている。
図2に示すように、自動変速機18は、トルクコンバータ16のタービン翼車16tに連結された入力軸38と、前記差動歯車装置20に連結された出力軸40との間に配設されている。自動変速機18は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置42を主体として構成されている第1変速部44と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置46およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置48を主体として構成されている第2変速部50と、を共通の軸心上に備えており、入力軸38の回転を変速して出力軸40から出力する。第2遊星歯車装置46および第3遊星歯車装置48は、両者のキャリアおよびリングギヤがそれぞれ共通の部材にて構成されているとともに、第2遊星歯車装置46のピニオンギヤが第3遊星歯車装置48の第2ピニオンギヤ(外側のピニオンギヤ)を兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0033】
自動変速機18は、油圧式摩擦係合装置として4つのクラッチC1~C4、および2つのブレーキB1、B2(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという)を備えている。
図3の係合作動表に示されるように、係合装置CBの何れか2つが係合させられることにより、第1速ギヤ段「1st」~第8速ギヤ段「8th」の前進8段と、第1速後進ギヤ段「Rev1」および第2速後進ギヤ段「Rev2」の後進2段が成立させられ、係合装置CBが総て解放されることによって動力伝達を遮断するN(ニュートラル)になる。第1速ギヤ段「1st」は、変速比γ(=入力軸38の回転速度/出力軸40の回転速度)が最も大きいロー側のギヤ段で、第8速ギヤ段「8th」は、変速比γが最も小さいハイ側のギヤ段である。すなわち、第1速ギヤ段「1st」側が低ギヤ段側で、第8速ギヤ段「8th」側が高ギヤ段側である。
図3から明らかなように、本実施例の自動変速機18は、第2速ギヤ段「2nd」と第3速ギヤ段「3rd」との間など連続する前進ギヤ段の間で変速する場合、何れか1つの係合装置CBを解放するとともに他の一つの係合装置CBを係合させるクラッチツウクラッチ変速が実行される。係合装置CBは、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するための装置である。
【0034】
図1に戻って、電動機MGは、ケース36により軸心まわりの回転可能に支持されたロータ30と、そのロータ30の外周側においてケース36に一体的に固定されたステータ32と、を備えている。この電動機MGは、回転動力を発生する電動モータとして機能するとともに、回生制御されることにより発電して反力を発生するジェネレータ(発電機)としても機能するモータジェネレータである。この電動機MGは、インバータ56を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置58に接続されており、電子制御装置70によりそのインバータ56を介して供給される駆動電流が調節されることにより、電動機MGの駆動が制御されるようになっている。換言すれば、インバータ56を介しての制御により電動機MGの出力トルクが増減させられる。
【0035】
エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路には、係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチK0が設けられている。すなわち、エンジン12の出力部材であるクランク軸26は、クラッチK0を介して電動機MGのロータ30に選択的に連結される。その電動機MGのロータ30は、トルクコンバータ16の入力部材であるフロントカバー16fに連結されている。フロントカバー16fには、前記ポンプ翼車16pが一体的に連結されている。クラッチK0は、例えば、油圧アクチュエータによって係合制御される多板式の油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、および解放(完全解放)の何れかに制御される。すなわち、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてそのトルク容量が制御されるようになっている。クラッチK0が係合させられることにより、クランク軸26とロータ30およびフロントカバー16fとの間の動力伝達経路における動力伝達が行われる(接続される)一方、クラッチK0が解放されることにより、クランク軸26とロータ30およびフロントカバー16fとの間の動力伝達経路における動力伝達が遮断される。クラッチK0がスリップ係合させられることにより、クランク軸26とロータ30およびフロントカバー16fとの間の動力伝達経路においてそのクラッチK0のトルク容量(伝達トルク)に応じた動力伝達が行われる。クラッチK0は、エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路を接続遮断するエンジン断接装置である。
【0036】
ハイブリッド車両10は、
図1に例示するような制御系統を備えている。
図1に示す電子制御装置70は、CPU、RAM、ROM、および入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の駆動制御、電動機MGの駆動制御、自動変速機18の変速制御、クラッチK0の係合力制御、およびロックアップクラッチLUの係合制御等の各種制御を実行する。この電子制御装置70は、必要に応じてエンジン12の制御用、電動機MGの制御用、自動変速機18の制御用といったように、複数の制御装置に分けて構成され、相互に情報の通信が行われることで各種制御を実行するものであってもよい。本実施例においては、電子制御装置70がハイブリッド車両10の制御装置に相当する。
【0037】
