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  • 特許-蛍光体粉末、複合体および発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】蛍光体粉末、複合体および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20230328BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230328BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020178587
(22)【出願日】2020-10-26
(62)【分割の表示】P 2019069116の分割
【原出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2021011586
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】奥園 達也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真太郎
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/098932(WO,A1)
【文献】特開2005-272486(JP,A)
【文献】特開2018-197355(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077240(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/018873(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末であって、
前記Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子は、一般式:(M1 ,M2 ,Eu )(Si 12-(m+n) Al m+n )(O 16-n )(ただし、M1は1価のLi元素であり、M2はMg、Ca及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素)で示されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体で構成され、前記一般式において、0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0であるとともに、590nm以上の波長域に発光ピーク波長を有し、
レーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D50)が10μm以上20μm以下であり、
波長600nmの光に対する拡散反射率が94%以上99%以下である蛍光体粉末。
【請求項2】
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末であって、
前記Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子は、一般式:(M1 ,M2 ,Eu )(Si 12-(m+n) Al m+n )(O 16-n )(ただし、M1は1価のLi元素であり、M2はMg、Ca及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素)で示されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体で構成され、前記一般式において、0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、1.5≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0であり、
レーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D 50 )が10μm以上20μm以下であり、
波長600nmの光に対する拡散反射率が94%以上99%以下である蛍光体粉末。
【請求項3】
590nm以上の波長域に発光ピーク波長を有する、請求項2に記載の蛍光体粉末。
【請求項4】
波長800nmの光に対する拡散反射率X1(%)と波長600nmの光に対する拡散反射率X2(%)との差(X1-X2)が3.0(%)以下である、請求項1または3に記載の蛍光体粉末。
【請求項5】
波長500nmの光に対する拡散反射率が66%以上80%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光体粉末。
【請求項6】
レーザ回折散乱法で測定した体積基準累積10%径、体積基準累積90%径をそれぞれD10、D90としたとき、(D90-D10)/D50が1.0以上1.5以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の蛍光体粉末。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の蛍光体粉末と、
前記蛍光体粉末を封止する封止材と、
を備える複合体。
【請求項8】
励起光を発する発光素子と、
前記励起光の波長を変換する請求項に記載の複合体と、
