(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】最適化装置、最適化システム、最適化方法および最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20230329BHJP
G06N 99/00 20190101ALI20230329BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20230329BHJP
【FI】
G06F30/27
G06N99/00 180
G16C60/00
(21)【出願番号】P 2019093052
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 宇
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/151864(WO,A1)
【文献】特開2019-008342(JP,A)
【文献】特開2008-171282(JP,A)
【文献】第2部:開発事例 データごとにAI技術を選択 新理論の糸口発見のケースも,日経エレクトロニクス,日経BP社,2018年09月20日,第1196号,pp. 44-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06N 99/00
G16C 60/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成し、前記複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、前記複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって前記全探索空間よりも狭い探索空間を生成し、前記探索空間において前記ベイズモデルを用いた前記組合せの探索を実行する制御部、
を有する最適化装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記一部のパラメータの値を用いて表される前記全探索空間の第1の点と第2の点とを結ぶ線状の前記探索空間を生成する、請求項1に記載の最適化装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ベイズモデルの精度を表す精度評価値と、閾値との比較結果に基づいて前記精度の良否を判定し、前記精度が良いと判定した場合、前記探索空間の代りに、前記全探索空間において前記組合せの探索を実行する、請求項1または2に記載の最適化装置。
【請求項4】
入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成、または更新し、前記複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、前記複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって前記全探索空間よりも狭い探索空間を生成し、前記探索空間において前記ベイズモデルを用いた前記組合せの探索を実行する制御部を有する最適化装置と、
前記組合せの探索結果を受信し、前記探索結果に基づいて前記特性値を計算し、計算した前記特性値と前記探索結果とを含む新たな入力データを前記最適化装置に送信するシミュレーション装置と、
を有する最適化システム。
【請求項5】
コンピュータが、
入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成し、
前記複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、前記複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって前記全探索空間よりも狭い探索空間を生成し、
前記探索空間において前記ベイズモデルを用いた前記組合せの探索を実行する
最適化方法。
【請求項6】
コンピュータに、
入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成し、
前記複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、前記複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって前記全探索空間よりも狭い探索空間を生成し、
前記探索空間において前記ベイズモデルを用いた前記組合せの探索を実行する、
処理を実行させる最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化装置、最適化システム、最適化方法および最適化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料設計・製造プロセスに、AI(Artificial Intelligence)等による情報処理技術を加えて、材料設計・製造の品質および効率化を図るマテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる分野が注目されている。マテリアルズ・インフォマティクスは、実験や理論計算で得られたデータを活用し、統計学習に基づいて、新たな材料の特性因子等を探索する。
