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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】角形鋼管及び角形鋼管の溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20230328BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20230328BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20230328BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20230328BHJP
   B23K 37/06 20060101ALI20230328BHJP
   E04C 3/32 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
B23K9/00 501B
B23K9/23 J
B23K9/18 F
B23K9/173 A
B23K37/06 C
E04C3/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020554009
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042691
(87)【国際公開番号】W WO2020090939
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018205789
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】萩野 毅
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 匡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-016212(JP,A)
【文献】実開平06-077989(JP,U)
【文献】特開2006-000868(JP,A)
【文献】実開昭59-194396(JP,U)
【文献】横山幸夫 他,建築構造用高性能60キロ鋼を用いた溶接組立箱形断面柱の溶接施工試験,駒井技法,1995年、Vol.14,p57-64,[令和4年5月16日検索]、インターネット<https://www.komaihaltec.co.jp/tec/komai/1995/vol14-8.pdf>及び<https://www.komaihaltec.co.jp/tec/komai/vol14.html>
【文献】鈴木康正 他,1000N/mm2級鋼を用いた溶接4面ボックス柱-梁接合の開発,大林技術研究所報,2013年、No.77,日本,P1-8,[令和4年5月16日検索]、インターネット<https://www.obayashi.co.jp/technology/shoho/077/2013_077_28.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 9/23
B23K 9/18
B23K 9/173
B23K 37/06
E04C 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁との柱梁接合部に用いられる角形鋼管であって、
前記角形鋼管は、
複数枚の鋼板と、該鋼板の側縁部同士を溶接して接合された溶接部とから成る断面視四角形のノンダイアフラム形式の鋼管であり、
前記溶接部は、異なる種類の材料が積層された多層構造から成り、
前記多層のうち内側に位置する内側材料層を形成する材料の降伏点は、前記多層のうち外側に位置する外側材料層を形成する材料の降伏点よりも高く、
前記外側材料層を形成する材料の降伏点は、前記鋼板を形成する材料の降伏点と同等あるいはそれよりも高いことを特徴とする角形鋼管。
【請求項2】
前記内側材料層は、単層で構成されている、請求項1に記載の角形鋼管。
【請求項3】
前記外側材料層は、同一の材料から成る複数の層で構成されている、請求項2に記載の角形鋼管。
【請求項4】
前記角形鋼管は、4枚の平板状の鋼板を含み、
前記平板状の鋼板の側縁部に形成された開先は、前記角形鋼管の内側から外側に向かって拡開する形状を呈し、
前記内側材料層は、前記開先箇所を溶接して形成される前記溶接部の最内側に位置する層である、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の角形鋼管。
【請求項5】
前記内側材料層を構成する材料は、シャルピー衝撃試験において衝撃吸収エネルギーが0℃で70J以上である、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の角形鋼管。
