(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-27
(45)【発行日】2023-04-04
(54)【発明の名称】ダイヤモンド焼結体、及びダイヤモンド焼結体を備える工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/52 20060101AFI20230328BHJP
B01J 3/06 20060101ALI20230328BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20230328BHJP
【FI】
C04B35/52
B01J3/06 Q
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2022517968
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2021036845
(87)【国際公開番号】W WO2022085438
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/039756
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 大継
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】松川 倫子
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(72)【発明者】
【氏名】平井 慧
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239472(JP,A)
【文献】特開平04-037650(JP,A)
【文献】特開平01-097503(JP,A)
【文献】特表2009-518259(JP,A)
【文献】特開平06-305833(JP,A)
【文献】特開平05-194032(JP,A)
【文献】STEHL, C. et al.,Efficiency of dislocation density reduction during heteroepitaxial growth of diamond for detector ap,APPLIED PHYSICS LETTERS,2013年,Vol. 103,151905-1 - 151905-4
【文献】PANTEA, C. et al.,Dislocation density and graphitization of diamond crystals,PHYSICAL REVIEW B,2002年,Vol. 66,094106-1 - 094106-6,DOI: 10.1103/PhysRevB.66.094106
【文献】鹿田真一ら,パワーデバイス用低抵抗ダイヤモンドの欠陥評価,九州シンクロトロン光研究センター年報,2018年,Vol.2016,P.14-16
【文献】SAMSONENKO S. N. , SAMSONENKO N. D.,Dislocation Electrical Conductivity of Synthetic Diamond Films,Semiconductors,2009年,Vol.43 No.5,Page.594-598
【文献】БЕЛЯНКИНА А В, СОЗИН Ю И, ТОВСТОГАН В М,К вопросу о субструктуре алмазов, полученных высокоте,Sverkhtverdye Materialy,1981年,No.4,Page.18-20
【文献】WILLEMS Bら,Dislocation distributions in brown diamond,Physica Status Solidi. A. Applications and Materials Science,2006年,Vol.203 No.12,Page.3076-3080
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C01B 32/28
B01J 3/06
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド粒子を含むダイヤモンド焼結体であって、
結合相を更に含み、
前記結合相は、タングステン及びコバルトを含み、
前記ダイヤモンド粒子の含有率は、前記ダイヤモンド焼結体に対して、80体積%以上99体積%以下であり、
前記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、
前記ダイヤモンド粒子の転位密度は、8.1×10
13m
-2以上9.9×10
15m
-2以下である、ダイヤモンド焼結体。
【請求項2】
前記ダイヤモンド粒子の転位密度は、1.0×10
15m
-2以上7.0×10
15m
-2以下である、請求項1に記載のダイヤモンド焼結体。
【請求項3】
前記結合相は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素
(タングステンを除く)、鉄、アルミニウム、珪
素及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素
(タングステンを除く)、鉄、アルミニウム、珪
素及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、前記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、
を含む、請求項1又は請求項2に記載のダイヤモンド焼結体。
【請求項4】
請求項1から