電子制御装置70には、ハイブリッド車両10に設けられた各センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、アクセル操作部材であるアクセルペダル61の踏込み量(アクセル操作量)に対応してアクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度Accを表す信号、エンジン回転速度センサ62により検出されるエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Neを表す信号、タービン回転速度センサ64により検出されるトルクコンバータ16のタービン翼車16tの回転速度(タービン回転速度)Ntを表す信号、電動機回転速度センサ66により検出される電動機MGの回転速度(電動機回転速度)Nmgを表す信号、出力回転速度センサ68により検出される出力軸40の回転速度(出力回転速度)Noutを表す信号等が、それぞれ電子制御装置70に供給される。タービン回転速度Ntは入力軸38の回転速度である入力回転速度Ninと同じであり、出力回転速度Noutは車速Vに対応する。
【0038】
また、ハイブリッド車両10に設けられた各装置に対して、電子制御装置70から各種制御信号が供給されるようになっている。例えば、エンジン12の駆動制御のためにそのエンジン12の出力制御装置14を制御する信号、電動機MGの駆動制御のためにインバータ56を制御する信号、自動変速機18の変速制御のために油圧制御回路34における複数の電磁制御弁を制御する信号、クラッチK0の係合制御のために油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁等を制御する信号、ロックアップクラッチLUの係合制御のために油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁等を制御する信号、およびライン圧制御のために油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁等を制御する信号等が、電子制御装置70からそれぞれ供給される。
【0039】
電子制御装置70は、機能的に走行モード切替制御部72、エンジン制御部74、電動機制御部78、変速制御部80、およびダウンシフト先拡張部84を備えている。
【0040】
走行モード切替制御部72は、専ら電動機MGを駆動源として用いて走行するモータ走行モード、および少なくともエンジン12を駆動源として用いて走行するエンジン走行モード、の何れの走行モードで走行するかを判断して切り替える。具体的には、例えば
図4に例示した走行モード切替マップに従って、モード切替線Lmよりも低車速、小アクセル開度側ではモータ走行モードに設定し、モード切替線Lmよりも高車速、大アクセル開度側ではエンジン走行モードに設定する。
図4の走行モード切替マップは、運転状態としてアクセル開度Accおよび車速Vをパラメータとして定められており、実際のアクセル開度Accおよび車速Vに応じてモータ走行モードかエンジン走行モードかを判断する。エンジン走行モードでは、必要に応じて電動機MGが補助的に駆動されて駆動源として用いられる。
図4の走行モード切替マップのアクセル開度Accは要求駆動力等に置き替えることができる。
【0041】
エンジン制御部74は、走行モード切替制御部72によりエンジン走行モードに設定された場合に、クラッチK0を完全係合させた状態でエンジン12を作動させ、少なくともエンジン12を駆動源としてハイブリッド車両10を走行させる。エンジン制御部74は、例えばアクセル開度Accに応じて要求駆動力を算出し、その要求駆動力が得られるようにエンジン12の出力を制御する。例えば、要求駆動力が得られるようにするための入力軸38の目標入力トルクTintを自動変速機18のギヤ段等に応じて算出し、その目標入力トルクTintが得られるようにエンジン12の出力を制御する。
【0042】
エンジン制御部74はまた、モータ走行モードからエンジン走行モードへ切り替えられた場合など、走行中に回転停止状態のエンジン12を始動させるためのエンジン始動制御部76を機能的に備えている。エンジン始動制御部76は、
図6のフローチャートのステップSS1~SS3(以下、ステップを省略して単にSS1~SS3という。他のフローチャートも同じ。)に従って信号処理を実行する。
図6のSS1では、走行モード切替制御部72からのエンジン始動要求等によりエンジン12を始動させるか否かを判断し、エンジン12を始動させる場合はSS2以下を実行する。SS2では、始動方式Aおよび始動方式Bの2種類の始動方式の何れか一方を選択し、SS3では、エンジン12が自力回転できるように始動させ且つクラッチK0を完全係合させるエンジン始動制御を実行する。
【0043】
始動方式Aは、前記クラッチK0をスリップ係合させてエンジン回転速度Neをアイドル回転速度Nidle以上まで上昇させた後に着火して自力回転させる始動方式である。
図7は、始動方式Aによってエンジン12を始動させた際のK0トルク指令値、回転速度Ne、Nmg、Nt、およびトルクTmg、Tintの変化を説明するタイムチャートの一例で、トルクTmgは電動機MGのトルク(電動機トルク)で、トルクTintは要求駆動力が得られるようにするための入力軸38の目標入力トルクである。
図7において、時間t1はエンジン始動要求があった時間で、その時の電動機回転速度Nmgはアイドル回転速度Nidleよりも高回転であり、始動方式Aによってエンジン始動制御が開始される。具体的には、クラッチK0をスリップ係合させてエンジン回転速度Neを引き上げるとともに、エンジン回転速度Neを引き上げるために電動機トルクTmgを目標入力トルクTintよりも増大させる。時間t2は、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近まで上昇させられた時間で、K0同期回転速度付近に達したらクラッチK0を完全係合させるとともに、電動機トルクTmgを低下させる。また、クラッチK0が完全係合させられた後の時間t3で、燃料噴射および着火(点火)を行ってエンジン12を自力回転させるようにする。これにより、一連のエンジン始動制御が完了する。エンジン12が自力回転することにより、目標入力トルクTintがエンジン12によって得られるようになり、電動機トルクTmgを徐々に低下させてエンジン走行モードに移行する。この始動方式Aは第1始動方式に相当し、アイドル回転速度Nidleは所定回転速度に相当する。なお、エンジン回転速度Neがアイドル回転速度Nidle以上まで上昇させられた後であれば、クラッチK0を完全係合させる前に燃料噴射および着火を行ってエンジン12を自力回転させるようにしても良い。
【0044】
