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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】新規なインスリンアナログ及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/62 20060101AFI20230328BHJP
   C12N 15/17 20060101ALI20230328BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230328BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230328BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230328BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230328BHJP
   A61P 5/50 20060101ALI20230328BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230328BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230328BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C07K14/62 ZNA
C12N15/17
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02 E
A61K38/28
A61P3/10
A61P5/50
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021120106
(22)【出願日】2021-07-21
(62)【分割の表示】P 2018511151の分割
【原出願日】2016-08-29
(65)【公開番号】P2021168687
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2015-0121819
(32)【優先日】2015-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】キム・チンヨン
(72)【発明者】
【氏名】オ・ウリム
(72)【発明者】
【氏名】イ・チョンス
(72)【発明者】
【氏名】イム・ヒョンキュ
(72)【発明者】
【氏名】チェ・インヨン
(72)【発明者】
【氏名】クウォン・セチャン
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-502465(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108398(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133324(WO,A1)
【文献】特表2015-509950(JP,A)
【文献】特表2013-533864(JP,A)
【文献】特表2011-512856(JP,A)
【文献】特表2010-504087(JP,A)
【文献】特許第6976930(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/17
C07K 14/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される配列番号3のA鎖と下記一般式(2)で表される配列番号4のB鎖を含むインスリンアナログペプチド:
一般式(1)
【化1】
般式(2)
【化2】
ここで、前記配列番号3のA鎖において、Xaa1がグリシンであり、Xaa2がグルタミンであり、Xaa3がセリンであり、Xaa4がアスパラギン酸であり、Xaa5がロイシンであり、Xaa6がチロシンであり、Xaa7がアスパラギンであり、
前記配列番号4のB鎖において、Xaa8がチロシンであり、Xaa9がフェニルアラニンであり、Xaa10がトレオニンであり、Xaa11がプロリンである。
【請求項2】
請求項に記載のインスリンアナログペプチドをコードする、核酸。
【請求項3】
請求項に記載の核酸を含む、組換え発現ベクター。
【請求項4】
請求項に記載の組換え発現ベクターで形質転換された、形質転換体。
【請求項5】
前記形質転換体が、大腸菌である、請求項に記載の形質転換体。
【請求項6】
下記段階を含む請求項1に記載のインスリンアナログペプチドを製造する方法:
a)請求項1に記載のインスリンアナログペプチドをコードする核酸を含む組換え発現ベクターを製造する段階;
b)前記組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換して形質転換体を収得する段階;
c)前記形質転換体を培養してインスリンアナログペプチドを発現させる段階;及び
d)発現されたインスリンアナログペプチドを分離及び精製する段階。
【請求項7】
前記宿主細胞が、大腸菌である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離及び精製が、
d‐1)培養液から形質転換体細胞を収穫して破砕する段階;
d‐2)破砕された細胞溶解物から前記発現されたインスリンアナログペプチドを回収してリフォールディングする段階;
d‐3)リフォールディングされたインスリンアナログペプチドを陽イオン交換クロマトグラフィーで精製する段階;
d‐4)精製されたインスリンアナログペプチドをトリプシン及びカルボキシぺプチダーゼBで処理する段階;及び
d‐5)処理されたインスリンアナログペプチドを陽イオン交換クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーで順次的に精製する段階を含むものである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
有効成分として請求項に記載のインスリンアナログペプチドと、薬剤学的に許容可能な担体を含む、糖尿病治療用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なインスリンアナログ、特に天然型インスリンに比べてインビトロ(in
vitro)効力が増加したインスリンアナログ及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリンは、人体の膵臓から分泌される血糖調節ホルモンとして、血液内の余剰ブドウ糖を細胞に移し、細胞にエネルギー源を供給する一方、血糖を正常レベルに維持させてくれる役割をする。しかし、糖尿病患者の場合、このようなインスリンが不足したり、インスリン抵抗性及びベータ細胞の機能消失によりインスリンが正常な機能を実行できない。そのため、糖尿病患者は、血液内のブドウ糖をエネルギー源として利用できず、血中のブドウ糖レベルが高い高血糖症状を示し、最終的に尿に糖を排出するようになり、これは、さまざまな合併症の原因となっている。したがって、インスリンの生成に異常があったり(Type I)、インスリン耐性に起因する(Type II)糖尿病患者はインスリン治療が必
要であり、インスリン投与により血糖を正常レベルに調節することができる。
【0003】
ヒトインスリンは、2つのポリペプチド鎖、すなわち、それぞれ21個及び30個のアミノ酸残基を含むA鎖及びB鎖で構成されており、これらは2つの二硫化架橋で相互連結されている。インスリンの場合、他のタンパク質やペプチドホルモンのように生体内の半減期が極めて短いため継続的な治療効果を示さず、効果を発揮するためには継続的に反復投与をしなければならないという欠点がある。このような頻繁な投与は患者にひどい苦痛と不便さを引き起こすことになるため、患者の順応性、安全性及び利便性の面で改善が求められている。
【0004】
ここで、インスリンのようなタンパク質薬物の生体内半減期を増加させて投与回数を減らすことにより、患者の生活の質と治療的効果を高めるための様々なタンパク質の剤形化研究と化学的結合体などに対する研究が進められている。
【0005】
インスリンは、インスリン受容体と結合して血中の糖を除去することが知られており、天然型インスリンの配列を変化させてその効力を調節することができる。インスリンのアミノ酸を他のアミノ酸に置換したり、特定アミノ酸の削除を介してインスリンの生体内効力を調節することができ、高活性のインスリン誘導体は少ない量でも天然型インスリンと同等以上の効力を示すことができるため、治療学的に非常に望ましい形態になりうる。特に、インスリンに含まれるA鎖及び/またはB鎖のアミノ酸置換が皮下注射後のインスリ
ン作用の薬動学的効果の面で広く研究されている。
【0006】