請求項3のいずれか一項に記載のダイヤモンド焼結体を備える工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ダイヤモンド焼結体、及びダイヤモンド焼結体を備える工具に関する。本出願は、2020年10月22日に出願した、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願であるPCT/JP2020/039756に基づく優先権を主張する。当該国際出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド焼結体は、優れた硬度を有するとともに、硬さの方向性及び劈開性がないことから、切削バイト、ドレッサー及びダイス等の工具、並びに、掘削ビット等に広く用いられている。
【0003】
従来のダイヤモンド焼結体は、原料であるダイヤモンドの粉末を、焼結助剤又は結合材とともに、ダイヤモンドが熱力学的に安定な高圧高温(一般的には、圧力が5~8GPa程度及び温度が1300~2200℃程度)の条件で焼結することにより得られる。焼結助剤としては、Fe、Co及びNi等の鉄族元素金属、CaCO3等の炭酸塩等が用いられる。結合材としては、SiC等のセラミックス等が用いられる。
【0004】
例えば、特開2005-239472号公報(特許文献1)には、平均粒径が2μm以下の焼結ダイヤモンド粒子と、残部の結合相とを備えた高強度・高耐摩耗性ダイヤモンド焼結体であって、前記ダイヤモンド焼結体中の前記焼結ダイヤモンド粒子の含有率は80体積%以上98体積%以下であり、前記結合相中の含有率が0.5質量%以上50質量%未満であるチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素と、前記結合相中の含有率が50質量%以上99.5質量%未満であるコバルトとを前記結合相は含み、前記チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、およびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素の一部または全部が平均粒径0.8μm以下の炭化物粒子として存在し、前記炭化物粒子の組織は不連続であり、隣り合う前記ダイヤモンド粒子同士は互いに結合していることを特徴とする、高強度・高耐摩耗性ダイヤモンド焼結体が開示されている。
また、特許文献1には、当該高強度・高耐摩耗性ダイヤモンド焼結体の製造方法であって、ベルト型超高圧装置を用いて圧力5.7GPa以上7.5GPa以下、温度1400℃以上1900℃以下の条件で焼結することを特徴とする、高強度・高耐摩耗性ダイヤモンド焼結体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示のダイヤモンド焼結体は、
ダイヤモンド粒子を含むダイヤモンド焼結体であって、
上記ダイヤモンド粒子の含有率は、上記ダイヤモンド焼結体に対して、80体積%以上99体積%以下であり、
上記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、
上記ダイヤモンド粒子の転位密度は、8.1×1013m-2以上1.0×1016m-2未満である。
【0007】
本開示の工具は、上記ダイヤモンド焼結体を備える。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1のダイヤモンド焼結体は、切削工具等に適用すると、刃先の欠損が生じる場合がある。また、近年はより高効率な(例えば、送り速度が大きい)切削加工が求められており、ダイヤモンド焼結体の更なる性能の向上(例えば、切削加工による摩耗の抑制等)が期待されている。
【0009】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐欠損性及び優れた耐摩耗性を有するダイヤモンド焼結体、及びダイヤモンド焼結体を備える工具を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、優れた耐欠損性及び優れた耐摩耗性を有するダイヤモンド焼結体、及びダイヤモンド焼結体を備える工具を提供することが可能になる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係るダイヤモンド焼結体は、
ダイヤモンド粒子を含むダイヤモンド焼結体であって、
上記ダイヤモンド粒子の含有率は、上記ダイヤモンド焼結体に対して、80体積%以上99体積%以下であり、
上記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、
上記ダイヤモンド粒子の転位密度は、8.1×1013m-2以上1.0×1016m-2未満である。
【0012】
上記ダイヤモンド焼結体は、優れた耐欠損性及び優れた耐摩耗性を有する。ここで「耐欠損性」とは、材料の加工時における工具の欠けに対する耐性を意味する。「耐摩耗性」とは、材料の加工時における工具の摩耗に対する耐性を意味する。
【0013】
[2]上記ダイヤモンド粒子の転位密度は、1.0×1015m-2以上7.0×1015m-2以下であることが好ましい。このように規定することで、更に、耐欠損性及び耐摩耗性に優れるダイヤモンド焼結体となる。
【0014】
[3]上記ダイヤモンド焼結体は、結合相を更に含み、
上記結合相は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、上記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、
を含むことが好ましい。このように規定することで、更に耐欠損性に優れるダイヤモンド焼結体となる。
【0015】
[4]上記結合相は、コバルトを含むことが好ましい。このように規定することで、更に耐欠損性に優れるダイヤモンド焼結体となる。
【0016】
[5]本開示の一態様に係る工具は、上記ダイヤモンド焼結体を備える。
【0017】
上記工具は、上記ダイヤモンド焼結体を備えるため、各種材料の加工において優れた耐欠損性及び優れた耐摩耗性を有する。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではない。ここで、本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0019】
≪ダイヤモンド焼結体≫
本実施形態に係るダイヤモンド焼結体は、