を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末、複合体および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物、酸窒化物蛍光体として、特定の希土類元素が賦活されたα型サイアロン蛍光体は、有用な蛍光特性を有することが知られており、白色LED等に適用されている。α型サイアロン蛍光体は、α型窒化ケイ素結晶のSi-N結合が部分的にAl-N結合とAl-O結合で置換され、電気的中性を保つために、結晶格子間に特定の元素(Ca、並びにLi、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属)が格子内に侵入固溶した構造を有している。侵入固溶する元素の一部を発光中心となる希土類元素とすることにより蛍光特性が発現する。中でも、Caを固溶させ、その一部をEuで置換したα型サイアロン蛍光体は、紫外~青色領域の幅広い波長域で比較的効率よく励起され、黄~橙色発光を示す。このようなα型サイアロン蛍光体の蛍光特性をさらに向上させる試みとして、たとえば、分級処理によって、特定の平均粒径を有するα型サイアロン蛍光体を選別することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-96882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、白色LEDのさらなる高輝度化が要望されており、白色LEDに使用される蛍光体粉末の発光特性についてもより一層の向上が求められている。
本発明は上述のような課題を鑑みたものであり、発光特性が向上した蛍光体粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末であって、レーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D50)が10μm以上20μm以下であり、波長600nmの光に対する拡散反射率が93%以上99%以下である蛍光体粉末が提供される。
【0006】
また、本発明によれば、上述した蛍光体粉末と、当該蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える複合体が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、励起光を発する発光素子と、前記励起光の波長を変換する上述の複合体と、を備える発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光特性が向上した蛍光体粉末に関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来の蛍光体粉末におけるメジアン径(D50)と波長600nmの光に対する拡散反射率との関係、ならびに、本実施形態の蛍光体粉末に対して規定されるメジアン径(D50)および波長600nmの光に対する拡散反射率の範囲を示す概念図である。
図2】実施形態に係る発光装置の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
実施形態に係る蛍光体粉末は、Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末である。当該蛍光体粉末は、レーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D50)が10μm以上20μm以下であり、波長600nmの光に対する拡散反射率が93%以上99%以下である。
【0012】
本実施形態の蛍光体粉末によれば、従来のα型サイアロン蛍光体粒子が持つ励起波長域および蛍光波長域を保持しつつ、その蛍光特性を向上させることができるため、結果として、本実施形態の蛍光体粉末を用いた発光装置の発光特性を向上させることができる。
この理由として、詳細なメカニズムは定かでないが、メジアン径を10μm以上20μm以下の範囲とすることと、波長600nmの光に対する拡散反射率を93%以上99%以下とすることとを両立させることにより、蛍光体粉末の蛍光特性が向上すると考えられる。
【0013】
(α型サイアロン蛍光体粒子)
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子は、以下に説明するα型サイアロン蛍光体で構成される。
α型サイアロン蛍光体は、一般式:(M1,M2,Eu)(Si12-(m+n)Alm+n)(O16-n)(ただし、M1は1価のLi元素であり、M2はMg、Ca及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素)で示されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体である。
【0014】
α型サイアロン蛍光体の固溶組成は、上記一般式におけるx、y、z及びそれに付随するSi/Al比やO/N比により決まるmとnで表され、0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0である。特にM2として、Caを使用すると、幅広い組成範囲でα型サイアロン蛍光体が安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、黄から橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0015】
一般に、α型サイアロン蛍光体は、当該α型サイアロン蛍光体とは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、組成分析等により固溶組成を厳密に規定することができない。α型サイアロン蛍光体の結晶相としては、α型サイアロン単相が好ましく、他の結晶相として窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド等を含んでいてもよい。
【0016】
