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特許7252374ダイカストアルミニウム合金、その製造方法及び応用
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  • 特許-ダイカストアルミニウム合金、その製造方法及び応用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】ダイカストアルミニウム合金、その製造方法及び応用
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20230328BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20230328BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C22C21/06
B22D17/00 B
B22D21/04 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021559766
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 CN2020081413
(87)【国際公開番号】W WO2020207259
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】201910293278.5
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】李▲運▼春
(72)【発明者】
【氏名】郭▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】任又平
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼勇亮
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-218640(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188320(WO,A1)
【文献】特開平06-212334(JP,A)
【文献】特開平11-061490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
B22D 17/00
B22D 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
総質量で、
4~9質量%のMg、
1.6~2.8質量%のSi、
1.1~2質量%のZn、
0.5~1.5質量%のMn、
0.1~0.3質量%のTi、
0.009~0.05質量%のBe、
残量がアルミニウム、及び
0.2質量%以下の不可避的不純物である、ダイカストアルミニウム合金。
【請求項2】
5~7質量%のMg、
1.6~2.5質量%のSi、
1.1~1.4質量%のZn、
0.6~1.0質量%のMn、
0.1~0.3質量%のTi、
0.01~0.022質量%のBe、
残量がアルミニウム、及び
0.2質量%以下の不可避的不純物である、請求項1に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項3】
ZnとBeの質量比は、(60~140):1である、請求項1又は2に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項4】
MgとZnの質量比は、(4.5~5):1であり、SiとZnの質量比は、(1.5~2):1である、請求項1~3のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項5】
総質量で、前記不可避的不純物におけるCu、Ni、Cr、Zr、Ag、Sr及びSnの単一不純物の含有量は、それぞれ独立して0.1%未満であり、Fe不純物の含有量は、0.15%未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項6】
MgSi相、MgZn相、AlMn相及びTiAl相を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項7】
引張強度は350MPa以上であり、伸び率は4%以上であり、引張強度の相対標準偏差は10%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項8】
引張強度は350~390MPaであり、伸び率は6~9%であり、引張強度の相対標準偏差は5~8%である、請求項1~7のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金。
【請求項9】
