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特許7252435疎水性ナノファイバーを含有してなる低密度化繊維紙の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】疎水性ナノファイバーを含有してなる低密度化繊維紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/14 20060101AFI20230329BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20230329BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20230329BHJP
【FI】
D21H13/14
D21H15/02
D04H1/4382
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018210939
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020066830
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000104009
【氏名又は名称】オリベスト株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白波瀬 克広
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健史
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/130019(WO,A1)
【文献】特開2012-237084(JP,A)
【文献】特開2016-132834(JP,A)
【文献】特開2000-011985(JP,A)
【文献】特開昭63-035900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0133173(US,A1)
【文献】特開2001-336088(JP,A)
【文献】特開平11-081188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式抄造法で製造される繊維紙の製造方法において、溶融したポリプロピレン系樹脂をノズルから押出ながら熱風で吹き飛ばしてなる製法(メルトブロー法)により疎水性ナノファイバーを製造する工程を含み、前記疎水性ナノファイバーを必須構成成分とし、前記疎水性ナノファイバー以外の繊維を構成成分として共に湿式抄造する工程よりなる低密度化繊維紙の製造方法
【請求項2】
請求項1に記載の低密度化繊維紙の製造方法において、必須構成成分として含有される疎水性ナノファイバーの平均繊維径が20nmから2000nmの範囲にあることを特徴とする低密度化繊維紙の製造方法
【請求項3】
請求項1乃至2の何れか1項に記載の低密度化繊維紙の製造方法において、必須構成成分として含有される疎水性ナノファイバーの乾燥質量としての含有量が、低密度化繊維紙の乾燥質量全体に対して0.1質量%から20.0質量%の範囲にあることを特徴とする低密度化繊維紙の製造方法
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の低密度化繊維紙の製造方法において、構成成分として含有する疎水性ナノファイバー以外の繊維が、湿式抄造法で製造される繊維紙に使用可能な無機繊維および/または有機繊維であることを特徴とする低密度化繊維紙の製造方法
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の低密度化繊維紙の製造方法において、低密度化繊維紙の構成成分として充填材が含有されてなることを特徴とする低密度化繊維紙の製造方法
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の低密度化繊維紙の製造方法において、低密度化繊維紙の構成成分として含有する疎水性ナノファイバー以外の繊維である有機繊維として、その少なくとも一つがアラミド繊維のパルプ状繊維であり、且つ、難燃性ならびに耐熱性を 有するフィルター材料として有用であることを特徴とする低密度化繊維紙の製造方法
【請求項7】
請求項6に記載の低密度繊維紙の製造方法において、低密度繊維紙の構成成分として含有される充填材の少なくとも1つがシリカゲルであることを特徴とする低密度化繊維紙の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式抄紙法により製造される繊維紙において、製造条件に制限を設けられることも無く、特殊な薬剤(嵩高剤や中空粒子など)を使用することも無く、特殊な機械設備を必要とすることも無く、通常の繊維紙では困難であった低密度の繊維紙を提供することを目的とする。