このような背景下で、本発明者らは、インスリンの作用効果を高めようと鋭意努力した結果、インスリンA鎖及び/またはB鎖の特定のアミノ酸残基が変形されたインスリンア
ナログが、天然型インスリンに比べて著しく増加したインビトロ効力を示し、糖尿病の治療に効果的に用いられることを確認し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Scheit, Nucleotide Analogs, John Wiley, New York, 1980
【文献】Uhlman 及び Peyman, Chemical Reviews, 90: 543-584, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、新規なインスリンアナログ、特に天然型インスリンに比べてインビトロ(in vitro)効力が増加したインスリンアナログを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、前記インスリンアナログを有効成分として含む糖尿病治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、前記インスリンアナログまたはそれを有効成分として含む薬学的組成物を、これを必要とする個体に投与する段階を含む、糖尿病を治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための一つの様態として、本発明は下記一般式(1)で表される配列番号3のA鎖と下記一般式(2)で表される配列番号4のB鎖を含むインスリンアナログを提供する:
一般式(1)
【化1】
前記一般式(1)において、
Xaa1は、アラニン、グリシン、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギンであり、
Xaa2は、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギンであり、
Xaa3は、アラニン、セリン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジンまたはアスパラギンであり、
Xaa4は、アラニン、チロシン、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸またはアスパラギンであり、
Xaa5は、アラニン、ロイシン、チロシン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギンであり、
Xaa6は、アラニン、チロシン、セリン、グルタミン酸、ヒスチジンまたはアスパラギンであり、
Xaa7は、アスパラギン、グリシン、ヒスチジンまたはアラニンである。
【0012】
一般式(2)
【化2】
前記一般式(2)において、
Xaa8は、チロシン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であり、
Xaa9は、フェニルアラニンであるか、不在であり、
Xaa10は、トレオニンであるか、不在であり、
Xaa11は、プロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在である
(ここで、配列番号1のA鎖及び配列番号2のB鎖を含むペプチドは除く)。
【0013】
より具体的な一つの様態で、前記ペプチドは前記一般式(1)のA鎖を含み、前記配列番号4のB鎖において、Xaa8はチロシンであり、Xaa9は不在であり、Xaa10はトレオニンであるB鎖を含むことを特徴とする。
【0014】
前記インスリンアナログは、前記一般式(1)のA鎖を含み、前記配列番号4のB鎖において、Xaa8はチロシンであり、Xaa9はフェニルアラニンであり、Xaa10は不在であるB鎖を含むことを特徴とする。
【0015】
他の様態で、前記配列番号3のA鎖で、Xaa1はグリシンであり、Xaa2はグルタミンであり、Xaa3はセリンであり、Xaa4はグルタミン酸であり、Xaa5はロイシンであり、Xaa6はチロシンであり、Xaa7はアスパラギンであり、 配列番号4
のB鎖で、Xaa8はチロシンであり、Xaa9はフェニルアラニンであり、Xaa10はトレオニンであり、Xaa11はプロリンであることを特徴とする。
【0016】
他の様態で、前記配列番号3のA鎖で、Xaa1はグリシンであり、Xaa2はグルタミンであり、Xaa3はセリンであり、Xaa4はアスパラギンであり、Xaa5はロイシンであり、Xaa6はチロシンであり、Xaa7はアスパラギンであり、配列番号4のB鎖で、Xaa8はチロシンであり、Xaa9はフェニルアラニンであり、Xaa10はトレオニンであり、Xaa11はプロリンであることを特徴とする。
【0017】
他の様態で、 前記配列番号3のA鎖で、Xaa1はグリシンであり、Xaa2はグル
タミンであり、Xaa3はセリンであり、Xaa4はグルタミン酸であり、Xaa5はロイシンであり、Xaa6はチロシンであり、Xaa7はアスパラギンであり、配列番号4のB鎖で、Xaa8はチロシンであり、Xaa9は不在であり、Xaa10はトレオニンであり、Xaa11はプロリンであることを特徴とする。
【0018】
他の様態で、 前記配列番号3のA鎖で、Xaa1はグリシンであり、Xaa2はグル
タミンであり、Xaa3はセリンであり、Xaa4はアラニンであり、Xaa5はロイシンであり、Xaa6はチロシンであり、Xaa7はアスパラギンであり、配列番号4のB鎖で、Xaa8はグルタミン酸であり、Xaa9は不在であり、Xaa10はトレオニンであり、Xaa11はプロリンであることを特徴とする。
【0019】
他の様態で、
本発明に係るインスリンアナログは、配列番号3のA鎖でXaa4がグルタミン酸であり、配列番号4のB鎖でXaa9がフェニルアラニンであるか;
配列番号3のA鎖でXaa4がアスパラギンであり、配列番号4のB鎖でXaa9がフェニルアラニンであるか、
配列番号3のA鎖でXaa4がグルタミン酸であり、配列番号4のB鎖でXaa9が不在であるか、
配列番号3のA鎖でXaa4がアラニンであり、配列番号4のB鎖でXaa8がグルタミン酸であり、Xaa9が不在であることを特徴とするが、これに限定されない。
【0020】
別の様態では、本発明に係るインスリンアナログは、配列番号16、18、20または22で記載されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0021】
別の様態として、本発明は、前記インスリンアナログをコードする核酸を提供する。
【0022】
一実施様態として、本発明に係る核酸は、配列番号15、17、19及び21からなる群から選択される塩基配列を含むことを特徴とする。
【0023】
別の様態として、本発明は、前記核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0024】
別の様態として、本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0025】
別の様態として、本発明は、下記段階を含む前記インスリンアナログを製造する方法を提供する:
a)前記インスリンアナログペプチドをコードする核酸を含む組換え発現ベクターを製造する段階;
b)前記組換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換して形質転換体を収得する段階;
c)前記形質転換体を培養して、インスリンアナログペプチドを発現させる段階;
d)発現されたインスリンアナログペプチドを分離及び精製する段階。
【0026】
別の様態として、本発明は、有効成分として前記インスリンアナログと、薬学的に許容可能な担体を含む糖尿病治療用薬学的組成物を提供する。
【0027】
以下では、本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
一方、本願で開示されるそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの別の説明及び実施形態にも適用されうる。つまり、本願で開示された多様な要素のすべての組み合わせが本発明の範囲に属する。また、下記記述される具体的な叙述によって、本発明の範囲が制限されるとはいえない。
【0029】
本発明は、新規なインスリン、特に天然型インスリンに比べてインビトロ効力が増加したインスリンアナログに関する。
【0030】
本発明で用語、「インスリンアナログ(insulin analog)」とは、天然型インスリンの一部のアミノ酸を付加、欠失または置換の形態に変形させたアナログを意味する。特に、前記変形を介して天然型に比べてインビトロ効力が増加した様々なアナログを含む。
【0031】