α型サイアロン蛍光体粒子では、複数の等軸状の一次粒子が焼結して塊状の二次粒子を形成する。本実施形態における一次粒子とは、電子顕微鏡等で観察可能な単独で存在することができる最小粒子をいう。α型サイアロン蛍光体粒子の形状は特に限定されず、球状体、立方体、柱状体、不定形などが挙げられる。
【0017】
本実施形態の蛍光体粉末のメジアン径(D50)は、10μm以上であり、12μm以上がより好ましい。また、本実施形態の蛍光体粉末のメジアン径(D50)の上限は、20μm以下であり、18μm以下がより好ましい。本実施形態の蛍光体粉末のメジアン径(D50)は上記二次粒子における寸法である。
【0018】
ここで、蛍光体粉末のメジアン径(D50)とは、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法による体積基準の積算分率における50%径を意味する。
【0019】
本実施形態の蛍光体粒子は、メジアン径(D50)を上記範囲であることに加え、波長600nmの光に対する拡散反射率が93%以上99%以下であるという条件を満たす。拡散反射率は、積分球装置を取り付けた紫外可視分光光度計により測定することができる。なお、波長600nmの光に対する拡散反射率は発光特性をより向上させる観点から、94%以上96%以下がより好ましい。
【0020】
図1は、従来の蛍光体粉末におけるメジアン径(D50)と波長600nmの光に対する拡散反射率との関係、ならびに、本実施形態の蛍光体粉末に対して規定されるメジアン径(D50)および波長600nmの光に対する拡散反射率の範囲を示す概念図である。
これまで蓄積してきたα型サイアロン蛍光体に関する知見によれば、従来のα型サイアロン蛍光体粉末では、メジアン径(D50)に対して波長600nmの光に対する拡散反射率を図1にプロットすると、図1に示す曲線の近傍に位置する。これに対して、本実施形態の蛍光体粉末では、後述する製造方法を最適化することにより、メジアン径(D50)が10μm以上20μm以下の範囲において、拡散反射率を従来より高い、93%以上99%以下という範囲に調節することにより、発光特性の向上が図られることが見出された。
【0021】
また、本実施形態の蛍光体粉末では、メジアン径(D50)および拡散反射率をそれぞれ上述した所定の範囲としつつ、以下の条件を少なくとも1つ満たすことにより、発光特性をより一層向上させることができる。
(i)レーザ回折散乱法で測定した体積基準累積10%径、体積基準累積90%径をそれぞれD10、D90としたとき、(D90-D10)/D50が1.0以上1.5以下であること
(ii)波長500nmの光に対する拡散反射率が66%以上80%以下であること
(iii)波長800nmの光に対する拡散反射率X1(%)と波長600nmの光に対する拡散反射率X2(%)との差(X1-X2)が3.0(%)以下であること
【0022】
以上説明した蛍光体粉末によれば、レーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D50)を10μm以上20μm以下の範囲とすることと、波長600nmの光に対する拡散反射率を93%以上99%以下の範囲とすることとを両立させることにより、蛍光特性の向上を図ることができる。
【0023】
(蛍光体粉末の製造方法)
本実施形態のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末の製造方法について説明する。α型サイアロン蛍光体粒子では、合成過程において、主として原料粉末の一部が反応して液相が形成され、その液相を介して各元素が移動することにより、固溶体形成と粒成長が進む。
まず、Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子を構成する元素を含む原料を混合する。具体的には、カルシウム原料として、窒化カルシウムを使用して合成した酸素含有率の低いα型サイアロン蛍光体粒子は、カルシウムが高濃度に固溶される。特にCa固溶濃度が高い場合、酸化物原料を使用した従来組成よりも高波長側(590nm以上)に発光ピーク波長を有する蛍光体が得られる。具体的には前記一般式において、1.5<x+y+z≦2.0が好ましい。Caの一部をLi、Mg、Sr、Ba、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く。)に置換し、発光スペクトルの微調整を行うこともできる。
【0024】
上記以外の原料粉末としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びEu化合物が挙げられる。Eu化合物としては、酸化ユーロピウム、加熱後に酸化ユーロピウムになる化合物、及び、窒化ユーロピウムがあり、好ましくは、系内の酸素量を減らすことができる窒化ユーロピウムが好ましい。
【0025】
予め合成したα型サイアロン蛍光体粒子を適量原料粉末に添加すると、これが粒成長の基点となり、比較的短軸径の大きなα型サイアロン蛍光体粒子を得ることができ、添加するα型サイアロン粒子の形態を変えることで粒形状を制御することができる。
【0026】
前記した各原料を混合する方法としては、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法がある。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミルがある。大気中で不安定な窒化カルシウムの混合については、その加水分解や酸化が合成品特性に影響するため、不活性雰囲気のグローブボックス内で行うことが好ましい。
【0027】
混合して得た粉末(以下、単に原料粉末という)を、原料及び合成される蛍光体と反応性の低い材質の容器、たとえば窒化ホウ素製容器内に充填し、窒素雰囲気中で、所定時間加熱することによりα型サイアロン蛍光体を得る。加熱処理の温度は、1650℃以上1950℃以下とすることが好ましい。
【0028】