【0003】
マテリアルズ・インフォマティクスの例としては、材料シミュレーション手法の1つである第一原理計算に、ベイズ推定を組み合わせて高機能材料の最適組成を割り出すことが行われている。
【0004】
ベイズ推定は、ベイズ確率に基づいて、観測された事象から最適な事象を統計的アプローチで推定する手法である。上述の例では、ベイズ推定を適用することによって、最適組成を得られるまでの第一原理計算の計算回数を減少させることが可能になる。
【0005】
ベイズ推定を用いた最適化を行うツールとして、COMBO(COMmon Bayesian Optimization)などがある。
関連技術としては、例えば、ベイジアン理論によりイオン半径値の可能度と事前確率とから事後確率を計算し、対象元素の任意の酸化数に係わる半径値分布を求める技術が提案されている。また、既知物質に基づいてモデリングされた物質モデルに対して機械学習を行い、学習結果に目標物性を入力して候補物質を決定し、候補物質の中から新規物質を決定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-109084号公報
【文献】特開2017-91526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せ(以下最適解という)をベイズ推定により探索する処理では、ベイズモデルの事前分布を決めることから始まり、事前分布に基づいて上記パラメータの値の組合せが探索される。事前分布を設定する場合の入力データとしては、例えば、実験データやシミュレーションデータなどが使用される。
【0008】
ベイズ推定では、事前分布に依存して探索結果が変化する。しかし、入力データが限られている状況で事前分布を設定してベイズ推定を行うと、探索結果(解)が最適解から乖離する可能性が高く、最適解を精度よく探索することが困難になる。
【0009】
1つの側面では、本発明は、入力データが限られていても最適解を精度よく探索する最適化装置、最適化システム、最適化方法および最適化プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施態様では、入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成し、前記複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、前記複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって前記全探索空間よりも狭い探索空間を生成し、前記探索空間において前記ベイズモデルを用いた前記組合せの探索を実行する制御部を有する最適化装置が提供される。
【0011】
また、1つの実施態様では、入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成、または更新し、前記複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、前記複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって前記全探索空間よりも狭い探索空間を生成し、前記探索空間において前記ベイズモデルを用いた前記組合せの探索を実行する制御部を有する最適化装置と、前記組合せの探索結果を受信し、前記探索結果に基づいて前記特性値を計算し、計算した前記特性値と前記探索結果とを含む新たな入力データを前記最適化装置に送信するシミュレーション装置と、を有する最適化システムが提供される。
【0012】
また、1つの実施態様では、最適化方法が提供される。
また、1つの実施態様では、最適化プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
1つの側面では、入力データが限られていても最適解を精度よく探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施の形態の最適化システムの一例を示す図である。
【
図2】ベイズモデルの生成例を説明するための図である(その1)。
【
図3】ベイズモデルの生成例を説明するための図である(その2)。
【
図5】第2の実施の形態の最適化装置のハードウェアの一例を示す図である。
【
図6】最適化装置の機能ブロックの一例を示す図である。
【
図8】スライダ空間の生成動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】最適化装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】全探索空間を用いた探索と、スライダ空間を用いた探索との比較結果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態の最適化システムの一例を示す図である。