天然型インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンとして、一般的に細胞内グルコースの吸収を促進し、脂肪の分解を抑制して体内の血糖を調節する役割をする。インスリンは血糖の調節機能がないプロインスリン(proinsulin)前駆体の形態でプロセッシングを経て、血糖調節機能を有するインスリンになる。インスリンは、2つのポリペプチド鎖、すなわち、それぞれ21個及び30個のアミノ酸残基を含むA鎖及びB鎖から構成されており、これらは2つの二硫化架橋で相互連結されている。天然型インスリンのA鎖及びB鎖は、それぞれ下記配列番号1及び2で表されるアミノ酸配列を含む。
【0032】
A鎖:
Gly‐Ile‐Val‐Glu‐Gln‐Cys‐Cys‐Thr‐Ser‐Ile‐Cys‐Ser‐Leu‐Tyr‐Gln‐Leu‐Glu‐Asn‐Tyr‐Cys‐Asn(配列番号1)
B鎖:
Phe‐Val‐Asn‐Gln‐His‐Leu‐Cys‐Gly‐Ser‐His
‐Leu‐Val‐Glu‐Ala‐Leu‐Tyr‐Leu‐Val‐Cys‐Gly‐Glu‐Arg‐Gly‐Phe‐Phe‐Tyr‐Thr‐Pro‐Lys‐Thr(配列番号2)
【0033】
本発明に係るインスリンは、遺伝子組換え技術で作られたインスリンアナログであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、天然型インスリンに比べてインビトロ効力が増加したすべてのインスリンを含む。好ましくは、逆方向インスリン(inverted insulin)、インスリン変異体(variant)、インスリン断片(fragment)などを含み、これらは
遺伝子組換え法だけでなく、固相(solid phase)方法でも製造することができ、これに
制限されるものではない。
【0034】
本発明に係るインスリンアナログは、インスリンと同様な生体内の血糖調節機能を有するペプチドであって、このようなペプチドはインスリンアゴニスト(insulin agonist)
、インスリン誘導体(insulin derivative)、インスリン断片(insulin fragment)、インスリン変異体(insulin variant)などをすべて含む。
【0035】
本発明で用語、「インスリンアゴニスト」は、インスリンの構造に関係なく、インスリンの生体内受容体に結合してインスリンと同様な生物学的活性を示す物質を意味する。
【0036】
本発明で用語、「インスリン誘導体」は、天然型インスリンのA鎖及びB鎖のアミノ酸配列のそれぞれに対して相同性を示し、アミノ酸残基の一部のグループが、化学的に置換(例えば、α‐メチル化、α‐ヒドロキシル化)、削除(例えば、脱アミン化)または修飾(例えば、N‐メチル化)された形態であってもよく、体内で血糖を調節する機能を有するペプチドを意味してもよい。また、「インスリン誘導体」は、天然型インスリンとアミノ酸配列に相同性がなくても、インスリン受容体と結合して体内で血糖を調節しうるペプチドミミック(mimic)及び低分子あるいは高分子化合物が含まれてもよい。
【0037】
本発明で用語、「インスリン断片」は、インスリンに1つ以上のアミノ酸が追加または削除された形態を意味し、追加されたアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよく、このようなインスリン断片は体内で血糖を調節する機能を有する。
【0038】
本発明で用語、「インスリン変異体」は、インスリンとアミノ酸配列が一つ以上の異なるペプチドであって、体内で血糖を調節する機能を有する。
【0039】
本発明のインスリンアゴニスト、誘導体、断片及び変異体でそれぞれ用いられた製造方法は、独立して用いられてもよく、組み合わせも可能である。例えば、アミノ酸配列が一つ以上異なり、アミノ末端のアミノ酸残基に脱アミノ化(deamination)が導入されたも
ので、体内で血糖を調節する機能を有するペプチドも、本発明の範囲に含まれる。
【0040】
本発明に係るインスリンアナログは、天然型インスリンのA鎖及びB鎖のアミノ酸配列(配列番号1及び2)でアミノ酸の置換、付加、欠失または翻訳後の変形(例えば、メチル化、アシル化、ユビキチン化、分子内共有結合)が導入され、天然型に比べて増加したインビトロ効力を有する任意のペプチドを包括する。前記アミノ酸の置換または付加の際には、ヒトタンパク質で通常に観察される20個のアミノ酸だけでなく、非定型または非自然的発生アミノ酸を用いてもよい。非定型アミノ酸の商業的な出処には、Sigma-
Aldrich、ChemPep及びGenzymepharmaceuticalsが含まれてもよい。このようなアミノ酸が含まれたペプチドと典型的なペプチド配列は、商業化されたペプチド合成会社、例えば、米国のAmerican peptide company、Bachemや韓国のAnygenを通じて合成及び購入可能である。
【0041】
具体的に、本発明に係るインスリンアナログは、前記のような天然型インスリンのA鎖及びB鎖で特定アミノ酸残基の変形または欠失を含むもので、好ましくは、天然型インスリンのA鎖の特定アミノ酸残基が変形されて、B鎖の特定アミノ酸残基が変形されて/さ
れたり、欠失されたものであってもよい。
【0042】
好ましくは、本発明のインスリンアナログは、天然型インスリンのインビトロ効力を増加させるために、配列番号1で表されるA鎖アミノ酸配列の14番目のアミノ酸であるチロシンをグルタミン酸、アスパラギンまたはアラニンに置換したり、配列番号2で表されるB鎖アミノ酸配列の16番目のアミノ酸配列であるチロシンをグルタミン酸に置換して/したり、25番目のアミノ酸であるフェニルアラニンを欠失させたり、両方を含んでも
よい。
【0043】
さらに好ましくは、本発明に係るインスリンアナログは、下記一般式(1)で表される配列番号3のA鎖と下記一般式(2)で表される配列番号4のB鎖を含む新規なペプチドであってもよい:
一般式(1)
【化3】
前記一般式(1)において、
Xaa1は、アラニン、グリシン、グルタミン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギンであり、
Xaa2は、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジンまたはアスパラギンであり、
Xaa3は、アラニン、セリン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジンまたはアスパラギンであり、
Xaa4は、アラニン、チロシン、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸またはアスパラギンであり、
Xaa5は、アラニン、ロイシン、チロシン、ヒスチジン、グルタミン酸またはアスパラギンであり、
Xaa6は、アラニン、チロシン、セリン、グルタミン酸、ヒスチジンまたはアスパラギンであり、
Xaa7は、アスパラギン、グリシン、ヒスチジンまたはアラニンである。
【0044】
一般式(2)
【化4】
前記一般式(2)において、
Xaa8は、チロシン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であり、
Xaa9は、フェニルアラニンであるか、不在であり、
Xaa10は、トレオニンであるか、不在であり、
Xaa11は、プロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在である。
【0045】
ここで、配列番号1のA鎖及び配列番号2のB鎖を含むペプチドは除いてもよい。
【0046】
より具体的な一つの様態では、
前記一般式(1)において、
Xaa1は、グリシンであり、
Xaa2は、グルタミンであり、
Xaa3は、セリンであり、
Xaa4は、アラニン、グルタミン酸またはアスパラギンであり、
Xaa5は、ロイシンであり、
Xaa6は、チロシンであり、
Xaa7は、アスパラギンであり、
前記一般式(2)において、
Xaa8は、チロシンまたはグルタミン酸であり、
Xaa9は、フェニルアラニンであるか、不在であり、
Xaa10は、トレオニンであり、
Xaa11は、プロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であるインスリンアナログペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【0047】
より具体的な一つの様態では、
前記一般式(1)において、
Xaa1は、グリシンであり、
Xaa2は、グルタミンであり、
Xaa3は、セリンであり、
Xaa4は、グルタミン酸またはアスパラギンであり、
Xaa5は、ロイシンであり、
Xaa6は、チロシンであり、
Xaa7は、アスパラギンであり、
前記一般式(2)において、
Xaa8は、チロシンであり、
Xaa9は、フェニルアラニンであるか、不在であり、
Xaa10は、トレオニンであり、
Xaa11は、プロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であるインスリンアナログペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【0048】