【請求項6】
前記内側材料層を構成する材料は、降伏点が460N/mm2以上、及び、引張強さが550N/mm2以上であり、
前記外側材料層を構成する材料は、降伏点が390N/mm2以上、及び、引張強さが490N/mm2以上である、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の角形鋼管。
【請求項7】
前記角形鋼管の角部における内面側には裏当金が配設され、
前記裏当金は、断面視略L字形状又は断面視略三角形状を呈している、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の角形鋼管。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の角形鋼管の下端に、下階柱の上端が接合され、
前記角形鋼管の上端に、上階柱の下端が接合され、
前記角形鋼管の側面に、梁が接合されている、柱梁接合部構造。
【請求項9】
柱と梁との柱梁接合部に用いられる断面視四角形のノンダイアフラム形式の角形鋼管の溶接方法であって、
複数枚の鋼板を準備する工程と、
前記鋼板の端縁部同士を溶接する溶接工程と、を有し、
前記溶接工程は、
前記角形鋼管に用いられる材料の降伏点よりも高い材料から成る内側材料層を形成する内側材料層形成工程と、
前記内側材料層形成工程の後に、前記内側材料層の材料の降伏点よりも低い材料から成
る外側材料層を形成する外側材料層形成工程と、を含む角形鋼管の溶接方法。
【請求項10】
前記内側材料層形成工程では、CO2半自動溶接により前記内側材料層を1層形成する、
請求項に記載の角形鋼管の溶接方法。
【請求項11】
前記外側材料層形成工程では、サブマージアーク溶接により前記外側材料層を複数層形成する、
請求項または10に記載の角形鋼管の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形鋼管及び角形鋼管の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨構造物の柱部材に用いられる角形鋼管柱と、梁部材に用いられるH形鋼との接合部分においては、従来、ダイアフラム形式(例えば、通しダイアフラム形式、内ダイアフラム形式、外ダイアフラム形式等)が採用されている。近年では、このダイアフラムを設けずに短尺の厚肉角形鋼管からなる柱梁接合部コアを用いてその管壁面にH形鋼を直接溶接可能にしたノンダイアフラム形式の柱梁接合構造も採用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
上記ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造に適用される厚肉角形鋼管は、例えば鋳鋼製や形鋼を溶接で接合したものが知られている。特許文献1では、4枚の矩形状鋼板を箱形に組合せ、各鋼板の側縁部同士を溶接することにより断面視四角形の厚肉角形鋼管を形成している。詳細には、開先を両側縁部に形成した4枚の鋼板を箱形に配置して各鋼板の側縁部を隣接させ、当該側縁部間に溶接トーチをそれぞれ配置し、これらの溶接トーチを鋼板の下方から上方に移動させて鋼板の側縁部を同時に溶接する方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-024092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造に適用される厚肉角形鋼管には、前述したようにその側面にH形鋼が直接接合される構造であるため、そのような構造に耐え得る強度が求められる。このような厚肉角形鋼管を、特許文献1のように各鋼板の側縁部同士を溶接にて接合した構成とした場合、特に接合部分に応力が集中しやすく、設計通りの強度が得られないことがある。特許文献1には、各鋼板の側縁部同士を同時に溶接することで、作業能率を向上させることは記載されているものの、溶接により接合して形成した厚肉角形鋼管の強度を向上させることの検討はされていなく、改善する必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、柱梁接合構造に用いられる角形鋼管の強度を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る角形鋼管は、柱と梁との柱梁接合部に用いられる角形鋼管であって、複数枚の鋼板と、該鋼板の側縁部同士を溶接して接合された溶接部とから成る断面視四角形の鋼管であり、溶接部は、異なる種類の材料が積層された多層構造から成り、多層のうち内側に位置する内側材料層を形成する材料の降伏点は、多層のうち外側に位置する外側材料層を形成する材料の降伏点よりも高い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、柱梁接合構造に用いられる角形鋼管の強度を向上させることができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鉄骨構造物の要部を説明するための斜視図である。