加熱処理の温度を1650℃以上とすることにより、未反応生成物の残存する量を抑制し、十分に一次粒子を成長させることができ、1950℃以下とすることにより、顕著な粒子間の焼結を抑制できる。
【0029】
原料粉末の容器内への充填は、加熱中に粒子間焼結を抑制する観点から、嵩高くすることが好ましい。具体的には、原料粉末の容器に充填する際に嵩密度を0.6g/cm以下とすることが好ましい。
【0030】
加熱処理における加熱時間は、未反応物が多く存在したり、一次粒子が成長不足であったり、粒子間の焼結が生じてしまったりという不都合が生じない時間範囲として、2時間以上24時間以下が好ましい。
【0031】
上述の工程によって外形がインゴット状のα型サイアロン蛍光体が生成される。このインゴット状のα型サイアロン蛍光体を、クラッシャー、乳鉢粉砕、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等の粉砕機による粉砕工程と、これらの粉砕処理後の篩分級工程とによって、二次粒子のD50粒径が調整されたα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を得ることができる。また、蛍光体粉末を水溶液中に分散させて粒子径が小さく沈降しにくい二次粒子を除去する工程で行うことで、二次粒子のD50粒径を調整することができる。
【0032】
実施形態に係るα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末は、上述した工程を実施した後、酸処理工程を実施することにより作製することができる。
酸処理工程では、たとえば、酸性水溶液中にα型サイアロン蛍光体粒子が浸漬される。酸性水溶液としては、フッ酸、硝酸、塩酸などの酸から選ばれる1種の酸を含む酸性水溶液、または上記の酸から2種以上を混合して得られる混酸水溶液が挙げられる。この中でも、フッ酸を単独で含むフッ酸水溶液およびフッ酸と硝酸を混合して得られる混酸水溶液がより好ましい。酸性水溶液の原液濃度は、用いる酸の強さによって適宜設定されるが、たとえば、0.7%以上100%以下が好ましく、0.7%以上40%以下がより好ましい。また、酸処理を実施する際の温度は25℃以上90℃以下が好ましく、60℃以上90℃以下がより好ましく、反応時間(浸漬時間)としては15分以上80分以下が好ましい。
蛍光体粉末のメジアン径(D50)および波長600nmの光に対する拡散反射率は、粉砕工程における粉砕の度合い、篩分級工程で使用される篩の目開き、酸処理に用いる酸性水溶液の原液濃度、酸処理時の温度、反応時間などを最適に調節することにより制御することができる。たとえば、後述する豊富な実施例を参考に、粉砕工程や篩分級工程の条件、酸性水溶液の原液濃度、酸処理時の温度、反応時間の組み合わせに近似する条件を採用し酸処理を実施することにより、蛍光体粉末のメジアン径(D50)および波長600nmの光に対する拡散反射率を所望の値とすることができる。
【0033】
(複合体)
実施形態に係る複合体は、上述した蛍光体粉末と、当該蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える。本実施形態に係る複合体では、上述したα型サイアロン蛍光体粒子が封止材中に複数分散されている。封止材としては、周知の樹脂やガラスなどの材料を用いることができる。封止材に用いる樹脂としては、たとえば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの透明樹脂が挙げられる。
【0034】
複合体を作製する方法としては、液体状の樹脂またはガラスに実施形態に係る蛍光体粉末を加え、均一に混合した後、加熱処理により硬化させて作製する方法が挙げられる。
【0035】
(発光装置)
図2は、実施形態に係る発光装置の構造を示す概略断面図である。図2に示すように、発光装置100は、発光素子120、ヒートシンク130、ケース140、第1リードフレーム150、第2リードフレーム160、ボンディングワイヤ170、ボンディングワイヤ172および複合体40を備える。
【0036】
発光素子120はヒートシンク130上面の所定領域に実装されている。ヒートシンク130上に発光素子120を実装することにより、発光素子120の放熱性を高めることができる。なお、ヒートシンク130に代えて、パッケージ用基板を用いてもよい。
【0037】
発光素子120は、励起光を発する半導体素子である。発光素子120としては、たとえば、近紫外から青色光に相当する300nm以上500nm以下の波長の光を発生するLEDチップを使用することができる。発光素子120の上面側に配設された一方の電極(図示せず)が金線などのボンディングワイヤ170を介して第1リードフレーム150の表面と接続されている。また、発光素子120の上面に形成されている他方の電極(図示せず)は、金線などのボンディングワイヤ172を介して第2リードフレーム160の表面と接続されている。
【0038】
ケース140には、底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状の凹部が形成されている。発光素子120は、上記凹部の底面に設けられている。発光素子120を取り囲む凹部の壁面は反射板の役目を担う。
【0039】
複合体40は、ケース140によって壁面が形成される上記凹部に充填されている。複合体40は、発光素子120から発せられる励起光をより長波長の光に変換する波長変換部材である。複合体40として、本実施形態の複合体が用いられ、樹脂などの封止材30中に本実施形態のα型サイアロン蛍光体粒子1が分散されている。発光装置100は、発光素子120の光と、この発光素子120の光を吸収し励起されるα型サイアロン蛍光体粒子1から発生する光との混合色を発する。発光装置100は、発光素子120の光とα型サイアロン蛍光体粒子1から発生する光との混色により白色を発光することが好ましい。