より具体的な一つの様態で、前記ペプチドは、前記一般式(1)のA鎖を含み、前記配列番号4のB鎖でXaa8がチロシンであり、Xaa9は不在であり、Xaa10がトレオニンであり、Xaa11は、プロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であるB鎖を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0049】
前記インスリンアナログは、前記一般式(1)のA鎖を含み、前記配列番号4のB鎖でXaa8がチロシンであり、Xaa9はフェニルアラニンであり、Xaa10が不在であり、Xaa11はプロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であるB鎖を含むものであってもよいが、これらに制限されない。
【0050】
前記インスリンアナログは、前記配列番号3のA鎖でXaa1がグリシンであり、Xaa2がグルタミンであり、Xaa3がセリンであり、Xaa4がグルタミン酸であり、Xaa5がロイシンであり、Xaa6がチロシンであり、Xaa7がアスパラギンであり、配列番号4のB鎖でXaa8がチロシンであり、Xaa9がフェニルアラニンであり、Xaa10がトレオニンであり、Xaa11はプロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であってもよいが、これに制限されない。
【0051】
前記インスリンアナログは、前記配列番号3のA鎖でXaa1がグリシンであり、Xaa2がグルタミンであり、Xaa3がセリンであり、Xaa4がアスパラギンであり、Xaa5がロイシンであり、Xaa6がチロシンであり、Xaa7がアスパラギンであり、配列番号4のB鎖でXaa8がチロシンであり、Xaa9がフェニルアラニンであり、Xaa10はトレオニンであり、Xaa11はプロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であってもよいが、これに制限されない。
【0052】
他の様態で、前記配列番号3のA鎖でXaa1がグリシンであり、Xaa2がグルタミンであり、Xaa3がセリンであり、Xaa4がグルタミン酸であり、Xaa5がロイシンであり、Xaa6がチロシンであり、Xaa7がアスパラギンであり、配列番号4のB鎖でXaa8がチロシンであり、Xaa9が不在であり、Xaa10がトレオニンであり、Xaa11はプロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であってもよいが、これに制限されない。
【0053】
他の様態で、前記配列番号3のA鎖でXaa1がグリシンであり、Xaa2がグルタミンであり、Xaa3がセリンであり、Xaa4がアラニンであり、Xaa5がロイシンであり、Xaa6がチロシンであり、Xaa7がアスパラギンであり、配列番号4のB鎖でXaa8がグルタミン酸であり、Xaa9が不在であり、Xaa10がトレオニンであり、Xaa11はプロリン、グルタミン酸またはアスパラギン酸であるか、不在であってもよいが、これに制限されない。
【0054】
好ましい一実施形態によれば、本発明に係るインスリンアナログは下記を含む。
【0055】
i)インスリンアナログ1:配列番号3で表されるA鎖アミノ酸配列の14番目アミノ酸がグルタミン酸であり、配列番号4で表されるB鎖アミノ酸配列の25番目アミノ酸がフェニルアラニンであるペプチドであって、配列番号16で記載されるアミノ酸配列を有し、これは配列番号15で記載される塩基配列を有する核酸からコードされる。
【0056】
ii)インスリンアナログ2:配列番号3で表されるA鎖アミノ酸配列の14番目アミノ酸がアスパラギンであり、配列番号4で表されるB鎖アミノ酸配列の25番目アミノ酸がフェニルアラニンであるペプチドであって、配列番号18で記載されるアミノ酸配列を有し、これは配列番号17で記載される塩基配列を有する核酸からコードされる。
【0057】
iii)インスリンアナログ3:配列番号3で表されるA鎖アミノ酸配列の14番目アミノ酸がグルタミン酸であり、配列番号4で表されるB鎖アミノ酸配列の25番目アミノ酸が欠失したペプチドであって、配列番号20で記載されるアミノ酸配列を有し、これは配列番号19で記載される塩基配列を有する核酸からコードされる。
【0058】
iv)インスリンアナログ4:配列番号3で表されるA鎖アミノ酸配列の14番目アミノ酸がアラニンであり、配列番号4で表されるB鎖アミノ酸配列の16番目アミノ酸配列がグルタミン酸であり、25番目アミノ酸が欠失されたペプチドであって、配列番号22で記載されるアミノ酸配列を有し、これは配列番号21で記載される塩基配列を有する核酸からコードされる。
【0059】
本明細書でインスリンアナログに関連して使用される用語 、「インビトロ効果」は、
インスリンアナログのグルコース吸収能(glucose uptake)を意味するもので、本発明では、脂肪細胞に分化させたマウス由来の3T3 L1細胞を対象にグルコース吸収能のE
50を測定した結果で表される。
【0060】
発明の好ましい実施例で、前記方法に基づいて、本発明に係るインスリンアナログ1~3のインビトロ効力を測定した結果、天然型インスリンに比べてインスリンアナログ1は238.4%、インスリンアナログ2は241.7%、インスリンアナログ3は705%のグルコース吸収能を示し、本発明に係るインスリンアナログは、天然型インスリンに比べて2~7倍に大幅に増加したインビトロ効力を示すことを確認した(表1)。
【0061】
もう一つの様態として、本発明は、前記インスリンアナログをコードする核酸を提供する。
【0062】
本発明で用語、「核酸」は、一本鎖または二本鎖の形態で存在するデオキシリボヌクレオチド(DNA)またはリボヌクレオチド(RNA)であり、ゲノムDNA、cDNA及びこれから転写されるRNAを含む意味を有し、核酸分子で基本的な構成単位であるヌクレオチドは自然のヌクレオチドだけでなく、糖または塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む(非特許文献1及び2)。本発明の核酸は、標準分子生物学の技術を用いて分離または製造しうる。例えば、適切なプライマー配列を用いて、天然型インスリン遺伝子配列(NM_000207.2、NCBI)からPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を介して増幅するこ
とができ、自動化されたDNA合成器を用いる標準合成技術を用いて製造しうる。
【0063】
本発明の核酸は、好ましくは、配列番号15、17、19及び21で記載される塩基配列を含む。本発明は、配列番号15、17、19及び21で記載される塩基配列だけでなく、前記配列と70%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、より好ましくは90%以上の相同性、さらに好ましくは95%以上の相同性、最も好ましくは98%以上の相同性を示す配列であって、実質的に核酸がコードしたペプチドがインスリンの生体内受容体に結合してインスリンと同様な生物学的活性を示すものをすべて含む。
【0064】
本発明で用語、「相同性(homology)」は、天然型(wild type)タンパク質のアミノ
酸配列またはそれをコードする塩基配列との類似度を示すためのものであって、本発明のアミノ酸配列または塩基配列と前記のようなパーセント以上の同一配列を有する配列を含む。このような相同性は2つの配列を肉眼で比較して決定してもよいが、比較対象となる配列を並べて相同性の程度を分析してくれる生物情報アルゴリズム(bioinformatic algorithm)を用いて決定してもよい。前記二つのアミノ酸配列間の相同性はパーセントで示
してもよい。有用な自動化されたアルゴリズムは、Wisconsin Genetic
s Software Package(Genetics Computer Group、Madison、W、USA)のGAP、BESTFIT、FASTAとTFASTAコンピュータソフトウェアモジュー
ルで利用可能である。前記モジュールの自動化された配列アルゴリズムは、Needleman&WunschとPearson&LipmanとSmith&Waterman配列の配列アルゴリズムを含む。他の有用な配列に対するアルゴリズムと相同性の決定は、FASTP、BLAST、BLAST2、PSIBLASTとCLUSTAL Wを含
むソフトウェアで自動化されている。
【0065】
もう一つの様態として、本発明は、前記インスリンアナログをコードする核酸を含む組換えベクターを提供する。本発明に係る組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクターまたは発現のためのベクターとして構築されてもよく、原核細胞または真核細胞を宿主細胞にして構築されてもよい。