アルミニウム含有材料を溶解炉に添加して溶解製錬し、前記アルミニウム含有材料を溶かした後にケイ素含有材料、マンガン含有材料、亜鉛含有材料、マグネシウム含有材料、ベリリウム含有材料及びチタン含有材料を添加して溶解製錬し、次に精錬脱ガス処理を経た後に鋳造してアルミニウム合金インゴットを得て、さらに前記アルミニウム合金インゴットを溶融してダイカスト成形して、ダイカストアルミニウム合金を得ることを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム含有材料の溶解製錬温度を、710℃~730℃とし、前記ケイ素含有材料、前記マンガン含有材料、前記亜鉛含有材料、前記マグネシウム含有材料、前記ベリリウム含有材料及び前記チタン含有材料の溶解製錬温度を、680℃~710℃とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のダイカストアルミニウム合金から製造された電子製品であって、コンピュータ、通信電子製品若しくは家庭用電気機械器具を含む、電子製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本開示は、2019年4月12日に中国国家知識産権局に提出された、出願の名称が「ダイカストアルミニウム合金、その製造方法及び応用」である中国特許出願第201910293278.5号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は参照により本開示に組み込まれるものとする。
【0002】
本開示は、アルミニウム合金の分野に関し、特にダイカストアルミニウム合金、その製造方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0003】
ダイカスト用Al-Mg合金は、良好な機械的性能及び耐腐食性を有するため、多くの顧客に認められているが、マグネシウムは反応性が高く、鋳造時に酸化燃焼しやすく、酸化燃焼によるスラグが製品に入ると、合金の機械的性能に影響を与え、製品の性能の変動性が大きく、安定性が低く、かつ後続の合金ダイカストの鋳造時に割れやすいという問題を招くため、ダイカスト用Al-Mg合金は、応用が制限される。具体的には、例えば、ADC6アルミニウム合金は、鋳造時に酸化燃焼しやすく、かつスラグを形成しやすく、製品の総合性能に影響を与え、応用範囲が広くない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術の欠陥を解消するために、本開示は、ダイカストアルミニウム合金及びその製造方法を提供し、該ダイカストアルミニウム合金は、良好な機械的性能、安定性及びダイカスト成形性を有する。
【0005】
本開示の第1の態様に係るダイカストアルミニウム合金は、その総質量で、4~9重量%のMg、1.6~2.8重量%のSi、1.1~2重量%のZn、0.5~1.5重量%のMn、0.1~0.3重量%のTi、0.009~0.05重量%のBe、残量のアルミニウム、及び0.2重量%以下の不可避的不純物を含む。
【0006】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金は、その総質量で、5~7重量%のMg、1.6~2.5重量%のSi、1.1~1.4重量%のZn、0.6~1.0重量%のMn、0.1~0.3重量%のTi、0.01~0.022重量%のBe、残量のアルミニウム、及び0.2重量%以下の不可避的不純物を含む。
【0007】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金において、ZnとBeの質量比は、(60~140):1である。
【0008】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金において、MgとZnの質量比は、(4.5~5):1であり、SiとZnの質量比は、(1.5~2):1である。
【0009】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金の総質量で、前記不可避的不純物におけるCu、Ni、Cr、Zr、Ag、Sr及びSnの単一不純物の含有量は、それぞれ独立して0.1%未満であり、Fe不純物の含有量は、0.15%未満である。
【0010】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金は、MgSi相、MgZn相、AlMn相及びTiAl相を含む。
【0011】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金の引張強度は350MPa以上であり、伸び率は4%以上であり、引張強度の相対標準偏差は10%以下である。
【0012】
本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金の引張強度は350~390MPaであり、伸び率は6~9%であり、引張強度の相対標準偏差は5~8%である。
【0013】
本開示の第2の態様に係る上記ダイカストアルミニウム合金の製造方法は、アルミニウム含有材料を溶解炉に添加して溶解製錬し、前記アルミニウム含有材料を溶かした後にケイ素含有材料、マンガン含有材料、亜鉛含有材料、マグネシウム含有材料、ベリリウム含有材料及びチタン含有材料を添加して溶解製錬し、次に精錬脱ガス処理を経た後に鋳造してアルミニウム合金インゴットを得て、さらに前記アルミニウム合金インゴットを溶融してダイカスト成形して、本開示の第1の態様に記載のダイカストアルミニウム合金を得ることを含む。
【0014】
好ましくは、前記アルミニウム含有材料の溶解製錬温度を、710℃~730℃とし、前記ケイ素含有材料、前記マンガン含有材料、前記亜鉛含有材料、前記マグネシウム含有材料、前記ベリリウム含有材料及び前記チタン含有材料の溶解製錬温度を、680℃~710℃とする。