図2】本実施形態に係る厚肉角形鋼管の概略構成を示す斜視図である。
図3】本実施形態に係る厚肉角形鋼管の概略構成を示す側面図である。
図4】本実施形態に係る厚肉角形鋼管の概略構成を示す平面図である。
図5】隣接する鋼板の間に形成される溶接金属を拡大して示す拡大図である。
図6】厚肉角形鋼管に適用される裏当金の変形例を説明するための図である。
図7】厚肉角形鋼管における鋼板の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0011】
まず、本実施形態に係る角形鋼管が適用される柱梁接合構造の構成について説明する。四角形鋼管柱とH形鋼梁とを用いた鉄骨構造物を建造する場合には、四角形鋼管柱を立てて、当該角形鋼管柱にH形鋼梁を取り付ける構造が採用される。四角形鋼管柱にH形鋼梁を接続するにあたっては、その柱梁仕口部の構造(柱梁接合構造)として、ノンダイアフラム形式が採用される。このノンダイアフラム形式の柱梁接合構造を採用した鉄骨構造物の要部を図1に示す。図1では、柱梁接合構造1における厚肉角形鋼管30の上方側に接合する四角形鋼管柱10aを、厚肉角形鋼管30から分離した状態を示している。尚、以下で説明する図1~7において、図示の便宜上、断面ではない部分にもハッチングを附している場合がある。図1には、ノンダイアフラム形式の柱梁接合構造を採用した鉄骨構造物の要部を示しているが、本実施形態における柱梁接合構造は、この態様に限定されず、例えば、厚肉角形鋼管30に孔を開けて梁20をボルト接合する態様も含まれる。
【0012】
図1に示すように、柱梁接合構造1は、上下方向に延設される上下の四角形鋼管柱10a、10bと、上下の四角形鋼管柱10a、10bの間に配設される厚肉角形鋼管30(角形鋼管)と、厚肉角形鋼管30の側面にその一端部が固定され、水平方向に延設される梁20と、から構成される。
【0013】
梁20は、H形鋼から成り、対向する2枚の平板状のフランジ20aと、対向するフランジ20aの間に形成されるウェブ20bと、から構成される。梁20は、フランジ20aが上下方向に対向した位置となり、且つウェブ20bの一端面が厚肉角形鋼管30の側面に当接するように、厚肉角形鋼管30に溶接接合される。
【0014】
四角形鋼管柱10a、10bは、鉄骨構造物の柱となる部材であって、断面略四角形状を呈する長尺の角形鋼管である。下方側に延在する四角形鋼管柱10b(下階柱)の上端に厚肉角形鋼管30の下端が接合され、上方側に延在する四角形鋼管柱10a(上階柱)の下端に厚肉角形鋼管30の上端が接合される。以下、各四角形鋼管柱10a、10bを個別に区別せず、まとめて表現する場合は、単に「四角形鋼管柱10」と表記する。
【0015】
厚肉角形鋼管30は、上下の四角形鋼管柱10と梁20との接続部(柱梁仕口部)に配設される、断面視略四角形状を呈した短尺の角形鋼管である。柱梁接合構造1においては、上下の四角形鋼管柱10と、厚肉角形鋼管30と、が直線状に位置するように配設される。本実施形態における柱梁接合構造1には、H形鋼から成る梁20を直接、側面に接合可能なノンダイアフラム形式の厚肉角形鋼管30が用いられるため、この厚肉角形鋼管30の板厚tは、四角形鋼管柱10の板厚tより厚く形成されている。板厚tは、例えば22~50mm、板厚tは、例えば6~25mmである。尚、厚肉角形鋼管30は、その長手方向の長さが、厚肉角形鋼管30の側面に接合される梁20の高さ(フランジ20a間の高さ)より長くなっている。
【0016】
図2乃至図5を参照しながら厚肉角形鋼管30の構成について更に説明する。図2は、厚肉角形鋼管30の概略構成を示す斜視図である。図3は、厚肉角形鋼管30の概略構成を示す側面図である。図4は、厚肉角形鋼管30の概略構成を示す平面図である。図5は、厚肉角形鋼管30の角部に形成される溶接金属32(溶接部)を説明するための拡大図である。
【0017】
図2に示すように、厚肉角形鋼管30は、四角形鋼管柱10を構成する鋼管の板厚よりも厚い4枚の矩形状の鋼板31a、31a、31b、31bを、互いに溶接して接合することにより成形される。以下、各鋼板31a、31a、31b、31bの端縁を互いに溶接して溶接金属32を形成する工程について説明する。尚、本明細書において、各鋼板31a、31a、31b、31bを個別に区別せず、まとめて表現する場合は、単に「鋼板31」と表記する。
【0018】