【0066】
本発明で用語、「ベクター」とは、適当な宿主細胞で目的タンパク質を発現できる組換えベクターであって、核酸挿入物が発現されるように作動可能に連結された必須の調節要素を含む核酸構造物(construct)を意味する。本発明は、インスリンアナログをコード
する核酸を含む組換えベクターを製造することができるが、前記組換えベクターを宿主細胞に形質転換(transformation)または形質感染(transfection)させることで、本発明のインスリンアナログを収得してもよい。
【0067】
本発明でインスリンアナログをコードする核酸は、プロモーターに作動可能に連結される。本発明で用語、「作動可能に連結された(operatively linked)」は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、リボソーム結合部位、転写終結配列など)と他の核酸配列との間の機能的な結合を意味し、これにより前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写及び/または解読を調節することになる。
【0068】
本発明で用語、「プロモーター」は、ポリメラーゼに対する結合部位を含み、プロモーター下流遺伝子のmRNAへの転写開始活性を有するコーディング領域の上位(upstream)の非解読された核酸配列、すなわち、ポリメラーゼが結合して遺伝子の転写を開始するようにするDNA領域をいい、mRNA転写開始部位の5’部位に位置する。
【0069】
例えば、本発明のベクターが組換えベクターであり、原核細胞を宿主とする場合に、転写を進行させうる強力なプロモーター(例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、lppプロモーター、pLλプロモーター、pRλプロモーター、 rac5プロモーター、ampプロモーター、recAプロモーター、SP
6プロモーター、trpプロモーター及びT7プロモーターなど)、解読の開始のためのリボゾーム結合部位及び転写/解読終結配列を含むことが一般的である。
【0070】
また、本発明に用いられてもよいベクターは、当業界でよく用いるプラスミド(例えば、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61
、pLAFR1、pHV14 、pGEXシリーズ、pETシリーズ、pPICZαシリ
ーズ、pUC19など)、ファージ(例えば、λgt4・λB、λ-Charon、λΔ
z1及びM13など)またはウイルス(例えば、SV40など)を操作して製作されうる。
【0071】
一方、本発明のベクターが組換えベクターであり、真核細胞を宿主とする場合に、哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルス由来のプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクチンウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター及びHSVのtkプロモーター)が用いられてもよく、転写終結配列としてポリアデニル化配列(例えば、ウシ成長ホルモンターミネーター及びSV40由来ポリ
アデニル化配列)を一般的に有する。
【0072】
また、本発明の組換えベクターは、選択マーカーとして当業界で通常的に用いられる抗生物質耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ジェネティシン、ネオマイシン及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子が用いられてもよい。
【0073】
本発明の組換えベクターは、回収される目的タンパク質、すなわち、単鎖インスリンアナログ、プロインスリンまたはインスリンアナログの精製を容易にするために、必要に応じて他の配列をさらに含んでもよい。前記さらに含まれてもよい配列は、タンパク質精製用タグ配列であってもよく、例えば、グルタチオンS‐トランスフェラーゼ(Pharmacia
、USA)、マルトース結合タンパク質(NEB、USA)、FLAG(IBI、USA)及び6つのヒ
スチジン(hexahistidine)などがあるが、前記例によって目的タンパク質の精製のため
に必要な配列の種類が制限されるものではない。
【0074】
前記のようなタグ配列を含む組換えベクターによって発現された融合タンパク質は、アフィニティー・クロマトグラフィーによって精製されてもよい。例えば、グルタチオン‐S‐トランスフェラーゼが融合した場合には、この酵素の基質であるグルタチオンを用いてもよく、6つのヒスチジンタグが用いられた場合には、Ni‐NTAカラムを用いて、必要な目的のタンパク質を容易に回収してもよい。
【0075】
もう一つの様態として、本発明は、前記インスリンアナログをコードする核酸を含む組換えベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0076】
本発明で用語、「形質転換(transformation)」とは、DNAを宿主細胞内に導入してDNAが染色体の因子として、または染色体統合完成によって複製可能になることで、外部のDNAを細胞内に導入して人為的に遺伝的な変化を起こす現象を意味する。
【0077】
本発明の形質転換方法は、任意の形質転換方法が用いられてもよく、当業界の通常の方法によって容易に行ってもよい。一般的に、形質転換の方法は、CaCl沈殿法、CaCl沈殿法にDMSO(dimethyl sulfoxide)と呼ばれる還元物質を用いることで、効率を高めたHanahan方法、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム沈
殿法、原形質融合法、シリコンカーバイド繊維を用いた攪拌法、アグロバクテリア媒介形質転換法、PEGを用いた形質転換法、デキストラン硫酸、リポフェクタミン及び乾燥/
抑制媒介された形質転換法などがある。
【0078】
本発明に係るインスリンアナログをコードする核酸を含む組換えベクターを形質転換させるための方法は、前記例に限定されず、当業界で通常に用いられる形質転換または形質感染方法が制限なく用いられてもよい。
【0079】
目的核酸であるインスリンアナログをコードする核酸を含む組換えベクターを宿主細胞内に導入することにより、本発明の形質転換体(transformant)を獲得してもよい。
【0080】
本発明に適した宿主は、本発明の核酸を発現するようにする限り、特に制限されない。本発明に用いられてもよい宿主の特定の例としては、大腸菌(E. coli)のようなエシェ
リキア(Escherichia)属細菌;バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)のようなバチルス(Bacillus)属細菌;シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)のようなシュードモナス(Pseudomonas)属細菌;ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、 シゾサッカロミセス・ポンベ (Schizosaccharomyces pombe)のような酵母;スポドプテラ・フルギペルダ(SF9)
のような昆虫細胞;と及びCHO、COS、BSCなどのような動物細胞がある。好ましくは、宿主細胞に大腸菌を用いる。
【0081】
発明の好ましい実施例では、本発明に係るインスリンアナログ1~4をそれぞれコードする核酸配列をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅した後、そこから増幅された遺伝子断片をpET22bベクター(Novagen)にクローニングした。インスリンアナログを
細胞内封入体形態で発現させるためにpET22bベクターを制限酵素NdeI及びBamHIで処理して、信号配列を除去し、インスリンアナログのPCR増幅産物を同じ制限酵素NdeIとBamHIで処理して分離された個々のDNAをT4 DNAリガーゼを
用いて、pET22bクローニングベクターに挿入した。前記結果として得られた発現ベクターを、それぞれpET22b‐インスリンアナログ1~4と命名した。
【0082】
前記発現ベクターpET22b‐インスリンアナログ1~4は、T7プロモーターの調節下にそれぞれ配列番号16、18、20及び22のアミノ酸配列を暗号化し、宿主細胞内でそれぞれのインスリンアナログペプチドを封入体の形態で発現させた。
【0083】
配列番号16、18、20及び22のインスリンアナログをコードする核酸を含む組換えベクターpET22b‐インスリンアナログ1~4をそれぞれ大腸菌に形質転換させて、これらを封入体形態で発現する形質転換体を収得した。