始動方式Bは、エンジン回転速度Neがアイドル回転速度Nidleよりも低い低回転の段階から着火して自力回転させる始動方式、すなわち圧縮TDC付近の所定のタイミングで燃料を噴射したり着火したりしてエンジン12を始動させる方式で、エンジン回転速度Neが低回転の段階で着火して爆発によりエンジン12を自力回転させることができる。この始動方式Bでは、クラッチK0をスリップ係合させてエンジン12を回転させながらエンジン12を始動しても良いが、クラッチK0を解放したままエンジン12を始動させることもできる。
図8は、始動方式Bによってエンジン12を始動させた際のK0トルク指令値、回転速度Ne、Nmg、Nt、およびトルクTmg、Tintの変化を説明するタイムチャートの一例である。
図8において、時間t1はエンジン始動要求があった時間で、その後始動方式Bによるエンジン始動制御が開始される。具体的には、クラッチK0をスリップ係合させてエンジン12を回転させながら、圧縮TDC付近の所定のタイミングで燃料を噴射するとともに着火してエンジン12を自力回転させる(時間t2)。この時間t2におけるエンジン回転速度Neは、アイドル回転速度Nidleよりも十分に低い回転速度である。エンジン12が自力回転できるようになると、エンジン回転速度Neが自力で上昇させられるようになり、クラッチK0が解放される。そして、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近まで上昇させられると、クラッチK0を完全係合させて(時間t3)、一連のエンジン始動制御が完了する。時間t3における電動機回転速度Nmgすなわちエンジン回転速度Neは、アイドル回転速度Nidleよりも高い回転速度である。エンジン12が自力回転し且つクラッチK0が完全係合させられることにより、目標入力トルクTintがエンジン12によって得られるようになり、電動機トルクTmgが徐々に低下させられてエンジン走行モードに移行する。この始動方式Bは第2始動方式に相当する。
【0045】
上記始動方式Bでは、エンジン12が自力回転できる段階でクラッチK0が解放されるため、始動方式Aに比較してクラッチK0の熱負荷が小さい。また、エンジン12の自力回転でエンジン回転速度Neが上昇するため、電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近に達するまでの応答性に優れるが、電動機回転速度Nmgが低いと、クラッチK0を完全係合させてエンジン12を電動機MGに接続する際に、エンジン12のイナーシャに起因してショック(駆動力変動など)が生じる可能性がある。前記
図6のSS2では、このような始動方式Bと始動方式Aの特性の違いに基づいて予め定められた始動方式選択条件に従って何れか一方の始動方式を選択する。始動方式選択条件は、例えばアクセル開度Accおよび電動機回転速度Nmg等の運転状態に応じて定められる。
図9の始動方式選択マップは始動方式選択条件の一例で、アクセル開度Accをパラメータとして方式B下限回転速度Ntdcが定められており、エンジン始動制御の開始時(
図7、
図8の時間t1)における電動機回転速度Nmgが方式B下限回転速度Ntdc以上の場合は始動方式Bを選択し、方式B下限回転速度Ntdc未満の場合、すなわち
図9の斜線領域では始動方式Aを選択する。
図9の始動方式選択マップは、自動変速機18の複数のギヤ段毎に定められている。また、ロックアップクラッチLUの係合状態(完全係合、スリップ係合、および解放)に応じて定められる。方式B下限回転速度Ntdcは第1判定値に相当する。なお、
図9の始動方式選択マップのアクセル開度Accは要求駆動力等に置き替えることができるし、電動機回転速度Nmgは車速V等に置き替えることができる。
【0046】
図1に戻って、前記電子制御装置70の電動機制御部78は、走行モード切替制御部72によりモータ走行モードに設定された場合に、クラッチK0を解放してエンジン12を動力伝達経路から切り離した状態で、専ら電動機MGを駆動源としてハイブリッド車両10を走行させる。電動機制御部78は、例えばアクセル開度Accに応じて要求駆動力を算出し、その要求駆動力が得られるように電動機MGの出力を制御する。例えば、要求駆動力が得られるようにするための入力軸38の目標入力トルクTintを自動変速機18のギヤ段等に応じて算出し、その目標入力トルクTintが得られるように電動機MGの出力を制御する。電動機制御部78はまた、エンジン走行モードによる走行時に、予め定められたアシスト条件を満足する場合には、電動機MGを補助的に駆動して駆動力を発生させる。
【0047】
変速制御部80は、予め定められた変速条件に従って自動変速機18の目標ギヤ段を設定し、油圧制御回路34を介して複数の係合装置CBの係合解放状態を切り替えることにより、自動変速機18のギヤ段をその目標ギヤ段に切り替える。
図5は、変速条件である変速マップの一例で、実線が高ギヤ段側へ切り替えるアップシフト線であり、破線が低ギヤ段側へ切り替えるダウンシフト線である。この変速マップは、運転状態としてアクセル開度Accおよび車速Vをパラメータとして目標ギヤ段を定めたもので、実際のアクセル開度Accおよび車速Vがアップシフト線またはダウンシフト線を跨いで変化した場合、すなわち実際のギヤ段と目標ギヤ段とが異なる場合に、変速が必要と判断して変速制御が実行される。この変速制御は、例えばパワーOFF(被駆動状態)のダウンシフトの場合、解放側の係合装置CBの油圧(係合圧)を低下させつつ係合側の係合装置CBの油圧(係合圧)を高くして入力回転速度Nin(=タービン回転速度Nt)を引き上げるように行われる。また、パワーON(駆動状態)のダウンシフトの場合、解放側の係合装置CBの油圧を待機圧Pstに一定時間保持した後に徐々に低下させることにより、エンジン12または電動機MGの動力で入力回転速度Ninが上昇させられ、変速後の同期回転速度付近に達したら係合側の係合装置CBの油圧を高くして係合させるように行われる。
図5の変速マップは、アクセル開度Accが大きく且つ車速Vが低い程低ギヤ段となり、アクセル開度Accが小さく且つ車速Vが高い程高ギヤ段となるように定められている。なお、
図5では第7速ギヤ段「7th」および第8速ギヤ段「8th」に関する変速マップが省略されている。
【0048】
ここで、クラッチK0が解放されてエンジン12が切り離されたモータ走行モードでのハイブリッド車両10の走行中に、前記変速制御部80によって自動変速機18をダウンシフトさせる変速制御が開始され、その変速制御の実行中に前記エンジン始動制御部76によりエンジン始動制御が開始されるとともに変速制御部80により自動変速機18を更にダウンシフトさせる変速判断が為された場合、そのエンジン始動制御中にスリップ係合させられるクラッチK0の熱負荷が大きくなって損傷する可能性がある。例えば、