【従来技術】
【0002】
建材用途や吸着材料用途などに広く使用されている繊維紙は、品質に関する課題の1つとして、以下のような低密度物性(嵩高性)を求められている。建材用途としては、壁装材や天井材における芯材や面材として、防音性や断熱性の確保の他、軽量化などを目的とする。吸着材料用途としては、フィルター材料などに使用した場合、通過気体の圧力損失を少なくでき、また吸着対象物の吸着効率や吸着材料の再生効率の向上等を目的とする。
【0003】
しかし、繊維紙の低密度化は、繊維紙を製造する時に負荷される圧力を低圧にすることなどの物理的方法の他、低密度充填材(微細パルプ繊維や中空粒子など)や嵩高剤(脂肪酸エステルなど)の使用による化学的方法が従来より採用されてきた。
【0004】
物理的方法については、例えば、湿式抄造法による繊維紙の製造の際に、抄紙機の脱水や平滑化のプレス工程において、低い圧力負荷条件を選定し、嵩高傾向とする方法がある。(特許文献1)但し、このような製造条件を制限化する方法は、繊維紙の坪量や厚みによっては脱水不足となり、繊維紙の乾燥状態や表面状態の不良を引き起こすため、製造できる繊維紙に制限があり、使いづらい状況である。
【0005】
化学的方法については、特定の繊維径や繊維長を有する微細パルプ繊維を添加する方法(特許文献2)、さらに低密度充填材や嵩高剤を製造時に添加する方法(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)などがある。しかし、微細パルプ繊維を添加する方法については、微細繊維パルプの繊維径や繊維長を選別するために特殊な設備装置が必要であり、かつ選別に時間と労力を必要とする。低密度充填材の添加については、低密度充填材自体が高価であるし、繊維紙の繊維同士の交点を少なくするので、繊維紙の物理的強度低下を招く。また、嵩高剤については、繊維紙中の繊維表面に嵩高剤が付着することにより、繊維同士の界面結合を阻害して低密度化しているため、繊維紙の物理的強度低下が顕著になる。さらに嵩高剤については、繊維紙に使用される各種添加剤(サイズ剤など)の効果を減少させるため、添加量に制限が生じる。
【先行技術文献】
【0006】
【文献】特開2010-090511号公報
【文献】特開2010-084239号公報
【文献】特開2007-092248号公報
【文献】特開2007-092250号公報
【文献】特開2002-294594号公報
【文献】特開2006-161192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のように、湿式抄造法により製造される繊維紙において、制限された条件での製造を余儀なくすること無く、また、嵩高剤、低密度充填材、微細パルプ繊維などを使用する場合のように、製造された繊維紙において、繊維紙の物理的強度低下を招くことも無く、他の目的で添加される薬剤(サイズ剤等)の効果に制約を受けることない繊維紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、湿式抄造法で製造される繊維紙において、疎水性ナノファイバーを必須構成成分として含有し、さらに、繊維紙の構成成分として疎水性ナノファイバー以外の繊維を含有することを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明1)前記発明の低密度化繊維紙において、必須構成成分として含有される疎水性ナノファイバーが、その平均繊維径が20nmから2000nmの範囲にあり、且つ、その素材が有機質からなる疎水性ナノファイバーであることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明2)前記の発明1乃至発明2の低密度化繊維紙において、必須構成成分として含有される疎水性ナノファイバーの少なくとも1つが、その素材の有機質がポリプロピレン系合成樹脂であることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明3)前記発明の何れかの1発明の低密度化繊維紙において、必須構成成分として含有される疎水性ナノファイバーの乾燥質量としての含有量が、低密度化繊維紙の乾燥質量全体に対して0.1質量%から20.0質量%の範囲にあることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明4)前記発明の何れかの1発明の低密度化繊維紙において、構成成分として含有する疎水性ナノファイバー以外の繊維が、湿式抄造法で製造される繊維紙に使用可能な無機繊維および/または有機繊維であることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明5)前記発明の何れか1発明の低密度化繊維紙において、低密度化繊維紙の構成成分として充填材が含有されてなることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明6)前記発明の何れか1発明の低密度化繊維紙において、構成成分として含有する疎水性ナノファイバー以外の繊維である有機繊維として、その少なくとも一つがアラミド繊維のパルプ状繊維であり、且つ、難燃性ならびに耐熱性を有するフィルター材料として有用であることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明7)前記発明の低密度化繊維紙において、構成成分として含有される充填材の少なくとも1つがシリカゲルであることを特徴とする低密度化繊維紙である。(本発明8)
【0009】
以下に詳細に説明する。本発明では、湿式抄造法で製造される繊維紙において、疎水性ナノファイバーを必須構成成分とし、疎水性ナノファイバー以外の繊維(無機繊維や有機繊維)を構成成分として共に抄造することにより、低密度化繊維紙を製造できることを見出した。この繊維紙の低密度化の原理は下記の通りである。すなわち、繊維紙を湿式抄造法で製造する場合、無機繊維や有機繊維といった繊維を水中で分散して、繊維の水分散体、いわゆる「スラリー」を調製する。このスラリーを水で希釈して一定濃度とした後、この希釈スラリー液を一定間隔の網目を有する網(湿式抄造法における抄網)の上に流出させ、抄網上で水分を脱水させていき、乾燥機で乾燥後、繊維紙とする。抄網上での脱水時の繊維が堆積していく過程において、繊維同士が絡み合い、紙層が形成される。このとき、疎水性ナノファイバー以外の繊維(無機繊維や有機繊維)のみを使用したスラリーで抄造すると、繊維同士の絡み合いが多くなる。紙層内部での繊維同士の絡み合いが多いほど、紙層内部の空隙が少なくなり、紙層密度が高くなっていく。これに対して、無機繊維や有機繊維といった繊維分のスラリーに少量の疎水性ナノファイバーが含有された場合、繊維分と疎水性ナノファイバーでは繊維径および繊維長が大きく異なるため、繊維分の繊維表面に疎水性ナノファイバーが寄り集まる。このため、疎水性ナノファイバーが有する疎水性により、繊維分が疑似的に疎水化するため、繊維同士がスラリー中の水分を介して反発し、紙層内部での繊維同士の絡み合いが少なくなる。このため、紙層内部の空隙が多くなり、紙層密度は低下していく。本発明の繊維紙については、疎水性ナノファイバーと疎水性ナノファイバー以外の繊維における前記作用を利用して低密度化を可能としている。
【0010】
本発明における繊維紙に必須成分として含有する疎水性ナノファイバーについては、ナノファイバーが通常、「繊維径が1nmから100nmであり、繊維長が繊維径の100倍以上の繊維状物質」と定義づけられているが、繊維素材(合成樹脂など)や製造方法(メルトブロー法など)などにより、繊維径が100nm超えて、5000nmに達するものまで上市されている。但し、本発明における疎水性ナノファイバーは、繊維径が細すぎると比表面積が高くなり過ぎて、無機繊維や有機繊維といった繊維と共にスラリー調製すると、繊維同士の凝集が強くなり過ぎ、繊維の大きな凝集体となり、不均一に紙層形成され、得られた繊維紙も地合不良となる。しかし、繊維径が太すぎると、無機繊維や有機繊維といった繊維に寄り集まった場合の擬似的な疎水化効果が小さくなるため、紙層の低密度化が進まない。従って、繊維径が20nmから2000nmの範囲のものが、無機繊維や有機繊維のような繊維とのスラリー調製時の繊維同士の凝集性が小さく、また、擬似的疎水化効果が大きいため、繊維紙が低密度化し易く好ましい。
【0011】
本発明における繊維紙に必須成分として含有する疎水性ナノファイバーについては、その素材として疎水性を有する有機質から成る。疎水性を有する有機質としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂などの合成樹脂の他、セルロースやニカワ等の天然系素材を疎水性に改質した高分子材料も使用できる。特に、疎水性ナノファイバーの素材の有機質としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ならびにポリエステル系樹脂などの疎水性を有する熱可塑性合成樹脂が好ましい。
【0012】
本発明における繊維紙に必須成分として含有する疎水性ナノファバーの製造方法としては、溶融した高分子をノズルから押出ながら熱風で吹き飛ばしてナノファイバーとする方法(メルトブロー法)がある。その素材の有機質として、ポリプロピレン系合成樹脂の疎水性を有する熱可塑性合成樹脂が好ましいことから、メルトブロー法により製造されたものが好適である。メルトブロー法による疎水性ナノファイバーは、生産効率が高く、価格面でも有利である。