ダイヤモンド粒子を含むダイヤモンド焼結体であって、
上記ダイヤモンド粒子の含有率は、上記ダイヤモンド焼結体に対して、80体積%以上99体積%以下であり、
上記ダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、
上記ダイヤモンド粒子の転位密度は、8.1×1013m-2以上1.0×1016m-2未満である。
【0020】
上記ダイヤモンド焼結体は、ダイヤモンド粒子を含む。すなわち、ダイヤモンド焼結体は、粒子であるダイヤモンドを基本組成とする。本実施形態の一側面において、ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドの結晶粒と把握することもできる。上記ダイヤモンド焼結体は、焼結助剤及び結合材の一方又は両方により形成される結合相(バインダー)を更に含むことが好ましい。上記ダイヤモンド粒子及び上記結合相については後述する。
【0021】
上記ダイヤモンド焼結体は、複数のダイヤモンド粒子により構成される多結晶体である。そのため、上記ダイヤモンド焼結体は、単結晶のような方向性(異方性)及び劈開性がなく、全方位に対して等方的な硬度及び靱性を有する。
【0022】
ダイヤモンド焼結体は、本実施形態の効果を示す範囲において不可避不純物を含んでいても構わない。不可避不純物としては、例えば、水素、酸素等を挙げることができる。
【0023】
<ダイヤモンド粒子>
(ダイヤモンド粒子の含有率)
本実施形態において、上記ダイヤモンド粒子の含有率は、上記ダイヤモンド焼結体に対して、80体積%以上99体積%以下であり、80体積%以上90体積%以下であることが好ましい。
【0024】
ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の含有率(体積%)及び後述する結合相の含有率(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM-7800F」(商品名))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(Octane Elect(オクタンエレクト) EDS システム)(以下「SEM-EDX」とも記す。)を用いて、ダイヤモンド焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
【0025】
まず、ダイヤモンド焼結体の任意の位置を切断し、ダイヤモンド焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、ダイヤモンド粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合相が存在する領域が灰色領域又は白色領域となる。SEMにて上記断面を観察する際の倍率は、測定視野において観察されるダイヤモンド粒子の数が100個以上となるように適宜調整する。例えば、ダイヤモンド粒子の平均粒径が0.5μmである場合、SEMにて上記断面を観察する際の倍率は10000倍であってもよい。ダイヤモンド粒子の平均粒径が30μmである場合、SEMにて上記断面を観察する際の倍率は200倍であってもよい。
【0026】
次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「Win ROOF ver.7.4.5」、「WinROOF2018」等)を用いて二値化処理を行う。上記画像解析ソフトは画像情報に基づき適切な二値化の閾値を自動的に設定する(測定者が恣意的に閾値を設定することはない)。また、画像の明るさ等を変動させた場合でも測定結果に大きな変動がないことを発明者らは確認している。二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(ダイヤモンド粒子に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、ダイヤモンド粒子の含有率(体積%)を求めることができる。
【0027】
二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合相に由来する画素)の面積比率を算出することにより、結合相の含有率(体積%)を求めることができる。
【0028】
同一の試料においてダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の含有率(体積%)及び後述する結合相の含有率(体積%)を測定する限り、測定視野の選択箇所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどないことを、本発明者らは確認している。すなわち、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないと本発明者らは考えている。
【0029】
なお、暗視野に由来する画素がダイヤモンド粒子に由来することは、ダイヤモンド焼結体に対してSEM-EDXによる元素分析を行うことにより確認することができる。
【0030】
(ダイヤモンド粒子の平均粒径)
ダイヤモンド粒子の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、0.2μm以上40μm以下であることが好ましい。ダイヤモンド粒子の平均粒径が0.1μm以上であることによって、ダイヤモンド粒子が緻密に焼結され、耐欠損性に優れるダイヤモンド焼結体となる。ダイヤモンド粒子の平均粒径が50μm以下であることによって、異方性が無く、切削工具の刃先として用いた場合切削安定性に優れるダイヤモンド焼結体となる。
【0031】
本実施形態において、ダイヤモンド粒子の平均粒径とは、任意に選択された5箇所の各測定視野において、複数のダイヤモンド粒子のメジアン径d50をそれぞれ測定し、これらの平均値を算出することにより得られた値を意味する。具体的な方法は下記の通りである。
【0032】