【0015】
本開示の第3の態様は、本開示の前記ダイカストアルミニウム合金又は前記方法で得られたダイカストアルミニウム合金のコンピュータ、通信電子製品若しくは家庭用電気機械器具における応用を提供する。
【0016】
上記技術的解決手段により、本開示の提供するダイカストアルミニウム合金は、上記限られた含有量を限定した成分を含有し、良好な機械的性能、安定性及びダイカスト成形性を有することができる。
【0017】
本開示の付加的な態様及び利点は、一部が以下の説明において示され、一部が以下の説明において明らかになるか、又は、本開示の実践により把握される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下、本開示の上記付加的な態様及び利点は、図面を参照して実施例を説明することにより明らかになって理解されやすくなる。
【0019】
図1】実施例1で得られたダイカストアルミニウム合金のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に開示されている範囲の端点及び任意の値は、該正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近似する値を含むと理解すべきである。数値範囲に対して、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点値との間、及び単独の点値同士を互いに組み合わせて1つ以上の新たな数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は、本明細書において具体的に開示されているものと見なされるべきである。
【0021】
本開示の第1の態様に係るダイカストアルミニウム合金は、その総質量で、4~9重量%のMg、1.6~2.8重量%のSi、1.1~2重量%のZn、0.5~1.5重量%のMn、0.1~0.3重量%のTi、0.009~0.05重量%のBe、残量のアルミニウム、及び0.2重量%以下の不可避的不純物を含む。例えば、Mgの含有量は、4重量%、4.1重量%…8.9重量%、9重量%であり、Siの含有量は、1.6重量%、1.7重量%…2.7重量%、2.8重量%であり、Znの含有量は、1.1重量%、1.2重量%…1.9重量%、2重量%であり、Mnの含有量は、0.5重量%、0.6重量%…1.4重量%、1.5重量%であり、Tiの含有量は、0.1重量%、0.11重量%…0.29重量%、0.3重量%であり、Beの含有量は、0.009重量%、0.01重量%…0.049重量%、0.05重量%である。
【0022】
本開示の提供するダイカストアルミニウム合金は、優れた機械的性能、安定性及びダイカスト成形性を兼備し、これは、本開示が特定の含有量のMg、Si、Zn、Mn、Ti、Beの複数種の元素を配合し、合金の様々な性能のバランスを取ることにより、総合性能に優れたダイカストアルミニウム合金を得るためである。
【0023】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Mgの質量百分率は、5%~7%である。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Mgの質量百分率は、6%である。
【0024】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Siの質量百分率は、1.6%~2.5%である。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Siの質量百分率は、1.7%~2.4%である。本開示の別の具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Siの質量百分率は、2.2%である。
【0025】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Znの質量百分率は、1.1%~1.4%である。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、Znの質量百分率は、1.2%である。
【0026】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Mnの質量百分率は、0.6%~1.0%である。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Mnの質量百分率は、0.7%である。
【0027】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Tiの質量百分率は、0.1%~0.25%である。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Tiの質量百分率は、0.15%である。
【0028】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Beの質量百分率は、0.01%~0.022%である。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金において、上記Beの質量百分率は、0.015%である。
【0029】