【0013】
本発明の繊維紙に構成成分として含有される疎水性ナノファイバー以外の繊維については、湿式抄造法で使用可能な無機繊維や有機繊維は全て使用できる。これらの無機繊維や有機繊維については、本発明の繊維紙に与える性能に応じて、無機繊維と有機繊維を併用しても良いし、どちらか単独の使用でも良い。尚、無機繊維と有機繊維を併用する場合、前記の無機繊維と有機繊維を任意の割合で混合使用することができる。
【0014】
前記段落「0013」に記載の無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール、セピオライト、バサルト、アルミナ等の湿式抄造法で一般的に使用される繊維を必要に応じて選択出来る。ガラス繊維としては、折れ難く、繊維シート形成能力があれば何れのガラス繊維でも良いが、ガラス組成として、Eガラス、Aガラス、Cガラス、ARGガラス等の何れの組成でも良く、繊維径としては6~18μm、繊維長としては3~25mmが使用できる。また、繊維形状として、長繊維の他、ウール状繊維も使用できる。炭素繊維としては、長繊維状のポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維やウール繊維状のピッチ系のものが使用できる。また、人体に対する危険有害性リスク低下を目的として、アルカリアースシリケートウールや人造ガラス質(珪酸塩)繊維などの生体溶解性無機繊維が好ましく使用できる。さらに、前記の無機繊維を任意の割合で混合使用することもできる。
【0015】
前記段落「0013」に記載の有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、アラミド繊維等の合成繊維、さらに木材パルプや綿等の天然繊維が使用できる。また、古紙から再生される再生パルプ等も使用可能である。特に湿式抄造法で無機繊維と混合抄造できるものが好ましく使用できる。尚、木材パルプや綿等の天然繊維については、繊維紙の紙層の物理的強度向上などを目的として叩解処理を行ったものも使用できる。また、前記の有機繊維を任意の割合で混合使用することもできる。
【0016】
さらに、本発明の低密度化繊維紙において、前記の有機繊維としてアラミド繊維のパルプ状繊維を使用した場合、フィルター材料として、難燃性ならびに耐熱性に優れ、且つ、粒子捕捉効率の向上や圧力損失の調整が為されたフィルター材料となり、フィルター材料として有用な低密度繊維紙となる。
【0017】
本発明の繊維紙に含有できる構成成分として充填材を使用できる。充填材についても、湿式抄造法で一般的に使用されるものは全て使用できる。例えば、クレー、重質炭酸カルシウム、タルク等の無機系充填材の他、粒子状合成樹脂等の有機系充填材も使用できる。この充填材については、繊維紙の各成分を結合させるためにバインダーに混合したり、抄造時に無機繊維や有機繊維と混抄する等の方法により、本発明の繊維紙に使用することができる。
【0018】
また、前記段落「0017」に記載の充填材として、揮発性有機化合物や溶剤などの有害ガス、ならびに湿気などを吸着する性能を有した吸着材を使用できる。例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲルなどが吸着材として使用できる。さらに、脱臭等を目的として、揮発性有機化合物や溶剤を分解する触媒となる充填材を使用できる。例えば、酸化チタン、鉄系触媒、マンガン系触媒、貴金属系触媒などの金属化合物粉末が使用できる。
【0019】
特に、空気清浄器用途などに使用されるフィルター材料として、本発明の低密度化繊維紙を使用する場合、有害ガスと湿気の両方を吸着除去することを目的として、充填材として少なくとも一つにシリカゲルを使用することができる。シリカゲルとしては、細孔容積が小さく表面積が大きいA型、細孔容積が大きく表面積が小さいB型の両方を使用できる。さらに、吸着した有害ガスを分解・除去するために、前記シリカゲルに触媒を担持させたものも使用可能である。さらに、前記段落「0016」に記載の低密度化繊維紙において、充填材の一つとして前記シリカゲルを使用すると、フィルター材料としてより有用となる。
【0020】
本発明の繊維紙に使用できる他の構成成分について述べる。前記の充填材の他、繊維紙の各構成成分を結合させるためにバインダーを含有することが好ましい。バインダーは、湿式抄造法において通常使用される合成樹脂系ならびに天然系のバインダーであり、例えばポリビニルアルコール樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂や澱粉等の天然系のものが使用できる。バインダーは、水溶液、エマルジョン、粉末、繊維状などの形態のものが用いられる。また、必要に応じて、これらのバインダーは任意の量で混合配合して使用することもできる。