【0040】
本実施形態の発光装置100では、上述したように、α型サイアロン蛍光体粒子1からなる蛍光体粉末がレーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D50)が10μm以上20μm以下であるという条件と、波長600nmの光に対する拡散反射率が93%以上99%以下であるという条件の両方を満たすことにより、α型サイアロン蛍光体粒子1および複合体40の蛍光特性が向上し、ひいては、発光装置100の発光強度の向上を図ることができる。
【0041】
なお、図2では、表面実装型の発光装置が例示されているが、発光装置は表面実装型に限定されず、砲弾型やCOB(チップオンボード)型、CSP(チップスケールパッケージ)型であってもよい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末であって、
レーザ回折散乱法による体積基準のメジアン径(D 50 )が10μm以上20μm以下であり、
波長600nmの光に対する拡散反射率が93%以上99%以下である蛍光体粉末。
2.
波長500nmの光に対する拡散反射率が66%以上80%以下である1.に記載の蛍光体粉末。
3.
波長800nmの光に対する拡散反射率X1(%)と波長600nmの光に対する拡散反射率X2(%)との差(X1-X2)が3.0(%)以下である1.または2.に記載の蛍光体粉末。
4.
レーザ回折散乱法で測定した体積基準累積10%径、体積基準累積90%径をそれぞれD 10 、D 90 としたとき、(D 90 -D 10 )/D 50 が1.0以上1.5以下である1.乃至3.のいずれか1つに記載の蛍光体粉末。
5.
1.乃至4.のいずれか1つに記載の蛍光体粉末と、前記蛍光体粉末を封止する封止材と、
を備える複合体。
6.
励起光を発する発光素子と、
前記励起光の波長を変換する5.に記載の複合体と、
を備える発光装置。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
グローブボックス内で、原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、E10グレード)を62.4質量部、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製、Eグレード)を22.5質量部、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製RUグレード)を2.2質量部、窒化カルシウム粉末(高純度化学研究所社製)を12.9質量部とし、原料粉末をドライブレンド後、目開き250μmのナイロン製篩を通して原料混合粉末を得た。その原料混合粉末120gを、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製、N-1グレード)に充填した。
【0045】
この原料混合粉末を容器ごとカーボンヒーターの電気炉で大気圧窒素雰囲気中、1800℃で16時間の加熱処理を行った。原料混合粉末に含まれる窒化カルシウムは、空気中で容易に加水分解しやすいので、原料混合粉末を充填した窒化ホウ素製容器はグローブボックスから取り出した後、速やかに電気炉にセットし、直ちに真空排気し、窒化カルシウムの反応を防いだ。
【0046】
合成物は乳鉢で軽く解砕し、目開き150μmの篩を全通させ、蛍光体粉末を得た。この蛍光体粉末に対して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(X-ray Diffraction)により、結晶相を調べたところ、存在する結晶相はEu元素を含有するCa-α型サイアロン(Caを含むα型サイアロン)であった。
【0047】
次に、50%フッ酸3.2mlと、70%硝酸0.8mlとを混合して混合原液とした。混合原液に蒸留水396mlを加え、混合原液の濃度を1.0%に希釈し、混酸水溶液400mlを調製した。この混酸水溶液に、上述のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末30gを添加し、混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて回転速度450rpmで攪拌しながら、30分浸漬する酸処理を実施した。酸処理後の粉末は、蒸留水にて十分に酸を洗い流して濾過し、乾燥させた後、目開き45μmの篩を通して実施例1のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0048】
(実施例2)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸1.2mlと、70%硝酸2.8mlとを混合した混合原液に蒸留水396mlを加え、原液濃度1.0%の混酸水溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例2のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0049】
(実施例3)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸10mlと、70%硝酸10mlとを混合した混合原液に蒸留水380mlを加え、原液濃度5.0%の混酸水溶液を調製したこと、および混酸水溶液の温度を30℃に保ちながら蛍光体粉末を30分浸漬したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例3のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0050】