【0016】
第1の実施の形態の最適化システム10は、最適化装置11とシミュレーション装置12を有する。
最適化装置11は、制御部11aと記憶部11bを備える。
【0017】
制御部11aは、入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せ(最適解)を探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成する。
【0018】
入力データは、複数のパラメータの値のいくつかの組合せを用いたときの特性値のシミュレーション結果や実験結果などである。目的物質に関する特性値としては、目的物質の導電率、誘電率など様々な値が適用可能である。複数のパラメータは、例えば、その目的物質に含まれる複数の材料の混合比率であってもよい。また、目的物質に関する複数のパラメータは、例えば、その目的物質を製造する際の、圧力や温度などの各種製造条件であってもよい。ベイズモデルの生成例については後述する。
【0019】
また、制御部11aは、複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間に含まれる空間であって全探索空間よりも狭い探索空間を生成する。そして、制御部11aは、決定した探索空間において、生成したベイズモデルを用いた最適解の探索を実行する。
【0020】
一部のパラメータの値として、よい特性値が期待できる値(ユーザのこれまでの経験により適切であると考えられるノウハウ値など)を用いることができる。または、一部のパラメータの値は、よい特性値を得るための制約条件に基づいたパラメータの値であってもよい。例えば、所定の範囲の温度でないとよい特性値が得られない場合、その範囲内の温度を一部のパラメータの値として適用できる。
【0021】
探索処理の際、制御部11aは、ベイズモデルと探索空間の情報に基づいて得られる獲得関数と呼ばれる関数の値がある戦略のもとで最大化されるパラメータの値の組合せを探索する。PI(Probability of Improvement)戦略、EI(Expected Improvement)戦略、TS(Thompson Sampling)戦略などが使用可能である。
【0022】
制御部11aは、上記の探索によって得られた複数のパラメータの値の組合せを、シミュレーション装置12に送信する。なお、制御部11aは、得られた複数のパラメータの値の組合せを、図示しないディスプレイに表示させるようにしてもよい。
【0023】
制御部11aは、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサである。ただし、制御部11aは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの特定用途の電子回路を含んでもよい。プロセッサは、RAM(Random Access Memory)などのメモリに記憶されたプログラムを実行する。例えば、最適化プログラムが実行される。なお、複数のプロセッサの集合を「マルチプロセッサ」または単に「プロセッサ」ということがある。
【0024】
記憶部11bは、例えば、シミュレーション装置12からの入力データや、前述の一部のパラメータの値などを記憶する。
記憶部11bは、RAMなどの揮発性の記憶装置、または、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの不揮発性の記憶装置である。
【0025】
シミュレーション装置12は、最適化装置11から探索結果として供給される複数のパラメータの値の組合せに基づいて特性値を計算する。そして、シミュレーション装置12は、その特性値とその特性値を示す複数のパラメータの値の組合せを、最適化装置11に送信する。
【0026】
次に、
図1に示す例を用いて最適化装置11の動作(最適化方法)を説明する。
〔ステップS1〕制御部11aは、入力データに基づいて、ベイズモデルを生成する。
図1にはベイズモデルmの例が示されている。横軸は複数のパラメータの値の組合せを示し、縦軸は特性値を示す。ベイズモデルmは、縦軸方向に、後述する分散によって定義される不確実性領域をもっている。ベイズモデルの生成例については後述する。
【0027】
〔ステップS2〕制御部11aは、複数のパラメータのうち、入力された一部のパラメータの値に基づいて、ベイズモデルの探索空間を生成する。
図1の例では、複数のパラメータとして、3つの材料を混合して1つの目的物質を得る際の混合比率Pm1、Pm2、Pm3が示されている。また、
図1の例ではPm1=60%、Pm2=40%、Pm3=0%である点r1と、Pm1=0%、Pm2=40%、Pm3=60%である点r2とを結ぶライン状の空間s0が探索空間として生成されている。
【0028】