【0021】
本発明の繊維紙の構成成分の含有量であるが、疎水性ナノファイバーについては、0.1質量%から20質量%の範囲内で含有できる。疎水性ナノファイバー以外の繊維である無機繊維や有機繊維については、無機繊維が0質量%から95質量%、有機繊維が0質量%から95質量%の範囲内で含有でき、充填材は0質量%から80質量%の範囲内で含有できる。バインダーについては、3質量%から30質量%の比率範囲で含有できる。繊維紙の製造効率等を考慮すれば、疎水性ナノファイバーが0.5質量%から10質量%、無機繊維が15質量%から85質量%、有機繊維が15質量%から85質量%、バインダーが5質量%から25質量%、充填材が併せて10質量%から30質量%の範囲がより好ましい。尚、構成成分の含有量は、全て乾燥質量を基準とし、繊維紙の乾燥質量全体に対する質量比率(質量%)として示す。
【0022】
本発明の低密度化繊維紙は、一般的な湿式抄造法ならば、全ての製造法で製造することができる。製造法の例として以下の2例を提示する。第1例として、疎水性ナノファイバーおよび疎水性ナノファイバー以外の繊維を水中にて分散した後、抄網にて脱水、シート化し、液状バインダーをスプレーやコーターで付与後、乾燥して繊維紙を製造する方法。第2例として、疎水性ナノファイバーおよび疎水性ナノファイバー以外の繊維を水中にて分散した後、バインダーを添加、凝集剤や定着剤などで付着させ、フロック化した後、抄網にて脱水、シート化し、乾燥して製造する方法である。
【0023】
本発明の低密度化繊維紙製造法においては、繊維分を水中にて分散させるが、繊維の分散性向上させるために、分散剤や増粘剤などの薬剤を添加できる。これらの薬剤としては、湿式抄造法にて使用可能なものは全て使用できる。分散剤としては、例えば、界面活性剤などの低分子型分散剤やアクリル酸ポリマーなどの高分子型分散剤などが挙げられる。また、増粘剤としては、例えば、アクリル酸系、アクリルアミド系、エチレンオキサイド系などの合成樹脂タイプがあり、トロロアオイなどの天然系高分子タイプが挙げられる。
【0024】
定着剤については、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の無機系定着剤の他、ポリアミドエポキシ樹脂等の有機系定着剤を使用できる。定着剤は、繊維分(疎水性ナノファイバー、無機繊維、有機繊維)やバインダーのイオン性状に応じて、アニオン性状、カチオン性状、ノニオン性状、又は両性イオン性状のものを使用できる。また、適正な定着状態とするために、2種類以上の定着剤を混合使用しても良い。
【0025】
凝集剤は、繊維分(疎水性ナノファイバー、無機繊維、有機繊維)にバインダーを定着剤にて定着させた後、抄網で脱水、シート化した場合に良好な紙層形成ができる程度にフロック化させるために使用する。凝集剤に関しては、アクリル樹脂やアクリルアミド樹脂などの一般に使用されている凝集剤を無機系、有機系、イオン性状を問わず使用できる。また、良好な紙層形成ができるフロックとするため、2種類以上の凝集剤を併用しても良い。
【0026】
前記の定着剤や凝集剤の他に、繊維紙に対する様々な性能付与を目的として、撥水剤、濡れ性向上剤、染料、顔料等を別途使用しても良い。
【0027】
また、繊維紙の湿式抄造法の製造効率や製品歩留の向上を目的として、pH調整剤、消泡剤、スライムコントロール剤などの運転用調剤を必要に応じて使用可能である。pH調整剤としては、酸として酢酸や硫酸アルミニウム、アルカリとしてアンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液が挙げられる。消泡剤としては、シリコン系や鉱物油系のエマルジョンやディスパージョンとしたものなどが湿式抄造法での使用において適当である。スライムコントロール剤は、湿式抄造法にて一般的に使用されるものが使用でき、有機臭素化合物や有機硫黄化合物などのものが使用できる。
【0028】
また、湿式抄造法に使用する抄紙機としては、一般的な抄紙機であれば特に制限は無く、長網式抄網機、ツインワイヤー式抄網機、ハイブリッド式抄網機、円網式抄網機、ヤンキー式抄紙機、各種のコンビネーション式抄紙機などの製紙業界で公知の抄紙機を適宜使用できる。但し、円網式抄網機や短網と円網を組み合わせたコンビネーション式抄網機が、紙層形成時脱水の負荷圧が小さく、本発明の繊維紙の製造に好適である。
【発明の効果】
【0029】