ダイカストアルミニウム合金の機械的性能、安定性及びダイカスト成形性をさらに向上させるために、本開示の実施例において、前記ダイカストアルミニウム合金は、総質量で、5~7重量%のMg、1.6~2.5重量%のSi、1.1~1.4重量%のZn、0.6~1.0重量%のMn、0.1~0.3重量%のTi、0.01~0.022重量%のBe、残量のアルミニウム、及び0.2重量%以下の不可避的不純物を含む。
【0030】
本開示において、上記ダイカストアルミニウム合金は、上記含有量の範囲内のMg、Si、Znを含有し、高い固溶強化の効果を果たすことができ、同時にMgはSi、Znと結合してMgSi相を形成することができ、MgZn相は析出強化の効果を果たし、合金製品の強靭性(強靭性とは合金が同時に良好な引張強度及び伸び率を有することを指す)を保証する。本開示の上記ダイカストアルミニウム合金中のMg又はSi含有量が低すぎると、合金の強靭化効果が保証されず、機械的性能が低く、Mg含有量が高すぎると、酸化しやすく、かつスラグを形成しやすく、合金の可塑性及び強靭性が低下し、Si含有量が高すぎると、脆いケイ素が析出しやすく、同様に合金の可塑性及び強靭性が低下することを招く。また、図1から分かるように、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金が酸化亜鉛を含有し、Znがアルミニウムマグネシウム系合金の溶融体の表面に一層の酸化膜を形成し、溶融体の酸化が速すぎることを防止し、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金中のZn含有量が低すぎると、合金溶融体への酸化保護が弱くなり、溶融体のスラグが多く、機械的性能の変動性が増加し、製品の安定性が低く、合金の機械的性能が低く、Znの含有量が高すぎると、低融点の脆性相が析出しやすく、可塑性が低下し、合金の強靭性が低下する。
【0031】
本開示において、溶融体とは、本来常温で固体の物質が高温で液体物質になる状態を指す。具体的には、本開示において、溶融体とは、ダイカストアルミニウム合金を製造する過程において金属原料が溶解製錬処理により溶融状態(液体)になることを指す。
【0032】
本開示において、上記ダイカストアルミニウム合金は上記含有量の範囲内のBeを含有し、アルミニウムマグネシウム系合金の溶融体の表面に一層の酸化膜を形成し、溶融体の酸化が速すぎることを防止し、溶融体の酸化及びスラグ形成を減少させることができ、図1から分かるように、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金が酸化ベリリウムを含有することが明らかである。本開示の上記アルミニウム合金中のBe含有量が低すぎると、合金溶融体への酸化保護が弱くなり、溶融体のスラグが多く、機械的性能の変動性が増加し、Beの含有量が高すぎると、結晶粒が粗大化し、可塑性が低下し、合金の強靭性が低下することを招きやすい。
【0033】
本開示において、上記ダイカストアルミニウム合金は上記含有量の範囲内のMnを含有し、Alと結合してAlMn相を形成し、析出強化の効果を果たし、さらに合金製品の強靭性を増加させることができ、かつ上記含有量の範囲のMnは、ダイカスト製造において金型の浸食を緩和し、金型の耐用年数を延長することができる。本開示の上記アルミニウム合金中のMn含有量が低すぎると、合金の強靭化効果が低下し、機械的性能が低下し、金型の耐用年数が低下し、Mn含有量が高すぎると、脆性相が析出しやすく、可塑性が低下し、合金の強靭性が低下する。
【0034】
本開示において、上記ダイカストアルミニウム合金は上記含有量の範囲内のTiを含有し、Alと結合してTiAl相を形成し、結晶粒を微細化する効果を果たし、さらに合金製品の強靭性を増加させることができる。本開示の上記アルミニウム合金中のTi含有量が低すぎると、合金の結晶粒微細化による強靭化効果が低下し、Ti含有量が高すぎると、偏析して粗大な脆性相を形成しやすく、可塑性が低下し、合金の強靭性が低下する。
【0035】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金中のZnとBeの重量比は、(60~140):1である。例えば、上記ダイカストアルミニウム合金中のZnとBeの重量比は、60:1、61:1…139:1、140:1である。本開示の発明者は、大量の実験により、上記ダイカストアルミニウム合金中のZn、Beが上記比例関係を満たす場合、アルミニウム合金(特にアルミニウムマグネシウム合金)の溶融体の表面に一層の緻密な酸化膜を形成でき、溶融体を保護して酸化を防止する役割をよりよく果たすことができ、アルミニウム合金溶融体の酸化が減少し、スラグ形成も減少し、ダイカストされた製品の性能及び性能の安定性がいずれも向上していることを発見し、アルミニウムマグネシウム合金は、アルミニウム合金において酸化やスラグ形成が深刻な合金系に属し、本開示は、亜鉛、ベリリウム元素を合理的に添加し、かつそれらの添加量を制御することにより、合金溶融体中のスラグ形成現象を明らかに減少させることができる。
