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特許7252336タイヤの剛性の推定及び道路摩擦の推定の方法、使用、コンピュータプログラム製品、及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】タイヤの剛性の推定及び道路摩擦の推定の方法、使用、コンピュータプログラム製品、及び装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/068 20120101AFI20230328BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
B60W40/068
B60T8/172 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021529295
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2019084167
(87)【国際公開番号】W WO2020120375
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】102018132157.0
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509260569
【氏名又は名称】ニラ・ダイナミクス・エイビイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ミュクレブスト,クリステル・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ハンマルリン,トビアス・カール・ヴィルヘルム
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/102086(WO,A1)
【文献】特開2000-43745(JP,A)
【文献】特開2013-180639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための方法であって、前記方法は、計算装置によって、
‐タイヤモデルの範囲を得るステップ、
‐少なくとも1つの実測タイヤ関連値を示すセンサ信号を受信するステップ、
‐受信した前記センサ信号及び前記タイヤモデルの範囲に基づいて、前記摩擦ポテンシャルの前記不確実性を示す摩擦不確実性値を計算するステップ
を含み、
前記タイヤモデルの範囲は、下限タイヤモデル及び上限タイヤモデルを含み、
前記計算するステップは、前記計算装置によって、
‐前記受信したセンサ信号及び前記下限タイヤモデルに基づいて、下限摩擦ポテンシャル値を推定するステップ、
‐前記受信したセンサ信号及び前記上限タイヤモデルに基づいて、上限摩擦ポテンシャル値を推定するステップ、
‐前記摩擦不確実性値を、前記上限摩擦ポテンシャル値と前記下限摩擦ポテンシャル値との差として決定するステップを含む
方法。
【請求項2】
‐前記得るステップは、前記計算装置によって、前記タイヤモデルの範囲の不確実性を示すタイヤモデル不確実性を得る又は推定するステップを含み、
‐前記摩擦不確実性値を計算する前記ステップは、前記タイヤモデル不確実性値に基づく、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの実測タイヤ関連値は:スリップ、(正規化)トラクション力、周囲温度、タイヤ温度、タイヤ圧力、縦加速度、横加速度、ヨーレート、車輪速度、車両速度、エンジン回転数、エンジントルク、車輪に印加されるトルク、ABSフラグ、ステアリング・ホイールの角度、車輪角度、サスペンション高さ、サスペンション圧力、車軸高さ、ブレーキ圧、ブレーキ温度、ブレーキトルク、タイヤのタイプ(ヒューマンマシンインタフェースを介して手動で入力される)、GPS情報、道路湿り度、道路状況、ギヤボックス信号、ワイパ速度、ABS制動からの推定摩擦ポテンシャル、TCSイベントからの推定摩擦ポテンシャル、車両コネクティビティから受信した推定摩擦ポテンシャル、制御フラグレジスタからのフラグ値からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記センサ信号は:車輪速度センサ、車両速度センサ、トルクセンサ、圧力センサ、1つ以上の加速度計、ヨーレートセンサ、舵角センサ、温度センサ、トルク分配装置、GPSセンサ、カメラ、ビークルバスのうちの1つ以上から前記計算装置によって受信される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
‐前記受信するステップは、前記計算装置によって、前記実測タイヤ関連値の不確実性を示す測定不確実性値を、受信又は推定するステップを含み、
‐前記摩擦不確実性値を計算する前記ステップは、前記測定不確実性値に基づく、
請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