図5にA→B→Cで示すように、モータ走行モードにおいてアクセルOFFすなわちアクセル開度Acc=0の惰性走行中の点Aから、車速Vが低下して点Bに達すると、6→5ダウンシフト(第6速ギヤ段「6th」から第5速ギヤ段「5th」への変速)の変速制御が開始される。そして、その変速制御中に、再加速のためにアクセルペダル61が踏込み操作されて点Cに達すると、更に第3速ギヤ段「3rd」までダウンシフトさせる飛び変速判断が為されるとともに、アクセル開度Accが
図4のモード切替線Lmを超えて大きくなった場合にはエンジン走行モードに切り替えられ、エンジン始動制御部76によってエンジン始動制御が開始される。このように飛び変速によるダウンシフトとエンジン始動制御とが並行して行われると、エンジン回転速度Neを引き上げるためにクラッチK0がスリップ係合させられる始動方式Aの場合、ダウンシフトによって入力回転速度Ninに対応する電動機回転速度Nmgが高くなることから、エンジン回転速度Neを電動機回転速度Nmgと同期(一致)させてクラッチK0を完全係合させるまでの時間が長くなるため、クラッチK0の熱負荷が大きくなって損傷する可能性がある。このクラッチK0の損傷を抑制するために、変速制御部80には、予め定められた一定の条件に従って前記変速条件に基づくダウンシフト先のギヤ段を制限するダウンシフト制限部82が設けられている。すなわち、エンジン始動制御が行なわれる際には、クラッチK0がスリップ係合させられる始動方式Aを前提として、クラッチK0の熱負荷による損傷が抑制されるように、ダウンシフト制限部82によってダウンシフト先のギヤ段が高ギヤ段側に制限されるように変速条件が設定されている。
【0049】
一方、ダウンシフト先拡張部84は、上記ダウンシフト制限部82による制限を緩和して、エンジン始動時における変速条件を低ギヤ段とすることを許可し、ダウンシフト先のギヤ段を低ギヤ段側へ拡張するギヤ段拡張制御を行なうもので、例えば
図10のフローチャートに従ってギヤ段拡張制御を実行する。
図10のフローチャートは、自動変速機18のダウンシフトの変速制御中に実行され、S1ではエンジン始動制御部76によってエンジン始動制御が開始されたか否かを判断する。エンジン始動制御が開始される前やエンジン始動制御の実行中、或いはエンジン12が作動中の場合はそのまま終了し、エンジン始動制御が新たに開始された場合にS2以下を実行する。S2では、ダウンシフトがイナーシャ相中か否かを判断し、イナーシャ相中の場合はS3を実行する。S3では始動方式Aか否かを判断し、始動方式Aの場合はS6を実行してダウンシフト先のギヤ段を行き先ギヤ段1とする。この行き先ギヤ段1は、前記ダウンシフト制限部82によって制限された変速条件通りのギヤ段である。また、始動方式Aでない場合すなわち始動方式Bの場合は、S7を実行してダウンシフト先のギヤ段を行き先ギヤ段2とする。すなわち、始動方式Bの場合は、始動方式Aに比較してクラッチK0の熱負荷が小さいことから、始動方式Aの場合よりも変速条件を低ギヤ段とすることが許可され、ダウンシフト先のギヤ段が低ギヤ段側に拡張されるのであり、行き先ギヤ段2は行き先ギヤ段1よりも低ギヤ段である。例えば、6→5ダウンシフトの変速制御中にアクセル開度Accの増加に伴って第3速ギヤ段「3rd」への飛び変速判断が為された場合、行き先ギヤ段1は第5速ギヤ段「5th」のままで、行き先ギヤ段2は行き先ギヤ段1よりも低ギヤ段の第4速ギヤ段「4th」或いは第3速ギヤ段「3rd」とされる。行き先ギヤ段1が第4速ギヤ段「4th」で、行き先ギヤ段2が第3速ギヤ段「3rd」であっても良い。行き先ギヤ段1は、例えば実際の変速の進行状況に応じて前記ダウンシフト制限部82によって定められる。この行き先ギヤ段1または行き先ギヤ段2に従って前記変速制御部80によりダウンシフトの変速制御が行われる。
【0050】
図11は、自動変速機18のダウンシフトがイナーシャ相中でS2の判断がYES(肯定)の場合に、S6またはS7が実行されて行き先ギヤ段1または行き先ギヤ段2とされた場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例で、実線は始動方式Bで行き先ギヤ段2とされた場合、破線は始動方式Aで行き先ギヤ段1とされた場合である。
図11において、「OFFダウン」はパワーOFFダウンシフトを意味し、「ONダウン」はパワーONダウンシフトを意味している。
図11の時間t1は、例えば6→5のパワーOFFダウンシフトにおいて、入力回転速度Ninに対応する電動機回転速度Nmgが例えば第6速ギヤ段「6th」の同期回転速度から変速によって上昇するイナーシャ相が開始された時間で、時間t2は、アクセルペダル61の踏込み操作に伴ってエンジン始動制御が開始された時間である。この時間t2は、例えば
図12に示されるように5→4ダウンシフトのイナーシャ相中で、S2に続いてS3以下が実行される。そして、破線で示す始動方式Aでは、行き先ギヤ段1として第4速ギヤ段「4th」が設定され、その第4速ギヤ段「4th」まで変速するとともに、エンジン始動制御が完了した後に4→3ダウンシフトを行って目標ギヤ段である第3速ギヤ段「3rd」までダウンシフトさせる。時間t3は、自動変速機18が第4速ギヤ段「4th」に変速された状態で、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近に達してクラッチK0が完全係合させられた時間である。また、時間t4は、燃料噴射および着火によってエンジン12の始動制御が完了した時間であり、その後4→3ダウンシフトが行われて時間t6で変速制御が完了する。
【0051】
図12は、上記始動方式Aでエンジン12が始動させられた場合の変速の進行状況を具体的に例示したタイムチャートで、時間t1~t4、t6は
図11の時間t1~t4、t6に対応する。
図12において、イナーシャ相の欄のONはイナーシャ相であることを意味し、OFFはイナーシャ相でないことを意味している。また、回転速度の欄の破線は、各ギヤ段における入力回転速度Ninすなわちタービン回転速度Ntで、そのタービン回転速度Ntと電動機回転速度Nmgとの関係で変速の進行状況、具体的には現在のギヤ段やイナーシャ相か否か等が決まる。
【0052】
一方、前記