【0084】
もう一つの様態として、本発明は、前記形質転換体を用いてインスリンアナログを製造する方法を提供する。
【0085】
好ましくは、本発明に係る方法は、
a)インスリンアナログをコードする核酸を含む組換え発現ベクターを製造する段階;
b)前記組換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換して形質転換体を収得する段階;
c)前記形質転換体を培養して、インスリンアナログを発現させる段階;及び
d)発現されたインスリンアナログを分離及び精製する段階を含む、インスリンアナログの製造方法を提供する。
【0086】
本発明で形質転換体の培養に用いられる培地は、適切な方法で宿主細胞培養の要件を満たす必要がある。宿主細胞の生長のために培地中に含まれてもよい炭素源は、製造された形質転換体の種類に応じて、当業者の判断により適宜選択されてもよく、培養時期及び量を調節するために適した培養条件を採用してもよい。
【0087】
使用されてもよい糖源には、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナッツ油のような油及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別または混合物として使用されてもよい。
【0088】
使用されてもよい窒素源には、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆、小麦、及び尿素または無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も、個別または混合物として使用されてもよい。
【0089】
使用されてもよいリン源には、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム含有塩が含まれる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有してもよい。
【0090】
最後に、前記物質に加えて、アミノ酸及びビタミンのような必須成長物質が使用されてもよい。また、培養培地に適切な前駆体が使用されてもよい。前記された原料は、培養中に培養物に適切な方法によって回分式または連続式で添加してもよい。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような塩基性化合物またはリン酸または硫酸のような酸化合物を適切な方法で用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために培養物内に酸素または酸素含有ガス(例えば、空気)を注入する。
【0091】
本発明に係る形質転換体の培養は、通常20℃~45℃、好ましくは25℃~40℃の温度で行われる。また、培養は所望のインスリンアナログの生成量が最大に得られるまで継続されるが、このような目的のために培養は、通常、10~160時間持続してもよい。
【0092】
前述したように、宿主細胞に応じて適切な培養条件を組成すると、本発明に係る形質転換体はインスリンアナログを生産することになり、ベクターの構成及び宿主細胞の特徴に基づいて生産されたペプチド‐N‐グリコシダーゼは宿主細胞の細胞質内、原形質膜空間(periplasmic space)または細胞外に分泌されてもよい。
【0093】
宿主細胞内または外で発現されたタンパク質は、通常の方法で精製されてもよい。精製方法の例としては、塩析(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(例えば、アセトン、エタノールなどを用いたタンパク質画分沈殿など)、透析、ゲルろ過、イオン交換、逆相カラムクロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー及び限外ろ過などの技法を単独または組み合わせて適用してもよい。
【0094】
本発明の形質転換体は、それに導入された組換えベクターpET22b‐インスリンアナログ1~3がT7プロモーターの調節下でインスリンアナログ1~3を封入体形態で発現させることを特徴とする。したがって、封入体形態で発現されたインスリンアナログ1~3を、適切な方法により、可溶性の形態に変更した後、分離、精製過程を経ることが望ましい。
【0095】
発明の好ましい実施例では、形質転換体から封入体形態で発現されたインスリンアナログを分離及び精製するために下記段階をさらに含んでもよい。
【0096】
d‐1)培養液から形質転換体細胞を収穫して破砕する段階;
d‐2)破砕された細胞溶解物から発現されたインスリンアナログペプチドを回収してリフォールディングする段階;
d‐3)リフォールディングされたインスリンアナログペプチドを陽イオン交換クロマトグラフィーで精製する段階;
d‐4)精製されたインスリンアナログペプチドをトリプシン及びカルボキシぺプチダーゼBで処理する段階;
d‐5)処理されたインスリンアナログペプチドを陽イオン交換クロマトグラフィー及び陰イオン交換クロマトグラフィーで順次的に精製する段階 。
【0097】
もう一つの様態として、本発明は、前記インスリンアナログを含む糖尿病の治療用薬学的組成物を提供する。
【0098】
本発明に係るインスリンアナログを含む薬学的組成物は、薬剤学的に許容可能な担体を含んでもよい。薬剤学的に許容される担体は、経口投与時に結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素及び香料などを用いてもよく、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤及び安定化剤などを混合
して用いてもよく、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤及び保存剤などを使用してもよい。本発明の薬学的組成物の剤形は、上述したような薬剤学的に許容される担体と混合して多様に製造してもよい。例えば、経口投与の際には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ及びウエハーなどの形態で製造してもよく、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多数回投薬形態で製造してもよい。その他にも溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル及び徐放性製剤などで剤形化してもよい。
【0099】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムまたは鉱物油などが用いられてもよい。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0100】
もう一つの様態として、本発明は、前記インスリンアナログまたはこれを含む薬学的組成物を、これを必要とする個体に投与する段階を含む、糖尿病の治療方法を提供する。
【0101】
本発明に係るインスリンアナログは、天然型インスリンに比べて著しく増加したインビトロ効力を示すため、前記インスリンアナログまたはこれを含む薬学的組成物を投与することにより、糖尿病の治療を図ることができる。
【0102】
本発明では、「投与」は、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記結合体の投与経路は薬物が目的の組織に到達することができる限り、いかなる一般的な経路を通じて投与されてもよい。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などになってもよいが、これらに限定されない。しかし、経口投与時のペプチドは消化されるため、経口用組成物は活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化することが望ましい。好ましくは注射剤の形態で投与されてもよい。また、薬学的組成物は、有効成分が標的細胞に移動しうる任意の装置によって投与されてもよい。
【0103】
また、本発明の薬学的組成物は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別、体重及び疾患の重等度などのいくつかの関連因子と一緒に、有効成分である薬物の種類に応じて決定される。本発明の薬学的組成物は、生体内持続性及び力価が優れているため、本発明の薬学的組成物の投与回数及び頻度を著しく減少させることができる。
【発明の効果】
【0104】
本発明に係るインスリンアナログは、天然型インスリンに比べて著しく増加したインビトロ効力を示すため、少量の投与だけでも十分な治療効果が期待でき、糖尿病の治療に非常に有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