〔ステップS3〕制御部11aは、決定した探索空間において、ベイズモデルを用いて特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せの探索を実行する。
なお、図示を省略しているが、その後、制御部11aは、上記の探索によって得られた複数のパラメータの値の組合せを、シミュレーション装置12に送信する。シミュレーション装置12は、最適化装置11から供給される複数のパラメータの値の組合せに基づいて特性値を計算し、その特性値とその特性値が得られる複数のパラメータの値の組合せを、最適化装置11に送信する。最適化装置11の制御部11aは、受信した情報に基づいて、ベイズモデルmを更新する。ベイズモデルmの更新例については後述する。
【0029】
このように、最適化装置11は、ベイズ推定により目的物質の特性値の最適値を与える複数のパラメータ値の組合せを探索する際、入力された一部のパラメータの値に基づいて探索空間を限定する。全探索空間で探索を行う場合、入力データが限られている状況では、生成されるベイズモデルの精度が悪く、探索結果(解)が最適解から乖離する可能性が高く、最適解を精度よく探索することが困難になる。これに対して、入力された一部のパラメータの値に基づいて探索範囲を限定することで、よい探索結果が得られるように探索の方向性を与えることができ、ノウハウなどを反映させることもできる。これによって、入力データが限られていても最適解を精度よく探索可能になる。
【0030】
また、制御部11aが、上記の探索によって得られた複数のパラメータの値の組合せと、シミュレーション装置12が計算したその組合せによる特性値に基づいて、ベイズモデルを更新することで、ベイズモデルの精度が向上する。このような更新処理を繰り返すことで、より最適解を精度よく探索可能になる。
【0031】
なお、例えば、最適化装置11による探索によって得られた複数のパラメータの値の組合せに基づいて、ユーザが実験などによって特性値を求めてもよい。そして、ユーザが入力デバイスなどを用いて、実験などによって得られた特性値とその特性値が得られる複数のパラメータの値の組合せを、新たな入力データとして最適化装置11に入力してもよい。その場合、シミュレーション装置12はなくてもよい。
【0032】
<ベイズモデル生成、更新例>
次に
図2から
図4を用いてベイズモデルの生成、更新例について説明する。
図2、
図3は、ベイズモデルの生成例を説明するための図である。この例では、xが入力したときにyが出力するブラックボックス関数があるとし、ベイズモデルはこの関数の形状に近いほど精度がよい。なお、図に示す横軸xは関数の入力値、縦軸yは関数の出力値である。関数の入力値は、前述の複数のパラメータの値の組合せに相当し、関数の出力値は、その組合せにおける前述の特性値に相当する。
【0033】
〔ステップS11〕実験やシミュレーションにより、点pa、pb、pcの3点が観測されたとする。例えば、これらの点が、最初のベイズモデルを生成するための入力データに相当する。
【0034】
〔ステップS12〕ブラックボックス関数の曲線は、点pa、pb、pcを通ることは確実だが、どのような関数曲線になるかはこの段階では決定できない(点pa、pb、pcを通る曲線は複数存在する)。ベイズ推定では、このような不確実性の部分に対してガウシアンプロセスが適用され、xにおける平均関数と分散とが推定されることで、モデル化(ベイズモデル化)が行われる。
【0035】
〔ステップS13〕点pa、pb、pcを通る平均関数をy=μ(x)とする。x1に注目した場合、y=μ(x1)の分散がσ(x1)と算出されたとする。この場合、y=μ(x1)には、
図3に示すようなガウス分布g1が当てはめられることになる。
【0036】
同様に、y=μ(x2)の分散はσ(x2)と算出され、y=μ(x2)には、ガウス分布g2が当てはめられる。このようにしてガウシアンプロセスを適用することで、不確実性の部分が分散で定式化することができる。
【0037】
図4は、ベイズモデルの更新例を示す図である。
入力データ(初期データ)に基づいて生成されたベイズモデルm1を用いた探索によってx11が探索結果として得られた場合、最適化装置11は、x11をシミュレーション装置12に送信する。
【0038】
シミュレーション装置12は、最適化装置11から供給されるx11に基づいて、特性値p11を計算し、p11とx11を、最適化装置11に送信する。最適化装置11は、p11とx11に基づいて、ベイズモデルm1を更新したベイズモデルm2を生成する。
【0039】
そして、ベイズモデルm2を用いた探索によってx12が探索結果として得られた場合、最適化装置11は、x12をシミュレーション装置12に送信する。
シミュレーション装置12は、最適化装置11から供給されるx12に基づいて、特性値p12を計算し、p12とx12を、最適化装置11に送信する。最適化装置11は、p12とx12に基づいて、ベイズモデルm2を更新したベイズモデルm3を生成する。
【0040】
このような操作が繰り返されることで、不確実性領域が徐々に減少していき、ブラックボックス関数により近い精度のよいベイズモデルを生成できる。