まず、ダイヤモンド焼結体の任意の位置を切断し、ダイヤモンド焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、ダイヤモンド粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合相が存在する領域が灰色領域又は白色領域となる。SEMにて上記断面を観察する際の倍率は、測定視野において観察されるダイヤモンド粒子の数が100個以上となるように適宜調整する。例えば、ダイヤモンド粒子の平均粒径が0.5μmである場合、SEMにて上記断面を観察する際の倍率は10000倍であってもよい。ダイヤモンド粒子の平均粒径が30μmである場合、SEMにて上記断面を観察する際の倍率は200倍であってもよい。
【0033】
5つのSEM画像のそれぞれについて、測定視野内に観察されるダイヤモンド粒子の粒界を分離した状態で、画像処理ソフト(三谷商事(株)の「Win ROOF ver.7.4.5」、「WinROOF2018」等)を用いて、各ダイヤモンド粒子の円相当径を算出する。このとき、一部が上記測定視野の外に出ているダイヤモンド粒子については、カウントしないものとする。
【0034】
算出された各ダイヤモンド粒子の円相当径の分布から、各測定視野におけるメジアン径d50を算出し、これらの平均値を算出する。該平均値が、ダイヤモンド粒子の平均粒径に該当する。
【0035】
なお、同一の試料においてダイヤモンド粒子の平均粒径を算出する限り、ダイヤモンド焼結体における測定視野の選択箇所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどないことを本発明者らは確認している。すなわち、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないと本発明者らは考えている。
【0036】
(ダイヤモンド粒子の転位密度)
上記ダイヤモンド粒子の転位密度は、8.1×1013m-2以上1.0×1016m-2未満であり、1.0×1015m-2以上7.0×1015m-2以下であることが好ましい。ダイヤモンド粒子の転位密度が1.0×1016m-2未満であることによって、ダイヤモンド粒子の亀裂の発生を抑制し、耐欠損性に優れるダイヤモンド焼結体となる。また、上記ダイヤモンド焼結体は、熱伝導率が比較的高い。そのため、切削加工時の刃先の温度上昇により発生する熱摩耗を抑制できる。なお、ダイヤモンド粒子の転位密度が8.1×1013m-2未満であるダイヤモンド焼結体は、製造できないことを本発明者らは確認している。
【0037】
従来、ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の転位密度と、当該ダイヤモンド焼結体の物性との相関関係については着目されていなかった。そこで本発明者らは、ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の転位密度と、ダイヤモンド焼結体の耐欠損性及び耐摩耗性との関係について鋭意調査を行った。その結果、従来から存在するダイヤモンド焼結体に比べて、ダイヤモンド粒子の転位密度を低くすると、ダイヤモンド粒子における転位のすべり運動による亀裂の発生が抑制され、もって耐欠損性が向上することを初めて見出した。また、ダイヤモンド粒子の転位密度を低くすると、切削加工時の摩耗を抑制できることを初めて見出した。この理由は、当該転位密度を減らしたことで切削加工時に発生する熱を効果的にダイヤモンド焼結体全体に伝えることができ、発熱によるダイヤモンド焼結体の摩耗を抑制することが出来たためと考えられる。なお、この調査によって、従来のダイヤモンド焼結体(例えば、特許文献1に記載のダイヤモンド焼結体)は、ダイヤモンド粒子の転位密度が1.01×1016m-2以上1.18×1016m-2未満であることが明らかになっている。
【0038】
本明細書において、ダイヤモンド焼結体の転位密度は大型放射光施設(例えば、九州シンクロトロン光研究センター(佐賀県))において測定される。具体的には下記の方法で測定される。
【0039】
ダイヤモンド焼結体からなる試験体を準備する。試験体の大きさは、観察面が3mm×6mmであり、厚みが0.4mmである。試験体の観察面を平均粒径3μmのダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨した後、塩酸に72時間浸漬する。これにより、当該試験体の観察面において結合相は塩酸に溶解し、ダイヤモンド粒子が残る。
【0040】
該試験体について、下記の条件でX線回折測定を行い、ダイヤモンドの主要な方位である(111)、(220)、(311)、(331)、(422)、(440)、(531)の各方位面からの回折ピークのラインプロファイルを得る。
【0041】
(X線回折測定条件)
X線源:放射光
装置条件:検出器NaI(適切なROIにより蛍光をカットする。)
エネルギー:18keV(波長:0.6888Å)
分光結晶:Si(111)
入射スリット:幅3mm×高さ0.5mm
受光スリット:ダブルスリット(幅3mm×高さ0.5mm)
ミラー:白金コート鏡
入射角:2.5mrad
走査方法:2θ-θscan
測定ピーク:ダイヤモンドの(111)、(220)、(311)、(331)、(422)、(440)、(531)の7本。ただし、集合組織、配向などによりプロファイルの取得が困難な場合は、その面指数のピークを除く。
測定条件:各測定ピークに対応する半値全幅中に、測定点が9点以上となるようにする。ピークトップ強度は2000counts以上とする。ピークの裾も解析に使用するため、測定範囲は半値全幅の10倍程度とする。
【0042】
上記のX線回折測定により得られるラインプロファイルは、試験体の不均一ひずみなどの物理量に起因する真の拡がりと、装置起因の拡がりの両方を含む形状となる。不均一ひずみ及び結晶子サイズを求めるために、測定されたラインプロファイルから、装置起因の成分を除去し、真のラインプロファイルを得る。真のラインプロファイルは、得られたラインプロファイルおよび装置起因のラインプロファイルを擬Voigt関数によりフィッティングし、装置起因のラインプロファイルを差し引くことにより得る。装置起因の回折線拡がりを除去するための標準サンプルとしては、LaB6を用いる。また、平行度の高い放射光を用いる場合は、装置起因の回折線拡がりは0とみなすこともできる。