まず、4枚の鋼板31を互いに対向させて箱形に配置する。これら箱形に配置した鋼板31の互いに隣接する側縁部には、所定角度の傾斜をもつ開先Gが形成されている。本実施形態では、互いに対向して配置される鋼板31b、31bの幅方向両端縁に、所定角度の傾斜をもつ開先Gが形成されている。そして、隣接する鋼板31同士の開先Gに、所定の溶接装置(例えば溶接トーチ(図示略))を配置して、鋼板31の上下方向(図3における上下方向)に沿って、鋼板31の一端から他端(図3に示すように、鋼板の上端から下端)まで溶接して隣接する鋼板31同士を接合する。このように、隣り合う鋼板31の側縁部(鋼板31の角部内側)に溶接金属32を形成して鋼板31同士を接合し、断面視略四角形の鋼管を製造する。
【0019】
本実施形態では、隣接する鋼板31間に形成される開先Gに、多層盛溶接した溶接金属32が形成される。図5は、溶接金属32周辺を拡大して示す拡大図である。この溶接金属32は、厚肉角形鋼管30の角部(断面略四角形の四隅近傍)に形成されており、複数種類の材料が積層された多層構造を有する。
【0020】
図5に示す、多層構造から成る溶接金属32を形成する工程において、初層の溶接形成工程では、隣り合う鋼板31間に形成される開先G裏(鋼板31の内面側)に裏当金35を当てて、CO半自動溶接により溶接を行い、内側材料層321を形成する。
【0021】
内側材料層321を形成した後、サブマージアーク溶接により溶接を実施して、外側材料層322を形成する。このようにして内側材料層321と外側材料層322とから成る多層構造の溶接金属32を形成する。本実施形態では、初層の溶接において、CO半自動溶接により溶接を施して内側材料層321を1層形成し、2層目以降の溶接において、サブマージアーク溶接により溶接を施して外側材料層322を複数層形成する。サブマージアーク溶接によれば、長尺部材など溶接領域が比較的長い鋼材の溶接を人手をかけずに連続して行うことができるという面がある一方で、一度に大きな入熱があるため母材が靭性を損なうことがあるなど熱影響が大きい面もある。この点、本実施形態のごとく、人手をかけず長い領域の溶接を連続して行いたい柱状四面箱型断面の溶接を多層で行うこととすれば、一度の入熱量を低く抑え、母材への熱影響を軽減することができる。尚、本明細書において、多層構造から成る溶接金属32のうち、内側(厚肉角形鋼管30の内面側(図5では溶接金属32のうちの下側))に位置する材料層を内側材料層321と称し、外側(厚肉角形鋼管30の外面側(図5では溶接金属32のうちの上側))に位置する材料層を外側材料層322と称する。
【0022】
以上のように多層構造から成る溶接金属32のうち、初層の溶接で形成される内側材料層321には高強度の材料が用いられる。具体的には、内側材料層321に用いられる材料のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点は、鋼板31に用いられる材料のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点よりも高く、且つ、外側材料層322を形成する材料のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点よりも高い。
【0023】
詳述すると、内側材料層321は、JIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点が460N/mm以上であり、且つ、引張強さが550N/mm以上の数値範囲である材料を用いて形成される。更に、このようなJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点及び引張強さの数値を満たすことに加えて、JIS Z 2242に規定されるシャルピー衝撃試験において衝撃吸収エネルギーが0℃で70J以上の材料を用いて内側材料層321を形成することが好適である。この内側材料層321に用いられる溶接材料として、例えばYGW18等を採用することができる。初層の溶接材料は母材以上の強度(降伏点、引張強度)を有するものであればよく、確実なものとするためには母材規格の上限値を上回る下限値を規格にもつ溶接材料が好ましいが、コストの面から確率的に母材規格の上下限中央値を上回る下限値を規格にもつ溶接材料がより好ましい。
【0024】
外側材料層322は、JIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点が390N/mm以上であって内側材料層321のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点より低く、且つ、引張強さが490N/mm以上の数値範囲である材料が用いられる。このような条件を満たす外側材料層322の溶接材料として、例えば、EH12K、EH14、S502-H等を採用することができる。
【0025】