図1】本発明に係るインスリンアナログの純度をタンパク質電気泳動で分析した結果であって、代表的にインスリンアナログ1の結果である。 レーン1:サイズマーカー レーン2:インスリンアナログ1
図2】本発明に係るインスリンアナログの純度を、逆相クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーで分析した結果であって、代表的にインスリンアナログ1の結果である。
図3】本発明に係るインスリンアナログのペプチドマップ化分析結果であって、代表的にインスリンアナログ1の結果である。図3で「USPインスリン」は、対照群として用いた天然型インスリンを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0106】
以下、下記実施例により本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0107】
実施例1:インスリンアナログ発現ベクターの作製
天然型インスリンのA鎖及び/またはB鎖のアミノ酸を変形させたインスリンアナログ
を作製するために、その変形が導入されたインスリンアナログの増幅のための正方向及び逆方向プライマーペアを合成した後、プロインスリンcDNAを鋳型としてPCRを行った。このとき、鋳型としては、プロインスリンcDNA(SC128255、OriGene)(参照配
列:BC005255.1及びAAH05255)がpET22bベクター(Novagen)
にクローニングされたものを用い、インスリンの円滑な組換え発現のためにクローニングされたプロインスリンcDNAのN末端に融合パートナー(N-terminal fusion partner
)としてMet Ala Thr Thr Ser Thr Ala Thr Thr Argの
アミノ酸配列(配列番号24)をコードする配列番号23の塩基配列(ATG GCA ACA ACA TCA ACA GCA ACT ACG CGT)を挿入した。
【0108】
具体的には、本発明では、下記表1に示したようなアミノ酸配列の変形を含むインスリンアナログを合成した。
【0109】
【表1】
【0110】
前記表1で、インスリンアナログ1は、配列番号1で表される天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目のアミノ酸であるチロシンのグルタミン酸への置換を含むものであり、
インスリンアナログ2は、配列番号1で表される天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目のアミノ酸であるチロシンのアスパラギンへの置換を含むものであり、
インスリンアナログ3は、配列番号1で表される天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目のアミノ酸であるチロシンのグルタミン酸への置換と配列番号2で表される天然型インスリンのB鎖アミノ酸配列で25番目のアミノ酸であるフェニルアラニンの欠失を含むものである。
【0111】
インスリンアナログ4は、配列番号1で表される天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目のアミノ酸であるチロシンのアラニンへの置換と配列番号2で表される天然型インスリンのB鎖アミノ酸配列で16番目のアミノ酸であるチロシンのグルタミン酸への
置換と、25番目のアミノ酸であるフェニルアラニンの欠失を含むものである。
【0112】
前記インスリンアナログ1~3の増幅のために設計されたそれぞれの正方向及び逆方向プライマーペアを下記表2に示した。
【0113】
【表2】
【0114】
前記表2で、配列番号5及び6のプライマーペアは、天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目のアミノ酸であるチロシンをグルタミン酸に置換するためのものであり、配列番号7及び8のプライマーペアは、天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目
のアミノ酸であるチロシンをアスパラギンに置換するためのものであり、配列番号9及び10のプライマーペアは、天然型インスリンのB鎖アミノ酸配列で25番目のアミノ酸であるフェニルアラニンを欠失させるためのものであり、配列番号11及び12のプライマーペアは、天然型インスリンのA鎖アミノ酸配列で14番目のアミノ酸であるチロシンをアラニンに置換するためのものであり、配列番号13及び14のプライマーペアは、天然型インスリンのB鎖アミノ酸配列で16番目のアミノ酸であるチロシンをグルタミン酸に置換するものである。
【0115】
該当変形を含むインスリンアナログ増幅のためのPCRは、鋳型DNA 150ng、
100pMプライマーそれぞれ1mlずつ、2.5mM dNTP 5ml、pfxポリメラーゼ10単位(Invitrogen社、USA)及び10×緩衝液を混合して反応溶液を製造し、
95℃で30秒間の初期変性に続いて95℃で30秒、55℃で30秒及び68℃で6分のアニーリング過程を18回繰り返した後、最後に68℃で5分間反応させた。これから収得したPCR増幅産物をゲル抽出キット(キアゲン、ドイツ)を用いて抽出した後、制限酵素NdeIとBamHIで処理して挿入切片を製造した。続いて、pET22bベクター(Novagen、USA)を同一の制限酵素で切断し、同一のゲル抽出キットを用いて抽出した。このように用意されたベクターに前記挿入切片をT4リガーゼを用いて連結させて発現ベクターpET22b‐インスリンアナログ1~4を製造した。前記発現ベクターは、T7プロモーターの調節下でインスリンアナログ1~4のアミノ酸配列をコードする核酸を含み、宿主内でインスリンアナログのタンパク質を封入体形態で発現させうる。
【0116】
これから収得された本発明に係る発現ベクターpET22b‐インスリンアナログ1は配列番号15で記載される塩基配列を有する核酸を含み、これは配列番号16で記載されるアミノ酸配列を有するインスリンアナログをコードし、発現ベクターpET22b‐インスリンアナログ2は、配列番号17で記載される塩基配列を有する核酸を含み、これは配列番号18で記載されるアミノ酸配列を有するインスリンアナログをコードし、発現ベクターpET22b‐インスリンアナログ3は、配列番号19で記載される塩基配列を有する核酸を含み、これは配列番号20で記載されるアミノ酸配列を有するインスリンアナログをコードし、発現ベクターpET22b‐インスリンアナログ4は、配列番号21で記載される塩基配列を有する核酸を含み、これは配列番号22で記載されるアミノ酸配列を有するインスリンアナログをコードする。
【0117】
下記表3にそれぞれのインスリンアナログ1~4のDNA配列及びタンパク質配列を示した。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
実施例2:組換えインスリンアナログの発現
T7プロモーターの調節下で、本発明に係るインスリンアナログの組換え発現を下記のように行った。前記実施例1で製造されたそれぞれのインスリンアナログ発現ベクターに大腸菌BL21‐DE3(E. coli B F-dcm ompT hsdS(rB-mB-) gal λDE3)(Novagen, USA)を形質転換した。形質転換は、前記大腸菌BL21‐DE3のメーカーであるNovagenで推奨する方法に従って行われた。インスリンアナログ発現ベクターが形質転換された個々の単一コロニーをとり、50μg/mlのアンピシリン含有2×LB(Luria Broth、LB)培地に接種した後、37℃で15時間培養した。組換え菌株の培養液と30%グリセロールを含む2xLB培地を1:1(v/v)の割合で混合して、各1mlずつクラ
イオチューブ(cryo-tube)に分注して、-140℃で保管した。これを本発明に係るイン
スリンアナログの組換え生産のための細胞ストック(cell stock)として用いた。
【0121】
本発明に係るインスリンアナログの組換え発現のために、各細胞ストック1バイアルを溶かし、500mlの2×LB培地に接種し、37℃で14~16時間振とう培養した。OD600の値が5.0以上を示すと培養を終了し、これを種培養液として用いた。50L発酵器(MSJ-U2、B.E. MARUBISHI、日本)を用いて、種培養液を17Lの発酵培地に接種し、初期バス(bath)発酵を開始した。培養条件を温度37℃、空気量20L/分(1
vvm)、及び攪拌速度500rpmに設定し、30%アンモニア水を使用してpHを6.7に維持させた。発酵の進行は、培養液内の栄養素が制限されたとき、追加の培地(feeding solution)を添加して、流加培養を行った。OD値により菌株の成長をモニタリングし、OD値が100以上に達した場合、最終的な濃度500μMのIPTG(isopropyl-beta-D-thiogalactoside)を導入した。培養はIPTG導入後、約23~25時間までさらに進行して、培養終了後、遠心分離器を使用して組換え菌株を収穫し、これを以後の使用時まで-80℃で保管した。