【0043】
得られた真のラインプロファイルを修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて解析することによって転位密度を算出する。修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法は、転位密度を求めるために用いられている公知のラインプロファイル解析法である。
【0044】
修正Williamson-Hall法の式は、下記式(I)で示される。
【数1】
【0045】
上記式(I)において、ΔKはラインプロファイルの半値幅を示す。Dは結晶子サイズを示す。Mは配置パラメータを示す。bはバーガースベクトルを示す。ρは転位密度を示す。Kは散乱ベクトルを示す。O(K2C)はK2Cの高次項を示す。Cはコントラストファクターの平均値を示す。
【0046】
上記式(I)におけるCは、下記式(II)で表される。
C=Ch00[1-q(h2k2+h2l2+k2l2)/(h2+k2+l2)2] (II)
【0047】
上記式(II)において、らせん転位と刃状転位におけるそれぞれのコントラストファクターCh00およびコントラストファクターに関する係数qは、計算コードANIZCを用い、すべり系が<110>{111}、弾性スティフネスC11が1076GPa、C12が125GPa、C44が576GPaとして求める。上記式(II)中、h、k及びlは、それぞれダイヤモンドのミラー指数(hkl)に相当する。コントラストファクターCh00は、らせん転位0.183であり、刃状転位0.204である。コントラストファクターに関する係数qは、らせん転位1.35であり、刃状転位0.30である。なお、らせん転位比率は0.5、刃状転位比率は0.5に固定する。
【0048】
また、転位と不均一ひずみとの間にはコントラストファクターCを用いて下記式(III)の関係が成り立つ。下記式(III)において、Reは転位の有効半径を示す。ε(L)は、不均一ひずみを示す。
<ε(L)2>=(ρCb2/4π)ln(Re/L) (III)
【0049】
上記式(III)の関係と、Warren-Averbachの式より、下記式(IV)の様に表すことができ、修正Warren-Averbach法として、転位密度ρ及び結晶子サイズを求めることができる。下記式(IV)において、A(L)はフーリエ級数を示す。AS(L)は結晶子サイズに関するフーリエ級数を示す。Lはフーリエ長さを示す。
lnA(L)=lnAS(L)-(πL2ρb2/2)ln(Re/L)(K2C)+O(K2C)2 (IV)
【0050】
修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法の詳細は、“T.Ungar and A.Borbely,“The effect of dislocation contrast on x-ray line broadening:A new approach to line profile analysis”Appl.Phys.Lett.,vol.69,no.21,p.3173,1996.”及び“T.Ungar,S.Ott,P.Sanders,A.Borbely,J.Weertman,“Dislocations,grain size and planar faults in nanostructured copper determined by high resolution X-ray diffraction and a new procedure of peak profile analysis”Acta Mater.,vol.46,no.10,pp.3693-3699,1998.”に記載されている。
【0051】
同一の試料においてダイヤモンド粒子の転位密度を測定する限り、測定範囲の選択箇所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどないことを本発明者らは確認している。すなわち、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないと本発明者らは考えている。
【0052】
<結合相>
本実施形態において、上記ダイヤモンド焼結体は、結合相を更に含み、
上記結合相は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群(以下、「群A」とも記す。)より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、
周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、鉄、アルミニウム、珪素、コバルト及びニッケルからなる群(群A)より選ばれる少なくとも1種の金属元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群(以下、「群B」とも記す。)より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、上記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種、
を含むことが好ましい。換言すると上記結合相は、下記の(a)から(f)のいずれかの形態とすることができる。
【0053】
(a)上記結合相は、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる。
【0054】
(b)上記結合相は、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0055】
(c)上記結合相は、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素と、群Bより選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、上記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる。