‐前記センサ信号及び前記測定不確実性値は、一連の実測タイヤ関連値を含む測定範囲を示す、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記計算装置によって、摩擦ポテンシャル値を推定するステップを更に含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記計算装置によって、計算された前記摩擦不確実性値並びに/又は、推定された前記下限摩擦ポテンシャル値及び上限摩擦ポテンシャル値、並びに/又は推定された前記摩擦ポテンシャル値を、ビークルバス提供するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記計算装置によって、前記タイヤモデルの範囲を更新するステップ更に含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法を用いて前記計算装置によって推定される、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性の、前記車両を制御するための使用。
【請求項11】
前記計算装置で実行された場合に、前記計算装置によって、請求項1~10のいずれか1項の複数のステップを実施するよう構成された、プログラムコードを含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項12】
摩擦ポテンシャルの不確実性を推定するための装置であって、前記装置は前記計算装置を含む処理ユニットを備え、前記処理ユニットは、請求項1~のいずれか1項の複数のステップを実施するよう構成される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の開示は一般に、タイヤと路面との間の摩擦の推定の分野、及び車輪付き車両のタイヤ特性の推定の分野に関する。特に、本発明の開示は、摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための方法、システム、及びコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
道路摩擦は、例えば氷結した道路から乾燥した又は湿った道路へと、急に変化し得る。このような変化は、ドライバー、並びにドライバーの安全性及び快適性に、重大な課題を提起する。技術的観点から、道路摩擦の信頼できる知識は、アンチロック・ブレーキ・システム(Anti‐lock Braking System:ABS)等の車両制御システムを実装するために重要である。利用可能な摩擦ポテンシャルの知識は、例えばABS制動を実施する必要がある場合にブレーキ距離を最適化するために使用できる。更に又はあるいは、摩擦は、自律運転、アダプティブ・クルーズ・コントロール、滑りやすい道路の検出、及びコネクテッドドライビングを含む、種々のシステムのうちの1つ以上によって使用され得る。
【0003】
道路摩擦を推定する又は計算するための従来のアプローチは、スリップ、音、タイヤトレッドの変形、道路粗さ及び潤滑性検出に基づいたものであり得る。一般に、これらのアプローチは、例えば複数の入力された尺度の量又は質を組み合わせることによって、推定精度を高めるよう開発されてきた。例えば、スリップに基づいたアプローチは、精度を高めるために、推定されるタイヤの剛性を考慮することが多い。更に、ABS、TCS又はESPの介入によって得られる推定も情報を提供し得る。というのは、摩擦ポテンシャル全体が使用されるためである。しかしながら、実際の運転中には、タイヤ及び動作条件についての不完全な又は不正確な知識を用いて、計算を実施しなければならないことが多い。
【0004】
従来のアプローチは、不確実性の尺度、即ち推定がどの程度信頼できるかを出力することなく、摩擦ポテンシャルを推定することを対象としていた。しかしながらこれに続く、例えば衝突を伴わない完全なABS制動を可能とするために十分な距離を、前方の車両に対して保証する、車両の制御の質は、意思決定のための基礎、例えば決定された摩擦ポテンシャルと同程度にしかなることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に上述した種類の公知のアプローチの欠点を克服するために、本発明の目的は、推定された摩擦に関する不確実性の尺度を提供するための解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための方法、コンピュータプログラム製品、及び装置が開示される。
【0007】
一般に、本発明は、タイヤモデル及び実測タイヤ関連値を利用する。タイヤモデルは、車輪又はタイヤの物理的挙動の表現であると理解され、また、所与の動作条件において、あらゆるタイヤに対して一意のものである。従って、適切な物理的特性を決定又は推定できる。タイヤモデルに対する入力は、以下で更に説明される1つ以上の実測タイヤ関連値として提供され得る。
【0008】
本開示のために、タイヤモデルは、所与の入力に基づいて摩擦ポテンシャルを少なくとも決定又は推定できなければならない。摩擦ポテンシャルについての結論を引き出すタイヤモデルの一例は、車輪速度及び他のセンサの測定値を利用する。よって摩擦ポテンシャルは、タイヤモデルを用いて、例えばスリップ勾配(slip‐slope)から得ることができる。
【0009】