[第2の実施の形態]
次に第2の実施の形態について説明する。
【0041】
図5は、第2の実施の形態の最適化装置のハードウェアの一例を示す図である。
第2の実施の形態の最適化装置20は、例えばコンピュータであり、CPU21、RAM22、HDD23、画像信号処理部24、入力信号処理部25、媒体リーダ26および通信インタフェース27を有する。上記ユニットは、バスに接続されている。
【0042】
CPU21は、プログラムの命令を実行する演算回路を含むプロセッサである。CPU21は、HDD23に記憶されたプログラムやデータの少なくとも一部をRAM22にロードし、プログラムを実行する。なお、CPU21は複数のプロセッサコアを備えてもよく、最適化装置20は複数のプロセッサを備えてもよく、以下で説明する処理を複数のプロセッサまたはプロセッサコアを用いて並列に実行してもよい。また、複数のプロセッサの集合(マルチプロセッサ)を「プロセッサ」と呼んでもよい。
【0043】
RAM22は、CPU21が実行するプログラムやCPU21が演算に用いるデータを一時的に記憶する揮発性の半導体メモリである。なお、最適化装置20は、RAM以外の種類のメモリを備えてもよく、複数個のメモリを備えてもよい。
【0044】
HDD23は、OS(Operating System)やミドルウェアやアプリケーションソフトウェアなどのソフトウェアのプログラム、および、データを記憶する不揮発性の記憶装置である。プログラムには、例えば、最適化装置20の制御プログラムが含まれる。なお、最適化装置20は、フラッシュメモリやSSD(Solid State Drive)などの他の種類の記憶装置を備えてもよく、複数の不揮発性の記憶装置を備えてもよい。
【0045】
画像信号処理部24は、CPU21からの命令にしたがって、最適化装置20に接続されたディスプレイ24aに画像を出力する。ディスプレイ24aとしては、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、プラズマディスプレイ(PDP:Plasma Display Panel)、有機EL(OEL:Organic Electro-Luminescence)ディスプレイなどを用いることができる。
【0046】
入力信号処理部25は、最適化装置20に接続された入力デバイス25aから入力信号を取得し、CPU21に出力する。入力デバイス25aとしては、マウスやタッチパネルやタッチパッドやトラックボールなどのポインティングデバイス、キーボード、リモートコントローラ、ボタンスイッチなどを用いることができる。また、最適化装置20に、複数の種類の入力デバイスが接続されていてもよい。
【0047】
媒体リーダ26は、記録媒体26aに記録されたプログラムやデータを読み取る読み取り装置である。記録媒体26aとして、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク(MO:Magneto-Optical disk)、半導体メモリなどを使用できる。磁気ディスクには、フレキシブルディスク(FD:Flexible Disk)やHDDが含まれる。光ディスクには、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)が含まれる。
【0048】
媒体リーダ26は、例えば、記録媒体26aから読み取ったプログラムやデータを、RAM22やHDD23などの他の記録媒体にコピーする。読み取られたプログラムは、例えば、CPU21によって実行される。なお、記録媒体26aは、可搬型記録媒体であってもよく、プログラムやデータの配布に用いられることがある。また、記録媒体26aやHDD23を、コンピュータ読み取り可能な記録媒体ということがある。
【0049】
通信インタフェース27は、ネットワーク27aに接続され、ネットワーク27aを介して他の情報処理装置と通信を行うインタフェースである。通信インタフェース27は、スイッチなどの通信装置とケーブルで接続される有線通信インタフェースでもよいし、基地局と無線リンクで接続される無線通信インタフェースでもよい。
【0050】
なお、
図1に示した最適化装置11や、シミュレーション装置12についても
図5に示したハードウェアにより実現することができる。
<機能ブロック>
図6は、最適化装置の機能ブロックの一例を示す図である。
【0051】
最適化装置20は、制御部31、記憶部32およびインタフェース部33を有する。制御部31は、ベイズモデル生成部31a、評価部31b、探索空間生成部31cおよび探索実行部31dを含む。
【0052】
ベイズモデル生成部31aは、入力データに基づいて、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成する。
【0053】
評価部31bは、ベイズモデルの精度を表す精度評価値と、閾値との比較結果に基づいて、ベイズモデルの精度を評価する。精度評価値は、例えば、
図4などに示したベイズモデルの分散である。
【0054】