【0056】
(d)上記結合相は、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素と、群Bより選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、上記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0057】
(e)上記結合相は、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、並びに、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素と、群Bより選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、上記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる。
【0058】
(f)上記結合相は、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む単体金属、合金、及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種、並びに、群Aより選ばれる少なくとも1種の金属元素と、群Bより選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物、及び、上記化合物由来の固溶体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0059】
周期表の第4族元素は、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)を含む。第5族元素は、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)を含む。第6族元素は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を含む。
【0060】
本実施形態の一側面において、上記結合相は、コバルト、チタン、鉄、タングステン及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、コバルトを含むことがより好ましい。
【0061】
ダイヤモンド焼結体に含まれる結合相の組成は、上述したSEM付帯のEDXにより特定することができる。
【0062】
(結合相の含有率)
上記結合相の含有率は、上記ダイヤモンド焼結体に対して、1体積%以上20体積%以下であることが好ましく、10体積%以上20体積%以下であることがより好ましい。結合相の含有率(体積%)は、上述したSEM付帯のEDXを用いて、ダイヤモンド焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。
【0063】
≪工具≫
本実施形態のダイヤモンド焼結体は、耐欠損性及び耐摩耗性に優れているため、切削工具、耐摩工具、研削工具、摩擦撹拌接合用ツール等に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の工具は、上記のダイヤモンド焼結体を備えるものである。上記工具は、各種材料の加工において優れた耐欠損性及び優れた耐摩耗性を有する。上記工具が切削工具である場合、上記切削工具はアルミ合金(例えば、A390、AC4C)等の転削加工及び旋削加工に特に適している。
【0064】
上記の工具は、その全体がダイヤモンド焼結体で構成されていてもよいし、その一部(例えば切削工具の場合、刃先部分)のみがダイヤモンド焼結体で構成されていてもよい。
【0065】
切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイト等を挙げることができる。
【0066】
耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサー等を挙げることができる。
【0067】
研削工具としては、研削砥石等を挙げることができる。
【0068】
≪ダイヤモンド焼結体の製造方法≫
本実施形態に係るダイヤモンド焼結体の製造方法は、
ダイヤモンド粒子の原料粉末と結合相の原料粉末とを準備する工程と、
上記ダイヤモンド粒子の原料粉末と上記結合相の原料粉末とを混合して混合粉末を得る工程と、
4GPa以上5GPa未満の焼結圧力、1400℃以上1550℃以下の焼結温度で、15分以上60分以下の焼結時間の間、上記混合粉末を焼結する工程と、
6.5GPa以上8GPa以下の保持圧力、1600℃以上1900℃以下の保持温度で、50分以上190分以下の保持時間の間、上記混合粉末を加熱して、上記ダイヤモンド粒子における転位を減少させる工程と、
を備える。
【0069】
<ダイヤモンド粒子の原料粉末と結合相の原料粉末とを準備する工程>
本工程では、ダイヤモンド粒子の原料粉末(以下「ダイヤモンド粉末」とも記す。)と結合相の原料粉末(以下、「結合相原料粉末」とも記す。)とを準備する。ダイヤモンド粉末は、特に限定されず、公知のダイヤモンド粒子を原料粉末として用いることができる。
【0070】
ダイヤモンド粉末の平均粒径は、特に限定されず、例えば、0.1μm以上50μm以下とすることができる。
【0071】
結合相原料粉末は、特に限定されず、結合相を構成する元素を含む粉末であればよい。結合相原料粉末としては、例えば、コバルトの粉末、チタンの粉末等が挙げられる。結合相原料粉末は、目的とする結合相の組成に応じて、1種の粉末を単独で用いてもよいし、複数種の粉末を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
<混合粉末を得る工程>
本工程では、上記ダイヤモンド粒子の原料粉末(ダイヤモンド粉末)と上記結合相の原料粉末(結合相原料粉末)とを混合して混合粉末を得る。このとき、上記ダイヤモンド粉末と上記結合相原料粉末とは、ダイヤモンド焼結体中におけるダイヤモンド粒子の含有率が上述の範囲内となるように、任意の配合比率にて混合してもよい。