特殊な設備を必要とせず、製造条件に制限が設けられることが無く、また特殊な薬剤(低密度充填材や嵩高剤など)の使用による物理的強度低下を招くこと無く、疎水性ナノファイバーを混合使用することにより、低密度化された繊維紙が実現できた。この繊維紙の低密度のため、断熱材や防音材のような建築材料、さらにフィルター材料のような吸着材料として、有用な繊維紙が確立できた。このため、本発明は、建材用途及び吸着材料用途に大きな効果を与えるものである。建材用途では低密度化することにより、繊維紙内に空気層を形成し断熱性及び防音性が向上するものであり、また吸着材料用途では、低密度化することにより、通過気体の圧力損失を少なくでき、吸着材の再生効率・吸着効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下において、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、以下の実施例および比較例における質量%および坪量は、全て乾燥質量を基準とし、質量%は繊維紙の乾燥質量全体に対する質量比率を示す。
【実施例1】
【0031】
平均繊維径1500nmの疎水性ナノファイバー(ポリプロピレン系合成樹脂製)2.0質量%に、有機繊維としてアラミド繊維のパルプ状繊維を合計10質量%、無機繊維としてセピオライトを12質量%とガラス繊維を6質量%、吸着剤としてシリカゲル粉体62質量%を水溶液中で混合・分散させ、バインダーとして、ポリビニルアルコール樹脂の繊維状バインダーを3質量%、アクリル樹脂エマルジョンを5質量%となるように添加し、無機系定着剤にて定着させてスラリー調製し、さらにアニオン性状のアクリルアミド樹脂の凝集剤により微小凝集体のスラリーとした。調製したスラリーを湿式抄造法にて抄造し、低密度化された繊維紙を得た。繊維紙は厚みが0.250mmとなるように製造した。
【実施例2】
【0032】
平均繊維径1500nmの疎水性ナノファイバー(ポリプロピレン系合成樹脂製)1.0質量%に、有機繊維として再生パルプを25質量%、無機繊維としてガラス繊維を10質量%、充填材として重質炭酸カルシウム粉体54質量%を水溶液中で分散・混合し、バインダーとしてアクリル樹脂エマルジョンを10質量%となるように添加し、無機系定着剤にて定着させてスラリーを調製し、カチオン性状のアクリル樹脂の凝集剤により微小凝集体のスラリーとした。調製したスラリーを湿式抄造法にて抄造し、低密度化された繊維紙を得た。繊維紙は坪量が135g/mとなるように製造した。
【実施例3】
【0033】
平均繊維径1500nmの疎水性ナノファイバー(ポリプロピレン系合成樹脂製)2.0質量%に、有機繊維として再生パルプを25質量%、無機繊維としてガラス繊維を10質量%、充填材として重質炭酸カルシウムの粉体53質量%を水溶液中で分散・混合し、バインダーとしてアクリル樹脂エマルジョンを10質量%となるように添加し、無機系定着剤にて定着させてスラリーを調製し、アニオン性状のアクリルアミド樹脂の凝集剤により微小凝集体のスラリーとした。調製したスラリーを湿式抄造法にて抄造し、低密度化された繊維紙を得た。繊維紙は坪量が135g/mとなるように製造した。
【0034】
(比較例1)
有機繊維としてアラミド繊維のパルプ状繊維を合計10質量%、無機繊維としてセピオライトを12質量%とガラス繊維を7質量%、吸着材としてシリカゲル粉体63質量%を水溶液中で混合・分散し、バインダーとして、ポリビニルアルコール樹脂の繊維状バインダーを3質量%、アクリル樹脂エマルジョンを5質量%となるように添加し、無機系定着剤にて定着させてスラリーを調製し、アニオン性状のアクリルアミド樹脂の凝集剤により微小凝集体のスラリーとした。調製したスラリーを湿式抄造法にて繊維紙を抄造した。繊維紙は厚みが0.250mmとなるように製造した。
【0035】
(比較例2)
有機繊維として再生パルプを25質量%、無機繊維としてガラス繊維を10質量%、充填材として重質炭酸カルシウムの粉体55質量%を水溶液中で混合・分散し、バインダーとしてアクリル樹脂エマルジョンを10質量%となるように添加し、無機系定着剤にて定着させてスラリーを調製し、カチオン性状のアクリル樹脂の凝集剤により微小凝集体のスラリーとした。調製したスラリーを湿式抄造法にて抄紙し、低密度化された無機繊維紙を得た。繊維紙は坪量が135g/mとなるように製造した。
【0036】
実施例及び比較例で実施された低密度化評価については、以下の試験方法で行った。
<低密度化の評価>
上記の実施例及び比較例で製造した繊維紙について、その密度により低密度化の評価を行った。繊維紙の密度は、日本工業規格「JIS P-8118:2014 (紙及び板紙-厚さ,密度及び比容積の試験方法)」に準拠して求めた。但し、繊維紙の密度を求めるに際して、繊維紙の厚さを測定する必要があるが、厚さを測定する装置として、株式会社小野測器製厚み計(型式:DG-925)を使用した。当該厚み計の測定条件として、測定子の面径が10mm径、荷重が20.0kpaであり、厚さ0.001mmより読み取り可能なものとした。上記の実施例及び比較例で作製した繊維紙に対して求めた密度値の結果を以下の表2に示す。
【0037】
【表1】