一般に、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための方法は、タイヤモデルの範囲を得るステップを含む。タイヤモデルの範囲は、少なくとも2つのタイヤモデルを含む。
【0010】
本方法は更に、少なくとも1つの実測タイヤ関連値を示すセンサ信号を受信するステップを含む。一般に、本開示の方法は、種々の実測タイヤ関連値のうちの1つ以上を用いて実践できる。好ましくは、上記タイヤ関連値は、タイヤモデルに対する入力として用いることができる。タイヤモデルに対する入力として実測値を提供することにより、タイヤ及び動作条件についての知識の不足が小さくなる。
【0011】
実測タイヤ関連値の例は、以下からなる群から選択してよい:スリップ、(正規化)トラクション力、周囲温度、タイヤ温度、タイヤ圧力、縦加速度、横加速度、ヨーレート、車輪速度、車両速度、エンジン回転数、エンジントルク、車輪に印加されるトルク、ABSフラグ、ステアリング・ホイールの角度、車輪角度、サスペンション高さ、サスペンション圧力、車軸高さ、ブレーキ圧、ブレーキ温度、ブレーキトルク、タイヤのタイプ(ヒューマンマシンインタフェースを介して手動で入力される)、GPS情報、道路湿り度、道路状況、ギヤボックス信号、ワイパ速度、ABS制動からの推定摩擦ポテンシャル、TCSイベントからの推定摩擦ポテンシャル、車両コネクティビティから受信した推定摩擦ポテンシャル、制御フラグレジスタからのフラグ値。
【0012】
制御フラグレジスタのフラグの例としては、ESC制御が進行中であるかどうか、ABS制動が進行中であるかどうか、TCSが進行中であるかどうか、制動が進行中であるかどうか、変速が進行中であるかどうか、クラッチペダルが係合されているかどうか、バックギアが係合されているかどうか、トレイラーが接続されているかどうか、又はクルーズコントロールが係合されているかどうかの表示が挙げられる。
【0013】
ビークルバスは、情報を中継し、上記のパラメータのうちの1つ以上を提供できる。
【0014】
最後に、本方法は、受信した上記センサ信号及び上記タイヤモデルの範囲に基づいて、摩擦不確実性値を計算するステップを含んでよい。上記摩擦不確実性値は、上記摩擦ポテンシャルの不確実性を示す。
【0015】
好ましくは、上記タイヤモデルの範囲は、下限タイヤモデル及び上限タイヤモデルを含む。
【0016】
このような場合、上記摩擦不確実性値を計算する上記ステップは、下限摩擦値及び上限摩擦値を推定するステップを含んでよい。上記下限摩擦値は、上記受信したセンサ信号及び上記下限タイヤモデルに基づいて推定され、上記上限摩擦値は、上記受信したセンサ信号及び上記上限タイヤモデルに基づいて推定される。例えば、上記摩擦不確実性値は、上記上限摩擦値と上記下限摩擦値との差に基づいて計算してよい。
【0017】
いくつかの例では、上記タイヤモデルの範囲は、必ずしも2つの離散的な境界モデルによって表されるわけではなく、平均モデル及びモデル不確実性によっても表される。このような場合、上記得るステップは、上記タイヤモデルの範囲の不確実性を示すタイヤモデル不確実性を得る(又は推定する)ステップを含んでよい。更に、上記摩擦不確実性値を計算する上記ステップは、上記タイヤモデル不確実性値に基づく。
【0018】
一般に、本方法は、センサが実測タイヤ関連値を示す信号を提供しさえすれば、使用される特定のセンサとは無関係に実施できる。実測タイヤ関連値をセンサ信号として提供できる好適なセンサの例としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:車輪速度センサ、車両速度センサ、トルクセンサ、圧力センサ、1つ以上の加速度計、ヨーレートセンサ、舵角センサ、温度センサ、トルク分配装置、GPSセンサ、カメラ、ビークルバス。
【0019】
いくつかの実施形態では、実測タイヤ関連値の不確実性を示す測定不確実性値を、受信又は推定してよい。このような場合、摩擦不確実性値を計算する上記ステップは、上記測定不確実性値に更に基づいてよい。
【0020】
例えば、上記センサ信号及び上記測定不確実性値は、一連の実測タイヤ関連値を含む測定範囲を示す。実測タイヤ関連値の測定範囲は、測定最小値と測定最大値との間の連続的な範囲として定義され得る。他の場合では、実測タイヤ関連値の測定範囲は、複数の値の離散的セットとして定義され得る。更に、実測タイヤ関連値の測定範囲は、当該測定範囲内の複数の値の相対的広がりを示す値の分布として定義され得る。
【0021】
一般に、本方法は、摩擦ポテンシャル値を推定するステップを含んでも含まなくてもよい。
【0022】
いずれの場合においても、本方法のいずれの出力は、特にABS、TCS、ESC等といったアクティブコントロールシステムにおいて使用するために、ビークルバスに提供してよい。上記ビークルバスに提供されるこのような出力としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:計算された摩擦不確実性値、推定下限摩擦値及び/又は上限摩擦値、推定摩擦ポテンシャル値。
【0023】
いくつかの実施形態では、本方法は更に、上記タイヤモデルの範囲を更新するステップを含んでよい。例えば、ある測定値が、得られた上記タイヤモデルの範囲と一致しない場合、上記測定値又は上記タイヤモデルの範囲は不正確であると推測できる。いくつかの実施形態では、上記タイヤモデルの範囲は、上記測定値に基づいて更新してよい。例えば、使用した摩擦の測定値が、上記タイヤモデルを用いて決定された摩擦ポテンシャルを超える場合、使用された摩擦の測定値はタイヤモデルとの不一致を示し得る。