尚、鋼板31には、JIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点が325~445N/mmの数値範囲であり、引張強さが490~610N/mmの数値範囲である鋼材が用いられる。このような鋼材として、例えば建築構造用圧延鋼材SN490B、建築構造用TMCP鋼板TMCP325B等を採用することができる。
【0026】
前述したように、初層の溶接で形成される内側材料層321に高強度の材料(鋼板31、外側材料層322に用いられる材料のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点よりも高い降伏点の材料)を用いることにより、鋼板31の側縁部を溶接して形成される溶接金属32のうちの内側(厚肉角形鋼管30の内面側)の接合強度を向上させることができる。厚肉角形鋼管30の側面には、図1に示したように梁20が直接接合されるため、この梁20から引張応力を受けて厚肉角形鋼管30の内隅部が開く方向(図5の破線矢印Fに示す方向)に力が働き、厚肉角形鋼管30の内隅部、特に裏当金35と鋼板31の隙間の溶接金属32側終端に応力集中を起こすが、本実施形態では内側材料層321を形成して溶接金属32における内側の接合強度を向上させているため、上記応力集中に対する耐力を高めることができる。更に、前述したJIS Z 2242に規定されるシャルピー衝撃試験において衝撃吸収エネルギーが0℃で70J以上である材料(例えばYGW18等)を内側材料層321に用いることにより、靭性を向上させることができるので、上記引張応力が作用した場合でも溶接金属32において破断する可能性を抑制することができる。好ましい組合せの1つとして、内側材料層321をYGW18、外側材料層322をS502-H、鋼板31をSN490B、で構成することができる。
【0027】
以上説明したように、溶接金属32形成工程は、鋼板31に用いられる材料のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点よりも高い材料から成る内側材料層321を形成する工程と、内側材料層321を形成した後に、内側材料層321の材料のJIS Z 2241に規定される引張試験に準拠して測定される降伏点よりも低い材料から成る外側材料層322を形成する工程とを有する。この溶接金属32形成工程における最外層を形成する段階(すなわち、複数の層から成る外側材料層322の最後の層を形成する段階)において、サブマージアーク溶接での溶接施工における溶接電圧値や溶接電流値、溶接速度値を調整することが好ましい。すなわち、外側材料層322の形成する工程において、外側材料層322における最外層を溶接する段階のみ、外側材料層322における最外層以外の層を溶接施工する際の溶接電圧値や溶接電流値、溶接速度値とは異ならせて溶接することが好ましい。このように最外層を溶接する段階のみ調整して溶接することにより、溶接金属32形成時に生じる余盛を抑制することができる。好適には、この余盛の高さh(図5)が鋼板31の外面から0~1mm以内の範囲に収まるように、溶接金属32の最外層を形成する段階における溶接電圧値や溶接電流値、溶接速度値を調整することが好ましい。このように余盛を抑制することにより、余盛を平滑にするために機械によって表面を削るという工程を不要とすることができ、製造コストを低減させることができる。
【0028】
また、溶接余盛がある角形鋼管に梁を接合する場合について考えてみると、接合面が平滑でない場合はそのまま梁を接合することは難しいことから、従前であれば施工者が余盛を削ってから梁を接合していたが、これに対し、本実施形態のごとき柱梁接合構造1ないし溶接方法は、余盛の高さを所定値以内の範囲に抑えることで、当該余盛を削らずとも角型鋼管に梁を接合することを可能とする。しかも、地震時等に梁から厚肉角型鋼管の管壁(鋼板)を外側に変形させる力が伝わった時に応力集中が起こる厚肉角形鋼管30の内隅部において、本実施形態では降伏点が比較的高い材料で内側材料層321を形成して溶接金属32における内側の接合強度を向上させ、応力集中に対する耐力を高めていることから、溶接余盛の高さを低減させたとしても、別言すれば溶接部断面を減らしたとしても、所定程度を超える強度を確保することが可能である。
【0029】
そもそも、後接合する場合において、当該後接合箇所は溶接による欠陥を加味して母材よりも高い強度で設計されること(「母材強度≦溶接強度」とすること)が一般的である。この点、本実施形態の柱梁接合構造1ないし溶接方法では、そうしたうえで、溶接による後接合箇所における強度を「内側材料層≧外側材料層」とし、更には「内側材料層≧外側材料層≧母材」とし、応力集中箇所(内側材料層)を比較的高い強度で設計することにより、余盛で担保する断面拡張分を低減する、つまり余盛を低減することを可能としている。
【0030】