【0036】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金中のMgとZnの質量比は、(4.5~5):1であり、SiとZnの質量比は、(1.5~2):1である。例えば、上記ダイカストアルミニウム合金中のMgとZnの質量比は、4.5:1、4.6:1…4.9:1、5:1であり、SiとZnの質量比は、1.5:1、1.6:1…1.9:1、2:1である。MgとZn、Siは、MgSi相、MgZn相を形成しやすく、析出強化の役割を果たし、本開示の発明者は、大量の実験により、上記ダイカストアルミニウム合金中のMg、Zn、Siが上記比例関係を満たす場合、MgがZn、Siと十分に作用して析出強化相を形成することができ、同時に過剰なMgがアルミニウム合金基体に固溶強化の効果をさらに果たすことができることを発見しているため、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金は、より優れた強靭性を有する。
【0037】
本開示において、上記ダイカストアルミニウム合金は、少量の他の金属元素、例えばFe、Cu、Ni、Cr、Zr、Ag、Sr、Snのうちの一種、二種又は三種以上存在することを許可し、上記他の金属元素は、一般的に合金製造時の合金原料中の不純物に由来する。過剰な不純物元素は、ダイカスト合金の伸び率が低下し、製品が割れるなどの問題を招きやすいため、上記ダイカストアルミニウム合金の総質量で、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金中のFe不純物の含有量は0.15%未満であり、Cu、Ni、Cr、Zr、Ag、Sr、Snの単一不純物の含有量はいずれも0.1%未満であり、本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金の総質量で、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金中のCu、Ni、Cr、Zr、Ag、Sr、Sn単一不純物の含有量はいずれも0.02%未満である。
【0038】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金は、MgSi相、MgZn相、AlMn相及びTiAl相を含む。本開示は、上記結晶相を含有することにより、合金の機械的性能を効果的に増加させることができる。
【0039】
本開示の1つの実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金の引張強度は350MPa以上であり、伸び率は4%以上であり、引張強度の相対標準偏差は10%以下である。本開示の上記相対標準偏差は、標準偏差を対応する平均値で除算して、100%を乗算することによって得られた値であり、製品性能の安定性を体現することができ、相対標準偏差が小さいほど、製品の性能が安定している。本開示の1つの具体的な実施例において、上記ダイカストアルミニウム合金の引張強度は、350~390Mpaであり、伸び率は、6~9%であり、引張強度の相対標準偏差は、5~8%である。
【0040】
本開示の第2の態様に係る上記ダイカストアルミニウム合金の製造方法は、上記ダイカストアルミニウム合金の成分の配合比率で、まずアルミニウム含有材料を溶解炉に添加して溶解製錬し、アルミニウム含有材料を溶かした後にケイ素含有材料、マンガン含有材料、亜鉛含有材料、マグネシウム含有材料、ベリリウム含有材料及びチタン含有材料を添加して溶解製錬し、次に精錬脱ガス処理を経た後に鋳造してアルミニウム合金インゴットを得て、さらにアルミニウム合金インゴットを溶融してダイカスト成形して、本開示の第1の態様に記載のダイカストアルミニウム合金を得るステップを含む。
【0041】
本開示において、上記アルミニウム含有材料、マグネシウム含有材料、ケイ素含有材料、亜鉛含有材料、マンガン含有材料、チタン含有材料及びベリリウム含有材料は、本開示のダイカストアルミニウム合金の製造に必要な様々な元素を提供できる材料であってもよく、上記元素を含有する合金又は純金属であってもよく、添加されたアルミニウム合金原料を溶解製錬した後に得られたアルミニウム合金中の組成成分が上記範囲内にあればよい。本開示の1つの具体的な実施例において、上記アルミニウム合金原料は、純Al又はAl合金、純Mg又はMg合金、純Si又はSi合金、純Zn又はZn合金、純Mn又はMn合金、純Ti又はTi合金及び純Be又はBe合金を含んでよい。本開示の別の具体的な実施例において、上記アルミニウム合金原料は、純Al、純Mg、Al-Si合金、純Zn、Al-Mn合金、Al-Ti合金及びAl-Be合金を含む。
【0042】
本開示の上記ダイカストアルミニウム合金の製造方法において、上記溶解製錬の条件は、製錬温度を700~750℃とすることにある。本開示の1つの具体的な実施例において、アルミニウム含有材料の溶解製錬温度を、710~730℃、例えば710℃、711℃…729℃、730℃とし、ケイ素含有材料、マンガン含有材料、亜鉛含有材料、マグネシウム含有材料、ベリリウム含有材料及びチタン含有材料の溶解製錬温度を、680~710℃、例えば680℃、681℃…709℃、710℃とする。
【0043】
本開示の上記ダイカストアルミニウム合金の製造方法において、上記精錬は、金属溶湯に精錬剤を添加して撹拌して精錬脱ガスを実現することを含み、上記精錬剤は、六塩化エタン、塩化亜鉛、塩化マンガン及び塩化カリウムのうちの少なくとも一種であり、精錬温度を、720~740℃、例えば720℃、721℃…739℃、740℃とする。
【0044】
本開示の上記ダイカストアルミニウム合金の製造方法において、上記鋳造の温度を、680~720℃、例えば680℃、681℃…719℃、720℃とする。
【0045】