【0024】
上記タイヤモデルの範囲を更新する上記ステップは、特に上記タイヤモデルの範囲のパラメータを更新するステップを伴う。一般に、タイヤ関連値の例として上述した上記量のうちのいずれを更新してよい。
【0025】
更に、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性の使用が開示され、上記摩擦ポテンシャル値は、先行する方法を用いて推定され、上記車両を制御するために使用される。例えば、一実施形態では、上記摩擦ポテンシャルの上記不確実性は、アダプティブクルーズコントロールシステムを用いた車両の制御のために用いてよい。アダプティブクルーズコントロールシステムは特に、車両の速度を制御して、制御対象の車両の前方の別の車両に対してある一定の距離を確保する。上記距離は、摩擦ポテンシャルの推定値に基づいて動的に決定してよい。上記摩擦ポテンシャルの上記不確実性も用いることによって、上記(例えば高い)不確実性に対処するために、上記距離を調整する(例えば増大させる)ことが可能となる。
【0026】
更に、コンピュータプログラム製品が開示され、上記コンピュータプログラム製品は、計算装置で実行された場合に、本開示の方法のうちの1つの複数のステップを実施するよう構成された、プログラムコードを含む。
【0027】
最後に、装置が開示され、上記装置は処理ユニットを備える。上記処理ユニットは、本明細書中で開示される方法のうちの1つの複数のステップを実施するよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、異なる摩擦ポテンシャルを有する種々の路面に関するスリップの関数として、典型的な(正規化)トラクション力を表すグラフである。
図2図2は、使用された摩擦、利用可能な摩擦、及び摩擦ポテンシャルを表すグラフである。
図3図3は、実施形態による方法のフローチャートである。
図4図4は、実施形態による方法のフローチャートである。
図5図5は、実施形態による方法の例を示すグラフである。
図6図6は、実施形態による方法の例を示すグラフである。
図7図7は、実施形態による方法のフローチャートである。
図8図8は、実施形態による方法の例を示すグラフである。
図9図9は、実施形態による装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、少数の好ましい実施形態の説明がなされ、ここでは例示を目的として、例示的なタイヤ関連値としてスリップが選択される。代わりに又は付加的に、他のタイヤ関連値を用いてよい。特に、例示のために、以下で説明される方法は、単一のタイヤ関連値(スリップ)を利用するが、他の実施形態は、2つ、3つ又はいずれの数のタイヤ関連値を利用する。後者の場合、複数のタイヤ関連値を、ベクトル等の多次元の量としてグループ化又は結合してよい。
【0030】
摩擦ポテンシャルは一般に、スリップ曲線の最大値として定義され、路面及びタイヤ特性並びに動作条件(圧力、温度、垂直負荷、摩耗等)といった種々の変数に依存する。
【0031】
図1は、摩擦ポテンシャルの路面への依存を示す。グラフは、正規化トラクション力(縦軸)を、縦スリップ(横軸)の関数として示す。車輪のスリップsは例えば、関係:
【0032】
【数1】
【0033】
に従って、車輪速度センサから発生するセンサ信号に基づいて算出してよく、ここでωは車輪の回転数であり、rは車輪の半径であり、νは車両の並進速度である。
【0034】
車輪の正規化トラクション力μは例えば、関係:
【0035】
【数2】
【0036】
に基づいて算出してよく、ここでFはトラクション力であり、Nは車輪に作用する垂直力である。
【0037】
正規化トラクション力と縦スリップとの関係が、3つの路面、即ち氷、砂利、アスファルト上に関して図1に例示されている。図示されているように、アスファルト上の摩擦ポテンシャルは一般に砂利上より高く、砂利上の摩擦ポテンシャルは氷上より高い。図1及び本開示の残りの部分において、全ての量及び値(特にスリップ)は、特記しない限り、縦及び/又は横方向について言及することを理解されたい。スリップ曲線は、原点の周りのおおよそ直線の部分(例えば図1におけるスリップの-10%から+10%まで)を含む、複数の領域に分割できる。
【0038】
以下で説明される方法は、摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定する方法を提供する。
【0039】
図2は、使用された摩擦、利用可能な摩擦、及び摩擦ポテンシャルを表すグラフである。このグラフは、所与のタイヤモデルに関するスリップとトラクション力との関係を示すスリップ曲線である。
【0040】
図2を検討すると、典型的な運転状況が、スリップが少ない直線部分における現在の動作点によって示されている。現在のスリップ及び正規化トラクション力を用いて、直線部分におけるスリップ‐μ曲線の勾配(スリップ勾配)を推定できるよい。
【0041】