図11に実線で示す始動方式Bでは、行き先ギヤ段2が第3速ギヤ段「3rd」で、その第3速ギヤ段「3rd」まで直接変速されるとともに、その変速過程(イナーシャ相)でエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近に達して、時間t3付近でクラッチK0が完全係合させられることによりエンジン始動制御が完了させられ、時間t5で変速制御が完了する。すなわち、目的とする第3速ギヤ段「3rd」まで直接ダウンシフトされるため、始動方式Aに比較して変速所要時間が短くなり、駆動力応答性等のドライバビリティが向上する。
【0053】
図10に戻って、前記S2の判断がNO(否定)の場合、すなわち変速がイナーシャ相中でない場合は、S4を実行する。S4では、イナーシャ相が開始する前の状態で待機可能か否かを判断する。すなわち、パワーOFFダウンシフトの変速制御中にアクセルペダル61が踏込み操作されるとパワーONダウンシフトの変速制御に移行するが、何れも解放側の係合装置CBの係合油圧を徐々に低下させてイナーシャ相を開始させるため、油圧制御的にイナーシャ相が開始する前の状態に維持できるか否かを判断する。例えば
図13の解放側油圧指令値のグラフは、エンジン始動制御が開始される時間t2でパワーONダウンシフトの変速制御に移行しているが、時間t2において解放側油圧指令値がパワーONダウンシフトの待機圧Pstよりも高い場合には、その待機圧Pstに保持することによりイナーシャ相が開始する前の状態で待機させることができる。待機圧Pstは、解放側の係合装置CBが滑り始める直前の油圧、すなわちイナーシャ相が開始する直前の油圧で、学習制御等によって予め定められる。そして、イナーシャ相が開始する前の状態で待機できない場合、すなわち油圧制御的にイナーシャ相が開始することが避けられない場合は、イナーシャ相中の場合と同様にS3以下を実行して行き先ギヤ段1または行き先ギヤ段2とする。
【0054】
一方、イナーシャ相が開始する前の状態で待機できる場合はS5を実行し、エンジン始動制御が完了するまで解放側油圧指令値が待機圧Pstに保持されるように、変速制御部80に対して待機指令を出力する。また、S8で行き先ギヤ段3を設定し、エンジン始動制御が完了して解放側油圧指令値を待機圧Pstに保持する待機指令が解除されると、変速制御部80により解放側油圧指令値が低下させられ、行き先ギヤ段3へダウンシフトさせる変速制御が実行される。ここでは、エンジン始動制御が完了してクラッチK0が完全係合させられているため、クラッチK0の熱負荷を考慮する必要がなく、変速条件を低ギヤ段とすることが許可されて、始動方式Aか始動方式Bかに拘らずダウンシフト先のギヤ段が低ギヤ段側に拡張される。すなわち、前記ダウンシフト制限部82によるダウンシフトの制限が解除され、変速マップに従って求められた目標ギヤ段、例えば第3速ギヤ段「3rd」が行き先ギヤ段3とされる。これにより、行き先ギヤ段3は少なくとも行き先ギヤ段1よりも低ギヤ段側に拡張され、行き先ギヤ段2と同じか行き先ギヤ段2よりも低ギヤ段とされる。
【0055】
図13は、S2の判断がNOの場合に、S4に続いてS5、S8が実行されて行き先ギヤ段3とされた場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
図13の時間t1は、例えばモータ走行モードにおいてアクセルOFFの惰性走行中に車速Vが低下して6→5ダウンシフトの変速制御が開始された時間で、時間t2は、アクセルペダル61の踏込み操作に伴って始動方式Aによるエンジン始動制御が開始された時間である。時間t2は、6→5ダウンシフトのイナーシャ相が開始する前で、且つ、解放側油圧指令値がパワーONダウンシフトの変速制御へ移行した場合の待機圧Pstよりも高く、イナーシャ相が開始する前の状態で待機できる。すなわち、クラッチK0のスリップ係合でエンジン回転速度Neが上昇させられ、電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近に達してクラッチK0が完全係合させられるとともに、燃料噴射および着火により自力回転可能となってエンジン始動制御が完了する時間t3まで、解放側油圧指令値が待機圧Pstに保持される。そして、エンジン始動制御が完了すると、解放側油圧指令値が待機圧Pstから低下させられることにより、電動機回転速度Nmgが上昇するイナーシャ相が開始し(時間t4)、行き先ギヤ段3である目標ギヤ段の第3速ギヤ段「3rd」まで直接ダウンシフトされる(時間t5)。
【0056】
このようなハイブリッド車両10の電子制御装置70においては、エンジン始動制御部76によりエンジン始動制御が開始される時に、変速制御部80による変速制御で自動変速機18がダウンシフトしている時で、且つダウンシフトがイナーシャ相中の場合或いはイナーシャ相開始前の状態で待機させることができない場合に、始動方式Bでエンジン12が始動させられる場合(S7)の行き先ギヤ段2は、始動方式Aでエンジン12が始動させられる場合(S6)の行き先ギヤ段1に比較して低ギヤ段側に拡張される。すなわち、エンジン回転速度Neが低回転の段階から着火して自力回転させる始動方式Bでは、クラッチK0のスリップ係合が比較的少ないため、ダウンシフト先のギヤ段が比較的低ギヤ段でダウンシフトに伴う電動機回転速度Nmgの上昇幅が大きく、エンジン回転速度Neとの速度差が大きい場合でも、クラッチK0がスリップ係合による熱負荷で損傷する恐れはない。このため、変速条件を低ギヤ段とすることを許可することができ、目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせることができる。また、比較的低ギヤ段へのダウンシフトによって電動機回転速度Nmgが比較的高回転になるため、エンジン始動後にクラッチK0を完全係合させてエンジン12を電動機MGに接続する際に、エンジン12のイナーシャに起因して生じるショックが抑制される。
【0057】
一方、クラッチK0をスリップ係合させてエンジン回転速度Neを上昇させる始動方式Aでエンジン12を始動させる場合は、スリップ係合による熱負荷でクラッチK0が損傷する恐れがあることから、変速条件の制限を緩和することは適当でなく、S6では、ダウンシフト制限部82によって制限された変速条件通りのギヤ段が行き先ギヤ段1される。このため、
図11に破線で示されるようにダウンシフトに伴う電動機回転速度Nmgの上昇幅が低減されてエンジン回転速度Ne(=0)との速度差が小さくなり、クラッチK0のスリップ係合による熱負荷が軽減されてクラッチK0の損傷が抑制される。
【0058】