以上のような溶接工程を経て製造される厚肉角形鋼管30は、厚肉角形鋼管30の角部の内側に平面視矩形の裏当金35を配置し、当該裏当金35の外側に形成された傾斜状開先Gを溶接して溶接金属32を形成した構成としたものである。図2に示すように、裏当金35は、厚肉角形鋼管30の角部の内側に沿って延在する角柱形状を成しているが、この形状に限定されず、他の様々な形状に変更することが可能である。
【0031】
例えば、図6(A)に示すように、厚肉角形鋼管30の角部の内側に配置する裏当金35Bを、平面視L字状に形成することも可能である。図6(A)に示す平面視L字状を呈する裏当金35Bは、厚肉角形鋼管30の角部の内側に沿って厚肉角形鋼管30の上端から下端まで延在している。その他の変形例として、図6(B)に示すように、厚肉角形鋼管30の角部の内側に配置する裏当金35Cを、平面視三角形状に形成することも可能である。この平面視三角形状を呈する裏当金35Cも、厚肉角形鋼管30の角部の内側に沿って厚肉角形鋼管30の上端から下端まで延在している。このような裏当金35B、35Cを配置することにより、厚肉角形鋼管30の外側に溶接接合した梁20(図1)から引張応力を受けて鋼板31が開く方向(図6に破線矢印Fに示す方向)に力が作用した場合に、裏当金35B、35Cを追従し易くすることができる。上述した厚肉角形鋼管30の内隅部、裏当金35と鋼板31の隙間の溶接金属32側終端に生じる応力集中を緩和することが出来る。
【0032】
以上説明した実施形態において、溶接金属32が形成される、隣り合う鋼板31同士の開先G形状は、厚肉角形鋼管30の内側から外側に向かって拡開する形状を呈している。この開先G形状の傾斜角度θ(図5)は例えば20°~40°の範囲に設定される。傾斜角度θが40°以上だと溶接量が増えるので経済性が低下し、20°以下だと品質確保が難しくなる。このように、隣り合う鋼板31同士の開先形状を、厚肉角形鋼管30の内側から外側に向かって拡開する形状とすることにより、溶接金属32における内側材料層321に使用する材料の量を抑えることができる。以上説明したように、内側材料層321には高強度、高靭性の材料を用いることが好適であるが、このような特性を有する材料の使用量を抑えることにより、材料コストを低減させることができる。
【0033】
尚、本実施形態では、隣り合う鋼板31の間に形成される開先Gの形状を、厚肉角形鋼管30の内側から外側に向かって拡開する形状とした例を示しているが、このような開先形状に限定されず、他の様々な形状に開先形状を変形することが可能である。
【0034】
また以上説明した実施形態では、4枚の平板状の鋼板31の側縁部同士を溶接接合して断面視略四角形状の厚肉角形鋼管30を製造しているが、このような4枚の平板状の鋼板31を用いて厚肉角形鋼管30を製造することに限定されない。
【0035】
例えば、図7(A)に示すように、平面視略L字状の鋼板31dを2枚用い、当該鋼板31dの端縁同士の間の開先Gdを溶接して溶接金属32dとして接合した断面視略四角形状の厚肉角形鋼管30Dを製造することも可能である。また、図7(B)に示すように、平面視略コ字状を成す鋼板31eを2枚用い、当該鋼板31eの端縁同士の間の開先Geを溶接して溶接金属32eとして接合した断面視略四角形状の厚肉角形鋼管30Eを製造することも可能である。また、図7(C)に示すように、H形鋼31fと2枚の平板状の鋼板31gとを組み合わせた厚肉角形鋼管30Fとしてもよい。詳細には、まず、対向する2枚の平板状のフランジ31f1と、対向するフランジ31f1の間に形成されるウェブ31f2と、から構成されるH形鋼31fを用意する。このH形鋼31fにおいて対向するフランジ31f1の間を接続するように、幅方向両端縁に開先Gfを形成した平板状の鋼板31gを配置する。鋼板31gの両端縁に形成された開先Gfを溶接して溶接金属32fを形成し、H形鋼31fのフランジ31f1と鋼板31gとを接合する。このようにH形鋼31fと鋼板31gと組み合わせて外形が四角形状を呈する厚肉角形鋼管30F(すなわち断面視四角形の角形鋼管)を製造することも可能である。
【0036】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。
【0037】
例えば、以上説明した実施形態では、内側材料層321は単層で構成され、外側材料層322は、同一の材料から成る複数の層で構成されている例を説明したが、例えば、内側材料層321を2層以上形成してもよい。また、内側材料層321の層を外側材料層322の層よりも多く形成してもよい。実施形態で説明した工程、実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…柱梁接合構造、10…四角形鋼管柱、20…梁(H形鋼梁)、30…厚肉角形鋼管(角形鋼管)、31…鋼板、32…溶接金属(溶接部)、35…裏当金、321…内側材料層、322…外側材料層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7