この推定に基づいて、タイヤの摩擦ポテンシャルを推測してよい。タイヤの摩擦ポテンシャルは、曲線の最大値又はピークに対応する。対応するスリップは臨界スリップと称される。曲線上のタイヤの現在の動作点を考慮すると、横軸の値は使用された摩擦に対応し、最大の摩擦(摩擦ポテンシャル)に対する差は、利用可能な(available)摩擦と呼ばれる。
【0042】
図3は、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための方法30の例示的なフローチャートである。方法30は、タイヤモデルの範囲を得るステップ32を含む。
【0043】
方法30は更に、センサ信号を受信するステップ34を含む。センサ信号は、少なくとも1つの実測タイヤ関連値を示す。本例では、センサ信号は例えば、車輪のスリップを示すものであってよい。スリップは例えば、車輪速度センサ信号によって示すことができる。
【0044】
しかしながら、本開示は、当業者によって認識されるように、例示的なセンサ信号としての車輪速度センサ信号、又は例示的なタイヤ関連値としてのスリップに限定されない。
【0045】
例えば、実測タイヤ関連値の他の例としては、トラクション力、温度(周囲温度、タイヤ温度)、タイヤ空気圧、縦加速度、横加速度、ヨーレート、ABSフラグ、ステアリング・ホイールの角度、1つ以上のブレーキ圧が挙げられる。
【0046】
タイヤ関連値を、各タイヤモデルに対する入力として用いてよい。その後、この入力に基づいて、各タイヤモデルを、摩擦ポテンシャルを推定するために用いてよい。その結果、単一の実測タイヤ関連値、例えばスリップの単一の測定値を用いて、方法30は摩擦ポテンシャル値の範囲を推定できるようになる。
【0047】
最後に、本方法は、受信したセンサ信号及び摩擦ポテンシャルの不確実性を示すタイヤモデルの範囲に基づいて、摩擦不確実性値を計算するステップ36を含む。特に、摩擦不確実性値は、推定摩擦ポテンシャル値の範囲に基づいて計算してよい。
【0048】
本開示によると、単一のタイヤモデルだけでなく、タイヤモデルの範囲が用いられる。例えば、各摩擦ポテンシャル値は、タイヤモデルの範囲の中の複数のタイヤモデルそれぞれに関して、推定してよい。他の例では、各摩擦ポテンシャル値は、タイヤモデルの範囲からの少なくとも2つのタイヤモデルに関して推定され得る。このような場合、特に図4を参照して以下で更に説明されるように、摩擦ポテンシャルの不確実性は、これらの摩擦ポテンシャル値の間の差として計算できる。
【0049】
図4は、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための、別の方法40の例示的なフローチャートである。方法40は、下限タイヤモデルとも呼ばれる第1のタイヤモデルを得るステップ42aを含む。更に、方法40は、上限タイヤモデルとも呼ばれる第2のタイヤモデルを得るステップ42bを含む。第1及び第2のタイヤモデルは、タイヤモデルの範囲を形成する。
【0050】
特に、第1及び第2のタイヤモデルは、タイヤがどのように挙動し得るかの推定として提供され得る。これらは、例えば柔らかいタイヤから硬いタイヤまで、高い動作温度から低い動作温度まで、パフォーマンスタイヤから冬用タイヤまでといった、広範なタイヤ及び動作条件に関する一般的な仮説であり得る。あるいは又は更に、これらの仮説は、以下で更に説明されるように、経験的に精密化され得る。経験的に、タイヤモデルの範囲は、一般的な仮説から精密化(即ち絞り込み)されている、又は一般的な仮説から広がっている、又は一般的な仮説からずれている、又は以上のいずれの組み合わせである可能性がある。いずれの場合においても、本開示による方法により、タイヤ及び動作条件についての知識の不足に対応する、摩擦ポテンシャルの不確実性を定量化できる。
【0051】
好ましくは、下限タイヤモデルは2つのタイヤモデルのうちの1つであり、これは典型的には比較的低い摩擦ポテンシャルを引き起こす、即ち2つのモデルのうちの滑りやすい方である。続いて上限タイヤモデルは2つのタイヤモデルのうちの1つであり、これは典型的には比較的高い摩擦ポテンシャルを引き起こす、即ち2つのモデルのうちトラクション力をより多く発生させる方である。
【0052】
方法40は更に、センサ信号を受信するステップ44を含む。センサ信号は、実測タイヤ関連値を示し、これは、下限タイヤモデル及び上限タイヤモデルの両方に対する入力として用いることができる。
【0053】
一方では、センサ信号(又は少なくともセンサ信号で示される実測タイヤ関連値)は、第1のタイヤモデルを用いて下限摩擦値とも呼ばれる第1の摩擦値を推定46aするために用いられる。並行して、又はこれに続いて、センサ信号又は実測タイヤ関連値は、第2のタイヤモデルを用いて、上限摩擦値とも呼ばれる第2の摩擦値を推定46bするために用いられる。
【0054】
好ましくは、下限摩擦値は上限摩擦値より小さい。
【0055】
下限摩擦値及び上限摩擦値に基づいて、摩擦ポテンシャルの不確実性を示す不確実性値を決定してよい。
【0056】
一般に、不確実性は、得られたタイヤモデルの範囲の幅に依存する。タイヤモデルが大きく分散している場合、即ちタイヤの実際の特性及び動作条件についての知識がほとんどない場合、不確実性は、酷似した複数のタイヤモデルを用いた場合よりも大きくなる。本明細書中で開示される方法により、このような知識の不足の幅を定量化し、これを車両内又は車両外の他のシステムに提供できる。例えば、ABS等の車両制御システムは、摩擦ポテンシャルの不確実性の定量化から利益を得ることができる。