探索空間生成部31cは、精度評価値が閾値以上と判定された場合(精度が悪いと評価された場合)、入力された一部のパラメータの値に基づいて探索空間を生成する。以下では、この探索空間をスライダ空間という。スライダ空間は、例えば、
図1に示したライン状の空間s0に相当する。探索空間生成部31cは、精度評価値が閾値より小さいと判定された場合(精度がよいと評価された場合)、全パラメータの値の全組合せ(全探索空間)を探索空間として決定する。
【0055】
探索実行部31dは、得られた探索空間において特性値の最適値を与える最適解の探索を実行する。
記憶部32は、例えば、シミュレーション装置35からの入力データや、前述の入力された一部のパラメータの値などを記憶する。
【0056】
インタフェース部33は、制御部31と最適化装置20の外部(例えば、シミュレーション装置35)との間でのデータの送受信を行う。
なお、制御部31は、例えば、CPU21が実行するプログラムモジュールを用いて実装できる。記憶部32は、例えば、RAM22またはHDD23に確保した記憶領域を用いて実装できる。インタフェース部33は、例えば、
図5の入力信号処理部25、通信インタフェース27を用いて実装できる。なお、シミュレーション装置35は、
図5に示したハードウェアにより実現することができる。
【0057】
<スライダ空間>
次にスライダ空間の例を説明する。なお、以降では、3種類の材料(リチウム含有酸素酸塩)から合成されるリチウムイオン電池の電解質について、イオン伝導率の最適値を与える混合比率の探索を行う場合を例にして説明する。
【0058】
図7は、スライダ空間の一例を示す図である。
図7では、3種類のリチウム含有酸素酸塩として、硫酸リチウム(Li
2SO
4)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)およびホウ酸リチウム(Li
3BO
3)の混合比率が示されている。点p
1、p
2、p
3は、例えば、実験やノウハウ等から得られ、イオン伝導率が高くなる2種類の材料の混合比率を用いて表される点である。これらの点を表すための混合比率の情報は、例えば外部から入力される。また、外部から入力されたこれらの点を表すための混合比率の情報が、予め記憶部32に記憶されている場合には、その記憶部32から制御部31が読み出して用いてもよい。
【0059】
点p1は、Li2SO4の混合比率が75%、Li3PO4の混合比率が25%、Li3BO3の混合比率が0%の点である。点p2は、Li2SO4の混合比率が0%、Li3PO4の混合比率が25%、Li3BO3の混合比率が75%の点である。点p3は、Li2SO4の混合比率が75%、Li3PO4の混合比率が0%、Li3BO3の混合比率が25%の点である。
【0060】
スライダ空間は、
図7の例では、これらの点p
1~p
3を結ぶライン状の空間である。なお、点p
4については後述する。
図8は、スライダ空間の生成動作の一例を示すフローチャートである。
【0061】
〔ステップS20〕探索空間生成部31cは、入力された一部のパラメータの値に基づいて、スライダ空間を生成するための点の集合P
bestを設定する。集合P
bestの数は2以上である。
図7の例では、集合P
bestは点p
1~p
3の3つである。
【0062】
〔ステップS21〕探索空間生成部31cは、集合Pbestのうちから任意の2つの点pi、pjを選択する。なお、すべての点pi、pjは集合Pbestに属し、点piと点pjは互いに異なる。
【0063】
〔ステップS22〕探索空間生成部31cは、スライダ子空間S
ijを生成する。スライダ子空間S
ijは、S
ij⊂(vec(x
i)+t(vec(x
j)-vec(x
i)))と表せる。vec(x
i)は、点p
iについての設計パラメータを表し、vec(x
j)は、点p
jについての設計パラメータを表す。tは0または1である。
図7の例では、点p
1の設計パラメータであるvec(x
1)は、vec(x
1)=(75、25、0)となる。
【0064】
図7の例では、ステップS21の処理で点p
1、p
2が選択された場合、点p
1、p
2を結ぶ線状のスライダ子空間S
12が生成され、点p
2、p
3が選択された場合、点p
2、p
3を結ぶ線状のスライダ子空間S
23が生成される。また、ステップS21の処理で点p
1、p
3が選択された場合、点p
1、p
3を結ぶ線状のスライダ子空間S
13が生成される。
【0065】
〔ステップS23〕探索空間生成部31cは、集合Pbestのうちから全ての点pi、pjを選択したか否かを判定する。探索空間生成部31cは、集合Pbestのうちから全ての点pi、pjを選択していない場合、ステップS21からの処理を繰り返す。
【0066】
〔ステップS24〕探索空間生成部31cは、集合Pbestのうちから全ての点pi、pjを選択したと判定した場合、スライダ子空間Sijの和集合を求めてスライダ空間Sを生成する(複数のスライダ子空間のラインが集まって1つのスライダ空間のラインが生成される)。
【0067】
<動作フローチャート>