【0073】
両粉末を混合する方法は、特に限定されず、アトライターを用いた混合方法でもよいし、ボールミルを用いた混合方法でもよい。混合する方法は、湿式でもよいし、乾式でもよい。
【0074】
<混合粉末を焼結する工程>
本工程では、4GPa以上5GPa未満の焼結圧力、1400℃以上1550℃以下の焼結温度で、15分以上60分以下の焼結時間の間、上記混合粉末を焼結する。
【0075】
本実施形態において、常温(23±5℃)及び大気圧の状態から上記焼結圧力及び焼結温度の状態までの経路は、特に限定されない。
【0076】
本実施形態のダイヤモンド焼結体の製造方法において用いられる高圧高温発生装置は、目的とする圧力及び温度の条件が得られる装置であれば特に制限はない。生産性及び作業性を高める観点から、高圧高温発生装置は、ベルト型の高圧高温発生装置が好ましい。また、混合粉末を収納する容器は、耐高圧高温性の材料であれば特に制限はなく、たとえば、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)等が好適に用いられる。
【0077】
ダイヤモンド焼結体中への不純物の混入を防止するためには、例えば、まず上記混合粉末をTa、Nb等の高融点金属製のカプセルに入れて真空中で加熱して密封し、混合粉末から吸着ガス及び空気を除去する。その後、上述した混合粉末を焼結する工程、及び、後述するダイヤモンド粒子における転位を減少させる工程を行うことが好ましい。本実施形態の一側面において、上述した混合粉末を焼結する工程の後に、上記高融点金属製のカプセルから上記混合粉末を取り出すことなく、そのままの状態で引き続きダイヤモンド粒子における転位を減少させる工程を行うことが好ましい。
【0078】
上記焼結圧力は、4GPa以上5GPa未満であることが好ましく、4.5GPa以上5GPa未満であることがより好ましい。
【0079】
上記焼結温度は、1400℃以上1550℃以下であることが好ましく、1450℃以上1550℃以下であることがより好ましい。
【0080】
上記焼結時間は、15分以上60分以下であることが好ましく、15分以上20分以下であることがより好ましい。
【0081】
<ダイヤモンド粒子における転位を減少させる工程>
本工程では、6.5GPa以上8GPa以下の保持圧力、1600℃以上1900℃以下の保持温度で、50分以上190分以下の保持時間の間、上記混合粉末を加熱して、上記ダイヤモンド粒子における転位を減少させる。これにより本開示のダイヤモンド焼結体が得られる。本工程により、ダイヤモンドの溶解・再析出反応が促進されるが、再析出したダイヤモンド粒子は転位が少ないため、転位が少ないダイヤモンド焼結体が得られると本発明者らは考えている。
【0082】
上記保持圧力は、6.5GPa以上8GPa以下であることが好ましく、6.5GPa以上7GPa以下であることがより好ましい。
【0083】
上記保持温度は、1600℃以上1900℃以下であることが好ましく、1600℃以上1700℃以下であることがより好ましい。
【0084】
上記保持時間は、50分以上190分以下であることが好ましく、60分以上180分以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0085】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0086】
≪ダイヤモンド焼結体の作製≫
<ダイヤモンド粒子の原料粉末と結合相の原料粉末とを準備する工程>
原料粉末として、表1-1及び表1-2に示す平均粒径又は組成の粉末を準備した。
【0087】
【0088】
【0089】
<混合粉末を得る工程>
最終的に得られるダイヤモンド焼結体が表3-1又は表3-2に記載の組成となるように、準備した各原料粉末を種々の配合割合で加えて、ボールミルを用いて乾式で混合し、混合粉末を作製した。ここで、上記混合粉末は、後述するようにWC-6%Co超硬合金製の円盤に接した状態で焼結が行われる。そのため焼結の際、当該円盤からコバルト及びタングステンがダイヤモンド焼結体に溶浸し、ダイヤモンド焼結体中のコバルトの含有率及びタングステンの含有率が上昇すると考えられる。このコバルトの含有率の上昇分及びタングステンの含有率の上昇分を予め考慮して、各原料粉末の配合割合を決定した。
【0090】
<混合粉末を焼結する工程>
次に、上記混合粉末を、WC-6%Co超硬合金製の円盤に接した状態でTa製のカプセルに入れて真空中で加熱して密閉した。その後、高圧高温発生装置を用いて、表2-1又は表2-2に示す焼結圧力、焼結温度及び焼結時間で上記混合粉末を焼結した。
【0091】
<ダイヤモンド粒子における転位を減少させる工程>
上述の混合粉末を焼結する工程に引き続いて、表2-1又は表2-2に示す保持圧力、保持温度及び保持時間で上記混合粉末を加熱処理した。なお、試料8及び試料28については、本工程を行わなかった。以上の工程を経て、試料1~32のダイヤモンド焼結体を製造した。
【0092】
【0093】
【0094】
≪ダイヤモンド焼結体の特性評価≫
<ダイヤモンド焼結体の組成>
ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子と結合相との含有率(体積比)を測定した。具体的な測定方法は、上記の[本開示の実施形態の詳細]の欄に記載された方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。各試料において、ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の含有率は、表3-1及び表3-2(「含有率」の欄参照)に示される通りであることが確認された。
【0095】
<ダイヤモンド粒子の平均粒径>
ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の平均粒径を測定した。具体的な測定方法は、上記の[本開示の実施形態の詳細]の欄に記載された方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。結果を表3-1及び表3-2(「平均粒径」の欄参照)に示す。