【0057】
図5は、「スリップ曲線(slip curve)」、即ちスリップに対するトラクション力の依存を示す、図2と同様のグラフ50である。グラフ50は、図4を参照して上述した方法の例示的な使用を示すのに役立つ。
【0058】
まず、2つのタイヤモデル52a、52bが得られる。第1のタイヤモデル52aは下限タイヤモデルであり、第2のタイヤモデル52bは上限タイヤモデルである。
【0059】
図示した例では、下限タイヤモデル52aは、スリップ範囲全体にわたって、上限タイヤモデル52bより低い。従って、下限タイヤモデル52aに従って提供された摩擦は、上限タイヤモデルに従って提供された摩擦より小さい。
【0060】
下限タイヤモデル52aと上限タイヤモデル52bとの間の差又は面積は、タイヤ又は動作条件についての不確実性を示す。例えば、下限タイヤモデルは、車両が滑りやすい道路又は砂利を通過するという仮定に基づいたものであってよく、上限タイヤモデル52bは、車両がアスファルト等の滑りにくい道路を通過するという仮定に基づいたものであってよい。
【0061】
このパラメータ(砂利又はアスファルト)が未知のままである限り、結果として得られる摩擦ポテンシャルの不確実性を把握することは有利である。よって本方法に従い、摩擦ポテンシャルにおける不確実性を以下のように計算できる。
【0062】
2つのタイヤモデルに加えて、センサ信号が受信される。センサ信号は、タイヤ関連値、即ち図5の場合のスリップを示す。センサ信号によって示される実測スリップ値は、スリップ軸(横軸)上でスリップ54としてマークされている。
【0063】
測定されたスリップ54及び下限タイヤモデル52aに基づいて、下限摩擦ポテンシャル58aを推定してよい。しかしながら、この下限摩擦ポテンシャル58aは、実際の摩擦ポテンシャルを表さない可能性がある。というのは、下限タイヤモデルは、摩擦ポテンシャルを少なく見積もる可能性がある(又は少なくとも摩擦ポテンシャルを多く見積もらない)ように、選択又は決定されたためである。
【0064】
同様に、測定されたスリップ54及び上限タイヤモデル52bに基づいて、上限摩擦ポテンシャル58bを推定してよい。しかしながら、この上限摩擦ポテンシャル58bは、実際の摩擦ポテンシャルを表さない可能性がある。というのは、上限タイヤモデルは、摩擦ポテンシャルを多く見積もる可能性がある(又は少なくとも摩擦ポテンシャルを少なく見積もらない)ように、選択又は決定されたためである。
【0065】
その結果、不確実性値は、上限摩擦ポテンシャル58bと下限摩擦ポテンシャル58aとの差として決定される。この不確実性値は、摩擦ポテンシャルの不確実性を示す。
【0066】
図6は、いくつかの実施形態による更なる例を示すグラフである。特に、図5の例とは逆に、センサ信号は単一の測定値のみの指標ではない。
【0067】
例示を目的として、このグラフは、タイヤモデルに対する入力(測定値、スリップ等の実測タイヤ関連値)と摩擦ポテンシャル(即ちスリップ曲線の最大値(このスリップ曲線は図6には図示されていない))との直接的な関係を提供する。
【0068】
実測タイヤ関連値(例えばスリップ値)の表示に加えて、測定不確実性値64がセンサ信号と共に受信されるか、又はセンサ信号に基づいて推定される。測定不確実性値は、実測タイヤ関連値の不確実性を示す。例えばこれは、実際のスリップがその中に存在する(可能性がある)スリップ範囲を示す。このような不確実性値は例えば、センサ信号を提供するために使用されるセンサの、既知の誤差に基づいて決定してよい。更に又はあるいは、これは複数の測定の統計値に基づいたものであってよい。
【0069】
図示した例では、測定不確実性は、下限測定値66aから上限測定値66bまでの範囲である。測定不確実性は、図6で示されているように、(下限及び上限によって画定される)単純な、連続した範囲として提供され得る。更に又はあるいは、測定不確実性は、(複数の測定値の時間的シーケンス等の)複数の離散値のセット又は測定範囲内の各値の相対的広がりを示す値の分布によって示され得る。
【0070】
更に、測定不確実性値によって示されるスリップ範囲内に実測スリップ値がある確度を示す信頼度を、提供又は算出できる。例示的な信頼度は、1σ、2σ、3σ又は5σである。例えば、1σは、示された範囲内に実測スリップ値があることに関する、およそ68%の確度を表す。
【0071】
図6の場合では、摩擦不確実性値の計算は更に、測定不確実性値に基づいている。タイヤモデルに対する入力が測定不確実性範囲64内であるならば、下限摩擦ポテンシャル68aは、下限タイヤモデル62aに基づいて、下限タイヤモデル62aの最小摩擦ポテンシャル68aを決定することによって推定される。
【0072】
同様に、タイヤモデルに対する入力が測定不確実性範囲64内であるならば、上限摩擦ポテンシャル68bは、上限タイヤモデル62bに基づいて、上限タイヤモデル62bの最大摩擦ポテンシャル68bを決定することによって推定される。
【0073】