また、エンジン始動制御の開始時に電動機回転速度Nmgが方式B下限回転速度Ntdc以上の場合には、始動方式Bを実行してエンジン始動制御を完了させるため、電動機回転速度Nmgが比較的高回転の状態で始動方式Bによるエンジン始動制御が実行されるとともに、始動方式Bでは変速条件を低ギヤ段とすることが許可されてダウンシフト先のギヤ段が比較的低ギヤ段の行き先ギヤ段2とされることにより電動機回転速度Nmgが更に高回転になるため、クラッチK0を完全係合させてエンジン12を電動機MGに接続する際にエンジン12のイナーシャに起因して生じるショックが適切に抑制される。一方、エンジン始動制御の開始時に電動機回転速度Nmgが方式B下限回転速度Ntdc未満の場合には、始動方式Aを実行してエンジン始動制御を完了させるため、ダウンシフト先のギヤ段が変速条件通りの高ギヤ段側の行き先ギヤ段1に制限されることと相まって、電動機回転速度Nmgが比較的低回転の状態で始動方式Aによるエンジン始動制御が実行されることになり、クラッチK0の熱負荷による損傷が適切に抑制される。
【0059】
また、エンジン始動制御部76によりエンジン始動制御が開始される時に、変速制御部80による変速制御で自動変速機18がダウンシフトしている時で、イナーシャ相が開始する前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できる場合(S4の判断がYES)の行き先ギヤ段3は、ダウンシフトがイナーシャ相中の場合(S2の判断がYES)や、イナーシャ相が開始する前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できない場合(S4の判断がNO)の行き先ギヤ段1或いは2に比較して低ギヤ段側に拡張される。すなわち、イナーシャ相の開始前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できる場合は、そのイナーシャ相の開始前の状態で待機させることにより電動機回転速度Nmgが比較的低回転に維持されるため、始動方式Aでエンジン12を始動させる場合でも、クラッチK0のスリップ係合による熱負荷が小さくてクラッチK0の損傷が抑制される。また、エンジン始動制御が完了した後はクラッチK0が完全係合させられているため、ダウンシフト先のギヤ段である行き先ギヤ段3を制限する必要がなく、変速条件を低ギヤ段とすることが許可されて、目的とするギヤ段へ速やかにダウンシフトさせることができる。具体的には、ダウンシフト制限部82によるダウンシフトの制限が解除され、変速マップに従って求められた目標ギヤ段、例えば第3速ギヤ段「3rd」がS8の行き先ギヤ段3とされ、その第3速ギヤ段「3rd」まで直接ダウンシフトさせることができる。
【0060】
一方、ダウンシフトがイナーシャ相中の場合(S2の判断がYES)、またはイナーシャ相が開始する前で且つイナーシャ相の開始前の状態で待機できない場合(S4の判断がNO)には、ダウンシフト先のギヤ段が高ギヤ段側に制限される。具体的には、S8の行き先ギヤ段3は制限無しなのに対して、少なくともS6の行き先ギヤ段1は、ダウンシフト制限部82によって制限された変速条件通りの高ギヤ段に制限される。S7の行き先ギヤ段2は、行き先ギヤ段3と同じか行き先ギヤ段3に比較して高ギヤ段側とされる。すなわち、ダウンシフトがイナーシャ相まで進行している場合は、既に電動機回転速度Nmgが上昇しているため、ダウンシフト先のギヤ段が高ギヤ段側に制限されることにより更なる電動機回転速度Nmgの上昇を抑制し、始動方式Aでエンジン12を始動させる場合でも、クラッチK0のスリップ係合による熱負荷が低減されてクラッチK0の損傷が抑制される。イナーシャ相の開始前であってもその状態で待機できない場合は、ダウンシフトの進行に伴って電動機回転速度Nmgが上昇するために、同様にダウンシフト先のギヤ段が高ギヤ段側に制限されることによりクラッチK0のスリップ係合による熱負荷が低減される。
【0061】
また、本実施例の変速制御部80は、複数の係合装置CBの中の解放側の係合装置CBの油圧を低下させて入力回転速度Nin(=タービン回転速度Nt)が上昇することを許容することによりダウンシフトを進行させるもので、その油圧の低下を中断する指令すなわち待機圧Pstに保持する指令を出力することによりイナーシャ相が開始する前の状態で待機させるため(S5)、電動機回転速度Nmgが比較的低回転に維持され、始動方式Aでエンジン12を始動させる場合でもエンジン12を適切に始動させることができるとともにクラッチK0の熱負荷が抑制される。
【0062】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0063】
前記実施例のエンジン始動制御部76は、エンジン始動制御の開始時における電動機回転速度Nmgに応じてエンジン始動方式を決定し、そのエンジン始動方式でエンジン始動制御を完了させるが、
図14に示すようにエンジン始動制御の実行中に始動方式が切り替えられるようにしても良い。
図14は、前記
図6のフローチャートに従ってエンジン始動方式が選択されてエンジン始動制御の実行が開始された後に実行されるフローチャートで、SR1ではエンジン始動制御が実行中か否かを判断する。エンジン始動制御が実行中でなければそのまま終了するが、実行中の場合はSR2を実行する。SR2では、エンジン始動方式が始動方式Aか否かを判断し、始動方式Aでない場合すなわち始動方式Bの場合はそのまま終了するが、始動方式Aの場合はSR3を実行する。すなわち、始動方式Bは、エンジン回転速度Neが低回転の段階で燃料噴射および着火によりエンジン12が自力回転させられるため、始動方式Aに切り替える余裕がないのに対し、始動方式AはクラッチK0のスリップ係合でエンジン回転速度Neを引き上げるため比較的時間が掛かるとともに、エンジン始動制御の過程で電動機回転速度Nmgが上昇するとクラッチK0の熱負荷が大きくなるため、必要に応じて始動方式Bに切り替えることが望ましい。
【0064】
SR3では、予め定められた始動方式Bへの切替要件を満足するか否かを判断し、切替要件を満足する場合はSR4を実行して始動方式Bに切り替える一方、切替要件を満たさない場合はSR5を実行して始動方式Aを継続する。切替要件は、電動機回転速度Nmgが前記方式B下限回転速度Ntdc以上になった場合である。すなわち、電動機回転速度Nmgが例えばアクセル開度Accの増大やダウンシフトの進行などで上昇して方式B下限回転速度Ntdc以上になると、エンジン回転速度Neを電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度まで引き上げる際のクラッチK0の熱負荷が大きくなるため始動方式Bに切り替えることが望ましい。この場合の方式B下限回転速度Ntdcは第2判定値に相当し、