本開示の上記ダイカストアルミニウム合金の製造方法において、上記ダイカストは、上記アルミニウム合金インゴットを680~720℃(例えば680℃、681℃…719℃、720℃)の温度でアルミニウム合金液に再溶融し、一定量のアルミニウム合金液をダイカストマシンの圧室に注入し、さらに射出ハンマーによりアルミニウム合金液を金型に注入して製品を成形することである。
【0046】
本開示の第3の態様は、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金又は本開示の方法で製造されたダイカストアルミニウム合金のコンピュータ、通信電子製品若しくは家庭用電気機械器具における応用を提供する。本開示の1つの実施例において、本開示の上記ダイカストアルミニウム合金は、3C電子製品のケースに適用される。
【0047】
以下、具体的な実施例を参照して本開示を説明するが、これらの実施例は説明的なものに過ぎず、いかなる方法でも本開示を限定するものではないことに留意されたい。
実施例1-52
【0048】
表1に示すアルミニウム合金の組成に応じて、様々な元素を含有する合金原料を配合し、純Alを溶解炉に添加し、710~730℃で溶解製錬し、純Alを溶かした後、Al-Si合金、Al-Mn合金、純Zn、純Mg、Al-Be合金、及びAl-Ti合金を添加し、680~710℃で溶解製錬し、かつ均一に撹拌して、金属溶湯を得る。
【0049】
720~740℃の条件で、金属溶湯に精錬剤を添加し、精錬剤が十分に反応し完了するまで、精錬脱ガスを行い、その後にスラグを除去して合金溶湯を得て、合金溶湯を鋳込んでアルミニウム合金インゴットを得て、アルミニウム合金インゴットを680~720℃の温度でアルミニウム合金液に再溶融し、一定量のアルミニウム合金液をダイカストマシンの圧室に注入し、さらに射出ハンマーによりアルミニウム合金液を金型に注入して製品を成形して、ダイカストアルミニウム合金を得る。その試験結果を表2に示す。
比較例1~19
【0050】
実施例と同様の方法でダイカストアルミニウム合金を製造したが、表1の組成に応じてアルミニウム合金原料を配合するという点で相違し、試験結果を表2に示す。
【0051】
性能試験
アルミニウム合金の引張試験:ダイカスト法で異なる配合成分の引張試験棒(直径6.4mm*標点距離50mm)を得て、GBT228.1-2010に応じて、型番がCMT5105の電子ユニバーサル試験機で引張性能試験を行い、標点距離を50mmとし、負荷速度を2mm/Minとし、測定データ(引張強度と伸び率)を記録し、各配合成分点について6つのサンプルを試験し、引張強度と伸び率を6つのサンプルのデータの平均値とし、引張強度の相対標準偏差は6つのサンプルの引張強度データの標準偏差と平均値との百分率である。
【0052】
ダイカスト成形性試験:異なる配合成分のアルミニウム合金でダイカストを行い、配合成分の流動性が高く、型キャビティを満たしやすく、溶融体表面のスラグが少ないと、優等であると評価し、配合成分の流動性が一般的であり、型キャビティを満たすには、高い圧力速度が必要であり、溶融体表面のスラグが少ないと、良好であると評価し、配合成分の流動性が一般的であり、型キャビティを満たすには、高い圧力速度が必要であり、溶融体表面のスラグが多いと、不良であると評価する。
【表1】

【表2】
【0053】
以上、本開示の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本開示は、上記実施形態の具体的な内容に限定されるものではなく、本開示の技術的構想範囲内に、本開示の技術手段に対して複数の簡単な変更を行うことができ、これらの簡単な変更がいずれも本開示の保護範囲に属する。
【0054】
なお、上記具体的な実施形態に説明された各具体的な技術的特徴は、矛盾しない場合に、いずれの適切な方式によって組み合わせることができ、不要な重複を回避するために、本開示は、可能な様々な組み合わせ方式を別途に説明しない。
【0055】
また、本開示の様々な実施形態は、任意に組み合わせることができ、本開示の構想を逸脱しない限り、本開示に開示されている内容と見なすべきである。
【0056】
本明細書の説明において、用語「1つの実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」、又は「いくつかの例」などを参照した説明は、該実施例又は例と組み合わせて説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性が本開示の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記用語の例示的な表現は、必ずしも同一の実施例又は例に限定されるものではない。また、説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性は、任意の1つ又は複数の実施例又は例において適切な形態で結合することができる。また、相互に矛盾しない限り、当業者は、本明細書で説明された異なる実施例又は例、及び異なる実施例又は例の特徴を結合し、組み合わせることができる。
【0057】
以上、本開示の実施例を示し説明したが、上記実施例は例示的なものであり、本開示を限定するものであると理解すべきではなく、当業者であれば、本開示の範囲で上記実施例に対して変更、修正、交換及び変形を行うことができる。
図1