(実施例4)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸50mlと、70%硝酸50mlとを混合した混合原液に蒸留水300mlを加え、原液濃度25%の混酸水溶液を調製したこと、および混酸水溶液の温度を80℃に保ちながら蛍光体粉末を60分浸漬したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例4のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0051】
(比較例1)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸1.0mlと、70%硝酸1.0mlとを混合した混合原液に蒸留水398mlを加え、原液濃度0.5%の混酸水溶液を用いたこと、および混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて回転速度300rpmで攪拌しながら、30分浸漬する酸処理を実施したことを除き、実施例1と同様な手順で比較例1のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
比較例1のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末の作製方法では、酸処理に用いる混酸水溶液の原液濃度を従来実施していた水準とした。
【0052】
(比較例2)
実施例1で得られた混合物を乳鉢で軽く解砕した後、φ1mmのジルコニアボールを用いてボールミル粉砕したこと、および用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸50mlと、70%硝酸50mlとを混合した混合原液に蒸留水300mlを加え、原液濃度25%の混酸水溶液を用いたこと、および混酸水溶液の温度を80℃に保ちながら蛍光体粉末を60分浸漬したことを除いて、実施例1と同様な手順で比較例2のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0053】
(粒度測定)
粒度はMicrotrac MT3300EX II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法により測定した。イオン交換水100ccに蛍光体粉末0.5gを投入し、そこにUltrasonic Homogenizer US-150E(株式会社日本精機製作所、チップサイズφ20mm、Amplitude100%、発振周波数19.5KHz、振幅約31μm)で3分間、分散処理を行い、その後、MT3300EX IIで粒度測定を行った。得られた粒度分布からメディアン径(D50)を求めた。また、体積基準累積10%径(D10)、体積基準累積90%径(D90)をそれぞれ求め、(D90-D10)/D50を算出した。粒度について得られた結果を表1に示す。
【0054】
(拡散反射率)
拡散反射率は、日本分光社製紫外可視分光光度計(V-650)に積分球装置(ISV-722)を取り付けて測定した。標準反射板(スペクトラロン)でベースライン補正を行い、蛍光体粉末を充填した固体試料ホルダーを取り付けて、500nm、600nm、700nmおよび800nmの各波長の光に対する拡散反射率の測定を行った。拡散反射率について得られた結果を表1に示す。
【0055】
(発光特性)
得られた各蛍光体粉末に関して、内部量子効率および外部量子効率を分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定し、以下の手順で算出した。
蛍光体粉末を凹型セルの表面が平滑になるように充填し、積分球を取り付けた。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を励起源として、蛍光体粉末の試料に照射し、試料の蛍光スペクトル測定を行った。
試料部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450nm以上465nm以下の波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
試料部にα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を取り付けて、得られたスペクトルデータからピーク波長を求めるとともに、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465nm以上800nm以下の範囲で算出した。
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
上記の測定方法を用い、株式会社サイアロンより販売している標準試料NSG1301を測定した場合、外部量子効率は55.6%、内部量子効率74.8%となった。この試料を標準として装置を校正した。内部量子効率および外部量子効率について得られた結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、メジアン径(D50)が10μm以上20μm以下で、かつ、波長600nmの光に対する拡散反射率が93%以上99%以下であるという条件を満たす実施例1~4の蛍光体粉末は、この条件を満たさない比較例1、2に比べて、内部量子効率および外部量子効率ともに向上することが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 α型サイアロン蛍光体粒子
30 封止材
40 複合体
100 発光装置
120 発光素子
130 ヒートシンク
140 ケース
150 第1リードフレーム
160 第2リードフレーム
170 ボンディングワイヤ
172 ボンディングワイヤ
図1
図2