図6のSS2でエンジン始動方式を選択する際の方式B下限回転速度Ntdcと同じで値で、アクセル開度Accや自動変速機18のギヤ段、ロックアップクラッチLUの係合状態をパラメータとして定められる。但し、第1判定値である方式B下限回転速度Ntdcとは異なる回転速度、例えば方式B下限回転速度Ntdcよりも高回転速度の第2判定値が定められても良い。なお、電動機回転速度Nmgとエンジン回転速度Neとの回転速度差ΔNが小さいと、始動方式Bを実施してエンジン12を自力回転させた後にクラッチK0を完全係合させる際にショックが発生する可能性があるため、回転速度差ΔNが所定の許容判定値α以上であることを、and条件として切替要件に加えても良い。また、エンジン始動制御の実行時間が予め定められた許容時間を超えた場合など、その他の切替要件がor条件やand条件として加えられても良い。
【0065】
図15は、
図14のフローチャートに従って始動方式Aから始動方式Bに切り替えられた場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
図15の時間t1は、アクセルペダル61の踏込み操作に伴うエンジン始動要求に従って始動方式Aによりエンジン始動制御が開始された時間で、クラッチK0がスリップ係合させられることによりエンジン回転速度Neが上昇させられるが、この例ではアクセルペダル61が踏込み操作されたままであり、そのアクセル開度Accに応じて電動機回転速度Nmgも上昇している。時間t2は、電動機回転速度Nmgが方式B下限回転速度Ntdcに達してSR3の判断がYESになり、始動方式Bに切り替えられた時間であり、直ちに燃料噴射および着火によりエンジン12が自力回転させられるとともに、クラッチK0が解放される。そして、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近に達した時間t3でクラッチK0が完全係合させられ、始動方式Bによるエンジン始動制御が完了する。すなわち、始動方式Bに切り替えられることにより、エンジン始動制御中の電動機回転速度Nmgの上昇に拘らずクラッチK0の熱負荷による損傷が抑制される。
【0066】
図16は、
図14のフローチャートに従って始動方式Aが維持された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。すなわち、アクセルペダル61の踏込み操作に伴うエンジン始動要求に従って、時間t1で始動方式Aによりエンジン始動制御が開始される点は
図15と同じであるが、この例ではアクセルペダル61が一時的に踏込み操作されただけで短時間で踏込みが解除され、電動機回転速度Nmgが方式B下限回転速度Ntdcよりも低い低回転に維持されている。このため、SR3の判断がNOのままで始動方式Aが継続され、時間t2でエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度付近に達してクラッチK0が完全係合させられるとともに、その後燃料噴射および着火によりエンジン12が自力回転させられるようになる時間t3でエンジン始動制御が完了する。
【0067】
このように、本実施例のエンジン始動制御部76によれば、始動方式Aでエンジン12を始動させる際に、そのエンジン始動制御が完了する前すなわちクラッチK0のスリップ制御でエンジン回転速度Neを引き上げる過程で、電動機回転速度Nmgが方式B下限回転速度Ntdc以上になると、始動方式Bに切り替えられるため、エンジン始動制御中の電動機回転速度Nmgの上昇に拘らずクラッチK0の熱負荷による損傷が適切に抑制される。
【0068】
上記
図14のフローチャートによるエンジン始動方式の切り替えに拘らず、ダウンシフト先拡張部84は、
図10のフローチャートに従ってエンジン始動制御の開始時におけるエンジン始動方式に基づいてギヤ段拡張制御を実行しても良いが、
図17のフローチャートのように、エンジン始動方式の切り替えに応じてダウンシフト先のギヤ段が変更されるようにしても良い。すなわち、R1でエンジン始動制御部76によるエンジン始動制御が実行中か否かを判断し、エンジン始動制御が実行中の場合はR2以下を実行する。R2、R3、R5、およびR6は、前記
図10のフローチャートのS2、S3、S6、およびS7と実質的に同じであり、行き先ギヤ段I=行き先ギヤ段1であり、行き先ギヤ段II=行き先ギヤ段2である。したがって、エンジン始動制御の実行中にR3以下のステップが繰り返し実行されることにより、
図14のフローチャートに従ってエンジン始動方式が始動方式Aから始動方式Bに切り替えられた場合には、その切り替えに伴って変速条件を低ギヤ段とすることが許可され、ダウンシフト先のギヤ段が行き先ギヤ段Iから行き先ギヤ段IIに緩和される。具体的には、始動方式Bの場合における変速条件の行き先ギヤ段IIに比較して始動方式Aの場合における変速条件の行き先ギヤ段Iは高ギヤ段側に制限されるが、その制限が緩和されて低ギヤ段側に拡張され、例えば行き先ギヤ段Iが第4速ギヤ段「4th」の場合に、目標ギヤ段である第3速ギヤ段「3rd」が行き先ギヤ段IIとされる。
【0069】
このようにエンジン始動方式が始動方式Aから始動方式Bに切り替えられた場合に、その始動方式の切り替えに伴って自動変速機18のダウンシフト先のギヤ段の制限が緩和されると、目標ギヤ段へ速やかにダウンシフトさせることができるとともに、電動機回転速度Nmgが高くなるためクラッチK0を完全係合させる際にエンジン12のイナーシャに起因して生じるショックが適切に抑制される。
【0070】
図17に戻って、R2の判断がNOの場合、すなわちダウンシフトがイナーシャ相中でない場合は、R4を実行する。R4では、エンジン始動制御の進行によりエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度に達したK0同期後か否かを判断し、K0同期後でない場合すなわちエンジン回転速度NeがK0同期回転速度に達する前であれば、R7を実行して行き先ギヤ段 IIIとし、K0同期後の場合はR8を実行して行き先ギヤ段IVとする。K0同期後の場合、クラッチK0が既に完全係合させられているか、完全係合前であっても速やかに完全係合させられる可能性が高いため、クラッチK0の熱負荷を考慮する必要がなく、始動方式Aか始動方式Bかに拘らずダウンシフト先のギヤ段を制限する必要がない。すなわち、変速条件を低ギヤ段とすることを許可することができるため、例えばダウンシフト制限部82によるダウンシフトの制限を解除して、変速マップに従って求められた目標ギヤ段、例えば第3速ギヤ段「3rd」がR8の行き先ギヤ段IVとされる。一方、K0同期前の場合は、エンジン始動方式が始動方式AであるとクラッチK0がスリップ係合させられているため、K0クラッチが熱負荷により損傷する可能性があるため、ダウンシフト制限部82によるダウンシフトの制限を解除することは適当でなく、行き先ギヤ段 IIIは行き先ギヤ段IVよりも高ギヤ段側に制限される。行き先ギヤ段 IIIを、エンジン始動方式に応じて定める場合は、少なくとも始動方式Aの場合には行き先ギヤ段IVよりも高ギヤ段側、例えば第4速ギヤ段「4th」や第5速ギヤ段「5th」に制限され、始動方式Bの場合は行き先ギヤ段IVと同じか行き先ギヤ段IVよりも高ギヤ段側に制限される。なお、R4の判断がNOの場合にR3以下が実行されるようにして、R7を省略しても良い。