図9は、最適化装置の動作の一例を示すフローチャートである。
〔ステップS30〕インタフェース部33は、入力データを取得する。入力データは、例えば、前述の3種類の材料の混合比率のいくつかの組合せを用いたときのイオン伝導率のシミュレーション結果または実験結果や、前述の集合P
bestを設定するための一部のパラメータの値を含む。
【0068】
〔ステップS31〕ベイズモデル生成部31aは、取得した入力データに基づいて、ベイズモデルを生成(または更新)する。
〔ステップS32〕評価部31bは、ベイズモデルの精度を表す精度評価値(例えば、
図4に示したベイズモデルの分散)と、閾値との比較結果に基づいて、ベイズモデルの精度が良好か否かを評価する。例えば、評価部31bは、ベイズモデルの分散が、閾値以上の場合、精度が不良であると判定し、閾値未満の場合、精度が良好と判定する。
【0069】
〔ステップS33〕探索空間生成部31cは、ベイズモデルの精度が良好と判定した場合、全パラメータの値の全組合せ(全探索空間)を探索空間として決定する。
〔ステップS34〕探索空間生成部31cは、ベイズモデルの精度が不良と判定した場合、
図8に示した処理により、スライダ空間を生成し、スライダ空間を探索空間として決定する。
【0070】
〔ステップS35〕探索実行部31dは、ベイズモデルを用いて、得られた探索空間に含まれる組合せのうち特性値の最適値を与える組合せ(最適解)の探索を実行し、インタフェース部33に探索結果を出力させる。
【0071】
以上で、最適化装置20の1回の最適化動作が終了する。シミュレーション装置35は、最適化装置20から供給される探索結果に基づいて、特性値(前述の例ではイオン伝導率)を計算し、探索結果と特性値とを新たな入力データとして最適化装置20に送信する。最適化装置20は、新たな入力データに基づいて、ベイズモデルを更新し、ステップS32以降の処理を繰り返す。なお、最適化装置20は、新たな入力データに基づいて、集合Pbestを更新してもよい。その場合、スライダ空間も更新される。
【0072】
全探索空間を用いて探索が行われた場合に、ベイズモデルの精度が悪いと、最適解から乖離した組合せ(例えば、
図7の点p
4)が、イオン伝導率が最も高くなる組合せであるとの誤った探索結果が得られてしまう可能性がある。
【0073】
これに対して、最適化装置20によれば、入力された一部のパラメータの値に基づいて生成されるスライダ空間に探索範囲を限定することで、よい探索結果が得られるように探索の方向性を与えることができ、ノウハウなどを反映させることもできる。これによって、入力データが限られていても最適解を精度よく探索可能になる。
【0074】
また、ベイズモデル生成部31aは、上記の探索によって得られた複数のパラメータの値の組合せと、シミュレーション装置35が計算したその組合せによる特性値に基づいて、ベイズモデルを更新することで、ベイズモデルの精度が向上する。このような更新処理を繰り返すことで、より最適解を精度よく探索可能になる。
【0075】
図10は、全探索空間を用いた探索と、スライダ空間を用いた探索との比較結果例を示す図である。
リチウムイオン電池の電解質の候補材料として、5パターンの材料の組合せ(例えば、1つのパターンとして、前述の3つの材料の組合せがある)について得られた探索結果に対応したイオン伝導率の測定結果が示されている。初期の入力データに含まれる、前述の3つの材料の混合比率の組合せの数は、10個である。
【0076】
全探索空間を用いた探索または、スライダ空間を用いた探索により得られた探索結果に基づいて、電解質を合成し、合成後の電解質についてイオン伝導率を測定した結果、何れのパターンについても、スライダ空間を用いたほうが高いイオン伝導率が得られている。
【0077】
ところで、前述のように、上記の処理内容は、最適化装置20にプログラムを実行させることで実現できる。
プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、記録媒体26a)に記録しておくことができる。記録媒体として、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどを使用できる。磁気ディスクには、FDおよびHDDが含まれる。光ディスクには、CD、CD-R(Recordable)/RW(Rewritable)、DVDおよびDVD-R/RWが含まれる。プログラムは、可搬型の記録媒体に記録されて配布されることがある。その場合、可搬型の記録媒体から他の記録媒体(例えば、HDD23)にプログラムをコピーして実行してもよい。
【0078】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。さらに、前述した実施の形態のうちの任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 最適化システム
11 最適化装置
11a 制御部
11b 記憶部
12 シミュレーション装置
m ベイズモデル
Pm1,Pm2,Pm3 混合比率
r1,r2 点
s0 空間