【0122】
実施例3:組換えインスリンアナログの分離及び精製
前記実施例2で形質転換体から発現させた組換えインスリンアナログを分離、精製するために、まず不溶性封入体形態で発現されたインスリンアナログを可溶性形態に変えるため、下記のように細胞を破砕してリフォールディングを行った。
【0123】
<3-1>組換えインスリンアナログの回収及びリフォールディング
具体的に、細胞ペレット100g(wet weight)を1Lの溶解緩衝液(50mM Tr
is-HCl(pH 9.0)、1mM EDTA(pH 8.0)、0.2M NaCl及
び0.5%トリトンX-100)に再浮遊した後、微細溶液化(microfluidizer)プロセ
ッサーM-110EH(AC Technology Corp. Model M1475C)を用いて15,000ps
iの圧力を加えて細胞を破砕した。破砕された細胞溶解物を7,000rpmで4℃で20分間遠心分離して上澄液を捨て、3Lの洗浄緩衝液(0.5%トリトンX-100及び
50mM Tris-HCl(pH 8.0)、0.2M NaCl、1mM EDTA)に
再浮遊した。7,000rpmで4℃で20分間遠心分離してペレットを蒸留水に再浮遊した後、同様の方法で遠心分離した。このことからペレットをとり、400mlの緩衝液(1M グリシン、3.78g システイン-HCl、pH 10.6)に再浮遊した後、常温で1時間攪拌した。再浮遊された遺伝子組換えインスリンアナログを回収するために、400mlの8M尿素を追加した後、40℃で1時間撹拌した。可溶化された組換えインスリンアナログのリフォールディング(refolding)のために7,000rpmで4℃で
30分間遠心分離した後、上澄液を取り、ここで7.2Lの蒸留水を連動ポンプ(peristaltic pump)を用いて、1000ml/時間の流速で添加し、4℃で16時間攪拌した。
【0124】
<3-2>陽イオン交換クロマトグラフィー精製
45%エタノールを含む20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)で平衡化された陽イオン交換カラム(Source S、GE Healthcare社)に、前記実施例<3-1>でリ
フォールディングが終結した試料をローディングして結合させた。続いて塩化カリウム0.5Mと45%エタノールを含む20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)を用いて濃度が0%→100%になるように10xカラム容量の線形濃度勾配でインスリンアナログのタンパク質をカラムから溶出した。
【0125】
<3-3>トリプシン及びカルボペプチダーゼBの処理
前記実施例<3-2>で脱塩カラム(Desalting column)で溶出された試料から塩を除去し、緩衝液(10mM Tris-HCl、pH 8.0)に交換した。得られた試料の
タンパク質の量の1000モル比に該当するトリプシン(trypsin)と2000モル比に
該当するカルボペプチダーゼ(carboxypeptidase)Bを添加した後、16℃で16時間攪
拌した。1Mクエン酸ナトリウム(pH2.0)を用いてpHを3.5に下げて反応を終結した。
【0126】
<3-4> 陽イオン交換クロマトグラフィー精製
前記実施例<3-3>で反応が終結した試料を45%エタノールを含む20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)で平衡化された陽イオン交換カラム(Source S、GE Healthcare社)に再びローディングして結合させた。続いて塩化カリウム0.5Mと45%
エタノールを含む20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)を用いて濃度が0%→100%になるように10xカラム容量の線形濃度勾配でインスリンアナログのタンパク質をカラムから溶出した。
【0127】
<3-5>陰イオン交換クロマトグラフィー精製
前記実施例<3-4>で脱塩カラムで溶出された試料から塩を除去し、緩衝液(10mM Tris-HCl、pH7.5)に交換した。これから収得された試料で純粋なインスリンアナログを分離するために、10mMトリス緩衝液(pH7.5)で平衡化された陰イオン交換カラム(Source Q、GE Healthcare社)にローディングして結合させた。続い
て、0.5M塩化ナトリウムを含む10mMトリス緩衝液(pH7.5)を用いて濃度が0%→100%になるように10xカラム容量の線形濃度勾配でインスリンアナログのタンパク質をカラムから溶出した。
【0128】
精製されたインスリンアナログの純度は、タンパク質電気泳動(SDS-PAGE)と
、逆相及びサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分析し、前記結果をそれぞれ図1及び2に示した。また、アミノ酸の変形は、ペプチドマップ化(mapping)と各ピークの分子
量分析を通じて確認し、これは図3に示した。
【0129】
その結果、それぞれのインスリンアナログが目的とすることにより、アミノ酸配列が変形されたことが確認できた。
【0130】
実施例4:天然型インスリンとインスリンアナログのインビトロ効力の比較
前記実施例3で分離、精製されたインスリンアナログのインビトロ効力を測定するために、脂肪細胞に分化させたマウス由来の3T3‐L1細胞株を用いたグルコース吸収能(glucose uptake、または脂質合成能)試験を実施した。3T3‐L1細胞株(ATCC、CL-173)を10%NBCS(新生仔牛血清)を含むDMEM(Dulbeco's Modified Eagle's Medium、Gibco、Cat.No、12430)培地を用いて、週2~3回継代培養し維持した。3T3
‐L1細胞株を分化用培地(10%FBSを含むDMEM)に懸濁した後、48ウェルプレートにウェル当たり5×10細胞となるように接種した後、37℃で48時間培養した。脂肪細胞への分化のために分化用培地に1μg/mlのヒトインスリン(Sigma, Cat.
No. I9278)、0.5mM IBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine, Sigma, Cat. No.I5879)、1μMデキサメタゾン(Dexamethasone、Sigma, Cat. No. D4902)を混合し、既存の培地を除去した後、ウェル当たり250μlずつ添加した。48時間後、分化用培地に1μg/mlのヒトインスリンのみを添加した培地に再度交換した。以後、48時間ご
とに1μg/mlのヒトインスリンを添加した分化用培地に交換しながら7~9日間、脂
肪細胞への分化が誘導されることを確認した。
【0131】
グルコース吸収能試験のために、脂肪細胞への分化が終結された細胞を無血清DMEM培地で1回水洗した後、250μlずつ入れ、4時間血清枯渇を誘導した。
【0132】
ヒトインスリンとインスリンアナログを5μMから0.005nMまで無血清DMEM培地で10倍に順次希釈して準備した。用意されたインスリン試料を細胞にそれぞれ250μlずつ添加した後、24時間、37℃、5%CO培養器で培養した。培養が終わっ
た培地のグルコース残量を測定するために、200μlの培地を取って、D‐PBSでそれぞれ5倍希釈した後、GOPOD分析(GOPOD Assay Kit、Megazyme、Megazyme, Cat. No. K-GLUC)を行った。グルコース標準溶液の吸光度を基準に培地の残りのグルコース濃度を換算し、インスリンアナログのグルコース吸収能のEC50をそれぞれ算出し、下記表4に示した。
【0133】
【表5】
【0134】
表4に示したように、天然型ヒトインスリンと比べて、本発明に係るインスリンアナログ1は238.4%、インスリンアナログ2は241.7%、及びインスリンアナログ3は705%の増加されたグルコース吸収能が観察された。
【0135】
前記の結果から、本発明に係るインスリンアナログのインビトロ効力が天然型インスリンと比較して2~7倍に大幅に増加することが確認され、これは前記インスリンアナログが、実際の生体内で血中半減期が大幅に増加して安定的なインスリン製剤として提供されることができ、糖尿病治療薬として効果的に用いられることを示唆する。
【0136】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解するべきである。本発明の範囲は、前記の詳細な説明ではなく、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
【配列表】
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