続いて、不確実性値を、上限摩擦ポテンシャル68bと下限摩擦ポテンシャル68aとの差として決定してよい。この不確実性値は、タイヤ及び動作条件(タイヤモデルの範囲)における不確実性、及びタイヤ関連値の測定値における不確実性(測定不確実性値)が与えられた場合の、摩擦ポテンシャルの不確実性を示す。
【0074】
数学的には、上記は以下のように表現できる。
【0075】
真のタイヤモデルの範囲を定める、境界としての2つのタイヤモデル、即ち1つの上限モデル及び1つの下限モデルの仮定から始まる。すると、実際の摩擦ポテンシャルは、これら2つの摩擦境界推定値の範囲内、即ち:
【0076】
【数3】
【0077】
となり、不確実性値は、これら2つの境界推定値の間に広がる距離:
【0078】
【数4】
【0079】
として定義される。
【0080】
続いて、図6に示す一般的なタイヤモデル境界関数:
【0081】
【数5】
【0082】
及び
【0083】
【数6】
【0084】
を用いて、測定値Y=[y1,…,yn]を仮定して、摩擦ポテンシャル境界:
【0085】
【数7】
【0086】
及び
【0087】
【数8】
【0088】
を、以下:
【0089】
【数9】
【0090】
のように計算できる。
【0091】
測定値Yは、実測タイヤ関連値を示す。図6に図示した例では、単一の量が測定され、即ちY=y1である。n次元ベクトルYの例示のために、n+1次元プロットが必要となる。
【0092】
1つ以上の測定値Yを上限タイヤモデルに適用することで、推定値に上限が与えられ、上記1つ以上の測定値を下限タイヤモデルに適用することで、推定値に下限が与えられる。このようにして、タイヤモデルの不確実性は、推定摩擦ポテンシャルに反映される。測定値の不確実性は、これら2つの境界モデルにZ∈[Ylow,Yup]を供給することに容易に含められて、上境界に関する最大値及び下境界に関する最小値を導出する。
【0093】
【数10】
【0094】
2次元空間、即ちY=y1及びZ∈[y(1,low),y(1,up)]における問題を示す図6を検討すると、摩擦ポテンシャル境界はここでは、Zの区間内に見出される点
【0095】
【数11】
【0096】
及び
【0097】
【数12】
【0098】
によって与えられる。
【0099】
Y=[y1,…,yn]及びZ∈[Ylow,Yup]である場合に、多次元空間に関して同一のアプローチを適用できる。タイヤモデルのアプローチは、測定範囲のアプローチに限定されず、また、(図5を参照して上述したような)単一の測定値Z=E(Y)又は2つの選択肢の組み合わせと共に用いてもよい。
【0100】
2つの境界タイヤモデル:
【0101】
【数13】
【0102】
及び
【0103】
【数14】
【0104】
の間のデータ点が少数である場合、これらのタイヤモデルを補間又は外挿してよい。
【0105】
このアプローチにより、境界を画定するこれらのモデルが多数のタイヤモデルのセットわたって広がった状態で、摩擦ポテンシャル推定値を提供できる。即ちこれは収束段階を必要としない。実際には、これは、摩擦推定値が常に、供給されたデータと少なくとも同等に良好なものとなることも暗示している。
【0106】
図7は、実施形態による方法のフローチャートである。
【0107】
上述の実施形態と同様に、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するための方法70は、タイヤモデルの範囲を得るステップ72を含む。方法70は、少なくとも1つの実測タイヤ関連値を示すセンサ信号を受信するステップ74も含む。最後に、本方法は、受信したセンサ信号及びタイヤモデルの範囲に基づいて、摩擦ポテンシャルの不確実性を示す摩擦不確実性値を計算するステップ76を含む。
【0108】
更に、方法78は、タイヤモデルの範囲を更新するステップを含む。これは、タイヤモデルのうちの少なくとも1つを範囲外に更新するステップ、上限及び/若しくは下限タイヤモデルを更新するステップ、並びに/又はタイヤモデルの範囲の中の全てのタイヤモデルを更新するステップを含んでよい。
【0109】
1つ以上のタイヤモデルを更新するステップは特に、タイヤモデルを記述する、各タイヤモデルのパラメータを更新するステップを伴ってよい。
【0110】
更新済みタイヤモデルは、最初に得られたタイヤモデルを置換してよく、また、特に更なるセンサ信号が受信され(ステップ74)、更なる摩擦不確実性値が計算された(ステップ76)後の、本方法の次の使用時に用いてよい。
【0111】
このような更新により、タイヤモデルの範囲を、現在のタイヤ及び動作条件に対して動的に調整できるようになり得る。例えば、タイヤ及び動作条件の安定した収束により、タイヤモデルの範囲を絞り込むことができ、これによって摩擦ポテンシャルに関する不確実性の低下がもたらされる。他方で、タイヤ又は動作条件が変化した場合、以前に得られたタイヤモデルはもはや有効でない場合があり、図8を参照して説明するように、更新によって、変化を考慮してタイヤモデルの範囲を必要なだけ広げることができる。
【0112】
図8は、実施形態による方法の例を示すグラフ80である。
【0113】
下限タイヤモデル82a及び上限タイヤモデル82bが得られる。グラフ80では、これらのモデルは、スリップ勾配、タイヤ温度、及び摩擦ポテンシャルによって占められる三次元空間内の表面で表されている。数学的に、各モデルは例えば関数で表すことができ、例えばμ=a*T*sqrt(k)となり得、ここでTは絶対温度であり、kはスリップ勾配であり、aはパラメータであり、μは摩擦ポテンシャルである。このような例では、下限及び上限タイヤモデル82a、82bは、パラメータaの各値、例えばalow、aupによって特性決定される。