【0096】
<結合相の組成>
ダイヤモンド焼結体における結合相の組成をSEM-EDXにより特定した。具体的な測定方法は、上記の[本開示の実施形態の詳細]の欄に記載された方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。結果を表3-1及び表3-2(「結合相の組成」の欄参照)に示す。
【0097】
<ダイヤモンド粒子の転位密度>
ダイヤモンド焼結体におけるダイヤモンド粒子の転位密度を測定した。具体的な測定方法は、上記の[本開示の実施形態の詳細]の欄に記載された方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。結果を表3-1及び表3-2(「転位密度」の欄参照)に示す。
【0098】
≪ダイヤモンド焼結体を備える工具の評価≫
<切削試験1:旋削加工試験>
上述のようにして作製した試料1~14のダイヤモンド焼結体それぞれを用いて切削工具(ホルダ:CSRP R3225-N12、チップ:SPGN120304、チップの刃先部分に上記ダイヤモンド焼結体を備える工具)を作製し、旋削加工試験を実施した。旋削加工試験の切削条件を以下に示す。上記旋削加工試験は、切削距離(km)が長いほど耐欠損性、耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。結果を表3-1に示す。切削試験1において、試料1~7、試料10及び試料12~14が実施例に相当する。試料8、試料9及び試料11が比較例に相当する。
【0099】
(旋削加工試験の切削条件)
被削材 :A390(φ120mm×280mm)
切削速度 :800m/分
送り量 :0.12mm/rev
切り込み :0.5mm
クーラント :wet
評価方法 :被削材の外径を旋削加工して、切削工具の平均逃げ面摩耗幅が250μmに達するまでの切削距離(km)を測定
【0100】
<切削試験2:旋削加工試験>
上述のようにして作製した試料15~20のダイヤモンド焼結体それぞれを用いて切削工具(ホルダ:CSRP R3225-N12、チップ:SPGN120308、チップの刃先部分に上記ダイヤモンド焼結体を備える工具)を作製し、旋削加工試験を実施した。旋削加工試験の切削条件を以下に示す。上記旋削加工試験は、切削距離(km)が長いほど耐欠損性、耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。
結果を表3-1に示す。切削試験2において、試料15~19が実施例に相当する。試料20が比較例に相当する。
【0101】
(旋削加工試験の切削条件)
被削材 :Ti-6Al-4V(φ120mm×280mm)
切削速度 :250m/分
送り量 :0.1mm/rev
切り込み :0.4mm
クーラント :wet
評価方法 :被削材の外径を旋削加工して、切削工具の平均逃げ面摩耗幅が200μmに達するまでの切削距離(km)を測定
【0102】
【0103】
<結果>
切削試験1の結果から試料1~7、試料10及び試料12~14の切削工具(実施例の切削工具)は、切削距離が、10.1km以上という良好な結果が得られた。一方試料8、試料9及び試料11の切削工具(比較例の切削工具)は、切削加工の初期の段階で欠けが発生し、切削距離を求めることができなかった。以上の結果から、実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて耐欠損性、耐摩耗性に優れることが分かった。
【0104】
切削試験2の結果から試料15~19の切削工具(実施例の切削工具)は、切削距離が、3.5km以上という良好な結果が得られた。一方試料20の切削工具(比較例の切削工具)は、切削加工の初期の段階で欠けが発生し、切削距離を求めることができなかった。以上の結果から、実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて耐欠損性、耐摩耗性に優れることが分かった。
【0105】
<切削試験3:旋削加工試験>
上述のようにして作製した試料21~32のダイヤモンド焼結体それぞれを用いて切削工具(ホルダ:CSRP R3225-N12、チップ:SPGN120304、チップの刃先部分に上記ダイヤモンド焼結体を備える工具)を作製し、旋削加工試験を実施した。旋削加工試験の切削条件を以下に示す。上記旋削加工試験は、切削距離(km)が長いほど耐欠損性、耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。結果を表3-2に示す。切削試験3において、試料21~27、試料30及び試料32が実施例に相当する。試料28、試料29及び試料31が比較例に相当する。
【0106】
(旋削加工試験の切削条件)
被削材 :AC4C(φ120mm×280mm)
切削速度 :1200m/分
送り量 :0.2mm/rev
切り込み :1.2mm
クーラント :wet
評価方法 :被削材の外径を旋削加工して、切削工具の平均逃げ面摩耗幅が250μmに達するまでの切削距離(km)を測定
【0107】
【0108】
<結果>
切削試験3の結果から試料21~27、試料30及び試料32の切削工具(実施例の切削工具)は、切削距離が、12.2km以上という良好な結果が得られた。一方試料28、試料29及び試料31の切削工具(比較例の切削工具)は、切削加工の初期の段階で欠けが発生し、切削距離を求めることができなかった。以上の結果から、実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて耐欠損性、耐摩耗性に優れることが分かった。
【0109】
以上のように本開示の実施の形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態及び実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0110】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。