【0071】
図18は、
図17のフローチャートに従ってギヤ段拡張制御が実行された場合の各部の作動状態の変化を示したタイムチャートの一例である。
図18の時間t1は、モータ走行モードにおいてアクセルOFFの惰性走行中に車速Vが低下して、変速制御部80により6→5ダウンシフトの変速制御が開始された時間である。時間t2は、アクセルペダル61の踏込み操作に伴って、エンジン始動制御部76により始動方式Aによるエンジン始動制御が開始された時間である。この時、アクセル開度Accの増加に伴って、変速マップに基づく目標ギヤ段は例えば第3速ギヤ段「3rd」となるが、6→5ダウンシフトのイナーシャ相開始前で且つK0同期前であるためR7が実行され、ダウンシフト制限部82によって制限された変速条件通りのギヤ段、例えば第5速ギヤ段「5th」が行き先ギヤ段 IIIとされる。時間t3は、クラッチK0のスリップ係合によりエンジン回転速度Neが上昇させられる過程で、解放側の係合装置CBの油圧低下に伴って電動機回転速度Nmgが上昇させられるイナーシャ相が開始した時間である。イナーシャ相が開始するとR5が実行され、ダウンシフト先のギヤ段として行き先ギヤ段I、例えば第5速ギヤ段「5th」が設定される。
【0072】
図18の時間t4は、電動機回転速度Nmgが第5速ギヤ段「5th」の同期回転速度に達して、第5速ギヤ段「5th」へのダウンシフトが終了した時間である。時間t5は、クラッチK0のスリップ係合によりエンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度に達してクラッチK0が完全係合させられた時間であり、その後燃料噴射および着火によりエンジン12が自力回転させられるようになる。この場合、ダウンシフト先のギヤ段が第5速ギヤ段「5th」に制限されているため、電動機回転速度Nmgが比較的低回転であり、始動方式Aによるエンジン始動制御を短時間で適切に行うことができるとともにクラッチK0の熱負荷による損傷が抑制される。そして、第5速ギヤ段「5th」の状態、すなわち次の変速のイナーシャ相が開始する前で、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度に達するK0同期になるとR8が実行され、ダウンシフト先のギヤ段として制限無しの行き先ギヤ段IV、例えば目標ギヤ段である第3速ギヤ段「3rd」が設定される。すなわち、時間t5以降は、変速制御部80により5→3ダウンシフトの変速制御が開始され、時間t6は、その5→3ダウンシフトの変速制御が終了した時間である。
【0073】
図18は、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmgと等しいK0同期回転速度に達するK0同期になる前に、変速条件に従って制限された行き先ギヤ段Iまたは IIIへダウンシフトされる場合であるが、ダウンシフトが進行する前すなわちイナーシャ相が開始する前にK0同期になった場合には、K0同期後に直ちに行き先ギヤ段IVが設定され、制限無しのダウンシフトの変速制御が行われる。すなわち、例えば前記
図13に示すタイムチャートと同様にエンジン始動制御および変速制御が実行され、時間t3でエンジン始動制御が完了した後に直ちに第3速ギヤ段「3rd」までダウンシフトさせる6→3ダウンシフトが行われる。
【0074】
このように、
図17の実施例では、エンジン始動制御が開始される時に自動変速機18がダウンシフトしている場合に、イナーシャ相が開始する前で且つクラッチK0が同期した後の行き先ギヤ段IVは、イナーシャ相が開始する前で且つクラッチK0が同期する前の行き先ギヤ段 IIIに比較して低ギヤ段側に拡張される。すなわち、イナーシャ相が開始する前で且つクラッチK0が同期した後の場合は、クラッチK0がスリップ係合による熱負荷で損傷する恐れはなく、行き先ギヤ段IVを制限する必要がないため、変速条件を低ギヤ段とすることを許可することができ、目的とするギヤ段まで速やかにダウンシフトさせることができる。一方、イナーシャ相が開始する前で且つクラッチK0が同期する前の行き先ギヤ段 IIIは、イナーシャ相が開始する前で且つクラッチK0が同期した後の行き先ギヤ段IVに比較して高ギヤ段側に制限されるため、電動機回転速度Nmgの上昇が抑制され、始動方式Aでエンジン12を始動させる場合でも、クラッチK0のスリップ係合による熱負荷が低減されてクラッチK0の損傷が抑制される。
【0075】
なお、上記実施例ではダウンシフト制限部82によるダウンシフトの制限や、ダウンシフト先拡張部84によるダウンシフトの制限の緩和により、6→5ダウンシフトを経てから5→3ダウンシフトを実行する場合、6→4ダウンシフトを経てから4→3ダウンシフトを実行する場合、6→3ダウンシフト等について説明したが、ダウンシフトの種類や回数等はエンジン始動制御の開始タイミングや変速の進行状況等によって種々の態様が可能である。
【0076】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0077】
10:ハイブリッド車両 12:エンジン 18:自動変速機 70:電子制御装置(制御装置) 76:エンジン始動制御部 80:変速制御部 84:ダウンシフト先拡張部 MG:電動機 K0:クラッチ(エンジン断接装置) C1~C4:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置) Ne:エンジン回転速度 Nidle:アイドル回転速度(所定回転速度) Nmg:電動機回転速度 Nt:タービン回転速度(入力回転速度) Ntdc:方式B下限回転速度(第1判定値、第2判定値)