【0114】
続いて、タイヤ関連値、例えばスリップ勾配及びタイヤ温度を示す信号が得られ、タイヤモデルに対する入力として使用される。図示した例では、特定のタイヤ関連値は、スリップ勾配値「53」及びタイヤ温度「275K」であり得る。
【0115】
これらのタイヤ関連値に基づいて、下限摩擦ポテンシャルが、下限タイヤモデル及び得られたタイヤ関連値を用いて決定される。更に、上限摩擦ポテンシャルが、上限タイヤモデル及び得られたタイヤ関連値を用いて決定される。図示した例では、下限摩擦ポテンシャルは「0.5」であってよく、上限摩擦ポテンシャルは「0.95」であってよい。
【0116】
タイヤモデルからのこれらの出力(即ち摩擦ポテンシャルの値)が、(例えばビークルバスによって提供された、又は測定において決定された)使用された実際の摩擦88と一致しない場合、タイヤモデルのうちの少なくとも1つを更新してよい。
【0117】
一般に、測定値が、得られたタイヤモデルの範囲と一致しない場合、測定値又はタイヤモデルの範囲が不正確であると仮定してよい。ここで、タイヤモデルの範囲を測定値に基づいて更新してよい。
【0118】
図示した例では、使用された実際の摩擦「0.6」が得られる。この使用された実際の摩擦は、グラフ80の三次元表示における特定の点88に対応する。この使用された実際の摩擦は、下限タイヤモデルによる摩擦ポテンシャルより大きい。使用された摩擦が摩擦ポテンシャルを超過することは、不一致を表し、これは対応するタイヤモデルの更新につながる。その結果、図示した例では、下限タイヤモデルのパラメータalowが更新されて、点88で表される使用された実際の摩擦との一致が保証される。更新は更新済み下限タイヤモデル83aを提供し、この更新済み下限タイヤモデル83aは本方法の更なる使用において用いられることになる。更新済みタイヤモデル83aは、以前の下限タイヤモデル82aを置換する。
【0119】
同様に、上限タイヤモデルは、最大の可能な摩擦が上限タイヤモデルからの上限摩擦ポテンシャルより小さい場合に、更新され得る。例えば、摩擦ポテンシャル推定値(ABS制動から得ることが可能なもの等)を、最大の可能な摩擦を示すものとして用いてよい。
【0120】
図示した例では、タイヤモデルは、タイヤ関連値(スリップ勾配及び温度)の全範囲にわたって更新される。しかしながら、他の実施形態では、更新は、実測タイヤ関連値に対して(例えばスリップ勾配「53」及び温度「275K」において)、又はこれらの実測タイヤ関連値及びその周りのある範囲に対して、局所的に適用してよい。これは、特に(例えば数学関数又はパラメータ化としての)タイヤモデル構造が未知である場合に、基礎となり得る。
【0121】
図9は、いくつかの実施形態による装置のブロック図である。装置90は処理ユニット92を備える。処理ユニット92は、車両の車輪の摩擦ポテンシャル値の不確実性を推定するよう構成される。この目的のために、処理ユニット92は、タイヤモデルの範囲を得るよう構成される。タイヤモデルは、装置90の外部又は内部のデバイスによって提供され得る。例えば、タイヤモデルは、装置90内の、又は装置90の外部のメモリデバイス(図示せず)から、処理ユニット92によって得ることができる。タイヤモデルは、ビークルバスから得ることもできる。
【0122】
あるいは、処理ユニット92によって得ることは、(例えばビークルバスから)パラメータを得ること、及びこれらのパラメータをブランクのタイヤモデルに提供してタイヤモデルの範囲を得ることを含み得る。
【0123】
装置は更に、センサ信号を受信34するよう構成される。センサ信号は、少なくとも1つの実測タイヤ関連値を示す。タイヤ関連値は、車両センサ94によって提供される。いくつかの実施形態では、装置90は車両センサ94を備えてよい。
【0124】
処理ユニット92は、センサ信号(又はセンサ信号において示されるタイヤ関連値)をタイヤモデルに対する入力として用いて、本明細書に記載されるように、タイヤモデルの範囲に基づいて摩擦不確実性値を推定するよう構成される。
【0125】
いくつかの実施形態では、装置は更にコネクティビティインタフェース(図示せず)を備えてよく、これは、車両の外部エンティティとの通信、例えば車両と車両との、又は車両とインフラストラクチャとの通信のために適合される。
【0126】
用語「車両コネクティビティ(vehicle connectivity)」は、車両の外部のエンティティとのいずれの通信、例えば車両と車両との、又は車両とインフラストラクチャとの通信を包含することが理解される。例えば、車両コネクティビティによって提供されたデータを用いて、ある車両が、道路関連値又は環境関連値(例えば温度)を(直接、又はサーバ若しくはクラウドサービス等の中間エンティティを介して)ある集団内の他の車両に中継できる。上記集団内の他の車両は、これらのタイヤモデルを、中継された(1つ以上の)値に基づいて、即座に較正できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9